説明

作業機械の油圧制御装置

【課題】作業機械の油圧制御装置に関し、簡素な構成でクレーン作業時におけるフロント作業機の操作性を向上させる。
【解決手段】フロント作業機の駆動に係る油圧回路と、油圧ポンプ及び該フロント作業機を駆動するアクチュエータ間に介装された制御弁と、フロント作業機に設けられた吊具と備えた作業機械の油圧制御装置において、荷重算出手段53で吊具に作用する吊り上げ荷重を算出し、該吊り上げ荷重が整定した時点での荷重値に基づき、負荷率算出手段54で該吊り上げ荷重の負荷率を算出する。
また、制御弁のスプールに接続されるリモコン回路にリモコン圧減圧弁38,40,42,44を設け、該負荷率が高いほど、リモコン圧変更制御手段60でリモコン圧減圧弁38,40,42,44の出力圧力を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロント作業機に吊具を備えたクレーン仕様の作業機械の油圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、油圧ショベルをはじめとする作業機械において、フロント作業機に吊具を設けてクレーン機能を付加したものが知られている。クレーン仕様の作業機械では、例えば吊具がバケットの基端部に対して格納自在に取り付けられており、クレーン作業や掘削作業といった作業の種類に応じてフックの位置を変更することで、それぞれの作業に適した形態が提供される。
【0003】
ところで、一般的な掘削作業では運搬対象物がバケットの内部に保持されるのに対して、クレーン作業では吊り荷がフロント作業機の下方へ吊り下げられた状態となる。そのため、作業中に荷ぶれが生じやすく、吊り荷の重量に応じてフロント作業機や旋回装置の繊細な操作が要求される。
そこで、吊り荷の状態に基づいて旋回モータの動作を制御する技術が知られている。例えば、特許文献1には、フロント作業機に設けられた各種センサ情報から吊り荷の重さや吊り荷の位置(作業機械の旋回中心からの距離)を算出し、これらの情報に基づいて旋回速度を制御する技術が開示されている。この技術では、吊り荷の重量に関わらず適切な旋回速度で緩やかな動作が可能になるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−122588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の特許文献では、バケットシリンダに作用する負荷圧力に基づいて吊り荷の重さを算出し、これに基づいて旋回モータのパイロット圧を制御している。しかしながら、クレーン作業時に吊り荷が揺れると、その重さが変化していなくても、負荷圧力が変動する場合がある。この場合、吊り荷の重さの算出結果が変動し、この変動が旋回モータのパイロット圧の制御に影響を与える。つまり、クレーン作業中に旋回操作特性が変化することになり、良好な操作性が得られないという課題がある。
【0006】
また、上述の特許文献の制御では、複数のレバー操作量に対応するパイロット圧を減圧弁で一括して減少させている。そのため、操作性の確保が難しく、特に連動操作が難しいという課題もある。
本件の目的の一つは、このような課題に鑑み創案されたもので、簡素な構成でクレーン作業時におけるフロント作業機の操作性を向上させることである。
【0007】
なお、前記目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的として位置づけることができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
開示の作業機械の油圧制御装置は、フロント作業機の駆動に係る油圧回路と、該油圧回路における油圧ポンプ及び該フロント作業機を駆動するアクチュエータ間に介装された制御弁と、該フロント作業機に設けられた吊具と備えた作業機械の油圧制御装置であって、該吊具に作用する吊り上げ荷重を算出する荷重算出手段と、該荷重算出手段で検出された該吊り上げ荷重が整定した時点での荷重値に基づき、該フロント作業機に対する該吊り上げ荷重の負荷率を算出する負荷率算出手段と、該制御弁のスプールに接続され、操作入力に応じたリモコン圧を伝達するリモコン回路と、該リモコン回路上に介装され、該操作入力に応じたリモコン圧を減圧するリモコン圧減圧弁と、該負荷率算出手段で算出された該負荷率に基づき、該リモコン圧減圧弁の出力圧力を制御するリモコン圧変更制御手段とを備えたことを特徴としている。
【0009】
また、開示の作業機械の油圧制御装置は、該リモコン圧変更制御手段が、該負荷率が高いほど、該リモコン圧が低下するように、該リモコン圧減圧弁を制御することを特徴としている。
また、開示の作業機械の油圧制御装置は、該油圧ポンプとして第一油圧ポンプ及び第二油圧ポンプを備え、該アクチュエータとしてブーム及びアームを備え、該制御弁が、該第一油圧ポンプ及び該ブーム間に介装された第一ブーム制御弁と、該第二油圧ポンプ及び該ブーム間に介装された第二ブーム制御弁と、該第二油圧ポンプ及び該アーム間に介装された第一アーム制御弁と、該第一油圧ポンプ及び該アーム間に介装された第二アーム制御弁とを備えた作業機械の油圧制御装置であって、該リモコン圧減圧弁が、該第二ブーム制御弁のスプールに伝達される該リモコン圧を減圧するブーム減圧弁と、該第二アーム制御弁のスプールに伝達される該リモコン圧を減圧するアーム減圧弁とを有することを特徴としている。
【0010】
また、開示の作業機械の油圧制御装置は、該制御弁よりもセンタバイパスの下流側の作動油圧をネガコン圧として該油圧ポンプへ伝達するネガコン回路と、該ネガコン回路に介装され、該センタバイパスから導入される該ネガコン圧と減圧弁から導入されるパイロット作動油圧とのうちの何れか高圧側を選択して該油圧ポンプのレギュレータに伝達する高圧選択弁と、該負荷率算出手段で算出された該負荷率に基づき、該減圧弁の出力圧力を制御するポンプ流量変更手段とをさらに備えたことを特徴としている。
【0011】
また、開示の作業機械の油圧制御装置は、該ポンプ流量変更手段が、該負荷率が高いほど該油圧ポンプの吐出流量が減少するように、該減圧弁を制御することを特徴としている。
また、開示の作業機械の油圧制御装置は、該フロント作業機を駆動するアクチュエータを複数備えた作業機械の油圧制御装置であって、該ポンプ流量変更手段が、該複数のアクチュエータのうちの一つの単動操作時と比較して、該複数のアクチュエータの連動操作時における該油圧ポンプの吐出流量が減少するように、該減圧弁を制御することを特徴としている。
【0012】
また、開示の作業機械の油圧制御装置は、該制御弁よりもセンタバイパスの下流側の作動油圧をネガコン圧として該油圧ポンプへ伝達するネガコン回路と、該ネガコン回路に介装され、該センタバイパスから導入される該ネガコン圧と減圧弁から導入されるパイロット作動油圧とのうちの何れか高圧側を選択して該油圧ポンプのレギュレータに伝達する高圧選択弁と、該負荷率算出手段で算出された該負荷率に基づき、該減圧弁の出力圧力を制御するポンプ流量変更手段とをさらに備え、該減圧弁が、該第一油圧ポンプに伝達されるネガコン圧を制御するための左ネガコン回路に介装された左減圧弁と、該第二油圧ポンプに伝達されるネガコン圧を制御するための右ネガコン回路に介装された右減圧弁とを有し、該ポンプ流量変更手段が、該アームの操作入力時において、該負荷率が高いほど該第一油圧ポンプの吐出流量が減少するように該左減圧弁の出力圧力を制御し、該ブームの操作入力時において、該負荷率が高いほど該第二油圧ポンプの吐出流量が減少するように該右減圧弁の出力圧力を制御することを特徴としている。
【0013】
また、開示の作業機械の油圧制御装置は、該制御弁と該センタバイパスにおける該ネガコン回路との分岐点との間に介装され、該センタバイパスを開閉制御するバイパスカット弁と、重力に逆らって作動する該アクチュエータについて、該負荷率が高いほど、該バイパスカット弁の開度が減少するように、該バイパスカット弁を制御するバイパスカット制御手段とをさらに備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
開示の作業機械の油圧制御装置によれば、吊り上げ荷重の変動に対しても一定の操作特性を与えることができ、フロント作業機の動作を安定させることができる。
また、開示の作業機械の油圧制御装置によれば、リモコン圧変更手段において、負荷率に応じてリモコン圧を制御することにより、制御弁のスプールの挙動を安定させることができ、吊り荷の重量に応じた適切なアクチュエータへの作動油流量を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】一実施形態に係る油圧制御装置を備えた作業機械の構成を示す模式図である。
