説明

一方向性光パワーモニター

【課題】 30dB以上の方向性特性を有する小型で高性能な一方向性光パワーモニター
を提供する。
【解決手段】 GRINレンズと光ダイオードを挿入装着する穴の中心軸がずれたスリー
ブを用い、スリーブ全体もしくは内周面を黒色で不透光な材料で構成し、スリーブ内の中
間壁の位置を0.55L以上0.8L以下、中間壁の角度を45度以上135度以下、中
間壁と内周壁の壁面の光反射率を10%以下、表面粗さ2nm以下、うねりは使用波長の
1/2以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に光通信分野において用いられる光パワーモニターに係るものである。
【背景技術】
【0002】
近年、情報通信における技術革新は目覚しく、インターネットの普及による通信速度の
高速化の要求および情報量の増加に対応するため、電気信号による通信から光信号による
通信へと移行しつつある。多くの基幹となるケーブルは、様々な中継点から情報が集まっ
てくるため、光ケーブルへと置き換わりつつあり処理速度が格段に向上してきた。今後は
、そうした光ケーブルとユーザー端末との間の通信が見直されるようになり、より安くよ
り快適な情報通信環境の整備への要求は、ますます厳しくなってきている。
【0003】
光通信網が徐々に整備されてくると、情報の授受が高速に行なわれるようになり、また
それに伴って新たな用途も拡大していくため、さらに光通信網を行き交う情報量は増加す
ることになる。光ファイバーの処理できる情報量を上げるためには、単位時間あたりの信
号量を増大させるために、高周波の信号を使用することや、波長多重方式と呼ばれる、異
なる情報を持つ多数の波長の信号を単一な光ファイバー中で同時に送信するという技術が
用いられている。また、緻密で信頼性の高い通信網を形成するには、多方向、多経路への
接続を確保する必要があり、保守用途の観点からも複数の光ファイバーの利用は必須とな
っている。
【0004】
多数の信号を光ファイバーで伝送するような光通信回路を形成する際には、波長多重し
た光信号を各波長に分波したり、逆にそれぞれの波長の光信号を合波したり、更には、光
信号の分岐や挿入を行なうと言ったWavelength Division Mult
iplex(以下、WDMと略す)システムが必要になる。情報量が増加すると共に、扱
われる情報の重要性も高くなる。光信号が欠落した場合には、どの光信号がどこで欠落し
たのかを迅速に把握する必要があり、光信号の接続の可否だけでなく、場合によっては信
号強度を確認することも必要となる。また、伝送距離が長くなると、光ファイバー中を伝
播するだけでも光信号強度が減衰してしまうため、光信号を増幅するためのErbium
Doped Fiber Amplifier(以下、EDFAと略す)という装置も
必要になる。EDFAでは、増幅の割合を判断することを目的として外部から入力した光
信号における強度や、増幅した後外部に出射する光信号の強度を正確に把握することが必
要になり、信頼性の高い光通信システムを構築するためには、こうした細かいモニタリン
グ機能が不可欠となってきている。
【0005】
WDMシステムにおいては、光信号の入射と出射の方向が決まっており、光信号をモニ
タリングする場合には、その方向性は特に必要とされなかった。一方、EDFAにおいて
は、ポンプレーザーを入射して、特殊ファイバー内を伝播させることによって光信号を増
幅するという構造上、増幅した光信号が逆流することがあり、光信号の増幅量を正確に判
断するためには、入射側ファイバーからの光信号のみを検知し、出射側ファイバーからの
戻り光は検知しないという機能が必須となっている。
【0006】
発明者らは、単一方向性を有した光パワーモニターを考案出願しており、特許文献1で
公開されている。図8に、一方向性光パワーモニターの断面構造を示す。小さな間隔で平
行に並べられた光ファイバーA3と光ファイバーB4がガラスフェルール2’に固着され
たピッグテールファイバー2と、光ファイバーA3と光ファイバーB4からの入射光を一
定の割合で反射と透過させるタップ膜8を有するGRINレンズ7は、所定の間隙5を持
って円筒状チューブに挿入され、樹脂で固着されている。GRINレンズ7とタップ膜を
透過した光を受けるレンズ付きフォトダイオード10は、円柱状の外形を有するスリーブ
9の孔に挿入され、樹脂で固着されている。円柱状の外形を有するスリーブ9の一方の端
面にはGRINレンズを挿入する第一の円孔21、他方の端面にはレンズ付き光ダイオー
ド10を挿入する第二の円孔22が設けられている。第一の円孔21と第二の円孔22の
