説明

ワークの分割方法および貼合せ基板の分割方法

【課題】チッピングやカケ等を生じさせることなく、簡易な構成でワークを適切に分割する。
【解決手段】脆性を有する薄板状のワークWSに対し、分割線1上に位置してスクライブ溝2を形成し、形成したスクライブ溝2に、ワークWSより熱膨張係数の高いペースト状のブレーク媒体3を塗着し、塗着したブレーク媒体3を硬化させ、硬化後のブレーク媒体3を加熱して、ブレーク媒体3の膨張力によりワークWSを分割する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脆性を有する薄板状のワークの分割方法および貼合せ基板の分割方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス基板等の脆性を有する薄板状のワークの分割方法として、いわゆるスクライブ・ブレーク法が行われている。すなわち、ダイヤモンドカッター等により分割線(切断予定線)に沿ってワーク表面にスクライブ溝を形成した後、ゴムローラ等から成るブレーク用治具によりワークを裏面側から押圧して曲げ応力を加え、ワークを分割するものである(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開2003−34543号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来のスクライブ・ブレーク法では、押圧時の衝撃によるチッピングやカケ等の不良が生ずるという問題があった。これに対し、ゴムローラの押圧力、押圧量等の押圧条件を調整することが考えられるが、ワークの材質、厚さ、スクライブ溝の深さ等によって適切な押圧条件が異なるため、これを精度良く調整することは困難であった。特に、2枚の基板を貼り合わせたものについては、一方の基板を分割するために一方の側から曲げ応力を加えた後、他方の基板を分割するために他方の側から基板に曲げ応力を加えることになるため、よりチッピングやカケ等が生じやすく、生産性も低かった。
【0004】
本発明は、チッピングやカケ等を生じさせることなく、簡易な構成でワークを適切に分割することができるワークの分割方法および貼合せ基板の分割方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のワークの分割方法は、脆性を有する薄板状のワークに対し、分割線上に位置してスクライブ溝を形成する溝形成工程と、形成したスクライブ溝に、ワークより熱膨張係数の高いペースト状のブレーク媒体を塗着する塗着工程と、塗着したブレーク媒体を硬化させる硬化工程と、硬化後のブレーク媒体を加熱して、ブレーク媒体の膨張力によりワークを分割する分割工程と、を備えたことを特徴とする。
【0006】
この構成によれば、ワークより熱膨張率の高いブレーク媒体をスクライブ溝に塗着(密着)させ、硬化後に加熱すると、ブレーク媒体がワークよりも膨張する。このブレーク媒体の膨張力により、塗着部位(スクライブ溝)に歪み応力が生ずる。歪み応力がスクライブ溝に均一に作用することにより、ワークが分割線で安定して分割される。したがって、スクライブ溝に塗着・硬化させたブレーク媒体を加熱するという簡易な構成により、チッピングやカケ等を生じさせることなく、ワークを適切に分割することができる。
なお、ブレーク媒体は、スクライブ溝の全体に塗着してもよいし、部分的に(例えば等間隔に複数箇所、あるいは両端部)塗着してもよい。さらに、ワークの全面に塗着することも可能である。
【0007】
この場合、スクライブ溝は、分割線上において、ワークの表裏両面に形成されることが好ましい。
【0008】
この構成によれば、ワークの表裏両面に形成したスクライブ溝にそれぞれブレーク媒体を塗着させ、硬化後に加熱すると、ブレーク媒体がワークよりも膨張する。このブレーク媒体の膨張力により、塗着部位(表裏両面のスクライブ溝)に歪み応力が生ずる。歪み応力が表裏両面のスクライブ溝に均一に作用することにより、ワークがより安定的に分割される。したがって、分割によりチッピングやカケ等が生ずることを、より確実に防止することができる。
【0009】
