モータ制御装置、モータ制御システム、モータ制御プログラム
【課題】運転モードに応じてモータの駆動を高効率で制御可能なモータ制御装置を提供する。
【解決手段】電流指令ベクトルの向きに応じた抑制電流成分によって抑制された後の誘起電圧を電圧検出部で検出される電源電圧Vbatよりも小さくする方向に抑制する第1電流指令ベクトルAvを決定する第1電流指令ベクトル決定部2aと、実測値に基づき予め記憶させている効率情報において回転数検出部で検出した回転数と外部から指示されたトルク指令Trefとに関連付けられた第2電流指令ベクトルAbaseを決定する第2電流指令ベクトル決定部2bとを備え、トルク出力優先モード時は第1電流指令ベクトルAvでモータの駆動を制御し、効率優先モード時は第2電流指令ベクトルAbaseでモータの駆動を制御するように構成した。
【解決手段】電流指令ベクトルの向きに応じた抑制電流成分によって抑制された後の誘起電圧を電圧検出部で検出される電源電圧Vbatよりも小さくする方向に抑制する第1電流指令ベクトルAvを決定する第1電流指令ベクトル決定部2aと、実測値に基づき予め記憶させている効率情報において回転数検出部で検出した回転数と外部から指示されたトルク指令Trefとに関連付けられた第2電流指令ベクトルAbaseを決定する第2電流指令ベクトル決定部2bとを備え、トルク出力優先モード時は第1電流指令ベクトルAvでモータの駆動を制御し、効率優先モード時は第2電流指令ベクトルAbaseでモータの駆動を制御するように構成した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流指令ベクトルに応じた電流をモータに通電することによりモータの駆動を制御するモータ制御装置に係り、特に運転モードに応じて適切な電流指令ベクトルに従ってモータの駆動を制御するモータ制御装置、及びこのようなモータ制御装置とモータとを備えたモータ制御システム、さらにはこのようなモータ制御を行う際に用いられるモータ制御プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
所望のトルクを発生させる電流指令ベクトルを生成し、この電流指令ベクトルに対応する電流を電源からモータに通電することによってモータの駆動を制御するモータ制御装置として、効率化を図るべく、変動する電源電圧に応じて出力可能なトルクの最大値を制限するように構成されたものが知られている(特許文献1参照)。ここで、制御対象のモータが、IPM(Interior Permanent Magnet)モータ等の突極性を有する同期モータである場合、電流指令ベクトルは、IPMモータの三相各相に流す電流を、回転子に配置された永久磁石の磁束の方向であるd軸電流成分、及びこのd軸に直交するq軸電流成分の二つのベクトル成分に変換して、d軸電流成分及びq軸電流成分をこれらの合成ベクトルで表現したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3200885号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電動車両に搭載されてバッテリ電源で駆動するモータを制御する場合、バッテリ電源で駆動するという構成上の特徴から特に高効率化が求められている。しかしながら、特許文献1に開示されているようなモータの駆動制御は、定格トルクに対して何パーセントまでのトルク出力を許可するかを決めているに過ぎず、省エネルギーでの運転を期待する運転モードであっても、必ずしも効率が良いとは限らない。
【0005】
また、IPMモータ等の突極性を有する同期モータの出力トルクは、永久磁石により発生するマグネットトルクと、突極性に起因するリラクタンストルクとの総和であり、電流指令ベクトルの大きさが一定である場合には、出力トルクは電流指令ベクトルの向き(位相角)に応じて変化する。そして、突極性を有する同期モータの場合、或るトルクを出力するための電流指令ベクトルは多数存在し、モータの回転によって生じる誘起電圧を考慮しなければ、或るトルクを出力する電流指令ベクトルは、その先端が当該トルクの定トルク曲線(トルクが一定となる電流指令ベクトルの軌跡)上にあればどのような向きや大きさのものであってもよい。したがって、高いトルク出力を必要とする運転モード時では、所望の高トルクを出力できるという条件に該当する電流指令ベクトルであればどのような向きや大きさの電流指令ベクトルでモータの駆動を制御してもよいように思われる。
【0006】
しかしながら、誘起電圧を考慮した場合、所望のトルクを出力するという条件に該当する電流指令ベクトルであっても、その電流指令ベクトルの向きや大きさによっては、誘起電圧がモータへ印加可能な電源電圧よりも大きくなって制御破綻に陥るおそれがある。特に、電源電圧としてバッテリ電圧を適用した場合には、充放電により過渡的に電圧が変動したり、バッテリの経年劣化によって電圧が低下することが多く、高トルク出力を得るべくモータを高速回転させた際に、誘起電圧がモータへ印加可能なバッテリ電圧を超えて制御破綻に陥り易い。その結果、所望の高トルク出力を期待する運転モード(パワーモード)時に、所望の高トルクを得ることができないという事態が生じ得る。
【0007】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、その主たる目的は、効率を優先させたい運転モードでは、より一層の省エネルギー化、高効率化を実現できるとともに、高トルク出力を発生させたい運転モードでは、誘起電圧が電源電圧を超えることに起因する制御破綻を回避しつつ所望の高トルクを得ることが可能なモータ制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、回転により誘起電圧が発生するモータに対し、誘起電圧を抑える方向に作用する抑制電流成分がベクトルの向きに応じて変化する電流指令ベクトルをトルク指令に応じて生成し、この電流指令ベクトルに対応する電流を電源からモータに通電することによりモータの駆動を制御するモータ制御装置に関するものである。そして、本発明のモータ制御装置は、モータの回転数を検知する回転数検出部と、モータを駆動するための電源電圧を検知する電圧検出部と、第1電流指令ベクトル決定部と、第2電流指令ベクトル決定部とを備えている。
【0009】
ここで、第1電流指令ベクトル決定部は、或る回転数の下に所望のトルクを発生させ得る複数の電流指令ベクトルに関する情報と各々の電流指令ベクトルの向きに応じた抑制電流成分によって抑制された後の誘起電圧とを回転数毎に関連付けた誘起電圧情報を実測値に基づき予め設定して、この誘起電圧情報においてトルク指令と回転数検出部で検出した回転数とに関連付けられている複数の電流指令ベクトルのうち、当該電流指令ベクトルの向きに応じた抑制電流成分によって抑制された後の誘起電圧を電圧検出部で検出される電源電圧に対応する電圧値よりも小さくする方向に抑制する電流指令ベクトルを第1電流指令ベクトルとして決定するものである。
【0010】
また、第2電流指令ベクトル決定部は、或る回転数の下に所望のトルクを発生させ得る複数の電流指令ベクトルのうち効率が最大となる電流指令ベクトルに関する情報を回転数毎に関連付けた効率情報を実測値に基づき予め設定して、この効率情報においてトルク指令と回転数検出部で検出した回転数とに関連付けられた電流指令ベクトルを第2電流指令ベクトルとして決定するものである。
【0011】
そして、本発明のモータ制御装置は、効率よりも所望のトルク出力を優先するトルク出力優先モードが選択された場合、第1電流指令ベクトル決定部で決定した第1電流指令ベクトルによってモータの駆動を制御するように構成するとともに、所望のトルク出力を得ることよりも効率を優先する効率優先モードが選択された場合、第2電流指令ベクトル決定部で決定した第2電流指令ベクトルによってモータの駆動を制御するように構成していることを特徴としている。
【0012】
ここで、本発明において、「トルク出力優先モードまたは効率優先モードが選択された場合」とは、「運転者等の人の意志に基づいてトルク出力優先モードまたは効率優先モードが選択された場合」又は「運転者等の人の意志に関わらずモータ制御装置自体によってトルク出力優先モードまたは効率優先モードが自動的に選択された場合」、これら何れをも包含する意味である。また、「電流指令ベクトルに関する情報」としては、電流指令ベクトル自体や、あるいは電流指令ベクトルの向きを示す位相角等を挙げることができる。
【0013】
このようなモータ制御装置であれば、所望のトルク出力よりも効率を優先する効率優先モードが選択された場合、実測値に基づく効率情報を用いて第2電流指令ベクトル決定部で求めた第2電流指令ベクトルによってモータの駆動を制御することにより、推測が困難な鉄損を始めとしてメカロス、FET(Field Effect Transistor)損などを含めたシステム全体の効率が最大となり、リアルタイムで最大効率となるモータ制御を実現することが可能となる。そして、このように効率優先モードでは最大効率で制御可能になるため、特に電源がバッテリである場合には、駆動時間の長時間化、より一層の高効率化を図ることができる。
【0014】
一方で、本発明に係るモータ制御装置は、効率よりも所望のトルク出力を優先するトルク出力優先モードが選択された場合、予め実測値に基づき設定した誘起電圧情報において回転数とトルク指令とに関連付けられている複数の電流指令ベクトルのうち、この電流指令ベクトルの向きに応じた抑制電流成分によって抑制された後の誘起電圧を電源電圧に対応する電圧値より小さくする方向に抑制する第1電流指令ベクトルを決定し、このトルク、回転数及び誘起電圧を含めた実測値に沿った第1電流指令ベクトルによってモータの駆動を制御する。これにより、トルク指令、回転数及び電源電圧が変化する場合であっても実測に裏付けられた電流指令ベクトルを用いて回転数により変動する誘起電圧を適切に抑制することができ、可能な限り所望の高トルクの発生を確保しつつ、誘起電圧が電源電圧を超えて制御破綻に至ることを的確に防止することが可能となる。
【0015】
また、本発明に係るモータ制御装置では、第1電流指令ベクトルの抑制電流成分と第2電流指令ベクトルの抑制電流成分とを比較する比較部をさらに設けることができる。そして、比較部を設けたモータ制御装置において、効率優先モードが選択された時には、比較部で第1電流指令ベクトルの抑制電流成分と第2電流指令ベクトルの抑制電流成分とを比較することなく、第2電流指令ベクトルによってモータの駆動を制御するように構成する。また、トルク出力優先モードが選択された場合、比較部で第1電流指令ベクトルの抑制電流成分と第2電流指令ベクトルの抑制電流成分とを比較し、第1電流指令ベクトルの抑制電流成分が第2電流指令ベクトルの抑制電流成分よりも大きい場合には第1電流指令ベクトルによってモータの駆動を制御する一方で、第2電流指令ベクトルの抑制電流成分が第1電流指令ベクトルの抑制電流成分よりも大きい場合には第2電流指令ベクトルによってモータの駆動を制御するように構成することができる。
【0016】
このようなモータ制御装置であれば、トルク出力優先モード時に、比較部で第1電流指令ベクトルの抑制電流成分と第2電流指令ベクトルの抑制電流成分とを比較し、第1電流指令ベクトルの抑制電流成分が第2電流指令ベクトルの抑制電流成分よりも大きい場合、すなわち最大効率となる第2電流指令ベクトルの抑制電流成分が誘起電圧を抑制するために不十分である場合には、第1電流指令ベクトル決定部で求めた誘起電圧を抑制する第1電流指令ベクトルによってモータの制御を行うことによって、トルク指令、回転数及び電源電圧が変化する場合であっても実測に裏付けられた電流指令ベクトルを活用して回転数に応じて変動する誘起電圧を適切に抑制することができ、誘起電圧が電源電圧を超えて制御破綻に至ることを的確に防止しつつ、所望の定格トルクを出力することが可能となる。
【0017】
また、比較部で第1電流指令ベクトルの抑制電流成分と第2電流指令ベクトルの抑制電流成分とを比較し、第2電流指令ベクトルの抑制電流成分が第1電流指令ベクトルの抑制電流成分よりも大きい場合、すなわち最大効率となる第2電流指令ベクトルの抑制電流成分が誘起電圧を抑制するために十分である場合には、この第2電流指令ベクトルによってモータの制御を行うことにより、トルク出力優先モード時において、誘起電圧が電源電圧を超えて制御破綻に至ることを的確に防止しつつ、可能な限り所望の定格トルクを出力することができ、しかも、上述した効率優先モード時に得られる作用効果、つまり、リアルタイムでシステム全体の効率が最大となるモータ制御を実現できるという作用効果を得ることが可能となる。
【0018】
また、本発明のモータ制御システムは、上述したモータ制御装置と、このモータ制御装置の制御対象であるモータ、つまり回転により誘起電圧が発生するモータとを備えたものであることを特徴としている。このようなモータ制御システムであれば、上述したモータ制御装置に基づく種々の作用効果を発揮し、適切なモータの制御を行うことができる。
【0019】
また、このようなモータ制御を行う際に好適に用いられる本発明に係るモータ制御プログラムは、回転により誘起電圧が発生するモータに対し、誘起電圧を抑える方向に作用する抑制電流成分がベクトルの向きに応じて変化する電流指令ベクトルをトルク指令に応じて生成し、この電流指令ベクトルに対応する電流を電源からモータに通電することによりモータの駆動を制御するモータ制御装置を制御するためのものであり、第1電流指令ベクトルを決定する第1電流指令ベクトル決定ステップと、第2電流指令ベクトルを決定する第2電流指令ベクトル決定ステップとをモータ制御装置の制御部に実行させ、効率よりも所望のトルク出力を優先するトルク出力優先モードが選択された場合に第1電流指令ベクトルに従ったモータの駆動制御を行うトルク出力優先モード実行ステップと、所望のトルク出力を得ることよりも効率を優先する効率優先モードが選択された場合に第2電流指令ベクトルに従ったモータの駆動制御を行う効率優先モード実行ステップとの何れか一方のステップを制御部に選択的に実行させることを特徴としている。
【0020】
ここで、第1電流指令ベクトル決定ステップは、或る回転数の下に所望のトルクを発生させ得る複数の電流指令ベクトルに関する情報と各々の電流指令ベクトルの向きに応じた抑制電流成分によって抑制された後の誘起電圧とを回転数毎に関連付けた誘起電圧情報を実測値に基づき予め設定して、誘起電圧情報においてトルク指令とモータの回転数を検知する回転数検出部で検出した回転数とに関連付けられている複数の電流指令ベクトルのうち、電流指令ベクトルの向きに応じた抑制電流成分によって抑制された後の誘起電圧を、モータに印加可能な電源電圧を検知する電圧検出部で検出される電源電圧に対応する電圧値よりも小さくする方向に抑制する電流指令ベクトルである第1電流指令ベクトルを決定するステップである。また、第2電流指令ベクトル決定ステップは、或る回転数の下に所望のトルクを発生させ得る複数の電流指令ベクトルのうち効率が最大となる電流指令ベクトルに関する情報を回転数毎に関連付けた効率情報を実測値に基づき予め設定して、効率情報においてトルク指令と回転数検出部で検出した回転数とに関連付けられた電流指令ベクトルである第2電流指令ベクトルを決定するものである。
【0021】
このようなモータ制御プログラムであれば、選択された運転モードに応じてモータ制御装置の制御部に、トルク出力優先モード実行ステップ又は効率優先モード実行ステップとの何れか一方のステップを選択的に実行させることによって、モータ制御装置が上述した作用効果を発揮するようにモータの駆動制御を適切に行うことが可能となる。
【0022】
また、本発明のモータ制御プログラムにおいて、トルク出力優先モード実行ステップが、第1電流指令ベクトルの抑制電流成分と第2電流指令ベクトルの抑制電流成分とを比較する比較ステップを有し、比較ステップで第1電流指令ベクトルの抑制電流成分と第2電流指令ベクトルの抑制電流成分とを比較し、第1電流指令ベクトルの抑制電流成分が第2電流指令ベクトルの抑制電流成分よりも大きい場合には第1電流指令ベクトルに従ったモータの駆動制御を行い、第2電流指令ベクトルの抑制電流成分が第1電流指令ベクトルの抑制電流成分よりも大きい場合には第2電流指令ベクトルに従ったモータの駆動制御を行うようにすれば、高トルク出力を発生させたいトルク出力優先モードにおいて、省エネルギー化を図ることができ、上述した高効率なモータの駆動制御が可能となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、効率を優先させたい運転モードでは、より一層の省エネルギー化を実現できるとともに、高トルク出力を発生させたい運転モードでは、誘起電圧が電源電圧を超えることに起因する制御破綻を回避しつつ所望の高トルクを得ることができ、運転モードに応じて適切なベクトル制御が可能なモータ制御装置とその制御プログラム、及びモータ制御システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係るモータ制御装置の構成及び機能の概略ブロック図。
【図2】同実施形態に係る電流指令生成部の構成及び機能を示すブロック図。
【図3】同実施形態に係るモータ制御装置の制御対象となるIPMモータを模式的に示す図。
【図4】電流指令ベクトルに関する説明図。
【図5】電流指令ベクトルに関する説明図。