中心軸は、スリーブ9の中心軸と平行でずれて設けられており、第一の円孔21と第二の
円孔22はスリーブ9の略中間位置で接続され、通孔27と中間壁26を形成している。
光ファイバーA3から入射した光(実線の矢印で図示している)で、GRINレンズのタ
ップ膜で反射した光は光ファイバーB4に入り、透過した光はレンズ付き光ダイオード1
0に入り電流に変換され、電極ピン11から電気信号として取り出される。光ファイバー
B4から入射した光(破線の矢印で図示している)で、GRINレンズのタップ膜で反射
した光は光ファイバーA3に入り、透過した光は中間壁26と第一の円孔21の壁面25
で反射と減衰を繰返し、レンズ付き光ダイオードには光の入射はない。光ファイバーA3
から入射しタップ膜を透過した光は、通孔27を通りレンズ付き光ダイオード10に達す
るが、光ファイバーA3から入射しタップ膜を透過した光は、レンズ付き光ダイオード1
0に達しないと言う方向性を持たせることができる。
【0007】
ここで、GRINレンズの働きについて簡単に述べる。ピッグテールファイバー2の光
ファイバーA3から入射した光信号は、光ファイバーAの端面から間隙5の空間に放射さ
れビーム径が広がりながらGRINレンズ7に入る。GRINレンズ内で光の進行方向を
変化させ略平行光にする。タップ膜8に到達した略平行光は、一定の割合で反射と透過を
行なう。反射した光は、再びGRINレンズ内を通過し、更にビーム径が絞られながら進
行し、間隙5の空間に放射される。放射された光は、光ファイバーBの端面で焦点を結び
光ファイバーAから入射した光が光ファイバーBに接続される。
【0008】
【特許文献1】国際公開番号 WO 2005/124415 A1 図1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1には、方向性特性で25dB以上を得ることができると記載されている。方
向性特性とは、光ファイバーAから光を入れた時の光ダイオードの受光感度A(mA/W
)と、光ファイバーBから光を入れた時の光ダイオードの受光感度B(mA/W)の比で
あり、方向性特性=10log(受光感度A/受光感度B)(dB)で計算される。
【0010】
現行のEDFAは、光信号を15から20dB程度増幅するもので、方向性特性が25
(dB)以上ある一方向性パワーモニターであれば、十分使用する事ができた。しかし、
情報量の増加により波長多重した光信号の分波や合波、分岐や挿入が増えて来るため、3
0dB以上の方向性特性が求められるようになってきた。
【0011】
本特許の目的は、光ファイバーAから入りタップ膜を透過した光をフォトダイオードで
検知し、光ファイバーBから入りタップ膜を透過した光がフォトダイオードに入ることを
妨げる光パワーモニターであり、光ファイバーBから入射しタップ膜を透過した光を、中
間壁と内周壁の壁面で反射と減衰を繰り返させることで、30dB以上の方向性特性を有
する小型で高性能な一方向性光パワーモニターを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一方向性光パワーモニターは、小さな間隔で平行に並べられた2本の光ファイ
バーA,Bを持ち、それら光ファイバーの開口を1つの端面上で端面中心の周りに持つピ
ッグテールファイバーと、互いに対向している2つの端面を持ち、それらのうち一方の端
面はピッグテールファイバーの前記1つの端面と対向していて、他の端面はその上にタッ
プ膜を有する円柱状GRINレンズと、所定の間隙を持って円筒状チューブに挿入固着さ
れている。GRINレンズと光ダイオードを接続するスリーブは、第一の端と第二の端と
を持つ。第一の端から、第一の端と第二の端との間の略中間位置まで開けられている第一
の円孔と、第二の端から前記中間位置まで開けられていて、第一の円孔の中心軸から偏芯
している中心軸を持つ第二の円孔とを有する。第一の円孔は略中間位置で第二の円孔と接
続する通孔と中間壁とを持つ。スリーブの第二の端において第二の円孔内に通孔に向かっ
て設けられているレンズを前面に持つ光ダイオードを設ける。光ファイバーAから入力さ
れタップ膜を透過した光信号は第一の円孔と第二の円孔とを通って光ダイオードに達し電
気信号を発する。光ファイバーBから入力されタップ膜を透過した光信号はスリーブの中
間壁によってその光路が妨げられ、光ダイオードには達しない構造であって、GRINレ
ンズのタップ膜とレンズを前面に持つ光ダイオードのレンズ頂点間の距離Lに対し、中間
壁がタップ膜から0.55L以上0.8L以下の位置にあることが好ましい。
【0013】
