説明

ルビジウム原子発振器

【課題】スイープ電圧発生のための回路規模を小型化し、且つ非ロック時における周波数引き込み動作を自動的に行なうことが可能なルビジウム原子発振器を提供する。
【解決手段】このルビジウム原子発振器100は、OMU1と、増幅器2と、出力信号をデジタル信号に変換するA/D変換器3と、ロック状態又は非ロック状態を判定する状態判定部11と、位相変調信号fmの周波数成分を選択的に出力するBPF13と、スイープ電圧データを生成するスイープ電圧データ生成手段12と、タイマ15と、第1のBPF13の出力信号又はスイープ電圧データ生成手段12の出力信号を選択するSW−A14と、アナログ信号に変換するD/A変換器5と、位相検波して周波数制御信号を生成する位相検波器6と、周波数制御信号を積分処理する積分回路7と、周波数制御信号に従い出力周波数が制御されるVCXO8と、を備えて構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルビジウム原子発振器に関し、さらに詳しくは、非ロック状態が発生した際に、周波数の引き込みを行なうためのスイープ電圧の生成を、デジタル的に行なう回路技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、通信網や放送網等のディジタルネットワーク化が進み、これに伴い、伝送装置のクロック信号や放送局の基準周波数の生成に使用されるクロック源として、高精度・高安定な発振器が必要不可欠なものとなっている。そのような要請を満たす発振器として、発振周波数の精度・安定度が高いルビジウム原子発振器が多く用いられている。また、近年、原子発振器の小型化への要求が高まり、光マイクロ波ユニット(OMU部)も含めて全体を小型化する必要性に迫られている。
【0003】
また、ルビジウム原子発振器は、電源立ち上げ時に周波数の引き込みのためのスイープ回路が必要である。即ち、電圧制御水晶発振器の可変範囲に比べ原子共鳴の光吸収特性が発生する周波数帯域は非常に狭いため(電圧制御水晶発振器の可変範囲:1×10-5程度、原子共鳴の光吸収特性が発生する周波数帯域は1×10-7程度)、従来より、電圧制御水晶発振器の周波数を、原子共鳴の光吸収特性が発生する周波数に調整するためにスイープ回路が使われてきた。しかし、スイープ回路はアナログ回路により構成される場合が多く、回路規模が大きくなるといった欠点がある。そのため回路規模を小型化するために、アナログ回路をデジタル化し、DSP(Digital Signal Processor)で処理する方法が良く知られている。
【0004】
特許文献1には、非ロック状態になったときに、スイープ回路により制御電圧のスイープを中止して、発振周波数の揺れをなくしてシステム運用時の悪影響を防止したルビジウム原子発振器について開示されている。
また、特許文献2には、発振回路と、分周器と、アップダウンカウンタと、D/A変換器と、加算器と、積分増幅器と、同期回路と、比較器と、切替信号発生器とを備えて構成され、掃引回路のスイープの方向を自動的に検出する原子発振器について開示されている。
【特許文献1】特開平7−22945号公報
【特許文献2】特開平4−196717号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されている従来技術は、スイープ回路を制御するためにラッチ回路を備え、且つ非ロック状態を報知するアラーム発生回路を備えることにより、運用時に非ロック状態が発生したときにアラームを発して、スイープ回路を働かせないようにしたものである。従って、アラームを認知しない場合は、非ロック状態が何時までも解消されないといった問題がある。
また、特許文献2に開示されている従来技術は、スイープ回路は基本的にはアナログ回路であり、比較的簡単な回路規模であっても、カウンタ、D/A変換器、切替信号発生器等といった部品を多く必要とし、その結果、回路規模が大きくなるといった問題がある。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑み、常時、ロック状態か否かを判定する状態判定部と、スイープ電圧を発生するためのデジタルデータを生成するスイープ電圧データ生成手段と、状態判定部の判定結果に基づいて、原子共鳴器の出力信号又はスイープ電圧データの何れか一方を選択する出力選択手段と、を備えることにより、スイープ電圧発生のための回路規模を小さくし、且つ非ロック時における周波数引き込み動作を自動的に行なうことが可能なルビジウム原子発振器を提供することを目的とする。