本発明の他のワークの分割方法は、脆性を有する薄板状のワークに対し、分割線上に位置してワークの表裏一方の面にスクライブ溝を形成する溝形成工程と、ワークの表裏他方の面に、形成したスクライブ溝に沿ってワークより熱膨張係数の高いペースト状のブレーク媒体を塗着する塗着工程と、塗着したブレーク媒体を硬化させる硬化工程と、硬化後のブレーク媒体を加熱して、ブレーク媒体の膨張力によりワークを分割する分割工程と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、スクライブ溝の裏側に、ワークより熱膨張率の高いブレーク媒体を塗着させ、硬化後に加熱すると、ブレーク媒体がワークよりも膨張する。このブレーク媒体の膨張力により、塗着部位(スクライブ溝の反対側)に歪み応力が生ずる。歪み応力がスクライブ溝に均一に作用することにより、ワークが分割線で安定して分割される。したがって、スクライブ溝に塗着・硬化させたブレーク媒体を加熱するという簡易な構成により、チッピングやカケ等を生じさせることなく、ワークを適切に分割することができる。
【0011】
本発明の他のワークの分割方法は、脆性を有する薄板状のワークに対し、分割線上に位置してレーザー光による変質部を形成する変質部形成工程、形成した変質部に、ワークより熱膨張係数の高いペースト状のブレーク媒体を塗着する塗着工程と、塗着したブレーク媒体を硬化させる硬化工程と、硬化後のブレーク媒体を加熱して、ブレーク媒体の膨張力によりワークを分割する分割工程と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、レーザー光により強度が低下した(脆くなった)変質部に、ワークより熱膨張率の高いブレーク媒体を塗着させ、硬化後に加熱すると、ブレーク媒体がワークよりも膨張する。このブレーク媒体の膨張力により、塗着部位(変質部)に歪み応力が生ずる。この歪み応力が変質部に均一に作用することにより、ワークが分割線で安定して分割される。したがって、変質部に塗着・硬化させたブレーク媒体を加熱するという簡易な構成により、チッピングやカケ等を生じさせることなく、ワークを適切に分割することができる。
【0013】
これらの場合、ブレーク媒体が、溶融した金属、および金属ペーストのいずれかであることが好ましい。
【0014】
この構成によれば、ブレーク媒体は、硬化した後、ワークに対して適度な密着性を有する。このため、熱膨張をさせたときに、ワークに歪み応力を的確に作用させることができ、ワークを確実且つ安定して分割することができる。
【0015】
本発明の他のワークの分割方法は、脆性を有する薄板状のワークに対し、分割線上の両端部に位置して一対の貫通穴を形成する貫通穴形成工程と、形成した一対の貫通穴に、ワークより熱膨張係数の高いブレーク媒体をそれぞれ嵌合する媒体嵌合工程と、嵌合した一対のブレーク媒体を加熱して、一対のブレーク媒体の膨張力によりワークを分割する分割工程と、を備えたことを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、一対の貫通穴に、ワークよりも熱膨張率の高いブレーク媒体をそれぞれ嵌合させ、これを加熱すると、ブレーク媒体がワークよりも膨張する。このブレーク媒体の膨張力により、一対の貫通穴に歪み応力が生ずる。この歪み応力がワークの分割線上に均一に作用することにより、ワークが分割線で安定して分割される。したがって、一対の貫通穴に嵌合させたブレーク媒体を加熱するという簡易な構成により、チッピングやカケ等を生じさせることなく、ワークを適切に分割することができる。さらに、加熱ヘッド等によりブレーク媒体を直接加熱すれば、ワークに対する熱の影響を極力少なくすることが可能となる。
【0017】
本発明の他のワークの分割方法は、脆性を有する薄板状のワークに対し、分割線上の両端部に位置して一対の楔状溝を形成する楔状溝形成工程と、形成した一対の楔状溝に、ワークより熱膨張係数が高く且つ楔状溝と相補的楔形状を有するブレーク媒体をそれぞれ嵌合させる媒体嵌合工程と、嵌合した一対のブレーク媒体を加熱して、一対のブレーク媒体の膨張力によりワークを分割する分割工程と、を備えたことを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、一対の楔状溝に、ワークよりも熱膨張率の高いブレーク媒体をそれぞれ嵌合させ、これを加熱すると、ブレーク媒体がワークよりも膨張する。このブレーク媒体の膨張力により、一対の楔状溝に歪み応力が生ずる。この歪み応力がワークの分割線上に均一に作用することにより、ワークが分割線で安定して分割される。したがって、一対の楔状溝に嵌合させたブレーク媒体を加熱するという簡易な構成により、チッピングやカケ等を生じさせることなく、ワークを適切に分割することができる。さらに、加熱ヘッド等によりブレーク媒体を直接加熱すれば、ワークに対する熱の影響を極力少なくすることが可能となる。
