説明

モータ

【課題】軸方向に大型化させることなく、簡単な構成で自由度の高いトルク性能を得ることができるモータを提供する。
【解決手段】環状のステータ5と、ステータ5の軸方向の一側に対向して配置された第1のロータ6と、ステータ5の他側の対向して配置された第2のロータ7と、第1のロータ6と第2のロータ7とを所定の変速比にて動力伝達可能に連結する出力合成機構8とを備え、第1,第2のロータ6,7の出力を出力合成機構8によって合成して出力軸に伝達する。この場合において、第1,第2のロータ6,7がステータ5の軸O方向に対向するアキシャルギャップ式を採用し、出力合成機構8をステータ5の内周に配設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1つのステータに対して2つのロータを対向配置した2ロータ式のモータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータにおいては、出力トルクの拡大や高効率化等のように、自由度の高いトルク特性を得ることを目的として、1つのステータに対して2つのロータを対向配置した2ロータ式のモータが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、1個の円環状のステータと、その半径方向内方及び外方にそれぞれ互いに同軸の所定回転軸線上にて回転自在に配置したインナロータおよびアウタロータとよりなる三重構造をなし、アウタロータに連結されたアウタロータシャフト(出力軸)とインナロータに連結された中空のインナロータシャフト(出力軸)とを内外同軸に配置したモータが開示されている。さらに、特許文献1の技術では、中空のインナロータシャフトとアウタロータシャフトをそれぞれラビニョオ型遊星歯車列のサンギヤとリングギヤに接続することで、モータの両出力軸からの出力トルクを合成する出力合成機が開示されている。
【0004】
ところで、この種のモータは、例えば、ハイブリッド車や電気自動車等の普及に伴い、各車輪のホイール内に配置されるインホイールモータとして適用することが期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−194370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、2ロータ式のモータは、上述の特許文献1に開示されているように、2つのロータからの出力を合成するための出力合成機構を出力軸上に必要とするため、全体として外形が軸方向に大型化してしまう傾向にある。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、軸方向に大型化させることなく、簡単な構成で自由度の高いトルク性能を得ることができるモータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によるモータは、環状のステータと、前記ステータの軸方向の一側に対向して配置された第1のロータと、前記ステータの軸方向の他側に対向して配置された第2のロータと、前記ステータの内周に配設されて前記第1のロータと前記第2のロータとを所定の変速比にて動力伝達可能に連結する出力合成機構と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のモータによれば、軸方向に大型化させることなく、簡単な構成で自由度の高いトルク性能を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】モータの要部断面図
【図2】モータの要部を示す分解斜視図
【図3】遠心クラッチ機構を示す斜視図
【図4】第1のロータと第2のロータの各出力トルクの特性図
【図5】は第1のロータと第2のロータとの合成トルクの特性図
【図6】モータの変形例を示す要部断面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の形態を説明する。図面は本発明の一実施形態に係わり、図1はモータの要部断面図、図2はモータの要部を示す分解斜視図、図3は遠心クラッチ機構を示す斜視図、図4は第1のロータと第2のロータの各出力トルクの特性図、図5は第1のロータと第2のロータとの合成トルクの特性図、図6はモータの変形例を示す要部断面図である。なお、説明を簡略化するため、図2においては、各部材間を連結するボルト等や、各部材間に介装されるベアリング等が適宜省略されている。
【0012】
