説明

ワイヤボンド検査装置及びワイヤボンド検査方法

【課題】ワイヤの接合部分の接合状態を安定して測定し、当該接合状態の良否の判断のばらつきを抑えることができるワイヤボンド検査装置及びワイヤボンド検査方法を提供する。
【解決手段】撮像装置により撮影される接合痕の画像情報に基づき、ボンディングワイヤが接触していた痕跡部分であるワイヤ接触領域、及び当該ワイヤ接触領域に含まれる領域であってボンディングワイヤが好適に接合されていた痕跡部分としてボンディングワイヤの一部分が残存するワイヤ残存領域における、シェアツールが近接する側のエッジをそれぞれ検出し、これらエッジの輪郭形状に基づき、ワイヤ接触領域及びワイヤ残存領域をそれぞれ楕円近似する。そして、これら近似楕円の面積をワイヤ接触領域及びワイヤ残存領域の面積としてそれぞれ求め、これら面積の比であるワイヤ接合率を、ワイヤの接合部分の検査の用に供される情報として算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤボンド検査装置及びワイヤボンド検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、IC(集積回路)等の半導体装置上の接続端子であるボンディングパッドと外部のリード電極(パッケージ端子)等との間は、アルミニウムあるいは金等からなるボンディングワイヤにより接合(ワイヤボンド接合)されることにより導通される。ワイヤボンディングプロセスとしては、ボールボンディング及びウェッジボンディング等がよく知られている。ボールボンディングでは、先端にボールが形成されたワイヤを半導体装置上に接触させた状態で、熱、荷重及び超音波をボールに伝えて半導体装置とワイヤとを接合する。通常、ワイヤには金線が使用される。このボールボンディングでは、火花を使用してワイヤの先端にボールを作る必要があるので、アルミニウム線あるいは太いワイヤの使用は困難である。ウェッジボンディングでは、ウェッジツールの先端でワイヤを半導体装置上に押さえ付けた状態で、当該ワイヤに熱、荷重及び超音波エネルギを伝えて半導体装置とワイヤとを接合する。このウェッジボンディングは、ボールボンディングと異なり、ボールを作る(すなわち、ワイヤの先端に火花を飛ばしてワイヤを溶かす)必要がないため、金線以外にもアルミニウム線を使用することができる。また、太線(例えば、外径100μm以上のワイヤ)を使用したボンディングを行うことも可能である。
【0003】
こうしたワイヤボンディングプロセスを通じてワイヤボンディングされた半導体装置においては、その品質あるいは信頼性を確保するために、適宜、その接合状態の検査、あるいは接合強度の測定が行われる。このいわゆるワイヤボンド検査としては、例えばプルテスト及びシェアテスト等がある。プルテストは、半導体装置に接合されたワイヤを直接引っ張り上げることにより当該ワイヤと半導体装置との接合部分(以下、「ワイヤ接合部」という。)の接合強度を測定する。シェアテストは、ボンディングワイヤにおける半導体装置との接合部分をカッター等のシェアツールを使用してせん断し、このせん断時にツールに加えられる荷重に基づき接合強度の測定を行う。
【0004】
近年では、半導体装置の長寿命化の観点から、半導体装置とボンディングワイヤとの接合幅(ワイヤつぶれ幅)の増大化を通じて、ワイヤ接合部の接合強度の向上が図れることも多い。このような場合には、前述したプルテストでは、ワイヤ接合部の接合状態の定量的な把握が困難となるおそれがある。このため、プルテストだけではなく、前述したシェアテストが併せて実施される場合もある。しかしこの場合であれ、ワイヤのつぶれ幅の確保を通じてワイヤ接合部の接合強度が一定水準に維持されるようなときには、ワイヤ接合部が十分に接合されている状態と、そうでない状態とにおいて、それぞれ同程度の接合強度として測定されることが懸念される。すなわち、ワイヤ接合部の接合状態を正確に把握することが困難になる状況の発生が懸念される。
【0005】
そこで例えば特許文献1に示されるようなワイヤボンドの検査方法が従来提案されている。当該方法では、前述したシェアテストを通じてワイヤ接合部がせん断された後に、このせん断面の接合痕をカメラにより撮影する。そしてカメラから出力される接合痕の画像データに対して二値化処理を施して、接合痕の面積及び接合痕中のワイヤ残存部の面積を算出する。この算出されるワイヤ残存部の面積及び接合痕の面積の比(以下、「残存面積比」という。)に基づきワイヤボンドの接合状態を定量的に把握する。すなわち、ワイヤ接合部の接合状態が悪い場合は、残存面積比が比較的小さくなる。ワイヤ接合部の接合状態が良好な場合、すなわちほぼ全面接合している場合は、残存面積比が比較的大きくなる。したがって、残存面積比に基づきワイヤボンドの接合状態を定量的に把握可能となる。この残存面積比に基づくワイヤボンドの検査方法を、前述したシェアテストの後に実施することにより、ワイヤ接合部の接合状態に対する信頼性が高められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−59982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特許文献1に記載のワイヤボンドの検査方法には、次のような問題があった。すなわち、シェアテストにおいて、ワイヤ接合部がシェアツールによりせん断される際、半導体装置上(正確には、ボンディングパッド等の接続端子上)には、図8に示されるように、ワイヤ接合部の接合痕21として、ワイヤの伸び痕22、あるいは引きずり痕23が形成される場合がある。これは特に、ボンディングワイヤとしてアルミニウムあるいは金等のいわゆる軟質金属による太線を使用した場合に顕著に現れる。
【0008】
詳述すると、図9(a)に示されるように、シェアテスト用のワイヤボンド検査装置(シェアテスタ)31は、シェアテストに際して荷重センサ32に取り付けられたシェアツール33を半導体装置34のワイヤ接合部35が設けられるボンディング面側へ下降させる。そして図9(b)に示されるように、当該装置は、シェアツール33がボンディング面に当接した旨検出されたとき当該シェアツール33の下降を停止させる。次いで当該装置は、図9(c)に示されるように、検出したボンディング面を基準として所定の高さまでシェアツール33を上昇させる。その後、図9(d)に示されるように、当該装置はシェアツールによりワイヤ接合部35をその側方から押圧して荷重センサ32を通じて当該ワイヤ接合部35の破壊時(せん断時)の荷重を測定する。
【0009】
ここで、ボンディングワイヤとして、例えば100μm以上の外径(線径)を有する太いアルミニウム線が採用されている場合、図10(a),(b)に示されるように、シェアツール33はワイヤ接合部35に食い込みつつ、当該シェアツール33による押圧に伴いワイヤ接合部35はその押圧される方向へ倒れるようにして変形しつつ引き延ばされる。こうした変形の態様を通じて、ワイヤ接合部のせん断部分には、先の図8に示されるような、伸び痕22あるいは引きずり痕23が形成される。これは、ボンディングワイヤの形成材料がアルミニウム等のいわゆる軟質金属であり、且つ太線が採用されることに起因する。
【0010】
こうした伸び痕あるいは引きずり痕が形成される場合、特許文献1の検査方法では、その伸び痕あるいは引きずり痕の影響を受けて、面積測定のばらつきが大きくなるおそれがあった。すなわち、特許文献1の方法では、前述した伸び痕あるいは引きずり痕等が発生することにより、接合部分の境界、特にツールが当たる側と反対側の部分の境界が不明確となるおそれがある。カメラでの撮影データを使用して接合痕の面積あるいはワイヤ残存部の面積を算出するに際してもこれら面積が正確に算出されないおそれがある。このため、それら接合痕及びワイヤ残存部の面積比の値についてはその正確性の点で懸念が残る。この結果、ワイヤ接合部の接合状態の測定結果にばらつきが発生して不安定になり、ひいては製品の品質の良否の判断にばらつきが発生するおそれがある。このように、特許文献1の検査方法においては、検査結果の安定性の点で未だ改善の余地があった。
【0011】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、ワイヤの接合部分の接合状態を安定して測定し、当該接合状態の良否の判断のばらつきを抑えることができるワイヤボンド検査装置及びワイヤボンド検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
