説明

一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置

【課題】転動面および転がり軸受の内外輪の転走面における剥離やフレッティング摩耗の発生を防止する。
【解決手段】同心に配置された内径側回転部材12と、筒状の外径側回転部材13と、この外径側回転部材13が上記内径側回転部材12よりも高速で回転する場合にのみ、これらを繋ぐ一方向クラッチと、これら両回転部材同士の相対回転を自在とする転がり軸受1とを備えてなる一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置8であって、複数個のころ14を設置したクラッチ内部空間内と、複数個の転動体4を設置した軸受空間内とにグリース7が封入されてなり、上記グリース7は、基油と、増ちょう剤と、添加剤とを含み、上記基油はPAO油であり、上記添加剤としてZnDTCおよびZnDTPから選ばれた少なくとも1つの化合物をグリース全体に対して 0.01〜15 重量%含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置は、例えば、自動車のオルタネータの回転軸や、アイドリングストップ車を含む自動車の走行用エンジンを始動するためのスタータモータの駆動軸に装着して使用する。本発明は、このような各種の用途に使用される一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置に関し、特に該装置に封入するグリース組成物に特徴を有するものに関する。
【背景技術】
【0002】
小型軽量化を目的としたFF(フロントエンジン・フロント駆動)車の普及により、また、さらに居住空間の拡大により、自動車はエンジンルームの縮小を余儀なくされつつある。このため、自動車用電装補機は小型軽量化が一層進められるとともに、高性能、高出力のものがますます求められている。
代表的な自動車用電装補機として、エンジン温度に対応した最適な送風を行なうファンカップリング装置やエンジンの回転をベルトで受けて発電し、車両の電気負荷に電力を供給するとともに、バッテリーを充電するオルタネータなどがある。これらはエンジンが所定の出力状態にあるときのみ繋がる一方向クラッチを介してエンジンの回転トルクを効率よく利用するために用いられるものである。自動車用電装補機に装着される一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置は、エンジン出力軸への着脱が頻繁に繰り返され、エンジン出力軸と繋がるときの回転速度が高いために、負荷荷重、発生する熱および振動などが大きくなるなど、自動車の高性能化・高出力化に伴って、使用条件が厳しくなっている。
【0003】
一方、このように一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置の使用条件が厳しくなると、各転がり軸受の回転時、すなわちローラクラッチのオーバーラン時に、これら各転がり軸受を構成する各玉の転動面および内輪、外輪各転走面に、水素脆性による白色組織変化を伴った剥離が生じやすくなる。また、各転がり軸受の非回転時、すなわちローラクラッチのロック時に、各玉の転動面と内輪、外輪各転走面との接触部でフレッティング摩耗が生じやすくなる可能性がある。このため、各玉を設置した空間内に封入するグリースとして、剥離やフレッティング摩耗の発生を防止できるものを使用することが望まれている。
【0004】
また、一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置を装着した自動車用電装補機などは、エンジンルームの下部に設置されることが多いため、自動車の走行時、一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置に雨水などが浸入しやすい。このような雨水などが各転がり軸受の各玉を設置した空間内に浸入すると、これら各玉の転動面および内輪、外輪各転走面が腐食しやすくなる。このため、各玉を設置した空間内に封入するグリースとしては、他の箇所に使用されるグリースよりも錆び止め性能に優れたものを使用する必要がある。
【0005】
従来、オルタネータ用一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置の一方向クラッチにおいて、エーテル油を基油としたグリースを使用するもの(特許文献1参照)、粘度圧力係数が所定値以上であるグリースを使用するもの(特許文献2参照)、または、40℃での動粘度が 60 mm2/sec 以下の合成油を基油としたグリースを使用するもの(特許文献3参照)などが知られている。
