説明

レーザアニール装置及びレーザアニール方法

【課題】レーザビームの照射エネルギーの維持管理が容易で、且つ照射パターンの形状乱れを抑制する。
【解決手段】TFT基板10上に形成されたアモルファスシリコン膜に複数のレーザビームLbを照射してアニール処理するレーザアニール装置であって、TFT基板10上の被アニール領域の形状に相似形の複数の開口を形成したマスク3と、マスク3の複数の開口を夫々通過した複数のレーザビームLbを、一面に形成した複数のマイクロレンズを介してTFT基板10上に集め、アモルファスシリコン膜に一定の光エネルギーを付与するマイクロレンズ基板4と、半円柱状の形状を成し、マイクロレンズ基板4を挟んでその両縁部の位置に軸心を略平行にして対向配置され、頂部がマイクロレンズの頂部の位置よりもTFT基板10側に突出した一対のガイド25と、一対のガイド25間に移動可能に張設されレーザビームLbを透過するフィルム22と、を備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に形成されたアモルファスシリコン膜に複数のマイクロレンズを介して複数のレーザビームを照射しアニール処理するレーザアニール装置に関し、特にレーザビームの照射エネルギーの維持管理が容易で、且つ照射パターンの形状乱れを抑制可能とするレーザアニール装置及びレーザアニール方法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のレーザアニール装置は、マイクロレンズアレイにより複数のレーザビームを形成すると共に、ビーム毎に焦点を形成し、該ビームの各焦点を縮小転写光学系によりアモルファスシリコン膜面側に転写して結像させ、アモルファスシリコン膜面に対するビーム照射によりレーザ処理を施して、薄膜トランジスタ(以下、「TFT」という)形成領域のアモルファスシリコン膜をポリシリコン化するもので、縮小転写光学系の下面側には、保護用部材として石英板を設置してアニール処理時に飛散する汚染物質が光学系に付着するのを防止できるようになっていた(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、光学系に汚染物質が付着するのを防止する光学系保護手段として、集光レンズによりレーザビームを被加工物上に集光して加工する装置において、巻取リールと送出リールとの間に掛け渡されレーザビームを透過するフィルムを、集光レンズと被加工物との間を移動可能に配置したものがある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−311906号公報
【特許文献2】特開平7−100670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1に記載のレーザアニール装置においては、汚染物質が光学系に付着するのを防止する保護用部材として石英板が使用されているため、表面を平坦に形成することができ、照射パターンの形状乱れは発生しないが、一定時間使用する毎に汚染した石英板を取り替えなければならず、作業が煩雑になるという問題がある。したがって、レーザビームの照射エネルギーを長時間安定して高い状態に維持することができないという問題がある。
【0006】
また、上記特許文献2に記載の光学系保護手段は、集光レンズと被加工物との間を移動可能にフィルムを配置したものであるため、一定時間使用する毎に取り替える必要がなく作業が簡単であるという利点があるものの、フィルムを案内する一対のロールが集光レンズを挟んでその縁部の位置に対向配置されておらず、一対のロール間の距離が長いため、フィルムにバックテンションを掛けると一対のロール間のフィルムにその移動方向に平行な縦しわが発生し易すいという問題がある。したがって、このような光学系保護手段を上記特許文献1のレーザアニール装置に適用した場合には、上記フィルムの縦しわによって基板に照射するレーザビームの照射パターン形状が乱れてしまい、TFT形成領域を予め定められた形状にアニール処理することができないという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、このような問題点に対処し、レーザビームの照射エネルギーの維持管理が容易で、且つ照射パターンの形状乱れを抑制可能とするレーザアニール装置及びレーザアニール方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明によるレーザアニール装置は、基板上