説明

メカニカルスナッバ

【課題】緩やかな運動は拘束せず、速い運動には拘束力を生じさせ、大きな減衰力を得るメカニカルスナッバを提供する。
【解決手段】被支持対象である構造物を支持するメカニカルスナッバであって、構造物から軸方向の力を受けて直線運動をする直線運動部1,2と、直線運動部1,2に接続され、直線運動を回転運動に変換する回転運動部3,4と、直線運動部1,2の直線運動が所定速度に達すると、回転力伝達手段12により回転運動部3,4と接続される弾塑性ダンパ5を備え、回転運動部3,4と弾塑性ダンパ5が接続されると、弾塑性ダンパ5の弾塑性部材9が回転運動部3,4の回転運動によって変形して回転運動部3,4の回転力を減衰するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば配管、ポンプなどの機器構造物を支持するためのメカニカルスナッバに関する。
【背景技術】
【0002】
一般にメカニカルスナッバは、ボールねじ、ボールナット、フライホイール、およびディスクブレーキなどの機械部品で構成されており、熱膨張などの緩やかな運動に対しては追従する一方、地震などの速い運動に対しては拘束力を生じさせる特性を兼ね備えている。これは、緩やかな運動に対しては、メカニカルスナッバの軸方向に働く力が、ボールナットを介してボールねじの回転運動に変換されて緩やかに追従する一方、速い運動に対しては、ボールねじの端部に設置されたフライホイールの回転慣性力によって、機器構造物の運動に対して拘束力を発揮するためである。
【0003】
また、メカニカルスナッバは、金属部品のみで構成され、作動油を必要としないことから、油圧制振器を使用することが困難な高温雰囲気下や放射線影響下で、配管をはじめとする機器構造物の耐震支持装置として従来から使用されている。
【0004】
さらに、このメカニカルスナッバの拡張技術としては、運動に対する拘束力に加え、減衰力を与える方法が提案されている。例えば、特許文献1に記載された技術では、メカニカルスナッバのフライホイール部分に導電性材料を用いた複数枚の円盤を配置している。一方、フライホイールを収納するケース側には、相異なる磁極同士の磁石が上記導電体材料の円盤を挟んで対向するように配置された構造である。したがって、上記特許文献1に記載された技術では、誘導電流を利用することにより、直線運動の速度に比例する制動力を得る減衰装置が提案されている。この技術によれば、磁石の配置などを変化させることにより、得られる制動力を調整することができる。
【0005】
また、非特許文献1に記載された技術では、フライホイールと直流(DC)モータとを組み合せ、上記フライホイールによって慣性力を発生させ、発電機によって減衰力を制御する装置が提案されている。この技術によれば、発電機端子間の負荷抵抗の値を任意に変化させるための可変負荷抵抗装置を介することで、減衰力を制御することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2986414号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】“受動・準能動の双方に適応可能な電磁抵抗型制振装置”,砂子田勝昭ら,日本機械学会論文集(C編)75巻758号(2009年10月発行),pp.2659−2664
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、配管系などの機器構造物に対してより制振性能の高い耐震支持構造物が求められている。比較的容量の大きい制振装置としては、鋼材の弾塑性履歴による減衰を利用した弾塑性ダンパがあり、この弾塑性ダンパは、建築構造物の耐震対策に広く適用されている。
【0009】
しかしながら、一般の弾塑性ダンパは、熱変形などの緩やかな運動に対して拘束力が生じるため、熱変形を有する配管系などの機器構造物にそのまま適用することはできない。
【0010】
本発明は上述した事情を考慮してなされたものであり、緩やかな運動は拘束せず、速い運動には拘束力を生じさせ、大きな減衰力を得るメカニカルスナッバを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明に係るメカニカルスナッバは、被支持対象である構造物を支持するメカニカルスナッバであって、前記構造物から軸方向の力を受けて直線運動をする直線運動部と、前記直線運動部に接続され、前記直線運動を回転運動に変換する回転運動部と、前記直線運動部の直線運動が所定速度に達すると、回転力伝達手段により前記回転運動部と接続される弾塑性ダンパを備え、前記回転運動部と前記弾塑性ダンパが接続されると、前記弾塑性ダンパの弾塑性部材が前記回転運動部の回転運動によって変形して前記回転運動部の回転力を減衰するように構成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、機器構造物の熱変形のような緩やかな運動に対しては拘束力を発揮せず、比較的大きな地震動に対しては大きな制振力を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るメカニカルスナッバの第1実施形態を示す縦断面図である。
