低温加工性チタン合金を用いたクランプ
【課題】炭素繊維強化複合材料と共に使用しても、電解腐食が生じることなくかつ絶縁性に優れ望ましい電気的特性を示す航空機用のクランプ、また、クランプとしての機械的特性を維持しつつ、軽量化・低燃費の要請にも応え得る航空機用のクランプを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のクランプは、溶体化処理された低温加工性チタン合金を曲げ加工した、高強度チタン合金からなる支持部材の外表面を衝撃緩衝材で覆ってなるクランプである。支持部材となる低温加工性チタン合金は、小半径曲げ加工および大角度曲げ加工に耐え、航空機用クランプとして必要とされるバンド形状に加工される。衝撃緩衝材であるクッション材としては、シリコーンゴムとフッ素樹脂の組み合わせ等を使用する。
【解決手段】本発明のクランプは、溶体化処理された低温加工性チタン合金を曲げ加工した、高強度チタン合金からなる支持部材の外表面を衝撃緩衝材で覆ってなるクランプである。支持部材となる低温加工性チタン合金は、小半径曲げ加工および大角度曲げ加工に耐え、航空機用クランプとして必要とされるバンド形状に加工される。衝撃緩衝材であるクッション材としては、シリコーンゴムとフッ素樹脂の組み合わせ等を使用する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維強化複合材料(CFRP; Carbon Fiber Reinforced Plastic)を機体等に用いた航空機において、電線束や配管を保持し、機体構造に結合するクランプに関する。より詳細には、低温加工可能な高強度チタン合金をバンド材として使用するクッション付きクランプに関する。
【背景技術】
【0002】
航空機用のクランプは電線束や配管を航空機の構造材等に取り付けるものである。クランプは大半はループ型および鞍型と呼ばれる形状をしており、電線束や配管を保持し、ボルト等によって構造材に取付けられる。
【0003】
このような航空機用クランプの規格として、米国の団体であるSociety of Automotive Engineers,Inc.(SAE(登録商標))の規定した規格Aerospace Standard(AS)が広く採用されており、これに従うクランプが一般に用いられている。図7は鞍型のクランプ10を示し、クランプの規格 SAE AS85052に従うものである。クランプ10は、金属製のバンド22とその外側に配置される樹脂製のクッション23とで構成されている。図8はループ型のクランプ20を示し、規格SAE AS85449に従うものである。クランプ20は、同様に金属製のバンド22とその外側に配置される樹脂製のクッション23とで構成されている。
【0004】
通常のクランプの構成は、金属製のバンドおよびバンドを取り巻く樹脂製のクッションからなり、金属製のバンドが保持および取付の強度面の機能を、樹脂製のクッションが電線束あるいは配管の保持と電気的絶縁の機能を分担して有している。上記の規格によって、材料としては、金属製バンドには、鉄、ステンレス鋼およびアルミニウム合金が使用されている。また、クッションには、エチレンプロピレンゴム、ニトリルゴム、ニトリルブタジエンゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、ガラス繊維強化シリコーンゴム、フロロシリコーンゴムおよびテフロン(登録商標)が使用されている。
【0005】
その一方で、炭素繊維強化複合材料(CFRP)が、軽くて十分な強度を有していることから、機体の軽量化を図るべく航空機、宇宙ロケットに広く使用されはじめており、自動車にも導入が試みられている。しかし、CFRPは鉄やアルミニウムに電解腐食を発生させるため、従来のクランプの規格を見直さなければならない状況となってきている。腐食が生じるのは、CFRPが航空機の機体や主翼等の部分に使用され、また外板とフレームは一体成形され、クランプのバンド部分がこれら機体やフレームにボルトを用いて直接取り付けられるためである。すなわち、クランプのバンドはCFRP製の機体や主翼に直接接触し、イオン化傾向が異なるために接触によって電解腐食が生じる。またクランプする燃料配管等は静電気や落雷などから保護するためクランプを介して接地し導電路となる場合があり、この場合にバンド材の電解腐食は一層促進される。図9は、就航間近の最新民間航空機B787に使用されている素材を区別して示したものである(ボーイング社ホームページより抜粋)。図9から、機体および主翼の大部分にCFRPが使用されていることが分かる。
【0006】
またCFRPは、繊維方向の電気抵抗は小さいという特有の電気抵抗の方向性を有しているため、それを導入した移動体の接地・経線を含む総合的な電気系統・耐雷対策の見直しが必要とされている。それに伴って、クランプに要求される性能もCFRP使用の影響を回避できない状況にある。
【0007】
上記のCFRPによる金属製バンドの腐食の問題を解決するための試みが、米国アンフェノール社で行われた。それは、従来のクランプ規格に定められた形状・材質に拘らず、ポリ・エーテル・エーテル・ケトン(PEEK)およびシリコーンゴムを使用し、金属を使用しない全樹脂製のクランプの提案である(下記非特許文献1参照)。しかしながら、全樹脂製のクランプはまだ製造コストが高く、航空機用に広く使用されるには至っていない。さらに軽量化という点からも、未だ改善の余地がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】ビクトレックス社プレスリリース、2008年11月5日、URL:http://www.victrex.com/jp/news/press.php?pressid=635
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、クランプの金属製バンドとして従来用いられている、鉄、特にステンレス鋼のうち17−7PH(SUS631に相当する)、およびアルミニウム合金は、CFRPとの接触で電解腐食が起きる。そのため、CFRPと共に使用して腐食を生じないバンドが求められている。加えて、航空機では低燃費実現や輸送コスト低減のために、バンド材においてもさらなる軽量化が求められている。
【0010】
クッション材として従来用いられている、エチレンプロピレンゴム、ニトリルゴム、ニトリルブタジエンゴム、クロロプレンゴムの4種類のゴムは、使用環境として低温に非常に強いものもあるが、150℃以下と高温には比較的弱く、航空機内使用には温度特性が十分ではない。また体積抵抗が小さく絶縁耐力が低い等、電気的物性も十分ではなく、クラックが入り易い、寿命が短い等の課題もあった。
【0011】
またシリコーンゴム、ガラス繊維布強化シリコーンゴム、フロロシリコーンゴム、テフロン(登録商標)の4種類のクッション材は、使用環境としての温度範囲も比較的広く、電気的特性も良く、耐薬品性等も優れている。しかし、機械的特性の面から、シリコーンゴムは破断しやすく、またテフロン(登録商標)はクランプ力(保持力)での問題点が内在している。またCFRPの電気抵抗の方向性は、それを導入した移動体の接地・絶縁を含む総合的な電気系統・耐雷対策の見直しを必要とし、クランプには絶縁抵抗や絶縁破壊耐力などの電気的特性の更なる向上が求められている。
【0012】
本発明は、この様な技術的問題点を解決し、CFRPと共に使用しても、電解腐食が生じることなくかつ望ましい電気的特性を示す航空機用のクランプを提供することを目的とする。さらには、クランプとしての機械的特性を維持しつつ、軽量化・低燃費の要請にも応え得る航空機用のクランプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のクランプは、従来のクランプ規格の形状をほぼ踏襲しながら、上記の課題を解決するものである。すなわち、溶体化処理された低温加工性チタン合金を曲げ加工した、高強度チタン合金からなる支持部材の外表面を衝撃緩衝材で覆ってなるクランプである。本発明は、航空機用クランプとしては、支持部材である金属バンドとして新しく開発された溶体化処理された低温加工性チタン合金を使用する。また衝撃緩衝材であるクッション材としては、(1)フッ素樹脂(PTFEなど)とシリコーンゴムの組み合わせ、(2)新しく開発された低温特性に優れたフッ素ゴム、(3)熱可塑性フッ素樹脂(PFAなど)とシリコーンゴムの組み合わせ、(4)物理発泡させ、シリカを分散させた熱可塑性フッ素樹脂(PFAなど)のいずれかを使用している。
【発明の効果】
【0014】
本発明のクランプは、チタン合金を利用することにより、CFRPと共に使用しても電解腐食を生じない、安定で製品寿命の長いものである。さらに、チタン合金が軽いために、従来よりもクランプの大幅な軽量化が図れる。
【0015】
さらに、本発明のクランプは、クッション材に適した材料および構造を工夫することにより、使用温度範囲が広く、十分な機械的特性および電気的特性を備え、より軽量化が図れるものとなる。
【0016】
また、本発明のクランプは、金属の持つ引張最強度特性および樹脂の持つ絶縁特性・保持(クランプ)特性を生かした、金属と樹脂との複合製品であることにより、前記の全樹脂製クランプと比較して、同等以上の性能かつ50%程度の軽量化を実現するとともに、大幅なコストダウン・価格ダウンが可能である。
【0017】
また、本発明は航空機用のクランプの課題解決・特性向上に貢献するが、航空機内と同様の使用環境であれば、用途は航空分野だけでなく、人工衛星や宇宙ロケットなどの宇宙分野、あるいはCFRPを使用した自動車などの分野にも利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1A】本発明のクランプの一例を示す図である。
【図1B】図1Aに示すクランプの要部を拡大した図である。
【図1C】(1)は図1Aに示すクランプの1−1方向、(2)は2−2方向、(3)は3−3方向の断面図である。
【図1D】(1)は従来技術によるクランプの1−1方向、(2)は2−2方向、(3)は3−3方向の断面図である。
【図2A】本発明の第1実施形態によるクランプを示す図であり、(a)は断面図、(b)はクランプの内周面の図である。
【図2B】本発明の第1実施形態による別のクランプを示す図であり、(a)は断面図、(b)はクランプの内周面の図である。
【図3】本発明の第2実施形態によるクランプの断面図である。
【図4】本発明の第3実施形態によるクランプの断面図である。
【図5】本発明の第4実施形態によるクランプの断面図である。
【図6A】(a)は穴を設けたバンドを示す図であり、(b)は(a)のb−b方向の断面図である。
【図6B】(a)は図6Aのバンドを使用したクランプを示す図であり、(b)は、(a)のb−b方向の断面図である。
【図7】従来技術による鞍型クランプを示す図である。
【図8】従来技術によるループ型クランプを示す図である。