中間壁の位置は、第一の円孔の内周壁と中間壁の交わる点で規定される。
【0014】
光ファイバーAから入射した光信号は、端面において空間に放射され、ビーム径が広が
りながらGRINレンズに入る。GRINレンズ内では、光の進行方向を変化させ略平行
光になったところでタップ膜に到達し、一定の割合で反射と透過を行なう。反射した光は
、再びGRINレンズ内を通過し、更にビーム径が絞られながら進行し、空間に放射され
る。その後、他方の光ファイバーBの端面にて焦点を結ぶため、光ファイバーAから入射
した光が光ファイバーBに接続する。タップ膜を透過した光は、スリーブによってGRI
Nレンズの中心線と偏芯して固着された光ダイオードに入り、光量を電流に変換すること
で光量に比例した電気信号が得られる。
【0015】
光ファイバーBから入射した光は、空間に放射された後GRINレンズに入る。GRI
Nレンズ内では光の進行を変化させ略平行光になったところで、タップ膜により一定の反
射と透過を行なう。タップ膜で反射した光は、GRINレンズ、空隙の経路を取り光ファ
イバーAに接続する。タップ膜で透過した光は、GRINレンズの中心線に対して対称な
方向に進み、スリーブ内に設けた中間壁の壁面で減衰をしながら反射し光の進行方向を変
える。光は第一の円孔の内周壁で反射と減衰を繰り返しながら、光ダイオードには入射し
ないようにすることで一方向性が得られる。
【0016】
GRINレンズのタップ膜とレンズ付き光ダイオードのレンズ頂点間の距離Lに対し、
GRINレンズのタップ膜から中間壁までの距離は0.55L以上が好ましい。0.55
L未満の短い距離では、光ファイバーBから入射しタップ膜を透過した光の一部が中間壁
に当たらず通孔を通り第二の円孔に入り、第二の円孔の内周壁で反射した後、減衰するこ
となく光ダイオードに入射してしまう危険性が大きくなる。また、0.8Lより長い距離
では、光ファイバーBから入射した光、中間壁で反射する前に第一の円孔の内周壁で反射
することになり、フォトダイオードで検知されてしまう。0.8Lより大きくすると、中
間壁で光を反射させることが出来ない危険性が大きくなるためである。
【0017】
本発明の一方向性光パワーモニターの、スリーブに設けたGRINレンズのタップ膜と
対向する中間壁と第一の円孔の内周壁が成す角度は、45度以上135度以下であること
が好ましい。
【0018】
光ファイバーAから入射した光でタップ膜を透過した光は光ダイオードに入するが、光
ファイバーBから入射した光でタップ膜を透過した光は、中間壁に当たり反射と減衰を起
こす。中間壁と第一の円孔の内周壁とで成す角度が135度より大きい場合には、中間壁
に当たった光はGRINレンズ側に戻らず、レンズ付き光ダイオード方向へと進むことに
なる。反射時の散乱光を含めて反射光が迷光として光ダイオードに入り、光ダイオードか
ら電流が出力されることになる。30dB以上の方向性特性を得るには、この様な迷光を
無くすことが必要である。
【0019】
中間壁と第一の円孔の内周壁とで成す角度が45度より小さい場合には、中間壁に当た
った光は、GRINレンズ方向に反射するので、30dB以上の方向性特性を得易くなる
。しかし、中間壁の先端部が鋭角になるため、スリーブを製造する際に中間壁の先端部に
欠けやクラックが生じやすくなってしまう。中間壁の先端部の欠けは、部品段階で確実に
除去すれば問題はないが、除去できなかった欠けやクラックが、使用環境温度の変化や振
動により欠けやクラックが進行して、スリーブ内に脱落してしまう恐れがある。スリーブ
内に脱落した破片は光路の妨げになるだけでなく、GRINレンズのタップ膜や光ダイオ
ードのレンズを傷付ける恐れがある。また、中間壁の先端部が鋭角になればなるほどスリ
ーブの製造が困難になることからも、45度より小さい角度は好ましくない。
【0020】
本発明の一方向性光パワーモニターのスリーブは、波長800nmから1650nmの
領域で不透光で、少なくともGRINレンズのタップ膜と対向する中間壁と第一の円孔及
び第二の円孔の内周壁の壁面の光反射率が10%以下であることが好ましい。
【0021】
スリーブに透明な材料を使用した場合、光が中間壁や第一の円孔の内周壁、第二の円孔
の内周壁を透過してスリーブ外に漏れる。光が透過して外部に漏れるということは、外部
からの光の進入を抑止することができないと言うことを意味している。一方向性光パワー
モニターを複数個並べて配置して使用することが多い。並べて使用した時、一方向性光パ
ワーモニターから漏れた光が、他の一方向性光パワーモニターに入射する恐れがある。一
方向性光パワーモニターから漏れた光が光ダイオードに入ると一方向性光パワーモニター
