説明

レーザ光源装置及びこれを用いた画像生成装置

【課題】線状の変換波を出力するにあたって、所望の偏光以外の偏光による寄生発振を抑えると共に部品点数の増加を抑え、装置構成の簡易化を図る。
【解決手段】励起光源1と、一対の共振器ミラー5、11とを有し、共振器ミラー5,11により構成される共振器20内に、レーザ媒質6と波長変換素子10とを備える。横マルチモードパターンの光でレーザ媒質6が励起され、レーザ媒質6の発振により得られる線状の基本波を波長変換素子10に照射して線状の変換波を出力する。レーザ媒質6と波長変換素子10との間の共振光路に、光路を折り返す反射部8を設け、レーザ媒質6又は波長変換素子10の端面をブリュースター角以外の傾斜面とし、この傾斜面に偏光膜7を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部共振器型の波長変換により、1次元横マルチモード等の線状の変換光を出力するレーザ光源装置及びこれを用いた画像生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プロジェクタやレーザプリンタ、プロセス装置などのレーザ光源を利用する各種の光学装置において、小型で消費電力が小さく、出力が安定なレーザ光源装置が要求されている。特に、非線形光学結晶等の波長変換素子を用いた共振器構造をもち、基本波を高調波等の変換波に変換する機能を併せもつレーザ光源装置では、所定の共振器長を確保しつつ小型化を実現するために、共振器の途中に折り返しミラーを設ける構成が提案されている。
またその際、波長変換素子におけるモード径を小さくし基本波のパワー密度を高くすることによって高変換効率を得るために、効果的に曲率をもつ折返しミラーを設ける構成が提案されている。
【0003】
このようなレーザ光源装置において、半導体レーザを励起光源として用いた固体レーザを使用する場合、干渉に起因する照明むらを改善するために、アレイレーザ等により1次元横マルチモードの励起光を使用して特に線状(例えば楕円状)の変換波を出力することが提案されている(例えば特許文献1参照。)。
このような横マルチモードの光を例えば画像生成装置に用いる場合は、光変調装置に対して比較的均質に照明できることから画質を向上させることができ、また、横マルチモードであることからスペックルノイズを低減させることができ、装置構成を複雑化することなく高効率なレーザ光源装置を得ることが期待されている。
【0004】
また、上述した非線形光学結晶等の波長変換素子を用いた共振器構造を有するレーザ光源装置において、所望の偏光以外の偏光による基本波の寄生発振やそれによる変換波の出力変動を避けるために、種々の工夫がなされている。一般には、偏光子を共振器内に挿入する方法か、またはガラス板などを光軸に対しブリュースター角をもって配置して共振光路に挿入する方法等、部品を追加する方法が採られている。
【0005】
しかしながら、上記特許文献1にあるような、共振器内波長変換を用いて高効率な第2高調波発生を得ようとする場合、凹面ミラーを用いて波長変換素子に集光するため共振光路が折れ曲がる。このため、例えばエンドポンプ方式で励起する方向に対して中途半端な角度に高調波が発生することとなる。このとき、レーザ媒質の端面にブリュースター角になるような加工を施せば、励起方向に対する高調波発生の角度は変化する(例えば特許文献2参照。)。
【0006】
【特許文献1】特開2006−66818号公報
【特許文献2】特開平05−267756号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献2に開示の方法のように、結晶の端面をブリュースター角となるように加工する場合、以下の問題が生じる。ブリュースター角はレーザ媒質や波長変換素子材料の屈折率により一義的に決まってしまう。したがって、ブリュースター角でレーザ媒質等の端面を加工して光を入出射する場合、角度によっては励起方向に対して中途半端な角度に高調波等の変換波が発生する場合がある。
不都合な方向への出射を回避するためには別体のブリュースター板等を用いればよいが、この場合は、部品点数の増加を避けられない。また、この場合でも、凹面ミラーを用いて共振光路を曲げている場合、光学系の有限な有効径のため励起方向と高調波方向を平行にすることはできず、装置構成が複雑化する。
【0008】
また上述したように、材料のブリュースター角によって変換波の出射方向が一義的に決まってしまうが、この方向とは異なる方向に出射光路を設定する場合は以下の問題が生じる。例えば光学調整作業の簡易化を図るために、励起光の励起方向と平行な方向に変換波を出射する構成とする場合がある。結晶の端面をブリュースター角となるように加工しつつ、このような構成とするためには、折り返しミラー等の光路を曲げる部材が余分に必要となり、部品点数の増加を招いてしまう。部品点数が増えるとそれだけ光学調整作業が煩雑となり、光学特性、コスト等に影響を及ぼすという問題がある。
特に、線状のビームを特に凹面ミラーで折り返す場合には、収差の発生が問題となり、折り返し角度は小さい方が望ましい。またビームの大きさによっては、折り返しミラーの有効径を大きくする必要が生じ、小型化に不利となる。
【0009】
以上の問題に鑑みて、本発明は、上述したような線状の変換波を出力するにあたって、所望の偏光以外の偏光による基本波の寄生発振やそれによる変換波の出力変動を抑えると共に、装置の部品点数の増加を抑え、かつ共振器のレイアウトを単純化し、装置構成の簡易化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明によるレーザ光源装置は、励起光源と、一対の共振器ミラーとを有し、共振器ミラーにより構成される共振器内に、レーザ媒質と波長変換素子とを備える。そして横マルチモードパターンの光でレーザ媒質が励起され、レーザ媒質の発振により得られる線状の基本波を波長変換素子に照射して線状の変換波を出力する構成とする。レーザ媒質と波長変換素子との間の共振光路に、光路を折り返す反射部を設け、レーザ媒質又は波長変換素子の端面をブリュースター角以外の傾斜面として構成し、この傾斜面に、偏光膜を設ける構成とする。