【図9】航空機を構成する素材を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明のクランプについて詳細に説明する。
【0020】
(クランプの全体構造)
図1Aは、本発明の好ましい一例であるループ型クランプ20を示す図である。クランプ20は、低温加工性チタン合金を曲げ加工等した高強度チタン合金からなる扁平な帯状のバンド22と、これを取り巻く軸直角断面矩形状をした樹脂製のクッション23とで構成される。ループ型のクランプの場合は、クッション23の一方の端にウェッジ21が設けられている。ウェッジ21は、クッション23の一端部を放射方向内方に突出することにより形成され、電線束や配管等の断面円形をした被結束具の外周面に沿うように形成され、被結束具の保持力の向上を図っている。また、クッション23の他端側において、クランプ20は補強ビード24によって機体等に固定される。補強ビードは、耐振性の向上を図っている。図1Bは図1Aの要部を拡大した図であり、分かりやすさのためクッションを省いて描かれている。一方、クッション23の他端部は、バンド22に形成された補強ビード24を包囲しているが、外周面側にはスリット25が形成されている。なお、補強ビード24はバンド22の一部を径方向に外方に向けて突出するように形成されている。内部の被結束具を変形させないためである。なお、図1中のバンド22は、本発明に係る支持部材の最も好適な例である。図1中のクッション23は、本発明に係る衝撃緩衝材の最も好適な例である。
【0021】
図1C(1)〜(3)は、図1Aに示すクランプ20の断面図であり、それぞれ、図1AにおけるA〜B間の領域Z1中の1−1方向、B〜C間の領域Z2中の2−2方向、およびC〜D間の領域Z3の3−3方向の断面を示している。図1C(1)〜(3)の断面図は、下側が配管や電線束に接するクランプ20の内周面であり、上側がクランプ20の外周面に相当する。クランプ20は、補強ビード24が配置されるA〜B間の領域Z1を除いて、クッション23をバンド22に安定させるため、クッション23がバンド22の周囲を取り巻く構造になっている。なお、図1C(1)〜(3)のクッション23はクランプ20の内周面が平坦な例を示したが、配管や電線束と接触する内周面に溝や模様などの凹凸を設けることができる。凹凸が滑り止めになるため、特にクッションを単一の材料で構成する場合には、クランプの保持力をより高めることができる。
【0022】
図1D(1)〜(3)には、比較のために従来技術によるループ型クランプにおける、A〜B間の領域Z1中の1−1方向、B〜C間の領域Z2中の2−2方向およびC〜D間の領域Z3の3−3方向に対応する位置の断面を示す。樹脂製のクッション23は、全周にわたって長手方向の中央にスリット25が設けられており、金属製のバンド22は、クッション23で周囲の全体を取り巻かれていない。この構造は、補強ビード部分でクッション23を押し付けないためと考えられ、かつ、クッション23をバンド22に被せてバンドをはめ込む簡単な方法でクランプを製造できるため、従来採用されている。従来の鞍型クランプにおいても同様である。しかし、スリット25があるために、配管に揺れが生じた場合等にクッションがずれたり、ずり落ちたりする問題があった。本実施形態ではクッションが確実に固定されるため、このような問題が生ずることはない。
【0023】
なお、図1を用いてループ型のクランプを説明したが、本発明は基本的に同様の構造で鞍型のクランプにも適用し得る。また、好ましい態様としてクッションの周方向において大部分がバンド周囲全体を取り巻く構造を説明したが、クッションの周方向全体にスリットを設けてもよい。
【0024】
(バンド)
本発明のクランプは、バンドに低温加工可能な(低温加工性)高強度チタン合金を使用する。バンドは上記のように、クランプにおいて支持部材としての役割を担っている。航空機に従来使われているTi−6Al−4V高強度チタン合金は、アルミニウム合金(超ジュラルミン2024)やステンレス鋼(SUS321、SUS631)に較べて、比強度(引張強度/比重)が優れており、かつCFRPとの接触でも電解腐食を起こし難く、CFRPが多用される最近の航空機には好都合な特性を持つ金属材料である。しかし、このような長所があるにも拘らず、小半径曲げ加工や大角度曲げ加工等の加工が難しく、これまで航空機用のクランプのバンド材として用いられることはなかった。チタン合金は、一般的にばね性が非常に強いことが知られており、その特性を生かした用途に重用されている。一方で、航空機用のクランプはループ型においても鞍型においても小半径曲げ加工や大角度曲げ加工を必要とし、そのようなチタン合金のばね性が妨げとなる。したがって、チタン合金は上述した航空宇宙用クランプの規格(SAE−AS85449、AS−85052など)にも規定されていない。特別に熱間加工を施せばTi−6Al−4V高強度チタン合金を使用することもできるが、製造コストが高くなるために実使用に適しているとは言えない。加えて、曲げ加工する部材の一部を加熱するために温度管理も難しく、高温の部材を扱うために作業者にとっても危険な作業環境となり得る。
【0025】
本発明者らは、ここ数年間にチタン圧延メーカーによって開発された低温加工が可能な高強度チタン合金が、航空機用クランプに必要とされる加工性を満たすことを独自につきとめ、適用するに至った。クランプに必要なそのような加工性としては、鞍型クランプの場合は、厚さ0.549mm〜1.016mmのバンドを、最も過酷な条件ではR/T=1.98の小半径に、また最大曲げ角度180°で曲げ加工することが求められる。ここで、Tはバンドの厚さ(mm)を表し、Rは、曲げ加工した後のバンドの円弧部分の半径(mm)を表す。過酷な条件が必要とされるのは、例えばバンドを円弧状の部分から取り付け部分を形成するために外側に向けて曲げる箇所である。なだらかな曲げ加工条件としては、鞍型クランプの規格の最も大きい形状(後掲の表2、鞍型No.13)のDの円弧部分等が該当し、この範囲に限定はされないが、通常R/T=62.0である。したがって、本発明のループ型クランプは、R/T=1.98〜62.0および曲げ角度0〜180°(ただし、0は含まない)、好ましくは1〜180°に加工された高強度チタン合金からなるバンドを備えている。
【0026】
また、ループ型のクランプにおいて必要とされる大角度曲げ加工では、厚さ0.508mm〜1.600mmのバンドを、最も過酷な条件ではR/T=2.25の小半径に、また最大曲げ角度270゜で曲げ加工することが求められる。このような条件は、例えば補強ビードを形成する際に求められる。なだらかな曲げ加工条件としては、ループ型クランプの規格の最も大きい形状(後掲の表2、ループ型No.23)Dの円弧部分等が該当し、この範囲に限定はされないが、通常R/T=20.3である。したがって、本発明の鞍型クランプは、R/T=2.25〜20.3および曲げ角度0〜270°(ただし、0は含まない)、好ましくは1〜270°に加工された高強度チタン合金からなるバンドを備える。上記のような範囲のうちR/Tが小さい形状は、従来のチタン合金では常温で加工し得なかったものである。
【0027】
また、低温加工可能である(低温加工性)とは、加温しない状態で常温での加工が可能なことをいう。チタン合金の最終的な引張強度としては、時効処理後1,000N/mm2〜1,600N/mm2が得られるが、好ましくは1,000〜1,500N/mm2、特に1,200〜1,400N/mm2の高強度を示すことが好ましい。このような強度であれば、クランプとして必要とされる機械的強度を十分に満たすことができるだけでなく、従来のクランプに比べて大幅な重量削減を実現できる。
【0028】
本発明に材料として使用するチタン合金は、溶体化処理された低温加工可能なチタン合金であり、合金特性を発揮する主要な成分がチタンであるものをいう。好ましくは、チタンの含有量が50〜99質量%、より好ましくは65〜95質量%である。チタン合金の好適な組成としては、Ti、AlおよびVの3成分を少なくとも含む。この3成分の合計を100質量%とした場合、AlおよびVはそれぞれ0.1〜25質量%、残部がTiであることが好ましい。上記3成分以外に必要により他の添加元素として、Fe、Mo、Cr、Sn、N、O、C、HおよびYの少なくとも一種を含んでもよく、含有量は合金中に0〜10質量%が好ましい。また、上記チタン合金は微量の不可避的不純物を含み得る。
【0029】
このような組成のチタン合金は、溶体化処理されることにより、柔らかく低温加工が可能となる。溶体化処理とは、合金の固溶限温度以上の適温に加熱し、合金成分を十分に固溶させた後、急冷して過飽和固溶状態にする熱処理を指す。そのため、クランプの形状に容易に加工でき、その後、時効処理を行うことによって、高強度を回復させるものである。時効処理後は、低温加工のできないTi−6Al−4V高強度チタン合金と同等またはそれ以上の引張強度特性を実現でき、クランプに好適である。また、低温加工のできないTi−6Al−4V高強度チタン合金を加工する場合には熱間加工が必須であるのに比較すると、低温加工が可能であるためにクランプの製造コストの大幅な削減が可能となる。
【0030】
本発明のクランプに適用可能な低温加工性チタン合金としては、SSAT−35(住友金属工業株式会社製、組成はTi−3Al−5V)、DAT−51(大同特殊鋼株式会社製、組成はTi−4Al−21.5V)、KS15−3−3−3(株式会社神戸製鋼所製、組成はTi−15V−3Cr−3Sn−3Al)、SP−700(JFEスチール株式会社製、組成はTi−4.5Al−3V)等が挙げられる。これらのチタン合金は、チタン素材メーカーによって溶体化処理後の状態で出荷される。この低温加工性チタン合金を後述するようにクランプの形状に曲げ加工した後、時効処理をすることで引張強度が向上し、高強度チタン合金からなるバンドとなる。
【0031】
さらに、チタン合金は、クランプに従来使用されているステンレス鋼やアルミニウム合金に比較して大幅な軽量化を図ることができる。下記表1には、アルミニウム合金等を使用したときと、本発明の高強度チタン合金(商品名DAT51、大同特殊製鋼株式会社製)を使用したときとで、規格クランプのバンドを製造した場合を比較し、各バンドの引張強度、比重、および従来の素材をチタン化したときの断面積変化および重量変化を示している。チタン化したときとは、クランプとして必要とされる性能を満たすように、従来使用されている合金と低温加工性チタン合金とでバンドを製造した場合に、チタン合金バンドの断面積および重量に対する従来の合金の断面積および重量の比をそれぞれ求めたものである。クランプとして必要とされる性能として、ここでは従来の規格クランプと同等の引張強度を満たすように、バンドの厚さを設計した。なお、SUS631の析出硬化処理後の引張強度は、下記の従来の合金の中で最も高い1,230N/mm2が得られるが、低温加工性チタン合金を使用した高強度チタンの時効処理後の引張強度は1,000〜1,500N/mm2と、ほぼ同等の引張強度が得られる。そのため、表1に示した計算の際には、低温加工性チタン合金を用いた高強度チタン合金の引張強度をSUS631と同じ値の1,230N/mm2として計算・評価した。
