説明

レーザ顕微鏡

【課題】観察対象の標本を動かすことなく、ラマン散乱光検出およびCARS光観察を選択的に行うことができ、煩雑な作業を要することなく、CARS光観察のための振動周波数を効率的に選択できるレーザ顕微鏡を提供する。
【解決手段】レーザ照射光学系(3,4,5,6)により、CARS励起光とラマン散乱励起光とを同軸で標本に照射して、CARS光をCARS光検出手段12で検出し、ラマン散乱光をラマン散乱光検出手段13で検出するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞生物学の分野をはじめとし、医学、薬学、半導体の検査技術等に好適に利用可能なレーザ顕微鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、タンパク質やDNA等の生体分子の機能解明をするための研究等に利用可能な顕微鏡として、これらの分子を非染色で3次元的に観察することが可能な、コヒーレントアンチストークスラマン散乱顕微鏡(以下、CARS顕微鏡と呼ぶ)が知られている。
【0003】
この顕微鏡は、3次の非線形光学過程の1つであるコヒーレントアンチストークスラマン散乱過程(以下、CARS散乱過程と呼ぶ)により発生するコヒーレントアンチストークスラマン散乱光(以下、適宜、CARS光とも呼ぶ)を計測するものである。以下に、図14に示したCARS散乱過程のエネルギーダイアグラムを用いて、CARS光の発生原理を説明する。
【0004】
観察対象である標本内の分子が振動数ωの振動モードを有するものとする。ここに、振動数ωの第1パルスレーザ光と、振動数ωの第2パルスレーザ光とが入射すると、これら2つの入射光が有する振動数の差ω−ωが、標本の振動数ωと一致したときに、基底状態にある分子の多数が振動数ωで共鳴振動を起こして励起状態となる。そして、振動数ωの第1パルスレーザ光の一部が、この分子の固有振動数ωのドップラー変調を受けて、ωASのCARS光が発生する。ここで、上記の各振動数の間には、次の関係が成立する。
ωAS=ω+ω=2ω−ω ・・・(1)
【0005】
このCARS散乱過程を利用するCARS顕微鏡は、蛍光性を有さない分子であっても標本に悪影響を与える染色をする必要が無く、また、自然ラマン散乱顕微鏡と比較するとより少ない励起パワーでより強力な信号を得ることができる。
【0006】
上記のように、CARS散乱過程は、特定の振動数ωを有する振動モードに対応する、波長の異なる2つのコヒーレントアンチストークスラマン散乱励起光(以下、適宜、CARS励起光とも呼ぶ)を用いるものであるから、CARS顕微鏡で標本の観察を行う前には、標本に固有の振動数を知ることが必要となる。この振動数を取得するには、ラマン分析装置を用いて、標本の分子振動情報を取得することが行われている。
【0007】
図15に示したラマン散乱過程のエネルギーダイアグラムを用いて、この分子振動数を取得する方法を説明する。標本にωのラマン散乱励起光を照射すると、標本を構成する分子とラマン散乱励起光との間にエネルギーの授受が生じる。このため、ω−ωの成分を有するラマン散乱光が発生する。よって、入射光と散乱光との周波数の差から分子振動数を得ることができる。
【0008】
通常は標本には多くの分子が含まれ、それぞれの分子が複数の振動モードを有する。したがって、ラマン散乱光を計測した結果は、単一波長のレーザを照射して発生するラマン散乱光を分光器もしくは干渉計を用いて検出する、ラマンスペクトルとして得られる。図16にラマン散乱スペクトルの例を示す。このスペクトルでラマン散乱光強度のピークが得られる振動数は、標本分子の振動数情報を反映していると考えられる。CARS光分析では、このようにして得られた、ピークを有する振動数の中から、計測の対象とする分子振動数ωを決定する。
【0009】
以上のような原理に従ったCARS顕微鏡としては、既にいくつかの開発事例がある。たとえば、波長の異なる2つのCARS励起光を同軸にして顕微鏡対物レンズにより標本上に集光させて、標本を走査することで、標本上における焦点のスポット寸法を最小化して、空間解像度の向上を図るようにしたCARS顕微鏡が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0010】
また、1つのレーザ光源から発せられる光を2分割し、その分割された光の一方を光パラメトリック増幅器により波長変換をするとともに、波長変換されていない光と重ね合わせて単一ビームのCARS散乱励起光とする技術や(たとえば、特許文献2参照)、1波長のパルスレーザ光を、マイクロストラクチャー光学素子により広帯域化し、その帯域内から2波長を選択してCARS散乱励起光とするCARS顕微鏡が知られている(たとえば特許文献3参照)。
【0011】
このように、CARS顕微鏡においては、2波長のレーザ光を同軸上に重ね合わせて、顕微鏡対物レンズにより標本上に集光させている。
【0012】
【特許文献1】特表2002−520612号公報
【特許文献2】特開2002−107301号公報
【特許文献3】米国特許第7092086号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、前述のように、CARS顕微鏡で標本の観察をするためには、標本の分子振動情報をあらかじめ知る必要がある。このため、公知のCARS顕微鏡法では、標本の分子振動情報を得るために、別途用意されたラマン分析装置を用いてラマン散乱光の観察を行っている。この方法では、分子情報を得るためのラマン散乱光の観測とCARS光の観察との間で異なる装置を用い、標本を載せ換えることが必要となる。その結果、1つの標本上の同一観察場所について分子振動情報の取得およびCARS光の観察の両方を行うことは極めて困難であり、標本上の観察場所に応じて高いCARS光が得られる振動数を効率的に選択することが難しかった。適切な振動数の選択ができないと、強いCARS光を計測することができず、十分なコントラストを有する顕微鏡画像が得られない。このため、再度ラマン散乱光の観測を行って振動情報を得る必要が生じ、作業が煩雑で非効率であった。
【0014】