にとっては外乱ノイズとなり、安定した光のモニタリングが行なえなくなる。また、外部
に漏れた光が他の部品等に当たり予想もしない方向に進行することも考えられる。光通信
では、1310nmや1550nmといった可視光領域外の長波長光を使用しているため
、光の進行方向を視認することができず、安全面からも問題である。そのため、スリーブ
は、光を透過しない材質で形成し、外部に光を漏洩させないことが必要である。光を透過
させない材質で形成することで、自然光や照明等の影響も排除することができる。
【0022】
光ファイバーBから入射した光は、スリーブ内のGRINレンズのタップ膜と対向する
中間壁に当たり、減衰と反射を起こす。中間壁の壁面で反射した光は、第一の円孔の内周
壁に当たり減衰と反射を1回以上起こし、GRINレンズの方向へと戻る。その後、GR
INレンズのタップ膜面に当たり反射して、再び中間壁の方向へと進むことになる。スリ
ーブの中間壁と内周壁で減衰と反射をした後、GRINレンズのタップ膜面で反射し光ダ
イオードに入射するのが最も悪いケースと考えられる。この、最悪のケースでも30dB
の方向性特性を確保するため、壁面から反射する光の強度を低くすることが重要である。
【0023】
壁面に照射した光の強さP0に対する反射光の強さP1の割合P1/P0の百分率を光
反射率と定義する。光反射率が10%以下であれば、最悪のケースでも中間壁と内壁面で
の反射を各1回行なうので、反射光の強さは1/100に低下する。反射光は中間壁と内
周壁の2回反射を起こしているので、その反射光の光軸の中心がGRINレンズ中央部に
戻ることはない。また、GRINレンズのタップ膜面で反射した光の光軸の中心が光ダイ
オードのレンズ頂点からずれて入ることが考えられる。この光軸の中心のずれにより、光
ダイオードに入る光はガウス半径より外側の光となるので、光ダイオードで検知される光
の強さは、略1/10程度に低下することが期待できる。光ダイオードに入る光は、2回
の反射で1/100、光軸のずれで1/10と総計1/1000(30dB)になる。内
周壁の壁面での反射回数を増やすことで、30dB以上の方向性特性をより得易くできる
ものである。最悪のケースつまり最小の反射回数でもスリーブの光反射率を10%以下と
することで、30dBの方向性特性を得ることができる。勿論、光反射率が小さい程方向
性特性も良くなるので、光反射率が数%以下の材料を使用することがより好ましいもので
ある。
【0024】
本発明の一方向性光パワーモニターのスリーブは、黒色系セラミックもしくはグラファ
イト、黒色系ガラスであることが好ましい。
【0025】
光ファイバーBから入射した光は、スリーブの中間壁や内周壁の壁面で減衰と反射を起
こすため、光反射率が小さいことが必要である。光反射率が小さいということは、光を吸
収することであるので黒色系材料が好ましい。黒色系セラミックは、アルミナやジルコニ
ア、シリカ、ステアタイト、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミを主原料としたもの、
もしくはそれらの複合材料が好ましい。炭素系材料ではグラファイトが使用できる。特に
、黒色ガラス状のガス不透過性炭素材を使用すると樹脂接着も行い易い。黒色系ガラスは
、その主成分がアルミナ系やジルコニア系、シリカ系、チタニア系やそれらの複合材のガ
ラスを用いることができる。
【0026】
本発明の一方向性光パワーモニターのスリーブに、可視光領域で透明な材料を用い、少
なくともGRINレンズのタップ膜と対向する中間壁と第一の円孔及び第二の円孔の内周
壁の表面に、光反射率が10%以下の黒色膜を設けたものを使用することもできる。
【0027】
スリーブは、タップ膜を透過した光が外部に漏れず、外部からの光は遮断し、光反射率
が小さいものが好ましい。しかし、可視光領域で透明な材料であっても、GRINレンズ
のタップ膜と対向する中間壁と第一の円孔及び第二の円孔の内周壁に、光反射率が10%
以下の黒色膜を設けることで、外部からの光を遮断し、中間壁及び内周壁で反射を起こさ
せ外部に漏れることを防ぐことができる。透光性のスリーブの外周面に黒色膜を形成した
場合は、タップ膜を透過した光の外部漏洩は防ぐことが出来るが、中間壁は役目を果さな
くなるだけでなく、内周壁も反射する位置が変わってくるため、方向性特性が得られなく
なる可能性が高くなる。
【0028】
透光性のスリーブの中間壁と第一の円孔及び第二の円孔の内周壁に設ける黒色膜は、カ
ーボンや黒色系セラミック、黒色系ガラスを蒸着やスパッターで形成することができる。
【0029】
