説明

ミシン及びフリーモーション縫製用止め縫い処理プログラム

【課題】 フリーモーション縫製を行う際に、模様の縫い始めと縫い終わりに初心者でも簡単に止め縫いを行うことができるミシン及びフリーモーション縫製用止め縫い処理プログラムを提供すること。
【解決手段】 フリーモーション縫製モードに設定されたとき、スタート・ストップスイッチからの縫製開始の指令信号、又は縫製終了時に止め縫いスイッチからの指令信号に応じて、ROMより止め縫いデータが読込まれ(S30)、送り歯沈下ステッピングモータの駆動により、送り歯が上昇位置に移動し、送り歯が作動状態に切換えられた後(S31)、押え棒駆動ステッピングモータの駆動により押え棒と共に押え足が下降し、押え足が押圧位置に移動した後(S32)、送り装置が駆動制御されて、読込んだ止め縫いデータに基づいて縫製動作が実行される(S33)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通常縫製モードとフリーモーション縫製モードに切換可能なミシン及びフリーモーション縫製用止め縫い処理プログラムに関し、特にフリーモーション縫製を行う際に縫製開始時と縫製終了時に自動で止め縫い動作を行うように構成したものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、刺繍縫製において、糸が解けるのを防止する為に模様の縫い始めと縫い終りに、所定縫目ピッチ(例えば約0.2mm)で所定針数(例えば3,4針)だけ縫製を行う、所謂止め縫いを行っている。
例えば、特許文献1には、閉領域縫いデータを記憶する縫いデータメモリと、縫いデータメモリに記憶された閉領域縫いデータの始端と終端を検出するデータ端検出手段とを備える刺繍ミシンのデータ処理装置が開示されている。
【0003】
このデータ処理装置では、閉領域縫いデータの始端の直ぐ前の記憶領域に止め縫いデータが記憶され、閉領域縫いデータの終端の直ぐ後の記憶領域に止め縫いデータが記憶される。通常縫製時に、これらの閉領域縫いデータと止め縫いデータに基づいて刺繍ミシンを制御することにより、刺繍模様の閉領域の始端・終端に止め縫い動作を自動で行わせている。
【特許文献1】特開平3−139388号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ミシンベッドに設けられた針板の上面から出没する送り歯により加工布を送りながら縫製する通常縫製のほか、送り歯を針板の上面から突出させずに、操作者が手動で加工布を自由に移動させながら縫製を行う、所謂フリーモーション縫製を行えるようにしたものがある。フリーモーション縫製を行う際には、フリーモーション縫製用の押え足を押え棒に装着し、ミシンベッドの上面に載置した加工布を、この加工布上に予め描画された基線等に沿って手動で移動させて模様を形成するように縫製を行う。
【0005】
このような手動で加工布を移動させるフリーモーション縫製では、止め縫いも手動で行う必要があるが、縫目ピッチが小さい止め縫いを行うのに加工布を少しずつ移動させる必要があるため、かなりの熟練度を要する。それ故、フリーモーション縫製を行う際、初心者は模様の縫い始めと縫い終わりに止め縫いを容易に行うことができなかった。
【0006】
本発明の目的は、フリーモーション縫製を行う際に、模様の縫い始めと縫い終わりに初心者でも簡単に止め縫いを行うことができるミシン及びフリーモーション縫製用止め縫い処理プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1のミシンは、加工布を送る為の送り歯を前後方向に移動させると共にミシンベッドに設けられた針板から出没するように上下方向に移動させるように駆動する送り手段と、前記送り歯を前記針板から出没する作動状態と前記針板から沈下した非作動状態とに切換える送り歯作動切換手段とを備え、前記送り歯で加工布を送ることで縫製を行う通常縫製モードと、前記送り歯作動切換手段により前記送り歯を非作動状態にして加工布を手動で移動させて縫製を行うフリーモーション縫製モードとに切換可能なミシンにおいて、縫製開始のときの止め縫い動作を指令する縫製開始止め縫い指令手段と、縫製終了のときの止め縫い動作を指令する縫製終了止め縫い指令手段と、前記加工布に止め縫い動作を行う為の止め縫いデータを記憶した止め縫いデータ記憶手段と、前記フリーモーション縫製モードに切換えられたとき、前記縫製開始止め縫い指令手段又は前記縫製終了止め縫い指令手段からの指令信号に応じて、前記送り歯作動切換手段により前記送り歯を作動状態に切換え、前記止め縫いデータ記憶手段に記憶された前記止め縫いデータに基づいて止め縫い動作を実行するように前記送り手段を駆動制御する制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0008】
このミシンでは、フリーモーション縫製モードに切換えられたとき、縫製開始止め縫い指令手段により縫製開始のときの止め縫い動作を指令すると、送り歯作動切換手段により送り歯が作動状態に切換えられ、送り手段が駆動制御されて、止め縫いデータ記憶手段に記憶された止め縫いデータに基づいて止め縫い動作が実行される。これにより、模様の縫い始めに自動で止め縫いが行われる。
一方、縫製終了止め縫い指令手段により縫製終了のときの止め縫い動作を指令すると、送り歯作動切換手段により送り歯が作動状態に切換えられ、送り手段が駆動制御されて、止め縫いデータ記憶手段に記憶された止め縫いデータに基づいて止め縫い動作が実行される。これにより、模様の縫い終わりに自動で止め縫いが行われる。
【0009】
請求項2のミシンは、請求項1の発明において、前記加工布を押える為の押え足を装着する押え棒を上下駆動する押え昇降手段を備え、前記制御手段は、前記縫製開始止め縫い指令手段又は前記縫製終了止め縫い指令手段の指令信号に応じて前記止め縫い動作を実行する際、前記押え足で前記加工布を押えるように前記押え昇降手段を制御することを特徴とする。
【0010】
請求項3のミシンは、請求項1又は2の発明において、前記止め縫い動作の実行の可否を判断する判断手段を備え、前記判断手段により止め縫い動作の実行を許可すると判断したときに、前記制御手段は、前記縫製開始止め縫い指令手段からの指令信号に応じて前記止め縫いデータに基づく止め縫い動作を実行するように制御することを特徴とする。
【0011】
