説明

ワイヤソースラリ廃液の処理方法及び装置

【課題】固定砥粒式ワイヤソーのスラリ廃液からクーラントを効果的に分離できるようにする。
【解決手段】固定砥粒式ワイヤソーのスラリ廃液を分離装置に供給してクーラントを分離するスラリ廃液処理装置であって、貯留槽10から分離装置6に供給するスラリ廃液3aの温度を検出する温度計25又は粘度を検出する粘度計26と、温度計25又は粘度計26の検出値に基づいて、分離装置6に供給するスラリ廃液3aの粘度が最低粘度を保持するように貯留槽10のスラリ廃液3aの温度を設定温度に調節する温度調節装置23とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定砥粒付きワイヤにクーラントを供給してワークをスライスしたスラリ廃液からクーラントを効果的に分離するようにしたワイヤソースラリの処理方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶系太陽電池の製造には、単結晶或いは多結晶のシリコンインゴットをスライスして薄いウェーハを形成するスライス工程が存在しており、このようなスライス工程には、従来より、クーラントに砥粒を分散した切削液を、走行するワイヤ列に供給しつつ、ワイヤ列をワークに押し付けることによりワークの切削(切断)を行うようにした遊離砥粒式ワイヤソーが用いられている。従って、上記遊離砥粒式ワイヤソーから排出されるスラリ廃液には、クーラントと、砥粒と、切削により生じた微細なシリコン粒子とが混在している。
【0003】
上記遊離砥粒式ワイヤソーにおいて、使用済みのスラリ廃液をそのまま繰り返し使用すると、砥粒と共に切削されたシリコン粒子がワイヤに供給されるために、シリコン粒子がワイヤと砥粒との間に介在してワークの切断を邪魔することにより、ワークの切断性能が低下し、切削精度も低下するようになる。
【0004】
このため、従来では、スラリ廃液をそのまま廃棄処理することが行われていたが、このように廃棄処理した場合には多大のコストが掛ると共に環境を汚染するという問題があった。従って、近年では、スラリ廃液にアルカリ溶液を添加するとともに加熱を行うことにより、スラリ廃液から濾過によりクーラントを回収し、このように回収したクーラントを再利用することが検討されている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
上記遊離砥粒式ワイヤソーに用いられるクーラントは、砥粒を均一に混合してワイヤに供給する役目を有することから、従来より比較的粘度が高く砥粒の分散性に優れた鉱油をベースとしたクーラントが主に用いられており、しかも、遊離砥粒式ワイヤソーから排出されるスラリ廃液には、前記砥粒と微細なシリコン粒子等の固体粒子が高い濃度で混合しているために、更に高い粘度となっている。
【0006】
このように、従来の遊離砥粒式ワイヤソーからのスラリ廃液は、粘度が比較的高いために、前記スラリ廃液を分離装置に導いてクーラントと固体粒子(砥粒、シリコン粒子)に分離しようとしても効果的に分離することが困難であった。このため、前記特許文献1では、濾過機に導くスラリ廃液を加熱して粘度を低下させることで、濾過性能を高めるようにしている。尚、スラリ廃液からクーラントを分離するための分離装置としては、膜濾過機を用いる方法、振動濾過機を用いる方法、遠心分離機を用いる方法、加熱蒸発により分離する方法等が提案されている。
【0007】
上記したように、スラリ廃液からクーラントを分離して再利用し、又、砥粒を分離して再利用すると、クーラント及び砥粒の使用量が減少して経済性を高められると共に、廃棄物の減容化を図れる利点がある。
【0008】
一方、近年では、鋼製ワイヤの外周面にダイヤモンド砥粒が固定された固定砥粒付きワイヤを用いてワークのスライス等を行うようにした固定砥粒式ワイヤソーが用いられている(例えば特許文献2、3参照)。
【0009】
