説明

モータの冷却構造

【課題】外周側に配置されたステータの軸方向長に関わらず、高い冷却能力を有して局部的な温度上昇を抑制できるモータの冷却構造を提供する。
【解決手段】冷却油29が封入されたケース2と、ケース2に軸線AX回りに回転自在に軸承されたロータ3と、ロータ3の外周側に同軸に離隔して配置されケース2に固設されたステータ6とを備えるモータの冷却構造1であって、ロータ3は、軸線AX方向に延在して冷却油が供給される軸方向油路8と、軸方向油路8から分岐してロータ外周面の軸線AX方向に離隔した複数箇所にそれぞれ開口(581)する複数の径方向油路9と、を有する。さらに、ロータ3はシャフト4およびロータコア5で構成され、シャフト4の外周面に刻設された軸方向溝45によって軸方向油路8が形成され、ロータコア5の内部に径方向に穿設された径方向孔(57、58)によって径方向油路9が形成されることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却油を用いたモータの冷却構造に関する。
【背景技術】
【0002】
モータには様々な方式および構造があり、通常ロータおよびステータはコア(鉄心)を備え、少なくとも一方はコイル(巻線)を備える。コアは磁気回路を構成しており、モータ動作時にコア内部でうず電流損やヒステリシス損などの無負荷損が発生する。コイルは電気回路を構成しており、モータ動作時にコイル内部では抵抗損を始めとする負荷損が発生する。無負荷損および負荷損の発生によりモータ内部の温度が上昇するので、冷却の必要が生じる。一般的に、容量の小さなモータでは空気による自然冷却が行われ、容量が或る程度以上になるとケースに封入した冷却油を用いた冷却が行われる。冷却油は、ロータを軸承する軸受部などを潤滑するための潤滑油と共通になっている場合が多い。
【0003】
この種の冷却油を用いたモータの冷却構造の一技術例が特許文献1に開示されている。特許文献1の請求項1には、ロータシャフトおよびコアからなるロータを備え、ロータシャフトが軸方向油路および径方向油路を有し、コアが軸方向油路を有し、ロータシャフトの軸方向油路に油を供給する供給手段が設けられたモータの冷却回路が開示されている。この冷却回路では、3つの油路に順番に冷却油が流れて、ロータが冷却される。請求項2には、さらにロータの径方向外方に配設されて軸方向両端に張り出すコイルエンドを有するステータを備え、ロータのコアの軸方向両端に配設されたプレートにコイルエンドの径方向内側で開口する油孔が形成された構成が開示されている。この構成では、ロータ側のプレートからステータ側のコイルエンドに向けて遠心力の作用により冷却油が供給され、ステータも冷却される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−182375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に開示されたモータの冷却回路では、ロータ側に供給された冷却油をステータにも供給して冷却できる点は好ましいが、ステータ側への冷却油の供給箇所がコイルエンド2箇所に限定されている。このため、ステータの軸方向中間部に冷却油が到達しにくく、特にステータの軸方向長が長い場合に軸方向中間部の冷却性能が不十分になって局部的に過大な温度上昇が発生しがちである。
【0006】
本発明は、上記背景技術の問題点に鑑みてなされたもので、外周側に配置されたステータの軸方向長に関わらず、高い冷却能力を有して局部的な温度上昇を抑制できるモータの冷却構造を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する請求項1に係るモータの冷却構造の発明は、冷却油が封入されたケースと、前記ケースに軸線回りに回転自在に軸承されたロータと、前記ロータの外周側に同軸に離隔して配置され前記ケースに固設されたステータとを備えるモータの冷却構造であって、前記ロータは、軸線方向に延在して前記冷却油が供給される軸方向油路と、前記軸方向油路から分岐してロータ外周面の軸線方向に離隔した複数箇所にそれぞれ開口する複数の径方向油路と、を有する。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1において、前記ロータは、前記軸線上に配置されたシャフト、および前記シャフトの外周に一体的に組み付けられた円筒状のロータコアを含んで構成され、前記シャフトの外周面に軸線方向に刻設された軸方向溝によって前記軸方向油路が形成され、前記ロータコアの内部に径方向に穿設され、内側がコア内周面に開口して前記シャフトの前記軸方向溝に臨み、外側がコア外周面に開口する径方向孔によって前記径方向油路が形成され、前記ステータは、内周側に磁極ティースおよびスロット空間をもつ円筒状のステータコア、および前記スロット空間に導体が配置されたコイルを含んで構成される。