【0032】
【表1】
【0033】
上記の表1に示すように、バンドに低温加工性チタン合金を曲げ加工した高強度チタン合金を使用することにより、クランプの金属バンド部の重量は、アルミニウム合金(2024)あるいはSUS631のバンドに比較して約2/3となり、SUS321のバンドに比較して約1/4の重量に軽量化できる。またバンドの断面積は、アルミニウム合金(2024)およびSUS321に比較して1/2以下となる。航空機内部においては、例えわずかずつでも個々の部品の軽量化が輸送コストの低減や低燃費の実現に貢献するため、チタン合金の使用はその点でメリットがある。
【0034】
CFRPによる電解腐食の問題については、バンド材にチタン合金を使用することで、避けることができる。チタン合金は空気中の酸素によって常温で酸化されやすく、バンド表面に自然に酸化皮膜が形成される。この酸化皮膜が保護膜となって、CFRPによる電解腐食を防いでいると考えられる。
【0035】
(クッション)
クランプのクッションは本発明の衝撃緩衝材であり、電線束あるいは配管を保持および保護し、また金属製バンドとの電気的絶縁の役割を担う。
【0036】
クランプの規格に規定されているクッション材は前述の様に8種類あり、それらのうち低温領域で使用されるものがエチレンプロピレンゴム、ニトリルゴム、ニトリルブタジエンゴム、クロロブレンゴムの4種類である。低温から高温領域まで広い温度領域での使用をねらったものがシリコーンゴム、ガラス繊維布強化シリコーンゴム、フロロシリコーンゴムおよびポリテトラフルオロエチレン(PTFE、テフロン(登録商標))の4種類である。
【0037】
広い温度領域で使用できる4種類の樹脂のうち3種類はシリコーン系のゴムである。残りの一つのフッ素系の樹脂については、そのうち加工性が悪くゴムとしての弾力性、保持性に欠けるポリテトラフルオロエチレンのみしか規定されていないのは、クランプの規格が樹脂技術の発展に追従できていないということであろう。
【0038】
シリコーン系ゴムおよびフッ素系樹脂またはフッ素系ゴムは、対温度特性、耐薬品性、耐オゾン性、高い絶縁性、高い絶縁耐力等、クランプのクッション材として非常に優れた特性を備えた材料であるが、それぞれが強みと弱みをもっている。すなわち、シリコーンゴムはゴムの弾力性の面ではフッ素系樹脂またはゴムより優れているが、引き裂き強さではフッ素系樹脂またはゴムに劣る。またシリコーンゴムはフェニルシリコーンゴムなど低温領域で強いが、フッ素樹脂またはゴムは、ヴァイトン(登録商標)やカルレッツ(登録商標)(共にデュポン社製)などのように高温領域に強い。また、PTFEなどのフッ素樹脂は低温から高温領域まで性能の変化が少なく、また経年変化が少なく、かつ高い難燃性を備えるなどの長所があるものの、高い潤滑性があるため保持力に欠けるという短所がある。
【0039】
本発明におけるクッションでは、以上のようなシリコーンゴムとフッ素系樹脂またはゴムの長所を共に備えるよう、それらの組み合わせ生かしたクッション材を用いるか、あるいはシリコーンゴムとフッ素系樹脂またはゴムの短所を物理的に補った新しいクッション材を使用する。この両者はもちろん上記のクランプの規格には含まれておらず、従来使用されていなかったものである。以下に本発明に使用する4種類のクッション材、すなわち発明の第1実施形態から第4実施形態を詳細に説明する。
【0040】
(第1実施形態)
第1実施形態のクッションは、フッ素樹脂とシリコーンゴムとの組み合わせを使用する。フッ素樹脂としては、PTFEが特に好ましい。PTFEは低温から高温領域まで性能の変化が少なく、また経年変化が少なく、かつ高い難燃性を備えるなどの長所があるものの、高い潤滑性があるため保持力に欠けるという短所がある。本実施形態は、このPTFEの短所をシリコーンゴムの弾力性で補ったもので、PTFEに溝や穴を開けて、シリコーンゴムが埋め込まれ、保持力を高めている。
【0041】
図2A(a)は本実施形態のクランプの断面図であり、(b)は同じクランプの内周面を示した図である。図2A(a)に示すように、バンド22の外周全体をPTFE30が取り巻いており、クランプの内周面側のPTFE30には、鳩尾状の溝32が形成されている。この鳩尾状の溝32に嵌合するように突起33を設けた帯状のシリコーンゴム31が、溝に嵌め込まれている。図2A(b)に示すように、シリコーンゴム31は、クランプの長手方向(周方向)に伸張する帯状である。なお、ラインの数は例として示したもので、発明のクッションがライン3本という数に限定したものではない。PTFE30に嵌合した状態でのシリコーンゴム31の高さhは、滑り止めとしての機能を果たす観点から、0.2mm〜0.5mmが適当である。また、その際のシリコーンゴム31の幅wは2mm〜3mm、間隔p1は1.5mm〜2mmが適当である。
【0042】
図2B(a)は、本実施形態による別のクランプの断面図であり、(b)はクランプの内周面を示す。図2B(a)および(b)に示すように、PTFE40には断面鳩尾状で四角形状の穴42が形成され、この穴に嵌合する突起43を形成した四角形状のシリコーンゴム41を嵌め込んでいる。図2B(b)に示すように、シリコーンゴム41は升目状に配置され、クランプの保持力を高めている。なお、升目の数は例として示したもので、図面の態様に限定されない。升目を構成するシリコーンゴム41の四角形の一片の長さlは1mm〜3mmが適当であり、四角形同士の間隔p2は0.2mm〜0.3mmが適当である。なお、シリコーンゴムは四角形のみならず、三角形、六角形等の他の多角形を採用してもよい。
【0043】
シリコーンゴムとしては、KE−136Y(信越化学工業株式会社製)などを使用できる。シリコーンゴムにはガラス繊維が分散配合されており、シリコーンゴムの引き裂きに弱いという欠点を補っている。ガラス繊維の配合量や配合比については特に制限はなく、従来公知の方法を参照して製造できる。
【0044】
このクッションの使用温度範囲は、およそ−50〜200℃であり、これはとりもなおさずクランプの使用温度範囲となる。通常の航空機内使用においては、−50〜135℃の温度範囲で使用できるクッション材が必要とされるため、本実施形態のクッションは十分に対応できるものである。また、クランプは−50〜200℃の温度範囲を超えても使用できるが、その時間が長引けばシリコーンゴムの劣化が早まり、シリコーンゴムの突起部あるいはシリコーンゴム全体が磨耗・脱落してしまう状況が起こり得る。しかし、本実施形態のクッションは、その場合でもPTFE部分は残り、バンド部が電線束などを傷つけることはない。
【0045】
また、シリコーンゴムおよびPTFEの電気的絶縁耐力は、いずれも25kV〜30kV/mmであるので、PTFEの厚みdを1.6mm以上にしておけば、クッションとしての絶縁耐力は40kV/mm以上が維持される。航空機用クランプのクッションの好ましい絶縁耐力は40kV/mmであり、これはMIL−STD−1757Aに規定された雷撃試験電圧(約40kV)をクリアする。この絶縁耐力は、航空機内にCFRPを使用した場合にも通用する絶縁耐力でもある。厚みdの上限値は、クランプの寸法の規格の内径を満たせばよく、2.30mmである。
【0046】
(第2実施形態)
第2実施形態は、温度特性等を改善した単一の材料を使用したクッションを使用する。技術の進歩により、フッ素ゴムもシリコーンゴムも多種多様なものが市場に出ている。特にフッ素ゴムは、低温に強いものが開発され、使用可能な温度範囲はSIFEL(信越化学工業社製)では−50〜200℃と、シリコーンゴムKE−136Y(信越化学工業社製)に遜色ないものとなっている。本実施形態では、このようなフッ素ゴムまたはシリコーンゴムを用いる。上記のように、これらの使用温度範囲は、通常航空機内で必要とされる温度範囲を満たしている。
【0047】
クランプのクッションとして使用する場合、フッ素ゴムの場合は保持力を高めるためにシリカを分散配合する。分散するシリカは、一次凝集体の粒径が数十nm〜数μmであることが好ましく、フッ素ゴムに対して好ましくは2〜3質量%を配合する。
【0048】
また、本実施形態のクッションにはシリコーンゴムを使用することもでき、低温シリコーンゴムのKE−136Y(信越化学工業社製)などを使用することができる。シリコーンゴムを使用する場合は引き裂き強さを補うためにガラス繊維を分散配合する。配合するガラス繊維は、繊維長2〜10mmのものが好ましく、シリコーンゴムに対して好ましくは5〜30質量%を配合する。
【0049】
シリカを分散したフッ素ゴムまたはガラス繊維を分散したシリコーンゴム双方について、分散方法、配合方法、成形方法等の製造方法については特に制限はなく、従来公知の技術を参照して製造できる。例えば、自動車のタイヤに使用されるシリカの分散方法等については多様な製造方法が知られており、この分野の技術を適宜参照することができる。
【0050】
図3は、シリカを分散したフッ素ゴムまたはガラス繊維を分散したシリコーンゴム34を使用したクッション23を備えるクランプの断面図である。このクッション23は、性能としては現在の規格クランプの最高水準の性能と広い使用温度範囲を実現する。また、構造も単純で製造方法も複雑な段階がないため、製造工程を簡便にでき製造コストを低減できるメリットがある。また、クッション23の内側の厚みdが1.6mm以上あれば、電気的絶縁耐力は40kV/mm以上となる。厚みdの上限値は、クランプの寸法の規格の内径を満たせばよく、2.30mmである。
【0051】
(第3実施形態)
図4は第3実施形態によるクランプの断面図である。第3実施形態のクッションは、フッ素樹脂とシリコーンゴムとを組み合わせたものである。このクッションは、図4に示す構造のもので、バンド22を熟可塑性フッ素樹脂のパーフルオロアルコキシアルカン(PFA)皮膜32で被覆し、その周囲をシリコーンゴム36で取り巻き、さらに外皮としてPFA皮膜32で外側を被覆したクッション23で構成されている。
【0052】
外皮のPFAには、引き裂き強さを向上させるためにガラス繊維を、また保持力を向上させるためにシリカが分散配合されている。ガラス繊維及びシリカの好ましい配合量は、PFAに対してそれぞれ5〜30質量%および2〜3質量%である。ガラス繊維およびシリカの分散配合方法等は、上記したとおりである。上記した規格のクッションには、ガラス繊維の織布を挟んだものがあるが、これは高コストであり、かつクッション表面の織布が切れやすいために、強度の点でも十分ではない。
【0053】
