説明

位置推定システムおよび位置推定方法

【課題】屋内や地下街等の閉空間において、簡易で経済的な位置検出を実現させる。
【解決手段】無変調の電波を発信する移動端末1と、移動端末1から送信される電波を同時に受信する複数の固定受信装置2〜4と、複数の固定受信装置2〜4のうちの任意の一対の固定受信装置間に配置され、当該一対の固定受信装置において、移動端末1の移動と共に生じる電波の相対位相差を比較測定する位相比較器5,6と、位相比較器5,6に接続され、位相比較器5,6によって比較された電波の相対位相差に基づいて当該電波の到来方向を推定し、その結果から前記移動端末の位置を算出する位置算出器7とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話等の移動端末を用いて到来波方向を推定し、その位置を推定する位置推定システムおよび位置推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電波を用いた位置推定で最も普及しているのはGPS(Global Positioning System)であり、GPSは、24個の衛星で世界中をカバーしている。ただし、屋外利用に限られ、また、GPS端末所有者の位置を他が知ることは、通信手段を持たない限り、不可能である。
このため、無線LANを用いて、電波の伝搬遅延から距離を求め、3角測量の原理で位置を検出する技術がある。この技術は、屋内でも利用可能であるが、特殊なシステム構成を採っており、コストが高い。
【0003】
また、RFID(Radio Frequency IDentification)を用い、近接して電波を受信し、その位置を知る方法が検討されている。この方法によれば、離散しているポイントにおける測位だけなら有効であるが、線や面状の測位では膨大なRFIDが必要となることが分かっている。
また、特許文献1には、2つの異なる位置からなる2つの対に関して個別に、2つの異なる位置に送信側から到来する波動信号の位相の差を計測することにより、構成が大幅に複雑化することなく、確度高く安定にかつ安価にその送信端の位置を推定できる位置推定装置が記載され、特許文献2には、方向推定装置は指向性のある送信波を放射し、受信した送信波の信号レベルを比較することにより、障害物がある場所でも利用可能な方向推定システム並びに方向推定装置及び方向推定端末が記載されている。
【特許文献1】特開2004−333252号公報
【特許文献2】特開2005−318393号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した特許文献1に記載された装置では、携帯電話のような受信アンテナが一本しか配置できないような小型の端末においては、受信機の形状が小さいため、物理的に複数のアンテナを配置することは困難であり、従って、電波の到来方向およびその位置を推定することはできなかった。
また、MUSIC(Multiple Signal Classificatio)法のように,信号の周波数成分を計算するために、信号または信号の相関行列からSchmidtの固有空間解析法を使って、擬似スペクトルを計算するような、処理が困難なアルゴリズムを適用する必要があり、簡単にその位置を推定することは困難であった。
【0005】
また、特許文献2に記載された装置では、受信機障害物等がある場所でも利用可能なだけで、さらに密閉された屋内や地下街等の閉空間においては、コストが高くなるか、別個の通信手段を必要とするなど、GPS端末所有者の位置を他が知ることは困難であった。
本発明は、上述した事情を鑑みてなされたものであって、携帯電話機など、受信アンテナが一本しか配置できないような小型の端末にも適用可能で、屋内や地下街等の閉空間において、簡易で経済的な位置検出を実現させることのできる到来波方向に基づく位置推定システムおよび位置推定方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1記載の位置推定システムは、
電波を送信する送信アンテナを有する移動端末と、
前記移動端末から送信される電波を同時に受信する複数の固定受信装置と、
前記複数の固定受信装置のうちの任意の一対の固定受信装置間に配置され、前記移動端末の移動と共に生じる電波の相対位相差を比較測定する複数の位相比較器と、
前記位相比較器に接続され、前記位相比較器によって比較された電波の相対位相差に基づいて当該電波の到来方向を推定し、その結果から前記移動端末の位置を算出する位置算出器と、
を備えたことを特徴としている。
【0007】
この構成によれば、屋内の位置検出において、固定受信装置に複数のアンテナが必要ないため、低コストでインフラを形成することができるという効果が得られる。