【図2】本油圧制御装置に係る操作回路の油圧回路図である。
【図3】本油圧制御装置に係るメイン回路及びネガコン回路の油圧回路図である。
【図4】本油圧制御装置のブロック構成図である。
【図5】本油圧制御装置で吊り荷状態を判定する手順を示すフローチャートである。
【図6】本油圧制御装置のリモコン圧減圧弁を制御するためのブロック図である。
【図7】本油圧制御装置の第一減圧弁を制御するためのブロック図である。
【図8】本油圧制御装置の第二減圧弁を制御するためのブロック図である。
【図9】本油圧制御装置の吊り上げフラグを説明するための模式図である。
【図10】本油圧制御装置のリモコン圧減圧弁及び第一減圧弁の制御特性図である。
【図11】本油圧制御装置の第二減圧弁の制御特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して作業機械の油圧制御装置の実施形態を説明する。ただし、以下に示す実施形態は、あくまでも例示に過ぎず、以下に示す実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。すなわち、その趣旨を逸脱しない範囲で本実施形態を種々変形して実施してもよい。
【0017】
[1.油圧ショベル構成]
本発明は、図1に示す油圧ショベル1(作業機械)に適用されている。この油圧ショベル1は、クローラ式の走行装置を装備した下部走行体2aと、下部走行体2aに搭載された上部旋回体2bとを備えて構成される。上部旋回体2bは、旋回装置を介して下部走行体2aの上に旋回自在に設置される。上部旋回体2bの車両前方側には車両前方へ延出するように設けられたフロント作業機が設けられ、その車体左側に操作者が搭乗するキャブ2cが設けられる。
【0018】
フロント作業機は、上部旋回体2bに基端部を軸支されたブーム3と、ブーム3の先端に軸支されたアーム4と、さらにアーム4の先端に軸支されたバケット5とを有する。ブーム3及び上部旋回体2bの間には一対のブームシリンダ3aが介装され、伸縮動作によりブーム3を上下方向に駆動する。同様に、アームシリンダ4a及びバケットシリンダ5aは、伸縮動作によりアーム4及びバケット5をそれぞれ駆動する。これらの油圧アクチュエータの作動量を入力するための操作レバーはキャブ2c内に配置される。
【0019】
バケット5の基端部には、クレーン作業用の吊りフック100(吊具)が設けられる。この吊りフック100は、リンク102に対して格納自在に取り付けられる。通常作業時には、オペレータが手動で吊りフック100をリンク102に格納する。また、クレーン作業時には、オペレータが吊りフック100をリンク102から引き出して使用する。なお、図1に示すように、吊りフック100が吊り荷101を吊り上げた状態では、吊りフック100が下方に垂れ下がった姿勢となる。
【0020】
キャブ2c内には、クレーン作業時にオン操作されるクレーンモードスイッチ56(図4参照)が設けられている。クレーンモードスイッチ56はオン/オフの二種類の操作位置を有する二位置スイッチである。
本油圧ショベル1では、オペレータがバケット5の巻き込み操作(バケット5を手前側に移動させる操作)を行いバケットシリンダ5aが最大まで伸びた状態(伸びエンド状態)であるときに、クレーンモードスイッチ56がオンに操作されると、クレーン作業モードとなる。このとき、バケットシリンダ5aがロックされ、バケット5の位置が固定される。一方、クレーンモードスイッチ56がオフに操作されると通常作業モードに戻り、バケットシリンダ5aのロックが解除されるようになっている。
【0021】
ブームシリンダ3aには、上方のブーム3側に位置するロッド室の油圧(ロッド圧Pr)を検出する圧力センサ7rが設けられるとともに、下方の上部旋回体2b側に位置するヘッド室の油圧(ヘッド圧Ph)を検出する圧力センサ7hが設けられる。また、ブーム3の基端部には、上部旋回体2bに対するブーム3の角度(仰角θ)を検出する角度センサ6が設けられる。
【0022】
上部旋回体の後端部にはカウンタウェイトが配され、その車体前方にエンジンルーム及びポンプルームが形成される。エンジンルーム内には油圧ショベル1の駆動源であるエンジン8が設置され、ポンプルーム内には旋回装置やフロント作業機の作動油供給源である油圧ポンプ9L,9Rが設置されている。
【0023】
[2.油圧回路構成]
図2及び図3に、油圧ショベル1の駆動に係る油圧回路の全体構成を示す。ここでは、便宜的に油圧回路をその機能毎に分類して順番に説明する。本油圧回路は、図2に示す操作回路C3と、図3に示すメイン回路C1及びネガコン回路C2とを備えて構成される。なお、図2では、各種油圧アクチュエータの作動量を入力するための操作レバーの記載を省略する。
【0024】
[2−1.操作回路C3]
操作回路C3(リモコン回路)は、各種操作レバーへの入力操作に応じたリモコン圧を出力するための回路である。各種操作レバーの下端部には、図2に示すように、リモコン弁30,31,32,33が固設される。ブームリモコン弁30はブーム3の上下それぞれの方向への操作量に対応するリモコン圧を生成し、アームリモコン弁31はアーム4の上下それぞれの方向へと操作量に対応するリモコン圧を生成する。また、旋回リモコン弁32は旋回装置の右旋回及び左旋回の操作量に対応するリモコン圧を生成し、バケットリモコン弁33はバケット5の開閉それぞれの方向への操作量に対応するリモコン圧を生成する。各リモコン弁30,31,32,33は、パイロットポンプ20及び作動油タンク19に対して並列に接続される。
【0025】
[2−1−1.ブーム用操作回路]
ブーム3の駆動に係る操作回路について詳述する。ブームリモコン弁30の内部には、ブーム3を上昇させる方向への操作量に対応するリモコン圧R1を生成するブーム上げリモコン弁30aと、ブーム3を下降させる方向への操作量に対応するリモコン圧R2を生成するブーム下げリモコン弁30bとが設けられる。
【0026】
パイロットポンプ20を操作回路C3の上流側として、ブーム上げリモコン弁30a及びブーム下げリモコン弁30bのそれぞれの下流側には、リモコン圧センサ34a,34bが介装される。これらのリモコン圧センサ34a,34bで検出されたリモコン圧R1,R2は、後述するコントローラ50へ入力される。
また、ブーム上げリモコン弁30aの下流側は二本の流路に分岐形成され、それぞれ後述する第一ブーム制御弁13及び第二ブーム制御弁14のスプールの一端に接続される。これらの二本の流路のうち、第二ブーム制御弁14に接続される流路上には、ブーム上げリモコン圧減圧弁38(リモコン圧減圧弁,ブーム減圧弁)及びチェック弁39が並列に介装される。ブーム上げリモコン圧減圧弁38は、コントローラ50での圧力制御によりリモコン圧R1を減少させる機能を有する減圧弁である。ブーム上げリモコン圧減圧弁38の出力圧力は、コントローラ50によって制御される。また、チェック弁39は、リモコン圧R1を作動油タンク19に開放するための一方向弁である。例えば、操作レバーの非操作時には、チェック弁39を介してリモコン圧R1が低減される。
【0027】
ブーム下げリモコン弁30bの下流側は、第一ブーム制御弁13のスプールの他端のみに接続される。また、この流路上にはブーム下げリモコン圧減圧弁40(リモコン圧減圧弁)及びチェック弁41が並列に介装される。ブーム下げリモコン圧減圧弁40は、コントローラ50での圧力制御によりリモコン圧R2を減少させる機能を有する減圧弁である。ブーム下げリモコン圧減圧弁40の出力圧力は、コントローラ50によって制御される。また、チェック弁41は、チェック弁39と同様に、リモコン圧R2を作動油タンク19に開放するための一方向弁である。
【0028】
[2−1−2.アーム用操作回路]
続いて、アーム4の駆動に係る操作回路について詳述する。図2に示すように、アームリモコン弁31はブームリモコン弁30と同様の構成であり、アーム上げリモコン弁31aとアーム下げリモコン弁31bとを有する。アーム上げリモコン弁31aは、アーム4の先端側を上昇させる方向への操作量に対応するリモコン圧R3を生成する。また、アーム下げリモコン弁31bは、アーム4の先端側を下降させる方向への操作量に対応するリモコン圧R4を生成する。これらのリモコン圧R3,R4は、リモコン圧センサ35a,35bで検出されてコントローラ50へ入力される。
【0029】
