説明

レーザリフトオフ方法およびレーザリフトオフ装置

【課題】基板から剥離後の材料層におけるクラックの発生を極力防止することができるレーザリフトオフ方法および装置を提供すること。
【解決手段】基板上に材料層が形成されたワーク3に対し、基板を通してパルスレーザ光を照射領域を刻々と変えながら照射する。レーザ光は、前記ワーク3の移動方向と平行方向に伸びる2辺を有する四角形状に形成され、隣接する各照射領域が重畳するように照射される。基板1から順次に剥離される剥離領域において、基板からはじめて剥離される材料層の剥離辺が2辺になり、かつ、ワークの移動方向と交差する方向に伸びる剥離辺Aと、剥離済みの領域のワークの移動方向と平行方向に伸びる辺B´のなす角(未分解領域側から見た角θ1)が鈍角となるように、ワークに対して照射する。これにより、材料層2に割れを生じさせることなく材料層2を基板1から剥離させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物半導体により形成される半導体発光素子の製造プロセスにおいて、基板上に形成された材料層にレーザ光を照射することによって、当該材料層を分解して当該基板から剥離する(以下、レーザリフトオフという)ためのレーザリフトオフ方法及びレーザリフトオフ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
GaN(窒化ガリウム)系化合物半導体により形成される半導体発光素子の製造プロセスにおいて、サファイア基板の上に形成されたGaN系化合物材料層を当該サファイア基板の裏面からレーザ光を照射することにより剥離するレーザリフトオフの技術が知られている。以下、基板上に形成された材料層に対してレーザ光を照射して基板から材料層を剥離することをレーザリフトオフと呼ぶ。
例えば、特許文献1においては、サファイア基板の上にGaN層を形成し、当該サファイア基板の裏面からレーザ光を照射することにより、GaN層を形成するGaNが分解され、当該GaN層をサファイア基板から剥離するレーザリフトオフ方法について記載されている。以下では基板上に材料層が形成されたものをワークと呼ぶ。
特許文献2には、ワークを搬送しながらワークに対してサファイア基板越しにライン状のレーザ光を照射することが記載される。具体的に同文献には、図12に示すように、サファイア基板121とGaN系化合物の材料層122の界面への照射領域123がライン状になるようにレーザ光124を成形し、サファイア基板121をレーザ光124の長手方向と垂直方向に移動させながら、当該レーザ光124をサファイア基板121の裏面から照射するレーザリフトオフ方法が開示されている。
また、特許文献3には、レーザを用いて例えば方形状のビームスポットを形成し、このビームスポットを相対的に移動させながら、順次に被照射に照射することで、材料層を基板からレーザリフトオフすることが記載されている。特許文献3の図17には、図13に示すように、ビームスポット132を円形のワーク(ウエハ131)に対して同心円状に移動させ、レーザリフトオフすることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2001−501778号公報
【特許文献2】特開2003−168820号公報
【特許文献3】特表2007−534164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、サファイア基板の上に形成されたGaN系化合物材料層を当該サファイア基板の裏面からレーザ光を照射することにより剥離する場合、レーザ光を照射した際にGaNが分解することにより発生するNガスにより、当該GaN層にせん断応力が加わり、当該レーザ光の照射領域の境界部においてクラックが生じる場合がある。
レーザリフトオフにおいては、このような剥離後の材料層にクラックが発生するのを防止することが重要である。
レーザ光の照射方法としては、例えば特許文献2に記載されるように、材料層の界面への照射領域がライン状になるようにレーザ光を成形し、基板をレーザ光の長手方向と垂直方向にスキャンさせながらレーザ光を照射したり、特許文献3に記載されるように、方形ビームスポットを円形のウエハに対して同心円状にスキャンし、照射領域を刻々と変えながら照射する方法が提案されている。
上記特許文献2に記載される方法は、照射領域をライン状に成形し、レーザ光の長手方向と垂直方向に照射領域を移動させながら照射するものであり、レーザ光を基板の幅に相当した長さの形状に成形することが要求されるが、このような形状の照射照度の大きなレーザ光を得ることは難しく、簡単に実現することはできない。
また、特許文献3の図17に記載されるようにビームスポットをスキャンさせるには、方形状のビームスポットをワーク上で相対的に同心円状に移動させるための機構が必要となり、また、重複して照射される領域の面積が増加し、ワーク全域にレーザ光を照射するのに多くの時間が必要になると考えられ、効率的でない。
【0005】
また、本発明者らは、先に、四角形状に成形された小面積のレーザ光の照射領域の位置を刻々と変えながら、各照射領域の端部が隣接する照射領域の端部と互いに重畳するように照射し、レーザリフトオフする方法を提案している。このようにすれば、レーザ光を特許文献2に示されるように、細長い形状に成形したり、ビームスポットを同心円状にスキャンするための特別の機構を用いることなく、効率よく、かつクラックを生じさせることなくレーザリフトオフを実現することができる。
しかし、上記のように四角形状に成形された小面積のレーザ光を照射領域を刻々と変えながら照射した場合であっても、基板から剥離後の材料層においてクラックが生じる場合があった。