<1>請求項1に記載の発明は、ボンディング面とワイヤとの接合部分をその側方から前記ボンディング面に対して水平に変位されるシェアツールにより押圧して前記接合部分が剪断されたときの強度を測定するシェアテストの実施を通じて前記ボンディング面上に形成される前記接合部分の接合痕の状態に基づき当該接合部分の接合状態を検査するワイヤボンド検査装置において、前記ワイヤが接触していた痕跡部分である接触領域、及び当該接触領域に含まれる領域であって前記ワイヤが好適に接合されていた痕跡部分として前記ワイヤの一部分が残存する残存領域を含んで形成される前記接合痕を撮影する撮像装置と、前記撮像装置により撮影される前記接合痕の画像情報に基づき、前記接触領域及び前記残存領域における前記シェアツールが近接する側のエッジをそれぞれ検出し、これらエッジの輪郭形状に基づき前記接触領域及び前記残存領域を楕円近似するとともに、これら近似楕円の面積を前記接触領域の面積である接触面積及び前記残存領域の面積である残存面積として算出し、前記接触面積に対する前記残存面積の比の値であるワイヤ接合率を前記接合部分の検査の用に供される情報として算出する制御装置とを備えてなることをその要旨とする。
【0013】
シェアテストの実施により、ワイヤの接合痕には、シェアツールの移動方向への伸び痕あるいは引きずり痕が発生する場合がある。しかしこの場合であれ、ワイヤの接合部分においてシェアツールが当接する側の側縁部(エッジ)の変形は少ないと想定される。この点に着目して、本発明では、接合痕のシェアツール側のエッジの輪郭形状に基づき、領域が不明確であるシェアツールと反対側のエッジ形状を含む接合痕全体の輪郭形状を推定する。正確には、ワイヤが接触していた痕跡部分である接触領域、及び当該接触領域に含まれる領域であってワイヤが好適に接合されていた痕跡部分としてワイヤの一部分が残存する残存領域を楕円近似する。そして、これら近似楕円の面積を接触領域及び残存領域の面積としてそれぞれ求め、これら面積の比であるワイヤ接合率を、接合部分の検査の用に供される情報として算出する。この算出されるワイヤ接合率に基づきワイヤ接合部の良否判定を行うことが可能となる。
【0014】
前述したように、シェアテストの実施に伴う変形度合いが小さいと想定される接合痕のシェアツール側のエッジに基づき、当該接合痕における接触領域及び残存領域の輪郭を推定することにより、前記伸び痕あるいは引きずり痕等の影響を受けることなく、接触領域及び残存領域の面積、ひいてはワイヤ接合率が算出可能となる。このため、ワイヤの接合部分の接合状態を安定して測定し、当該接合状態の良否の判断のばらつきを抑えることができる。
【0015】
<2>請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のワイヤボンド検査装置において、前記ワイヤは、軟質金属により形成されるとともに、少なくとも100μmの線径を有してなることをその要旨とする。
【0016】
ワイヤの材質がアルミニウムあるいは金等の軟質金属である場合、柔らかく変形しやすいので線径が大きくなるほど前記伸び痕あるいは引きずり痕等が発生しやすい。前述したように、請求項1に記載のワイヤボンド検査装置は、接合痕の検査に際して前記伸び痕あるいは引きずり痕等の影響を受けにくい。このため、軟質金属により形成されてしかも線径が大きな、例えば100μm以上の線径を有するワイヤの接合痕の検査に好適である。軟質金属としては、アルミニウムあるいは金等が採用される。
【0017】
<3>請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載のワイヤボンド検査装置において、前記制御装置は、前記撮像装置により撮影される前記シェアテスト実施前の前記接合部分の画像情報に基づき、前記シェアツールが近接する方向に対して直交する方向へ伸びる前記接合部分の中心線を算出するとともに、この算出される中心線を前記シェアテスト実施後の前記接合痕の画像情報に重ね合わせることにより当該接合痕の中心線を設定し、前記接合痕の中心線と前記接触領域及び前記残存領域のエッジとの交点間の距離、並びに、前記接合痕の中心線を複数等分する等分点と、これら等分点を通り且つ前記接合痕の中心線に直交する垂線と前記接触領域及び前記残存領域のエッジとの交点との間の距離に基づき、前記接触領域及び前記残存領域を楕円近似することをその要旨とする。
【0018】
本発明は、シェアテストの実施前後において、ワイヤの接合部分の中心線は変わらない、すなわち、ワイヤの接合部分の中心線とワイヤの接合痕の中心線とは一致する、という観点に基づきなされている。そして本発明のように、この中心線を基準として接触領域及び残存領域を楕円近似することにより、正確な近似楕円が算出可能となる。このため、接触領域及び残存領域の面積、ひいてはワイヤ接合率の算出精度が高められる。
【0019】
<4>請求項4に記載の発明は、請求項3に記載のワイヤボンド検査装置において、前記制御装置は、前記接合部分の画像情報に基づき、当該接合部分の軸方向へ伸び且つ互いに反対側に位置する2つのエッジを検出し、これらエッジを含み当該エッジに沿って延びる長方形状の領域を前記接合部分の存在が検出される検出領域として設定するとともに、当該検出領域の短辺を等分する直線を前記接合部分の中心線として設定し、これら算出される接合部分の検出領域及び中心線を前記接合痕の画像情報に重ね合わせることにより、当該検出領域及びその中心線を前記接合痕の検査対象領域及びその中心線として設定し、当該接合痕の検査対象領域の範囲内において前記接触領域及び前記残存領域のエッジをそれぞれ検出することをその要旨とする。
【0020】
前記伸び痕あるいは引きずり痕等が形成される場合には、これら伸び痕等も含めて接合痕のエッジ全体を検出されるおそれも懸念される。この点、本発明によれば、ワイヤの接合痕の画像情報において、ワイヤの接合部分が存在していた領域(検出領域)に対応する領域が検査対象領域として設定される。そしてこの検査対象領域の範囲内において接触領域及び前記残存領域のエッジの検出が行われる。このため、前記伸び痕等も含めた接合痕のエッジ全体を検出する場合と異なり、もともと存在していたワイヤの接合部分に対応する部分についてのみエッジ検出を行うだけでよいので、エッジ検出に係る演算負荷が低減される。また、エッジ検出に際して、エッジ検出の対象範囲から前記伸び痕等の大半の部分が排除されることになるので、前記延び痕等の影響はより少ないものとなる。
【0021】
<5>請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4のうちいずれか一項に記載のワイヤボンド検査装置において、前記ボンディング面とワイヤとの接合は、前記シェアツールとは別のツールの先端でワイヤを前記ボンディング面に押さえ付けた状態で当該ワイヤに対して熱、荷重及び超音波エネルギを印加することにより行われてなることをその要旨とする。
【0022】
このようなボンディング面とワイヤとの接合方法は、一般に、線径の大きなワイヤのボンディングに適用される。線径が大きくなるほど、シェアテストの実施の際には前述した伸び痕あるいは引きずり痕等が発生しやすい。請求項1〜請求項4のうちいずれか一項に記載のワイヤボンド検査装置によれば、前述したように、こうした伸び痕等の影響を極力排除したかたちでワイヤの接合部分の検査を行うことが可能である。したがって、請求項1〜請求項4のうちいずれか一項に記載のワイヤボンド検査装置は、本発明のようにして接合されてなるワイヤの接合部分の検査に好適である。
【0023】