【0011】
更に、本発明の画像生成装置は、上述の本発明構成のレーザ光源装置と、レーザ光源装置から出射される光を情報に対応して変調する光変調部と、投射光学部とを備える構成とする。すなわちこのレーザ光源装置は、励起光源と、一対の共振器ミラーとを有し、共振器ミラーにより構成される共振器内にレーザ媒質及び波長変換素子を備える。そして横マルチモードパターンの光でレーザ媒質が励起され、レーザ媒質の発振により得られる線状の基本波を波長変換素子に照射して線状の変換波を出力する構成とされる。レーザ媒質と波長変換素子との間の共振光路に、光路を折り返す反射部を設け、レーザ媒質の端面に、偏光膜を設ける構成とする。
【0012】
上述したように、本発明のレーザ光源装置及びこれを用いた画像生成装置においては、横マルチモードパターンの変換波を出力するにあたって、レーザ媒質と波長変換素子との間の共振光路に、光路を折り返す反射部を設け、レーザ媒質又は波長変換素子の端面に、偏光膜を設けるものである。
このように、共振光路に、光路を折り返す反射部を設けることから、本発明においては、より小型のレーザ光源装置を提供することができる。そして特に、レーザ媒質又は波長変換素子の端面に偏光膜を設けることによって、ブリュースター板等の他の偏光用の光学素子を用いることなく、所望の偏光以外の偏光による基本波の寄生発振を十分に抑えることができ、またそれによる変換波の出力変動を抑えることができる。また、励起方向や励起光源の排熱面等に対して、変換波の出射方向等のレイアウトを自由に選択できることとなり、レーザ光源装置内の共振器のレイアウトを複雑にすることなく、確実に上述の寄生発振を抑制できる。
【0013】
また、本発明のレーザ光源装置において、レーザ媒質又は波長変換素子の端面をブリュースター角以外の傾斜面として構成し、この傾斜面に偏光膜を設けることによって、レーザ媒質又は波長変換素子の傾斜面から出射する光を所望の角度で伝播させることができる。したがって、共振光路を折り返す反射部の配置及び有効径等の構成の制約を低減し、いわばレイアウトを自由に選択できることとなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のレーザ光源装置及び画像生成装置によれば、線状の変換波を出力するにあたって、所望の偏光以外の偏光による基本波の寄生発振やそれによる変換波の出力変動を抑えると共に装置の部品点数の増加を抑え、かつ共振器のレイアウトを単純化し、装置構成の簡易化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下本発明を実施するための最良の形態の例を説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
図1及び図2は、本発明の実施の形態に係るレーザ光源装置の各例の概略構成図である。図1に示すレーザ光源装置30においては、励起光源1と、一対の共振器ミラー5及び11とを有し、共振器ミラー5及び11により構成される共振器20内(破線で示す)に、レーザ媒質6と波長変換素子10とを備える。半導体レーザアレイ等の励起光源1から出射される横マルチモードパターンの光でレーザ媒質6が励起され、レーザ媒質6の発振により得られる線状の基本波を波長変換素子10に照射して、線状の変換波Loを出力する構成とする。そしてレーザ媒質6と波長変換素子10との間の共振光路に、光路を折り返す反射部8を設け、レーザ媒質6又は波長変換素子10の端面、図示の例ではレーザ媒質6の反射部8側の端面がブリュースター角以外の傾斜角の傾斜面とされ、この傾斜面に偏光膜7を設ける。
【0016】
また、図2に示す例は、図1の例と同様の構成とし、共振器ミラー5をレーザ媒質6の励起光源1側の端面に、レーザ媒質6において発振する基本波に対し高い反射率を有する高反射膜として形成する例を示す。図2において、図1と対応する部分には同一符号を付して重複説明を省略する。このように共振器ミラーを膜構成とすることによって、部品点数の低減化を図り、光学調整の簡易化を図ることが可能である。
【0017】
図1及び図2に示す例においてレーザ媒質6に設ける傾斜面は、励起光源1から出射される励起光によってレーザ媒質6内で発振する基本波の入出射に対してブリュースター面以外の傾斜角となる面として構成する。
【0018】
このように、レーザ媒質及び波長変換素子の入出射面のうち少なくとも片側の端面を基本波の入出射に対して傾斜面となるように加工する。そして更に所望の偏光には反射防止機能を持たせ、所望の偏光以外にはそれと比較して透過率の低い機能を持たせるいわば異なる機能を併せ持った偏光膜を設けることにより、所望の偏光以外の偏光による寄生発振を十分抑えることができる。更に、この傾斜面から出射する光の光路を自由に選択できて、装置を構成するにあたって、励起方向や励起光源の排熱面等に対して変換波の出射方向等のレイアウトを自由に選択できることとなる。したがってレーザ光源装置内の共振器のレイアウトを複雑にすることなく自由に選択でき、且つ確実に上述の寄生発振を抑制できる。
【0019】
また、通常の非線形光学結晶等より成る波長変換素子においては、効率よく波長変換できる基本波の偏光が決まっているので他の偏光を入射しても波長変換されないかあるいは所望の偏光に比べて変換効率が低い。このため、従来は所望の偏光以外の偏光による基本波の寄生発振によって、直ちに変換波の出力変動に結びつくという問題がある。この変換波の出力変動は偏光変動によるため、寄生発振そのものによる基本波の出力変動よりはるかに大きい。これに対し、本発明によれば、偏光膜7を設けることのみによって偏光を揃えるので、上述の効果に加えて、部品点数増加なしに、またレイアウトを複雑にすることなしに、出力変動の少ない安定なレーザ装置を提供することができるという効果も得られることとなる。