【図6】電流指令ベクトルの向きと出力トルクとの対応関係に関する説明図。
【図7】同実施形態に係るモータ制御装置の誘起電圧情報に関する説明図。
【図8】同実施形態において電源電圧が十分に高い場合のモータ制御装置の動作説明図。
【図9】同実施形態において電源電圧が低い場合のモータ制御装置の動作説明図。
【図10】同実施形態に係るモータ制御装置の効率情報に関する説明図。
【図11】同実施形態に係るモータ制御装置の効率情報に関する説明図。
【図12】同実施形態に係るモータ制御装置において電源電圧補償位相角を離散データから算出する原理図。
【図13】同実施形態に係るモータ制御装置のフローチャート。
【図14】同実施形態に係るモータ制御装置の動作説明図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。本実施形態に係るモータ制御装置Cは、図1に示すように、回転により誘起電圧が発生するモータ1に対し、誘起電圧を抑える方向に作用する抑制電流成分がベクトルの向きに応じて変化する電流指令ベクトルをトルク指令Tref(Tref´)に応じて生成し、この電流指令ベクトルに対応する電流を電源4からモータ1に通電することによりモータ1の駆動を制御するものである。
【0026】
ここで、本実施形態に係るモータ制御装置Cの制御対象であるモータ1は、突極性を有する同期モータであり、例えば図3に示すIPM(Interior Permanent Magnet)モータ1が好適である。IPMモータ1は、周知のとおり永久磁石11aを埋め込んだ回転子11と、三相交流を通電することにより回転磁界φ´を発生させる固定子12を備え、逆突極性を有する磁石内装型モータである。以下では、IPMモータ1を単に「モータ1」と称する。
【0027】
このモータ1に通電する三相の電流は、図3及び図4に示すように、永久磁石11aが発生する磁束の方向であるd軸電流成分Id及びd軸に直交するq軸電流成分Iqの二つの電流成分に変換して表現することができ、これら二つの電流成分の合成ベクトルを電流指令ベクトルAとして示すことができる。この電流指令ベクトルAの向きは、ベクトルAとq軸とのなす角度で表現でき、以下では、この角度を「電流位相角β」や単に「位相角β」と称する。このような突極性を有する同期モータ1とモータ制御装置Cと後述する電源4とによってモータ制御システムSを構成している。
【0028】
モータ制御装置Cは、図1に示すように、電流指令ベクトルを用いてモータ1の駆動を制御する装置であり、トルク指令Tref(Tref´)に応じたトルクをモータ1に発生させる電流指令ベクトルを示すd軸電流指令Id及びq軸電流指令Iqを生成する電流指令生成部2と、この電流指令生成部2で生成されたd軸電流指令Id及びq軸電流指令Iqに基づいて三相電流指令uvwを生成する電流制御部3と、電流制御部3で生成された三相電流指令uvwに応じた電流をバッテリ等の電源4からモータ1に通電する主回路部5と、モータ1の回転数Nrefを検出する回転数検出部6と、電源4からモータ1に印加可能な電源電圧Vbatを検知する電圧検出部7とを備えたものである。
【0029】
電流制御部3は、主回路部5からモータ1に通電される電流を電流検知部3aで検出し、検出した電流がd軸電流指令Id及びq軸電流指令Iqに対応する電流となるようにフィードバック制御を行うものである。また、主回路部5は、PWM制御を用いて三相電流指令uvwに応じた三相の電流を電源4からモータ1に通電するものである。ここで、電流制御部3、電源4(本実施形態ではバッテリ)、主回路部5、回転数検出部6、及び電圧検出部7は周知のものを適用することができ、構成及び動作の詳細な説明は省略する。
【0030】
電流指令生成部2は、トルク指令Tref(Tref´)に対応するトルクを発生させる電流指令ベクトルを示すd軸電流指令Id及びq軸電流指令Iqを生成するものである。特に、本実施形態の電流指令生成部2は、運転モードに応じて、所望の高トルクを発生させることが可能な電流指令ベクトルを示すd軸電流指令Id及びq軸電流指令Iqを生成したり、高効率運転を実現させ得る電流指令ベクトルを示すd軸電流指令Id及びq軸電流指令Iqを生成するものである。
【0031】
ここで、IPMモータ1等の突極性を有する同期モータの出力トルクは、図6に示すように、永久磁石11aにより発生するマグネットトルクと、突極性に起因するリラクタンストルクとの総和に等しく、電流指令ベクトルの大きさが一定である場合には、出力トルクはベクトルの向き(位相角β)に応じて変化する。トルク指令Tref(Tref´)を通じて要求される定格トルクを得るためには、この出力トルクの特性を考慮して電流指令ベクトルAの大きさと向きとを適切に決定する必要がある。
【0032】
このような適切な出力トルク制御に加えて、モータ1の回転により発生する誘起電圧は、モータ1の永久磁石11aが発生する磁束及びモータ1の回転数に比例して増大する。そして、この誘起電圧が、電源4からモータ1への通電に印加する電源電圧Vbatよりも高い場合には所望の電流を電源4からモータ1に供給することができず、制御不能となる。したがって、誘起電圧が電源電圧Vbatを超えないように抑制する必要がある。特に、電源4としてバッテリを適用した場合には、放充電や経年劣化等によって電源電圧Vbatに変動が生じ易いため、電源電圧(バッテリ電圧)Vbatの変動を考慮して誘起電圧を抑制する必要がある。
【0033】
誘起電圧を抑制する制御としては、図4に示すように、電流指令ベクトルAのうちd軸電流成分Idにより生じる磁束φdで永久磁石により生じる磁束φMGの一部を相殺して、相殺後の磁束(φMG−φd)を相殺前の磁束φMGよりも低減させることで誘起電圧を抑制する弱め磁束制御(誘起電圧補償制御)を挙げることができる。
【0034】
この弱め磁束制御は、電流指令ベクトルAの向きを示す位相角を例えば図4及び図5に示すように位相角βから位相角β´に変えると、誘起電圧を抑制する方向に作用する抑制電流成分であるd軸電流成分がIdからI´dに変化(図示例では増大)することを利用して、誘起電圧を抑制するに足りる抑制電流成分を確保するように位相角を制御するものである。上述したように、位相角の変化によって出力トルクも変化するため、所望のトルクを得ることができても誘起電圧の抑制に足りる抑制電流成分を確保できない電流指令ベクトルの向きや、逆に誘起電圧の抑制に足りる抑制電流成分を確保することができても所望のトルクを得ることができない電流指令ベクトルの向きがある。
【0035】
そこで、本実施形態のモータ駆動制御装置Cは、所望のトルクの発生と、変動する電源電圧Vbatを超えないように誘起電圧を抑制するに足りる抑制電流成分の確保とを両立できる電流指令ベクトルを生成すべく、電流指令生成部2として第1電流指令ベクトル決定部2aを有するものを適用している。
【0036】
この第1電流指令ベクトル決定部2aは、誘起電圧情報を記憶させたメモリMe1を有する。誘起電圧情報は、図7に示すように、回転数N1及びトルクT1を維持した状態で電流指令ベクトルの向き(位相角β)を異ならせて向きの異なる複数の電流指令ベクトル毎に誘起電圧を測定し、回転数、トルク、電流指令ベクトルに関する情報(電流指令ベクトルや、電流指令ベクトルの向きを示す位相角等)、及び当該電流指令ベクトルによる駆動時に電流指令ベクトルの向きに応じた抑制電流成分によって抑制された後の誘起電圧(以下、この誘起電圧を単に「抑制後の誘起電圧」または「抑制後誘起電圧」と称する場合がある)を相互に関連付けた情報である。本実施形態では、このような誘起電圧情報を実測値に基づいて予め設定し、メモリMe1に記憶させている。
【0037】
誘起電圧情報を設定するために行う実機を用いた測定は、回転数やトルク、誘起電圧、電源電圧が定常状態又は定常状態とみなせる状態で行う。具体的には、図7に模式的に示すように、実機を用いて或る回転数N1の下に所望のトルクT1を発生させる電流指令ベクトルA1を生成してモータを駆動し、この電流指令ベクトルA1による駆動時に電流指令ベクトルA1の向きに応じた抑制電流成分によって抑制された後の誘起電圧V1(抑制後誘起電圧V1)をパワーメータ等の検出値から測定(推定)する。なお、或る回転数N1の下に所望のトルクT1を発生させる電流指令ベクトルは図7の曲線Wで示すように多数存在するが、同図等では説明の簡略化のため、一部の電流指令ベクトル(図時例ではA1,A2,A3,A4)のみを示している。図7に示すように、或る回転数N1の下、或るトルクT1を発生させる複数の電流指令ベクトルA1,A2,A3,A4の向きはそれぞれ位相角β1,β2,β3,β4であり、各々の電流指令ベクトルA1,A2,A3,A4によるモータの駆動時に実測した誘起電圧(抑制後誘起電圧)はV1,V2,V3,V4である。この場合、電流指令ベクトルに関する情報を位相角として簡易化すると、誘起電圧情報は、トルクT1、回転数N1、位相角βi、及び誘起電圧(抑制後誘起電圧)Viを相互に関連付けたテーブル等で示すことができる(i=1〜Nであり、このNは実測したベクトルの数である)。
【0038】
そして、誘起電圧情報における電流指令ベクトル(例えば電流指令ベクトルA1)を用いてモータ1の駆動制御を行えば、モータ1に発生するであろう誘起電圧が当該電流指令ベクトルA1に関連付けられた抑制後誘起電圧V1の値に抑制される。この事実を利用して、本実施形態に係るモータ制御装置Cは、回転数検出部6で検出した回転数Nref及びトルク指令Tref(Tref´)を第1電流指令ベクトル決定部2aに入力し、第1電流指令ベクトル2aにより、誘起電圧情報としてメモリMe1に記憶されている多数の電流指令ベクトルのうち、入力値である回転数Nref及びトルク指令Tref(Tref´)に関連付けられた複数の電流指令ベクトルを特定し、さらに、これら複数の電流指令ベクトルのうち、電流指令ベクトルの向きに応じた抑制電流成分によって抑制された後の誘起電圧を電圧検出部7で検出される電源電圧Vbatよりも小さくする方向に抑制するという条件(以下、「電源電圧補償条件」と称す)を満たす電流指令ベクトルを決定する。
【0039】
ここで、誘起電圧情報において、第1電流指令ベクトル決定部2aへの入力値(回転数Nref、トルク指令Tref(Tref´))に関連付けられ、且つ電源電圧補償条件を満たす電流指令ベクトルは複数存在し得るが、本実施形態では、第1電流指令ベクトル決定部21aにより、これら複数の電流指令ベクトルのうち、抑制電流成分が最も小さくなる電流指令ベクトルを「第1電流指令ベクトルAv」として決定する。具体例を示すと、電源電圧Vbatが十分に高い場合、例えば図8に示すように、誘起電圧情報において第1電流指令ベクトル決定部2aへの入力値(回転数Nref、トルク指令Tref(Tref´))に関連付けられ、且つ電源電圧補償条件を満たす電流指令ベクトルとして電流指令ベクトルA1,A2,A3,A4が該当するケースでは、第1電流指令ベクトル決定部2aにより、これらのうち抑制電流成分が最も小さくなる電流指令ベクトルA1を第1電流指令ベクトルAvとして決定する。また、電源電圧Vbatが低い場合、例えば図9に示すように、誘起電圧情報において第1電流指令ベクトル決定部2aへの入力値(回転数Nref、トルク指令Tref(Tref´))に関連付けられ、且つ電源電圧補償条件を満たす電流指令ベクトルとして電流指令ベクトルA3,A4が該当するケースでは、第1電流指令ベクトル決定部2aにより、これらのうち抑制電流成分が最も小さくなる電流指令ベクトルA3を第1電流指令ベクトルAvとして決定する。
【0040】
本実施形態では、このような第1電流指令ベクトル決定部2aを、電源電圧補償位相角算出ブロック21を用いて構成している。
【0041】
電源電圧位相角算出ブロック21は、図2に示すように、実機を用いた実測によって得た誘起電圧情報を内部のメモリMe1に記憶しており、誘起電圧情報における複数の電流指令ベクトルに関する情報のうち、第1電流指令ベクトル決定部2aで決定すべき第1電流指令ベクトルAv、すなわち、入力値(トルク指令Tref(Tref´)、回転数Nref、電源電圧Vbat)に関連付けられ、且つ電源電圧補償条件を満たす複数の電流指令ベクトルうち抑制電流成分が最も小さくなる電流指令ベクトルの向きを示す電源電圧補償位相角βvを算出するものである。また、電源電圧位相角算出ブロック21は、入力値に基づいて算出した電源電圧補償位相角βvを後述する比較部23に出力する。この入出力関係を簡単に下記に示す。
電源電圧補償位相角βv=fβv(トルクTref(Tref´),回転数Nref,電源電圧Vbat)
【0042】
また、本実施形態のモータ制御装置Cは、効率が最大となる電流指令ベクトルを電流指令生成部2で生成するという要求に対応すべく、電流指令生成部2として第2電流指令ベクトル決定部2bを有するものを適用している。
【0043】
この第2電流指令ベクトル決定部2bは、効率情報を記憶させたメモリMe2を有する。効率情報は、図10に示すように、回転数N1及びトルクT1を維持した状態で電流指令ベクトルAの向き(位相角β)を異ならせて向きの異なる複数の電流指令ベクトル毎に効率を測定し、測定値の中から効率が最大となる電流指令ベクトルに関する情報(電流指令ベクトル自体や、電流指令ベクトルの向きを示す位相角等)を回転数及びトルクに関連付けた情報である。本実施形態では、このような効率情報を実測値に基づいて予め設定し、メモリMe2に記憶している。
【0044】
効率情報を設定するために行う実機を用いた測定は、回転数やトルク、誘起電圧、電源電圧が定常状態又は定常状態とみなせる状態で行う。具体的には、図10に模式的に示すように、実機を用いて或る回転数N1の下に所望のトルクT1を発生させる電流指令ベクトルA1を生成してモータを駆動し、この電流指令ベクトルA1による駆動時の効率e1をパワーメータ等の検出値から測定(推定)する。なお、或る回転数N1の下に所望のトルクT1を発生させる電流指令ベクトルは図10の曲線Wで示すように多数存在するが、同図等では説明の簡略化のため、一部の電流指令ベクトル(図時例ではA1,A2,A3,A4)のみを示している。図10に示すように、或る回転数N1の下、或るトルクT1を発生させる複数の電流指令ベクトルA1,A2,A3,A4の向きはそれぞれ位相角β1,β2,β3,β4であり、各々の電流指令ベクトルA1,A2,A3,A4によるモータの駆動時に実測(測定)した効率はe1,e2,e3,e4である。そして、図11に示すように、測定値の近似線Lに基づき、測定値を近似した効率が最大となる電流指令ベクトルAbaseが例えば電流指令ベクトルA2である場合、電流指令ベクトルに関する情報を位相角として簡易化すると、効率情報は、トルクT1、回転数N1、及び効率が最大となる電流指令ベクトルAbase(A2)の位相角βbase(β2)を相互に関連付けたテーブル等で示すことができる。
【0045】
そして、効率情報として記憶させた電流指令ベクトルAbaseを用いてモータ1の駆動の制御を行うことにより、推測が困難な鉄損を始めとして銅損、メカロス、FET損等を含めたシステム全体での効率が最大となる。この事実を利用して、本実施形態に係るモータ制御装置Cは、回転数検出部6で検出した回転数Nref及びトルク指令Tref(Tref´)を第2電流指令ベクトル決定部2bに入力し、第2電流指令ベクトル決定部2bにより、効率情報において回転数Nref及びトルク指令Tref(Tref´)に関連付けられた電流指令ベクトルを第2電流指令ベクトルAbaseとして決定する。
【0046】
本実施形態では、このような第2電流指令ベクトル決定部2bを、効率電流位相角算出ブロック22を用いて構成している。
【0047】
効率電流位相角算出ブロック22は、図2に示すように、実機を用いた実測によって得た効率情報を内部のメモリMe2に記憶しており、効率情報における複数の電流指令ベクトルに関する情報のうち、第2電流指令ベクトル決定部2bで決定すべき第2電流指令ベクトルAbase、すなわち、入力値(トルク指令Tref(Tref´)、回転数Nref)に関連付けられた電流指令ベクトルの向きを示す効率電流位相角βbaseを算出するものである。また、効率電流位相角算出ブロック22は、入力値に基づいて算出した効率電流位相角βbaseを、選択された運転モードに応じて後述する比較部23に出力したり、または後述する電流指令生成ブロック24に出力する。この入出力関係を簡単に下記に示す。
効率電流位相角βbase=fβbase(トルクTref,回転数Nref)
【0048】
ここで、誘起電圧情報や効率情報における電流指令ベクトルに関する情報を位相角として簡易化することができるが、この位相角に関連付けられている項目はトルクや回転数等と多岐に亘り、これらトルク、回転数及び位相角の値は多数あるので、実測値が膨大となる。そこで、本実施形態のモータ制御装置Cは、電流指令ベクトルに関する情報を離散データとして予めメモリMe1,Me2に記憶させておき、離散データから条件に合致する電源電圧補償位相角βv、効率電流位相角βbaseを演算により補間して求めるように構成している。
【0049】
この演算の一例として、離散データから直線補間で位相角βを演算により求めることが挙げられる。例えば、図12に示すように、電源電圧Vbat、トルク指令Tref及び回転数Nrefに関連付けられた電源電圧補償位相角βvを離散データDdから算出するにあたり、トルクTrefの前後値であるトルクT1,T2、及び回転数Nrefの前後値である回転数N1,N2を取得する。ここでは、入出力関係を「出力=f(入力)」として簡易に示す。