に形成されたアモルファスシリコン膜に複数のレーザビームを照射してアニール処理するレーザアニール装置であって、前記基板上の被アニール領域の形状に相似形の複数の開口を形成したマスクと、前記マスクの前記複数の開口を夫々通過した前記複数のレーザビームを、一面に形成した複数のマイクロレンズを介して前記基板上に集め、前記アモルファスシリコン膜に一定の光エネルギーを付与するマイクロレンズ基板と、半円柱状の形状を成し、前記マイクロレンズ基板を挟んでその両縁部の位置に軸心を略平行にして対向配置され、頂部が前記マイクロレンズの頂部の位置よりも前記基板側に突出した一対のガイドと、前記一対のガイド間に移動可能に張設され前記レーザビームを透過するフィルムと、を備えたものである。
【0009】
このような構成により、基板上の被アニール領域の形状に相似形の複数の開口を形成したマスクの該複数の開口を夫々通過した複数のレーザビームを、マイクロレンズ基板の一面に形成した複数のマイクロレンズにより基板上に集め、基板上に形成されたアモルファスシリコン膜に一定の光エネルギーを付与してアニール処理する。このとき、マイクロレンズ基板を挟んでその両縁部の位置に軸心を略平行にして対向配置され、頂部がマイクロレンズの頂部の位置よりも基板側に突出した半円柱状の一対のガイド間にレーザビームを透過するフィルムを移動可能に張設し、マイクロレンズ基板面に汚染物質が付着するのを抑制する。
【0010】
また、前記マスクを間にして一方側に前記フィルムを送り出す送出リールを備え、他方側に前記フィルムを巻き取る巻取リールを備え、前記一対のガイド間を一定のバックテンションが掛かった状態で前記フィルムを一定速度で連続的に又は一定の時間間隔で一定量ずつ通過可能にしたものである。これにより、マスクを間にして一方側に備えた送出リールからフィルムを送り出すと共に、他方側に備えた巻取リールによりフィルムを巻き取りながら、一対のガイド間を一定のバックテンションが掛かった状態でフィルムを一定速度で連続的に又は一定の時間間隔で一定量ずつ通過させる。
【0011】
さらに、前記基板を前記一対のガイドの軸心と交差する方向に一定速度で移動させる搬送手段を設けたものである。これにより、搬送手段で基板を一対のガイドの軸心と交差する方向に一定速度で移動させる。
【0012】
さらにまた、前記基板は、表示装置用の薄膜トランジスタ(以下、「TFT」という)基板であり、前記被アニール領域は、TFT形成領域である。これにより、表示装置用のTFT基板のTFT形成領域をレーザアニール処理する。
【0013】
そして、前記マイクロレンズは、該マイクロレンズの頂部と前記フィルムとの間、又は前記フィルムと前記基板との間に焦点を有するように形成されたものである。これにより、マイクロレンズでレーザビームをマイクロレンズの頂部とフィルムとの間、又は前記フィルムと前記基板との間の焦点に一旦集光させる。
【0014】
また、本発明によるレーザアニール方法は、一定形状の複数の開口を形成したマスクと、該マスクの前記複数の開口に夫々対応させて複数のマイクロレンズを設けたマイクロレンズ基板とを介して基板上に形成されたアモルファスシリコン膜に複数のレーザビームを照射してアニール処理するレーザアニール方法であって、半円柱状の形状を成し、前記マイクロレンズ基板を挟んでその両縁部の位置に軸心を略平行にして対向配置され、頂部が前記マイクロレンズの頂部の位置よりも前記基板側に突出した一対のガイド間に張設した状態で、前記レーザビームを透過するフィルムを前記一対のガイドの軸心と交差する方向に移動させる段階と、前記基板を前記マイクロレンズ基板に対向させて前記フィルムの移動方向に一定速度で移動させる段階と、前記複数のマイクロレンズを通過し、前記フィルムを透過した複数のレーザビームを前記基板上に集め、前記アモルファスシリコン膜に一定の光エネルギーを付与する段階と、を含むものである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1及び2に係る発明によれば、マイクロレンズ基板と基板との間に移動可能にフィルムを設けて汚染物質がマイクロレンズ基板面に付着するのを防止しているので、フィルムを頻繁に交換する必要が無く、レーザビームの照射エネルギーの維持管理を容易に行うことができる。且つ、フィルムは、マイクロレンズ基板を挟んで対向配置された一対のガイドによって支持されるので、一対のガイド間の距離を従来技術におけるものよりも遥かに狭くすることができ、フィルムの移動方向に平行な縦しわの発生を抑制して照射パターンの形状乱れを抑制ことができる。したがって、被アニール領域を形状精度よくアニール処理することができる。
