説明

作業機械

【課題】制御が簡潔で短時間での暖機が可能な手動再生システムを備える作業機械を提供すること。
【解決手段】負荷制御部66は、手動再生スイッチ22がON位置にされた以後であって、冷却水温度Twが失火防止温度T1未満のときには、エンジン1の回転数N並びに油圧ポンプ11の押しのけ容積q及び吐出圧Pのうち少なくとも1つを第1目標値(N1,q1,P1)に保持し、また、手動再生スイッチがON位置にされた以後であって、冷却水温度がT1以上のときには、エンジンの回転数N並びに油圧ポンプの押しのけ容積q及び吐出圧Pのうち少なくとも1つを第2目標値(N2,q2,P2)に保持する。一方、再生制御部67は、手動再生スイッチがON位置にされた以後であって冷却水温度がT1以上のときに、強制再生を開始する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジン、可変容量型油圧ポンプ及び排気処理装置を備える作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンの排気から粒子状物質(Particulate Matter(以下、PMとする))を取り除く排気処理装置には、ディーゼル微粒子除去フィルタ(DPF:Diesel Particulate Filter(以下において「フィルタ」と略すことがある))を備えたものがある。この種の排気処理装置では、フィルタにPMが蓄積され続けると排圧上昇等のトラブルが生じるため、蓄積されたPMを除去してフィルタを再生する必要がある。
【0003】
フィルタの再生には大別して、PMが燃焼する温度(以下において「再生可能温度」と称することがある)まで排気温度が到達したときに自発的に発生する自己再生と、排気に含ませた未燃燃料を燃焼する等して排気温度を再生可能温度まで強制的に上昇させる強制再生がある。さらに、強制再生には、ある条件が満たされたとき(例えば、PMの推定堆積量が所定の閾値を超えたとき)に自動的に再生を行う方法(自動再生)と、運転者(オペレータ)の操作に基づいて任意のタイミングで再生を行う方法(手動再生)がある。
【0004】
ところで、強制再生には、燃料噴射のタイミングを通常よりも遅らせるポスト噴射やマルチ噴射を利用して未燃燃料を排気に含ませる方法がある。しかし、この方法を利用した場合にエンジン冷却水温度が低いと、エンジンシリンダ内の温度が低いために失火してドライバビリティ(操縦性能)が低下したり、白煙が発生したりする不具合(以下において「失火等」と略すことがある)が発生する可能性がある。
【0005】
このような失火等の発生防止を図る技術としては、冷却水温度が失火等を防止するために設定した温度Tw0未満の場合には、当該設定温度Tw0に達するまで暖機してから強制再生を開始するように構成したものがある(特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−282478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記文献には、まず冷却水温度を設定温度Tw0以上に上昇させて暖機を完了させ、次に排気温度を再生可能温度まで上昇させて強制再生を行う旨が記載されており、冷却水温度をTw0以上に上昇させる際には「暖機システム」を作動する旨記載されている。ところが、当該暖機システムはいかなるハードウェアによって構成することが好ましいのか、または当該ハードウェアを用いていかなる方法で排気温度を上昇することが好ましいかについては上記文献には明示されていない。さらに、油圧ポンプを備える作業機械(油圧ショベル等)に装着されたフィルタを手動再生する場合には、いかなる観点から手動再生システムを構築することが好ましいのかについては明示されていない。
【0008】
例えば、当該暖機システムを用いた冷却水温度上昇制御が複雑であると、後続する排気温度上昇制御との兼ね合いによっては、手動再生システム全体としての信頼性が低下するおそれがあり、実機への実装が困難になる場合がある。また、当該暖機システムが、ローアイドルの状態(無負荷状態で最低限度の回転数でエンジンを継続的に稼働する状態)で冷却水温度がT1以上に到達するまで放置する一般的な方法を示すものと解釈すると、冷却水温度が低く暖機を完了するまでに時間がかかる場合(特に寒冷時)には、作業機械の作業効率が低下するおそれがある。すなわち、実機に実装する観点からは、作業機械に装着されたフィルタを手動再生するまでの一連の流れを考慮しつつ、制御が簡潔で短時間での暖機が可能な手動再生システムを追究する余地がある。