本発明は、上記問題点を解決するものであって、基板から剥離後の材料層におけるクラックの発生を極力防止することができるレーザリフトオフ方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが種々検討した結果、上記したように四角形状に成形されたレーザ光を照射領域を刻々と変えながら、各照射領域の端部が隣接する照射領域の端部と互いに重畳するように照射することにより、クラックの発生を防止しながら、基板から材料層を剥離できることを見出した。
しかし、上記レーザリフトオフ方法によっても、ワークに対するレーザ光の照射方法如何により、基板から剥離後の材料層においてクラックが生じる場合があることが分かった。これについて以下で説明する。
図9は、前記ワークに対する照射領域を刻々と変えながら、レーザ光の照射領域のエッジ部が、ワークの搬送方向に従って順次に重畳するように、レーザ光を前記ワークに照射することにより、材料層を基板からレーザリフトオフする方法を示す。
同図は、レーザ光のワークに対する照射領域が四角形状(正方形)の場合を示し、同図の黒く塗りつぶした領域がレーザ光が照射されている照射領域であり、斜線で示した部分はレーザ光の照射済みの領域(剥離済みエリア)、白の部分はレーザ光が未照射の領域(GaN未分解エリア)であり、照射領域は、同図の矢印で示す方向に順次移動し、照射領域を刻々と変えながらレーザ光が照射される。
また、同図では、基板から剥離された材料層の四角形状の剥離領域のうち、基板からはじめて剥離される材料層の剥離辺が、2辺の場合(同図(a)の2辺剥離)、及び3辺の場合(同図(b)の3辺剥離)および一辺の場合(同図(c)1辺剥離)、をそれぞれ示す。
【0007】
図10は、図9に示すレーザリフトオフ方法によって剥離した材料層の状態を示した画像であり、上記図9の(a)〜(c)のようにレーザリフトオフした場合の、基板から剥離後の材料層におけるクラック発生の有無をそれぞれ示したものである。
なお、図10は、前記したサファイア基板の上に形成されたGaN系化合物材料層をサファイア基板の裏面から図9に示す四角形状のレーザ光を照射することにより剥離させた場合を示し、図10(a)は、基板からはじめて剥離される材料層の剥離辺が2辺の場合(図9(a))を示し、図10(b)は3辺の場合(図9(b))を示し、図10(c)は一辺の場合(図9(c))を示す。
【0008】
図9(a)に示すように材料層の未分解領域からはじめて剥離された辺が2辺である場合は、図10(a)に示すようにクラックが生じなかったが、図9(b)に示すように、材料層の未分解領域からはじめて剥離された辺が3辺である場合は、図10(b)に示すように剥離後の材料層においてクラックが発生した。
この理由は、次のように考えられる。
材料層であるGaNはレーザ光が照射されることによってGaとNとに分解される。図9(a)(b)に示すように、GaNの分解時に発生したNガスは、基板から順次に剥離される四角形状の剥離領域において、GaNの未分解領域に接する辺からは排出不可能であるため、既に基板から剥離済の辺から排出される。
図9(a)に示すようにGaNの四角形状の剥離領域において、基板からはじめて剥離された辺が2辺である場合は、既に基板から剥離済の辺が2辺あり、Nガスの逃げ道はこの2辺となり、Nガスはこの2辺から逃げるため、光が照射されている領域には大きなガスの圧力は加わらない。
一方、図9(b)に示すように、GaNの四角形状の剥離領域において、基板からはじめて剥離された辺が3辺である場合は、既に基板から剥離済の辺が1辺のみであり、Nガスの逃げ道がこの1辺しかない。このため、Nガスを十分に排出することができず、Nガスの圧力によって発生する応力が、基板から剥離した材料層における、GaNの未分解領域に接する3辺に蓄積することによって、基板から剥離後のGaNにおいてクラックが生じるものと考えられる。
【0009】
図9(c)に示すように、材料層の未分解領域からはじめて剥離された辺が1辺である場合にも、図10(c)に示すように、上記と同じく、剥離後の材料層にクラックが発生した。
この場合は、図9(c)に示すように、既に基板から剥離済の辺が3辺あるため、Nガスの排出に関しては問題ない。しかし、レーザ光の照射によりGaNが分解する際に発生する応力が、GaNの未分解領域に接する1辺のみに集中するため、材料層の強度が十分でない場合に、基板から剥離後のGaNにおいてクラックが生じるものと考えられる。
なお、図9(c)に示すように、上下の領域が剥離済みの領域で、その間に未分解領域が残っており、この未分解領域にレーザ光を照射するのは特殊なケースであり、ワークの一端から他端に向けて順番にレーザ光を照射していく場合には生じないが、ワークに対するレーザ光の照射方法如何によっては、このようなケースが生ずる場合もあり、図9(c)に示す「1辺剥離」は、避けることが望ましい。
【0010】
以上のように、レーザ光のワークに対する照射領域を、ワークの移動方向と平行方向に伸びる1辺を有する四角形状とし、レーザ光をワークに対して照射することで基板から剥離された材料層の四角形状の剥離領域のうち、基板からはじめて剥離された辺が、図9(a)に示すように、2辺になるようにすることで、図9(b)(c)に示すように、基板からはじめて剥離される材料層の剥離辺が3辺または1辺である場合に比べ、図10(a)に示すように、基板から剥離後の材料層へのクラックを防止することができる。
【0011】
しかし、本発明者が種々検討したところ、基板からはじめて剥離される材料層の剥離辺が2辺となるようにレーザ光をワークに照射したとしても、基板からはじめて剥離されるワークの移動方向と交差する方向に伸びる剥離辺と、剥離済みの領域のワークの移動方向と平行方向に伸びる辺のなす角(未分解領域側から見た角、図9(a)において、辺Aと辺B´とのなす角)が鋭角(90°以下)である場合は、レーザ光照射時に生じる応力がかかる鋭角の部位に集中することによって、基板から剥離後の材料層にクラックが生じる場合があることが判明した。
