説明

位置計測装置、それを用いた被加工物の製造方法及び成形品

【課題】高精度に移動体の位置を計測可能な位置計測装置を提供する。
【解決手段】位置計測装置1は、周期的に高さが増減する目盛パターンが形成された目盛部30の高さ変位を、変位センサ10によって計測する。そして、この変位センサ10によって計測された高さの周期的な変位を、演算部20によって位置情報に演算して、移動体の位置を計測する。目盛部30の目盛パターンは、平面の組み合わせによって形成されるため、変位センサ10の出力電圧は平面の傾きに応じた直線を組み合わせた波形となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステージ等の可動する物体の位置を計測する位置計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多軸加工装置のステージなど複数方向に移動する移動体の位置を計測する位置計測装置として、エンコーダ計測機や、傾きが周期的に変化する計測基準面の傾きの変化により移動体の位置を計測するものが案出されている(特許文献1参照)。
【0003】
具体的には、上記位置計測装置は、計測基準面を、正弦波形状となるように波状に形成し、オートコリメーション法を用いてこの傾きの変化を計測している。そして、この計測された傾きの周期変化に基づいて物体の位置情報を算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2960013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、一般的に位置計測装置では、センサから得られた出力電圧から得られた位相情報を電気分割することによって、計測基準面の周期よりも高い分解能を得る。
【0006】
しかしながら、上記特許文献1記載の位置計測装置の出力電圧は正弦波の波形となる。そして、このような正弦波形状の出力電圧では、位相が90°と270°付近において、移動体の移動量に対する出力電圧の変化量が最も小さくなる。そうすると、これら位相が90°や270°付近においてS/N比が低くなり、計測精度に影響を及ぼすという問題があった。
【0007】
そこで本発明は、高精度に移動体の位置を計測可能な位置計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の位置計測装置は、周期的に高さが増減する目盛パターンが表面に形成された目盛部と、前記目盛部の表面と間の相対距離を検出する変位センサと、前記変位センサと前記目盛部との相対移動による前記相対距離の周期変化に基づいて、計測対象の位置情報を演算する演算部と、を備え、前記目盛部の目盛パターンを、平面の組み合わせによって形成した、ことを特徴とする。
【0009】
本発明の被加工物の製造方法は、被加工物と工具を相対的に移動させて前記被加工物を切削加工する被加工物の製造方法であって、前記位置計測装置によって計測された位置情報によって前記被加工物と前記工具を相対的に移動させて前記被加工物を加工することを特徴とする。
【0010】
本発明の成形品は、前記被加工物の製造方法によって製造された型を用いて成形されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、周期的に変化する目盛部の形状パターンを、平面の組み合わせによって形成したため、出力電圧が平面の傾きに応じた直線を組み合わせた波形となる。これにより、S/N比の変化が少なくなり、高い計測分解能を得ることができると共に、高精度に移動体の位置を計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態に係る多軸加工装置を示す模式図。
【図2】図1の多軸加工装置の断面図。
【図3】本発明の実施の形態に係る位置計測装置において、1軸方向について注目した場合を示す模式図。
【図4】図3の位置計測装置の出力電圧の変化を示すグラフ。
【図5】本発明の実施の形態に係る位置計測装置を示す模式図。
【図6】位置計測装置の目盛部の要部拡大図。
【図7】変位センサの相対関係を示す図。
【図8】図5の位置計測装置の出力電圧の変化を示すグラフ。
【図9】目盛部の他の実施の形態を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[多軸加工装置の概略構造]
以下、本発明の実施の形態に係る位置計測装置1について図1〜図8に基づいて説明をする。まず、図1及び図2に基づいて、上記位置計測装置1が搭載された多軸加工装置100について説明をする。なお、以下の説明において、XYZ軸の方向は、位置計測装置1の目盛部30を基準として設定する。
【0014】
多軸加工装置100は、工具111をXYZ軸の3軸方向に移動可能に設けられていると共に、Y軸回りに回転できるように構成された4軸加工装置であり、工具保持部110と、ワーク保持部120と、から構成されている。