【0020】
本発明のレーザ光源装置において、レーザ媒質6又は波長変換素子10に設ける偏光膜としては、以下の透過条件であればよい。すなわち、基本波がレーザ媒質6又は波長変換素子10の傾斜面における入射面内方向の偏光に対してはより高透過であり(例えば透過率99.8%)、入射面と垂直方向の偏光に対してはそれより低い透過率(例えば透過率98%)となるように偏光膜7を構成する。
【0021】
なお、共振器内で偏光選択作用を発現するには、所望の偏光と、寄生発振して欲しくない偏光との間で透過率の差があればよく、寄生発振を避けたい偏光に対する透過率がゼロであることは必ずしも必要ない。基本的には共振器内の基本波に対する透過率(反射率)による一周の損失が少しでも低い方の偏光が発振するからである。
【0022】
同じ寄生発振抑制目的のブリュースター面であっても、寄生発振を避けたいS偏光に対する透過率は、波長1064nmにおいて、Nd:YAG(屈折率1.82)で29%である。本発明においては、ブリュースター面として構成せず、傾斜面に偏光膜を設けるもので、このように低い透過率に設定する必要はない。
本発明においては、ブリュースター面以外の傾斜面に偏光膜を設けて、上述したように偏光に対して透過率の差を生じるようにすることによって、高い透過率の偏光を発振させ、基本波が入射面内偏光をもつ構成とすることができる。すなわち、共振光路面内の偏光に対する透過損失を低減化し、かつ共振光路と垂直な偏光による寄生発振を抑制することができる。
【0023】
上述の透過率の差は、レーザ媒質や波長変換素子の材料やレーザ共振器の構成と抑えたい寄生発振のレベルにもよるが、0.5%程度以上あれば不要な偏光による寄生発振を抑えることができる。0.5%未満だと、測定誤差や作製する膜の特性ばらつき程度になる可能性が高く、現実的でない。更に望ましくは1.5%以上であれば十分に寄生発振を抑えることができることを実験的に確認している。
更に透過率の差を大きくするためには、偏光膜を構成する多層膜の材料や層数等に制限が生じ、コストに影響する。また、製造上の膜特性のロット間ばらつきや、複屈折結晶を用いる場合の軸ずれによる基板結晶の使用する方位に対する実効屈折率ばらつき、あるいは傾斜面角度のばらつきなどを考えても、透過率の差は5%あれば十分に寄生発振を抑えられる。したがって、この透過率の差は5%以下であれば十分といえる。
【0024】
また、このような機能を有する偏光膜を設計することが可能な傾斜面の角度範囲は、ブリュースター角とは異なり材料の屈折率では一意に決まらない。偏光膜の材料や層数等の構成を適切に設計することにより、傾斜面の角度は比較的自由に選定することができる。したがって、レーザ光源装置の小型化や作りやすさを考慮して傾斜角度を選定することができる。例えば、励起光源をレーザ媒質の後方に配置するいわゆるエンドポンプ方式において、励起方向と高調波等の変換波の出射方向をほぼ平行とすることができる。
なお、この偏光膜は波長変換素子において発生する線状の変換波の偏光方向に対して十分に透過率が高いように構成することによって、波長変換素子の端面を傾斜面としてここに偏光膜を設け、基本波における不要な偏光の寄生発振を抑えると共に、変換波の透過損失も低減化することが可能となる。
【0025】
以上説明した図1及び図2の実施形態のいずれの場合においても励起光源1として半導体レーザによる並列化光源いわゆるレーザアレイを用いることができるが、励起光源1は、レーザアレイに限定されるものではない。また、図1及び図2においてはエンドポンプ方式の例を示すが、励起光源1をレーザ媒質6の側面に配置するサイドポンプ方式とする場合にも適用できることはいうまでもない。更に、上述の各例において図示しない各種の光学素子を付加することが可能である。例えば、励起光源1と共振器ミラー5との間に垂直及び水平両方向にマイクロレンズを用いて励起光を平行ビームにし、更にレーザ媒質6に集光する集光機能を有するレンズを配置してもよい。用途に応じて適切な励起光のビーム整形をして照射することが望ましいことはいうまでもない。
【0026】
本発明のレーザ光源装置に用いるレーザ媒質としては、複屈折材料を用いることが望ましい。複屈折材料としては、例えば、YVO、GdVO、YLF、LiSAF(LiSrAlF)、LiCAF(LiCaAlF)、KGW(KGd(WO)、KYW(KY(WO)、Ti3+:Alのうちいずれか1つか、又は、これらに各種イオン(Nd、Yb、Ce、Na、Cr、Er、Ho、Tm)がドープされた材料を用いることができる。これらの材料のうちYVOは複屈折が特に大きい。
【0027】
このように、レーザ媒質として複屈折材料を用いる場合は、確実に偏光膜7の透過率差を設定し易くなるという利点がある。すなわち、複屈折結晶では、等方的結晶と比較して同じ入射角であっても偏光膜の膜数を一般的に少なくすることができるので、透過率差をより大きく設計することが容易となる。したがって、レーザ媒質として複屈折材料を用いる場合は、偏光面の特性差を大きく付けられ、より確実に、所望の偏光以外の偏光による寄生発振を抑制できる、という利点を有する。あるいは、一般に膜数の増加と共に散乱・吸収の増加やレーザ耐性の低下が起こるが、偏光膜の膜数を少なくしても透過率差を確保できるので、それら望ましくない作用を避けつつ、確実に、所望の偏光以外の偏光による寄生発振を抑制できる、という利点を有する。あるいは、偏光膜を付ける複屈折結晶の傾斜角を小さくしても透過率差を付けることができるので、共振器レイアウトをより自由に選択しつつ、確実に、所望の偏光以外の偏光による寄生発振を抑制できる、という利点を有する。
【0028】
