説明

三相交流電動機の駆動制御装置

【課題】位相制御上の要求に対して適切な通電制御を行いつつ、電流の急激な変動を抑える。
【解決手段】モータ駆動制御装置は、三相モータの駆動制御を180°通電モードにより行い、算出した位相角度φ1,φ2によって通電パターンの出力タイミングを進角制御する。位相切り替わりタイミング(時刻t1)において60°以上の位相角度の変化が生じた場合、全相のMOSFETを一時的にOFFにさせ、切り替わり後の位相角度φ2で通電パターンの出力タイミングを進角制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三相ブリッジを用いて三相交流電動機の駆動を制御する駆動制御装置に係り、特に三相ブリッジの各スイッチング素子に対する駆動信号の出力タイミングを適切に制御する三相交流電動機の駆動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば自動二輪車等に搭載された三相モータを駆動するにあたり、全波整流ブリッジ回路(三相ブリッジ)を用いてその駆動を制御する先行技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
上記の先行技術(特許文献1)に示されるように、三相モータを駆動するブリッジ回路には6つの半導体スイッチング素子(FET、IGBT、サイリスタ等)が組み込まれており、これらスイッチング素子のON又はOFFを制御回路(例えばPIC)で制御することにより、バッテリから出力される直流を三相交流に変換することができる。
【0004】
また上記の先行技術(特許文献1)に示されるように三相モータを駆動する場合、三相ブリッジのスイッチング素子を予め決まった順序でON又はOFFに切り替え、U相、V相、W相の各コイルに決まった順序で駆動電流を供給する制御が行われる。このとき、駆動電流の通電は各相について半周期(180°通電モード)に制御されており、このような通電を120°の位相差で繰り返すことで定常的なモータ駆動が実現されるものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−181364号公報(段落0031〜0037、図3,図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
通常、三相モータを駆動する場合、その負荷の変動に応じてモータの要求トルクも変動する。このようなトルク変動に対応するため、一般的に三相モータの駆動には位相制御の手法が用いられている。多くの先行技術文献等から公知のように、位相制御は各相のマグネットの位置(コイルとの相対関係でみた位置)に対して、コイルの通電タイミングを進角又は遅角させる制御手法であり、一般的に進角量(位相角)が大きくなると、それだけ大きいトルクを得ることができる。
【0007】
しかしながら、上記のように三相モータの駆動を180°通電モードで行う場合、各相への通電順序は6分の1周期(半周期の3分の1=60°)ごとに変化するため、制御上の位相角度が大幅に変化(60°以上)すると、各相に対して予め決められた通電順序が不規則に変化してしまうことになる。この場合、60°以上の位相角度の変化前と変化後では、特定の2相(例えばU相とW相)のコイルで同時に電流の流れる方向が入れ替わり、その結果、全相のコイルに流れる電流が急激に変動(例えば過電流が発生)する可能性があることから、60°以上の位相角度の変化が必要となる制御には極めて大きな困難を伴うことになる。
【0008】
そこで本発明は、位相制御上の要求に対して適切な通電制御を行いつつ、電流の急激な変動を抑える技術の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明は以下の解決手段を採用する。
本発明の三相交流電動機の駆動制御装置は、ドライバ回路及び制御回路を備えた構成である。このうちドライバ回路は、バッテリから出力される直流を複数のスイッチング素子で三相波形の駆動電流に変換し、三相交流電動機の各相の巻線に対して個別に供給する機能を有する。また制御回路は、各スイッチング素子に対して通電状態又は非通電状態への切り替えを指示する駆動信号を三相波形と同じ周期で生成するとともに、三相交流電動機の位相を基準として算出した位相角度に基づいて駆動信号の出力タイミングを制御する機能を有する。
【0010】