図1,2に示すモータ1は、例えば、自動車等の車両のインホイールモータ等に好適な三相交流モータである。このモータ1は、環状のステータ5と、ステータ5の中心軸O方向の一側に対向して配置された第1のロータ6と、ステータ5の中心軸O方向の他側に対向して配置された第2のロータ7と、ステータ5の内周に配設されて第1のロータ6と第2のロータ7とを所定の変速比にて動力伝達可能に連結する出力合成機構8と、を備えて構成されている。すなわち、本実施形態において、モータ1は、1つのステータ5に対して2つのロータ6,7が同軸上に対向配置された2ロータ式のモータであり、より具体的には、ステータ5に対して各ロータ6,7が中心軸O方向に対向配置された2ロータ式のアキシャルギャップモータである。
【0013】
ステータ5は略円環状をなし、このステータ5上には、複数のステータ磁石10が、軸Oを中心とする等ピッチ毎の環状に配置されている。すなわち、ステータ5上には、軸O方向に貫通する複数の磁石保持孔5aが穿設され、これら各磁石保持孔5a内には、略円柱形状の永久磁石からなるステータ磁石10がそれぞれ嵌合保持されている。
【0014】
ステータ5の一側には、第1のハウジング15がボルト締結等によって固設され、これら第1のハウジング15とステータ5との間に形成された第1のロータ室16内には、ステータ5と同軸上に対向配設された第1のロータ6が収容されている。
【0015】
第1のロータ6は略円板状をなし、この第1のロータ6上には、ステータ磁石10に対向する複数の第1のロータコイル20が、ステータ5の軸Oを中心とする等ピッチ毎の環状に配設されている。
【0016】
また、第1のロータ6の一側には、ステータ5の中心軸Oと同軸の略円筒状をなす段部21が突設され、この段部21の外周面には、第1のロータコイル20と電気的に接続する三相のスリップリング22が配設されている。これら各スリップリング22には、第1のハウジング15に配設された各相の電源端子23がそれぞれ摺接され、これにより、図示しない三相交流電源から第1のロータコイル20への電力供給が可能となっている。
【0017】
さらに、段部21の突端部からは、ステータ5の中心軸Oと同軸の略円柱状をなす第1のロータ軸24が突設されている。この第1のロータ軸24の基部にはラジアルベアリング25の内周が嵌合され、このラジアルベアリング25の外周が第1のハウジング15に嵌合保持されることにより、第1のロータ6はステータ5に対して回動自在に軸支されている。ここで、第1のロータ軸24はモータ出力軸として機能するものであり、この第1のロータ軸24の先端部は、第1のハウジング15に開口する軸孔15aを貫通して外部に露出されている。
【0018】
一方、ステータ5の他側には、第2のハウジング30がボルト締結等によって固設され、これら第2のハウジング30とステータ5との間に形成された第2のロータ室31内には、ステータ5と同軸上に対向配設された第2のロータ7が収容されている。
【0019】
第2のロータ7は略円板状をなし、この第2のロータ7上には、ステータ磁石10に対向する複数の第2のロータコイル35が、ステータ5の軸Oを中心とする等ピッチ毎の環状に配設されている。
【0020】
また、第2のロータ7の両側には、軸Oと同軸の略円柱状をなす第2のロータ軸36が突設されている。この第2のロータ軸36の一側の先端部は、第1のロータ軸24の基部に形成された軸受穴24a内に遊嵌されている。一方、第2のロータ軸36の他側の基部外周面には、第2のロータコイル35と電気的に接続する三相のスリップリング37が配設されている。これら各スリップリング37には、第2のハウジング30に配設された各相の電源接触子38がそれぞれ摺接され、これにより、図示しない三相交流電源から第2のロータコイル35への電力供給が可能となっている。また、第2のロータ軸36の他側の先端部にはラジアルベアリング39の内周が嵌合され、このラジアルベアリング39の外周が第2のハウジング30に嵌合保持されることにより、第2のロータ7はステータ5に対して回動自在に軸支されている。
【0021】
ここで、第1,第2のロータ6,7によって囲まれたステータ5の内周領域は機構収容室40として設定され、この機構収容室40内には、出力合成機構8が収容されている。
【0022】
本実施形態において、出力合成機構8は、例えば、第2のロータ7の出力を所定の変速比(例えば、変速比「1/2」)で変速して第1のロータ6に伝達する遊星歯車式の変速機構41と、第1のロータ6と第2のロータ7とを接離自在に締結可能な(すなわち、変速比「1」で連結可能な)クラッチ機構42と、クラッチ機構42による締結時に変速機構41による動力伝達経路を解放可能なワンウェイクラッチ43と、を有して構成されている。
【0023】
変速機構41は、サンギヤ45と、サンギヤ45に噛合する複数のプラネタリギヤ46と、プラネタリギヤ46に噛合するリングギヤ47と、を有して構成されている。