【図2】図1の弾塑性ダンパを示す拡大正面図である。
【図3】図2の平面図である。
【図4】図1のA−A線において動力遮断時の状態を示す断面図である。
【図5】図1のA−A線において動力伝達時の状態を示す断面図である。
【図6】本発明に係るメカニカルスナッバの第1実施形態の変形例を示す縦断面図である。
【図7】第1実施形態における弾塑性ダンパの変形例を示す正面図である。
【図8】図7の平面図である。
【図9】本発明に係るメカニカルスナッバの第2実施形態を示す縦断面図である。
【図10】本発明に係るメカニカルスナッバの第3実施形態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係るメカニカルスナッバの各実施形態について、図面を参照して説明する。
【0015】
(第1実施形態)
(構 成)
図1は本発明に係るメカニカルスナッバの第1実施形態を示す縦断面図である。図2は図1の弾塑性ダンパを示す拡大正面図である。図3は図2の平面図である。図4は図1のA−A線において動力遮断時の状態を示す断面図である。図5は図1のA−A線において動力伝達時の状態を示す断面図である。なお、以下の説明では、各実施形態のメカニカルスナッバを横方向に設置し、ロードコラム1側を先端(右)側とし、弾塑性ダンパ5側を後端(左)側として説明する。
【0016】
図1に示すように、本実施形態のメカニカルスナッバは、配管、ポンプなどの制振被支持対象である機器構造物(図示せず)と、サポートをとる固定壁などの支持構造物(図示せず)との間に配置される。すなわち、本実施形態のメカニカルスナッバは、一端が上記機器構造物に接続され、他端が上記支持構造物に接続される。
【0017】
上記機器構造物側には、本実施形態のメカニカルスナッバの稼動部が配置される。この稼動部は、上記機器構造物の振動を伝達するロードコラム1と、このロードコラム1の端部に配置されたボールナット2とを備えている。これらロードコラム1およびボールナット2は、直線運動部を構成する。このボールナット2は、図示しないボールベアリングを介して回転自在にボールねじ3に螺合しており、ロードコラム1の直線運動は、ボールナット2を介してボールねじ3の回転運動に変換される。このボールねじ3から同軸状に延びる軸3aは、ハウジング8内において左右2箇所に固定されたボールベアリング7,7に支持されており、その軸3aの右側にフライホイール4が配置されている。これらボールねじ3およびフライホイール4は、回転運動部を構成する。
【0018】
ハウジング8内には、ボールベアリング7,7間において、右側から順にフライホイール4、回転力伝達手段としての遠心クラッチ12、回転側の円盤10、弾塑性ダンパ5および固定側の円盤11が直列に接続されている。この弾塑性ダンパ5は、固定側の円盤11を介してハウジング8に固定されている。
【0019】
弾塑性ダンパ5は、図2および図3に示すように回転側の円盤10および固定側の円盤11の中央にそれぞれボールねじ3の軸3aが挿通する孔10a,11aが形成され、その周囲に複数本(本実施形態では8本)の円柱棒状の弾塑性部材9が周方向に一定間隔をおいて円形に配置されている。なお、図2では、判り易くするため弾塑性部材9に砂目模様を施している。
【0020】
これらの弾塑性部材9は、その両端をそれぞれ金属板からなる回転側の円盤10および固定側の円盤11で挟んで固定されている。各弾塑性部材9は、一本ずつ交換可能な構造であり、図示しないが弾塑性部材9の本数の増減が可能となるように、弾塑性部材9を結合する回転側の円盤10および固定側の円盤11に十分な本数の取付部分(図示せず)が予め作製されている。
【0021】
ここで、弾塑性部材9の材料としては、例えば極軟鋼、鉛および亜鉛アルミニウム合金などのように延性の良好な材料が望ましく、鋼材や鉛材は、添加物が少ないものが用いられる。上記亜鉛アルミニウム合金は、結晶粒を調整して延性を良好にしているものが用いられる。
【0022】