したがって、これらの点に着目してなされた本発明の目的は、観察対象の標本を動かすことなく、ラマン散乱光検出およびCARS光観察を選択的に行うことができ、煩雑な作業を要することなく、CARS光観察のための振動周波数を効率的に選択できるレーザ顕微鏡を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成する請求項1に記載のレーザ顕微鏡の発明は、
コヒーレントアンチストークスラマン散乱励起光とラマン散乱励起光とを同軸で標本に照射可能なレーザ照射光学系と、
前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱励起光の照射により前記標本から発生するコヒーレントアンチストークスラマン散乱光を検出するコヒーレントアンチストークスラマン散乱光検出手段と、
前記ラマン散乱励起光の照射により前記標本から発生するラマン散乱光を検出するラマン散乱光検出手段と、
を有することを特徴とするものである。
【0016】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のレーザ顕微鏡において、
前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱光検出手段と前記ラマン散乱光検出手段とを、前記標本に対し前記レーザ照射光学系からの入射光の透過側に配置したことを特徴とするものである。
【0017】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のレーザ顕微鏡において、
前記標本の透過側に、前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱光と前記ラマン散乱光とを分離して、前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱光を前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱光検出手段に導き、前記ラマン散乱光を前記ラマン散乱光検出手段に導くダイクロイックミラーを配置したことを特徴とするものである。
【0018】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載のレーザ顕微鏡において、
前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱光検出手段を、前記標本に対し前記レーザ照射光学系からの入射光の反射側に配置し、
前記ラマン散乱光検出手段を、前記標本に対し前記レーザ照射光学系からの入射光の透過側に配置したことを特徴とするものである。
【0019】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載のレーザ顕微鏡において、
前記標本の反射側に、前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱励起光および前記ラマン散乱励起光と、前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱光とを分離して、前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱励起光および前記ラマン散乱励起光を前記標本に導き、前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱光を前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱光検出手段に導く、ダイクロイックミラーを配置したことを特徴とするものである。
【0020】
請求項6に記載の発明は、請求項1に記載のレーザ顕微鏡において、
前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱光検出手段を、前記標本に対し前記レーザ照射光学系からの入射光の透過側に配置し、
前記ラマン散乱光検出手段を、前記標本に対し前記レーザ照射光学系からの入射光の反射側に配置したことを特徴とするものである。
【0021】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載のレーザ顕微鏡において、
前記標本の反射側に、前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱励起光および前記ラマン散乱励起光と、前記ラマン散乱光とを分離して、前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱励起光および前記ラマン散乱励起光を前記標本に導き、前記ラマン散乱光を前記ラマン散乱光検出手段に導く、ダイクロイックミラーを配置したことを特徴とするものである。
【0022】
請求項8に記載の発明は、請求項1に記載のレーザ顕微鏡において、
前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱光検出手段と前記ラマン散乱光検出手段とを、前記標本に対し前記レーザ照射光学系からの入射光の反射側に配置したことを特徴とするものである。
【0023】
請求項9に記載の発明は、請求項8に記載のレーザ顕微鏡において、
前記標本の反射側に、前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱光と前記ラマン散乱光とを分離して、前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱光を前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱光検出手段に導き、前記ラマン散乱光を前記ラマン散乱光検出手段に導くダイクロイックミラーを配置したことを特徴とするものである。
【0024】
請求項10に記載の発明は、請求項1〜9のいずれか一項に記載のレーザ顕微鏡において、
前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱光検出手段は、前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱光のみを抽出するバンドパスフィルタを有することを特徴とするものである。
【0025】
