説明

位置決め制御装置及び位置決め制御方法

【課題】位置決め機構内の弾性変形を考慮してより正確に位置決めが可能であるとともに、より短時間に位置決め制御が可能な位置決め制御装置及び位置決め制御方法を提供する。
【解決手段】入力された位置指令信号と現在位置信号とに基づいた速度指令信号を速度制御部に出力する位置制御部と、入力された速度指令信号に基づいたトルク指令信号を電流制御部に出力する速度制御部と、入力されたトルク指令信号と外乱トルク信号とに基づいた制御電流を出力してモータを駆動する電流制御部と、モータの回転数に関する物理量を検出してモータの現在位置信号を出力する検出部と、制御電流とモータの回転数に関する物理量とが入力されて外乱トルク信号を出力する外乱トルク推定部とを備え、外乱トルク信号が入力されて位置補正信号を出力する位置補正部を備え、位置決め制御の開始位置から目標位置に到達するまで位置補正信号を位置制御部の入力に追加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業用ロボット等に用いる位置決め制御装置及び位置決め制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、工場の生産ライン等では種々の産業用ロボットが導入されている。
産業用ロボットはサーボモータ等にてアーム等を駆動させて作業を行うため、サーボモータ等の位置決め制御が作業精度と生産性に大きく影響している。
しかし、産業用ロボットは弾性変形(しなり、たわみ等)が発生する場合があり、この場合は弾性変形量に応じて位置決め制御の誤差が大きくなる。
そこで、メカの持つ弾性変形を考慮し、高精度な位置決めを行う位置決め制御装置が提案されている(例えば特許文献1参照)。
特許文献1に記載されている従来の位置決め制御装置は、図8に示す構成を有しており、弾性変形を考慮した位置補正量ΔPrefを出力する位置補正部9wには、外乱推定部7wからの推定外乱Csが入力されている。そして外乱推定部7wには、速度制御部2wからのトルク指令Trefと差分器8wからのモータ速度Vfbが入力されている。
この構成にて従来の位置決め制御装置は、一旦仮の目標位置に到達させ、仮の目標位置に到達した時点で位置決め機構内に残存する弾性変形量を推定して、既に到達している仮の目標位置に弾性変形量を加えた位置を新たな目標位置として位置決め制御を行っている。
【特許文献1】特開2003−303022号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に記載されている従来の位置決め制御装置は、弾性変形が発生していても、一旦仮の目標位置に位置決め制御を行い(最初は弾性変形を無視して位置決め制御を行い)、仮の目標位置に到達させてから、弾性変形量に基づいた補正位置に位置決め制御を行うため、位置決め制御に費やす時間が増加し、生産性が低下する可能性がある。
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、位置決め機構内の弾性変形を考慮してより正確に位置決めが可能であるとともに、より短時間に位置決め制御が可能な位置決め制御装置及び位置決め制御方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するための手段として、本発明の第1発明は、請求項1に記載されたとおりの位置決め制御装置である。
請求項1に記載の位置決め制御装置は、入力された位置指令信号と現在位置信号とに基づいた速度指令信号を速度制御部に出力する位置制御部と、入力された速度指令信号に基づいたトルク指令信号を電流制御部に出力する速度制御部と、入力されたトルク指令信号と外乱トルク信号とに基づいた制御電流を出力してモータを駆動する電流制御部と、モータの回転数に関する物理量を検出して、制御対象(例、モータ)の制御結果上の現在位置を示す現在位置信号を出力する検出部と、電流制御部からモータに出力される制御電流と、モータの回転数に関する物理量とが入力され、外乱トルクを推定して外乱トルク信号を出力する外乱トルク推定部とを備えた位置決め制御装置である。