また、上記のようにフライホイール4と弾塑性ダンパ5との間には、回転力伝達手段としての遠心クラッチ12が配置されている。この遠心クラッチ12は、フライホイール4と弾塑性ダンパ5との間で回転力の伝達をコントロールし、フライホイール4から弾塑性ダンパ5への回転力の伝達および遮断を可能にしている。すなわち、遠心クラッチ12は、ロードコラム1の直線運動が所定速度に達すると、フライホイール4から弾塑性ダンパ5へ回転力が伝達される一方、ロードコラム1の直線運動が所定速度に達しない場合は、フライホイール4から弾塑性ダンパ5へ回転力が伝達されないこととなる。
【0023】
遠心クラッチ12は、図4および図5に示すようにフライホイール4の後端(左)側に設置された動力伝達側のクラッチ板13を備えている。このクラッチ板13には、摩擦抵抗の大きい材料で作製されるクラッチシュー14が周方向に複数個(本実施形態では4個)配置されるとともに、半径方向に開閉可能に固定されている。
【0024】
クラッチシュー14とクラッチ板13とは、ばね16で接続されており、クラッチシュー14は、フライホイール4が回転していない場合、図4に示すようにばね16によりボールねじ3の軸心方向に引き寄せられている。クラッチシュー14の外周部には、動力を受ける側のクラッチアウター15が配置され、このクラッチアウター15は、弾塑性ダンパ5の回転側の円盤10と一体となるように固定されている。
【0025】
また、クラッチシュー14は、フライホイール4が回転している場合、図5に示すように遠心力が作用し、徐々に半径方向に開いて、クラッチアウター15に接触することとなる。
【0026】
(作 用)
このように構成された本実施形態では、通常運転時、機器構造物の熱変形の緩やかな運動に対し、あるいはフライホイール4の回転慣性で吸収可能な比較的小さな地震動に対して、つまりロードコラム1の直線運動が所定速度に達しない場合は、遠心クラッチ12が回転力を伝達しない状態を維持する。一方、ロードコラム1の直線運動が所定速度に達した場合は、遠心クラッチ12が弾塑性ダンパ5に回転力を伝達する状態となり、その弾塑性ダンパ5による弾塑性変形の減衰が働く。
【0027】
ここで、遠心クラッチ12は、フライホイール4が回転することにより、その回転速度に応じてクラッチシュー14に遠心力が作用し、このクラッチシュー14が徐々に半径方向に開いて、図5に示すようにクラッチアウター15に接触する。この状態でクラッチシュー14からの摩擦を介してクラッチアウター15に動力が伝達され、このクラッチアウター15と一体構造である弾塑性ダンパ5の回転側の円盤10が回転し始める。すると、弾塑性ダンパ5の弾塑性部材9が、回転側の円盤10と固定側の円盤11の間でねじれるように変形し、減衰効果を得ることとなる。
【0028】
また、フライホイール4の回転速度が遅くなれば、クラッチシュー14に働く遠心力が小さくなり、ばね16の復元力によってクラッチシュー14が閉じて、図4に示すようにボールねじ3の軸心方向に引き寄せられてクラッチアウター15との接触状態が解除され、弾塑性ダンパ5への回転力の伝達が停止する。
【0029】
また、本実施形態は、弾塑性部材9を個別に交換可能な構造であり、その本数を任意に増減することが可能であり、弾塑性ダンパ5を分解し、弾塑性部材9を任意の本数だけ交換することも可能である。
【0030】
(効 果)
このように本実施形態によれば、機器構造物の熱変形のような緩やかな運動に対しては拘束力を発揮せず、地震動などの速い運動に対してはフライホイール4の回転慣性により制振力を発揮するメカニカルスナッバの特性を備え、比較的大きな地震動に対しては弾塑性ダンパ5の回転方向の弾塑性変形を利用して一段と大きな制振力を付与することができる。
【0031】
すなわち、本実施形態によれば、制振対象物である機器構造物が地震動を受け、ロードコラム1の軸方向へ所定速度より速い運動が生じた場合には、フライホイール4の回転速度が速くなるとともに、クラッチシュー14に働く遠心力が大きくなり、クラッチシュー14がクラッチアウター15と接触して回転力が弾塑性ダンパ5に伝達され、弾塑性部材9の大きな減衰効果を得ることができる。
【0032】
また、地震動が終了した時点で、ロードコラム1の軸方向への直線運動が停止し、フライホイール4の回転速度が遅くなるとともに、クラッチシュー14に働く遠心力が小さくなり、弾塑性ダンパ5への回転力の伝達は自動的に遮断され、元来の熱変形の緩やかな運動を拘束しないメカニカルスナッバの特性へ戻る。したがって、本実施形態によれば、受動的に、慣性質量による拘束力と弾塑性材料の減衰力との切り替えを行うことができる。
【0033】
