説明

乗員保護装置

【課題】支持アームや車室の前後方向スペースに与える制約を低減できる乗員保護装置を提供すること。
【解決手段】ステアリングホイール3をフロアパネル2に片持ち支持し、かつ、衝突時の乗員からステアリングホイール3への荷重入力によりフロアパネル2に車両前方へ回動可能に取り付けられた支持アーム4と、この支持アーム4のフロアパネル2への取付部とフロアパネル2との間に設けられ、衝突時の支持アーム4の車体に対する相対回動に伴い入力吸収を行うケース6と、を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両において、衝突時に乗員を保護する乗員保護装置に関し、特に、ステアリングホイールへ入力された荷重の吸収技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の衝突時に乗員からステアリングホイールに入力された荷重を吸収する乗員保護装置が知られている。
【0003】
また、このような乗員保護装置において、ステアリングホイールを支持アームで片持ち支持したステアリングバイワイヤ式のステアリング装置に適用されたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この乗員保護装置は、ステアリングホイールを片持ち支持する支持アームが車体に立設され、ステアリングホイールには、第1エアバッグと第2エアバッグとが設けられ、第1エアバッグは、ステアリングホイールと乗員との間に展開し、第2エアバッグは、ステアリングホイールとインストルメントパネルとの間に展開するように設けられている。
【特許文献1】特開2004−175150号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の従来の乗員保護装置にあっては、常にステアリングホイールが乗員の膝の上に存在するため、衝突時に乗員が車両前方へ移動したときに、乗員がステアリングホイールに接触するおそれがあり、かつ、乗員に作用する反力を低く抑えにくいという問題があり、さらなる保護性能の向上が望まれていた。
【0006】
本発明は、上述の事情に鑑みなされたものであって、乗員の保護性能の向上を図ることのできる乗員保護装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するため本発明は、ステアリングホイールを片持ち支持する支持アームが、衝突時に、乗員からの入力により、ステアリングホイールを想定される乗員の膝の位置よりも車両後方の通常位置から前記膝の位置よりも車両前方の退避位置へ向けて移動させる車体に対する相対変位に伴い、前記支持アームの車体への取付部分と車体との間に設けられた吸収手段が前記入力の吸収を行うことを特徴とする乗員保護装置とした。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、通常時すなわち衝突前の時点において、ステアリングホイールが想定される乗員の膝の位置よりも車両後方の通常位置に配置されている。すなわち、乗員が操舵しやすい位置に配置されている。
【0009】
一方、車両衝突時には、乗員からステアリングホイールへ荷重が入力されると、支持アームが車体に対して相対変位し、この支持アームに支持されたステアリングホイールは、想定される乗員の膝の位置よりも車両前方の退避位置へ向けて移動する。さらに、この支持アームが車体と相対変位するのに伴い、支持アームの車体への取付部分と車体との間に設けられた吸収手段が入力吸収を行う。
【0010】
このように、本発明では、衝突時に、支持アームが車体に対して変位することにより、ステアリングホイールが、乗員の膝よりも車両後方の衝突前位置から、膝よりも車両前方の退避位置まで移動可能である。このため、乗員とステアリングホイールとの接触が生じにくくなるとともに、乗員に作用する反力を抑えることが可能となり、乗員保護性能を向上できる。
【0011】
さらに、衝突時には、支持アームの車体への取付部分と車体との間で、吸収手段が入力吸収を行う。このため、従来のように、ステアリングホイールの背面とインストルメントパネルとの間にエアバッグを展開するのに比べて、エアバッグの展開スペースを確保する必要が無くなり、設計自由度が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
この実施の形態の乗員保護装置は、衝突時の乗員からステアリングホイール(3)への入力により、このステアリングホイール(3)を片持ち支持する支持アーム(4)が、ステアリングホイール(3)を想定される乗員の膝の位置よりも車両後方の通常位置から前記膝の位置よりも車両前方の退避位置へ向けて移動させる車体に対する相対変位に伴い、前記支持アーム(3)の車体(2)への取付部分と車体(2)との間に設けられた吸収手段(6)が入力吸収を行うことを特徴とする。
【実施例1】
【0013】
図1〜図5に基づき、この発明の最良の実施の形態の実施例1の乗員保護装置Aについて説明する。
【0014】
まず、構成について説明する。
図1は実施例1の乗員保護装置Aが設けられた車両の構造の概略を示しており、車室RMの前面に(矢印FRが車両前方を示している)、メータ類1aを有したインストルメントパネル1が設けられている。また、インストルメントパネル1の車両後方には、車幅方向の左右に図示を省略した運転席および助手席が配置されており、両席の間の位置であるフロアパネル2の車幅方向中央部には、フロアトンネル部2aが車両前後方向に延在されている。
【0015】
実施例1の乗員保護装置Aは、メータ類1aの車両後方に配置されたステアリングホイール3を片持ち支持する支持アーム4を備えている。
【0016】
支持アーム4は、下部アーム41と上部アーム42とステアリング支持部43とを備えている。
【0017】
下部アーム41は、金属により筒状に形成され、フロアトンネル部2aの近傍から車両上方へ立ち上げられている。
【0018】
上部アーム42は、車幅方向に延在された箱状に形成され、車両中央側の端部が下部アーム41の上端部に結合され、車外側の端部に、ステアリング支持部43が結合されている。
【0019】
ステアリング支持部43は、車両前後方向に延在された筒状に形成され、車両後方側の端部に、ステアリングホイール3が操舵可能に支持されている。また、ステアリング支持部43には、ステアリングホイール3の支持位置を車両前後方向および車両上下方向に変位可能なチルトおよびテレスコピック機構を有している。
【0020】
ステアリングホイール3は、いわゆるステアリングバイワイヤ構造で、ステアリングホイール3の操作が電気的に図外の転舵装置のモータなどの駆動手段に伝達されるようになっている。
【0021】
なお、ステアリングホイール3の中央部には、図示を省略したエアバッグ装置が設けられている。このエアバッグ装置は、衝突センサにより衝突が検出されたときには、インフレータで発生したガスにより図外の乗員との間にエアバッグを展開する周知のものを用いている。
【0022】