そして、更に前記外乱トルク信号が入力されて位置補正信号を出力する位置補正部を備え、位置決め制御の開始位置から目標位置に到達するまで位置補正信号を位置制御部の入力に追加する。
【0005】
また、本発明の第2発明は、請求項2に記載されたとおりの位置決め制御装置である。
請求項2に記載の位置決め制御装置は、請求項1に記載の位置決め制御装置であって、位置補正部は、位置決め制御装置で位置決めされる位置決め機構が有する弾性変形に基づいたバネ定数Kfに対して、外乱トルク信号に1/Kfを乗じた位置補正信号を出力する。
【0006】
また、本発明の第3発明は、請求項3に記載されたとおりの位置決め制御方法である。
請求項3に記載の位置決め制御方法は、移動体を支持体上の目標位置に移動させるにあたって、移動体の重力で支持体が弾性変形する場合における位置決め制御方法である。
位置決め制御の開始位置から目標位置に到達するまで、目標位置と移動体の現在位置との位置の差分に基づいて、移動体を移動させる目標トルクを求めて移動体を駆動し、前記目標トルクと移動体が実際に移動した際に検出した実トルクとのトルクの差分を求めるとともに、前記トルクの差分に基づいて目標位置を補正する位置補正量を求め、当該位置補正量を目標位置に加算する。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に記載の位置決め制御装置を用いれば、弾性変形を考慮した位置補正信号を、位置決め制御の開始位置から目標位置に到達するまで常に位置制御部に入力するので、位置決め制御の開始位置から目標位置に到達するまで常に目標位置そのものを補正して位置決め制御を行う。
弾性変形を考慮して目標位置を補正することで、位置決め精度をより向上させることができるとともに、一旦仮の目標位置に到達してから補正位置に移動させる従来技術の動作よりも、より短時間に位置決め制御を行うことができる。
【0008】
また、請求項2に記載の位置決め制御装置によれば、位置補正部の定数を比較的容易に設定することができる。
【0009】
また、請求項3に記載の位置決め制御方法によれば、駆動方法に関わらず(モータに限定されず)、物体を駆動させるために必須であるトルクという抽象化された物理量を用いて位置決め精度をより向上させ、より短時間に位置決め制御が可能であるとともに、種々の駆動方法を用いた位置決め制御装置に適用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明を実施するための最良の形態を図面を用いて説明する。図1は、本発明の位置決め制御装置における制御ブロック図を示している。
●[制御ブロック図(図1)]
図1(A)及び(B)を用いて、本発明の位置決め制御装置における制御ブロック図を説明する。図1(A)は制御ブロック全体の構成を示しており、図1(B)は制御ブロック内における外乱トルク推定部70と位置補正部80の詳細を示している。
【0011】
ノードNaには、位置指令信号Ptgt(目標位置)が加算項で入力されるとともに位置補正信号ΔPtgt(目標位置に対してリアルタイムに求めた、目標位置を補正する位置補正量(後述))が加算項で入力される。
この位置補正信号ΔPtgtを位置指令信号Ptgtに加算項として追加している点、及び位置補正信号ΔPtgtを求める位置補正部80を追加している点、そして位置補正信号ΔPtgtは目標トルクと実際のトルクに基づいて求める点、そして位置補正信号ΔPtgtは位置決め制御の開始位置から目標位置に到達するまで常に演算されて位置指令信号Ptgtを補正する点が特徴である。
なお、位置指令信号Ptgtを求める目標設定部は既存の技術で実現可能であり、図示を省略している。
【0012】
ノードNbにはノードNaからの出力が加算項で入力され、位置検出部66bから出力される現在位置信号Pfbが減算項で入力される。
位置制御部61には、位置指令信号Ptgt(加算項)、現在位置信号Pfb(減算項)、位置補正信号ΔPtgt(加算項)が入力され、速度制御部62に速度指令信号Vtgtを出力する。
速度制御部62には位置制御部61から出力される速度指令信号Vtgtが入力され、ノードNcにトルク指令信号Ttgtを出力する。
ノードNcには速度制御部62から出力されるトルク指令信号Ttgtが加算項で入力され、外乱トルク推定部70から出力される外乱トルク信号Ctが減算項で入力される。
