説明

モータ駆動回路

【課題】低コストで、連続的に誘起電圧を検出し、それをもとにモータの脱調を回避する。
【解決手段】コイル電流検出部30は、コイルに流れる電流成分を検出する。スケーリング部38は、駆動信号をスケーリングする。誘起電圧成分抽出部42は、コイル電流検出部30により検出されたコイル電流成分から、スケーリング部38によりスケーリングされた駆動信号を除去して、誘起電圧成分を抽出する。位相差検出部74は、駆動信号の位相と、誘起電圧成分の位相との位相差を検出する。脱調予測判定部80は、位相差検出部74により検出された位相差の微分値と、脱調予測用の検出閾値とを比較し、脱調発生を予測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同期モータを駆動するためのモータ駆動回路に関する。
【背景技術】
【0002】
同期モータには様々な種類があり、たとえば、SPMSM(Surface Permanent Magnet Synchronous Motor)、PM(Permanent Magnet)型ステッピングモータ、VR(Variable Reluctance)型ステッピングモータ、HB(Hybrid)型ステッピングモータ、BLDCM(Brushless DC Motor)などが知られている。これら同期モータの回転位置を検出する方法には、センサを用いて検出する方法と、センサレスで検出する方法とがある。
【0003】
センサレスで検出する方法には、ステータとロータにより誘起される誘起電力(以下適宜、速度起電力ともいう)を用いる方法がある。この速度起電力を用いる方法には、モータステータ電圧・電流とモータモデル式からベクトル演算をして位置推定する方法や、モータの駆動ラインを特定の期間ハイインピーダンス状態として、直接的に速度起電圧を検知する方法がある。前者の方法では、駆動期間の全期間においてロータの位置推定が可能である。後者の方法では、検知した速度起電圧成分のゼロクロスタイミングでロータの位置推定が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−274760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記前者の方法では、回路規模が増大しコスト高となる。上記後者の方法では、速度起電圧を検出する期間、モータへの通電を停止させる必要があり、電流の連続性が損なわれる。また、ロータの位置推定のためのサンプリングポイントが速度起電圧のゼロクロスタイミングに限られ、とくに、2相モータでは各相の非通電期間を合算しても、1/4電気角周期ごとにしかロータの状態を検知することができない。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みなされたものであり、低コストで、連続的に誘起電圧を検出し、それをもとにモータの脱調を回避する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様のモータ駆動回路は、駆動信号に応じて、同期モータのコイルに電流を供給する駆動部と、コイルに流れる電流成分を検出するコイル電流検出部と、駆動信号をスケーリングするスケーリング部と、コイル電流検出部により検出されたコイル電流成分から、スケーリング部によりスケーリングされた駆動信号を除去して、誘起電圧成分を抽出する誘起電圧成分抽出部と、駆動信号の位相と、誘起電圧成分の位相との位相差を検出する位相差検出部と、位相差検出部により検出された位相差の微分値と、脱調予測用の検出閾値とを比較し、脱調発生を予測する脱調予測判定部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低コストで、連続的に誘起電圧を検出し、それをもとにモータの脱調を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】2相PMSM(Permanent Magnet Synchronous Motor)のステータとロータの関係を説明するための図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るモータ駆動回路の構成を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態の変形例1に係るモータ駆動回路の構成を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態の変形例2に係るモータ駆動回路の構成を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態の変形例3に係るモータ駆動回路の構成を示す図である。
【図6】位相差検出部の動作例を示すタイミングチャートである。
【図7】同期外れ検出部の構成を示す図である。
【図8】連続判定部の動作例を示すタイミングチャートである。
【図9】回転速度検出部の構成を示す図である。
【図10】回転速度検出部の動作例を示すタイミングチャートである。
【図11】図2に示したモータ駆動回路にフィードバックループを追加したモータ駆動回路の構成を示す図である。
【図12】図11に示したモータ駆動回路の変形例を示す図である。
【図13】脱調予測判定部の構成を示す図である。
【図14】位相判定部の動作例を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施の形態を説明する前に、本発明の実施の形態に利用する知見について説明する。当該知見は、モータに含まれるステータとロータの関係を規定するものである。
図1は、2相PMSMのステータとロータの関係を説明するための図である。前提として、図1内の各符号について定義する。
L=各相のインダクタンス
ia,Ib=各相の電流