さらに、下部アーム41の車体としてのフロアパネル2への取付部分である下端部は、図2に示すように、フロアパネル2に固定された支持ブラケット5に車幅方向の軸p1を中心として車両前後方向に回動可能に支持されている。
【0023】
すなわち、支持ブラケット5は、車幅方向に離間して立設されたフランジ5a,5aを有し、このフランジ5a,5aの間に、下部アーム41が軸p1と同軸に挿通されたボルト51を中心に回動可能に支持されている。さらに、下部アーム41は、ボルト51と図示を省略したナットとを締結することで、支持ブラケット5に固定されている。
【0024】
図4は、このように支持アーム4が固定された状態を示しており、この状態で下部アーム41が、直立した状態よりも車両前方へ前傾している。また、このときのステアリングホイール3の位置が衝突前位置であり、ステアリングホイール3は、乗員DRの想定される膝NPの位置よりも車両後方に配置されている。
【0025】
また、図1に示すように、フロアパネル2には、フロアトンネル部2aの延在方向に沿って、金属板で形成されたケース6が固定され、図2に示すように、下部アーム41の下端部および支持ブラケット5は、このケース6に収容されている。
【0026】
このケース6は、左右に離間して対向された側壁6a,6aと、これら側壁6a,6aの上縁の間に設けられ、かつ、車両前方の端部ではなだらかに下方に湾曲された天井部6cと、これら側壁6a,6aおよび天井部6cの下端に連続し、フロアパネル2の表面に沿うように折曲されたフランジ6dと、を備えた箱状に形成されている。そして、フランジ6dがフロアパネル2に締結されている。
【0027】
また、ケース6の天井部6cには、上述のようにステアリングホイール3を衝突前位置に配置してボルト51で締結された下部アーム41が挿通され、かつ、下部アーム41の外形に略一致した内周を有した挿通穴61が開口されている。
【0028】
さらに、ケース6は、下部アーム41の車体への取付部分である下端部や支持ブラケット5を収容するだけではなく、吸収手段として作用する。
【0029】
すなわち、ケース6には、挿通穴61の車両前方端部に連続して、下部アーム41の車幅方向中央の車両前方への回動、つまり、支持アーム4が退避位置まで回動するのを許容すべく、その軌跡に沿って、下部アーム41よりも幅が狭い切欠溝62が形成されている。さらに、切欠溝62と挿通穴61との角部には、車両上方にめくれ上がった形状の変形ガイド部62a,62aが形成されている。
【0030】
したがって、支持アーム4は、ステアリングホイール3を衝突前位置に配置した状態(図4に示す状態)において、挿通穴61の車両後方の端縁に当接あるいは近接されていて、この位置よりも車両後方の回動が規制されている。
【0031】
一方、下部アーム41の車両前方には、切欠溝62が形成されており、支持アーム4は、下部アーム41がケース6の切欠溝62の周縁を変形させながら、車両前方へ回動させることができるようになっている。
【0032】
そして、この車両前方への回動可能な範囲は、ステアリングホイール3が、乗員DRの膝NPよりも車両前方の退避位置、すなわち、図5に示す位置まで移動するのを許容する範囲となっている。
【0033】
次に、実施例1の作用を説明する。
(通常時)
非衝突時である通常時には、支持アーム4は、図1および図4に示すように、ステアリングホイール3を乗員DRの膝NPよりも車両後方の衝突前位置に配置した状態で、ボルト51の締結力で支持ブラケット5に固定されている。
【0034】
このとき、ステアリング支持部43は、インストルメントパネル1から車両前方に離間している。
【0035】
(衝突時)
車両の衝突時には、ステアリングホイール3に設けられたエアバッグ装置のエアバッグが展開され、乗員の車両前方移動に伴う荷重を吸収する。
【0036】
さらに、ステアリングホイール3に入力された荷重が、ボルト51による下部アーム41の締結力を越えると、支持アーム4が、軸p1を中心として車両前方へ回動する。
【0037】
このとき、支持アーム4の車体への取付部分である下部アーム41の下端部は、図3に示すように、支持アーム4よりも幅が狭く形成されている吸収手段としてのケース6の切欠溝62の縁部を変形させながら車両前方へ回動する。そして、図5に示すように、下部アーム41の前傾角度が図4に示す衝突前位置よりも深くなる。
【0038】
上述の支持アーム4の回動に伴うケース6の変形により、ステアリングホイール3への入力が吸収される。しかも、切欠溝62において支持アーム4の下部アーム41に接触している端部に、めくれ上がった形状の変形ガイド部62a,62aが形成されているため、切欠溝62の端縁部分の変形が促進され、急に剪断される場合と異なり、緩やかな入力の吸収が行われる。すなわち、本実施例1では、ケース6が吸収手段である。
【0039】
さらに、この支持アーム4の回動により、ステアリングホイール3は、図4に示す衝突前位置から、図5に示す退避位置へ移動する。この退避位置では、ステアリングホイール3は、乗員DRの膝NPの位置よりも車両前方に配置され、乗員DRとの接触が抑制される。
【0040】
なお、ケース6および変形ガイド部62a,62aは、乗員からの荷重入力で、支持アーム4が確実に退避位置へ移動させることができる剛性に設定されている。
【0041】
以上のように、実施例1にあっては、衝突時にステアリングホイール3に入力された荷重は、支持アーム4の車両前方への回動に伴い、下部アーム41の車体への取付部である下端部の近傍のケース6を変形させることで吸収される。
【0042】
このため、ステアリングホイール3を支持するステアリング支持部43とインストルメントパネル1と間にエアバッグを展開させる従来技術と比較して、ステアリングホイール3とインストルメントパネル1との間隔などの制約が減少し、設計自由度が向上する。よって、相対的にステアリングホイール3を車両前方に配置させて、車室の有効スペースを拡げたり、ステアリングホイール3を支持するステアリング支持部43の車両前後方向寸法に対する制約を抑えたりして設計自由度を向上させることができる。
【0043】
さらに、衝突時には、ステアリングホイール3が、乗員DRの膝NPよりも車両前方へ移動するため、乗員DRに作用する反力を抑えることができ、乗員保護性能を向上させることができる。
【0044】
また、支持アーム4は、下部アーム41をフロアトンネル部2aの上に配置し、乗員と車両前後方向に重ならない位置に配置した。また、乗員DRと車両前後方向で重なる部分である上部アーム42およびステアリング支持部43は、ステアリングホイール3よりも車両前方に配置した。よって、乗員DRの特に下半身が支持アーム4と干渉しにくく、高い乗員保護性能を確保することができる。
【0045】
しかも、実施例1では、ケース6の切欠溝62の端部に変形ガイド部62a,62aを形成し、ケース6の変形による入力吸収の際に、変形が緩やかに行われるようにした。このため、剪断が生じるような急激な吸収が行われにくく、穏やかな入力の吸収が行われ、高い乗員保護性能が得られる。
【実施例2】
【0046】
