説明

ワークピース製造用の担体材料

【課題】空隙を有するワークピースのプレースホルダとして用いられる担体材料、及び該ワークピースを製造する方法であって、除去が簡単で費用効果の高いものを提供する。
【解決手段】担体材料は、標準電極電位が室温で異なる少なくとも2つの金属粉末MeI及びMeIIから成り、該担体材料は粉末を圧密化する方法によって製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの空隙又は充填されていない任意の部分を有するワークピースを製造する方法、及びこの目的に適する担体材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ワークピースの空洞、くぼみ、切欠き、アンダーカット(溝)、開口等の充填されていない部分は、簡潔にするために以下概して「空隙」と称する。この用語は、アンダーカット等の、壁により完全に囲まれていない空間も含む。
【0003】
複雑な形状を製造する1つの好適な方法は、層(あるいは膜)を順次噴霧し、これらの層から成形体を形成する。完成した成形体において空隙を作る位置には、成形体を完成した後に除去することができる材料を使用する。かかる方法で材料が使用できるようにするには、その材料は、空隙を形成するため、成形体の完成後に除去可能でなければならない。ここで、除去は簡潔且つ費用効率の高いものでなければならない。
【0004】
通常は、形状が完成した後に溶解除去できる可溶性材料を使用する。したがって、入手及び廃棄が容易な水性媒体の使用が望まれている。
【0005】
「プレースホルダ」(場所の確保部)として使用される可溶性材料は、「ロストコア」(除去されるコア部)又は「ロストモールド」(除去される鋳型部)とも称される。
【0006】
ロストコアに使用される材料は、種々の要件を満たしていなければならず、とりわけ、機械的応力及び熱的応力に耐性がなければならない。ロストコアに使用されることが望まれる可溶塩は、これらの要件を満たしていない。塩は、溶解性及び入手し易さから関心の高い材料であるが、溶射、コールドガススプレー又は圧密化等の機械的応力を伴う方法ではその脆性から使用することができない。その脆性から、塩はそのような方法によって生じる機械的応力に耐えることができない。
【0007】
それゆえ、一方でワークピースの製造中の機械的応力に耐えることができ、他方で完成後にワークピースを破壊することなく除去可能な他の材料を見出す必要がある。
【0008】
特許文献1は、少なくとも1つの空洞を有する成形体を製造するためのアルミニウム合金又はマグネシウム合金から成る水溶性コアについて提案している。この出願の主題は、一方で機械強度が十分に高く、他方で溶解性については、後でコアを溶解除去するのに十分なものとなるように酸化物含量が調節されたマグネシウム合金又はアルミニウム合金を使用することである。この目的を達成するために、合金を使用すること、及び高い比率の酸化物を合金に添加することが必要であった。
【0009】
成形体の完了後、上記合金は、水又は酸性溶液若しくはアルカリ性溶液により溶解除去される。この既知の材料は全種類の成形法に適するものでないことが分かっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】独国特許第19716524号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、任意の形状に成形することができ、ロストコアを成形する略あらゆる成形法に使用することができ、成形体の完了後に適切な努力で実質的に成形体を損傷させることなく除去可能であり、且つその除去が可能な限り環境に負担をかけない担体材料を提供することである。材料は、極めて複雑又は繊細な形状、例えば、狭いチャネルが対象であっても除去可能である。
【0012】
また、本発明の目的は、溶射法、特にキネティクスプレー又はコールドガススプレーによっても加工することができる、すなわち、機械的応力に十分耐性があり且つ入手し易い材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
これらの目的は、少なくとも1つの空隙を有するワークピースを作るときにプレースホルダとして用いることができる担体材料であって、圧密化された腐食性材料から成り、該圧密化された腐食性材料が、MeI、MeIIと表される少なくとも2つの金属との混合物又は合金であり、MeIIの標準電極電位が反応条件下においてMeIの標準電極電位よりも小さい担体材料により達成される。
【0014】