<6>請求項6に記載の発明は、ボンディング面とワイヤとの接合部分をその側方から前記ボンディング面に対して水平に変位されるシェアツールにより押圧して前記接合部分が剪断されたときの強度を測定するシェアテストの実施を通じて前記ボンディング面上に形成される前記接合部分の接合痕の状態に基づき当該接合部分の接合状態を検査するワイヤボンド検査方法において、前記ワイヤが接触していた痕跡部分である接触領域、及び当該接触領域に含まれる領域であって前記ワイヤが好適に接合されていた痕跡部分として前記ワイヤの一部分が残存する残存領域を含んで形成される前記接合痕を撮像装置により撮影し、この撮影される前記接合痕の画像情報に基づき、前記接触領域及び前記残存領域における前記シェアツールが近接する側のエッジをそれぞれ検出し、これら検出される前記エッジの輪郭形状に基づき前記接触領域及び前記残存領域を楕円近似する第1の検査段階と、前記第1の段階において算出される近似楕円の面積を前記接触領域の面積である接触面積及び前記残存領域の面積である残存面積として算出し、前記接触面積に対する前記残存面積の比の値であるワイヤ接合率を前記接合部分の検査の用に供される情報として算出する第2の検査段階とを備えてなることをその要旨とする。本発明によれば、請求項1と同様の作用効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、ワイヤの接合部分の接合状態を安定して測定し、当該接合状態の良否の判断のばらつきを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】ワイヤボンド検査装置の概略構成を示す斜視図。
【図2】シェアテスト後の半導体装置上の接合痕(ワイヤ接合部のせん断面)を示す平面図。
【図3】ワイヤ接合率に基づくワイヤボンド検査の手順を示すフローチャート。
【図4】(a)は、ワイヤボンディング後のワイヤ接合部の平面図、(b)は、シェアテスト後のワイヤ接合部の平面図、(c),(d)は、ワイヤ接触面積の算出の用に供される楕円の推定過程を示すワイヤ接合部の平面図。
【図5】(a),(b)は、ワイヤ残存面積の算出の用に供される楕円の推定過程を示すワイヤ接合部の平面図。
【図6】ワイヤつぶれ幅に基づくワイヤボンド検査の手順を示すフローチャート。
【図7】(a)〜(c)は、ワイヤつぶれ幅の算出過程を示すワイヤ接合部の平面図。
【図8】シェアテスト後のワイヤ接合部の接合痕(せん断面)を示す平面図。
【図9】(a)〜(d)は、シェアテストの実行手順を示すシェアテスタの要部正面図。
【図10】(a),(b)は、シェアテスト時のせん断態様を示すワイヤ接合部の要部正面図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<第1の実施の形態>
以下、本発明に係るワイヤボンド検査装置を具体化した第1の実施の形態を図1〜図5に基づいて説明する。当該検査装置は、ボンディングワイヤにおける半導体装置との接合部分であるワイヤ接合部を、シェアツールを使用してせん断し、このせん断時にシェアツールに印加される荷重に基づき接合強度の測定を行うシェアテストの実施後において、ワイヤ接合部のせん断面(接合痕)の検査を行うものである。なお、本例では、ボンディングワイヤとして、例えば100μm〜500μmの線径を有するアルミニウム線(太線)が採用される。当該線径を有するアルミニウム線を採用した場合には、シェアテスト時において、前述した引きずり痕あるいは伸び痕が顕著に形成される。
【0027】
<ワイヤボンド検査装置の概要>
図1に示すように、ワイヤボンド検査装置11は、検査対象であるICチップ等の半導体装置16が固定される基台12、基台12上の半導体装置16を撮影する撮像装置13、撮像装置13から入力される画像情報に基づき各種の演算を実行する制御装置14、及び各種の情報を画面上に表示する表示装置15を備えてなる。
【0028】
撮像装置13は、シェアテストが実施された後の半導体装置16、正確にはワイヤ接合部がせん断された後の半導体装置16上の接合痕(せん断面)17を撮影し、この撮影した接合痕17の画像情報を制御装置14へ出力する。この撮像装置13としては、例えばCCD(電荷結合素子)カメラあるいはデジタルビデオカメラ等が採用可能である。
【0029】
制御装置14は、撮像装置13から入力される画像情報に基づきワイヤ接合部(正確には、その接合状態)の検査(評価)の用に供される情報を算出し、この算出される情報に基づきワイヤ接合部の接合状態、正確には接合強度の良否を判定する。本例では、ワイヤ接合部の検査の用に供される情報として、ボンディングワイヤの半導体装置16に対するワイヤ接合率が採用される。ワイヤ接合率とは、ワイヤ接合部と半導体装置16との接触する部分において、ボンディングワイヤが半導体装置16に対して好適に接合されている部分が占める割合を示す値をいう。
【0030】
制御装置14の記憶装置14aは、制御装置14が各種の演算処理を行う際の演算処理結果を一時的に記憶する主記憶装置として機能する部分と、各種の制御プログラム及び各種のデータが記憶される補助記憶装置として機能する部分とを備えてなる。
【0031】
各種のデータとしては、撮像装置13からにより撮影される画像情報、例えばシェアテスト実施前におけるワイヤ接合部及びシェアテスト実施後の接合痕17の画像情報が含まれる。また、当該データには、接合率判定閾値Ehも含まれる。この接合率判定閾値Ehは、制御装置14により算出される後述のワイヤ接合率に基づき、当該制御装置14がワイヤ接合部の接合状態の良否判断を行う際の基準となるものである。この接合率判定閾値Ehは、製品仕様等に応じて必要とされる接合強度等に基づき設定される。
【0032】
制御プログラムとしては、例えばワイヤ接合部の検査(評価)を行うための検査プログラム等が含まれる。この検査プログラムは、撮像装置13により撮影された画像に対する画像処理を行うための画像処理プログラム、及び半導体装置16の評価の用に供される情報であるワイヤ接合率を算出するための接合率算出プログラム等を含んでなる。
【0033】
制御装置14は、記憶装置14aに記憶されたワイヤ接合部(正確には、接合痕17)の画像情報に基づき前記検査プログラムに従って所定の演算を実行することにより、ボンディングワイヤの半導体装置16に対するワイヤ接合率を算出する。
【0034】
図2に示されるように、シェアテストの実施を通じて半導体装置16上に形成されるボンディングワイヤの接合痕17は、同図に太線で示されるように、楕円状のワイヤ接触領域T1及びワイヤ残存領域(接合領域)T2の2つの領域を含んでなる。ワイヤ接触領域T1は、ボンディングワイヤが少なくとも実際に接触していた痕跡部分を示す領域である。ワイヤ残存領域(接合領域)T2は、ワイヤ接触領域T1に含まれる領域であってボンディングワイヤが好適に接合されていた痕跡部分を示す領域である。
【0035】
ワイヤ接触領域T1におけるワイヤ残存領域T2以外の領域、正確にはワイヤ接触領域T1とワイヤ残存領域T2とで囲まれた領域は、十分に接合されていなかった未接合領域T3である。すなわち、ワイヤ接合部において、半導体装置16に対して好適に固定されていた部分はシェアテストの実施後においてもボンディングワイヤの一部が残存する。この残存した部分がワイヤ残存領域T2である。これに対して、ワイヤ接合部において、半導体装置16に対する接合強度が不足していた部分はシェアテストの実施を通じて剥離するかたちで除去されるので、半導体装置16上にはボンディングワイヤが接触していた痕跡が僅かに残るのみである。この痕跡が僅かに残る部分が未接合領域T3である。
【0036】
ここで、前述したように、ボンディングワイヤとしてアルミニウムあるいは金等のいわゆる軟質金属による太線を使用した場合には、シェアテストにおいて、ワイヤ接合部がシェアツールによりせん断されるときに、半導体装置16上には、図2に示されるように、ボンディングワイヤの伸び痕、あるいは引きずり痕等が形成される。このため、実際には、接合痕17におけるワイヤ接触領域T1及びワイヤ残存領域T2を目視等により他の部分と識別して認識することは困難である。したがって、本例では、制御装置14は、ワイヤボンドの検査に際しては、記憶装置14aに格納される検査プログラムに基づく各種の演算を通じて、ワイヤ接触領域T1及びワイヤ残存領域T2の輪郭を推定する。図2に太線で示されるワイヤ接触領域T1及びワイヤ残存領域T2は、制御装置14により推定される領域を示すものである。
【0037】
そして制御装置14は、推定されるワイヤ接触領域T1及びワイヤ残存領域T2に基づき、ワイヤ接触領域T1の面積(以下、「ワイヤ接触面積S1」という。)及びワイヤ残存領域T2の面積(以下、「ワイヤ残存面積S2」という。)を算出し、これら算出されるワイヤ接触面積S1及びワイヤ残存面積S2に基づきワイヤ接合率を算出する。本例では、ワイヤ接合率とは、具体的には、ワイヤ接触面積S1に対するワイヤ残存面積S2の占める割合をいい、当該ワイヤ接合率Eは、次式(A)に基づき算出される。
【0038】
E(%)=(S2/S1)100・・・(A)