請求項11に記載の発明は、請求項1〜10のいずれか一項に記載のレーザ顕微鏡において、
前記ラマン散乱光検出手段は、前記ラマン散乱光のみを抽出するバンドパスフィルタを有することを特徴とするものである。
【0026】
請求項12に記載の発明は、請求項1〜11のいずれか一項に記載のレーザ顕微鏡において、
前記ラマン散乱光検出手段は、前記ラマン散乱光のスペクトルを検出する分光器を有することを特徴とするものである。
【0027】
請求項13に記載の発明は、請求項1〜12のいずれか一項に記載のレーザ顕微鏡において、
前記レーザ光照射光学系に入射する前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱励起光とラマン散乱励起光とを切り替える切替手段と、
該切替手段による切り替えを制御する制御手段とを備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、レーザ照射光学系により、CARS励起光とラマン散乱励起光とを同軸で標本に照射して、CARS光をCARS光検出手段で検出し、ラマン散乱光をラマン散乱光検出手段で検出するようにしたので、観察対象の標本を動かすことなく、ラマン散乱光観察およびCARS光観察を選択的に行うことができ、煩雑な作業を要することなく、CARS光観察のための振動周波数を効率的に選択することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して説明する。
【0030】
[第1実施の形態]
図1は、本発明の第1実施の形態に係るレーザ顕微鏡の概略構成を示す図である。このレーザ顕微鏡は、CARS励起光光源部1とラマン散乱励起光光源部2とを備えている。CARS励起光光源部1は、図2に示すように、波長の異なる第1パルスレーザ光源1aと第2パルスレーザ光源1bとを有し、第1パルスレーザ光源からのレーザ光をハーフミラー1cを透過させて出射させ、第2パルスレーザ光源からのレーザ光は、反射ミラー1dで反射させた後、ハーフミラー1cで反射させて、第1パルスレーザ光源からのレーザ光と同軸に合成して出射させる。これにより、CARS励起光光源部1から、2波長からなるCARS励起光を出射させる。本実施の形態では、第1パルスレーザ光源1aとして波長固定のレーザを使用し、第2パルスレーザ光源1bとして観察対象の標本の分子振動数ωに応じて波長を調整可能なチタンサファイアレーザ等のレーザ等を使用するものとする。
【0031】
また、ラマン散乱励起光光源部2は、図3に示すように単一波長のCW(連続発振)レーザ光を射出するラマン散乱励起レーザ光源2aを有して構成して、ラマン散乱励起光を出射させるようにする。
【0032】
図1において、CARS励起光光源部1から出射されるCARS励起光は、ハーフミラー3を透過させた後、反射ミラー4で反射させ、さらに、2次元走査用のミラー5a,5bを有するガルバノスキャナ5を経てレンズ6により標本面7上の集光位置に集光させるように構成する。とくに、ミラー5a,5bの振り角が0度のときは、この集光位置はレンズ6の焦点位置8と一致する。
【0033】
また、ラマン散乱励起光光源部2から出射されるラマン散乱励起光は、反射ミラー9で反射させた後、ハーフミラー3で反射させて、CARS励起光と同軸に合成して、すなわち、CARS励起光の中心光線とラマン散乱励起光の中心光線とを光軸に一致させて、反射ミラー4およびガルバノスキャナ5を経てレンズ6により標本面7上の集光位置に集光させるように構成する。したがって、本実施の形態では、ハーフミラー3、反射ミラー4、ガルバノスキャナ5およびレンズ6を含んで、レーザ照射光学系を構成している。
【0034】
本実施の形態では、CARS光およびラマン散乱光をそれぞれ透過型で検出する。このため、標本に対し入射光の透過側に、レンズ10、CARS光とラマン散乱光とを分離するダイクロイックミラー11、CARS光検出手段12およびラマン散乱光検出手段13を配置し、標本面7の集光位置から発生するCARS光を、レンズ10を経てダイクロイックミラー11で分離してCARS光検出手段12に導き、標本面7の集光位置から発生するラマン散乱光を、レンズ10を経てダイクロイックミラー11で分離してラマン散乱光検出手段13に導くようにする。
【0035】
ここで、CARS光検出手段12は、バンドパスフィルタ14および検出器15を有し、ダイクロイックミラー11で分離されたCARS光をバンドパスフィルタ14を経て検出器15で検出するように構成する。また、ラマン散乱光検出手段13は、バンドパスフィルタ16および分光器17を有し、ダイクロイックミラー11で分離されたラマン散乱光をバンドパスフィルタ16を経て分光器17で検出するように構成する。
【0036】
以下、ダイクロイックミラー11、バンドパスフィルタ14およびバンドパスフィルタ16の波長特性について図4を参照して説明する。
【0037】
ラマン散乱励起光は、散乱励起用レーザ光源1a,1b,2aから射出するレーザ光の中では最も短波長の単色レーザ光である。このラマン散乱励起光を標本に照射して得られるラマン散乱光のうち本実施の形態で観察対象とするのは、ラマン散乱励起光の波長よりも長波長側に現れるストークス光であって、標本の振動数に基づくスペクトル分布の広がりを有している。
【0038】
一方、本実施の形態では前述のようにCARS励起光光源部1の第1パルスレーザ光源1aは波長固定のレーザ光源であり、第2パルスレーザ光源1bは観察対象の振動数ωに応じて波長を調整することが可能な波長可変のレーザである。また、第1パルスレーザ光源1aの波長、第2パルスレーザ光源1bの波長およびCARS光の波長は前述の(1)式を満たし、CARS光は第1パルスレーザ光源1aの波長よりも短波長側に現れる。
【0039】
したがって、ダイクロイックミラー11は、図4(a)に示すように、CARS光およびCARS励起光を透過し、ラマン散乱光およびラマン散乱励起光を反射する波長特性を有して構成する。また、バンドパスフィルタ14は、図4(b)に示すように、CARS光のみを透過し、バンドパスフィルタ16は図4(c)に示すようにラマン散乱光のみを透過する波長特性を有して構成する。
【0040】