電流制御部63には、ノードNcからの出力(トルク指令信号Ttgt(加算項)と外乱トルク信号Ct(減算項)が入力され、モータ64に制御電流Itgtを出力する。
【0013】
モータ64には電流制御部63が出力した制御電流Itgtが入力され、機械部65(機構部)を駆動する。
回転検出部66aは、例えばモータ64の軸の回転数を検出可能なエンコーダ等であり、モータ64の軸の回転が入力され、回転数に関する物理量(例えば角速度ω)を出力する。そして位置検出部66bは、回転検出部66aの検出値に基づいて制御対象(例、モータ)の制御結果上の現在位置を示す現在位置信号Pfbを出力する。本実施の形態では、回転検出部66aと位置検出部66bとで検出部66を構成している。
外乱トルク推定部70には、電流制御部63から出力される制御電流Itgtと、回転検出部66aから出力されるモータ64の軸の回転数に関する物理量とが入力され、外乱トルク信号Ctを出力する。
位置補正部80には、外乱トルク推定部70から出力される外乱トルク信号Ctが入力され、位置補正信号ΔPtgtを出力する。
【0014】
外乱トルク推定部70の内部では、電流制御部63から入力される制御電流Itgtにトルク定数Kt1(図1(B)中の71)を乗じた「目標トルク」をノードNdに出力し、回転検出部66aから入力される角速度(ω)に慣性モーメントJm1(図1(B)中の72)を乗じて更に微分器73にて微分した「実際のトルク(実トルク)」をノードNdに出力する。
ノードNdでは目標トルクが加算項として入力され、実際のトルクが減算項として入力される。
そしてノードNdから入力された、「目標トルク」と「実際のトルク」との差分に基づいて外乱トルクを求め、外乱トルク信号Ctを出力する。外乱トルク推定部70は、その内部にローパスフィルタ74を有している。ローパスフィルタ74内の記号tq1は、外乱トルク推定部70の時定数である。この時定数tq1は、設計者ないしユーザが適宜に定める。すなわち、サーボ系で発生する外乱ノイズを適切に低減し得るように、または、サーボ系の振動を適切に抑制し得るように、設計者ないしユーザが(実験的に、あるいはシミュレーションソフト等を使って)適当なる値に定める。
位置補正部80の内部では、外乱トルク推定部70から入力される外乱トルク信号Ctに、1/Kf(Kfは位置決め制御機構のバネ定数であり、位置決め制御機構に固有の定数であり、実験的に求める)を乗じて位置補正量を求め、位置補正信号ΔPtgtを出力する。
【0015】
図1に示す本実施の形態の制御ブロック図は、図8に示す従来技術の制御ブロック図に対して、以下の点が異なる。
本実施の形態では、外乱トルク推定部70への入力に制御電流Itgtを入力しているが、図8に示す従来技術では外乱推定部7wへの入力に制御電流の前段のトルク指令Trefを入力している。本実施の形態では、外乱を考慮したトルク補正を行った後の制御電流Itgtを用いて目標トルクを求めている。
また、図8に示す従来技術では、外乱推定部7wは次段の位置補正部9wのみに使用されている。従って、従来技術では外乱推定部7wは位置補正専用である。しかし本実施の形態では、外乱トルク推定部70は、外乱を考慮したトルク補正用として設けたものをそのまま流用しており、新たに設ける必要がない。
また、制御方法において、従来技術では、(まず、弾性変形を考慮しない状態で移動させて)一旦仮の目標位置に到達してから位置補正量分だけ移動させて真の目標位置に到達させている。しかし本実施の形態における制御方法では、位置決め制御の開始位置から目標位置に到達するまで常に(リアルタイムに)位置補正を行っている。
【0016】
●[位置決め制御装置を用いた産業用ロボットの例(図2)]
次に図2を用いて、図1にて説明した位置決め制御装置を用いた産業用ロボットの例(この例は樹脂整形装置)を説明する。
樹脂成形装置は、基台40に載置された射出装置10、固定プラテン20及び可動プラテン30から構成されている。固定プラテン20には固定金型22が取付けられており、可動プラテン30には可動金型32が取付けられている。
ここで、互いに直交する3軸(x軸/y軸/z軸)を設定する(垂直方向がz軸)。