また、請求項2記載の発明は、請求項1に記載の位置推定システムにおいて、前記位置算出器は、前記移動端末の移動後の位置を、前記複数の固定受信装置間の位相差の移動前後における相対位相差の変化に基づいて推定することを特徴としている。
この構成によれば、前記移動端末の移動後の位置を、前記複数の固定受信装置間の位相差の移動前後における相対位相差を簡単な変換式で距離に変換してその位置を推定できるという効果が得られる。
【0008】
また、請求項3記載の発明は、請求項1に記載の位置推定システムにおいて、前記複数の固定受信装置は4台であり、前記移動端末が移動した前後における固定受信装置間の相対位相差に基づいて描かれる3つの等位相差曲線の交点が一致する条件から前記移動端末の絶対位置を求めることを特徴としている。
この構成によれば、移動端末の初期位置が分からない場合でも、移動端末の絶対位置を求めることができるという効果が得られる。
【0009】
また、請求項4記載の発明は、請求項3に記載の位置推定システムにおいて、前記位置算出器は、前記移動端末から各固定受信装置までの波数を未知数とし、推定した移動端末の位置と該未知数とから連立方程式をたて、移動する毎に求めた波数から3つの交点を抽出し、それらの差が最小になる条件を満たす波数を見出すことにより前記移動端末の絶対位置を推定することを特徴としている。
この構成によれば、移動端末の位置を簡単な連立方程式により絶対位置として求めることができるという効果が得られる。
【0010】
また、請求項5記載の発明は、請求項1に記載の位置推定システムにおいて、前記位置算出器は、前記固定受信装置間の位相差と前記移動端末の位置との関係を示すテーブルと、前記位相比較器により測定した位相差と前記テーブルに示された位相差とを照合する照合手段とを備え、それらが最も一致している位置を移動端末の位置として推定することを特徴としている。
この構成によれば、テーブルを用いるので、計算処理が早く、かつ、高精度に位置を推定することができるという効果が得られる。
【0011】
また、請求項6記載の発明は、請求項1に記載の位置推定システムにおいて、前記移動端末は、前記送信アンテナから無変調の電波を送信することを特徴としている。
この構成によれば、簡単なシステムで移動端末の位置を推定することができるという効果が得られる。
また、請求項7記載の発明は、請求項1に記載の位置推定システムにおいて、前記移動端末は、前記送信アンテナから携帯電話の変調波の電波を送信することを特徴としている。
この構成によれば、携帯電話等の電波を用いて簡易にその位置を推定することができるという効果が得られる。
【0012】
また、請求項8記載の位置推定システムは、
電波を発振して分割することにより振り分ける発振分割装置と、
前記発振分割装置により振り分けられた電波を空間に放射する複数の固定送信装置と、
前記固定送信装置により送信された電波を受信した後分離し、それぞれの相対位相差または位相差を検出して、その変化量から自らの位置を推定する移動端末と、
を備えたことを特徴としている。
この構成によれば、移動端末自らがその位置を推定することができるという効果が得られる。
【0013】
また、請求項9記載の位置推定方法は、
移動端末から電波を送信する送信ステップと、
前記移動端末から送信される電波を複数の固定受信装置を用いて同時に受信する受信ステップと、
前記複数の固定受信装置のうちの任意の一対の固定受信装置間に配置された複数の位相比較器を用いて、前記移動端末の移動と共に生じる電波の相対位相差を比較測定する比較ステップと、
前記位相比較器に接続された位置算出器を用いて、前記位相比較器によって比較された電波の相対位相差に基づいて当該電波の到来方向を推定し、その結果から前記移動端末の位置を算出する算出ステップと、
を含むことを特徴としている。
この構成によれば、屋内の位置検出において、固定受信装置に複数のアンテナが必要ないため、低コストでインフラを形成することができるという効果が得られる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明の位置推定システムおよび位置推定方法にあっては、無変調波の相対位相変化、位相差を測定することによって、位置を特定するもので、非常に簡易な装置で位置推定を行うことができる。
また、屋内の位置検出は、対象となる全てのエリアに測定装置を配備せねばならないため、膨大なインフラが必要となることが大きな問題であるが、本発明を適用することにより、低コストでインフラを形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の位置推定システムの好適な実施形態について、詳細に説明する。
[第1実施形態]
図1は、本発明の位置推定システムの基本的な構成例を示す概略図である。
この位置推定システム10は、移動端末1と、複数の固定受信装置2〜4と、位相比較器5,6と、位置算出器7とを備える。