本発明の光パワーモニターのスリーブは、少なくともGRINレンズのタップ膜と対向
する中間壁と第一の円孔及び第二の円孔の内周壁の壁面の面粗さは、Ra=10nm以上
で、うねりは粗さモチーフの平均長さARが、使用する光の波長の1/2以下であること
が好ましい。
【0030】
スリーブの中間壁や内周壁の壁面で光の反射を抑制するには、光反射率の小さな材料を
使用することと共に、表面での光散乱を大きくすることである。光散乱は、表面の凹凸(
表面粗さRa)に依存し、表面粗さが小さいほど光散乱は小さく、表面粗さが大きくなる
に従い光散乱は大きくなる傾向を示す。光反射率を10%以下に抑えるには、Raが10
nm以上であることが好ましい。表面粗さRaは、JIS B0601に従い測定した値
である。また、使用する光の波長が1550nm近傍の長波長であるので、表面粗さRa
だけでなく表面のうねりを規定するのも光反射率の低減に効果がある。JIS B063
1に従い包絡うねり曲線から粗さモチーフの平均長さARを求め、ARが使用する波長の
1/2以下であることが好ましい。うねりの平均長さを使用する波長より小さくすること
で、光の散乱効果を上げることが可能となる。
【発明の効果】
【0031】
GRINレンズと光ダイオードを挿入装着する穴の中心軸がずれたスリーブを用い、ス
リーブ全体もしくはスリーブの内周壁を黒色で不透明な材料で構成し、スリーブ内の中間
壁の位置と角度を規定し、中間壁と内周壁の壁面の光反射率を下げることで、30dB以
上の高い方向性特性を有する一方向性光パワーモニターを提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態を詳細に説明する。説明を判り易くするため、
同じ部品、部位には同一の符号を用いている。
【実施例1】
【0033】
図1に、本発明の一方向性パワーモニターの断面図を示す。ピッグテールファイバー2
は、光ファイバーA3と光ファイバーB4を軸間で0.25mm離してガラスフェルール
2’にモールドした。ピッグテールファイバー2の外径は1.8mmである。GRINレ
ンズ7は、外径が1.8mm、屈折率が1.590、屈折率勾配定数が0.326のもの
を用いた。GRINレンズ端面に設けたタップ膜8は、SiOとTiOを周期的に積
層した誘電体多層膜とし、光の透過率を示すタップ率は1%とした。レンズ付き光ダイオ
ード10は、スリーブ9に挿入される部分の直径を1.8mm、台座部10’の直径を2
.1mmとし、台座部10’側に電極ピン11を配した。レンズ付き光ダイオード10の
光電気変換素子(図示せず)は、1550nm近傍の光通信波長帯で高い感度が得られる
InGaAsを用いた。GRINレンズ7の中心軸とレンズ付き光ダイオード10の中心
軸をずらして固定するスリーブ9は、黒色系セラミックスのアルミナで形成した。スリー
ブ9に設けられたGRINレンズ7を挿入装着する第一の円孔21とレンズ付き光ダイオ
ード10を挿入装着する第二の円孔22は、円柱状のアルミナにダイヤモンドエンドミル
を用いФ1.9mmの孔を加工した。第一の円孔21と第二の円孔22は通孔27で接続
するとともに、中間壁26を形成している。第一の円孔21の中心軸と第二の円孔22の
中心軸は、0.9mmずらした。中間壁26と第一の円孔21の内周壁の壁面の面粗さは
Raで約25nm、うねりの平均長さARは約640nmとした。ピッグテールファイバ
ー2とGRINレンズ7を固定する円筒状チューブ6には、内径2.0mmで外径2.8
mmの不透光の黒色ガラスを用いた。特に断わりの無い限り他の実施例においても、これ
らの仕様の部品、部材を用いている。
【0034】
本実施例で用いたこれら部品の組立て方法について述べる。ピッグテールファイバー2
とGRINレンズ7の対向面は、各々の径方向断面に対し8度の傾斜角を持たせている。
8度の傾斜角を持つ対向面とすることで、ピッグテールファイバー2とGRINレンズ7
の端部における光の反射の影響を抑えることができる。GRINレンズ7とピッグテール
ファイバー2を円筒状チューブ6に挿入した状態で、光ファイバーA3から光を入れ、光
ファイバーB4より出た光を光マルチメーターでモニタリングしながら、光ファイバーB
4から出た光の強度が最も大きくなる最適な間隙5を探し出し、ピッグテールファイバー
2とGRINレンズ7を円筒状チューブ6にエポキシ樹脂で接着固定した。エポキシ樹脂
は、100℃で45分間加熱硬化させた。全長14.0mmのスリーブの両端の孔に、G
RINレンズ7のタップ膜8側とレンズ付き光ダイオード10を各端面から2mmの深さ
まで挿入し、エポキシ樹脂で接着固定した。エポキシ樹脂は、100℃で45分間加熱硬