位置決め制御装置は、固定プラテン20に固定されている固定部1、固定部1に取付けられた制御手段4及び支持体2x、支持体2xに沿って移動する移動体3x、移動体3xに取付けられた支持体2y、支持体2yに沿って移動する移動体3y、移動体3yに取付けられた支持体2z、支持体2zに沿って移動する移動体3z、移動体3zに取付けられた捕獲手段5で構成されている。支持体2x〜支持体2z及び移動体3x〜移動体3zが移動手段に相当する。また、支持体2xはx軸にほぼ平行であり、支持体2yはy軸にほぼ平行であり、支持体2zはz軸にほぼ平行である。
制御手段4は、記憶手段に接続されており、移動体3x〜移動体3zを駆動して捕獲手段5を任意の位置(支持体2x〜支持体2zにより移動可能な範囲の位置)に移動させることが可能であり、捕獲手段5を用いて成形品7(被移動部材等)の捕獲、あるいは捕獲の解除が可能である。
【0017】
●[弾性変形の例(図3)及び制御ブロック図の例(図4)]
次に図3を用いて位置決め制御装置における弾性変形について説明する。なお、図3(A)は図2から位置決め制御装置に相当する構成要素を抽出した図であり、図3(B)は図3(A)の中から更にx軸方向に関する構成要素を抽出した図である。なお、図3、図5、図6では、弾性変形の様子をわかり易くするために、実際の弾性変形量よりも大きく変形させて記載している。
まず、図3(A)を用いて弾性変形の状態について説明する。
図3(A)に示すように、支持体2xは固定部1に固定されており、移動体3xが支持体2xに沿って移動して固定部1から遠ざかるにつれて、支持体2xが一点鎖線で示す支持体2xrのように、重力により弾性変形する可能性がある。また、支持体2yは移動体3xに固定されており、移動体3yが支持体2yに沿って移動して移動体3xから遠ざかるにつれて、支持体2yが一点鎖線で示す支持体2yrのように、重力により弾性変形する可能性がある。支持体2xr及び支持体2yrに示すような弾性変形が発生した場合、位置決め精度が要求される捕獲手段5の位置が、目標位置(図3(A)中の捕獲手段5の位置)から、一点鎖線で示す捕獲手段5rの位置にずれることとなる。
【0018】
次に、図3(B)を用いて弾性変形による位置の誤差(この例では、支持体2xの弾性変形によるx軸方向とz軸方向の誤差)について説明する。
図3(B)に示すように、支持体2xが支持体2xrに示すように弾性変形した場合、移動体3xは支持体2xrに沿って移動し、真の目標位置Ptgtに移動したつもりでも、実際の位置Prに到達する。この場合、x軸方向にはΔX、z軸方向にはΔZの誤差が発生している。つまり、支持体2xの弾性変形を考慮して位置補正を行う場合は、x軸方向とz軸方向の位置補正が必要である。図示しないが同様に、支持体2yの弾性変形を考慮して位置補正を行う場合は、y軸方向とz軸方向の位置補正が必要である。
なお、支持体2zは重力方向に平行であり、支持体2zには弾性変形が発生しないと考えられるため、本実施の形態では、支持体2zの弾性変形を考慮した位置補正は行っていない。
【0019】
上記の内容(x軸方向に移動する際はx軸方向とz軸方向とに位置補正が必要、y軸方向に移動する際はy軸方向とz軸方向とに位置補正が必要、z軸方向に移動の際は特に位置補正は必要ない)に基づいて、図1に示す制御ブロック図を、図2に示す樹脂整形装置に適用した例を図4に示す。
図4に示すx軸方向の制御ブロック図は、図1に示す制御ブロック図に対して、位置補正部80xのバネ定数として支持体2x(すなわちx軸)に固有のバネ定数Kfxを用いている点と、z軸方向の位置補正を出力するための位置補正部80xz(バネ定数は固有のKfxz)が追加されている。
また、図4に示すy軸方向の制御ブロック図は、図1に示す制御ブロック図に対して、位置補正部80yのバネ定数として支持体2y(すなわちy軸)に固有のバネ定数Kfyを用いている点と、z軸方向の位置補正を出力するための位置補正部80yz(バネ定数は固有のKfyz)が追加されている。
なお、各々のバネ定数は実験的に求める。
【0020】