また、他の目的は、回路規模を小さくするために、少なくとも状態判定部、スイープ電圧データ生成手段、バンドパスフィルタ、及び出力選択手段を含むようにDSPを構成することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はかかる課題を解決するために、ルビジウムを用いた光マイクロ波共鳴器と、該光マイクロ波共鳴器の共鳴周波数の信号位相に同期するように制御電圧を生成する周波数制御部と、前記制御電圧によって発振周波数が制御される電圧制御発振器と、を備えたルビジウム原子発振器であって、非ロック状態における周波数の引き込みを行なうスイープ信号を生成するためのスイープ電圧データを生成するスイープ電圧データ生成手段を備え、該スイープ電圧データ生成手段をデジタル回路により構成し、前記周波数制御部の一部と共に一つの集積回路に集約したことを特徴とする。
ルビジウム原子発振器は、電源投入時に周波数の引き込みを行なうために、電圧制御発振器の制御電圧をスイープするスイープ回路が必要である。従来はこのスイープ回路はアナログ回路により構成される場合が多かったが、近年、周波数制御部の一部をDSPに集約する例が良く知られている。しかし、スイープ電圧データ生成部をデジタル化すると、別途D/A変換器等の部品や、或いは専用のDSPが必要となる。そこで本発明では、スイープ電圧データ生成手段をデジタル化し、周波数制御部の一部と共に一つの集積回路(例えばDSP)に集約できるような回路構成とした。これにより、非ロック時の動作とロック時の動作でD/A変換器を共用することができるので、部品点数を削減することができる。
【0008】
また、前記スイープ電圧データ生成手段は、位相変調信号に同期した正電圧に対応するデジタルデータを生成する正電圧データ生成部と、負電圧に対応するデジタルデータを生成する負電圧データ生成部と、前記正電圧データ生成部から生成される正電圧データ又は前記負電圧データ生成部から生成され負電圧データを切り替えるデータ切替手段と、を備え、前記データ切替手段は、前記正電圧データ又は負電圧データを所定の時間間隔により交互に切り替えて出力することを特徴とする。
スイープ電圧は、周波数制御電圧が低い電圧から高い電圧に、又は高い電圧から低い電圧に直線的に変化する特性が必要である。この電圧を積分回路により生成する場合、DSP内においては、正電圧と負電圧をデジタルデータとして出力する必要がある。そこで本発明では、正電圧及び負電圧データを位相変調信号に同期して生成する正電圧データ生成部と負電圧データ生成部を備え、その出力データを周期的に交互に切り替えるデータ切替手段を備えるものである。そして、その出力データはD/A変換器によりアナログデータに変換し、位相変調信号に同期して位相検波を行なって正電圧及び負電圧を積分回路に供給する。積分回路は、それらの電圧を積分処理して周期的に正電圧、負電圧に変化するスイープ電圧を発生する。これにより、DSP内ではスイープ電圧発生のための信号を全てデジタル信号により生成することが可能となり、且つ正電圧データ生成部と負電圧データ生成部からのデータを交互に出力するだけで良いので、回路構成を極めて簡単にすることができる。
【0009】
また、前記周波数制御部は、前記光マイクロ波共鳴器の出力信号をデジタル信号に変換するA/D変換部と、該A/D変換部の出力信号に基づいてロック状態又は非ロック状態を判定する状態判定部と、前記A/D変換部の出力信号に含まれる前記位相変調信号の周波数成分を選択的に出力する第1のバンドパスフィルタと、前記状態判定部の判定結果に基づいて、前記第1のバンドパスフィルタの出力信号又は前記スイープ電圧データ生成手段の出力信号の何れか一方を選択する出力選択手段と、該出力選択手段から出力された出力信号をアナログ信号に変換するD/A変換部と、該D/A変換部の出力信号と前記位相変調信号とを位相検波して周波数制御信号を生成する位相検波器と、前記周波数制御信号を積分処理して前記制御電圧を生成する積分回路と、を備え、前記状態判定部は、前記A/D変換部の出力信号に基づいて非ロック状態と判定した場合、前記スイープ電圧データ生成手段の出力信号を選択して出力するように前記出力選択手段を制御することを特徴とする。