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項2において、前記ロータコアは、環状で薄いロータコアプレートが軸線方向に複数枚積層されて構成されており、一部のロータコアプレートは前記コア内周面に開口して前記シャフトの軸方向溝に臨む有底の内側スリット穴を有し、前記一部のロータコアプレートに隣接する別の一部のロータコアプレートは前記コア外周面に開口する有底の外側スリット穴を有し、前記内側スリット穴と前記外側スリット穴とが前記ロータコアの内部で連通して前記径方向孔となり前記径方向油路が形成される。
【0010】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれか一項において、前記軸方向油路における前記冷却油の供給位置と前記複数の径方向油路の分岐位置との各距離に応じ、前記距離が小さいほど当該の径方向油路の断面積を小とし、前記距離が大きいほど当該の径方向油路の断面積を大としている。
【0011】
請求項5に係る発明は、請求項1〜4のいずれか一項において、前記軸方向油路における前記冷却油の供給位置と前記ケース内で前記冷却油が滞留する底部とを連通する吸上げ油路をさらに備え、あるいは、前記軸方向油路における前記冷却油の供給位置と前記ケース内で前記冷却油が滞留する底部とを連通する汲上げ油路、および前記汲上げ油路の途中に配設されたオイルポンプをさらに備える。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係るモータの冷却構造の発明では、ロータは、軸線方向に延在して冷却油が供給される軸方向油路と、軸方向油路から分岐してロータ外周面の軸線方向に離隔した複数箇所にそれぞれ開口する複数の径方向油路と、を有する。このため、ロータが回転すると、軸方向油路に供給された冷却油は、遠心力の作用によって複数の径方向油路を径方向外向きに流出し、ロータ外周面の開口から飛び出して外周側のステータに供給される。したがって、ステータの軸方向長に応じて適当数の径方向油路をロータの軸線方向に離隔して設けることにより、ステータの軸線方向の各所に十分な量の冷却油を供給でき、高い冷却能力を有してステータの局部的な温度上昇を抑制できる。また、ロータも、軸方向油路および複数の径方向油路を流れる冷却油によって良好に冷却される。
【0013】
請求項2に係る発明では、ロータは、シャフトおよびロータコアを含んで構成され、シャフトの外周面の軸方向溝によって軸方向油路が形成され、ロータコアの径方向孔によって径方向油路が形成され、一方、ステータはステータコアおよびコイルを含んで構成される。これにより、ロータの軸方向油路および径方向油路を簡易に形成できるので、部材加工の手間によるコストの増加を抑制できる。また、局部的な温度上昇の発生し易いコイルがステータの内周側に配置されてその複数箇所に直接的に冷却油が供給されるので、高い冷却能力を一層確実にできる。
【0014】
請求項3に係る発明では、ロータコアはロータコアプレートが複数枚積層されて構成されており、一部のロータコアプレートは内側スリット穴を有し、隣接する別の一部のロータコアプレートは外側スリット穴を有し、内側スリット穴と外側スリット穴とが連通して径方向油路が形成される。内側スリット穴および外側スリット穴は、環状のロータコアプレートの径方向の途中までのスリットであるので、プレートの環状形状が維持されており、ロータコアの機械的強度の確保が容易である。また、ロータコアを製造するためのプレートの積層作業の作業性が低下しない。仮に、ロータコアプレートの内周面から外周面にまで達するスリットを形成してプレートを環状形状からC字形状に変更すると、ロータコアの機械的強度が低下しがちであり、積層作業の作業性が低下するおそれも生じる。
【0015】
請求項4に係る発明では、軸方向油路における冷却油の供給位置と径方向油路の分岐位置との距離が小さいほど当該の径方向油路の断面積を小とし、距離が大きいほど当該の径方向油路の断面積を大としている。これにより、各径方向油路に関わる流体抵抗が均等化されて冷却油が均等に配分されるので、ステータの軸方向の各部が均等に冷却され、一層高い冷却能力を確保できる。
【0016】