またレーザ媒質としては、上述の複屈折性材料の他、例えばNdイオンをイットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAl12)にドープしたNd:YAGやYb:YAGなどの、希土類添加の固体レーザ材料などを用途によって選択できる。YAGなどでは利用する波長の近辺に他の発振線をもつ。この場合は、特に波長変換素子の許容波長幅やレーザ構成によっては更に共振器内に寄生発振波長抑制のための波長選択素子を配置することが望ましい。例えば水晶による複屈折フィルタを波長選択素子として利用することができる。
【0029】
また、吸収特性と発振特性に異方性のある例えばYVOを用いる場合には、励起光源の偏光方向、即ちYVOに吸収させる偏光方向を、発振させるYVOの偏光方向と合わせることが望ましい。励起光源が半導体レーザである場合には、その発振偏光によっては励起光が共振器に入射する前に、半波長板(図示せず)等を用いて偏光方向をほぼ90度回転させるなどして必要な偏光方向とすることが望ましい。
【0030】
本発明のレーザ光源装置において波長変換素子は、非線形光学結晶又は非線形光学素子が利用可能である。波長変換素子は例えば、SHG(第2高調波発生)、THG(第3高調波発生)等の波長変換に用いられ、或いは、和周波発生や光パラメトリック発振等に用いられる。使用材料としては、KTiOPO(KTP)、β−BaB(BBO)、LiB(LBO)、LiTaO、LiNbO、そのコングルーエント(一様融液)組成、そのストイキオメトリック(化学量論的)組成や、Mg、Zn等の添加物を添加した材料が挙げられる。
【0031】
例えば、C−LiNbO、C−LiTaO、S−LiNbO、S−LiTaO、MgO:C−LiNbO、MgO:C−LiTaO、ZnO:C−LiNbO、ZnO:C−LiTaO、MgO:S−LiNbO、MgO:S−LiTaO、ZnO:S−LiNbO、ZnO:S−LiTaO、などの結晶材料を用いることができる。
また、それらに分極反転処理をほどこした、PP−C−LiNbO、PP−C−LiTaO、PP−S−LiNbO、PP−S−LiTaO(PPSLT)、PP−MgO:C−LiNbO、PP−MgO:C−LiTaO、PP−ZnO:C−LiNbO、PP−ZnO:C−LiTaO、PP−MgO:S−LiNbO、PP−MgO:S−LiTaO、PP−ZnO:S−LiNbO、PP−ZnO:S−LiTaO、PP−KTiOPOなどの結晶素子を挙げることができる。
【0032】
なおここで、「C」は「congruent(一様融液)組成」、「S」は「Stoichiometric(化学量論的)組成」を意味する。また、「PP」は「Periodical Poling(周期分極反転)」を意味し、非線形光学結晶に対し電圧印加等による周期分極制御により周期分極反転構造をもつ非線形光学素子が得られる。これらの材料は、使用波長に合わせて、位相整合条件を満たす適切な角度で加工され、あるいは適切な周期分極反転構造を作ることによって(擬似)位相整合条件が満たされる。
また、波長変換素子の大きさは、共振器内部での基本波及び変換波の線状ビームサイズよりも適切量大きいサイズとすることが望ましい。
【0033】
なお、波長変換素子に入射する基本波の偏光方向は、位相整合条件に合わせて波長変換素子の適切な方向に合わせる。例えば、PPSLTでは結晶のz方向(ウェハ面と垂直方向)に偏光方向をもつ基本波を入射すると、同じ偏光方向の高調波を効率よく発生することができる。この場合、c軸を法線方向とするウェハ面内方向に伝搬するように周期分極反転を行うのが適切であるが、通常ウェハの厚みは1mm程度以下であるから、本発明のように横マルチモードの光を扱う場合、ビーム長手方向はウェハ面内方向にとることが好ましい。したがって、この場合の偏光方向は、基本波及び変換波とも長手方向と略垂直な方向となる。
【0034】
一方、LBO等のように周期分極反転を用いない波長変換素子においては、素子サイズをある程度大きく例えば数mm角程度にとることができるので、利用する非線形性を有する結晶方位とその位相整合条件及び使用用途に応じて偏光方向をビーム長手方向と平行にとることも可能であり、また偏光方向をビーム長手方向と垂直にとることもできる。
【0035】
なお、周期分極反転構造を有する非線形光学結晶は、従来の非線形光学結晶に比べて非線形光学定数の大きいものが多く、高い変換効率が得られるとともに、ウエハープロセス技術による大量生産が可能であるため、低コスト化に有利である。
波長変換素子の大きさは、共振器内部での基本波及び変換波のビームサイズよりも適切量大きいサイズであることが必要である。しかしながら、上述した各種材料の非線形光学結晶や非線形光学素子、特に周期分極反転構造を設ける非線形光学結晶は、実用上その大型化には限界がある。このため、基本波の入射する端面の有効径を大きくすることなく調整することが望ましく、すなわち調整が容易となるように、装置構成が簡易であることが望ましい。上述したように励起方向と変換波の出射方向とを平行とする場合は、光学的な調整が容易となる。すなわち、角度を適切に選定する場合は波長変換素子の調整も簡易化されるという利点がある。
【0036】
次に、このように励起方向と変換波の出射方向とを略平行とする実施形態例について説明する。
図3A及びBは本発明の実施形態例に係るレーザ光源装置の一例を示す概略平面構成図である。図3Aは1対の共振器ミラー5,11により構成される共振器20内の反射光路における入射面に沿う平面内の平面構成図を示し、図3Bはこの平面に沿う方向(図3A中矢印Bで示す方向)からみた概略平面構成図を示す。
図3に示す例においては、レーザ媒質6の共振器方向に沿う端面から励起光を入射するエンドポンプ方式を採る場合で、レーザ媒質6の一方の端面を基本波に対し入射面内偏光がより高透過になるような偏光膜7のついた傾斜面6Sとして設ける例を示す。またこの場合、線状の基本波の長手方向が、共振光路を折り返す反射部の入射面に対して略垂直に配置される例を示す。
【0037】