特に上記の制御回路は、位相角度の算出結果から駆動信号の出力タイミングの変化量が所定の角度以上であると判断した場合、各相の全てのスイッチング素子に対して非通電状態への切り替えを指示するための駆動信号を出力した後に、位相角度の算出結果に基づいて駆動信号を出力するものである。
【0011】
上記のように本発明の駆動制御装置は、位相制御に際して大幅な位相角度の変化(所定の角度以上の変化)が生じると判断した場合、そのまま単純に新たな位相角度への変更を行うのではなく、その事前に一度、全相のスイッチング素子に対して非通電状態(OFF)に切り替える制御を実行している。この場合、ドライバ回路からの出力は全相で一旦OFFになることから、これに伴って一時的に三相交流電動機内の巻線に流れる駆動電流も消失する。そして、この状態から新たな位相角度で駆動信号の出力タイミングを制御したとしても、その前に電流の流れが消失していることから、上述したような電流の方向が反転することによる急激な電流の変化(過電流)が生じることはない。
【0012】
また本発明の駆動制御装置は、複数のスイッチング素子の通電状態及び非通電状態の切り替え順序を各相別に予め規定した通電制御マップを記憶する記憶回路をさらに備えてもよい。この場合、制御回路は、三相交流電動機の回転に伴い各相の巻線にそれぞれ対応した位置センサにより出力される位置検出信号を入力し、通電制御マップにおいて各スイッチング素子が通電状態に切り替わる通電パターンの組み合わせを各相の1周期の6等分にあたる位相区分ごとに第1から第6までの序列で循環する6つの出力ステージとして予め規定した上で、位置検出信号を基準として各出力ステージをその序列の順に移行させながら駆動信号を生成する。さらに制御回路は、位相角度の算出結果に基づいて駆動信号の出力タイミングを制御するにあたり、序列の順を飛び越えた出力ステージに移行させる必要があると判断した場合、各相の全てのスイッチング素子に対して非通電状態への切り替えを指示するための駆動信号を出力した後に、序列の順を飛び越えた出力ステージに移行させて駆動信号を出力する。
【0013】
例えば、三相交流電動機の各相を180°通電モードで駆動する場合、各相のスイッチング素子の通電パターンを60°の位相区分ごとに入れ替えることで、出力ステージが順繰りに変化していくことになる。ただし、この場合でも位相角度の切り替わりによってその変動幅が60°以上になってしまうと、出力ステージの移行順序がイレギュラーとなり、上述したように2つの相で電流の向きが同時に入れ替わるといった現象が発生し得る。
【0014】
そこで本発明では、位相制御に関して出力ステージの移行順序がイレギュラーとなることが判明した場合、ステージ移行の前後で全相のスイッチング素子を非通電状態とすることで、電流の流れを一時的にリセットしている。この状態からイレギュラーな順序で次の出力ステージに移行させたとしても、事前に電流の流れがリセットされていることから、この場合は位相制御のリスタートと同じ結果となる。したがって、2つの相で電流の向きが同時に入れ替わるといった現象が発生するのを防止し、適切な位相制御を実現することが可能となる。
【0015】
あるいは上記の制御回路は、位置検出信号に基づいて周期的に位相角度の算出を行い、前回の位相角度の算出結果と最新の位相角度の算出結果との差が所定の角度以上であると判断した場合、各相の全てのスイッチング素子に対して非通電状態への切り替えを指示するための駆動信号を出力した後、最新の位相角度の算出結果に基づいて駆動信号の出力タイミングを制御することが好ましい。
【0016】
上記の態様であれば、位相角度の大幅な変化の前後で急激な電流の変化が生じるのを確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の三相交流電動機の駆動制御装置によれば、これまで現実的に制御できなかった位相角度の大幅な変化にも対応し、位相制御上で対応が不能な位相角度の領域(制御禁止領域)を設けることなく位相制御を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】一実施形態のモータ駆動制御装置の構成を概略的に示す図である。
【図2】制御回路による三相モータの基本的な駆動制御の概念を各種の状態変化とともに表すタイミングチャートである。
【図3】第1出力ステージで駆動制御を行った場合の駆動電流の流れを示す図である。
