説明

位相同期回路、情報再生装置、電子機器、位相同期回路のゲイン制御方法

【課題】PLLゲインを自動制御してキャプチャ時間の短縮やエラーレートの改善を実現するに当たり、ロック判定の手法として種々の方法を提案する。
【解決手段】媒体再生時のPLL動作時に、PLLロック状態を示す情報を用いてPLLゲインを切り替えることでロバストなPLLを実現する。PLLロック状態の検出は、フレームシンクの検出結果、位相誤差の絶対値の積算量、の何れかを評価指標として測定し、一定区間での当該評価指標の大小を判定し、判定結果に基づき位相同期ループがロックしているか否かを示すRF品質信号RQを生成する。フレーム同期信号の検出間隔を監視し、その監視結果に基づきRF品質信号RQを生成するとよい。RF品質信号RQは、概ねPLLがロック時はH、アンロック時はLとなる。RF品質信号RQがHレベルの区間では低倍率となり、RF品質信号RQがLレベルの区間では高倍率となるように、PLLゲインを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相同期回路、情報再生装置、電子機器、位相同期回路のゲイン制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえばテレビジョン装置や携帯電話などの受信用や送信用の通信装置や光ディスク装置などの情報記録再生装置を始めとする各種の電子機器には、スペクトラム精度の高い発振信号を生成したり、データ信号に周波数・位相ロックしたクロック信号を発生したりするために、位相同期(PLL:Phase Locked Loop) 回路が組み込まれることがある。携帯電話をはじめとする無線通信、様々なケーブルを通したシリアル通信、あるいはディスク媒体からのデジタル記録データ再生系(リードチャネル)などがその例である。
【0003】
たとえば、光ディスク再生時には、いわゆるRF(Radio Frequency )信号から2値化データを再生するために、PLLを用いてRF信号に同期したクロックを生成する。PLLの動作に当たっては、結合容量により直流(DC:Direct Current)成分をカットしたDCフリーのRF信号のゼロクロスでの位相誤差信号を用いる。この誤差信号にゲインを掛けてフィードバックをすることで、PLLの応答を適度に調整している。
【0004】
PLLのゲインを大きくするとキャプチャレンジは広くなりPLLがロックしていない場合からロックするまでの所要時間はより短くなるが、外乱への安定性が低下することでエラーレートが低下する。逆にPLLのゲインを小さくすると、PLL動作時の外乱への耐性は向上しエラーレートはよくなるが、PLLがアンロックからロックするまでかかる時間は増加する。このように、PLLのゲインを固定値にすると、外乱への安定性やエラーレートとキャプチャレンジはトレードオフの関係になるため、どちらもベストなものということにはならない。
【0005】
この対策のため、PLLの動作開始時にはゲインを上げて、PLLがロックしたらゲインを下げるといった制御を行なうことが考えられる。しかしながら、PLL動作中に外乱が発生してPLLがアンロックした場合に、PLLのゲインを下げたままでは、PLLが再びロック状態になるまでに時間が掛かってしまい、再生時のエラーが増えてしまう。
【0006】
この対策として、PLLの動作時に、PLLがロックしているか否かを判定し、この判定結果に基づきPLLのゲインを自動制御する仕組みが求められており、たとえば特許文献1,2に記載の仕組みが提案されている。
【0007】
【特許文献1】特開2006−270372号公報
【特許文献2】特開2007−080468号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述のように、PLLのゲインを自動制御する新たな仕組みが求められている。特許文献1,2に記載の仕組みとは異なる新たな仕組みがあれば、使用用途に合わせた位相同期回路の選択の幅が広がる。
【0009】
また、PLLのゲインを自動制御する際には、PLLの状態を如何様にして検出するかで、回路規模、その検出方式の適用可否、検出性能などが左右される点にも配慮するべきである。たとえば、検出性能は良くても回路規模が大きいものと検出性能は多少劣るが回路規模が小さいものがある場合に、何れを採用するかは、一概に決められず、最終的にはどちらを優先するかに左右されると考えられる。逆に言えば、これら2つの仕組みが存在することで使用用途に合わせた位相同期回路の選択の幅が広がると言える。
【0010】
また、あるシステムに特有の信号や情報に基づいてPLLの状態を検出する方式であれば、当然にその適用範囲が制限されてしまう。逆に言えば、あるシステムに特有の信号や情報に基づくのではなく、PLLとして一般的に使用し得る信号や情報に基づく検出方式であれば用途を選ばずに適用でき適用範囲が広がるので好ましいことになり、そのような方式の実現が求められる。
【0011】
またたとえば、検出方式が信号の振幅に依存するようなものである場合、たとえば外乱により信号振幅が変動するようなシステムへの適用に当たっては注意を要することになる。逆に言えば、信号振幅に検出性能が依存しない検出方式であれば用途を選ばずに適用でき適用範囲が広がるので好ましいことになり、そのような方式の実現が求められる。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、従来技術とは異なる新たな回路構成の位相同期回路を提供し、これによって、使用用途に合わせた位相同期回路の選択や適用の幅を広げることのできる仕組みを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明においては、PLLのゲインを自動制御する仕組みを採るに当たって、位相同期ループがロックしているか否かの判定や判定結果を示す品質信号の取得を、次の何れかにより行なうようにした。
【0014】
1)情報記録再生装置において記録媒体から再生信号を取得する仕組みとの組合せにおいては、記録媒体から再生される再生信号から同期信号を検出してフレーム同期信号を取得し、この検出・取得の結果に基づき位相同期ループがロックしているか否かを判定する。
2)一般的な電子機器に搭載可能な位相同期回路においては、位相検出部で検出された位相差の絶対値の積算量(つまり発振制御信号)に基づき位相同期ループがロックしているか否かを判定する。
【0015】
位相同期ループがロックしているか否かを判定したら、その判定結果に基づき、増幅部における倍率を制御する。基本的な考え方は、位相同期ループが概ねロックしているときには低倍率となり、位相同期ループが概ねロックしていないとき(アンロックのとき)には高倍率となるようにする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一形態によれば、従来技術とは異なる新たな回路構成の位相同期回路が実現され、使用用途に合わせた位相同期回路の選択や適用の幅が広がる。
【0017】
特許文献1,2には開示されていない仕組みにより、位相同期ループがロックしているか否かを判定でき、その判定結果に基づき、位相同期ループがロックしているときには低倍率となり位相同期ループがロックしていないときには高倍率となるように、増幅部における所定倍を自動制御することができる。増幅部における所定倍を自動制御することが可能な、新しい位相同期回路が実現される。その結果、使用用途に合わせた位相同期回路の選択の幅を広げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。各機能要素について実施形態や比較例別に区別する際には、A,B,…などのように大文字の英語の参照子を付して記載し、特に区別しないで説明する際にはこの参照子を割愛して記載する。図面においても同様である。
【0019】
<記録再生装置の概要>
図1は、位相同期回路を具備した電子機器の一例である情報記録再生装置(光ディスク装置)の一実施形態を示すブロック図である。
【0020】
本実施形態の情報記録再生装置1は、光ディスクPD(Photo Disk)に付加情報を記録するあるいは光ディスクPDに記録されている情報を読み取るためのレーザ光源を具備した光ピックアップ14を備える。また、信号処理系として、サーボ系と、記録・再生系と、コントローラ系とを備えている。ここで、サーボ系として、情報記録再生装置1は、回転サーボ系とトラッキングサーボ系とフォーカスサーボ系とを有する。トラッキングサーボ系とフォーカスサーボ系とを纏めてピックアップサーボ系とも称する。
【0021】
光ディスクPDとしては、CD(コンパクトディスク)やCD−ROM(Read Only Memory)などのいわゆる再生専用の光ディスクのほか、たとえばCD−R(Recordable)のような追記型光ディスクや、CD−RW(Rewritable )のような書き換え可能型光ディスクであってもよい。さらには、CD系の光ディスクに限らず、MO(光磁気ディスク)であってもよいし、通常のDVD(Digital Versatile Disk )や、たとえば波長407nm程度の青色レーザを利用する次世代DVDといったDVD系の光ディスクであってもよい。また、現行のCDフォーマットを踏襲しながら、記録密度を現行フォーマットの約2倍とした、いわゆる2倍密度のCD(DDCD;DD=Double Density)やCD−RあるいはCD−RWであってもよい。