しかしながら、特許文献1のように、エーテル油を基油としたものでは、一方向クラッチがオーバーラン状態での低摩擦摩耗特性が十分でないという問題がある。特許文献2では、粘度圧力係数が所定値以上であることは、ロック状態を確実に実現するには有効であるが、オーバーラン状態での摩耗を十分に抑制することができないという問題がある。また、特許文献3のように、グリース基油に動粘度が低い合成油を使用した場合では、一般的に耐熱性が不十分となり、長期間の使用が困難になるという問題がある。
【特許文献1】特開平11−82688号公報
【特許文献2】特開2000−234638号公報
【特許文献3】特開2000−253620号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、一方向クラッチのころの転動面および転がり軸受の内外輪の転走面における剥離やフレッティング摩耗の発生を防止でき、耐熱耐摩耗性能に優れる一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置は、内径側回転部材と、この内径側回転部材と同心に配置された筒状の外径側回転部材と、これら内径側回転部材の外径面と外径側回転部材の内径面との間に配設され、この外径側回転部材が上記内径側回転部材よりも高速で回転する場合にのみ、これら内径側回転部材の外径面と外径側回転部材の内径面とを繋ぐ一方向クラッチと、この一方向クラッチを軸方向に対し両側に挟む形で配設され、上記内径側回転部材と外径側回転部材との間に加わるラジアル荷重を支承しつつ、これら両回転部材同士の相対回転を自在とする転がり軸受とを備えてなる一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置であって、上記一方向クラッチを構成する複数個のころを設置したクラッチ内部空間内と、上記転がり軸受を構成する複数個の転動体を設置した空間内とにグリースが封入されてなり、基油と、増ちょう剤と、添加剤とを含み、上記基油はポリ-α-オレフィン(以下、PAOと記す。)油であり、上記添加剤として亜鉛ジチオカーバメート(以下、ZnDTCと記す。)およびジチオリン酸亜鉛(以下、ZnDTPと記す。)から選ばれた少なくとも1つの化合物をグリース全体に対して 0.01〜15 重量%含むことを特徴とする。
【0008】
上記PAO油は、40℃における動粘度が 30〜70 mm2/sec であることを特徴とする。
ここで、PAO油の動粘度は JIS K 2283にて測定される動粘度である。
【0009】
上記増ちょう剤は、下記式(1)で示されるウレア系化合物であることを特徴とする。
【化1】

(式中、R1およびR3 は、炭素原子数 6〜20 の炭化水素基であり、R1およびR3 は、同一であっても異なっていてもよい。R2 は、炭素原子数 6〜15 の芳香族系炭化水素基である。)
【発明の効果】
【0010】
本発明の一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置は、一方向クラッチおよび転がり軸受に、基油としてPAO油を用い、ZnDTCおよびZnDTPから選ばれた少なくとも1つの化合物を、グリース全体に対して 0.01〜15 重量%含むグリースを使用しているので、摩耗防止効果を長期間持続することができる。そのため、一方向クラッチのころの転動面および転がり軸受の内外輪の転走面における剥離やフレッティング摩耗の発生を防止でき、一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置の耐摩耗性および耐久性を長期間維持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
摩耗防止剤含有グリースを封入した一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置について検討した結果、基油としてPAO油を用い、グリース全体に対し、添加剤としてZnDTCおよびZnDTPから選ばれた少なくとも1つの化合物を 0.01〜15 重量%配合したグリースを封入した一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置は、ZnDTCおよびZnDTP以外の添加剤を配合したグリースを封入した一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置に比べて、高荷重およびすべり運動下で摩耗が少なく、長期耐久性能が向上することがわかった。これはZnDTCおよびZnDTPが、それら以外の物質よりも摩耗防止効果を長時間持続することができることによるものと考えられる。本発明はこのような知見に基づくものである。
【0012】
本発明の一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置を図1に基づいて説明する。図1は、一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置を示す断面図である。この一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置は、互いに同心に配置した一対の回転部材として、プーリ10(外径側回転部材)とスリーブ9(内径側回転部材)とを備える。そして、これらプーリ10の内径面とスリーブ9の外径面との間に、一対の転がり軸受1、1と一方向クラッチであるローラクラッチ11とを設けている。