請求項5に係る発明では、軸方向油路における冷却油の供給位置とケース底部とを連通する吸上げ油路をさらに備え、あるいは、汲上げ油路およびオイルポンプをさらに備える。本発明で、軸方向油路および径方向油路を有するロータが回転すると遠心ポンプとして作用するので、吸上げ圧が発生する。吸上げ圧が軸方向油路における冷却油の供給位置とケース底部との高さに拠る油圧差よりも大きい場合は、吸上げ油路を備えることで自動的に冷却油が軸方向油路まで吸い上げられる。吸上げ圧が高さに拠る油圧差よりも小さい場合は、汲上げ油路およびオイルポンプを備えて、ポンプ吐出圧により冷却油を軸方向油路まで汲み上げることができる。なお、オイルポンプには、ロータの回転を利用したメカニカルオイルポンプや、電気で動作する電動オイルポンプなどを用いる。吸上げ油路を備える場合、ならびの汲上げ油路およびオイルポンプを備える場合のいずれも、簡易な構成で軸方向油路に冷却油を安定して供給できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1実施形態のモータの冷却構造を模式的に示す軸線方向に沿った断面図である。
【図2】第1実施形態のモータの冷却構造を模式的に示す軸線と直交する面の断面図であり、図1のX−X方向矢視断面図である。
【図3】第1実施形態のロータコアを構成する3タイプのロータコアプレートの形状を説明する図である。
【図4】第2実施形態のモータの冷却構造を模式的に示す断面図である。
【図5】第3実施形態のモータの冷却構造を模式的に示す断面図である。
【図6】第3実施形態のロータコアを構成する2タイプのロータコアプレートの形状を説明する図である。
【図7】第1実施形態から油路の形状を変形した第4実施形態のモータの冷却構造を模式的に示す断面図である。
【図8】第1実施形態から油路の形状を変形した第5実施形態のモータの冷却構造を模式的に示す断面図である。
【図9】汲上げ油管およびメカニカルオイルポンプを備える第6実施形態のモータの冷却構造を模式的に示す断面図である。
【図10】汲上げ油管および電動オイルポンプを備える第7実施形態のモータの冷却構造を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の第1実施形態のモータの冷却構造について、図1〜図3を参考にして説明する。図1は、第1実施形態のモータの冷却構造1を模式的に示す軸線AX方向に沿った断面図である。また、図2は、第1実施形態のモータの冷却構造1を模式的に示す軸線AXと直交する面の断面図であり、図1のX−X方向矢視断面図である。モータの冷却構造1は、ケース2、軸方向油路8および複数の径方向油路9を有するロータ3、ロータ3の外周側のステータ6、吸上げ油管71などにより構成されている。
【0019】
ケース2は、軸線AXをもつ略円筒状のケース筒部21、ケース筒部21の両側の円形開口を塞ぐ円板状の2つのケース側部22、23、およびケース筒部21の下側の架台24が一体的に形成されて構成されている。一方のケース側部22の中央には軸孔25が穿設され、軸孔の周囲に軸受部26が配設されている。他方のケース側部23から軸線AX方向内寄りに入った位置には、ケース筒部21から延設された環状の支持座27が配置され、支持座27の内周側に軸受部28が配設されている。また、ケース2の内部空間には冷却油29が封入されている。冷却油29の油面OLはロータ3の最下端よりも低く、ステータ6の一部は冷却油29中に浸漬している。
【0020】
ロータ3は、軸線AX上に配置されたシャフト4、およびシャフトの外周に一体的に組み付けられた円筒状のロータコア5を含んで構成されている。シャフト4の一端41は、ケース2の一方のケース側部22の中央の軸孔25を油密に挿通してケース2の外部に延長されており、負荷を連結して回転駆動できるようになっている。シャフト4の一端41寄りは、一方のケース側部22の軸受部26によって回転自在に軸承されている。また、シャフト4の他端42は、支持座27の内周側の軸受部28によって回転自在に軸承されている。
【0021】
シャフト4の軸心には、他端42から軸線方向AXの中央付近まで延在する軸心供給油路43が穿設されている。軸心供給油路43の他端42側の開口431には、後述する吸上げ油管7が連結されている。また、軸心油路43の軸線方向AX中央付近の先端432から径方向に延在する2個の径方向供給油路44が穿設されている。2個の径方向供給油路44は軸対称位置(図1では上下方向)に配設され、シャフト4の外周に開口441を有している。
【0022】