【0010】
周波数制御部の構成としては、光マイクロ波共鳴器の出力信号をデジタル信号に変換するA/D変換部と、A/D変換部の出力信号に基づいてロック状態又は非ロック状態を判定する状態判定部と、A/D変換部の出力信号に含まれる位相変調信号の周波数成分を選択的に出力する第1のバンドパスフィルタと、状態判定部の判定結果に基づいて、第1のバンドパスフィルタの出力信号又はスイープ電圧データ生成手段の出力信号の何れか一方を選択する出力選択手段と、出力選択手段から出力された出力信号をアナログ信号に変換するD/A変換部と、D/A変換部の出力信号と位相変調信号とを位相検波して周波数制御信号を生成する位相検波器と、周波数制御信号を積分処理して制御電圧を生成する積分回路と、を備えている。本発明の特徴として、状態判定部は、A/D変換部の出力信号に基づいて非ロック状態と判定した場合、スイープ電圧データ生成手段の出力信号を選択して出力するように出力選択手段を制御する点である。これにより、非ロック状態が検出されると直ちに周波数引き込み動作を開始し、自動的に原子発振器をロック状態に引き込むことができる。
【0011】
また、前記状態判定部は、前記A/D変換部の出力信号に含まれる前記位相変調信号の2倍の周波数成分を選択的に出力する第2のバンドパスフィルタと、該第2のバンドパスフィルタから出力された出力信号のレベルを検知するレベル検出部と、該レベル検出部のレベルに基づいてロック状態又は非ロック状態を判定する判定部と、を備えていることを特徴とする。
光マイクロ波共鳴器は、逓倍及び位相変調部から入力されたマイクロ波(位相変調された高周波信号)を検出し、マイクロ波の中心周波数が原子共鳴周波数(f0)に等しいと、位相変調信号の周波数(fm)の2倍の周波数成分2fmが出力される。また、マイクロ波の中心周波数が原子共鳴周波数(f0)からずれると、2fmの周波数成分が減少していきfmの周波数成分が増加する。従って、状態判定部は、この2fmの周波数成分をフィルタリングし、このレベルが基準値より大の場合はロック状態、基準値より小の場合は非ロック状態を出力する。これにより、ロック状態を正確に、且つ迅速に検出することができ、周波数引き込みの動作を早めることができる。
【0012】
また、前記集積回路は、少なくとも前記状態判定部、前記スイープ電圧データ生成手段、前記第1のバンドパスフィルタ、及び前記出力選択手段を含むように構成されていることを特徴とする。
集積回路としてDSPを使用した場合、DSPは、デジタル信号処理に特化したプロセッサである。従って、内部の回路が全てデジタル回路により構成されることが必要である。その意味では、状態判定部と第1のバンドパスフィルタは前段のA/D変換器の出力信号(デジタル信号)を処理するので当然デジタル回路として構成される。また、スイープ電圧データ生成手段は、デジタル信号により正負の電圧データを生成するように構成する。また、出力選択手段はデジタル信号を選択するのでゲート回路等により容易にデジタル化が可能である。これにより、スイープ回路をデジタル化することにより回路構成が簡略化され、且つ出力選択手段の出力はD/A変換器の入力に接続されているので、非ロック時の動作とロック時の動作でD/A変換器を共用することができ、部品点数を削減することができる。
【0013】
また、前記集積回路は、前記位相検波器を更に含むように構成されていることを特徴とする。
本発明は、位相検波器をデジタル化し、これを集積回路(DSP)に集約する構成とするものである。これにより、DSPの回路規模は大きくなるが、全体の部品点数を更に削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
【0015】