【0009】
本発明は、制御が簡潔で短時間での暖機が可能な手動再生システムを備える作業機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明は、上記目的を達成するために、ディーゼルエンジンと、このエンジンによって駆動される可変容量型油圧ポンプと、前記エンジンの排気中の粒子状物質を捕集するフィルタを有する排気処理装置とを備える作業機械において、前記エンジンの冷却水温度を検出する冷却水温検出手段と、前記エンジンの回転数N並びに前記油圧ポンプの押しのけ容積q及び吐出圧Pのうち少なくとも1つをローアイドル時の状態から大きくしてエンジン負荷を上昇させる負荷制御手段と、前記エンジンの排気中に燃料を残存させることで排気温度を強制的に上昇させ、前記フィルタを強制再生する再生制御手段と、前記再生制御手段に対して強制再生の開始を指示するための再生指示手段とを備え、前記負荷制御手段は、(A)前記再生指示手段から強制再生の開始の指示があった以後であって、前記冷却水温度が強制再生時の失火等の発生を防止するために設定したT1未満のときには、前記冷却水温度をT1以上に到達させるために設定した第1目標値(N1,q1,P1)に前記エンジンの回転数N並びに前記油圧ポンプの押しのけ容積q及び吐出圧Pのうち少なくとも1つを保持し、また、(B)前記再生指示手段から強制再生の開始の指示があった以後であって、前記冷却水温度がT1以上のときには、強制再生が可能な排気温度を保持するために設定した目標値であって前記第1目標値未満に設定された第2目標値(N2,q2,P2)に前記エンジンの回転数N並びに前記油圧ポンプの押しのけ容積q及び吐出圧Pのうち少なくとも1つを保持し、前記再生制御手段は、前記再生指示手段から強制再生の開始の指示があった以後であって、前記冷却水温度がT1以上のときに、強制再生を開始するものとする。
【0011】
(2)上記(1)において、好ましくは、前記フィルタの強制再生が完了した旨を判定する再生完了判定手段をさらに備え、前記再生制御手段は、強制再生を開始した後に前記再生完了判定手段において強制再生が完了した旨が判定されたら、強制再生を終了するものとする。
【0012】
(3)上記(2)において、好ましくは、前記フィルタに導入される直前における前記エンジンの排気温度を検出する排気温度検出手段をさらに備え、前記再生完了判定手段は、前記排気温度検出で検出された排気温度が強制再生可能な範囲に保持されている時間を計測し、さらに、当該計測時間が前記フィルタの再生完了タイミングを判定するために設定した再生完了時間に達したときに、強制再生が完了したと判定するものとする。
【0013】
(4)上記(1)〜(3)のいずれかにおいて、好ましくは、外気温度を検出する外気温度検出手段とをさらに備え、前記負荷制御手段は、(A’)前記外気温度が負荷上昇に付随する燃料消費を抑制するために設定した設定温度以上のときであり、さらに、前記再生指示手段から強制再生の開始の指示があった以後であって、前記冷却水温度がT1未満のときには、前記冷却水温度をT1以上に到達させるために設定した目標値であって前記第1目標値未満かつ前記第2目標値以上に設定された第3目標値(N3,q3,P3)に前記エンジンの回転数N並びに前記油圧ポンプの押しのけ容積q及び吐出圧Pのうち少なくとも1つを保持するものとする。
【0014】
(5)上記(1)〜(4)のいずれかにおいて、好ましくは、ロック位置にあるときに運転者による前記作業機械の操作を不可能にするロック装置をさらに備え、前記負荷制御手段及び前記再生制御手段は、ロック装置がロック位置にあるときに、負荷制御及び強制再生を行うものとする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、作業機械の手動再生において、短時間での暖機を簡潔な制御で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態に係る作業機械の概略図。
【図2】本発明の実施の形態におけるエンジン回転数Nの特性図。