また、アーム上げリモコン弁31aの下流側は二本の流路に分岐形成され、それぞれ後述する第一アーム制御弁15及び第二アーム制御弁16のスプールの一端に接続される。ブーム用の操作回路と同様に、第二アーム制御弁16に接続される流路上にアーム上げリモコン圧減圧弁42(リモコン圧減圧弁,アーム減圧弁)及びチェック弁43が並列に介装される。さらに、アーム下げリモコン弁31bの下流側も同様に二本の流路に分岐形成され、それぞれ第一アーム制御弁15及び第二アーム制御弁16のスプールの他端に接続される。第二アーム制御弁16に接続される流路上には、アーム下げリモコン圧減圧弁44(リモコン圧減圧弁,アーム減圧弁)及びチェック弁45が並列に介装される。
上記のリモコン圧減圧弁38,40,42,44はそれぞれ、リモコン圧R1,R2,R3,R4を減圧するように機能する。
【0030】
[2−1−3.旋回装置,バケット用操作回路]
旋回リモコン弁32の内部構成はブームリモコン弁30やアームリモコン弁31と同様であり、右旋回リモコン弁32aと左旋回リモコン弁32bとが設けられる。右旋回リモコン弁32aの下流側は後述する旋回制御弁17のスプールの一端に接続され、左旋回リモコン弁32bの下流側は他端に接続される。また、旋回に係るリモコン圧を検出すべく、上記の二本の流路間を接続する流路上に高圧選択弁36及びリモコン圧センサ37が介装される。高圧選択弁36は、右旋回リモコン弁32aの下流側のリモコン圧と左旋回リモコン弁32bの下流側のリモコン圧とのうち、高圧である一方をリモコン圧センサ37へ導入する。したがって、リモコン圧センサ37は、旋回方向に関わらず、旋回操作量に応じたリモコン圧R5を検出し、これをコントローラ50に伝達する。リモコン圧R5は、油圧ポンプ9Rの流量制御に用いられる。
【0031】
同様に、バケットリモコン弁33には、バケット閉リモコン弁33a及びバケット開リモコン弁33bが設けられる。これらのリモコン弁33a,33bの下流側はそれぞれ、バケット制御弁24のスプールの両端に接続される。また、これらのリモコン弁33a,33bとパイロットポンプ20との間には、流路を開閉する二位置式の切換弁46が介装される。
【0032】
図2に示すように、切換弁46のスプールがa位置の時には流路が開放され、b位置の時には閉鎖される。切換弁46のスプール位置はコントローラ50によって切換制御され、バケット5の操作に係るリモコン圧の生成(すなわち、バケット5の動作)を許可又は禁止するように機能する。
【0033】
[2−2.メイン回路C1]
メイン回路C1は、一対の油圧ポンプ9L,9Rから各種アクチュエータへの作動油流路を構成する回路である。各種アクチュエータの一例として、図3中にブームシリンダ3a,アームシリンダ4a,バケットシリンダ5a,左走行モータ11L,右走行モータ11R及び旋回モータ12を示す。左走行モータ11L及び右走行モータ11Rはそれぞれ、下部走行体2aの左右の走行装置に内装されたものである。
【0034】
油圧ポンプ9L,9Rと各種アクチュエータとの間の油圧回路上には、複数の制御弁を内蔵したコントロールバルブ10が設けられる。また、油圧ポンプ9L,9Rのそれぞれには、傾転斜板の傾斜角を調整することにより吐出流量及び吐出圧を制御するレギュレータ29L,29R(斜板制御機構)が併設される。
図3に示すように、メイン回路C1は、おもに一方の油圧ポンプ9L(第一油圧ポンプ)から吐出される作動油が流通する第一メイン回路C1Lと、おもに他方の油圧ポンプ9R(第二油圧ポンプ)から吐出される作動油が流通する第二メイン回路C1Rとに大別される。
【0035】
メイン回路C1には、ブームシリンダ3a及びアームシリンダ4aへの作動油流量を制御するための制御弁がそれぞれ二本用意されている。ブームシリンダ3aは、第一ブーム制御弁13及び第二ブーム制御弁14の双方から作動油を受けて伸縮作動する。また、アームシリンダ4aは、第一アーム制御弁15及び第二アーム制御弁16の双方から作動油を受けて伸縮作動する。
【0036】
第一メイン回路C1Lには、第一ブーム制御弁13,第二アーム制御弁16,バケット制御弁24及び第一走行制御弁25が介装される。また、第二メイン回路C1Rには、第二ブーム制御弁14,第一アーム制御弁15,旋回制御弁17及び第二走行制御弁26が介装される。これらの各制御弁は、一端又は両端に導入されるリモコン圧に応じてスプール(流量制御スプール)の位置を切り替え、作動油の流通方向及び流量を制御する弁である。
【0037】
第一ブーム制御弁13及び第二ブーム制御弁14はそれぞれ、ブームシリンダ3aへ供給される作動油流量及び流通方向を制御する。ブームシリンダ3aへ供給される作動油のうち、一方の油圧ポンプ9Lから吐出される作動油の流量を制御するのが第一ブーム制御弁13であり、他方の油圧ポンプ9Rから吐出される作動油の流量を制御するのが第二ブーム制御弁14である。
【0038】
また、第一アーム制御弁15及び第二アーム制御弁16はそれぞれ、アームシリンダ4aへ供給される作動油流量及び流通方向を制御する。第二アーム制御弁16は、アームシリンダ4aへ供給される作動油のうち、一方の油圧ポンプ9Lから吐出される作動油の流量を制御する。また、第一アーム制御弁15は、他方の油圧ポンプ9Rから吐出される作動油の流量を制御する。
【0039】
旋回制御弁17は、旋回装置を回転駆動する旋回モータ12へ供給される作動油流量及び流通方向を制御するものである。同様に、バケット制御弁24はバケットシリンダ5aへ供給される作動油流量及び流通方向を制御し、第一走行制御弁25及び第二走行制御弁26はそれぞれ、左走行モータ11L及び右走行モータ11Rへ供給される作動油流量及び流通方向を制御する。
【0040】
油圧ポンプ9L,9Rをメイン回路C1の上流側として、第一メイン回路C1L及び第二メイン回路C1Rのそれぞれのセンタバイパスの下流側の端部には、リリーフ弁28L,28Rが介装される。リリーフ弁28R,28Lは、センタバイパスの作動油圧をネガコン圧として油圧ポンプ9L,9Rのレギュレータ29L,29Rへ導入するための弁である。ネガコン圧を伝達するネガコン回路C2は、各リリーフ弁28R,28Lの上流側から分岐形成されている。
【0041】
さらに、左右それぞれのセンタバイパス上におけるネガコン回路C2の分岐点よりも上流側には、バイパスカット弁18L,18Rが介装される。バイパスカット弁18L,18Rは流量制御弁であり、スプールに導入されるパイロット圧に応じてセンタバイパスの開口面積を制御して、ネガコン回路C2のネガコン圧を変更する機能を有する。
【0042】
[2−3.ネガコン回路C2]
ネガコン回路C2は、油圧ポンプ9L,9Rのレギュレータ29L,29Rにおけるネガティブコントロール用の回路である。ネガティブコントロールとは、ネガコン回路C2の作動油圧の高低に対応するように油圧ポンプ9L,9Rでの吐出流量を減少又は増加させる制御である。以下、ネガコン回路C2を介してレギュレータ29L,29Rへ導入される作動油圧のことをネガコン圧とも呼ぶ。なお、第一メイン回路C1L側から分岐したものを第一ネガコン回路C2Lとし、そのネガコン圧を第一ネガコン圧G1とする。また、第二メイン回路C1R側から分岐したものを第二ネガコン回路C2Rとし、そのネガコン圧を第二ネガコン圧G2と呼ぶ。
【0043】
第一ネガコン回路C2L及び第二ネガコン回路C2Rのそれぞれには、第一ネガコン圧G1及び第二ネガコン圧G2を変更するための回路構成として、第一減圧弁21L,21R(減圧弁)及びシャトル弁22L,22R(高圧選択弁)が設けられる。
第一減圧弁21Lは、コントローラ50での制御によりパイロットポンプ20から供給されるパイロット圧を制御して、シャトル弁22Lの一端へと導入するものである。また、シャトル弁22Lの他端は第一ネガコン回路C2Lに接続される。シャトル弁22Lは、第一減圧弁21Lから導入されるパイロット圧と第一ネガコン圧G1とのうち、高圧である一方を選択してレギュレータ29L側に伝達する。なお、第一減圧弁21R及びシャトル弁22Rも同様に機能するものであり、第一減圧弁21Rから導入されるパイロット圧と第二ネガコン圧G2とのうち、高圧である一方がレギュレータ29Rへ伝達される。
【0044】
また、パイロットポンプ20からのパイロット圧は、第一減圧弁21L,21Rだけでなく分岐回路C4にも供給されている。この分岐回路C4は、メイン回路C1のバイパスカット弁18L,18Rの開度を制御するための回路である。
パイロットポンプ20を分岐回路C4の上流側として、分岐回路C4の下流端部には、第二減圧弁23L,23Rが並列に設けられる。第二減圧弁23L,23Rは、コントローラ50での制御により、パイロットポンプ20から供給されるパイロット圧を制御して、バイパスカット弁18L,18Rのスプールに伝達する。
【0045】