前後値であるトルクT1,T2=fT_table(トルクTref)
前後値である回転数N1,N2:=fN_table(回転数Nref)
次に、取得した前後値であるトルクT1,T2、及び回転数N1,N2の四つ組合せ{T1,N1}、{T1,N2}、{T2,N1}、{T2,N2}に関連付けられた電源電圧補償位相角βv11,βv12,βv21,βv22をそれぞれ誘起電圧情報テーブルから取得する。
電源電圧補償位相角βv11=fβv_table(T1,N2)
電源電圧補償位相角βv12=fβv_table(T1,N2)
電源電圧補償位相角βv21=fβv_table(T2,N1)
電源電圧補償位相角βv22=fβv_table(T2,N2)
続けて、取得した電源電圧補償位相角βv11,βv12,βv21,βv22からβvを直線補間で求めるための補間係数X11,X12,X21,X22をトルクTref,T1,T2及び回転数Nref,N1,N2に基づいて算出する。
補間係数X11=fx11(Tref,T1,T2,Nref,N1,N2)
補間係数X12=fx12(Tref,T1,T2,Nref,N1,N2)
補間係数X21=fx21(Tref,T1,T2,Nref,N1,N2)
補間係数X22=fx22(Tref,T1,T2,Nref,N1,N2)
そして、補間係数X11,X12,X21,X22及び電源電圧補償位相角βv11,βv12,βv21,βv22から電源電圧補償位相角βvを算出する。
電源電圧補償位相角βv=βv11×X11+βv12×X12+βv21×X21+βv22×X22
なお、電源電圧補償位相角βvを求める演算と同様の演算処理で効率電流位相角βbaseを求めることができる。また、本実施形態では直線補間を用いているが、演算方法は直線補間に限定されるものではない。
【0050】
さらに、本実施形態に係るモータ制御装置Cでは、図2に示すように、電流指令生成部2に、電源電圧位相角ブロック21で決定した第1電流指令ベクトルの抑制電流成分と効率電流位相角算出ブロック22で決定した第2電流指令ベクトルの抑制電流成分とを比較する比較部23と、後述する電流位相角指令βrefに基づく位相角の電流指令ベクトルを示すd軸電流指令Id及びq軸電流指令Iqを生成する電流指令生成ブロック24とをさらに備えている。
【0051】
比較部23は、第1電流指令ベクトル決定部2aで決定した第1電流指令ベクトルAvの抑制電流成分と、第2電流指令ベクトル決定部2bで決定した第2電流指令ベクトルAbaseの抑制電流成分とを比較し、抑制電流成分が大きい方の電流指令ベクトルの位相角(電源電圧補償位相角βvまたは効率電流位相角βbaseのいずれか一方の位相角)を電流位相角指令βrefとして電流指令生成ブロック24に出力するものである。本実施形態では、電流指令ベクトルの向きを示す位相角が電流指令ベクトルとq軸とのなす角度であり、0乃至90度範囲において位相角が大きくなるほど抑制電流成分が増大することを利用して、比較部23によって、電源電圧位相角ブロック21で算出した電源電圧補償位相角βvと、効率電流位相角算出ブロック22で算出した効率電流位相角βbaseとを比較し、大きい方の位相角(電源電圧補償位相角βvまたは効率電流位相角βbaseのいずれか一方の位相角)を電流位相角指令βrefとして電流指令生成ブロック24に出力するように構成している。
【0052】
また、本実施形態では、運転モードとしてトルク出力優先モードが選択された場合にのみ、この比較部23で、電源電圧位相角算出ブロック21で決定した電源電圧補償位相角βvと、効率電流位相角算出ブロック22で決定した効率電流位相角βbaseとを比較するように構成している。
【0053】
電流指令生成ブロック24は、入力された電流位相角指令βrefが示すベクトルの方向を向き、且つトルク指令Tref(Tref´)に応じたトルクを発生させる電流指令ベクトルを示すd軸電流指令Id及びq軸電流指令Iqを生成するものである。ここで、電流指令生成ブロック24に入力される電流位相角指令βrefは、運転モードとしてトルク出力優先モードが選択された場合には、比較部23から出力される電流位相角指令βref、すなわち、電源電圧補償位相角βvまたは効率電流位相角βbaseのうち大きい方の位相角(第1電流指令ベクトルAvまたは第2電流指令ベクトルAbaseのうち抑制電流成分が大きい方の電流指令ベクトルの向きに対応する位相角)を示す電流位相角指令βrefであり、運転モードとして効率優先モードが選択された場合には、比較部23を経由することなく効率電流位相角算出ブロック22から出力される効率電流位相角βbaseを示す電流位相角指令βrefである(図2参照)。具体的に、この電流指令生成ブロック24でd軸電流指令Id及びq軸電流指令Iqを生成(算出)する方法としては以下のものを挙げることができる。モータの極対数q及び誘起電圧定数Keが既知であることから、まず以下の関数より磁束φを算出し、算出した磁束φ、既知のd軸のインダクタンスLd、q軸のインダクタンスLqを用いて電流指令ベクトルAの大きさ|A|を算出する。
磁束φ=fφ(Ke,q)
電流指令ベクトルAの大きさ|A|=fA(Tref,βref,q,Ld,Lq,φ)
そして、電流指令ベクトルAの大きさ|A|が求まると、ベクトルAの位相角βrefは既知であることから、下記のような関数を用いてd軸電流指令Id及びq軸電流指令Iqを算出する。
d軸電流指令Id=|A|×sinβref
q軸電流指令Iq=|A|×cosβref
【0054】
また、本実施形態に係るモータ制御装置Cは、図2に示すように、電流指令生成部2において、電源電圧補償位相角算出ブロック21及び効率電流位相角算出ブロック22よりも上位に、運転モードに応じてトルク指令制限値Tlimitを選択するトルク制限値選択ブロック25と、トルククランプ部26とを設けている。
【0055】
図2に示すように、トルク制限値選択ブロック25には、回転数検出部6で検出したモータ1の回転数Nref及び電圧検出部7で検出した電源電圧Vbatが入力される。そして、本実施形態のモータ制御装置Cは、トルク出力優先モードが選択されている場合、トルク制限値選択ブロック25によって、トルククランプテーブルとして外部から指示されたトルク指令Trefに応じたトルクの発生を許可するトルククランプテーブルTct1を選択する一方で、効率優先モードが選択されている場合には、トルククランプテーブルとして外部から指示されたトルク指令Trefに応じたトルク出力を制限するトルククランプテーブルTct2を選択するように構成している。また、トルク制限値選択ブロック25は、選択したトルククランプテーブルに応じたトルク指令制限値Tlimitをトルククランプ部26に出力する。
【0056】
トルククランプ部26は、外部から指示されたトルク指令Trefにトルク制限値選択ブロック25から出力されたトルク指令制限値Tlimitを対応付け、この対応付けたトルク指令Tref´を、電源電圧補償位相角算出ブロック21、効率電流位相角算出ブロック22、及び電流指令生成ブロック26に出力するものである。トルク出力優先モードが選択された場合、トルク指令Tref´は外部から指示されたトルク指令Trefと同等のものであるが、効率優先モードが選択された場合、トルク指令Tref´は外部から指示されたトルク指令Trefによるトルク出力を制限するものである(図2参照)。
【0057】
次に、このように構成した本実施形態に係るモータ制御装置Cの動作を、本実施形態に係るモータ制御プログラムと共に説明する。なお、本実施形態に係るモータ制御プログラムは、モータ制御装置Cに備えた演算機能等を有する図示しない制御部に以下に述べる各ステップを実行させるものであり、内部メモリやHDDなど外部記憶装置等の適宜の記憶領域(図示省略)に記憶されたものである。以下では、特に電流指令生成部2に着目して本実施形態のモータ制御装置Cの動作及びモータ制御プログラムについて図13を参照しながら説明する。
【0058】
本実施形態に係るモータ制御プログラムは、選択された運転モード(トルク出力優先モード又は効率優先モード)に応じてトルク出力優先モード実行ステップ又は効率優先モード実行ステップを制御部に選択的に実行させる。図13では、説明の便宜上、トルク出力優先モード(パワーモード)が選択されている場合の処理手順(トルク出力優先モード実行ステップ)を示す線と、効率優先モード(エコモード)が選択されている場合の処理手順(効率優先モード実行ステップ)を示す線とを異ならせている(効率優先モード実行ステップをトルク出力優先モード実行ステップよりも相対的に太い線で示す)。
【0059】
ここで、何れの運転モードが選択されているかという判別処理は、人(運転者等)が行う適宜の操作(例えばボタンやスイッチ、或いはタッチパネル等の入力デバイスに対して行う操作)に基づいて行われるようにしてもよいし、人の意思に関わらず、ある検出値(電源電圧や、トルク指令と応答の偏差等)が所定の条件を満たすか否かに基づいてモータ制御装置C自体が自動的に行うようにしてもよい。
【0060】
先ず、本実施形態のモータ制御装置Cは、トルク出力優先モード(パワーモード)が選択された場合に、トルク制限値選択ブロック25で所望の定格トルク出力を許可するトルククランプテーブルTct1を選択し(クランプテーブル選択ステップS1、図13参照)、このトルククランプテーブルTct1に基づくトルク指令制限値Tlimitを出力する(トルク指令制限値出力ステップS2)。次いで、本実施形態のモータ制御装置Cは、外部から指示されたトルク指令Trefに、トルク制限値選択ブロック25で選択したトルククランプテーブルTct1に基づくトルク指令制限値Tlimitをトルククランプ部26によって対応付け、この対応付けたトルク指令(トルク指令制限値対応済みトルク指令)Tref´を電源電圧位相角算出ブロック21、効率電流位相角算出ブロック22、電流指令生成ブロック24に出力する(トルク指令制限値対応済みトルク指令出力ステップS3)。
【0061】
引き続いて、モータ制御装置Cは、第1電流指令ベクトル決定部2aにより、メモリMe1に誘起電圧情報として記憶されている複数の電流指令ベクトルのうち、入力値(トルク指令Tref(Tref´)、回転数Nref、電源電圧Vbat)に関連付けられ、且つ電源電圧補償条件を満たす複数の電流指令ベクトルうち抑制電流成分が最も小さくなる第1電流指令ベクトルAvを決定する(第1電流指令ベクトル決定ステップS4)。本実施形態では、第1電流指令ベクトル決定ステップS4を、第1電流指令ベクトル決定部2aを構成する電源電圧位相角算出ブロック21によって第1電流指令ベクトルAvの向きを示す電源電圧補償位相角βvを算出する電源電圧補償位相角算出ステップで実現している。
【0062】
また、モータ制御装置Cは、第2電流指令ベクトル決定部2bにより、メモリMe2に効率情報として記憶されている複数の電流指令ベクトルのうち、入力値(トルク指令Tref´及び回転数Nref)に関連付けられた第2電流指令ベクトルAbaseを決定する第2電流指令ベクトル決定ステップS5)。本実施形態では、第2電流指令ベクトル決定ステップS5を、第2電流指令ベクトル決定部2bを構成する効率電流位相角算出ブロック22によって第2電流指令ベクトルAbaseの向きを示す効率電流位相角βbaseを算出する効率電流位相角算出ステップで実現している。
【0063】
次いで、本実施形態のモータ制御装置Cは、電源電圧位相角算出ブロック21で算出した電源電圧補償位相角βv、及び効率電流位相角算出ブロック22で算出した効率電流位相角βbaseを各ブロック21,22から比較部23に出力する(電源電圧補償位相角対比較部出力ステップS6、効率電流位相角対比較部出力ステップS7)。すると、このモータ制御装置Cは、比較部23において、電源電圧補償位相角βvと効率電流位相角βbaseとを比較し(比較ステップS8)、大きい方の位相角を選択し、この選択した位相角を示す指令電流位相角指令βrefを電流指令生成ブロック24に出力する(電流位相角指令出力ステップS9)。
【0064】
ここで、比較ステップS8、電流位相角指令出力ステップS9での処理を図8及び図9を参照して説明する。これらの図では、説明の便宜上、多数の電流指令ベクトルのうち、一部のベクトル(A1,A2,A3,A4)のみを示し、抑制後誘起電圧を電源電圧Vbatよりも小さく抑制することができる範囲を斜線で模式的に示す。図8は、モータ1が或る一定の回転数N1で高速回転して或るトルクT1を出力する状態で、電源電圧Vbatが十分に高い場合において、電流指令ベクトルA1が第1電流指令ベクトルAvに該当し、電流指令ベクトルA2が第2電流指令ベクトルAbaseに該当する場合を示すものであり、図9は、電源電圧Vbatが低い場合おいて、電流指令ベクトルA3が第1電流指令ベクトルAvに該当し、電流指令ベクトルA2が第2電流指令ベクトルAbaseに該当する場合を示すものである。
【0065】
そして、電源電圧Vbatが十分に高い場合、比較ステップS8では、電源電圧補償位相角βv(β1)と効率電流位相角βbase(β2)とを比較部23で比較して、相対的に大きい位相角である効率電流位相角βbase(β2)を選択し、電流位相角指令出力ステップS9では、この効率電流位相角βbase(β2)を示す電流位相角指令βrefを電流指令生成ブロック24に出力する。
【0066】
一方、電源電圧Vbatが低い場合、比較ステップS8では、電源電圧補償位相角βv(β3)と効率電流位相角βbaseとを比較部23で比較して、相対的に大きい位相角である電源電圧補償位相角βv(β3)を選択し、電流位相角指令出力ステップS9では、この電源電圧補償位相角βv(β3)を示す電流位相角指令βrefを電流指令生成ブロック24に出力する。
【0067】
次いで、本実施形態のモータ制御装置Cは、比較部23から電流指令生成ブロック24へ出力した電流位相角指令βrefに基づき、電流指令生成ブロック24でこの電流位相角指令βrefに対応する電流指令ベクトルを示すd軸電流指令Id及びq軸電流指令Iqを生成し(電流指令生成ステップS10、図13参照)、これらd軸電流指令Id及びq軸電流指令Iqを電流制御部3に出力する(電流指令出力ステップS11)。その結果、本実施形態のモータ制御装置Cは、電流位相角指令βrefに対応する電流指令ベクトルでモータ1の駆動を制御することができる。したがって、例えば図8に示す電源電圧Vbatが十分に高い場合には、電流指令生成ブロック24で効率電流位相角βbase(β2)に対応する電流指令ベクトルAbase(A2)を示すd軸電流指令Id及びq軸電流指令Iqを生成し、効率電流位相角βbase(β2)に対応する電流指令ベクトルAbase(A2)でモータ1の駆動を制御することになる。一方、図9に示す電源電圧Vbatが低い場合には、電流指令生成ブロック24で電源電圧補償位相角βv(β3)に対応する電流指令ベクトルAv(A3)を示すd軸電流指令Id及びq軸電流指令Iqを生成し、電源電圧補償位相角βv(β3)に対応する電流指令ベクトルAbase(A3)でモータ1の駆動を制御することになる。
【0068】
このように、本実施形態のモータ制御装置Cは、トルク出力優先モード(パワーモード)が選択された場合、外部から指定されたトルク指令Trefに対応する所望の定格トルクを出力することができる。特に、トルク出力優先モード時に、誘起電圧を抑制する範囲内(図8及び図9に示す斜線領域)に効率が最大となる第2電流指令ベクトルAbase(効率電流位相角βbase)がない場合(図9参照)、すなわち最大効率となる電流指令ベクトルAbaseの抑制電流成分が誘起電圧を抑制するために不十分な場合には、第1電流指令ベクトルAv(電源電圧補償位相角βv)を用いてモータ1の駆動制御を行うことにより、誘起電圧を適切に抑制することができ、所望のトルク出力を発揮しつつ、誘起電圧が電源電圧Vbatを超えて制御破綻に至ることを的確に防止することが可能である。
【0069】
さらに、本実施形態のモータ制御装置Cは、トルク出力優先モード(パワーモード)が選択された場合において、誘起電圧を抑制する範囲内に効率が最大となる第2電流指令ベクトルAbase(効率電流位相角βbase)がある場合(図8参照)、すなわち最大効率となる電流指令ベクトルA2(Abase)の抑制電流成分が誘起電圧を抑制するために十分な場合には、第2電流指令ベクトル決定部2bで求めた最大効率となる電流指令ベクトルA2(Abase)によってモータ1の制御を行うことができる。つまり、トルク出力優先モード時に要求される条件、制御破綻に陥ることなく所望の定格トルクを出力するという条件を満たすとともに、トルク出力優先モードでありながら、効率優先モード時に要求される条件、システム全体の効率が最大となるという条件をも満たすことができる。したがって、トルク指令Tref(Tref´)、回転数Nref及び電源電圧Vbatに応じて制御破綻を防止しつつリアルタイムで最大効率となるモータ制御を実現することが可能となる。
【0070】
次に、運転モードとして効率優先モード(エコモード)が選択された場合について説明する。本実施形態のモータ制御装置Cは、効率優先モードが選択された場合、トルク制限値選択ブロック25に入力される回転数Nref及び電源電圧Vbatに基づき、トルク制限値選択ブロック25で所望の定格トルク出力を制限するトルククランプテーブルTct2を選択し(クランプテーブル選択ステップS1、図13参照)、このトルククランプテーブルTct2に基づくトルク指令制限値Tlimitを出力する(トルク指令制限値出力ステップS2)。