【0022】
情報記録再生装置1は、具体的には、回転サーボ系として、音楽などの再生すべき情報が記録された光ディスクPDを回転させるスピンドルモータ10と、スピンドルモータ10を駆動するモータドライバ12と、モータドライバ12を制御する回転制御部(回転サーボ系)の一例であるスピンドルモータ制御部30とを備える。
【0023】
スピンドルモータ制御部30は、図示を割愛するが、ラフサーボ回路、速度(スピード)サーボ回路、位相(フェーズ)サーボ回路、および各サーボ回路の各出力を切り替えて出力するセレクタを有する。
【0024】
ラフサーボ回路は、光ディスクPDの回転スピードを大まかに制御する。速度サーボ回路は、同期信号に基づき回転スピードをさらに高精度に合わせる。位相サーボ回路は、再生信号の位相と基準信号の位相を合わせる。セレクタは、ラフサーボ回路、速度サーボ回路、位相サーボ回路の各出力を切り替えてモータドライバ12に出力する。
【0025】
光ディスクPDは、チャッキング11によりスピンドルモータ10の回転軸10aに固定されるようになっている。スピンドルモータ10は、モータドライバ12とスピンドルモータ制御部30とによって線速度が一定になるように制御される。その線速度はモータドライバ12とスピンドルモータ制御部30によって段階的に変更が可能である。
【0026】
また、情報記録再生装置1は、トラッキングサーボ系およびフォーカスサーボ系として、フォーカス・トラッキング・スレッドモータを制御するピックアップ制御部40を備える。たとえば、ピックアップ制御部40は、光ピックアップ14の光ディスクPDに対する半径方向位置やフォーカスを制御する。
【0027】
図示を割愛するが、ピックアップ制御部40は、たとえば、光ディスクPDに記録されているサブコーディングを読み取るサブコーディング検出回路と、図示しないトラックエラー検出回路により検出されたトラックエラー信号やサブコーディング検出回路により検出されたアドレス情報に基づいて光ピックアップ14の対光ディスクPDに対する半径方向位置を制御するトラッキングサーボ回路とを備える。ピックアップ制御部40は、図示しないトラックアクチュエータやシークモータを制御することで、光ピックアップ14から発せられるレーザ光のレーザスポットを光ディスクPD上の目的の場所(データ記録位置やデータ再生位置)に位置するように制御する。
【0028】
光ピックアップ14は、図示しない公知の半導体レーザ、光学系、フォーカスアクチュエータ、トラックアクチュエータ、受光素子、およびポジションセンサなどを内蔵しており、光ディスクPDの記録面にレーザ光を照射し、また反射光を受光して電気信号に変換するように構成されている。光ピックアップ14の半導体レーザは、図示しないレーザドライバにより駆動されるようになされており、このレーザドライバの駆動によって、データ再生時には所定の再生パワーの光ビームを出射し、情報の記録時には所定の記録パワーの光ビームを出射する。
【0029】
また、この光ピックアップ14は、図示しないシークモータ(スライドモータ)によってスレッジ(半径)方向に移動可能に構成されている。これらのフォーカスアクチュエータ、トラックアクチュエータ、シークモータは、受光素子やポジションセンサから得られた信号に基づいてモータドライバ12とスピンドルモータ制御部30およびピックアップ制御部40によってレーザ光のレーザスポットを光ディスクPD上の目的の場所(データ記録位置やデータ再生位置)に位置するように制御される。
【0030】
また情報記録再生装置1は、記録・再生系として、光ピックアップ14を介して情報を記録する情報記録部および光ディスクPDに記録されている情報を再生する情報再生部の一例である記録・信号処理部50を備える。記録・信号処理部50の構成例については後述するが、少なくとも、位相同期回路の一例である位相同期部を備えている。
【0031】
また、情報記録再生装置1は、コントローラ系として、情報記録再生装置1の全体の制御を行なうコントローラ62と、インタフェース(IF(Interface ):接続)機能をなすインタフェース部64を備える。コントローラ62は、マイクロプロセッサ(MPU:Micro Processing Unit )で構成されており、スピンドルモータ制御部30およびピックアップ制御部40を有するサーボ系や記録・信号処理部50の動作を制御する。インタフェース部64は、当該情報記録再生装置1を利用した各種の情報処理を行なうホスト装置3との間のインタフェース(接続)機能をなす。インタフェース部64には、ホストIFコントローラが設けられる。ホスト装置3としては、たとえば、情報処理装置の一例であるパーソナルコンピュータ(パソコン)が使用される。情報記録再生装置1とホスト装置3により情報記録再生システム(光ディスクシステム)が構成される。
【0032】
このような構成の情報記録再生装置1においては、再生処理時には、光ディスクPDから光ピックアップ14で読み出された光信号は光ピックアップ14に内蔵の受光素子で電気信号に変換され、その電気信号が、スピンドルモータ10や光ピックアップ14の制御を行なうスピンドルモータ制御部30およびピックアップ制御部40を具備したサーボ系(制御系)とデータの記録・再生を行なう記録・信号処理部50に送られる。
【0033】
スピンドルモータ制御部30およびピックアップ制御部40は、コントローラ62の制御の元で、この電気信号を元にしてスピンドルモータ10の回転数や、光ピックアップ14のフォーカシングおよびトラッキングを調整する。
【0034】
これとともに、記録・信号処理部50では、取得したアナログの電気信号をデジタルデータに変換し復号化を行ない、情報記録再生装置1を利用するホスト装置3に渡す。ホスト装置3では、復号化されたデータに基づき、画像・音声データとして再生する。
【0035】
また、光ディスクPDへデータを記録する記録処理時には、スピンドルモータ制御部30およびピックアップ制御部40は、コントローラ62の制御の元で、一定速度で光ディスクPDを回転させる。これとともに、記録・信号処理部50では、再生とは逆に、データを符号化して光ピックアップ14に内蔵のレーザダイオードなどに供給することで、電気信号を光信号へ変換して、光ディスクPDに情報を記録する。
【0036】
<記録・信号処理部の概要>
記録・信号処理部50は、RF増幅部52、PLL&ADC処理部53、DSP(Digital Signal Processor)で構成されたデジタル信号処理部56、記録電流制御部57を備える。
【0037】
RF増幅部52は、可変ゲインアンプ構成の電圧ゲインアンプ(VGA)を具備するAGC処理部である。RF増幅部52は、光ディスクPD(記録媒体)から再生信号を位相比較部203に供給される2つの信号の内の一方の信号として取得する信号処理部の一例である。電圧ゲインアンプとコントローラ62に備えられるゲイン制御部により自動利得制御回路(AGCループ)が構成される。RF増幅部52は、コントローラ62に備えられるゲイン制御部による制御の元で、光ピックアップ14により読み取られた微小なRF(高周波)信号(再生RF信号)に対し、再生振幅が一定になるようにする。
【0038】
PLL&ADC処理部53は、再生RFデータに同期したクロックを生成し、またそのクロックでアナログRF信号をAD変換してデジタルRFデータを生成する。
【0039】
デジタル信号処理部56は、変調処理部110と、2値化処理部120と、復調処理部130を有する。2値化処理部120は、PRML(Partial Response Maximum Likelihood )などの処理を行ない、デジタルRFデータから2値化データを再生する。
【0040】
たとえば、近年、記録密度が高密度化している。記録媒体である光ディスクや光ピックアップなど記録再生装置の性能が決まると、それに応じて記録可能な最短波長も決まる。そして、与えられた最短波長を変えないまま記録密度を上げていくと、隣接する符号の再生波形が重畳して読み出される、いわゆる符号間干渉が発生し、従来の2値化方式では適正な再生処理ができないことが起ってきている。このような高密度化における問題を解消する一手法の一例としてPRMLを用いる。
【0041】
復調処理部130は、PLL&ADC処理部53から出力されたデジタルRFデータ(デジタルデータ列)を復調し、デジタルオーディオデータやデジタル画像データなどを復号化するなどのデジタル信号処理をする。たとえば、復調処理部130は、復調部、ECC訂正部、アドレスデコード部などを有し、復調・ECC訂正、アドレスデコードを行なう。復調後のデータは、インタフェース部64を介してホスト装置3へ転送される。
【0042】