【0015】
上記ワークWを保持するワーク保持部120は、ワークWがその先端に取り付けられる回転軸124と、この回転軸124を回転自在に支持するワークフレーム121と、ワークフレーム121を支持する支持フレーム122,123と、を備えている。支持フレーム122,123は、ワークフレーム121の両端部を支持する一対の脚部122とこれら脚部の間をつなぐ壁部123とによって、平面視略コ字形状に形成されている。そして、これらワークフレーム121及び支持フレーム122,123によって形成される凹部に、上記工具保持部110が嵌り込むように配設され、回転軸124の先端のワークWと、工具111と、が対向するようになっている。
【0016】
一方、工具111を保持する工具保持部110は、該工具111の位置をXYZθの4軸方向に制御するように構成されている。具体的には、XYZの3軸方向に駆動する工具ステージ113,114,115と、θ軸周りに回転割り出しを行う回転ステージ112と、を有している。
【0017】
上記工具ステージ113,114,115は、Y軸方向に昇降するY軸ステージ115と、Y軸ステージ上でX軸方向に移動自在なX軸ステージ114と、X軸ステージ上でZ軸方向に移動自在なZ軸ステージ113と、から構成されている。また、回転ステージ112は、Z軸ステージ113上でY軸回りに回転自在に構成されており、工具111は、回転ステージ112上に設けられた工具ホルダ116に取付けられるようになっている。
【0018】
また、多軸加工装置100は、ワークWと工具111との相対位置関係を検出するために、位置計測装置1を備えている。この位置計測装置1は、計測基準となる目盛部30と、移動体に取付けられる変位センサ10と、詳しくは後述する演算部20とを有して構成されている。目盛部30は地面に対して垂直な平面である壁部123に取付けられ、変位センサ10は工具111に最も近い直線方向への移動体であるZ軸ステージ113に取付けられており、工具111のXY軸方向位置を検出している。また、多軸加工装置100は、Z軸方向の位置を検出するZ軸センサ40(図3参照)と、工具111の回転角を検出する回転角度センサ(不図示)を有している。
【0019】
そして、多軸加工装置100は、これら位置計測装置1、Z軸センサ40及び回転角度センサによって、工具111とワークWとの相対位置関係を検出し、高速回転するワークWを工具111で軸対称非球面切削加工を行うように構成されている。なお、工具保持部110は、回転軸124が回転する際の振動が伝達されないように、ワーク保持部120に対して、除振台などによって振動が絶縁されている。
【0020】
本発明の位置計測装置1は、工具111とワークWとの相対位置関係を高精度に計測することができる。よって、本発明の位置計測装置によって計測された位置情報によって前記被加工物と前記工具を相対的に移動させて、前記工具で前記被加工物を切削加工することにより、高精度な加工を行なうことができる。特に、このような製造方法は、高精度な形状を求められる、光学部品の加工に好適に用いることができる。また、同様に高精度な形状を求められる、光学部品を成形するための型の加工や、ナノインプリントに用いられる型等の加工にも好適に用いることができる。このように加工された型を用いて成形される、光学部品や、回路基板等の成形品は、非常に高い精度を得ることができる。なお成形には、射出成形や型押加工等の公知の技術が適用できる。
【0021】
[位置計測装置の構造]
ついで、上述した位置計測装置1について図3乃至図8に基づいて詳しく説明をする。図3は、上記位置計測装置1の原理を簡単に説明するために、1軸方向(X軸方向)の移動についてのみを考えた場合の位置計測装置1の模式図である。
【0022】
上記図3に示すように、位置計測装置1は、変位センサ10、目盛部30及び演算部20を有している。変位センサ10は、目盛部30との相対距離を計測するセンサであり、所定波長のレーザ光を出射する光源、受光素子を有している。そして、3角測量やレーザ干渉の原理を利用して、目盛部30までの距離を計測するように構成されている。
【0023】
なお、受光素子はPD(Photodiode)、PSD(Position Sensitive Detector)、CCD(Charge Coupled Device)などレーザ光を計測するものであれば、どのようなものでも良い。
【0024】
また、上記目盛部30は、その表面に、平面の組み合わせによって一定の方向に所定の周期で高さ(振幅)変化するように形成された目盛パターンが形成されている。本実施の形態では、図3に示すように、その表面を一方向(例えばX軸方向)に向けて切った際に、三角波形状の断面を有するようになっている。
【0025】
即ち、目盛部30の表面は、数1に示すような形でX軸方向に高さ(振幅)Aが周期的に変化している。
【0026】
【数1】

f(x):位置Xにおける高さ、A:形状の振幅、λ:形状の周期(波長)