上記固定砥粒式ワイヤソーのクーラントには、プロピレングリコール(PG)、ジエチレングリコール(DEG)、ポリエチレングリコール(PEG)等のグリコール類を基材として用いたものがある。
【0010】
上記固定砥粒式ワイヤソーでは、従来の遊離砥粒式ワイヤソーに比して約3〜4倍の高速での切削が可能であり、しかも固定砥粒式ワイヤソーではクーラントに砥粒を分散させる必要がないことから、クーラントは、30℃前後の運転温度域において所定の切削性が得られるように従来のクーラントに比して低い切削粘度に設定している。一方、固定砥粒式ワイヤソーのクーラントは、粘度が低くなり過ぎると切削性が低下するという問題がある。このため、固定砥粒式ワイヤソーのクーラントは、30℃前後の運転温度域のときに最も粘度が低く、温度が運転温度域よりも低い場合及び運転温度域よりも高い場合には、粘度が増加して切削性が維持されるように添加剤等を添加することによって粘度を調整している。
【0011】
上記固定砥粒式ワイヤソーにおいても、切削を行ったスラリ廃液をそのまま繰り返し使用すると、切削したシリコン粒子が再び固定砥粒付きワイヤに供給されてワークの切断を邪魔するために、ワークの切断性能が低下し、切削精度も低下するようになる。
【0012】
従って、固定砥粒式ワイヤソーにおいても、スラリ廃液をクーラントと固体粒子に分離することが好ましいが、固定砥粒式ワイヤソーの場合にはスラリ廃液に砥粒が分散していないために、スラリ廃液からシリコン粒子を分離するのみでクーラントを回収することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2005−349507号公報
【特許文献2】特開2002−144229号公報
【特許文献3】特開2010−029998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、前記固定砥粒式ワイヤソーでスライス作業を行ったスラリ廃液は、遠心分離機及び振動濾過機等の分離装置に導いてクーラントの回収等を行う際の30℃前後の運転温度域のときに最も粘度が低く、温度が上記運転温度域よりも低い場合及び上記運転温度域よりも高い場合には、粘度が増加するという特異な性質を有しているため、スラリ廃液からクーラントを分離する際の分離性を高めようとして前記特許文献1に示すようにスラリ廃液を加熱した場合には、粘度が上昇することになって分離性能が逆に低下するという問題がある。
【0015】
本発明は、上記実情に鑑みてなしたもので、固定砥粒式ワイヤソーのスラリ廃液からクーラントを効果的に分離するようにしたワイヤソースラリ廃液の処理方法及び装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、固定砥粒式ワイヤソーのスラリ廃液を分離装置に供給してクーラントを分離するスラリ廃液処理方法であって、貯留槽から分離装置に供給するスラリ廃液の温度または粘度を検出し、該スラリ廃液の温度または粘度に基づいて、分離装置に供給するスラリ廃液の粘度が最低粘度に保持されるようにスラリ廃液の温度を設定温度に調節することを特徴とするワイヤソースラリ廃液の処理方法、に係るものである。
【0017】
上記ワイヤソースラリ廃液の処理方法において、前記分離装置によりスラリ廃液からクーラントが分離されて固体粒子が濃縮された濃縮液を前記貯留槽に循環することは好ましい。
【0018】
又、上記ワイヤソースラリ廃液の処理方法において、前記分離装置に供給するスラリ廃液の設定温度を27〜50℃としたことは好ましい。
【0019】
又、上記ワイヤソースラリ廃液の処理方法において、前記分離装置に供給するスラリ廃液の温度を前記設定温度に保持すると共に、スラリ廃液に振動を与えることは好ましい。
【0020】