記録電流制御部57は、情報を光ディスクPDに記録するためのレーザ光の記録電流を制御(オンオフ)する。記録電流制御部57は、図示を割愛するが、ライトストラテジ部(Write Strategy)と駆動部(Laser Diode Driver)を有する。ライトストラテジ部は、光ディスクPDの材質と記録速度に応じて光出力パワーをマルチパルス変調する。駆動部は、レーザ光源(光ピックアップ14内にある)から発せられるレーザ光の光出力(光強度、光出力パワー)を一定値に保持するためのAPC(Auto Power Control)制御回路を具備する。
【0043】
レーザ光源から出射された記録用光ビームは、光ピックアップ14内の図示しないコリメータレンズにより平行光に変換された後、図示しないビームスプリッタを透過して図示しない対物レンズにより集束され、スピンドルモータ10により回転駆動される光ディスクPDに照射される。このとき、記録用光ビームは、記録用の情報に応じて変調されているので、光ディスクPDの所定位置(情報記録エリア)には、情報に対応したピット列が形成され、これにより、光ディスクPDに情報が記録されることになる。このとき、本実施形態では、ライトストラテジ部にて、ピット(記録マーク)の形状歪によるデータ誤りを抑えるようにしている。
【0044】
たとえば、光源として用いるレーザとしては、近年、半導体素子を利用した半導体レーザが、極めて小型で、かつ駆動電流に高速に応答するため、各種装置の光源として広く使用されるようになっている。また、記録や再生の媒体として用いる書換可能な光ディスクPDとしては、相変化光ディスクや光磁気ディスクなどが広く知られており、記録、再生、消去する際に照射されるレーザ光の出力が異なる。
【0045】
一般的には、記録時は光ディスクPDにピットと呼ばれる記録マークを作るために、レーザビームの出力を高くする(たとえば30mW以上)が、再生時は記録ピットを破壊することなく情報の読み出しを行なうことができるように、記録時よりも弱い出力(たとえば3mW)のレーザビームを光ディスクPDに照射するようにしている。近年の高密度、高転送レートの光ディスクPDにおいて、記録再生が可能なエラーレートを得るためには、これらのレーザビームの強度を十分に制御することが必要とされている。
【0046】
しかし、半導体レーザは駆動電流・光出力特性の温度特性変化が著しく、その光出力を所望の強度に設定するために、半導体レーザの光出力を一定に制御する回路、いわゆるAPC制御回路が必要となる。APC制御では、情報書込み時の光信号をモニタリングして得た帰還電流が所定のパワー基準電流となるような負帰還制御ループを構成することで、レーザ発光パワーが一定になるように制御する。
【0047】
ここで、近年の書込可能な光ディスクPDでは、その高密度化の優位性より記録マークの両端の変化を記録するマークエッジ記録が主流となっている。また、マークエッジ記録でのマークの形状歪によるデータ誤りを抑える技術として、ライトストラテジ部においては、ディスクの材質と記録速度に応じてレーザ出力パワーをマルチパルス変調するライトストラテジ技術を採用する。
【0048】
<PLLの動作状態の検出手法>
光ディスク再生時には、再生RF信号から2値化データを再生するために、PLLを用いてRF信号に同期したクロックを生成するが、PLLの応答を動作状態に応じて適度に調整することが求められる。たとえば、PLLの動作開始時にはゲインを上げて、PLLがロックしたらゲインを下げる、また、PLL動作中に外乱が発生してPLLがアンロックした場合にはゲインを上げてPLLが再びロック状態になるまでに時間を短くするなど、PLLの動作時にPLLがロックしているか否かを判定した結果に基づきPLLのゲインを自動制御する。
【0049】
PLLゲインの自動制御に当たっては、位相同期ループがロックしているか否かを判定したら、その判定結果に基づき、増幅部における倍率を制御する。基本的な考え方は、位相同期ループが概ねロックしているときには低倍率となり、位相同期ループが概ねロックしていないとき(アンロックのとき)には高倍率となるようにする。
【0050】
このような仕組みを採るためには、PLLがロックしているか否かを如何様にして検出・判定するかが、実現の難易性・回路規模・検出性能・適用範囲(その検出方式の適用可否)などに影響を与える。
【0051】
たとえば、PLLのゲインを自動制御する仕組みを採るに当たって、位相同期ループがロックしているか否かの判定や判定結果を示す品質信号の取得を、次の何れかにより行なうことが考えられる。
【0052】
1)情報記録再生装置において記録媒体から再生信号を取得する仕組みとの組合せにおいては、記録媒体から再生される再生信号から同期信号を検出してフレーム同期信号(フレームシンク)を取得し、この検出・取得の結果に基づき位相同期ループがロックしているか否かを判定する。
2)一般的な電子機器に搭載可能な位相同期回路においては、位相検出部で検出された位相差の絶対値の積算量(つまり発振制御信号)に基づき位相同期ループがロックしているか否かを判定する。
3)情報記録再生装置において記録媒体から再生信号を取得する仕組みとの組合せにおいては、位相比較の対象となる2つの信号の内の一方の信号のジッタ成分に基づき位相同期ループがロックしているか否かを判定する。
4)情報記録再生装置において記録媒体から再生信号を取得する仕組みとの組合せにおいては、ビタビデコード(Viterbi Decode)時のメトリックの差に基づき位相同期ループがロックしているか否かを判定する。
5)情報記録再生装置において記録媒体から再生信号を取得する仕組みとの組合せにおいては、LMS(Least-Mean Square )の等化誤差の絶対値の積算量の何れかを評価指標として測定して、一定区間での当該評価指標の大小を判定し、この判定結果に基づき位相同期ループがロックしているか否かを判定する。
6)情報記録再生装置において記録媒体から再生信号を取得する仕組みと位相誤差検出をデジタルで行なうデジタルPLLとの組合せにおいては、記録媒体から再生される再生信号から同期信号を検出してフレーム同期信号を取得する際に、フレーム同期信号の検出間隔を監視し、その監視情報に基づき位相同期ループがロックしているか否かを判定する。
【0053】
基本的には、PLLの動作と関係のある信号であれば、どのようなものでも、RF品質信号の生成に利用することができる。たとえば、フレーム同期信号やPLLの位相誤差の絶対値の積算量に限らず、RFジッタを示す情報、ビタビデコード時のメトリックの差を示す情報、LMSの等化誤差の絶対値の積算量などの評価指標をリアルタイムに測定して、一定区間での評価指標の大きさでRF品質信号のL,Hを切り替えるとよい。
【0054】
これらの仕組みの内、フレーム同期信号を利用する1),6)の方式は、情報記録再生装置への適用に制限されてしまうが比較的簡単な方式であり、再生RF信号の振幅に依存しないなど効果が高い利点がある。一方、2)の方式は一般的な位相同期回路から取得可能な位相差の絶対値の積算量を利用するので適用範囲が制限されない利点がある。これらに対して、3)〜5)の方式は、原理的には実現可能ではあるものの、実現した際の効果はさほど大きいとは考え難い。
【0055】
これらを踏まえ、第1実施形態では、1)の方式を採用する。第2実施形態では、2)の方式を採用する。第3実施形態では、6)の方式を採用する。以下、各別に説明する。
【0056】
<記録・信号処理部の構成例:第1実施形態>
図2は、第1実施形態の記録・信号処理部50A(特にPLL&ADC処理部53と2値化処理部120)の構成例を示す図である。図3は、第1比較例の記録・信号処理部50X(特にPLL&ADC処理部53と2値化処理部120)の構成例を示す図である。
【0057】
PLL&ADC処理部53は、AD変換部54(ADC;Analog to Digital Converter )とクロック再生部55を有する。AD変換部54は、RF増幅部52から入力されたアナログRF信号をデジタルデータに変換する。クロック再生部55は、後述する位相同期部から出力される信号に基づき信号処理を行なう信号処理部の一例であり、本発明の位相同期回路の一例でもある。
【0058】
クロック再生部55は、AD変換部54から出力されたデジタルデータ列に基づきクロック信号を再生する。クロック再生部55は、AD変換部54からのデジタルデータ(デジタルデータ列Din)にロックしてクロック信号を生成するデータリカバリ型の位相同期部を有する。クロック再生部55は、再生したクロック信号をAD変換部54へADクロック(サンプリングクロック)CKadとして供給したり、その他の機能部に供給したりする。AD変換部54は、ADクロックCKadに基づいてアナログ信号をデジタルデータに変換する。
【0059】
クロック再生部55は、PLL回路で構成された位相同期部200と、位相同期部200を制御するPLL動作シーケンサ300(位相同期制御部)を有する。PLL動作シーケンサ300は、動作イネーブル信号ENとPLLゲイン切替信号GCによりPLLの動作を制御する。
【0060】