本発明による圧密化された担体材料は好ましくは、所定条件下において30分間〜10時間、腐食媒体と接触すると、35%、好ましくは少なくとも55%及び特に好ましくは少なくとも70%腐食できる少なくとも1つの金属MeIIを含む。あまり耐食性がない金属MeIIの除去は、ワークピース及び空隙の幾何学的形状によって左右される。空隙がチャネル又は細長い穿孔である場合には、腐食媒体と接触して、24時間当たり少なくとも1mm、好ましくは10時間当たり少なくとも1mm、特に5時間当たり少なくとも1mm、又はさらには1時間若しくはより短時間当たり1mmほど除去される金属成分をMeIIとして使用する。言い換えると、24時間当たり、好ましくは10時間当たり、より好ましくは5時間当たり、及び特に1時間当たり長軸方向に1mm溶解する金属成分が好ましいため、細長い穿孔の場合には、上記の時間の間に空隙が1mm分「材料を腐食する」と言える。本発明の担体材料は、好ましくは機械的に圧密化される方法によって得ることができる圧密化された構造を有する。この構造によって、組み合わされた興味深い特性が得られ、上記の目的が達成される。
【0015】
驚くべきことに、電気化学的な腐食反応を用いることによってプレースホルダをワークピースから除去できることが見出された。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書で、「腐食」とは、金属MeIIと液体との任意の電気化学反応であって、MeIIの広範な又は完全な溶解をもたらすと共に気体を発生させる電気化学反応を指す。ここでの液体は、金属MeI又はMeIIよりも高い標準電極電位を有するMeIを含有する金属成分の存在下で腐食させる媒体となっている。イオンを含有する液体は、MeIの存在下で電気化学反応に基づきMeIIを溶解する腐食媒体と称される。
【0017】
「標準電極電位」という用語は常に、反応条件下(溶液中の温度、圧力、イオンの種類及びその量等)における金属又は金属成分の標準電極電位に関し、電気化学列における位置に関するものでない。
【0018】
MeII及び腐食媒体の電気化学反応は、追加される金属成分MeIの存在下で起きる。「金属成分」という用語は、特に、腐食反応を促す金属又は金属合金を指す。
【0019】
本発明によれば、腐食性金属と、腐食性であってもよいがそうでなくてもよい少なくとも1つの追加される金属成分との組合せが使用される。該組合せは、水又は水性媒体等の腐食媒体と接触すると非常に速くその構造を失い、少なくとも腐食性金属が溶解し、且つ他の追加された金属は場合により少なくとも一部粒子の形態で残存する。本発明の材料は、興味深い特徴が組み合わされている構造を特徴とする。一方でこの材料は、多くの異なる方法で、プレースホルダとして機能するのに十分な強度を持っている。また、このプレースホルダは、例えば、成形及び/又は加工中に生じる機械的応力に耐えることもできる。他方、この材料は、腐食媒体と接触すると非常に速く溶解する。
【0020】
これらの特性は、一方では金属の金属特性及び機械特性からもたらされ、他方では特定の条件下におけるこの材料の腐食能からもたらされる。
【0021】
理論的なことは別として、例えばプレースホルダの成形中に生じる、本発明の担体材料の機械的な加圧処理(例えば、圧密化)に起因して、腐食性金属を保護する酸化物層又は水酸化物層は崩れ、このため、腐食液と接触することになり、金属粒子又は構造が極めて容易に攻撃を受けて、腐食がより速くなることが考えられる。他方、追加されたより耐食性のある金属が、圧密化の処理によって、腐食性金属に密接に接触すると腐食反応が非常に速く起こる。
【0022】
反応条件下で、電気化学的な標準電極電位が異なる少なくとも2つの金属又は金属成分(MeI及びMeII)から成る圧密化された混合物又は合金は、ロストコアを成形するのに理想的な担体材料であり、この金属の少なくとも一方が、所定条件下において例えば30分間〜10時間の所定時間、液体腐食媒体と接触すると、少なくとも35%、好ましくは少なくとも55%及び特に好ましくは少なくとも70%腐食可能となることが分かった。上述したように、あまり耐食性がない金属MeIIの除去は、ワークピース及び空隙の幾何学的形状に左右される。言い換えると、24時間当たり、好ましくは10時間当たり、より好ましくは5時間当たり、及び特に1時間当たり長軸方向に1mm溶解する金属成分が好ましいため、細長い穿孔の場合には、上記の時間若しくはより短時間の間に空隙が1mm分「材料を腐食する」と言える。
【0023】
言い換えれば、本発明は、あまり耐食性がない腐食性金属と、少なくとも1つのより耐食性のある金属とから成る圧密化混合物を、腐食媒体、概して水又は水性媒体と接触させることにより所望の速度で溶解する電気化学反応を利用している。この反応は、多量のイオンを含有する溶液を使用する場合に特に強力である。それ自体は既知であるこの腐食性を本発明に利用することで、ワークピースの完成後に担体材料を簡単な方法で且つ比較的環境に優しく除去することができる。
【0024】
この目的のために、ワークピースの完成後に担体材料を腐食媒体と接触させる。ここで、少なくとも腐食金属が溶解し、未溶解の担体材料が腐食金属を含有する媒体と共に、形成したモールドから続いて洗い流される。