【0027】
従って、変位センサ10が目盛部30に対してX軸方向の相対変位を生じた時、変位センサ10と目盛部30の相対距離は目盛部30の高さ変化分変位する。連続的に走査した場合、X方向の変位量に対する変位センサ10の出力は、図4に示されるような目盛部30の形状と相似の三角波出力となる。三角波出力はX変位に対して出力が一定の傾きで増減する波形なので、リニアリティに優れている。
【0028】
上記受光センサ14が検出した出力電圧の周期変化は、演算部20によって演算されることにより、計測対象の位置情報に変換される。即ち、位置計測装置1は、変位センサ10と目盛部30との相対距離を計測対象の位置情報としている。そして、計測対象(変位センサ10)と目盛部30とが平行に相対移動することにより変化する相対距離の変化を、位置情報へと演算することによって、計測対象の位置を計測している。なお、位置計測装置1の分解能は目盛形状の振幅Aと波長λの比であるアスペクト比と変位センサ10の分解能で決定される。アスペクト比3:100の形状で分解能0.1nmの変位センサを用いると、3.3nmの水平方向分解能が得られる。また、変位センサ10は、移動体がZ軸方向に移動してワークディスタンスが変更された場合、この変更分の相対距離の変化は、位置情報から除外して演算する。
【0029】
[2次元方向を同時に測定する場合]
ところで、複数軸方向に移動する移動体が計測対象の場合、出来る限り位置センサの数が少ない方が、軸間補正が簡単でありかつ計測誤差が少なくなるため、位置計測装置1は、通常、2次元位置を検出可能に構成される。
【0030】
計測対象の2次元位置を検出する場合、図5に示すように、上述した目盛部30は、計測対象の2軸方向の位置を検出可能なように構成される。具体的には、目盛部30は、その表面に同一平面上の異なる2方向に高さが周期的に増減する2つのパターン形状が組み合わされた目盛パターンを形成しており、変位センサ10との相対距離を変化させている。
【0031】
本実施の形態では、目盛部30の表面に、正四角錐をXY軸方向に整列させた数2で示す形状パターンを形成している(図6参照)。これにより、目盛部30の表面は、X軸方向とY軸方向とのそれぞれに、三角波形状の断面を有することとなり、これらXYの2軸方向に感度を有する目盛を構成することができる。
【0032】
【数2】

f(x,y):ある位置(x,y)における高さ、A:X軸方向の振幅、λ:X軸方向の周期、A:Y軸方向の振幅、λ:Y軸方向の周期(波長)
【0033】
このように、上記目盛部30の目盛パターンは、X軸方向にのみ感度を有するX軸面31と、Y軸方向にのみ感度を有するY軸面32と、の組み合わせによって形成されている。ところで、せっかく目盛部30が2軸方向に感度を有していても、変位センサ10が1つしかない場合には、移動体のこれら2軸方向への移動を連続的に計測することができない。即ち、その変位センサ10がX軸面31に際に、移動体がY軸方向に移動しても、1つの変位センサ10ではY軸方向の相対距離の変位は計測をすることができない。
【0034】
従って、2軸方向への移動体の移動を同時に計測するには、少なくとも2つ以上の変位センサ10が必要となり、2次元位置を計測する位置計測装置1は、変位センサ10a,10bを複数有している。そして、これら複数の変位センサ10a,10bを、いずれかの変位センサ10a,10bが目盛パターンの各方向の高さA,Aの周期変化を常に検出可能な位置となるように配設している。
【0035】
具体的には、図7に示すように、上記複数の変位センサ10a,10bは、X軸方向及びY軸方向に、半波長λ/2の整数倍の間隔をあけて配設されている。なお、図7中のm,nは、任意の整数である。更に、第1変位センサ10aと第2変位センサ10bとのなす角を、感度を有する2方向の間のなす角の半分、即ち、上記図7中のm,nの値を同じにするとより好ましい。
【0036】
これにより、計測対象が、目盛部30が感度を有する2軸方向にどのように動いても、いずれかの変位センサ10が各軸方向ごとの移動量に基づく高さの周期変化を連続的に検出することができる。
【0037】
即ち、第2変位センサ10bが一方の軸方向の高さの変位を検出できない場合には、第1変位センサ10aが一方の軸方向の高さの変位を検出する。また、第1変位センサ10aが一方の軸方向の高さの変位を検出できない場合には、第2変位センサ10bが一方の軸方向の高さの変位を検出する。
【0038】
そのため、第1変位センサ10aと、第2変位センサ10bとが1軸方向の高さの変位を交互に検出する。即ち、図8に示すように、連続する第1変位センサ10aの出力電圧V1と、第2変位センサ10bが検出した出力電圧V2とによって、計測対象の移動を計測することができる。そして、出力電圧V1,V2の周期変化に基づいて、各軸方向ごとの計測対象の位置を演算することができるため、以て、2次元における計測対象の位置を計測することができる。
【0039】