移動端末1は、携帯電話機、車載機、モバイル等、一般の移動機のいずれにも適用できる。
固定受信装置2〜4は、移動端末1から送信される電波を、同時に同一内容の受信を行う無線通信装置である。
【0016】
位相比較器5,6は、各固定受信装置2〜4が受信した電波の位相差を測定し比較する。ここでは、位相比較器5が、固定受信装置2と固定受信装置3との間の位相を比較し、位相比較器6が、固定受信装置3と固定受信装置4との間の位相を比較する。
位置算出器7は、位相比較器5,6と接続され、位相比較器5,6によって比較された相対位相差に基づいて移動端末1の位置を算出する装置である。
【0017】
図1において、移動端末1から送信された電波は、固定受信装置2〜4で受信され、位相比較器5,6において各固定受信装置が受信した電波の位相差を測定する。つまり、移動端末1の移動前に固定受信装置2で受信した電波の位相をφ2(t1)、固定受信装置3で受信した電波の位相をφ3(t1)とすると、このときの位相比較器5が検出する位相差は、φ2(t1)−φ3(t1)である。また、移動端末1の移動後に固定受信装置2で受信した電波の位相をφ2(t2)、固定受信装置3で受信した電波の位相をφ3(t2)とすると、このときの位相比較器5が検出する位相差は、φ2(t2)−φ3(t2)である。
【0018】
ここで、移動端末1の移動前後での位相差の変化を相対位相変化Δφと定義すると、
Δφ={φ2(t1)−φ3(t1)}−{φ2(t2)−φ3(t2)}
と表すことができる。この相対位相変化Δφを2π(radian)で割って波長λをかけると、距離変化Δdは、
Δd=Δφ×λ/2π
となる。例えば、固定受信装置2と固定受信装置3とで位相を測定している場合、この距離変化Δdは、移動端末1が固定受信装置2から遠ざかった距離と、固定受信装置3に近づいた距離との差に相当する。
【0019】
次に、本構成を用いて移動端末の位置を推定する方法を以下に述べる。
移動端末1の初期位置が既知である場合において、移動端末1から固定受信装置2〜4の距離変化Δdを求め、移動端末1の位置を測定する方法について、図2を参照して、以下に述べる。
図2は、双曲線の交点から位置を推定する方法を示す図である。
移動端末1の移動前の位置(初期位置)において、移動端末1から固定受信装置2までの距離と、移動端末1から固定受信装置3までの距離との差xに、移動端末1の移動後の測定によって得られた距離変化Δdを加えると、移動後の移動端末1から固定受信装置2までの距離と、移動端末1から固定受信装置3までの距離の差(x+Δd)が求まる。この距離の差(x+Δd)より、移動端末1が存在する位置を含む双曲線101が既定される。同様の操作を固定受信装置4と固定受信装置2より双曲線102、および固定受信装置4と固定受信装置3より双曲線103を既定することにより、図2に示すように、3つの双曲線が新たに既定される。
【0020】
これらの双曲線の交点Pが、推定した移動後の移動端末1の位置である。なお、2つの双曲線でも交点は求まるが、図2に示すように交点が複数存在する場合がある。すなわち、双曲線101と双曲線102との交点は、P,Qの2点となる。従って、位置を正しく求めるためには、3つの双曲線が必要となることが分かる。
以上説明したように、移動端末1の初期位置が既知の場合は、3台の固定受信装置2〜4を用いて、上記操作を繰り返すことにより移動端末1の軌跡を求めることができる。
【0021】
[第2実施形態]
次に、図3を参照して、移動端末の絶対位置を求める方法について述べる。
第1実施形態の方法は、初期位置が必要であったが、本方法を適用すれば、初期位置の情報は不要である。
図3は、本発明の第2実施形態に係る位置推定システムの基本原理を示す概略図である。
本実施形態では、移動端末1の絶対位置を求めるために、4台の固定受信装置が必要となる。すなわち、3台の固定受信装置2〜4に対して距離差を計算している場合において、仮に全ての固定受信装置の距離差が全く同一になってしまう移動端末の位置が存在してしまう場合には、移動端末の位置を推定することができないため、4台の固定受信装置が必要となる。
【0022】
ここで、移動端末1の絶対位置を求めるために4台の固定受信装置が必要な理由について以下に詳細に説明する。
同図において、R(t1)は、時刻t1における移動端末の位置(初期位置)、R(t2)は、時刻t2における移動端末の位置(移動後の位置)とする。
ここで、「固定受信装置AとR(t1)との間の距離=固定受信装置BとR(t1)との間の距離=x」と定義すると、時刻変化に伴う固定受信装置と移動端末の距離の差は、以下の通りになる。
・「R(t1)からR(t2)へ移動端末が移動したときの固定受信装置Aに対する距離の変化」と、「R(t1)からR(t2)へ移動端末が移動したときの固定受信装置Bに対する距離の変化」との差は、