【0071】
そして、本実施形態のモータ制御装置Cは、外部から指示されたトルク指令Trefに、トルク制限値選択ブロック25で選択したトルククランプテーブルTct2に基づくトルク指令制限値Tlimitをトルククランプ部26によって対応付け、この対応付けたトルク指令Tref´を効率電流位相角算出ブロック22、電流指令生成ブロック24に出力する(トルク指令制限値対応済みトルク指令出力ステップS3)。ここで、効率優先モード時におけるトルク指令Tref´は、定格出力トルクを制限するトルク指令である。
【0072】
引き続いて、モータ制御装置Cは、第2電流指令ベクトル決定部2bにより、メモリMe2に効率情報として記憶されている複数の電流指令ベクトルのうち、入力値(トルク指令Tref´及び回転数Nref)に関連付けられた第2電流指令ベクトルAbaseを決定する第2電流指令ベクトル決定ステップS5)。本実施形態では、第2電流指令ベクトル決定ステップS5を、第2電流指令ベクトル決定部2bを構成する効率電流位相角算出ブロック22によって第2電流指令ベクトルAbaseの向きを示す効率電流位相角βbaseを算出する効率電流位相角算出ステップで実現している。そして、本実施形態のモータ制御装置Cは、効率優先モードが選択された場合には、効率電流位相角算出ブロック22で算出した効率電流位相角βbaseを比較部23に出力するステップ(効率電流位相角対比較部出力ステップS7)を経ることなく、効率電流位相角算出ブロック22で算出した効率電流位相角βbaseを示す指令を電流位相角指令βrefとして電流指令生成ブロック24に出力する(電流位相角指令出力ステップS9)。
【0073】
次いで、本実施形態のモータ制御装置Cは、効率電流位相角算出ブロック22から電流指令生成ブロック24へ入力した電流位相角指令βrefに基づき、電流指令生成ブロック24で電流位相角指令βrefに対応する電流指令ベクトルを示すd軸電流指令Id及びq軸電流指令Iqを生成し(電流指令生成ステップS10)、これらd軸電流指令Id及びq軸電流指令Iqを電流制御部3に出力する(電流指令出力ステップS11)。ここで、効率優先モード時における電流位相角指令βrefは画一的に効率電流位相角βbaseを示す指令であるため、効率電流位相角βbaseに対応する電流指令ベクトルAbaseでモータ1の駆動を制御することができる。
【0074】
このように、本実施形態のモータ制御装置Cは、効率優先モード(エコモード)が選択された場合、トルク制限をかけて、システム全体の効率が最大となる効率電流位相角βbaseに対応する電流指令ベクトルAbaseによってモータ1の制御を行うことができ、最大効率となるモータ制御を実現することが可能となる。しかも、実測値に基づく誘起電圧や効率情報を用いているため、推測が困難な鉄損を始めとしてメカロス、FET損などを含めたシステム全体での効率を最大とすることが可能となる。特に電源がバッテリである場合は、最大効率によりコンパクト化や長時間駆動を更に追求するうえで有用である。
【0075】
次に、このような作用効果を奏する本実施形態に係るモータ制御装置Cの動作について図14を参照しながら説明する。
【0076】
回転数Nrefや電源電圧Vbat(特にバッテリ電圧)の変動により、電圧制限円(電圧制限楕円とも称される)が狭まった場合、例えば電圧制限円が図14においてそれぞれ鎖線で示す変動前電圧制限円Vs1から変動後電圧制限円Vs2に変動した場合に、本実施形態に係るモータ制御装置Cは、効率よりも所望の定格トルク出力(同図にはトルク出力が10Nmである定トルク曲線Wt1を示している)を優先するトルク出力優先モード時、所望の定格トルク出力を示す定トルク曲線Wt1と変動後電圧制限円Vs2との交点Pxを向く電流指令ベクトルAx、つまり、電圧不足によって制御不能に陥ることなく所望の定格トルクを出力可能な電流指令ベクトルAxでモータ1の駆動を制御する。ここで、電圧制限円が変動前電圧制限円Vs1である場合において、定トルク曲線Wt1と変動前電圧制限円Vs1と最大効率曲線Weとの交点Psを向く電流指令ベクトルAsの位相角を基準位相角βsとすると、トルク出力優先モード時にモータ1の駆動を制御する電流指令ベクトルAxの位相角βxは基準位相角βsよりも大きいものである。
【0077】
このように、本実施形態のモータ制御装置Cは、電圧制限円が小さくなった場合において、トルク出力優先モード(パワーモード)が選択されれば、電気的に破綻することを防止するために位相角を増やして可能な限り定格トルクを出力できるようにモータ1の駆動を制御することができる。
【0078】
一方、本実施形態に係るモータ制御装置Cは、電圧制限円が狭まった場合において、効率優先モード(エコモード)が選択されれば、所望の定格トルク(例えば10Nm)に制限がかかったトルクを示す定トルク曲線Wt2(同図には一例としてトルク出力が5Nmである定トルク曲線Wt2を示している)と変動後電圧制限円Vs2と最大効率曲線We(効率が最大となるベクトルの先端を示す曲線)との交点Pyを向く電流指令ベクトルAyでモータ1の駆動を制御する。その結果、効率が最大となる制御を行うことができる。
【0079】
このように、本実施形態のモータ制御装置Cは、電圧制限円が縮小した場合において、効率優先モードが選択されれば、トルク制限を掛けることによって装置全体として可能な限り最大効率となるようにモータ1の駆動を制御することができる。
【0080】
したがって、このようなモータ制御装置Cによって、電動車両、特にフォークリフト等の作業車両にバッテリを搭載して電動化した車両(電動作業車両)のモータの駆動制御を行えば、負荷が大きく掛かる場合(例えばフォークに荷物を載せている場合や加速走行時等)にトルク出力優先モード(パワーモード)でモータ1の駆動を制御することによって、所望の定格トルクを出力することができ、負荷がさほど掛からない場合(例えばフォークに荷物を乗せずに走行する場合や定速走行時等)に効率優先モード(エコモード)でモータ1の駆動を制御することによって、従来よりもより一層省エネルギーで高効率な運転を実現できる。
【0081】
さらに、本実施形態のモータ制御装置Cは、誘起電圧情報において電源電圧補償条件を満たす電流指令ベクトルが複数存在する場合に、第1電流指令ベクトル決定部2Aにより、これら複数の電流指令ベクトルのうち抑制電流成分が最も小さくなる電流指令ベクトル(最も小さい位相角)を第1電流指令ベクトルAv(電源電圧補償位相角βv)として決定するように構成しているため、過不足ない抑制電流成分を作用させて誘起電圧に起因する制御破綻を適切に防止することが可能となる。しかも、電源電圧Vbatの変化に合わせて抑制電流成分を過不足なく作用させるので、例えば図9のような場合は効率を向上させることができる場合がある。
【0082】
加えて、本実施形態のモータ制御装置Cは、誘起電圧情報や効率情報のうち複数の電流指令ベクトルに関する情報は、これらの情報を離散的に表した離散データとして予め図2に示すメモリMe1,Me2にそれぞれ記憶させておき、第1電流指令ベクトル決定部2a、第2電流指令ベクトル決定部2bは、離散データからトルク指令Tref(Tref´)及び回転数Nref等の条件に関連付けられた電流指令ベクトルAv,Abaseを示す位相角βv、βbaseを演算により補間して求めるように構成しているため、実測値に基づく複数の電流指令ベクトルに関する情報を効果的に低減することができる。特に、本実施形態のように電流指令ベクトルに関する情報(位相角β)に対してトルクや回転数等の多数の条件を関連付けている場合には、条件の追加に伴い実測値が膨大に増えるので、情報量を低減してメモリ使用量を削減する意味で有用となる。
【0083】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではない。
【0084】
例えば、運転モードを自動的に選択可能な運転モード自動選択部を備えたモータ制御装置であってもよい。この場合、運転モード自動選択部としては、トルク指令と応答の偏差が大きいことを検出した場合(例えば加速中等)はトルク出力優先モード(パワーモード)を選択し、トルク指令と応答の偏差が小さいことを検出した場合(例えば定速走行中等)や電圧検出部によって電源電圧が所定の基準値以下に下がっていることを検出した場合には効率優先モード(エコモード)を選択するように構成したものを挙げることができる。
【0085】
また、運転モードとして、トルク出力優先モードと効率優先モードとの中間モード(1或いは複数)選択可能に構成しても構わない。このような3以上の運転モードを実現するには、運転モード毎に、電流位相角を増やすかトルク制限を掛けるかの重み付けを適宜変更すればよい。
【0086】
また、本実施形態では、第1電流指令ベクトル決定部で決定する第1電流指令ベクトルは、発生するであろう誘起電圧よりも電源電圧が小さくなるものであるが、電源電圧から所定値を引いた値、すなわち電源電圧に対応する電圧値が誘起電圧よりも小さくなる電流指令ベクトルを求めるように構成してもよい。このように構成すると、電源電圧と誘起電圧との間の電圧余裕度が大きくなるので、誘起電圧や電源電圧が変動しても制御を安定させることが可能となる。
【0087】
さらに、モータの温度を検出する温度検出部を設け、上述した効率情報および誘起電圧情報における複数の電流指令ベクトルに関する情報を、モータの温度に基づく実測値と当該モータ温度とを関連付けて予め設定し、第1電流指令ベクトル決定部及び第2電流指令ベクトル決定部をそれぞれ、効率情報および誘起電圧情報における温度検出部で検出したモータ温度を加えた条件に関連付けられた電流指令ベクトルを求めるように構成してもよい。このように構成すると、モータ温度を加味した実測値に基づく電流指令ベクトルを用いて通電制御を行うので、モータ温度による磁束及び誘起電圧の変化を加味してより一層制御精度を向上させることが可能となる。
【0088】
加えて、本実施形態では、電源電圧補償位相角を算出する電源電圧補償位相角算出ブロックによって第1電流指令ベクトル決定部を実現し、効率電流位相各を算出する効率電流位相角ブロックによって第2電流指令ベクトル決定部を実現した態様を例示したが、効率情報及び誘起電圧情報の構成によっては電流指令ベクトルを示すd軸電流指令及びq軸電流指令を直接求めるように構成することもできる。
【0089】
また、効率情報や誘起電圧情報を記憶するメモリに余裕があれば実測値をそのまま記憶して、回転数等の条件に関連付けられた実測値をそのまま用いるように構成してもよい。さらに、本実施形態では、効率情報や誘起電圧情報を示す離散データから演算により補間して近似値を求めるように構成しているが、この演算を行わずに回転数等の条件に関連付けられた離散値を用いるように構成してもよい。このように構成すると、ある程度の誤差を含むものの有効な値を得ることが可能である。
【0090】
また、比較部を備えず、トルク出力優先モードが選択されている場合には、第1電流指令ベクトル決定部で決定した第1電流指令ベクトルでモータの駆動制御を行うようにしてもよい。
【0091】
本発明に係るモータ制御装置の制御対象となるモータは、突極性を有する同期モータであることが好ましく、例えば永久磁石式リラクタンスモータ等、IPMモータに限られない。
【0092】
また、高トルク出力を必要とし、且つバッテリを電源とするフォークリフトや電動乗用車等の電動車両のモータを本発明のモータ制御装置で制御すれば、運転モードに応じて高トルク出力を得ることができたり、高効率化を実現でき、稼働時間の向上やバッテリ簡素化による車両軽量化等を図ることが可能である。
【0093】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0094】
1…モータ
2a…第1電流指令ベクトル決定部
2b…第2電流指令ベクトル決定部
23…比較部
4…電源
6…回転数検出部
7…電圧検出部
Abase…第2電流指令ベクトル
Av…第2電流指令ベクトル
C…モータ制御装置
Id…抑制電流成分(d軸電流成分)
S…モータ制御システム
Tref,Tref´,T1…トルク指令
Nref,N1…回転数
V1,V2,V3,V4…誘起電圧(抑制後誘起電圧)
Vbat…電源電圧
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流指令ベクトルに応じた電流をモータに通電することによりモータの駆動を制御するモータ制御装置に係り、特に運転モードに応じて適切な電流指令ベクトルに従ってモータの駆動を制御するモータ制御装置、及びこのようなモータ制御装置とモータとを備えたモータ制御システム、さらにはこのようなモータ制御を行う際に用いられるモータ制御プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
所望のトルクを発生させる電流指令ベクトルを生成し、この電流指令ベクトルに対応する電流を電源からモータに通電することによってモータの駆動を制御するモータ制御装置として、効率化を図るべく、変動する電源電圧に応じて出力可能なトルクの最大値を制限するように構成されたものが知られている(特許文献1参照)。ここで、制御対象のモータが、IPM(Interior Permanent Magnet)モータ等の突極性を有する同期モータである場合、電流指令ベクトルは、IPMモータの三相各相に流す電流を、回転子に配置された永久磁石の磁束の方向であるd軸電流成分、及びこのd軸に直交するq軸電流成分の二つのベクトル成分に変換して、d軸電流成分及びq軸電流成分をこれらの合成ベクトルで表現したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3200885号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電動車両に搭載されてバッテリ電源で駆動するモータを制御する場合、バッテリ電源で駆動するという構成上の特徴から特に高効率化が求められている。しかしながら、特許文献1に開示されているようなモータの駆動制御は、定格トルクに対して何パーセントまでのトルク出力を許可するかを決めているに過ぎず、省エネルギーでの運転を期待する運転モードであっても、必ずしも効率が良いとは限らない。
【0005】
また、IPMモータ等の突極性を有する同期モータの出力トルクは、永久磁石により発生するマグネットトルクと、突極性に起因するリラクタンストルクとの総和であり、電流指令ベクトルの大きさが一定である場合には、出力トルクは電流指令ベクトルの向き(位相角)に応じて変化する。そして、突極性を有する同期モータの場合、或るトルクを出力するための電流指令ベクトルは多数存在し、モータの回転によって生じる誘起電圧を考慮しなければ、或るトルクを出力する電流指令ベクトルは、その先端が当該トルクの定トルク曲線(トルクが一定となる電流指令ベクトルの軌跡)上にあればどのような向きや大きさのものであってもよい。したがって、高いトルク出力を必要とする運転モード時では、所望の高トルクを出力できるという条件に該当する電流指令ベクトルであればどのような向きや大きさの電流指令ベクトルでモータの駆動を制御してもよいように思われる。
【0006】
しかしながら、誘起電圧を考慮した場合、所望のトルクを出力するという条件に該当する電流指令ベクトルであっても、その電流指令ベクトルの向きや大きさによっては、誘起電圧がモータへ印加可能な電源電圧よりも大きくなって制御破綻に陥るおそれがある。特に、電源電圧としてバッテリ電圧を適用した場合には、充放電により過渡的に電圧が変動したり、バッテリの経年劣化によって電圧が低下することが多く、高トルク出力を得るべくモータを高速回転させた際に、誘起電圧がモータへ印加可能なバッテリ電圧を超えて制御破綻に陥り易い。その結果、所望の高トルク出力を期待する運転モード(パワーモード)時に、所望の高トルクを得ることができないという事態が生じ得る。
【0007】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、その主たる目的は、効率を優先させたい運転モードでは、より一層の省エネルギー化、高効率化を実現できるとともに、高トルク出力を発生させたい運転モードでは、誘起電圧が電源電圧を超えることに起因する制御破綻を回避しつつ所望の高トルクを得ることが可能なモータ制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、回転により誘起電圧が発生するモータに対し、誘起電圧を抑える方向に作用する抑制電流成分がベクトルの向きに応じて変化する電流指令ベクトルをトルク指令に応じて生成し、この電流指令ベクトルに対応する電流を電源からモータに通電することによりモータの駆動を制御するモータ制御装置に関するものである。そして、本発明のモータ制御装置は、モータの回転数を検知する回転数検出部と、モータを駆動するための電源電圧を検知する電圧検出部と、第1電流指令ベクトル決定部と、第2電流指令ベクトル決定部とを備えている。
【0009】