次に、本実施の形態に係る、レーザ顕微鏡を用いるCARS顕微鏡法について説明する。まず、標本のCARS光観察に先立って、標本の分子振動情報を得るためのラマンスペクトルの検出を行う。このラマンスペクトルの検出においては、標本をレーザ顕微鏡の標本ステージにセットした後、ラマン散乱励起光光源部2を動作させてラマン散乱励起光を出射させて、このラマン散乱励起光を、反射ミラー9、ハーフミラー3、反射ミラー4およびガルバノスキャナ5を経てレンズ6により標本面7上の集光位置に集光させる。なお、このラマンスペクトルの検出においては、ガルバノスキャナ5による走査は行わない。
【0041】
ラマン散乱励起光の照射により標本から散乱するラマン散乱光は、レンズ10およびダイクロイックミラー11を経て、バンドパスフィルタ16に入射させ、ここで、標本を透過したラマン散乱励起光を含むノイズ成分を除去してラマン散乱光成分のみを分光器17に入射させて、図16に示したようなラマンスペクトルを検出する。
【0042】
このようにして、ラマンスペクトルを検出したら、このラマンスペクトルから標本の分子振動モードに相当する分子振動数ωを選択して、標本のCARS光観察を行う。CARS光観察においては、標本をラマンスペクトル検出状態から移動させることなく、ラマン散乱励起光光源部2の動作を停止させ、CARS励起光光源部1を動作させて、CARS励起光を出射させる。
【0043】
このCARS励起光は、ハーフミラー3、反射ミラー4およびガルバノスキャナ5を経てレンズ6により標本面7上に集光するとともに、この集光位置をガルバノスキャナ5により標本面7上で2次元走査する。
【0044】
CARS励起光の照射により標本から散乱するCARS光は、レンズ10およびダイクロイックミラー11を経て、バンドパスフィルタ14に入射させ、ここで、標本を透過したCARS励起光を含むノイズ成分を除去してCARS光成分のみを検出器15に入射させて検出する。
【0045】
ここで、本実施の形態に係るCARS顕微鏡は、検出器15で得られるCARS光の信号を演算処理して画像を形成する図示しないコンピュータを備える。CARS励起光光源部1のパルス発振とともに、ガルバノスキャナ5により標本面7上を走査して、このコンピュータ上で各パルス発振に対応する集光位置を画素として演算処理して、標本の2次元画像を形成する。さらに、標本に対するCARS励起光の集光位置を光軸方向に変位させ、異なる深さの面画像を得ることにより、3次元の顕微鏡画像を構成することができる。
【0046】
以上のように、本実施の形態では、標本へのCARS散乱励起光の入射光路と、ラマン散乱励起光の入射光路とを同軸にしたので、CARS顕微鏡観察とラマン散乱光観察とを同一の装置上で、試料を移動することなく選択的に行うことができる。したがって、CARS顕微鏡観察を行おうとする標本位置から得られたラマン散乱により観測した分子振動から効率良く振動数ωを選択して、CARS光観察をすることが可能となる。さらに、本実施の形態では、透過型でCARS光を検出するようにしたので、特に、標本中の分子(分子団)が、CARS励起光の波長オーダよりも大きい場合には、CARS光自身の干渉効果により励起光の照射方向に対して前方のみにCARS光が強く放射されるので、CARS光を有効に観察することができる。
【0047】
[第2実施の形態]
図5は、本発明の第2実施の形態に係るレーザ顕微鏡の概略構成を示す図である。本実施の形態は、第1実施の形態において、CARS光検出手段12を反射側に配置してCARS光を落射型で検出するようにしたものである。
【0048】
このため、本実施の形態では、第1実施の形態のダイクロイックミラー11を取り除くとともに、反射ミラー4に代えてダイクロイックミラー18を配置し、標本面7の集光位置から反射方向に散乱する光を、レンズ6、ガルバノスキャナ5およびダイクロイックミラー18を経てCARS光検出手段12に入射させるように構成する。また、標本面7の集光位置から透過方向に散乱する光を、レンズ10を経てラマン散乱光検出手段13に入射させるように構成する。
【0049】
ここで、バンドパスフィルタ14,16は、第1実施の形態におけるバンドパスフィルタと同じ波長特性を有する。また、ダイクロイックミラー18は、図6に示すように少なくともCARS光を透過し、CARS励起光およびラマン散乱励起光を反射する波長特性を有して構成する。その他の構成は、第1実施の形態と同様であるので、同一構成要素には同一参照符号を付して説明を省略する。
【0050】
本実施の形態に係る、レーザ顕微鏡を用いるCARS顕微鏡法においては、ラマン散乱励起光の標本への照射は、反射ミラー4をダイクロイックミラー18に変更したことを除き、第1実施の形態と同様に行い、また、ラマン散乱光の検出は、散乱光の光路上にダイクロイックミラー11が無いことを除けば、第1実施の形態と同様の動作によってラマンスペクトルを得ることができる。
【0051】
また、CARS励起光は、反射ミラー4がダイクロイックミラー18と入れ替わったことを除き、第1実施の形態と同様の光路を経て、レンズ6により標本面7上に集光するとともに、第1実施の形態と同様にこの集光位置をガルバノスキャナ5により標本面7上で2次元走査する。
【0052】
CARS励起光の照射により標本から反射方向に散乱するCARS光は、レンズ6、ガルバノスキャナ5を経て、ダイクロイックミラー18に入射し、ここで、標本面7で反射されたCARS励起光を分離する。さらに、このダイクロイックミラー18を透過した光は、CARS光検出手段12のバンドパスフィルタ14に入射し、ここでノイズ成分を除去してCARS光成分のみを検出器15に入射させて検出する。
【0053】
本実施の形態においても、第1実施の形態と同様の方法により、図示しないコンピュータにより標本の2次元および3次元のCARS顕微鏡画像を得ることができる。
【0054】
以上のように、本実施の形態では、第1実施の形態と同様に、標本へのCARS散乱励起光の入射光路と、ラマン散乱励起光の入射光路とを同軸にしたので、CARS顕微鏡観察とラマン散乱光観察とを同一の装置上で、試料を移動することなく選択的に行うことができる。したがって、第1実施の形態と同様に、CARS顕微鏡観察を行おうとする標本位置から得られたラマン散乱により観測した分子振動から効率良く振動数ωを選択して、CARS光観察をすることが可能となる。さらに、本実施の形態では、落射型でCARS光を検出するようにしたので、特に、標本中の分子(分子団)がCARS励起光の波長オーダよりも小さい場合には、標本の前方にCARS光とともにより大きなノイズ成分(非共鳴バックグランド)が発生する透過型のCARS光検出手段よりも、CARS光を有効に観察することができる。また、本実施の形態は、標本中の分子(分子団)の大きさがCARS光励起波長オーダよりも大きい試料であって、波長透過率の悪い試料(生体の組織など)のCARS観察をする際にも有効である。