次に、図6および図7に基づいて本発明の実施の形態の実施例2の乗員保護装置Bについて説明する。なお、この実施例2を説明するにあたり、実施例1と同一ないし均等な部分については、同一符号を付して、相違する部分を中心として説明する。
この実施例2の乗員保護装置Bは、吸収手段としてブレーキ機構(ブレーキ手段)270を用いた例である。
図6は実施例2の要部を示す斜視図であって、支持アーム204の下部アーム241は、実施例1と同様に、支持ブラケット5に、軸p1を中心に回動可能にフロアパネル2に支持されている。そして、この回動によりステアリングホイール3は、実施例1で説明した衝突前位置から退避位置の範囲で移動可能に支持されている。
【0047】
また、支持アーム204は、実施例1と同様に、ステアリングホイール3を衝突前位置に配置した状態で、ボルト51の所定の締結力で固定されている。
【0048】
次に、実施例1との相違点について説明すると、ケース206の天井部6cに、下部アーム41が衝突前位置から退避位置へ向けて車両前方へ回動するのを許すガイド溝6gが形成されている(なお、このガイド溝6gの詳細は、実施例3を説明する図8を参照のこと)。
【0049】
そして、下部アーム241は、実施例1と同様に、ボルト51により支持ブラケット5に設定された締結力で図7(a)に示す衝突前位置で締結されている。
【0050】
さらに、下部アーム241において、実施例1との相違点は、ケース206の内側部分に、ロータ部244が設けられている点にある。このロータ部244は、下部アーム241の前後から突出されたもので、下部アーム241と一体に形成され、かつ、軸p1を中心とした円弧状に形成されている。
【0051】
一方、ケース206には、ロータ部244を挟んで下部アーム241の摺動抵抗を生じるブレーキ機構270が設けられている。
【0052】
このブレーキ機構270は、駆動ピストン271とブレーキピストン272とパッド部材(摩擦部材)273とを備えている。
【0053】
駆動ピストン271は、下部アーム241のロータ部244に連結されたピストン271aと、このピストン271aが上下に摺動するシリンダ271bとを備えている。そして、下部アーム241が車両前方へ回動された際には、駆動ピストン271のピストン271aがシリンダ271b内を下方へ摺動し、ピストン室271cの流体圧が上昇する構成となっている。
【0054】
ピストン室271cは、管路274を介してブレーキピストン272の図示を省略した圧力室に接続されている。
【0055】
このブレーキピストン272は、ケース6の両側壁6a,6aの内側において、ロータ部244を両者の間に挟んで配置され、ねじ275により各側壁6a,6aに締結されている。
【0056】
そして、パッド部材273は、各ブレーキピストン272において、図外の圧力室の圧力を受圧して、ロータ部244の側面に圧接されるようにブレーキピストン272に取り付けられている。なお、駆動ピストン271は、図7(a)に示す支持アーム204の衝突前位置に配置された状態では、ピストン室271cならびにブレーキピストン272の図外の圧力室が大気圧となっている。この状態では、パッド部材273は、ロータ部244に近接あるいは当接した状態に保持されている。
【0057】
次に、実施例2の作用を説明する。
衝突時に、乗員からステアリングホイール3へ入力された荷重がボルト51による締結力を越えると、支持アーム204の下部アーム241が、軸p1を中心に車両前方へ回動する。これに伴い、ステアリングホイール3は、図7(a)に示す衝突前位置から退避位置へ向けて移動する。
【0058】
そして、この下部アーム241の回動に連動して駆動ピストン271のピストン271aが下方に押され、ピストン室271cの圧力が上昇し、かつ、この圧力がブレーキピストン272の図外の圧力室へ伝達され、パッド部材273が下部アーム241のロータ部244に圧接される。
【0059】
よって、このパッド部材273とケース206とが相対的に摺動し、その摺動抵抗により支持アーム204への入力が吸収される。
【0060】
したがって、実施例2の乗員保護装置Bにあっても、実施例1と同様に、ステアリングホイール3を退避位置まで移動可能とすることで、乗員DRの保護性能を向上させることができ、かつ、ステアリングホイール3とインストルメントパネル1との間にエアバッグを展開させる必要がないことから、設計自由度が向上し、しかも、支持アーム204が乗員の特に下半身と干渉しにくく、さらに乗員保護性能を確保することができる。
【0061】
さらに、実施例2では、ブレーキ機構270による摺動抵抗が、下部アーム241の車両前方への回動量が大きくなるにつれて、徐々に高まる構造であるため、初期の入力吸収が穏やかであり、高い乗員保護性能が得られる。
【0062】
しかも、入力吸収をブレーキ機構270により行うようにしたため、この吸収による変形が少なく、修理が容易である。
【実施例3】
【0063】
次に、図8および図9に基づいて本発明の実施の形態の実施例3の乗員保護装置Cについて説明する。なお、実施例3を説明するにあたり、他の実施例と同一ないし均等な部分については、同一符号を付して、相違する部分を中心として説明する。
【0064】
この実施例3は、図8に示すように、ケース306に、実施例2と同様のガイド溝6gが形成され、支持アーム304の下部アーム341は、実施例2と同様に、図8では図示を省略した支持ブラケット5により車両前方に回動可能に支持されている。そして、この支持アーム304の回動に伴い、ステアリングホイール3は、衝突前位置から退避位置へ移動可能に支持されている。
【0065】
また、実施例3では、吸収手段として、図8に示すように、ケース306と下部アーム341とのそれぞれに、相互に摺動して抵抗を生じる手段であるケース側摩擦部306aとアーム側摩擦部341aとが設けられている。
【0066】
すなわち、アーム側摩擦部341a,341aは、下部アーム341の車体への取付部分である下端部の近傍でケース306と車幅方向に重なる位置において、車幅方向の両側に設けられている。
【0067】
一方、ケース側摩擦部306a,306aは、ケース306の側壁6a,6aの内側面において、下部アーム341がステアリングホイール3を衝突前位置に支持する位置から車両前方へ回動した際に、アーム側摩擦部341a,341aと摺動する位置に設けられている。
【0068】
また、これら摩擦部306a,341aは、図9(a)に示す断面が楔形状の凸条、あるいは同図(b)に示す断面が矩形の凸条を複数並設して形成されたもので、それぞれ、ケース306および下部アーム341と一体に形成してもよいし、あるいは別体の部材を溶着やボルトなどの締結などにより固定してもよい。
【0069】
次に、実施例3の作用を説明する。
衝突時には、実施例1と同様に、乗員からステアリングホイール3への入力がボルト51の締結力を越えると、支持アーム304が車両前方へ回動され、ステアリングホイール3が、衝突前位置から退避位置へ向けて移動する。
【0070】