【0012】
図11は、基板からはじめて剥離される材料層の剥離辺において、レーザ光照射時に発生する応力分布のシミュレーション結果を示す図である。同図は応力が等しい点をつないだ「等応力線」を示したものであり、同図中の数字は各等応力線における応力値を示している。
図11(b)は、基板からはじめて剥離されるワークの移動方向と交差する方向に伸びる剥離辺と、剥離済みの領域のワークの移動方向と平行方向に伸びる辺のなす角が鋭角(この例では90°)である場合に、レーザ光照射時に発生する応力が集中する部位を表すシミュレーション結果を示す図である。
同図に示すように、ワークの移動方向と交差する方向に伸びる剥離辺Aと、剥離済みの領域のワークの移動方向と平行方向に伸びる辺B´のなす角(未分解領域側から見た角)が90°である場合は、レーザ光照射時に発生する応力が、上記辺Aにおいて、上記辺A,B´が90°で交わる部位付近に集中し、最大応力値は11.0GPaになっている。
かかる基板から剥離後の材料層へのクラックを回避するためには、ワークに対するレーザ光の照射領域の面積を小さくするか、或いは、ワークに照射するレーザ光のエネルギーを小さくすることが必要である。
【0013】
ワークに対するレーザ光の照射領域の面積を小さくすると、レーザリフトオフ処理に要する時間が長くなり、スループットが低下するという問題がある。
一方、レーザリフトオフでは、材料層を構成する例えばGaN(ガリウムナイトライド)に対して、GaNの分解閾値を超えるエネルギーのレーザ光を照射することが必要であり、GaNの分解閾値を下回るようにレーザ光のエネルギーを設定することはできない。したがって、レーザ光のエネルギーは、GaNの分解閾値を上回るように設定され、GaNの分解閾値をVEとしたとき、1.15VE以下となるように設定される。
ところで、レーザ光のエネルギーは、種々の要因により経時的にわずかながら変動するため、GaNの分解閾値に対して若干のマージンを持つように設定されることが好ましい。つまり、ワークに照射するレーザ光のエネルギーを小さくすることは、GaNの分解閾値VEに対するマージンを殆ど確保することができなくなり、レーザエネルギーのわずかな変動によって、レーザ光のエネルギーがGaNの分解閾値を下回るおそれがあり、GaNの未分解という問題を引き起こす可能性が高い。
【0014】
本発明では、ワークに対するレーザ光の照射面積をそれなりに大きくし、且つ、レーザ光のエネルギーをGaNの分解閾値に対してある程度のマージンを確保するように設定したレーザリフトオフ処理でありながら、基板から剥離後の材料層にクラックが生じないようにするため、以下の解決手段を採用した。
すなわち、図1(a)に示すように、レーザ光を、基板から順次に剥離された材料層の四角形状の剥離領域において、基板からはじめて剥離される材料層の剥離辺が常に2辺(同図の辺A,辺B)になり、且つ、ワークの移動方向と交差する方向に伸びる剥離辺Aと、剥離済みの領域のワークの移動方向と平行方向に伸びる辺B´のなす角(未分解領域側から見た角θ1)が鈍角(90°より大きい)となるように、ワーク3に対して照射する。なお、照射領域の形状が平行四辺形の場合には、同図に示すように、上記ワークの移動方向と交差する方向に伸びる剥離辺Aと、剥離済みの領域のワークの移動方向と平行方向に伸びる辺B´のなす角θ1は、初めて剥離された2辺の剥離辺のなす角θ2と等しい。
【0015】
図11(a)は、基板からはじめて剥離される材料層の剥離辺が2辺であり、且つ、ワークの移動方向と交差する方向に伸びる剥離辺Aと、剥離済みの領域のワークの移動方向と平行方向に伸びる辺B´のなす角が鈍角である場合に、レーザ光照射時に発生する応力が集中する部位を表すシミュレーションデータを示す図である。
同図に示すように、ワークの移動方向と交差する方向に伸びる剥離辺Aと、剥離済みの領域のワークの移動方向と平行方向に伸びる辺B´のなす角を鈍角とした場合は、レーザ光照射時に発生する応力が、図11(b)に示したように角部に集中せず、基板からはじめて剥離されたワークの移動方向と交差する方向に伸びる剥離辺Aに分散してかかり、当該応力が一箇所に局所的に集中することが回避されることが分かる。この場合の最大応力値は9.1GPaであり、図11(b)に比べて緩和されている。
なお、図1(a)では、剥離辺の2辺A,Bが直線であり、ワークの移動方向と交差する方向に伸びる剥離辺Aと、剥離済みの領域のワークの移動方向と平行方向に伸びる辺B´のなす角が鈍角の場合を示したが、図1(b)に示すように、基板からはじめて剥離されたワークの移動方向と交差する方向に伸びる剥離辺Aと、剥離済みの領域のワークの移動方向と平行方向に伸びる辺B´の成す角が鈍角であり、この2辺が分解領域側に凸の曲線Cでつながるような形状であってもよい。
【0016】
以上に基づき、本発明においては、以下のようにして前記課題を解決する。
(1)基板上に材料層が形成されてなるワークに対し、前記基板を通してレーザ源からのレーザ光を照射し、前記基板と前記材料層との界面で前記材料層を分解して前記基板から剥離するレーザリフトオフ方法において、前記レーザ光は、前記ワークに対する照射領域を刻々と変えながら前記ワークに照射され、前記照射領域のエッジ部は、前記ワークが前記レーザ源に対して相対的に一方向に移動するに従って順次に重畳する。