内部には低温領域でもクッション材としての弾力性を維持するため、シリコーンゴムを使用する。ここで、クッションの金属バンドに接する内表面およびクッション材の外表面もPFAの外皮でシリコーンゴムを取り囲み、シリコーンゴムを密閉している。このため、シリコーンゴムが金属バンドに直接接触することがないので、シリコーンゴムの引き裂き強さに弱いという短所がこの構造によって補われる。また使用温度が240℃を超えるような高温領域でも、シリコーンゴムが外気に触れることがないため特性の劣化が少なく、高温領域で仮にシリコーンゴムがゲル化した場合でもクッションから離脱することがない。
【0054】
このクッションの使用温度領域の低温側温度は、PFA中に封入するシリコーンゴムの低温特性で決まり、高温側温度は外皮のPFAの高温特性で決まる。通常のシリコーンゴムを使用した場合、クッションの使用温度領域は−40〜260℃、さらに低温特性が低温側にずれたフェニルシリコーンゴムを使用した場合、クッションの使用温度領域は−90〜260℃と、従来の規格クランプ以上の広い温度領域で使用できる。そのため、地球上のあらゆる場所で使用できるのみならず、さらには宇宙空間(人工衛星や宇宙ロケット)においても使用が期待される。なお、クッションの内側の厚みdが1.6mm以上あれば、電気的絶縁耐力は40kV/mm以上となる。厚みdの上限値は、クランプの寸法の規格の内径を満たせばよく、2.30mmである。
【0055】
(第4実施形態)
図4は第3実施形態によるクランプの断面図である。第4実施形態は、発泡させたフッ素樹脂の単一材料のクッション材を使用する。フッ素樹脂として好ましくは熱可塑性フッ素樹脂のパーフルオロアルコキシアルカン(PFA)を使用する。このクッションは図5に示す断面をしており、バンド22が発泡PFA37を使用したクッション23に取り巻かれ、図3に示したシリカを分散したフッ素ゴムまたはガラス繊維を分散したシリコーンゴムを使用したクッションと同様、単純な構造をしている。使用している樹脂はPFAであるが、ゴムとしての弾力性を持たせるためPFAを発泡させており、引き裂き強さを強化するためにガラス繊維を、また保持力を強化するためにシリカを分散配合している。PFA発泡率としては、100〜500%が望ましい。
【0056】
発泡PFAを製造するには従来公知の技術を適宜参照すればよく、例えば、「フッ素樹脂の押出発泡形成技術」フジクラ技報、第111号(2006年10月)、「移動体通信基地局用アンテナ給電線の超高発泡絶縁体の改良検討」三菱電線工業時報、第96号(平成12年2月)を参照して製造できる。上記のフジクラ技法の論文では、PFAの発泡率は70%である。発泡PFAは、ここ数年電線メーカー各社で開発が行われ、各社からその製品である電線・ケーブルも市場に出ており、その技術も公知となっている。
【0057】
本発明では、発泡PFAの泡を独立泡ではなく連続泡に形成することがより好ましい。そのためには、窒素などの不活性ガスを吹き込んで物理発泡させることができる。発泡PFAを独立泡ではなく連続泡に発泡させることにより、気圧の変化を受けることが少ない。また物理的に発泡させているため、化学的発泡剤を使用した場合のように温度範囲が狭まることがなく、PFAの温度特性はそのまま生かされている。したがって、このクッションを用いたクランプの使用温度範囲は−200〜260℃と、これまでのクランプでは実現できなかった広い温度範囲で使用可能である。すなわち、地球上のあらゆる場所、宇宙空間(人工衛星や宇宙ロケット)にも使用できる。
【0058】
なお、クッションの内側の厚みdが1.6mm以上あれば、電気的絶縁耐力は40kV/mm以上となることは、他のクッションを使ったクランプと同様である。厚みdの上限値は、クランプの寸法の規格の内径を満たせばよく、2.30mmである。
【0059】
(クッションの金属製バンドヘの固定方法)
本発明のクランプのバンドを製造するには、低温加工可能なチタン合金を使用するので、従来公知の加工手段を用いることができる。例えば、常温での通常の金属プレス加工技術(常温のプレス成形または常温のベンダー成形)を用いるが、材料特性のバラツキが大きい場合、部分的に温間または熱間成形を行うことも排除しない。加工の後は、強度を高めるために以下のような時効処理を行う。時効処理の温度は、チタン合金の組成によって異なるが、クランプ形状に加工した合金をおおむね200〜600℃で加熱保持する。保持時間は製品の大きさによって変化するが、1〜30時間である。加熱保持後、常温で冷却する。保持時間等の条件は、組成や製品の大きさに応じて所望の引張強度が得られるように適宜調整すればよい。
【0060】
バンドにクッションを固定する際は、通常は、本発明で用いているPFTE、PFAなどのフッ素樹脂やフッ素ゴムなどのゴムは、金属あるいは他の樹脂との結合に注意を要する。接着材を用いる場合、表面処理に注意を払う必要があるが、高温領域で接着剤が劣化しやすいという問題があるためである。
【0061】
図2に示した第1実施形態のクランプでは、PTFEは成形時に断面鳩尾状の溝または穴を作っておき、表面の升目形状またはライン状のシリコーンゴムの基礎部分を溝の中に埋め込んだ状態にすることにより、PTFEにシリコーンゴムを固定している。したがって、接着剤を使用することはなく、接着剤に由来する問題は避けることができる。
【0062】
本発明の好ましい実施形態では、図3、図4、図5に示す第2〜4実施形態のクッションを低温加工性チタン合金を加工した高強度チタン合金に固定する方法として、まず、図6A(a)に示すように高強度チタン合金からなるバンド22にあらかじめ複数個の貫通穴22を設ける。図6A(b)は、図6A(a)のb−b方向の断面図である。次いで、バンド22を溶融状態のクッションの材料に差し込み、この貫通穴22にクッション材を貫通させた状態で成形する。図6B(a)はクッション23を成形した後のクランプを示す図であり、図6B(b)は図6B(a)のb−b方向の断面図である。図6B(b)に示すように、貫通穴38の内部をクッション23の材料が貫通して成形されている。このように成形することにより、クッションはバンドに強固に固定される。
【0063】
図4に示す第3実施形態の場合は、上記のようにしてバンドを被覆する熱可塑性フッ素樹脂(PFA)を初めに金属バンドの回りに袋状にアウトサート成形し、PFAの袋の中にフェニルシリコーンゴムを注入後に注入口にPFAを溶接して塞ぐ。したがって、袋の成形時にバンドの貫通穴を貫通させた状態で成形できる。
【0064】
図2Aおよび図2Bに示す第1実施形態の場合も、PTFEに溝または穴を形成すると共に、バンドの貫通穴を貫通した状態でクッションを成形できる。この方法により、接着剤を使用せず、クッション材を高強度チタン合金に固定する。この固定方法をとることにより、接着剤を塗布する工程を省略でき、また接着剤の高温での劣化の問題も解決することができる。
【0065】
(本発明の軽量化効果)
以上で詳細に説明した本発明のクランプを設計し、従来の規格クランプとの重量の比較を行った。従来の規格クランプとしては、上記したAS85052に規定されているループ型全23種類とAS85449に規定されている鞍型(サドル型)全13種類について、規定されている寸法から金属バンド部および樹脂クッション部の体積を算出し、これに材料の比重を掛算して重量を算出した。評価に用いた規格クランプの寸法のうち、特にクランプの円弧部分の内径の直径D、円弧部分の中心からクランプの外側の表面までの距離C、バンドの厚さTについて、下記表2に示す。DおよびCについては、図7および8に示した。
【0066】
【表2】
【0067】
また、本発明のクランプの金属バンド部については、低温加工可能なチタン合金を使用した高強度チタン合金の引張強度を1,230N/mm2とし、規格クランプの金属バンドと同じ引張強度となるような断面積とした。また樹脂クッション部については、外形寸法が規格クランプと同じとなるようにした。クッションについては、図3に示した第2実施形態のクッション(例1)、図5に示した第4実施形態のクッション(例2)を採用した。
【0068】
したがって、AS85052に規定されているループ型全23種類のクランプに関しては、規格クランプと本発明のクランプの外形寸法は同じであり、AS85449に規定されている鞍型(サドル型)全13種類のクランプに関しては、本発明のクランプでは金属バンド部が薄くなっている分樹脂クッション部の厚みが増えているが、外形寸法はほぼ同じである。
【0069】
下記表3に示すように、例1および2で設計・試算した本発明のクランプの重量の軽量化効果を、規格クランプの重量を1として比較した。規格クランプは、上記した規格AS85052(バンド材:17−7PH(SUS631)、クッション材:ガラス布強化シリコーンゴム)の全23種類のサイズ、およびAS85449(バンド材:SUS321、クッション材:ガラス布強化シリコーンゴム)の全13種類のサイズに従うものであった。規格クランプに比べて、本発明のクランプはいずれも軽量化が実現できていることが分かる。特に、実施例2の物理発泡させたPFAゴムを使用した鞍型クランプの場合には、概算重量比が0.29となり、従来技術と比較して71%もの重量減と大幅な軽量化を実現できる。この設計・試算は、通常クランプを量産する前に実施する信頼性の高いものであり、実際に製造したクランプの特性をほぼ正確に反映するものである。
【0070】
【表3】
【符号の説明】
【0071】
10、20 クランプ、
21 ウェッジ、
22 バンド、
23 クッション、
24 補強ビード、
30、40 PTFE、
31、41、36 シリコーンゴム、
32 溝、
33、43 突起、
34 ガラス繊維分散シリコーンゴムまたはシリカ分散フッ素ゴム、
35 PFA皮膜、
37 発泡PFA、
38 貫通穴、
42 穴、
h 高さ、
l 一片の長さ、
p1、p2 間隔、
w 幅、
Z1 A〜B間の領域、
Z2 A〜B間の領域、
Z3 A〜B間の領域。
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維強化複合材料(CFRP; Carbon Fiber Reinforced Plastic)を機体等に用いた航空機において、電線束や配管を保持し、機体構造に結合するクランプに関する。より詳細には、低温加工可能な高強度チタン合金をバンド材として使用するクッション付きクランプに関する。
【背景技術】
【0002】
航空機用のクランプは電線束や配管を航空機の構造材等に取り付けるものである。クランプは大半はループ型および鞍型と呼ばれる形状をしており、電線束や配管を保持し、ボルト等によって構造材に取付けられる。
【0003】
このような航空機用クランプの規格として、米国の団体であるSociety of Automotive Engineers,Inc.(SAE(登録商標))の規定した規格Aerospace Standard(AS)が広く採用されており、これに従うクランプが一般に用いられている。図7は鞍型のクランプ10を示し、クランプの規格 SAE AS85052に従うものである。クランプ10は、金属製のバンド22とその外側に配置される樹脂製のクッション23とで構成されている。図8はループ型のクランプ20を示し、規格SAE AS85449に従うものである。クランプ20は、同様に金属製のバンド22とその外側に配置される樹脂製のクッション23とで構成されている。
