説明

主流超音波フローセンサと副流ガスアナライザとの間の時間遅延を決定する装置

【課題】データ分析での主流センサと副流センサとの時間遅延を補償するため、この時間遅延の決定を信頼性高く行うことができる方法および装置を得る。
【解決手段】超音波主流フローセンサと副流ガスアナライザとの間の時間遅延を決定する装置であって、伝達時間法または飛行時間法に基づく医療用の超音波フローおよびモル質量センサ4a,4bと、マウスピース2を有する可換式または固定式のフローチューブ1と、例えば主流ガスフロー7から外れており主流ガスフロー7のごく少量のみが流入する副流ガスフロー9に配置する1個または複数個の副流ガスセンサ11の組み合わせとにより構成した該装置において、副流ガスセンサ11の出力信号と主流フロー信号との間における時間遅延を、モル質量信号と副流ガスセンサからの信号との相関関係の関連付けにより決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波主流フローセンサと副流ガスアナライザとの間の時間遅延を決定する装置であって、伝達時間法または飛行時間法に基づく医療用の超音波フローおよびモル質量センサと、マウスピースを有する可換式または固定式のフローチューブと、例えば主流ガスフローから外れており主流ガスフローのごく少量のみが流入する副流ガスフローに配置する1個または複数個の副流ガスセンサの組み合わせとにより構成した該装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
肺機能診断ならびに肺機能モニタリングにおいて、患者の肺に対して流入および流出するガスの量を測定しなければならない。この測定は普通、特定のガスアナライザと組み合わせたガス流量計(いわゆる呼吸記録器)を使用して行われる。例としては、運動中に被検者の呼吸を測定する運動肺気量測定法がある。この場合は、酸素摂取量、すなわち体が消費した酸素量を測定しなければいけない。酸素摂取量は、フロー速度(流速)Fおよび酸素濃度fO2を測定することにより算定される。酸素濃度で掛け合わせた流速を積分することにより、吸気及び呼気の酸素量を決定することができる。吸気の酸素量から呼気の酸素量を減算することにより、最終的に酸素摂取量が算定される。
【0003】
ほとんどの肺機能測定では、フロー及びガス濃度を、約100Hz〜200Hz(サンプリング時間は10ms〜5ms)の頻度でサンプリングする。上述の酸素濃度を掛け合わせた流速の積分を適正に行うためには、二つの信号間における時間遅延がサンプリングレートを上回ってならない。
【0004】
現在のシステムにおいては、主流フローセンサと副流ガスセンサとの間における遅延は、通常、以下の方法のうちいずれか一つの方法により測定される。すなわち、
1. 副流の流速、および、主流センサと副流センサとの間におけるデッドスペース容積から計算される固定した時間遅延を仮定とする。この方法によって計算された遅延は、副流における一定速度および一定のデッドスペースを仮定している。副流チューブ内の水蒸気の凝結やガス粘性などの複数の要因により、双方の仮定が成立することは、多くの事例に当てはまらない。
2. 正確に規定したマーカーをガス流に導入し、このマーカーが副流ガスセンサにより検出されるのに要する時間を測定する。
【0005】
上記のいずれの方法も、他のハードウェアを付加的に導入することを必要とし、または、これらの方法は日常使用ではあまり信頼できるものではない。
【0006】
特許文献1には、肺活量計、特に、超音波肺活量計が記載されている。特許文献2には、ガスまたはガス混合気のモル質量を決定する方法および装置が記載されている。非特許文献1には、パルス超音波の空気流量計が記載されている。
【特許文献1】欧州特許第597060号明細書
【特許文献2】欧州特許第653919号明細書
【非特許文献1】Ch.Buess, P.Pietsch, W.Guggenbuhl, E.A.Koller, Design and construction of a pulsed ultrasonic air flowmeter, IEEE Trans. Biomed. Eng., 33(8); 768-774, August 1986.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
肺機能診断及び肺機能モニタリングにおいては、患者の肺に対して流入および流出するガスの流速Fとガス濃度fとを、時間的に同期させて測定しなければならない、言い換えればFとfとの測定の間に時間遅延があってはならない。しかし多くの場合、ガス濃度は副流センサを用いて測定されるため、気体が主流フローセンサから副流ガスセンサに移動する時間、およびガスセンサ自身の反応時間により時間遅延が発生してしまう。この主流センサと副流センサとの間における時間遅延は、データ分析のために補正されねばならない。