ここで、第1電流指令ベクトル決定部は、或る回転数の下に所望のトルクを発生させ得る複数の電流指令ベクトルに関する情報と各々の電流指令ベクトルの向きに応じた抑制電流成分によって抑制された後の誘起電圧とを回転数毎に関連付けた誘起電圧情報を実測値に基づき予め設定して、この誘起電圧情報においてトルク指令と回転数検出部で検出した回転数とに関連付けられている複数の電流指令ベクトルのうち、当該電流指令ベクトルの向きに応じた抑制電流成分によって抑制された後の誘起電圧を電圧検出部で検出される電源電圧に対応する電圧値よりも小さくする方向に抑制する電流指令ベクトルを第1電流指令ベクトルとして決定するものである。
【0010】
また、第2電流指令ベクトル決定部は、或る回転数の下に所望のトルクを発生させ得る複数の電流指令ベクトルのうち効率が最大となる電流指令ベクトルに関する情報を回転数毎に関連付けた効率情報を実測値に基づき予め設定して、この効率情報においてトルク指令と回転数検出部で検出した回転数とに関連付けられた電流指令ベクトルを第2電流指令ベクトルとして決定するものである。
【0011】
そして、本発明のモータ制御装置は、効率よりも所望のトルク出力を優先するトルク出力優先モードが選択された場合、第1電流指令ベクトル決定部で決定した第1電流指令ベクトルによってモータの駆動を制御するように構成するとともに、所望のトルク出力を得ることよりも効率を優先する効率優先モードが選択された場合、第2電流指令ベクトル決定部で決定した第2電流指令ベクトルによってモータの駆動を制御するように構成していることを特徴としている。
【0012】
ここで、本発明において、「トルク出力優先モードまたは効率優先モードが選択された場合」とは、「運転者等の人の意志に基づいてトルク出力優先モードまたは効率優先モードが選択された場合」又は「運転者等の人の意志に関わらずモータ制御装置自体によってトルク出力優先モードまたは効率優先モードが自動的に選択された場合」、これら何れをも包含する意味である。また、「電流指令ベクトルに関する情報」としては、電流指令ベクトル自体や、あるいは電流指令ベクトルの向きを示す位相角等を挙げることができる。
【0013】
このようなモータ制御装置であれば、所望のトルク出力よりも効率を優先する効率優先モードが選択された場合、実測値に基づく効率情報を用いて第2電流指令ベクトル決定部で求めた第2電流指令ベクトルによってモータの駆動を制御することにより、推測が困難な鉄損を始めとしてメカロス、FET(Field Effect Transistor)損などを含めたシステム全体の効率が最大となり、リアルタイムで最大効率となるモータ制御を実現することが可能となる。そして、このように効率優先モードでは最大効率で制御可能になるため、特に電源がバッテリである場合には、駆動時間の長時間化、より一層の高効率化を図ることができる。
【0014】
一方で、本発明に係るモータ制御装置は、効率よりも所望のトルク出力を優先するトルク出力優先モードが選択された場合、予め実測値に基づき設定した誘起電圧情報において回転数とトルク指令とに関連付けられている複数の電流指令ベクトルのうち、この電流指令ベクトルの向きに応じた抑制電流成分によって抑制された後の誘起電圧を電源電圧に対応する電圧値より小さくする方向に抑制する第1電流指令ベクトルを決定し、このトルク、回転数及び誘起電圧を含めた実測値に沿った第1電流指令ベクトルによってモータの駆動を制御する。これにより、トルク指令、回転数及び電源電圧が変化する場合であっても実測に裏付けられた電流指令ベクトルを用いて回転数により変動する誘起電圧を適切に抑制することができ、可能な限り所望の高トルクの発生を確保しつつ、誘起電圧が電源電圧を超えて制御破綻に至ることを的確に防止することが可能となる。
【0015】
また、本発明に係るモータ制御装置では、第1電流指令ベクトルの抑制電流成分と第2電流指令ベクトルの抑制電流成分とを比較する比較部をさらに設けることができる。そして、比較部を設けたモータ制御装置において、効率優先モードが選択された時には、比較部で第1電流指令ベクトルの抑制電流成分と第2電流指令ベクトルの抑制電流成分とを比較することなく、第2電流指令ベクトルによってモータの駆動を制御するように構成する。また、トルク出力優先モードが選択された場合、比較部で第1電流指令ベクトルの抑制電流成分と第2電流指令ベクトルの抑制電流成分とを比較し、第1電流指令ベクトルの抑制電流成分が第2電流指令ベクトルの抑制電流成分よりも大きい場合には第1電流指令ベクトルによってモータの駆動を制御する一方で、第2電流指令ベクトルの抑制電流成分が第1電流指令ベクトルの抑制電流成分よりも大きい場合には第2電流指令ベクトルによってモータの駆動を制御するように構成することができる。
【0016】
このようなモータ制御装置であれば、トルク出力優先モード時に、比較部で第1電流指令ベクトルの抑制電流成分と第2電流指令ベクトルの抑制電流成分とを比較し、第1電流指令ベクトルの抑制電流成分が第2電流指令ベクトルの抑制電流成分よりも大きい場合、すなわち最大効率となる第2電流指令ベクトルの抑制電流成分が誘起電圧を抑制するために不十分である場合には、第1電流指令ベクトル決定部で求めた誘起電圧を抑制する第1電流指令ベクトルによってモータの制御を行うことによって、トルク指令、回転数及び電源電圧が変化する場合であっても実測に裏付けられた電流指令ベクトルを活用して回転数に応じて変動する誘起電圧を適切に抑制することができ、誘起電圧が電源電圧を超えて制御破綻に至ることを的確に防止しつつ、所望の定格トルクを出力することが可能となる。
【0017】
また、比較部で第1電流指令ベクトルの抑制電流成分と第2電流指令ベクトルの抑制電流成分とを比較し、第2電流指令ベクトルの抑制電流成分が第1電流指令ベクトルの抑制電流成分よりも大きい場合、すなわち最大効率となる第2電流指令ベクトルの抑制電流成分が誘起電圧を抑制するために十分である場合には、この第2電流指令ベクトルによってモータの制御を行うことにより、トルク出力優先モード時において、誘起電圧が電源電圧を超えて制御破綻に至ることを的確に防止しつつ、可能な限り所望の定格トルクを出力することができ、しかも、上述した効率優先モード時に得られる作用効果、つまり、リアルタイムでシステム全体の効率が最大となるモータ制御を実現できるという作用効果を得ることが可能となる。
【0018】
また、本発明のモータ制御システムは、上述したモータ制御装置と、このモータ制御装置の制御対象であるモータ、つまり回転により誘起電圧が発生するモータとを備えたものであることを特徴としている。このようなモータ制御システムであれば、上述したモータ制御装置に基づく種々の作用効果を発揮し、適切なモータの制御を行うことができる。
【0019】
また、このようなモータ制御を行う際に好適に用いられる本発明に係るモータ制御プログラムは、回転により誘起電圧が発生するモータに対し、誘起電圧を抑える方向に作用する抑制電流成分がベクトルの向きに応じて変化する電流指令ベクトルをトルク指令に応じて生成し、この電流指令ベクトルに対応する電流を電源からモータに通電することによりモータの駆動を制御するモータ制御装置を制御するためのものであり、第1電流指令ベクトルを決定する第1電流指令ベクトル決定ステップと、第2電流指令ベクトルを決定する第2電流指令ベクトル決定ステップとをモータ制御装置の制御部に実行させ、効率よりも所望のトルク出力を優先するトルク出力優先モードが選択された場合に第1電流指令ベクトルに従ったモータの駆動制御を行うトルク出力優先モード実行ステップと、所望のトルク出力を得ることよりも効率を優先する効率優先モードが選択された場合に第2電流指令ベクトルに従ったモータの駆動制御を行う効率優先モード実行ステップとの何れか一方のステップを制御部に選択的に実行させることを特徴としている。
【0020】
ここで、第1電流指令ベクトル決定ステップは、或る回転数の下に所望のトルクを発生させ得る複数の電流指令ベクトルに関する情報と各々の電流指令ベクトルの向きに応じた抑制電流成分によって抑制された後の誘起電圧とを回転数毎に関連付けた誘起電圧情報を実測値に基づき予め設定して、誘起電圧情報においてトルク指令とモータの回転数を検知する回転数検出部で検出した回転数とに関連付けられている複数の電流指令ベクトルのうち、電流指令ベクトルの向きに応じた抑制電流成分によって抑制された後の誘起電圧を、モータに印加可能な電源電圧を検知する電圧検出部で検出される電源電圧に対応する電圧値よりも小さくする方向に抑制する電流指令ベクトルである第1電流指令ベクトルを決定するステップである。また、第2電流指令ベクトル決定ステップは、或る回転数の下に所望のトルクを発生させ得る複数の電流指令ベクトルのうち効率が最大となる電流指令ベクトルに関する情報を回転数毎に関連付けた効率情報を実測値に基づき予め設定して、効率情報においてトルク指令と回転数検出部で検出した回転数とに関連付けられた電流指令ベクトルである第2電流指令ベクトルを決定するものである。
【0021】
このようなモータ制御プログラムであれば、選択された運転モードに応じてモータ制御装置の制御部に、トルク出力優先モード実行ステップ又は効率優先モード実行ステップとの何れか一方のステップを選択的に実行させることによって、モータ制御装置が上述した作用効果を発揮するようにモータの駆動制御を適切に行うことが可能となる。
【0022】
また、本発明のモータ制御プログラムにおいて、トルク出力優先モード実行ステップが、第1電流指令ベクトルの抑制電流成分と第2電流指令ベクトルの抑制電流成分とを比較する比較ステップを有し、比較ステップで第1電流指令ベクトルの抑制電流成分と第2電流指令ベクトルの抑制電流成分とを比較し、第1電流指令ベクトルの抑制電流成分が第2電流指令ベクトルの抑制電流成分よりも大きい場合には第1電流指令ベクトルに従ったモータの駆動制御を行い、第2電流指令ベクトルの抑制電流成分が第1電流指令ベクトルの抑制電流成分よりも大きい場合には第2電流指令ベクトルに従ったモータの駆動制御を行うようにすれば、高トルク出力を発生させたいトルク出力優先モードにおいて、省エネルギー化を図ることができ、上述した高効率なモータの駆動制御が可能となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、効率を優先させたい運転モードでは、より一層の省エネルギー化を実現できるとともに、高トルク出力を発生させたい運転モードでは、誘起電圧が電源電圧を超えることに起因する制御破綻を回避しつつ所望の高トルクを得ることができ、運転モードに応じて適切なベクトル制御が可能なモータ制御装置とその制御プログラム、及びモータ制御システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係るモータ制御装置の構成及び機能の概略ブロック図。
【図2】同実施形態に係る電流指令生成部の構成及び機能を示すブロック図。
【図3】同実施形態に係るモータ制御装置の制御対象となるIPMモータを模式的に示す図。
【図4】電流指令ベクトルに関する説明図。
【図5】電流指令ベクトルに関する説明図。
【図6】電流指令ベクトルの向きと出力トルクとの対応関係に関する説明図。
【図7】同実施形態に係るモータ制御装置の誘起電圧情報に関する説明図。
【図8】同実施形態において電源電圧が十分に高い場合のモータ制御装置の動作説明図。
【図9】同実施形態において電源電圧が低い場合のモータ制御装置の動作説明図。
【図10】同実施形態に係るモータ制御装置の効率情報に関する説明図。
【図11】同実施形態に係るモータ制御装置の効率情報に関する説明図。
【図12】同実施形態に係るモータ制御装置において電源電圧補償位相角を離散データから算出する原理図。
【図13】同実施形態に係るモータ制御装置のフローチャート。
【図14】同実施形態に係るモータ制御装置の動作説明図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。本実施形態に係るモータ制御装置Cは、図1に示すように、回転により誘起電圧が発生するモータ1に対し、誘起電圧を抑える方向に作用する抑制電流成分がベクトルの向きに応じて変化する電流指令ベクトルをトルク指令Tref(Tref´)に応じて生成し、この電流指令ベクトルに対応する電流を電源4からモータ1に通電することによりモータ1の駆動を制御するものである。
【0026】
ここで、本実施形態に係るモータ制御装置Cの制御対象であるモータ1は、突極性を有する同期モータであり、例えば図3に示すIPM(Interior Permanent Magnet)モータ1が好適である。IPMモータ1は、周知のとおり永久磁石11aを埋め込んだ回転子11と、三相交流を通電することにより回転磁界φ´を発生させる固定子12を備え、逆突極性を有する磁石内装型モータである。以下では、IPMモータ1を単に「モータ1」と称する。
【0027】
このモータ1に通電する三相の電流は、図3及び図4に示すように、永久磁石11aが発生する磁束の方向であるd軸電流成分Id及びd軸に直交するq軸電流成分Iqの二つの電流成分に変換して表現することができ、これら二つの電流成分の合成ベクトルを電流指令ベクトルAとして示すことができる。この電流指令ベクトルAの向きは、ベクトルAとq軸とのなす角度で表現でき、以下では、この角度を「電流位相角β」や単に「位相角β」と称する。このような突極性を有する同期モータ1とモータ制御装置Cと後述する電源4とによってモータ制御システムSを構成している。
【0028】
モータ制御装置Cは、図1に示すように、電流指令ベクトルを用いてモータ1の駆動を制御する装置であり、トルク指令Tref(Tref´)に応じたトルクをモータ1に発生させる電流指令ベクトルを示すd軸電流指令Id及びq軸電流指令Iqを生成する電流指令生成部2と、この電流指令生成部2で生成されたd軸電流指令Id及びq軸電流指令Iqに基づいて三相電流指令uvwを生成する電流制御部3と、電流制御部3で生成された三相電流指令uvwに応じた電流をバッテリ等の電源4からモータ1に通電する主回路部5と、モータ1の回転数Nrefを検出する回転数検出部6と、電源4からモータ1に印加可能な電源電圧Vbatを検知する電圧検出部7とを備えたものである。
【0029】
電流制御部3は、主回路部5からモータ1に通電される電流を電流検知部3aで検出し、検出した電流がd軸電流指令Id及びq軸電流指令Iqに対応する電流となるようにフィードバック制御を行うものである。また、主回路部5は、PWM制御を用いて三相電流指令uvwに応じた三相の電流を電源4からモータ1に通電するものである。ここで、電流制御部3、電源4(本実施形態ではバッテリ)、主回路部5、回転数検出部6、及び電圧検出部7は周知のものを適用することができ、構成及び動作の詳細な説明は省略する。
【0030】
電流指令生成部2は、トルク指令Tref(Tref´)に対応するトルクを発生させる電流指令ベクトルを示すd軸電流指令Id及びq軸電流指令Iqを生成するものである。特に、本実施形態の電流指令生成部2は、運転モードに応じて、所望の高トルクを発生させることが可能な電流指令ベクトルを示すd軸電流指令Id及びq軸電流指令Iqを生成したり、高効率運転を実現させ得る電流指令ベクトルを示すd軸電流指令Id及びq軸電流指令Iqを生成するものである。
【0031】
ここで、IPMモータ1等の突極性を有する同期モータの出力トルクは、図6に示すように、永久磁石11aにより発生するマグネットトルクと、突極性に起因するリラクタンストルクとの総和に等しく、電流指令ベクトルの大きさが一定である場合には、出力トルクはベクトルの向き(位相角β)に応じて変化する。トルク指令Tref(Tref´)を通じて要求される定格トルクを得るためには、この出力トルクの特性を考慮して電流指令ベクトルAの大きさと向きとを適切に決定する必要がある。
【0032】
このような適切な出力トルク制御に加えて、モータ1の回転により発生する誘起電圧は、モータ1の永久磁石11aが発生する磁束及びモータ1の回転数に比例して増大する。そして、この誘起電圧が、電源4からモータ1への通電に印加する電源電圧Vbatよりも高い場合には所望の電流を電源4からモータ1に供給することができず、制御不能となる。したがって、誘起電圧が電源電圧Vbatを超えないように抑制する必要がある。特に、電源4としてバッテリを適用した場合には、放充電や経年劣化等によって電源電圧Vbatに変動が生じ易いため、電源電圧(バッテリ電圧)Vbatの変動を考慮して誘起電圧を抑制する必要がある。
【0033】
誘起電圧を抑制する制御としては、図4に示すように、電流指令ベクトルAのうちd軸電流成分Idにより生じる磁束φdで永久磁石により生じる磁束φMGの一部を相殺して、相殺後の磁束(φMG−φd)を相殺前の磁束φMGよりも低減させることで誘起電圧を抑制する弱め磁束制御(誘起電圧補償制御)を挙げることができる。
【0034】
この弱め磁束制御は、電流指令ベクトルAの向きを示す位相角を例えば図4及び図5に示すように位相角βから位相角β´に変えると、誘起電圧を抑制する方向に作用する抑制電流成分であるd軸電流成分がIdからI´dに変化(図示例では増大)することを利用して、誘起電圧を抑制するに足りる抑制電流成分を確保するように位相角を制御するものである。上述したように、位相角の変化によって出力トルクも変化するため、所望のトルクを得ることができても誘起電圧の抑制に足りる抑制電流成分を確保できない電流指令ベクトルの向きや、逆に誘起電圧の抑制に足りる抑制電流成分を確保することができても所望のトルクを得ることができない電流指令ベクトルの向きがある。