制御装置14は、当該式(A)に基づき算出されるワイヤ接合率Eに基づきワイヤ接合部の評価を行う。
【0039】
表示装置15は、制御装置14からの指令に基づき、その画面上に撮像装置13により撮影される画像情報、あるいは制御装置14によるワイヤ接合部の評価結果等を表示する。
【0040】
<ワイヤボンド検査方法>
次に、前述のように構成したワイヤボンド検査装置により実行されるワイヤボンド検査の処理手順を図3のフローチャート及び図4(a)〜(d)に基づき説明する。当該フローチャートは、記憶装置14aに記憶された検査プログラムに従い実行される。なお、記憶装置14aには、撮像装置13により撮影されたワイヤボンディング直後(シェアテスト実施前)のワイヤ接合部の画像情報、及びシェアテスト実施後の半導体装置16上の接合痕17の画像情報、並びに接合率判定閾値Ehが予め記憶されている。
【0041】
当該検査はシェアテストの実施後に行われるものであって、大きくは次のような処理を経てワイヤ接合部の良否判定が行われる。すなわち、まずシェアテスト前の画像情報に基づき基準データの算出処理が行われ、次いで当該基準データ及び接合痕17の画像情報に基づきワイヤ接触面積推定楕円及びワイヤ残存面積推定楕円の算出処理がそれぞれ行われる。その後、これら楕円の面積(ワイヤ接触面積及びワイヤ残存面積)に基づきワイヤ接合率Eが算出され、当該ワイヤ接合率Eと接合率判定閾値Ehとの比較を通じてワイヤ接合部の良否判定が行われる。
【0042】
ここで、基準データとは、接合痕17の画像情報に基づきワイヤ接合率を算出するに際して、ワイヤ接合部の位置座標等の基準となるデータをいう。ワイヤ接触面積推定楕円とは、実際のワイヤ接触領域の近似楕円をいい、当該ワイヤ接触領域の面積(ワイヤ接触面積)を算出するために推定演算される。ワイヤ残存面積推定楕円とは、実際のワイヤ残存領域の近似楕円をいい、当該ワイヤ残存領域の面積(ワイヤ残存面積)を算出するために推定演算される。先の図2に太線で示されるワイヤ接触領域T1及びワイヤ残存領域T2は、実際のワイヤ接触領域及びワイヤ残存領域の近似楕円で示される領域である。
【0043】
以下、ワイヤボンド検査に係るこれら一連の処理手順について詳細に説明する。
<基準データの算出処理>
さて、ワイヤボンド検査に際し、制御装置14は、まず記憶装置14aに記憶されたワイヤボンディング後のワイヤ接合部の画像情報を読み込み(ステップS101)、この読み込んだ画像情報に基づき検出領域を決定する(ステップS102)。すなわち、図4(a)に示されるように、制御装置14は、画像情報の濃度変化等に基づきワイヤ接合部18の長手方向(図中の上下方向)へ延びる左右2つの側縁部であるエッジEGl,EGrを検出し、これらエッジEGl,EGrを含む最小の長方形で囲まれる領域を、検出領域Tdとして設定する。
【0044】
図4(a)に示されるように、エッジEGl,EGrは、ウェッジボンディングに際してウェッジツールにより押圧されて押し潰されることにより起伏して形成されるところ、検出領域Tdの長辺は、エッジEGl,EGrにおいて、中心線O1に対して直交する方向(同図中の左右方向)において最も外側に突出する部分に接している。検出領域Tdの短辺は、撮像装置13の撮影範囲により決まる。
【0045】
ここで、検出領域Tdとは、ワイヤ接合部18の存在が検出される領域をいう。この検出領域Tdは、シェアテスト後におけるワイヤ接合部18、正確にはその接合痕17の画像情報において、ワイヤ接触領域T1及びワイヤ残存領域T2を算出する際に所定の演算処理の実行対象とされる後述の検査対象領域を設定するために求められる。
【0046】
なお、制御装置14は、画像の位置を座標として認識する。例えば撮像装置13としてCCDカメラを採用した場合には、CCD撮像素子に映った像はその縦横が多数の画素に分割されるので、画像内の任意の形状の位置を(0,0)〜(x,y)のXYZ座標系におけるXY座標で求めることができる。
【0047】
次に、制御装置14は、先のステップS101において決定した検出領域Tdの短辺を等分する直線である中心線O1を基準データとして算出する(ステップS103)。図4(a)に示されるように、この中心線O1は、両エッジEGl,EGrに沿う方向へ延びる。
【0048】
<ワイヤ接触面積推定楕円の算出処理>
次に、制御装置14は、記憶装置14aに記憶されたシェアテスト後のワイヤ接合部18、すなわち接合痕17の画像情報を読み込む(ステップS104)。なお、図4(b)に矢印で示されるように、シェアツールはワイヤ接合部18に対して同図中の右側から接触される。そして接合痕17のシェアツールと反対側(図中左側)の部分には、前述したシェアテストに起因して伸び痕あるいは引きずり痕が形成されている。
【0049】
次に、制御装置14は、ワイヤボンディング後のワイヤ接合部18の画像情報と、シェアテスト後のワイヤ接合部18(接合痕17)の画像情報とを比較する(ステップS105)。すなわち、図4(c)に示されるように、制御装置14は、先のステップS102及びステップS103において算出した検出領域Td及びその中心線O1を、接合痕17の画像情報に重ね合わせることにより、当該検出領域Td及びその中心線O1を接合痕17の画像情報における検査対象領域Tdx及びその中心線O1xとして設定する。
【0050】
これは、撮像装置13による撮影範囲が同じである場合、シェアテストの前後においてワイヤ接合部18の中心線O1の位置は変わらないことに基づく。すなわち、図4(c)に示されるように、検出領域Tdの中心線O1は、接合痕17において、上下方向における長さが最も大きい位置に対応して設定される。これは一般に、伸び痕あるいは引きずり痕が形成されないとした場合において、接合痕17は楕円状をなす。このため、ワイヤ接合部18の中心線O1を接合痕17に重ね合わせた際には当該中心線O1は楕円状の接合痕17の長軸に一致する。すなわち、検査対象領域Tdxの中心線O1xは、接合痕17において、上下方向における長さが最も大きい長軸に対応する位置に設定されることになる。
【0051】
次に、制御装置14は実際のワイヤ接触領域T1rのエッジを検出する(ステップS106)。すなわち、図4(c)に太線で示されるように、制御装置14は、先のステップ105において設定された検査対象領域Tdx内において、画像情報の濃度変化等に基づき実際のワイヤ接触領域T1rと半導体装置16(正確には、ボンディングパッド等の接続端子)との境界、すなわち実際のワイヤ接触領域T1rのエッジを検出(抽出)する。
【0052】
なお、図4(c)にハッチングで示されるように、本例では、ワイヤ接触領域T1rとして伸び痕の一部分が含まれるかたちで認識され、同図に太線で示されるように、当該伸び痕の一部分が含まれるかたちでエッジEG1の検出が行われる。これは、接合痕17において、中心線O1の左側の部位においては、シェアテストの際に形成される伸び痕あるいは引きずり痕等とワイヤ接触領域T1rとの境界が不明確になる場合が多いからである。このため、接合痕17において、中心線O1xを基準とするシェアツール当接側と反対側(図中の左側)の部分については、半導体装置16との境界として認識可能であれば、たとえ伸び痕等であってもエッジEG1の一部として抽出される。
【0053】
次に、制御装置14は、実際のワイヤ接触領域T1rの中心線O1xに沿う方向における長さを算出する(ステップS107)。すなわち、図4(c)に示されるように、制御装置14は、先のステップS106において抽出したワイヤ接触領域T1rのエッジEG1と、先のステップS105において設定された中心線O1xとの交点間の距離L1yを算出する。これは、前述したように、伸び痕あるいは引きずり痕が形成されないとした場合における、楕円状のワイヤ接触領域T1rの長軸の長さを求めることに対応する。
【0054】
次に、制御装置14は、先のステップS107において算出したワイヤ接触領域T1rの長さである距離L1yを複数等分する等分点を中心線O1x上に設定する(ステップS108)。図4(d)に示されるように、本例では、ワイヤ接触領域T1rの長さである距離L1yを4等分する3つの等分点P1が中心線O1x上に設定される。なお、この等分点は、適宜変更して設定可能である。等分数を増やすほど、後述するワイヤ接触面積推定楕円及びその面積を正確に算出可能となる。
【0055】