【0023】
【数1】

【0024】
・「R(t1)からR(t2)へ移動端末が移動したときの固定受信装置Bに対する距離の変化」と、「R(t1)からR(t2)へ移動端末が移動したときの固定受信装置Cに対する距離の変化」との差は、
【0025】
【数2】

【0026】
・「R(t1)」からR(t2)へ移動端末が移動したときの固定受信装置Cに対する距離の変化」と、「R(t1)からR(t2)へ移動端末が移動したときの固定受信装置Aに対する距離の変化」との差は、
【0027】
【数3】

【0028】
となる。
一方、第2実施形態では、時刻t1における移動端末の位置(初期位置)が未知であるので、S(t1´)の位置が初期位置である可能性がある。
ここで、図3において、S(t1´)を、時刻t1における移動端末の位置(初期位置)、S(t2´)を、時刻t2における移動端末の位置(移動後の位置)とし、S(t2´)と固定受信装置Cとの間の距離をa´、S(t1´)と固定受信装置Cとの間の距離をb´とし、かつ、
固定受信装置AとS(t1´)との距離=x−y、
固定受信装置BとS(t1´)との距離=x+y、
固定受信装置BとS(t2´)との距離=z、
固定受信装置AとS(t2´)との距離=z2と定義する。
【0029】
このとき、時刻変化に伴う固定受信装置と移動端末の距離の差は、以下の通りとなる。
・「S(t1´)からS(t2´)へ移動端末が移動したときの固定受信装置A に対する距離の変化」と、「S(t1´)からS(t2´)へ移動端末が移動 したときの固定受信装置Bに対する距離の変化」との差は、
={z2−(x−y)}−{z−(x+y)}=2y−z+z2…(4)
・「S(t1´)からS(t2´)へ移動端末が移動したときの固定受信装置B に対する距離の変化」と、「S(t1´)からS(t2´)へ移動端末が移動 したときの固定受信装置Cに対する距離の変化」との差は、
={z−(x+y)}−(a´−b´)=−x−y+z−a´+b´…(5)
・「S(t1´)からS(t2´)へ移動端末が移動したときの固定受信装置C に対する距離の変化」と、「S(t1´)からS(t2´)へ移動端末が移動 したときの固定受信装置Aに対する距離の変化」との差は、
=(a´−b´)−{z2−(x−y)}=x−y−z2+a´−b´…(6)
となる。以上の式において、
式(1)=式(4)、すなわち、
【0030】
【数4】

【0031】
式(2)=式(5)、すなわち、
【0032】
【数5】

【0033】
式(3)=式(6)、すなわち、
【0034】
【数6】

【0035】
となってしまう条件が仮に存在してしまう場合には、時刻t1における2個の移動端末の位置(R(t1)とS(t1))のどちらが初期位置であるかを判断することができない。つまり、3台の固定受信装置A,B,Cでは、時刻t1の位置を判断することができないということである。
そこで、固定受信装置がもう1台増えると、そのどちらかの初期位置であるかを判定することができる。
【0036】
この場合には、まず、移動端末1の初期位置を仮定し、その初期位置から移動後に求まる各固定受信装置間の相対位相変化により、距離の差(x+Δd)を求め、3つの双曲線を描く。仮定した初期位置が正しければ、その交点が一致する。一致しない場合には、3〜6つの交点が現れる。これらの交点のうち、3つの交点を抽出し、それらの距離の差を評価関数としてその差が最小になるように収束させ、この評価関数が最小のときの移動端末の位置が絶対位置となる。このとき、3つより多くの交点が現れた場合には、3つの交点を抽出する方法として、任意に3つの交点を抽出した後、該3点を頂点とする三角形の面積を計算し、その面積が最小となる交点を抽出する方法をとればよい。
以上の理由により、初期位置がない場合、最低4台の固定受信装置が必要である。
【0037】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態について説明する。
本実施形態は、位置をより高精度に求める方法である。第1実施形態および第2実施形態の方法では、移動端末から各固定受信装置の距離変化Δdを相対位相変化Δφにより求めていたが、本実施形態では、位相差そのものの値には特に着目していない。ここで、位相差そのものの値に注目すると、移動端末1から固定受信装置2〜4への距離Dは、
D=(測定された位相差+2πn)×λ/2π(nは整数)
である。もし、nが求められれば、移動端末から固定受信装置への距離の誤差は、波長以下(位相差の測定誤差×λ/2π)になり、非常に正確な距離を求めることができる。
【0038】