【図4】制御回路による位相制御の概念を各種の状態変化とともに表すタイミングチャートである。
【図5】出力ステージ飛びの有無による状態変化の違いを対比して示す図である。
【図6】位相制御に際してステージ飛びが発生した場合の状態変化を示したタイミングチャートである。
【図7】ステージ飛びの現象に対する最適な対応策を実施した場合の状態変化を示したタイミングチャートである。
【図8】制御回路において実行される位相角度制御処理の手順例を示すフローチャートである。
【図9】対応策を実施した場合の状態変化を検証例として示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、一実施形態のモータ駆動制御装置10の構成を概略的に示す図である。このモータ駆動制御装置10は、例えば三相交流電動機である三相モータ12の駆動を制御するためのものである。なお三相モータ12は、図示しない動力システム(例えば自動二輪車)に搭載されることで、動力システムの駆動源として機能する。
【0020】
三相モータ12は、例えばU相、V相、W相の巻線(モータコイル、ステータコイル等)12u,12v,12wを有する他、図示しないロータとして例えば永久磁石(マグネット)を有している。なお永久磁石は、U相、V相、W相の巻線12u,12v,12wにそれぞれ対応して3つずつ設けられている。また図示しないロータには、例えば三相モータ12の出力軸が接続されており、ロータの回転により出力トルクが得られるものとなっている。
【0021】
上記のモータ駆動制御装置10は、主にドライバ回路20及び制御ユニット30を備えている。このうちドライバ回路20は、例えば6つのスイッチング素子であるMOSFET22Tu,22Tv,22Tw,22Tx,22Ty,22Tzを用いた三相ブリッジを構成している。
【0022】
ドライバ回路20の端子(図示していない)にはバッテリ24が接続されており、このバッテリ24にはドライバ回路20と別の負荷26(例えば別の電気回路)もまた接続されている。
【0023】
制御ユニット30は、例えば中央処理装置(CPU)である制御回路32を有している。制御回路32(内蔵ROM等の記憶回路)には制御プログラムが格納されている他、各MOSFET22Tu,22Tv,22Tw,22Tx,22Ty,22Tzに対する通電パターンを予め定めた通電制御マップや、三相モータ12の位相制御に必要な位相角テーブル等が格納されている。なお、制御プログラムや通電制御マップについては、それぞれ例を挙げてさらに後述する。
【0024】
制御ユニット30は、外部インタフェースとして出力回路38及び入力回路40を備えている。制御ユニット30は、上記の出力回路38を通じて各MOSFET22Tu,22Tv,22Tw,22Tx,22Ty,22Tzに対する駆動信号を出力し、それぞれ通電(ON)又は非通電(OFF)への切り替えを行う。
【0025】
また制御ユニット30には、入力回路40から外部信号として三相モータ12に対するトルク指令値Tr及びバッテリ24の電圧信号Vbattが入力される。なおこれら外部信号は、三相モータ12が搭載された動力システムの制御信号として制御ユニット30に供給されている。
【0026】
その他にも、三相モータ12には位置センサ42が設けられている。この位置センサ42は、例えばホール素子や磁気抵抗素子を用いた磁気センシングデバイスである。磁気センシングデバイスは三相モータ12の回転に伴い、各相の巻線12u,12v,12wにそれぞれ対応する位置検出信号を出力する。この位置検出信号は制御ユニット30の入力回路40を経て制御回路32に入力される。なお位置センサ42は、例えばロータに設けられた角度センサであってもよいが、三相モータ12回転に伴う各相の位置変化を検出することができるものであれば、その他の箇所に設けられたものでもよい。
【0027】
〔基本的な制御例〕
図2は、制御回路32による三相モータ12の基本的な駆動制御の概念を各種の状態変化とともに表すタイミングチャートである。以下、具体的に説明する。
【0028】
〔位置センサ信号〕
図2中(A):先ず制御回路32は、上記の位置センサ42から出力される位置検出信号に基づき、U相、V相、W相の各相別に位置センサ信号を取得する。このとき三相モータ12の回転が定常(例えば正方向に回転中で回転速度及び出力トルクが一定)であるとすると、位置センサ信号は図示のように理想的な三相の矩形波状信号として観測することができる。すなわち、各相の位置センサ信号はU相、V相、W相の順に位相が120°ずつずれており、その立ち上がり(上向きエッジ)から立ち下がり(下向きエッジ)までが各相の半周期分(180°)に相当する。
