説明

作業機の走行制御装置

【課題】作業装置を付け替えた場合にも、その付け替えた作業装置に対応する適切な作業速度を維持できる作業機の走行制御装置を提供する。
【解決手段】走行速度を検出する車速センサ19と走行機体3に装着される作業装置4の種別を判別する作業装置判別用切換スイッチ21を設ける。車速センサ19が作業装置4に適応した設定速度範囲vより逸脱した走行速度Vを検出した場合には、エンジン出力速度、及び/又は、静油圧式無段変速装置10の変速操作位置を切換えて、制御手段16で設定速度範囲に復帰させるべく構成してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン出力速度を調速装置によって調整すべく構成し、エンジンからの動力を変速する変速装置を、変速操作具によって設定された減速比に維持すべく変速アクチュエータによって変速操作可能に構成し、前記変速アクチュエータと前記調速装置とを制御する制御手段を設けてある作業機の走行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走行速度を検出する車速検出手段としての車速センサを設け、前記車速センサが負荷変動によって設定速度範囲より逸脱した走行速度を検出した場合には、前記エンジン出力速度、及び、前記変速装置の変速操作位置を切換えて、前記制御手段で走行速度を元の速度に復帰させるべく構成してある(特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開平5−65036号公報(段落番号〔0003〕〔0005〕)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記構成においては、走行負荷の変動によって走行速度が変動した場合には、一定速度を維持するように、変速装置の変速操作位置を変更するだけでなく、エンジン出力速度をも変更すべく構成してある。
ただし、作業機では、多目的化を図る観点より種々の作業装置を付け替えて、異なる作業を行うものであるが、それに伴って、各作業に適正な走行速度がある。したがって、走行速度を一定に維持するだけの制御では、作業装置を異なるものに付け替えた場合には、当然、作業走行速度を異なるものに切り換える必要がある。
しかし、従来構成であれば、作業装置を付け替えて使用することまでは、考慮されていない。
【0005】
本発明の目的は、作業装置を付け替えた場合にも、その付け替えた作業装置に対応する適切な作業速度を維持できる作業機の走行制御装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(構成)
請求項1に係る発明の特徴構成は、走行速度を検出する車速検出手段と走行機体に装着される作業装置の種別を判別する作業装置判別手段を設け、前記車速検出手段が前記作業装置に適応した設定速度範囲より逸脱した走行速度を検出した場合には、前記エンジン出力速度、及び/又は、前記変速装置の変速操作位置を切換えて、前記制御手段で設定速度範囲に復帰させるべく構成してある点にあり、その作用効果は次の通りである。
【0007】
(作用)
作業装置判別手段を設けることによって、装着される作業装置の種別が判別されて、作業装置の種別に対応した走行速度範囲を制御手段が自動的に認識する。この制御手段が認識した走行速度範囲から、走行速度が逸脱した場合には、エンジン出力速度、及び/又は、前記変速装置の変速操作位置を切換えて、前記した走行速度範囲に戻すことができる。
【0008】
(発明の効果)
したがって、作業装置を取り換えて作業を行った場合にも、適切な作業速度を維持することができ、作業精度及び作業能率の高めることのできる作業機の走行制御装置を提供することができた。
作業装置を取り換えた場合、作業装置の種別に対応した走行速度範囲が自動的に認識されるので、作業装置を取り換える度に、作業者が手動で走行速度範囲を作業装置に対応するように変更するような操作を行う必要がない。
【0009】
(構成)
請求項2に係る発明の特徴構成は、前記車速検出手段が前記作業装置に適応した設定速度範囲より逸脱した走行速度を検出した場合には、前記制御手段で報知手段を作動させるべく構成してある点にあり、その作用効果は次の通りである。
【0010】
(作用効果)
報知手段の報知作動によって、作業者が作業装置に対応した設定速度範囲内の作業速度で作業が行われていないことを認識できる。
これによって、必要な場合には、作業者が作業装置に対応した設定速度範囲内の作業速度で作業が行われていない場合の迅速な対応を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
〔第1実施形態〕
図1に示すように、作業車の一例である乗用型田植機は、右及び左の前輪1、右及び左の後輪2で支持された走行機体3の前部のエンジンボンネット5内にエンジン20、ハンドルポスト8に主変速操作レバー9を配置するとともに、走行機体3の後部に、施肥装置7を配置し、昇降リンク機構6を介して苗植付装置4を配備して、構成されている。
苗植付装置4には、左右向き姿勢の角筒状支持フレーム22とその角筒状支持フレーム22の左右方向4箇所に取付固定された植付伝動ケース23とを配置し、植付伝動ケース23の後端部に回転式の苗植付機構24を配置してある。
【0012】