位相同期部200は、発振制御信号CN(ここでは発振制御電圧Vcnt )に基づき発振周波数fosciの出力発振信号Vout を生成する発振部201と、発振部201から出力された出力発振信号Vout の発振周波数fosciを1/αに分周して分周発振信号Vout1を取得する分周部202を備える。この例では、発振部201を、電圧制御発振回路(VCO:Voltage Controlled Oscillator )で構成する例で示しているが、電流制御発振回路(CCO:Current Controlled Oscillator )を採用することもできる。分周部202を割愛した構成を採ることもできる。
【0061】
位相同期部200はさらに、2つの信号間の位相誤差を検出する位相比較部203と、ループフィルタ駆動部204と、ループフィルタ部206を備えている。位相比較部203は、入力信号Vin(アナログRF信号)と発振部201からの出力発振信号Vout もしくは分周部102からの分周発振信号Vout1(纏めてクロックとも称する)の位相を比較し、比較結果である位相誤差を示す比較結果信号(位相誤差信号Comp)を出力する。PLL動作シーケンサ300は、動作イネーブル信号ENを位相比較部203へ供給することでPLL動作をオン/オフ制御する。位相比較部203は、動作イネーブル信号ENがアクティブなときに位相誤差を検出して位相誤差信号Compを出力する。
【0062】
ループフィルタ駆動部204は、増幅部の一例であるゲイン乗算部205を具備している。ゲイン乗算部205は、位相比較部203からの位相誤差信号Compに対して、所定倍率で乗算を行ない位相誤差信号Compの振幅を変更する。乗算する値(所定倍率)をここではゲインと呼ぶ。ゲインの変更は、PLL動作シーケンサ300からのPLLゲイン切替信号GCに基づき行なう。たとえば、ゲイン乗算部205は、PLLゲイン切替信号GCが、Lレベルのときは低倍率(乗算する値が小さい)にし、Hレベルのときは高倍率(乗算する値が大きい)にする。
【0063】
ループフィルタ部206は、少なくとも容量値Cの容量素子(ループフィルタ容量)を具備しており、位相誤差信号Vcompを積算処理(平滑化)することにより位相誤差の低域成分を抽出するローパスフィルタ(LPF:Low Pass Filter)機能を持つ。ループフィルタ部206は、ループフィルタ駆動部204からの、ゲインが掛かった位相誤差信号Vcompを平滑化することで位相誤差信号Vcompの積算値を取得し、この積算値を発振部201の発振周波数fosciを制御するための発振制御信号CNとする。なお、ループフィルタ部206は、容量素子の他に、抵抗値Rの抵抗素子(ループフィルタ抵抗)も備えてよい。ループフィルタ部206からのLPF出力である発振制御信号CNは、積算された位相誤差量となる。発振部201は、ループフィルタ部206から入力された発振制御信号CNにより、対応する周波数の発振を行なう。
【0064】
このような構成の位相同期部200においては、RF増幅部52からの入力信号Vinと発振部201からの出力発振信号Vout (もしくは分周部102による分周発振信号Vout1)が位相比較部203に入力され、その位相誤差を示す位相誤差信号Compを元にして、たとえばチャージポンプPLLの手法によって発振部201を発振させ、入力信号Vinに位相ロックした出力発振信号Vout を得る。
【0065】
2値化処理部120は、PR等化処理部122とビタビ処理部124(Viterbi )を有する。PR等化処理部122は、PR等化処理を行なう。具体的には、ビタビ処理部124における2値化処理のために、必要に応じてRFデータを予めそれにあった周波数特性に合わせるためのフィルタ処理を行なう。ビタビ処理部124は、2値化のため、ビタビ復号処理によりデジタルRFデータを0,1の2値のデータに復号して、復調、ECC訂正、アドレスデコードの各処理機能を持つ処理復調処理部130へ出力する。
【0066】
盤面にデータが記録された光ディスクPDが情報記録再生装置1に装着される。スピンドルモータ10は、情報記録再生装置1に装着された光ディスクPDを回転駆動する。回転されている光ディスクPDの記録面から得られる光信号を光ピックアップ14が電気信号に変換することで再生信号(アナログRF信号)を抽出する。RF増幅部52は、コントローラ62からのゲイン制御信号Sagc に基づいて再生信号の振幅を調整する。
【0067】
その後、再生信号は図示を割愛したイコライザ部(RF波形整形部)において適切なPR波形に等化(波形等化)された後に再生信号としてAD変換部54に供給される。AD変換部54は、再生信号をアナログ形式からデジタル形式に変換する。そして、AD変換部54によりAD変換された再生データ(デジタルRFデータ)が、PR等化処理部122に送られる。PR等化処理部122は、たとえば、アシンメトリ(非対称性)を非線形信号処理で抑圧したり、PR等化の不足分を適応等化で補ったりする。ビタビ処理部124は、PR等化処理部122からのデータを2値化する。ビタビ処理部124により2値化された後に復調処理部130に送られる。PR波形はビタビ処理部124によって2値化され復調処理部130以降の処理に送られるのであるが、ビタビ処理部124はデジタルデジタルで処理されるので、その前にAD変換部54が必要である。
【0068】
なお、図示を割愛しているが、ビタビ処理部124によるビタビ処理では、再生信号に概略一定間隔で存在するデータ点での信号値が必要である。そのため、AD変換部54によるAD変換のサンプリングタイミングがデータ点に一致するようPLL(Phase-locked loop :位相同期)を掛けておくか、あるいはAD変換を固定クロックでサンプリングしデジタル信号処理でデータ点の値を求めるか、などの機構が必要である。
【0069】
ここまでは、第1実施形態の記録・信号処理部50Aと第1比較例の記録・信号処理部50Xの何れも同様の構成をなしている。第1実施形態の記録・信号処理部50Aは、この構成に加えて、位相同期ループがロックしているか否かを示すRF品質信号RQを生成する品質信号生成部310を2値化処理部120が備えている点に特徴がある。特に、第1実施形態の品質信号生成部310は、再生信号からフレームシンクFSを検出するとともに同期保護を行なうフレームシンク処理部312を有する点で後述する第2実施形態と異なる。
【0070】
フレームシンク処理部312は、ビタビ処理部124から出力される2値化データからフレームシンクFS(Frame Sync)を検出し、またフレームシンクFSの間隔(フレームシンク間隔)を確認することで同期保護を行なう。同期保護とは、外乱などによる偽のフレームシンクFSの発生によって同期を乱されることがないようにすることを意味する。同期保護の手法としては、たとえば、データフレーム単位にエンコードされている同期信号を検出してフレームシンクFSをとるときに、本来の発生タイミングでフレームシンクFSが検出されるように所定幅の保護用のウィンドウを利用する。正規の同期がとれた後に外乱などの影響で発生される偽の同期信号(偽シンク)は、同期検出用のウィンドウを通ることができないので、偽シンクによって同期が乱されることがない。
【0071】
品質信号生成部310は、フレームシンク処理部312によるフレームシンクFSの検出・確認結果に基づきRF品質信号RQを生成する。品質信号生成部310は、生成したRF品質信号RQを、PLLのロック状態(換言するとアンロック状態)を示す情報としてPLL動作シーケンサ300に通知する。
【0072】
PLL動作シーケンサ300は、品質信号生成部310で生成されたRF品質信号RQに基づきPLLゲイン切替信号GCを生成して、このPLLゲイン切替信号GCをループフィルタ駆動部204のゲイン乗算部205に供給することでゲイン(PLLのゲイン)を制御する。PLL動作シーケンサ300は、PLLゲイン切替信号GCをループフィルタ駆動部204へ供給して、ループフィルタ駆動部204におけるゲインを制御するゲイン制御部の機能を備える。ゲイン制御の方向としては、位相同期ループがロックしているときには低倍率となり位相同期ループがロックしていないときには高倍率となるように、ゲイン乗算部205におけるゲインを制御する。
【0073】
光ディスクPDの再生時における再生RF信号のPLL動作時に、そのロック状態を示す情報を用いてPLLのゲインを切り替えることでロバストなPLL制御を実現する。特に第1実施形態の仕組みにおいては、PLLのロック状態の検出にフレームシンク処理部312によるフレームシンクFSの検出結果を利用するのである。
【0074】
フレームシンクFSは光ディスクの規格で定義されており、そこには同期信号としてユーザのデータ中には存在しないパターン(同期信号:以下ユニークパターンと呼ぶ)が定義されている。たとえば、波長407nm程度の青色レーザを利用する次世代DVDのある規格でのユニークパターンは、NRZ表現では“101000000001000000001”である。また、フレームシンクFSは、連続した再生信号中では等間隔で挿入されている。そのため、たとえば、前述のユニークパターンを検出し、ユニークパターンが等間隔で検出できたかどうかを判定することで、つまりユニークパターンの検出の品位を判定することで、RFの再生状態や、PLLのロック状態を確認することができる。このようなRF品質信号RQをPLL動作シーケンサ300に入力し、RF再生状態によってPLLのゲインを切り替えることで、外乱復帰時のPLLの再収束を高速化することができる。