化させた。タップ膜8とレンズ付き光ダイオード10のレンズ頂点12との距離Lは10
.0mmである。光ファイバーB4から入射しGRINレンズのタップ膜8を透過した光
の、減衰と反射を行なう中間壁26は、タップ膜8からの距離が7.0mmになるように
設けた。中間壁26は、第一の円孔21の内周壁に対し略90度の壁面である。タップ膜
8から中間壁26の位置は、0.70Lに相当する。
【0035】
本実施例の一方向性光パワーモニター1を150個製作し、光学特性及び電気特性の評
価を行なった。以下に示す測定結果は、150個の平均値である。光ファイバーA3から
波長1550nm、光強度0dBmの光を入射し測定した。光の接続度を示す挿入損失は
0.31dB、電気的な出力を示す特性の受光感度Aは9.8mA/Wであった。光ファ
イバーB3から波長1550nm、光強度0dBmの光を入射したときの、挿入損失は0
.31dB、受光感度Bは7.3μA/Wであった。方向性特性は最小30.8dBで平
均31.3dBと良好な方向性特性が得られることが確認できた。
【実施例2】
【0036】
中間壁の位置を変化させた結果について述べる。図2に、中間壁の位置と方向性特性の
関係を示す。円柱状のアルミナの第一の端23と第二の端24からダイヤモンドエンドミ
ルで、第一の円孔21と第二の円孔22の深さを変えて、中間壁の位置が異なったスリー
ブ9を製作した。中間壁の位置が04Lから0.8Lまで0.05L間隔になるスリーブ
9を製作した。各間隔で5個の一方向性パワーモニター1を組立て供試した。図2は、5
個の一方向性パワーモニター中、最低の方向性特性値をプロットしている。中間壁の位置
を0.55L以上0.8L以下にすることで、方向性特性が30dBを超える良好な性能
を有する一方向性パワーモニターが得られることが実証できた。
【実施例3】
【0037】
中間壁の角度を変化させた結果について述べる。図4に、中間壁の角度と方向性特性の
関係を示す。中間壁が45度の一方向性パワーモニターの断面図を図3a)に、中間壁が
135度の一方向性パワーモニターの断面図を図3b)に示す。小さな角度は中間壁がG
RINレンズ側に突き出した形状で、大きな角度は、中間壁が光ダイオードの方向に倒れ
こんだ形状である。中間壁の角度は、第一の円孔を形成するダイヤモンドエンドミルの先
端の形状を変えることで形成した。第二の円孔の形成は従来通りとした。中間壁の角度を
30度から160度間で角度の異なる8種のスリーブ9を各5個製作し、一方向性パワー
モニター1を組立て供試した。図4は、各角度5個の一方向性パワーモニター中、最低の
方向性特性値をプロットしている。角度が135度よりも大きくなると、方向性特性は3
0dBよりも小さい値を示した。角度が135度よりも小さい形状では、中間壁で反射し
た光がGRINレンズの方向に戻ってくるのに対し、135度よりも大きくなると、反射
光が光ダイオードの方向に進むことで方向性特性が劣化したと考えられる。
【0038】
角度の小さい方は、30度のスリーブは製作できたが、中間壁の先端部にはカケが多数
認められた。30度未満の角度の試作を行ったが欠けが多発し、試作を進められなかった
。このことから、中間壁の角度は45度以上135度以下が好ましい範囲であることが確
認できた。
【実施例4】
【0039】
スリーブの材質を変更して試作を行なった結果について述べる。用いた材料は、図5に
示す試料#M1〜M7のセラミックと試料#M8〜M11のガラス、試料#M12のグラ
ファイトである。試料#M12のグラファイトは、セラミックやガラスの何れにも区分で
きないが、最も光の吸収が良いと考えられるものである。グラファイトには、黒色ガラス
状のガス不透過性炭素材を用いた。試料#M1〜M12の色調は、何れも黒色かまたは黒
色に近い暗灰色であった。スリーブの材質以外は実施例1と同じ仕様とし一方向性光パワ
ーモニターを組み立てた。図5に、スリーブ材のバルク材で波長1550nmで測定した
光反射率と受光感度A,B、方向性特性、暗電流を示す。受光感度と方向性特性、暗電流
は、供試した5個の一方向性パワーモニターの平均値である。暗電流は、光ファイバーA
、B何れからも光入力の無い状態での、光ダイオードの出力電流である。光ダイオード素
子自身の暗電流は、0.04から0.1nAであるため、暗電流が0.1nA以上の値を
示した場合は、外部の光がスリーブを通して一方向性パワーモニター内に入って来ている
ことを意味している。つまり、外部光の遮断が不完全で外部光がノイズになっていると言
うことになる。試料#M1〜M12の供試した一方向性パワーモニターの暗電流は、0.