【0029】
〔通電制御マップ〕
図2中(B):上記の制御回路32には、各MOSFET22Tu,22Tv,22Tw,22Tx,22Ty,22Tzを個別にON又はOFFに切り替える順序を予め規定した通電パターンが通電制御マップとして記憶されている。制御回路32は位置センサ信号の立ち上がり変化又は立ち下がり変化を基準(割り込みトリガ)として通電制御マップを参照し、現在の位置情報に対応する通電パターンを決定する。なおドライバ回路20(三相ブリッジ)の回路構成上、U相、V相、W相の各相別のMOSFET22Tu,22Tv,22Tw,22Tx,22Ty,22Tzは、その一方がONに切り替わるときは必ず他方がOFFに切り替わるものとなっている。
【0030】
〔出力ステージ〕
図2中(C):駆動制御では、上述した通電パターンの組み合わせを予め「第1〜第6の出力ステージ」として規定し、これら出力ステージを順番に移行させていくロジックを採用している。例えば、U相について位置センサ信号が立ち上がるタイミングから、次にW相について位置センサ信号が立ち下がるまでの区間(位相60°)については、これを「第1出力ステージ」とする。続いて、W相について位置センサ信号が立ち下がるタイミングから、次にV相について位置センサ信号が立ち上がるまでの区間(位相60°)については、これを「第2出力ステージ」とする。また、V相について位置センサ信号が立ち上がるタイミングから、次にU相について位置センサ信号が立ち下がるまでの区間(位相60°)については、これを「第3出力ステージ」とする。続いて、U相について位置センサ信号が立ち下がるタイミングから、次にW相について位置センサ信号が立ち上がるまでの区間(位相60°)については、これを「第4出力ステージ」とする。さらに、W相について位置センサ信号が立ち上がるタイミングから、次にV相について位置センサ信号が立ち下がるまでの区間(位相60°)については、これを「第5出力ステージ」とする。そして、V相について位置センサ信号が立ち下がるタイミングから、次にU相について位置センサ信号が立ち上がるまでの区間(位相60°)については、これを「第6出力ステージ」とすることができる。
【0031】
発明の最適な実施に資するため説明を補足すると、例えば上記の「第1出力ステージ」では、図2中(B)の通電パターンとしてMOSFET22Tu,22Ty,22TwがONであり、MOSFET22Tx,22Tv,22TzがOFFである組み合わせが指定されている。この場合、制御回路32は指定された組み合わせで駆動信号を生成し、出力回路38を通じて各MOSFET22Tu,22Tv,22Tw,22Tx,22Ty,22TzのON又はOFFの状態を制御する。制御回路32は、上記の出力ステージを第1〜第6の循環する序列で(順繰りに)移行させつつ、それぞれの出力ステージで指定された組み合わせで駆動信号を生成及び出力する。なおここでは便宜上、位相角(進角量)を0°としている。
【0032】
〔駆動電流波形〕
図2中(D):その結果、三相モータ12におけるU相、V相、W相の各相の通電電流波形は、理想的な三相交流波形として観測される。
【0033】
図3は、第1出力ステージで駆動制御を行った場合の駆動電流の流れを示す図である。この場合、ドライバ回路20ではMOSFET22Tu,22Ty,22TwがONになり、MOSFET22Tx,22Tv,22TzがOFFになることで、駆動電流を流し三相モータ12にトルクを発生させる。特に図示していないが、その他の第2〜第6ステージについても、それぞれの通電パターンにしたがって駆動電流が発生する。
【0034】
〔位相制御例〕
次に図4は、制御回路32による位相制御の概念を各種の状態変化とともに表すタイミングチャートである。位相制御は主に、位置センサ信号の立ち上がり又は立ち下がりを基準として制御回路32が位相角度を算出し、その算出結果に基づいてMOSFET22Tu,22Tv,22Tw,22Tx,22Ty,22Tzに対する駆動信号の出力タイミングを制御するものである。
【0035】
〔進角指令値〕
