説明

ミシン

【課題】中押さえの下死点位置確認の作業負担の軽減を図る。
【解決手段】縫い針108を上下動させる針上下動機構と、布地を縫い針に相対的に位置決めする位置決め手段と、針上下動機構と連動して中押さえ29を縫い針と同期して上下動させる中押さえ機構1と、中押さえの下死点高さを調整する中押さえ高さ調整手段と、を備え、中押さえ機構は、針上下動機構との連動状態と中押さえを下死点高さに保持しつつ針上下動機構との連動を解除した分離状態とを切り替える中押さえ分離手段を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中押さえ機構を有するミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、布地を保持枠で保持し、当該保持枠をXY方向に搬送させながら任意の位置に運針を行いつつ縫製を行うミシンにあっては、布地が縫い針との摩擦により縫い針と共に上昇してばたつくのを防止するため、縫い針を挿通させる筒状の布押さえを縫い針と同期して短いストロークで上下動させる中押さえ機構が設けられている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平7−178272号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記ミシンは、上軸から中押さえの上下動の動力を得る構造であるため、縫い針と中押さえは連動して上下動を行う構造となっている。
従って、布地を実際にセットした状態で、縫製実行前に中押さえの上下動における下死点高さを確認するためには針棒を下降させる必要があるが、その際には、縫い針が布地を貫かないように予め針棒から取り外さねばならなかった。
このため、上記従来のミシンにあっては、中押さえの下死点位置を確認するための作業が煩雑となり、作業負担が増大するという不都合があった。
【0004】
また、中押さえ高さをパルスモータ等で直接制御して上下動させる構成の場合も、中押さえの機能上、針棒と中押さえが常に連動するように構成されており、中押さえの下死点高さ確認時に縫い針を針棒から取り外さねばならなかった。このため、作業負担の増大という問題が生じていた。
本発明は、中押さえの下死点位置確認の作業負担の軽減を図ることを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の発明は、縫い針を上下動させる針上下動機構と、布保持部に保持された被縫製物と前記縫い針とを当該縫い針の上下動方向と交差する方向に相対的に位置決めする位置決め手段と、前記針上下動機構と連動し、上方から前記被縫製物を押さえる中押さえを前記縫い針と同期して上下動させる中押さえ機構と、前記中押さえ機構の中押さえの下死点高さを調整する中押さえ高さ調整手段と、を備え、前記中押さえ機構は、前記針上下動機構との連動状態と、前記中押さえを下死点高さに保持しつつ前記針上下動機構との連動を解除した分離状態とを切り替える中押さえ分離手段を有する、という構成を採っている。
【0006】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記中押さえ機構は、前記針上下動機構と同期して往復回動を行うアーム部材と、当該アーム部材の回動部位に連結されて前記中押さえに上下動動作を伝達する伝達部材とを備え、前記中押さえ分離手段は、前記アーム部材における伝達部材との連結部位を回動中心位置に移動させることで前記分離状態に切り替えを行う、という構成を採っている。
【0007】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明と同様の構成を備えると共に、 入力操作により、前記中押さえ分離手段による状態切り替えを実行させる第一の入力手段を備える、という構成を採っている。
【0008】
請求項4記載の発明は、請求項1から3のいずれか一項記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記中押さえに対して、縫製を行わない退避位置への上昇と縫製を実行するための使用位置への下降により位置切り替えを行う中押さえ退避機構と、入力操作により、前記中押さえ退避機構による位置切り替え及び前記中押さえ分離手段による状態切り替えを実行させる第二の入力手段とを備え、前記第二の入力手段からの入力操作により、前記中押さえ退避機構による使用位置への下降に伴って前記中押さえ分離手段による分離状態への切り替えが行われる、という構成を採っている。
【0009】
請求項5記載の発明は、請求項1から4のいずれか一項に発明と同様の構成を備えると共に、複数の運針による一連の縫製について、各針ごとの前記被縫製物と前記縫い針との相対位置を示す縫製パターンデータを記憶する記憶手段と、前記記憶手段に記憶されている縫製パターンデータに基づいて前記位置決め手段の動作制御を行う動作制御手段と、前記縫製パターンデータの各針ごとの前記被縫製物と前記縫い針との相対位置を設定入力するデータ入力手段とを備える、という構成を採っている。
【0010】
請求項6記載の発明は、請求項1から5のいずれか一項記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記縫製パターンデータは、前記中押さえ高さ調整手段による下死点高さの設定を含み、前記データ入力手段により前記下死点高さの設定を行う際に、前記中押さえ分離手段により前記分離状態に切り替えを行う切り替え制御手段を備える、という構成を採っている。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載の発明は、中押さえ分離手段により、中押さえを中押さえ高さ調整手段で設定された下死点高さに保持しつつ針上下動機構との連動を解除した分離状態とすることができるので、縫い針を下降させることなく中押さえのみを下死点位置にすることができ、縫い針の取り外し等の作業を不要として中押さえの下死点位置確認における作業負担を軽減することが可能となる。
【0012】
請求項2記載の発明は、針上下動機構と同期して往復回動を行うアーム部材伝達部材との連結部位を回動中心位置に移動させることで分離状態に切り替えを行うので、上下動機構と中押さえとの連結状態の切断と下死点位置の維持との二つの作用を、中押さえの動力伝達を行うための構成を一部利用して実現することができ、構成の簡易化を図ることが可能となる。
【0013】
請求項3記載の発明は、第一の入力手段を備えることから、入力操作により容易且つ迅速に中押さえ分離手段による状態切り替えを実行することが可能となる。
【0014】
請求項4記載の発明は、第二の入力手段に対する入力操作により、中押さえの位置切り替えと中押さえ分離手段による状態切り替えとを共に実行することができ、さらなる作業性の向上を図ることが可能となる。
【0015】