【0025】
理論的なことは別にして、金属成分の圧密化により粒子が十分に接触していて電気化学反応を促進させる材料が作られると考えられる。同時に、粒子を囲む保護層は、できるだけ応力又は変形により破壊されるが、反応は起こり且つその反応を妨げない程度である。いずれの場合にも、金属粉末が圧密化形態で存在する場合には、溶解が、一般的には水又は水性媒体の腐食媒体を用いて、所望の速度で達成されることを確認した。本発明の担体材料によれば、特に溶解反応速度を選択的に調節できる。しかしながら、この場合、高い多孔率を有する粉末混合物が使用されて、かかる粉末混合物が、添加される水を吸収して、制御不可能な反応をもたらすことがある。
【0026】
本発明によれば、このため、多孔率が20体積%以下、好ましくは5体積%以下である材料を使用することが好ましい。特に、好適な実施形態では、多孔率は1%未満である。
【0027】
事前に圧密化されている本発明の材料、すなわち腐食性金属及びこれと比べてより耐食性のある金属成分を含有する混合物又は合金が、腐食媒体、好ましくは(イオンを含有する)導電性水性媒体と所定の条件下で接触すると、腐食性金属は少なくともかなりの程度にまで溶解する。本発明によれば、この作用は、混合物を腐食媒体と接触させ、且つ担体材料及び媒体を続いて洗い流すことによって、ワークピースの完成後に形成されたモールドから担体材料を除去するのに用いられる。
【0028】
腐食媒体と接触する際に担体材料が曝される条件に応じて、標準電極電位間の差が、塩基性及び/又は中性及び/又は酸性の溶液中で生じ得る。
【0029】
このように、本発明は、高い機械的負荷能力を有する材料を担体材料として使用することができ、またこの材料は完成後に容易に除去可能である。この材料は、いろいろな方法、特にほとんどの異なる方法においてロストコアとして使用することができる。本発明の担体材料は、くぼみ、切欠き、アンダーカット及び空洞を有するワークピースの製造、特に溶射を用いることによって中空体、又はアンダーカットを有するワークピースを製造するのに特に好適である。
【0030】
溶解速度は、種々のパラメータあるいは定められる条件を調節することによって決まるため、標準的な手段を使用して、それぞれ最適な材料又は最適な条件を見つけ且つ使用することが可能である。溶解に影響を与えるパラメータは、とりわけ、温度、金属の組合せ、溶解に用いられる媒体に含有されるイオンの種類及びその量、面積比、及び表面の機械的負荷、並びに水素過電圧である。
【0031】
温度が高いほど反応が速くなるため、温度は重要なパラメータである。金属と水との電気化学反応は発熱をもたらす。それゆえ、溶解速度は、必要又は所望すれば、反応の温度を制御することにより調節することが可能である。したがって、反応は、熱を供給することによって及び/又は場合により熱を放出させることによって調節することができる。最も簡単には、熱の供給及び放出は、溶媒として相応しく余熱された媒体を用いることによって実施される。
【0032】
別の重要なパラメータは、担体材料に用いられる金属成分の組合せである。所定条件下で腐食性がある少なくとも1つの金属MeII、及び対応する腐食を促進させるより耐食性のある金属成分MeIが含まれることが、本発明にとって必要不可欠である。このため本発明によれば、異なる標準電極電位を有する少なくとも2つの金属成分から成る合金又は混合物が使用される。選択される金属に応じて、MeIIを腐食させる反応が強くなるか弱くなる。追加される金属成分(複数可)を選択することにより、溶解速度に影響を与えることができる。
【0033】
MeIIに比べてより耐食性のある、すなわち、反応条件下においてMeIIよりも高い標準電極電位を有する少なくとも1つの追加される金属成分を合金又は混合物に添加すると、腐食性を増大させることができる。したがって、MeIIよりも高い標準電極電位を有し且つ電気化学反応を促進させる、金属又は金属成分は本発明の担体材料として適している。特にマグネシウムと組み合わされる金属である鉄、ニッケル及び銅が、腐食性に特に強力な影響を有するため、このような金属を、MeIIとして好ましいマグネシウムと共に、MeIとして単独で又は組み合わせて本発明の担体材料に使用することが好ましいことが分かった。マグネシウムと鉄との組合せは特に好ましい。
【0034】
別の重要なパラメータは、担体材料にかかる機械的応力である。本発明の担体材料は、圧密化されている少なくとも2つの金属成分から成る。材料とその結果個々の粒子が、成形前あるいは成形中に強力に加圧されると、腐食が非常に速く進行することが分かった。理論は別として、これは、多分存在している、腐食性金属MeIIを保護する水酸化物層又は酸化物層が、応力により侵害されるか又は破壊されることの結果であると思われ、このため、腐食による攻撃がその後より速くより強力に起こったと思われる。