図4中(A):例えば、三相モータ12に対する要求トルクTrの変化に伴い、制御回路32は進角指令値を決定する。このとき制御回路32は、現在の進角指令値に対応する位相角度φ1(例えば15°)で駆動信号の出力タイミングを制御する。
【0036】
〔出力ステージ移行タイミング〕
図4中(B),(C):この場合の出力タイミングは、例えばU相についての位置センサ信号の立ち上がりエッジを基準としたとき、そこから位相角度φ1だけ進めた(前倒しの)タイミングに設定される。この場合、制御回路32は位相角度φ1だけ進めたタイミングで出力ステージを移行(例えば第6→第1へ移行)させつつ、各出力ステージで指定された組み合わせで駆動信号を生成及び出力する。
【0037】
〔各相の電圧波形〕
図4中(D):その結果、三相モータ12におけるU相、V相、W相の各相の電圧波形は、位置センサ信号よりも位相角度φ1だけ進角した状態で観測される。
【0038】
〔位相切り替わり〕
ここまでは、進角指令値(位相角度φ1)が変化する前についての説明であるが、進角指令値がある程度の幅をもって変化した場合は以下の現象が発生する。
【0039】
〔時刻t1以降〕
図4中(A):いま、ある時刻t0で新たな進角指令値が決定され、ある時刻t1に新たな進角指令値を反映した場合を想定する。この場合、制御回路32は、例えば次のV相の立ち下がりエッジを基準として新たな進角指令値に対応する位相角度φ2(例えば135°とする)で駆動信号の出力タイミングを制御する。
【0040】
〔ステージ欠落の発生〕
図4中(B),(C):この場合の出力タイミングは、例えばV相についての位置センサ信号の立ち上がりエッジ(0°)を基準としたとき、そこから位相角度φ2だけ進めたタイミングに設定される。この場合、制御回路32は、例えば次のV相の立ち上がりエッジを基準として位相角度φ2だけ進めたタイミングで出力ステージを移行させるが、このとき前回の位相角度φ1から今回の位相角度φ2への変化幅が1ステージ分(60°)以上となっている。したがって、ここでは出力ステージの移行順序に飛び越えが発生し、それまでの第6出力ステージから2ステージ分(120°)をスキップし、第3出力ステージへの移行となる。その結果、出力ステージの移行に関しては欠落(ここでは第1,第2出力ステージの欠落)が発生したことになる。
【0041】
〔各相の電圧波形〕
図4中(D):三相モータ12におけるU相、V相、W相の各相の電圧波形は、新たな進角指令値によって位置センサ信号よりも位相角度φ2だけ進角した状態となる。ところが、このとき出力ステージが2つ(第6→第3に)飛んだことで、電圧波形はU相の立ち上がり、V相の立ち上がり、W相の立ち下がりが同時に発生するというイレギュラーな変化になる。
【0042】
〔ステージ飛びの有無による状態変化の違い〕
図5は、上記のような出力ステージ飛びの有無による状態変化の違いを対比して示す図である。以下、それぞれについて対比しつつ説明する。
【0043】
〔ステージ飛び(欠落)がない場合〕
図5中(A):ここには、第6出力ステージから第1出力ステージへ順番通りに移行した場合の駆動電流の流れを示す。図中に細い矢印で示されているように、第6出力ステージの間は、ドライバ回路20においてMOSFET22Tx,22Ty,22TwがONになり、MOSFET22Tu,22Tv,22TzがOFFになることで、駆動電流を流しモータにトルクを発生させる。
【0044】
〔第6→第1への移行〕
そして、第6出力ステージから第1出力ステージへ順番通りに移行した場合、図中に太い矢印で示されているように、今度はU相のMOSFET22TuがON、MOSFET22TxがOFFになることで、U相の電流の向きのみが切り替わる。
【0045】
〔ステージ飛び(欠落)がある場合〕
図5中(B):これに対し、第6出力ステージから第1出力ステージを飛ばして第2出力ステージへ移行(第1出力ステージが欠落)した場合の駆動電流の流れは以下のとおりである。先ず図中に細い矢印で示されているように、第6出力ステージの間は、ドライバ回路20においてMOSFET22Tx,22Ty,22TwがONになり、MOSFET22Tu,22Tv,22TzがOFFである。
【0046】
〔第6→第2への移行〕
そして、第6出力ステージから飛んで第2出力ステージへ移行した場合、図中に太い矢印で示されているように、U相のMOSFET22TuがON、MOSFET22TxがOFF、W相のMOSFET22TwがOFF、MOSFET22TzがONになることで、U相とW相の電流の向きが共に変わる。