シャフト4の外周面には、軸線AX方向に2個の軸方向溝45が刻設されている。2個の軸方向溝45は、径方向供給油路44の開口441に連通する軸対称位置に配設されている。各軸方向溝45は、ロータコア5の軸線方向端部付近まで延在し、軸受部26、28には達していない。各軸方向溝45は、冷却油を軸線AX方向に流す本発明の軸方向油路8を形成している。また、径方向供給油路44の開口441は、軸方向油路8に冷却油を供給する供給位置81に相当する。
【0023】
ロータコア5は、環状で薄い3種類のロータコアプレート51〜53が軸線AX方向に複数枚積層されて構成されている。図3は、第1実施形態のロータコア5を構成する3タイプのロータコアプレート51〜53の形状を説明する図である。図3の(1)は内側スリット穴57を有する第1タイプのロータコアプレート51(以降第1プレート51と略称)の形状、(2)は外側スリット穴58を有する第2タイプのロータコアプレート52(以降第2プレート52と略称)の形状、(3)はスリット穴57、58を有さない第3タイプのロータコアプレート53(以降第3プレート53と略称)の形状である。
【0024】
第1〜第3プレート51〜53は、内周縁54が同一内径でかつ外周縁55が同一外径の帯幅Wの環状で、高い透磁率を有する薄い電磁鋼板を基にして作られている。すなわち、環状の電磁鋼板に、周方向に90°ピッチで回転対称に4個の細長い矩形の磁極孔56が穿設され、これによって図3の(3)の第3プレート53が作られている。さらに、第3プレート53の内周縁54から径方向外向きに、軸対称位置に2個の内側スリット穴57が形成され、これによって図3の(1)の第1プレート51が作られている。内側スリット穴57は、磁極孔56の間に配置されており、内周縁54の開口571から底部572までスリット幅dが一定であり、外周縁55までの帯幅Wの半ば過ぎまで形成されている。
【0025】
また、第3プレート53の外周縁55から径方向内向きに、軸対称位置に2個の外側スリット穴58が形成され、これによって図3の(2)の第2プレート52が作られている。外側スリット穴58は、磁極孔56の間に配置されており、外周縁55の開口581から底部582までスリット幅dは内側スリット穴57と同一であり、内周縁54までの帯幅Wの半ば過ぎまで形成されている。内側スリット穴57および外側スリット穴58はそれぞれ底部571、572を有して径方向に貫通せず、第1および第2プレート51、52の環状形状が維持されている。
【0026】
図1および図2に戻り、ロータコア5の構成について説明する。ロータコア5は、軸線AX方向に3種類の第1〜第3プレート51〜53が順次積層されて構成されている。図1を参考にして詳述すると、シャフト4の一端41寄りの外周にエンドプレート5E1が配置される。そして、シャフト4の一端41側から他端42側へと順番に、エンドプレート5E1に隣接して複数枚の第3プレート53が積層され、以下順次隣接して複数枚の第2プレート52および複数枚の第1プレート51が積層されている。この複数枚の第3、第2、および第1プレート53、52、51の積層が5回繰り返される。最後に、他端42寄りに複数枚の第3プレート53が積層され、別のエンドプレート5E2が配置される。
【0027】
なお、第1〜第3プレート51〜53の基になる電磁鋼板1枚ごとの厚さにばらつきがある場合には、適宜積層枚数が加減されて積層厚さが調整される。2つのエンドプレート5E1、5E2の間は、図略の締結部材により堅くバインドされてロータコア5の形状が定まる。また、図2に示されるように、第1〜第3プレート51〜53の各磁極孔56を軸線AX方向に貫通して永久磁石5Mが埋め込まれる。
【0028】
図1に示されるようにロータコア5が構成されると、5箇所で隣接する第1プレート51の内側スリット穴57と第2プレート52の外側スリット穴58とが径方向の中間でオーバーラップして径方向孔となり、本発明の径方向油路9を形成する。5個の径方向油路9の内側、すなわち内側スリット穴57の内側開口571は、シャフト5の軸方向溝に臨んで連通するようになっている。また、5個の径方向油路の外側、すなわち外側スリット穴58の外側開口581は、コア外周面に開口するようになっている。
【0029】