【0019】
これらの場合、媒体嵌合工程の前に、ワークに対し、分割線上に位置してレーザー光による変質部を形成する変質部形成工程を、さらに備えたことが好ましい。
【0020】
この構成によれば、予め分割線上に変質部を形成しておくことで、ブレーク媒体の膨張による歪み応力が、強度の低い変質部に作用することになる。このため、ワークがより安定的に分割される。したがって、分割によりチッピングやカケ等が生ずることを、より確実に防止することができる。
【0021】
これらの場合、一対のブレーク媒体は、保持部材に一体に保持されていることが好ましい。
【0022】
この構成によれば、加熱ヘッド等により保持部材を介して一対のブレーク媒体を加熱すれば、ワークに対する熱の影響を極力少なくすることができると共に、一対のブレーク媒体を均一に加熱し、膨張させることが可能となり、適切にワークを分割することができる。
【0023】
本発明の他のワークの分割方法は、脆性を有する薄板状のワークに対し、分割線上に位置してスクライブ溝を形成する溝形成工程と、形成したスクライブ溝に、ワークより熱膨張係数が高く且つスクライブ溝と相補的形状を有するブレーク媒体を嵌合させる媒体嵌合工程と、嵌合したブレーク媒体を加熱して、ブレーク媒体の膨張力によりワークを分割する分割工程と、を備えたことを特徴とする。
【0024】
この構成によれば、スクライブ溝に、ワークよりも熱膨張率の高いブレーク媒体を嵌合させ、これを加熱すると、ブレーク媒体がワークよりも膨張する。このブレーク媒体の膨張力により、スクライブ溝に歪み応力が生ずる。この歪み応力がスクライブ溝に作用することにより、ワークが分割線で安定して分割される。したがって、スクライブ溝に嵌合させたブレーク媒体を加熱するという簡易な構成により、チッピングやカケ等を生じさせることなく、ワークを適切に分割することができる。さらに、加熱ヘッド等によりブレーク媒体を直接加熱すれば、ワークに対する熱の影響を極力少なくすることが可能となる。
【0025】
この場合、ブレーク媒体は、保持部材に保持されていることが好ましい。
【0026】
この構成によれば、複数のブレーク媒体を加熱する場合に、加熱ヘッド等により保持部材を介して複数のブレーク媒体を加熱すれば、ワークに対する熱の影響を極力少なくすることができると共に、複数のブレーク媒体を均一に加熱し、膨張させることが可能となり、適切にワークを分割することができる。
【0027】
これらの場合、ブレーク媒体は、磁性体で構成されており、分割工程では、ブレーク媒体を電磁誘導加熱することが好ましい。
【0028】
この構成によれば、基板を加熱することなく、ブレーク媒体を選択的に加熱することができる。このため、ワークに対する熱の影響を極力少なくしたい場合に、特に有用である。
【0029】
これらの場合、ワークが、複数のパネルを作り込んだガラス基板であることが好ましい。
【0030】
この構成によれば、チッピングやカケ等の不良のないパネルを得ることができる。さらに、一度に複数個の分割が可能となるため、生産性が向上する。なお、パネルとは、例えば、液晶パネル等のフラットパネルディスプレイ(FPD)である。
【0031】
またこれらの場合、ワークが、複数のチップを作り込んだ半導体ウエハであることが好ましい。
【0032】
この構成によれば、チッピングやカケ等の不良のないチップを得ることができる。さらに、一度に複数個の分割が可能となるため、生産性が向上する。しかも、半導体ウエハの分割処理(ダイシング)では、通常、ダイヤモンドカッター等によるカット中のウエアを保持すべく、ダイシングテープ(エキスパンドタイプ)が用いられるが、本構成によれば、これが不要となり、ランニングコストの低減を図ることができる。
【0033】
本発明の貼合せ基板の分割方法は、脆性を有する薄板状の2枚の基板を貼り合わせた貼合せ基板に対し、各基板の分割線上に位置して表裏両面にスクライブ溝をそれぞれ形成する溝形成工程と、形成したスクライブ溝に、ワークより熱膨張係数の高いペースト状のブレーク媒体をそれぞれ塗着する塗着工程と、塗着したブレーク媒体をそれぞれ硬化させる硬化工程と、硬化後の両ブレーク媒体を同時に加熱して、両ブレーク媒体の膨張力により貼合せ基板を分割する分割工程と、を備えたことを特徴とする。
【0034】