【0047】
〔ステージ飛びが発生したときの検証〕
図6は、位相制御に際してステージ飛びが発生した場合の状態変化を示したタイミングチャートである。本発明の発明者等が実際に検証を行った結果、位相制御中にステージ飛びを発生させたことで以下の現象が観測された。
【0048】
図6中(A),(B):ここには、ステージ飛びの前後におけるU相、V相、W相の各相の電圧波形を示しており、その状態変化は先の図4中(D),(C)に示したものと同じである。すなわち、出力ステージが2つ(第6→第3に)飛んだことで、図中に示される1点鎖線の長細い楕円で囲まれているように、U相の立ち上がり、V相の立ち上がり、W相の立ち下がりが同時に発生するというイレギュラーな変化になる。
【0049】
〔各相の電流波形〕
図6中(C):このとき図中に示される1点鎖線の長円で囲まれているように、U相、V相、W相の全ての相で電流の急激な変化が発生している。本発明の発明者等が行った検証によれば、このような電流の急変は、三相モータ12内で二つ以上の相で同時に電流の向きが変化した場合に起こり得ることが分かっている。このような電流の急変は、MOSFET22Tu,22Tv,22Tw,22Tx,22Ty,22Tzの定格電流を大幅に上回るレベルに達することがあり、素子に深刻なダメージを及ぼす可能性がある。
【0050】
〔対応策〕
本発明の発明者等は、上記の現象に対する最適な対応策として以下の手法を提供している。図7は、ステージ飛びの現象に対する最適な対応策を実施した場合の状態変化を示したタイミングチャートである。
【0051】
図7中(A):先の図4中(A)で示したものと同様に、ある時刻t0で新たな進角指令値が決定され、時刻t1に新たな進角指令値を反映した場合を想定する。
【0052】
図7中(B):この場合も駆動信号の出力タイミングは、V相についての位置センサ信号の立ち上がりエッジ(0°)を基準としたとき、そこから位相角度φ2だけ進めたタイミングに設定される。この場合、制御回路32は位相角度φ2だけ進めたタイミングで出力ステージを移行させるが、このとき前回の位相角度φ1から今回の位相角度φ2への変化幅が1ステージ分(60°)以上であり、上記のステージ飛びが発生することが分かっている。
【0053】
この対応策においては、制御回路32が新たな進角指令値によって位相角度φ1を次の位相角度φ2に変化させるにあたり、上記のステージ飛びが発生すると判断した場合、t1のタイミングでMOSFET22Tu,22Tv,22Tw,22Tx,22Ty,22Tzに対するOFF指令を出力する。その後、制御回路32は新たな進角指令値に対応する位相角度φ2に基づき、それまでの第6出力ステージから2ステージ分(120°)をスキップし、第3出力ステージへの移行を行う。
【0054】
図7中(C):その結果、図中に示される1点鎖線の長円で囲まれているように、第6出力ステージから第3出力ステージへの移行前にU相、V相、W相の全相で電圧波形がOFFとなり、U相、V相、W相の全ての相で電流の急激な変化が発生しなくなる。
【0055】
〔ステージ移行の態様〕
図7中(D):出力ステージの移行に関しては、図6(B)と同様に欠落(第1,第2出力ステージの欠落)が発生しているものの、第6出力ステージと第3出力ステージの間に全相OFFの期間が設けられていることが分かる。
【0056】
図8は、制御回路32において実行される位相角度制御処理の手順例を示すフローチャートである。この処理を通じて制御回路32は、上記の対応策を好適に実現することができる。なお制御回路32は、位置センサ信号の立ち上がりエッジ又は立ち下がりエッジを基準として割り込みトリガを発生させ、この位相角度制御処理を周期的に実行する。
【0057】
ステップS100:先ず制御回路32(CPU)は、位相角度の算出に必要な各種パラメータを取得する。この例では、パラメータとして上記のトルク指令値Trを取得するものとする。
【0058】
ステップS102:次に制御回路32は、今回の位相角度φnを計算する。この計算は、例えば予め制御回路32に記憶されている位相角度制御マップを用いて行うことができる。位相角度制御マップは、例えばトルク指令値Tr等のパラメータを引数として、それに対応する位相角度の値を返すものである。
【0059】