前記レーザ光の前記ワークに対する照射領域は、前記ワークの移動方向と交差する方向に伸びる第1のエッジ部と、前記ワークの移動方向と平行方向に伸びる第2のエッジ部とを有し、該レーザ光により前記基板から順次に剥離される前記材料層の剥離領域は、前記第1のエッジ部に対応するワークの移動方向と交差する方向に伸びる第1のエッジ(辺A)と、前記第2のエッジ部に対応する前記ワークの移動方向と平行方向に伸びる第2のエッジ(辺B)とからなる、基板からはじめて剥離される2つのエッジを有する。
そして、前記レーザ光は、前記剥離領域において、前記基板からはじめて剥離される前記第1のエッジ(辺A)と、前記レーザ光により剥離された剥離済みの領域の前記ワークの移動方向と平行方向に伸びる第2´のエッジ(辺B´)とでなす角が、前記材料層の未分解領域側において鈍角になるように、前記ワークに照射される。
(2)前記(1)において、前記レーザ光により、前記一方向において重畳する照射領域からなる各照射領域群が、前記ワークの一端から他端に向けて順次に並ぶように形成され、前記ワークにおいて最初に形成される照射領域群および最後に形成される照射領域群は、前記ワークの一方のエッジ部および他方のエッジ部から伸び出すように形成される。
(3)基板上に材料層が形成されてなるワークに対し、前記基板を通してレーザ光を照射し、前記基板と前記材料層との界面で前記材料層を前記基板から剥離するレーザリフトオフ装置において、前記基板を透過する波長域のレーザ光を発生するレーザ源と、前記ワークと前記レーザ源とを相対的に搬送する搬送機構と、前記レーザ光が、前記ワークに対する照射領域を刻々と変えながら、各照射領域が前記ワークの一端から他端に向けて順次に並ぶように前記ワークに照射され、かつ、前記照射領域のエッジ部が前記ワークが前記レーザ源に対して相対的に一方向に移動するに従って、順次に重畳にするように、前記レーザ光の照射間隔と前記搬送機構による前記ワークの搬送動作とを制御する制御部と、前記レーザ源から発したレーザ光を、前記ワークの移動方向と交差する方向に伸びる第1のエッジ部と、前記ワークの移動方向と平行方向に伸びる第2のエッジ部とを有する形状に成形して、前記ワークに照射するレーザ光学系と、を備え、前記制御部は、前記レーザ光により前記基板から順次に剥離される前記材料層の剥離領域が、前記第1のエッジ部に対応するワークの移動方向と交差する方向に伸びる第1のエッジ(辺A)と、前記第2のエッジ部に対応する前記ワークの移動方向と平行方向に伸びる第2のエッジ(辺B)からなる、基板からはじめて剥離される2つのエッジを有し、かつ、前記剥離領域において、前記基板からはじめて剥離される前記第1のエッジ(辺A)と、前記レーザ光により剥離された剥離済みの領域の前記ワークの移動方向と平行方向に伸びる第2´のエッジ(辺B´)とでなす角が、前記材料層の未分解領域側において鈍角になるように、前記レーザ光を前記ワークに照射する。
(4)前記(3)において、前記制御部は、前記ワークにおいて最初に形成される前記一方向において重畳する照射領域からなる照射領域群および最後に形成される照射領域群が、前記ワークの一方のエッジ部および他方のエッジ部から伸び出すように、レーザ光を前記ワークに照射する。
【発明の効果】
【0017】
本発明においては以下の効果を得ることができる。
(1)前記基板から順次に剥離された前記材料層の四角形状の剥離領域において、基板からはじめて剥離される材料層の剥離辺が2辺になるようにしたので、GaNの分解によって発生したNガスが、既に基板から剥離済の2辺から排出され、Nガスの逃げ道を十分に確保することができ、GaNが分解する際に発生した応力は、GaNの未分解領域に接する2辺に分散して印加される。
さらに、基板からはじめて剥離される前記第1のエッジと、前記レーザ光により剥離された剥離済みの領域の前記ワークの移動方向と平行方向に伸びる第2´のエッジとでなす角が、前記材料層の未分解領域側において鈍角になるようにしたので、レーザ光照射時に発生する応力が、上記第1のエッジと第2´のエッジが交差する角部付近に局所的に集中することが回避される。
このため、基板から剥離後の材料層におけるクラックの発生を極力防止することができる。
(2)ワークにおいて最初に形成される照射領域群および最後に形成される照射領域群が、ワークの一方のエッジ部および他方のエッジ部から伸びだすようにレーザ光を前記ワークに照射することにより、ワークの最初と最後に形成される照射領域群においても、剥離される辺が2辺となり、ワークの全域において、剥離される辺を常に2辺とすることができる。
(3)レーザ光の照射領域をワーク上で直線的に移動させることにより、ワークの全域のレーザリフトオフ処理を行うことができ、レーザ光をスキャンするための特殊な機構を用いる必要がなく、装置構成を簡単にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明におけるレーザリフトオフ方法を説明する図である。
【図2】本発明の実施例のレーザリフトオフ処理の概要を説明する概念図である。
【図3】レーザ光がワークに照射される様子を示す図である。
【図4】ワークの移動方向と交差する方向に伸びる剥離辺Aと、剥離済みの領域のワークの移動方向と平行方向に伸びる辺B´のなす角が鈍角なるように、レーザ光を照射するレーザリフトオフ方法を示す図である。
【図5】ワークへのレーザ光の照射領域のその他の例を示す図である。
【図6】本発明の実施例において、ワークの互いに隣接する領域S1、S2に重畳して照射されるレーザ光の光強度分布を示す図である。
【図7】本発明の実施例のレーザリフトオフ装置の概念図である。
【図8】レーザリフトオフ処理を適用することができる半導体発光素子の製造方法を説明する図である。
【図9】GaN未分解領域が2辺、3辺および1辺になるようにレーザ光を照射する場合を説明する図である。
【図10】GaN未分解領域が2辺、3辺および1辺になるようにレーザ光を照射した場合の剥離後の材料層の表面状態を模式的に示した図である。