この構成によれば、各基板よりも熱膨張率の高いブレーク媒体をスクライブ溝に塗着(密着)させ、硬化後に加熱すると、ブレーク媒体がワークよりも膨張する。このブレーク媒体の膨張力により、塗着部位(各スクライブ溝)に歪み応力が生ずる。歪み応力が各スクライブ溝に均一に作用することにより、各基板が分割線で安定して分割される。したがって、スクライブ溝に塗着・硬化させたブレーク媒体を加熱するという簡易な構成により、チッピングやカケ等を生じさせることなく、貼合せ基板を適切に分割することができる。しかも、表裏両側から曲げ応力を加える構成とは異なり、2枚の基板を同時に分割することができるため、生産性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、添付の図面を参照して、本発明に係るワークの分割方法および貼合せ基板の分割方法を適用した基板分割システムについて説明する。この基板分割システムは、液晶パネルの製造ラインに組み込まれており、複数の液晶パネルを作り込んだガラス基板(マザー基板)を、個々の液晶パネルに分割するためのものである。このガラス基板は、石英、ホウケイ酸、ソーダガラス等から成る脆性を有するものであって、薄板状に構成されている。
【0036】
図1に示すように、基板分割システム10は、ガラス基板WSを給材位置から除材位置に搬送する搬送装置11と、その搬送経路に臨む3台の装置、すなわち、工程順に、ガラス基板WS(ワーク)に対してスクライブ溝2を形成するスクライブ装置12と、形成したスクライブ溝2に銀ペースト3(ブレーク媒体)を塗着する塗着装置13と、塗着したブレーク媒体22が硬化した後、ブレーク媒体22を加熱する加熱装置14とを備えている。
【0037】
搬送装置11は、金属メッシュベルトを用いたベルトコンベア等で構成されている。図示しないが、スクライブ装置12および塗着装置13には、これらと搬送装置11との間でガラス基板WSを移載する移載装置が添設されている。なお、搬送装置11は他の構成であってもよく、例えば、ガラス基板WSをコロ搬送するものであってもよい。
【0038】
スクライブ装置12は、ダイヤモンドカッター16や、セットしたガラス基板WSに対してダイヤモンドカッター16を相対的に移動させる移動機構(図示省略)等を有している。これにより、ガラス基板WSに対し、分割線1(分割予定線)に沿って直線状のスクライブ溝2が縦横に(罫線状に)形成される。
【0039】
塗着装置13は、先端のノズルから、銀ペースト3を吐出するディスペンサー17と、セットしたガラス基板WSに対してディスペンサー17を相対的に移動させる移動機構(図示省略)等を有している。これにより、各スクライブ溝2の全面に銀ペースト3が塗着(塗布)される。各スクライブ溝2に対しては、銀ペースト3を等間隔に複数箇所塗着してもよく、あるいは各スクライブ溝2の両端部に塗着してもよい。なお、ここではディスペンサー17を用いたが、他の方法により銀ペースト3をパターン塗布してもよく、例えばスクリーン印刷法を用いることができる。さらに、ガラス基板WSの全面に銀ペースト3を塗布することで、各スクライブ溝2にこれを塗着させてもよく、この場合にはパターン塗布が不要となるため、簡易に行うことができる。
【0040】
なお、スクライブ溝2に塗着するブレーク媒体としては、ガラス基板WSの材質(石英、ホウケイ酸、ソーダガラス等)よりも熱膨張係数の高い材質(アルミ、銀、金、クロム、亜鉛、鉄、ニッケル等の金属、樹脂等)から成るものであればよい。さらに、硬化した後、ガラス基板WSに対して適度な密着性を有し、熱膨張をさせたときに、ガラス基板WSに歪み応力を的確に作用させるものが好ましい。したがって、銀ペーストのほか、銅ペースト、はんだペースト等の金属ペーストを好的に用いることができる。また、固体の金属を火炎にて溶融し、塗着させてもよい。
【0041】
塗着装置13により塗着された銀ペースト3は、加熱装置14に達するまでに溶媒が蒸発し(溶融した金属ならば冷えて)、硬化する。これにより、ガラス基板WSは、スクライブ溝2に銀ペースト3が適度に密着した状態となる。なお、銀ペースト3がはやく硬化するように、塗着装置13と加熱装置14との間に、非加熱式の乾燥装置を設けてもよい。
【0042】
加熱装置14は、赤外線ヒータ18等で構成されており、搬送されてくるガラス基板WSを加熱するものである。これにより、ガラス基板WSが熱膨張するが、それよりも熱膨張係数の高い銀ペースト3は、それ以上に膨張する。なお、加熱装置14としては、温風ヒータやハロゲンヒータ等を用いてもよい。さらに、本実施形態の銀ペースト3のように、ブレーク媒体として磁性体のものを用いた場合には、電磁誘導加熱方式のものを用いてもよい。これによれば、ガラス基板WSを加熱することなく、硬化した銀ペースト3を選択的に加熱することができる。このため、ガラス基板WSに対する熱の影響を極力少なくしたい場合に、特に有用である。