距離Dからnを逆算するとき、位相差を正確に測定でき、正確な距離Dが推定できれば、正しいnが求まる。もし、位相差の正確な測定が可能だとして、nが誤った値ならば、各固定受信装置からの距離Dに描いた円(以下、距離円)が1点で交わらない。一方、推定されたnの前後の値(例えばn+1、n−1等)をnの代わりに用いて距離を推定し、その結果、各固定受信装置からの距離円が1点で交わるようになれば、その値が正しい。しかしながら、測定には、常に誤差が含まれているから、必ずしもこのような手順で正しいnが得られるとは限らない。そこで、移動端末の移動と共にこの最適のnを探す操作を繰り返す。nが正しければ、各固定受信装置からの距離円が常にほぼ1点で交わるが、nが誤っているときは、1点に収束しない。この比較により最も正しいnの値を見出すことができる。例えば各固定受信装置からの距離が1点に収束する度合いに閾値(例えば、推定位置までの固定受信装置からの距離推定誤差が常に1/4波長以下など)を設けることでnを求める。一旦、nが求まれば、その後の位置精度は、波長以下(位相差の測定誤差×λ/2π)となる。例えば、2、45GHzで位相の測定誤差がπ/4であったとすると、位置誤差は3cm程度となる。上記方法の中でnを使用した距離Dの推定方法は、初期位置が既知でも有効である。初期位置が既知の場合には、nが既に与えられているので、移動に伴う位相の変化に応じて、例えば1周期位相が変化したら、nに1を加える(引く)というように追随させていけば、正確な測定が維持できる。
【0039】
[第4実施形態]
次に、本発明の第4実施形態について説明する。
本実施形態は、ユークリッド距離を用いて位置を推定する方法である。最初にデータベースとなるテーブルが必要であるが、テーブルを作成した後は、計算処理が早いという特徴がある。図4にデータベースの例を示す。位置に対応した要素番号として、N×M(N,Mは整数)に分割し、分割した要素毎(合計としてN×Mページ測定範囲)のテーブルを作成する。ここでは、(N,M)という位置に対して、要素番号(1,1)、(1,2)、(2,1)を例としてあげている。テーブルの縦軸は、進行方向の方位角度(0〜360度をL等分:Lは整数)を表し、横軸は、それぞれの固定受信装置間で測定される相対位相変化φが記入されている。例えば、このテーブルでは、要素番号(1,1)の場合、進行方向の方位角度0°であれば、固定受信装置2,3間では300°、固定受信装置2,4間では200°、固定受信装置3,4間では100°である。なお、このときの移動端末の移動量は単位長(例えば1mなど)としておく。
【0040】
実測では、まず、移動端末の移動前の位置(要素)に対応したページのテーブルを用意しておく。次に、移動端末の移動後に各固定受信装置間で測定された相対位相変化φを正規化する。例えば、各相対位相変化φの絶対値の総和で、それぞれの相対位相変化φを割る。同様にして、テーブル上の相対位相変化φも正規化する。次に、これらの正規化されたテーブル上の値と実測値の、ユークリッド距離(2つの値の差をとって二乗し、その和の平方根を求める)を算出する。ユークリッド距離が最小となる方向が、移動端末が進んだ方向である。移動距離は、実測の位相量とテーブル上の位相量との比をとり、単位長をかけることにより求まる。
【0041】
[第5実施形態]
図5は、本発明の第5実施形態の基本的構成を示す図である。
本実施形態では、固定送信装置12〜14と、電波を振り分ける発振・分割装置15とを用い、移動端末11が自ら位置を測定する。
固定送信装置12〜14は、移動端末11に対して同時に同一内容の送信を行う無線通信装置である。
発振・分割装置15で振り分けられた電波は、各固定送信装置12、13、14より空間に放射される。移動端末11は、それらの電波を受信後分離し、それぞれの相対位相差または位相差を検出して、その変化量から位置を推定する。このように、固定送信装置12〜14で送信し、移動端末1で受信することで、移動端末11は自らの位置を知ることができる。
【0042】
[変形例]
次に、本発明の変形例について説明する。
上述した実施形態においては、無変調波を用いる例について説明したが、変調波を用いる方法では、例えば携帯電話の電波を利用することが可能で、本測位のための特別な装置を要しないことが特徴である。
以上、本発明の好適な実施形態により本発明を説明した。ここでは特定の具体例を示して本発明を説明したが、特許請求の範囲に定義された本発明の広範な趣旨および範囲から逸脱することなく、これら具体例にさまざまな修正および変更を加えることができることは明らかである。すなわち、具体例の詳細および添付の図面により本発明が限定されるものと解釈してはならない。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】第1実施形態に係る位置推定システムの基本的な構成例を示す概略図である。
【図2】双曲線の交点から位置を推定する図である。