048〜0.081nAと何れも0.1nA以下の値であり、外部光の遮断は完全に行わ
れている事が確認できた。
【0040】
方向性特性は、試料#M1〜M12で平均30.2dB以上が得られた。また、各試料
#の5個の試料の最低値でも、何れも30dB以上が得られた。材質の種類による差は、
明確には見られていないが、#M8〜#M11のガラス系スリーブよりも、#M1〜#M
7のセラミック系スリーブの方が、0.5〜1.0dB程度大きな値を示した。この差は
、中間壁と内周壁の壁面の面粗さの違いによるものと考えられる。ガラス系の面粗さRa
は略10nmで、硬度が高く加工し難いセラミック系の面粗さRaは略50nmと粗くな
っている。また、セラミック材には数%程度であるが空孔が存在する。この空孔で光の乱
反射が大きくなった可能性も考えられる。受光感度Bが、ガラス系に比べセラミック系は
全体的に小さいことから、大きな面粗さと空孔により方向性特性が良くなったものと考え
られる。壁面のうねりはガラス系もセラミック系とも500〜900nm程度であったが
、#M11のチタニア系ガラスのスリーブには、約1500nmと約1800nmのうね
りを示すものがあった。この試料の受光感度Bは、10.8と12.3(μA/W)と大
きな値を示した。他の3つの試料の受光感度Bは低い値であったので、平均すると9.1
(μA/W)と他のガラス系の試料と大きな差は出てきていない。#M1から#M10の
試料で受光感度B(μA/W)が図5に示す平均値より悪い試料のうねりを調べると、8
00nmから900nmの値を示した。このうねりの値は、用いた光の波長1550nm
の半波長775nmより大きいものであった。このことから、壁面のうねりは使用する光
の波長の1/2以下が好ましいと考えられる。グラファイトは、受光感度Bも小さく方向
性特性も32dBを超えており供試サンプル中最も良い特性を示した。
【実施例5】
【0041】
スリーブに透明なガラスを用い、少なくともGRINレンズ端面と対向する中間壁と第
一の円孔及び第二の円孔の内周壁に、光反射率が小さな膜を成膜して試作を行なった結果
について述べる。用いた材料は実施例4と同じとし、セラミック系とガラス系材料はスパ
ッター装置を用い製膜、カーボンは蒸着装置を用い製膜を行った。ガラス板上に各材質を
製膜して分光光度計で光透過率を測定し、光透過率が0.01%以下となる膜厚とした。
セラミック系は1μm程度、ガラスとグラファイトは3〜5μmとなった。これらの試料
を用いて、光反射率も測定した。図7に、各膜材質の光反射率と受光感度A,B、方向性
特性、暗電流を示す。受光感度と方向性特性、暗電流は、供試した5個の一方向性パワー
モニターの平均値である。試料#N1〜N12の供試した一方向性パワーモニターの暗電
流は、0.050〜0.082nAと何れも0.1nA以下の値であり、外部光の遮断は
完全に行われている事が確認できた。
【0042】
方向性特性は、試料#N1〜N12の何れも30dB以上が得られた。材質による差は
、殆ど見られなかった。しかし、同一材料でも実施例4のバルク材と比べると、全体的に
受光感度Bと光反射率が悪くなっている。これは、実施例4はバルク材をダイヤモンドエ
ンドミル加工した面で、実施例5は円柱状ガラスをダイヤモンドエンドミル加工し、加工
面に製膜しているため面粗さが細かくなり、光反射率が高くなり受光感度Bも大きくなっ
たものと考えられる。
【0043】
本実施例5では、製膜にスパッター装置と蒸着装置を用いたが、#N1〜N12の材料
の粉末を樹脂に混練して塗布する事も可能である。しかし、第一の円孔と第二の円孔の径
は約2mmで深さは5〜8mmであるので、中間壁や内周壁に製膜を行うのは技術的に非
常に難しい。容易に行う方法として、スリーブを半円筒状に半割にし、製膜した後円筒状
に組合わせて使用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の一方向性光パワーモニターの断面図である。
【図2】本発明の実施例2の、内周壁の位置と方向性特性の関係を示す図である。
【図3】本発明の実施例3の、中間壁の角度を変えた一方向性光パワーモニターの断面図である。
【図4】本発明の実施例3の、中間壁の角度と方向性特性の関係を示す図である。
【図5】本発明の実施例4のスリーブ材質と光反射率、方向性特性、暗電流の関係を示す図である。