図3A及びBに示すように、このレーザ光源装置30は、励起光源1から出射する励起光の光路上にコリメータレンズ2、半波長板3、レーザ媒質6が配置される。このレーザ媒質6の励起光源1側の端面は、光軸に対し略直交する垂直面とされ、高反射膜より成る共振器ミラー5とされる。また、レーザ媒質6の他方の端面は、ブリュースター角以外の角度をもつ傾斜面6Sとされ、この傾斜面6Sに偏光膜7が設けられる。この偏光膜7においては、図3Aにおいて矢印p1で示す紙面内偏光に対し比較的高い透過率とし、これとは直交する偏光に対して比較的低い透過率となるように、その材料や層構成を選定する。これにより、傾斜面6S上の偏光膜7を偏光選択素子として機能させることができる。
【0038】
そしてレーザ媒質6から出射される光の出射光路上には、凹面ミラー等より成る反射部8が配置され、その反射光路上に波長変換素子10が配置される。波長変換素子10の反射部8側の端面には、図示しないが基本波及び高調波に対する反射防止膜が施され、他方の端面に共振器ミラー11が設けられる。ここで共振器ミラー5は基本波に対し高反射率を有する。また、反射部8は基本波に対し高反射率をもち、変換波に対し例えば高透過率を有する。更に共振器ミラー11は、例えば基本波及び変換波に対し高反射率をもつ構成とする。なお、この例においては、共振器ミラー5及び11がそれぞれレーザ媒質6と波長変換素子11の一方の端面に設けられる高反射膜より構成される例であり、この場合、部品点数が削減され、光学調整の簡易化が図られる。
【0039】
このような構成において、励起光源1の発光素子12から出射された励起光は、円筒レンズ等のコリメータレンズ2により例えば発光素子12のエミッタ厚方向にコリメートされ、半波長板3を介してレーザ媒質6の一方の端面、この場合共振器ミラー5を設ける端面から入射される。このとき、レーザ媒質6が異方性媒質である場合、例えば吸収効率と発振効率の高い結晶方位が同じc軸方向であるNd:YVOの場合、半導体レーザの発振偏光方向がエミッタ厚方向と平行であるような励起光源を使うときは、図に示す例のように、レーザ媒質6の入射前に半波長板3により偏光を90度回転して、共振させるべき基本波の偏光方向と揃えておくことが好ましい。
【0040】
すなわちこの場合、励起光源1の発光素子12から出射される光の偏光方向は矢印p0で示すように光軸及び図3Aの紙面と直交し、図3Bの紙面に沿う方向であり、半波長板3によって、偏光方向は矢印p1で示すように光軸と直交し、図3Aにおいて紙面に沿う方向で、且つ図3Bにおいて紙面と直交する方向となる。レーザ媒質6の他方の端面は偏光膜7を設けた傾斜面6Sとされるので、この矢印p1で示す偏光方向の光が高透過で出射される。レーザ媒質6を出射した基本波の偏光方向を矢印p2、反射部8で反射される基本波、波長変換素子10で変換され、反射部8を透過して外部に出射される変換波の偏光方向をそれぞれ矢印p3、p4で示す。なお、図中ビームスポット13の概略形状を、反射部8を透過した出射位置に示す。
【0041】
このように、図3A及びBに示す例では、共振器ミラー5、レーザ媒質6及びブリュースター板の3つの素子の機能を1つの素子で実現でき、部品点数の削減を図ることができる。レーザ媒質6から出射されて反射部8において反射された基本波は波長変換素子10に入射される。波長変換素子10の反射部8側の端面には基本波に対する反射防止膜が設けてあり、共振器内の光学損失を低く抑えることができ、高効率な基本波発振を得ることができる。
【0042】
またこの場合は、基本波の長手方向に対して偏光方向を略直交する方向とするので、傾斜面から出射される角度偏向方向は図3Aの紙面に沿う方向(図3Bの紙面と直交する方向)、すなわち共振光路の反射部8における入射面に沿う方向となり、各光学部品の配置構成が容易となるという利点を有する。
【0043】
以上の構成とすることによって、凹面ミラー等の反射部8を介して、レーザ媒質6の一端面に設ける共振器ミラー5と波長変換素子10の一端面に設ける共振器ミラー11との間で共振器を構成することができる。
【0044】
この例においては、基本波の長手方向を偏光と垂直な方向、すなわち図3Aにおいて紙面と垂直な方向で、図3Bにおいて紙面に沿う方向として、基本波の長手方向を反射部8における入射面に対して略垂直となる構成としている。これにより、部品点数が少なく、また共振器の光学損失が少ない状態で、反射部8における入射角を小さくできる。
従来は、このような線状の横マルチモードの光を取り扱う場合、基本波の長手方向を反射部8の入射面に沿う方向としていた。このような従来の配置と比べて、図3A及びBに示すように基本波の長手方向を反射部8の入射面と略直交する方向とする場合は、ビームの長手方向の対称性の乱れを抑制することができ、一様で安定なビーム形状を得ることができて、空間モードを高次モードまで均一に発振させることができるという利点を有する。
【0045】
また、振動などの外乱によってもビーム形状の対称性がよいため空間モード間のパワー遷移が起きにくくなり、画像生成装置や、光プロセス装置などに用いる場合に、線状のレーザ光の均質性、利用効率及び安定性の向上、ノイズの低減化を図ることができる。また、レーザ光源装置やこれを含むレーザモジュールの製造マージンも拡大される。
【0046】
そして特に本発明においては、共振光路の反射角度に対応してレーザ媒質6又は波長変換素子10に設ける傾斜面の傾斜角度を自由に設定でき、すなわちこの傾斜面の入出射で曲がる角度を設定できる。この場合、基本波の長手方向が共振器内反射部の入射面と垂直、すなわち共振光路と垂直であるため、レーザ媒質6又は波長変換素子10に設ける傾斜面の傾斜角度を自由に設定しても、横マルチモードの対称性を崩すことがないという利点を有する。したがって、対応する傾斜面の傾斜角度に対して基本波に対する偏光分離作用をもつ偏光膜を設けることによって、図3A及びBに示すように、励起方向と高調波等の変換波の出射方向をほぼ平行にすることができる。