【0043】
ガラス基板WSは、このように構成された基板分割システム10により、複数の液晶パネルPに分割される。すなわち、まず、スクライブ装置12により、ガラス基板WSに対して複数のスクライブ溝2が形成される。次に、塗着装置13により、各スクライブ溝2に銀ペースト3が塗着される。塗着した銀ペースト3は、加熱装置14に達するまでに硬化する。そして、加熱装置14により、硬化後の銀ペースト3が加熱される。
【0044】
これによれば、熱膨張係数の高い銀ペースト3がガラス基板WSよりも膨張する。この銀ペースト3の膨張力により、各スクライブ溝2に歪み応力が生ずる。歪み応力が各スクライブ溝2に均一に作用することにより、ガラス基板WSが分割線1で安定して分割される。したがって、スクライブ溝2に塗着・硬化させた銀ペースト3を加熱するという簡易な構成により、チッピングやカケ等を生じさせることなく、ガラス基板WSを適切に分割し、分割面のきれいな液晶パネルPを得ることができる。なお、分割後には、銀ペースト3を個々の液晶パネルPから取り除くようにする。
【0045】
図2に示すように、スクライブ溝2を、分割線1上において、ガラス基板WSの表裏両面にそれぞれ複数形成し、表裏両面の各スクライブ溝2にそれぞれ銀ペースト3を塗着させ、硬化後に加熱してもよい。この銀ペースト3の膨張により、表裏両面の各スクライブ溝2に歪み応力が生ずる。歪み応力が表裏両面の各スクライブ溝2に均一に作用することにより、ガラス基板WSがより安定的に分割される。したがって、分割によりチッピングやカケ等が生ずることを、より確実に防止することができる。なお、この場合には、加熱装置14を、ガラス基板WSの表裏両面から均一に加熱可能な構成とすることが好ましい。
【0046】
図3に示すように、ガラス基板WSに対し、分割線1上に位置してガラス基板WSの表面に複数のスクライブ溝2を形成し、ガラス基板WSの裏面に形成した各スクライブ溝2に沿って銀ペースト3を塗着させ、硬化後に加熱してもよい。これによれば、銀ペースト3がガラス基板WSよりも膨張する。この銀ペースト3の膨張力により、各スクライブ溝2の裏側に歪み応力が生ずる。歪み応力が各スクライブ溝2に均一に作用することにより、ガラス基板WSが分割線1で安定して分割される。したがって、この場合も、スクライブ溝2に塗着・硬化させた銀ペースト3を加熱するという簡易な構成により、チッピングやカケ等を生じさせることなく、ガラス基板WSを適切に分割することができる。
【0047】
図4に示すように、上記の塗着装置13および加熱装置14に代えて、ブレークユニット21を用いて、ガラス基板WSの分割を行ってもよい。ブレークユニット21は、スクライブ溝2と相補的形状を有する複数のブレーク媒体22と、複数のブレーク媒体22を保持する保持部材23と、保持部材23を加熱する加熱ヘッド(図示省略)とを有しており、各ブレーク媒体22を、ガラス基板WSより熱膨張係数が高い金属製のもので構成し、加熱ヘッドにより保持部材23を加熱することで、複数のブレーク媒体22を均一に加熱できるものである。
【0048】
複数のスクライブ溝2に、ブレーク媒体22をそれぞれ嵌合させ、これを加熱すると、各ブレーク媒体22がガラス基板WSよりも膨張する。この各ブレーク媒体22の膨張力により、各スクライブ溝2に歪み応力が生ずる。歪み応力が各スクライブ溝2に均一に作用することにより、ガラス基板WSが分割線1で安定して分割される。したがって、この場合も、スクライブ溝2に嵌合させたブレーク媒体22を加熱するという簡易な構成により、チッピングやカケ等を生じさせることなく、ガラス基板WSを適切に分割することができる。
【0049】
しかもこの場合、加熱ヘッドにより保持部材23を介して複数のブレーク媒体22を加熱することで、ガラス基板WSに対する熱の影響を極力少なくすることができると共に、複数のブレーク媒体22を均一に加熱し、膨張させることが可能となり、適切にガラス基板WSを分割することができる。
【0050】
このような基板分割システム10による基板の分割方法は、2枚の基板を貼り合せた貼合せ基板に対する分割を行う場合に、特に効果的である。図5に示すように、この貼合せ基板WWは、アレイ基板Wa(TFTアレイ基板)と、CF基板Wc(カラーフィルター基板)とを貼り合せたものであり、これら2枚の基板は、それぞれ脆性を有し且つ薄板状に構成されたガラス基板等で構成されている。