ステータ6は、ロータ3の外周側に同軸に離隔して配置され、ケース2のケース筒部21の内周面に固設されている。ステータ6は、ステータコア61およびコイル65を含んで構成されている。図2に示されるように、ステータコア61は、内周側に突出する6個の磁極ティース62をもち、それぞれの磁極ティース62の間はスロット空間63になっている。スロット空間63には、導体が配置されてコイル65が構成されている。コイル65は各磁極ティース62を周回する集中巻コイルとなっているが、これに限定されず分布巻コイルであってもよい。コイル65は、軸線AX方向の端部ではステータコア61よりも突出してコイルエンド部を形成している。
【0030】
吸上げ油管71は、シャフト4の軸心供給油路43の開口431と、ケース2内で冷却油29が滞留する底部とを連通している。吸上げ油管7は、金属製管材や樹脂製管材で構成することができる。吸上げ油管71とシャフト4の軸心供給油路43および径方向供給油路44とにより、本発明の吸上げ油路が構成されている。本実施形態で、軸方向油路8および径方向油路9を有するロータ3が回転すると遠心ポンプとして作用するので、吸上げ圧が発生する。さらに本実施形態ではモータの回転数が比較的大きく、吸上げ圧が軸方向油路8における冷却油の供給位置81(径方向供給油路44の開口441)とケース2底部との高さに拠る油圧差よりも大きくなる。したがって、軸方向油路8の供給位置81まで冷却油29を吸い上げ、安定して供給することができる。
【0031】
次に、第1実施形態のモータの冷却構造1の作用について、図1中の冷却油の流れを示す矢印F1〜F6を参照しながら説明する。ロータ3が回転すると前述した遠心ポンプの作用により、ケース2底部の冷却油29が吸上げ油管7に吸い上げられ(矢印F1参照)、シャフト4の軸心供給油路43の開口431に達する。冷却油は、軸心供給油路43内を軸線AX方向に流れ(矢印F2参照)、遠心力によって径方向供給油路44内を径方向外向きに流れる(矢印F3参照)。そして、冷却油は、軸方向油路8に入って軸線AX方向両側に分かれて流れながら(矢印F4参照)、ロータコア5の各内側スリット穴57(各径方向油路9)に分岐する。さらに、冷却油は、遠心力によって内側スリット穴57を径方向外向きに流れ(矢印F5参照)、外側スリット穴58に渡って径方向外向きに流れる(矢印F6参照)。そして、冷却油は、ロータコアの外周面に軸線AX方向に並んだ5個の外側開口581から飛び出す。
【0032】
飛び出した冷却油は、ステータ3に降り注いで供給される。このとき、ロータ3が回転しているので、冷却油は磁極ティース62だけでなく、スロット空間63内のコイル65にも直接的に降り注いで供給される。
【0033】
第1実施形態のモータの冷却構造1によれば、ステータ6の軸方向長に応じて適当数、本実施形態では5個の径方向油路9をロータ3の軸線AX方向に離隔して設け、ステータ6の軸線AX方向の各所に十分な量の冷却油を供給できる。このため、コイルエンド2箇所のみに冷却油を供給する従来技術と比較して、高い冷却能力を有してステータ6の局部的な温度上昇を抑制できる。特に、局部的な温度上昇の発生し易いコイル65がステータ6の内周側に配置されているので、コイル65の複数箇所に直接的に冷却油を供給でき、高い冷却能力を一層確実にできる。また、ロータ3も、軸方向油路8および複数の径方向油路9を流れる冷却油によって良好に冷却される。
【0034】
さらに、ロータ3の複数の径方向油路9は、第1プレート51の内側スリット穴57と第2プレート52の外側スリット穴58とが連通して形成されている。したがって、第1および第2プレート51、52の環状形状が維持されており、ロータコア5の機械的強度の確保が容易である。また、ロータコア5を製造するための第1〜第3プレート51〜53の積層作業の作業性が低下しない。
【0035】
加えて、吸上げ油管7というきわめて簡易な構成を用いて、軸方向油路8に冷却油を安定して供給できる。
【0036】
次に、複数の径方向油路9の断面積が異なる第2実施形態のモータの冷却構造1Aについて、第1実施形態と異なる点を主に説明する。図4は、第2実施形態のモータの冷却構造1Aを模式的に示す断面図である。図中で、ロータシャフト4の軸方向溝45を軸方向油路8Aと表記し、径方向供給油路44の開口441を軸方向油路8Aにおける冷却油の供給位置81Aと表記している。さらに、ロータコア5Aの第1および第2プレート51、52の内側スリット穴57と外側スリット穴58とで形成される各径方向孔を5個の径方向油路91〜95と表記する。
【0037】