この支持アーム304の回動時に、アーム側摩擦部341a,341aとケース側摩擦部306a,306aとが摺動し、このとき発生する摺動抵抗で支持アーム304へ入力された荷重が吸収される。
【0071】
したがって、実施例3の乗員保護装置Cにあっても、実施例1と同様に、ステアリングホイール3を衝突前位置から退避位置へ移動可能であるため、乗員保護性能が向上し、かつ、ステアリングホイール3とインストルメントパネル1との間にエアバッグを展開させないため、設計自由度が向上し、しかも、支持アーム304が乗員の特に下半身と干渉しにくく、高い乗員保護性能を確保することができる。
【0072】
また、吸収手段として、ケース306と下部アーム341とのそれぞれに、一体あるいは別体のケース側摩擦部306aとアーム側摩擦部341aとを設けただけであるので、構成が簡易で、製造コストおよび重量を低く抑えることができる。
【実施例4】
【0073】
次に、図10に基づいて本発明の実施の形態の実施例4の乗員保護装置Dについて説明する。なお、この実施例4を説明するにあたり、他の実施例と同一ないし均等な部分については、同一符号を付して、相違する部分を中心として説明する。
【0074】
この実施例4は、支持アーム404の下部アーム441が、図10に示す回動軸470を中心として、車両前後方向へ回動可能に支持されている。なお、回動軸470は、実施例1で説明したボルト51により支持ブラケット5に締結されている。
【0075】
また、図示は省略するが、この実施例4では、下部アーム441の基端部を覆う図示を省略したケースには、実施例2,3と同様に、ガイド溝6gが形成されており、下部アーム441の回動に伴い、ステアリングホイール3が、衝突前位置から車両前方へ回動可能に支持されている。
【0076】
さらに、この実施例4では、吸収手段として、下部アーム441と図外のボルト51により支持ブラケット5に締結される回動軸470との間に、図10に示す吸収部材481とボルト482,482とを備えている。
【0077】
吸収部材481は、塑性変形により吸収する手段であり、樹脂により円筒状に形成された部材で、下部アーム441に形成された装着穴441aに外周が圧入されて下部アーム441に固定されている。そして、吸収部材481の内周には、回動軸470が相対回動可能に緩く挿通されている。
【0078】
さらに、吸収部材481には、内外周を貫通し、かつ、周方向に細長い2本の吸収溝481a,481aが平行に形成されている。これらの吸収溝481a,481aは、長手方向に沿ってラックギヤ状の摩擦面が両側に形成されている。
【0079】
一方、下部アーム441には、各吸収溝481a,481aと外径方向で重なる位置に吸収溝481a,481aよりも幅広の長穴441b,441bが周方向に平行に形成されている。
【0080】
ボルト482,482は、支持アーム404が図外のステアリングホイール3を衝突前位置に配置した状態において、各長穴441b,441bおよび吸収溝481a,481aに挿通されて回動軸470の内側に設けられた図示を省略したナットに締結され、車体側に固定されている。また、ボルト482,482の直径は、吸収溝481a,481aにおいて摩擦面の山形で幅が狭くなっている部分の幅寸法よりも大きな寸法に形成されている。
【0081】
次に、実施例4の作用を説明する。
衝突時には、実施例1と同様に、乗員からステアリングホイール3への入力がボルト51の締結力を越えると、支持アーム404が車両前方に回動し、これに伴い、ステアリングホイール3が、衝突前位置から退避位置へ向けて移動する。
【0082】
この支持アーム404の回動に伴い、下部アーム441および吸収部材481が一体的に回動するのに対し、回動軸470に締結されたボルト482,482は車体側に固定されている。よって、このとき一対のボルト482,482に対して、樹脂製の吸収部材481が相対回動し、この際に吸収溝481a,481aがボルト482,482により塑性変形し、支持アーム404への入力が吸収される。
【0083】
したがって、実施例4の乗員保護装置Dにあっても、実施例1と同様に、ステアリングホイール3を衝突前位置から退避位置へ移動可能とすることによる乗員保護性能の向上と、ステアリングホイール3とインストルメントパネル1との間にエアバッグを展開させないことによる設計自由度の向上と、支持アーム404と乗員DRの特に下半身と干渉抑制による乗員保護性能の向上と、を達成できる。
【0084】
また、実施例4では、支持アーム404が回動して入力吸収を行った際に、樹脂製の吸収部材481が塑性変形するだけであるので、この塑性変形による修理の際には、この吸収部材481を交換すればよく修理が容易である。
【実施例5】
【0085】
次に、図11および図12に基づいて本発明の実施の形態の実施例5の乗員保護装置Eについて説明する。なお、この実施例5を説明するにあたり、他の実施例と同一ないし均等な部分については、同一符号を付して、相違する部分を中心として説明する。
【0086】
この実施例5の乗員保護装置Eは、図11に示すように、支持アーム504の下部アーム541が、フロアパネル2に設けられた軸受部材570により、車両上下方向の軸p2を中心に回動可能にフロアパネル2に支持されている。なお、支持アーム504は、実施例1と同様の上部アーム542およびステアリング支持部543を備えている。
【0087】
支持アーム504の下部アーム541は、実施例1と同様に、図11(a)に示す衝突前位置において、フロアパネル2に固定されたケース506の天井部6cに設けられた挿通穴(図11,12では図示を省略するが実施例1の挿通穴61を参照)に挿通されている。
【0088】
また、実施例5では、下部アーム541が車両前方に回動したときに、車体への取付部分である下端部と車体との間に設けられた吸収手段の塑性変形する手段として、ケース506が用いられている。
【0089】
そこで、ケース506では、この図示を省略した挿通穴の右端縁部の略中央から助手席側の側壁6aにかけて、下部アーム541による塑性変形を促進させる切欠溝562が、図12(a)に示すように略水平方向に形成されている。
【0090】
なお、支持アーム504は、図11(a)に示すように、ステアリングホイール3を乗員DRの膝NPよりも車両後方の衝突前位置に配置した状態では、実施例1と同様に、下部アーム541が前傾した状態となっている。また、支持アーム504は、軸p2を中心に回動して、ステアリングホイール3を衝突前位置から、乗員DRの膝NPよりも車両前方の退避位置へ移動可能に構成されている。
【0091】
次に、実施例5の作用を説明する。
衝突の際に、ステアリングホイール3に乗員DRから荷重が入力されると、支持アーム504が、軸p2を中心に車両前方へ回動し、これに伴い、ステアリングホイール3は、図11(a)に示す衝突前位置(図1と同様の位置)から 図11(b)および図13に示す退避位置へ向けて移動する。
【0092】
このとき、下部アーム541は、吸収手段としてのケース506の図外の挿通穴(61)の端縁および側壁6aを、図12(b)に示すように塑性変形させる。
【0093】