【0075】
<動作:第1実施形態>
図4〜図8は、第1実施形態の記録・信号処理部50Aの動作を説明する図である。ここで、図4は、一般的なアナログPLL動作例を説明する図である。図5は、アナログPLLの動作開始時のPLLシーケンス動作を説明する図である。図6は、第1比較例の記録・信号処理部50Xにおいて位相同期部200に外乱が入った場合の動作を説明する図である。図7は、第1実施形態の記録・信号処理部50Aに備えられたフレームシンク処理部312によるRF品質信号RQの生成手法を説明する図である。図8は、第1実施形態の記録・信号処理部50Aにおいて位相同期部200に外乱が入った場合の動作を説明する図である。
【0076】
図4において、(1)はPLLゲインが小さい場合の動作を示し、(2)はPLLゲインが大きい場合の動作を示す。さらに、(1−1),(2−1)は位相誤差信号にゲインを乗算した位相誤差信号VcompつまりLPF入力信号であり、(1−2),(2−2)はそれぞれ(1−1),(2−1)に対してループフィルタ部206(LPF)を通した結果の信号つまり発振部201を制御する発振制御信号CNである。
【0077】
図4(1)および図4(2)の何れも、時刻0から位相同期部200を動作させ、位相誤差が小さくなっていき、0付近に収束する動作を示している。本例では、図4(1−1)および図4(2−1)に示すように、位相誤差信号Vcomp(LPF入力信号)の振幅がPLLゲインによって異なり、その結果、図4(1−2)および図4(2−2)に示すように、LPF出力である発振制御信号CNでは、振幅の大きい図4(2−2)の方が早く収束する。なお、本例では、本実施形態に直接関わらない位相同期部200の詳細動作の説明は省略する。
【0078】
位相同期部200の動作開始時のPLLシーケンス動作が図5に示されている。PLL動作シーケンサ300から動作イネーブル信号ENおよびPLLゲイン切替信号が出力され、それにより、PLLの動作が制御される。ゲイン乗算部205は、動作イネーブル信号ENがアクティブH(ハイ)になり、位相同期部200の動作が開始されたところから、PLLゲイン切替信号GCを用いて、一定区間はPLLゲインを大きくし、その後、位相同期部200の動作が収束しただろう位置でPLLゲインを小さくする。これは、PLLゲインを大きくすると、位相同期の収束は高速になるが、その反面、安定性が悪化して外乱に応答して位相同期が外れやすくなるといった弊害があるためである。そのため、前述のような制御により、位相同期が収束した後はPLLゲインを下げて安定性を高めるのである。
【0079】
ここで、第1比較例の記録・信号処理部50Xにおいて、位相同期部200に外乱が入った場合の動作について考察する。図6にはその動作例が示されている。たとえば光ディスクPDの盤面上にゴミや傷のあった場合、入力RF信号に対する外乱となる。その場合、外乱のある区間では、入力RF信号がおかしくなり、位相誤差信号Compとして偽信号が出力されることがある。
【0080】
図6中では、Taが外乱のある区間(外乱区間Ta)であり、この外乱区間Taで位相誤差信号Compとしては偽の出力が出た状態となっている。この場合に、外乱区間Taを過ぎた後で、PLLの位相誤差が大きくなっている状態から、収束するまでに一定の時間が必要である。図6中では、Tbで示す区間(再収束区間Tb)がこれに当たり、PLLが再引込みに要した区間である。位相同期部200が動作中は、位相同期の動作を安定させるためにPLLゲインを下げていると、位相同期が収束するまでの時間が、PLLゲインを大きくした場合に比べて余分に掛かる。位相同期が再び収束するまで間のデータはエラーになり易く、収束までの時間が掛かると、再生品質が悪化するといった問題が発生する。
【0081】
次に、第1実施形態の記録・信号処理部50Aにおいて、位相同期部200に外乱が入った場合の動作について考察する。図7には、フレームシンク処理部312によるRF品質信号RQの生成例が示されている。図7(1)はフレームシンクFS中のユニークパターン検出結果を示す。フレームシンク処理部312におけるユニークパターン検出処理では、2値データと光ディスクPDのフォーマットで規定されたユニークパターンのパターンマッチを行ない、一致するかどうかでRF品質を判断する。図7(1)中では、検出できたところを実線、本来なら検出できるはずが外乱などで検出できなかった箇所を点線で表している。図中では、(a),(b),(c),(e),(f)の時点でユニークパターンが検出できているのに対して、(d)の時点ではユニークパターンが検出できていない。
【0082】
図7(2)はフレームシンク間隔確認用のウィンドウ(Window)動作を示す。フレームシンク処理部312は、ユニークパターンが検出できたら、その時点から、外乱が無ければ次のユニークパターンが検出できるだろう位置付近に検出ウィンドウを生成する。本例では、検出ウィンドウの中心が外乱のない場合のフレームシンクFSの位置として、実線で示している。図中では、(a),(c),(f)の位置では予測位置でフレームシンクFSが見つかっているが、(b)の位置では、はずれた場所でフレームシンクFSが見つかっている。また、(e)の位置では、直前のフレームシンクFSが見つからなかったため、予測位置の検出ウィンドウを生成していない状態でフレームシンクFSが検出された状態である。
【0083】
図7(3)はRF品質信号RQを示す。RF品質信号RQは、フレームシンクFSが、直前のフレームシンクFSから予測位置通りの場所で見つかった場合にはH(ハイ)、予測位置からずれて見つかった場合や、検出ウィンドウ内に見つからなかった場合にL(ロー)とする信号である。図の例では、予測位置でフレームシンクFSが見つかっている(a),(c),(f)の位置ではHとなり、予測位置からはずれた場所でフレームシンクFSが見つかっている(b)の位置と、ユニークパターンが検出できていない(d)の位置と、予測位置の検出ウィンドウを生成していない状態でフレームシンクFSが検出された(e)の位置でLとなる。
【0084】
RF品質信号RQがLレベルとなったことは、予測位置からはずれた場所でフレームシンクFSが見つかったか、もしくは、ユニークパターンが検出できなかったことを示すもので、外乱の発生を示唆しており、PLLがロック状態からアンロック状態に遷移したことを示す。RF品質信号RQがHレベルからLレベルに切り替ったことは、外乱区間Taを検出できていることを示す。RF品質信号RQがHレベルとなったことは、予測位置でフレームシンクFSが見つかったことを示唆し、PLLがアンロック状態からロック状態に遷移したことを示す。そこで、PLL動作シーケンサ300は、ゲイン乗算部205のPLLゲインを、RF品質信号RQが、Lレベルの期間では大きくし、Hレベルの期間では小さくするように、PLLゲイン切替信号GCによりゲイン乗算部205を制御する。
【0085】
次に、第1実施形態の記録・信号処理部50Aにおいて、位相同期部200に外乱が入った場合の動作について考察する。図8にはその動作例が示されている。第1実施形態の記録・信号処理部50Aにおいては、フレームシンク処理部312を備えていることにより、図8に示すように、外乱発生後のPLL再収束が短縮できる。
【0086】
すなわち、図8(1)に示す第1比較例の動作例(図6と同じ)と図8(2)に示す第1実施形態の動作例を比べた場合、再収束区間Tbが短くなっていることが明白である。これは、第1実施形態の仕組みの場合、フレームシンク処理部312は、外乱区間Taを検出し、その区間を示唆するRF品質信号RQをPLL動作シーケンサ300に通知する。PLL動作シーケンサ300は、RF品質信号RQが、HレベルになるとPLLゲイン切替信号GCをLレベルにし、LレベルになるとPLLゲイン切替信号GCをHレベルにする。
【0087】
ゲイン乗算部205は、外乱区間Taに達するまでのPLLゲイン切替信号GCがLレベルの期間では、位相誤差信号Compに対して低倍率で乗算を行なう。その結果、位相誤差信号Vcomp(LPF入力信号)の振幅が小さい。このように、位相同期部200が動作中で外乱が発生していないときには、位相同期の動作を安定させるためにPLLゲインを下げて、エラーレートの改善を図っている。
【0088】
その後、外乱区間Taに入り、PLLゲイン切替信号GCがHレベルの期間になると、ゲイン乗算部205は、位相誤差信号Compに対して高倍率で乗算を行なう。その結果、位相誤差信号Vcomp(LPF入力信号)の振幅が大きくなる。このため、位相同期の再収束区間Tbを短縮できるようになる。キャプチャ時間の短縮を図ることができる。
【0089】