その結果、励起方向とレーザ媒質出射後のビームの変化を少なくできるので、レーザ光源装置を小型化するのに都合がよい。また、励起光源1の例えばレーザダイオードを取り付ける面と、高調波等の変換波の出射方向もほぼ平行になるので、レーザ光源装置の機械的な外形ひいては励起光の排熱面と出射方向を平行にするのは容易であり、組立や取扱の容易な構造を作製し易いという利点がある。以上のように、本発明によれば、レーザ光源装置の小型化、組み立ての容易さを実現でき、かつ安定で高い変換効率の両立を図ることができる。
【0047】
次に、特に屈折角の大きいレーザ媒質を用いる場合において、端面をブリュースター面とする従来の構成と、本発明におけるように、ブリュースター角以外の角度の傾斜面を用いる場合とを比較検討した結果を説明する。
【0048】
図4及び図5は、折り返し反射光路とする共振器を設けるレーザ光源装置の構成図を示し、これらの例における基本波の進行方向に対する変換波の出射角度について説明する。図4においては、傾斜面をブリュースター面とする比較例、図5においては、傾斜面をブリュースター角以外の角度の傾斜面として、ここに偏光膜を設ける本発明の実施形態に係るレーザ光源装置の一例である。
【0049】
先ず図4に示す例では、一対の共振器ミラー71、75より成る共振器内に、端面72Bがブリュースター面とされるレーザ媒質72、折り返しミラー73、非線形光学結晶等の波長変換素子74が設けられる場合を示す。図示を省略する半導体レーザ等の励起光源から出射された光が、矢印Leで示すように例えば共振器ミラー71に入射され、矢印Lf11で示すように共振器ミラー71から共振器内に入射される。レーザ媒質72内で励起された基本波はブリュースター面とされる端面72Bから矢印Lf12で示すように出射され、折り返しミラー73において矢印Lf13で示すように反射され、波長変換素子74を介して共振器ミラー75に達する。
【0050】
共振器ミラー71及び75はレーザ媒質72において発振する基本波に対し高反射で、波長変換素子74において変換される高調波に対し例えば高反射とされ、折り返しミラー73はその反射面が基本波に対し高反射であり、変換波に対し例えば高透過とされる。このような構成とすることにより、レーザ媒質72において照射された励起光によって発生する光をレーザ共振器によって発振させた基本波を、波長変換素子74に照射することにより生じる第2高調波等の変換波を矢印Lf14で示すように外部に出射することができる。図4において、破線A2はレーザ媒質72内の励起光の進行方向すなわち励起方向、破線v2は端面72Bの法線、破線A2´は破線A2と平行な方向を示す。
【0051】
この例において、レーザ媒質72が例えば、Nd:YAG結晶の場合、波長1064nmの光に対する屈折率nは、
n=1.82
であり、ブリュースター角θは、
θ=arctan(n)=61.2°
である。
また、結晶の内部屈折角θi
θi=arcsin[sin(θ)/n]=28.8°
である。
従って、Nd:YAG結晶入出射で曲がる角度は、
θ−θi=32.4°
となる。
【0052】
ここで例えば共振光路中の折り返しミラー73の反射角度aを20°としたとき、破線A2´で示す励起方向に対する矢印Lf14で示す変換波の出射角度bは、
=32.4°−20°=12.4°
の角度がついてしまう。
これは、レーザ装置全体の小型化や作り易さ、使い易さに対して制限要因となる。また、励起方向と平行に変換波を取り出すために、共振光路の反射角度aを変化させることもでき、この場合例えば折り返しミラー73の反射角度a
=θ−θi=32.4°
とすることによって、変換波の出射方向を励起方向と平行とすることも可能である。しかしながらこのように反射角度aを大きくする場合、意図しない収差が発生する原因となり得る。
このような収差が発生すると、収差を補正する光学素子が別途必要となる等装置構成の簡易化、小型化を図り難くなってしまい、または、レーザのビームプロファイルの悪化や不安定性をまねく。また、所定の角度、位置に光学素子を配置する必要が生じることとなって、結果的に装置の設計及び製造作業が煩雑化してしまうという問題がある。
【0053】
Nd:YAGよりも屈折角の大きいレーザ媒質を用いる場合は、更にこの角度が大きくなってしまう。例えばNd:YVOは屈折角が比較的大きく、異常光線屈折率がn=2.16である。同様な計算によりNd:YVO結晶にブリュースター角入出射で曲がる角度は、
θ−θi=40.4°
となり、より大きくなる。従って、励起方向と高調波の出射方向をほぼ平行にしようとすると、反射部73の反射角度は40.4°とする必要があり、コマ収差や球面収差の影響が更に大きくなるという問題がある。
【0054】
これに対し、本発明によるレーザ光源装置においては、傾斜角度をブリュースター角に限定しないので、このような不都合を回避することができる。図5にこの場合のレーザ光源装置の概略構成を示す。図5において、図1及び図2と対応する部分には同一符号を付して重複説明を省略する。図示しない半導体レーザ等の励起光源から出射された光が、矢印Leで示すように例えば共振器ミラー5に入射され、共振器ミラー5から共振器内に入射される。レーザ媒質6で励起された基本波は、ブリュースター角以外の傾斜角とされる傾斜面6Sから矢印Lfで示すように出射され、折り返しミラー8において矢印Lfで示すように反射される。そして波長変換素子10を介して共振器ミラー11に達する。
【0055】
共振器ミラー5及び11は、レーザ媒質6において発振する基本波に対し高反射で、波長変換素子10において変換される高調波に対し例えば高反射とされ、折り返しミラー8はその反射面が基本波に対し高反射であり、変換波に対し例えば高透過とされる。このような構成とすることにより、レーザ媒質6において照射された励起光によって発生する光をレーザ共振器によって発振させた基本波を、波長変換素子10に照射することにより生じる第2高調波等の変換波を矢印Lfで示すように外部に出射することができる。図5において、破線A1はレーザ媒質6内の励起光の進行方向すなわち励起方向、破線v1は傾斜面6Sの法線、破線A1´は破線A1と平行な方向を示す。