【0004】
通常のクランプの構成は、金属製のバンドおよびバンドを取り巻く樹脂製のクッションからなり、金属製のバンドが保持および取付の強度面の機能を、樹脂製のクッションが電線束あるいは配管の保持と電気的絶縁の機能を分担して有している。上記の規格によって、材料としては、金属製バンドには、鉄、ステンレス鋼およびアルミニウム合金が使用されている。また、クッションには、エチレンプロピレンゴム、ニトリルゴム、ニトリルブタジエンゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、ガラス繊維強化シリコーンゴム、フロロシリコーンゴムおよびテフロン(登録商標)が使用されている。
【0005】
その一方で、炭素繊維強化複合材料(CFRP)が、軽くて十分な強度を有していることから、機体の軽量化を図るべく航空機、宇宙ロケットに広く使用されはじめており、自動車にも導入が試みられている。しかし、CFRPは鉄やアルミニウムに電解腐食を発生させるため、従来のクランプの規格を見直さなければならない状況となってきている。腐食が生じるのは、CFRPが航空機の機体や主翼等の部分に使用され、また外板とフレームは一体成形され、クランプのバンド部分がこれら機体やフレームにボルトを用いて直接取り付けられるためである。すなわち、クランプのバンドはCFRP製の機体や主翼に直接接触し、イオン化傾向が異なるために接触によって電解腐食が生じる。またクランプする燃料配管等は静電気や落雷などから保護するためクランプを介して接地し導電路となる場合があり、この場合にバンド材の電解腐食は一層促進される。図9は、就航間近の最新民間航空機B787に使用されている素材を区別して示したものである(ボーイング社ホームページより抜粋)。図9から、機体および主翼の大部分にCFRPが使用されていることが分かる。
【0006】
またCFRPは、繊維方向の電気抵抗は小さいという特有の電気抵抗の方向性を有しているため、それを導入した移動体の接地・経線を含む総合的な電気系統・耐雷対策の見直しが必要とされている。それに伴って、クランプに要求される性能もCFRP使用の影響を回避できない状況にある。
【0007】
上記のCFRPによる金属製バンドの腐食の問題を解決するための試みが、米国アンフェノール社で行われた。それは、従来のクランプ規格に定められた形状・材質に拘らず、ポリ・エーテル・エーテル・ケトン(PEEK)およびシリコーンゴムを使用し、金属を使用しない全樹脂製のクランプの提案である(下記非特許文献1参照)。しかしながら、全樹脂製のクランプはまだ製造コストが高く、航空機用に広く使用されるには至っていない。さらに軽量化という点からも、未だ改善の余地がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】ビクトレックス社プレスリリース、2008年11月5日、URL:http://www.victrex.com/jp/news/press.php?pressid=635
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、クランプの金属製バンドとして従来用いられている、鉄、特にステンレス鋼のうち17−7PH(SUS631に相当する)、およびアルミニウム合金は、CFRPとの接触で電解腐食が起きる。そのため、CFRPと共に使用して腐食を生じないバンドが求められている。加えて、航空機では低燃費実現や輸送コスト低減のために、バンド材においてもさらなる軽量化が求められている。
【0010】
クッション材として従来用いられている、エチレンプロピレンゴム、ニトリルゴム、ニトリルブタジエンゴム、クロロプレンゴムの4種類のゴムは、使用環境として低温に非常に強いものもあるが、150℃以下と高温には比較的弱く、航空機内使用には温度特性が十分ではない。また体積抵抗が小さく絶縁耐力が低い等、電気的物性も十分ではなく、クラックが入り易い、寿命が短い等の課題もあった。
【0011】
またシリコーンゴム、ガラス繊維布強化シリコーンゴム、フロロシリコーンゴム、テフロン(登録商標)の4種類のクッション材は、使用環境としての温度範囲も比較的広く、電気的特性も良く、耐薬品性等も優れている。しかし、機械的特性の面から、シリコーンゴムは破断しやすく、またテフロン(登録商標)はクランプ力(保持力)での問題点が内在している。またCFRPの電気抵抗の方向性は、それを導入した移動体の接地・絶縁を含む総合的な電気系統・耐雷対策の見直しを必要とし、クランプには絶縁抵抗や絶縁破壊耐力などの電気的特性の更なる向上が求められている。
【0012】
本発明は、この様な技術的問題点を解決し、CFRPと共に使用しても、電解腐食が生じることなくかつ望ましい電気的特性を示す航空機用のクランプを提供することを目的とする。さらには、クランプとしての機械的特性を維持しつつ、軽量化・低燃費の要請にも応え得る航空機用のクランプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のクランプは、従来のクランプ規格の形状をほぼ踏襲しながら、上記の課題を解決するものである。すなわち、溶体化処理された低温加工性チタン合金を曲げ加工した、高強度チタン合金からなる支持部材の外表面を衝撃緩衝材で覆ってなるクランプである。本発明は、航空機用クランプとしては、支持部材である金属バンドとして新しく開発された溶体化処理された低温加工性チタン合金を使用する。また衝撃緩衝材であるクッション材としては、(1)フッ素樹脂(PTFEなど)とシリコーンゴムの組み合わせ、(2)新しく開発された低温特性に優れたフッ素ゴム、(3)熱可塑性フッ素樹脂(PFAなど)とシリコーンゴムの組み合わせ、(4)物理発泡させ、シリカを分散させた熱可塑性フッ素樹脂(PFAなど)のいずれかを使用している。
【発明の効果】
【0014】
本発明のクランプは、チタン合金を利用することにより、CFRPと共に使用しても電解腐食を生じない、安定で製品寿命の長いものである。さらに、チタン合金が軽いために、従来よりもクランプの大幅な軽量化が図れる。
【0015】
さらに、本発明のクランプは、クッション材に適した材料および構造を工夫することにより、使用温度範囲が広く、十分な機械的特性および電気的特性を備え、より軽量化が図れるものとなる。
【0016】
また、本発明のクランプは、金属の持つ引張最強度特性および樹脂の持つ絶縁特性・保持(クランプ)特性を生かした、金属と樹脂との複合製品であることにより、前記の全樹脂製クランプと比較して、同等以上の性能かつ50%程度の軽量化を実現するとともに、大幅なコストダウン・価格ダウンが可能である。
【0017】
また、本発明は航空機用のクランプの課題解決・特性向上に貢献するが、航空機内と同様の使用環境であれば、用途は航空分野だけでなく、人工衛星や宇宙ロケットなどの宇宙分野、あるいはCFRPを使用した自動車などの分野にも利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1A】本発明のクランプの一例を示す図である。
【図1B】図1Aに示すクランプの要部を拡大した図である。
【図1C】(1)は図1Aに示すクランプの1−1方向、(2)は2−2方向、(3)は3−3方向の断面図である。
【図1D】(1)は従来技術によるクランプの1−1方向、(2)は2−2方向、(3)は3−3方向の断面図である。
【図2A】本発明の第1実施形態によるクランプを示す図であり、(a)は断面図、(b)はクランプの内周面の図である。
【図2B】本発明の第1実施形態による別のクランプを示す図であり、(a)は断面図、(b)はクランプの内周面の図である。
【図3】本発明の第2実施形態によるクランプの断面図である。
【図4】本発明の第3実施形態によるクランプの断面図である。
【図5】本発明の第4実施形態によるクランプの断面図である。
【図6A】(a)は穴を設けたバンドを示す図であり、(b)は(a)のb−b方向の断面図である。
【図6B】(a)は図6Aのバンドを使用したクランプを示す図であり、(b)は、(a)のb−b方向の断面図である。
【図7】従来技術による鞍型クランプを示す図である。
【図8】従来技術によるループ型クランプを示す図である。
【図9】航空機を構成する素材を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明のクランプについて詳細に説明する。
【0020】
(クランプの全体構造)
図1Aは、本発明の好ましい一例であるループ型クランプ20を示す図である。クランプ20は、低温加工性チタン合金を曲げ加工等した高強度チタン合金からなる扁平な帯状のバンド22と、これを取り巻く軸直角断面矩形状をした樹脂製のクッション23とで構成される。ループ型のクランプの場合は、クッション23の一方の端にウェッジ21が設けられている。ウェッジ21は、クッション23の一端部を放射方向内方に突出することにより形成され、電線束や配管等の断面円形をした被結束具の外周面に沿うように形成され、被結束具の保持力の向上を図っている。また、クッション23の他端側において、クランプ20は補強ビード24によって機体等に固定される。補強ビードは、耐振性の向上を図っている。図1Bは図1Aの要部を拡大した図であり、分かりやすさのためクッションを省いて描かれている。一方、クッション23の他端部は、バンド22に形成された補強ビード24を包囲しているが、外周面側にはスリット25が形成されている。なお、補強ビード24はバンド22の一部を径方向に外方に向けて突出するように形成されている。内部の被結束具を変形させないためである。なお、図1中のバンド22は、本発明に係る支持部材の最も好適な例である。図1中のクッション23は、本発明に係る衝撃緩衝材の最も好適な例である。
【0021】
図1C(1)〜(3)は、図1Aに示すクランプ20の断面図であり、それぞれ、図1AにおけるA〜B間の領域Z1中の1−1方向、B〜C間の領域Z2中の2−2方向、およびC〜D間の領域Z3の3−3方向の断面を示している。図1C(1)〜(3)の断面図は、下側が配管や電線束に接するクランプ20の内周面であり、上側がクランプ20の外周面に相当する。クランプ20は、補強ビード24が配置されるA〜B間の領域Z1を除いて、クッション23をバンド22に安定させるため、クッション23がバンド22の周囲を取り巻く構造になっている。なお、図1C(1)〜(3)のクッション23はクランプ20の内周面が平坦な例を示したが、配管や電線束と接触する内周面に溝や模様などの凹凸を設けることができる。凹凸が滑り止めになるため、特にクッションを単一の材料で構成する場合には、クランプの保持力をより高めることができる。
【0022】