請求項4のミシンは、請求項3の発明において、前記判断手段は、少なくとも1つの判断条件を満たすときに止め縫いデータに基づく止め縫い動作を実行するように判断することを特徴とする。
【0012】
請求項5のミシンは、請求項1〜4の何れかの発明において、前記送り歯作動切換手段は、送り歯作動切換機構とこの機構を駆動するアクチュエータとを備え、前記押え昇降手段は、押え昇降機構とこの機構を駆動するアクチュエータとを備えていることを特徴とする。
【0013】
請求項6のミシンは、下端部に縫針を装着する針棒を左右方向に揺動させる針棒揺動手段を備え、送り歯で加工布を送ることで縫製を行う通常縫製モードと、前記送り歯をミシンベッドに設けられた針板から出没する作動状態と前記針板から沈下した非作動状態とに切換える送り歯作動切換手段により前記送り歯を非作動状態にして加工布を手動で移動させて縫製を行うフリーモーション縫製モードとに切換可能なミシンにおいて、縫製開始時の止め縫い動作を指令する縫製開始止め縫い指令手段と、縫製終了時の止め縫い動作を指令する縫製終了止め縫い指令手段と、前記加工布に止め縫いを行う為の止め縫いデータを記憶する止め縫いデータ記憶手段と、前記フリーモーション縫製モードに切換えられたとき、前記縫製開始止め縫い指令手段又は前記縫製終了止め縫い指令手段からの指令信号に応じて、前記止め縫いデータ記憶手段に記憶される前記止め縫いデータに基づいて止め縫い動作を実行するように前記針棒揺動手段を駆動制御する制御手段と備えたことを特徴とする。
【0014】
このミシンでは、フリーモーション縫製モードに切換えられたとき、縫製開始止め縫い指令手段により縫製開始のときの止め縫い動作を指令すると、針棒揺動手段が駆動制御されて、止め縫いデータ記憶手段に記憶された止め縫いデータに基づいて止め縫い動作が実行される。これにより、模様の縫い始めに自動で止め縫いが行われる。
一方、縫製終了止め縫い指令手段により縫製終了のときの止め縫い動作を指令すると、針棒揺動手段が駆動制御されて、止め縫いデータ記憶手段に記憶された止め縫いデータに基づいて止め縫い動作が実行される。これにより、模様の縫い終わりに自動で止め縫いが行われる。
【0015】
請求項7のフリーモーション縫製用止め縫い処理プログラムは、加工布を送る為の送り歯を前後方向に移動させると共にミシンベッドに設けられた針板から出没するように上下方向に移動させるように駆動する送り手段と、前記送り歯を前記針板から出没する作動状態と前記針板から沈下した非作動状態とに切換える送り歯作動切換手段と、縫製開始のときの止め縫い動作を指令する縫製開始止め縫い指令手段と、縫製終了のときの止め縫い動作を指令する縫製終了止め縫い指令手段と、前記加工布に止め縫い動作を行う為の止め縫いデータを記憶した止め縫いデータ記憶手段とを備え、前記送り歯で加工布を送ることで縫製を行う通常縫製モードと、前記送り歯作動切換手段により前記送り歯を非作動状態にして加工布を手動で移動させて縫製を行うフリーモーション縫製モードとに切換可能なミシンに装備された制御装置のコンピュータを、前記フリーモーション縫製モードに切換えられたとき、前記縫製開始止め縫い指令手段又は前記縫製終了止め縫い指令手段からの指令信号に応じて、前記送り歯作動切換手段を動作させて前記送り歯を作動状態に切換える送り歯切換え制御手段と、前記止め縫いデータ記憶手段に記憶された前記止め縫いデータに基づく止め縫い動作を実行するように駆動制御する止め縫い制御手段として機能させることを特徴とする。
【0016】
このフリーモーション縫製用止め縫い処理プログラムでは、フリーモーション縫製モードに切換えられたとき、縫製開始止め縫い指令手段又は縫製終了止め縫い指令手段からの指令信号に応じて、送り歯切換え制御手段により送り歯作動切換手段を動作させて送り歯が作動状態に切換えられる。次に、止め縫い制御手段により止め縫いデータ記憶手段に記憶された止め縫いデータに基づいて止め縫い動作が実行される。これにより、請求項1とほぼ同様の作用が得られる。
【0017】
請求項8のフリーモーション縫製用止め縫い処理プログラムは、下端部に縫針を装着する針棒を左右方向に揺動させる針棒揺動手段と、縫製開始のときの止め縫い動作を指令する縫製開始止め縫い指令手段と、縫製終了のときの止め縫い動作を指令する縫製終了止め縫い指令手段と、加工布に止め縫いを行う為の止め縫いデータを記憶する止め縫いデータ記憶手段とを備え、送り歯で前記加工布を送ることで縫製を行う通常縫製モードと、前記送り歯をミシンベッドに設けられた針板から出没する作動状態と前記針板から沈下した非作動状態とに切換える送り歯作動切換手段により前記送り歯を非作動状態にして加工布を手動で移動させて縫製を行うフリーモーション縫製モードとに切換可能なミシンに装備された制御装置のコンピュータを、前記フリーモーション縫製モードに切換えられたとき、前記縫製開始止め縫い指令手段又は前記縫製終了止め縫い指令手段からの指令信号に応じて、前記止め縫いデータ記憶手段に記憶される前記止め縫いデータに基づく止め縫い動作を実行するように前記針棒揺動手段を駆動制御する止め縫い制御手段として機能させることを特徴とする。
【0018】
このフリーモーション縫製用止め縫い処理プログラムでは、フリーモーション縫製モードに切換えられたとき、縫製開始止め縫い指令手段又は縫製終了止め縫い指令手段からの指令信号に応じて、止め縫い制御手段により針棒揺動手段が駆動制御されて、止め縫いデータ記憶手段に記憶される止め縫いデータに基づいて止め縫い動作が実行される。これにより、請求項6とほぼ同様の作用が得られる。
【発明の効果】
【0019】
請求項1の発明によれば、縫製開始止め縫い指令手段と、縫製終了止め縫い指令手段と、止め縫いデータ記憶手段と、フリーモーション縫製モードに切換えられたとき、縫製開始止め縫い指令手段又は縫製終了止め縫い指令手段からの指令信号に応じて、送り歯作動切換手段により送り歯を作動状態に切換え、止め縫いデータ記憶手段に記憶された止め縫いデータに基づいて止め縫い動作を実行するように送り手段を駆動制御する制御手段とを備えたので、フリーモーション縫製を行う際、模様の縫い始めや縫い終わりに自動で止め縫いを行うことができる。止め縫いを行うのに手動で加工布を少しずつ移動させなくてもよいので、初心者でも簡単に行うことができる。
【0020】