本発明は、固定砥粒式ワイヤソーのスラリ廃液を分離装置に供給してクーラントを分離するスラリ廃液処理装置であって、貯留槽から分離装置に供給するスラリ廃液の温度を検出する温度計又は粘度を検出する粘度計と、該温度計又は粘度計の検出値に基づいて、分離装置に供給するスラリ廃液の粘度が最低粘度を保持するように貯留槽のスラリ廃液の温度を設定温度に調節する温度調節装置とを備えたことを特徴とするワイヤソースラリの処理装置、に係るものである。
【0021】
又、上記ワイヤソースラリ廃液の処理装置において、前記温度調節装置が加熱器又は冷却器であることは好ましい。
【0022】
又、上記ワイヤソースラリ廃液の処理装置において、前記分離装置がスラリ廃液からクーラントを分離する濾過機であり、該濾過機でクーラントが分離されて固体粒子が濃縮された濃縮液を前記貯留槽に戻す循環流路を有することは好ましい。
【0023】
又、上記ワイヤソースラリ廃液の処理装置において、前記濾過機が膜濾過機であることは好ましい。
【0024】
又、上記ワイヤソースラリ廃液の処理装置において、前記濾過機が振動濾過機であることは好ましい。
【0025】
又、上記ワイヤソースラリ廃液の処理装置において、前記貯留槽に導くスラリ廃液から固体粒子を分離する前段の遠心分離機を備えたことは好ましい。
【0026】
又、上記ワイヤソースラリ廃液の処理装置において、前記貯留槽のスラリ廃液の一部を取り出して固体粒子を分離する後段の遠心分離機を備えたことは好ましい。
【0027】
又、上記ワイヤソースラリ廃液の処理装置において、前記温度調節装置に加えて、分離装置に導入するスラリ廃液に振動を与える振動付加装置を備えたことは好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明のワイヤソースラリ廃液の処理方法及び装置によれば、分離装置に供給するスラリ廃液の温度または粘度を検出し、スラリ廃液の検出温度または検出粘度に基づき、分離装置に供給するスラリ廃液の粘度が最低粘度に保持されるようにスラリ廃液の温度を設定温度に調節するようにしたので、分離装置に供給されるスラリ廃液の粘度が常に最低粘度に保持され、よって、分離装置によるスラリ廃液の分離性が高められクーラントを効果的に分離できるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明におけるワイヤソースラリ廃液の処理装置の全体構成の一例を示すブロック図である。
【図2】分離装置として膜濾過機を備えた場合の一例を示すブロック図である。
【図3】分離装置として振動濾過機を備えた場合の一例を示すブロック図である。
【図4】従来の遊離砥粒式ワイヤソーからのスラリ廃液の温度と粘度との関係を示すグラフである。
【図5】本発明の固定砥粒式ワイヤソーからのスラリ廃液の温度と粘度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0031】
図1は、本発明におけるワイヤソースラリの処理装置の全体構成の一例を示すブロック図である。図1中、1は固定砥粒式ワイヤソーであり、固定砥粒式ワイヤソー1にはクーラント2が供給されて図示しない固定砥粒付きワイヤによりワークをスライスしており、従って、前記固定砥粒式ワイヤソー1からはワークの切削による微細なシリコン粒子がクーラントに混入した状態のスラリ廃液3が排出されており、このスラリ廃液3は受けタンク4に貯留される。
【0032】
前記受けタンク4のスラリ廃液3は、ポンプPにより貯留槽5に供給されて貯留されており、貯留槽5のスラリ廃液3はポンプPにより分離装置6である前段の遠心分離機7に供給されて粗粒の固体粒子8aが分離され、粗粒の固体粒子8aが分離されたスラリ廃液3aは、受けタンク9に貯留される。
【0033】
前記受けタンク9のスラリ廃液3aはポンプPにより貯留槽10に供給されて貯留される。このとき、貯留槽10に供給される粗粒の固体粒子8aが分離されたスラリ廃液3aの一部を、前記固定砥粒式ワイヤソー1にクーラント2を供給している調整タンク12に、バルブ11a,11bにより供給して再利用するようにしてもよい。調整タンク12には新クーラント及び調整剤が供給されている。