図1(a)は本発明の第1の実施形態に係るルビジウム原子発振器のブロック図である。このルビジウム原子発振器100は、逓倍及び位相変調部9から入力されたマイクロ波(位相変調された高周波信号)22を検出し、マイクロ波22の中心周波数が原子共鳴周波数(f0)に等しいと、位相変調信号の周波数(fm)の2倍の周波数成分2fm(図5の符号25の状態)が出力され、マイクロ波の中心周波数が原子共鳴周波数(f0)からずれると、2fmの周波数成分が減少していきfmの周波数成分が増加する(図5の符号26,27の状態)信号を出力するOMU(原子共鳴器)1と、OMU1の出力信号を増幅する増幅器2と、増幅器2の出力信号をデジタル信号に変換するA/D変換器(A/D変換部)3と、A/D変換器3の出力信号に基づいてロック状態又は非ロック状態を判定する状態判定部11と、A/D変換器3の出力信号に含まれる位相変調信号(fm)の周波数成分を選択的に出力するBPF(第1のバンドパスフィルタ:以下、BPFと記す)13と、非ロック状態における周波数の引き込みを行なうスイープ信号を生成するためのスイープ電圧データを生成するスイープ電圧データ生成手段12と、タイマ15と、状態判定部11の判定結果に基づいて、第1のBPF13の出力信号又はスイープ電圧データ生成手段12の出力信号の何れか一方を選択するSW−A(出力選択手段)14と、SW−A14から出力された出力信号をアナログ信号に変換するD/A変換器(D/A変換部)5と、D/A変換器5の出力信号と位相変調信号23とを位相検波して周波数制御信号を生成する位相検波器6と、周波数制御信号を積分処理して制御電圧を生成する積分回路7と、積分回路7の出力する制御電圧に従い出力周波数が制御されるVCXO8と、VCXO8の出力信号をマイクロ波22に逓倍するとともに、低周波発振器10の出力信号にてこれを位相変調して出力する逓倍及び位相変調部9と、位相変調信号23を発振する低周波発振器10と、を備えて構成されている。
【0016】
即ち、ルビジウム原子発振器100は、電源投入時に周波数の引き込みを行なうために、VCXO8の制御電圧をスイープするスイープ回路が必要である。従来はこのスイープ回路はアナログ回路により構成される場合が多かったが、近年、周波数制御部の一部をDSPに集約する例が良く知られている。しかし、スープ電圧データ生成部12をデジタル化すると、別途D/A変換器等の部品や、或いは専用のDSPが必要となる。そこで本実施形態では、スイープ電圧データ生成手段12をデジタル化し、周波数制御部の一部と共に一つのDSP4に集約できるような回路構成とした。これにより、非ロック時の動作とロック時の動作でD/A変換器5を共用することができるので、部品点数を削減することができる。
【0017】
尚、状態判定部11は、A/D変換器3の出力信号に含まれる位相変調信号23の2倍の周波数成分(2fm)を選択的に出力するBPF(第2のバンドパスフィルタ)16と、BPF16から出力された出力信号のレベルを検知するレベル検出部17と、レベル検出部17のレベルに基づいてロック状態又は非ロック状態を判定する判定部18と、を備えて構成されている。
また、スイープ電圧データ生成手段12は、位相変調信号23に同期した正電圧に対応するデジタルデータを生成する正電圧データ生成部19と、負電圧に対応するデジタルデータを生成する負電圧データ生成部20と、正電圧データ生成部19から生成される正電圧データ又は負電圧データ生成部20から生成され負電圧データを切り替えるSW−B(データ切替手段)21と、を備えて構成されている。尚、タイマ15をDSP4内に構成しているが、外部から供給しても構わない。また、本実施形態では、DSP4は、少なくとも状態判定部11、スイープ電圧データ生成手段12、BPF13、タイマ15及びSW−A14を含むように構成されている。
【0018】
即ち、OMU1は、逓倍及び位相変調部から入力されたマイクロ波22を検出し、マイクロ波22の中心周波数が原子共鳴周波数(f0)に等しいと、位相変調信号23の周波数(fm)の2倍の周波数成分2fmが出力される。また、マイクロ波22の中心周波数が原子共鳴周波数(f0)からずれると、2fmの周波数成分が減少していきfmの周波数成分が増加する。従って、状態判定部11は、この2fmの周波数成分をBPF16によりフィルタリングし、このレベルが基準値より大の場合はロック状態、基準値より小の場合は非ロック状態を出力する。これにより、ロック状態を正確に、且つ迅速に検出することができ、周波数引き込みの動作を早めることができる。