上述したように、周期的に変化する目盛部30の形状パターンを、平面の組み合わせによって形成したため、出力電圧が平面の傾きに応じた直線を組み合わせた波形となる。これにより、S/N比の変化が少なくなり、高い計測分解能を得ることができると共に、高精度に移動体の位置を計測することができる。
【0040】
即ち、平面の組み合わせによって目盛の形状パターンを構成したため、平面の傾きに応じた所定の増減量で、変位センサ10の出力電圧Vが変化する。そのため、受光センサ14の出力変化量が直線の組み合わせによって一定に変化し、特定の測定箇所における電気ノイズに対するS/N比が低くなることを防止することができる。これにより、センサから得られた電圧出力を電気分割しやすくなるとと共に、誤差が少なくなり高い分解能を得ることが出来る。
【0041】
更に、目盛の特性が連続して変化するので、信号の不連続性に関する信号処理を無くすことできる。また、調整幅の大きな目盛形状の振幅A1,A2を大きくすることによって、位置計測装置1の分解能を向上することができるため、高分解能化が可能となる。
【0042】
更に、目盛部30に、異なる2方向に目盛の周期変化を持たせると共に、変位センサを複数用いることで2次元方向の位置計測をすることができる。より詳しくは、各変位センサ10a,10bの計測する軸が切り替わる位置をXY座標のマップデータとして持つことで、大面積においても連続したXY軸計測が可能となる。
【0043】
また、演算部20が、移動体の計測基準面(目盛部30)に対して垂直方向(Z軸方向)の移動による相対距離の変化は、これら高さの周期変位から除外するため、ワークディスタンスに係わらず計測対象位置を正確に計測できる。
【0044】
また、各駆動軸に1つ以上の位置センサを用いて位置計測する装置に比して、2次元位置を計測する位置計測装置1はより加工点に近い位置で計測するので、アッベ誤差や姿勢変化、温度ドリフトの影響を低減させ高精度計測を可能にすることができる。
【0045】
なお、上述した実施の形態において、変位センサ10をワークディスタンスの変化を計測するセンサとして使用しても良く、この場合、更に、使用するセンサの数を減らすことができる。
【0046】
また、本実施の形態では、目盛部30の形状は四角錘形状を用いているが、変位に対して一定の傾きで増減する出力波形を得られる面を複数組み合わせた形状であればとのような形状でも良い。具体的には三角錐形状などの多角錘形状や、図9に示されるようなX軸面とY軸面を持つ鋸波形状を交互に並べたものがある。
【0047】
更に、変位センサ10は、光学式の他に、リニア近接センサや、超音波式など、どのような市販の変位センサを用いても良い。
【符号の説明】
【0048】
1:位置計測装置、10:変位センサ、20:演算部、30:目盛部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期的に高さが増減する目盛パターンが表面に形成された目盛部と、
前記目盛部の表面と間の相対距離を検出する変位センサと、
前記変位センサと前記目盛部との相対移動による前記相対距離の周期変化に基づいて、計測対象の位置情報を演算する演算部と、を備え、
前記目盛部の目盛パターンを、平面の組み合わせによって形成した、
ことを特徴とする位置計測装置。
【請求項2】
前記変位センサを、複数有すると共に、
前記目盛パターンは、同一平面上の異なる2方向に高さが周期的に増減する2つの形状パターンが組み合わされて形成され、
複数の前記変位センサを、いずれかの前記変位センサが前記目盛パターンの各方向の高さの周期変化を常に検出可能な位置となるように配設した、
請求項1記載の位置計測装置。
【請求項3】
前記目盛部は、その表面を一方向に向けて切った際に、三角波形状の断面を有する、
請求項1又は2記載の位置計測装置。
【請求項4】
被加工物と工具を相対的に移動させて前記被加工物を切削加工する被加工物の製造方法であって、
請求項1乃至3いずれか1項記載の位置計測装置によって計測された位置情報によって前記被加工物と前記工具を相対的に移動させて前記被加工物を加工する、
ことを特徴とする被加工物の製造方法。
【請求項5】
前記被加工物は光学部品を成形するための型である、
請求項4記載の被加工物の製造方法。
【請求項6】
前記被加工物はナノインプリントに用いられる型である、
請求項4記載の被加工物の製造方法。
【請求項7】
請求項4乃至6のいずれか1項記載の被加工物の製造方法によって製造された型を用いて成形される、
ことを特徴とする成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−29404(P2013−29404A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165268(P2011−165268)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】