請求項5記載の発明は、設定入力が行われる縫製パターンデータに従って縫製が行われることから、その設定入力作業時に中押さえを分離状態とすることにより、縫い針を下降させずに中押さえの下死点位置確認を行うことができ、縫い針の取り外し等の繁雑性を解消しつつ入力作業を快適に行うことが可能となる。
【0016】
請求項6記載の発明は、データ入力手段により縫製パターンデータの下死点高さの設定を行う際に、切り替え制御手段により中押さえが自動的に分離状態に切り替えられるので、さらなる作業性の向上を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(電子サイクルミシンの全体構成)
本発明の実施の形態を図1〜図20に基づいて説明する。
本実施形態において、ミシンとして電子サイクルミシンを例に説明する。電子サイクルミシンは、縫製を行う被縫製物である布地を保持する布保持部としての保持枠を有し、その保持枠が縫い針に対し相対的に移動することにより、保持枠に保持される布地に所定の縫製データ(縫い目パターン)に基づく縫い目を形成するミシンである。
ここで、後述する縫い針108が上下動を行う方向をZ軸方向(上下方向)とし、これと直交する一の方向をX軸方向(左右方向)とし、Z軸方向とX軸方向の両方に直交する方向をY軸方向(前後方向)と定義する。
【0018】
電子サイクルミシン100(以下、ミシン100)は、図1に示すように、ミシンテーブルTの上面に備えられるミシン本体101と、ミシンテーブルTの下部に備えられ、ミシン本体101を操作するためのペダルR等により構成されている。
【0019】
(ミシンフレーム及び主軸)
図1に示すように、ミシン本体101は、外形が側面視にて略コ字状を呈するミシンフレーム102を備えている。このミシンフレーム102は、ミシン本体101の上部をなし前後方向に延びるミシンアーム部102aと、ミシン本体101の下部をなし前後方向に延びるミシンベッド部102bと、ミシンアーム部102aとミシンベッド部102bとを連結する縦胴部102cとを有している。
このミシン本体101は、ミシンフレーム102内に動力伝達機構が配され、回動自在でY軸方向に沿って配設された主軸2(図4参照)及び図示しない下軸を有している。主軸2はミシンアーム部102aの内部に配され、下軸(図示省略)はミシンベッド部102bの内部に配されている。
【0020】
主軸2は、主軸モータ2a(図11参照)に接続され、この主軸モータ2aにより回動力が付与される。また、下軸(図示省略)は、図示しない縦軸を介して主軸2と連結しており、主軸2が回動すると、主軸2の動力が縦軸(図示省略)を介して下軸側へ伝達し、下軸が回動するようになっている。
主軸2の前端には、主軸2の回動によりZ軸方向に上下動する針棒108aが接続されており、その針棒108aの下端には、図2に示されるように、縫い針108が備えられている。かかる主軸2と主軸モータ2aと針棒108aと主軸2から針棒108aに上下動の駆動力を付与する図示しない伝達機構により針上下動機構が構成される。
【0021】
なお、主軸には、エンコーダ2b(図11参照)が設けられている。エンコーダ2bは主軸モータ2aの主軸の回転角度を検知するものであり、例えば、主軸モータ2aにより主軸が1°回転するごとにパルス信号を制御装置1000に出力するようになっている。また、主軸2の1回転に伴い、針棒108aは1往復の運動を行う。
【0022】
また、下軸(図示省略)の前端には、釜(図示省略)が設けられている。主軸2とともに下軸が回動すると、縫い針108と釜(図示省略)との協働により縫い目が形成される。
なお、主軸モータ2a、主軸2、針棒108a、縫い針108、下軸(図示省略)、釜(図示省略)等の接続構成は従来公知のものと同様であるので、ここでは詳述しない。
【0023】
(位置決め手段)
また、ミシンアーム102aには縫い針108の上下動による布地の浮き上がりを防止するために、針棒108aの上下動と連動して上下動し、縫い針108の周囲の布地を下方に押圧する中押さえ29を有する中押さえ機構1(図3参照)が設けられている。なお、中押さえ機構1はミシンアーム部102aの内部に配設されており、縫い針108は、中押さえ29の先端側に形成されている貫通孔に挿通されて備えられている。
【0024】
また、図1、図2に示すように、ミシンベッド部102b上には、針板110が配設されており、この針板110の上方に布保持部としての保持枠111及び縫い針108が配置されるようになっている。
保持枠111は、ミシンアーム部102aの前端部に配される取付部材113に取り付けられており、その取付部材113にはミシンベッド102b内に配置されたX軸モータ76a及びY軸モータ77aが駆動手段として連結されている(図11参照)。
保持枠111は、被縫製物である布地を保持し、X軸モータ76a及びY軸モータ77aの駆動に伴い、保持した布地を保持枠111ごと前後左右方向に移動するようになっている。そして、保持枠111の移動と、縫い針108や釜(図示省略)の動作が連動することにより、布地に所定の縫製パターンデータの縫い目データに基づく縫い目が形成される。
また、保持枠111は、布押さえ(図示省略)と下板(図示省略)とからなっており、取付部材113はミシンアーム102a内に配置された布押さえモータ79bの駆動により上下駆動が可能であり、布押さえ下降時に下板との間で布地を挟持し保持するようになっている。
そして、これら保持枠111、取付部材113、X軸モータ76a及びY軸モータ77aが、縫い針と布地をX軸方向及びY軸方向に相対的に位置決めする位置決め手段として機能する。
【0025】
ペダルRは、ミシン100を駆動し、針棒108a(縫い針108)を上下動させたり、保持枠111を動作させたりするための操作ペダルとして作動する。すなわちペダルRには、ペダルRが踏み込まれたその踏み込み操作位置を検出するための、例えば、可変抵抗等から構成されるセンサ(踏み込み量検出手段)が組み込まれており、センサからの出力信号がペダルRの操作信号として後述する制御装置1000に出力され、制御装置1000はその操作位置、操作信号に応じて、ミシン100を駆動し、動作させるように構成されている。
【0026】
(中押さえ機構:中押さえへの上下動伝達)
中押さえ機構1は、図3〜図5に示すように、先端に縫い針108が設けられた針棒108aを上下方向に駆動させる主軸2に設けられている。主軸2には偏心カム3が固定され、この偏心カム3には接続リンク4が連結されている。接続リンク4には揺動軸抱き5が連結され、揺動軸抱き5には揺動軸6の一端部が連結されている。
【0027】
図3〜図5に示すように、揺動軸6の他端部には中押さえの上下方向D1の移動量を調節する中押さえ調節腕7の基端部が固定されている。中押さえ調節腕7は、揺動軸6、接続リンク4を介して主軸2及び針上下動機構と同期して往復回動を行うアーム部材として機能する。
【0028】
中押さえ調節腕7には溝カム7aが形成されている。この溝カム7aは円弧状の長孔になっており、その一端部が揺動軸6の軸中心と一致し、他端部が揺動軸6を中心とする半径方向外側に向かって延設されている。