【0035】
好ましくは粉末状の少なくとも2つの金属成分を溶射により加工することが特に好適であることが判明した。溶射により加工する場合、個々の粒子を圧密化してそれにより密接させることになる。したがって、この方法が特に好適である。
【0036】
腐食反応を促進させることができる別のパラメータは、溶解に使用される腐食(好ましくは水性)媒体に含まれるイオンの割合及びイオンの活性である。金属MeIIの腐食、及びそれによる溶解が速く起こるほど、より多くの活性アニオンが存在することが分かった。この状況では、とりわけ、塩化物イオン、硝酸イオン及び硫酸イオンが特に反応性がある。かかるイオンは、種々の金属と接触すると、溶解を促進させる容易に溶解可能な塩の形成をもたらす。
【0037】
腐食反応はまた、腐食液体、好ましくは水溶液の導電性による影響を受け、導電性はさらに、イオンの割合による影響を受ける可能性がある。高い導電性を有する、すなわちイオンの割合が大きい水性媒体は高速溶解をもたらす。したがって、大量のイオンを有する水性媒体を溶解に使用することが好ましい。最も好ましいのは、入手し易さ及び費用効率の高さから、塩化ナトリウムを含有する溶液を使用することである。海水は例えば極めて好適な媒体である。経済的理由及び環境上の理由から、他のプロセスで生じるイオンを含有する廃水も極めて有益であり、これらの廃水はこれによって上手くリサイクルすることができる。
【0038】
腐食反応に影響を与える別のパラメータは、陽極粒子と陰極粒子との面積比、及び陽極粒子と陰極粒子との距離である。陽極と陰極との距離の短縮は、本発明の担体材料の構造を作り出す圧密化処理、及びMeIIとMeIとの割合を調節することによって達成することができる。
【0039】
溶解速度及び反応の進行に影響を与える別のパラメータは、媒体の運動である。媒体が反応の開始後に運動すると、MeII粒子上の水酸化物又は酸化物から成る塗工層の連続的な形成が抑制されるため、腐食がさらに促進される。
【0040】
腐食はまた、特にマグネシウムの腐食については水素過電圧による影響を受ける。より低い水素過電圧を有するいくつかの金属が有効な陰極であることが分かった。したがって、そのような金属を、反応を促進させるためにMeIとして使用することが好ましい。低い水素過電圧を有する金属としては、ニッケル、銅及び鉄が挙げられ、このため、これらを、特にマグネシウムと組み合わせて使用することが好ましい。
【0041】
本発明によれば、このため、上記パラメータを調節することによって腐食性金属を溶解させる反応の進行を選択的に調節することができる。これに伴い、上記パラメータの1つ又は複数を調節して、速度をプロセスに適応させることができる。
【0042】
本発明の担体材料を使ったワークピースの製造を説明するために、発明を限定するものではないがスプレー法について言及する。優れた機械特性及び化学特性から、本発明の担体材料は、あらゆる種類の成形法に利用可能である。本発明の材料は特に、その成形性、機械加工性、精密な外形を有する層の形成、撮像特性、及び他の材料との適合性の観点で、卓越している。本発明の材料は、特に複数の層で形成されたモールドを、その後、機械的に後処理して、アンダーカットを含むあらゆる種類の空隙のプレースホルダとして作用させる単純な成形体及び複雑な、また繊細な成形体をあらゆる種類の材料で形成する場合に、使用することができる。複雑な又は繊細なモールドは、機械的処理、通常機械加工によって材料から形成することができる。本発明の担体材料により形成される複数の層は、その層が付着されている基材の外形を維持する。このため、本発明の材料は多くの方法で使用することができる。
【0043】
空隙を有するワークピースをスプレー法によって製造する場合、成形体は複数の層により構成され、本発明の材料は、後に空洞を形成することが意図される領域に付着して、ワークピースの完成後に洗い流すことができる。
【0044】
「実際の」合金を鑑みても、圧密化が重要である。合金は、少なくとも2つの成分から成り、且つ少なくとも1つの金属を含み、合金の第2の成分が、この金属に溶解するか若しくはこの金属に均質に分布するか、又はこの合金に富んだ第2の相を得るように限定的に溶解されるに過ぎない材料である。いずれの場合にも、合金の第2の成分又はさらなる成分も金属である場合には金属間化合物(すなわち、1つの金属の原子が他の金属のマトリクス中に含まれるもの)が関係する。合金のマクロ的性質は個々の金属粉末のものと異なる。本発明によれば、圧密化された材料が腐食反応に必要な反応性及び密接な接触をもたらすので、圧密化された材料を使用することが必要不可欠である。
【0045】