請求項2の発明によれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、加工布を押える為の押え足を装着する押え棒を上下駆動する押え昇降手段を備え、制御手段は、縫製開始止め縫い指令手段又は縫製終了止め縫い指令手段の指令信号に応じて止め縫い動作を実行する際、押え足で加工布を押えるように押え昇降手段を制御するので、止め縫い時に押え足で加工布を確実に押えることができる。それ故、止め縫い時に送り歯で加工布を確実に送ることができる。しかも、操作者が手動で押え足を下降させる必要がないので、作業能率も低下しない。
【0021】
請求項3の発明によれば、請求項1又は2に記載の発明の効果に加え、止め縫い動作の実行の可否を判断する判断手段を備え、判断手段により止め縫い動作の実行を許可すると判断したときに、制御手段は、縫製開始止め縫い指令手段からの指令信号に応じて止め縫いデータに基づく止め縫い動作を実行するように制御するので、判断手段により模様の縫い始めを判断することで、模様の縫い始めに確実に止め縫いを行うことができるうえ、不必要な止め縫いを防止することができる。
【0022】
請求項4の発明によれば、請求項3に記載の発明の効果に加え、判断手段は、少なくとも1つの判断条件を満たすときに止め縫いデータに基づく止め縫い動作を実行するように判断するので、ミシンの操作状況に応じて、不必要な止め縫いを確実に防止することができる。
【0023】
請求項5の発明によれば、請求項1〜4の何れかに記載の発明の効果に加え、送り歯作動切換手段は、送り歯作動切換機構とこの機構を駆動するアクチュエータとを備え、押え昇降手段は、押え昇降機構とこの機構を駆動するアクチュエータとを備えているので、簡単な構成で、送り歯を作動状態と非作動状態とに切換えることができると共に、押え足を上下動させることができる。
【0024】
請求項6の発明によれば、縫製開始止め縫い指令手段と、縫製終了止め縫い指令手段と、止め縫いデータ記憶手段と、フリーモーション縫製モードに切換えられたとき、縫製開始止め縫い指令手段又は縫製終了止め縫い指令手段からの指令信号に応じて、止め縫いデータ記憶手段に記憶される止め縫いデータに基づいて止め縫い動作を実行するように針棒揺動手段を駆動制御する制御手段とを備えたので、請求項1とほぼ同様の効果を奏する。
【0025】
請求項7の発明によれば、フリーモーション縫製モードに切換えられたとき、縫製開始止め縫い指令手段又は縫製終了止め縫い指令手段からの指令信号に応じて、送り歯作動切換手段を動作させて送り歯を作動状態に切換える送り歯切換え制御手段と、止め縫いデータ記憶手段に記憶された止め縫いデータに基づく止め縫い動作を実行するように駆動制御する止め縫い制御手段として機能させるので、請求項1とほぼ同様の効果を奏する。
【0026】
請求項8の発明によれば、フリーモーション縫製モードに切換えられたとき、縫製開始止め縫い指令手段又は縫製終了止め縫い指令手段からの指令信号に応じて、止め縫いデータ記憶手段に記憶される止め縫いデータに基づく止め縫い動作を実行するように針棒揺動手段を駆動制御する止め縫い制御手段として機能させるので、請求項6とほぼ同様の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を実施する為の最良の形態について説明する。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の実施例について図面に基づいて説明する。
図1に示すように、ミシンMは、ミシンベッド1と、ミシンベッド1の右端部から立設された脚柱部2と、脚柱部2の上端からミシンベッド1に対向するように左方へ延びるアーム部3とを有する。ミシンベッド1の内部には左右方向向きの下軸63(図7参照)が配設され、ミシン機枠(図示略)に回転可能に枢支されている。
【0029】
ミシンベッド1の内部の左方には、下糸ボビン13(図2参照)を着脱自在に装着する釜機構12(図4参照)と、送り歯18(図7参照)を前後方向と上下方向に移動させるように駆動する送り装置(図示略)と、送り歯18を針板1aから出没させて送り歯18で加工布の送り動作を行う作動状態と、送り歯18を針板1aから沈下させて加工布の送り動作を行わない非作動状態とに切換える送り歯作動切換装置60(図7参照)と、上糸と下糸を切断する糸切り機構(図示略)等が設けられている。
【0030】
送り装置は、送り歯18を上下方向に移動させる送り歯上下動機構(図示略)と、送り歯18を前後方向に移動させる送り歯前後動機構(図示略)とを備えている。送り歯前後動機構には、送り歯前後動機構で布送りする送り量を調節する送り調節機構(図示略)が設けられ、後述の操作用タッチパネル5aを操作することにより、送り調節機構の送り量を設定できるようになっている。但し、止め縫い動作時には、約0.2mmの送り量で布送りするように設定されている。
【0031】
ミシンベッド1の左方のフリーアーム部分には、刺繍枠(図示略)を用いて刺繍縫製する為の刺繍枠駆動装置39が着脱可能に装着される。刺繍枠駆動装置39は、刺繍枠をX方向(左右方向)とY方向(前後方向)に夫々独立に駆動する。尚、フリーモーション縫製を行う際、この刺繍枠駆動装置39は取外される。
【0032】
脚柱部2の前面には、大型でカラーの液晶ディスプレイ(以下、単にカラーディスプレイという)5が設けられ、このカラーディスプレイ5には、複数種類の縫製模様を選択する模様選択画面や、送り歯18で加工布を送ることで縫製を行う通常縫製モードと、送り歯作動切換装置60により送り歯18を非作動状態にして加工布を手動で移動させながら縫製を行うフリーモーション縫製モードとの設定を切換えるモード設定キー45や、各種のミシン機能を設定したりする機能設定キー等が表示される。このカラーディスプレイ5の前面には、透明電極からなる複数のタッチキーをマトリックス状に設けた操作用タッチパネル5aが設けられている。
【0033】
アーム部3の頭部4の内部には、針棒9を上下動可能に支持する上下方向向きの針棒台21(図3参照)が配設され、その針棒台21の上端部がミシン機枠に揺動可能に支持されている。アーム部3には、ミシンモータ6で回転駆動される左右方向に延びる主軸(図示略)と、この主軸を手動操作で回転可能なハンドプーリ7と、下端に縫針8を装着した針棒9を上下動させる針棒駆動機構(図示略)と、針棒9を布送り方向と直交する方向に揺動させる針棒揺動装置20(針棒揺動手段に相当する)と、縫針8の目孔に上糸を糸通しする糸通し機構40と、天秤(図示略)を針棒9の上下動に調時して上下動させる天秤駆動機構(図示略)と、下端部に押え足10が装着された押え棒11を上下駆動する押え昇降装置50等が設けられている。