次に、制御装置14は、先のステップS108において設定した各等分点P1から先のステップS106において抽出されたエッジEG1までの、中心線O1に対する垂線Lp1を設定し、それら垂線Lp1の長さを算出する(ステップS109)。
【0056】
すなわち、図4(d)に示されるように、制御装置14は、先のステップS108において設定した各等分点P1と、先のステップS106において抽出したワイヤ接触領域T1rのエッジEG1と当該ステップS109において設定した各垂線Lp1との交点との間の距離L1xを算出する。これは、前述したように、伸び痕あるいは引きずり痕が形成されないとした場合における、楕円状のワイヤ接触領域T1rの短軸の長さを求めることに対応する。
【0057】
また、図4(d)に示されるように、垂線Lp1を延ばす方向は、シェアツールが近接する側、すなわち同図中の右側とされる。これは、ワイヤ接合部18におけるシェアツールが近接側の部位は、これと反対側の部位と異なり、伸び痕あるいは引きずり痕等が形成されにくくシェアテストの実施に伴う変形が少ないと想定されることによる。
【0058】
ここで、楕円を求めるには、その長軸及び短軸の長さを知る必要がある。長軸の長さは先のステップS107において算出されるところ、短軸の長さは当該ステップS109で算出される各垂線Lp1の長さに基づき算出可能となる。そしてこれら垂線Lp1の長さは、変形が少なく信頼のおける接合痕17のシェアツールが近接する側のエッジEG1と中心線O1xとの間の距離であることから、当該短軸の長さは正確に算出可能となる。すなわち、変形が少ないワイヤ接触領域T1rにおけるシェアツールが近接する側(右側半分)の輪郭形状に基づき、当該シェアツールと反対側(左側半分)の輪郭形状を含む楕円全体の輪郭形状を推定することにより、後述するワイヤ接触面積推定楕円を正確に算出可能となる。
【0059】
次に、制御装置14は、先のステップS109において算出した各垂線Lp1の長さを使用して、延び痕あるいは引きずり痕等が形成されないとした場合のワイヤ接触領域T1の形状(楕円形状)を最小二乗法により推定する(ステップS110)。すなわち、実際のワイヤ接触領域T1rを楕円近似することにより、図2に太線で示されるワイヤ接触領域T1の輪郭形状であるワイヤ接触面積推定楕円EL1(図2中の外側の楕円)を算出する。このワイヤ接触面積推定楕円EL1の面積は、シェアテスト実施前のワイヤ接合部18における実際のワイヤ接触領域T1rの面積に近似する。当該ステップ110で算出されるワイヤ接触面積推定楕円EL1は、後のステップにおいてワイヤ接触面積S1を推定するために使用される。
【0060】
<ワイヤ残存面積推定楕円の算出処理>
次に、制御装置14は実際のワイヤ残存領域T2rのエッジを検出する(ステップS111)。すなわち、図5(a)に太線で示されるように、制御装置14は、先のステップ105において設定された検査対象領域Tdx内において、画像情報の濃度変化等に基づき実際のワイヤ接触領域T1rと実際のワイヤ残存領域T2rとの境界、すなわち実際のワイヤ残存領域T2rのエッジEG2を検出(抽出)する。なお、図5(a)にハッチングで示される検査対象領域Tdx中のワイヤ残存領域T2rは、ボンディングワイヤの一部が残存することから、実際の未接合領域T3rと明確に区別して抽出可能である。
【0061】
次に、制御装置14は、実際のワイヤ残存領域T2rの中心線O1xに沿う方向における長さを算出する(ステップS112)。すなわち、図5(a)に示されるように、制御装置14は、先のステップS111において抽出した実際のワイヤ残存領域T2rのエッジEG2と、先のステップS105において設定された中心線O1xとの交点間の距離L2yを算出する。これは、前述したように、伸び痕あるいは引きずり痕が形成されないとした場合における、楕円状のワイヤ残存領域T2rの長軸の長さを求めることに対応する。
【0062】
次に、制御装置14は、先のステップS112において算出したワイヤ残存領域T2の長さである距離L2yを複数等分する等分点を中心線O1上に設定する(ステップS113)。図5(b)に示されるように、本例では、実際のワイヤ残存領域T2rの長さである距離L2yを4等分する3つの等分点P2が中心線O1x上に設定される。なお、この等分点は、適宜変更して設定可能である。等分数を増やすほど、後述するワイヤ残存面積推定楕円及びその面積を正確に算出可能となる。
【0063】
次に、制御装置14は、先のステップS112において設定した各等分点P2から先のステップS111において抽出されたエッジEG2までの、中心線O1に対する垂線Lp2を設定し、それら垂線Lp2の長さを算出する(ステップS114)。
【0064】
すなわち、図5(b)に示されるように、制御装置14は、先のステップS112において設定した各等分点P2と、先のステップS111において抽出したワイヤ残存領域T2rのエッジEG2と当該ステップS114において設定した各垂線Lp2との交点との間の距離L2xを算出する。これは、前述したように、伸び痕あるいは引きずり痕が形成されないとした場合における、楕円状のワイヤ残存領域T2rの短軸の長さを求めることに対応する。
【0065】
また、図5(b)に示されるように、垂線Lp2を延ばす方向は、シェアツールが近接する側、すなわち同図中の右側とされる。これは、ワイヤ接合部18におけるシェアツールが近接する側の部位は、これと反対側の部位と異なり、伸び痕あるいは引きずり痕等が形成されにくくシェアテストの実施に伴う変形が少ないと想定されることによる。
【0066】
ここで、楕円を求めるには、その長軸及び短軸の長さを知る必要がある。長軸の長さは先のステップS112において算出されるところ、短軸の長さは当該ステップS114で算出される各垂線Lp2の長さに基づき算出可能となる。そしてこれら垂線Lp2の長さは、変形が少なく信頼のおける接合痕17のシェアツールが近接する側のエッジEG2と中心線O1xとの間の距離であることから、当該短軸の長さは正確に算出可能となる。すなわち、変形が少ないワイヤ残存領域T2rにおけるシェアツールが近接する側(右側半分)の輪郭形状に基づき、当該シェアツールと反対側(左側半分)の輪郭形状を含む楕円全体の輪郭形状を推定することにより、後述するワイヤ残存面積推定楕円を正確に算出可能となる。
【0067】
次に、制御装置14は、先のステップS114において算出した各垂線Lp2の長さを使用して、延び痕あるいは引きずり痕等が形成されないとした場合のワイヤ残存領域T2の形状(楕円形状)を最小二乗法により推定する(ステップS115)。すなわち、実際のワイヤ残存領域T2rを楕円近似することにより、図2に太線で示されるワイヤ残存領域T2の輪郭形状であるワイヤ残存面積推定楕円EL2(図2中の内側の楕円)を算出する。このワイヤ残存面積推定楕円EL2の面積は、シェアテスト実施前のワイヤ接合部18における実際のワイヤ残存領域T2rの面積に近似する。当該ステップ115で算出されるワイヤ残存面積推定楕円EL2は、後のステップにおいてワイヤ残存面積S2を推定するために使用される。
【0068】
<ワイヤ接合率の算出処理>
次に、制御装置14は、先のステップ110及びステップS115において算出したワイヤ接触面積推定楕円EL1及びワイヤ残存面積推定楕円EL2に基づき、ワイヤ接合率Eを算出する(ステップS116)。すなわち、制御装置14は、ワイヤ接触面積推定楕円EL1及びワイヤ残存面積推定楕円EL2の面積をそれぞれ算出し、これら算出される面積の値を、前記式(A)に適用することにより、ワイヤ接合率E(%)を算出する。
【0069】
<ワイヤ接合部の良否判定処理>
次に、制御装置14は、先のステップS116において算出されたワイヤ接合率Eに基づき、ワイヤ接合部18の良否判定を行う(ステップS117)。
【0070】
すなわち、制御装置14は、先のステップS116において算出されたワイヤ接合率Eと、記憶装置14aに予め記憶された接合率判定閾値Ehとの比較を行う。制御装置14は、算出されたワイヤ接合率Eが接合率判定閾値Eh以上である旨判断される場合には、ワイヤ接合部18の接合強度は十分に確保されている、すなわちワイヤ接合部18の接合状態は良好である旨判定する。これに対して、制御装置14は、算出されたワイヤ接合率Eが接合率判定閾値Eh未満である旨判断される場合には、ワイヤ接合部18の接合強度は不十分である、すなわちワイヤ接合部18の接合状態は不良である旨判定する。
【0071】