R=各ステータの直流抵抗DCR
Va,Vb=各相の電圧
θ=ロータ軸とA相軸とのなす角
ω=ロータ角速度(dθ/dt)
【0011】
ロータは永久磁石であるが、その速度起電力により各相に発生する鎖交磁束の最大値をΦとすると、A相軸成分Φaは、下記式(1)のように定義される。
Φa=Φcosθ …式(1)
【0012】
したがって、A相のステータに誘起される速度起電力Eaは、下記式(2)に示すように、A相軸成分Φaの時間微分により得られる。
Ea=−ωΦsinθ …式(2)
【0013】
したがって、A相の電圧方程式は下記式(3)のように定義される。
Va=(R+pL)Ia+(−ωΦsinθ) …式(3)
ここで、p=d/dtである。
【0014】
B相も同様に計算することができ、図1に示す2相PMSMのA相とB相の電圧方程式をまとめて記載すると、下記式(4)のように定義される。
【数1】

【0015】
上記式(4)を変形すると、下記式(5)が導かれる。
【数2】

【0016】
上記式(5)の右辺第1項は、速度起電力がゼロのときに、ステータコイルに流れる電流を示している。ここで、小型ステッピングモータなど、インダクタンスが比較的小さいモータでは、pL成分を無視して考えても実用上差し支えない。また、ステータコイルを励磁する電気角周期との関係において、相対的にpL成分の影響が小さい場合も、pL成分を無視して考えても実用上差し支えない。これを踏まえ、上記式(5)を下記式(6)に近似することができる。
【数3】

【0017】
モータが停止状態で、かつステータコイルが直流励磁で定常状態にあるとき、速度起電力はゼロとなり、上記式(6)は下記式(7)のように表される。
【数4】

【0018】
上記式(7)は、上記条件下で、ステータに印加される電圧値と当該ステータから検出される電流値とを一致させるためのスケーリングファクタが、ステータの直流抵抗DCRで表現されることを示している。
【0019】
上記式(6)の右辺第2項は、速度起電圧を示している。したがって、速度起電圧Evは、下記式(8)に示すように、モータ回転時にステータから検出される電流値Isから、モータ回転時におけるステータの駆動電圧値S0にスケーリングファクタAsを乗じて得られるスケーリング後の駆動信号Ssを減算することにより検出される。ここで、スケーリングファクタAsは、直流励磁状態でステータから検出される電流値Idcと、直流励磁状態でステータに印加される電圧値Vdcとを同一にスケーリングするためのファクタである。
Ev=Is−As*S0=Is−Ss …式(8)
ここで、VdcとS0のスケールは同一である。すなわち、Vdc:S0=1:1である。
【0020】
図2は、本発明の実施の形態に係るモータ駆動回路100の構成を示す図である。当該モータ駆動回路100は、同期モータを駆動する回路である。本実施の形態では、2相ステッピングモータ20(以下、単にステッピングモータ20と表記する)を駆動する。ステッピングモータ20は、二つのステータコイル(以下、それぞれを第1コイル22および第2コイル24という)およびロータ26を含む。ステータ抵抗Rsはステータの直流抵抗成分を示している。なお、図2では第1コイル22の駆動系統を描いており、第2コイル24の駆動系統は省略して描いている。
【0021】
第1コイル22および第2コイル24は、互いに電気角で90°位置がずれて配置される。
【0022】
ロータ26は、磁性体(たとえば、永久磁石)を含んでおり、第1コイル22および第2コイル24からの磁界に応じて安定する位置が決定される。モータ駆動回路100は、第1コイル22および第2コイル24に互いに90°位相の異なる交流電流を供給することにより、両者の電流位相に差を設け、ロータ26を回転させることができる。
【0023】
また、モータ駆動回路100は、電流位相の変化を特定のタイミングで停止させることにより、そのタイミングの電流位相に応じた、特定の位置にロータ26を停止させることができる。これらの処理により、ステッピングモータ200の回転を制御することができる。
【0024】
モータ駆動回路100は、励磁タイミング生成部10、励磁振幅生成部12、信号調整部14、PWM(Pulse Width Modulation)信号生成部16、Hブリッジ駆動部18、コイル電流検出部30、符号判定部36、スケーリング部38、比較調整部40、誘起電圧成分抽出部42、増幅器44、デジタルローパスフィルタ46、微分器48、同期外れ検出部50、回転速度検出部60、第1ゼロクロス検出部70、第2ゼロクロス検出部72および位相差検出部74を備える。
【0025】
励磁タイミング生成部10は、図示しない上位の制御装置から、スケーリング指令または通常励磁指令を受け、その指令に応じた励磁タイミングを生成する。スケーリング指令はスケーリングファクタAsを検出するためのスケーリング検出モードを選択する指令であり、通常励磁指令は通常駆動モードを選択する指令である。
【0026】
スケーリングファクタAsは、第1コイル22に発生する誘起電圧がゼロの状態における駆動信号(より具体的には、直流励磁状態でステータに印加される電圧値)と、コイル電流成分(より具体的には、直流励磁状態でステータから検出される電流値)との関係を規定したものである。
【0027】
スケーリング指令は、システム起動時に発行される。また、スケーリング指令は、ステッピングモータ20の停止中でかつ直流励磁されている状態において、任意のタイミングで発行される。
【0028】
通常駆動モードでは、励磁タイミング生成部10および励磁振幅生成部12により、所定の励磁角度を持つ励磁信号が生成される。励磁方式としては、たとえば、正弦波励磁、マイクロステップ励磁、1−2相励磁、2相励磁、1相励磁などを採用することができる。
【0029】