【0034】
アーム部3の前側には、縫製動作の始動と停止を指令すると共に縫製開始時の止め縫い動作を指令するスタート・ストップスイッチ36(縫製開始止め縫い指令手段に相当する)、縫製終了のときや必要に応じて止め縫い動作を指令する止め縫いスイッチ37(縫製終了止め縫い指令手段に相当する)、返し縫い動作を指令する返し縫いスイッチ46、糸切り機構により糸を切断する動作を指令する糸切りスイッチ47等、各種スイッチが設けられている。
【0035】
次に釜機構12について説明する。
図2に示すように、釜機構12は、下糸Tが巻回される下糸ボビン13と、下糸ボビン13を格納する水平釜14と、下糸ボビン13に巻回された下糸Tの残量を検知する為の下糸検知センサ15等を備えている。この下糸検知センサ15は照射部16と入射部17とを有する光学式センサである。この下糸検知センサ15は、下糸ボビン13に巻回された下糸Tの残量が多い場合には、照射部16から照射される照射光が、下糸Tによって遮断されて入射部17で検出されないが、下糸ボビン13に巻回された下糸Tの残量が少なくなった場合には、照射光が入射部17で検出されるように配置されている。
【0036】
次に、針棒揺動装置20について説明する。
図3に示すように、針棒揺動装置20は、針棒台21、揺動レバー22、針棒揺動ステッピングモータ23、揺動カム24等を備えている。針棒台21は、針棒9と略平行に上下方向に伸長する形状で、針棒9の左側近傍に配設されており、その上端部がミシン機枠に揺動可能に支持され、針棒9を上下方向に移動可能に支持する上側枢支部25と下側枢支部26とを有している。従って、針棒台21が左右方向に揺動するとそれに伴い針棒9も左右方向に揺動する。
【0037】
揺動レバー22は針棒台21と略平行に上下方向に伸長する形状で、上下方向の略中央部がミシン機枠に支持された枢支ピン27に対して揺動可能に枢支されており、その下端部は針棒台21の下端部に固定されたカム体29に当接すると共に、その上端部にはピン31が固着され、針棒台21を左右方向に揺動させる揺動カム24のカム面32に当接する。針棒台21は図示しないコイルバネによりその下端部が左向き方向に付勢され、夫々の当接状態が保持されるように構成されている。揺動カム24はミシン機枠に回転可能に支持され、ミシン機枠に固定された針棒揺動ステッピングモータ23が揺動カム24を駆動する。揺動カム24は外周部にはギヤが形成され、ステッピングモータ23の駆動ギヤ30と噛合している。
【0038】
揺動カム24には、回動軸心からの距離が大きい半径拡大カム面33と回動軸心から距離が小さい半径縮小カム面34とを連続させたカム面32が形成されている。針棒揺動ステッピングモータ23の回転により揺動カム24が回転し、揺動カム24の回動軸心からの距離が大きい半径拡大カム面33にピン31が接触すると、揺動レバー22の上端部が左方向に移動し、枢支ピン27を介して揺動レバー22の下端部が右方向に移動するため針棒台21も右方向に移動する。
【0039】
針棒揺動ステッピングモータ23の回転により揺動カム24が回転し、揺動カム24の回動軸心から距離が小さい半径縮小カム面34にピン31が接触すると、揺動レバー22の上端部が右方向に移動し、枢支ピン27を介して揺動レバー22の下端部が左方向に移動するため針棒台21も左方向に移動する。
【0040】
次に、糸通し機構40について説明する。
図4に示すように、糸通し機構40は、針棒9の下端部に装着される縫針8の目孔(図示略)に上糸を通すための機構であって、一般的な周知の機構であるので、簡単に説明する。この糸通し機構40は、針棒台21と、針棒台21に上下動可能に設けられた糸通しスライダ41と、糸通し軸42と、糸通し軸42の下端部に設けられたフック部材(図示略)と、糸通し操作を実行しているか否かを検知する為の糸通しスイッチ43等を備えている。針棒台21には、糸通し軸42が上下動可能に支持され、糸通し軸42には、糸通しスライダ41が上下動可能に外嵌されている。糸通しスライダ41の上端部分と針棒台21の上端部には引っ張りコイルバネ44が掛装され、糸通しスライダ41が上方に付勢されており、糸通しスライダ41が操作されない場合、糸通しスライダ41と糸通し軸42は常に上昇位置で待機している。
【0041】
縫針8の目孔に上糸を通す際には、糸通しスライダ41の摘み部41aを下方に移動させるように操作して、フック部材を縫針8の目孔に挿通させた状態にする。そして、この状態でフック部材に上糸を引っ掛けた後、摘み部41aから手を離すと、フック部材が縫針8の目孔から抜けて上昇するときに、上糸を縫針8の目孔に挿通させる。
【0042】
針棒台21の背面上部には、糸通しスイッチ43が図示しないネジで固定され、糸通しスライダ41が操作されないときの上昇位置にあるときは、糸通しスライダ41の上端部が糸通しスイッチ43のレバー部43aと接触し、レバー部43aが押されてオフ状態になっている。糸通しスライダ41が操作されて下方に移動すると、糸通しスライダ41の上端部は糸通しスイッチ43のレバー部43aから離れてオン状態となる。
【0043】
次に、押え昇降装置50について説明する。
図5、図6に示すように、押え昇降装置50は、針棒9の後側に配設されてミシン機枠に昇降可能に支持された押え棒11と、その下端部分に装着された押え足10を昇降させるものであり、この押え昇降装置50は、押え昇降機構51とこの押え昇降機構51を駆動する押え棒駆動ステッピングモータ54(アクチュエータ)とを備えている。尚、押え昇降装置50が押え昇降手段に相当する。
【0044】
押え昇降機構51は、押え棒11の上端側部分に昇降可能に外嵌されたラック形成部材52と、押え棒11の上端に固定された止め輪53と、押え棒駆動ステッピングモータ54の出力軸に連結された駆動ギヤ54aと、駆動ギヤ54aに噛合する中間ギヤ55と、押え棒11の中段部に固定された押え棒抱き56と、ラック形成部材52と押え棒抱き56の間の押え棒11に外装される押えバネ57等を備えている。
【0045】
中間ギヤ55は小径のピニオン55aを一体的に有し、そのピニオン55aがラック形成部材52のラック(図示略)に噛合している。押え棒抱き56の直ぐ右側には、手動操作により押え棒11を昇降させる押え上げレバー58が設けられ、押え棒11のすぐ左側には、押え足10の高さ位置を検出する為のポテンショメータ59が設けられている。