例えば、第二減圧弁23L,23Rの出力圧が最小であるときには、バイパスカット弁18L,18Rのスプールが全開となり、メイン回路C1のセンタバイパスは開放された状態となる。一方、第二減圧弁23L,23Rの出力圧が上昇するに連れてバイパスカット弁18L,18Rのスプールが徐々に閉じて、メイン回路C1のセンタバイパスが遮断される。
このように、分岐回路C4及び第二減圧弁23L,23Rは、バイパスカット弁18L,18Rにセンタバイパスを開閉させる機能を有する。
【0046】
[3.制御の種類]
油圧ショベル1にはコントローラ50(制御手段)が設けられる。コントローラ50のブロック構成を図4に示す。コントローラ50は、上述の油圧回路に介装された各種制御弁の動作を制御する電子制御装置であり、周知のマイクロプロセッサやROM,RAM等を集積したLSIデバイスとして提供されている。コントローラ50の入力側には、クレーンモードスイッチ56,角度センサ6,圧力センサ7h,7r,リモコン圧センサ34a,34b,35a,35b,37が接続される。また、出力側には、切換弁46,第一減圧弁21L,21R,第二減圧弁23L,23R,ブーム上げリモコン圧減圧弁38,ブーム下げリモコン圧減圧弁40,アーム上げリモコン圧減圧弁42,アーム下げリモコン圧減圧弁44が接続されるほか、キャブ2c内に設けられたモニタ104及びブザー103が接続される。
【0047】
コントローラ50は、以下に示す五種類の制御を実施する。
〔A〕クレーン作業判定制御
〔B〕吊り荷状態判定制御
〔C〕リモコン圧変更制御
〔D〕ポンプ流量変更制御
〔E〕バイパスカット制御
クレーン作業判定制御とは、クレーン作業モードに入る条件が成立しているか否かを判定して、モード切換を実施する制御である。クレーン作業モードの開始条件は、バケット5の巻き込み操作によってバケットシリンダ5aが伸びエンド状態となっているときにクレーンモードスイッチ56がオン操作されることとする。また、クレーン作業モードの終了条件は、クレーンモードスイッチ56がオフ操作されることとする。ここでは、例えばバケットを閉方向に操作したときに生じるパイロット圧(バケット閉リモコン弁33aで生成されるリモコン圧)を検出する図示しないリモコン圧センサと、油圧ポンプ9Lの吐出圧を検出する図示しない吐出圧センサと、クレーンモードスイッチ56とから伝達される各信号に基づいて、上記の条件判定が行われる。
【0048】
吊り荷状態判定制御とは、吊りフック100に吊下された吊り荷101の状態を判定して、吊り上げ荷重Wの整定時に負荷率Mを算出する制御である。ここで算出される負荷率Mは、上記の〔C〕〜〔E〕の各制御に用いられる。
この吊り荷判定制御では、吊りフック100に吊り荷101が吊されているか否かを判断する。
【0049】
まず、吊り荷101が吊された状態でないと判断するのは、以下の条件が成立する場合である。
〔A−1〕吊り上げ荷重Wの算出値が規定値W1未満である
一方、吊り荷101が吊された状態であると判断するのは、以下の条件が成立する場合である。
〔A−2〕吊り上げ荷重Wの算出値が規定値W2以上(ただし、W1<W2)である
また、吊り荷判定制御では、吊り荷101が吊された状態である場合に、吊り上げ荷重Wが整定しているか否かを判断する。吊り上げ荷重Wが整定していると判断されるのは、以下の条件が成立する場合である。
〔A−3〕吊り上げ荷重Wの経時変動が所定幅未満で所定時間が経過した
【0050】
リモコン圧変更制御とは、吊り荷状態判定制御で算出された負荷率Mに基づく操作回路C3のリモコン圧減圧弁38,40,42,44の圧力制御である。この制御では、負荷率Mが高いほど、その時のレバー操作に応じたリモコン圧が低下するように各リモコン圧減圧弁38,40,42,44が制御される。例えば、ブーム3の下げ操作時に負荷率Mが高ければ、ブームシリンダ3aを下げ方向に駆動する作動油流路を形成すべく、第一ブーム制御弁13のスプールの開度を下げ方向へ移動させるためのリモコン圧R2が低減される。
【0051】
また、本実施形態では、各リモコン圧を均一に低下させるのではなく、各リモコン圧に対応する制御弁に作用する吊り上げ荷重Wが、第一メイン回路C1L及び第二メイン回路C1Rのそれぞれに分散するように、リモコン圧減圧弁38,40,42,44の配置が定められている。
図2,図3に示すように、ブーム上げ操作に係るリモコン圧R1を減圧するブーム上げリモコン圧減圧弁38は、第二メイン回路C1R側に配置された第二ブーム制御弁14のスプール開度を下げるように作用し、アーム上げ操作に係るリモコン圧R3及びアーム下げ操作に係るリモコン圧R4を減圧するアーム上げリモコン圧減圧弁42及びアーム下げリモコン圧減圧弁44は、第一メイン回路C1L側に配置された第二アーム制御弁16のスプール開度を下げるように作用する。
【0052】
ポンプ流量変更制御とは、吊り荷状態判定制御で算出された負荷率Mに基づく第一減圧弁21L,21Rの圧力制御である。この制御では、負荷率Mが高いほど、油圧ポンプ9L,9Rから吐出される作動油流量が低減される。本実施形態では、第一減圧弁21L,21Rの出力圧が上昇するように制御されて、レギュレータ29L,29Rに伝達されるネガコン圧が増大するような制御がなされる。
バイパスカット制御とは、吊り荷状態判定制御で算出された負荷率Mに基づくバイパスカット弁18L,18Rの開度制御である。この制御では、負荷率Mが高いほど、バイパスカット弁18L,18Rの開度を下げるように制御される。
【0053】
[4.制御装置の構成]
上記のクレーン作業における各制御を実施するためのソフトウェア構成を図4に示す。コントローラ50は、クレーン作業判定部57,吊り荷状態判定部51,リモコン圧変更部60,ポンプ流量変更部66及びバイパスカット制御部81を備えている。ここに示された各ソフトウェアは図示しないメモリや記憶装置に記録されおり、随時マイクロプロセッサに読み込まれることによって以下に説明する機能を実現する。なお、これらの機能をハードウェア(例えば、電子回路)で実現する構成としてもよい。
【0054】
[4−1.クレーン作業判定部]
クレーン作業判定部57は、クレーン作業判定制御を実施するものであり、前述のクレーン作業モードの開始条件を判定してモード切換を実施する。クレーン作業モードの開始条件の成立時には、クレーン作業判定部57が切換弁46を室aから室bに切り換えてバケット5のリモコン弁33a,33bの供給圧を遮断し、バケット5の操作をロックする。また同時に、クレーン作業判定部57はモニタ104及びブザー103を制御して、モード切換がなされたことをオペレータに報知する。
【0055】
[4−2.吊り荷状態判定部]
吊り荷状態判定部51は、吊り荷状態判定制御を実施するものである。ここには、判定部52,荷重算出部53及び負荷率算出部54が設けられている。
判定部52は、吊り荷状態判定制御に関する上記の条件判定を実施するものである。ここでは、判定の結果に基づき、吊り上げフラグF1及び荷重設定フラグF2の二種類のフラグが設定される。吊り上げフラグF1は、上記の条件〔A−2〕の成立時にオン(F1=1)に設定されるフラグである。このフラグの解除条件は、上記の条件〔A−1〕が成立することである。
【0056】
荷重設定フラグF2は、吊り上げフラグF1がオンであり、かつ、上記の条件〔A−3〕の成立時にオン(F2=1)に設定されるフラグである。このフラグの解除条件も、吊り上げフラグF1と同様に、上記の条件〔A−1〕が成立することである。
荷重算出部53(荷重算出手段)は、フロント作業機を構成するブーム3,アーム4及びバケット5等の部材データと、角度センサ6で検出されたブーム3の角度θと、圧力センサ7r,7hで検出されたブームシリンダ3aのロッド圧Pr及びヘッド圧Phに基づいて、吊り上げ荷重Wを算出するものである。荷重算出部53は、吊り上げフラグF1及び荷重設定フラグF2の状態に関わらず、クレーンモードスイッチ56がオン操作されている限り、常時吊り上げ荷重Wを算出する。ここで検出された吊り上げ荷重Wは、負荷率算出部54へと入力される。
【0057】
負荷率算出部54(負荷率算出手段)は、吊り上げフラグF1及び荷重設定フラグF2がともにオンに設定されている場合に、荷重算出部53で算出された吊り上げ荷重Wと予め記憶された定格荷重WMAXとに基づき、以下の式1に従って負荷率Mを算出するものである。
【0058】
【数1】

【0059】
[4−3.クレーン作業モードのフローチャート]
図5はクレーン作業モードの制御フローチャートの一例である。本フローは、クレーン作業判定部57によるクレーン作業モードの判定や、バケット5の操作ロックといったクレーン作業判定制御から独立して実施されているものとする。したがってここでは、クレーン作業判定制御での具体的な制御内容についての説明を省略している。