この溝カム7aに沿ってスライド移動可能として第1リンク8の一端部が調節ナット9と段ネジ10により回動自在に連結されている。また、溝カム7aには、第1リンク8の一端部に隣接してリンクストッパ51がナット52と段ネジ53により固定装備されている。このリンクストッパ51は第1リンク8の一端部に対して片側から当接し、それ以上、第1リンク8が中押さえ調節腕7の回動半径外側に移動しないようにするためのものである。一方、第1リンク8は、その一端部からさらにその長手方向に沿って延設部8aを有しており、当該延設部8aには、押圧バネ54により付勢されたロッド55により、第1リンク8がリンクストッパ51に常時当接するように押圧されている。リンクストッパ51は、段ネジ53を弛めることにより溝カム7aに沿って任意に位置を調節することができ、これにより、リンクストッパ51に常時当接するように押圧された第1リンク8も溝カム7aに沿って任意に位置を調節することができるようになっている。
これにより、この溝カム7aにおける任意の位置に第1リンク8の一端部を位置決めすることで中押さえ29に伝わる上下動ストロークが変動するようになっている。つまり、溝カム7aにおける揺動軸6と一致する位置で第1リンク8を連結すればストロークは0になり、揺動軸6から離れた位置に連結するほど比例的にストロークを大きく調節することができる。
【0029】
さらに、図6により溝カム7aについて説明を加える。図6は中押さえ調節腕7の周囲の拡大図である。中押さえ調節腕7は揺動軸6を中心として図6における実線の図示位置から二点鎖線の図示位置の範囲で往復回動することで中押さえ29に上下動を伝達する。即ち、中押さえ調節腕7の実線の図示位置で中押さえ29は下死点位置となり、二点鎖線の図示位置で上死点位置となる。
一方、第1リンク8は、その他端部が第2リンク11の中間部に段ネジ12で回動自在に連結されており、さらに後述する第3リンク20及び第4リンク22を介して中押さえ29に連結されている。
そして、溝カム7aは、第1リンク8の二つの段ネジ10,12の間の距離Rを半径とする円弧に沿って形成されると共に、中押さえ調節腕7が中押さえ29を下死点とする位置(実線位置)にある時に、溝カム7aの円弧の中心位置と第1リンク8の他端部側の段ネジ12の位置とが一致するように、第1リンク8、第2リンク11、中押さえ調節腕7の寸法、向き、配置等が設定されている。
その結果、中押さえ調節腕7が中押さえ29を下死点とする位置(実線位置)にある時に、溝カム7aに沿って第1リンク8の連結位置を移動させてストローク調節を行っても、中押さえ29はその下死点位置から高さに変化を生じさせることなく一定位置を維持することができる。
【0030】
第1リンク8の他端部は、前述したように、第2リンク11の中間部に段ネジ12で回動自在に連結されている。そして、第2リンク11の背面側には位置決めリンク13が連結されている。
位置決めリンク13は、その中央部近傍で段ネジ14によりミシン筐体としてのミシンフレーム102に回動自在に取り付けられ、段ネジ14の位置は、中押さえ29が下死点にあるときの段ネジ12の位置とほぼ一致する。
【0031】
位置決めリンク13は、その一端部にはばね掛13aが形成されてコイルばね16の一端部が連結され、他端部には段ネジ18により第2リンク11の一端部が回動可能に連結されている。また、コイルばね16の他端部はミシンフレーム102に固定されたばね掛15aに連結され、コイルばね16は位置決めリンク13の一端部を下方に引き下げるように付勢する。すなわち、コイルばね16は、中押さえ揺動部としての第2リンク11における第3リンク20との接続部位P1が上方に移動した際に、接続部位P1を下方に向けて付勢する付勢手段として機能する。
位置決めリンク13の背面にはストッパ17が固定装備されており、当該ストッパ17は、段ネジ14で位置決めリンク13とともにミシンフレーム102に回動自在に取り付けられている。ストッパ17の一端部17aの上方には、ストッパ17の上方への回動を規制するように規制部材19が設けられている。なお、この規制部材19は、ミシンフレーム102の一部で代用してもよい。
【0032】
第2リンク11の他端部には、第3リンク20の一端部が段ネジ21により回動自在に連結されている。第3リンク20の他端部には、第4リンク22の一端部が段ネジ23により第3リンク20の長手方向に対して直列となるように回動自在に連結されている。この第3リンク20と第4リンク22とで中押さえリンク部材24が構成される。
第4リンク22の他端部には、リンク中継板25が段ネジ26により連結されている。リンク中継板25には中押さえ棒抱き27が固定されており、中押さえ棒抱き27には上下方向に延びる中押さえ棒28が保持されている。
即ち、第1リンク8、第2リンク11、位置決めリンク13、第3リンク20、第4リンク22は、中押さえ調節腕7から中押さえ29に上下動を伝達する伝達部材として機能する。
中押さえ棒28の下端部には、縫製時に布地を針板に押さえ付ける中押さえ29が取り付けられている。中押さえ棒28の上端部にはコイルばね30が設けられており、ボルト31及びナット32により中押さえ棒抱き27に取り付けられている。
【0033】
(中押さえ機構:中押さえ高さ調整手段)
段ネジ23は、角駒33及び案内部材34とともに第3リンク20と第4リンク22とを連結している。すなわち、第4リンク22の正面側には案内部材34が設けられ、第3リンク20、第4リンク22、角駒33、案内部材34を一つの段ネジ23で連結している。
【0034】
案内部材34には、略三角形状の板材であり、上端部34tが段ネジ35によりミシンフレーム102に回動自在に取り付けられている。案内部材34の下端部近傍には、上下方向に長尺な長孔34aが形成されている。この長孔34aの内側には、前述した角駒33が嵌入され、角駒33は長孔34aに沿ってスライド移動が可能となっている。
つまり、案内部材34は、中押さえ29の上下動の際に、第3リンク20と第4リンク22の連結部P3を長孔34aに沿って移動させことができる。従って、案内部材34が段ネジ35を軸として回動し、長孔34aの向きが変更されると、第3リンク20と第4リンク22との連結部P3における屈曲角度が変化することとなり、その屈曲角度に応じて中押さえ29の下死点高さが変化することとなる。
【0035】
そして、案内部材34には、段ネジ35を中心として案内部材34を回動させる移動手段としての移動リンク36の一端部が段ネジ37により長孔34aの上部近傍で回動自在に連結されている。移動リンク36の他端部には偏心カム38が連結されており、この偏心カム38には可変軸39が連結されている。可変軸39にはベアリング40を介して駆動手段としての中押さえモータ42が連結されている。すなわち、中押さえモータ42の駆動が、可変軸39、偏心カム38、移動リンク36の順に伝達されて、移動リンク36が案内部材34を回動させる。