【0046】
ポテンショメータ59の回動軸から右方向に延びたレバー部59aは、押え棒抱き56の左方に突出する突出部56aの上面に当接し、押え棒11と押え棒抱き56の昇降移動に応じて揺動して回動軸を回動させることにより、その抵抗値が変化するように構成されており、この抵抗値に基づいて制御装置C(図9参照)により押え足10の高さ位置が演算される。この押え足10の高さの基準は、押え足10の下面が針板1aの上面に当接する状態が基準高さに設定されている。この押え足10の高さを検出することにより、加工布の布厚も検出が可能である。
【0047】
制御装置Cからの指令により押え棒駆動ステッピングモータ54を駆動させると、その駆動力が中間ギヤ55、ピニオン55aに伝達されてラック形成部材52を昇降移動させる。以下詳細に説明すると、駆動ギヤ54aを時計回りに駆動させると、中間ギヤ55が反時計回りに回転し、ラック形成部材52を降下させる。このラック形成部材52の降下により、押えバネ57を介して押え棒11と共に押え足10が降下する。押え足10の降下により、押え足10の下面が針板1aの上面に載置された加工布(図示略)に当接するが、その後もラック形成部材52が降下すると、図5に示すように、押えバネ57が圧縮されて、そのバネ力により押え足10が加工布を押圧する状態となる。一方、駆動ギヤ54aを反時計回りに駆動させると、中間ギヤ55が時計回りに回転し、ラック形成部材52を上昇させる。ラック形成部材52の上端は、押え棒11の上端に固定された止め輪53に当接しているので、図6に示すように、ラック形成部材52の上昇に伴い押え棒11も上昇し、押え足10も上昇する。
【0048】
このように、押え昇降装置50は、フリーモーション縫製時には、図6に示すように、押え足10を加工布から所定小距離(例えば1mm)だけ離隔する上昇位置に移動させ、止め縫い動作時には、図5に示すように、押え足10で加工布を押圧する押圧位置に移動させるように制御装置Cにより制御される。
【0049】
次に、送り歯作動切換装置60について説明する。
図7、図8に示すように、送り歯作動切換装置60は、送り歯18を作動状態と非作動状態とに亙って切換える送り歯作動切換機構61と、この送り歯作動切換機構61を駆動する送り歯沈下ステッピングモータ62(これがアクチュエータに相当する)とを備えている。尚、送り歯作動切換装置60が送り歯作動切換手段に相当する。
【0050】
この送り歯作動切換機構61は、接触子移動部材67と、この接触子移動部材67を左右方向に移動させる第1スライドレバー68及び第2スライドレバー70と、揺動レバー69と、螺旋溝カム71aを有する従動ギヤ71等を有する。ここで、接触子移動部材67は、送りユニットフレーム65の後端の一部の板部に上側から嵌め込まれ、この板部にガイドされて左右方向移動可能である。
【0051】
送りユニットフレーム65の直ぐ右側にドロップユニットフレーム72が設けられ、このドロップユニットフレーム72の右端部に、送り歯沈下ステッピングモータ62が下向きに固着され、この送り歯沈下ステッピングモータ62の駆動軸に固定された駆動ギヤ73に噛合する従動ギヤ71がドロップユニットフレーム72の下面側に回転可能に支持されている。この従動ギヤ71の上面には、螺旋溝カム71aが形成されている。
【0052】
ドロップユニットフレーム72の下面に、左右方向に延びる第1スライドレバー68が配置されている。そこで、この第1スライドレバー68に形成された左右1対の長穴68aに、ドロップユニットフレーム72に上端が固着された左右1対の第1支持ピン74を夫々挿通させて、下側に止め輪75を取付けることで、第1スライドレバー68は左右方向にスライド可能になっている。さらに、この第1スライドレバー68には、螺旋溝カム71aに上側から係合する係合ピン76が固着されている。
【0053】
一方、ドロップユニットフレーム72の左端部に、長さ方向中央部において第2支持ピン43により揺動レバー69が揺動可能に支持されている。そこで、第1スライドレバー68の左端部が揺動レバー69の前端部に連結されている。ところで、接触子移動部材67に連結された第2スライドレバー70の右端部が揺動レバー69の後端部に連結されている。揺動レバー69の前端近傍部とドロップユニットフレーム72の後端近傍部とに亙って引っ張りコイルバネ78が掛装されている。この引っ張りコイルバネ78は、螺旋溝カム71aと係合ピン76、第1スライドレバー68と揺動レバー69と第2スライドレバー70、第2スライドレバー70と接触子移動部材67の夫々の連結部又は係合部の嵌合ガタによる音の発生を防止するためのバネである。下軸63には、偏心カム部64aと同心カム部64bとを一体形成した上下送りカム64が固着されている。
【0054】
図7に示すように、制御装置Cからの指令により送り歯沈下ステッピングモータ62が反時計回りに回転(この回転方向を逆回転とする)すると、従動ギヤ71が時計回りに回転し、この螺旋溝カム71aに係合する係合ピン76を介して第1スライドレバー68が右方に移動するので、揺動レバー69は反時計回りに揺動し、第2スライドレバー70を介して接触子移動部材67が左方に移動し、上下送り接触子66が同心カム部64bから偏心カム部64aに移動し、送り歯18は上昇位置に位置し作動状態に切換えられる。
【0055】
一方、図8に示すように、制御装置Cからの指令により送り歯沈下ステッピングモータ62が時計回りに回転(この回転方向を正回転とする)すると、従動ギヤ71が反時計回りに回転し、この螺旋溝カム71aに係合する係合ピン76を介して第1スライドレバー68が左方に移動するので、揺動レバー69は時計回りに揺動し、第2スライドレバー70を介して接触子移動部材67が右方に移動し、上下送り接触子66が偏心カム部64aから同心カム部64bに移動し、送り歯18は沈下位置に位置し非作動状態に切換えられる。
【0056】
次に、ミシンMの制御系について説明する。
図9に示すように、制御装置Cは、CPU81とROM82とRAM83とを含むマイクロコンピュータと、マイクロコンピュータにデータバスなどを介して接続された入力インターフェース80及び出力インターフェース84等を有する。
【0057】