また、図4に示すz軸方向の制御ブロック図は、図1に示す制御ブロック図に対して、位置補正部80が省略されている。また制御ブロック図の先頭のノードNazに、位置指令信号Ptgtの他に、x軸方向の制御ブロック図の位置補正部80xzからの位置補正信号ΔPtgtとy軸方向の制御ブロック図の位置補正部80yzからの位置補正信号ΔPtgtとが加算項として入力されている。
この制御ブロック図にて、x軸方向に移動する際はx軸方向とz軸方向とに位置補正を行い、y軸方向に移動する際はy軸方向とz軸方向とに位置補正を行い、z軸方向に移動する際は特に位置補正を行わない、という構成を実現している。その他は図1で既に説明しているので説明を省略する。
【0021】
●[位置決め制御動作の比較(目標に対して実際のトルクが小さい場合)(図5)]
次に図5(A)〜(D)を用いて、支持体2xの弾性変形を例にして、本発明と従来の動作の違いを説明する。なお、図5(A)〜(D)は、移動体3xにおいて目標トルクよりも実際のトルクが小さい場合の例(移動体3xが、支持体2xの弾性変形量が大きくなる方向に移動する場合の例)を示している。
図5(A)〜(D)は、移動体3xが位置Porgから目標位置Ptgtに移動する場合の様子を示しており、最終的に位置決め精度が要求される捕獲手段5(図2を参照)の中心Sが、位置Sorgから目標位置Stgtに移動する様子を示しており、中心Sの軌跡も示している。
【0022】
[理想状態(図5(A):弾性変形が発生しない場合)]
まず、図5(A)を用いて、支持体2xに弾性変形が発生しない理想状態の例を説明する。支持体2xに弾性変形が発生しないため、移動体3xの位置を位置Porgから目標位置Ptgtに移動させても、移動体3xから支持体2y及び支持体2z等を介して接続された捕獲手段5の中心Sは目標位置のStgtに移動し、中心Sの軌跡も最短距離である直線となる。
【0023】
[従来1の動作(図5(B):発生した弾性変形に対する考慮なし)]
図5(B)は、発生した弾性変形に対して位置補正を行わない従来の例(図1に示す制御ブロック図から位置補正部80を省略した状態)を示しており、支持体2xに弾性変形が発生し、支持体2xが支持体2xrの形状に湾曲した場合の例を示している。
移動体3xを位置Porgから目標位置Ptgtに移動させた場合、移動体3xの実際の位置は支持体2xr上の位置Prである。従って、x軸方向に対しては距離ΔX分だけ誤差が発生しており、z軸方向に対しては距離ΔZ分だけ誤差が発生している。従って移動先の中心Srは目標位置の中心StgtからΔX及びΔZずれた位置にある。また、中心Sの軌跡も支持体2xrの湾曲形状に沿った曲線となる。
誤差ΔX及びΔZが許容範囲内の誤差であれば特に問題ないが、そうでない場合は支持体2xの材質または形状等を変更して剛性を高くして、弾性変形量を低減させなければならない。
このため、再設計及び再評価による工数の増加、そして材質または形状変更によるコストの増加等の種々の問題が発生する可能性がある。
【0024】
[従来2の動作(図5(C):発生した弾性変形に対して仮の目標位置に到達した後に位置を補正)]
図5(C)は、発生した弾性変形に対して、仮の目標位置に一旦移動した後、弾性変形量に基づいた補正量分だけ位置を補正する、従来の技術の例を示している。
まず最初は図5(B)と同様の動作(一旦仮の目標位置まで移動)をさせるため、中心Srの位置及び支持体2xrに沿った曲線状の軌跡も図5(B)と同様である。そして中心Srの位置(仮の目標位置)に到達してから、ΔX及びΔZの位置補正を行い、中心Srの位置を中心Stgtの位置(真の目標位置)に移動させる。つまり、中心Sorgを中心Srまで移動させる第1動作と、中心Srを中心Stgtまで移動させる第2動作を行う2段階の動作で移動を完了させる。
従って、2段階目の動作時間分、時間が余計にかかる。また、図5(A)と比較して異なる軌跡となるため、障害物等が存在した場合、理想状態(図5(A))では障害物に触れることがなくても、図5(C)に示す動作では障害物に触れる可能性がある。
【0025】
[本発明の動作(図5(D))]
図5(D)は、発生した弾性変形に対して、位置決め制御の開始位置から目標位置に到達するまで常に目標位置を補正する(リアルタイムに位置補正を行う)本発明の例を示している。