かかる案内部材34の回動により、中押さえ29の上下動における第3リンク20と第4リンク22との連結部P3における屈曲角度を調節することができ、その結果、この中押さえモータ42と案内部材34とこれらの間で動力を伝達する各構成が、中押さえモータ42を駆動源として中押さえ29の高さを調整する中押さえ高さ調整手段として機能することとなる。
【0036】
(中押さえ機構:中押さえ退避機構)
また、可変軸39の途中にはかさ歯車41が設けられており、当該かさ歯車41には、かさ歯車43が噛み合わされており、中押さえモータ42の駆動を可変軸39の軸方向に直交する方向D5に出力することができるようになっている。かさ歯車43の後端にはベアリング44、中押さえ昇降カム45等が同軸上に連結されている。
中押さえ昇降カム45は、図7〜図9に示すように、回動中心を通る中心線を境に一方は、回動中心から外周面までの距離がほぼ同一の円弧状に形成され(以下、維持部45aという。)、他方は、回動中心から外周面までの距離が、維持部45aにおける回動中心から外周面までの距離よりも大きく、かつ、滑らかに変化する形状(以下、変化部45bという。)とされている。
【0037】
中押さえ昇降カム45は、縫製時において中押さえ29が布地を押さえる機能を果たすための高さである使用位置と、非縫製時において針板から上方に離間した高さである退避位置P5とに高さ切り替えを行う中押さえ上げ部材46を昇降回動させるものであり、中押さえ上げ部材46の一端部に設けられた円筒状のコロ47の外周面に中押さえ昇降カム45の外周面が当接するようになっている。すなわち、中押さえ昇降カム45の維持部45aがコロ47に当接している際には、中押さえ上げ部材46の中押さえ棒28側の先端部は上昇せず、中押さえ29を使用位置に維持するが(図7参照)、中押さえ昇降カム45の変化部45bがコロ47に当接している際には、中押さえ上げ部材46の先端部が上昇するようになっている(図8及び図9参照)。すなわち、中押さえ昇降カム45、中押さえ上げ部材46、コロ47により、中押さえ退避機構M2が構成されている。
【0038】
中押さえ上げ部材46は、その中腹部でピン48によりミシンフレーム102に回動自在に取り付けられている。中押さえ上げ部材46は、その他端部が中押さえ棒抱き27の下方に位置するように設けられており、中押さえ昇降カム45の変化部45bがコロ47に当接して中押さえ上げ部材46の他端部が上昇することにより、中押さえ棒抱き27を上昇させ、中押さえ29を退避位置P5に上昇させることができる(図9参照)。また、ミシンフレーム15には、中押さえ上げ部材46よりも上方に位置するようにばね掛49が設けられており、このばね掛49にコイルばね50の一端部が架けられ、他端部が中押さえ上げ部材46の一端部近傍に架けられている。これにより、中押さえ上げ部材46の一端部を常に上方に付勢するようになっている。
【0039】
(中押さえ機構:中押さえ分離手段)
上記構成からなる中押さえ機構1は、主軸2と可変軸39とが接続リンク4により連結されている構造上、通常は縫い針108の上下動に伴って中押さえ29も上下動するように構成されている。これに対して、中押さえ分離手段は、中押さえ29と縫い針108との連動状態から縫い針108が上下動を行っても中押さえ29はその下死点位置を維持する分離状態に切り替えることを可能とする構成である。
中押さえ分離手段は、第1リンク8の延設部8aを押圧バネ54に抗して押圧し、段ネジ10を溝カム7aの一端部まで移動させるソレノイドアクチュエータ56から構成される。
前述したように、中押さえ調節腕7の溝カム7aの一端部は、Y軸方向から見た配置が揺動軸6と一致するので、第1リンク8の段ネジ10を溝カム7aの一端部に配置すると、中押さえ調節腕7から伝達される揺動ストロークが0となり、事実上、中押さえ29と縫い針108との連動を切断することが可能となる。さらに、溝カム7aは、中押さえ29が下死点に位置するときの段ネジ12を中心とする半径R(図6)の円弧に沿って形成されているので、中押さえ29が下死点に位置するときに第1リンク8の段ネジ10を溝カム7aに沿って移動させても、中押さえ29は一定の下死点位置から上下に移動することがない。
このため、上記ソレノイドアクチュエータ56により段ネジ10を溝カム7aの一端部まで移動することにより、中押さえ29を下死点位置に維持したまま中押さえ29と縫い針108との連動を切断することができる。
なお、ソレノイドアクチュエータ56による押圧状態が解除されると、押圧バネ54により第1リンク8の段ネジ10はリンクストッパ51の位置まで押し戻されるので、当該リンクストッパ51により設定されたストロークを復帰させることができる。
【0040】
(中押さえ機構の動作説明)
次に、上述の構成を有する中押さえ機構1の動作について、図3から図10に基づき説明する。
主軸モータ2aを駆動させて、主軸2や偏心カム3を回動させると、接続リンク4の先端は主軸2の軸線に略直交する方向に沿って往復移動し、接続リンク4に連結された揺動軸抱き5も同方向に揺動する。揺動軸抱き5が揺動することにより、中押さえ調節腕7も回動するため、第1リンク8の一端部が揺動支点となって第1リンク8の他端部が揺動軸6の軸線に略直交する方向(第3リンク20と第4リンク22の直列方向D2に対して横切る方向D3)に揺動する。第1リンク8の他端部の揺動に伴い、第2リンク11の他端部は第3リンク20と第4リンク22の直列方向D2に揺動し、第2リンク11の他端部に連結された第3リンク20及び第4リンク22は、その直列方向(上下方向)D2に揺動する。第3リンク20及び第4リンク22の揺動に伴い、第4リンク22に連結された中押さえ棒28は上下方向D1に沿って下方に移動するため、中押さえ29も上下方向に移動する。
【0041】
次に、上述の構成を有する中押さえ機構1による中押さえ高さ位置P4の調節動作について、図3から図10に基づき説明する。
後述する制御装置1000のCPU73が後述する所定のプログラムを実行することにより、中押さえモータ42は、後述するデータメモリ71に記憶された縫製パターンデータや中押さえ高さデータに基づいて駆動を始める。
中押さえ昇降カム45の維持部45aにコロ47が当接している範囲で、中押さえモータ42が駆動すると、かさ歯車41、ベアリング40を介して可動軸39に伝達され、可動軸39は回動を始める。可動軸39の回動により、偏心カム38も回動し、移動リンク36は、可動軸39の軸線に略直交する方向(第3リンク20と第4リンク22の直列方向D2に対して横切る方向D3)に揺動する。移動リンク36の揺動により、案内部材34は第3リンク20と第4リンク22の直列方向D2に対して横切る方向D3に揺動する。
【0042】