このような支持アーム504の回動に伴うケース506の塑性変形により支持アーム504へ入力された荷重が吸収される。
【0094】
したがって、実施例5の乗員保護装置Eにあっても、実施例1と同様に、ステアリングホイール3を衝突前位置から退避位置へ移動可能とすることによる乗員保護性能の向上と、ステアリングホイール3とインストルメントパネル1との間にエアバッグを展開させないことによる設計自由度の向上と、支持アーム504と乗員DRの特に下半身と干渉抑制による乗員保護性能の向上と、を達成できる。
【実施例6】
【0095】
次に、図14および図15に基づいて、本発明の実施の形態の実施例6の乗員保護装置Fについて説明する。なお、この実施例6を説明するにあたり、他の実施例と同一ないし均等な部分については、同一符号を付して、相違する部分を中心として説明する。
【0096】
実施例6は実施例5の変形例であって、下部アーム641は、実施例5と同様の図示を省略した軸受部材により軸p2を中心に回動可能に支持されている点は実施例5と同様である。
【0097】
そして、実施例6では、吸収手段として、ボルト671と、これにより塑性変形される吸収部材672とが設けられている。
【0098】
図14に示すように、支持アーム604の下部アーム641の下端には、リング状のフランジ641aが設けられ、このフランジ641aに、同一円周状に4本のピン641bが車両上下方向に挿通されている。
【0099】
吸収部材672は、図14では図示を省略したフロアパネル(2)に固定された円盤状の金属あるいは樹脂により円盤状に形成されており、下部アーム641のフランジ641aの車両下方に重ねて設けられている。
【0100】
そして、この吸収部材672には、ボルト671と重なる同一円周状に軸p2を中心とする円弧形状であって、ボルト671の直径よりも幅が狭い4つの切欠溝672aが形成されている。
【0101】
各ボルト671は、図14(b)に示すように、ステアリングホイール3を衝突前位置に配置した状態の支持アーム604を貫通して、切欠溝672aの一端の位置に挿通されて締結されている。また、切欠溝672aの延在方向は、支持アーム604が、ステアリングホイール3を衝突前位置に配置した状態から軸p2を中心に車両前方へ回動する場合のボルト671の移動方向となっている。
【0102】
次に、実施例6の作用を説明する。
衝突の際に、ステアリングホイール3に乗員から荷重が入力されると、ステアリングホイール3を衝突前位置に配置した支持アーム604が、実施例5と同様に、軸p2を中心に車両前方へ回動される。
【0103】
そして、この支持アーム604の回動時に、ボルト671が、図15に示すように、吸収部材672の切欠溝672aを押し広げるように塑性変形させ、これにより支持アーム604へ入力が吸収される。なお、図15(b)では、切欠溝672aが押し広げられた状態の溝672bを示している。
【0104】
したがって、実施例6の乗員保護装置Fにあっても、実施例1と同様に、ステアリングホイール3を衝突前位置から退避位置へ移動可能とすることによる乗員保護性能の向上と、ステアリングホイール3とインストルメントパネル1との間にエアバッグを展開させないことによる設計自由度の向上と、支持アーム604と乗員DRの特に下半身と干渉抑制による乗員保護性能の向上と、を達成できる。
【実施例7】
【0105】
次に、図16〜図19に基づいて、本発明の実施の形態の実施例7の乗員保護装置Gについて説明する。なお、この実施例7を説明するにあたり、他の実施例と同一ないし均等な部分については、同一符号を付して、相違する部分を中心として説明する。
【0106】
実施例7では、支持アーム704の下端部を支持するスライドブラケット744がフロアパネル2に対して、車両前後方向にスライド可能に取り付けられている。
【0107】
すなわち、フロアパネル2には、フロアトンネル部2aの左右両側に沿ってフロアパネル2に形成された長穴から成るガイドレール2bが車両前後方向に延在されている。そして、スライドブラケット744の左右両側に形成されたフランジ744aに挿通されたボルト744bがガイドレール2bに挿入されている。これらのボルト744bがガイドレール2bに沿って移動されることで、支持アーム704は、図16(a)に示すようにステアリングホイール3を衝突前位置に配置させた位置と、同図(b)に示すステアリングホイール3を退避位置に配置した車両前方の位置との間で、スライド可能に取り付けられている。
【0108】
この実施例7の吸収手段770は、支持アーム704がステアリングホイール3を衝突前位置に配置した位置から車両前方へスライドするのに伴い入力吸収を行う手段であり、図17に示すように、フロアパネル2の車両下方位置に設けられ、支持シャフト771と吸収スプリング772とロック部材773とを備えている。
【0109】
支持シャフト771は、フロアパネル2の下方位置において、スライドブラケット744のスライド軌跡上に車両前後方向に延在して配置されている。また、支持シャフト771の車両前方部分には、車両前方側ほど外径が大きくなった拡径部771aと、この拡径部771aの最も外径が小径となった部分から連続する略一定径のロッド部771bと、を備えている。さらに、ロッド部771bの図においてAGで示す調節範囲には雄ねじ771cが形成されている。
【0110】
この支持シャフト771の調整範囲AG付近の外周に吸収スプリング772が装着されている。この吸収スプリング772は、金属製のコイルスプリングから成り、その内径が、ロッド部771bの外径よりも僅かに大きな寸法に形成されており、この吸収スプリング772の車両前方側の端部は、拡径部771aの車両後方側の小径部分に自身の弾性力で巻き付けられ車両前後方向の移動が規制されている。一方、吸収スプリング772の車両後方側の端部は、ロッド部771bの外周との間に隙間を有し、車両前後方向へ相対移動可能に装着されている。
【0111】
ロック部材773は、吸収スプリング772の車両後方側の位置で、ロッド部771bの外周に装着され、かつ、図16に示したスライドブラケット744と一体に車両前後方向にスライドするようガイドレール2bの隙間を介してスライドブラケット744に連結されている。
【0112】
また、ロック部材773は、実施例1で示したロック部材と同様に、ロッド部771bに形成された雄ねじ771cに対して、車両後方へは係合可能で、車両前方へは相対スライド可能な図示を省略した係合片を内部に備えている。
【0113】
さらに、ロック部材773には、内部の図示を省略した係合片による係合を解除する例えばソレノイドのような解除駆動部材774が設けられている。この解除駆動部材774は、フロアパネル2の上側のスライドブラケット744に固定されており、支持アーム704のスライドに伴って、ロック部材773と解除駆動部材774とは一体的にスライドする。
【0114】
解除駆動部材774には、非駆動時には、図18(a)に示すように、プランジャ774aが格納されており、一方、駆動時には、図18(b)に示すように、プランジャ774aが車両下方に向かって突出し、ロック部材773の図外の係合片と雄ねじ771cとの係合を解除する。