励磁振幅生成部12は、励磁タイミング生成部10から供給される励磁タイミングに応じた励磁振幅を持つ駆動信号またはスケーリング検出信号を生成する。信号調整部14は、励磁振幅生成部12から供給される駆動信号またはスケーリング検出信号を調整する。より厳密にはその信号の振幅を調整する。この振幅調整の詳細は後述する。
【0030】
PWM信号生成部16は、信号調整部14から供給される駆動電圧値S0をPWM信号に変換する。スケーリング検出電圧値Vdcは、直流信号のまま出力する。Hブリッジ駆動部18は、供給される信号に応じてステッピングモータ20に電流を供給する。Hブリッジ駆動部18は、第1コイル22を中心に、四つのトランジスタを含む。それらトランジスタのゲート端子には、PWM信号生成部16から供給されるPWM信号形式の駆動電圧値S0または直流信号形式のスケーリング検出電圧値Vdcが入力される。PWM信号形式の駆動電圧値S0が入力される場合、Hブリッジ駆動部18は、当該PWM信号のデューティ比に応じた電流を第1コイル22に供給する。その際、当該PWM信号により、第1コイル22に流すべき電流の向きおよび量が決定される。
【0031】
コイル電流検出部30は、第1コイル22に流れる電流成分を検出する。コイル電流検出部30は、ステータ抵抗Rsの両端電圧を検出することにより、当該電流成分を検出する。なお、電流成分を検出する際、ステータ抵抗Rsとは別に電流検出用の抵抗を設け、その抵抗の両端電圧を検出する構成にしてもよい。コイル電流検出部30は、差動増幅器31、オフセット調整部32およびアナログデジタル変換器33を含む。
【0032】
差動増幅器31は、ステータ抵抗Rsの両端電圧を所定の増幅率で増幅して、アナログデジタル変換器33に出力する。差動増幅器31の出力端子には、ローパスフィルタが接続されており、このローパスフィルタにより差動増幅器31の出力信号に含まれるノイズが除去された後、当該出力信号がアナログデジタル変換器33に入力される。
【0033】
オフセット調整部32は、差動増幅器31に発生するオフセットを調整する。たとえば、オフセット調整部32は、駆動電流がゼロ(すなわち、ステータ抵抗Rsに流れる電流がゼロ)のときの、差動増幅器31の出力信号を検出して、オフセット値として記憶する。このオフセット値は、差動増幅器31の入力端子に加算され、差動増幅器31に発生するオフセットをキャンセルする。なお、オフセット調整部32によるオフセット値の検出処理は、図示しない上記制御装置からのオフセット調整指令にもとづき実行される。
【0034】
アナログデジタル変換器33は、差動増幅器31から出力されるアナログ信号をデジタル信号に変換する。このデジタル信号はコイル電流検出部30により検出された、駆動時コイル電流成分Isまたはスケーリング検出時コイル電流成分Idcを示す信号である。符号判定部36は、アナログデジタル変換器33から入力される信号の正負を判定し、スケーリング部38に供給する。この符号判定により、ステータ抵抗Rsに流れる電流の向きが検出される。
【0035】
スケーリング部38は、上記スケーリングファクタAsを記憶している。通常駆動モードでは、スケーリング部38は、上記スケーリングファクタAsを用いて、信号調整部14から出力される駆動電圧値S0(以下、駆動信号S0と表記する)をスケーリングする。より具体的には、当該駆動信号S0にスケーリングファクタAsを乗算して、スケーリング後の駆動信号Ssを生成し、誘起電圧成分抽出部42に供給する。
【0036】
スケーリング検出モードでは、スケーリング部38は、信号調整部14から出力されるスケーリング検出電圧値VdcにスケーリングファクタAsを乗算した値(Vdc・As)を、比較調整部40に供給する。比較調整部40は、スケーリング検出モードにて、スケーリング部38から供給される値(Vdc・As)と、コイル電流検出部30から供給されるスケーリング検出時コイル電流成分Idcとを比較し、両者を一致させるためのスケーリングファクタAsを算出し、スケーリング部38に設定する。このスケーリングファクタAsは、第1コイル22に流れる電流の向きによって個別に調整される。すなわち、正負二種類のスケーリングファクタAsが設定される。モータ駆動回路100の直流特性の差を解消するためである。
【0037】
誘起電圧成分抽出部42は、コイル電流検出部30により検出された駆動時コイル電流成分Isから、スケーリング後の駆動信号Ssを除去して、誘起電圧成分を抽出する。ここでは、当該誘起電圧成分を速度起電圧成分Evとして抽出する。すなわち、スケーリング後の駆動信号Ssは、誘起電流が発生していない状態において第1コイル22から検出される電流成分を示すものであるため、実際に検出されたコイル電流成分から当該スケーリング後の駆動信号Ssを減算することにより、誘起電流成分を算出することができる。
【0038】
このように通常駆動モードでは、駆動信号S0とスケーリングファクタAsとを乗算して生成される駆動信号Ssと、駆動時コイル電流成分Isとの差分を算出することにより、速度起電圧成分Evを連続的に検出することができる。
【0039】
増幅器44は、誘起電圧成分抽出部42から出力される速度起電圧成分Evを所定の増幅率で増幅する。デジタルローパスフィルタ46は、増幅器44により増幅された速度起電圧成分Evから高周波ノイズを除去する。このデジタルローパスフィルタ46には、励磁タイミング生成部10からサンプリングクロックSmpclkが供給される。デジタルローパスフィルタ46は、当該サンプリングクロックSmpclkにもとづいて、カットオフ周波数を調整することができる。励磁タイミング生成部10は、通常励磁指令に含まれる回転速度情報にもとづき励磁速度を決定し、その励磁速度に応じたサンプリングクロックSmpclkを生成している。したがって、デジタルローパスフィルタ46は、サンプリングクロックSmpclkを受けることにより、カットオフ周波数を、励磁速度に応じた最適値に設定することができる。