【0016】
また、請求項3に係る発明によれば、基板を一定速度で移動しながらレーザアニール処理するので、小さなマスクを使用して大型基板のレーザアニール処理をすることができ、レーザアニール処理工程のコストを安価にすることができる。また、大型基板に対するアニール処理工程のタクトを短縮することもできる。
【0017】
さらに、請求項4に係る発明によれば、表示用TFT基板のTFT形成領域のアニール処理を均一に実施することができる。したがって、薄膜トランジスタの動作性能を表示領域全面に亘って略一定に揃えることができ、表示画像の品質を向上することができる。
【0018】
そして、請求項5に係る発明によれば、基板面とフィルムとの間に浮遊するシリコン蒸気にレーザエネルギーの一部が吸収されてエネルギー損失が生じるのを抑制することができる。また、フィルム上に焦点を有しないので、フイルム上にレーザエネルギーが集中せず、フィルムが焼損するのを防止することができる。
【0019】
また、請求項6に係る発明によれば、マイクロレンズ基板と基板との間に移動可能にフィルムを設けて汚染物質がマイクロレンズ基板面に付着するのを防止しているので、フィルムを頻繁に交換する必要が無く、レーザビームの照射エネルギーの維持管理を容易に行うことができる。且つ、フィルムは、マイクロレンズ基板を挟んで対向配置された一対のガイドによって支持されるので、一対のガイド間の距離を従来技術におけるものよりも遥かに狭くすることができ、フィルムの移動方向に平行な縦しわの発生を抑制して照射パターンの形状乱れを抑制ことができる。したがって、被アニール領域を形状精度よくアニール処理することができる。さらに、基板を一定速度で移動しながらレーザアニール処理するので、小さなマスクを使用して大型基板のレーザアニール処理をすることができ、レーザアニール処理工程のコストを安価にすることができる。また、大型基板に対するアニール処理工程のタクトを短縮することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明によるレーザアニール装置の実施形態を示す正面図である。
【図2】レーザアニール処理に使用するTFT基板を示す平面図である。
【図3】本発明によるレーザアニール装置に使用するマスク及びマイクロレンズ基板の組み立て構成例を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のO−O線断面矢視図である。
【図4】本発明によるレーザアニール装置の要部を拡大して示す部分断面正面図である。
【図5】本発明のレーザアニール装置によるレーザアニール処理を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。図1は本発明によるレーザアニール装置の実施形態を示す正面図である。このレーザアニール装置は、基板上に形成されたアモルファスシリコン膜に複数のマイクロレンズを介して複数のレーザビームを照射しアニール処理するもので、搬送手段1と、レーザ光源2と、マスク3と、マイクロレンズ基板4と、光学系保護手段5と、アライメント手段6と、を備えて成る。
【0022】
ここで、上記基板は、図2に示すように、縦横に形成される複数のゲート線7とデータ線8との交差部に相当する部分にてゲート電極上にTFT形成領域9(被アニール領域)が予め設定された表示装置用のTFT基板10であり、複数のTFT形成領域9が画素11の配列ピッチと同じ配列ピッチ(縦がX、横がY)でマトリクス状に設定されている。なお、ここでは、矢印Aで示すTFT基板10の搬送方向(以下、「基板搬送方向」という)を縦といい、それと交差する方向を横という。そして、TFT基板10には、TFT形成領域9と後述のマスク3の開口16との位置合わせの基準となるアライメント基準位置が基板搬送方向に平行な例えばゲート線7の縁部に設定されている。本実施形態においては、上記アライメント基準位置は、基板搬送方向に向かって左端に位置するゲート線7の右側縁部に設定されている。このとき、ゲート線7の右側縁部とTFT形成領域9の中心との間の水平距離は、設計値によって決まる。なお、図2には、ゲート線7とデータ線8の両方が記載されているが、レーザアニール段階においては、ゲート線7のみが形成されている。
【0023】