主変速操作レバー9で操作される変速装置としての静油圧式無段変速装置10の構成について説明する。図2に示すように、静油圧式無段変速装置10は、容量可変式ポンプ11と容量固定式モータ12とに亘って高圧側油路aと低圧側油路bとを配置し、高圧側油路aと低圧側油路bとに亘って給油路cを配置して、給油路cにチャージポンプ13からのチャージ油路dを連結して、油圧式変速装置を構成している。
容量可変式ポンプ11にはHSTアクチュエータ14が連係されており、容量可変式ポンプ11の斜板11Aを揺動変更可能に構成して、基準位置から斜板11Aの傾斜角が大きくなる程、容量可変式ポンプ11からの吐出量が多くなり、容量固定式モータ12の出力回転速度が高速になるように、制御されている。
【0013】
図2及び図3に示すように、前記主変速操作レバー9には変速操作位置検出センサ17が装着されており、主変速操作レバー9が変速操作されて、変速操作位置検出センサ17がその変速状態を検出する。変速操作位置検出センサ17の検出結果に基づいて、制御手段16が変速アクチュエータとしてのHSTアクチュエータ14を駆動制御して、容量可変式ポンプ11の斜板11Aを揺動操作して、吐出量を変更する。これによって、変速操作に応じた変速状態が設定される。
【0014】
上記した主変速操作レバー9への操作に基づく変速状態を基準として、さらに、負荷による調整が行われる。つまり、図2及び図3に示すように、高圧側油路aの作動圧を検出するHST圧力検出センサ15を設け、HST圧力センサ15の検出結果に基づいて適正圧力となるように、HSTアクチュエータ14を駆動操作して、容量可変式ポンプ11の容量を自動的に変更するように構成する。HST圧力検出センサ15からの情報を制御手段16で受け入れ、制御手段16から制御指令がHSTアクチュエータ14に出力されて、容量可変式ポンプ11の吐出量調整が行われる。
【0015】
これによって、負荷に応じた変速制御が行われる。高負荷である場合は、静油圧式無段変速装置10は減速側に変速操作され、低負荷である場合は、静油圧式無段変速装置10は増速側に変速操作される。
これをHST負荷制御という。
【0016】
エンジン20に対する制御は次のようにして行われる。つまり、図2及び図3に示すように、エンジン20に調速装置としての電子ガバナー18が付設されており、制御手段16によって負荷変動に拘わらず、常に一定の回転数となるように、エンジン20は制御される。これをエンジン負荷制御という。
以上が、基本的な制御形態である。
【0017】
次に、前記した基本的な制御形態の下で、走行速度Vに基づく作業装置4に適した走行速度で走行させる走行制御について説明する。走行速度Vを検出するために、後輪2の走行速度を検出する車速検出手段としての車速センサ19を設ける。車速センサ19としては、ポテンショメータやエンコーダ等が使用可能であるが、ここでは、検出対象となる歯車とその歯車の歯部を検出する近接センサとで構成し、パルス波として歯車の回転が検出され走行速度Vが検出される。
【0018】
ここでは、溝切り作業を行う溝きり装置、播種装置、除草機を、苗植付装置4や施肥装置7に代えて付け替え使用する場合がある。その場合に、それら作業に適応して適切な作業走行速度を維持する必要がある。
そこで、いずれの作業装置が装着されたかを判別する作業装置判別手段21を設ける。
作業装置判別手段21としては、図3に示すように、人為的に操作位置を選択する切換スイッチを設け、各操作位置を、苗植付装置4を装着した場合に選択する第1操作位置A、播種装置を装着した場合に選択する第2操作位置B、除草機を装着した場合に選択する操作位置C、溝切り装置を装着した場合に選択する操作位置Dに割り振る。
【0019】
そして、作業者がスイッチで操作位置を選択し、その選択した操作位置により選択情報が制御手段16に伝達されて、装着されている作業装置4が認識される。作業装置4が認識されると、適正作業速度域が選定され、走行制御が行われる。尚、作業装置4の種別に対応した設定速度範囲は、予め、制御手段16内にマップ形式等の適当な手段によって保持されている。
【0020】
次に、切換対象となる各種の作業装置4について説明する。まず、除草機25について説明する。図5に示すように、昇降リンク機構6の後端に連結される連結フレーム26と連結フレーム26に前後軸芯周りでローリング作動自在に角筒状の主フレーム27が支持されている。この主フレーム27に対して条間除草機構25Aと株間除草機構25Bとが装着されている。
除草機25を装着した場合は、作業負荷が大きくなるので作業走行速度は、田植作業の場合より低速で行われる。したがって、この場合にはエンジン20は高速回転域で運転され、静油圧式無段変速装置10は減速比の大きな低速操作位置に設定される。
【0021】
また、除草機25の代わりに、播種装置28を装着した場合について説明する。図6に示すように、植付伝動ケース23より支持フレーム29を立設し、支持フレーム29に播種装置28を取り付けてある。つまり、播種装置28は、種子用の貯留ホッパー30、繰出し装置31、放出ホース32、作溝器33を備えて、構成されている。
播種装置28を装着した場合は、作業負荷は田植え作業の場合に比べて小であるので作業走行速度は、田植作業の場合より高速で行われる。したがって、この場合は、エンジン20は比較的低速回転域で運転され、静油圧式無段変速装置10は減速比の小さい高速操作位置に設定される。