【0040】
デジタルローパスフィルタ46から出力される速度起電圧成分Vb(以下、増幅器44を経た速度起電圧成分Evを速度起電圧成分Vbと表記する)は、微分器48、第2ゼロクロス検出部72および回転速度検出部60に入力される。
【0041】
微分器48は、入力された速度起電圧成分Vbを微分して、速度起電圧成分微分値Vb’を出力する。この微分により、速度起電圧成分Vbの位相が90°進むことになる。微分器48により生成された速度起電圧成分微分値Vb’は、同期外れ検出部50および第1ゼロクロス検出部70に入力される。
【0042】
同期外れ検出部50は、励磁タイミング生成部10から供給される励磁速度情報および微分器48から供給される速度起電圧成分微分値Vb’をもとに、ステッピングモータ20の同期外れを検出し、同期外れ検出信号Seを出力する。この検出処理の詳細は後述する。
【0043】
回転速度検出部60は、デジタルローパスフィルタ46から供給される速度起電圧成分Vbおよび微分器48から供給される速度起電圧成分微分値Vb’をもとに、ステッピングモータ20の回転速度を検出し、回転速度信号FGを出力する。この検出処理の詳細は後述する。
【0044】
第1ゼロクロス検出部70は、微分器48から供給される速度起電圧成分微分値Vb’のゼロクロスポイントを検出し、第1ゼロクロス信号Tpを位相差検出部74に出力する。第2ゼロクロス検出部72は、デジタルローパスフィルタ46から供給される速度起電圧成分Vbのゼロクロスポイントを検出し、第2ゼロクロス信号Tzを位相差検出部74に出力する。
【0045】
位相差検出部74は、上記駆動信号の位相と、速度起電圧成分の位相との位相差を検出し、第1位相差信号Ppおよび第2位相差信号Pzを出力する。位相差検出部74には、上述した第1ゼロクロス信号Tpおよび第2ゼロクロス信号Tzに加えて、第1フラグ信号Tp0、第2フラグ信号Tz0およびカウントクロックCntclkが供給される。第1フラグ信号Tp0および第2フラグ信号Tz0は、互いに90°位相が異なる二種類の励磁タイミングを示す信号であり、励磁タイミング生成部10から供給される。
【0046】
たとえば、第1フラグ信号Tp0は励磁角度が90°、270°時点のタイミングを示す信号であり、第2フラグ信号Tz0は励磁角度が0°、180°、360°時点のタイミングを示す信号であってもよい。この場合、位相差検出部74は、第1フラグ信号Tp0で示される90°、270°時点のタイミングと、第1ゼロクロス信号Tpで示されるゼロクロスタイミングとの時間差をそれぞれの時点で計測し、それぞれの励磁角度における位相差を検出する。この検出結果は、第1位相差信号Ppとして出力される。同様に、位相差検出部74は、第2フラグ信号Tz0で示される0°、180°、360°時点のタイミングと、第2ゼロクロス信号Tzで示されるゼロクロスタイミングとの時間差をそれぞれの時点で計測し、それぞれの励磁角度における位相差を検出する。この検出結果は、第2位相差信号Pzとして出力される。
【0047】
ステッピングモータ20が理想的な回転中であれば、速度起電圧成分Evは正弦波として検出される。ステッピングモータはその特性上、電気角周波数においては、駆動電圧の位相と駆動電流の位相をほぼ同じとみなすことができる。この特性を利用して、スケーリング後の駆動信号Ssを基準として、速度起電圧成分Evを観測することにより、ロータ26の状態を検知することができる。スケーリング前の駆動信号S0およびスケーリング後の駆動信号Ssは、モータ駆動回路100内で生成される信号であるため、その励磁角度が0°、90°、180°、270°、360°時点のタイミングを示すフラグ信号を生成することは容易である。また、励磁周期を把握することも容易である。
【0048】
図3は、本発明の実施の形態の変形例1に係るモータ駆動回路100の構成を示す図である。変形例1は、上記駆動信号S0をアナログ値として検出し、駆動時コイル電流成分Isとスケーリング後の駆動信号Ssとの減算処理をアナログドメインで行う構成である。なお、比較調整部40によるスケーリングファクタAsの設定処理もアナログドメインで行われる。これに対し、図2に示したモータ駆動回路100は、これらの処理をデジタルドメインで行っている。
【0049】
変形例1では、差動増幅器34が追加される。差動増幅器34は、Hブリッジ駆動部18から第1コイル22の両端に印加される電圧を所定の増幅率で増幅して、スケーリング部38に出力する。差動増幅器34の出力端子には、ローパスフィルタが接続されており、このローパスフィルタにより差動増幅器34の出力信号に含まれるノイズが除去された後、当該出力信号がスケーリング部38に供給される。
【0050】
変形例1では差動増幅器31の出力信号は、アナログデジタル変換器33を経ずに符号判定部36、比較調整部40および誘起電圧成分抽出部42に供給される。なお、差動増幅器31および差動増幅器34の出力信号は、アナログデジタル変換器33にも直接出力可能な構成であり、アナログデジタル変換器33はその出力信号をオフセット調整部32に出力可能な構成であり、オフセット調整部32はこの経路を通じて、差動増幅器31および差動増幅器34のそれぞれのオフセット値を検出することができる。
【0051】
誘起電圧成分抽出部42は、アナログ信号形式の速度起電圧成分Evを出力し、その速度起電圧成分Evは、増幅器44により増幅され、アナログデジタル変換器33によりデジタル信号形式の速度起電圧成分Vbに変換される。
【0052】
図4は、本発明の実施の形態の変形例2に係るモータ駆動回路100の構成を示す図である。変形例2は、差動増幅器31の出力端子にスイッチトキャパシタ型のローパスフィルタ35が接続され、デジタルローパスフィルタ46が取り除かれた構成である。
【0053】