このとき、図10に示すように、案内部材34の長孔34aで連結された第3リンク20と第4リンク22の連結部P3の段ネジ23は、そのねじ部分が長孔34aによって、第3リンク20と第4リンク22の直列方向D2に対して横切る方向D3への移動が規制されているため、揺動により伝達される力を逃がす場所が無くなり、段ネジ23は長孔34aに沿って上方に移動し、段ネジ23の案内部材34に追随した移動に伴って、直列に並んで連結されていた第3リンク20と第4リンク22同士がなす角度θが変化し、中押さえリンク部材24は、略く字状になる。中押さえリンク部材24が略く字状になると、中押さえリンク部材24の両端部間の距離L、言い換えると、第3リンク20の一端部と第4リンク22の他端部との間の距離Lが短くなり、中押さえ29は上下方向D1に沿って上方に移動する。これにより、中押さえ29の針板からの中押さえ高さ位置P4を調節することができる。
また、中押さえ昇降カム45の変化部45aにコロ47が当接している範囲で、中押さえモータ42が駆動すると、中押さえ上げ部材46の先端部が上昇し、中押さえ29を退避位置に上昇させる。
【0043】
(ミシンの制御系:制御装置)
また、ミシン100は、図11に示すように、上述した各部、各部材の動作を制御するための動作制御手段としての制御装置1000を備えている。そして、制御装置1000は、縫製プログラム70a,データ入力プログラム70b,編集プログラム70c,分離制御プログラム70d,上下位置切替プログラム70e,中押さえ高さ設定プログラム70fが格納されたプログラムメモリ70と、縫製パターンデータ71a及び各種の設定情報(図示略)を記憶した記憶手段としてのデータメモリ71と、プログラムメモリ70内の各プログラム70a〜70fを実行するCPU73とを備えている。
【0044】
また、CPU73は、インターフェイス74aを介して操作パネル74に接続されている。かかる操作パネル74は、各種画面や入力ボタンを表示する表示部74bと表示部74bの表面に設けられその接触位置を検知するタッチセンサ74cとを有しており、各種情報の入出力手段として機能する。操作パネル74で用いられる入力ボタンや入力スイッチはいずれも、表示部74bで表示され、タッチセンサ74cで入力が検知されることで押下式のボタンやスイッチと同等に機能するものである。
【0045】
また、CPU73は、インターフェイス75を介して、主軸モータ2aを駆動する主軸モータ駆動回路75bに接続され、主軸モータ2aの回転を制御する。なお、主軸モータ2aはエンコーダ2bを備えており、主軸モータ2aを駆動する主軸モータ駆動回路75bにおいて、エンコーダ2bから主軸モータ2aの一回転ごとに出力されるZ相信号が、インターフェイス75を介してCPU73に入力され、この信号によって、CPU73は主軸2の一回転における原点(0°位置)を認識できる。また、エンコーダ2bからは、主軸モータ2aの回転角度における1°ごとに出力されるA相信号が、インターフェイス75を介してCPU73に入力され、前述したZ相信号を基準にA相信号のパルス数をカウントして、CPU73は主軸2の現在回転角度を認識できる。
なお、主軸モータ2aには、例えば、サーボモータを適用することができる。
【0046】
また、CPU73は、インターフェイス76及びインターフェイス77を介して、縫製すべき布地を保持する保持枠111に備えられるX軸モータ76a及びY軸モータ77aをそれぞれ駆動するX軸モータ駆動回路76b及びY軸モータ駆動回路77bが接続され、保持枠111のX軸方向及びY軸方向の動作を制御する。
また、CPU73は、インターフェイス78を介して、主軸モータ2aによる上下動とは別に中押さえ29の高さ位置を調節する中押さえモータ42を駆動する中押さえモータ駆動回路78bが接続され、中押さえ機構1の動作を制御する。
また、CPU73は、インターフェイス79を介して、布押さえ(図示省略)を上下に移動する布押さえモータ79aを駆動する布押さえモータ駆動回路79bが接続され、布押さえの動作を制御する。
なお、X軸モータ76a及びY軸モータ77a、中押さえモータ42、布押さえモータ79aには、例えば、パルスモータを適用することができる。
また、CPU73は、インターフェイス80を介して、中押さえ分離手段のソレノイドアクチュエータ56を駆動するアクチュエータ駆動回路80aが接続され、ソレノイドアクチュエータ56の動作を制御する。
【0047】
上記データメモリ71に記憶された縫製パターンデータ71aは、図12に示すように、縫製を行う際の運針パターンを実行するために、保持枠111を移動させる際のX方向移動量、Y方向移動量のデータ(針落ち位置を示す縫い目データ)を示す布送りコマンド及びから送りコマンド、下死点高さ移動量のデータを示す中押さえ高さ調節コマンド、糸切りコマンド、終了コマンドが組み合わされている。
そして、並び順に従って各種コマンドが実行されることで任意のパターン(模様)による縫いが実行される。
図12に示す縫製パターンデータにおいて、「縫い」のコマンドでは、保持枠111を移動させる際のX方向移動量、Y方向移動量のデータ(パラメータ)を含み、縫製時におけるX軸モータ76aとY軸モータ77aの回転駆動量がこれらにより決定される。
また、「糸切り」は糸切り装置(図示省略)を作動させるコマンド、「終了」はミシン100の布押さえモータ79aを駆動させて布を解放させるコマンドであるとともに、その動作に対する数値設定は不要となるので、数値データは設定されない(図12では(0)と表記)。
また、「中押さえ高さ」は、中押さえモータ42の動作に対するコマンドであり、中押さえ29の下死点高さのデータを含み、当該下死点高さとなるように中押さえモータ42の回転角度が決定される。
なお、図12のX移動量、Y移動量、中押さえ移動量の数値データにおける表記は10倍表記であり、例えば、「15」は、「1.5mm」を示している。
【0048】
(縫製プログラムによる縫製処理)
プログラムメモリ70に格納された縫製プログラム70aは、上記縫製パターンデータ71aの各コマンドを順番に読み出して、コマンドに応じて制御対象を特定し、コマンド内の設定数値に基づいて主軸モータ2a、X軸モータ76a、Y軸モータ77a、中押さえモータ42,布押さえモータ79aの動作制御を行い、縫製パターンデータ71aに基づく縫製を実行させるプログラムである。
【0049】
(データ入力プログラムによるデータ入力処理)
データ入力プログラム70bは、操作パネル74により表示されるデータ入力画面G1(図13)により縫製パターンデータ71aの作成処理を行うためのプログラムである。
データ入力プログラム70bの実行により、入力される各針ごとの針落ち位置を表示する表示領域Tと、八方向の方向入力キーB1と、確定キーB2と、エンターキーB3とを含んだデータ入力画面G1を操作パネル74に表示する制御が行われ、表示領域T内には針落ち位置を指定するためのカーソルCを表示し、八方向の方向入力キーB1の入力に応じて表示領域T内を移動させる処理が行われる。また、八方向の方向入力キーB1の入力に応じて、表示領域T内におけるカーソルCの現在位置が、保持枠111に対する縫い針108の相対的な位置関係と一致するようにX、Y軸モータ76a,77aの動作制御が行われ、設定入力する針落位置を実際の保持枠111と縫い針108との配置として目視することができるようになっている。