位相同期が収束した再収束区間Tb以後のPLLゲイン切替信号GCがLレベルの期間では、ゲイン乗算部205は、位相誤差信号Compに対して低倍率で乗算を行なう。その結果、位相誤差信号Vcomp(LPF入力信号)の振幅が小さくなり、エラーレートの改善を図ることができる。外乱発生後に、PLLの再収束時間を短くでき、その結果データエラーの区間が減少することで再生性能が向上する。また、PLLゲインを下げると、いわゆるPLLのキャプチャレンジが減少するため、PLLの定常状態でのゲインでは外乱発生後にPLLが収束できず、ロックが外れてしまう場合もあるが、第1実施形態の仕組みでは、外乱を検知するとPLLゲインを上げるため、キャプチャレンジが確保され、PLLが収束し易くなる。
【0090】
このように、第1実施形態の仕組みでは、PLLがロックしているときには位相同期の動作を安定させるためにPLLゲインを下げておき、外乱によりPLLのロックが不安定になると、PLLゲインを上げることで、位相同期が収束するまでの時間を短縮でき、その後PLLがロックしたら再度PLLゲインを下げる。フレームシンクFSに基づき外乱区間Taを検出し、この検出結果に基づくRF品質信号RQに従ってPLLゲインを自動制御することで、キャプチャ時間の短縮とエラーレートの改善を実現できる。RF品質信号RQやPLLゲイン切替信号GCはフレームシンクFS単位でL,Hが切り替えられるので、フレームシンクFS単位でPLLゲインを制御でき、PLLのロック状態やアンロック状態の判定と、その判定結果に基づくPLLゲインの自動制御を迅速に行なうことができる。
【0091】
第1実施形態の仕組みは、メディアから信号を再生する仕組みへのPLLの適用の場合、PLLのロック判定が簡単にできる利点がある。加えて、フレームシンクFSを用いる方法では、振幅に依存するような誤差信号を使用していないため、入力RFの振幅依存性がないという利点がある。PLLの状態が悪いことを精度よく検出でき、PLLのゲイン切替えを行なうことで、外乱からの迅速なPLLの復帰を実現でき、なおかつ、PLLが安定している場合には意図しないゲイン切替えが起こらないような装置が実現される。
【0092】
これに対してたとえば、位相誤差検出やシーケンスアンプリチュードマージン(Sequenced Amplitude Margin:SAM)値などのエラーレートに相関した値などの誤差情報を用いる、もしくはそれを積分した後に閾値でPLLの状態を検出する方法では、外乱により、RF振幅が変動した場合に、検出漏れや誤検出になる場合がある。
【0093】
なお、第1実施形態において、RF品質信号RQの生成時、フレームシンク間隔の検出方法には前述の方法だけでなく、様々な変形が考えられる。たとえば、複数のフレームシンクFSが入る一定区間内で、一定数以上のフレームシンクFSが見つかる場合にRF品質信号RQをH、そうでない場合にLにする方法を採ってもよい。
【0094】
この変形例の場合、前述の仕組みと比べた場合、RF品質信号RQの感度が異なる。具体的には、前述の仕組みでは、フレームシンクFSがメディア上の微細な傷などで検出できなかった場合に、PLLが不安定になっていないにも関わらず、RF品質信号RQがローレベルとなり、結果として誤動作してしまう。これに対して本変形例では、一定区間で一定数以上のフレームシンクFSが見つかっていればHレベルとなる。他方、本変形例では、検出に複数のフレームが入る程度の区間が必要なため、PLL不安定の検出遅れは大きくなるのに対して、前述の仕組みではフレームシンクFSごとにRF品質信号RQの更新が可能なため、よりレスポンスが良く、また細かい制御が可能となる。ただし、どちらの仕組みであっても、再生RF信号の振幅依存性はない。
【0095】
<記録・信号処理部の構成例:第2実施形態>
図9は、第2実施形態の記録・信号処理部50B(特にクロック再生部55)の構成例を説明する図である。第2実施形態は、位相同期部200の位相誤差の絶対値の積算量をRF品質信号RQとして用いる点に特徴がある。PLLのロック状態の検出に位相誤差の絶対値の積算量を用いるのである。
【0096】
図示のように、第2実施形態の記録・信号処理部50BのPLL&ADC処理部53は、位相同期部200のループフィルタ部206から出力される発振制御信号CNに基づきRF品質信号RQを生成する品質信号生成部310を備える。第2実施形態の品質信号生成部310は、発振制御信号CN(LPF出力)を2値化し、その2値化結果に基づき位相誤差を判定する位相誤差閾値判定部314を有する。
【0097】
位相誤差閾値判定部314は、ループフィルタ部206からの発振制御信号CN(つまり積算された位相誤差量)の交流中心に対する絶対値が、所定の閾値Th以上となったどうかで2値化を行なう。たとえば、位相誤差閾値判定部314は、発振制御信号CNの交流中心に対してプラス側の閾値Th(+)とマイナス側の閾値Th(−)を設定し、発振制御信号CNが閾値Th(+)を超えた場合や閾値Th(−)を下回った場合に2値化位相誤差信号Comp2をアクティブHにする。そして、第2実施形態の品質信号生成部310は、位相誤差閾値判定部314で生成された2値化位相誤差信号Comp2に基づいてRF品質信号RQを生成する。
【0098】
<動作:第2実施形態>
図10は、第2実施形態の記録・信号処理部50Bの動作を説明する図である。ここで、図10は、第2実施形態の記録・信号処理部50Bにおいて位相同期部200に外乱が入った場合の動作を示す。
【0099】
図10(1)は、ゲイン乗算前の位相誤差信号Compである。この図10(1)で示される位相誤差信号Compは、外乱の位置と位相比較部203の出力がこの例でどうなっているかを示したものであり、こういった入力の場合における第2実施形態の動作について、以下に説明する。
【0100】
図10(2)は、ループフィルタ部206から出力される積算された位相誤差量(つまり発振制御信号CN)を示す。図10(3)は、位相誤差閾値判定部314により生成される2値化位相誤差信号Comp2を示す。位相誤差閾値判定部314は、図10(3)に示すように、図10(2)で示される発振制御信号CNが、その交流中心に対しての閾値Th(+)を超えた場合や閾値Th(−)を下回った場合に、2値化位相誤差信号Comp2をアクティブHにする。つまり、位相誤差閾値判定部314は、積算された位相誤差量の交流中心に対する絶対値が、所定の閾値Th以上となったどうかで2値化を行なう。
【0101】
図10(2)では、説明のために絶対値ではなく、プラス側の閾値Th(+)とマイナス側の閾値Th(−)の絵で示している。閾値Th(+),Th(−)は、位相比較部203やループフィルタ部206の特性に合わせて適切に設定する。このように、外乱のある区間と、PLLが再引き込みを行なう区間の一部では、位相誤差の積算量が通常のPLLロック状態より大きくなることが期待できるので、位相誤差信号CompをRF品質信号RQの生成に用いることができる。
【0102】
たとえば、位相誤差閾値判定部314で生成された2値化位相誤差信号Comp2をそのままRF品質信号RQとして使用することも考えられるが、ここでは2値化位相誤差信号Comp2のばたつき防止対策を採る。たとえば、図10(2)で示される例では、外乱区間Taになると発振制御信号CNは一旦プラス側に大きく変動しプラス側の閾値Th(+)を超え、その後の再収束区間Tbにて引き戻されて反対にマイナス側に大きく変動しマイナス側の閾値Th(−)を超え、さらにその後緩やかに収束する状態になっている。
【0103】
このような場合、図10(3)で示されるように、位相誤差信号Compは、外乱区間TaでアクティブHを発生した後一旦Lレベルとなり、その後再収束区間Tbに入るとアクティブHとなり、その後安定に近づくとLレベルになる。このように、第2実施形態の位相誤差閾値判定部314から出力される2値化位相誤差信号Comp2においては、外乱区間Taから再収束区間Tbに移るときに一旦Lレベルになるばたつき現象が見られる。
【0104】
そこで、第2実施形態の品質信号生成部310は、図10(4)に示すように、位相誤差閾値判定部314から出力された2値化位相誤差信号Comp2における、外乱区間Taから再収束区間Tbに移るときのLレベルの期間も強制的にHレベルにしてRF品質信号RQとする。図示のように、2値化位相誤差信号Comp2に対して立下りのタイミングを伸ばした信号をRF品質信号RQとする。立下りのタイミングを伸ばす方法としては、たとえば、2値化位相誤差信号Comp2の立下りからタイマ回路などで一定時間数える方法などがある。ここでは一定のタイマ時間Ttを実線の矢印で示している。
【0105】
品質信号生成部310は、第1実施形態と同様に、このようにして生成したRF品質信号RQをPLL動作シーケンサ300に通知する。図10(5)に示すように、PLL動作シーケンサ300は、このRF品質信号RQをそのままPLLゲイン切替信号GCに用いる。以下、第1実施形態と同様であり、ゲイン乗算部205は、PLLゲイン切替信号GCがLレベルの期間では位相誤差信号Compに対して低倍率で乗算を行ない、PLLゲイン切替信号GCがHレベルの期間では位相誤差信号Compに対して高倍率で乗算を行なう。