【0034】
前記貯留槽10のスラリ廃液3aはポンプPにより分離装置6である濾過機13に供給してクーラント2aを分離しており、分離したクーラント2aは前記調整タンク12に供給して再利用するようにしている。前記濾過機13でクーラント2aが分離されて固体粒子の濃度が高められた濃縮液3bは、循環流路14により再び前記貯留槽10に戻される。
【0035】
貯留槽10の濃縮液3bの一部はポンプPにより貯留槽15に取り出されて貯留され、続いて貯留槽15の濃縮液3bは、ポンプPにより分離装置6である後段の遠心分離機16に供給されて細粒の固体粒子8bが分離され、細粒の固体粒子8bが分離された回収液3cは、受けタンク17に貯留され、受けタンク17の回収液3cは、ポンプPにより前記貯留槽10に再度循環するようにしている。
【0036】
図2は前記分離装置6である濾過機13として膜濾過機13aを備えた場合の一例を示すブロック図である。膜濾過機13aは、容器18の内部中心に膜19を吊下げて備えており、前記貯留槽10のスラリ廃液3aがポンプ20(P)によって容器18下部に設けた下部入口21から導入されており、スラリ廃液3aに含まれる固体粒子(シリコン粒子)は前記膜19に捕捉され、クーラント2aは膜19を通り抜けて中心部から上部へ取り出されて前記調整タンク12に送られるようになっている。前記ポンプ20は所定圧力でスラリ廃液3aを吐出させる圧力調節器20aを備えている。又、膜19を通り抜けられない固体粒子を含んだクーラントからなる濃縮液3bは上部出口22から循環流路14により前記貯留槽10へ再循環されるようになっている。上記膜濾過機13aでは所定の期間の濾過を行った後、膜19の逆洗を行うようにしており、このときの膜19に捕捉された固体粒子は外部へ取り出すようにしている。
【0037】
本発明者らは、固定砥粒式ワイヤソー1から排出されるスラリ廃液3から分離装置6によってクーラントと固体粒子に分離する際の分離に影響を及ぼす、スラリ廃液3の粘度を調査する以下の試験を実施した。
【0038】
先ず、従来の遊離砥粒式ワイヤソー(例えば特許文献1)に用いられたクーラントからなるスラリ廃液を加熱した際のスラリ廃液の温度と粘度の関係を調査する試験を実施し、その結果を図4に示した。図4に示すように遊離砥粒式ワイヤソーからのスラリ廃液の場合には、温度が上昇すると粘度は低下し、温度の上昇によってスラリ廃液の流動性が高まることが判明した。従って、遊離砥粒式ワイヤソーからのスラリ廃液の場合には、スラリ廃液を加熱することは分離装置による分離性を高める上で好ましいことが判明した。
【0039】
一方、図1の固定砥粒式ワイヤソー1に用いられているクーラントの場合のスラリ廃液3について、該スラリ廃液3を加熱した際の温度と粘度の関係を調査する試験を実施し、その結果を図5に示した。図5に示すように、スラリ廃液3、スラリ廃液3a、濃縮液3b、回収液3cの温度を上昇させていくと、粘度は徐々に低下して最低粘度を示した後、再び粘度が増加するという特異な性質を示すことが判明した。即ち、図5からはスラリ廃液3の温度を27〜50℃の設定温度Xの範囲に設定することにより、スラリ廃液3の粘度を約40mp・sの最低粘度に保持できることが判明した。
【0040】
又、前記固定砥粒式ワイヤソー1に用いられているクーラントからなるスラリ廃液3の場合には、スラリ廃液3を静止した状態にしておくと直ちに粘度が増加して固化した如き状態を呈し、又、スラリ廃液3に振動を与えると直ちに液化した如き状態を呈して粘度が急激に低下する性質を示すことが判明した。
【0041】