本発明の担体材料は、少なくとも2つの金属粉末であるMeI及びMeIIを含有している。これらの金属粉末の必須特徴は、それらの標準電極電位が異なることである。電位差は少なくとも0.4であり且つ好ましくは1より大きい。この電位差により、水又は水性媒体を添加すると、あまり耐食性のない金属の溶解という作用がある酸化還元反応をもたらす。溶液は一般的にこの反応のためによりアルカリ性となるため、アルカリ性及び中性の溶液中にある時には、2つの金属粉末MeI及びMeIIは、MeIIと比べると異なる標準電極電位という特色を有することになる。溶解のために、酸性水性媒体を使用してもよく、その場合反応は酸性pH範囲において起こり、この標準電極電位は、酸性pH値に基づいて求めなければならない。
【0046】
担体材料を除去するために、本発明は、標準電極電位間の差、すなわち言い換えると、あまり耐食性がない金属の腐食又は溶解を引き起こす酸化還元反応を使用する。この目的のために、一方がより耐食性があり且つ他方があまり耐食性のない2つの金属成分を組み合わせることにより、機械的負荷能力を有するように組み合わせた後圧密化され金属混合物が生成される。
【0047】
2つの金属成分に加えて、さらなる所望の特性を追加する第3の成分を含有させることもできる。該成分は、構造の形成にも電気化学的腐食にも害を及ぼさないという条件を満たせば、多くの異なる材料から選択することができる。例えば、電気化学反応に関しては不活性であり、機械的特性には影響を及ぼすさらなる材料を添加することができる。例えば、より硬い材料を第3の成分として添加して、キネティック圧密化時の付着性を向上させることができる。さらに、反応の開始及び/又は進行に影響を与えるために、電気化学反応の触媒となる材料をさらなる成分として添加することも可能である。第3の成分が本発明の担体材料に使用される場合、その含量は25体積%を超えてはならない。最適量は日常的な実験により当業者が決定することができる。含量は、構造の形成及び反応の進行を妨げるほど大きいものであってはならない。他方、この量は所望の効果を得るのに十分なものでなければならない。
【0048】
本発明の材料を形成する金属粉末の粒径及び粒形は、多種多様である。粒子の形状は重要ではなく、球形及びフレーク形状又は他の形態も考慮の対象とすることができる。粒子は、充填すべき空隙よりも大きいものであってはならないという条件が満たされれば、粒径は重要ではない。好ましくは、粒径は0.5mm未満である。特に好ましくは、粒径は0.25mm未満である。
【0049】
溶解の挙動も、2つの成分の粒径により影響を受け得るため、日常的な実験によって、各用途に最適な材料を選択することができる。さらに、圧密化の挙動及び構造は、両粉末の粒径の選択及びそれらの割合による影響を受け得る。このため、粒径は、構造及び溶解を考えて所望の特性が得られるように、1つ又は両方の粉末について選択して選ぶことができる。
【0050】
ワークピースが完成すると直ぐに、水又は水溶液を添加する。水又は水溶液は、あまり耐食性がない金属MeIIを酸化させて且つ水酸化物イオンと同時に水素を生成させる酸化還元反応を開始させる。これに伴い、担体材料の一部が溶解し、その構造が破壊されて未溶解粒子であるより耐食性のある金属が解放される。これらの粒子はその後、溶解状態であまり耐食性がない金属を含有する溶液と共に洗い流される。気体が形成されるため、狭いチャネル又は繊細な空洞についても、反応を進行させ続けるのに十分な運動が生じる。
【0051】
本発明の電気化学反応において、使用される材料及び媒体に応じてpH値を酸性又はアルカリ性領域に移行させてもよい。容易に腐食される材料を、ワークピースを製造するのに使用する場合、それに応じた担体材料及び/又は媒体を選択することによりこれらの材料を保護することができる。例えば、モールドを形成する材料が鋼であれば、アルカリ性溶液が或る程度さび止めとして機能するため、アルカリ性溶液の生成が有益である。他の材料の場合には、使用済みの媒体により得られるわずかに酸性のpH値が好まれ得る。
【0052】
本発明によれば、担体材料は、水と接触させても一部分しか溶解せず完全には溶解しないが、材料を完全に洗い流すのには十分なものである。この目的のために、好ましくは可能な限り純粋な形態で用いられる、少なくとも2つの金属成分が必要である。好ましくは、両成分とも金属であり、純粋な形態で存在させる。本発明の文脈で「純粋」とは、粉末が、金属から主に成り、且つせいぜい少量しか不純物若しくは合金成分、又は製造工程若しくは処理工程で生じる少量の酸化物若しくは他の化合物を含有しないことを意味する。作られた時、圧密化されている構造中に両方の金属が粒子として存在する場合に、最良の結果が得られることが分かった。このような構造は例えば、溶射、キネティックな圧密化又はコールドガススプレーにより生成される。これにより、粒子は溶融していないで高密度なマトリクスを形成した構造が得られる。好ましくは、このようなキネティックスプレーにより作られる材料は、20%未満、特に好ましくは5%未満、及びより好ましくは1%未満の多孔率を有する。材料の多孔率、それと共に開孔の割合が大きくなれば、担体材料は水性媒体を吸収するであろうし、反応条件及び反応物質に応じて、望ましくない高い気体圧力を伴う無制御反応が起こるほど急速に溶解するであろう。なお、水酸化物の形成による体積の増大のために、未溶解粒子の除去が妨害されるおそれがある。