スイッチトキャパシタ型のローパスフィルタ35は、その動作クロックにより、カットオフ周波数を変更することができる。したがって、ステッピングモータ20の駆動周波数に応じて、そのカットオフ周波数を常に最適値に制御することができる。変形例2では、図2のデジタルローパスフィルタ46による高周波ノイズの除去を、スイッチトキャパシタ型のローパスフィルタ35で実施している。スイッチトキャパシタ型のローパスフィルタ35は、励磁タイミング生成部10から供給されるオペレーションクロックOpclkに応じて、その動作クロックを調整し、カットオフ周波数を最適値に調整する。
【0054】
図5は、本発明の実施の形態の変形例3に係るモータ駆動回路100の構成を示す図である。変形例3は、変形例1および変形例2を組み合わせたものである。すなわち、差動増幅器34が追加され、差動増幅器31の出力端子にスイッチトキャパシタ型のローパスフィルタ35aが接続され、差動増幅器34の出力端子にスイッチトキャパシタ型のローパスフィルタ35bが接続され、デジタルローパスフィルタ46が取り除かれた構成である。
【0055】
差動増幅器34は、Hブリッジ駆動部18から第1コイル22の両端に印加される電圧を所定の増幅率で増幅し、スイッチトキャパシタ型のローパスフィルタ35bを経てスケーリング部38に出力する。スイッチトキャパシタ型のローパスフィルタ35bは、差動増幅器34の出力信号に含まれる高周波ノイズを除去する。スイッチトキャパシタ型のローパスフィルタ35aおよびスイッチトキャパシタ型のローパスフィルタ35bは、励磁タイミング生成部10から供給されるオペレーションクロックOpclkに応じて、その動作クロックを調整し、カットオフ周波数を最適値に調整する。
【0056】
変形例3も、変形例1と同様に、上記駆動信号S0をアナログ値として検出し、駆動時コイル電流成分Isとスケーリング後の駆動信号Ssとの減算処理をアナログドメインで行う構成である。なお、比較調整部40によるスケーリングファクタAsの設定処理もアナログドメインで行われる。
【0057】
図6は、位相差検出部74の動作例を示すタイミングチャートである。ステッピングモータ20に含まれる第1コイル22および第2コイル24に対し、互いに90°位相が異なる駆動信号を供給するために、励磁タイミング生成部10は、二種類の励磁タイミングを生成している。この二種類の励磁タイミングにもとづき第1フラグ信号Tp0および第2フラグ信号Tz0が生成される。第1フラグ信号Tp0および第2フラグ信号Tz0は、上記駆動信号の2倍の周波数の信号であり、回転速度信号FGと同一周波数の信号である。
【0058】
位相差検出部74は、図示しない二つのカウンタおよび減算器を有する。第1カウンタは、第1フラグ信号Tp0の立ち下がりエッジから第1ゼロクロス信号Tpの立ち下がりエッジまでの期間を、クロックCLKに同期してカウントする。そして、第1ゼロクロス信号Tpの立ち下がり時点の第1カウンタ内の第1カウント値C1が、第1出力カウント値Cout1として出力される。同様に、第2カウンタは、第2フラグ信号Tz0の立ち下がりエッジから第2ゼロクロス信号Tzの立ち下がりエッジまでの期間を、クロックCLKに同期してカウントする。そして、第2ゼロクロス信号Tzの立ち下がり時点の第2カウンタ内の第2カウント値C0が、第2出力カウント値Cout0として出力される。
【0059】
位相差検出部74によるオフセット成分を補償するため、上記減算器は、第1カウントから供給される第1出力カウント値Cout1から所定の定数Pcを減算して、第1位相差信号Ppを生成する。同様に、第2カウントから供給される第2出力カウント値Cout0から所定の定数Pcを減算して、第2位相差信号Pzを生成する。
【0060】
図7は、同期外れ検出部50の構成を示す図である。同期外れ検出部50は、ステッピングモータ20の回転同期が外れたときに、ステッピングモータ200が回転できなくなり、速度起電圧を喪失する原理を利用して、同期外れを検出する。同期外れ検出部50は、可変閾値設定部52および連続判定部54を含む。可変閾値設定部52には、励磁タイミング生成部10から励磁速度情報が供給される。可変閾値設定部52は、その励磁速度情報にもとづき、判定連続時間および判定閾値を決定し、連続判定部54に設定する。連続判定部54は、微分器48から供給される速度起電圧成分微分値Vb’が、所定のレンジ内に、一定時間以上とどまるか否かを判定することにより同期外れを検出する。
【0061】
図8は、連続判定部54の動作例を示すタイミングチャートである。図8に示すように、速度起電圧成分微分値Vb’が、ゼロを基準に対称に位置する正側閾値+と負側閾値−とにより規定されるレンジ内に入った場合、連続判定部54は、閾値判定信号をハイレベルに設定する。そして、速度起電圧成分微分値Vb’が、設定された連続時間経過してもそのレンジ内にとどまる場合(すなわち、当該閾値判定信号がハイレベルのままの場合)、連続判定部54は、同期外れが発生したと判定し、同期外れ検出信号Seをハイレベルに設定する。
【0062】
速度起電圧成分微分値Vb’は、速度起電圧成分Vbの微分値であるため、その振幅成分は、ステッピングモータ20の回転速度に比例する。また、速度起電圧成分微分値Vb’の周波数はステッピングモータ20の回転数に一致する。したがって、可変閾値設定部52は、励磁タイミング生成部10から励磁速度情報をリアルタイムに取得することにより、上記判定連続時間および上記判定閾値を最適値に設定することができる。これにより、低速回転から高速回転まで、様々な状態における同期外れを精度よく検出することができる。
【0063】
図9は、回転速度検出部60の構成を示す図である。回転速度検出部60は、第1ヒステリシスコンパレータ62、第2ヒステリシスコンパレータ64および排他的論理和回路66を含む。第1ヒステリシスコンパレータ62には、速度起電圧成分Vbが入力される。第2ヒステリシスコンパレータ64には、速度起電圧成分微分値Vb’が入力される。