図2では、前記貯留槽10からのスラリ廃液3aを膜濾過機13aで分離する際の分離性能を高めるために、前記貯留槽10に、スラリ廃液3aの温度を調節するための温度調節装置23を備えている。固定砥粒式ワイヤソー1ではワークをスライスするために、スラリ廃液3aの温度は徐々に上昇する傾向を示す。又、前記ポンプ20によりスラリ廃液3aが膜濾過機13aに供給されてクーラント2aが分離され、残りの濃縮液3bが循環流路14により前記貯留槽10へ再循環される際にも加熱されてスラリ廃液3aの温度は上昇される。このように、前記スラリ廃液3aの温度が上昇することによって、粘度が図5に示す最低粘度よりも大きくならないように、スラリ廃液3aの温度を27〜50℃の設定温度Xの範囲に調節しておくために、前記温度調節装置23には冷却器23aを用いている。又、気温の低下等によりスラリ廃液3aの温度が図5に示す設定温度Xの下限(27℃)を超えて低下しないように加熱器を備えるようにしてもよい。
【0042】
又、前記貯留槽10には、貯留されるスラリ廃液3aを常時撹拌して振動を与えておくことによりスラリ廃液3aの粘度を常に小さい値に保持するようにした撹拌装置24を備えている。
【0043】
更に、前記ポンプ20の出口には、膜濾過機13aに供給されるスラリ廃液3aの温度を検出する温度計25、又は粘度を検出する粘度計26の少なくとも一方が設けてあり、且つ温度計25又は粘度計26の検出値を入力する制御装置27が設けてあり、制御装置27は、膜濾過機13aに供給するスラリ廃液3aの粘度が最低粘度に保持されるように、前記貯留槽10のスラリ廃液3aの温度を、図5に示す27〜50℃の設定温度Xの範囲に保持するよう前記温度調節装置23を制御している。又、上記制御装置27は、貯留槽10のスラリ廃液3aを膜濾過機13aに供給している間は、前記撹拌装置24に駆動指令を送って駆動することによりスラリ廃液3aに振動を与え、これによりスラリ廃液3aの粘度が上昇する問題を防止している。
【0044】
以下に、上記形態の作用を説明する。
【0045】
図1の固定砥粒式ワイヤソー1にはクーラント2が供給されて図示しない固定砥粒付きワイヤによるワークのスライスが行われており、固定砥粒式ワイヤソー1からは、切削による微細なシリコン粒子がクーラント2に混入したスラリ廃液3が排出され、このスラリ廃液3は受けタンク4に貯留される。
【0046】
前記受けタンク4のスラリ廃液3は、貯留槽5に供給されて貯留され、貯留槽5のスラリ廃液3は前段の遠心分離機7に供給されて粗粒の固体粒子8aが分離される。この時、遠心分離機7による粗粒の固体粒子8aの分離は効果的に行うことができる。
【0047】
粗粒の固体粒子8aが分離されたスラリ廃液3aは、受けタンク9に貯留された後、貯留槽10に貯留され、該貯留槽10のスラリ廃液3aは図2に示すポンプ20により膜濾過機13aに供給されてクーラント2aが分離され、分離したクーラント2aは前記調整タンク12に供給して再利用される。前記膜濾過機13aでクーラント2aが分離されて固体粒子の濃度が高められた濃縮液3bは、循環流路14により再び前記貯留槽10に戻される。
【0048】
貯留槽10の濃縮液3bの一部はポンプPにより貯留槽15に取り出されて貯留され、貯留槽15の濃縮液3bは、後段の遠心分離機16に供給されて細粒の固体粒子8bが分離され、細粒の固体粒子8bが分離された回収液3cは、受けタンク17に貯留され、受けタンク17の回収液3cは、前記貯留槽10のスラリ廃液3aと共に前記膜濾過機13aに供給して再度循環するようにしている。この時、遠心分離機16に供給される濃縮液3bの細粒の固形粒子の濃度は高められているために、遠心分離機7による細粒の固体粒子8aの分離は効果的に行うことができる。
【0049】
前記貯留槽10に供給されるスラリ廃液3aの温度は上昇する傾向にあり、このため、前記膜濾過機13aの入口に設けた温度計25又は粘度計26の検出値に基づいて制御装置27は、スラリ廃液3aの粘度が図5の最低粘度である約40mpa・sになるように前記温度調節装置23によりスラリ廃液3aの温度を設定温度Xの範囲に制御する。同時に、制御装置27は、前記撹拌装置24に駆動指令を送って撹拌装置24を作動し、スラリ廃液3aに振動を与えることでスラリ廃液3aの粘度が上昇する問題を防止している。