プーリ10は、全体が円筒状に形成されており、その外径面の幅方向に関する断面形状を波形として、ポリVベルトと呼ばれる環状ベルトの一部を掛け渡し自在としている。一方、スリーブ9は、全体が円筒状に形成されており、オルタネータなどの補機の回転軸に嵌合固定して、この回転軸と共に回転自在である。そして、プーリ10の内径面とスリーブ9の外径面との間に位置する円筒状空間の軸方向両端部でこのローラクラッチ11を軸方向両側から挟む位置に転がり軸受1、1を設置するとともに、この円筒状空間の軸方向中間部にローラクラッチ11を設置している。
【0013】
このローラクラッチ11は、プーリ10がスリーブ9に対して所定方向に相対回転する動作となる場合にのみ、これらプーリ10とスリーブ9との間での回転力を自在に伝達する。また、このローラクラッチ11は、クラッチ用内輪12と、クラッチ用外輪13と、複数個のころ14と、クラッチ用保持器15と、図示しないばねとから構成される。これらの中でクラッチ用外輪13はプーリ10の中間部内径面に、クラッチ用内輪12はスリーブ9の中間部外径面に、それぞれ締り嵌めで嵌合固定している。また、クラッチ用外輪13の中間部内径面を単なる円筒面とし、かつ、クラッチ用内輪12の外径面をカム面16としている。すなわち、クラッチ用内輪12の外径面の円周方向に等間隔に、それぞれがランプ部と呼ばれる複数の凹部17を設けて、このクラッチ用内輪12の外径面をカム面16としている。
【0014】
また、クラッチ用外輪13の中間部内径面と、カム面16との間に、複数個のころ14と、これら各ころ14を転動および円周方向に関する若干の変位に対応して支持する、クラッチ用保持器15とを設けている。このクラッチ用保持器15は、全体が合成樹脂製であり、その内周縁部をカム面16の一部と係合させることにより、クラッチ用内輪12に対する相対回転を防止している。同時に、図示の例では、クラッチ用保持器15の端部内径面に形成した凸部18を、スリーブ9の外径面に設けた段差面19と、クラッチ用内輪12の軸方向端面との間で挟持することにより、クラッチ用保持器15の軸方向の位置決めを行なっている。また、各ころ14と、クラッチ用保持器15との間には、これら各ころ14を円周方向と同方向(各凹部17が浅くなる方向)に押圧するための、ばね(図示せず)を設けている。
【0015】
上述のローラクラッチ11を構成する場合、複数個のころ14と当接する円筒面およびカム面16は、それぞれプーリ10の内径面およびスリーブ9の外径面に直接形成する場合もある。また、カム面16と円筒面との径方向に関する配置は、上述の構造と逆にする場合もある。
【0016】
また、一対の転がり軸受1、1は、プーリ10に加わるラジアル荷重を支承しつつ、スリーブ9とプーリ10との相対回転を自在とする。この様な各転がり軸受1、1として、図1においては、それぞれ深溝型の玉軸受を使用している。すなわち、これら各転がり軸受1、1はそれぞれ、深溝型の玉軸受の断面図である図2に詳細を示すとおり、外径面に深溝型の内輪転走面2aを有し、スリーブ9の両端部に嵌合固定した内輪2と、内径面に深溝型の外輪転走面3aを有し、プーリ10の両端部に嵌合固定した外輪3と、これら内輪転走面2aと外輪転走面3aとの間に保持器5により保持した状態で転動自在に設けられた複数個の玉4とから構成される。また、内輪2の外径面と外輪3の内径面との間に存在する、各玉4を設けた空間の両端開口部は、それぞれシール部材6により密封されている。これにより、各玉4を設けた空間内に封入したグリース7が外部に漏洩するのを防止するとともに、この空間内に塵芥などの異物が侵入するのを防止している。
【0017】
上述の構成の一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置において、スリーブ9はオルタネータなどの自動車用電装補機の回転軸の端部に嵌合固定されるとともに、プーリ10の外径面は環状ベルトが掛け渡される。この環状ベルトはエンジンのクランクシャフトなどの端部に固定された駆動プーリに掛け渡され、この駆動プーリの回転により駆動する。このような状態で組み付けられる一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置は、環状ベルトの走行速度が低下していく場合には、これらプーリ10と回転軸との相対回転を自在とし、反対に環状ベルトの走行速度が一定もしくは上昇していく場合には、プーリ10から回転軸への回転力の伝達を自在としている。この結果、クランクシャフトの回転角速度が変動した場合でも、プーリ10と環状ベルトとが擦れ合うことを防止して、鳴きと呼ばれる異音の発生や摩耗による環状ベルトの寿命低下を防止するとともに、オルタネータの発電効率の低下を防止できる。