さらに、本実施形態によれば、作動油を使用しないので、シールの問題がなく、放射線影響下における作動油の劣化の問題も回避することができる。
【0034】
また、本実施形態によれば、電力などを用いたアクティブな制御が不要であるため、構造を簡素化するとともに、信頼性の高い作動が可能となる。
【0035】
そして、本実施形態によれば、弾塑性部材9は、一本ずつ交換可能な構造を有し、その本数の増減が可能としたことから、1回または複数回の地震動を受けた後に、弾塑性部材9を交換することができる。また、弾塑性部材9の本数の増減、あるいは材質の変更により減衰力を調整することが可能となる。
【0036】
(第1実施形態の変形例)
図6は本発明に係るメカニカルスナッバの第1実施形態の変形例を示す縦断面図である。なお、前記第1実施形態と同一の部分には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。その他の実施形態および変形例も同様とする。
【0037】
前記第1実施形態の弾塑性ダンパ5は、フライホイール4および遠心クラッチ12と直列に配置するようにしたが、本変形例の弾塑性ダンパ5は、図6に示すようにクラッチアウター15の外周に弾塑性部材9が周方向に一定間隔をおいて放射状に複数配置されている。
【0038】
具体的には、弾塑性ダンパ5の弾塑性部材9は、その両端をそれぞれ小径および大径の金属環からなる回転側の円環10Aおよび固定側の円環11Aで挟んで放射状に固定されている。すなわち、固定側の円環11Aは、回転側の円環10Aより大径に形成され、同心状に配置されている。各弾塑性部材9の一端は、回転側の円環10Aを介して遠心クラッチ12のクラッチアウター15の外周に固定されている。また、各弾塑性部材9の他端は、固定側の円環11Aを介してハウジング8に固定されている。
【0039】
このように構成された本変形例では、ロードコラム1の直線運動が所定速度に達した場合は、遠心クラッチ12を結合状態として弾塑性ダンパ5に回転力を伝達し、その弾塑性部材9の弾塑性変形の減衰を利用する。すなわち、遠心クラッチ12のクラッチシュー14が徐々に半径方向に開いて、クラッチアウター15に接触すると、このクラッチアウター15に動力が伝達され、クラッチアウター15と一体構造である回転側の円環10Aが回転し始める。すると、弾塑性ダンパ5の弾塑性部材9は、回転側の円環10Aと固定側の円環11Aとの間でずれの弾塑性変形が起こり、履歴型弾塑性変形の減衰効果を得ることとなる。
【0040】
このように本変形例によれば、弾塑性ダンパ5の弾塑性部材9は、クラッチアウター15の外周に周方向に一定間隔をおいて配置したことにより、前記第1実施形態と同様に比較的大きな地震動に対しては弾塑性ダンパ5の弾塑性変形を利用して一段と大きな制振力を付与することができる。
【0041】
(弾塑性ダンパの変形例)
図7は第1実施形態における弾塑性ダンパの変形例を示す正面図である。図8は図7の平面図である。
【0042】
前記第1実施形態の弾塑性ダンパ5は、8本の棒状の弾塑性部材9を一定間隔をおいて円形に配置したが、本変形例は、図7および図8に示すように弾塑性部材9aが円筒状に形成されている。
【0043】
弾塑性部材9aの径は、前記第1実施形態で円形に配置した弾塑性部材9とほぼ同じ径である。また、弾塑性部材9aは、その両端をそれぞれ金属板からなる回転側の円盤10および固定側の円盤11で挟んで固定されている。
【0044】
したがって、弾塑性部材9aは、ロードコラム1の直線運動が所定速度に達した場合は、遠心クラッチ12を結合状態として弾塑性ダンパ5に回転力を伝達し、その弾塑性ダンパ5の弾塑性部材9aでは、回転側の円盤10と固定側の円盤11との間でねじれの弾塑性変形が起こり、履歴型弾塑性変形の減衰効果を得ることとなる。
【0045】
このように弾塑性部材9aによれば、円筒状に形成されていることから、前記第1実施形態のように複数の棒状の弾塑性部材9を円形に配置することがなくなるため、弾塑性ダンパ5の組立工数を削減することができる。
【0046】
(第2実施形態)
(構 成)
図9は本発明に係るメカニカルスナッバの第2実施形態を示す縦断面図である。
【0047】
前記第1実施形態は、回転力伝達手段として遠心クラッチ12を用いたが、本実施形態は、回転力伝達手段としてブレーキドラム、リターンスプリング、回転伝達球などを用いている。
【0048】
図9に示すように、ボールねじ3から同軸状に延びる軸3aは、その右側にフライホイール4が配置されている。このフライホイール4の左側面には、円錐状の穴4aが複数形成され、これらの円錐状の穴4aに回転伝達球20の右半球分が収容されている。さらに、フライホイール4の左側面にはブレーキドラム21が、フライホイール4の右側面に配置されたリターンスプリング22を介して固定されている。