【0055】
[第3実施の形態]
図7は、本発明の第3実施の形態に係るレーザ顕微鏡の概略構成を示す図である。本実施の形態は、第1実施の形態において、ラマン散乱光検出手段13を反射側に配置してラマン散乱光を落射型で検出するようにしたものである。
【0056】
このため、本実施の形態では、第1実施の形態のダイクロイックミラー11を取り除くとともに、反射ミラー4に代えてダイクロイックミラー18を配置し、標本面7の集光位置から透過方向に散乱する光を、レンズ10を経てCARS光検出手段12に入射させるように構成する。また、標本面7の集光位置から反射方向に散乱する光を、レンズ6、ガルバノスキャナ5、ダイクロイックミラー18を経てラマン散乱光検出手段13に入射させるように構成する。
【0057】
ここで、バンドパスフィルタ14,16は、第1実施の形態におけるバンドパスフィルタと同じ波長特性を有する。また、ダイクロイックミラー18は、図6に示すように少なくともラマン散乱光を透過し、CARS励起光およびラマン散乱励起光を反射する波長特性を有して構成する。その他の構成は、第1実施の形態と同様であるので、同一構成要素には同一参照符号を付して説明を省略する。
【0058】
本実施の形態に係る、レーザ顕微鏡を用いるCARS顕微鏡法においては、ラマン散乱励起光の標本への照射は、反射ミラー4をダイクロイックミラー18に変更したことを除き、第1実施の形態と同様に行い、また、ラマン散乱励起光の照射により標本から散乱するラマン散乱光は、レンズ6およびガルバノスキャナ5を経てダイクロイックミラー18に入射し、ここで標本面7で反射されたラマン散乱励起光を分離する。さらにこのダイクロイックミラー18を透過した光は、ラマン散乱光検出手段13のバンドパスフィルタ16に入射し、ここでノイズ成分を除去してラマン散乱光成分のみを分光器17に入射させて検出する。
【0059】
また、CARS励起光は、反射ミラー4がダイクロイックミラー18と入れ替わったのを除き、第1実施の形態と同様の光路を経て、レンズ6により標本面7上に集光するとともに、第1実施の形態と同様にこの集光位置をガルバノスキャナ5により標本面7上で2次元走査する。また、CARS光の検出は、散乱光の光路上にダイクロイックミラー11が無いことを除けば、第1実施の形態と同様の動作によってCARS光を検出することができる。
【0060】
本実施の形態においても、第1実施の形態と同様の方法により、図示しないコンピュータにより標本の2次元および3次元のCARS顕微鏡画像を得ることができる。
【0061】
さらに、本実施の形態においては、後述するように、ガルバノスキャナ5を走査した場合でも、ラマン散乱観察用の分光器17に入射するラマン散乱光の光軸がぶれないため、ラマン散乱光観察とCARS顕微鏡観察とを同時に行うことも可能である。この場合は、CARS励起光光源部1とラマン散乱励起光光源部2とを同時に動作させて、CARS励起光とラマン散乱励起光とを同時に射出する。これらの励起光は、それぞれ上述した単独照射の光路と同じ光路を経て、同時に同軸で標本面7上の集光位置に集光照射する。
【0062】
この場合は、標本面7の反射側に散乱する散乱光は、レンズ6、ガルバノスキャナ5を経てダイクロイックミラー18に入射する。ここで、標本面7で反射されたCARS励起光およびラマン散乱励起光を分離し、CARS光およびラマン散乱光のみが透過する。さらに、このダイクロイックミラー18を透過した光は、バンドパスフィルタ16に入射し、CARS光を含むノイズ成分を除去してラマン散乱光成分のみを分光器17に入射させて検出し、これによってラマンスペクトルが得られる。
【0063】
このとき、分光器17を標本面7から見てガルバノスキャナ5の背面側に配置した、本実施の形態における落射型のラマン散乱検出の装置構成では、ガルバノスキャナ5によりラマン散乱励起光を標本面7上で走査した場合でも、分光器17に入射するラマン散乱光の光軸を一定に保つ位置(デスキャン位置)に置くことが可能である。したがって、光軸のずれによる分光器17の分光特性の劣化が生じることはない。
【0064】
一方、標本面7の透過側に散乱する散乱光は、レンズ10を経てバンドパスフィルタ14に入射する。ここで、CARS励起光、ラマン散乱励起光およびラマン散乱光を含むノイズ成分を除去して、CARS光のみを検出器15に入射させて検出する。これにより得られたCARS光を処理することにより、上述のラマンスペクトルと同時に観察したCARS顕微鏡画像が得られる。
【0065】
以上のように、本実施の形態では、第1および第2実施の形態と同様に、標本へのCARS散乱励起光の入射光路と、ラマン散乱励起光の入射光路とを同軸にしたので、CARS顕微鏡観察とラマン散乱光観察とを同一の装置上で、試料を移動することなく選択的に行うことができる。したがって、第1および第2実施の形態と同様に、CARS顕微鏡観察を行おうとする標本位置から得られたラマン散乱により観測した分子振動から効率良く振動数ωを選択して、CARS光観察をすることが可能となる。さらに、本実施の形態では、透過型でCARS光を検出するようにしたので、特に、標本中の分子(分子団)が、CARS励起光の波長オーダよりも大きい場合には、第1実施の形態でも述べたようにCARS光を有効に観察することができる。また、試料をCARS励起光で走査しながらラマン散乱光のスペクトルを検出することができるので、CARS光観察中に標本の分子振動周波数の変更に迅速に対応できる。
【0066】
[第4実施の形態]
図8は、本発明の第4実施の形態に係るレーザ顕微鏡の概略構成を示す図である。本実施の形態は、第1実施の形態において、CARS光検出手段12およびラマン散乱光検出手段13を反射側に配置してCARS光およびラマン散乱光を落射型で検出するようにしたものである。
【0067】