【0060】
ステップS1では、図示しないメモリから荷重算出部53にフロント作業機の部材データが読み込まれる。また、ステップS2では、吊り上げフラグF1及び荷重設定フラグF2の初期値として、F1=F2=0(オフ)に設定される。
続くステップS3では、荷重算出部53にブーム3の角度θと、ブームシリンダ3aのロッド圧Pr及びヘッド圧Phとが入力される。
【0061】
ステップS4では、クレーン作業判定部57において、クレーンモードスイッチ56の信号が判定される。ここでクレーンモードスイッチ56がオン操作されている場合には、ステップS5へ進む。一方、オフ操作の場合にはステップS18へ進む。
ステップS5では、荷重算出部53において、ステップS2で入力された情報に基づいて吊り上げ荷重Wが算出される。また、続くステップS6では、ステップS5で算出された吊り上げ荷重Wにフィルタ処理が施され、荷重の経時変動の交流成分(ノイズ成分)が除去される。
【0062】
ステップS7では、判定部52において、吊り上げフラグF1がオンであるか否かが判定される。ここで、吊り上げフラグF1がF1=1(オン)である場合にはステップS10へ進む。一方、吊り上げフラグF1がF1=0(オフ)である場合には、ステップS8へ進む。
ステップS8では、判定部52において、上記の条件〔A−2〕が成立するか否かが判定される。ここで、吊り上げ荷重Wが規定値W2未満であると判定された場合には、まだ吊りフック100に吊り荷101が吊り下げられていないものとしてステップS20へ進み、通常制御タスクが実施される。なお、ここでいう通常制御タスクとは、上記のリモコン圧変更制御,ポンプ流量変更制御,バイパスカット制御といったクレーン作業時の制御以外の、一般的な制御を実施するタスクである。
【0063】
一方、ステップS8で、吊り上げ荷重Wが所定値W2以上であると判定された場合には、ステップS9へ進み、吊り上げフラグF1がオン(F1=1)に設定される。その後、ステップS21で負荷率Mが50%に設定され、その後ステップS17へ進んでクレーン制御タスクが実施される。クレーン制御タスクとは、上記のリモコン圧変更制御,ポンプ流量変更制御,バイパスカット制御を実施するタスクである。
【0064】
ステップS7において吊り上げフラグF1がオン(F1=1)の場合にはステップS10へ進み、判定部52において荷重設定フラグF2の状態が判定される。ここで荷重設定フラグF2がオフ(F2=0)の場合にはステップS11へ進み、荷重設定フラグF2がオン(F2=1)の場合にはステップS14へ進む。
ステップS11では、判定部52において上記の条件〔A−3〕が成立するか否か判定される。つまりここでは、吊り上げ荷重Wが整定しているか否かが判定される。ここで、吊り上げ荷重Wが整定していると判定された場合には、ステップS12へ進む。一方、整定していないと判定された場合には、ステップS17へ進む。
【0065】
ステップS12では、判定部52において荷重設定フラグF2がオン(F2=1)に設定される。また、続くステップS13では、負荷率算出部54において、吊り上げ荷重W及び定格荷重WMAXに基づき、負荷率Mが算出される。
荷重設定フラグF2がオンに設定された状態で実行されるステップS14では、判定部52において上記の条件〔A−1〕が成立するか否かが判定される。ここで、吊り上げ荷重Wが規定値W1未満であると判定された場合には、吊り荷101が吊りフック100から降ろされたものと判断され、ステップS15で吊り上げフラグF1と荷重設定フラグF2とがともにオフ(F1=F2=0)に設定されてステップS20へと進む。
【0066】
また、ステップS14で吊り上げ荷重Wが規定値W1以上であると判定された場合には、まだ吊り荷101が降ろされていないと判断され、ステップS17へ進む。
この制御では、吊り荷101を吊り上げた状態で荷重が整定すると負荷率Mが算出され、吊り荷101が降ろされるまで負荷率Mが一定に保持される。ここで算出された負荷率Mは、ステップS17におけるクレーン制御タスクで使用される。なお、本フローで使用される吊り上げフラグF1は、図9に示すように、吊り上げ荷重Wの変動に対して異なるしきい値でオンからオフへ、あるいはオフからオンへと変更される。このようにヒステリシスを設けることで、フラグF1の切り換えに係る判定の揺れ(制御ハンチング)が防止される。
【0067】
ステップS4でクレーンモードスイッチ56がオフ操作されている場合には、ステップS18で吊り上げフラグF1の状態が判定される。ここで、吊り上げフラグF1がF1=1(オン)の場合には、吊り荷101を吊り上げた状態でクレーン作業モードを解除しようとしているものと考えられるため、ステップS10に進んでクレーン作業モードでの制御を継続する。一方、吊り上げフラグF1がF1=0(オフ)の場合には、吊り荷101を下ろした状態と考えられるため、ステップS20へ進んでクレーン作業モードの制御を抜け出して本フローを終了する。
なおこの場合、クレーン作業判定制御の終了条件が成立するため、本フローとは別個にクレーン作業判定部57においてモードの切換制御が実施される。
【0068】
[4−4.リモコン圧変更部]
図6は、リモコン圧変更制御に係るリモコン圧変更部60(リモコン圧変更手段)の制御内容を概念的に示すブロック図である。図6に示すように、リモコン圧変更部60は、負荷率算出部54で算出された負荷率M,操作回路C3に介装されたリモコン圧センサ34a,34b,35a,35bで検出されたリモコン圧R1,R2,R3,R4に基づき、ブーム上げリモコン圧減圧弁38,ブーム下げリモコン圧減圧弁40,アーム上げリモコン圧減圧弁42,アーム下げリモコン圧減圧弁44を制御する。
【0069】
リモコン圧変更部60には、ブーム上げ関数テーブル62,ブーム下げ関数テーブル63,アーム上げ関数テーブル64及びアーム下げ関数テーブル65が記憶される。これらの関数テーブル62,63,64,65は、負荷率M毎に、各リモコン圧減圧弁38,40,42,44の上流側のリモコン圧(すなわち、リモコン圧R1,R2,R3,R4)と下流側のリモコン圧(すなわち、実際に制御弁へ伝達されるリモコン圧)との関係を規定したものである。ここには、図6中及び図10に示すように、上流側のリモコン圧R1,R2,R3,R4を一定としたときに、負荷率Mが高いほど下流側のリモコン圧が低下する特性が定められている。
【0070】
上記の四種類の関数テーブル62,63,64,65は、四種類のリモコン圧R1,R2,R3,R4及び四つのリモコン圧減圧弁38,40,42,44のそれぞれに対して一対一に対応するように設けられており、各リモコン圧減圧弁38,40,42,44はそれぞれ個別に制御される。例えば、ブーム上げ関数テーブル62は、負荷圧M及びブーム上げリモコン圧R1の入力を受けて、ブーム上げリモコン圧減圧弁38の特性を制御する。同様に、関数テーブル63,64,65は、リモコン圧減圧弁40,42,44の特性を制御する。
【0071】
[4−5.ポンプ流量変更部]
図7は、ポンプ流量変更制御に係るポンプ流量制御部66(ポンプ流量変更手段)の制御内容を概念的に示すブロック図である。図7に示すように、ポンプ流量変更部66は、第一ネガコン回路C2Lに配された第一減圧弁21Lと、第二ネガコン回路C2Rに配された第一減圧弁21Rとを別個に制御するものである。一方の第一減圧弁21Lは、負荷率算出部54で算出された負荷率Mと、リモコン圧R1,R3,R4,R5とに基づいてそのネガコン圧(第一減圧弁21Lから出力される圧力)を制御される。また、他方の第一減圧弁21Rは、負荷率算出部54で算出された負荷率Mと、リモコン圧R1,R2,R3,R4とに基づいてそのネガコン圧(第一減圧弁21Rから出力される圧力)を制御される。ここで、前者の制御に係るものを第一ポンプ流量変更部66A,後者の制御に係るものを第二ポンプ流量変更部66Bとする。
【0072】
第一ポンプ流量変更部66Aは、旋回関数テーブル67,ブーム上げ関数テーブル68,加算器69,最大流量設定器70,論理和演算器71,信号選択器72及び信号変換器73を備えて構成される。
旋回関数テーブル67は、負荷率M毎に、旋回操作に係るリモコン圧R5に対する油圧ポンプ9Rの吐出流量の関係を規定したものである。ここには、図7中及び図10に示すように、リモコン圧R5を一定としたときに、負荷率Mが高いほど油圧ポンプ9Rの吐出流量が減少する特性が定められている。旋回関数テーブル67は、負荷率M及びリモコン圧R5の入力を受けて、吐出流量N1を設定する。
【0073】