【0050】
従って、膜濾過機13aには、図5に示す最低粘度である約40mpa・sに保持されたスラリ廃液3aが供給されることになるので、膜濾過機13aによる高い分離性能が保持される。膜濾過機13aで分離したクーラント2aは調整タンク12に供給され、再び固定砥粒式ワイヤソー1に供給されて循環使用される。
【0051】
図1の貯留槽10の濃縮液3bの一部は、貯留槽15に取り出して貯留され、貯留槽15の濃縮液3bは、後段の遠心分離機16に供給されて細粒の固体粒子8bが分離され、細粒の固体粒子8bが分離された回収液3cは、受けタンク17に貯留され、受けタンク17の回収液3cは、ポンプPにより前記貯留槽10のスラリ廃液3aと共に前記濾過機13に供給して再度循環される。
【0052】
図3は前記分離装置6である濾過機13として振動濾過機13bを備えた場合の一例を示すブロック図である。振動濾過機13bは、モータ28で正逆転を繰り返して振動させるフィルター29にスラリ廃液3aを供給し、クロスフローによりフィルター29上に浮游した粒子層を形成させて濾液であるクーラント2aと固体粒子が濃縮されたオーバーフロー液30(濃縮液)とに分離するようにしてあり、オーバーフロー液30の循環流路31に設けた絞り弁32を絞ることによりフィルター29における圧力差を調節して粒子層を安定形成することで濾過を行い、フィルター29の濾過性能が低下したときには、切換弁33を切り換えることでオーバーフロー液30を開放流路34(循環流路)により前記貯留槽10に開放し、前記粒子層を洗い流すようにしている。図3において、開放流路34(循環流路)を貯留槽10に導くことなく開放流路34からの固体粒子を外部に取り出すようにしてもよい。
【0053】
図3に示した振動濾過機13bによる分離装置6を備えた場合においても、前記実施例と同様にして貯留槽10から振動濾過機13bに供給するスラリ廃液3aの温度を調節することにより、振動濾過機13bにおけるスラリ廃液3aからクーラント2aを分離する作用を効果的に行うことができる。
【0054】
尚、上記各実施例では、貯留槽10の濃縮液3bの一部を後段の遠心分離機16に供給して連続的に細粒の固体粒子を分離する場合について説明したが、貯留槽10の濃縮液3bを図2の膜濾過機13a或いは図3の振動濾過機13bに循環供給する作業を継続することで固体粒子の濃度が上昇したときに、濃縮液3bを後段の遠心分離機16に供給して細粒の固体粒子を分離するバッチ式の処理を行うようにしてもよい。
【0055】
又、図1に示した前段の遠心分離機7にスラリ廃液3を供給する貯留槽5、及び、後段の遠心分離機16に濃縮液3bを供給する貯留槽15にも、図2、図3に示した温度調節装置23及び撹拌装置24を設置すると共に、制御装置27を備えることができ、このようにして、遠心分離機7,16に供給するスラリ廃液3及び濃縮液3bの粘度が最低粘度を保持するように温度を設定温度Xに調節することにより、遠心分離機7,16によるスラリ廃液3及び濃縮液3bの分離性能を高めることができる。
【0056】
上記したように、本発明では、分離装置6に供給するスラリ廃液3の温度または粘度を検出し、スラリ廃液3の検出温度または検出粘度に基づき、分離装置6に導かれるスラリ廃液3の粘度が最低粘度に保持されるようにスラリ廃液3の温度を設定温度Xに調節するようにしたので、固定砥粒式ワイヤソー1からのスラリ廃液3が、温度の上昇に伴い粘度が低下して最低粘度を示した後に再び増加するという特異な性質を有していても、分離装置6に導かれるスラリ廃液3の粘度を常に最低粘度に保持できるため、従来から用いられている膜濾過機13a、振動濾過機13b、更には遠心分離機7,16においても、分離性を高めてスラリ廃液3からクーラントを効果的に分離できるようになる。
【0057】
尚、本発明は上記形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0058】