【0106】
以上の処理の結果、図10(5)に示すゲイン乗算後のLPF出力から分かるように、第2実施形態においても、外乱発生時と外乱復帰時にPLLゲインを切り替えることができる。PLLがロックしているときには位相同期の動作を安定させるためにPLLゲインを下げておき、外乱によりPLLのロックが不安定になると、PLLゲインを上げることで、位相同期が収束するまでの時間を短縮でき、その後PLLがロックしたら再度PLLゲインを下げる。
【0107】
第2実施形態では、位相同期部200の位相誤差の絶対値の積算量に基づき外乱区間Taを検出し、この検出結果に基づくRF品質信号RQに従ってPLLゲインを自動制御することで、キャプチャ時間の短縮とエラーレートの改善を実現できる。RF品質信号RQやPLLゲイン切替信号GCは位相誤差の絶対値の積算量が所定の閾値を超えるか否かでL,Hが切り替えられる。
【0108】
第2実施形態の仕組みは、ループフィルタ出力を2値化するので、一般的な位相同期回路に適用でき、その適用分野に制限がない利点がある。
【0109】
特許文献1の仕組みは、「大きなレベルの位相変動成分を含む反転間隔の短い信号と、反転間隔が長く位相変動成分が小である信号とがランダムに混在して入力される信号に位相同期した周波数で発振する発振出力信号を生成する仕組み」との関係で「リミッタ部で制限された範囲内の数の積算値」を求めるようにしており、積算値を求めるまでに相当の処理が必要になってしまう。これに対して、第2実施形態では、「PLLの位相誤差の絶対値の積算量」を求めるようにしている点で相違があり、しかもその取得は簡易である。
【0110】
<記録・信号処理部の構成例:第3実施形態>
図11は、第3実施形態の記録・信号処理部50C(特にPLL&ADC処理部53と2値化処理部120)の構成例を示す図である。図12は、第2比較例の記録・信号処理部50Y(特にPLL&ADC処理部53と2値化処理部120)の構成例を示す図である。
【0111】
第3実施形態は、位相誤差検出をデジタルで行なうデジタルPLLとの組合せにおいて、光ディスクPD(情報記録媒体)から再生される再生RF信号から同期信号を検出してフレームシンクFSを取得する際に、フレームシンクFSの検出間隔を監視し、その監視情報に基づきPLLがロックしているか否かを判定してRF品質信号RQを取得する点に特徴がある。
【0112】
位相誤差検出を「デジタル」で行なうために、第3実施形態は第1実施形態をベースに、第2比較例は第1比較例をベースに、それぞれ以下のような変形を加える。具体的には、位相比較部203への入力をAD変換部54によるAD変換後のデジタルRFデータとし、図のように位相誤差検出を行ない、そこからループフィルタ部206の出力部分までをデジタル処理する。そして、その出力をアナログ信号に戻すDA変換部209を追加し、アナログの発振部201へ入力するという構成にしている。
【0113】
そして、第3実施形態の品質信号生成部310は、フレームシンクFSの検出間隔を監視し、その監視情報に基づきPLLがロックしているか否かを判定してRF品質信号RQを取得する。基本的には第1実施形態と同様である。
【0114】
<動作:第3実施形態>
図13〜図18は、第3実施形態の記録・信号処理部50Cの動作を説明する図である。図13は、一般的なデジタルPLLにおける位相誤差の検出手法を説明する図である。図14は、図13に示した検出手法を採用したときの問題点を説明する図である。図15〜図18はそれぞれ、第1実施形態の動作を説明した図4〜図8(図7は除く)に対応するものである。
【0115】
従来のPLL状態検出信号での問題点は、外乱時に検出精度が悪い場合があることにある。位相誤差検出や、SAMなどの、誤差情報をそのまま使う、もしくはそれを積分した後に、閾値でPLLの状態を判定する方法では、外乱により、RF振幅が変動した場合に、検出漏れや誤検出になる場合がある。
【0116】
具体的には、位相誤差の検出方式によっては、振幅により、位相誤差の出力レベルが振幅に依存する。近年のデジタルPLLでは、位相誤差検出を、ゼロクロス前後のRFデータの加算で行なう方式がある。
【0117】
図13に、この位相誤差検出の例を示す。(a)はAD変換前のアナログRF波形で、PLL&ADC処理部53への入力である。(b)はAD変換後のデジタルRFデータのサンプル点RFsmp (i)で、PLL&ADC処理部53の出力および位相比較器203の入力となる。(c)は本来求めたいRFの位相誤差量PEである。位相誤差量PEを近似的に求める方法として、(d)のように、ゼロクロス部分でのRFsmp の加算により位相誤差PEa を求める。回路上は、位相誤差PEa は位相比較部203の出力となる。
【0118】
なお(d)の説明中のGain_aはループフィルタ駆動部204(ゲイン乗算部205)のゲインではなく、位相比較部203の出力として位相誤差量PEと位相誤差PEa が近くなるようにするためのゲインで、これは設計時に適切な値を選択する。
【0119】
図13(d)に示すような位相誤差PEa を用いる方式は、非常にシンプルで回路を小さく構成することができる。しかし、本方式では、RF再生振幅により位相誤差信号のゲインが連動してしまう難点がある。そのため、外乱により振幅が小さくなった場合に、PLLが外乱を受けていても出力される位相誤差信号が小さいため、位相誤差が閾値に達せず、結果として検出漏れが発生してしまう場合がある。
【0120】
図14にその問題点の一例を示す。図中の(1),(2)は、位相誤差量PEは同じ量であるが、再生RF振幅が異なるためPEvertの値が異なる。その結果、位相誤差PEa も連動し、位相誤差の出力結果に差が出てしまっている。特に、外乱時は再生RF振幅が小さくなる方向に動く場合が多く、また再生RF振幅の変動量も外乱の種類により異なるので、その結果、位相誤差の出力に誤差が生じ、場合によっては位相誤差もしくはその積算がPLL不安定の検出閾値に達せず、結果として検出漏れが発生してしまう。
【0121】
また、エラーレートに相関した値を誤差情報として利用する手法としては、SAMのような、再生RF信号を目標とするPR Classに等化し、目標に対する入力信号の誤差のシーケンスを用いる方法も考えられる(特許文献2参照)。この手法では、再生RF信号はオートゲインコントロール(AGC)で振幅が調整され、かつ適応イコライザなどで所望のPR等化が行なわれていることが前提となっている。しかしながら、外乱により急激な振幅変動が起こる場合には、RF振幅のオートゲインコントロール(AGC)や、適応等化フィルタの応答が追いつかないため、振幅変動部分で誤差が増大し、閾値を超えてしまう問題が発生する。その際、実際にはPLLに対しては外乱になっていない場合でも、PLLのゲインを切り替えてしまい、その結果、PLLのジッタが増え、エラーレートが悪化してしまうことがある。
【0122】
第3実施形態では、これらの難点を解消する手法を実現する。具体的には、図7に示したのと同様にしてフレームシンクFSの検出間隔を監視し、品質信号生成部310はその監視情報からRF品質信号RQを生成し、PLL動作シーケンサ300に通知することで、PLLのゲイン切替えを実現する。フレームシンクFSの検出間隔がずれるということは、フレームシンク間でクロックが所定のサイクル数から増減するということを意味し、それは必ずPLLに外乱が入ることでしか起こり得ないためである。また、振幅に依存するような誤差信号を使用していないため、入力RFの振幅依存性がない。このような仕組みを採ることで、PLLの状態が悪いことが精度良く検出される。この結果に基づき、PLLのゲイン切替えを行なうことで、外乱からの迅速なPLLの復帰が実現される。なおかつ、PLLが安定している場合には、意図しないゲイン切替えは起きない。
【0123】
第3実施形態における動作については、基本的には第1実施形態と概ね同じである。違う点は、位相誤差をデジタル化すると、位相誤差の検出例もすべて修正が必要になる点である。具体的には、第1実施形態では位相誤差量を幅でも示していたが、高さで記述することになるので、第1実施形態の動作を説明する図4〜図8については、それぞれ図15〜図18に示すようになる。
【0124】
たとえば図18においては、位相誤差量を、幅でなく、高さで記述するに当たり、(2)ではゲインを大きくしたことによる増分(ゲインを倍にした前提です)を、分かり易いように太線で示している。
【0125】
以上、本発明について実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は前記実施形態に記載の範囲には限定されない。発明の要旨を逸脱しない範囲で前記実施形態に多様な変更または改良を加えることができ、そのような変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0126】