【図6】本発明の実施例5の、黒色膜を有する一方向性光パワーモニターの断面図である。
【図7】本発明の実施例5のスリーブ材質と膜厚、光反射率、方向性特性、暗電流の関係を示す図である。
【図8】従来の一方向性光パワーモニターの断面図である。
【符号の説明】
【0045】
1 一方向性パワーモニター、2 ピッグテールファイバー、
2’ ガラスフェルール、3 光ファイバーA、
4 光ファイバーB、5 間隙、
6 円筒状チューブ、7 GRINレンズ、
8 タップ膜、9 スリーブ、
10 レンズ付き光ダイオード、10’ 台座部、
11 電極ピン、 12 レンズ頂点、
21 第一の円孔、22 第二の円孔、
23 第一の端、24 第二の端、
25 内周壁、26 中間壁、
27 通孔、 30 黒色膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小さな間隔で平行に並べられた2本の光ファイバーA,Bを持ち、それら光ファイバー
の開口を1つの端面上で端面中心の周りに持つピッグテールファイバーと、互いに対向し
ている2つの端面を持ち、それらのうち一方の端面はピッグテールファイバーの前記1つ
の端面と対向していて、他の端面はその上にタップ膜を有する円柱状GRINレンズとは
、所定の間隙を持って円筒状チューブに挿入固着され、第一の端と第二の端とを持つスリ
ーブでは、第一の端から、第一の端と第二の端との間の略中間位置まで開けられている第
一の円孔と、第二の端から前記略中間位置まで開けられていて、第一の円孔の中心軸から
偏芯している中心軸を持つ第二の円孔とを有するとともに、第一の円孔は、略中間位置で
第二の円孔と接続する通孔と中間壁とを持ち、スリーブの第二の端において第二の円孔内
に通孔に向かって設けられているレンズを前面に持つ光ダイオードとを有し、光ファイバ
ーAから入力されタップ膜を透過した光信号は第一の円孔と第二の円孔とを通ってレンズ
を前面に持つ光ダイオードに達し、光ファイバーBから入力されタップ膜を透過した光信
号はスリーブの中間壁によってその光路が妨げられるように、GRINレンズがスリーブ
の第一の円孔内に位置決めされている一方向性光パワーモニターであって、GRINレン
ズのタップ膜とレンズを前面に持つ光ダイオードのレンズ頂点間の距離Lに対し、中間壁
がタップ膜から0.55L以上0.8L以下の位置にあることを特徴とする一方向性光パ
ワーモニター。
【請求項2】
スリーブに設けた中間壁と第一の円孔の内周壁が成す角度が45度以上135度以下で
あることを特徴とする請求項1に記載の一方向性光パワーモニター。
【請求項3】
スリーブは、波長800nmから1650nmの領域で不透光で、少なくともGRIN
レンズのタップ膜と対向する中間壁と第一の円孔及び第二の円孔の内周壁の壁面の、光反
射率が10%以下であることを特徴とする請求項1および2に記載の一方向性光パワーモ
ニター。
【請求項4】
スリーブは、黒色系セラミックもしくはグラファイト、黒色系ガラスで形成されている
ことを特徴とする請求項3に記載の一方向性光パワーモニター。
【請求項5】
スリーブは、可視光領域で透明な材料であり、少なくともGRINレンズのタップ膜と
対向する中間壁と第一の円孔及び第二の円孔の内周壁の壁面に、波長800nmから16
50nmの領域で光反射率が10%以下の黒色膜を設けたことを特徴とする請求項1およ
び2に記載の一方向性光パワーモニター。
【請求項6】
黒色膜が、カーボンもしくは黒色系セラミック、黒色系ガラスで形成されていることを
特徴とする請求項5に記載の一方向性光パワーモニター。
【請求項7】
スリーブの少なくともGRINレンズのタップ膜と対向する中間壁と第一の円孔及び第
二の円孔の内周壁の壁面の面粗さは、Raが2nm以上で、うねりは粗さモチーフの平均
長さARが、使用する光の波長の1/2以下であることを特徴とする請求項3から6に記
載の一方向性光パワーモニター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−206584(P2007−206584A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−27981(P2006−27981)
【出願日】平成18年2月6日(2006.2.6)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】