そして制御装置14は、先のステップS117におけるワイヤ接合部18の良否判定の結果を表示装置15の画面上に表示させて(ステップS118)、当該ワイヤボンド検査に係る処理を終了する。
【0072】
なお、ステップS104〜ステップS110及びステップS111〜ステップS115の処理は本発明の第1の検査段階を構成し、ステップS116の処理は本発明の第2の検査段階を構成する。また、先のステップS117における良否判定、及び先のステップS118における良否判定の結果表示に係る処理は省略して実施することも可能である。この場合には、例えば先のステップS116において算出されるワイヤ接合率Eの値を表示装置15の画面上に表示させて当該フローチャートに係る処理を終了する。このようにした場合であれ、検査員等は、表示装置15の画面上に表示されるワイヤ接合率Eの確認等を通じて、ワイヤ接合部18の良否判断を行うことが可能である。
【0073】
<実施の形態の効果>
したがって、本実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)シェアテストの実施により、ボンディングワイヤの接合痕には、シェアツールの移動方向への伸び痕あるいは引きずり痕が発生する場合がある。しかしこの場合であれ、ワイヤ接合部18においてシェアツールが当接する側の側縁部(エッジ)の変形は少ないと想定される。この点に着目して、本例では、接合痕17のシェアツールが近接する側のエッジの輪郭形状に基づき、領域が不明確であるシェアツールと反対側のエッジ形状を含む接合痕全体の輪郭形状を推定する。正確には、ボンディングワイヤが接触していた痕跡部分であるワイヤ接触領域T1r、及び当該ワイヤ接触領域T1rに含まれる領域であってボンディングワイヤが好適に接合されていた痕跡部分としてボンディングワイヤの一部分が残存するワイヤ残存領域T2rを楕円近似する。そして、これら近似楕円の面積をワイヤ接触領域T1r及びワイヤ残存領域T2rの面積としてそれぞれ求め、これら面積の比であるワイヤ接合率Eを、ワイヤ接合部18の検査の用に供される情報として算出する。この算出されるワイヤ接合率Eに基づきワイヤ接合部18の良否判定を行うことが可能となる。
【0074】
前述したように、シェアテストの実施に伴う変形度合いが小さいと想定される接合痕17のシェアツールが近接する側のエッジの輪郭形状に基づき、当該接合痕17におけるワイヤ接触領域T1r及びワイヤ残存領域T2rの輪郭形状を推定することにより、前記伸び痕あるいは引きずり痕等の影響を受けることなく、ワイヤ接触領域T1r及びワイヤ残存領域T2rの面積、ひいてはワイヤ接合率Eを算出可能となる。このため、ワイヤ接合部18の接合状態を安定して測定し、当該接合状態の良否の判断のばらつきを抑えることができる。
【0075】
(2)ボンディングワイヤの材質がアルミニウムあるいは金等の軟質金属である場合、柔らかく変形しやすいので線径が大きくなるほど前記伸び痕あるいは引きずり痕等が発生しやすい。前述したように、本例の検査方法によれば、接合痕17の検査に際して前記伸び痕あるいは引きずり痕等の影響を受けにくいので、軟質金属により形成されてしかも線径が大きなボンディングワイヤの接合痕17の検査に好適である。
【0076】
(3)本例は、シェアテストの実施前後において、ワイヤ接合部18の中心線O1は変わらない、すなわち、ワイヤ接合部18の中心線と接合痕17の中心線とは一致する、という観点に基づきなされている。そして本例のように、この中心線O1xを基準としてワイヤ接触領域T1r及びワイヤ残存領域T2rを楕円近似することにより、正確な近似楕円が算出可能となる。このため、ワイヤ接触領域T1r及びワイヤ残存領域T2rの面積、ひいてはワイヤ接合率Eの算出精度が高められる。
【0077】
(4)前記伸び痕あるいは引きずり痕等が形成される場合には、先のステップS106あるいはステップS111において、これら伸び痕等も含めて接合痕17のエッジ全体が検出されるおそれも懸念される。この点、本例によれば、接合痕17の画像情報において、ボンディングワイヤの接合部分(ワイヤ接合部18)の存在が検出される領域(検出領域Td)に対応する領域が検査対象領域Tdxとして設定される。そしてこの検査対象領域Tdxの範囲内においてワイヤ接触領域T1r及びワイヤ残存領域T2rのエッジの検出が行われる。このため、前記伸び痕等も含めた接合痕のエッジ全体を検出する場合と異なり、もともと存在していたワイヤの接合部分に対応する部分についてのみエッジ検出を行うだけでよいので、エッジ検出に係る演算負荷が低減される。また、エッジ検出に際して、エッジ検出の対象範囲から前記伸び痕等の大半の部分が排除されることになるので、前記延び痕等の影響はより少ないものとなる。
【0078】
(5)半導体装置16のボンディング面(図1における半導体装置16の上面)とボンディングワイヤとの接合は、ウェッジツールの先端でボンディングワイヤを前記ボンディング面に押さえ付けた状態で当該ボンディングワイヤに対して熱、荷重及び超音波エネルギを印加するウェッジボンディングを通じて行われる。一般に、ウェッジボンディングは、線径の大きなワイヤのボンディングに適用される。線径が大きくなるほど、シェアテストの実施の際には前述した伸び痕あるいは引きずり痕等が発生しやすい。本例のワイヤボンド検査装置によれば、前述したように、こうした伸び痕等の影響を極力排除したかたちでワイヤの接合部分の検査を行うことが可能である。したがって、本例のワイヤボンド検査装置は、ウェッジボンディングによるワイヤの接合部分の検査に好適である。
【0079】
<第2の実施の形態>
次に、本発明の第2の実施の形態を説明する。本実施の形態のワイヤボンド検査装置は、ワイヤ接合部のつぶれ幅(以下、「ワイヤつぶれ幅」という。)に基づき当該ワイヤ接合部の良否判定を行う点で前記第1の実施の形態と異なる。このワイヤつぶれ幅に基づくワイヤボンド検査は非破壊検査である。このため、シェアテスト等の破壊検査と併せて実施する際には、当該破壊検査の前に行われる。本実施の形態のワイヤボンド検査装置は、基本的には先の図1に示される構成と同様の構成を備えてなる。したがって、前記第1の実施の形態と同一の部材構成については同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0080】
本例のワイヤボンド検査装置により実行されるワイヤつぶれ幅に基づくワイヤボンド検査の手順を図6のフローチャート及び図7(a)〜(c)に基づき説明する。当該フローチャートは、記憶装置14aに記憶された検査プログラムに従い実行される。なお、図7(a)に示されるワイヤボンディング直後のワイヤ接合部18の画像情報は、予め記憶装置14aに記憶されている。また、ボンディング角度、ボンディング中心、及びボンディング範囲等の各種の設計値も予め記憶装置14aに記憶されている。ここで、ボンディング角度とは、半導体装置16、正確には、ボンディングパッド等のボンディング面に対するボンディングワイヤの角度をいう。ボンディング中心とは、半導体装置16のボンディング面に対してボンディングワイヤを接合する際の目標位置、すなわちワイヤ接合部18の中心とされる位置をいう。ボンディング範囲とは、ボンディングワイヤを接合すべき範囲、換言すればシェアツールを通じて押圧される範囲をいう。
【0081】
さて、ワイヤボンド検査に際し、制御装置14は、記憶装置14aに記憶された各種の設計値、具体的にはボンディング角度、ボンディング中心、及びボンディング範囲を示す情報を読み込む(ステップS201)。
【0082】
次に、制御装置14は、先のステップS201において読み込んだボンディング角度及びボンディング中心に基づき、ワイヤ接合部の中心線O2を算出する(S202)。
図7(b)に示されるように、中心線O2は、ボンディング中心C2を通り、且つ平面視長方形状(あるいは線状)のワイヤ接合部18の長手方向(図中の上下)へ延びる線分となる。また、図7(a)に示されるように、ボンディング後のワイヤ接合部18は、ウェッジツールを介して押圧されることにより潰されるかたちで塑性変形するところ、当該ワイヤ接合部18の左右のエッジEGl,EGr(図中上下へ延びる両側部)は起伏をなして形成される。この点、例えば画像情報に基づきワイヤ接合部18の中心線を算出する場合と異なり、当該ステップでは設計値のみを使用することにより迅速にワイヤ接合部18の中心線を算出することが可能になる。
【0083】