1 固定砥粒式ワイヤソー
2 クーラント
2a クーラント
3 スラリ廃液
3a スラリ廃液
3b 濃縮液
4 受けタンク
5 貯留槽
6 分離装置
7 前段の遠心分離機
10 貯留槽
13 濾過機
13a 膜濾過機
13b 振動濾過機
14 循環流路
15 貯留槽
16 後段の遠心分離機
23 温度調節装置
23a 冷却器
24 撹拌装置
25 温度計
26 粘度計
27 制御装置
31 循環流路
X 設定温度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定砥粒式ワイヤソーのスラリ廃液を分離装置に供給してクーラントを分離するスラリ廃液処理方法であって、貯留槽から分離装置に供給するスラリ廃液の温度または粘度を検出し、該スラリ廃液の温度または粘度に基づいて、分離装置に供給するスラリ廃液の粘度が最低粘度に保持されるようにスラリ廃液の温度を設定温度に調節することを特徴とするワイヤソースラリ廃液の処理方法。
【請求項2】
前記分離装置によりスラリ廃液からクーラントが分離されて固体粒子が濃縮された濃縮液を前記貯留槽に循環することを特徴とする請求項1に記載のワイヤソースラリ廃液の処理方法。
【請求項3】
前記分離装置に供給するスラリ廃液の設定温度を27〜50℃としたことを特徴とする請求項1又は2に記載のワイヤソースラリ廃液の処理方法。
【請求項4】
前記分離装置に供給するスラリ廃液の温度を前記設定温度に保持すると共に、スラリ廃液に振動を与えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のワイヤソースラリ廃液の処理方法。
【請求項5】
固定砥粒式ワイヤソーのスラリ廃液を分離装置に供給してクーラントを分離するスラリ廃液処理装置であって、貯留槽から分離装置に供給するスラリ廃液の温度を検出する温度計又は粘度を検出する粘度計と、該温度計又は粘度計の検出値に基づいて、分離装置に供給するスラリ廃液の粘度が最低粘度を保持するように貯留槽のスラリ廃液の温度を設定温度に調節する温度調節装置とを備えたことを特徴とするワイヤソースラリ廃液の処理装置。
【請求項6】
前記温度調節装置が加熱器又は冷却器であることを特徴とする請求項5に記載のワイヤソースラリ廃液の処理装置。
【請求項7】
前記分離装置がスラリ廃液からクーラントを分離する濾過機であり、該濾過機でクーラントが分離されて固体粒子が濃縮された濃縮液を前記貯留槽に戻す循環流路を有することを特徴とする請求項5又は6に記載のワイヤソースラリ廃液の処理装置。
【請求項8】
前記濾過機が膜濾過機であることを特徴とする請求項7に記載のワイヤソースラリ廃液の処理装置。
【請求項9】
前記濾過機が振動濾過機であることを特徴とする請求項7に記載のワイヤソースラリ廃液の処理装置。
【請求項10】
前記貯留槽に導くスラリ廃液から固体粒子を分離する前段の遠心分離機を備えたことを特徴とする請求項7〜9のいずれか1つに記載のワイヤソースラリ廃液の処理装置。
【請求項11】
前記貯留槽のスラリ廃液の一部を取り出して固体粒子を分離する後段の遠心分離機を備えたことを特徴とする請求項7〜9のいずれか1つに記載のワイヤソースラリ廃液の処理装置。
【請求項12】
前記温度調節装置に加えて、分離装置に導入するスラリ廃液に振動を与える振動付加装置を備えたことを特徴とする請求項5〜11のいずれか1つに記載のワイヤソースラリ廃液の処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−76159(P2012−76159A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221363(P2010−221363)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000198352)株式会社IHI回転機械 (27)
【Fターム(参考)】