このため、本実施の形態では、第1実施の形態のダイクロイックミラー11およびレンズ10を取り除くとともに、反射ミラー4に代えてダイクロイックミラー18を配置し、標本面7の集光位置から反射方向に散乱する光を、レンズ6、ガルバノスキャナ5およびダイクロイックミラー18を経由してダイクロイックミラー19に入射させ、このダイクロイックミラー19でCARS光成分とラマン散乱光成分とを分離し、CARS光成分をCARS光検出手段12に入射させ、また、ラマン散乱光成分をラマン散乱光検出手段13に入射させるように構成する。
【0068】
さらに、CARS光検出手段12は、入射したCARS光成分を、バンドパスフィルタ14を経由して検出器15に入射させ、ラマン散乱光検出手段13は、ラマン散乱光成分を、バンドパスフィルタ16を経由して分光器17に入射させるように構成する。
【0069】
ここで、バンドパスフィルタ14,16は、第1実施の形態におけるバンドパスフィルタと同じ波長特性を有し、また、ダイクロイックミラー18は、図6に示すように、CARS光およびラマン散乱光を透過し、CARS励起光およびラマン散乱励起光を反射する波長特性を有して構成する。また、ダイクロイックミラー19は、図9に示すようにCARS光およびCARS励起光を反射し、ラマン散乱光およびラマン散乱励起光を透過する波長特性を有して構成する。その他の構成は、第1実施の形態と同様であるので、同一構成要素には同一参照符号を付して説明を省略する。
【0070】
本実施の形態に係る、レーザ顕微鏡を用いるCARS顕微鏡法においては、ラマン散乱励起光の標本への照射は、反射ミラー4をダイクロイックミラー18に変更したことを除き、第1実施の形態と同様に行い、また、ラマン散乱励起光の照射により標本から散乱するラマン散乱光は、レンズ6およびガルバノスキャナ5を経てダイクロイックミラー18に入射し、ここで標本面7で反射されたラマン散乱励起光を分離する。さらにこのダイクロイックミラー18を透過した光は、ダイクロイックミラー19を経て、ラマン散乱光検出手段13のバンドパスフィルタ16に入射し、ここでノイズ成分を除去してラマン散乱光成分のみを分光器17に入射させて検出する。
【0071】
また、CARS励起光は、反射ミラー4がダイクロイックミラー18と入れ替わったことを除き、第1実施の形態と同様の光路を経て、レンズ6により標本面7上に集光するとともに、第1実施の形態と同様にこの集光位置をガルバノスキャナ5により標本面7上で2次元走査する。
【0072】
CARS励起光の照射により標本から反射方向に散乱するCARS光は、レンズ6、ガルバノスキャナ5を経て、ダイクロイックミラー18に入射し、ここで、標本面7で反射されたCARS励起光を分離する。さらに、このダイクロイックミラー18を透過した光は、ダイクロイックミラー19を経て、CARS光検出手段12のバンドパスフィルタ14に入射し、ここでノイズ成分を除去してCARS光成分のみを検出器15に入射させて検出する。
【0073】
本実施の形態においても、第1実施の形態と同様の方法により、図示しないコンピュータにより標本の2次元および3次元のCARS顕微鏡画像を得ることができる。
【0074】
さらに、本実施の形態では、第3実施の形態と同様に、ラマン散乱光観察とCARS光観察とを同時に行うことが可能である。この場合も、第3実施の形態と同様に、CARS励起光光源部1とラマン散乱励起光光源部2とを同時に動作させて、同時に同軸で標本面7上の集光位置に集光照射する。
【0075】
標本面7の反射側に散乱する散乱光は、レンズ6、ガルバノスキャナ5を経てダイクロイックミラー18に入射する。ここで、標本面7で反射されたCARS励起光およびラマン散乱励起光を分離し、CARS光およびラマン散乱光のみが透過する。このダイクロイックミラー18を透過した光は、ダイクロイックミラー19に入射し、CARS光成分とラマン散乱光成分とに分離する。さらに、このCARS光成分はバンドパスフィルタ14に入射し、ノイズ成分を除去して検出器15に入射させて検出する。また、ラマン散乱光成分は、バンドパスフィルタ16に入射し、CARS光を含むノイズ成分を除去してラマン散乱光成分のみを分光器17に入射させて検出し、ラマンスペクトルが得られる。
【0076】
これによって、第3実施の形態と同様に、本実施の形態においても、分光器17を標本面7から見てガルバノスキャナ5の背面側に配置した構成により、光軸のずれによる分光器17の分光特性の劣化を生じることなく、CARS光の検出によるCARS顕微鏡観察とラマンスペクトルの観察とを同時に行うことができる。
【0077】
以上のように、本実施の形態では、第1、第2および第3実施の形態と同様に、標本へのCARS散乱励起光の入射光路と、ラマン散乱励起光の入射光路とを同軸にしたので、CARS顕微鏡観察とラマン散乱光観察とを同一の装置上で、試料を移動することなく選択的に行うことができる。したがって、第1および第2実施の形態と同様に、CARS顕微鏡観察を行おうとする標本位置から得られたラマン散乱により観測した分子振動から効率良く振動数ωを選択して、CARS光観察をすることが可能となる。さらに、本実施の形態では、落射型でCARS光を検出するようにしたので、特に、標本中の分子(分子団)がCARS励起光の波長オーダよりも小さい場合には、第2実施の形態と同様に、透過型のCARS光検出手段よりも、CARS光を有効に観察することができる。また、本実施の形態は、標本中の分子(分子団)の大きさがCARS光励起波長オーダよりも大きい試料であって、波長透過率の悪い試料(生体の組織など)のCARS観察をする際にも有効である。さらに、試料をCARS励起光で走査しながらラマン散乱光のスペクトルを検出することができるので、CARS光観察中に標本の分子振動周波数の変更に迅速に対応できる。
【0078】
[第5実施の形態]
次に本発明の第5実施の形態について説明する。本実施の形態では、図10に示すように観察するラマン散乱光とCARS光との波長に重なりがある場合を想定する。すなわち、本レーザ顕微鏡では、標本の分子振動に応じて図2に示した第2パルスレーザー光源1bから出射するレーザ光の波長を変化させるようにしているので、観察対象とする分子振動数によっては、ラマン散乱によるラマンスペクトルと重なりを生じる場合がある。このような場合、たとえば、バンドパスフィルタ14,16の波長特性を図11(a),(b)に示すように設定すると、CARS光とラマン散乱光とを完全に分離することができないことになる。本実施の形態では、このような場合でもCARS光とラマン散乱光とを完全に分離できるレーザ顕微鏡を提供する。