【0051】
貼合せ基板WWに対し、まず、スクライブ装置12により、アレイ基板Waの分割線1上に位置してスクライブ溝2を形成し、反転後、CF基板Wcの分割線1上に位置してスクライブ溝2を形成する。次に、塗着装置13により、CF基板Wcに形成したスクライブ溝2に銀ペースト3が塗着される。硬化後反転し、アレイ基板Waに形成したスクライブ溝2に銀ペースト3が塗着される。アレイ基板Waに塗着した銀ペースト3も、加熱装置14に達するまでに硬化する。そして、加熱装置14により、硬化後の銀ペースト3が加熱され、膨張する。なお、スクライブ溝2の形成および銀ペースト3の塗着は、アレイ基板WaおよびCF基板Wcのいずれから行ってもよい。
【0052】
これによれば、銀ペースト3がアレイ基板WaおよびCF基板Wcよりも膨張する。この銀ペースト3の膨張力により、各スクライブ溝2に歪み応力が生ずる。歪み応力が各スクライブ溝2に均一に作用することにより、アレイ基板WaおよびCF基板Wcが分割線1で安定して同時に分割される。したがって、スクライブ溝2に塗着・硬化させた銀ペースト3を加熱するという簡易な構成により、チッピングやカケ等を生じさせることなく、貼合せ基板WWを適切に分割することができる。しかも、表裏両側から曲げ応力を加える構成とは異なり、アレイ基板WaおよびCF基板Wcを同時に分割することができるため、生産性の向上を図ることができる。なお、アレイ基板Waの分割線1とCF基板Wcの分割線1とは、平面視相互に一致していてもよいし、相互にずれていてもよい。
【0053】
続いて、基板分割システムの他の実施形態について説明する。第2実施形態の基板分割システムは、第1実施形態の基板分割システムと略同様に構成されているが、第1実施形態では、ガラス基板にスクライブ溝を形成するためのスクライブ装置を備えているのに対し、ガラス基板にレーザー光による変質部を形成するための変質部形成装置を備えている点で相違する。以下、相違点を中心に説明する。
【0054】
図6に示すように、第2実施形態の基板分割システム30は、第1実施形態と同様に、塗着装置33、加熱装置34および搬送装置31を備えているほか、スクライブ装置に代えて、変質部形成装置32を備えている。すなわち、搬送経路に対し、変質部形成装置32、塗着装置33および加熱装置34が、この順で臨んでいる。
【0055】
変質部形成装置32は、フェムト秒レーザー等を照射するレーザー照射ヘッド36と、セットしたガラス基板WSに対してレーザー照射ヘッド36を相対的に移動させる移動機構(図示省略)等を有している。レーザー光をガラス基板WSに照射すると、照射された部分が、強度の低下した変質部6となる。これにより、ガラス基板WSに対し、分割線1(分割予定線)に沿って直線状の変質部6が縦横に形成される。
【0056】
ガラス基板WSは、このように構成された基板分割システム30により、複数の液晶パネルPに分割される。すなわち、まず、変質部形成装置32により、ガラス基板WSに対して変質部6が形成される。次に、塗着装置33により、変質部6に銀ペースト3が変質部6よりも広幅に塗着される。塗着した銀ペースト3は、加熱装置34に達するまでに硬化する。そして、加熱装置34により、硬化後の銀ペースト3が加熱される。
【0057】
これによれば、熱膨張係数の高い銀ペースト3がガラス基板WSよりも膨張する。この銀ペースト3の膨張力により、変質部6に歪み応力が生ずる。歪み応力が変質部6に均一に作用することにより、ガラス基板WSが分割線1で安定して分割される。したがって、変質部6に塗着・硬化させた銀ペースト3を加熱するという簡易な構成により、チッピングやカケ等を生じさせることなく、ガラス基板WSを適切に分割することができる。
【0058】
図7および図8に示すように、予めガラス基板WSに一対の貫通穴7や一対の楔状溝8を形成すると共に、上記の塗着装置33および加熱装置34に代えてブレークユニット41を用いて、ガラス基板WSの分割を行ってもよい。ブレークユニット41は、一対の貫通穴7と相補的形状を有する一対の貫通用ブレーク媒体42、または一対の楔状溝8と相補的形状を有する一対の楔用ブレーク媒体43と、一対の貫通用ブレーク媒体42または一対の楔用ブレーク媒体43を保持する保持部材44と、保持部材44を加熱する加熱ヘッド(図示省略)とを有している。ブレークユニット41は、各貫通用ブレーク媒体42または各楔用ブレーク媒体43を、ガラス基板WSより熱膨張係数が高い金属製のもので構成し、熱源により保持部材44を加熱することで、一対の貫通用ブレーク媒体42または一対の楔用ブレーク媒体43を均一に加熱可能に構成されている。