【0053】
2つの金属から成るマトリクスは、粒子の表面が十分に高密度で接触していて、腐食液体が添加されると電気化学反応を促進させるようになっていることが理想的である。
【0054】
担体材料に使用される2つの金属成分は、1つの成分が電気化学反応で溶解するように、異なる標準電極電位を有することが必要である。本明細書中では、標準電極電位は、反応が起きる、例えば中性、酸性又はアルカリ性の水溶液中で考慮されものである。2つの使用される金属成分は、反応条件下で少なくとも0.4の、好ましくは1より大きい標準電極電位間の差を有することが好ましい。
【0055】
2つの金属成分の選択というのは、標準電極電位間の差、及び上記パラメータ、並びに酸化物の生成が影響する反応性に応じて決められるが、入手し易さにも左右される。経済的な効率に加えて、また環境保全性も、選択に際して考慮されるかもしれない。好ましくは、容易に入手可能であり、廃棄が何ら問題をもたらさない金属が使用される。
【0056】
より耐食性のある金属として、入手し易さ及び電気化学特性の観点から、特に銅、鉄、スズ及びニッケルが考慮される。別な実施形態として、任意の材料でできたコアを耐食性のある金属で被覆して作られた粒子からなる金属粉末が、金属MeIとして使用できる。場合によっては、コア材料は、耐食性金属がもたらさないような機械特性をもたらすことがある。粒子の被覆には、例えば金、白金、銀、銅、鉄又はニッケル等が好適である。
【0057】
あまり耐食性がない金属MeIIは、MeIに比べてより小さいあるいはより負の標準電極電位を有するいずれの金属であってもよい。マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、スズ及び鉄が好ましい。マグネシウムと鉄との組合せは特に好適であることが判明した。
【0058】
好ましい実施形態では、MeIとして鉄及び/又は銅及び/又はニッケルと、MeIIとしてのマグネシウムとの組合せが使用される。
【0059】
2つの金属粉末は、電気化学反応が所望の範囲で確実に進行する量で使用される。例えば、水性媒体等の腐食媒体を添加すると、あまり耐食性がない金属が少なくとも部分的に溶解するのに対し、より耐食性のある金属は粉末として残る。したがって、事前に圧密化によって形成された構造が、あまり耐食性がない金属の溶解によって溶融又は破壊され、生成された材料が洗い流される程度まで、あまり耐食性がない金属は存在していなければならない。
【0060】
組み合わせにおいてMeIの量が多過ぎると、担体材料を除去するのが難しくなる。他方、電気化学反応が十分速く進行できないほどMeIの割合が少な過ぎてはいけない。好ましくは、金属粉末は、MeIとMeIIとの体積比が1:250〜1:10、好ましくは1:5〜10:1、特に好ましくは3:1〜1:3である。金属粉末はおよそ等しい体積比(MeI:MeII)で合わせることが特に好ましい。
【0061】
腐食媒体と接触すると、MeIIの部分が溶解することによって構造が解離し、これによって、担体材料を洗い流すことができるという効果がある。この目的のために、腐食液体、すなわち任意の腐食媒体が使用される。腐食媒体、好ましくは水性媒体であるが、これは重要ではなく、主に水から成る任意の媒体がこの目的に適している。電気化学反応に影響を与える物質が水中に含まれないことには注意しなければならない。好ましくは、電気化学反応を促進させる水性媒体、特にイオンを含有する溶液が使用される。イオンを含有する酸性、中性及びアルカリ性の溶液、例えば塩溶液が好適である。希酸又は希塩基を使用してもよい。塩溶液に含有されるイオンは重要ではないため、廃水として得られる、イオンを含有する媒体も好適である。これは、環境上の理由及び経済的理由から好ましい。したがって、好ましくは塩を含有している、水道水及び他のプロセスで生じた廃水が、酸化還元反応に影響を及ぼさない限り使用することができる。
【0062】
本発明の他の主題は、少なくとも1つのくぼみを有するワークピースを製造する方法であり、該方法では、空隙を形成する空間を、完成後に洗い流される担体材料で充填している。この担体材料は、請求項1に規定する材料である。
【0063】
本発明の担体材料は、少なくとも1つの空隙を有するワークピースを成形する成形法用で、ロストコアを形成するのに極めて適していることが判明した。本発明の担体材料は、その機械的負荷能力が卓越しているため、機械的な負荷能力を有する材料が必要ないずれの場所にも使用することができる。また、本発明の担体材料は、成形プロセス、特に機械加工プロセスによって処理することにより複雑な形状を成形することができる。