【図11】基板からはじめて剥離される材料層の剥離辺において、レーザ光照射時に発生する応力分布のシミュレーショ結果を示す図である。
【図12】ライン状のレーザ光を、レーザ光の長手方向と垂直方向に移動させながら照射する従来例を示す図である。
【図13】方形状のビームスポットを同心円状に移動させながら照射する従来例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図2は、本発明の実施例のレーザリフトオフ処理の概要を説明する概念図である。
同図に示すように、本実施例において、レーザリフトオフ処理は次のように行われる。
レーザ光を透過する基板1上に材料層2が形成されたワーク3が、ワークステージ31上に材料層2を下にして載置されている。ワーク3を載せたワークステージ31は、コンベヤのような搬送機構32に載置され、搬送機構32によって所定の速度で搬送される。ワーク3は、ワークステージ31と共に図中の矢印AB方向に搬送されながら、基板1を通じて、図示しないパルスレーザ源から出射するパルスレーザ光Lが照射される。
ワーク3は、サファイアからなる基板1の表面に、GaN(窒化ガリウム)系化合物の材料層2が形成されてなるものである。基板1は、GaN系化合物の材料層を良好に形成することができ、尚且つ、GaN系化合物の材料層を分解するために必要な波長のレーザ光を透過するものであれば良い。材料層2には、低い入力エネルギーによって高出力の青色光を効率良く出力するためにGaN系化合物を用いることができる。材料層2としては、III族系化合物を用いることができ、上記GaN系化合物や、窒化インジウムガリウム(InGaN)系化合物、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)系化合物などがある。
【0020】
レーザ光は、基板1および基板1から剥離する材料層を構成する物質に対応して適宜選択すべきである。サファイアの基板1からGaN系化合物の材料層2を剥離する場合には、例えば波長248nmを放射するKrF(クリプトンフッ素)エキシマレーザを用いることができる。レーザ波長248nmの光エネルギー(5eV)は、GaNのバンドギャップ(3.4eV)とサファイアのバンドギャップ(9.9eV)の間にある。したがって、波長248nmのレーザ光はサファイアの基板からGaN系化合物の材料層を剥離するために望ましい。
【0021】
材料層2はパルスレーザ光が照射されることにより、材料層2のGaNがGaとNとに分解する。GaNが分解するときは、あたかも爆発したような現象が生じ、材料層2へのパルスレーザ光の照射領域のエッジ部に対して少なからずダメージを与える。
本発明のレーザリフトオフ処理においては、基板からはじめて剥離される材料層の剥離辺が2辺になるようにしているので、前述したように、材料層に大きなダメージを与えることなく、レーザリフトオフ処理を行うことができる。
【0022】
本発明において、ワークに照射されたパルスレーザ光の照射領域の形状は、パルスレーザ光照射時のワークの移動方向と平行に伸びる1辺のエッジ部を有する四角形であることが必要である。
なお、レーザ装置の構造上、照射領域の縦横比を1:XとするとXを20以下とし、照射領域の面積を30mm以下とするのが望ましい。
【0023】
以下の図3は、ワークに対する照射領域をパルスレーザ光照射時のワークの移動方向と平行に伸びる1辺のエッジ部を有する四角形(この図の例では平行四辺形)となるように成形したパルスレーザ光を、ワークをレーザ源に対して一方向に搬送しながら照射する、本発明のレーザリフトオフ方法を示す。図3(a)はワーク上に形成される照射領域を示し、(b)は同図(a)のX部拡大図である。なお、図2ではワークが矩形の場合を示したが、図3ではワーク3が円形の場合を示す。
このレーザリフトオフ方法では、パルスレーザ光の照射間隔と、ワーク3の搬送速度とを調整することにより、図3(b)に示すように、平行四辺形状のパルスレーザ光の照射領域の、ワーク3の移動方向と平行方向(図3の矢印HA,HC方向)に伸びるエッジ部およびワーク3の移動方向に対して斜交する方向に伸びるエッジ部の双方が重畳するように、ワーク3に対してパルスレーザ光を照射する。
【0024】
また、図3のレーザリフトオフ方法では、ワーク3の紙面上方のエッジ部を超えるように、紙面のHAの方向に向け、パルスレーザ光を各照射領域が線状に並ぶように順次に照射し、パルスレーザ光の照射領域S1ないしS4を形成する。そして、パルスレーザ照射領域の大きさからレーザ重畳領域STを差し引いた分だけワークを紙面下方のHB方向に移動させた後、紙面のHCの方向(HAと同方向)に向けて、パルスレーザ光を各照射領域が線状に並ぶように順次に照射し、パルスレーザ光照射領域S5ないしS10を形成する。
ワーク3の移動方向において隣接する各照射領域S1ないしS10の、ワークの移動方向と斜交する方向に伸びるエッジ部(第1のエッジ部)が、互いに重畳する。また、ワーク3の移動方向と直交方向において隣接する各照射領域S1とS6、S2とS7、S3とS8、S4とS9の、ワーク3の移動方向と平行方向に伸びるエッジ部(第2のエッジ部)が、互いに重畳する。
【0025】
各パルスレーザ光の照射領域は、後述する図6に示すように、材料層であるGaNの分解閾値VEを超える領域で重畳される。このようにして、図3に示すように、順次に形成された複数のパルスレーザ光の照射領域が一方向において線状に並んで形成される複数の照射領域群G1〜G6を形成する。