図1D(1)〜(3)には、比較のために従来技術によるループ型クランプにおける、A〜B間の領域Z1中の1−1方向、B〜C間の領域Z2中の2−2方向およびC〜D間の領域Z3の3−3方向に対応する位置の断面を示す。樹脂製のクッション23は、全周にわたって長手方向の中央にスリット25が設けられており、金属製のバンド22は、クッション23で周囲の全体を取り巻かれていない。この構造は、補強ビード部分でクッション23を押し付けないためと考えられ、かつ、クッション23をバンド22に被せてバンドをはめ込む簡単な方法でクランプを製造できるため、従来採用されている。従来の鞍型クランプにおいても同様である。しかし、スリット25があるために、配管に揺れが生じた場合等にクッションがずれたり、ずり落ちたりする問題があった。本実施形態ではクッションが確実に固定されるため、このような問題が生ずることはない。
【0023】
なお、図1を用いてループ型のクランプを説明したが、本発明は基本的に同様の構造で鞍型のクランプにも適用し得る。また、好ましい態様としてクッションの周方向において大部分がバンド周囲全体を取り巻く構造を説明したが、クッションの周方向全体にスリットを設けてもよい。
【0024】
(バンド)
本発明のクランプは、バンドに低温加工可能な(低温加工性)高強度チタン合金を使用する。バンドは上記のように、クランプにおいて支持部材としての役割を担っている。航空機に従来使われているTi−6Al−4V高強度チタン合金は、アルミニウム合金(超ジュラルミン2024)やステンレス鋼(SUS321、SUS631)に較べて、比強度(引張強度/比重)が優れており、かつCFRPとの接触でも電解腐食を起こし難く、CFRPが多用される最近の航空機には好都合な特性を持つ金属材料である。しかし、このような長所があるにも拘らず、小半径曲げ加工や大角度曲げ加工等の加工が難しく、これまで航空機用のクランプのバンド材として用いられることはなかった。チタン合金は、一般的にばね性が非常に強いことが知られており、その特性を生かした用途に重用されている。一方で、航空機用のクランプはループ型においても鞍型においても小半径曲げ加工や大角度曲げ加工を必要とし、そのようなチタン合金のばね性が妨げとなる。したがって、チタン合金は上述した航空宇宙用クランプの規格(SAE−AS85449、AS−85052など)にも規定されていない。特別に熱間加工を施せばTi−6Al−4V高強度チタン合金を使用することもできるが、製造コストが高くなるために実使用に適しているとは言えない。加えて、曲げ加工する部材の一部を加熱するために温度管理も難しく、高温の部材を扱うために作業者にとっても危険な作業環境となり得る。
【0025】
本発明者らは、ここ数年間にチタン圧延メーカーによって開発された低温加工が可能な高強度チタン合金が、航空機用クランプに必要とされる加工性を満たすことを独自につきとめ、適用するに至った。クランプに必要なそのような加工性としては、鞍型クランプの場合は、厚さ0.549mm〜1.016mmのバンドを、最も過酷な条件ではR/T=1.98の小半径に、また最大曲げ角度180°で曲げ加工することが求められる。ここで、Tはバンドの厚さ(mm)を表し、Rは、曲げ加工した後のバンドの円弧部分の半径(mm)を表す。過酷な条件が必要とされるのは、例えばバンドを円弧状の部分から取り付け部分を形成するために外側に向けて曲げる箇所である。なだらかな曲げ加工条件としては、鞍型クランプの規格の最も大きい形状(後掲の表2、鞍型No.13)のDの円弧部分等が該当し、この範囲に限定はされないが、通常R/T=62.0である。したがって、本発明のループ型クランプは、R/T=1.98〜62.0および曲げ角度0〜180°(ただし、0は含まない)、好ましくは1〜180°に加工された高強度チタン合金からなるバンドを備えている。
【0026】
また、ループ型のクランプにおいて必要とされる大角度曲げ加工では、厚さ0.508mm〜1.600mmのバンドを、最も過酷な条件ではR/T=2.25の小半径に、また最大曲げ角度270゜で曲げ加工することが求められる。このような条件は、例えば補強ビードを形成する際に求められる。なだらかな曲げ加工条件としては、ループ型クランプの規格の最も大きい形状(後掲の表2、ループ型No.23)Dの円弧部分等が該当し、この範囲に限定はされないが、通常R/T=20.3である。したがって、本発明の鞍型クランプは、R/T=2.25〜20.3および曲げ角度0〜270°(ただし、0は含まない)、好ましくは1〜270°に加工された高強度チタン合金からなるバンドを備える。上記のような範囲のうちR/Tが小さい形状は、従来のチタン合金では常温で加工し得なかったものである。
【0027】
また、低温加工可能である(低温加工性)とは、加温しない状態で常温での加工が可能なことをいう。チタン合金の最終的な引張強度としては、時効処理後1,000N/mm2〜1,600N/mm2が得られるが、好ましくは1,000〜1,500N/mm2、特に1,200〜1,400N/mm2の高強度を示すことが好ましい。このような強度であれば、クランプとして必要とされる機械的強度を十分に満たすことができるだけでなく、従来のクランプに比べて大幅な重量削減を実現できる。
【0028】
本発明に材料として使用するチタン合金は、溶体化処理された低温加工可能なチタン合金であり、合金特性を発揮する主要な成分がチタンであるものをいう。好ましくは、チタンの含有量が50〜99質量%、より好ましくは65〜95質量%である。チタン合金の好適な組成としては、Ti、AlおよびVの3成分を少なくとも含む。この3成分の合計を100質量%とした場合、AlおよびVはそれぞれ0.1〜25質量%、残部がTiであることが好ましい。上記3成分以外に必要により他の添加元素として、Fe、Mo、Cr、Sn、N、O、C、HおよびYの少なくとも一種を含んでもよく、含有量は合金中に0〜10質量%が好ましい。また、上記チタン合金は微量の不可避的不純物を含み得る。
【0029】
このような組成のチタン合金は、溶体化処理されることにより、柔らかく低温加工が可能となる。溶体化処理とは、合金の固溶限温度以上の適温に加熱し、合金成分を十分に固溶させた後、急冷して過飽和固溶状態にする熱処理を指す。そのため、クランプの形状に容易に加工でき、その後、時効処理を行うことによって、高強度を回復させるものである。時効処理後は、低温加工のできないTi−6Al−4V高強度チタン合金と同等またはそれ以上の引張強度特性を実現でき、クランプに好適である。また、低温加工のできないTi−6Al−4V高強度チタン合金を加工する場合には熱間加工が必須であるのに比較すると、低温加工が可能であるためにクランプの製造コストの大幅な削減が可能となる。
【0030】
本発明のクランプに適用可能な低温加工性チタン合金としては、SSAT−35(住友金属工業株式会社製、組成はTi−3Al−5V)、DAT−51(大同特殊鋼株式会社製、組成はTi−4Al−21.5V)、KS15−3−3−3(株式会社神戸製鋼所製、組成はTi−15V−3Cr−3Sn−3Al)、SP−700(JFEスチール株式会社製、組成はTi−4.5Al−3V)等が挙げられる。これらのチタン合金は、チタン素材メーカーによって溶体化処理後の状態で出荷される。この低温加工性チタン合金を後述するようにクランプの形状に曲げ加工した後、時効処理をすることで引張強度が向上し、高強度チタン合金からなるバンドとなる。
【0031】
さらに、チタン合金は、クランプに従来使用されているステンレス鋼やアルミニウム合金に比較して大幅な軽量化を図ることができる。下記表1には、アルミニウム合金等を使用したときと、本発明の高強度チタン合金(商品名DAT51、大同特殊製鋼株式会社製)を使用したときとで、規格クランプのバンドを製造した場合を比較し、各バンドの引張強度、比重、および従来の素材をチタン化したときの断面積変化および重量変化を示している。チタン化したときとは、クランプとして必要とされる性能を満たすように、従来使用されている合金と低温加工性チタン合金とでバンドを製造した場合に、チタン合金バンドの断面積および重量に対する従来の合金の断面積および重量の比をそれぞれ求めたものである。クランプとして必要とされる性能として、ここでは従来の規格クランプと同等の引張強度を満たすように、バンドの厚さを設計した。なお、SUS631の析出硬化処理後の引張強度は、下記の従来の合金の中で最も高い1,230N/mm2が得られるが、低温加工性チタン合金を使用した高強度チタンの時効処理後の引張強度は1,000〜1,500N/mm2と、ほぼ同等の引張強度が得られる。そのため、表1に示した計算の際には、低温加工性チタン合金を用いた高強度チタン合金の引張強度をSUS631と同じ値の1,230N/mm2として計算・評価した。
【0032】
【表1】
【0033】
上記の表1に示すように、バンドに低温加工性チタン合金を曲げ加工した高強度チタン合金を使用することにより、クランプの金属バンド部の重量は、アルミニウム合金(2024)あるいはSUS631のバンドに比較して約2/3となり、SUS321のバンドに比較して約1/4の重量に軽量化できる。またバンドの断面積は、アルミニウム合金(2024)およびSUS321に比較して1/2以下となる。航空機内部においては、例えわずかずつでも個々の部品の軽量化が輸送コストの低減や低燃費の実現に貢献するため、チタン合金の使用はその点でメリットがある。
【0034】
CFRPによる電解腐食の問題については、バンド材にチタン合金を使用することで、避けることができる。チタン合金は空気中の酸素によって常温で酸化されやすく、バンド表面に自然に酸化皮膜が形成される。この酸化皮膜が保護膜となって、CFRPによる電解腐食を防いでいると考えられる。
【0035】
(クッション)
クランプのクッションは本発明の衝撃緩衝材であり、電線束あるいは配管を保持および保護し、また金属製バンドとの電気的絶縁の役割を担う。
【0036】
クランプの規格に規定されているクッション材は前述の様に8種類あり、それらのうち低温領域で使用されるものがエチレンプロピレンゴム、ニトリルゴム、ニトリルブタジエンゴム、クロロブレンゴムの4種類である。低温から高温領域まで広い温度領域での使用をねらったものがシリコーンゴム、ガラス繊維布強化シリコーンゴム、フロロシリコーンゴムおよびポリテトラフルオロエチレン(PTFE、テフロン(登録商標))の4種類である。
【0037】
広い温度領域で使用できる4種類の樹脂のうち3種類はシリコーン系のゴムである。残りの一つのフッ素系の樹脂については、そのうち加工性が悪くゴムとしての弾力性、保持性に欠けるポリテトラフルオロエチレンのみしか規定されていないのは、クランプの規格が樹脂技術の発展に追従できていないということであろう。
【0038】