第2実施形態では、軸方向油路8Aにおける冷却油の供給位置81Aと5個の径方向油路91〜95の分岐位置との各距離L1〜L5に応じ、距離L1〜L5が小さいほど当該の径方向油路91〜95の断面積S1〜S5を小とし、距離L1〜L5が大きいほど当該の径方向油路91〜95の断面積S1〜S5を大としている。具体的に図4で、各距離L1〜L5は、図中の左右両端側の径方向油路91、95で最も大きく、図中の中間の径方向油路93で最も小さく、不等式で示すとL5>L4>L3<L2<L1となっている。したがって、各断面積S1〜S5も定性的に同じ大小関係とされ、不等式で示すとS5>S4>S3<S2<S1となっている。
【0038】
上記の各断面積S1〜S5の違いは、ロータコア5Aを構成する第1および第2プレート51、52の積層枚数を増減することで実現できる。また、第3プレート53の積層枚数を調整することで、径方向油路91〜95の軸線AX方向の位置を調整できる。第2実施形態のその他の構成は、第1実施形態と同様であるので説明は省略する。
【0039】
第2実施形態のモータの冷却構造1Aによれば、各径方向油路91〜95に関する流体抵抗が均等化される。例えば、図中の右側端の径方向油路91では、軸方向油路8A内での大きな距離L1に依存して部分的な流体抵抗が大きく、径方向油路91内での大きな断面積S1に依存して部分的な流体抵抗が小さくなる。一方、図中の中間の径方向油路93では、軸方向油路45内での小さな距離L3に依存して部分的な流体抵抗が小さく、径方向油路93内での小さな断面積S3に依存して部分的な流体抵抗が大きくなる。つまり、それぞれの2つの部分的な流体抵抗を加算した総流体抵抗が均等化される。これにより、各径方向油路91〜95に冷却油が均等に配分される。したがって、ステータ6の軸線方向AXの位置に依存せず、各部に均等に冷却油が供給されて均等に冷却され、一層高い冷却能力を確保できる。
【0040】
次に、ロータコアプレート5X(第4プレート)の単一のスリット孔59により径方向油路を形成する第3実施形態のモータの冷却構造1Bについて、第1および第2実施形態と異なる点を主に説明する。図5は、第3実施形態のモータの冷却構造1Bを模式的に示す断面図である。ロータコア5Bの図中の上側の径方向油路96および下側の径方向油路97は、第1および第2実施形態と異なり、径方向に直線的に延在している。また、上側の径方向油路96と下側の径方向油路97とで軸線AX方向の位置が互い違いに配置されている。
【0041】
ロータコア5Bは、2タイプのロータコアプレート53、5Xを積層して構成することができる。図6は、第3実施形態のロータコア5Bを構成する2タイプのロータコアプレート53、5Xの形状を説明する図である。図6の(1)はスリット孔59を有さない第3プレート53の形状(図3の(3)と同一形状)、(2)はスリット孔59を有する第4タイプのロータコアプレート5X(以降第4プレート5Xと略称)の形状である。
【0042】
図6の(2)に示されるように、第4プレート5Xは、第1〜第3プレート51〜53と同一の内径、外径、および帯幅Wを有し、4個の磁極孔56が穿設されている点も同様である。さらに、第4プレート5Xには、内周縁54から外周縁55にまで達するスリット孔59が形成されている。スリット孔59は、磁極孔56の間に配置されており、スリット幅dは一定である。これにより、第4プレート5Xは、環状形状でなくC字形状となっている。
【0043】
図5に示されるように、ロータコア5Bは、シャフト4の一端41寄りの外周に配置されたエンドプレート5E1から軸線AX方向に先ず複数枚の第3プレート53が積層され、次いで複数枚の第4プレート5Xが積層されている。この第4プレート5Xのスリット孔59によって上側の径方向油路96が形成される。続いて、複数枚の第3プレート53が積層され、次いで複数枚の第4プレート5Xが180°回転した位相で積層されている。180°回転された第4プレート5Xのスリット孔59によって下側の径方向油路97が形成される。以下、複数枚の第3プレート53および第4プレート5Xが交互に積層され、最後に、他端42寄りに別のエンドプレート5E2が配置されて、ロータコア5Bが構成されている。各径方向油路96、97は、ロータ3の外周面の軸方向溝45によって形成された軸方向油路8Bに連通されている。
【0044】
第3実施形態のモータの冷却構造1Bによれば、上側および下側の径方向油路96、97の軸線AX方向の位置が異なるので、合計9箇所からステータ6に冷却油を供給できる。したがって、ステータ6の軸線方向AXの位置に依存せず、より確実に冷却油が均等に供給され、冷却能力が一層確実になる。また、ロータコア5Bを構成するロータコアプレート53、5Xのタイプが、第1および第2実施形態よりも少ない2タイプで済む。
【0045】