【0056】
図5に示すように、本発明においては、共振光路の反射角度にあわせてレーザ媒質6の入出射で曲がる角度を設定でき、破線A1で示す励起方向と破線A1´で示す変換波の出射方向とを略平行とすることができる。
例えば、Nd:YAG結晶で傾斜角(光路方向と傾斜面6Sのなす角度)を65.2°とすると、結晶の内部屈折角θiは、
θi=90−65.2=24.8°
となり、レーザ媒質6の傾斜面6S側外部の入射角は
θ=arcsin[sin(θi)×n]=49.8°
となる。Nd:YAG結晶にこの傾斜角で入出射する際に曲がる角度は、
θ−θi=25°
となり、ブリュースター角を用いた場合よりも減少させることができる。
【0057】
この場合、傾斜面6Sの角度に対応して基本波に対する偏光分離作用をもつように偏光膜7を設けることにより、レーザ共振器内での寄生偏光発振を十分に抑制できる。そして上述したように、共振光路の折れ曲がり角度aを、Nd:YAG結晶に入出射する角度差(θ−θi=25°)と合わせれば、例えばレーザ媒質6の外形や励起方向、ひいては励起光源の排熱面と変換波の出射方向を略平行に配置構成することが可能となる。このような構成とすることによって、レーザ光源装置の小型化を図ると共に、その組み立てを容易とし、かつ安定で高効率に変換波を発生するレーザを提供することができる。
【0058】
このような本発明により得られる効果は、屈折角の大きいレーザ媒質を用いる場合により顕著となる。例えばレーザ媒質6にNd:YVO結晶を用いる場合において、傾斜面6Sの傾斜角を71.4°とすると、Nd:YVO結晶の異常光線に対する内部屈折角はθi=18.6°、結晶外部の入射角はθ=43.6°となり、やはりNd:YVO結晶にこの傾斜角で入出射する際に曲がる角度は、
θ−θi=25°
となる。
【0059】
また同様に、Nd:YVO結晶をレーザ媒質6として用いる場合において、傾斜面6Sの傾斜角を74.4°とすれば、同様の計算により、
θ−θi=20°
となり、より角度を小さくすることができる。この角度に共振器光路の折れ曲がり角度aを合わせることによって、上述の例と同様にレーザ媒質の外形や励起方向等、ひいては励起光源の排熱面と変換波の出射方向とを略平行とすることができる。つまり、レーザ媒質の屈折率が大きいすなわち屈折角の大きい材料を用いる場合ほど、本発明の効果が顕著となる。
【0060】
なお、上述の例においてはレーザ媒質6に傾斜面6Sを設ける場合を示すが、同様に、波長変換素子に偏光膜を設けた傾斜面を設けても構わないことはいうまでもない。この場合は、偏光膜に、基本波に加えて高調波でも高透過となるような設計を施すのがよい。
なお、本発明においては、図5における反射部8において変換波を高透過、共振器ミラー11において高反射としたが、本例に限定されるものではない。用途に応じて、例えば共振器ミラー11においても高透過としても構わない。
【0061】
本実施形態においてはエンドポンプ形式による励起方式としたが、サイドポンプ方式であっても適用できることはいうまでもない。すなわち、図5においては、エンドポンプ方式の例を示すが、サイドポンプ方式とする場合も同様であり、励起光源をレーザ媒質6の励起方向に沿う側面に対向して破線Ls1´で示すように励起光源を照射する場合も同様の効果が得られる。サイドポンプ方式であってもレーザ媒質の光路方向を含む面に沿って励起光を照射するので、励起光源のビーム長手方向、即ち励起光源のレーザダイオード等を取り付ける面と高調波等の変換波の出射方向とを略平行とすることができるなど、同様の効果が得られる。したがって、同様にレーザ光源装置の小型化・組み立てやすさの向上を図り、安定で高効率な変換波を発生するレーザ光源装置を提供することができる。
【0062】
次に、本発明構成のレーザ光源装置を用いた画像生成装置の一実施形態について図6を参照して説明する。図6に示すようにこの画像生成装置100は、本発明構成によるレーザ光源装置30と、照明光学系40、例えば回折格子型の1次元光変調装置51及び光選択部52を含む光変調部55、投射光学部53、走査素子54を有する走査光学部56から構成される。レーザ光源装置30としては、前述の実施形態例と同様に例えば横マルチモードの1次元状の変換波、例えば第2高調波を出力する構成とし得る。そしてこのレーザ光源装置30から出射されて照明光学系40において光束形状等を整えられたレーザ光Loは、例えば回折格子型構成の1次元光変調装置51に線状の光ビームとして照射される。
【0063】
回折格子型の1次元光変調装置51は外部演算部61において生成された画像信号をもとに、図示しない駆動回路からの信号Spを受けて動作する。1次元光変調装置51を回折格子型構成とする場合、その回折光Lmが光選択部52に入射される。なお、例えば三原色の光を用いる場合は、各色の光源からそれぞれ1次元照明装置、各色用光変調装置を経てL字型プリズム等の色合成部により光束を重ね合わせて光選択部に出射される構成としてもよい。
【0064】
光選択部52はオフナーリレー光学系等より成り、シュリーレンフィルター等の空間フィルター(図示せず)を有し、ここにおいて例えば+1次光が選択されて1次元画像光Lsとして出射される。更に投射光学部53によって拡大等を行い、走査光学部56における走査素子54の矢印rで示す回転により、L1、L2、・・・Ln−1、Lnで示すように走査され、スクリーン等の画像生成面60上に2次元像57が生成される。画像生成面60上において走査位置は矢印Cで示すように走査される。走査素子54としては、例えばガルバノミラー、ポリゴンミラーの他、電磁石等によって共振して走査を行ういわゆるレゾナントスキャナを用いることも可能である。