上記搬送手段1は、上面にTFT基板10を載置して上記TFT形成領域9の縦横いずれか一方の配列方向、例えば図2に示す矢印A方向に一定速度で搬送するものであり、上面に気体を噴出する多数の噴出孔と気体を吸引する多数の吸引孔とを有した複数の単位ステージ12を基板搬送方向に並設し、気体の噴出と吸引とのバランスによりTFT基板10を複数の単位ステージ12上に所定量だけ浮かせた状態で、例えば搬送ローラ13によりTFT基板10の両端縁部を支持して搬送するようになっている。
【0024】
上記搬送手段1の上方には、レーザ光源2が設けられている。このレーザ光源2は、例えば波長が308nm又は353nmのレーザ光Lを例えば50Hzの繰り返し周期で放射するエキシマレーザである。
【0025】
上記レーザ光源2から放射されるレーザ光Lの光路上には、マスク3が設けられている。このマスク3は、図3に示すように、透明な例えば石英基板14の一面14aに形成した遮光膜15にTFT基板10上のTFT形成領域9の形状に相似形、例えば円形の複数の開口16を形成したものであり、図3(a)に示すように、基板搬送方向(矢印A方向)に交差して複数設定されたTFT形成領域9の配列ピッチYの2以上の整数倍のピッチ(図3においては2Yで示す)で複数の開口16を並べて設けた例えば6列の開口列17を互いに距離Xだけ離して平行に配置した構成を有し、基板搬送方向先頭側に位置する3列の開口列17(以下、「第1の開口群18」という)の各開口16間を補完するように後続の3列の開口列17(以下、「第2の開口群19」という)を開口16の並び方向に所定寸法(図3においてはYで示す)だけずらして形成している。そして、遮光膜15を形成した面14aと反対側の面14bが搬送手段1側となるように設置されている。
【0026】
上記マスク3の搬送手段1側の面14bには、マイクロレンズ基板4が設けられている。このマイクロレンズ基板4は、マスク3の複数の開口16を夫々通過した複数のレーザビームLbを複数のマイクロレンズを介してTFT基板10上に集め、アモルファスシリコン膜に例えば2J/cm2程度の光エネルギーを付与するものであり、図3に示すように、基板搬送方向(矢印A方向)の幅が約10mm〜約15mmであり、基板搬送方向と交差する方向の幅が約50mmである透明な基板21の一面21aに、マスク3に設けた複数の開口16と同じ配列ピッチ(縦がX、横が2Y)で複数のマイクロレンズ20を形成し(同図(a)参照)、これらの光軸を上記マスク3の開口16の中心に合致させた状態で他面21bをマスク3の面14bに接合している(同図(b)参照)。ここで、各マイクロレンズ20は、後焦点の位置がマイクロレンズ20の頂点と、マイクロレンズ基板4の下側を通過する後述のフィルム22との間、又はフィルム22と基板21との間となるように設計するとよい。これにより、マイクロレンズ20により集光されたレーザビームLbの光エネルギーがアニール処理によりTFT基板10面とフィルム22との間に浮遊するシリコン蒸気に吸収されてエネルギー損失を招くおそれがない。また、フィルム22上に焦点を有しないので、フィルム22上にレーザエネルギーが集中してフィルム22を焼損させるおそれがない。
【0027】
上記マイクロレンズ基板4と搬送手段1の上面との間には、レーザビームLbを透過するフィルム22を移動可能に光学系保護手段5が設けられている。この光学系保護手段5は、アニール処理時に飛散する汚染物質が光学系に付着するのを防止できるようにするものであり、図4に要部を拡大して示すように、送出リール23と、巻取リール24と、一対のガイド25とを備えて構成されている。この場合、上記フィルム22としては、紫外線透過率が90%以上で、レーザ耐性が10J/cm2以上であり、厚みが10μm程度の例えばポリエチレンフィルムが適している。
【0028】
詳細には、上記送出リール23は、一定量だけ巻き上げられたフィルム22を送り出すものであり、回転軸26に連結して設けたバックテンション用モータ27によりフィルム22の送出方向(矢印B方向)と反対方向の張力をフィルム22に常時与えてバックテンションを掛けた状態でフィルム22を送出できるようになっており、マスク3を間にして一方側(図4においては基板搬送方向(矢印A方向)に向かってマスク3の手前側)に備えられている。また、上記巻取リール24は、回転軸28に連結して設けた巻取り用モータ29により矢印C方向に回転されてフィルム22を巻き取るものであり、マスク3を間にして上記送出リール23とは反対側に備えられている。