【0018】
一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置を用いて、自動車用電装補機の電動モータとエンジンとのうちの一方が運転状態にあり、他方が停止状態にある場合に、この一方の回転軸からプーリ10への回転力の伝達を自在にするとともに、他方の回転軸が回転しないようにすることができる。例えば、一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置を自動車用電装補機の電動モータおよびクランクシャフトの駆動軸の端部に装着することにより、エンジンのアイドルストップ時の補機駆動装置に利用することができる。
【0019】
本発明の一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置に封入するグリースに添加するZnDTCは、硫化ジアルキルジチオカルバミン酸亜鉛とも称され、下記式(2)で表わされる。
【化2】

式中、R4 およびR5 はそれぞれ炭素原子数 1〜24、好ましくは 3〜18 の脂肪族炭化水素基である。
ZnDTCの市販品としては、バンルーブAZ(バンダービルド社製)を挙げることができる。
【0020】
本発明の一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置に封入するグリースに添加するZnDTPは、ジンクジチオフォスフェートとも称され、下記式(3)で示される。
【化3】

式中、R6 は炭素原子数 1〜24 の脂肪族炭化水素基、または炭素原子数 6〜30 の芳香族炭化水素基である。
ZnDTPの市販品としては、LZ1095(ルブリゾール社製)を挙げることができる。
【0021】
本発明に使用できるZnDTCおよびZnDTPから選ばれた少なくとも1つの化合物の配合割合は、グリース全体に対して 0.01 重量%〜15 重量%、好ましくは 0.5 重量%〜5 重量%である。0.01 重量%未満の場合には所期の効果を十分に得ることが困難になり、また、15 重量%をこえる場合には効果は頭打ちになりコスト的に不利になる。
【0022】
本発明の一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置用グリースに使用できる基油としては、PAO油を使用することが好ましい。該PAO油としては、通常、α−オレフィンまたは異性化されたα−オレフィンのオリゴマーまたはポリマーの混合物である。α−オレフィンの具体例としては、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、1−エイコセン、1−ドコセン、1−テトラコセンなどを挙げることができ、通常はこれらの混合物が使用される。
【0023】
本発明の一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置に封入するグリースに使用できる基油は、好ましくは、40℃における動粘度が 30〜70 mm2/sec である。特に好ましくは 40〜60 mm2/sec である。 30 mm2/sec 未満の場合は、蒸発量が増加し、耐熱性が低下するので好ましくなく、また、70 mm2/sec をこえると回転トルクの増加により、クラッチのころの転動面、および転がり軸受の玉の転動面での温度上昇が大きくなるので好ましくない。
【0024】
基油の配合割合は、グリース全体に対して、70〜95 重量%であることが好ましい。基油の配合割合が、70 重量%未満では、潤滑油が少なく潤滑不良となりやすい。また 95 重量%をこえるとグリースが軟化しやすくなるので、漏れやすくなる。
【0025】
本発明の一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置に封入するグリースに使用できる増ちょう剤として、アルミニウム、リチウム、ナトリウム、複合リチウム、複合カルシウム、複合アルミニウムなどの金属石けん系増ちょう剤、およびジウレア化合物、ポリウレア化合物などのウレア系化合物が挙げられる。耐久性、耐フレッティング性などを考慮するとウレア系化合物が好ましい。ウレア系化合物は、例えば下記式(1)で表わされる。
【化4】

式中、R1およびR3 は、炭素原子数 6〜20 の炭化水素基であり、R1およびR3 は、同一であっても異なっていてもよい。R2 は、炭素原子数 6〜15 の芳香族系炭化水素基である。また、R1 およびR3 は、炭素原子数 6〜12 の芳香族炭化水素基または炭素原子数 6〜20 の脂環族炭化水素基または炭素原子数 6〜20 の脂肪族炭化水素基であることが好ましい。
ウレア系化合物は、イソシアネート化合物とアミン化合物を反応させることにより得られる。反応性のある遊離基を残さないため、イソシアネート化合物のイソシアネート基とアミン化合物のアミノ基とは略当量となるように配合することが好ましい。