【0059】
一対の貫通穴7は、例えばレーザー加工装置(図示省略)により、ガラス基板WSの分割線1上の両端部に位置して形成される。同様に、一対の楔状溝8は、分割線1上の両端部に位置して形成される。
【0060】
まず、レーザー加工装置等により一対の貫通穴7または一対の楔状溝8を形成し、これと相前後して、変質部形成装置32により変質部6を形成する。その後、一対の貫通穴7に一対の貫通用ブレーク媒体42を、または一対の楔状溝8に一対の楔用ブレーク媒体43をそれぞれ嵌合させ、これを加熱すると、一対の貫通用ブレーク媒体42または一対の楔用ブレーク媒体43がガラス基板WSよりも膨張する。この一対の貫通用ブレーク媒体42または一対の楔用ブレーク媒体43の膨張力により、各変質部6に歪み応力が生ずる。歪み応力が各変質部6に均一に作用することにより、ガラス基板WSが分割線1で安定して分割される。したがって、この場合も、一対の貫通穴7または一対の楔状溝8に嵌合させた一対の貫通用ブレーク媒体42または一対の楔用ブレーク媒体43を加熱するという簡易な構成により、チッピングやカケ等を生じさせることなく、ガラス基板WSを適切に分割することができる。
【0061】
しかもこの場合、加熱ヘッドにより保持部材44を介して一対の貫通用ブレーク媒体42または一対の楔用ブレーク媒体43を加熱することで、ガラス基板WSに対する熱の影響を極力少なくすることができると共に、一対の貫通用ブレーク媒体42または一対の楔用ブレーク媒体43を均一に加熱し、膨張させることが可能となり、適切にガラス基板WSを分割することができる。
【0062】
なお、変質部形成装置32により変質部6を形成しておかなくとも、一対の貫通穴7または一対の楔状溝8に嵌合させた一対の貫通用ブレーク媒体42または一対の楔用ブレーク媒体43を加熱するだけで、ガラス基板WSを分割することが可能である。もっとも、予め分割線1上に変質部6を形成しておくことで、一対の貫通用ブレーク媒体42または一対の楔用ブレーク媒体43の膨張による歪み応力が、強度の低い変質部6に作用することになる。このため、ガラス基板WSがより安定的に分割される。したがって、分割によりチッピングやカケ等が生ずることを、より確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】(a)は本発明の一実施形態に係る基板分割システムの正面模式図、(b)はその平面模式図である。
【図2】ガラス基板の表裏両面にスクライブ溝を形成した場合の分割状態を示した図である。
【図3】ガラス基板の表面にスクライブ溝を形成し、裏面に銀ペーストを塗着した場合の分割状態を示した図である。
【図4】ガラス基板のスクライブ溝にブレーク媒体を嵌合した場合の分割状態を示した図である。
【図5】貼合せ基板のそれぞれの基板にスクライブ溝を形成した場合の分割状態を示した図である。
【図6】(a)は本発明の他の実施形態に係る基板分割システムの正面模式図、(b)はその平面模式図である。
【図7】ガラス基板の分割線上に一対の貫通穴を形成した場合の分割状態を示した図である。
【図8】ガラス基板の分割線上に一対の楔状溝を形成した場合の分割状態を示した図である。
【符号の説明】
【0064】
1…分割線 2…スクライブ溝 3…銀ペースト 6…変質部 7…貫通穴 8…楔状溝 22…ブレーク媒体 23…保持部材 42…貫通用ブレーク媒体 43…楔用ブレーク媒体 44…保持部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脆性を有する薄板状のワークに対し、分割線上に位置してスクライブ溝を形成する溝形成工程と、
形成した前記スクライブ溝に、前記ワークより熱膨張係数の高いペースト状のブレーク媒体を塗着する塗着工程と、
塗着した前記ブレーク媒体を硬化させる硬化工程と、
硬化後の前記ブレーク媒体を加熱して、前記ブレーク媒体の膨張力により前記ワークを分割する分割工程と、
を備えたことを特徴とするワークの分割方法。
【請求項2】
前記スクライブ溝は、前記分割線上において、前記ワークの表裏両面に形成されることを特徴とする請求項1に記載のワークの分割方法。
【請求項3】
脆性を有する薄板状のワークに対し、分割線上に位置して前記ワークの表裏一方の面にスクライブ溝を形成する溝形成工程と、