さらに、上記一対のガイド25は、マイクロレンズ基板4の下面を通過するフィルム22に該フィルム22の移動方向に平行な縦しわの発生を抑制するためのものであり、滑らかな表面を有する半円柱状の形状を成し、マイクロレンズ基板4を挟んでその両縁部4a,4bの位置にてマスク3の下面3bに軸心を略平行にして対向配置され、頂部がマイクロレンズ20の頂部の位置よりも搬送手段1側(下側を通過するTFT基板10側)に一定量だけ突出させて設けられている。これにより、フィルム22は、一対のガイド25間を一定のバックテンションが掛けられた状態で一定速度で連続的に又は一定の時間間隔で一定量ずつ移動できるようになっている。なお、図4において符号30は、フィルム22の移動方向を変更すると共にフィルム22の移動を安定化させるガイドローラである。
【0029】
上記マスク3及びマイクロレンズ基板4を基板搬送方向と交差する方向に微動可能にアライメント手段6が設けられている。このアライメント手段6は、マスク3の開口16の中心(又はマイクロレンズ20の中心)とTFT形成領域9との位置合わせをするためのものであり、図示省略の制御手段によって駆動が制御されるようになっている。
【0030】
上記アライメント手段6による位置合わせは、次のようにして行なうことができる。即ち、単位ステージ12の上面に平行な面内にて基板搬送方向と交差する方向に複数の受光素子を一直線状に並べて有する図示省略のラインカメラによりTFT基板10面を撮像し、該撮像画像を制御手段の画像処理部において画像処理してTFT基板10のアライメント基準の位置を検出し、該アライメント基準の位置とラインカメラの撮像中心との間の距離をメモリに記憶された目標値と比較してそのずれ量を演算し、該ずれ量を補正するように制御手段によりアライメント手段6を駆動してマスク3及びマイクロレンズ20を移動させるとよい。この場合、ラインカメラの撮像中心と、マスク3に設けた基準位置(例えばマスク3のいずれかの開口16の中心)とは、予め位置合わせされている。
【0031】
なお、図1において符号31は、レーザ光源2から放射されたレーザ光Lの径を拡張するビームエキスパンダであり、符号32は、レーザ光Lの横断面内の輝度分布を均一化するホモジナイザーであり、符号33は、レーザ光Lを平行光にしてマスク3に照射させるコンデンサーレンズである。
【0032】
次に、このように構成されたレーザアニール装置の動作、及びレーザアニール方法について説明する。
先ず、表面全面を覆ってアモルファスシリコン膜が成膜されたTFT基板10を、アモルファスシリコン膜を上にし、ゲート線7が搬送方向と平行となるように位置決めして搬送手段1の上面に載置する。
【0033】
次に、起動スイッチがオン起動されると、TFT基板10を搬送手段1の単位ステージ12の上面に所定量だけ浮上させた状態で、図示省略の制御手段により搬送手段1をパルス制御してTFT基板10を図1に示す矢印A方向に一定速度で搬送する。
【0034】
続いて、移動中のTFT基板10の表面を図示省略のラインカメラで逐次撮像し、その一次元画像を制御手段の画像処理部でリアルタイム処理し、ラインカメラの複数の受光素子の並び方向における輝度変化に基づいてTFT基板10に予め設定されたアライメント基準位置(例えば、図2において基板搬送方向に向かって左端に位置するゲート線7の右側縁部)を検出し、該検出されたアライメント基準位置とラインカメラの撮像中心との間の距離を演算する。次いで、この演算結果を予め設定して記憶された目標値と比較して目標値からのずれ量を算出する。そして、上記ずれ量を補正するように制御手段によりアライメント手段6を駆動制御してマスク3を基板搬送方向と交差する方向に移動させ、マスク3とTFT基板10との位置合わせをする。これにより、横に振れながら移動中のTFT基板10にマスク3を追従させることができる。
【0035】
TFT基板10が移動して、図5(a)に示すように、搬送方向先頭側に位置する一列のTFT形成領域9がマスク3の第2の開口群19の搬送方向先頭側の開口列17bの真下に到達すると、レーザ光源2が一定時間点灯し、レーザ光Lがマスク3に照射される。そして、マスク3の複数の開口16を通過した複数のレーザビームLbがマイクロレンズ基板4の複数のマイクロレンズ20によりTFT基板10上に集められ、第2の開口群19に対応したTFT形成領域9のアモルファスシリコン膜がアニールされてポリシリコン化される。
【0036】