【0019】
また、スイープ電圧は、周波数制御電圧が低い電圧から高い電圧に、又は高い電圧から低い電圧に直線的に変化する特性が必要である。この電圧を積分回路7により生成する場合、DSP4内においては、正電圧と負電圧をデジタルデータとして出力する必要がある。そこで本実施形態では、正電圧及び負電圧データを位相変調信号23に同期して生成する正電圧データ生成部19と負電圧データ生成部20を備え、その出力データを周期的に交互に切り替えるSW−B21を備えるものである。そして、その出力データはD/A変換器5によりアナログデータに変換し、位相変調信号23に同期して位相検波を行なって正電圧及び負電圧を積分回路7に供給する。積分回路7は、それらの電圧を積分処理して周期的に正電圧、負電圧に変化するスイープ電圧を発生する。図1(b)は積分回路の出力電圧(スイープ電圧)を表す図であり、縦軸にスイープ電位、縦軸に時間Tを表す。この例では、正電圧データ生成部19により生成された正電圧によりスイープ電位がVbからVaに増加し、時間t経過後にスイープ電位VaからVbに減少する。従って、時間tの周期でスイープ電圧が増減する三角波が生成される。これにより、DSP4内ではスイープ電圧発生のための信号を全てデジタル信号により生成することが可能となり、且つ正電圧データ生成部19と負電圧データ生成部20からのデータを交互に出力するだけで良いので、回路構成を極めて簡単にすることができる。
【0020】
また、本実施形態の周波数制御部の構成としては、OMU1の出力信号をデジタル信号に変換するA/D変換器3と、A/D変換器3の出力信号に基づいてロック状態又は非ロック状態を判定する状態判定部11と、A/D変換器3の出力信号に含まれる位相変調信号の周波数成分を選択的に出力するBPF13と、状態判定部11の判定結果に基づいて、BPF13の出力信号又はスイープ電圧データ生成手段12の出力信号の何れか一方を選択するSW−A14と、SW−A14から出力された出力信号をアナログ信号に変換するD/A変換器5と、D/A変換器5の出力信号と位相変調信号23とを位相検波して周波数制御信号を生成する位相検波器6と、周波数制御信号を積分処理して制御電圧を生成する積分回路7と、を備えている。
【0021】
本実施形態の特徴として、状態判定部11は、A/D変換器3の出力信号に基づいて非ロック状態と判定した場合、スイープ電圧データ生成手段12の出力信号を選択して出力するようにSW−A14を制御する点である。これにより、非ロック状態が検出されると直ちに周波数引き込み動作を開始し、自動的にルビジウム原子発振器100をロック状態に引き込むことができる。
更に、DSP4を使用した場合、DSP4は、デジタル信号処理に特化したプロセッサである。従って、内部の回路が全てデジタル回路により構成されることが必要である。その意味では、状態判定部11とBPF13は前段のA/D変換器3の出力信号(デジタル信号)を処理するので当然デジタル回路として構成される。また、スイープ電圧データ生成手段12は、デジタル信号により正負の電圧データを生成するように構成する。また、SW−A14はデジタル信号を選択するのでゲート回路等により容易にデジタル化が可能である。これにより、スイープ回路をデジタル化することにより回路構成が簡略化され、且つSW−A14の出力はD/A変換器5の入力に接続されているので、非ロック時の動作とロック時の動作でD/A変換器5を共用することができ、部品点数を削減することができる。
【0022】
図2は各部の波形を示す図である。上から順に、正電圧データ生成部19の出力電圧、負電圧データ生成手段20の出力電圧、低周波発振器10の位相変調信号、検波タイミング、位相検波器6の正電圧の出力、位相検波器6の負電圧の出力である。尚、正電圧データ生成部19の出力電圧、負電圧データ生成手段20の出力電圧は、実際には+V1に対応するデジタルデータD1と、−V1に対応するデジタルデータD0を出力する。同様に+V2に対応するデジタルデータD2と、−V2に対応するデジタルデータD0を出力する。