本発明の課題は、データ分析での主流センサと副流センサとの時間遅延を補償するため、この時間遅延の決定を信頼性高く行うことができる方法および装置を得るにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するため、本発明は、超音波主流フローセンサと副流ガスアナライザとの間の時間遅延を決定する装置であって、伝達時間法または飛行時間法に基づく医療用の超音波フローおよびモル質量センサと、マウスピースを有する可換式または固定式のフローチューブと、例えば主流ガスフローから外れており主流ガスフローのごく少量のみが流入する副流ガスフローに配置する1個または複数個の副流ガスセンサの組み合わせとにより構成した該装置において、副流ガスセンサの出力信号と主流フロー信号との間における時間遅延を、モル質量信号と副流ガスセンサからの信号との相関関係の関連付けにより決定することを特徴とする。
【実施例】
【0009】
つぎに、図面につき本発明の好適な実施例を説明する。
本発明によれば、主流フローセンサと、1個または複数個の副流ガスセンサとの間における時間遅延を、信頼性高く自動的に測定できる。図1は、酸素摂取量を測定するのに使用できる装置のブロック図である。この装置は、超音波フローセンサと副流ガスセンサとにより構成する。超音波フローセンサの操作については多くの刊行物に記載されている(例えば、特許文献1、特許文献2、非特許文献1を参照)。この超音波フローセンサは、ガスフロー7の両側に取り付けた2個の超音波変換器4a,4bと、適切な容器5と、付属のマウスピース2を有する交換可能な呼吸チューブ1とにより構成する。流速は、ガスフローの上流方向及び下流方向に伝達される超音波パルス列6の伝達時間(飛行時間:time-of-flight)を用いて信号処理ユニット8で測定される。パルス列は、伝達されて超音波変換器により受け取られる。このパルス列は、フローチューブの超音波が透過できる部分3(例えばメッシュ、フィルターなど)を経て音伝達経路に沿って伝達する。流速は以下の方程式を用いて測定する。
【数1】

式中、Fはガスフローの速度、t及びtは上流方向及び下流方向における伝達時間を表し、そしてkはフローセンサの機械的寸法に依存する定数である。
【0010】
呼吸チューブ(1)の端部で、主流フローの僅かな部分を副流システムに供給する。ガスポンプ12を使うことにより、この副流フロー9は1個または数個のガスアナライザ11を通過する。フローセンサと副流ガスアナライザとの間における配管(9)は、普通のプラスチック管、または水蒸気と平衡する特殊な管により構成する。副流センサの例としては、運動肺活量測定データ分析に使用できる酸素センサもしくは二酸化炭素センサ、または機能的残気量(FRC)もしくは肺拡散能力(DLCO)の測定に使用できるヘリウムセンサもしくはCHセンサがある。
【0011】
図2は他の実施例における構成を示し、この場合、副流ガスフローを、音伝達経路の正確な中心でサンプリングする。この構成は、流速と流れの方向とにより生じる時間遅延の差異を回避する。
【0012】
図3はさらに他の実施例における構成を示し、副流フローを超音波フローセンサの側方チャンバを経てサンプリングする。この方法の利点は以下のとおりである。すなわち、:1)副流フローが側方チャンバにおけるフィルタ又はメッシュを通過するので、副流フローの汚れが少ない点、2)主流チューブ内に突入する部分がない点である。
【0013】
超音波フローセンサの処理ユニット8(図1参照)は、フローに加え、フローセンサ内におけるガスのモル質量も測定できる。モル質量は、通常、以下の方程式を用いて測定できる:
【数2】

式中、Mはモル質量、Tは音伝達経路に沿った平均温度、Rはガス定数、κは比熱(C/C)の係数、kはセンサの機械的寸法に依存する定数、t 及びt は伝達時間を表わす(特許文献2参照)。温度Tは、音伝達経路に沿って1個または数個の測定値によって決定するか、または温度測定と数学的モデルとの組み合わせによって決定するか、または一定の値とすることができる。
【0014】
フロー(流れ)およびガスの組成(個々のガス濃度)測定を用いる他の方法とは異なり、超音波伝達時間測定は、特定のガス濃度ではなく、ガス混合気の全体的モル質量を決定する。しかしフロー信号およびモル質量信号は、時間的に常に同期しており、フロー信号とモル質量信号との間には時間遅延がない。
【0015】
本発明において、副流ガス濃度fとフローFとの間における時間遅延は、モル質量信号に含まれる情報を用いることにより決定する。呼吸ガス分析に使用する多くのガスにおいて、モル質量信号の波形は、副流ガスセンサで測定される特定ガスの波形に類似している。副流センサからのフロー信号とガス信号との間における時間遅延は、幾つかの方法で決定できる:
・ モル質量信号と副流ガス濃度測定との間における数学的2数列相関。
・ 例えば、吸気から呼気にいたる間の、もしくは呼気から吸気にいたる間のガス濃度の変化曲線における明確に規定したポイントでの自動検知。
【0016】