【0115】
そして、図17に示す調整範囲AGが、支持アーム704の通常のドライビングポジション調節のための可動範囲である。すなわち、実施例7では、ステアリングホイール3の車両前後方向の位置を調節する場合、支持アーム704を車両前後方向へスライドさせて調節する。
【0116】
ここで、ロック部材773は、支持シャフト771の雄ねじ771cに対して車両前方へは非係合で、車両後方へ非係合する構造である。したがって、支持アーム704を車両前方へ移動させる場合は、支持アーム704を車両前方へ移動させると、ロック部材773は吸収スプリング772を短縮させながら支持シャフト771に沿って車両前方へ移動する。そして、支持アーム704のスライドを停止させると、その位置でロック部材773が短縮された吸収スプリング772の弾性力で車両後方へ押され、内部の係合片が支持シャフト771の雄ねじ771cと係合する。
【0117】
したがって、支持アーム704は、車両前方へのスライドは、吸収スプリング772の弾性力で規制され、車両後方への移動は、ロック部材773と支持シャフト771の雄ねじ771cとの係合により規制される。
【0118】
一方、ステアリングホイール3を車両後方へ移動させる場合には、図外のスイッチ操作などにより解除駆動部材774を駆動させる。これにより、解除駆動部材774からプランジャ774aが車両下方へ突出し、ロック部材773の内部の係合片と雄ねじ771cとの係合が外れる。したがって、吸収スプリング772の反力およびステアリングホイール3に加えられた乗員の操作力で、支持アーム704が車両後方へスライドし、これに伴い、ロック部材773も支持シャフト771に沿って車両後方へスライドされる。
【0119】
図17の調整範囲AGは、このようなステアリングホイール3の車両前後方向の位置調整に伴ってロック部材773が移動する範囲であって、ステアリングホイール3を衝突前位置に配置する範囲である。
【0120】
一方、調整範囲AGの車両前方に配置された吸収範囲ABは、後述する衝突時に、支持アーム704が調整範囲AGから車両前方へ移動した際に、これに伴ってロック部材773が移動する範囲である。また、この吸収範囲ABにおいて、ステアリングホイール3は退避位置に配置される。
【0121】
次に、実施例7の作用を説明する。
衝突時にステアリングホイール3に乗員から荷重が入力されると、支持アーム704が、図16(a)に示す調整範囲AGからガイドレール2bに沿って図16(b)に示すように車両前方へスライドされる。
【0122】
そして、この支持アーム704のスライドに伴って、ロック部材773が、図19(a)に示すように、支持シャフト771に沿って車両前方へスライドする。
【0123】
このとき、吸収スプリング772がロック部材773により車両前方へ押され、吸収スプリング772は、その内径が、拡径部771aの大部分よりも小径に形成されているため、まず、拡径部771aの後端部で短縮される。そして、ロック部材773がさらに車両前方へ移動すると、図19(b)に示すように、吸収スプリング772は、拡径部771aと摩擦摺動しながら車両前方へ移動し、これにより支持アーム704への入力が吸収される。このように、本実施例7では、支持シャフト771の拡径部771aと吸収スプリング772とが、相互に摺動して抵抗を生じる吸収手段として機能している。
【0124】
したがって、実施例7の乗員保護装置Gにあっても、実施例1と同様に、ステアリングホイール3を衝突前位置から退避位置へ移動可能とすることによる乗員保護性能の向上と、ステアリングホイール3とインストルメントパネル1との間にエアバッグを展開させないことによる設計自由度の向上と、支持アーム704と乗員DRの特に下半身と干渉抑制による乗員保護性能の向上と、を達成できる。
【0125】
また、実施例7では、吸収手段770をフロアパネル2の下側に設けているため、吸収手段770の設置性に優れ、また、入力吸収のためのストローク量を大きく確保して、入力吸収を穏やかに行うことができる。
【実施例8】
【0126】
次に、図20に基づいて本発明の実施の形態の実施例8の乗員保護装置Hについて説明する。なお、この実施例8を説明するにあたり、他の実施例と同一ないし均等な部分については、同一符号を付して、相違する部分を中心として説明する。
【0127】
この実施例8の乗員保護装置Hは、実施例7の変形例であり、スライドブラケット744のフランジ744aに設けられた4本のボルト871が、フロアパネル2に形成されたガイドレール872,872に固定されている。
【0128】
このガイドレール872,872は、実施例7で示したガイドレールと同様にフロアパネル2に車両前後方向に延在された長穴で形成されている。
【0129】
そして、ボルト871は、ガイドレール872の幅よりも大径のものが用いられ、ガイドレール872の所定の箇所に締結されることで、上記のように支持アーム804がフロアパネル2に固定されている。したがって、このときの支持アーム804の位置が、ステアリングホイール3を衝突前位置に配置する位置となる。
【0130】
実施例8の吸収手段870は、支持アーム804が衝突前位置から車両前方へスライドするのに伴い入力を吸収するもので、前述のボルト871とガイドレール872を構成要素としている。
【0131】
次に、実施例8の作用を説明する。
衝突時に乗員からステアリングホイール3に荷重が入力されると、支持アーム804は、図20(a)に示すステアリングホイール3を衝突前位置に配置した位置から、同図(b)に示すように車両前方へ移動する。これに伴い、ステアリングホイール3は、退避位置へ向けて移動する。
【0132】
このとき、ボルト871がガイドレール872を塑性変形させながら、ガイドレール872に沿って摺動し、この塑性変形により支持アーム804への入力が吸収される。
【0133】
したがって、実施例8の乗員保護装置Hにあっても、実施例1と同様に、ステアリングホイール3を衝突前位置から退避位置へ移動可能とすることによる乗員保護性能の向上と、ステアリングホイール3とインストルメントパネル1との間にエアバッグを展開させないことによる設計自由度の向上と、支持アーム804と乗員DRの特に下半身と干渉抑制による乗員保護性能の向上と、を達成できる。
【実施例9】
【0134】
次に、図21に基づいて本発明の実施の形態の実施例9の乗員保護装置Jについて説明する。なお、この実施例9を説明するにあたり、他の実施例と同一ないし均等な部分については、同一符号を付して、相違する部分を中心として説明する。
【0135】
この実施例9の乗員保護装置Jは、実施例7の変形例であり、支持アーム904は、実施例7と同様に、ガイドレール2bに沿ってボルト744bがスライドすることで車両前後方向へ移動可能に取り付けられている。
【0136】
この実施例9では、吸収手段970が実施例7と異なっている。すなわち、吸収手段970は、図21に示すように、左右一対のピニオンギヤ971,971とギヤ部材972,972とを備えている。
【0137】