TFT基板10がマスク3の第1の開口群18及び第2の開口群19の夫々基板搬送方向先頭側に位置する開口列17a,17b間の距離3Xと等しい距離だけ移動される毎にレーザ光源2が一定時間だけ点灯駆動される。これにより、TFT基板10上に設定された全TFT形成領域9が順次アニールされてポリシリコン化され、ポリシリコン膜34が形成される。なお、図5(b)は、同図(a)の状態からTFT基板10が距離3Xだけ移動した状態を示し、第2の開口群19に対応したTFT形成領域9間のTFT形成領域9が第1の開口群18でアニールされた状態を示している。
【0037】
このようなアニール処理においては、レーザビームLbの照射によりアモルファスシリコン膜の一部が蒸気化してTFT基板10面とマイクロレンズ基板4との間に浮遊し、このシリコン蒸気が汚染物質としてマイクロレンズ20の表面に付着し、レーザビームLbの透過率を低下させることがある。そこで、本発明においては、光学系保護手段5を設けて、マイクロレンズ基板4と搬送手段1の上面(又はTFT基板10)との間を移動するフィルム22により、マイクロレンズ20面に汚染物質が付着するのを防止している。以下、上記光学系保護手段5の動作について説明する。
【0038】
先ず、巻取り用モータ29が駆動して巻取リール24が図4に示す矢印C方向に回転し、フィルム22を巻き取る。これにより、マイクロレンズ基板4の両縁部4a,4bに設けられた一対のガイド25間に掛け渡されたフィルム22が一定速度で連続的に又は一定の時間間隔で一定量ずつ移動する。したがって、レーザビームLbの照射により蒸気化してTFT基板10面とマイクロレンズ基板4との間に浮遊したシリコン蒸気(汚染物質)は、フィルム22面に付着し、マイクロレンズ20面には付着しない。このとき、フィルム22は、一定速度で連続的に又は一定の時間間隔で一定量ずつ移動しているため、汚染物質が付着して許容以上に汚れたフィルム22面は下流側に移動し、マイクロレンズ基板4の下側には、常時一定以上の透過率を有するフィルム22面が存在することになる。したがって、レーザビームLbの透過率は、常時、許容値以上に維持され、レーザアニール処理を適切に行なうことができる。なお、実験においては、レーザビームLbを1000ショットしたとき、フィルム22の透過率が略許容限界の約7%だけ低下することが分かっている。したがって、例えばレーザビームLbを1000ショットする毎にフィルム22を一対のガイド25間の距離に相当する量だけ移動させるとよい。
【0039】
このとき、送出リール23の回転軸26に連結されたバックテンション用モータ27が、図4において矢印Bで示すフィルム22の送出方向とは反対方向の回転力を発生し、フィルム22に送出方向とは反対方向の張力を与えている。したがって、フィルム22にはバックテンションが掛かり、フィルム22は、一対のガイド25間に張設された状態になる。しかし、上記一対のガイド25の間隔は、従来技術における一対のロール間の距離に比して遥かに狭くすることができ、フィルム22にバックテンションが掛かっていてもフィルム22の上記一対のガイド25間の部分にはフィルム22の移動方向に平行な縦しわの発生が抑制される。したがって、フィルム22を透過してTFT基板10上に照射されるレーザビームLbの照射パターン形状は、マスク3の開口16と略同じ形状が保たれ、TFT基板10のTFT形成領域9を精度よくアニール処理することができる。
【0040】
基板搬送方向の一連のアニール処理が終了すると、TFT基板10は高速でスタート位置まで戻される。その後、基板搬送方向と交差する方向に一定距離だけステップ移動されて、上述と同様にして隣接領域に対するアニール処理が実行される。そして、これを繰り返すことにより、TFT基板10全面のアニール処理が行われる。又は、矢印A方向の1回目のアニール処理が終了すると、TFT基板10を基板搬送方向と交差する方向にマスク3に対して相対的に一定距離だけステップ移動し、その後、搬送方向を反転して矢印Aとは反対方向にTFT基板10を搬送しながら、上述と同様にして隣接領域に対するアニール処理を実行してもよい。
【0041】
上記いずれの場合にも、例えば基板搬送方向の終点位置にフォトセンサーを設け、TFT基板10に対する1回目のアニール処理が終了するとフィルム22の透過率を測定してレーザビームLbの許容ショット回数を見積もるようにしてもよい。具体的には、フィルム22の移動を停止した状態で基板を終点位置まで搬送しながら1回目のアニール処理を実行した後、フィルム22の透過率を計測して透過率の低下量を算出し、1回目のアニール処理実行時におけるレーザビームLbのショット回数から透過率の許容低下量に対する許容ショット回数を見積もる。そして、以後、レーザビームLbのショット回数がこの見積もられた許容ショット回数となる毎にフィルム22を一定量だけステップ移動させるようにする。これにより、フィルム22のステップ移動のタイミングを判断するためのレーザビームLbの許容ショット回数がフィルム22の透過率の実測値から設定されるので、フィルム22の透過率を一定値以上に安定して維持することができ、アニール処理を常時、適切に実行することができる。