次に、制御装置14は、ワイヤ接合部18のエッジ検出を行う(ステップS203)。すなわち、図7(b)に示されるように、制御装置14は、先のステップS201において読み込んだボンディング範囲BHにおいて、画像情報の濃度変化等に基づきワイヤ接合部18と半導体装置16(ボンディングパッド等のボンディング面)との境界、すなわちワイヤ接合部18の左側のエッジEGl及び右側のエッジEGrを検出(抽出)する。
【0084】
次に、制御装置14は、先のステップS202において算出されたワイヤ接合部18の中心線O2に対する2本の平行線PLl,PLrを設定する(ステップS204)。図7(b)に示されるように、両平行線PLl,PLrは、中心線O2を間に挟んで互いに反対側に設定される。また、両平行線PLl,PLrは、先のステップS203において抽出された両エッジEGl,EGrの外側に位置するように設定される。すなわち、両平行線PLl,PLrは、それらの間の距離が、予め想定される両エッジEGl,EGr間の取り得る最大の距離よりも大きくなるように設定される。
【0085】
次に、制御装置14は、左側の平行線PLlと左側のエッジEGlとの接触位置を検出する(ステップS205)。すなわち、制御装置14は、左側の平行線PLlを中心線O2に対する平行状態を維持した状態で当該中心線O2に対し接近する方向へ移動させる。そして制御装置14は、図7(c)に示されるように、左側の平行線PLlが左側のエッジEGlに接する位置に当該平行線PLlを固定する。正確には、当該平行線PLlは、左側のエッジEGlにおいて最も突出した部位に接する位置に固定される。
【0086】
次に、制御装置14は、右側の平行線と右側のエッジとの接触位置を検出する(ステップS206)。すなわち、制御装置14は、右側の平行線PLrを中心線O2に対する平行状態を維持した状態で当該中心線O2に対し接近する方向へ移動させる。そして制御装置14は、図7(c)に示されるように、右側の平行線PLrが右側のエッジEGrに接する位置に当該平行線PLrを固定する。正確には、当該平行線PLrは、右側のエッジEGrにおいて最も突出した部位に接する位置に固定される。
【0087】
ここで、先のステップS204では、両平行線PLl,PLrは両エッジEGl,EGrの外側に設定されることから、これらエッジを検出する際には、両平行線PLl,PLrを中心線O2側に移動させるだけでよい。このため、両エッジEGl,EGrの迅速な検出が可能となる。ちなみに、両平行線PLl,PLrを両エッジEGl,EGrの内側に設定した場合には、両平行線PLl,PLrを一旦両エッジEGl,EGrの外側に移動させた後に、中心線O2側へ移動させる必要がある。このため、両平行線PLl,PLrを両エッジEGl,EGrの外側に移動させる分だけ、エッジ検出に時間を要する。
【0088】
なお、先のステップS205及びステップS206における左右のエッジ検出処理は、並行して実施するようにしてもよい。このようにすれば、エッジ検出処理のいっそうの迅速化が図られる。また、先のステップS205及びステップS206における左右のエッジ検出処理は、その処理順序を反対にしてもよい。すなわち、ステップS206の処理をまず実行してからステップS205の処理を実行する。
【0089】
そして制御装置14は、先のステップS205及びステップS206において固定された両平行線PLl,PLr間の距離を、ワイヤつぶれ幅Wとして算出する(ステップS207)。
【0090】
次に、制御装置14は、先のステップS207において算出されたワイヤつぶれ幅Wに基づき、ワイヤ接合部の良否判定を行う(ステップS208)。
すなわち、制御装置14は、先のステップS207において算出したワイヤつぶれ幅Wが定められた許容範囲内の値であるかどうかを判定する。制御装置14は、算出されたワイヤつぶれ幅Wが前記許容範囲内の値である旨判断される場合には、ワイヤ接合部18の接合強度は好適に確保されている、すなわちワイヤ接合部18の接合状態は良好である旨判定する。これに対して、制御装置14は、算出されたワイヤつぶれ幅Wが前記許容範囲から外れている旨判断される場合には、ワイヤ接合部18の接合強度は不適である、すなわちワイヤ接合部18の接合状態は不良である旨判定する。
【0091】
そして制御装置14は、先のステップS208におけるワイヤ接合部18の良否判定の結果を表示装置15の画面上に表示させて(ステップS209)、当該検査処理を終了する。
【0092】
なお、先のステップS208における良否判定、及び先のステップS209における良否判定の結果表示に係る処理は省略して実施することも可能である。この場合には、例えば先のステップS207において算出されるワイヤつぶれ幅Wの値を表示装置15の画面上に表示させて当該フローチャートに係る処理を終了する。このようにした場合であれ、検査員等は、表示装置15の画面上に表示されるワイヤつぶれ幅Wの確認等を通じて、ワイヤ接合部の良否判断を行うことが可能である。
【0093】
したがって、本実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)ワイヤつぶれ幅Wに基づくワイヤボンド検査に際して、設計値に基づき算出されるワイヤ接合部18の中心線O2に平行をなす2本の平行線PLl,PLrを設定し、これら平行線PLl,PLrをワイヤ接合部18の左右のエッジEGl,EGrに接触させたときの両平行線PLl,PLr間の距離をワイヤつぶれ幅Wとして算出する。この算出されるワイヤつぶれ幅Wが定められた許容範囲内の値である旨判断される場合にはワイヤ接合部18の接合状態は良好であると判定される。これに対し、算出されるワイヤつぶれ幅Wが定められた許容範囲から外れる値である旨判断される場合にはワイヤ接合部18の接合状態は不良であると判定される。
【0094】
この検査方法によれば、ワイヤ接合部18の中心線O2に平行をなす平行線PLl,PLrをワイヤ接合部18のエッジEGl,EGrに接触させたときの平行線PLl,PLr間の距離をワイヤつぶれ幅Wとすることにより、ワイヤつぶれ幅Wを安定して測定することができる。ひいてはワイヤ接合部18の良否判定の結果も安定する。
【0095】
前述したように、ワイヤ接合部のエッジ形状は起伏をなし、しかも製品毎に微妙に形状が異なる。ワイヤつぶれ幅Wを例えば目視を通じて測定することも考えられるものの、この場合にはワイヤつぶれ幅Wの測定結果のばらつきが大きくなることが懸念される。例えば、同一の製品を測定した場合であれ、測定する毎に算出されるワイヤつぶれ幅Wが異なるおそれがある。この点、本例によれば、平行線PLl,PLrとエッジEGl,EGrとが接触するときの平行線PLl,PLr間の距離をワイヤつぶれ幅Wとして定義することにより、同一製品を測定したときには確実に同一の結果が得られる。すなわち、ワイヤつぶれ幅Wを安定して測定することができる。
【0096】
(2)また、撮影したワイヤ接合部18の画像処理データに基づきそのエッジEGl,EGr間の距離を座標計算等に基づき直接的に算出することも考えられるところ、この場合にはワイヤつぶれ幅Wの算出に係る演算負担の増大が懸念される。これは前述したように、ワイヤ接合部18のエッジ形状は複雑な起伏をなし、しかも製品毎に微妙に形状が異なることに起因する。この点、本例では、2本の平行線PLl,PLr間の距離を算出するだけでよいので、ワイヤつぶれ幅Wの算出に係る演算負荷を最小限に抑えることができる。
【0097】
(3)設計値のみからワイヤ接合部18の中心線O2を設定することができる。このため、中心線O2に対する平行線PLl,PLrの設定処理、及びワイヤ接合部18のエッジ検出処理を迅速に行うことができる。したがって、ワイヤつぶれ幅Wの算出処理も迅速に行われるので、ワイヤつぶれ幅Wに基づくワイヤボンド検査の処理効率が向上する。
【0098】
ちなみに、撮像装置13により撮影されたワイヤ接合部18の画像データと、記憶装置14aに予め記憶した基準データ(形状データ)との比較を通じてワイヤ接合部18の接合状態の良否判定を行うことも考えられるところ、この場合にはある程度の処理時間を要する。例えば実際のワイヤ接合部18の画像データと基準データ(良好な接合状態で接合されたワイヤ接合部の形状パターン)との重複部分あるいは非重複部分の面積等を算出し、当該算出される面積等に基づきワイヤ接合部の良否判定を行うことが考えられる。しかしこの場合には重複部分あるいは非重複部分の抽出処理、及び当該抽出される重複部分あるいは非重複部分の面積演算等が必要となることから、演算負荷の増大、及びワイヤつぶれ幅の算出に時間を要する等の問題が懸念される。この点、本例によれば、前述したように、2本の平行線PLl,PLr間の距離を算出するだけでよいので、演算負荷の抑制、及びワイヤつぶれ幅の算出に要する時間の短縮化が可能となる。