移動体3xは、鉛直下方に向かって湾曲した(弾性変形した)支持体2xrに沿って位置Porgから目標位置Ptgtに向かって移動していくと、湾曲した支持体2xrの傾斜を下ることになるので、目標トルクよりも小さなトルクで移動することになる。
ここで図1(B)に示すように外乱トルク推定部70にて、目標トルク>実際のトルクの場合、外乱トルク信号Ctが正の値として出力される。
続いて図4に示すように、x軸方向の制御ブロック図における外乱トルク信号Ctが正の値の場合、同ブロック図における位置補正部80xにてx軸位置補正信号ΔPtgtが正の値として出力される。このx軸位置補正信号ΔPtgtがΔX(+ΔX)となるわけである。
また、同ブロック図における位置補正部80xzにてz軸位置補正信号ΔPtgtが正の値として出力される。このz軸位置補正信号ΔPtgtがΔZ(+ΔZ)となるわけである。
これらがリアルタイムに動作するため、中心Sorgが中心Stgtに移動した軌跡は、図5(A)に示す理想状態と同じ直線状となる。もちろん移動先の中心Stgtは理想状態と同じ位置である。すなわち、本発明では、図5(A)に示す理想状態と同じ軌跡を通って、同じ位置に到達する。このため、余計な時間がかからないとともに、障害物等に触れることもない。
【0026】
●[位置決め制御動作の比較(目標に対して実際のトルクが大きい場合)(図6)]
次に図6(A)〜(D)を用いて、支持体2xの弾性変形を例にして、本発明と従来の動作の違いを説明する。なお、図6(A)〜(D)は、図5(A)〜(D)に示した例に対して逆方向へ移動する場合の例を示しており、移動体3xにおいて目標トルクよりも実際のトルクが大きい場合の例(移動体3xが、支持体2xの弾性変形量が小さくなる方向に移動する場合の例)を示している。
図6(A)〜(D)は、移動体3xが位置Porgから目標位置Ptgtに移動する場合の様子を示しており、図5(A)〜(D)と同様に、最終的に位置決め精度が要求される捕獲手段5(図2を参照)の中心Sが、位置Sorgから目標位置Stgtに移動する様子を示しており、中心Sの軌跡も示している。
【0027】
[理想状態(図6(A):弾性変形が発生しない場合)]
まず、図6(A)を用いて、支持体2xに弾性変形が発生しない理想状態の例を説明する。支持体2xに弾性変形が発生しないため、移動体3xの位置を位置Porgから目標位置Ptgtに移動させても、移動体3xから支持体2y及び支持体2z等を介して接続された捕獲手段5の中心Sは目標位置のStgtに移動し、中心Sの軌跡も最短距離である直線となる。
【0028】
[従来1の動作(図6(B):発生した弾性変形に対する考慮なし)]
図6(B)は、発生した弾性変形に対して位置補正を行わない従来の例(図1に示す制御ブロック図から位置補正部80を省略した状態)を示しており、支持体2xに弾性変形が発生し、支持体2xが支持体2xrの形状に湾曲した場合の例を示している。
移動体3xを位置Porgから目標位置Ptgtに移動させた場合、移動体3xの実際の位置は支持体2xr上の位置Prである。従って、x軸方向に対しては距離ΔX1分だけ誤差が発生しており、z軸方向に対しては距離ΔZ1分だけ誤差が発生している。従って移動先の中心S1rは目標位置の中心StgtからΔX1及びΔZ1ずれた位置にある。また、中心Sの軌跡も支持体2xrの湾曲形状に沿った曲線となる。以下、図5(B)の説明と同様であるので説明を省略する。
【0029】
[従来2の動作(図6(C):発生した弾性変形に対して仮の目標位置に到達した後に位置を補正)]
図6(C)は、発生した弾性変形に対して、仮の目標位置に一旦移動した後、弾性変形量に基づいた補正量分だけ位置を補正する、従来の技術の例を示している。
まず最初は図6(B)と同様の動作をさせるため、支持体2xrに沿った曲線状の軌跡は図6(B)と同様である(ただし、最初の位置Porgが補正された正しい位置であるため、中心Sorgの位置及び仮の目標位置の中心S2rの位置は異なる)。そして中心S2rの位置(仮の目標位置)に到達してから、ΔX1及びΔZ1の位置補正を行い、中心S2rの位置を中心Stgtの位置(真の目標位置)に移動させる。つまり、中心Sorgを中心S2rまで移動させる第1動作と、中心S2rを中心Stgtまで移動させる第2動作を行う2段階の動作で移動を完了させる。