ピニオンギヤ971は、図21では図示を省略したスライドブラケット744のフランジ744aの車両前方の端部に、この図では図示を省略したボルト744bと同軸に回動可能に取り付けられている。
【0138】
一方、各ピニオンギヤ971,971が噛み合わされたギヤ部材972,972が、車両前後方向に延在されてフロアパネル2に固定されている。なお、ピニオンギヤ971とギヤ部材972との噛み合いは、ピニオンギヤ971がギヤ部材972を転動したときに、設定された摺動抵抗が生ずる噛み合いとなっている。
【0139】
そして、ピニオンギヤ971は、支持アーム904が図21(a)に示すステアリングホイール3を衝突前位置に配置した位置で、ギヤ部材972の後端部に噛み合った状態で配置されている。
【0140】
次に、実施例9の作用を説明する。
衝突時に乗員からステアリングホイール3に荷重が入力されると、支持アーム904が、図21(a)に示すステアリングホイール3を衝突前位置に配置した位置から車両前方へスライドする。そして、これに伴い、ステアリングホイール3は、退避位置へ向けて移動する。
【0141】
このとき、図21(b)に示すように、ピニオンギヤ971がギヤ部材972と噛み合いながらギヤ部材972に沿って移動し、これらピニオンギヤ971とギヤ部材972との摺動による抵抗で、支持アーム904への入力が吸収される。
【0142】
したがって、実施例9の乗員保護装置Jにあっても、実施例1と同様に、ステアリングホイール3を衝突前位置から退避位置へ移動可能とすることによる乗員保護性能の向上と、ステアリングホイール3とインストルメントパネル1との間にエアバッグを展開させないことによる設計自由度の向上と、支持アーム904と乗員DRの特に下半身と干渉抑制による乗員保護性能の向上と、を達成できる。
【0143】
しかも、吸収手段970は、ピニオンギヤ971とギヤ部材972との噛み合いによる摺動で入力を吸収する構造であるので、入力吸収時に破損する可能性が低く、衝突後の修理が容易である。
【0144】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態および実施例1〜実施例9を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態および各実施例1〜9に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0145】
例えば、支持アーム4は、フロアパネル2に立設した例を示したが、これに限定されず、フロアパネル2以外にも車幅方向外側のピラーやサイドパネルなどの車体から立設させてもよい。また、フロアパネル2から立設されたものでも、その立設する位置は、車幅方向略中央に限定されず、車幅方向外側や乗員の車両前方位置でもよい。
【0146】
また、実施例2では、支持アームの前後回動で、ブレーキピストンを設け、車体との摩擦で入力吸収を行う例を示した、このようなブレーキピストンを用いる手段は、実施例5のような支持アームが上下軸を中心とした回動を行うものや、実施例7のように支持アームが前後スライドする構成にも適用することができる。
【0147】
また、実施例4や実施例6では、支持アーム404,604が車体に対して回動したときに塑性変形する吸収部材481,672を示したが、このような塑性変形により入力吸収する手段は、実施例7のような支持アーム704が車両前後方向にスライドする構成にも適用することができる。この場合、例えば、実施例8において、支持アーム804のスライド時にフロアパネル2のガイドレール872が変形する例を示したが、このガイドレールに872に代えて、フロアパネル2とは別体の、樹脂などにより形成した塑性変形用の部材を用いればよい。このようにすることで、入力吸収特性のバリエーションが増え、チューニング性能が高まる。
【0148】
また、実施例3では、衝突時に、支持アーム304が車両前方に回動した際に、ケース側摩擦部306aとアーム側摩擦部341aとが摺動することで入力吸収を行うものを示したが、このような吸収手段は、実施例5のような支持アーム504が車両上下方向の軸p2を中心に回動する構造や、実施例7のように支持アーム704が車両前方へスライドする構成にも適用することができる。
【0149】
また、実施例9では、支持アーム904が車両前方へスライドした際に、ギヤどうしの噛み合い位置がずれることで入力吸収を行う吸収手段970を示した。しかし、このようなギヤどうしの噛み合いによる吸収手段は、実施例1のような支持アーム4が車幅方向の軸p1を中心に回動する構造や、実施例5のように支持アーム504が車両上下方向の軸p2を中心に回動する構造などにも適用することができる。また、このような構造は、回転するギヤとその回転中心軸との間に、摩擦抵抗が生じる構造を設けてもよい。
【0150】
また、実施例1〜4では、ステアリングホイール3を衝突前位置に配置した支持アーム4,204,304,404を、ボルト51により所定の締結力で車体に固定する例を示したが、このボルト51のような締結手段は、必ずしも必要ではない。すなわち、実施例1〜4では、支持アーム4,204,304,404が、ステアリングホイール3を衝突前位置に配置した位置から車両前方へ回動した際には、吸収手段による移動規制や摩擦抵抗が作用するようになっている。したがって、このような規制力により支持アーム4,204,304,404の回動を規制することで、ステアリングホイール3を衝突前位置に保持するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0151】
【図1】この発明の最良の実施の形態の実施例1の乗員保護装置Aが設けられた車両の構造の概略を示し斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態の実施例1の乗員保護装置Aの要部の衝突前の状態を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態の実施例1の乗員保護装置Aの要部の衝突後の状態を示す斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態の実施例1の乗員保護装置Aの衝突前の状態を示す車両側方から見た概略図である。
【図5】本発明の実施の形態の実施例1の乗員保護装置Aの衝突後の状態を示す車両側方から見た概略図である。
【図6】本発明の実施の形態の実施例2の乗員保護装置Bの要部の衝突前の状態を示す斜視図である。
【図7】本発明の実施の形態の実施例2の乗員保護装置Bの要部の動作を示す側方から見た説明図であり、(a)は衝突前の状態を示し、(b)は衝突後の状態を示す。
【図8】本発明の実施の形態の実施例3の乗員保護装置Cの要部を示す分解斜視図である。
【図9】本発明の実施の形態の実施例3の乗員保護装置Cの要部である吸収手段を示す拡大斜視図である。
【図10】本発明の実施の形態の実施例4の乗員保護装置Dの要部を示す分解斜視図である。