【0064】
本発明の担体材料は、キネティック圧密化又はコールドガススプレーを用いて処理するのに特に適する。
【0065】
層状の構造が溶射により形成された後に、この層が機械加工により後処理されているモールドの製造方法に、本発明の材料を使用することは特に好ましい。
【0066】
したがって、本発明によれば、ある構造が溶射により生成され、最終成形体においてくぼみを形成する部分が、本発明の担体材料により形成され、この担体材料は、ワークピースの完成後に水性媒体と接触すると除去されるワークピースを製造する方法が提供される。
【0067】
本発明の担体材料は、他の方法にも使用できるが、溶射を使用する方法が特に好ましい。好ましくは、溶射はキネティックスプレーにより行われ、この場合粒子は実質的に溶融しない。
【0068】
驚くべきことに、本発明の担体材料は、ロストコアを形成するのに極めて適していることが確認された。本発明の担体材料は、種々の形状を成形するのに使うことができる。ワークピースが完成した後、材料を使って生成されたマトリクスは、水性媒体と接触させると電気化学反応により破壊され、電気化学反応中の気体の生成により生じる運動によって、十分な水の移動が起こり、電気化学的反応が適切に促進される。マトリクスの破壊後に残るより耐食性のある金属の粉末はその後、生じた溶液と共に容易に洗い流すことができ、場合によってはリサイクルすることができる。
【0069】
電気化学反応とあまり耐食性がない金属の溶解及び構造の破壊とは、好ましい実施形態において、水性媒体の添加中及び添加後に媒体の運動を生じさせることにより進行させることができる。これは、例えば、ワークピースを濯ぎ動かすことによって、又は超音波処理によって行うことができる。
【0070】
本発明によれば、機械的負荷能力、並びに靭性及び電気化学反応性によって、理想的な特性の組合せを持つ担体材料が提供される。また、スプレー法によって複数層のワークピースを構築し、担体材料を洗い流すことによってさらに複雑なくぼみ、空洞、切欠き、開口、アンダーカット又は他の未充填部分を形成することが可能であるため、極めて複雑な形状を作製する方法が可能である。
【0071】
驚くべきことに、上記の本発明の材料は、あらゆる種類のプレースホルダに極めて適していることが分かった。本発明の担体材料は、有益な機械特性及び電気化学特性のために、或る一定期間、空間を空の状態に保ち、その後プレースホルダ材料を除去することを必要とする場合にも使用することができる。特に本発明の担体材料は、プレースホルダが、例えば応力を受けるなどその作用において機械的な加圧を受ける場合に適している。したがって、空洞を有するワークピースを製造する上記の用途以外には、本発明の担体材料は、あらゆる形態のラグ(柄)、スペーサ、プレースホルダ及びロストコアとしても使用することができる。
【0072】
この目的のために、マグネシウムと、鉄、ニッケル又は銅の少なくとも1つの金属と組合せて使用することが特に好ましい。とりわけ、これらの組合せは、機械的負荷能力と腐食性とを最適な組合せにすることができる特徴がある。担体材料を溶解させると、マグネシウム又は腐食によって得られるその分解産物と、金属としての鉄とのみを含む水性懸濁液が得られるため、マグネシウムと鉄との組合せが特に好ましい。この組合せは、無公害であり、環境を害することなく廃水として容易に廃棄するか、又はリサイクルすることができる。鉄に加えて又は鉄の代わりに他の金属を使用する場合には、得られる溶液を廃棄する前に再利用することが要求される場合がある。
【0073】
本発明の担体材料が特に有益であるのは、この溶解後に生成される生成物の機械特性及び環境適合性である。
【0074】
既に上記で説明したように、マグネシウムと、鉄、ニッケル及び銅から選択される少なくとも1つの追加される金属成分とから成る本発明の担体材料は、機械的加圧法により圧密化される。上述したような方法、及び成分の割合は、一般にプレースホルダとしての担体材料の使用にも適用可能である。また、プレースホルダからの除去も、上述したように、すなわち、イオンを含有する水溶液、特に活性アニオンを含有する水性媒体により行われる。この状況では、塩化物イオン、硝酸イオン及び/又は硫酸イオンを含む水性媒体が好適である。入手し易すいことから、例えば、海水が極めて好適な媒体である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧密化された腐食性材料から成り、前記圧密化された腐食性材料は、少なくとも2つの金属成分であるMeIとMeIIとの混合物又は合金であり、前記MeIIの標準電極電位が反応条件下において前記MeIの標準電極電位よりも小さいことを特徴とする、少なくとも1つの空隙を有するワークピースを成形する際のプレースホルダとして用いられる担体材料。
【請求項2】