図3は本発明の第1の実施形態に係るルビジウム原子発振器の動作を説明するフローチャートである。図1を参照して説明する。
【0023】
まず状態判定部11が非ロック状態と判定した場合の動作について説明する。状態判定部11がA/D変換器3の出力信号に基づいて非ロック状態を判定する(S1)。非ロック状態の判定は、マイクロ波22の中心周波数が原子共鳴周波数(f0)からずれると、2fmの周波数成分が減少していきfmの周波数成分が増加する(図5の符号26,27の状態)信号を出力することにより、2fmの周波数成分が基準値より小さくなることにより判定することができる。
【0024】
その結果、SW−A14の接点が(b)側に接続される(S2)。それにより、スイープ電圧データ生成手段12から出力された正電圧データ又は負電圧データがD/A変換器5に入力され、アナログ信号に変換される(S3)。次に位相検波器6はアナログ信号を低周波発振器10の位相変調信号23で位相検波する(S4)。そのときのタイミングは、図2に記載の通り位相変調信号23の半周期の矢印のタイミングで検波され、その結果、位相検波器6からは積分器7の基準値に対して+V1,−V2の電圧が積分回路7に入力される。積分回路7は入力された電圧を積分することにより(S5)、入力された電圧が+V1の場合は図1(b)に示すVbからVaに増加するスイープ電圧を発生し、入力された電圧が−V2の場合は図1(b)に示すVaからVbに減少するスイープ電圧を発生する(S6)。その電圧はVCXO8に入力され、スイープ電圧に従ってVCXO8の周波数を制御する(S7)。VCXO8の信号は逓倍及び位相変調部9に供給され、VCXO8の出力信号をマイクロ波22に逓倍するとともに、位相変調信号23によりこれを位相変調して出力する。
以上の動作が1サイクルの動作であり、スイープ信号は状態判定部4がロック状態を検出するまで続けられる。
【0025】
次に、状態判定部11がロック状態を検出すると(S8でYES)、SW−A14が切り替わって接点が(a)側に接続される(S9)。ロック状態の判定は、マイクロ波22の中心周波数が原子共鳴周波数(f0)に等しいと、位相変調信号23の周波数(fm)の2倍の周波数成分2fmが出力されることにより判定する。それにより、BPF13から出力された信号がD/A変換器5に入力され、アナログ信号に変換される(S10)。次に位相検波器6はアナログ信号を低周波発振器10の位相変調信号23で位相検波する(S11)。位相検波器6の出力信号は積分回路7に入力され、入力された電圧を積分する(S12)、その電圧は制御電圧となりVCXO8に入力され、制御電圧に従ってVCXO8の周波数を制御する(S14)。
【0026】
図4は本発明の第2の実施形態に係るルビジウム原子発振器のブロック図である。同じ構成要素には図1と同じ参照番号を付し、説明を省略する。このルビジウム原子発振器110が図1と異なる点は、位相検波器6をデジタル化し、これをDSP4に集約する構成とするものである。これにより、DSP4の回路規模は大きくなるが、全体の部品点数を更に削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】(a)は本発明の第1の実施形態に係るルビジウム原子発振器のブロック図、(b)は積分回路の出力電圧(スイープ電圧)を表す図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るルビジウム原子発振器の各部の波形を示す図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係るルビジウム原子発振器の動作を説明するフローチャートである。
【図4】(a)は本発明の第2の実施形態に係るルビジウム原子発振器のブロック図、(b)は積分回路の出力電圧(スイープ電圧)を表す図である。
【図5】原子共鳴器の光出力とマイクロ波周波数の関係を表す図である。
【符号の説明】
【0028】