そして、データ入力プログラム70bの実行により、確定キーB2の押下により現在表示されているカーソルCの位置座標を針落ち位置として一時的に記憶され、各方向入力キーB1と確定キーB2の押下により順次特定された一連の針落ち位置は、エンターキーB3の押下により縫製パターンデータ71aとしてデータメモリ71に記憶する処理が行われる。また、このとき、糸切りのコマンドと終了のコマンドは自動的に一連の縫いコマンドの後に付加されて縫製パターンデータ71aとしてデータメモリ71に記憶する処理が行われる。
このように、CPU73がデータ入力プログラム70bを実行することにより縫製パターンデータ71aの各針ごとの針落ち位置を設定入力するデータ入力手段として機能する。
【0050】
データ入力プログラム70bによるデータ入力処理を図16のフローチャートにより説明する。
データ入力処理では、まずデータ入力画面G1が操作パネル74に表示され、その表示領域T内には針落ち位置を特定するためのカーソルC1が表示される(ステップS11)。
そして、八方向のいずれかの方向入力キーB1の入力が検出されると(ステップS12:YES)、その方向に応じてカーソルC1の移動が行われ、これに伴い、X、Y軸モータ76a、77aが駆動して保持枠111の移動が行われる(ステップS13)。
【0051】
カーソルC1及び保持枠111の移動が行われ、或いは、八方向のいずれかの方向入力キーB1の入力も検出されない場合にはステップS14に処理が進められる。
ステップS14では確定キーB2の入力が判定され、入力が検出されるとカーソル位置が一時的に記憶されると共に当該カーソル位置に針落ち位置の確定表示が行われる(ステップS15)。
【0052】
カーソル位置の確定処理が行われ、或いは、確定キーB2の入力が検出されない場合にはステップS16に処理が進められる。
ステップS16ではエンターキーB3の入力が判定され、エンターキーB3の入力が検出されない場合にはステップS11に処理が戻され、エンターキーB3の入力が検出されると一時的に記憶されたカーソル位置が全て縫いコマンドとして組み込まれた縫製パターンデータ71aがデータメモリ71に記憶され、処理が終了する(ステップS17)。
【0053】
(編集プログラムによる編集処理)
編集プログラム70cは、操作パネル74により表示される編集画面G2(図14)によりデータメモリ71内に既に登録されている縫製パターンデータ71aの内容の確認を行うためのプログラムである。
編集プログラム70cの実行により、各針ごとの針落ち位置を表示する表示領域Tと、選択されている針落ち位置を縫い順に従って切り替える前進キーB4と、選択されている針落ち位置を縫いとは逆の順で切り替える後退キーB5と、処理を終了させるキャンセルキーB6を含んだ編集画面G2を操作パネル74に表示する制御が行われる。
表示領域T内には縫製パターンデータ71aにおける各針落ち位置が表示され、その中の一つが選択されている状態を示す選択識別表示で表示される。
選択されている針落ち位置は、前進キーB4又は後退キーB5の入力により切り替えられ、選択識別表示で表示される針落ち位置が前進移動又は後退移動すると共に、選択されている針落ち位置が保持枠111に対する縫い針108の相対的な位置関係と一致するようにX、Y軸モータ76a,77aの動作制御が行われ、縫製パターンデータ71aに設定されている各針落ち位置を実際の保持枠111と縫い針108との配置として目視することができるようになっている。
【0054】
編集プログラム70cによる編集処理を図17のフローチャートにより説明する。
編集処理では、まず編集画面G2が操作パネル74に表示され、その表示領域T内には縫製パターンデータ71aに従い各針落ち点が表示される(ステップS21)。
編集画面G2の表示当初は、各針落ち点の中で縫製順が最初のものが選択状態とされ、選択点番号N=1に設定が行われると共に、選択状態にある最初の針落ち点が選択識別表示C2(例えば他と色彩を変えるなど)が行われる。
また、X,Y軸モータ76a,77aに駆動により、選択された針落ち点の針落ち位置となるように保持枠111は縫い針108に対して位置決めされる(ステップS22)。なお、最初の針落ち点は原点に表示されるので、保持枠111も原点位置となる。
【0055】
そして、前進キーB4又は後退キーB5のいずれかの入力が検出されると(ステップS23:YES)、Nは1加算又は減算され、選択識別表示C2が次の針落ち点又は前の針落ち点に切り替えられる。また、X,Y軸モータ76a,77aに駆動により、次の針落ち点又は前の針落ち点の針落ち位置となるように保持枠111は縫い針108に対して位置決めされる(ステップS24)。
【0056】
選択識別表示C2及び保持枠111の移動が行われ、或いは、前進キーB4又は後退キーB5のいずれも入力が検出されない場合にはステップS25に処理が進められる。
ステップS25ではキャンセルキーB6の入力が判定され、キャンセルキーB6の入力が検出されない場合にはステップS21に処理が戻され、キャンセルキーB6の入力が検出されると処理が終了する。
【0057】
(分離制御プログラムによる分離制御)
分離制御プログラム70dは、データ入力画面G1又は編集画面G2において表示される分離切替ボタンB7の入力により中押さえ29を分離状態に切り替える動作制御を行うためのプログラムである。かかる分離切替ボタンB7の入力が行われると、ソレノイドアクチュエータ56の作動により中押さえ29を分離状態と連動状態とする切り替えが交互に行われる。
つまり、分離切替ボタンB7は中押さえ分離手段であるソレノイドアクチュエータ56による状態切り替えを実行させる第一の入力手段として機能する。
分離制御プログラム70dは、データ入力画面G1又は編集画面G2の表示状態において、分離切替ボタンB7の入力により、ソレノイドアクチュエータ56が分離状態又は連動状態に切り替えられる際には、ソレノイドアクチュエータ56の現在の作動状態がデータメモりに記憶され、次回の分離切替ボタンB7の入力の際に参照されると共に、現在の状態とは逆の状態に切り替える動作制御が行われる。
【0058】
分離制御プログラム70dによる分離制御を行う処理を図18のフローチャートにより説明する。
分離制御を行う処理では、データ入力画面G1又は編集画面G2が操作パネル74に表示された状態において、分離切替ボタンB7の入力が判定され(ステップS31)、入力が検出されるとデータメモリ71の現在の作動状態が参照される(ステップS32)。
【0059】
そして、現在の状態が連動状態の場合には(ステップS32:YES)、データメモリ71の現在の作動状態が分離状態に書き換えられて(ステップS33)、ソレノイドアクチュエータ56が前進方向に動作して中押さえ29が分離状態に切り替える動作制御が行われて、処理が終了する(ステップS34)。