ステップS104:制御回路32は、前回の処理実行時に算出した位相角度φn−1と今回算出した位相角度φnとの差(|Δφ|)を求める。なお前回の位相角度φn−1は、例えば制御回路32のRAMのバッファ領域に保存されているものとする。また制御回路32は、今回の算出結果である位相角度φnを制御回路32のRAMのバッファ領域に新しく保存する。その結果、前回の位相角度φn−1が今回の算出結果によって書き換えられることから、次回以降の処理(次の割り込み時)では、今回求めた値が前回の位相角度φn−1として利用可能となる。
【0060】
ステップS106:そして制御回路32は、先のステップS104で求めた差(|Δφ|)と所定の位相角度φs(60°とする)とを比較する。その結果、位相角度の差(|Δφ|)が所定の位相角度φs以上であると判断した場合(Yes)、制御回路32は次にステップS108を実行する。
【0061】
ステップS108,S110:この場合、時刻t0のタイミングで制御回路32はMOSFET22Tu,22Tv,22Tw,22Tx,22Ty,22Tzに対するOFF指令(OFFを指示する駆動信号)を生成する。生成した駆動信号は時刻t1でOFF出力させる。
【0062】
ここまでの手順を終えると、制御回路32は割り込み前のプロセスに一旦復帰する。そして、次回の割り込みタイミング(位相角度φnに対応するタイマ割り込み時)で位相角度制御処理を開始すると、制御回路32は上述したステップS100〜ステップS104を再び実行する。
【0063】
ステップS104,106:やがて、今回の位相角度φnと前回の位相角度φn−1との差(|Δφ|)がφs未満となると制御回路32は次にステップS112を実行する。
【0064】
ステップS112:そして制御回路32は、今回の位相角度φnを実際に出力する位相角度としてセットする。具体的には、位相角度φn分から算出した通電パターンと進角時間をRAMのバッファ領域に保存する。ここで進角時間とはt1から通電パターンを出力させるまでの時間である。
【0065】
ステップS110:制御回路32は、時刻t0で算出した通電パターンは時刻t1+進角時間後に出力する。その結果、今回の割り込み時には最新の位相角度φnに進角させた出力ステージで各相のMOSFET22Tu,22Tv,22Tw,22Tx,22Ty,22Tzがそれぞれの通電パターンに則ってON又はOFFに切り替わり、実際に三相モータ12の駆動制御が実行されることになる。これにより、三相モータ12からシステムのトルク指令値Trに対応した出力トルクが発揮されることになる。
【0066】
〔対応策の検証例〕
図9は、上記の対応策を実施した場合の状態変化を検証例として示すタイミングチャートである。
【0067】
図9中(A),(B):ここには、対応策を実施した場合のステージ飛びの前後におけるU相、V相、W相の各相の電圧波形を示しており、その状態変化は先の図7中(C),(D)に示したものと同じである。すなわち、第6出力ステージから第3出力ステージへの移行前(位相切り替わり点)にU相、V相、W相の全相で電圧波形がOFFとなっている。
【0068】
〔各相の電流波形〕
図9中(C):位相切り替わりタイミング(時刻t1)からの全相OFFにより、U相、V相、W相の全ての相で電流の急激な変化が発生しなくなる。この後、次の割り込み時(時刻t2)に第3出力ステージに飛んで位相制御が実行されると、三相モータ12内のMOSFET22Tu,22Tv,22TzがONに切り替わるが、その事前の段階で電流が流れていない状態を作り出しているため、電流の急変が発生することはない。
【0069】
上述した実施形態のモータ駆動制御装置10によれば、これまで現実的に困難であった位相角度の変化についても、その位相制御を安全に実現することができる。これにより、ロジック上で制御不能領域(制御禁止領域)を設けることなく、制御を可能とする。またこれにより、三相モータ12の制御効率を大幅に向上することができ、その要求トルクに対する追従性やトルク性能を改善することに大きく寄与できる。
【0070】
本発明は上述した実施形態に制約されることなく、種々に変形して実施することができる。一実施形態では、位相制御に「出力ステージ」の概念を用いているが、本発明の実施にあたり、特にこのような概念を必要とすることはない。すなわち、位相角度が所定の角度(60°)以上で変化しようとすることを制御回路32において察知した場合、その前に一度全相のMOSFETをOFFにさせる制御ロジックを採用していればよい。
【0071】