【0035】
そこで、本実施形態のモータ駆動制御装置Cは、所望のトルクの発生と、変動する電源電圧Vbatを超えないように誘起電圧を抑制するに足りる抑制電流成分の確保とを両立できる電流指令ベクトルを生成すべく、電流指令生成部2として第1電流指令ベクトル決定部2aを有するものを適用している。
【0036】
この第1電流指令ベクトル決定部2aは、誘起電圧情報を記憶させたメモリMe1を有する。誘起電圧情報は、図7に示すように、回転数N1及びトルクT1を維持した状態で電流指令ベクトルの向き(位相角β)を異ならせて向きの異なる複数の電流指令ベクトル毎に誘起電圧を測定し、回転数、トルク、電流指令ベクトルに関する情報(電流指令ベクトルや、電流指令ベクトルの向きを示す位相角等)、及び当該電流指令ベクトルによる駆動時に電流指令ベクトルの向きに応じた抑制電流成分によって抑制された後の誘起電圧(以下、この誘起電圧を単に「抑制後の誘起電圧」または「抑制後誘起電圧」と称する場合がある)を相互に関連付けた情報である。本実施形態では、このような誘起電圧情報を実測値に基づいて予め設定し、メモリMe1に記憶させている。
【0037】
誘起電圧情報を設定するために行う実機を用いた測定は、回転数やトルク、誘起電圧、電源電圧が定常状態又は定常状態とみなせる状態で行う。具体的には、図7に模式的に示すように、実機を用いて或る回転数N1の下に所望のトルクT1を発生させる電流指令ベクトルA1を生成してモータを駆動し、この電流指令ベクトルA1による駆動時に電流指令ベクトルA1の向きに応じた抑制電流成分によって抑制された後の誘起電圧V1(抑制後誘起電圧V1)をパワーメータ等の検出値から測定(推定)する。なお、或る回転数N1の下に所望のトルクT1を発生させる電流指令ベクトルは図7の曲線Wで示すように多数存在するが、同図等では説明の簡略化のため、一部の電流指令ベクトル(図時例ではA1,A2,A3,A4)のみを示している。図7に示すように、或る回転数N1の下、或るトルクT1を発生させる複数の電流指令ベクトルA1,A2,A3,A4の向きはそれぞれ位相角β1,β2,β3,β4であり、各々の電流指令ベクトルA1,A2,A3,A4によるモータの駆動時に実測した誘起電圧(抑制後誘起電圧)はV1,V2,V3,V4である。この場合、電流指令ベクトルに関する情報を位相角として簡易化すると、誘起電圧情報は、トルクT1、回転数N1、位相角βi、及び誘起電圧(抑制後誘起電圧)Viを相互に関連付けたテーブル等で示すことができる(i=1〜Nであり、このNは実測したベクトルの数である)。
【0038】
そして、誘起電圧情報における電流指令ベクトル(例えば電流指令ベクトルA1)を用いてモータ1の駆動制御を行えば、モータ1に発生するであろう誘起電圧が当該電流指令ベクトルA1に関連付けられた抑制後誘起電圧V1の値に抑制される。この事実を利用して、本実施形態に係るモータ制御装置Cは、回転数検出部6で検出した回転数Nref及びトルク指令Tref(Tref´)を第1電流指令ベクトル決定部2aに入力し、第1電流指令ベクトル2aにより、誘起電圧情報としてメモリMe1に記憶されている多数の電流指令ベクトルのうち、入力値である回転数Nref及びトルク指令Tref(Tref´)に関連付けられた複数の電流指令ベクトルを特定し、さらに、これら複数の電流指令ベクトルのうち、電流指令ベクトルの向きに応じた抑制電流成分によって抑制された後の誘起電圧を電圧検出部7で検出される電源電圧Vbatよりも小さくする方向に抑制するという条件(以下、「電源電圧補償条件」と称す)を満たす電流指令ベクトルを決定する。
【0039】
ここで、誘起電圧情報において、第1電流指令ベクトル決定部2aへの入力値(回転数Nref、トルク指令Tref(Tref´))に関連付けられ、且つ電源電圧補償条件を満たす電流指令ベクトルは複数存在し得るが、本実施形態では、第1電流指令ベクトル決定部21aにより、これら複数の電流指令ベクトルのうち、抑制電流成分が最も小さくなる電流指令ベクトルを「第1電流指令ベクトルAv」として決定する。具体例を示すと、電源電圧Vbatが十分に高い場合、例えば図8に示すように、誘起電圧情報において第1電流指令ベクトル決定部2aへの入力値(回転数Nref、トルク指令Tref(Tref´))に関連付けられ、且つ電源電圧補償条件を満たす電流指令ベクトルとして電流指令ベクトルA1,A2,A3,A4が該当するケースでは、第1電流指令ベクトル決定部2aにより、これらのうち抑制電流成分が最も小さくなる電流指令ベクトルA1を第1電流指令ベクトルAvとして決定する。また、電源電圧Vbatが低い場合、例えば図9に示すように、誘起電圧情報において第1電流指令ベクトル決定部2aへの入力値(回転数Nref、トルク指令Tref(Tref´))に関連付けられ、且つ電源電圧補償条件を満たす電流指令ベクトルとして電流指令ベクトルA3,A4が該当するケースでは、第1電流指令ベクトル決定部2aにより、これらのうち抑制電流成分が最も小さくなる電流指令ベクトルA3を第1電流指令ベクトルAvとして決定する。
【0040】
本実施形態では、このような第1電流指令ベクトル決定部2aを、電源電圧補償位相角算出ブロック21を用いて構成している。
【0041】
電源電圧位相角算出ブロック21は、図2に示すように、実機を用いた実測によって得た誘起電圧情報を内部のメモリMe1に記憶しており、誘起電圧情報における複数の電流指令ベクトルに関する情報のうち、第1電流指令ベクトル決定部2aで決定すべき第1電流指令ベクトルAv、すなわち、入力値(トルク指令Tref(Tref´)、回転数Nref、電源電圧Vbat)に関連付けられ、且つ電源電圧補償条件を満たす複数の電流指令ベクトルうち抑制電流成分が最も小さくなる電流指令ベクトルの向きを示す電源電圧補償位相角βvを算出するものである。また、電源電圧位相角算出ブロック21は、入力値に基づいて算出した電源電圧補償位相角βvを後述する比較部23に出力する。この入出力関係を簡単に下記に示す。
電源電圧補償位相角βv=fβv(トルクTref(Tref´),回転数Nref,電源電圧Vbat)
【0042】
また、本実施形態のモータ制御装置Cは、効率が最大となる電流指令ベクトルを電流指令生成部2で生成するという要求に対応すべく、電流指令生成部2として第2電流指令ベクトル決定部2bを有するものを適用している。
【0043】
この第2電流指令ベクトル決定部2bは、効率情報を記憶させたメモリMe2を有する。効率情報は、図10に示すように、回転数N1及びトルクT1を維持した状態で電流指令ベクトルAの向き(位相角β)を異ならせて向きの異なる複数の電流指令ベクトル毎に効率を測定し、測定値の中から効率が最大となる電流指令ベクトルに関する情報(電流指令ベクトル自体や、電流指令ベクトルの向きを示す位相角等)を回転数及びトルクに関連付けた情報である。本実施形態では、このような効率情報を実測値に基づいて予め設定し、メモリMe2に記憶している。
【0044】
効率情報を設定するために行う実機を用いた測定は、回転数やトルク、誘起電圧、電源電圧が定常状態又は定常状態とみなせる状態で行う。具体的には、図10に模式的に示すように、実機を用いて或る回転数N1の下に所望のトルクT1を発生させる電流指令ベクトルA1を生成してモータを駆動し、この電流指令ベクトルA1による駆動時の効率e1をパワーメータ等の検出値から測定(推定)する。なお、或る回転数N1の下に所望のトルクT1を発生させる電流指令ベクトルは図10の曲線Wで示すように多数存在するが、同図等では説明の簡略化のため、一部の電流指令ベクトル(図時例ではA1,A2,A3,A4)のみを示している。図10に示すように、或る回転数N1の下、或るトルクT1を発生させる複数の電流指令ベクトルA1,A2,A3,A4の向きはそれぞれ位相角β1,β2,β3,β4であり、各々の電流指令ベクトルA1,A2,A3,A4によるモータの駆動時に実測(測定)した効率はe1,e2,e3,e4である。そして、図11に示すように、測定値の近似線Lに基づき、測定値を近似した効率が最大となる電流指令ベクトルAbaseが例えば電流指令ベクトルA2である場合、電流指令ベクトルに関する情報を位相角として簡易化すると、効率情報は、トルクT1、回転数N1、及び効率が最大となる電流指令ベクトルAbase(A2)の位相角βbase(β2)を相互に関連付けたテーブル等で示すことができる。
【0045】
そして、効率情報として記憶させた電流指令ベクトルAbaseを用いてモータ1の駆動の制御を行うことにより、推測が困難な鉄損を始めとして銅損、メカロス、FET損等を含めたシステム全体での効率が最大となる。この事実を利用して、本実施形態に係るモータ制御装置Cは、回転数検出部6で検出した回転数Nref及びトルク指令Tref(Tref´)を第2電流指令ベクトル決定部2bに入力し、第2電流指令ベクトル決定部2bにより、効率情報において回転数Nref及びトルク指令Tref(Tref´)に関連付けられた電流指令ベクトルを第2電流指令ベクトルAbaseとして決定する。
【0046】
本実施形態では、このような第2電流指令ベクトル決定部2bを、効率電流位相角算出ブロック22を用いて構成している。
【0047】
効率電流位相角算出ブロック22は、図2に示すように、実機を用いた実測によって得た効率情報を内部のメモリMe2に記憶しており、効率情報における複数の電流指令ベクトルに関する情報のうち、第2電流指令ベクトル決定部2bで決定すべき第2電流指令ベクトルAbase、すなわち、入力値(トルク指令Tref(Tref´)、回転数Nref)に関連付けられた電流指令ベクトルの向きを示す効率電流位相角βbaseを算出するものである。また、効率電流位相角算出ブロック22は、入力値に基づいて算出した効率電流位相角βbaseを、選択された運転モードに応じて後述する比較部23に出力したり、または後述する電流指令生成ブロック24に出力する。この入出力関係を簡単に下記に示す。
効率電流位相角βbase=fβbase(トルクTref,回転数Nref)
【0048】
ここで、誘起電圧情報や効率情報における電流指令ベクトルに関する情報を位相角として簡易化することができるが、この位相角に関連付けられている項目はトルクや回転数等と多岐に亘り、これらトルク、回転数及び位相角の値は多数あるので、実測値が膨大となる。そこで、本実施形態のモータ制御装置Cは、電流指令ベクトルに関する情報を離散データとして予めメモリMe1,Me2に記憶させておき、離散データから条件に合致する電源電圧補償位相角βv、効率電流位相角βbaseを演算により補間して求めるように構成している。
【0049】
この演算の一例として、離散データから直線補間で位相角βを演算により求めることが挙げられる。例えば、図12に示すように、電源電圧Vbat、トルク指令Tref及び回転数Nrefに関連付けられた電源電圧補償位相角βvを離散データDdから算出するにあたり、トルクTrefの前後値であるトルクT1,T2、及び回転数Nrefの前後値である回転数N1,N2を取得する。ここでは、入出力関係を「出力=f(入力)」として簡易に示す。
前後値であるトルクT1,T2=fT_table(トルクTref)
前後値である回転数N1,N2:=fN_table(回転数Nref)
次に、取得した前後値であるトルクT1,T2、及び回転数N1,N2の四つ組合せ{T1,N1}、{T1,N2}、{T2,N1}、{T2,N2}に関連付けられた電源電圧補償位相角βv11,βv12,βv21,βv22をそれぞれ誘起電圧情報テーブルから取得する。
電源電圧補償位相角βv11=fβv_table(T1,N2)
電源電圧補償位相角βv12=fβv_table(T1,N2)
電源電圧補償位相角βv21=fβv_table(T2,N1)
電源電圧補償位相角βv22=fβv_table(T2,N2)
続けて、取得した電源電圧補償位相角βv11,βv12,βv21,βv22からβvを直線補間で求めるための補間係数X11,X12,X21,X22をトルクTref,T1,T2及び回転数Nref,N1,N2に基づいて算出する。
補間係数X11=fx11(Tref,T1,T2,Nref,N1,N2)
補間係数X12=fx12(Tref,T1,T2,Nref,N1,N2)
補間係数X21=fx21(Tref,T1,T2,Nref,N1,N2)
補間係数X22=fx22(Tref,T1,T2,Nref,N1,N2)
そして、補間係数X11,X12,X21,X22及び電源電圧補償位相角βv11,βv12,βv21,βv22から電源電圧補償位相角βvを算出する。
電源電圧補償位相角βv=βv11×X11+βv12×X12+βv21×X21+βv22×X22
なお、電源電圧補償位相角βvを求める演算と同様の演算処理で効率電流位相角βbaseを求めることができる。また、本実施形態では直線補間を用いているが、演算方法は直線補間に限定されるものではない。
【0050】
さらに、本実施形態に係るモータ制御装置Cでは、図2に示すように、電流指令生成部2に、電源電圧位相角ブロック21で決定した第1電流指令ベクトルの抑制電流成分と効率電流位相角算出ブロック22で決定した第2電流指令ベクトルの抑制電流成分とを比較する比較部23と、後述する電流位相角指令βrefに基づく位相角の電流指令ベクトルを示すd軸電流指令Id及びq軸電流指令Iqを生成する電流指令生成ブロック24とをさらに備えている。
【0051】
比較部23は、第1電流指令ベクトル決定部2aで決定した第1電流指令ベクトルAvの抑制電流成分と、第2電流指令ベクトル決定部2bで決定した第2電流指令ベクトルAbaseの抑制電流成分とを比較し、抑制電流成分が大きい方の電流指令ベクトルの位相角(電源電圧補償位相角βvまたは効率電流位相角βbaseのいずれか一方の位相角)を電流位相角指令βrefとして電流指令生成ブロック24に出力するものである。本実施形態では、電流指令ベクトルの向きを示す位相角が電流指令ベクトルとq軸とのなす角度であり、0乃至90度範囲において位相角が大きくなるほど抑制電流成分が増大することを利用して、比較部23によって、電源電圧位相角ブロック21で算出した電源電圧補償位相角βvと、効率電流位相角算出ブロック22で算出した効率電流位相角βbaseとを比較し、大きい方の位相角(電源電圧補償位相角βvまたは効率電流位相角βbaseのいずれか一方の位相角)を電流位相角指令βrefとして電流指令生成ブロック24に出力するように構成している。
【0052】
また、本実施形態では、運転モードとしてトルク出力優先モードが選択された場合にのみ、この比較部23で、電源電圧位相角算出ブロック21で決定した電源電圧補償位相角βvと、効率電流位相角算出ブロック22で決定した効率電流位相角βbaseとを比較するように構成している。
【0053】
電流指令生成ブロック24は、入力された電流位相角指令βrefが示すベクトルの方向を向き、且つトルク指令Tref(Tref´)に応じたトルクを発生させる電流指令ベクトルを示すd軸電流指令Id及びq軸電流指令Iqを生成するものである。ここで、電流指令生成ブロック24に入力される電流位相角指令βrefは、運転モードとしてトルク出力優先モードが選択された場合には、比較部23から出力される電流位相角指令βref、すなわち、電源電圧補償位相角βvまたは効率電流位相角βbaseのうち大きい方の位相角(第1電流指令ベクトルAvまたは第2電流指令ベクトルAbaseのうち抑制電流成分が大きい方の電流指令ベクトルの向きに対応する位相角)を示す電流位相角指令βrefであり、運転モードとして効率優先モードが選択された場合には、比較部23を経由することなく効率電流位相角算出ブロック22から出力される効率電流位相角βbaseを示す電流位相角指令βrefである(図2参照)。具体的に、この電流指令生成ブロック24でd軸電流指令Id及びq軸電流指令Iqを生成(算出)する方法としては以下のものを挙げることができる。モータの極対数q及び誘起電圧定数Keが既知であることから、まず以下の関数より磁束φを算出し、算出した磁束φ、既知のd軸のインダクタンスLd、q軸のインダクタンスLqを用いて電流指令ベクトルAの大きさ|A|を算出する。
磁束φ=fφ(Ke,q)
電流指令ベクトルAの大きさ|A|=fA(Tref,βref,q,Ld,Lq,φ)
そして、電流指令ベクトルAの大きさ|A|が求まると、ベクトルAの位相角βrefは既知であることから、下記のような関数を用いてd軸電流指令Id及びq軸電流指令Iqを算出する。
d軸電流指令Id=|A|×sinβref
q軸電流指令Iq=|A|×cosβref
【0054】
また、本実施形態に係るモータ制御装置Cは、図2に示すように、電流指令生成部2において、電源電圧補償位相角算出ブロック21及び効率電流位相角算出ブロック22よりも上位に、運転モードに応じてトルク指令制限値Tlimitを選択するトルク制限値選択ブロック25と、トルククランプ部26とを設けている。
【0055】
図2に示すように、トルク制限値選択ブロック25には、回転数検出部6で検出したモータ1の回転数Nref及び電圧検出部7で検出した電源電圧Vbatが入力される。そして、本実施形態のモータ制御装置Cは、トルク出力優先モードが選択されている場合、トルク制限値選択ブロック25によって、トルククランプテーブルとして外部から指示されたトルク指令Trefに応じたトルクの発生を許可するトルククランプテーブルTct1を選択する一方で、効率優先モードが選択されている場合には、トルククランプテーブルとして外部から指示されたトルク指令Trefに応じたトルク出力を制限するトルククランプテーブルTct2を選択するように構成している。また、トルク制限値選択ブロック25は、選択したトルククランプテーブルに応じたトルク指令制限値Tlimitをトルククランプ部26に出力する。