前記ワークの表裏他方の面に、形成した前記スクライブ溝に沿って前記ワークより熱膨張係数の高いペースト状のブレーク媒体を塗着する塗着工程と、
塗着した前記ブレーク媒体を硬化させる硬化工程と、
硬化後の前記ブレーク媒体を加熱して、前記ブレーク媒体の膨張力により前記ワークを分割する分割工程と、
を備えたことを特徴とするワークの分割方法。
【請求項4】
脆性を有する薄板状のワークに対し、分割線上に位置してレーザー光による変質部を形成する変質部形成工程、
形成した前記変質部に、前記ワークより熱膨張係数の高いペースト状のブレーク媒体を塗着する塗着工程と、
塗着した前記ブレーク媒体を硬化させる硬化工程と、
硬化後の前記ブレーク媒体を加熱して、前記ブレーク媒体の膨張力により前記ワークを分割する分割工程と、
を備えたことを特徴とするワークの分割方法。
【請求項5】
前記ブレーク媒体が、溶融した金属、および金属ペーストのいずれかであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のワークの分割方法。
【請求項6】
脆性を有する薄板状のワークに対し、分割線上の両端部に位置して一対の貫通穴を形成する貫通穴形成工程と、
形成した前記一対の貫通穴に、前記ワークより熱膨張係数の高いブレーク媒体をそれぞれ嵌合する媒体嵌合工程と、
嵌合した一対の前記ブレーク媒体を加熱して、一対の前記ブレーク媒体の膨張力により前記ワークを分割する分割工程と、
を備えたことを特徴とするワークの分割方法。
【請求項7】
脆性を有する薄板状のワークに対し、分割線上の両端部に位置して一対の楔状溝を形成する楔状溝形成工程と、
形成した一対の前記楔状溝に、前記ワークより熱膨張係数が高く且つ前記楔状溝と相補的楔形状を有するブレーク媒体をそれぞれ嵌合させる媒体嵌合工程と、
嵌合した一対の前記ブレーク媒体を加熱して、一対の前記ブレーク媒体の膨張力により前記ワークを分割する分割工程と、
を備えたことを特徴とするワークの分割方法。
【請求項8】
前記媒体嵌合工程の前に、前記ワークに対し、前記分割線上に位置してレーザー光による変質部を形成する変質部形成工程を、さらに備えたことを特徴とする請求項6または7に記載のワークの分割方法。
【請求項9】
一対の前記ブレーク媒体は、保持部材に一体に保持されていることを特徴とする請求項6ないし8のいずれかに記載のワークの分割方法。
【請求項10】
脆性を有する薄板状のワークに対し、分割線上に位置してスクライブ溝を形成する溝形成工程と、
形成した前記スクライブ溝に、前記ワークより熱膨張係数が高く且つ前記スクライブ溝と相補的形状を有するブレーク媒体を嵌合させる媒体嵌合工程と、
嵌合した前記ブレーク媒体を加熱して、前記ブレーク媒体の膨張力により前記ワークを分割する分割工程と、
を備えたことを特徴とするワークの分割方法。
【請求項11】
前記ブレーク媒体は、保持部材に保持されていることを特徴とする請求項10に記載のワークの分割方法。
【請求項12】
前記ブレーク媒体は、磁性体で構成されており、
前記分割工程では、前記ブレーク媒体を電磁誘導加熱することを特徴とする請求項1ないし11のいずれかに記載のワークの分割方法。
【請求項13】
前記ワークが、複数のパネルを作り込んだガラス基板であることを特徴とする請求項1ないし12のいずれかに記載のワークの分割方法。
【請求項14】
前記ワークが、複数のチップを作り込んだ半導体ウエハであることを特徴とする請求項1ないし12のいずれかに記載のワークの分割方法。
【請求項15】
脆性を有する薄板状の2枚の基板を貼り合わせた貼合せ基板に対し、各基板の分割線上に位置して表裏両面にスクライブ溝をそれぞれ形成する溝形成工程と、
形成した前記スクライブ溝に、前記ワークより熱膨張係数の高いペースト状のブレーク媒体をそれぞれ塗着する塗着工程と、
塗着した前記ブレーク媒体をそれぞれ硬化させる硬化工程と、
硬化後の前記両ブレーク媒体を同時に加熱して、前記両ブレーク媒体の膨張力により前記貼合せ基板を分割する分割工程と、
を備えたことを特徴とする貼合せ基板の分割方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−230818(P2007−230818A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−53970(P2006−53970)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】