【図3】本発明の実施の形態における油圧ポンプの押しのけ容積qの特性図。
【図4】本発明の実施の形態における油圧ポンプの吐出圧Pの特性図。
【図5】本発明の実施の形態におけるコントローラ25の概略図。
【図6】本発明の実施の形態に係る作業機械における第1の手動再生処理のフローチャート。
【図7】本発明の実施の形態に係る作業機械における第2の手動再生処理のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。ここでは、本発明の実施の形態に係る手動再生システムを油圧ショベルに適用した場合について説明する。油圧ショベルは、ディーゼルエンジンによって駆動される油圧ポンプを備える作業機械(油圧作業機械)の一種であり、クローラ式の走行装置を有する下部走行体と、下部走行体に旋回可能に取り付けられた上部旋回体と、上部旋回体の前方に取り付けられた多関節型の作業装置と、上部旋回体に設けられた運転室(キャビン)等を備えている。
【0018】
図1は本発明の実施の形態に係る作業機械(油圧ショベル)の概略図である。この図に示す作業機械は、ディーゼルエンジン(以下において「エンジン」と略す)1と、排気処理装置8と、可変容量型油圧ポンプ(以下において「油圧ポンプ」と略す)11と、油圧アクチュエータ17と、パイロットポンプ12と、ゲートロックレバー(ロック装置)21と、手動再生スイッチ(再生指示手段)22と、コントローラ(制御装置)25を備えている。
【0019】
エンジン1は、水冷式のディーゼルエンジンであり、冷却水ポンプ(図示せず)によって送り出される冷却水(エンジン冷却水)によって冷却されている。エンジン1には、冷却水の温度(冷却水温度)Twを検出する冷却水温センサ(冷却水温検出手段)7と、エンジン1の回転数Nを検出するエンジン回転数センサ(エンジン回転数検出手段)26が取り付けられている。冷却水温センサ7の検出値(冷却水温度Tw)と、エンジン回転数センサ26の検出値(実回転数)は、コントローラ25に送信されている。
【0020】
エンジン1の回転数Nは、エンジンコントロールダイヤル(エンジン回転数指示手段)37を介して制御される。エンジンコントロールダイヤル37は、エンジン1の目標回転数を指示するもので、作業機械の運転室内に設置されている。エンジンコントロールダイヤル37を介して入力された目標回転数は、コントローラ25に送信されている。コントローラ25は、エンジンコントローラダイヤル37からの目標回転数とエンジン回転数センサ26からの実回転数とに基づいて、燃料噴射装置1a(電子制御式燃料噴射装置)を制御する等してエンジン1の回転数Nを制御している。
【0021】
図2は本発明の実施の形態におけるエンジン回転数Nの特性図である。この図に示すように、本実施の形態におけるエンジン回転数Nは、後述する手動再生処理において、(1)第1目標値N1、(2)第2目標値N2、(3)第3目標値N3のいずれかに選択的に設定されることがある。この図におけるN0は、ローアイドル時(無負荷状態で最低限度の回転数でエンジン1を継続的に稼動する状態)の回転数を示している(以下においてアイドル時回転数N0と称することがある)。
【0022】
第1目標値N1は、強制再生時の失火等の発生を防止するために設定した失火防止温度T1以上に冷却水温度Twを到達させるために設定した目標回転数であり、アイドル時回転数N0より大きく設定されている。図2に示すように、第1目標値N1は、冷却水温度Twが失火防止温度T1未満のときに設定されることがある。
【0023】
第2目標値N2は、排気温度を再生可能温度(フィルタ35(後述)の再生が行われる温度で、PMが燃焼可能な温度)以上に保持するために設定した目標回転数であり、N0より大きく第1目標値N1未満に設定されている。図2に示すように、第2目標値N2は、冷却水温度Twが失火防止温度T1以上のときに設定されることがある。
【0024】