【0056】
トルククランプ部26は、外部から指示されたトルク指令Trefにトルク制限値選択ブロック25から出力されたトルク指令制限値Tlimitを対応付け、この対応付けたトルク指令Tref´を、電源電圧補償位相角算出ブロック21、効率電流位相角算出ブロック22、及び電流指令生成ブロック26に出力するものである。トルク出力優先モードが選択された場合、トルク指令Tref´は外部から指示されたトルク指令Trefと同等のものであるが、効率優先モードが選択された場合、トルク指令Tref´は外部から指示されたトルク指令Trefによるトルク出力を制限するものである(図2参照)。
【0057】
次に、このように構成した本実施形態に係るモータ制御装置Cの動作を、本実施形態に係るモータ制御プログラムと共に説明する。なお、本実施形態に係るモータ制御プログラムは、モータ制御装置Cに備えた演算機能等を有する図示しない制御部に以下に述べる各ステップを実行させるものであり、内部メモリやHDDなど外部記憶装置等の適宜の記憶領域(図示省略)に記憶されたものである。以下では、特に電流指令生成部2に着目して本実施形態のモータ制御装置Cの動作及びモータ制御プログラムについて図13を参照しながら説明する。
【0058】
本実施形態に係るモータ制御プログラムは、選択された運転モード(トルク出力優先モード又は効率優先モード)に応じてトルク出力優先モード実行ステップ又は効率優先モード実行ステップを制御部に選択的に実行させる。図13では、説明の便宜上、トルク出力優先モード(パワーモード)が選択されている場合の処理手順(トルク出力優先モード実行ステップ)を示す線と、効率優先モード(エコモード)が選択されている場合の処理手順(効率優先モード実行ステップ)を示す線とを異ならせている(効率優先モード実行ステップをトルク出力優先モード実行ステップよりも相対的に太い線で示す)。
【0059】
ここで、何れの運転モードが選択されているかという判別処理は、人(運転者等)が行う適宜の操作(例えばボタンやスイッチ、或いはタッチパネル等の入力デバイスに対して行う操作)に基づいて行われるようにしてもよいし、人の意思に関わらず、ある検出値(電源電圧や、トルク指令と応答の偏差等)が所定の条件を満たすか否かに基づいてモータ制御装置C自体が自動的に行うようにしてもよい。
【0060】
先ず、本実施形態のモータ制御装置Cは、トルク出力優先モード(パワーモード)が選択された場合に、トルク制限値選択ブロック25で所望の定格トルク出力を許可するトルククランプテーブルTct1を選択し(クランプテーブル選択ステップS1、図13参照)、このトルククランプテーブルTct1に基づくトルク指令制限値Tlimitを出力する(トルク指令制限値出力ステップS2)。次いで、本実施形態のモータ制御装置Cは、外部から指示されたトルク指令Trefに、トルク制限値選択ブロック25で選択したトルククランプテーブルTct1に基づくトルク指令制限値Tlimitをトルククランプ部26によって対応付け、この対応付けたトルク指令(トルク指令制限値対応済みトルク指令)Tref´を電源電圧位相角算出ブロック21、効率電流位相角算出ブロック22、電流指令生成ブロック24に出力する(トルク指令制限値対応済みトルク指令出力ステップS3)。
【0061】
引き続いて、モータ制御装置Cは、第1電流指令ベクトル決定部2aにより、メモリMe1に誘起電圧情報として記憶されている複数の電流指令ベクトルのうち、入力値(トルク指令Tref(Tref´)、回転数Nref、電源電圧Vbat)に関連付けられ、且つ電源電圧補償条件を満たす複数の電流指令ベクトルうち抑制電流成分が最も小さくなる第1電流指令ベクトルAvを決定する(第1電流指令ベクトル決定ステップS4)。本実施形態では、第1電流指令ベクトル決定ステップS4を、第1電流指令ベクトル決定部2aを構成する電源電圧位相角算出ブロック21によって第1電流指令ベクトルAvの向きを示す電源電圧補償位相角βvを算出する電源電圧補償位相角算出ステップで実現している。
【0062】
また、モータ制御装置Cは、第2電流指令ベクトル決定部2bにより、メモリMe2に効率情報として記憶されている複数の電流指令ベクトルのうち、入力値(トルク指令Tref´及び回転数Nref)に関連付けられた第2電流指令ベクトルAbaseを決定する第2電流指令ベクトル決定ステップS5)。本実施形態では、第2電流指令ベクトル決定ステップS5を、第2電流指令ベクトル決定部2bを構成する効率電流位相角算出ブロック22によって第2電流指令ベクトルAbaseの向きを示す効率電流位相角βbaseを算出する効率電流位相角算出ステップで実現している。
【0063】
次いで、本実施形態のモータ制御装置Cは、電源電圧位相角算出ブロック21で算出した電源電圧補償位相角βv、及び効率電流位相角算出ブロック22で算出した効率電流位相角βbaseを各ブロック21,22から比較部23に出力する(電源電圧補償位相角対比較部出力ステップS6、効率電流位相角対比較部出力ステップS7)。すると、このモータ制御装置Cは、比較部23において、電源電圧補償位相角βvと効率電流位相角βbaseとを比較し(比較ステップS8)、大きい方の位相角を選択し、この選択した位相角を示す指令電流位相角指令βrefを電流指令生成ブロック24に出力する(電流位相角指令出力ステップS9)。
【0064】
ここで、比較ステップS8、電流位相角指令出力ステップS9での処理を図8及び図9を参照して説明する。これらの図では、説明の便宜上、多数の電流指令ベクトルのうち、一部のベクトル(A1,A2,A3,A4)のみを示し、抑制後誘起電圧を電源電圧Vbatよりも小さく抑制することができる範囲を斜線で模式的に示す。図8は、モータ1が或る一定の回転数N1で高速回転して或るトルクT1を出力する状態で、電源電圧Vbatが十分に高い場合において、電流指令ベクトルA1が第1電流指令ベクトルAvに該当し、電流指令ベクトルA2が第2電流指令ベクトルAbaseに該当する場合を示すものであり、図9は、電源電圧Vbatが低い場合おいて、電流指令ベクトルA3が第1電流指令ベクトルAvに該当し、電流指令ベクトルA2が第2電流指令ベクトルAbaseに該当する場合を示すものである。
【0065】
そして、電源電圧Vbatが十分に高い場合、比較ステップS8では、電源電圧補償位相角βv(β1)と効率電流位相角βbase(β2)とを比較部23で比較して、相対的に大きい位相角である効率電流位相角βbase(β2)を選択し、電流位相角指令出力ステップS9では、この効率電流位相角βbase(β2)を示す電流位相角指令βrefを電流指令生成ブロック24に出力する。
【0066】
一方、電源電圧Vbatが低い場合、比較ステップS8では、電源電圧補償位相角βv(β3)と効率電流位相角βbaseとを比較部23で比較して、相対的に大きい位相角である電源電圧補償位相角βv(β3)を選択し、電流位相角指令出力ステップS9では、この電源電圧補償位相角βv(β3)を示す電流位相角指令βrefを電流指令生成ブロック24に出力する。
【0067】
次いで、本実施形態のモータ制御装置Cは、比較部23から電流指令生成ブロック24へ出力した電流位相角指令βrefに基づき、電流指令生成ブロック24でこの電流位相角指令βrefに対応する電流指令ベクトルを示すd軸電流指令Id及びq軸電流指令Iqを生成し(電流指令生成ステップS10、図13参照)、これらd軸電流指令Id及びq軸電流指令Iqを電流制御部3に出力する(電流指令出力ステップS11)。その結果、本実施形態のモータ制御装置Cは、電流位相角指令βrefに対応する電流指令ベクトルでモータ1の駆動を制御することができる。したがって、例えば図8に示す電源電圧Vbatが十分に高い場合には、電流指令生成ブロック24で効率電流位相角βbase(β2)に対応する電流指令ベクトルAbase(A2)を示すd軸電流指令Id及びq軸電流指令Iqを生成し、効率電流位相角βbase(β2)に対応する電流指令ベクトルAbase(A2)でモータ1の駆動を制御することになる。一方、図9に示す電源電圧Vbatが低い場合には、電流指令生成ブロック24で電源電圧補償位相角βv(β3)に対応する電流指令ベクトルAv(A3)を示すd軸電流指令Id及びq軸電流指令Iqを生成し、電源電圧補償位相角βv(β3)に対応する電流指令ベクトルAbase(A3)でモータ1の駆動を制御することになる。
【0068】
このように、本実施形態のモータ制御装置Cは、トルク出力優先モード(パワーモード)が選択された場合、外部から指定されたトルク指令Trefに対応する所望の定格トルクを出力することができる。特に、トルク出力優先モード時に、誘起電圧を抑制する範囲内(図8及び図9に示す斜線領域)に効率が最大となる第2電流指令ベクトルAbase(効率電流位相角βbase)がない場合(図9参照)、すなわち最大効率となる電流指令ベクトルAbaseの抑制電流成分が誘起電圧を抑制するために不十分な場合には、第1電流指令ベクトルAv(電源電圧補償位相角βv)を用いてモータ1の駆動制御を行うことにより、誘起電圧を適切に抑制することができ、所望のトルク出力を発揮しつつ、誘起電圧が電源電圧Vbatを超えて制御破綻に至ることを的確に防止することが可能である。
【0069】
さらに、本実施形態のモータ制御装置Cは、トルク出力優先モード(パワーモード)が選択された場合において、誘起電圧を抑制する範囲内に効率が最大となる第2電流指令ベクトルAbase(効率電流位相角βbase)がある場合(図8参照)、すなわち最大効率となる電流指令ベクトルA2(Abase)の抑制電流成分が誘起電圧を抑制するために十分な場合には、第2電流指令ベクトル決定部2bで求めた最大効率となる電流指令ベクトルA2(Abase)によってモータ1の制御を行うことができる。つまり、トルク出力優先モード時に要求される条件、制御破綻に陥ることなく所望の定格トルクを出力するという条件を満たすとともに、トルク出力優先モードでありながら、効率優先モード時に要求される条件、システム全体の効率が最大となるという条件をも満たすことができる。したがって、トルク指令Tref(Tref´)、回転数Nref及び電源電圧Vbatに応じて制御破綻を防止しつつリアルタイムで最大効率となるモータ制御を実現することが可能となる。
【0070】
次に、運転モードとして効率優先モード(エコモード)が選択された場合について説明する。本実施形態のモータ制御装置Cは、効率優先モードが選択された場合、トルク制限値選択ブロック25に入力される回転数Nref及び電源電圧Vbatに基づき、トルク制限値選択ブロック25で所望の定格トルク出力を制限するトルククランプテーブルTct2を選択し(クランプテーブル選択ステップS1、図13参照)、このトルククランプテーブルTct2に基づくトルク指令制限値Tlimitを出力する(トルク指令制限値出力ステップS2)。
【0071】
そして、本実施形態のモータ制御装置Cは、外部から指示されたトルク指令Trefに、トルク制限値選択ブロック25で選択したトルククランプテーブルTct2に基づくトルク指令制限値Tlimitをトルククランプ部26によって対応付け、この対応付けたトルク指令Tref´を効率電流位相角算出ブロック22、電流指令生成ブロック24に出力する(トルク指令制限値対応済みトルク指令出力ステップS3)。ここで、効率優先モード時におけるトルク指令Tref´は、定格出力トルクを制限するトルク指令である。
【0072】
引き続いて、モータ制御装置Cは、第2電流指令ベクトル決定部2bにより、メモリMe2に効率情報として記憶されている複数の電流指令ベクトルのうち、入力値(トルク指令Tref´及び回転数Nref)に関連付けられた第2電流指令ベクトルAbaseを決定する第2電流指令ベクトル決定ステップS5)。本実施形態では、第2電流指令ベクトル決定ステップS5を、第2電流指令ベクトル決定部2bを構成する効率電流位相角算出ブロック22によって第2電流指令ベクトルAbaseの向きを示す効率電流位相角βbaseを算出する効率電流位相角算出ステップで実現している。そして、本実施形態のモータ制御装置Cは、効率優先モードが選択された場合には、効率電流位相角算出ブロック22で算出した効率電流位相角βbaseを比較部23に出力するステップ(効率電流位相角対比較部出力ステップS7)を経ることなく、効率電流位相角算出ブロック22で算出した効率電流位相角βbaseを示す指令を電流位相角指令βrefとして電流指令生成ブロック24に出力する(電流位相角指令出力ステップS9)。
【0073】
次いで、本実施形態のモータ制御装置Cは、効率電流位相角算出ブロック22から電流指令生成ブロック24へ入力した電流位相角指令βrefに基づき、電流指令生成ブロック24で電流位相角指令βrefに対応する電流指令ベクトルを示すd軸電流指令Id及びq軸電流指令Iqを生成し(電流指令生成ステップS10)、これらd軸電流指令Id及びq軸電流指令Iqを電流制御部3に出力する(電流指令出力ステップS11)。ここで、効率優先モード時における電流位相角指令βrefは画一的に効率電流位相角βbaseを示す指令であるため、効率電流位相角βbaseに対応する電流指令ベクトルAbaseでモータ1の駆動を制御することができる。
【0074】
このように、本実施形態のモータ制御装置Cは、効率優先モード(エコモード)が選択された場合、トルク制限をかけて、システム全体の効率が最大となる効率電流位相角βbaseに対応する電流指令ベクトルAbaseによってモータ1の制御を行うことができ、最大効率となるモータ制御を実現することが可能となる。しかも、実測値に基づく誘起電圧や効率情報を用いているため、推測が困難な鉄損を始めとしてメカロス、FET損などを含めたシステム全体での効率を最大とすることが可能となる。特に電源がバッテリである場合は、最大効率によりコンパクト化や長時間駆動を更に追求するうえで有用である。
【0075】
次に、このような作用効果を奏する本実施形態に係るモータ制御装置Cの動作について図14を参照しながら説明する。
【0076】
回転数Nrefや電源電圧Vbat(特にバッテリ電圧)の変動により、電圧制限円(電圧制限楕円とも称される)が狭まった場合、例えば電圧制限円が図14においてそれぞれ鎖線で示す変動前電圧制限円Vs1から変動後電圧制限円Vs2に変動した場合に、本実施形態に係るモータ制御装置Cは、効率よりも所望の定格トルク出力(同図にはトルク出力が10Nmである定トルク曲線Wt1を示している)を優先するトルク出力優先モード時、所望の定格トルク出力を示す定トルク曲線Wt1と変動後電圧制限円Vs2との交点Pxを向く電流指令ベクトルAx、つまり、電圧不足によって制御不能に陥ることなく所望の定格トルクを出力可能な電流指令ベクトルAxでモータ1の駆動を制御する。ここで、電圧制限円が変動前電圧制限円Vs1である場合において、定トルク曲線Wt1と変動前電圧制限円Vs1と最大効率曲線Weとの交点Psを向く電流指令ベクトルAsの位相角を基準位相角βsとすると、トルク出力優先モード時にモータ1の駆動を制御する電流指令ベクトルAxの位相角βxは基準位相角βsよりも大きいものである。
【0077】
このように、本実施形態のモータ制御装置Cは、電圧制限円が小さくなった場合において、トルク出力優先モード(パワーモード)が選択されれば、電気的に破綻することを防止するために位相角を増やして可能な限り定格トルクを出力できるようにモータ1の駆動を制御することができる。
【0078】
一方、本実施形態に係るモータ制御装置Cは、電圧制限円が狭まった場合において、効率優先モード(エコモード)が選択されれば、所望の定格トルク(例えば10Nm)に制限がかかったトルクを示す定トルク曲線Wt2(同図には一例としてトルク出力が5Nmである定トルク曲線Wt2を示している)と変動後電圧制限円Vs2と最大効率曲線We(効率が最大となるベクトルの先端を示す曲線)との交点Pyを向く電流指令ベクトルAyでモータ1の駆動を制御する。その結果、効率が最大となる制御を行うことができる。
【0079】
このように、本実施形態のモータ制御装置Cは、電圧制限円が縮小した場合において、効率優先モードが選択されれば、トルク制限を掛けることによって装置全体として可能な限り最大効率となるようにモータ1の駆動を制御することができる。
【0080】
したがって、このようなモータ制御装置Cによって、電動車両、特にフォークリフト等の作業車両にバッテリを搭載して電動化した車両(電動作業車両)のモータの駆動制御を行えば、負荷が大きく掛かる場合(例えばフォークに荷物を載せている場合や加速走行時等)にトルク出力優先モード(パワーモード)でモータ1の駆動を制御することによって、所望の定格トルクを出力することができ、負荷がさほど掛からない場合(例えばフォークに荷物を乗せずに走行する場合や定速走行時等)に効率優先モード(エコモード)でモータ1の駆動を制御することによって、従来よりもより一層省エネルギーで高効率な運転を実現できる。
【0081】