【0065】
光変調装置には、例えば、1次元光学変調素子である米国シリコン・ライト・マシン(SLM)社が開発したGLV(Grating Light Valve:反射型回折格子)型の光変調素子を用いることができる。このGLV素子には本発明構成のレーザ光源装置30から出射される横マルチモードの線状光、例えば半導体レーザアレイ、並列化光源等による横マルチモードの線状光を照射する。
上述の構成による画像生成装置100によれば、レーザ光源装置30として本発明構成のレーザ光源装置を用いることから、小型の構成とし、かつ安定で高効率の変換波を利用することができる。したがって照明むらの少ない良質な画質をもって画像を生成することが可能となる。
【0066】
なお、本発明の画像生成装置は上述の例に限定されるものではなく、例えば赤、緑及び青の各色用にレーザ光源装置を設ける場合、その少なくとも一つを本発明構成とするのみでよく、また他の部分すなわち光変調部、投射光学部、走査光学部等において種々の変形、変更が可能である。また投射型表示に限定されることなく、描画により文字情報や画像などを生成する各種の描画装置、例えばレーザプリンタにも適用可能である。
【0067】
また、本発明の画像生成装置は、上述した1次元状の光変調装置を用いる場合に限定されるものではなく、その他DMD(Digital Micro-mirror Device)や共振型走査ミラー等の2次元型の光変調装置を用いる場合においても適用可能であり、その他光源のレーザ装置以外の照明光学系、投射光学系、その他の光学系の材料構成において、本発明構成を逸脱しない範囲で種々の変形、変更が可能であることはいうまでもない。
更にまた、画像生成装置以外においても、共振器内部に波長変換素子を有するレーザ装置を1以上用いる光学装置であれば、その少なくとも1つのレーザ光源装置に本発明を適用することが可能である。
【0068】
また本発明によるレーザ光源装置は、上述の実施形態の各例において説明した構成に限定されるものではなく、その他本発明構成を逸脱しない範囲において種々の変形、変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の一実施形態に係るレーザ光源装置の概略構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るレーザ光源装置の概略構成図である。
【図3】A及びBは本発明の一実施形態に係るレーザ光源装置の概略平面構成図及び概略側面構成図である。
【図4】比較例によるレーザ光源装置の配置角度の説明図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るレーザ光源装置の配置角度の説明図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る画像生成装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0070】
1.励起光源、2.コリメータレンズ、3.半波長板、5.共振器ミラー、6.レーザ媒質、6S.傾斜面、7.偏光膜、8.反射部、10.波長変換素子、11.共振器ミラー、20.共振器、30.レーザ光源装置、40.照明光学系、51.1次元光変調装置、52.光選択部、53.投射光学部、54.走査素子、55.光変調部、56.走査光学部、57.2次元像、60.画像生成面、61.外部演算部、100.画像生成装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起光源と、一対の共振器ミラーとを有し、
前記共振器ミラーにより構成される共振器内に、レーザ媒質と波長変換素子とを備え、
横マルチモードパターンの光で前記レーザ媒質が励起され、前記レーザ媒質の発振により得られる線状の基本波を前記波長変換素子に照射して線状の変換波を出力する構成とされ、
前記レーザ媒質と前記波長変換素子との間の共振光路に、光路を折り返す反射部が設けられ、
前記レーザ媒質又は波長変換素子の端面がブリュースター角以外の傾斜面とされ、
前記傾斜面に偏光膜が設けられる
ことを特徴とするレーザ光源装置。
【請求項2】
前記レーザ媒質又は波長変換素子として、複屈折性材料が用いられることを特徴とする請求項1記載のレーザ光源装置。
【請求項3】
前記線状の基本波の長手方向が、前記反射部の入射面に対して略垂直に配置されて成ることを特徴とする請求項1記載のレーザ光源装置。
【請求項4】
前記レーザ媒質又は波長変換素子の一方の端面が共振光路と略垂直に加工され、かつ、前記基本波に対する高反射膜が形成されて、前記共振器ミラーとされることを特徴とする請求項1記載のレーザ光源装置。
【請求項5】
レーザ光源装置と、該レーザ光源装置から出射される光を情報に対応して変調する光変調部と、投射光学部とを備え、
前記レーザ光源装置は、励起光源と、一対の共振器ミラーとを有し、前記共振器ミラーにより構成される共振器内にレーザ媒質及び波長変換素子を備え、
横マルチモードパターンの光で前記レーザ媒質が励起され、前記レーザ媒質の発振により得られる線状の基本波を前記波長変換素子に照射して線状の変換波を出力する構成とされ、
前記レーザ媒質と前記波長変換素子との間の共振光路に、光路を折り返す反射部が設けられ、
前記レーザ媒質又は波長変換素子の端面がブリュースター角以外の傾斜面とされ、
前記傾斜面に偏光膜が設けられる
ことを特徴とする画像生成装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−54651(P2009−54651A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−217503(P2007−217503)
【出願日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】