【図3】第2実施形態に係る位置推定システムにおいて4台の固定受信装置が必要な理由を示す概略図である。
【図4】第4実施形態に係る位置推定システムにおいて移動方向を推定する目的でユークリッド距離を算出するためのテーブルの例を示す図である。
【図5】第5実施形態に係る位置推定システムにおいて固定側を発振とし、移動端末を受信とした構成例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0044】
1,11…移動端末、2,3,4…固定受信装置、5,6…位相比較器、7…位置算出器、10…位置推定システム、12,13,14…固定送信装置、15…発振・分割装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波を送信する送信アンテナを有する移動端末と、
前記移動端末から送信される電波を同時に受信する複数の固定受信装置と、
前記複数の固定受信装置のうちの任意の一対の固定受信装置間に配置され、前記移動端末の移動と共に生じる電波の相対位相差を比較測定する複数の位相比較器と、
前記位相比較器に接続され、前記位相比較器によって比較された電波の相対位相差に基づいて当該電波の到来方向を推定し、その結果から前記移動端末の位置を算出する位置算出器と、
を備えたことを特徴とする位置推定システム。
【請求項2】
請求項1に記載の位置推定システムにおいて、前記位置算出器は、前記移動端末の移動後の位置を、前記複数の固定受信装置間の位相差の移動前後における相対位相差の変化に基づいて推定することを特徴とする位置推定システム。
【請求項3】
請求項1に記載の位置推定システムにおいて、前記複数の固定受信装置は4台であり、前記移動端末が移動した前後における固定受信装置間の相対位相差に基づいて描かれる3つの等位相差曲線の交点が一致する条件から前記移動端末の絶対位置を求めることを特徴とする位置推定システム。
【請求項4】
請求項3に記載の位置推定システムにおいて、前記位置算出器は、前記移動端末から各固定受信装置までの波数を未知数とし、推定した移動端末の位置と該未知数とから連立方程式をたて、移動する毎に求めた波数から3つの交点を抽出し、それらの差が最小になる条件を満たす波数を見出すことにより前記移動端末の絶対位置を推定することを特徴とする位置推定システム。
【請求項5】
請求項1に記載の位置推定システムにおいて、前記位置算出器は、前記固定受信装置間の位相差と前記移動端末の位置との関係を示すテーブルと、前記位相比較器により測定した位相差と前記テーブルに示された位相差とを照合する照合手段とを備え、それらが最も一致している位置を移動端末の位置として推定することを特徴とする位置推定システム。
【請求項6】
請求項1に記載の位置推定システムにおいて、前記移動端末は、前記送信アンテナから無変調の電波を送信することを特徴とする位置推定システム。
【請求項7】
請求項1に記載の位置推定システムにおいて、前記移動端末は、前記送信アンテナから携帯電話の変調波の電波を送信することを特徴とする位置推定システム。
【請求項8】
電波を発振して分割することにより振り分ける発振分割装置と、
前記発振分割装置により振り分けられた電波を空間に放射する複数の固定送信装置と、
前記固定送信装置により送信された電波を受信した後分離し、それぞれの相対位相差または位相差を検出して、その変化量から自らの位置を推定する移動端末と、
を備えたことを特徴とする位置推定システム。
【請求項9】
移動端末から電波を送信する送信ステップと、
前記移動端末から送信される電波を複数の固定受信装置を用いて同時に受信する受信ステップと、
前記複数の固定受信装置のうちの任意の一対の固定受信装置間に配置された複数の位相比較器を用いて、前記移動端末の移動と共に生じる電波の相対位相差を比較測定する比較ステップと、
前記位相比較器に接続された位置算出器を用いて、前記位相比較器によって比較された電波の相対位相差に基づいて当該電波の到来方向を推定し、その結果から前記移動端末の位置を算出する算出ステップと、
を含むことを特徴とする位置推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−8780(P2008−8780A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−180064(P2006−180064)
【出願日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(504133110)国立大学法人 電気通信大学 (383)
【出願人】(392026693)株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ (5,876)
【Fターム(参考)】