ブーム上げ関数テーブル68は、負荷率M毎に、ブーム上げ操作に係るリモコン圧R1に対する油圧ポンプ9Rの吐出流量の関係を規定したものである。ここには、旋回関数テーブル67と同様に、リモコン圧R1を一定としたときに、負荷率Mが高いほど油圧ポンプ9Rの吐出流量が減少する特性が定められている。ブーム上げ関数テーブル68は、負荷率M及びリモコン圧R1の入力を受けて、吐出流量N2を設定する。
【0074】
加算器69は、旋回関数テーブル67で設定された吐出流量N1とブーム上げ関数テーブル68で設定された吐出流量N2とを加算するものである。ここで加算された流量を吐出流量N3とする。また、最大流量設定器70は、予め設定された油圧ポンプ9Rの最大流量N9RMAXを記憶するものである。これらの吐出流量N3及び最大流量N9RMAXは、信号選択器72での選択の対象となる流量である。
【0075】
論理和演算器71は、リモコン圧R3,R4の入力を受けて、少なくとも何れか一方が所定圧力以上である場合(すなわち、アーム上げ操作かアーム下げ操作されている場合)に、信号選択器72に制御信号を出力するものである。
信号選択器72は、論理和演算器71からの制御信号の有無に応じて、吐出流量N3及び最大流量N9RMAXの何れか一方を選択するものである。ここでは、論理和演算器71から制御信号を受けている場合には、油圧ポンプ9Rの制御目標となる吐出流量として最大流量N9RMAXが選択される。一方、制御信号を受けていない場合には、吐出流量N3が選択される。
【0076】
信号変換器73は、信号選択器72で選択された流量を第一減圧弁21Rへの指令信号に変換するものである。ここでは、レギュレータ29Rへ導入されるネガコン圧が、選択された流量を油圧ポンプ9Rから吐出させるのに要する大きさとなるように、第一減圧弁21Rの出力圧力が制御される。
第一ポンプ流量変更部66Aの制御により、アーム4が操作されているときには最大流量N9RMAXに対応する最小圧のパイロット圧が第一減圧弁21Rから出力される。つまり、第二ネガコン回路C2Rのシャトル弁22Rでは高圧側の第二ネガコン圧G2が選択されて、レギュレータ29Rへ伝達される。したがって、油圧ポンプ9Rは通常のネガコン制御によってその吐出流量が制御される。
【0077】
一方、アーム4以外が操作されているときには、吐出流量N3に対応するパイロット圧が第一減圧弁21Rの下流側に生じる。つまり、このパイロット圧が第二ネガコン圧G2よりも高圧であれば、このパイロット圧によって油圧ポンプ9Rの吐出流量が減少するように制御される。このとき、負荷率Mが大きいほど、吐出流量の減少量も増大し、ブーム3の移動速度や旋回速度が抑制される。
【0078】
なお、ここでブーム3の単動操作時に吐出流量が減少するのは油圧ポンプ9Rであるから、ブームシリンダ3aに作動油を供給する二つの制御弁13,14のうち、第二ブーム制御弁14からの供給量だけが抑制されることになる。つまり、ブームシリンダ3aへの作動油供給に関して、負荷率Mが増大するほど、第二ブーム制御弁14の流量が減少する。
【0079】
第二ポンプ流量変更部66Bは、第一ポンプ流量変更部66Aと同様に、アーム上げ関数テーブル74,アーム下げ関数テーブル75,加算器76,最大流量設定器77,論理和演算器78,信号選択器79及び信号変換器80を備えて構成される。
アーム上げ関数テーブル74、前述のブーム上げ関数テーブル68と同様に、負荷率M毎に、アーム上げ操作に係るリモコン圧R3に対する油圧ポンプ9Lの吐出流量の関係を規定したものであり、負荷率M及びリモコン圧R3の入力を受けて吐出流量N4を設定する。また、アーム下げ関数テーブル75は、負荷率M毎に、アーム下げ操作に係るリモコン圧R4に対する油圧ポンプ9Lの吐出流量の関係を規定したものであり、負荷率M及びリモコン圧R4の入力を受けて吐出流量N5を設定する。
【0080】
加算器76は、アーム上げ関数テーブル74で設定された吐出流量N4とブアーム下げ関数テーブル75で設定された吐出流量N5とを加算するものである。ここで加算された流量を吐出流量N6とする。また、最大流量設定器77は、予め設定された油圧ポンプ9Lの最大流量N9LMAXを記憶するものである。これらの吐出流量N6及び最大流量N9LMAXは、信号選択器79での選択の対象となる流量である。
【0081】
論理和演算器78は、リモコン圧R1,R2の入力を受けて、少なくとも何れか一方が所定圧力以上である場合(すなわち、ブーム上げ操作かブーム下げ操作されている場合)に、信号選択器79に制御信号を出力するものである。
信号選択器79は、論理和演算器78からの制御信号の有無に応じて、吐出流量N6及び最大流量N9LMAXの何れか一方を選択するものである。ここでは、論理和演算器78から制御信号を受けている場合には、油圧ポンプ9Lの制御目標となる吐出流量として最大流量N9LMAXが選択される。一方、制御信号を受けていない場合には、吐出流量N6が選択される。
【0082】
信号変換器80は、信号選択器79で選択された流量を第一減圧弁21Lへの指令信号に変換するものである。ここでは、レギュレータ29Lへ導入されるネガコン圧が、選択された流量を油圧ポンプ9Lから吐出させるのに要する大きさとなるように、第一減圧弁21Lの出力圧が制御される。
第二ポンプ流量変更部66Bの制御により、ブーム3が操作されているときには最大流量N9LMAXに対応する最小圧のパイロット圧が第一減圧弁21Lから出力される。したがって、油圧ポンプ9Lは通常のネガコン制御によってその吐出流量が制御される。
【0083】
一方、ブーム3以外が操作されているときには、吐出流量N6に対応するパイロット圧が第一減圧弁21Lの下流側に生じる。つまり、このパイロット圧が第一ネガコン圧G1よりも高圧であれば、このパイロット圧によって油圧ポンプ9Lの吐出流量が減少するように制御される。このとき、負荷率Mが大きいほど、吐出流量の減少量も増大し、アーム4の移動速度が抑制される。
【0084】
なお、ここでアーム4の単動操作時に吐出流量が減少するのは油圧ポンプ9Lであるから、アームシリンダ4aに作動油を供給する二つの制御弁15,16のうち、第二アーム制御弁16からの供給量だけが抑制されることになる。つまり、アームシリンダ4aへの作動油供給に関して、負荷率Mが増大するほど、第二アーム制御弁16の流量が減少する。
【0085】
[4−6.バイパスカット制御部]
図8は、バイパスカット制御に係るバイパスカット制御部81(バイパスカット制御手段)の制御内容を概念的に示すブロック図である。図8に示すように、バイパスカット制御部81は、負荷率算出部54で算出された負荷率Mとリモコン圧センサ34a,35aで検出されたリモコン圧R1,R3に基づき、第二減圧弁23L,23Rを制御する。
【0086】
バイパスカット制御部81には、ブーム上げ関数テーブル82及びアーム上げ関数テーブル83が記憶される。これらの関数テーブル82,83は、負荷率M毎に、リモコン圧R1,R3と各第二減圧弁23L,23Rの下流側のパイロット圧との関係を規定したものである。ここには、図8中及び図11に示すように、リモコン圧R1,R3を一定としたときに、負荷率Mが高いほど下流側のパイロット圧が上昇する特性が定められている。
【0087】
なお、第二減圧弁23L,23Rの下流側のパイロット圧は、図3に示すように、バイパスカット弁18L,18Rの開閉制御に用いられる。また、バイパスカット弁18L,18Rは、センタバイパスからネガコン回路C2側に導入される作動油圧を変更するものであり、パイロット圧に応じて開度が調整される特性を有する。つまり、関数テーブル82,83には、負荷率Mが高いほど、より小さなリモコン圧R1,R3で、バイパスカット弁18L,18Rに与えられるパイロット圧が大きくなるような開口特性が定められている。
【0088】
例えば、負荷率Mが低い場合には、リモコン圧R1,R3に対して第二減圧弁23L,23Rの出力圧が低く設定される。そのため、レバー操作が比較的深い位置でセンタバイパスが閉まり始める。一方、負荷率Mが高まると、リモコン圧R1,R3に対して第二減圧弁23L,23Rの出力圧が高く設定される。そのため、レバー操作が比較的浅い位置からセンタバイパスが閉まり始める。つまり、バイパスカット弁18L,18Rがセンタバイパスを閉め始めるのに必要なレバー操作量が、負荷率に応じて変更されることになる。
【0089】
このように、ブーム上げ関数テーブル82は、負荷率M及びブーム上げリモコン圧R1の入力を受けて、第二減圧弁23Lの出力圧力を制御する。また、アーム上げ関数テーブル83は、負荷率M及びアーム上げリモコン圧R3の入力を受けて、第二減圧弁23Rの出力圧力を制御する。