本発明のレーザリフトオフ方法では、ワーク3の一端3aからパルスレーザ光の照射を開始し、ワークの他端3bに対して最後にパルスレーザ光を照射する。つまり、図3に示すように、レーザ光を照射した順番どおりに、ワークの一端3aから他端3bに向けて、各照射領域群G1〜G6が順次に並ぶように、各照射領域群を形成する。ワーク3において最初に形成される照射領域群G1では、各照射領域S1〜S4が、ワーク3の一方のエッジ部(一端3a)から伸びだすように、パルスレーザ光を照射する。ワーク3において最後に形成される照射領域群G6では、各照射領域が、ワーク3の他方のエッジ部(他端3b)から伸びだすように、パルスレーザ光を照射する。こうすることによって、基板から順次剥離されたGaNの平行四辺形状の剥離領域では、基板からはじめて剥離されるエッジ部が常に2辺になる。
例えば照射領域S1では、基板からはじめて剥離される2辺のエッジ部以外の辺は、ワーク3の外縁部に接し未分解領域ではないので、GaN分解時に発生したNガスはこの外縁部から排出される。同様に照射領域S2についても、基板からはじめて剥離される2辺のエッジ部以外の辺は、ワーク3の外縁部と上記照射領域S1に接し、GaN分解時に発生したNガスはこの外縁部から排出される。
【0026】
図4は、基板から剥離された材料層において、ワーク3の移動方向と交差する方向に伸びる剥離辺A(第1のエッジ部)と、剥離済みの領域のワークの移動方向と平行方向に伸びる辺B´(第2´のエッジ部)のなす角が鈍角なるように、レーザ光をワークに対して照射するレーザリフトオフ方法を説明する図である。
同図に示すように、本発明のレーザリフトオフ方法では、基板から剥離された材料層の剥離領域S8において、基板からはじめて剥離されるワーク3の移動方向と交差する方向に伸びる剥離辺Aと、剥離済みの領域のワークの移動方向と平行方向に伸びる辺B´のなす角が鈍角となるように、レーザ光がワーク3に対して照射される。
ワーク3へのレーザ光の照射領域の形状を平行四辺形とする場合は、図4に示すように、基板からはじめて剥離される辺Aと、剥離済みの領域の辺B´の2辺によって材料層の未分解領域側に形成される角が鈍角となるように、レーザ光のスキャン方向を適宜設定する必要がある。具体的には、平行四辺形状の鋭角部分がスキャン方向において先頭となるように、レーザ光をスキャンさせることが必要となる。
【0027】
図5は、ワークへのレーザ光の照射領域のその他の例を示す図である。
同図(a)は、剥離領域SNの形状が平行四辺形であり、基板からはじめて剥離される辺Aと剥離済みの領域の辺B´の2辺とがなす角が、未分解領域側において鈍角であり、かつ辺Aと辺B´の2辺が、分解領域側に凸の曲線Cでつながるような形状である。
また、同図(b)は、剥離領域SN2の形状が方形に近い形状であり、基板からはじめて剥離される辺Aと、剥離済みの領域の辺B´の2辺が分解領域側に凸の曲線でつながるような形状であり、辺Aの接線と辺B´との成す角が、未分解領域側において鈍角である。
同図(c)は、台形に近い形状であり、基板からはじめて剥離される辺Aと剥離済みの領域の辺B´の2辺とがなす角が、未分解領域側において鈍角の場合である。
この例のように、ワークへのレーザ光の照射領域の形状として厳密な四角形状でないものを採用してもよく、この場合でも、基板からはじめて剥離される辺Aと剥離済みの領域の辺B´の2辺とがなす角が未分解領域側において鈍角になるようにする。
【0028】
図6は、図3に示すワーク3の互いに隣接する領域S1、S2に重畳するようにワークに照射されるレーザ光の光強度分布を示す図であり、図3(b)におけるa−a´線断面図である。
同図において縦軸はワークの各照射領域に照射されるレーザ光の強度(エネルギー値)を、横軸はワークの搬送方向を示す。また、L1、L2は、それぞれワークの照射領域S1、S2に照射されるレーザ光のプロファイルを示す。なお、レーザ光L1,L2は同時に照射されるわけではなく、レーザ光L1が照射されてから1パルス間隔後にレーザ光L2が照射される。
この例では、図6に示すように、レーザ光L1、L2の断面は、周方向になだらかに広がるエッジ部LEに続いて頂上(ピークエネルギーPE)に平坦面を有する略台形状に形成されている。そして、レーザ光L1、L2は、図6に破線で示すように、GaN系化合物の材料層を分解してサファイアの基板から剥離させるために必要な分解閾値VEを超えるエネルギー領域において重畳される。
すなわち、各レーザ光の光強度分布における、レーザ光L1とL2との交差位置Cでのレーザ光の強度(エネルギー値)CEは、上記分解閾値VEを越える値になるように設定される。
【0029】
これは、前述したように、図3の照射領域S1にレーザ光を照射した後に照射領域をS1からS2に移行させたとき、領域S1の温度は既に室温レベルまで低下した状態となるため、照射領域S1の温度が室温レベルに低下した状態で照射領域S2にレーザ光を照射したとしても、それぞれの照射領域S1、S2に照射されるパルスレーザ光の照射量が積算されないためである。
レーザ光L1とL2との交差位置Cでのレーザ光の強度CE、すなわち、レーザ光が重畳して照射される領域におけるそれぞれのパルスレーザ光の強度を、上記分解閾値VEを越える値になるように設定することで、材料層を基板から剥離させるために十分なレーザエネルギーを与えることができ、基板上に形成された材料層に割れを生じさせることなく、材料層を基板から確実に剥離させることができる。
【0030】
図7は本発明の実施例のレーザリフトオフ装置の光学系の構成を示す概念図である。同図において、レーザリフトオフ装置10は、パルスレーザ光を発生するレーザ源20と、レーザ光を所定の形状に成形するためのレーザ光学系40と、ワーク3が載置されるワークステージ31と、ワークステージ31を搬送する搬送機構32と、レーザ源20で発生するレーザ光の照射間隔および搬送機構32の動作を制御する制御部33とを備えている。