【0024】
この変速機構41を構成する各部材のうち、サンギヤ45は、ステータ5の内周において、第2のロータ軸36の一側に遊嵌されている。さらに、サンギヤ45は、その先端部が、ラジアルベアリング48を介して、第1のロータ6に形成された段部21の内周に回動自在に軸支されるとともに、その基端部が、スラストベアリング49を介して、第2のロータ7に回動自在に軸支されている。
【0025】
また、プラネタリギヤ46は、第1のロータ6の他側からステータ5の内周に突設されたプラネタリ軸46aに回動自在に軸支されている。
【0026】
また、リングギヤ47は、ステータ5の一側に凹設された環状の凹部5b内に収容され、ボルト締結等によって固設されている。
【0027】
クラッチ機構42は、例えば、遠心式のクラッチ機構(遠心クラッチ)であり、略円環状をなすクラッチ本体50と、このクラッチ本体50上に揺動自在に軸支された複数のクラッチシュー51と、クラッチシュー51をクラッチ本体50上の基準位置に付勢するリターンスプリング52と、を有して構成されている。
【0028】
クラッチ本体50は、プラネタリ軸46aを介して第1のロータ6に固設されている。一方、第2のロータ7からは環状のクラッチドラム53が突設されており、このクラッチドラム53の内周には、クラッチ本体50に軸支された各クラッチシュー51が接離可能に臨まされている。ここで、各リターンスプリング52による付勢力は予め実験等に基づいてチューニングされており、第1のロータ6(すなわち、クラッチ本体50)の回転数が所定回転数N0に達したとき、クラッチシュー51は、その遠心力によってリターンスプリング52の付勢力に抗して所定角度まで拡開される(図3中の2点鎖線参照)。これにより、クラッチシュー51の外周面がクラッチドラム53の内周面に当接され(すなわち、クラッチ機構42が締結され)、第1のロータ6と第2のロータ7とが直結される。
【0029】
ワンウェイクラッチ43は、第2のロータ7とサンギヤ45との間に介装されている。具体的に説明すると、第2のロータ7の一側には、第2のロータ軸36と同心の円環状をなす凹部7aが形成されており、この凹部7aの内周面には、サンギヤ45に外嵌するワンウェイクラッチ43の外周面が嵌合されている。そして、クラッチ機構42が解放状態にあるとき、ワンウェイクラッチ43は、第2のロータ7の出力をサンギヤ45へと伝達する。一方、クラッチ機構42が締結状態となると、ワンウェイクラッチ43は、サンギヤ45に対して第2のロータ7を空転させる。
【0030】
ここで、例えば、第1,第2のロータ6,7に実装される第1,第2のロータコイル20,35の仕様等が同等である場合において、クラッチ機構42が全回転量域において締結されないと仮定すると、第1,第2のロータコイル20,35に個別に電流を流したとき出力軸(第1のロータ軸24)に伝達される回転数及びトルクは、図4に示す特性となる。すなわち、図4中に実線で示すように、第2のロータ7の出力回転数は変速機構41によって1/2に減速されるため、第2のロータ7から出力軸に伝達されるトルクは、第1のロータ6から出力軸に伝達されるトルク(図4中の破線参照)の2倍となる。
【0031】
従って、図4に示した第1,第2のロータ6,7の出力特性を合成すると、例えば、図5中に1点鎖線で示す特性を得ることができる。但し、本実施形態においては、出力合成機構8にクラッチ機構42を備えることにより、第1のロータ6の回転数がN0に達した以降は、クラッチ機構42の締結によって第1,第2のロータ6,7が直結され、出力軸に伝達されるトルクは第1のロータ6単体によるトルクの略2倍となる。なお、リターンスプリング52等のチューニングによりクラッチ機構42の締結タイミング(回転数N0)を変更することにより、各ロータ6,7の出力限界の範囲内において、トルク偏重の特性或いは回転数偏重の特性を適宜設定することが可能である。
【0032】
このような実施形態によれば、環状のステータ5と、ステータ5の軸方向の一側に対向して配置された第1のロータ6と、ステータ5の他側の対向して配置された第2のロータ7と、第1のロータ6と第2のロータ7とを所定の変速比にて動力伝達可能に連結する出力合成機構8とを備え、第1,第2のロータ6,7の出力を出力合成機構8によって合成して出力軸に伝達することにより、簡単な構成で自由度の高いトルク特性を得ることができる。この場合において、第1,第2のロータ6,7がステータ5の軸O方向に対向するアキシャルギャップ式を採用し、出力合成機構8をステータ5の内周に配設することにより、出力合成機構8を効率よく配置することができ、モータ1の軸方向への大型化を的確に防止することができる。
【0033】