第3目標値N3は、外気温度Taが負荷上昇に付随する燃料消費を抑制するために設定した設定温度T2以上である場合に、冷却水温度Twを失火防止温度T1以上に到達させるために設定した目標回転数であり、第1目標値N1未満かつ第2目標値N2以上に設定されている(すなわち、N0<N2≦N3<N1)。図2に示すように、第3目標値N3は、冷却水温度Twが失火防止温度T1未満のときに、第1目標値N1と代替して設定されることがある。エンジン1の回転数NをN1、N2、またはN3に設定すると、エンジン負荷がローアイドル時よりも上昇するので、ローアイドル状態で放置した場合と比較して冷却水温度及び排気温度を短時間で上昇させることができる。また、エンジン回転数Nが大きくなるほどエンジン負荷は上昇するので、エンジン回転数Nが大きいほど冷却水温度及び排気温度を短時間で上昇させることができる。
【0025】
排気処理装置8は、エンジン1の排気が通過する排気管路に設置されている。排気処理装置8には、エンジン1の排気中のPMを捕集するフィルタ(DPF)35と、酸化触媒36と、排気温度センサ(排気温度検出手段)9が設置されている。酸化触媒36は、排気中に含まれた未燃燃料の酸化反応(燃焼)を促進させるもので、フィルタ35の上流側に配置されている。排気温度センサ9は、フィルタ35に導入される直前におけるエンジン1の排気温度を検出するもので、フィルタ35と酸化触媒36の間に配置されている。排気温度センサ9の検出値(排気温度)は、コントローラ25に送信されており、排気温度が再生可能温度に到達しているか等の把握に利用される。
【0026】
油圧ポンプ11は、作業機械に設けられた油圧アクチュエータ(図示せず)を駆動する可変容量型のポンプで、エンジン1によって駆動されている。油圧ポンプ11における斜板(図示せず)の傾転角はレギュレータ13によって制御されており、レギュレータ13に作用する圧油を変化させると傾転角が変化して油圧ポンプ11の押しのけ容積(1回転あたりの吐出流量)qが変化する。レギュレータ13には、パイロットポンプ12によってタンク14から汲み上げられた圧油が、第1電磁弁41を介して導入されている。第1電磁弁41はコントローラ25と接続されており、第1電磁弁41の絞り量はコントローラ25からの制御信号によって調整される。すなわち、本実施の形態における油圧ポンプ11の押しのけ容積qは、第1電磁弁41を介して制御されている。
【0027】
図3は本発明の実施の形態における油圧ポンプ11の押しのけ容積qの特性図である。この図に示すように、本実施の形態における押しのけ容積qは、後述する手動再生処理において、(1)第1目標値q1、(2)第2目標値q2、(3)第3目標値q3のいずれかに選択的に設定されることがある。この図におけるq0は、ローアイドル時の押しのけ容積を示している(以下においてアイドル時容積q0と称することがある)。
【0028】
第1目標値q1は、冷却水温度Twを失火防止温度T1以上に到達させるために設定した目標容積であり、アイドル時容積q0より大きく設定されている。図3に示すように、第1目標値q1は、冷却水温度Twが失火防止温度T1未満のときに設定されることがある。
【0029】
第2目標値q2は、排気温度を再生可能温度以上に保持するために設定した目標容積であり、q0より大きく第1目標値q1未満に設定されている。図3に示すように、第2目標値q2は、冷却水温度Twが失火防止温度T1以上のときに設定されることがある。
【0030】
第3目標値q3は、外気温度Taが設定温度T2以上である場合に、冷却水温度Twを失火防止温度T1以上に到達させるために設定した目標容積であり、第1目標値q1未満かつ第2目標値q2以上に設定されている(すなわち、q0<q2≦q3<q1)。図3に示すように、第3目標値q3は、冷却水温度Twが失火防止温度T1未満のときに、第1目標値q1と代替して設定されることがある。油圧ポンプ11の傾転角を変更して押しのけ容積qをq1、q2、またはq3に設定すると、エンジン負荷がローアイドル時よりも上昇するので、ローアイドル状態で放置した場合と比較して冷却水温度及び排気温度を短時間で上昇させることができる。また、押しのけ容積qが大きくなるほどエンジン負荷は上昇するので、押しのけ容積qが大きいほど冷却水温度及び排気温度を短時間で上昇させることができる。
【0031】
油圧ポンプ11から吐出された圧油は、流量制御弁16と、可変絞り弁15を介してタンク14に戻されている。流量制御弁16は、油圧アクチュエータ17の駆動を制御するものであり、運転室に設置された操作レバー(図示せず)を介して与えられるパイロット圧によって移動される。流量制御弁16を中立位置から移動させると、油圧ポンプ11からの圧油が導入されて油圧アクチュエータ17が駆動される。なお、図1に図示された油圧アクチュエータ17は上部旋回体を旋回させる旋回モータであるが、その他の油圧アクチュエータ(例えば、多関節型の作業装置におけるブームを回動させるブームシリンダ)及びその油圧アクチュエータを制御する流量制御弁は省略している。