溝切り装置については、図示はしていないが、走行負荷が大きくなるので、作業走行速度は田植時よりは低速で運転される。
【0022】
以上、田植作業、除草作業、播種作業、溝切り作業に対応した複数の異なる設定速度範囲vが制御手段16に、マップ情報として設定される。
図4に示すように、車速センサ19から走行速度Vを制御手段16に入力し、作業装置判別手段21としての切換スイッチによって作業形態が選択され、制御手段16にその情報が伝達され、設定速度範囲vが選択される(#1、2)。
そして、走行速度Vが設定速度範囲v内である場合には、前記したエンジン負荷制御、HST負荷制御が行われる(#3、4)。
【0023】
ただし、走行負荷の急激な変動によって、走行速度Vが設定速度範囲vから逸脱した場合には、次のような制御が行われる。そこで、前記した車速センサ19によって、実際の走行速度Vを測定し、その検出結果に基づいて次のような制御形態を採る。
(1) 車速センサ19の検出結果が前記した設定速度範囲vを逸脱して、低速である場合、
(イ) 報知手段34を作動させる。
(ロ) エンジン出力速度を電子ガバナー18によって高速側に切り換える。
(ハ) 静油圧式無段変速装置10を、低速側に変速操作する。詳しくは、HSTアクチュエータ14によって容量可変式ポンプ11の斜板11Aを基準(中立)位置に近接する状態に操作して、減速比の大きな変速操作位置に切り換える(#5)。
【0024】
(2) 車速センサ19の検出結果が前記した設定速度範囲vを逸脱して、高速である場合、
(イ) 報知手段34を作動させる。
(ロ) エンジン出力速度を電子ガバナー18によって低速側に切り換える。
(ハ) 静油圧式無段変速装置10を、高速側に変速操作する。詳しくは、HSTアクチュエータ14によって容量可変式ポンプ11の斜板11Aを基準(中立)位置から離れる操作位置に切換え、減速比の小さな変速操作位置に切り換える(#6)。
【0025】
[別実施形態]
(1)上記実施形態においては、作業装置4に対応した設定速度範囲vに走行速度Vを維持するに、エンジン20の出力回転速度を変更し、かつ、静油圧式無段変速装置10の操作位置を変更する構成を採ったが、少なくとも、一方で制御すればよい。
(2) 調速手段18としては、機械的ガバナーであってもよい。
(3) 変速装置10としては、ベルト式の無段変速装置、或いは、有段のギヤ式変速装置であってもよい。
(4) 変速操作具9としては、レバーだけでなくフットペダル等でもよく、或いは、スイッチ等であってもよい。
(5) 変速アクチュエータ14としては、シリンダ、モータ等が使用できる。
(6) 作業装置判別手段21としては、個々の作業装置4、7、25,28の重量の違いを利用して、昇降リンク機構6の連結部位に圧力センサ等を設けて、作業装置4、7、25,28を自動的に識別してもよい。
(7) 報知手段34としては、警報やランプ等の手段が採用できる。
(8) 本発明は、耕耘ロータリー等を取り付ける農用トラクタ等にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】乗用型田植機の全体側面図
【図2】乗用型田植機の油圧回路図
【図3】制御ブロック図
【図4】制御系のフローチャート
【図5】除草機を示す側面図
【図6】施肥又は播種装置を示す側面図
【符号の説明】
【0027】
3 走行機体
4 苗植付装置(作業装置)
7 施肥装置(作業装置)
9 主変速操作レバー(変速操作具)
10 静油圧式無段変速装置 (変速装置)
11 容量可変式ポンプ
14 HSTアクチュエータ(変速アクチュエータ)
16 制御手段
18 電子ガバナー(調速装置)
19 車速センサ(車速検出手段)
20 エンジン
21 切換スイッチ(作業装置判別手段)
25 除草機(作業装置)
28 播種装置(作業装置)
34 報知手段
v 走行速度
v 設定速度範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン出力速度を調速装置によって調整すべく構成し、エンジンからの動力を変速する変速装置を、変速操作具によって設定された減速比に維持すべく変速アクチュエータによって変速操作可能に構成し、前記変速アクチュエータと前記調速装置とを制御する制御手段を設けてある作業機の走行制御装置であって、
走行速度を検出する車速検出手段と走行機体に装着される作業装置の種別を判別する作業装置判別手段を設け、前記車速検出手段が前記作業装置に適応した設定速度範囲より逸脱した走行速度を検出した場合には、前記エンジン出力速度、及び/又は、前記変速装置の変速操作位置を切換えて、前記制御手段で設定速度範囲に復帰させるべく構成してある作業機の走行制御装置。
【請求項2】
前記車速検出手段が前記作業装置に適応した設定速度範囲より逸脱した走行速度を検出した場合には、前記制御手段で報知手段を作動させるべく構成してある請求項1記載の作業機の走行制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−36652(P2010−36652A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−199758(P2008−199758)
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】