【0079】
図12は、本発明の第5実施の形態に係るレーザ顕微鏡の概略構成を示す図である。本実施の形態は、上述の第3実施の形態において、CARS励起光とラマン散乱励起光とを切り替えて標本に入射させるように構成するとともに、これらCARS励起光とラマン散乱励起光との切り替えに同期して、検出器15によるCARS光の検出および分光器17によるラマン散乱光の検出を制御する。
【0080】
具体的には、図7の第3実施の形態に示す構成に加えて、CARS励起光光源部1とハーフミラー3との間と、ラマン散乱励起光光源部2と反射ミラー9との間とに、それぞれレーザ切替手段20、21を設け、制御手段22によりレーザ光の透過、遮光を切り替えられるように構成する。また、検出器15および分光器17は制御手段22により検出機能の開始、停止を制御する。その他の構成は、第1実施の形態と同様であるので、同一構成要素には同一参照符号を付して説明を省略する。
【0081】
次に、本実施の形態の動作を、図13に示すタイムチャートを参照して説明する。本実施の形態では、制御手段22でレーザ切替手段20、21を交互に切り替え、CARS励起光とラマン散乱励起光とを時間的に重複することなく交互に射出する。これらの励起光はそれぞれ第3実施の形態で説明した光路を経て、レンズ6により標本面7上に集光するとともに、集光位置をガルバノスキャナ5により標本面7上で2次元走査する。
【0082】
CARS励起光が射出しているときは、標本面7の透過側に散乱するCARS光は、第3実施の形態と同様にして検出器15に入射させて検出する。一方、反射側に散乱する散乱光は、レンズ6、ガルバノスキャナ5、ダイクロイックミラー18およびバンドパスフィルタ16を経て分光器17に入射するが、この状態では、分光器17は制御手段22により検出停止状態となっているため、CARS光は検出されない。
【0083】
他方、ラマン散乱励起光が射出しているときは、標本面7の透過側に散乱するラマン散乱光は、レンズ10およびバンドパスフィルタ14を経て検出器15に入射するが、検出器15は制御手段22によって検出停止状態となっているため、ラマン散乱光は検出されない。これに対し、反射側に散乱するラマン散乱光は、レンズ6、ガルバノスキャナ5、ダイクロイックミラー18およびバンドパスフィルタ16を経て分光器17に入射して検出される。
【0084】
本実施の形態では、このような動作方法によって、観察するラマン散乱光とCARS光との波長に重なりがある場合であっても、CARS光検出とラマン散乱光検出とを時間的に分離したので、相互に影響を与えることなくCARS顕微鏡観察とラマン散乱観察とができるという点で優位である。
【0085】
なお、本発明は、上記実施の形態にのみ限定されるものではなく、幾多の変形または変更が可能である。たとえば、CARS励起光光源部では第2パルスレーザのみでなく第1パルスレーザーも波長可変のレーザとしても良い。また、CARS励起光光源部は2台のレーザを用いる場合に限らず、1台のレーザを光源として、ビームスプリッタ等で分離したビームの一つに波長変換を行うことで波長の異なる2本のレーザ光を得ることも可能である。さらには、各散乱励起用の光源は、レーザ顕微鏡本体内に設ける必要は無く、本体とは別体に設けてレーザ光を導入するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の第1実施の形態に係るレーザ顕微鏡を示す概略構成図である。
【図2】図1に示すCARS散乱励起光光源部の概略構成図である。
【図3】図1に示すラマン散乱励起光光源部の概略構成図である。
【図4】図1に示すダイクロイックミラーおよびバンドパスフィルタの波長特性を説明する模式図である。
【図5】本発明の第2実施の形態に係るレーザ顕微鏡を示す概略構成図である。
【図6】図5に示すダイクロイックミラーの波長特性を説明する模式図である。
【図7】本発明の第3実施の形態に係るレーザ顕微鏡を示す概略構成図である。
【図8】本発明の第4実施の形態に係るレーザ顕微鏡を示す概略構成図である。
【図9】図8に示すダイクロイックミラーの波長特性を説明する模式図である。
【図10】本発明の第5実施の形態におけるラマン散乱光とCARS光との波長の重なりを説明する模式図である。
【図11】本発明の第5実施の形態に用いられるバンドパスフィルタの波長特性を説明する模式図である。
【図12】本発明の第5実施の形態に係るレーザ顕微鏡を示す概略構成図である。
【図13】図5に示すレーザ切替手段、検出器および分光器の切り替え動作を示すタイムチャートである。
【図14】コヒーレントアンチストークスラマン散乱過程のエネルギーダイアグラムである。
【図15】ラマン散乱過程のエネルギーダイアグラムである。
【図16】ラマン散乱スペクトルの例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0087】
1 CARS励起光光源部
1a 第1パルスレーザ光源
1b 第2パルスレーザ光源
1c ハーフミラー
1d ミラー
2 ラマン散乱励起光光源部
2a ラマン散乱励起レーザ光源
3 ハーフミラー
4 ミラー
5 ガルバノスキャナ
5a ミラー
5b ミラー
6 レンズ
7 標本面
8 焦点位置
9 ミラー
10 レンズ
11 ダイクロイックミラー
12 CARS光検出手段
13 ラマン散乱光検出手段
14 バンドパスフィルタ
15 検出器(ディテクタ)
16 バンドパスフィルタ
17 分光器
18 ダイクロイックミラー
19 ダイクロイックミラー
20 レーザ切替手段
21 レーザ切替手段
22 制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コヒーレントアンチストークスラマン散乱励起光とラマン散乱励起光とを同軸で標本に照射可能なレーザ照射光学系と、
前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱励起光の照射により前記標本から発生するコヒーレントアンチストークスラマン散乱光を検出するコヒーレントアンチストークスラマン散乱光検出手段と、