入力インターフェース80には、スタート・ストップスイッチ36、止縫いスイッチ37、下糸検知センサ15、糸通しスイッチ43、タッチパネル5a等が接続されている。出力インターフェース84には、ミシンモータ6、押え棒駆動ステッピングモータ54、送り歯沈下ステッピングモータ62、針棒揺動ステッピングモータ23、カラーディスプレイ5等が夫々駆動回路85〜89を介して電気的に接続されている。
【0058】
ROM82には、通常縫製を行う為の制御プログラムと、刺繍データに基づいて刺繍縫製を行う為の制御プログラムと、カラーディスプレイ5に各種情報を表示させる為の表示制御プログラムと、止め縫い動作を実行するか否かを判断する為の止め縫い動作判断制御プログラムと、フリーモーション縫製モード時に押え棒駆動ステッピングモータ54と送り歯沈下ステッピングモータ62と止め縫い動作を制御する為の止め縫い処理制御プログラム等が予め格納されている。また、ROM82には、加工布に所定針数の止め縫い動作を行う為の止め縫いデータも記憶されている。尚、ROM82が止め縫いデータ記憶手段に相当する。
【0059】
制御装置Cにより止め縫い動作判断制御プログラムが開始されると、フリーモーション縫製モードに切換えられたとき、スタート・ストップスイッチ36又は止め縫いスイッチ37からの指令信号に応じて、送り歯作動切換装置60を動作させて送り歯18を作動状態に切換えると共に、押え昇降装置50を制御し押え足10で加工布を押圧した後、送り装置が駆動制御されて、ROM82に記憶された止め縫いデータに基づいて止め縫い動作が実行される。
【0060】
ROM82に設けられた止め縫いデータメモリには、複数の縫製模様の縫製データと、加工布に所定縫目ピッチ(例えば約0.2mm)で所定針数(例えば3,4針)の止め縫い動作を行う為の止め縫いデータが予め記憶され、ミシンMにて縫製処理を行う際には、選択された縫製模様の縫製データと止め縫いデータが、この縫製データメモリから読み出されてRAM83のデータメモリに格納される。RAM83には、縫製に供する縫製データがROM82の縫製データメモリから読み込まれて記憶されるデータメモリと、種々のワークメモリが設けられている。
【0061】
次に、制御装置Cで実行される止め縫い動作判断制御について、図10、図11に基づいて説明する。但し、図中Si(i=1,2・・・)は各ステップを示す。
ミシンMの電源をオンすることにより、この止め縫い動作判断制御が開始される。先ず、モード設定キー45によりフリーモーションモードが設定されたか否かが判定され(S1)、フリーモーションモードが設定された場合(S1;Yes)、RAM83に格納されている止め縫いフラグFが1に設定される(S2)。但し、フリーモーションモードが設定されなかった場合、つまり、通常縫製モードが設定された場合は(S1;No)、止め縫いフラグFが0に設定された後(S20)、通常縫製モードにおいて各動作が実行され(S21)、S1にリターンする。ここで、モード設定キー45の操作によりフリーモーションモードが設定されるのではなく、模様選択画面においてフリーモーション模様が選択されることにより、フリーモーションモードが設定されるようにしてもよい。また、モード設定キー45は、カラーディスプレイ5に表示されてタッチパネル5aで操作されるキーではなく、独立した操作スイッチであってもよい。
【0062】
次に、縫製開始指令が入力されたか否か、つまり、スタート・ストップスイッチ36により縫製開始が指令されたか否かが判定され(S3)、縫製開始が指令された場合(S3;Yes)、止め縫いフラグFが1に設定されているか否かが判定される(S4)。即ち、止め縫い動作の実行の可否が判断される。止め縫いフラグFが1である場合(S4;Yes)止め縫い処理が実行され(S5)、止め縫いフラグFが0に設定された後(S6)、縫製動作が実行される(S7)。止め縫いフラグFが0である場合は(S4;No)、S7へ移行する。
【0063】
次に、下糸ボビン13に巻回された下糸Tの残量が少なくなって下糸検知センサ15がONされた場合(S8;Yes)、止め縫いフラグFが1に設定される(S9)。次に、縫製終了指令が入力されたか否か、つまり、スタート・ストップスイッチ36により縫製終了が指令されたか否かが判定され(S10)、縫製終了が指令された場合(S10;Yes)、止め縫いスイッチ37がONされたか否かが判定される(S11)。但し、縫製終了が指令されていない場合は(S10;No)、S7へ移行し縫製動作が継続される。
【0064】
止め縫いスイッチ37がONされた場合(S11;Yes)、止め縫い処理が実行され(S12)、止め縫いフラグFが0に設定された後(S13)、縫製動作が停止された後(S14)、S3へ移行する。ここで、操作者は下糸ボビン13の交換を行うことができる。
【0065】
一方、縫製開始が指令されなかった場合(S3;No)、糸通しスイッチ43がONされたか否か、つまり、操作者により縫針8の目孔への糸通し操作が行われたか否かが判定され(S15)、糸通しが行われた場合(S15;Yes)、止め縫いフラグFが1に設定された後(S16)、止め縫いスイッチ37がONされたか否かが判定される(S17)。止め縫いスイッチ37がONされた場合(S17;Yes)、止め縫い処理が実行され(S18)、止め縫いフラグFが0に設定された後(S19)、S3へ移行する。止め縫いスイッチ37がONされていない場合は(S17;No)、S3へ移行する。但し、糸通しが行われなかった場合(S15;No)は、S17へ移行する。
【0066】
次に、制御装置Cで実行される止め縫い処理制御について、図12に基づいて説明する。但し、図中Si(i=30,31・・・)は各ステップを示す。
この止め縫い処理制御が開始されると、先ず、ROM82より止め縫いデータが読込まれ(S30)、送り歯沈下ステッピングモータ31の駆動により、送り歯18が上昇位置に移動し、送り歯18が作動状態に切換えられた後(S31)、押え棒駆動ステッピングモータ54の駆動により押え棒13と共に押え足12が下降し、押え足12が加工布を押圧する押圧位置に移動する(S32)。
【0067】
次に、送り装置が駆動制御されて、読込んだ止め縫いデータに基づいて縫製動作が実行される(S33)。止め縫い動作終了後、押え棒駆動ステッピングモータ54の駆動により押え棒13と共に押え足12が上昇し、押え足12が上昇位置に移動した後(S34)、送り歯沈下ステッピングモータ31の駆動により、送り歯18が沈下位置に移動し、送り歯18が非作動状態に切換えられて(35)、この処理を終了する。尚、判断手段は、図10に示すフローチャートのS4と制御装置Cにより構成される。