シリコーン系ゴムおよびフッ素系樹脂またはフッ素系ゴムは、対温度特性、耐薬品性、耐オゾン性、高い絶縁性、高い絶縁耐力等、クランプのクッション材として非常に優れた特性を備えた材料であるが、それぞれが強みと弱みをもっている。すなわち、シリコーンゴムはゴムの弾力性の面ではフッ素系樹脂またはゴムより優れているが、引き裂き強さではフッ素系樹脂またはゴムに劣る。またシリコーンゴムはフェニルシリコーンゴムなど低温領域で強いが、フッ素樹脂またはゴムは、ヴァイトン(登録商標)やカルレッツ(登録商標)(共にデュポン社製)などのように高温領域に強い。また、PTFEなどのフッ素樹脂は低温から高温領域まで性能の変化が少なく、また経年変化が少なく、かつ高い難燃性を備えるなどの長所があるものの、高い潤滑性があるため保持力に欠けるという短所がある。
【0039】
本発明におけるクッションでは、以上のようなシリコーンゴムとフッ素系樹脂またはゴムの長所を共に備えるよう、それらの組み合わせ生かしたクッション材を用いるか、あるいはシリコーンゴムとフッ素系樹脂またはゴムの短所を物理的に補った新しいクッション材を使用する。この両者はもちろん上記のクランプの規格には含まれておらず、従来使用されていなかったものである。以下に本発明に使用する4種類のクッション材、すなわち発明の第1実施形態から第4実施形態を詳細に説明する。
【0040】
(第1実施形態)
第1実施形態のクッションは、フッ素樹脂とシリコーンゴムとの組み合わせを使用する。フッ素樹脂としては、PTFEが特に好ましい。PTFEは低温から高温領域まで性能の変化が少なく、また経年変化が少なく、かつ高い難燃性を備えるなどの長所があるものの、高い潤滑性があるため保持力に欠けるという短所がある。本実施形態は、このPTFEの短所をシリコーンゴムの弾力性で補ったもので、PTFEに溝や穴を開けて、シリコーンゴムが埋め込まれ、保持力を高めている。
【0041】
図2A(a)は本実施形態のクランプの断面図であり、(b)は同じクランプの内周面を示した図である。図2A(a)に示すように、バンド22の外周全体をPTFE30が取り巻いており、クランプの内周面側のPTFE30には、鳩尾状の溝32が形成されている。この鳩尾状の溝32に嵌合するように突起33を設けた帯状のシリコーンゴム31が、溝に嵌め込まれている。図2A(b)に示すように、シリコーンゴム31は、クランプの長手方向(周方向)に伸張する帯状である。なお、ラインの数は例として示したもので、発明のクッションがライン3本という数に限定したものではない。PTFE30に嵌合した状態でのシリコーンゴム31の高さhは、滑り止めとしての機能を果たす観点から、0.2mm〜0.5mmが適当である。また、その際のシリコーンゴム31の幅wは2mm〜3mm、間隔p1は1.5mm〜2mmが適当である。
【0042】
図2B(a)は、本実施形態による別のクランプの断面図であり、(b)はクランプの内周面を示す。図2B(a)および(b)に示すように、PTFE40には断面鳩尾状で四角形状の穴42が形成され、この穴に嵌合する突起43を形成した四角形状のシリコーンゴム41を嵌め込んでいる。図2B(b)に示すように、シリコーンゴム41は升目状に配置され、クランプの保持力を高めている。なお、升目の数は例として示したもので、図面の態様に限定されない。升目を構成するシリコーンゴム41の四角形の一片の長さlは1mm〜3mmが適当であり、四角形同士の間隔p2は0.2mm〜0.3mmが適当である。なお、シリコーンゴムは四角形のみならず、三角形、六角形等の他の多角形を採用してもよい。
【0043】
シリコーンゴムとしては、KE−136Y(信越化学工業株式会社製)などを使用できる。シリコーンゴムにはガラス繊維が分散配合されており、シリコーンゴムの引き裂きに弱いという欠点を補っている。ガラス繊維の配合量や配合比については特に制限はなく、従来公知の方法を参照して製造できる。
【0044】
このクッションの使用温度範囲は、およそ−50〜200℃であり、これはとりもなおさずクランプの使用温度範囲となる。通常の航空機内使用においては、−50〜135℃の温度範囲で使用できるクッション材が必要とされるため、本実施形態のクッションは十分に対応できるものである。また、クランプは−50〜200℃の温度範囲を超えても使用できるが、その時間が長引けばシリコーンゴムの劣化が早まり、シリコーンゴムの突起部あるいはシリコーンゴム全体が磨耗・脱落してしまう状況が起こり得る。しかし、本実施形態のクッションは、その場合でもPTFE部分は残り、バンド部が電線束などを傷つけることはない。
【0045】
また、シリコーンゴムおよびPTFEの電気的絶縁耐力は、いずれも25kV〜30kV/mmであるので、PTFEの厚みdを1.6mm以上にしておけば、クッションとしての絶縁耐力は40kV/mm以上が維持される。航空機用クランプのクッションの好ましい絶縁耐力は40kV/mmであり、これはMIL−STD−1757Aに規定された雷撃試験電圧(約40kV)をクリアする。この絶縁耐力は、航空機内にCFRPを使用した場合にも通用する絶縁耐力でもある。厚みdの上限値は、クランプの寸法の規格の内径を満たせばよく、2.30mmである。
【0046】
(第2実施形態)
第2実施形態は、温度特性等を改善した単一の材料を使用したクッションを使用する。技術の進歩により、フッ素ゴムもシリコーンゴムも多種多様なものが市場に出ている。特にフッ素ゴムは、低温に強いものが開発され、使用可能な温度範囲はSIFEL(信越化学工業社製)では−50〜200℃と、シリコーンゴムKE−136Y(信越化学工業社製)に遜色ないものとなっている。本実施形態では、このようなフッ素ゴムまたはシリコーンゴムを用いる。上記のように、これらの使用温度範囲は、通常航空機内で必要とされる温度範囲を満たしている。
【0047】
クランプのクッションとして使用する場合、フッ素ゴムの場合は保持力を高めるためにシリカを分散配合する。分散するシリカは、一次凝集体の粒径が数十nm〜数μmであることが好ましく、フッ素ゴムに対して好ましくは2〜3質量%を配合する。
【0048】
また、本実施形態のクッションにはシリコーンゴムを使用することもでき、低温シリコーンゴムのKE−136Y(信越化学工業社製)などを使用することができる。シリコーンゴムを使用する場合は引き裂き強さを補うためにガラス繊維を分散配合する。配合するガラス繊維は、繊維長2〜10mmのものが好ましく、シリコーンゴムに対して好ましくは5〜30質量%を配合する。
【0049】
シリカを分散したフッ素ゴムまたはガラス繊維を分散したシリコーンゴム双方について、分散方法、配合方法、成形方法等の製造方法については特に制限はなく、従来公知の技術を参照して製造できる。例えば、自動車のタイヤに使用されるシリカの分散方法等については多様な製造方法が知られており、この分野の技術を適宜参照することができる。
【0050】
図3は、シリカを分散したフッ素ゴムまたはガラス繊維を分散したシリコーンゴム34を使用したクッション23を備えるクランプの断面図である。このクッション23は、性能としては現在の規格クランプの最高水準の性能と広い使用温度範囲を実現する。また、構造も単純で製造方法も複雑な段階がないため、製造工程を簡便にでき製造コストを低減できるメリットがある。また、クッション23の内側の厚みdが1.6mm以上あれば、電気的絶縁耐力は40kV/mm以上となる。厚みdの上限値は、クランプの寸法の規格の内径を満たせばよく、2.30mmである。
【0051】
(第3実施形態)
図4は第3実施形態によるクランプの断面図である。第3実施形態のクッションは、フッ素樹脂とシリコーンゴムとを組み合わせたものである。このクッションは、図4に示す構造のもので、バンド22を熟可塑性フッ素樹脂のパーフルオロアルコキシアルカン(PFA)皮膜32で被覆し、その周囲をシリコーンゴム36で取り巻き、さらに外皮としてPFA皮膜32で外側を被覆したクッション23で構成されている。
【0052】
外皮のPFAには、引き裂き強さを向上させるためにガラス繊維を、また保持力を向上させるためにシリカが分散配合されている。ガラス繊維及びシリカの好ましい配合量は、PFAに対してそれぞれ5〜30質量%および2〜3質量%である。ガラス繊維およびシリカの分散配合方法等は、上記したとおりである。上記した規格のクッションには、ガラス繊維の織布を挟んだものがあるが、これは高コストであり、かつクッション表面の織布が切れやすいために、強度の点でも十分ではない。
【0053】
内部には低温領域でもクッション材としての弾力性を維持するため、シリコーンゴムを使用する。ここで、クッションの金属バンドに接する内表面およびクッション材の外表面もPFAの外皮でシリコーンゴムを取り囲み、シリコーンゴムを密閉している。このため、シリコーンゴムが金属バンドに直接接触することがないので、シリコーンゴムの引き裂き強さに弱いという短所がこの構造によって補われる。また使用温度が240℃を超えるような高温領域でも、シリコーンゴムが外気に触れることがないため特性の劣化が少なく、高温領域で仮にシリコーンゴムがゲル化した場合でもクッションから離脱することがない。
【0054】
このクッションの使用温度領域の低温側温度は、PFA中に封入するシリコーンゴムの低温特性で決まり、高温側温度は外皮のPFAの高温特性で決まる。通常のシリコーンゴムを使用した場合、クッションの使用温度領域は−40〜260℃、さらに低温特性が低温側にずれたフェニルシリコーンゴムを使用した場合、クッションの使用温度領域は−90〜260℃と、従来の規格クランプ以上の広い温度領域で使用できる。そのため、地球上のあらゆる場所で使用できるのみならず、さらには宇宙空間(人工衛星や宇宙ロケット)においても使用が期待される。なお、クッションの内側の厚みdが1.6mm以上あれば、電気的絶縁耐力は40kV/mm以上となる。厚みdの上限値は、クランプの寸法の規格の内径を満たせばよく、2.30mmである。
【0055】
(第4実施形態)
図4は第3実施形態によるクランプの断面図である。第4実施形態は、発泡させたフッ素樹脂の単一材料のクッション材を使用する。フッ素樹脂として好ましくは熱可塑性フッ素樹脂のパーフルオロアルコキシアルカン(PFA)を使用する。このクッションは図5に示す断面をしており、バンド22が発泡PFA37を使用したクッション23に取り巻かれ、図3に示したシリカを分散したフッ素ゴムまたはガラス繊維を分散したシリコーンゴムを使用したクッションと同様、単純な構造をしている。使用している樹脂はPFAであるが、ゴムとしての弾力性を持たせるためPFAを発泡させており、引き裂き強さを強化するためにガラス繊維を、また保持力を強化するためにシリカを分散配合している。PFA発泡率としては、100〜500%が望ましい。
【0056】
発泡PFAを製造するには従来公知の技術を適宜参照すればよく、例えば、「フッ素樹脂の押出発泡形成技術」フジクラ技報、第111号(2006年10月)、「移動体通信基地局用アンテナ給電線の超高発泡絶縁体の改良検討」三菱電線工業時報、第96号(平成12年2月)を参照して製造できる。上記のフジクラ技法の論文では、PFAの発泡率は70%である。発泡PFAは、ここ数年電線メーカー各社で開発が行われ、各社からその製品である電線・ケーブルも市場に出ており、その技術も公知となっている。