【0032】
流量制御弁16が中立位置にあるとき(運転者に操作されていないとき)、油圧ポンプ11の吐出圧Pは可変絞り弁15によって制御されている。このとき、可変絞り弁15に作用する圧油を変化させると、油圧ポンプ11の吐出圧Pが変化する。可変絞り弁15には、パイロットポンプ12から吐出された圧油が、第2電磁弁42を介して導入されている。第2電磁弁42はコントローラ25と接続されており、第2電磁弁42の絞り量はコントローラ25からの制御信号によって調整される。すなわち、本実施の形態における油圧ポンプ11の吐出圧Pは、第2電磁弁42を介して制御されている。
【0033】
図4は本発明の実施の形態における油圧ポンプ11の吐出圧Pの特性図である。この図に示すように、本実施の形態における吐出圧Pは、後述する手動再生処理において、(1)第1目標値P1、(2)第2目標値P2、(3)第3目標値P3のいずれかに選択的に設定されることがある。この図におけるP0は、ローアイドル時の吐出圧を示している(以下においてアイドル時圧力P0と称することがある)。
【0034】
第1目標値P1は、冷却水温度を失火防止温度T1以上に到達させるために設定した目標圧力であり、アイドル時圧力P0より大きく設定されている。図4に示すように、第1目標値P1は、冷却水温度Twが失火防止温度T1未満のときに設定されることがある。
【0035】
第2目標値P2は、排気温度を再生可能温度以上に保持するために設定した目標圧力であり、P0より大きく第1目標値P1未満に設定されている。図4に示すように、第2目標値P2は、冷却水温度Twが失火防止温度T1以上のときに設定されることがある。
【0036】
第3目標値P3は、外気温度Taが設定温度T2以上である場合に、冷却水温度Twを失火防止温度T1以上に到達させるために設定した目標圧力であり、第1目標値P1未満かつ第2目標値P2以上に設定されている(すなわち、P0<P2≦P3<P1)。図4に示すように、第3目標値P3は、冷却水温度Twが失火防止温度T1未満のときに、第1目標値P1と代替して設定されることがある。油圧ポンプ11の吐出圧PをP1、P2、またはP3に設定すると、エンジン負荷がローアイドル時よりも上昇するので、ローアイドル状態で放置した場合と比較して冷却水温度及び排気温度を短時間で上昇させることができる。また、油圧ポンプ11の吐出圧Pが大きくなるほどエンジン負荷は上昇するので、吐出圧Pが大きいほど冷却水温度及び排気温度を短時間で上昇させることができる。
【0037】
パイロットポンプ12は、油圧ポンプ11と同様にエンジン1によって駆動されており、可変絞り弁15やレギュレータ13等の操作系に圧油を供給している。パイロットポンプ12から吐出された圧油は電磁弁41,42に導入されている。パイロットポンプ12から吐出される圧油の最大圧力は、電磁弁41,42よりタンク14側に設置されたパイロットリリーフ弁18によって一定に調整されている。なお、本実施の形態では電磁弁41,42を介して可変絞り15及びレギュレータ13を操作することにより、油圧ポンプ11の吐出圧P及び押しのけ容積q(傾転角)を制御しているが、コントローラ25と可変絞り15及びレギュレータ13とを電気的に接続し、これらにコントローラ25からの制御信号を直接送信することで油圧ポンプ11の吐出圧P及び押しのけ容積q(傾転角)を制御しても良い。
【0038】
ゲートロックレバー21は、流量制御弁16に付加されるパイロット圧を遮断することで操作レバー(図示せず)による運転者の操作を不可能にするもので、作業機械の運転室内に設置されている。ゲートロックレバー21がロック位置に移動されると、流量制御弁16へのパイロット圧が遮断され、操作レバーを介しての油圧アクチュエータ17の操作が不可能なる。一方、ゲートロックレバー21がロック解除位置に移動されると、操作レバーによる操作が可能になる。
【0039】