次に、第1実施形態から油路の形状を変形した第4および第5実施形態のモータの冷却構造1C、1Dについて、第1実施形態と異なる点を主に説明する。図7は、第1実施形態から油路の形状を変形した第4実施形態のモータの冷却構造1Cを模式的に示す断面図である。第4実施形態では、軸心供給油路43および径方向供給油路44に代えて、軸端供給油路44Cが設けられている。詳述すると、シャフト4Cの外周面に刻設されて軸方向油路8Cを形成する軸方向溝45Cは、軸線AX方向に延長されてシャフト4Cの他端42に達している。シャフト4Cの他端42寄りで軸方向溝45Cの外周にロータコア5が設けられていない範囲には筒状のカバー42Cが配設され、軸方向溝45Cの油密が確保されている。そして、シャフト4Cの他端42の外側に軸端供給油路44Cが設けられている。軸端供給油路44Cは、吸上げ油管71と軸方向溝45Cとを油密に連通している。
【0046】
第4実施形態では、軸方向油路8に相当する軸方向溝45Cへの冷却油の供給位置は軸端供給油路44Cに変化するが、ロータコア5の外周面の5箇所からステータ6の各所に十分な量の冷却油を供給できる作用および効果は同様である。なお、第4実施形態でさらに各径方向油路9の断面積を変更する場合には、軸端供給油路44Cに近い側(図7では左側)の径方向油路9の断面積を小さくする。
【0047】
また、図8は、第1実施形態から油路の形状を変形した第5実施形態のモータの冷却構造1Dを模式的に示す断面図である。第5実施形態では、シャフト4Dの軸心に軸線AX方向に延在する軸方向油路8Dが穿設されている。軸方向油路8Dは、シャフト4Dの他端42で開口し、吸上げ油管71と油密に連通している。さらに、軸方向油路8Dから分岐する複数の径方向油路44Dがシャフト4D内に穿設されている。各径方向油路44Dはロータコア5の径方向油路9の内側、すなわち内側スリット穴57の内側開口571に連通している。
【0048】
第5実施形態では、軸方向油路8Dの冷却油の供給位置はシャフト4Dの他端42に変化するが、ロータコア5の外周面の5箇所からステータ6の各所に十分な量の冷却油を供給できる作用および効果は同様である。なお、第5実施形態でさらに各径方向油路9の断面積を変更する場合には、シャフト4Dの他端42に近い側(図7では左側)の径方向油路9の断面積を小さくする。
【0049】
次に、第1実施形態の吸上げ油管71に代えて、汲上げ油管75およびオイルポンプ76、77を備える第6および第7実施形態のモータの冷却構造1E、1Fについて、第1実施形態と異なる点を主に説明する。第1実施形態で、モータの回転数が比較的小さく、したがって遠心ポンプとしての吸上げ圧があまり大きくならず、軸方向油路8の供給位置81とケース2の底部との高さに拠る油圧差を確保できない場合がある。この場合、吸上げ油管71に代えて、汲上げ油管75およびメカニカルオイルポンプ76を設ける。図9は、汲上げ油管75およびメカニカルオイルポンプ76を備える第6実施形態のモータの冷却構造1Eを模式的に示す断面図である。
【0050】
メカニカルオイルポンプ76は、シャフト4の他端42の軸線AX方向外側に構成されている。メカニカルオイルポンプ76の吐出側は軸心供給油路43に連通され、吸込み側は汲上げ油管75によって、ケース2下部に連通されている。メカニカルオイルポンプ76は、ロータ3の回転によって駆動され、ケース2下部の冷却油29を軸心供給油路43に汲み上げる。メカニカルオイルポンプ76の構成に特別な制約はなく、周知の各種構成を採用できる。
【0051】
メカニカルオイルポンプ76を備えても、モータの回転数が小さく軸方向油路8の供給位置81とケース2の底部との高さに拠る油圧差を越えるポンプ吐出圧を確保できない場合がある。この場合には、電動オイルポンプ77を用いる。図10は、汲上げ油管75および電動オイルポンプ77を備える第7実施形態のモータの冷却構造1Fを模式的に示す断面図である。
【0052】
汲上げ油管75は、軸心供給油路43とケース2下部とを連通している。汲上げ油管75の途中に電動オイルポンプ77を設ける。電動オイルポンプ77は、ケース2下部の冷却油29を軸心供給油路43に汲み上げるだけの十分な吐出圧力を備えている。電動オイルポンプ77の駆動電源は、モータ本体と共通にしてもよく、あるいは別電源を用いてもよい。電動オイルポンプ77を用いれば、モータ本体の回転数に関わりなく確実に冷却油を供給できる。
【0053】
第6および第7実施形態のモータの冷却構造1E、1Fによれば、簡易な構成を用いて軸方向油路8に冷却油を安定して供給できる。また、ステータ6およびロータ3を冷却する作用および効果は、第1実施形態と同様であるので、説明は省略する。