【0060】
また、現在の状態が分離状態の場合には(ステップS32:NO)、データメモリ71の現在の作動状態が連動状態に書き換えられて(ステップS35)、ソレノイドアクチュエータ56が後退方向に動作して中押さえ29が連動状態に切り替える動作制御が行われて、処理が終了する(ステップS36)。
【0061】
(上下位置切替プログラムによる上下位置切替制御)
上下位置切替プログラム70eは、データ入力画面G1又は編集画面G2において表示される上下位置切替ボタンB8の入力により中押さえ29を使用位置と退避位置との間で切り替える動作制御を行うためのプログラムである。
かかる上下位置切替ボタンB8の入力が行われると、中押さえモータ42の駆動により中押さえ29を使用位置と退避位置とする切り替えが交互に行われる。そして、中押さえ29を使用位置に切り替えるとこれに伴いソレノイドアクチュエータ56が作動して分離状態への切り替えが行われ、中押さえ29を退避位置に切り替えるとこれに伴いソレノイドアクチュエータ56が作動して連動状態への切り替えが行われる。
つまり、上下位置切替ボタンB8は、中押さえ29の位置切り替え及び中押さえ分離手段であるソレノイドアクチュエータ56による状態切り替えを実行させる第二の入力手段として機能する。
上下位置切替プログラム70eは、データ入力画面G1又は編集画面G2の表示状態において、上下位置切替ボタンB8の入力により、ソレノイドアクチュエータ56及び中押さえモータ42の状態切り替えが行われる際には、中押さえ29の現在の位置状態がデータメモりに記憶され、次回の上下位置切替ボタンB8の入力の際に参照されると共に、現在の状態とは逆の状態に切り替える動作制御が行われる。
【0062】
上下位置切替プログラム70eによる上下位置切替制御を行う処理を図19のフローチャートにより説明する。
上下位置切替制御を行う処理では、データ入力画面G1又は編集画面G2が操作パネル74に表示された状態において、上下位置切替ボタンB8の入力が判定され(ステップS41)、入力が検出されるとデータメモリ71の現在の位置状態が参照される(ステップS42)。
【0063】
そして、現在の状態が退避位置状態の場合には(ステップS42:YES)、中押さえモータ42の駆動により中押さえ29を使用位置に切り替える動作制御が行われる(ステップS43)。
さらに、データメモリ71の現在の位置状態が使用位置状態に書き換えられて(ステップS44)、ソレノイドアクチュエータ56が前進方向に動作して中押さえ29が分離状態に切り替える動作制御が行われて、処理が終了する(ステップS45)。
【0064】
また、現在の状態が使用位置状態の場合には(ステップS42:NO)、中押さえモータ42の駆動により中押さえ29を退避位置に切り替える動作制御が行われる(ステップS46)。
さらに、データメモリ71の現在の位置状態が退避位置状態に書き換えられて(ステップS47)、ソレノイドアクチュエータ56が後退方向に動作して中押さえ29が連動状態に切り替える動作制御が行われて、処理が終了する(ステップS48)。
【0065】
(中押さえ高さ設定プログラムによる中押さえ高さ設定処理)
中押さえ高さ設定プログラム70fは、操作パネル74により表示される中押さえ高さ設定画面G3(図15)により縫製パターンデータ71aに対して中押さえ高さコマンドを付加する処理を行うためのプログラムである。
前述した編集プログラム70cの実行によりいずれかの針落ち点の選択が行われている状態で、編集画面G2に表示された中押さえ設定ボタンB9の入力が検出されると、中押さえ高さ設定プログラム70fが実行されて、中押さえモータ42が駆動されて中押さえ29が使用位置に切り替えられると共にソレノイドアクチュエータ56を作動させて分離状態に切り替える動作制御が実行される。
つまり、編集プログラム70cの実行によりCPU73は切り替え制御手段として機能することとなる。
また、中押さえ高さ設定プログラム70fの実行に伴い、操作パネル74に中押さえ高さ設定画面G3の表示が行われる。
この中押さえ高さ設定画面G3では、中押さえ高さの数値入力キーB10と、数値増減キーB11と、エンターキーB12と、キャンセルキーB13とが表示され、数値入力キーB10又は数値増減キーB11により中押さえ高さが入力される。
また、エンターキーB12の入力により、設定された中押さえ高さのコマンドが編集プログラム70cの実行により選択が行われていた針落ち点の縫いコマンドの次のコマンドとして挿入され、データメモリ71内の縫製パターンデータ71aが更新される処理が行われる。
【0066】
中押さえ高さ設定プログラム70fによる中押さえ高さ設定処理を図20のフローチャートにより説明する。
中押さえ高さ設定処理では、編集画面G2が操作パネル74に表示された状態において、中押さえ設定ボタンB9の入力が判定され(ステップS51)、入力が検出されると、中押さえモータ42の駆動により中押さえ29を使用位置に切り替える動作制御が行われる(ステップS52)。
さらに、データメモリ71の現在の作動状態が分離状態に書き換えられて(ステップS53)、ソレノイドアクチュエータ56が前進方向に動作して中押さえ29が分離状態に切り替える動作制御が行われる(ステップS54)。
【0067】
次いで、操作パネル74に中押さえ高さ設定画面G3の表示が行われ(ステップS55)、エンターキーB12又はキャンセルキーB13の入力が判定される(ステップS56)。
そして、エンターキーB12又はキャンセルキーB13のいずれの入力も検出されない場合には(ステップS56:NO)、数値入力キーB10又は数値増減キーB11の入力が判定される(ステップS57)。そして、入力がなければステップS56に処理が戻され、入力が検出されれば、中押さえモータ42が駆動されて入力に対応した下死点高さとなるように中押さえ29の高さ調節動作が実行されると共に、その高さ設定値が一時的にデータメモリ71に記憶される(ステップS58)。
【0068】
エンターキーB12又はキャンセルキーB13の入力が検出された場合には(ステップS56:YES)、エンターキーB12の場合には一時的にデータメモリ71に記憶された高さ設定値が縫製パターンデータ71aに挿入されてステップS59に処理が進められ、キャンセルキーB13の場合にはそのままステップS59に処理が進められる。
【0069】
そして、ステップS59では、データメモリ71の現在の作動状態が連動状態に書き換えられ、ソレノイドアクチュエータ56が後退方向に動作して中押さえ29が連動状態に切り替える動作制御が行われ、処理が終了される(ステップS60)。
【0070】
(電子サイクルミシンの効果)