【0068】
次に、以上説明したミシンMの作用、効果について説明する。
フリーモーション縫製モードに切換えてフリーモーション縫製を行う場合、スタート・ストップスイッチ36により縫製開始のときの止め縫い動作を指令すると、送り歯作動切換装置60により送り歯18が作動状態に切換えられる。さらに、押え昇降装置50により押え足10が加工布を押圧する押圧位置に移動し、押え足10で加工布が押圧されてから、制御装置Cにより送り装置が駆動制御されて、ROM82に記憶された止め縫いデータに基づいて止め縫い動作が実行される。これにより、模様の縫い始めにおいて自動で止め縫いが行われる。
【0069】
一方、縫製終了時にスタート・ストップスイッチ36により縫製終了を指令してから、止め縫いスイッチ37をONし縫製終了のときの止め縫い動作を指令すると、送り歯作動切換装置60により送り歯18が作動状態に切換えられ、押え昇降装置50により押え足10が加工布を押圧する押圧位置に移動し、押え足10で加工布が押圧されてから、制御装置Cにより送り装置が駆動制御されて、ROM82に記憶された止め縫いデータに基づいて止め縫い動作が実行される。これにより、模様の縫い終わりにおいて自動で止め縫いが行われる。
【0070】
このように、スタート・ストップスイッチ36と止め縫いスイッチ37とROM82と制御装置Cを備え、この制御装置Cは、フリーモーション縫製モードに切換えられたとき、スタート・ストップスイッチ36や止め縫いスイッチ37からの指令信号に応じて、送り歯作動切換装置60を動作させて送り歯18を作動状態に切換え、ROM82に記憶された止め縫いデータに基づく止め縫い動作を実行するように送り装置を駆動制御するので、フリーモーション縫製を行う際、模様の縫い始めや縫い終わりに自動で止め縫いを行うことができる。止め縫いを行うのに手動で加工布を少しずつ移動させなくてもよいので、初心者でも簡単に行うことができる。
【0071】
加工布を押える為の押え足10を装着する押え棒11を上下駆動する押え昇降装置50を備え、制御装置Cは、スタート・ストップスイッチ36や止め縫いスイッチ37の指令信号に応じて止め縫い動作を実行する際、押え足10で加工布を押えるように押え昇降装置50を制御するので、止め縫い時に押え足10で加工布を確実に押えることができる。それ故、止め縫い時に送り歯で加工布を確実に送ることができる。しかも、操作者が手動で押え足を下降させる必要がないので、作業能率も低下しない。
【0072】
止め縫い動作の実行を許可すると判断したときに、制御装置Cは、スタート・ストップスイッチ36からの指令信号に応じて止め縫いデータに基づく止め縫い動作を実行するように制御するので、模様の縫い始めに確実に止め縫いを行うことができるうえ、不必要な止め縫いを防止することができる。このとき、少なくとも1つの判断条件を満たすときに止め縫いデータに基づく止め縫い動作を実行するように判断するので、下糸ボビン13の交換や縫針8の目孔への糸通し操作等のミシンの操作状況に応じて、不必要な止め縫いを確実に防止することができる。
【0073】
送り歯作動切換装置60は、送り歯作動切換機構61とこの機構を駆動する送り歯沈下ステッピングモータ62とを備え、押え昇降装置50は、押え昇降機構51とこの機構を駆動する押え棒駆動ステッピングモータ54とを備えているので、簡単な構成で、送り歯18を作動状態と非作動状態とに切換えることができると共に、押え足10を上下動させることができる。
【0074】
次に、前記実施例を部分的に変更した変更例について説明する。
1]針棒揺動装置20により針棒9を左右方向に揺動させて止め縫い動作を実行させてもよい。この変更例においては、制御装置Cで実行される止め縫い処理制御が実施例と異なる。この止め縫い処理制御が開始されると、図13に示すように、ROM82より止め縫いデータが読込まれ(S40)、この止め縫いデータに基づいて針棒揺動ステッピングモータ23が駆動され、針棒9を左右方向に揺動させて縫製動作が実行される(S41)。この場合、送り歯沈下ステッピングモータ31と押え棒駆動ステッピングモータ54を駆動させる必要がないので、制御装置Cによる制御が簡単化する。
【0075】
2]縫製開始止め縫い指令手段と縫製終了止め縫い指令手段として、スタート・ストップスイッチ36の代わりにフットコントローラを適用してもよい。
3]返し縫いスイッチ46に止め縫いスイッチ37の機能を兼用させて、返し縫いスイッチ46をONすると、返し縫いの止め縫い動作を実行させるようにしてもよい。
【0076】
4]糸切りスイッチ47に止め縫いスイッチ37の機能を兼用させて、糸切りスイッチ47をONすると、止め縫い動作を実行した後に糸切り動作を実行するように構成してもよい。
5〕その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施例に種々の変更を付加した形態で実施可能で、本発明はそのような変更形態も包含するものである。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の実施例に係るミシンの斜視図である。
【図2】下糸ボビンと下糸検知センサの位置関係を示す図である。
【図3】針棒揺動装置の透視正面図である。
【図4】糸通し機構の背面図である。
【図5】押え昇降装置の正面図(押え足が押圧位置)である。
【図6】押え昇降装置の正面図(押え足が上昇位置)である。
【図7】送り歯上下動機構と送り歯作動切換機構の平面図(布送り状態)である。
【図8】送り歯上下動機構と送り歯作動切換機構の平面図(沈下状態)である。
【図9】ミシンの制御系を示すブロック図である。
【図10】止め縫い動作判断制御プログラムのフローチャートの一部である。
【図11】止め縫い動作判断制御プログラムのフローチャートの残部である。
【図12】止め縫い処理制御プログラムのフローチャートである。
【図13】変形例1の図12相当図である。
【符号の説明】
【0078】
C 制御装置
M ミシン
20 針棒揺動装置
36 スタート・ストップスイッチ
37 止め縫いスイッチ
50 押え昇降装置
60 送り歯作動切換装置
82 ROM