【図11】本発明の実施の形態の実施例5の乗員保護装置Eを示す側面図であり、(a)は衝突前の状態を示し、(b)は衝突後の状態を示している。
【図12】本発明の実施の形態の実施例5の乗員保護装置Eの要部を拡大した側面図であり、(a)は衝突前の状態を示し、(b)は衝突後の状態を示している。
【図13】本発明の実施の形態の実施例5の乗員保護装置Eの衝突後の状態を示す斜視図である。
【図14】本発明の実施の形態の実施例6の乗員保護装置Fの要部の衝突前の状態を示す説明図であり、(a)は側方から見た状態、(b)は上方から見た状態を示している。
【図15】本発明の実施の形態の実施例6の乗員保護装置Fの要部の衝突後の状態を示す説明図であり、(a)は側方から見た状態、(b)は上方から見た状態を示している。
【図16】本発明の実施の形態の実施例7の乗員保護装置Gを示す斜視図であって、(a)は衝突前の状態を示し、(b)は衝突後の状態を示している。
【図17】本発明の実施の形態の実施例7の乗員保護装置Gの要部を示す側方から見た断面図である。
【図18】本発明の実施の形態の実施例7の乗員保護装置Gの解除駆動部材774を示す側面図であって、(a)は非駆動状態を示し、(b)は駆動状態を示している。
【図19】本発明の実施の形態の実施例7の乗員保護装置Gを示す側方から見た断面図であって、(a)は衝突初期の状態を示し、(b)は衝突後の状態を示している。
【図20】本発明の実施の形態の実施例8の乗員保護装置Hを示す車両上方から見た説明図であって、(a)は衝突前の状態を示し、(b)は衝突後の状態を示している。
【図21】本発明の実施の形態の実施例9の乗員保護装置Jを示す車両上方から見た説明図であって、(a)は衝突前の状態を示し、(b)は衝突後の状態を示している。
【符号の説明】
【0152】
2 フロアパネル(車体)
3 ステアリングホイール
4 支持アーム
6 ケース(吸収手段)
204 支持アーム
270 ブレーキ機構(吸収手段、ブレーキ手段)
273 パッド部材(摩擦部材)
304 支持アーム
306aケース側摩擦部(吸収手段)
341aアーム側摩擦部(吸収手段)
404 支持アーム
441 下部アーム
481 吸収部材(吸収手段)
482 ボルト(吸収手段)
504 支持アーム
506 ケース(吸収手段)
604 支持アーム
671 ボルト(吸収手段)
672 吸収部材(吸収手段)
704 支持アーム
770 吸収手段
771 支持シャフト
772 吸収スプリング
773 ロック部材
774 解除駆動部材(解除手段)
804 支持アーム
870 吸収手段
904 支持アーム
970 吸収手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
衝突時の乗員からステアリングホイールへの入力により、このステアリングホイールを片持ち支持する支持アームが、ステアリングホイールを想定される乗員の膝の位置よりも車両後方の通常位置から前記膝の位置よりも車両前方の退避位置へ向けて移動させる車体に対する相対変位に伴い、前記支持アームの車体への取付部分と車体との間に設けられた吸収手段が前記入力の吸収を行うことを特徴とする乗員保護装置。
【請求項2】
ステアリングホイールを車体に片持ち支持し、かつ、衝突時の乗員からステアリングホイールへの入力により車体と相対変位することで、前記ステアリングホイールを想定される乗員の膝の位置よりも車両後方の通常位置から前記膝の位置よりも車両前方の退避位置へ移動可能に車体に取り付けられた支持アームと、
この支持アームの車体への取付部分と車体との間に設けられ、衝突時の車体に対する支持アームの相対変位に伴い入力吸収を行う吸収手段と、
を備えていることを特徴とする乗員保護装置。
【請求項3】
前記支持アームが、車幅方向の軸を中心として回動可能に車体に取り付けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の乗員保護装置。
【請求項4】
前記支持アームが、車両上下方向の軸を中心として回動可能に車体に取り付けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の乗員保護装置。
【請求項5】
前記支持アームが、車両前後方向へスライド可能に車体に取り付けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の乗員保護装置。
【請求項6】
前記吸収手段が、車体の一部に設けられ、前記支持アームが車体と前記相対変位を行ったときに塑性変形する手段であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の乗員保護装置。
【請求項7】
前記吸収手段は、前記支持アームが車体と前記相対変位を行ったときに相互に摺動して抵抗を生じる手段であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の乗員保護装置。
【請求項8】
前記吸収手段は、前記支持アームが車体と前記相対変位を行ったときに前記支持アームに摩擦部材を押し付けて摺動抵抗を発生するブレーキ手段を備えていることを特徴とする請求項7に記載の乗員保護装置。
【請求項9】
前記吸収手段は、車体と支持アームとのそれぞれに設けられ、かつ、噛み合わされた車体側ギヤおよびアーム側ギヤを備え、前記支持アームが車体と前記相対変位を行ったときに、両ギヤが摺動抵抗を生じながら噛み合い位置を変更して相対変位する手段であることを特徴とする請求項7に記載の乗員保護装置。
【請求項10】
前記吸収手段は、車体に取り付けられ車両前後方に延在された支持シャフトと、この支持シャフトの外周に装着されたコイルスプリングから成る吸収スプリングと、を備え、
前記支持シャフトには、車両前方ほど大径に形成された拡径部が形成され、
前記吸収スプリングは、その内径が拡径部に軸方向に係合可能な寸法に形成され、かつ、車両前方側の端部が、前記拡径部に装着され、車両後方側の端部が支持アームのスライドに伴って車両前後方向へ移動可能に係合されていることを特徴とする請求項5に記載の乗員保護装置。
【請求項11】
前記支持アームと一体的にスライド可能なロック部材が、前記吸収スプリングの車両後方側端部に係合された状態で支持シャフトの外周に装着され、
前記ロック部材は、前記支持シャフトの拡径部よりも車両後方の部位に形成された係合部に対して、車両前方へは移動可能である一方、車両後方へは係合可能な係合爪を有し、
前記支持アームには、前記係合爪による係合を解除可能な解除手段が設けられていることを特徴とする請求項10に記載の乗員保護装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate


【公開番号】特開2007−276582(P2007−276582A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−104149(P2006−104149)
【出願日】平成18年4月5日(2006.4.5)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】