【0090】
[5.作用,効果]
[5−1.吊り荷状態判定制御]
荷重算出部53では、吊具100に作用する吊り上げ荷重Wが随時算出される。一方、負荷率算出部54では、荷重が整定するまでの間は負荷率Mが算出されず、整定した後で算出される。ここで算出された負荷率Mは、判定部52で条件〔A−1〕が成立するまでの間は保持される。
【0091】
つまり、吊り荷101が吊具100に吊り下げられている間は、負荷率Mの値が一定となる。したがって、例えば、吊り荷101が空中で揺れて、あるいは、壁面,養生ネット等に接触して吊り上げ荷重Wの算出値が変動したとしても、その変動がコントローラ50での制御に影響を及ぼすことがなく、一定の操作特性を与えることができ、安定したクレーン作業を実現できる。
【0092】
[5−2.リモコン圧変更制御]
リモコン圧変更制御では、操作されたレバーに対応するリモコン圧が負荷率Mに応じて減圧され、負荷率Mが高いほどリモコン圧がより低減される。これにより、同一のレバー操作量に対するフロント作業機の移動速度が抑制される。したがって、フロント作業機の移動時に吊り荷101へ与えられる慣性力を小さくすることができ、吊り荷101の揺れを抑制することができる。また、フロント作業機の急作動が抑制されるため、クレーン操作を安定させることができる。
【0093】
特に、ブーム下げ操作に対応するリモコン圧R2とアーム下げ操作に対応するリモコン圧R4とが負荷率Mに応じて減圧されるため、負荷の大きさに関わらず、レバー操作量に応じてフロント作業機の移動速度(下降速度)を一定にすることができ、操作性を向上させることができる。
また、リモコン圧変更制御で減圧されるリモコン圧は、ブーム上げ操作においては第二ブーム制御弁14の開度を減少させるように作用し、アーム上げ操作及びアーム下げ操作においては第二アーム制御弁16の開度を減少させるように作用する。さらに、図3に示すように、第二ブーム制御弁14は第二メイン回路C1R側に介装されており、第二アーム制御弁16は第一メイン回路C1L側に介装されている。
【0094】
これにより、負荷率Mが高くなるほど、一方の油圧ポンプ9Lから吐出される作動油がアームシリンダ4aよりもブームシリンダ3aに多く供給されやすくなり、他方の油圧ポンプ9Rから吐出される作動油がブームシリンダ3aよりもアームシリンダ4aに多く供給されやすくなる。つまり、負荷率Mが高くなるほど、ブーム3及びアーム4を駆動する油圧回路があたかもそれぞれ独立したかのように、負荷が二つの油圧ポンプ9L,9Rに対して徐々に分散される。
【0095】
ここで、ブーム3及びアーム4の負荷を二つの油圧ポンプ9L,9Rに分散させることの利点を説明する。図3に示す油圧回路では、ブームシリンダ3aに供給される作動油流量を制御する二つの制御弁が第一メイン回路C1Lと第二メイン回路C1Rとの両方に配置され、アームシリンダ4bに供給される作動油流量を制御する二つの制御弁も第一メイン回路C1Lと第二メイン回路C1Rとの両方に配置されている。このような油圧回路で、ブーム上げ操作とアーム上げ操作(又は、アーム下げ操作)とが同時に行われると、吊り荷101の負荷が増大するほど、負荷の小さい一方のアクチュエータに作動油が流入しやすくなり、負荷の大きいアクチュエータに作動油が流入しにくくなる。
【0096】
例えば、アームシリンダ4bの負荷が小さい場合、第一メイン回路C1Lでは第一ブーム制御弁13よりも第二アーム制御弁16に対して作動油が供給されやすくなり、第二メイン回路C1Rでは第二ブーム制御弁14よりも第一アーム制御弁15に対して作動油が供給されやすくなる。つまり、第一メイン回路C1Lでは、本来第一ブーム制御弁13に流入すべき作動油が第二アーム制御弁16側へ移動してしまう。第二メイン回路C1Rにおいても同様である。その結果、負荷の小さいアーム4の動作速度が加速されるとともにブーム3の動作速度が緩慢となり、連動操作性が低下する。
一方、ブーム3及びアーム4を駆動する油圧回路を独立させれば、このような作動油の移動を抑制することができる。したがって、クレーン作業時におけるブーム3及びアーム4の連動操作性を飛躍的に向上させることができる。
【0097】
[5−3.ポンプ流量変更制御]
ポンプ流量変更制御では、レバー操作に応じて油圧ポンプ9L,9Rの吐出流量が制御され、負荷率Mが大きいほど油圧ポンプ9L,9Rから吐出される作動油流量が低減される。例えば、旋回操作のみがなされた場合には、負荷率Mが高いほど旋回操作に係るリモコン圧R5に対する油圧ポンプ9Rの吐出流量N1が低減され、その吐出流量N1に応じたネガコン圧が生成されるように第一減圧弁21Rが制御される。したがって、負荷率Mが高いほど旋回速度を抑制することができ、操作性を向上させることができる。
【0098】
ブーム上げ操作のみがなされた場合には、第二ポンプ流量変更部66Bにおいて第一減圧弁21Lが最大流量N9LMAXに対応する極低圧のパイロット圧を生成するため、第一メイン回路C1Lの油圧ポンプ9Lは通常のネガコン制御で吐出流量を制御される。一方、第一ポンプ流量変更部66Aでは第一減圧弁21Rが開放され、負荷率Mが高いほど油圧ポンプ9Rの吐出流量が抑制される。これにより、第二メイン回路C1Rでは、油圧ポンプ9Rから第二ブーム制御弁14の開度に応じた流量の作動油が供給される。
【0099】
ブーム上げ操作とアーム上げ操作(又はアーム下げ操作)との連動操作時には、二つの第一減圧弁21L,21Rがともに最大流量N9LMAX,N9RMAXに対応する極低圧のパイロット圧を生成するため、二つの油圧ポンプ9L,9Rの双方が通常のネガコン回路で吐出流量を制御される。
アーム上げ操作又はアーム下げ操作のみがなされた場合は、第一ポンプ流量変更部66Aにおいて第一減圧弁21Rが最大流量N9RMAXに対応する極低圧のパイロット圧を生成し、第二メイン回路C1Rの油圧ポンプ9Rは通常のネガコン制御で吐出流量を制御される。一方、第二ポンプ流量変更部66Bでは第一減圧弁21Lが開放され、負荷率Mが高いほど油圧ポンプ9Lの吐出流量が抑制される。これにより、第一メイン回路C1Lでは、油圧ポンプ9Rから第二アーム制御弁16の開度に応じた流量の作動油が供給される。
【0100】
このように、負荷率Mに応じてレギュレータ29L,29Rへ導入されるネガコン圧を制御することにより、それぞれの油圧ポンプ9L,9Rからの適切な流量を確保することができる。また、ブーム3,アーム4及び旋回装置のそれぞれの単動時における油圧ポンプ9L,9Rの吐出流量を抑制することにより、荷吊り時の旋回速度やフロント作業機の移動速度を制限することができ、操作性を向上させることができる。このような制御は、特に慎重な操作が要求されている場合に有効である。
【0101】
また、ブーム3及びアーム4の連動操作時には、二つの第一減圧弁21L,21Rが極低圧のパイロット圧を生成して通常のネガコンが実施されるため、フロント作業機の移動速度が遅くなりすぎるようなことがなく、速やかに旋回速度やフロント作業機を作動させることができる。
【0102】
[5−4.バイパスカット制御]
バイパスカット制御では、負荷率Mに基づいて第二減圧弁23L,23Rを制御することにより、バイパスカット弁18L,18Rの特性が変更される。この制御では、ブーム上げ操作又はアーム上げ操作がなされると、負荷率Mが大きいほど第二減圧弁23L,23Rの下流側のパイロット圧より増大するように、第二減圧弁23L,23Rの圧力が制御される。つまり、負荷率Mが高いほど、ブーム上げ操作又はアーム上げ操作に係る操作量に対するバイパスカット弁18L,18Rの開口面積が下げられる。
【0103】
したがって、フロント作業機に移動を開始させるのに要するレバー操作量をほぼ一定にすることができる。例えば、重い吊り荷101を移動させる場合にフロント作業機を動かし始めるには、通常はレバー操作量を大きくする必要がある。一方、バイパスカット制御を実施することにより、油圧ポンプ9L,9Rから供給される作動油流量を負荷率Mに応じて増大させることができるため、小さなレバー操作でフロント作業機を動かし始めることができ、吊り上げ荷重Wに左右されない安定した操作性を獲得することができる。
【0104】
[6.その他]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
上述の実施形態では、コントローラ50において、〔B〕吊り荷状態判定制御、〔C〕リモコン圧変更制御、〔D〕ポンプ流量変更制御、及び〔E〕バイパスカット制御、の四種類の制御が実施されているが、これらの制御の組み合わせに関して、最小構成は制御〔B〕を実施するものである。したがって、少なくとも制御〔B〕に対して制御〔C〕〜〔E〕のうちの任意の制御を適宜組み合わせて実施することができる。