これらの方法を用いることにより、モル質量信号と副流ガス信号との間における時間遅延を決定できる。図4は、主流モル質量信号(MM)および副流ガス信号(SG)の、時間軸における波形と、上述の方法により決定した時間遅延(Δt)とを示す。主流のフローとモル質量信号とは同期しているので、時間遅延は、フローと副流ガス濃度測定との間における時間遅延に対応する。
【0017】
上述の方法は、スタンドアローンの装置、例えば携帯システムにおいて実施でき、または、集中治療室において用いられる装置、例えば呼吸ガス測定を含む人工呼吸器に使用でき、または、超音波フローおよびモル質量センサと、1個または複数個の副流ガスセンサを、データ分析及びデータ表示に使用するコンピュータ対して入出力をするコンピュータ支援装置として実施できる。
【0018】
時間遅延は、呼吸に基づく1回呼吸で計算でき、または代案として、一連の呼吸に対して1回、もしくは全体のデータ収集につき一回決定できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明による主流フローセンサと副流ガスセンサとの間における時間遅延を測定する装置の第1実施例を示すブロック図である。
【図2】本発明による時間遅延測定装置の第2実施例を示す部分的説明図である。
【図3】本発明による時間遅延測定装置第3実施例を示す部分的説明図である。
【図4】本発明方法により決定される時間遅延(Δt)を示す主流モル質量信号(MM)および副流ガス信号(SG)の、時間軸における波形図である。
【符号の説明】
【0020】
1 呼吸チューブ
2 マウスピース
3 メッシュ又はフィルタ
4a 超音波変換器
4b 超音波変換器
5 容器
6 超音波パルス列
7 ガスフロー
8 信号処理ユニット
9 副流フロー
11 ガスアナライザ
12 ガスポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波主流フローセンサと副流ガスアナライザとの間の時間遅延を決定する装置であって、伝達時間法または飛行時間法に基づく医療用の超音波フローおよびモル質量センサと、マウスピースを有する可換式または固定式のフローチューブと、例えば主流ガスフローから外れており主流ガスフローのごく少量のみが流入する副流ガスフローに配置する1個または複数個の副流ガスセンサの組み合わせとにより構成した該装置において、副流ガスセンサの出力信号と主流フロー信号との間における時間遅延を、モル質量信号と副流ガスセンサからの信号との相関関係の関連付けにより決定することを特徴とする装置。
【請求項2】
請求項1に記載の装置において、前記時間遅延を、主流モル質量信号全体または主流モル質量信号の一部と、副流ガスセンサ信号との数学的2数列相関により決定する装置。
【請求項3】
請求項2に記載の装置において、前記時間遅延を、例えば吸気の開始点又は呼気の開始点のように、副流ガス信号における適切なポイントと、主流モル質量信号における明確に規定したポイントとの相関関係の関連付けにより決定する装置。
【請求項4】
請求項3に記載の装置において、モル質量算定に固定温度を仮定する固有モル質量を使用するか、または、音伝達経路に沿う温度の算定のために、一つの温度モデル、もしくは1個ないし複数個の温度測定、もしくはその双方の組み合わせを用いた通常モル質量を使用する装置。
【請求項5】
請求項4に記載の装置において、運動試験又はストレス試験の分析に使用する装置。
【請求項6】
請求項5に記載の装置において、機能的残気量(FRC)、または肺胞換気量(V)又は肺拡散能(DLCO)の分析のために使用する装置。
【請求項7】
請求項6に記載の装置において、例えば、集中治療、または麻酔時におけるような、患者モニタリングに使用する装置。
【請求項8】
請求項7に記載の装置において、外部気体センサを、副流超音波フロー及びモル質量センサ、または、ガスセンサと超音波フローおよびモル質量センサとの組み合わせとした装置。
【請求項9】
請求項8に記載の装置において、前記ガスのサンプルを、フローおよびモル質量測定経路の中心点で採取し、したがって、流速およびフローの方向の少なくとも一方によって付加的に生ずる時間遅延のいかなる差をも回避するようにした装置。
【請求項10】
請求項8に記載の装置において、前記ガスのサンプルを、主流超音波フローセンサを取り付ける超音波変換器の側方チャンバを覆うフィルタまたはネットまたはメッシュを経て採取し、したがって、流速及び/又はフローの方向によって生ずる時間遅延のいかなる差をも回避し、更には副流センサ内の汚れを減少させるもしくは回避する装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−111517(P2007−111517A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−248469(P2006−248469)
【出願日】平成18年9月13日(2006.9.13)
【出願人】(506310197)エンデーデー メディツィンテヒニーク アーゲー (2)
【Fターム(参考)】