【0064】
図10は、回転速度検出部60の動作例を示すタイミングチャートである。第1ヒステリシスコンパレータ62および第2ヒステリシスコンパレータ64にはそれぞれ、図10に示すような、ゼロを基準に対称に位置する正側閾値+と負側閾値−が入力されている。第1ヒステリシスコンパレータ62は、速度起電圧成分Vbが正側閾値+を超えると、判定信号Aをハイレベルに設定し、負側閾値−を下回るとローレベルに設定する。正側閾値+と負側閾値−との間のレンジ内では、判定信号Aのレベルをそのまま維持する。同様に、第2ヒステリシスコンパレータ64は、速度起電圧成分微分値Vb’が正側閾値+を超えると、判定信号Bをハイレベルに設定し、負側閾値−を下回るとローレベルに設定する。正側閾値+と負側閾値−との間のレンジ内では、判定信号Bのレベルをそのまま維持する。
【0065】
第1ヒステリシスコンパレータ62および第2ヒステリシスコンパレータ64からは、互いに90°位相が異なる判定信号Aおよび判定信号Bが出力され、排他的論理和回路66に入力される。排他的論理和回路66は、判定信号Aおよび判定信号Bの排他的論理和をとり、その演算結果を回転速度信号FGとして出力する。このようにして、速度起電圧成分Vbと速度起電圧成分微分値Vb’の2倍の周波数を持つ回転速度信号FGが得られる。この回転速度信号FGの周期を計測することにより、速度起電圧成分Vbの半周期ごとの速度変化を把握することができる。また、ステッピングモータ20の各相で生成された回転速度信号FGの位相関係を判定することにより、ステッピングモータ20の回転方向を検知することもできる。なお、上記正側閾値+および上記負側閾値−は、同期外れ検出部50において使用したものを転用してもよい。
【0066】
図11は、図2に示したモータ駆動回路100にフィードバックループを追加したモータ駆動回路100の構成を示す図である。なお、図面を簡略化するため、増幅器44、デジタルローパスフィルタ46、微分器48、同期外れ検出部50、回転速度検出部60、第1ゼロクロス検出部70および第2ゼロクロス検出部72を省略して描いている。
【0067】
図11に示すモータ駆動回路100は、図2に示したモータ駆動回路100に、セレクタ76、減算器90、補償フィルタ92、セレクタ94、加算器96、セレクタ98および脱調予測判定部80が追加された構成である。
【0068】
セレクタ76は、位相差検出部74から出力される第1位相差信号Ppおよび第2位相差信号Pzを交互に選択して出力する。これにより、位相差信号が一系統にまとめられる。減算器90は、所定の目標位相差Tpから、セレクタ76から入力される位相差信号を減算することにより偏差信号を生成する。
【0069】
補償フィルタ92は、減算器90から入力される偏差信号をフィルタリングして制御信号を生成する。たとえば、補償フィルタ92がPI補償器で構成される場合、当該PI補償器は、当該偏差信号に比例ゲインKpおよび積分ゲインKi/sをそれぞれ乗算し、両演算結果を加算して、制御信号を生成する。なお、当該PI補償器は、ステッピングモータ20の停止中は、基本的に前値を保持し続け、特定の時期に前値をクリアして動作する。特定の時期とは、システムリセット直後や脱調後の再起動時などである。ステッピングモータ20の動作中は、継続して動作する。
【0070】
信号調整部14は、補償フィルタ92により生成された制御信号F0または加算器96によりオフセット値が加算された後の制御信号F0をもとに、位相差検出部74により検出された位相差を上記目標位相差Tpに近づけるよう駆動信号S0を調整する。より具体的には、駆動信号S0の振幅を調整する。速度起電圧成分Evの位相を遅らせる場合、駆動信号S0の振幅を減衰させ、速度起電圧成分Evの位相を進めさせる場合、駆動信号S0の振幅を増大させる。
【0071】
ここで、制御対象は位相差であるが、この位相差は駆動電流により変化するため、フィードバックループとしては電流ループとなる。当該位相差は、スケーリング後の駆動信号Ssと速度起電圧成分Evとの位相差であるが、ステッピングモータ20の場合、その運転条件から上述したように、駆動電圧と駆動電流との間の位相差は無視することができる。ステッピングモータ20では、一ステップごとにステータ電流が定常状態に至るように運転することが基本であるためである。
【0072】
上記目標位相差Tpは、スケーリング後の駆動信号Ssの位相に対して、速度電圧成分Evの位相が90°進み〜0°の範囲内に設定される。上記目標位相差Tpは、その範囲内で、適用するシステムに応じて決定される。実際には、0°に所定のマージンを持たせた角度に設定されることが多くなる。
【0073】
上記位相差が小さいほど、駆動電流が減少し、消費電力を低減することができるが、ステッピングモータ20のステップごとの停止位置精度は低下する。すなわち、消費電力と停止位置精度はトレードオフの関係にある。また、ステッピングモータ20の効率最大点は、ロータ26に対して電流の位相が90°進んだ位置にあるが、本実施の形態では、効率を減少させてもトータルの消費電力の最小点で運転するため、上記目標位相差を+90°〜0°の間に設定する。
【0074】
上記目標位相差が+90°未満では、ステップごとにステータ電流が定常状態に到達するというステッピングモータ20の基本動作条件を厳密には満たせなくなる。そこで、信号調整部14は、ステッピングモータ20に含まれるロータ26が、ある停止位置(A点)からつぎの停止位置(B点)まで移動しているとき、上記位相差を上記目標位相差に近づけるための駆動信号の調整を実行し、ロータ26が停止位置に停止しているとき、当該駆動信号の調整を停止する。すなわち、低消費電力で駆動するのは、A点からB点までの移動における移動開始から、B点到達直前までの期間に限る。