【0026】
式(1)で表されるジウレア化合物は、例えば、ジイソシアネートとモノアミンの反応で得られる。ジイソシアネートとしては、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、3,3−ジメチル−4,4−ビフェニレンジイソシアネート、オクタデカンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、ヘキサンジイソシアネー卜などが挙げられ、モノアミンとしては、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、アニリン、p−トルイジン、シクロヘキシルアミンなどが挙げられる。
得られるジウレア化合物は、増ちょう剤として単独で用いても 2 種類以上組み合わせて用いてもよい。
反応は、例えばモノアミン酸とジイソシアネート類を、70〜110℃程度の基油中で十分に反応させた後、温度を上昇させ 120〜180℃で 1〜2 時間程度保持し、その後冷却し、ホモジナイザー、3 本ロールミル等を使用して均一化処理することによりなされ、各種配合剤を配合するためのベースグリースが得られる。
【0027】
本発明の一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置に使用できるグリースの混和ちょう度は、200〜400 の範囲が好ましい。混和ちょう度は、JIS K 2220にて測定される混和ちょう度である。混和ちょう度が 200 未満では低温時の潤滑性能が悪くなり、400 をこえるとグリース組成物が漏れやすくなって好ましくない。
【0028】
本発明の一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置に用いるグリースは、必要に応じて公知の添加剤を含有させることができる。この添加剤として、例えば、有機亜鉛化合物、アミン系、フェノール系、イオウ系などの酸化防止剤、ベンゾトリアゾール、亜硝酸ソーダなどの金属不活性剤、ポリメタクリレート、ポリスチレンなどの粘度指数向上剤、二硫化モリブデン、グラファイトなどの固体潤滑剤などが挙げられる。これらを単独または2種類以上組み合せて添加することができる。
【実施例】
【0029】
実施例1〜実施例7
反応容器中で、基油中に増ちょう剤を加え、3 本ロールミルを用いて均一化処理して、表1に示すウレア/PAO油系グリース( 40℃基油粘度 46 mm2/sec )を得た。さらに、添加剤としてZnDTC、ZnDTPおよびアミン系酸化防止剤(大内新興化学社製、ノクラックAD−F)とを、表1に示す割合で上記グリースに添加して、各実施例のグリースを作製した。得られたグリースにつき、以下に記す極圧性評価試験および高温高速試験を行なった。結果を表1に併記した。
【0030】
比較例1〜比較例6
反応容器中で、基油中に増ちょう剤を加え、3 本ロールミルを用いて均一化処理して、表1に示すLi石けん/鉱油系グリース( 40℃基油粘度 100 mm2 /sec )、ウレア/PAO油系グリース( 40℃基油粘度 46 mm2/sec)を得た。さらに、添加剤としてモリブデンジチオカーバメートおよびアミン系酸化防止剤(大内新興化学社製、ノクラックAD−F)とを、表1に示す割合で上記グリースに添加して、各比較例のグリースを作製した。得られたグリースにつき、実施例と同様にして極圧性評価試験および高温高速試験を行なった。結果を表1に併記した。
【0031】
極圧性評価試験:
極圧性評価試験装置を図3に示す。評価試験装置は、回転軸20に固定されたφ40×10 のリング状試験片21と、この試験片21と端面23にて端面同士が擦り合わされるリング状試験片22とで構成される。ころ軸受用グリースを端面23部分に塗布し、回転軸20を回転数 2000 rpm、図3中右方向Aのアキシアル荷重 490 N 、ラジアル荷重 392 N を負荷して、極圧性を評価した。極圧性は両試験片のすべり部の摩擦摩耗増大により生じる回転軸20の振動を振動センサにて測定し、その振動値が初期値の 2 倍になるまで試験を行ない、その時間を測定した。
回転軸20の振動値が初期値の 2 倍になるまでの時間が長いほど極圧性効果が大となり、優れた耐熱耐久性を示す。したがってグリースの耐熱耐久性の評価は、測定された上記時間の長さにて各実施例と各比較例とを対比させて行なった。
【0032】
高温高速試験:
転がり軸受(軸受寸法:内径φ 20 mm×外径φ 47 mm×幅 14 mm )に各実施例および各比較例で得られたグリースをそれぞれ 1.8 g 封入し、軸受外輪外径部温度 150℃、ラジアル荷重 67 N 、アキシャル荷重 67 N の下で、 10000 rpm の回転数で回転させ、焼きつきにいたるまでの時間を測定した。
【0033】
総合評価:
極圧性評価試験にて回転軸20の振動値が初期値の 2 倍になるまでの時間が 140 時間以上あり、かつ高温高速試験にて焼きつきにいたるまでの時間が2300時間以上あるグリースを一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置の耐摩耗性および耐久性に優れると評価して「○」を、それ以外を不可と評価して「×」を表1に併記した。
【0034】
【表1】

【0035】
表1においてZnDTCおよびZnDTPから選ばれた少なくとも1つの化合物と、ウレア/PAO油系グリースとを併用した各実施例は、いずれも極圧性にまさり、優れた耐熱耐久性を示した。
ウレア/PAO油系グリースを使用した比較例1〜比較例4は、優れた耐熱耐久性を示したが、極圧性に劣り、Li石けん/鉱油系グリースを使用した比較例5〜比較例6は極圧性および耐熱耐久性に劣り、摩耗防止剤にモリブデンジチオカーバメートを用いた比較例4および比較例6は極圧性が向上しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置は、そのグリースに、基油としてPAO油を、添加剤として耐熱耐久性に優れたZnDTCおよびZnDTPから選ばれた少なくとも1つの化合物を配合したものを用いるので、摩耗防止効果を長期間持続することができる。そのため、耐摩耗性とともに、長期間耐久性の要求される鉄道車両、建設機械、自動車用電装補機などに好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置を示す断面図である。
【図2】転がり軸受の断面図である。
【図3】極圧性評価試験装置を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
1 転がり軸受
2 内輪
2a 内輪転走面
3 外輪
3a 外輪転走面
4 ころ
5 保持器
5a ポケット
6 シール部材
6a 弾性材
7 グリース
8 一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置
9 スリーブ
10 プーリ
11 ローラクラッチ
12 クラッチ用内輪
13 クラッチ用外輪
14 ころ
15 クラッチ用保持器
16 カム面
17 凹部
18 凸部
19 段差面
20 回転軸
21 リング状試験片
22 リング状試験片
23 端面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内径側回転部材と、この内径側回転部材と同心に配置された筒状の外径側回転部材と、これら内径側回転部材の外径面と外径側回転部材の内径面との間に配設され、この外径側回転部材が前記内径側回転部材よりも高速で回転する場合にのみ、これら内径側回転部材の外径面と外径側回転部材の内径面とを繋ぐ一方向クラッチと、この一方向クラッチを軸方向に対し両側に挟む形で配設され、前記内径側回転部材と外径側回転部材との間に加わるラジアル荷重を支承しつつ、これら両回転部材同士の相対回転を自在とする転がり軸受とを備えてなる一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置であって、
前記一方向クラッチを構成する複数個のころを設置したクラッチ内部空間内と、前記転がり軸受を構成する複数個の転動体を設置した空間内とにグリースが封入されてなり、
前記グリースは、基油と、増ちょう剤と、添加剤とを含み、前記基油はポリ-α-オレフィン油であり、前記添加剤として亜鉛ジチオカーバメートおよびジチオリン酸亜鉛から選ばれた少なくとも1つの化合物を、グリース全体に対して 0.01〜15 重量%含むことを特徴とする一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置。
【請求項2】
前記ポリ-α-オレフィン油は、40℃における動粘度が 30〜70 mm2/sec であることを特徴とする請求項1記載の一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置。
【請求項3】
前記増ちょう剤は、下記式(1)で示されるウレア系化合物であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置。
【化1】

(式中、R1およびR3 は、炭素原子数 6〜20 の炭化水素基であり、R1およびR3 は、同一であっても異なっていてもよい。R2 は、炭素原子数 6〜15 の芳香族系炭化水素基である。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−342939(P2006−342939A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−171297(P2005−171297)
【出願日】平成17年6月10日(2005.6.10)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】