【0054】
なお、本発明は、前述の第1〜第7実施形態に限定されず、様々な応用や変形が可能である。例えば、ロータコアプレート51〜53、5Xに形成するスリット穴57、58、59を90°ピッチで4箇所に設けたり、ロータコアプレート51〜53、5Xの積層方法を変更することにより、様々な形状の径方向油路を形成することができる。
【符号の説明】
【0055】
1、1A〜1F:モータの冷却構造
2:ケース 21:ケース筒部 22、23:ケース側部 29:冷却油
3:ロータ
4、4C、4D:シャフト
41:一端 42:他端 43:軸心供給油路 44:径方向供給油路
45:軸方向溝
5、5A、5B:ロータコア
51〜53、5X:ロータコアプレート(第1〜第4プレート)
54:内周縁 55:外周縁 56:磁極孔
57:内側スリット穴 58:外側スリット穴 59:スリット孔
5E1、5E2:エンドプレート 5M:永久磁石
6:ステータ 61:ステータコア 62:磁極ティース
63:スロット空間 65:コイル
71:吸上げ油管
75:汲上げ油管 76メカニカルオイルポンプ 77:電動オイルポンプ
8、8A〜8D:軸方向油路 81、81A:冷却油の供給位置
9、91〜97:径方向油路
W:帯幅 d:スリット幅
L1〜L5:冷却油の供給位置と径方向油路の分岐位置との各距離
S1〜S5:径方向油路の各断面積

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却油が封入されたケースと、前記ケースに軸線回りに回転自在に軸承されたロータと、前記ロータの外周側に同軸に離隔して配置され前記ケースに固設されたステータとを備えるモータの冷却構造であって、
前記ロータは、軸線方向に延在して前記冷却油が供給される軸方向油路と、前記軸方向油路から分岐してロータ外周面の軸線方向に離隔した複数箇所にそれぞれ開口する複数の径方向油路と、を有するモータの冷却構造。
【請求項2】
請求項1において、
前記ロータは、前記軸線上に配置されたシャフト、および前記シャフトの外周に一体的に組み付けられた円筒状のロータコアを含んで構成され、
前記シャフトの外周面に軸線方向に刻設された軸方向溝によって前記軸方向油路が形成され、
前記ロータコアの内部に径方向に穿設され、内側がコア内周面に開口して前記シャフトの前記軸方向溝に臨み、外側がコア外周面に開口する径方向孔によって前記径方向油路が形成され、
前記ステータは、内周側に磁極ティースおよびスロット空間をもつ円筒状のステータコア、および前記スロット空間に導体が配置されたコイルを含んで構成されるモータの冷却構造。
【請求項3】
請求項2において、
前記ロータコアは、環状で薄いロータコアプレートが軸線方向に複数枚積層されて構成されており、
一部のロータコアプレートは前記コア内周面に開口して前記シャフトの軸方向溝に臨む有底の内側スリット穴を有し、前記一部のロータコアプレートに隣接する別の一部のロータコアプレートは前記コア外周面に開口する有底の外側スリット穴を有し、前記内側スリット穴と前記外側スリット穴とが前記ロータコアの内部で連通して前記径方向孔となり前記径方向油路が形成されるモータの冷却構造。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項において、前記軸方向油路における前記冷却油の供給位置と前記複数の径方向油路の分岐位置との各距離に応じ、前記距離が小さいほど当該の径方向油路の断面積を小とし、前記距離が大きいほど当該の径方向油路の断面積を大としたモータの冷却構造。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項において、
前記軸方向油路における前記冷却油の供給位置と前記ケース内で前記冷却油が滞留する底部とを連通する吸上げ油路をさらに備え、
あるいは、前記軸方向油路における前記冷却油の供給位置と前記ケース内で前記冷却油が滞留する底部とを連通する汲上げ油路、および前記汲上げ油路の途中に配設されたオイルポンプをさらに備えるモータの冷却構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−13182(P2013−13182A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−142910(P2011−142910)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】