従って、2段階目の動作時間分、時間が余計にかかる。また、図6(A)と比較して異なる軌跡となるため、障害物等が存在した場合、理想状態(図6(A))では障害物に触れることがなくても、図6(C)に示す動作では障害物に触れる可能性がある。
【0030】
[本発明の動作(図6(D))]
図6(D)は、発生した弾性変形に対して、位置決め制御の開始位置から目標位置に到達するまで常に目標位置を補正する(リアルタイムに位置補正を行う)本発明の例を示している。
移動体3xは、鉛直下方に向かって湾曲した(弾性変形した)支持体2xrに沿って位置Porgから目標位置Ptgtに向かって移動していくと、湾曲した支持体2xrの傾斜を上ることになるので、目標トルクよりも大きなトルクで移動することになる。
ここで図1(B)に示すように外乱トルク推定部70にて、目標トルク<実際のトルクの場合、外乱トルク信号Ctが負の値として出力される。
続いて図4に示すように、x軸方向の制御ブロック図における外乱トルク信号Ctが負の値の場合、同ブロック図における位置補正部80xにてx軸位置補正信号ΔPtgtが負の値として出力される。このx軸位置補正信号ΔPtgtがΔX1(−ΔX1)となるわけである。
また、同ブロック図における位置補正部80xzにてz軸位置補正信号ΔPtgtが負の値として出力される。このz軸位置補正信号ΔPtgtがΔZ1(−ΔZ1)となるわけである。
これらがリアルタイムに動作するため、中心Sorgが中心Stgtに移動した軌跡は、図6(A)に示す理想状態と同じ直線状となる。もちろん移動先の中心Stgtは理想状態と同じ位置である。すなわち、本発明では、図6(A)に示す理想状態と同じ軌跡を通って、同じ位置に到達する。このため、余計な時間がかからないとともに、障害物等に触れることもない。
【0031】
●[シミュレーション結果(図7)]
図7に、本実施の形態におけるシミュレーションの結果を示す。
図7(A)は従来1(図1に示す制御ブロック図から位置補正部80を省略した状態)の動作の結果を示しており、図7(B)は本発明の動作の結果を示している。グラフは横軸が時間[sec]を示しており、縦軸が位置[cm]を示している。
どちらも同じ位置(0[cm]の位置)からスタートし、位置指令信号Ptgt(目標位置)=40.0[cm]を入力した結果である。
応答特性(通常、目標位置の90%位置(この場合36[cm]の位置)までに要する時間)は、図7(A)に示す従来1の動作も、図7(B)に示す本発明の動作も同じである。
しかし、到達位置が大きく異なる。図7(A)に示す従来1の動作では目標位置40.0[cm]に対してΔXの誤差が発生している。これが図5(B)に示すΔXの誤差である。これに対して図7(B)に示す本発明の動作では、目標位置40.0[cm]に完全に一致しており、非常に高い精度で位置決め制御できていることを確認できた。また、オーバーシュートも発生せず、非常に良好な制御特性を実現できることが確認された。
【0032】
以上に説明した実施の形態では、移動体を支持体上の目標位置に移動させるにあたって、移動体の重力で支持体が弾性変形する場合における位置決め制御方法を説明した。
すなわち、位置決め制御の開始位置から目標位置に到達するまで、目標位置と移動体の現在位置との位置の差分に基づいて、移動体を移動させる目標トルクを求めて移動体を駆動させる。そして、前記目標トルクと移動体が実際に移動した際に検出した実トルクとのトルクの差分を求めるとともに、前記トルクの差分に基づいて目標位置を補正する位置補正量を求め、当該位置補正量を目標位置に加算する、という位置決め制御方法を説明した。
また、以上に説明した実施の形態では、サーボモータを用いた直交3軸(x軸/y軸/z軸)の位置決め制御装置に適用した例で説明したが、トルクという抽象化された物理量を用いているため、サーボモータに限定されず、種々の駆動手段(例えばリニアモータ、内燃機関等)を用いた位置決め制御に適用することができる。
【0033】
本発明の位置決め制御装置及び位置決め制御方法は、本実施の形態で説明した構成、動作等に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除が可能である。例えば、外乱トルク推定部70の内部にて求める(検出する)実際のトルクは、角速度ωから求めずに、トルクセンサ等を用いて求める(検出する)ようにしてもよい。