また、前記の実施形態は、クレーム(請求項)にかかる発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明されている特徴の組合せの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。前述した実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜の組合せにより種々の発明を抽出できる。実施形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、効果が得られる限りにおいて、この幾つかの構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【0127】
たとえば、前記実施形態では、光ディスク装置などの情報記録再生装置への適用例で説明したが、情報記録再生装置としては光ディスク装置に限らず、たとえば、ハードディスク駆動装置などもあり、ハードディスク駆動装置もクロックリカバリ回路や書込みクロック生成回路を使用することがある。このクロックリカバリ回路や書込みクロック生成回路に前記実施形態の仕組みを適用可能である。
【0128】
光ディスク装置やハードディスク駆動装置に限らず、デジタルVTR、デジタルVCRなどの他の記録再生装置において、記録媒体から読み取られた再生信号の位相情報に基づいて再生クロックを生成するクロックリカバリ回路などにも同様に適用可能である。
【0129】
さらに、情報記録再生装置に限らず、たとえば、ツイストペアメタルケーブルやファイバケーブルを媒体とするシリアル通信やチップ間伝送での入出力インタフェースなど、受信信号列のタイミングを再生する技術や、その他の電子機器にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】位相同期回路を具備した電子機器の一例である情報記録再生装置の一実施形態を示すブロック図である。
【図2】第1実施形態のPLL&ADC処理部と2値化処理部の構成例を示す図である。
【図3】第1比較例のPLL&ADC処理部と2値化処理部の構成例を示す図である。
【図4】一般的なアナログPLL動作例を説明する図である。
【図5】アナログPLLの動作開始時のPLLシーケンス動作を説明する図である。
【図6】第1比較例の記録・信号処理部において位相同期部に外乱が入った場合の動作を説明する図である。
【図7】第1実施形態の記録・信号処理部に備えられたフレームシンク処理部によるRF品質信号の生成手法を説明する図である。
【図8】第1実施形態の記録・信号処理部において位相同期部に外乱が入った場合の動作を説明する図である。
【図9】第2実施形態のクロック再生部の構成例を説明する図である。
【図10】第2実施形態の記録・信号処理部の動作を説明する図である。
【図11】第3実施形態のPLL&ADC処理部と2値化処理部の構成例を示す図である。
【図12】第2比較例のPLL&ADC処理部と2値化処理部の構成例を示す図である。
【図13】一般的なデジタルPLLにおける位相誤差の検出手法を説明する図である。
【図14】図13に示した検出手法を採用したときの問題点を説明する図である。
【図15】一般的なデジタルPLL動作例を説明する図である。
【図16】デジタルPLLの動作開始時のPLLシーケンス動作を説明する図である。
【図17】第2比較例の記録・信号処理部において位相同期部に外乱が入った場合の動作を説明する図である。
【図18】第3実施形態の記録・信号処理部において位相同期部に外乱が入った場合の動作を説明する図である。
【符号の説明】
【0131】
1…情報記録再生装置、10…スピンドルモータ、110…変調処理部、120…2値化処理部、122…PR等化処理部、124…ビタビ処理部、130…復調処理部、14…光ピックアップ、200…位相同期部、201…発振部、203…位相比較部、204…ループフィルタ駆動部、205…ゲイン乗算部、206…ループフィルタ部、208…DA変換部、3…ホスト装置、30…スピンドルモータ制御部、300…PLL動作シーケンサ(ゲイン制御部)、310…品質信号生成部、312…フレームシンク処理部、314…位相誤差閾値判定部、40…ピックアップ制御部、50…記録・再生信号処理部、52…RF増幅部、53…PLL&ADC処理部、54…AD変換部、55…クロック再生部、56…デジタル信号処理部、57…記録電流制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体から再生される再生信号と他方の信号の位相差を検出する位相検出部と、
前記位相検出部で検出された位相差の情報を所定倍にする増幅部と、
前記増幅部から出力された位相差の情報を積算して発振制御信号を生成するループフィルタ部と、
前記発振制御信号に応じた周波数の発振出力信号を前記他方の信号として生成する発振部と、
前記再生信号から同期信号を検出してフレーム同期信号を取得し、この検出・取得の結果に基づいて位相同期ループがロックしているか否かを示す品質信号を生成する品質信号生成部と、
前記品質信号生成部で生成された品質信号に基づいて、前記増幅部における前記所定倍を制御するゲイン制御部と
を備えた位相同期回路。
【請求項2】
前記品質信号生成部は、前記フレーム同期信号の検出間隔を監視し、その監視結果に基づき前記品質信号を生成する
請求項1に記載の位相同期回路。
【請求項3】
アナログの前記再生信号をデジタルデータに変換するAD変換部と、
前記ループフィルタ部から出力されるデジタルの発振出力信号をアナログ信号に変換して前記発振部に供給するDA変換部と、
をさらに備え、
前記位相検出部は前記AD変換部により変換されたデジタルの再生信号と前記他方の信号の位相差を検出する
請求項1または2に記載の位相同期回路。
【請求項4】
記録媒体から再生信号を2つの信号の内の一方の信号として取得する信号処理部と、
前記2つの信号の位相差を検出する位相検出部と、
前記位相検出部で検出された位相差の情報を所定倍にする増幅部と、
前記増幅部から出力された位相差の情報を積算して発振制御信号を生成するループフィルタ部と、
前記発振制御信号に応じた周波数の発振出力信号を前記他方の信号として生成する発振部と、
前記信号処理部により取得される前記再生信号から同期信号を検出してフレーム同期信号を取得し、この検出・取得の結果に基づいて位相同期ループがロックしているか否かを示す品質信号を生成する品質信号生成部と、
前記品質信号生成部で生成された品質信号に基づいて、前記増幅部における前記所定倍を制御するゲイン制御部と
を備えた情報再生装置。
【請求項5】
2つの信号の位相差を検出する位相検出部と、
前記位相検出部で検出された位相差の情報を所定倍にする増幅部と、
前記増幅部から出力された位相差の情報を積算して発振制御信号を生成するループフィルタ部と、
前記発振制御信号に応じた周波数の発振出力信号を前記2つの信号の内の他方の信号として生成する発振部と、
前記ループフィルタ部から出力される前記発振制御信号と所定の閾値の大小を判定し、この判定結果に基づいて位相同期ループがロックしているか否かを示す品質信号を生成する品質信号生成部と、
前記品質信号生成部で生成された品質信号に基づいて、前記増幅部における前記所定倍を制御するゲイン制御部と
を備えた位相同期回路。
【請求項6】
2つの信号の内の一方の信号を取得する信号処理部と、
前記2つの信号の位相差を検出する位相検出部と、
前記位相検出部で検出された位相差の情報を所定倍にする増幅部と、
前記増幅部から出力された位相差の情報を積算して発振制御信号を生成するループフィルタ部と、
前記発振制御信号に応じた周波数の発振出力信号を前記2つの信号の内の他方の信号として生成する発振部と、
前記ループフィルタ部から出力される発振制御信号と所定の閾値の大小を判定し、この判定結果に基づいて位相同期ループがロックしているか否かを示す品質信号を生成する品質信号生成部と、
前記品質信号生成部で生成された品質信号に基づいて、前記増幅部における前記所定倍を制御するゲイン制御部と
を備えた電子機器。
【請求項7】
2つの信号の位相差を位相検出部で検出し、
前記位相検出部で検出された位相差の情報を増幅部により所定倍にし、
前記増幅部から出力された位相差の情報をループフィルタ部により積算して発振制御信号を生成し、
前記発振制御信号に応じた周波数の発振出力信号を前記2つの信号の内の他方の信号として発振部により生成し、
前記2つの信号の内の一方の信号である記録媒体から再生される再生信号から同期信号を検出してフレーム同期信号を取得したときの検出・取得の結果、前記位相検出部で検出された位相差の絶対値の積算量、の何れかを評価指標として測定して、一定区間での当該評価指標の大小を判定し、この判定結果に基づいて、前記増幅部における前記所定倍を制御する
位相同期回路のゲイン制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2010−41639(P2010−41639A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−205324(P2008−205324)
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】