このように、本発明に係るミシン100は、中押さえ分離手段であるソレノイドアクチュエータ56を作動させることで、中押さえ29を案内部材34、第3リンク20、第4リンク22及び中押さえモータ42等からなる中押さえ高さ調整手段で設定された下死点高さに保持しつつ針上下動機構との連動を解除した分離状態とすることができるので、縫い針108を下降させることなく中押さえ29のみを下死点位置にすることができ、縫い針108の取り外し等の作業を不要として中押さえ29の下死点位置確認における作業負担を軽減することが可能となる。
【0071】
特に、電子サイクルミシン100にあっては縫製パターンデータ71aの設定入力作業時において、中押さえ29を設定下死点高さに下降させて高さ確認をしながら当該縫製パターンデータ71aの内容確認、データ修正などの編集作業を行う必要性が有り、そのような場合に、中押さえ29の分離状態への切り替えが可能となるため、その作業性を飛躍的に向上することが可能となる。
【0072】
(その他)
なお、上記電子サイクルミシン100では、枠移動を直交するX−Y方向について行っているが、これに限定されるものではなく、回動角度と回動半径とを変動させるいわゆるR−θ系の移動機構を使用してもよい。
また、その他、具体的な細部構造等についても適宜に変更可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明にかかるミシンを示す斜視図である。
【図2】本発明にかかるミシンの保持枠や中押さえの近傍を示す拡大斜視図である。
【図3】中押さえ機構の中押さえ高さ調節前の側面図である。
【図4】中押さえ機構の分解斜視図である。
【図5】中押さえ機構の他の分解斜視図である。
【図6】中押さえ調節腕の周囲の拡大図である。
【図7】中押さえの退避機構(退避前)を説明する側面図である。
【図8】中押さえの退避機構(退避中)を説明する側面図である。
【図9】中押さえの退避機構(退避後)を説明する側面図である。
【図10】中押さえ機構の中押さえ高さ調節後の側面図である。
【図11】ミシンの制御装置を示すブロック図である。
【図12】ミシンにおける縫製パターンデータを示す説明図である。
【図13】データ入力画面の表示例である。
【図14】編集画面の表示例である。
【図15】中押さえ高さ設定画面の表示例である。
【図16】データ入力処理を示すフローチャートである。
【図17】編集処理を示すフローチャートである。
【図18】分離制御を行う処理を示すフローチャートである。
【図19】上下位置切替制御を行う処理を示すフローチャートである。
【図20】中押さえ高さ設定処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0074】
1 中押さえ機構
2a 主軸モータ
29 中押さえ
111 保持枠(布保持部)
76a X軸モータ
77a Y軸モータ
6 揺動軸
7 中押さえ調節腕(アーム部材)
7a 溝カム
8 第1リンク(伝達部材)
11 第2リンク(伝達部材)
13 位置決めリンク(伝達部材)
20 第3リンク(伝達部材)
22 第4リンク(伝達部材)
29 中押さえ
42 中押さえモータ
45 中押さえ昇降カム
45a 維持部
45b 変化部
46 中押さえ上げ部材
51 リンクストッパ
56 ソレノイドアクチュエータ
70 プログラムメモリ
70a 縫製プログラム
70b データ入力プログラム(データ入力手段)
70c 編集プログラム(切り替え制御手段)
70d 分離制御プログラム
70e 上下位置切替プログラム
70f 中押さえ高さ設定プログラム
71 データメモリ(記憶手段)
71a 縫製パターンデータ
1000 制御装置(動作制御手段)
B7 分離切替ボタン
B8 上下位置切替ボタン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
縫い針を上下動させる針上下動機構と、
布保持部に保持された被縫製物と前記縫い針とを当該縫い針の上下動方向と交差する方向に相対的に位置決めする位置決め手段と、
前記針上下動機構と連動し、上方から前記被縫製物を押さえる中押さえを前記縫い針と同期して上下動させる中押さえ機構と、
前記中押さえ機構の中押さえの下死点高さを調整する中押さえ高さ調整手段と、を備え、
前記中押さえ機構は、前記針上下動機構との連動状態と、前記中押さえを下死点高さに保持しつつ前記針上下動機構との連動を解除した分離状態とを切り替える中押さえ分離手段を有することを特徴とするミシン。
【請求項2】
前記中押さえ機構は、前記針上下動機構と同期して往復回動を行うアーム部材と、当該アーム部材の回動部位に連結されて前記中押さえに上下動動作を伝達する伝達部材とを備え、
前記中押さえ分離手段は、前記アーム部材における伝達部材との連結部位を回動中心位置に移動させることで前記分離状態に切り替えを行うことを特徴とする請求項1記載のミシン。
【請求項3】
入力操作により、前記中押さえ分離手段による状態切り替えを実行させる第一の入力手段を備えることを特徴とする請求項1又は2記載のミシン。
【請求項4】
前記中押さえに対して、縫製を行わない退避位置への上昇と縫製を実行するための使用位置への下降により位置切り替えを行う中押さえ退避機構と、
入力操作により、前記中押さえ退避機構による位置切り替え及び前記中押さえ分離手段による状態切り替えを実行させる第二の入力手段とを備え、
前記第二の入力手段からの入力操作により、前記中押さえ退避機構による使用位置への下降に伴って前記中押さえ分離手段による分離状態への切り替えが行われることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のミシン。
【請求項5】
複数の運針による一連の縫製について、各針ごとの前記被縫製物と前記縫い針との相対位置を示す縫製パターンデータを記憶する記憶手段と、
前記記憶手段に記憶されている縫製パターンデータに基づいて前記位置決め手段の動作制御を行う動作制御手段と、
前記縫製パターンデータの各針ごとの前記被縫製物と前記縫い針との相対位置を設定入力するデータ入力手段とを備えることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のミシン。
【請求項6】
前記縫製パターンデータは、前記中押さえ高さ調整手段による下死点高さの設定を含み、
前記データ入力手段により前記下死点高さの設定を行う際に、前記中押さえ分離手段により前記分離状態に切り替えを行う切り替え制御手段を備えることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のミシン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2008−86370(P2008−86370A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−267544(P2006−267544)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000003399)JUKI株式会社 (1,557)
【Fターム(参考)】