レーザ光学系40は、シリンドリカルレンズ41、42と、レーザ光をワークの方向へ反射するミラー43と、レーザ光を所定の形状に成形するためのマスク44と、マスク44を通過したレーザ光Lの像をワーク3上に投影する投影レンズ45とを備えている。ワーク3へのパルスレーザ光の照射領域の面積および形状は、レーザ光学系40によって適宜設定することができる。
レーザ光学系40の先にはワーク3が配置されている。ワーク3はワークステージ31上に載置されている。ワークステージ31は搬送機構32に載置されており、搬送機構32によって搬送される。これにより、ワーク3が、図2に示す矢印A、Bの方向に順次に搬送され、ワーク3におけるレーザ光の照射領域が刻々と変わる。制御部33は、ワーク3の隣接する照射領域に照射される各レーザ光の重畳度が所望の値になるように、レーザ源20で発生するパルスレーザ光のパルス間隔を制御する。
【0031】
レーザ源20から発生するレーザ光Lは波長248nmの紫外線を発生する例えばKrFエキシマレーザである。レーザ源としてArFレーザやYAGレーザを使用しても良い。ここで、ワーク3の光入射面3Aは、投影レンズ45の焦点Fよりもレーザ光の光軸方向において遠方側に配置されている。これとは反対に、レーザ光の光軸方向において、ワーク3の光入射面3Aを投影レンズ45の焦点Fよりも投影レンズ45に近づけるように配置しても良い。このように、ワーク3の光入射面3Aを投影レンズ45の焦点Fに一致しないように配置することにより、図6に示すような断面が台形状の光強度分布を持つレーザ光が得られる。
レーザ源20で発生したパルスレーザ光Lは、シリンドリカルレンズ41、42、ミラー43、マスク44を通過した後に、投影レンズ45によってワーク3上に投影される。パルスレーザ光Lは、図2に示したように基板1を通じて基板1と材料層2の界面に照射される。基板1と材料層2の界面では、パルスレーザ光Lが照射されることにより、材料層2の基板1との界面付近のGaNが分解される。このようにして材料層2が基板1から剥離される。
【0032】
次に、上記したレーザリフトオフ方法を用いることができる半導体発光素子の製造方法について説明する。以下ではGaN系化合物材料層により形成される半導体発光素子の製造方法について図8を用いて説明する。
結晶成長用の基板には、レーザ光を透過し材料層を構成する窒化ガリウム(GaN)系化合物半導体を結晶成長させることができるサファイア基板を使用する。図8(a)に示すように、サファイア基板101上には、例えば有機金属気相成長法(MOCVD法)を用いて迅速にGaN系化合物半導体よりなるGaN層102が形成される。
続いて、図8(b)に示すように、GaN層102の表面には、発光層であるn型半導体層103とp型半導体層104とを積層させる。例えば、n型半導体としてはシリコンがドープされたGaNが用いられ、p型半導体としてはマグネシウムがドープされたGaNが用いられる。
続いて、図8(c)に示すように、p型半導体層104上には、半田105が塗布される。続いて、図8(d)に示すように、半田105上にサポート基板106が取付けられる。サポート基板106は例えば銅とタングステンの合金からなる。
そして、図8(e)に示すように、サファイア基板101の裏面側からサファイア基板101とGaN層102との界面に向けてレーザ光107を照射する。レーザ光107は、照射領域が0.25mm以下の面積を有する正方形となり、かつ、光強度分布が図6に示したような略台形状となるように成形される。
レーザ光107をサファイア基板101とGaN層102の界面に照射して、GaN層102を分解することにより、サファイア基板101からGaN層102を剥離する。剥離後のGaN層102の表面に透明電極であるITO108を蒸着により形成し、ITO108の表面に電極109を取付ける。
【0033】
本発明のレーザリフトオフ方法によれば、基板から順次に剥離されるGaNの剥離領域において、基板からはじめて剥離されるエッジ部を常に2辺にすることによって、上記したように、基板から剥離後のGaNにおけるクラックの発生を防止若しくは抑制することができる。
また、パルスレーザ光の照射領域の形状をワークの移動方向に伸びる2辺を有する平行四辺形にした場合は、各照射領域を重畳させ易い。
また、本発明者らは、パルスレーザ光を照射することによりGaNが分解するとき、その照射領域のエッジ部にダメージを与えるが、この分解によるダメージの大きさは、レーザ光の照射面積に大きく依存しており、照射面積Sが大きいほどパルスレーザ光の照射領域の境界(エッジ部)へ大きな力が加わるものと考えられるが、エッジ部の長さ(照射領域の周囲長)Lが大きくなれば、エッジ部の単位長さ当たりに加わる力は小さくなり、照射面積が同じであっても、ダメージは小さくなることを見出した。
すなわち、[照射面積S]/[周囲長L]の値を小さくすることでダメージを小さくできるものと考えられ、具体的には、上記S/Lの値を0.125以下とすることにより、ダメージを与えることなく、レーザリフトオフ処理を行うことができることを見出した。
【0034】
上記のように、パルスレーザ光の照射領域の形状を平行四辺形にした場合は、照射領域の面積S(mm)とし、周囲長をL(mm)としたとき、照射領域の面積Sが等しい長方形等の他の四角形と比べ、S/Lの値を小さくすることができるため、上述したように照射領域のエッジ部の単位長さ当りに加わる力が小さくなり、照射面積Sが同じであっても、パルスレーザ光の照射領域へのダメージを小さくすることができる。
【0035】
本発明のレーザリフトオフ方法では、基板からはじめて剥離される辺Aと剥離済みの領域の辺B´の2辺とがなす角が、未分解領域側において鈍角になるようにすれば、ワークへのパルスレーザ光の照射領域の形状は、要するにワークの移動方向と平行方向に伸びる1辺を有する四角形状であれば良い。