前記ラマン散乱励起光の照射により前記標本から発生するラマン散乱光を検出するラマン散乱光検出手段と、
を有することを特徴とするレーザ顕微鏡
【請求項2】
前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱光検出手段と前記ラマン散乱光検出手段とを、前記標本に対し前記レーザ照射光学系からの入射光の透過側に配置したことを特徴とする請求項1に記載のレーザ顕微鏡。
【請求項3】
前記標本の透過側に、前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱光と前記ラマン散乱光とを分離して、前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱光を前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱光検出手段に導き、前記ラマン散乱光を前記ラマン散乱光検出手段に導くダイクロイックミラーを配置したことを特徴とする請求項2に記載のレーザ顕微鏡。
【請求項4】
前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱光検出手段を、前記標本に対し前記レーザ照射光学系からの入射光の反射側に配置し、
前記ラマン散乱光検出手段を、前記標本に対し前記レーザ照射光学系からの入射光の透過側に配置したことを特徴とする請求項1に記載のレーザ顕微鏡。
【請求項5】
前記標本の反射側に、前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱励起光および前記ラマン散乱励起光と、前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱光とを分離して、前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱励起光および前記ラマン散乱励起光を前記標本に導き、前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱光を前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱光検出手段に導く、ダイクロイックミラーを配置したことを特徴とする請求項4に記載のレーザ顕微鏡。
【請求項6】
前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱光検出手段を、前記標本に対し前記レーザ照射光学系からの入射光の透過側に配置し、
前記ラマン散乱光検出手段を、前記標本に対し前記レーザ照射光学系からの入射光の反射側に配置したことを特徴とする請求項1に記載のレーザ顕微鏡。
【請求項7】
前記標本の反射側に、前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱励起光および前記ラマン散乱励起光と、前記ラマン散乱光とを分離して、前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱励起光および前記ラマン散乱励起光を前記標本に導き、前記ラマン散乱光を前記ラマン散乱光検出手段に導く、ダイクロイックミラーを配置したことを特徴とする請求項6に記載のレーザ顕微鏡。
【請求項8】
前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱光検出手段と前記ラマン散乱光検出手段とを、前記標本に対し前記レーザ照射光学系からの入射光の反射側に配置したことを特徴とする請求項1に記載のレーザ顕微鏡。
【請求項9】
前記標本の反射側に、前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱光と前記ラマン散乱光とを分離して、前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱光を前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱光検出手段に導き、前記ラマン散乱光を前記ラマン散乱光検出手段に導くダイクロイックミラーを配置したことを特徴とする請求項8に記載のレーザ顕微鏡。
【請求項10】
前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱光検出手段は、前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱光のみを抽出するバンドパスフィルタを有することを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のレーザ顕微鏡。
【請求項11】
前記ラマン散乱光検出手段は、前記ラマン散乱光のみを抽出するバンドパスフィルタを有することを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載のレーザ顕微鏡。
【請求項12】
前記ラマン散乱光検出手段は、前記ラマン散乱光のスペクトルを検出する分光器を有することを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載のレーザ顕微鏡。
【請求項13】
前記レーザ光照射光学系に入射する前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱励起光とラマン散乱励起光とを切り替える切替手段と、
該切替手段による切り替えを制御する制御手段とを備えることを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載のレーザ顕微鏡。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−47435(P2009−47435A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−210881(P2007−210881)
【出願日】平成19年8月13日(2007.8.13)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】