【0042】
なお、以上の説明においては、TFT基板10が表示装置用の基板である場合について述べたが、本発明はこれに限られず、基板は、アモルファスシリコン膜を形成した例えば半導体基板等如何なるものであってもよい。
【符号の説明】
【0043】
1…搬送手段
3…マスク
4…マイクロレンズ基板
9…TFT形成領域(被アニール領域)
10…TFT基板
16…開口
20…マイクロレンズ
22…フィルム
23…送出リール
24…巻取リール
25…ガイド
Lb…レーザビーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成されたアモルファスシリコン膜に複数のレーザビームを照射してアニール処理するレーザアニール装置であって、
前記基板上の被アニール領域の形状に相似形の複数の開口を形成したマスクと、
前記マスクの前記複数の開口を夫々通過した前記複数のレーザビームを、一面に形成した複数のマイクロレンズを介して前記基板上に集め、前記アモルファスシリコン膜に一定の光エネルギーを付与するマイクロレンズ基板と、
半円柱状の形状を成し、前記マイクロレンズ基板を挟んでその両縁部の位置に軸心を略平行にして対向配置され、頂部が前記マイクロレンズの頂部の位置よりも前記基板側に突出した一対のガイドと、
前記一対のガイド間に移動可能に張設され前記レーザビームを透過するフィルムと、
を備えたことを特徴とするレーザアニール装置。
【請求項2】
前記マスクを間にして一方側に前記フィルムを送り出す送出リールを備え、他方側に前記フィルムを巻き取る巻取リールを備え、前記一対のガイド間を一定のバックテンションが掛かった状態で前記フィルムを一定速度で連続的に又は一定の時間間隔で一定量ずつ通過可能にしたことを特徴とする請求項1記載のレーザアニール装置。
【請求項3】
前記基板を前記一対のガイドの軸心と交差する方向に一定速度で移動させる搬送手段をさらに設けたことを特徴とする請求項1又は2記載のレーザアニール装置。
【請求項4】
前記基板は、表示装置用の薄膜トランジスタ(以下、「TFT」という)基板であり、前記被アニール領域は、TFT形成領域であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のレーザアニール装置。
【請求項5】
前記マイクロレンズは、該マイクロレンズの頂部と前記フィルムとの間、又は前記フィルムと前記基板との間に焦点を有するように形成されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のレーザアニール装置。
【請求項6】
一定形状の複数の開口を形成したマスクと、該マスクの前記複数の開口に夫々対応させて複数のマイクロレンズを設けたマイクロレンズ基板とを介して基板上に形成されたアモルファスシリコン膜に複数のレーザビームを照射してアニール処理するレーザアニール方法であって、
半円柱状の形状を成し、前記マイクロレンズ基板を挟んでその両縁部の位置に軸心を略平行にして対向配置され、頂部が前記マイクロレンズの頂部の位置よりも前記基板側に突出した一対のガイド間に張設した状態で、前記レーザビームを透過するフィルムを前記一対のガイドの軸心と交差する方向に移動させる段階と、
前記基板を前記マイクロレンズ基板に対向させて前記フィルムの移動方向に一定速度で移動させる段階と、
前記複数のマイクロレンズを通過し、前記フィルムを透過した複数のレーザビームを前記基板上に集め、前記アモルファスシリコン膜に一定の光エネルギーを付与する段階と、
を含むことを特徴とするレーザアニール方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−124366(P2012−124366A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274659(P2010−274659)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(500171707)株式会社ブイ・テクノロジー (283)
【Fターム(参考)】