【0049】
このブレーキドラム21の右側面にも、フライホイール4の円錐状の穴4aと対向するように回転伝達球20を収容するための円錐状の穴21aが複数形成されており、これらの穴21aは、フライホイール4に形成された穴4aで右半球分が収納された回転伝達球20の左半球分を収納する。ブレーキドラム21は、リターンスプリング22によってフライホイール4に押し付けられながら、回転伝達球20を介してフライホイール4と連動する。
【0050】
さらに、ブレーキドラム21の左側面には、弾塑性ダンパ5の回転側の円盤10が対向するように設置されている。この弾塑性ダンパ5は、固定側の円盤11を介してハウジング8に固定されている。なお、ブレーキドラム21の左側面と回転側の円盤10とは、ブレーキドラム21が左方向に移動することにより、互いに噛み合うようにして連結可能に構成されている。
【0051】
(作 用)
このように構成された本実施形態のメカニカルスナッバにおいては、通常運転時、機器構造物の熱変形の緩やかな運動に対し、あるいはフライホイール4の回転慣性で吸収可能な比較的小さな地震動に対して、つまりロードコラム1の直線運動が所定速度に達しない場合は、ロードコラム1を介してボールナット2の直線運動の変位となる。この直線運動の変位は、ボールねじ3によって回転運動の変位に変換される。この回転運動による変位は、ボールねじ3の端部に接続されたフライホイール4およびフライホイール4に連動してブレーキドラム21にも伝達される。
【0052】
一方、地震などによる急激で大きな振動でロードコラム1の直線運動が所定速度に達し、より大きな振動に対して制振力を高める必要がある場合は、瞬間的に大きな変位が生じ、この急激な変位はボールナット2を介してボールねじ3にも伝達される。したがって、ボールねじ3に接続されるフライホイール4も急激に回転しようとする。
【0053】
しかしながら、ブレーキドラム21は、リターンスプリング22による押し付け力と回転伝達球20の摩擦力によってフライホイール4に連結されているので、それを越える急激な回転力がフライホイール4に加わると、フライホイール4の穴4aとブレーキドラム21の穴21aとの位置がずれるため、回転伝達球20が円錐状の穴4a,21aから乗り上げようとして、フライホイール4の左側面とブレーキドラム21の右側面との間を広げる。
【0054】
その結果、ブレーキドラム21は、図9において左方向に移動し、回転側の円盤10に連結される。すると、回転側の円盤10が回転し始め、弾塑性ダンパ5の弾塑性部材9では、回転側の円盤10と固定側の円盤11の間でねじれの弾塑性変形が起こり、履歴型弾塑性変形の減衰効果を得ることとなる。
【0055】
また、振動が停止し、ロードコラム1の直線運動が所定速度に達しなくなった場合は、リターンスプリング22の復元力により、ブレーキドラム21の回転側の円盤10への連結が解除される。
【0056】
(効 果)
このように本実施形態によれば、前記第1実施形態と同様に、機器構造物の熱変形のような緩やかな運動に対しては拘束力を発揮せず、比較的大きな地震動に対しては弾塑性ダンパ5の回転方向の弾塑性変形を利用して一段と大きな制振力を付与することができる。
【0057】
(第3実施形態)
(構 成)
図10は本発明に係るメカニカルスナッバの第3実施形態を示す縦断面図である。
【0058】
前記第1実施形態では遠心クラッチ12を使用したが、本実施形態では、遠心クラッチ12に代えて、回転力伝達手段として作動油を必要としない乾式摩擦クラッチや電磁クラッチなどのクラッチ25を使用し、このクラッチ25に外部から操作命令信号を発信し、何らかの外力を加えることにより、クラッチ25の回転力の伝達および回転力の伝達の解除を行う構造としている。
【0059】
図10に示すように、本実施形態のクラッチ25の操作命令信号は、例えば次に挙げる計測データに基づいて発信する。すなわち、クラッチ25の操作命令信号は、制振対象物が設置されている建屋あるいはその周囲に地震計26を設置し、この地震計26の計測データである。
【0060】
なお、上記計測データは、地震計26の計測値そのものであるところの、建屋基礎部の応答加速度や応答速度であってもよいし、あるいは地震計26の値に基づいて計算機によりリアルタイムで処理された機器構造物の応答加速度や機器構造物と建屋との相対変位であってもよい。
【0061】