【0099】
(4)本例のワイヤつぶれ幅に基づくワイヤボンド検査方法は、非接触、非破壊検査であるから、製品の製造工程内において全数検査を行うことができる。ひいては、製造される製品の信頼性を確保することが可能となる。
【0100】
<他の実施の形態>
なお、前記両実施の形態は、次のように変更して実施してもよい。
・ワイヤ接合率Eに基づく検査を行う検査装置、ワイヤつぶれ幅Wに基づく検査を行う検査装置として、それぞれ独立した装置として構成してもよいし、両方の検査を行う単一の検査装置として構成してもよい。また、シェアテスト、プルテスト等の検査も実施できる構成とすることも可能である。
【0101】
・第1の実施の形態において、基準データの算出処理(図3のフローチャートにおけるステップS101〜ステップS103)を省略してもよい。この場合には、例えば接合痕17の軸方向において、最も距離の大きい部分を接合痕17の中心線として設定する。このようにしても、接合状態の良否判定精度をある程度は維持可能である。なお、当該中心線の設定処理は、ステップS105あるいはステップS111のエッジ検出処理の後に実行することが好ましい。
【0102】
・第1及び第2の実施の形態において、ボールボンディングによるワイヤ接合部の検査を実施することも可能である。また、線径が100μm未満のボンディングワイヤによるワイヤ接合部の検査を実施することも可能である。
【0103】
・第1の実施の形態において、実際のワイヤ接触領域が円を描く場合や、実際のワイヤ残存領域が円をなす場合も想定されるところ、これらの場合であれ前述した推定楕円の算出処理を通じて、ワイヤ接触領域あるいはワイヤ残存領域の面積を正確に算出可能である。
【0104】
<他の技術的思想>
次に、前記実施の形態から把握できる技術的思想を以下に追記する。
・ワイヤつぶれ幅に基づく検査に際して、設計値に基づき算出されるワイヤ接合部の中心線に平行をなす2本の平行線を設定し、これら平行線を前記中心線と直交する方向へ移動させてワイヤ接合部の左右のエッジに接触させ、このときの平行線間の距離をワイヤつぶれ幅として算出すること。当該思想によれば、ワイヤ接合部の左右のエッジに接する2つの平行線により安定したワイヤつぶれ幅を算出することが可能になる。
【符号の説明】
【0105】
11…ワイヤボンド検査装置、13…撮像装置、14…制御装置、17…接合痕、18…ワイヤ接合部(接合部分)、E…ワイヤ接合率、EG1,EG2…エッジ、EGl,EGr…エッジ、L1y,L1x…距離、L2y,L2x…距離、Lp1,Lp2…垂線、O1,O1x…中心線、P1,P2…等分点、S1…ワイヤ接触面積、S2…ワイヤ残存面積、Td…検出領域、Tdx…検査対象領域、T1r…ワイヤ接触領域、T2r…ワイヤ残存領域、EG1,EG2…エッジ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボンディング面とワイヤとの接合部分をその側方から前記ボンディング面に対して水平に変位されるシェアツールにより押圧して前記接合部分が剪断されたときの強度を測定するシェアテストの実施を通じて前記ボンディング面上に形成される前記接合部分の接合痕の状態に基づき当該接合部分の接合状態を検査するワイヤボンド検査装置において、
前記ワイヤが接触していた痕跡部分である接触領域、及び当該接触領域に含まれる領域であって前記ワイヤが好適に接合されていた痕跡部分として前記ワイヤの一部分が残存する残存領域を含んで形成される前記接合痕を撮影する撮像装置と、
前記撮像装置により撮影される前記接合痕の画像情報に基づき、前記接触領域及び前記残存領域における前記シェアツールが近接する側のエッジをそれぞれ検出し、これらエッジの輪郭形状に基づき前記接触領域及び前記残存領域を楕円近似するとともに、これら近似楕円の面積を前記接触領域の面積である接触面積及び前記残存領域の面積である残存面積として算出し、前記接触面積に対する前記残存面積の比の値であるワイヤ接合率を前記接合部分の検査の用に供される情報として算出する制御装置とを備えてなるワイヤボンド検査装置。
【請求項2】
請求項1に記載のワイヤボンド検査装置において、
前記ワイヤは、軟質金属により形成されるとともに、少なくとも100μmの線径を有してなるワイヤボンド検査装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のワイヤボンド検査装置において、
前記制御装置は、前記撮像装置により撮影される前記シェアテスト実施前の前記接合部分の画像情報に基づき、前記シェアツールが近接する方向に対して直交する方向へ伸びる前記接合部分の中心線を算出するとともに、この算出される中心線を前記シェアテスト実施後の前記接合痕の画像情報に重ね合わせることにより当該接合痕の中心線を設定し、
前記接合痕の中心線と前記接触領域及び前記残存領域のエッジとの交点間の距離、並びに、前記接合痕の中心線を複数等分する等分点と、これら等分点を通り且つ前記接合痕の中心線に直交する垂線と前記接触領域及び前記残存領域のエッジとの交点との間の距離に基づき、前記接触領域及び前記残存領域を楕円近似するワイヤボンド検査装置。
【請求項4】
請求項3に記載のワイヤボンド検査装置において、
前記制御装置は、前記接合部分の画像情報に基づき、当該接合部分の軸方向へ伸び且つ互いに反対側に位置する2つのエッジを検出し、これらエッジを含み当該エッジに沿って延びる長方形状の領域を前記接合部分の存在が検出される検出領域として設定するとともに、当該検出領域の短辺を等分する直線を前記接合部分の中心線として設定し、これら算出される接合部分の検出領域及び中心線を前記接合痕の画像情報に重ね合わせることにより、当該検出領域及びその中心線を前記接合痕の検査対象領域及びその中心線として設定し、当該接合痕の検査対象領域の範囲内において前記接触領域及び前記残存領域のエッジをそれぞれ検出するワイヤボンド検査装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のうちいずれか一項に記載のワイヤボンド検査装置において、
前記ボンディング面とワイヤとの接合は、前記シェアツールとは別のツールの先端でワイヤを前記ボンディング面に押さえ付けた状態で当該ワイヤに対して熱、荷重及び超音波エネルギを印加することにより行われてなるワイヤボンド検査装置。
【請求項6】
ボンディング面とワイヤとの接合部分をその側方から前記ボンディング面に対して水平に変位されるシェアツールにより押圧して前記接合部分が剪断されたときの強度を測定するシェアテストの実施を通じて前記ボンディング面上に形成される前記接合部分の接合痕の状態に基づき当該接合部分の接合状態を検査するワイヤボンド検査方法において、
前記ワイヤが接触していた痕跡部分である接触領域、及び当該接触領域に含まれる領域であって前記ワイヤが好適に接合されていた痕跡部分として前記ワイヤの一部分が残存する残存領域を含んで形成される前記接合痕を撮像装置により撮影し、この撮影される前記接合痕の画像情報に基づき、前記接触領域及び前記残存領域における前記シェアツールが近接する側のエッジをそれぞれ検出し、これら検出される前記エッジの輪郭形状に基づき前記接触領域及び前記残存領域を楕円近似する第1の検査段階と、
前記第1の段階において算出される近似楕円の面積を前記接触領域の面積である接触面積及び前記残存領域の面積である残存面積として算出し、前記接触面積に対する前記残存面積の比の値であるワイヤ接合率を前記接合部分の検査の用に供される情報として算出する第2の検査段階とを備えてなるワイヤボンド検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−29275(P2011−29275A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−171435(P2009−171435)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】