【0105】
制御〔B〕に関して、上述の実施形態では、ブーム3の角度θと、ブームシリンダ3aのロッド圧Pr及びヘッド圧Phとに基づいて吊り上げ荷重Wを算出する構成を例示したが、具体的な荷重の算定式はこれに限定されず、公知の算定式を利用することができる。
また、上述の実施形態の判定部52で判定される各種条件〔A−1〕〜〔A−3〕や負荷率Mの算定式に関しても同様であり、適宜変更することができる。なお、条件〔A−3〕は、少なくとも吊り上げ荷重Wの整定状態が把握される条件であることが好ましい。
【0106】
制御〔C〕〜〔E〕に関して、図6〜図8,図10及び図11に示された関数テーブルは、概念的な説明のために模式化されたものであり、実制御に際しては適宜変更することが好ましい。例えば、入力される情報(リモコン圧)の信号特性や制御対象(第一減圧弁,第二減圧弁等)の開口特性に応じて、パラメータ間の対応関係を調整すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明は、油圧回路によりフロント作業機を駆動し、そのフロント作業機に吊具を有するクレーン仕様の作業機械(例えば、油圧ショベルやホイールローダ,油圧式クレーン等)全般に適用することができる。
【符号の説明】
【0108】
1 油圧ショベル(作業機械)
3a ブームシリンダ
4a アームシリンダ
5a バケットシリンダ
6 角度センサ
7h,7r 圧力センサ
8 エンジン
9L 油圧ポンプ(第一油圧ポンプ)
9R 油圧ポンプ(第二油圧ポンプ)
10 コントロールバルブ
13 第一ブーム制御弁(制御弁)
14 第二ブーム制御弁(制御弁)
15 第一アーム制御弁(制御弁)
16 第二アーム制御弁(制御弁)
18L,18R バイパスカット弁
21L,21R 第一減圧弁(減圧弁)
22L,22R シャトル弁(高圧選択弁)
23L,23R 第二減圧弁
28L,28R リリーフ弁
30 ブームリモコン弁
31 アームリモコン弁
34a,34b,35a,35b リモコン圧センサ
36 高圧選択弁
37 リモコン圧センサ
38 ブーム上げリモコン圧減圧弁(リモコン圧減圧弁,ブーム減圧弁)
40 ブーム下げリモコン圧減圧弁(リモコン圧減圧弁)
42 アーム上げリモコン圧減圧弁(リモコン圧減圧弁,アーム減圧弁)
44 アーム下げリモコン圧減圧弁(リモコン圧減圧弁,アーム減圧弁)
46 切換弁
50 コントローラ(制御手段)
51 吊り荷状態判定部
60 リモコン圧変更部(リモコン圧変更手段)
66 ポンプ流量変更部(ポンプ流量変更手段)
67 旋回関数テーブル
69,76 加算器
70,77 最大流量設定器
71,78 論理和演算器
72,79 信号選択器
73,80 信号変換器
81 バイパスカット制御部(バイパスカット制御手段)
C1 メイン回路
C1L 第一メイン回路
C1R 第二メイン回路
C2 ネガコン回路
C2L 第一ネガコン回路
C2R 第二ネガコン回路
C3 操作回路(リモコン回路)
C4 分岐回路
θ 仰角
r ロッド圧
h ヘッド圧
BP 所定圧力
1 第一ネガコン圧
2 第二ネガコン圧
1〜R5 リモコン圧
W 吊り上げ荷重
MAX 定格荷重
1,W2 規定値
M 負荷率
1〜N6 吐出流量
9RMAX,N9LMAX 最大流量
1 吊り上げフラグ
2 荷重設定フラグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロント作業機の駆動に係る油圧回路と、該油圧回路における油圧ポンプ及び該フロント作業機を駆動するアクチュエータ間に介装された制御弁と、該フロント作業機に設けられた吊具と備えた作業機械の油圧制御装置であって、
該吊具に作用する吊り上げ荷重を算出する荷重算出手段と、
該荷重算出手段で検出された該吊り上げ荷重が整定した時点での荷重値に基づき、該フロント作業機に対する該吊り上げ荷重の負荷率を算出する負荷率算出手段と、
該制御弁のスプールに接続され、操作入力に応じたリモコン圧を伝達するリモコン回路と、
該リモコン回路上に介装され、該操作入力に応じたリモコン圧を減圧するリモコン圧減圧弁と、
該負荷率算出手段で算出された該負荷率に基づき、該リモコン圧減圧弁の出力圧力を制御するリモコン圧変更制御手段とを備えた
ことを特徴とする、作業機械の油圧制御装置。
【請求項2】
該リモコン圧変更制御手段が、該負荷率が高いほど、該リモコン圧が低下するように、該リモコン圧減圧弁を制御する
ことを特徴とする、請求項1記載の作業機械の油圧制御装置。
【請求項3】
該油圧ポンプとして第一油圧ポンプ及び第二油圧ポンプを備え、該アクチュエータとしてブーム及びアームを備え、該制御弁が、該第一油圧ポンプ及び該ブーム間に介装された第一ブーム制御弁と、該第二油圧ポンプ及び該ブーム間に介装された第二ブーム制御弁と、該第二油圧ポンプ及び該アーム間に介装された第一アーム制御弁と、該第一油圧ポンプ及び該アーム間に介装された第二アーム制御弁とを備えた作業機械の油圧制御装置であって、
該リモコン圧減圧弁が、該第二ブーム制御弁のスプールに伝達される該リモコン圧を減圧するブーム減圧弁と、該第二アーム制御弁のスプールに伝達される該リモコン圧を減圧するアーム減圧弁とを有する
ことを特徴とする、請求項1又は2記載の作業機械の油圧制御装置。
【請求項4】
該制御弁よりもセンタバイパスの下流側の作動油圧をネガコン圧として該油圧ポンプへ伝達するネガコン回路と、
該ネガコン回路に介装され、該センタバイパスから導入される該ネガコン圧と減圧弁から導入されるパイロット作動油圧とのうちの何れか高圧側を選択して該油圧ポンプのレギュレータに伝達する高圧選択弁と、
該負荷率算出手段で算出された該負荷率に基づき、該減圧弁の出力圧力を制御するポンプ流量変更手段とをさらに備えた
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の作業機械の油圧制御装置。
【請求項5】
該ポンプ流量変更手段が、該負荷率が高いほど該油圧ポンプの吐出流量が減少するように、該減圧弁を制御する
ことを特徴とする、請求項4記載の作業機械の油圧制御装置。
【請求項6】
該フロント作業機を駆動するアクチュエータを複数備えた作業機械の油圧制御装置であって、
該ポンプ流量変更手段が、該複数のアクチュエータのうちの一つの単動操作時と比較して、該複数のアクチュエータの連動操作時における該油圧ポンプの吐出流量が減少するように、該減圧弁を制御する
ことを特徴とする、請求項4又は5記載の作業機械の油圧制御装置。
【請求項7】
該制御弁よりもセンタバイパスの下流側の作動油圧をネガコン圧として該油圧ポンプへ伝達するネガコン回路と、
該ネガコン回路に介装され、該センタバイパスから導入される該ネガコン圧と減圧弁から導入されるパイロット作動油圧とのうちの何れか高圧側を選択して該油圧ポンプのレギュレータに伝達する高圧選択弁と、
該負荷率算出手段で算出された該負荷率に基づき、該減圧弁の出力圧力を制御するポンプ流量変更手段とをさらに備え、
該減圧弁が、該第一油圧ポンプに伝達されるネガコン圧を制御するための左ネガコン回路に介装された左減圧弁と、該第二油圧ポンプに伝達されるネガコン圧を制御するための右ネガコン回路に介装された右減圧弁とを有し、
該ポンプ流量変更手段が、
該アームの操作入力時において、該負荷率が高いほど該第一油圧ポンプの吐出流量が減少するように該左減圧弁の出力圧力を制御し、
該ブームの操作入力時において、該負荷率が高いほど該第二油圧ポンプの吐出流量が減少するように該右減圧弁の出力圧力を制御する
ことを特徴とする、請求項3記載の作業機械の油圧制御装置。
【請求項8】
該制御弁と該センタバイパスにおける該ネガコン回路との分岐点との間に介装され、該センタバイパスを開閉制御するバイパスカット弁と、
重力に逆らって作動する該アクチュエータについて、該負荷率が高いほど、該バイパスカット弁の開度が減少するように、該バイパスカット弁を制御するバイパスカット制御手段とをさらに備えた
ことを特徴とする、請求項4〜6の何れか1項に記載の作業機械の油圧制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−157163(P2011−157163A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−19037(P2010−19037)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(505236469)キャタピラー エス エー アール エル (144)
【Fターム(参考)】