1 OMU、2 増幅器、3 A/D変換器、4 DSP、5 D/A変換器、6 位相検波器、7 積分回路、8 VCXO、9 逓倍及び位相変調部、10 低周波発振器、11 状態判定部、12 スイープ電圧データ生成手段、13、16 BPF,14 SW−A、15 タイマ、17 レベル検出部、18 判定部、19 正電圧データ生成部、20 負電圧データ生成部、21 SW−B、22 マイクロ波、23 位相変調信号、100 ルビジウム原子発振器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルビジウムを用いた原子共鳴器と、該原子共鳴器の共鳴周波数の信号位相に同期するように制御電圧を生成する周波数制御部と、前記制御電圧によって発振周波数が制御される電圧制御発振器と、を備えたルビジウム原子発振器であって、
非ロック状態における周波数の引き込みを行なうスイープ信号を生成するためのスイープ電圧データを生成するスイープ電圧データ生成手段を備え、該スイープ電圧データ生成手段をデジタル回路により構成し、前記周波数制御部の一部と共に一つの集積回路に集約したことを特徴とするルビジウム原子発振器。
【請求項2】
前記スイープ電圧データ生成手段は、位相変調信号に同期した正電圧に対応するデジタルデータを生成する正電圧データ生成部と、負電圧に対応するデジタルデータを生成する負電圧データ生成部と、前記正電圧データ生成部から生成される正電圧データ又は前記負電圧データ生成部から生成され負電圧データを切り替えるデータ切替手段と、を備え、
前記データ切替手段は、前記正電圧データ又は負電圧データを所定の時間間隔により交互に切り替えて出力することを特徴とする請求項1に記載のルビジウム原子発振器。
【請求項3】
前記周波数制御部は、前記原子共鳴器の出力信号をデジタル信号に変換するA/D変換部と、該A/D変換部の出力信号に基づいてロック状態又は非ロック状態を判定する状態判定部と、前記A/D変換部の出力信号に含まれる前記位相変調信号の周波数成分を選択的に出力する第1のバンドパスフィルタと、前記状態判定部の判定結果に基づいて、前記第1のバンドパスフィルタの出力信号又は前記スイープ電圧データ生成手段の出力信号の何れか一方を選択する出力選択手段と、該出力選択手段から出力された出力信号をアナログ信号に変換するD/A変換部と、該D/A変換部の出力信号と前記位相変調信号とを位相検波して周波数制御信号を生成する位相検波器と、前記周波数制御信号を積分処理して前記制御電圧を生成する積分回路と、を備え、
前記状態判定部は、前記A/D変換部の出力信号に基づいて非ロック状態と判定した場合、前記スイープ電圧データ生成手段の出力信号を選択して出力するように前記出力選択手段を制御することを特徴とする請求項1又は2に記載のルビジウム原子発振器。
【請求項4】
前記状態判定部は、前記A/D変換部の出力信号に含まれる前記位相変調信号の2倍の周波数成分を選択的に出力する第2のバンドパスフィルタと、該第2のバンドパスフィルタから出力された出力信号のレベルを検知するレベル検出部と、該レベル検出部のレベルに基づいてロック状態又は非ロック状態を判定する判定部と、を備えていることを特徴とする請求項3に記載のルビジウム原子発振器。
【請求項5】
前記集積回路は、少なくとも前記状態判定部、前記スイープ電圧データ生成手段、前記第1のバンドパスフィルタ、及び前記出力選択手段を含むように構成されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載のルビジウム原子発振器。
【請求項6】
前記集積回路は、前記位相検波器を更に含むように構成されていることを特徴とする請求項5に記載のルビジウム原子発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−131123(P2008−131123A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−311105(P2006−311105)
【出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】