さらに、本実施形態のモータ制御装置Cは、誘起電圧情報において電源電圧補償条件を満たす電流指令ベクトルが複数存在する場合に、第1電流指令ベクトル決定部2Aにより、これら複数の電流指令ベクトルのうち抑制電流成分が最も小さくなる電流指令ベクトル(最も小さい位相角)を第1電流指令ベクトルAv(電源電圧補償位相角βv)として決定するように構成しているため、過不足ない抑制電流成分を作用させて誘起電圧に起因する制御破綻を適切に防止することが可能となる。しかも、電源電圧Vbatの変化に合わせて抑制電流成分を過不足なく作用させるので、例えば図9のような場合は効率を向上させることができる場合がある。
【0082】
加えて、本実施形態のモータ制御装置Cは、誘起電圧情報や効率情報のうち複数の電流指令ベクトルに関する情報は、これらの情報を離散的に表した離散データとして予め図2に示すメモリMe1,Me2にそれぞれ記憶させておき、第1電流指令ベクトル決定部2a、第2電流指令ベクトル決定部2bは、離散データからトルク指令Tref(Tref´)及び回転数Nref等の条件に関連付けられた電流指令ベクトルAv,Abaseを示す位相角βv、βbaseを演算により補間して求めるように構成しているため、実測値に基づく複数の電流指令ベクトルに関する情報を効果的に低減することができる。特に、本実施形態のように電流指令ベクトルに関する情報(位相角β)に対してトルクや回転数等の多数の条件を関連付けている場合には、条件の追加に伴い実測値が膨大に増えるので、情報量を低減してメモリ使用量を削減する意味で有用となる。
【0083】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではない。
【0084】
例えば、運転モードを自動的に選択可能な運転モード自動選択部を備えたモータ制御装置であってもよい。この場合、運転モード自動選択部としては、トルク指令と応答の偏差が大きいことを検出した場合(例えば加速中等)はトルク出力優先モード(パワーモード)を選択し、トルク指令と応答の偏差が小さいことを検出した場合(例えば定速走行中等)や電圧検出部によって電源電圧が所定の基準値以下に下がっていることを検出した場合には効率優先モード(エコモード)を選択するように構成したものを挙げることができる。
【0085】
また、運転モードとして、トルク出力優先モードと効率優先モードとの中間モード(1或いは複数)選択可能に構成しても構わない。このような3以上の運転モードを実現するには、運転モード毎に、電流位相角を増やすかトルク制限を掛けるかの重み付けを適宜変更すればよい。
【0086】
また、本実施形態では、第1電流指令ベクトル決定部で決定する第1電流指令ベクトルは、発生するであろう誘起電圧よりも電源電圧が小さくなるものであるが、電源電圧から所定値を引いた値、すなわち電源電圧に対応する電圧値が誘起電圧よりも小さくなる電流指令ベクトルを求めるように構成してもよい。このように構成すると、電源電圧と誘起電圧との間の電圧余裕度が大きくなるので、誘起電圧や電源電圧が変動しても制御を安定させることが可能となる。
【0087】
さらに、モータの温度を検出する温度検出部を設け、上述した効率情報および誘起電圧情報における複数の電流指令ベクトルに関する情報を、モータの温度に基づく実測値と当該モータ温度とを関連付けて予め設定し、第1電流指令ベクトル決定部及び第2電流指令ベクトル決定部をそれぞれ、効率情報および誘起電圧情報における温度検出部で検出したモータ温度を加えた条件に関連付けられた電流指令ベクトルを求めるように構成してもよい。このように構成すると、モータ温度を加味した実測値に基づく電流指令ベクトルを用いて通電制御を行うので、モータ温度による磁束及び誘起電圧の変化を加味してより一層制御精度を向上させることが可能となる。
【0088】
加えて、本実施形態では、電源電圧補償位相角を算出する電源電圧補償位相角算出ブロックによって第1電流指令ベクトル決定部を実現し、効率電流位相各を算出する効率電流位相角ブロックによって第2電流指令ベクトル決定部を実現した態様を例示したが、効率情報及び誘起電圧情報の構成によっては電流指令ベクトルを示すd軸電流指令及びq軸電流指令を直接求めるように構成することもできる。
【0089】
また、効率情報や誘起電圧情報を記憶するメモリに余裕があれば実測値をそのまま記憶して、回転数等の条件に関連付けられた実測値をそのまま用いるように構成してもよい。さらに、本実施形態では、効率情報や誘起電圧情報を示す離散データから演算により補間して近似値を求めるように構成しているが、この演算を行わずに回転数等の条件に関連付けられた離散値を用いるように構成してもよい。このように構成すると、ある程度の誤差を含むものの有効な値を得ることが可能である。
【0090】
また、比較部を備えず、トルク出力優先モードが選択されている場合には、第1電流指令ベクトル決定部で決定した第1電流指令ベクトルでモータの駆動制御を行うようにしてもよい。
【0091】
本発明に係るモータ制御装置の制御対象となるモータは、突極性を有する同期モータであることが好ましく、例えば永久磁石式リラクタンスモータ等、IPMモータに限られない。
【0092】
また、高トルク出力を必要とし、且つバッテリを電源とするフォークリフトや電動乗用車等の電動車両のモータを本発明のモータ制御装置で制御すれば、運転モードに応じて高トルク出力を得ることができたり、高効率化を実現でき、稼働時間の向上やバッテリ簡素化による車両軽量化等を図ることが可能である。
【0093】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0094】
1…モータ
2a…第1電流指令ベクトル決定部
2b…第2電流指令ベクトル決定部
23…比較部
4…電源
6…回転数検出部
7…電圧検出部
Abase…第2電流指令ベクトル
Av…第2電流指令ベクトル
C…モータ制御装置
Id…抑制電流成分(d軸電流成分)
S…モータ制御システム
Tref,Tref´,T1…トルク指令
Nref,N1…回転数
V1,V2,V3,V4…誘起電圧(抑制後誘起電圧)
Vbat…電源電圧
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転により誘起電圧が発生するモータに対し、前記誘起電圧を抑える方向に作用する抑制電流成分がベクトルの向きに応じて変化する電流指令ベクトルをトルク指令に応じて生成し、この電流指令ベクトルに対応する電流を電源から前記モータに通電することにより当該モータの駆動を制御するモータ制御装置であって、
前記モータの回転数を検知する回転数検出部と、
前記モータを駆動するための電源電圧を検知する電圧検出部と、
或る回転数の下に所望のトルクを発生させ得る複数の電流指令ベクトルに関する情報と各々の電流指令ベクトルの向きに応じた抑制電流成分によって抑制された後の誘起電圧とを回転数毎に関連付けた誘起電圧情報を実測値に基づき予め設定して、当該誘起電圧情報においてトルク指令と前記回転数検出部で検出した回転数とに関連付けられている複数の電流指令ベクトルのうち、当該電流指令ベクトルの向きに応じた抑制電流成分によって抑制された後の誘起電圧を前記電圧検出部で検出される電源電圧に対応する電圧値よりも小さくする方向に抑制する電流指令ベクトルである第1電流指令ベクトルを決定する第1電流指令ベクトル決定部と、
或る回転数の下に所望のトルクを発生させ得る複数の電流指令ベクトルのうち効率が最大となる電流指令ベクトルに関する情報を回転数毎に関連付けた効率情報を実測値に基づき予め設定して、当該効率情報においてトルク指令と前記回転数検出部で検出した回転数とに関連付けられた電流指令ベクトルである第2電流指令ベクトルを決定する第2電流指令ベクトル決定部とを備え、
効率よりも所望のトルク出力を優先するトルク出力優先モードが選択された場合、前記第1電流指令ベクトルによって前記モータの駆動を制御するように構成し、
所望のトルク出力を得ることよりも効率を優先する効率優先モードが選択された場合、前記第2電流指令ベクトルによって前記モータの駆動を制御するように構成していることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記第1電流指令ベクトルの抑制電流成分と前記第2電流指令ベクトルの抑制電流成分とを比較する比較部をさらに備え、
前記トルク出力優先モードが選択された場合、前記比較部で前記第1電流指令ベクトルの抑制電流成分と前記第2電流指令ベクトルの抑制電流成分とを比較し、前記第1電流指令ベクトルの抑制電流成分が前記第2電流指令ベクトルの抑制電流成分よりも大きい場合に当該第1電流指令ベクトルによって前記モータの駆動を制御し、前記第2電流指令ベクトルの抑制電流成分が前記第1電流指令ベクトルの抑制電流成分よりも大きい場合に当該第2電流指令ベクトルによって前記モータの駆動を制御するように構成し、
前記効率優先モードが選択された場合、前記比較部で前記第1電流指令ベクトルの抑制電流成分と前記第2電流指令ベクトルの抑制電流成分とを比較することなく、前記第2電流指令ベクトルによって前記モータの駆動を制御するように構成している請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
回転により誘起電圧が発生するモータと、請求項1又は2に記載のモータ制御装置とを備えていることを特徴とするモータ制御システム。
【請求項4】
回転により誘起電圧が発生するモータに対し、前記誘起電圧を抑える方向に作用する抑制電流成分がベクトルの向きに応じて変化する電流指令ベクトルをトルク指令に応じて生成し、この電流指令ベクトルに対応する電流を電源から前記モータに通電することにより当該モータの駆動を制御するモータ制御装置を制御するための制御プログラムであって、
或る回転数の下に所望のトルクを発生させ得る複数の電流指令ベクトルに関する情報と各々の電流指令ベクトルの向きに応じた抑制電流成分によって抑制された後の誘起電圧とを回転数毎に関連付けた誘起電圧情報を実測値に基づき予め設定して、当該誘起電圧情報においてトルク指令と前記モータの回転数を検知する回転数検出部で検出した回転数とに関連付けられている複数の電流指令ベクトルのうち、当該電流指令ベクトルの向きに応じた抑制電流成分によって抑制された後の誘起電圧を、モータを駆動するための電源電圧を検知する電圧検出部で検出される電源電圧に対応する電圧値よりも小さくする方向に抑制する電流指令ベクトルである第1電流指令ベクトルを決定する第1電流指令ベクトル決定ステップと、
或る回転数の下に所望のトルクを発生させ得る複数の電流指令ベクトルのうち効率が最大となる電流指令ベクトルに関する情報を回転数毎に関連付けた効率情報を実測値に基づき予め設定して、当該効率情報においてトルク指令と前記回転数検出部で検出した回転数とに関連付けられた電流指令ベクトルである第2電流指令ベクトルを決定する第2電流指令ベクトル決定ステップとを前記モータ制御装置の制御部に実行させ、
効率よりも所望のトルク出力を優先するトルク出力優先モードが選択された場合に前記第1電流指令ベクトルに従った前記モータの駆動制御を行うトルク出力優先モード実行ステップと、
所望のトルク出力を得ることよりも効率を優先する効率優先モードが選択された場合に前記第2電流指令ベクトルに従った前記モータの駆動制御を行う効率優先モード実行ステップとの何れか一方のステップを前記制御部に選択的に実行させることを特徴とするモータ制御プログラム。
【請求項1】
回転により誘起電圧が発生するモータに対し、前記誘起電圧を抑える方向に作用する抑制電流成分がベクトルの向きに応じて変化する電流指令ベクトルをトルク指令に応じて生成し、この電流指令ベクトルに対応する電流を電源から前記モータに通電することにより当該モータの駆動を制御するモータ制御装置であって、
前記モータの回転数を検知する回転数検出部と、
前記モータを駆動するための電源電圧を検知する電圧検出部と、
或る回転数の下に所望のトルクを発生させ得る複数の電流指令ベクトルに関する情報と各々の電流指令ベクトルの向きに応じた抑制電流成分によって抑制された後の誘起電圧とを回転数毎に関連付けた誘起電圧情報を実測値に基づき予め設定して、当該誘起電圧情報においてトルク指令と前記回転数検出部で検出した回転数とに関連付けられている複数の電流指令ベクトルのうち、当該電流指令ベクトルの向きに応じた抑制電流成分によって抑制された後の誘起電圧を前記電圧検出部で検出される電源電圧に対応する電圧値よりも小さくする方向に抑制する電流指令ベクトルである第1電流指令ベクトルを決定する第1電流指令ベクトル決定部と、
或る回転数の下に所望のトルクを発生させ得る複数の電流指令ベクトルのうち効率が最大となる電流指令ベクトルに関する情報を回転数毎に関連付けた効率情報を実測値に基づき予め設定して、当該効率情報においてトルク指令と前記回転数検出部で検出した回転数とに関連付けられた電流指令ベクトルである第2電流指令ベクトルを決定する第2電流指令ベクトル決定部とを備え、
効率よりも所望のトルク出力を優先するトルク出力優先モードが選択された場合、前記第1電流指令ベクトルによって前記モータの駆動を制御するように構成し、
所望のトルク出力を得ることよりも効率を優先する効率優先モードが選択された場合、前記第2電流指令ベクトルによって前記モータの駆動を制御するように構成していることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記第1電流指令ベクトルの抑制電流成分と前記第2電流指令ベクトルの抑制電流成分とを比較する比較部をさらに備え、
前記トルク出力優先モードが選択された場合、前記比較部で前記第1電流指令ベクトルの抑制電流成分と前記第2電流指令ベクトルの抑制電流成分とを比較し、前記第1電流指令ベクトルの抑制電流成分が前記第2電流指令ベクトルの抑制電流成分よりも大きい場合に当該第1電流指令ベクトルによって前記モータの駆動を制御し、前記第2電流指令ベクトルの抑制電流成分が前記第1電流指令ベクトルの抑制電流成分よりも大きい場合に当該第2電流指令ベクトルによって前記モータの駆動を制御するように構成し、
前記効率優先モードが選択された場合、前記比較部で前記第1電流指令ベクトルの抑制電流成分と前記第2電流指令ベクトルの抑制電流成分とを比較することなく、前記第2電流指令ベクトルによって前記モータの駆動を制御するように構成している請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
回転により誘起電圧が発生するモータと、請求項1又は2に記載のモータ制御装置とを備えていることを特徴とするモータ制御システム。
【請求項4】
回転により誘起電圧が発生するモータに対し、前記誘起電圧を抑える方向に作用する抑制電流成分がベクトルの向きに応じて変化する電流指令ベクトルをトルク指令に応じて生成し、この電流指令ベクトルに対応する電流を電源から前記モータに通電することにより当該モータの駆動を制御するモータ制御装置を制御するための制御プログラムであって、
或る回転数の下に所望のトルクを発生させ得る複数の電流指令ベクトルに関する情報と各々の電流指令ベクトルの向きに応じた抑制電流成分によって抑制された後の誘起電圧とを回転数毎に関連付けた誘起電圧情報を実測値に基づき予め設定して、当該誘起電圧情報においてトルク指令と前記モータの回転数を検知する回転数検出部で検出した回転数とに関連付けられている複数の電流指令ベクトルのうち、当該電流指令ベクトルの向きに応じた抑制電流成分によって抑制された後の誘起電圧を、モータを駆動するための電源電圧を検知する電圧検出部で検出される電源電圧に対応する電圧値よりも小さくする方向に抑制する電流指令ベクトルである第1電流指令ベクトルを決定する第1電流指令ベクトル決定ステップと、
或る回転数の下に所望のトルクを発生させ得る複数の電流指令ベクトルのうち効率が最大となる電流指令ベクトルに関する情報を回転数毎に関連付けた効率情報を実測値に基づき予め設定して、当該効率情報においてトルク指令と前記回転数検出部で検出した回転数とに関連付けられた電流指令ベクトルである第2電流指令ベクトルを決定する第2電流指令ベクトル決定ステップとを前記モータ制御装置の制御部に実行させ、
効率よりも所望のトルク出力を優先するトルク出力優先モードが選択された場合に前記第1電流指令ベクトルに従った前記モータの駆動制御を行うトルク出力優先モード実行ステップと、
所望のトルク出力を得ることよりも効率を優先する効率優先モードが選択された場合に前記第2電流指令ベクトルに従った前記モータの駆動制御を行う効率優先モード実行ステップとの何れか一方のステップを前記制御部に選択的に実行させることを特徴とするモータ制御プログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−55032(P2012−55032A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193542(P2010−193542)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000002059)シンフォニアテクノロジー株式会社 (1,111)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000002059)シンフォニアテクノロジー株式会社 (1,111)
【Fターム(参考)】
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