【0057】
本発明では、発泡PFAの泡を独立泡ではなく連続泡に形成することがより好ましい。そのためには、窒素などの不活性ガスを吹き込んで物理発泡させることができる。発泡PFAを独立泡ではなく連続泡に発泡させることにより、気圧の変化を受けることが少ない。また物理的に発泡させているため、化学的発泡剤を使用した場合のように温度範囲が狭まることがなく、PFAの温度特性はそのまま生かされている。したがって、このクッションを用いたクランプの使用温度範囲は−200〜260℃と、これまでのクランプでは実現できなかった広い温度範囲で使用可能である。すなわち、地球上のあらゆる場所、宇宙空間(人工衛星や宇宙ロケット)にも使用できる。
【0058】
なお、クッションの内側の厚みdが1.6mm以上あれば、電気的絶縁耐力は40kV/mm以上となることは、他のクッションを使ったクランプと同様である。厚みdの上限値は、クランプの寸法の規格の内径を満たせばよく、2.30mmである。
【0059】
(クッションの金属製バンドヘの固定方法)
本発明のクランプのバンドを製造するには、低温加工可能なチタン合金を使用するので、従来公知の加工手段を用いることができる。例えば、常温での通常の金属プレス加工技術(常温のプレス成形または常温のベンダー成形)を用いるが、材料特性のバラツキが大きい場合、部分的に温間または熱間成形を行うことも排除しない。加工の後は、強度を高めるために以下のような時効処理を行う。時効処理の温度は、チタン合金の組成によって異なるが、クランプ形状に加工した合金をおおむね200〜600℃で加熱保持する。保持時間は製品の大きさによって変化するが、1〜30時間である。加熱保持後、常温で冷却する。保持時間等の条件は、組成や製品の大きさに応じて所望の引張強度が得られるように適宜調整すればよい。
【0060】
バンドにクッションを固定する際は、通常は、本発明で用いているPFTE、PFAなどのフッ素樹脂やフッ素ゴムなどのゴムは、金属あるいは他の樹脂との結合に注意を要する。接着材を用いる場合、表面処理に注意を払う必要があるが、高温領域で接着剤が劣化しやすいという問題があるためである。
【0061】
図2に示した第1実施形態のクランプでは、PTFEは成形時に断面鳩尾状の溝または穴を作っておき、表面の升目形状またはライン状のシリコーンゴムの基礎部分を溝の中に埋め込んだ状態にすることにより、PTFEにシリコーンゴムを固定している。したがって、接着剤を使用することはなく、接着剤に由来する問題は避けることができる。
【0062】
本発明の好ましい実施形態では、図3、図4、図5に示す第2〜4実施形態のクッションを低温加工性チタン合金を加工した高強度チタン合金に固定する方法として、まず、図6A(a)に示すように高強度チタン合金からなるバンド22にあらかじめ複数個の貫通穴22を設ける。図6A(b)は、図6A(a)のb−b方向の断面図である。次いで、バンド22を溶融状態のクッションの材料に差し込み、この貫通穴22にクッション材を貫通させた状態で成形する。図6B(a)はクッション23を成形した後のクランプを示す図であり、図6B(b)は図6B(a)のb−b方向の断面図である。図6B(b)に示すように、貫通穴38の内部をクッション23の材料が貫通して成形されている。このように成形することにより、クッションはバンドに強固に固定される。
【0063】
図4に示す第3実施形態の場合は、上記のようにしてバンドを被覆する熱可塑性フッ素樹脂(PFA)を初めに金属バンドの回りに袋状にアウトサート成形し、PFAの袋の中にフェニルシリコーンゴムを注入後に注入口にPFAを溶接して塞ぐ。したがって、袋の成形時にバンドの貫通穴を貫通させた状態で成形できる。
【0064】
図2Aおよび図2Bに示す第1実施形態の場合も、PTFEに溝または穴を形成すると共に、バンドの貫通穴を貫通した状態でクッションを成形できる。この方法により、接着剤を使用せず、クッション材を高強度チタン合金に固定する。この固定方法をとることにより、接着剤を塗布する工程を省略でき、また接着剤の高温での劣化の問題も解決することができる。
【0065】
(本発明の軽量化効果)
以上で詳細に説明した本発明のクランプを設計し、従来の規格クランプとの重量の比較を行った。従来の規格クランプとしては、上記したAS85052に規定されているループ型全23種類とAS85449に規定されている鞍型(サドル型)全13種類について、規定されている寸法から金属バンド部および樹脂クッション部の体積を算出し、これに材料の比重を掛算して重量を算出した。評価に用いた規格クランプの寸法のうち、特にクランプの円弧部分の内径の直径D、円弧部分の中心からクランプの外側の表面までの距離C、バンドの厚さTについて、下記表2に示す。DおよびCについては、図7および8に示した。
【0066】
【表2】
【0067】
また、本発明のクランプの金属バンド部については、低温加工可能なチタン合金を使用した高強度チタン合金の引張強度を1,230N/mm2とし、規格クランプの金属バンドと同じ引張強度となるような断面積とした。また樹脂クッション部については、外形寸法が規格クランプと同じとなるようにした。クッションについては、図3に示した第2実施形態のクッション(例1)、図5に示した第4実施形態のクッション(例2)を採用した。
【0068】
したがって、AS85052に規定されているループ型全23種類のクランプに関しては、規格クランプと本発明のクランプの外形寸法は同じであり、AS85449に規定されている鞍型(サドル型)全13種類のクランプに関しては、本発明のクランプでは金属バンド部が薄くなっている分樹脂クッション部の厚みが増えているが、外形寸法はほぼ同じである。
【0069】
下記表3に示すように、例1および2で設計・試算した本発明のクランプの重量の軽量化効果を、規格クランプの重量を1として比較した。規格クランプは、上記した規格AS85052(バンド材:17−7PH(SUS631)、クッション材:ガラス布強化シリコーンゴム)の全23種類のサイズ、およびAS85449(バンド材:SUS321、クッション材:ガラス布強化シリコーンゴム)の全13種類のサイズに従うものであった。規格クランプに比べて、本発明のクランプはいずれも軽量化が実現できていることが分かる。特に、実施例2の物理発泡させたPFAゴムを使用した鞍型クランプの場合には、概算重量比が0.29となり、従来技術と比較して71%もの重量減と大幅な軽量化を実現できる。この設計・試算は、通常クランプを量産する前に実施する信頼性の高いものであり、実際に製造したクランプの特性をほぼ正確に反映するものである。
【0070】
【表3】
【符号の説明】
【0071】
10、20 クランプ、
21 ウェッジ、
22 バンド、
23 クッション、
24 補強ビード、
30、40 PTFE、
31、41、36 シリコーンゴム、
32 溝、
33、43 突起、
34 ガラス繊維分散シリコーンゴムまたはシリカ分散フッ素ゴム、
35 PFA皮膜、
37 発泡PFA、
38 貫通穴、
42 穴、
h 高さ、
l 一片の長さ、
p1、p2 間隔、
w 幅、
Z1 A〜B間の領域、
Z2 A〜B間の領域、
Z3 A〜B間の領域。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶体化処理された低温加工性チタン合金を曲げ加工した、高強度チタン合金からなる支持部材の外表面を衝撃緩衝材で覆ってなるクランプ。
【請求項2】
上記曲げ加工が、R/T=1.98〜62.0および曲げ角度0〜180°(ただし0は含まない)、または、R/T=2.25〜20.3および曲げ角度0〜270°(ただし0は含まない)の加工である請求項1に記載のクランプ。
【請求項3】
前記衝撃緩衝材が、
ガラス繊維とシリカを分散させた、連続泡を有する発泡熱可塑性フッ素樹脂部材からなる;
外周面の一部に断面鳩尾状の溝または穴を形成したフッ素樹脂部材および該溝もしくは穴に嵌合するように突起部を形成し、該溝もしくは穴に埋設された、帯状もしくは多角形のガラス繊維を分散させたシリコーンゴム部材からなる;
シリカを分散配合したフッ素ゴム部材もしくはガラス繊維を分散したシリコーンゴム部材からなる;または
内表面と外表面とをガラス繊維とシリカを分散させた熟可塑性フッ素樹脂の皮膜で被覆したシリコーンゴム部材からなる、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のクランプ。
【請求項4】
前記支持部材が複数個の貫通穴を有し、該貫通穴に前記衝撃緩衝材が貫通していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のクランプ。
【請求項1】
溶体化処理された低温加工性チタン合金を曲げ加工した、高強度チタン合金からなる支持部材の外表面を衝撃緩衝材で覆ってなるクランプ。
【請求項2】
上記曲げ加工が、R/T=1.98〜62.0および曲げ角度0〜180°(ただし0は含まない)、または、R/T=2.25〜20.3および曲げ角度0〜270°(ただし0は含まない)の加工である請求項1に記載のクランプ。
【請求項3】
前記衝撃緩衝材が、
ガラス繊維とシリカを分散させた、連続泡を有する発泡熱可塑性フッ素樹脂部材からなる;
外周面の一部に断面鳩尾状の溝または穴を形成したフッ素樹脂部材および該溝もしくは穴に嵌合するように突起部を形成し、該溝もしくは穴に埋設された、帯状もしくは多角形のガラス繊維を分散させたシリコーンゴム部材からなる;
シリカを分散配合したフッ素ゴム部材もしくはガラス繊維を分散したシリコーンゴム部材からなる;または
内表面と外表面とをガラス繊維とシリカを分散させた熟可塑性フッ素樹脂の皮膜で被覆したシリコーンゴム部材からなる、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のクランプ。
【請求項4】
前記支持部材が複数個の貫通穴を有し、該貫通穴に前記衝撃緩衝材が貫通していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のクランプ。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2011−7256(P2011−7256A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−150926(P2009−150926)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(390004215)株式会社高木化学研究所 (6)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(390004215)株式会社高木化学研究所 (6)
【Fターム(参考)】
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