【0075】
セレクタ98は、ロータ26がある停止位置(A点)からつぎの停止位置(B点)まで移動しているとき、フィードバックされてくる制御信号F0を選択して出力する。ロータ26が停止しているとき、停止時設定値Csを選択して出力する。当該停止時設定値Csは、十分な停止位置精度を確保するために、あらかじめ設定された値である。固定値であってもよいし、励磁速度に応じた変動値であってもよい。なお、このセレクタ98の切替制御は、図示しない上位の制御装置により行われる。
【0076】
セレクタ94は、第1オフセット値Kfおよび第2オフセット値Cfを選択して、加算器96に出力する。第1オフセット値Kfは、ステッピングモータ20の回転速度切り替え時も安定した動作が可能なよう、励磁速度情報に応じて変動する値である。第1オフセット値Kfは、励磁速度が高い場合、大きくなり、低い場合、小さくなるよう制御される。これは、同一負荷であれば、速度が高い場合は大きなトルクが必要となり、低い場合、小さなトルクで足りることによる。
【0077】
第2オフセット値Cfは、任意の値を設定可能であり、ステッピングモータ20の運転開始時に任意の駆動量から運転を開始したい場合に選択される。これにより、運転を開始してから、上記位相差を上記目標位相差により早く収束させることができる。なお、このセレクタ94の切替制御も、図示しない上位の制御装置により行われる。
【0078】
加算器96は、補償フィルタ92から入力される制御信号にセレクタ94から入力されるオフセット値を加算して、セレクタ98に出力する。
【0079】
脱調予測判定部80は、位相差検出部74により検出された位相差の微分値と、脱調予測用の検出閾値とを比較し、脱調の発生を予測する。脱調予測判定部80の詳細な構成は後述する。
【0080】
当該モータ駆動回路100は、第1コイル22の上記位相差を検出し、その位相差を上記目標位相差Tpに近づけるよう第1コイル22の駆動信号S0を調整するとともに、他相のコイル(本実施の形態では、第2コイル24)の駆動信号を調整する。すなわち、上記制御信号F0がセレクタ98を介して、他相の信号調整部(ATT)にも供給される。これにより、第1コイル22と第2コイル24との電流比を保つことができる。なお、信号調整部14で第1コイル22の駆動信号と第2コイル24の駆動信号の両方を調整する構成であってもよい。
【0081】
図12は、図11に示したモータ駆動回路100の変形例を示す図である。図12に示すモータ駆動回路100は、図11に示したモータ駆動回路100に平均化部78が追加された構成である。平均化部78は、セレクタ76と減算器90との間に挿入される。また、本変形例では、他相のコイル(本実施の形態では、第2コイル24)の上記位相差も検出する。図12では省略して描いているが、第1コイル22の上記位相差を検出するための回路要素と同じ回路要素が第2コイル24用に別に設けられる。
【0082】
図12に示すモータ駆動回路100は、第1コイル22の上記位相差、および他相のコイル(本実施の形態では、第2コイル24)の上記位相差を検出し、それら位相差の平均値を上記目標位相差Tpに近づけるよう、第1コイル22の駆動信号S0および他相のコイル(本実施の形態では、第2コイル24)の駆動信号を調整する。第1コイル22の上記位相差と第2コイル24の上記位相差は、平均化部78により平均化される。
【0083】
第1コイル22の上記位相差および第2コイル24の上記位相差を検出し、それぞれ独立に駆動信号を調整した場合、第1コイル22と第2コイル24との電流比を崩してしまう。本実施の形態のように2相モータでは、位相差検出タイミングが各相でほぼ同一となる。そこで、平均化部78に他相の上記位相差を取り込むためのウインドウを設け、第1コイル22の上記位相差と第2コイル24の上記位相差とを平均化した後、共通のフィードバック系として、共通の制御信号F0を第1コイル22および第2コイル24の信号調整部に供給する。これにより、第1コイル22と第2コイル24との電流比を崩すことなく、互いの相の応答を加味したフィードバック制御が可能となる。
【0084】
図13は、脱調予測判定部80の構成を示す図である。脱調予測判定部80は、微分器82および位相判定部84を含む。微分器82および位相判定部84には、位相差検出部74からセレクタ76を介して位相差がそれぞれ入力される。微分器82は、入力された位相差を微分して位相差微分値Pdを生成し、位相判定部84に出力する。
【0085】
図14は、位相判定部84の動作例を示すタイミングチャートである。位相判定部84は、微分器82から供給される位相差微分値Pdと、脱調予測用の検出閾値とを比較し、位相差微分値Pdが当該検出閾値を位相遅れ方向に超えたとき、脱調予測信号SOPをハイレベルに設定する。その後、位相判定部84は、位相差検出部74からセレクタ76を介して入力される位相差と、復帰閾値とを比較し、当該位相差が当該復帰閾値を位相進み方向に超えたとき、脱調予測信号SOPをローレベルに設定する。
【0086】
脱調予測信号SOPがハイレベルの期間は、脱調発生の危険性が高い状態であることを示している。上記検出閾値および上記復帰閾値は、所望の脱調予測感度に応じて、設計者またはユーザが設定することができる。
【0087】
図11、図12に戻り、セレクタ98は、脱調予測信号SOPがハイレベルの期間、脱調予測時設定値Caを選択して、信号調整部14に供給する。脱調予測時設定値Caは、ステッピングモータ20に大きなトルクを発生させるに必要十分な値に設定される。したがって、脱調予測時設定値Caは、停止時設定値Cs以上の値となる。
【0088】
信号調整部14は、脱調予測時設定値Caの供給を受けている期間(すなわち、脱調予測信号SOPがハイレベルの期間)、第1コイル22に流す電流を増大させるよう駆動信号S0を調整する。より具体的には、駆動信号S0の振幅を増大させる。