また、出力合成機構8を構成する変速機構41に遊星歯車式の変速機構を採用することにより、コンパクトな構成で第1,第2のロータ6,7間の出力伝達経路を構成することができる。
【0034】
なお、本発明は、以上説明した実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であり、それらも本発明の技術的範囲内である。例えば、図6に示すように、遠心式のクラッチ機構42(遠心クラッチ)に代えて、第1のロータ6と第2のロータ7との間に電磁クラッチ60を介装することも可能である。このように構成すれば、第1,第2のロータコイル20,35にそれぞれ付与する電流のみならず、第1,第2のロータ6,7を直結するタイミングも任意に制御することができ、より自由度の高いトルク性能を得ることができる。
【0035】
また、変速機構41を構成するサンギヤ45、プラネタリギヤ46のプラネタリ軸46a、及び、リングギヤ47と、ステータ5、第1のロータ6、及び、第2のロータ7との結合関係は、上述のものに限定されるものでなく適宜変更が可能である。例えば、図示しないが、出力軸は第2のロータ軸とし、第1のロータ軸24を貫通するようにすると共に、サンギヤ45を第1のロータ6に結合し、プラネタリ軸46aを第2のロータ7に結合し、リングギヤ47をステータ5に結合することも可能である。また、変速機構41による変速比については、上述のものに限定されないことは勿論である。
【0036】
さらに、第1,第2のロータ6,7による合成トルクの特性を出力回転数に応じて切り替える必要がない場合等には、出力合成機構8のクラッチ機構42及びワンウェイクラッチ43等を適宜省略して、サンギヤ45を第2のロータ7等に直結することも可能である。
【符号の説明】
【0037】
1 … モータ
5 … ステータ
5a … 磁石保持孔
5b … 凹部
6 … 第1のロータ
7 … 第2のロータ
7a … 凹部
8 … 出力合成機構
10 … ステータ磁石
15 … 第1のハウジング
15a … 軸孔
16 … 第1のロータ室
20 … 第1のロータコイル
21 … 段部
22 … スリップリング
23 … 電源端子
24 … 第1のロータ軸(出力軸)
24a … 軸受穴
25 … ラジアルベアリング
30 … 第2のハウジング
31 … 第2のロータ室
35 … 第2のロータコイル
36 … 第2のロータ軸
37 … スリップリング
38 … 電源接触子
39 … ラジアルベアリング
40 … 機構収容室
41 … 変速機構
42 … クラッチ機構
43 … ワンウェイクラッチ
45 … サンギヤ
46 … プラネタリギヤ
46a … プラネタリ軸
47 … リングギヤ
48 … ラジアルベアリング
49 … スラストベアリング
50 … クラッチ本体
51 … クラッチシュー
52 … リターンスプリング
53 … クラッチドラム
60 … 電磁クラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状のステータと、
前記ステータの軸方向の一側に対向して配置された第1のロータと、
前記ステータの軸方向の他側に対向して配置された第2のロータと、
前記ステータの内周に配設されて前記第1のロータと前記第2のロータとを所定の変速比にて動力伝達可能に連結する出力合成機構と、を備えたことを特徴とするモータ。
【請求項2】
前記出力合成機構は、サンギヤと、前記サンギヤに噛合するプラネタリギヤと、前記プラネタリギヤに噛合するリングギヤと、を備えた遊星歯車式の変速機構を有し、
前記変速機構は、前記サンギヤ或いは、前記プラネタリギヤを軸支するプラネタリ軸の何れかが、前記第1のロータ或いは、前記第2のロータの何れかにそれぞれ結合されていることを特徴とする請求項1記載のモータ。
【請求項3】
前記出力合成機構は、前記第1のロータ或いは前記第2のロータの何れか一方と前記変速機構との間に介装されたワンウェイクラッチと、
前記第1のロータと前記第2のロータとを直結するクラッチと、を有することを特徴とする請求項2記載のモータ。
【請求項4】
前記クラッチは、遠心クラッチであることを特徴とする請求項3記載のモータ。
【請求項5】
前記クラッチは、電磁クラッチであることを特徴とする請求項3記載のモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−62988(P2013−62988A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201052(P2011−201052)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】