前記MeIIと前記MeIとが、250:1〜1:10の体積比で含有されていることを特徴とする、請求項1に記載の担体材料。
【請求項3】
前記MeIIと前記MeIとが、5:1〜1:10の体積比で含有されることを特徴とする、請求項1に記載の担体材料。
【請求項4】
前記圧密化された腐食性材料が、溶射により製造されることを特徴とする、請求項1に記載の担体材料。
【請求項5】
前記圧密化された腐食性材料は、キネティックスプレー又はコールドガススプレーで形成されることを特徴とする、請求項3に記載の担体材料。
【請求項6】
前記圧密化された腐食性材料は、加圧又は焼結で形成されることを特徴とする、請求項1に記載の担体材料。
【請求項7】
前記圧密化された腐食性材料は、機械加工及び変形の少なくとも1つが可能であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の担体材料。
【請求項8】
前記圧密化された腐食性材料は、20体積%未満の多孔率を有することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の担体材料。
【請求項9】
前記圧密化された腐食性材料は、5体積%未満の多孔率を有することを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の担体材料。
【請求項10】
前記圧密化された腐食性材料は、1体積%未満の多孔率を有することを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の担体材料。
【請求項11】
前記MeIは、銅、鉄、ニッケル又はスズであることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の担体材料。
【請求項12】
前記MeIIは、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、スズ又は鉄であることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の担体材料。
【請求項13】
より高い標準電極電位を有する前記金属成分は粒子から成る粉末であり、前記MeIIに比べてより耐食性のある材料で前記粒子が被覆され、前記粒子のコアが任意の材料から形成されていることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項に記載の担体材料。
【請求項14】
ワークピースの完成後に、水性媒体と担体材料とを接触させ且つ前記担体材料と前記水性媒体との水性懸濁液を洗い流すことにより前記ワークピースを損傷させることなく除去できる担体材料で、少なくとも1つの空隙又は任意の充填されていない部分を形成し、前記担体材料は、標準電極電位が異なる少なくとも2つの異なる金属から成り、前記金属を圧密化することにより前記担体材料が得られることを特徴とする、溶射法又は圧密化法でワークピースを製造する方法。
【請求項15】
キネティックスプレー又はコールドガススプレーによって前記ワークピースが製造されることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
焼結及び加圧することによって前記ワークピースが製造されることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記水性媒体と前記担体材料とを接触させて金属を溶解させる速度は、前記水性媒体を調整することによって調節することを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
2つの金属又は金属成分であるMeIとMeIIとの混合物であって、前記MeIIの標準電極電位が反応条件下において前記MeIの標準電極電位よりも小さい前記混合物が、圧密化法によってロストモールドを製造するために使用されることを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の前記担体材料が、積層法又は塗工法のロストコアとして使用されることを特徴とする方法。

【公表番号】特表2010−526665(P2010−526665A)
【公表日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−503406(P2010−503406)
【出願日】平成20年4月16日(2008.4.16)
【国際出願番号】PCT/EP2008/003050
【国際公開番号】WO2008/125352
【国際公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(509286411)ヘルムレ マシネンバウ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (2)
【Fターム(参考)】