【0089】
信号調整部14は、脱調予測時設定値Caの供給が終了すると(すなわち、脱調予測信号SOPがローレベルに復帰したとき)、上記駆動信号S0の調整を終了する。信号調整部14が制御信号F0または停止時設定値Csの供給を受けている期間の処理は、上述した通りである。このように、脱調予測判定部80による予測判定処理により、発生するトルクに対して負荷の変化が大きいときの脱調を予測し、回避することができる。
【0090】
以上説明したように、本実施の形態によれば、スケーリング後の駆動信号Ssと速度起電圧成分Evとの位相差を、上記目標位相差Tpに近づけるようフィードバック制御することにより、モータの高効率駆動を低コストで実現することができる。ベクトル演算を用いてロータの位置を推定する手法と比較し、回路を大幅に簡素化することができる。また、フィードバック制御対象を駆動信号S0の振幅とすることにより、フィードバック制御系の回路要素を簡素化することができる。また、ハイインピーダンス状態のときのみ速度起電圧を検出する手法と比較し、電流の連続性を損なわずに速度電圧成分を検出することができるため、駆動騒音を低減することができる。
【0091】
また、上記目標位相差Tpを+90°〜0°の間に設定することにより、消費電力を低減することができる。また、ロータ26の停止時にはフィードバック制御を停止させ、別の設定値により駆動信号S0を制御することにより、ロータ26の停止位置精度を確保することができる。したがって、消費電力低減の要請と停止位置精度確保の要請を両方満たすことができる。
【0092】
また、上記位相差の微分値を観測することにより、脱調を予測することができる。とくに、負荷の急変による脱調を予測することができる。脱調の危険性が高いと予測されるとき、トルクを増大させるように、駆動信号S0を調整することにより、脱調を回避することができる。その際、駆動信号S0の振幅を調整してトルクを増大させることにより、脱調回避系の回路要素を簡素化することができる。また、その回路要素の多くを、上記フィードバック制御系の回路要素と共通化することができる。
【0093】
以上、本発明をいくつかの実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0094】
10 励磁タイミング生成部、 12 励磁振幅生成部、 14 信号調整部、 16 PWM信号生成部、 18 Hブリッジ駆動部、 20 ステッピングモータ、 22 第1コイル、 24 第2コイル、 26 ロータ、 Rs ステータ抵抗、 30 コイル電流検出部、 31 差動増幅器、 32 オフセット調整部、 33 アナログデジタル変換器、 34 差動増幅器、 35 ローパスフィルタ、 36 符号判定部、 38 スケーリング部、 40 比較調整部、 42 誘起電圧成分抽出部、 44 増幅器、 46 デジタルローパスフィルタ、 48 微分器、 50 同期外れ検出部、 52 可変閾値設定部、 54 連続判定部、 60 回転速度検出部、 62 第1ヒステリシスコンパレータ、 64 第2ヒステリシスコンパレータ、 66 排他的論理和回路、 70 第1ゼロクロス検出部、 72 第2ゼロクロス検出部、 74 位相差検出部、 76 セレクタ、 78 平均化部、 80 脱調予測判定部、 82 微分器、 84 位相判定部、 90 減算器、 92 補償フィルタ、 94 セレクタ、 96 加算器、 98 セレクタ、 100 モータ駆動回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動信号に応じて、同期モータのコイルに電流を供給する駆動部と、
前記コイルに流れる電流成分を検出するコイル電流検出部と、
前記駆動信号をスケーリングするスケーリング部と、
前記コイル電流検出部により検出されたコイル電流成分から、前記スケーリング部によりスケーリングされた駆動信号を除去して、誘起電圧成分を抽出する誘起電圧成分抽出部と、
前記駆動信号の位相と、前記誘起電圧成分の位相との位相差を検出する位相差検出部と、
前記位相差検出部により検出された位相差の微分値と、脱調予測用の検出閾値とを比較し、脱調発生を予測する脱調予測判定部と、
を備えることを特徴とするモータ駆動回路。
【請求項2】
前記スケーリング部は、前記コイルに発生する誘起電圧がゼロの状態における前記駆動信号と前記コイル電流検出部により検出されるコイル電流成分との関係を規定したスケーリングファクタを用いて、前記駆動信号をスケーリングすることを特徴とする請求項1に記載のモータ駆動回路。
【請求項3】
前記駆動信号を調整する駆動信号調整部をさらに備え、
前記駆動信号調整部は、前記位相差の微分値が前記検出閾値を位相遅れ方向に超えたとき、前記コイルに流す電流を増大させるよう前記駆動信号を調整することを特徴とする請求項2に記載のモータ駆動回路。
【請求項4】
前記駆動信号調整部は、前記位相差の微分値が前記検出閾値を位相遅れ方向に超えた後、前記位相差が復帰閾値を位相進み方向に超えたとき、前記コイルに流す電流を増大させるための前記駆動信号の調整を終了することを特徴とする請求項3に記載のモータ駆動回路。
【請求項5】
前記駆動信号調整部は、前記駆動信号の振幅を調整することを特徴とする請求項3または4に記載のモータ駆動回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−139583(P2011−139583A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−297580(P2009−297580)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【出願人】(506227884)三洋半導体株式会社 (1,155)
【Fターム(参考)】