また、地震計26により計測された計測データは、制御部27に発信される。この制御部27では、地震発生時に地震計26により計測された地震動の波形を分析し、ある閾値以上に達したならば、クラッチ25の結合の命令信号を発信し、地震動が収束したならば、クラッチ25の回転力の伝達を解除する命令信号を発信する。
【0062】
(作 用)
このように構成された本実施形態において、制御部27は、地震発生時に地震計26により観測された地震動の波形を分析し、ある閾値以上に達したならば、クラッチ25の結合の命令信号を発信し、地震動が収束したならば、クラッチ25の回転力の伝達を解除する命令信号を発信する。
【0063】
(効 果)
このように本実施形態によれば、制振対象物である各々の機器構造物に適合した閾値を決定することにより、能動的に慣性質量による拘束力と弾塑性材料の減衰力との切り替えを行うことができる。
【0064】
(第3実施形態の変形例)
次に、本発明に係るメカニカルスナッバの第3実施形態の変形例について説明する。なお、本変形例は、図示を省略している。
【0065】
前記第3実施形態では、地震計26の計測データを用いるようにしたが、本変形例では、例えばフライホイール4の回転運動の回転速度を回転速度計測装置により計測した計測データや、ロードコラム1あるいはボールナット2の直線運動の移動速度を移動速度計測装置により計測した計測データを用いるようにしている。
【0066】
したがって、本変形例では、フライホイール4の回転運動の回転速度や、ロードコラム1あるいはボールナット2の移動速度がある閾値以上に達したならば、制御部27は、クラッチ25の回転力を伝達する命令信号を発信し、また上記速度がある閾値未満に戻ったならば、クラッチ25の回転力の伝達を解除する命令信号を発信するようにしている。
【0067】
このように本変形例によれば、メカニカルスナッバに作用する軸方向の力を、フライホイール4の回転運動や、ロードコラム1あるいはボールナット2の直線運動によって間接的に検知し、能動的に慣性質量による拘束力と弾塑性材料の減衰力との切り替えを行うことができる。
【0068】
(第4実施形態)
(構 成)
次に、本発明に係るメカニカルスナッバの第4実施形態を説明する。なお、本実施形態も図示を省略している。
【0069】
本実施形態は、前記第1実施形態のメカニカルスナッバにおいて、クラッチ12と、弾塑性ダンパ5の回転側の円盤10との間に減速機および増速機の双方の機能を有する調整機を設けている。
【0070】
(作 用)
このように構成された本実施形態において、フライホイール4の回転速度が速すぎれば、減速機としての機能を有する上記調整機により減速され、遅すぎれば増速機としての機能を有する上記調整機により増速されることにより、回転速度をある一定値に維持して弾塑性ダンパ5に回転力が伝達されるようにしている。
【0071】
(効 果)
このように本実施形態によれば、機器構造物の地震応答で様々に変化するフライホイール4の回転速度に依存することなく、弾塑性ダンパ5が最も減衰力を発揮できる速度で回転力を伝達することができる。
【0072】
なお、本発明は上記各実施形態に限定されることなく、各実施形態を組み合せ、また種々の変更が可能である。上記各実施形態では、メカニカルスナッバを横方向に設置した場合について説明したが、勿論あらゆる方向に設置することができる。
【0073】
また、図7および図8に示す弾塑性ダンパの変形例では、円筒状に形成された弾塑性部材9aを一つ設けた例について説明したが、これに限らず、例えば円弧状の弾塑性部材9aを複数用いて一定間隔をおいて円形に配置してもよく、また弾塑性部材9aを同心円状に複数配置し、その数を増減して減衰力を調整することも可能となる。
【符号の説明】
【0074】
1…ロードコラム(直線運動部)
2…ボールナット(直線運動部)
3…ボールねじ(回転運動部)
4…フライホイール(回転運動部)
5…弾塑性ダンパ
7…ボールベアリング
8…ハウジング
9…弾塑性部材
9a…弾塑性部材
10…回転側の円盤
11…固定側の円盤
12…遠心クラッチ(回転力伝達手段)
13…クラッチ板
14…クラッチシュー
15…クラッチアウター
16…ばね
20…回転伝達球
21…ブレーキドラム
22…リターンスプリング
25…クラッチ(回転力伝達手段)
26…地震計
27…制御部(制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被支持対象である構造物を支持するメカニカルスナッバであって、
前記構造物から軸方向の力を受けて直線運動をする直線運動部と、
前記直線運動部に接続され、前記直線運動を回転運動に変換する回転運動部と、