したがって、パルスレーザ光の照射領域の形状は台形でも良い。特に、パルスレーザ光の照射領域は、ワークの移動方向において隣接する各照射領域を容易に重畳させるため、ワークの移動方向と平行方向に伸びる2辺を有する四角形状であることが好ましい。
以上の本発明のレーザリフトオフ方法によれば、基板からはじめて剥離された2辺の剥離辺によってなす角を鈍角とすることによって、図11(a)のシミュレーション結果に示すように、レーザ光照射時に発生する応力が、基板からはじめて剥離されたワークの移動方向と交差する方向に伸びる剥離辺Aの全長に分散されることで、当該応力が一箇所に局所的に集中することが回避される。このため、基板から剥離後の材料層にクラックが生じることを確実に防止することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 基板
2 材料層
3 ワーク
10 レーザリフトオフ装置
20 レーザ源
31 ワークステージ
32 搬送機構
33 制御部
40 レーザ光学系
41、42 シリンドリカルレンズ
43 ミラー
44 マスク
45 投影レンズ
101 サファイア基板
102 GaN層
103 n型半導体層
104 p型半導体層
105 半田
106 サポート基板
107 レーザ光
108 透明電極(ITO)
109 電極
L レーザ光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に材料層が形成されてなるワークに対し、前記基板を通してレーザ源からのレーザ光を照射し、前記基板と前記材料層との界面で前記材料層を分解して前記基板から剥離するレーザリフトオフ方法において、
前記レーザ光は、前記ワークに対する照射領域を刻々と変えながら前記ワークに照射され、前記照射領域のエッジ部は、前記ワークが前記レーザ源に対して相対的に一方向に移動するに従って順次に重畳し、
前記レーザ光の前記ワークに対する照射領域は、前記ワークの移動方向と交差する方向に伸びる第1のエッジ部と、前記ワークの移動方向と平行方向に伸びる第2のエッジ部とを有し、
該レーザ光により前記基板から順次に剥離される前記材料層の剥離領域は、前記第1のエッジ部に対応するワークの移動方向と交差する方向に伸びる第1のエッジと、前記第2のエッジ部に対応する前記ワークの移動方向と平行方向に伸びる第2のエッジとからなる、基板からはじめて剥離される2つのエッジを有し、
前記レーザ光は、前記剥離領域において、前記基板からはじめて剥離される前記第1のエッジと、前記レーザ光により剥離された剥離済みの領域の前記ワークの移動方向と平行方向に伸びる第2´のエッジとでなす角が、前記材料層の未分解領域側において鈍角になるように、前記ワークに照射される
ことを特徴とするレーザリフトオフ方法。
【請求項2】
前記レーザ光により、前記一方向において重畳する照射領域からなる各照射領域群が、前記ワークの一端から他端に向けて順次に並ぶように形成され、前記ワークにおいて最初に形成される照射領域群および最後に形成される照射領域群は、前記ワークの一方のエッジ部および他方のエッジ部から伸び出すように形成されることを特徴とする請求項1記載のレーザリフトオフ方法。
【請求項3】
基板上に材料層が形成されてなるワークに対し、前記基板を通してレーザ光を照射し、前記基板と前記材料層との界面で前記材料層を分解して前記基板から剥離するレーザリフトオフ装置において、
前記基板を透過する波長域のレーザ光を発生するレーザ源と、
前記ワークと前記レーザ源とを相対的に搬送する搬送機構と、
前記レーザ光が、前記ワークに対する照射領域を刻々と変えながら、各照射領域が前記ワークの一端から他端に向けて順次に並ぶように前記ワークに照射され、かつ、前記照射領域のエッジ部が前記ワークが前記レーザ源に対して相対的に一方向に移動するに従って、順次に重畳にするように、前記レーザ光の照射間隔と前記搬送機構による前記ワークの搬送動作とを制御する制御部と、
前記レーザ源から発したレーザ光を、前記ワークの移動方向と交差する方向に伸びる第1のエッジ部と、前記ワークの移動方向と平行方向に伸びる第2のエッジ部とを有する形状に成形して、前記ワークに照射するレーザ光学系と、を備え、
前記制御部は、
前記レーザ光により前記基板から順次に剥離される前記材料層の剥離領域が、前記第1のエッジ部に対応するワークの移動方向と交差する方向に伸びる第1のエッジと、前記第2のエッジ部に対応する前記ワークの移動方向と平行方向に伸びる第2のエッジからなる、基板からはじめて剥離される2つのエッジを有し、
かつ、前記剥離領域において、前記基板からはじめて剥離される前記第1のエッジと、前記レーザ光により剥離された剥離済みの領域の前記ワークの移動方向と平行方向に伸びる第2´のエッジとでなす角が、前記材料層の未分解領域側において鈍角になるように、前記レーザ光を前記ワークに照射する
ことを特徴とするレーザリフトオフ装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記ワークにおいて最初に形成される前記一方向において重畳する照射領域からなる照射領域群および最後に形成される照射領域群が、前記ワークの一方のエッジ部および他方のエッジ部から伸び出すように、レーザ光を前記ワークに照射することを特徴とする請求項3記載のレーザリフトオフ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−146771(P2012−146771A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3006(P2011−3006)
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】