また一実施形態で挙げた位相角度の変化(15°→135°)はあくまで一例であり、その他の60°以上となる変化にも一実施形態の制御手法を適用することができる。
【0072】
また、一実施形態ではステージ飛びの例として第6出力ステージから第3出力ステージへの移行事例を挙げているが、その他のステージ間(例えば第1→第3、第2→第4等)でステージ飛び(欠落)が発生する場合であっても、一実施形態の手法を適用可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0073】
10 モータ駆動制御装置
12 三相モータ
12u,12v,12w 巻線
20 ドライバ回路
22Tu,22Tv,22Tw,22Tx,22Ty,22Tz MOSFET
24 バッテリ
30 制御ユニット
32 制御回路
38 出力回路
40 入力回路
42 位置センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリから出力される直流を複数のスイッチング素子で三相波形の駆動電流に変換し、三相交流電動機の各相の巻線に対して個別に供給するドライバ回路と、
前記各スイッチング素子に対して通電状態又は非通電状態への切り替えを指示する駆動信号を前記三相波形と同じ周期で生成するとともに、前記三相交流電動機の位相を基準として算出した位相角度に基づいて前記駆動信号の出力タイミングを制御する制御回路とを備え、
前記制御回路は、
前記位相角度の算出結果から前記駆動信号の出力タイミングの変化量が所定の角度以上であると判断した場合、前記各相の全ての前記スイッチング素子に対して非通電状態への切り替えを指示するための前記駆動信号を出力した後に、前記位相角度の算出結果に基づいて前記駆動信号を出力することを特徴とする三相交流電動機の駆動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の三相交流電動機の駆動制御装置において、
複数の前記スイッチング素子の通電状態及び非通電状態の切り替え順序を前記各相別に予め規定した通電制御マップを記憶する記憶回路をさらに備え、
前記制御回路は、
前記三相交流電動機の回転に伴い前記各相の巻線にそれぞれ対応した位置センサにより出力される位置検出信号を入力し、前記通電制御マップにおいて前記各スイッチング素子が通電状態に切り替わる通電パターンの組み合わせを前記各相の1周期の6等分にあたる位相区分ごとに第1から第6までの序列で循環する6つの出力ステージとして予め規定した上で、前記位置検出信号を基準として前記各出力ステージをその序列の順に移行させながら前記駆動信号を生成するとともに、
前記位相角度の算出結果に基づいて前記駆動信号の出力タイミングを制御するにあたり、前記序列の順を飛び越えた前記出力ステージに移行させる必要があると判断した場合、前記各相の全ての前記スイッチング素子に対して非通電状態への切り替えを指示するための前記駆動信号を出力した後に、前記序列の順を飛び越えた前記出力ステージに移行させて前記駆動信号を出力することを特徴とする三相交流電動機の駆動制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の三相交流電動機の駆動制御装置において、
前記制御回路は、
前記位置検出信号に基づいて周期的に前記位相角度の算出を行い、前回の前記位相角度の算出結果と最新の前記位相角度の算出結果との差が所定の角度以上であると判断した場合、前記各相の全ての前記スイッチング素子に対して非通電状態への切り替えを指示するための前記駆動信号を出力した後、最新の位相角度の算出結果に基づいて前記駆動信号の出力タイミングを制御することを特徴とする三相交流電動機の駆動制御装置。

【図1】
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【図3】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−10456(P2012−10456A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−142567(P2010−142567)
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【出願人】(000002037)新電元工業株式会社 (776)
【Fターム(参考)】