前記直線運動部の直線運動が所定速度に達すると、回転力伝達手段により前記回転運動部と接続される弾塑性ダンパを備え、
前記回転運動部と前記弾塑性ダンパが接続されると、前記弾塑性ダンパの弾塑性部材が前記回転運動部の回転運動によって変形して前記回転運動部の回転力を減衰するように構成されたことを特徴とするメカニカルスナッバ。
【請求項2】
前記直線運動部および前記回転運動部は、前記構造物から軸方向の力を受けて直線運動をするロードコラムと、前記ロードコラムに設置されたボールナットと、前記ボールナットに螺合して前記直線運動を回転運動に変換するボールねじと、前記ボールねじに同軸に接続されて回転するフライホイールと、を有し、
前記弾塑性ダンパは、前記フライホイールの回転運動を弾塑性変形によって減衰させることを特徴とする請求項1に記載のメカニカルスナッバ。
【請求項3】
前記フライホイールと前記弾塑性ダンパとの間に回転力伝達手段が設けられ、この回転力伝達手段は、前記ロードコラムの直線運動が所定速度に達すると、前記フライホイールから前記弾塑性ダンパへ回転力を伝達することを特徴とする請求項2に記載のメカニカルスナッバ。
【請求項4】
前記弾塑性ダンパは、複数本の弾塑性部材の両端を金属板で挟んで固定し、前記弾塑性部材を任意の本数だけ交換可能としたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のメカニカルスナッバ。
【請求項5】
前記弾塑性ダンパは、小径の金属環と大径の金属環との間に複数本の弾塑性部材が放射状に固定されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のメカニカルスナッバ。
【請求項6】
前記弾塑性ダンパは、円筒状に形成された弾塑性部材の両端を金属板で挟んで固定したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のメカニカルスナッバ。
【請求項7】
前記回転力伝達手段と前記弾塑性ダンパとの間に調速機を設け、この調速機は、前記フライホイールから伝達される回転運動の速度を、前記弾塑性ダンパの弾塑性変形による減衰効果の高い速度に調整することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載のメカニカルスナッバ。
【請求項8】
前記回転力伝達手段は、前記フライホイールの回転運動による遠心力を用いて回転力の伝達を行う遠心クラッチであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載のメカニカルスナッバ。
【請求項9】
前記回転力伝達手段は、前記フライホイールに回転伝達球を介して設置されるブレーキドラムを備え、
前記ブレーキドラムは、前記回転伝達球の摩擦力によって前記フライホイールに連結され、
前記ロードコラムの直線運動が所定速度に達すると、前記回転伝達球が前記フライホイールと前記ブレーキドラムとの間隔を広げて前記ブレーキドラムが前記弾塑性ダンパと接続されることを特徴とする請求項2に記載のメカニカルスナッバ。
【請求項10】
前記構造物が設置された建屋に備えられた地震計と、
前記地震計の出力信号がある閾値を超えた場合に前記回転力伝達手段が回転力を伝達するように制御するとともに、前記出力信号に基づいて地震動の終了を識別して前記回転力伝達手段による回転力の伝達を解除するように制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載のメカニカルスナッバ。
【請求項11】
前記フライホイールの回転速度、前記ロードコラムおよび前記ボールナットの移動速度のいずれかを検出する計測装置を備え、前記回転速度、前記移動速度のいずれかが所定の閾値を超えた場合に前記回転力伝達手段が回転力を伝達する一方、前記回転速度、前記移動速度のいずれかが所定の閾値以下に収束した場合に前記回転力伝達手段が回転力の伝達を解除するように制御する制御手段を設けたことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載のメカニカルスナッバ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−36988(P2012−36988A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−178585(P2010−178585)
【出願日】平成22年8月9日(2010.8.9)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】