また、本実施の形態の説明に用いた数値は一例であり、この数値に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の位置決め制御装置における制御ブロック図の例を説明する図である。
【図2】本発明の位置決め制御装置を用いた産業用ロボットの例を説明する図である。
【図3】図2に示す産業用ロボットの弾性変形の例を説明する図である。
【図4】図2に示す産業用ロボットの位置決め制御に、図1に示す制御ブロック図を適用した例を説明する図である。
【図5】位置決め制御動作の比較(目標に対して実際のトルクが小さい場合)を説明する図である。
【図6】位置決め制御動作の比較(目標に対して実際のトルクが大きい場合)を説明する図である。
【図7】従来技術(図7(A))と本発明(図7(B))とのシミュレーション結果を示すグラフである。
【図8】従来の技術(当初の目標位置に到達した後に位置を補正)の制御ブロック図を説明する図である。
【符号の説明】
【0035】
61 位置制御部
62 速度制御部
63 電流制御部
64 モータ
65 機械部(機構部)
66 検出部
66a 回転検出部
66b 位置検出部
70 外乱トルク推定部
80 位置補正部
Na〜Nd ノード
Ptgt 位置指令信号(目標位置)
Vtgt 速度指令信号
Ttgt トルク指令信号
Itgt 制御電流
Ct 外乱トルク信号
Pfb 現在位置信号
ΔPtgt 位置補正信号
Kt1 トルク定数
Kf、Kfx、Kfxz、Kfy、Kfyz バネ定数



【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力された位置指令信号と現在位置信号とに基づいた速度指令信号を速度制御部に出力する位置制御部と、
入力された速度指令信号に基づいたトルク指令信号を電流制御部に出力する速度制御部と、
入力されたトルク指令信号と外乱トルク信号とに基づいた制御電流を出力してモータを駆動する電流制御部と、
モータの回転数に関する物理量を検出して、制御対象の現在位置を示す現在位置信号を出力する検出部と、
電流制御部からモータに出力される制御電流と、モータの回転数に関する物理量とが入力され、外乱トルクを推定して外乱トルク信号を出力する外乱トルク推定部と、
を備えた位置決め制御装置であって、
更に、前記外乱トルク信号が入力されて位置補正信号を出力する位置補正部を備え、位置決め制御の開始位置から目標位置に到達するまで位置補正信号を位置制御部の入力に追加する、
ことを特徴とする位置決め制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の位置決め制御装置であって、
位置補正部は、位置決め制御装置で位置決めされる位置決め機構が有する弾性変形に基づいたバネ定数Kfに対して、外乱トルク信号に1/Kfを乗じた位置補正信号を出力する、
ことを特徴とする位置決め制御装置。
【請求項3】
移動体を支持体上の目標位置に移動させるにあたって、移動体の重力で支持体が弾性変形する場合における位置決め制御方法であって、
位置決め制御の開始位置から目標位置に到達するまで、
目標位置と移動体の現在位置との位置の差分に基づいて、移動体を移動させる目標トルクを求めて移動体を駆動し、
前記目標トルクと移動体が実際に移動した際に検出した実トルクとのトルクの差分を求めるとともに、前記トルクの差分に基づいて目標位置を補正する位置補正量を求め、当該位置補正量を目標位置に加算する、
ことを特徴とする位置決め制御方法。




【図7】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−31627(P2006−31627A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−213322(P2004−213322)
【出願日】平成16年7月21日(2004.7.21)
【出願人】(391006348)株式会社タイテック (79)
【Fターム(参考)】