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工布を送る為の送り歯を前後方向に移動させると共にミシンベッドに設けられた針板から出没するように上下方向に移動させるように駆動する送り手段と、前記送り歯を前記針板から出没する作動状態と前記針板から沈下した非作動状態とに切換える送り歯作動切換手段とを備え、前記送り歯で加工布を送ることで縫製を行う通常縫製モードと、前記送り歯作動切換手段により前記送り歯を非作動状態にして加工布を手動で移動させて縫製を行うフリーモーション縫製モードとに切換可能なミシンにおいて、
縫製開始のときの止め縫い動作を指令する縫製開始止め縫い指令手段と、
縫製終了のときの止め縫い動作を指令する縫製終了止め縫い指令手段と、
前記加工布に止め縫い動作を行う為の止め縫いデータを記憶した止め縫いデータ記憶手段と、
前記フリーモーション縫製モードに切換えられたとき、前記縫製開始止め縫い指令手段又は前記縫製終了止め縫い指令手段からの指令信号に応じて、前記送り歯作動切換手段により前記送り歯を作動状態に切換え、前記止め縫いデータ記憶手段に記憶された前記止め縫いデータに基づいて止め縫い動作を実行するように前記送り手段を駆動制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とするミシン。
【請求項2】
前記加工布を押える為の押え足を装着する押え棒を上下駆動する押え昇降手段を備え、
前記制御手段は、前記縫製開始止め縫い指令手段又は前記縫製終了止め縫い指令手段の指令信号に応じて前記止め縫い動作を実行する際、前記押え足で前記加工布を押えるように前記押え昇降手段を制御することを特徴とすることを特徴とする請求項1に記載のミシン。
【請求項3】
前記止め縫い動作の実行の可否を判断する判断手段を備え、
前記判断手段により止め縫い動作の実行を許可すると判断したときに、前記制御手段は、前記縫製開始止め縫い指令手段からの指令信号に応じて前記止め縫いデータに基づく止め縫い動作を実行するように制御することを特徴とする請求項1又は2に記載のミシン。
【請求項4】
前記判断手段は、少なくとも1つの判断条件を満たすときに止め縫いデータに基づく止め縫い動作を実行するように判断することを特徴とする請求項3に記載のミシン。
【請求項5】
前記送り歯作動切換手段は、送り歯作動切換機構とこの機構を駆動するアクチュエータとを備え、前記押え昇降手段は、押え昇降機構とこの機構を駆動するアクチュエータとを備えていることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のミシン。
【請求項6】
下端部に縫針を装着する針棒を左右方向に揺動させる針棒揺動手段を備え、送り歯で加工布を送ることで縫製を行う通常縫製モードと、前記送り歯をミシンベッドに設けられた針板から出没する作動状態と前記針板から沈下した非作動状態とに切換える送り歯作動切換手段により前記送り歯を非作動状態にして加工布を手動で移動させて縫製を行うフリーモーション縫製モードとに切換可能なミシンにおいて、
縫製開始時の止め縫い動作を指令する縫製開始止め縫い指令手段と、
縫製終了時の止め縫い動作を指令する縫製終了止め縫い指令手段と、
前記加工布に止め縫いを行う為の止め縫いデータを記憶する止め縫いデータ記憶手段と、
前記フリーモーション縫製モードに切換えられたとき、前記縫製開始止め縫い指令手段又は前記縫製終了止め縫い指令手段からの指令信号に応じて、前記止め縫いデータ記憶手段に記憶される前記止め縫いデータに基づいて止め縫い動作を実行するように前記針棒揺動手段を駆動制御する制御手段と、
備えたことを特徴とするミシン。
【請求項7】
加工布を送る為の送り歯を前後方向に移動させると共にミシンベッドに設けられた針板から出没するように上下方向に移動させるように駆動する送り手段と、前記送り歯を前記針板から出没する作動状態と前記針板から沈下した非作動状態とに切換える送り歯作動切換手段と、縫製開始のときの止め縫い動作を指令する縫製開始止め縫い指令手段と、縫製終了のときの止め縫い動作を指令する縫製終了止め縫い指令手段と、前記加工布に止め縫い動作を行う為の止め縫いデータを記憶した止め縫いデータ記憶手段とを備え、前記送り歯で加工布を送ることで縫製を行う通常縫製モードと、前記送り歯作動切換手段により前記送り歯を非作動状態にして加工布を手動で移動させて縫製を行うフリーモーション縫製モードとに切換可能なミシンに装備された制御装置のコンピュータを、
前記フリーモーション縫製モードに切換えられたとき、前記縫製開始止め縫い指令手段又は前記縫製終了止め縫い指令手段からの指令信号に応じて、前記送り歯作動切換手段を動作させて前記送り歯を作動状態に切換える送り歯切換え制御手段と、
前記止め縫いデータ記憶手段に記憶された前記止め縫いデータに基づく止め縫い動作を実行するように駆動制御する止め縫い制御手段と、
して機能させることを特徴とするフリーモーション縫製用止め縫い処理プログラム。
【請求項8】
下端部に縫針を装着する針棒を左右方向に揺動させる針棒揺動手段と、縫製開始のときの止め縫い動作を指令する縫製開始止め縫い指令手段と、縫製終了のときの止め縫い動作を指令する縫製終了止め縫い指令手段と、加工布に止め縫いを行う為の止め縫いデータを記憶する止め縫いデータ記憶手段とを備え、送り歯で前記加工布を送ることで縫製を行う通常縫製モードと、前記送り歯をミシンベッドに設けられた針板から出没する作動状態と前記針板から沈下した非作動状態とに切換える送り歯作動切換手段により前記送り歯を非作動状態にして加工布を手動で移動させて縫製を行うフリーモーション縫製モードとに切換可能なミシンに装備された制御装置のコンピュータを、
前記フリーモーション縫製モードに切換えられたとき、前記縫製開始止め縫い指令手段又は前記縫製終了止め縫い指令手段からの指令信号に応じて、前記止め縫いデータ記憶手段に記憶される前記止め縫いデータに基づく止め縫い動作を実行するように前記針棒揺動手段を駆動制御する止め縫い制御手段と、
して機能させることを特徴とするフリーモーション縫製用止め縫い処理プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−100991(P2009−100991A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−276523(P2007−276523)
【出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】