手動再生スイッチ(再生指示手段)22は、作業機械の運転者がコントローラ25に対してフィルタ35の強制再生の開始を指示するためのものであり、作業機械の運転室内に設置されている。手動再生スイッチ22は、コントローラ25と接続されている。手動再生スイッチ22が運転者に押される場面としては、例えば、運転室内に設置された表示装置等を介してコントローラ25から強制再生する旨の指示があった場合や、これとは無関係に定期的又は任意の時刻に運転者の意思によって再生を行う場合がある。
【0040】
図5は本発明の実施の形態におけるコントローラ25の概略図である。なお、先の図と同じ部分には同じ符号を付して説明は省略する(後の図も同様とする)。
【0041】
この図に示すように、コントローラ25は、再生スイッチ判定部61と、ロック判定部62と、ローアイドル判定部63と、外気温度判定部64と、冷却水温度判定部65と、負荷制御部66と、再生制御部67と、再生完了判定部68を備えており、これら各部は互いに通信可能に接続されている。
【0042】
再生スイッチ判定部61は、手動再生スイッチ22を介して運転者から強制再生の開始の指示があったか否かを判定する部分である。本実施の形態における再生スイッチ判定部61は、手動再生スイッチ22がON位置のときに送信されるON信号を手動再生スイッチ22から受信しており、これにより強制再生要求の有無を判定している。
【0043】
ロック判定部62は、ゲートロックレバー21がロック位置にあるか否か、すなわち運転者による作用機械の操作が不可能な状態にあるか否かを判定する部分である。本実施の形態におけるロック判定部62は、ゲートロックレバー21がロック位置にあるときに送信されるロック信号をゲートロックレバー21から受信しており、これによりゲートロックレバー21がロック位置にあるか否かを判定している。ゲートロックレバー21がロック位置にあることが判定できれば、作業機械が静止しているものとみなすことができる。
【0044】
ローアイドル判定部63は、エンジン1がローアイドル状態で稼働しているか否かを判定する部分である。本実施の形態におけるローアイドル判定部63は、エンジンコントロールダイヤル37が低速アイドル回転数(ローアイドル)を指示しているときに送信される目標回転数を受信しており、これによりエンジン1がローアイドル状態で作動しているか否かを判定している。なお、このようにエンジンコントロールダイヤル37の位置で判定する他にも、エンジン回転数センサ26の検出値が所定の回転数付近に保持されている旨を検出するなどして、エンジン1がローアイドル状態で作動しているか否かを判定しても良い。
【0045】
外気温度判定部64は、負荷制御部66による負荷上昇に付随する燃料消費を抑制するために設定した設定温度T2と、外気温度Taとの大小関係を判定する部分である。本実施の形態における外気温度判定部64は、作業機械に備えられた外気温センサ38と接続されており、外気温度センサ38の検出値(外気温度Ta)を受信している。負荷制御部66は、後述する手動再生処理において、外気温度TaがT2未満である場合には第1暖機モードで負荷制御することがあり、外気温度TaがT2以上である場合には第1暖機モードよりも低負荷で暖機を行う第2暖機モードで負荷制御することがある(詳細は後述)。
【0046】
冷却水温度判定部65は、失火防止温度T1と冷却水温度Twとの大小関係を判定する部分である。本実施の形態における冷却水温度判定部65は、冷却水温センサ7と接続されており、冷却水温セン7サの検出値(冷却水温度Tw)を受信している。
【0047】
負荷制御部(負荷制御手段)66は、フィルタ35を手動再生するためにエンジン負荷を制御する部分である。ローアイドル時からエンジン負荷を上昇させる方法としては、エンジン1の回転数N並びに油圧ポンプ11の押しのけ容積q及び吐出圧Pのうち少なくとも1つをローアイドル時の状態から大きくする方法がある。本実施の形態における負荷制御部66は、後述する手動再生処理において、燃料噴射装置1a、レギュレータ13、または可変絞り弁15に制御信号を適宜送信し、エンジン回転数N、または油圧ポンプ11の押しのけ容積q若しくは吐出圧Pを制御することでエンジン負荷を制御している。具体的には、後述する手動再生処理において、(1)第1暖機モード、(2)第2暖機モード、(3)排気温度上昇モードの3つの負荷制御モードのいずれかを行う。
【0048】
ここで、(1)第1暖機モードと(2)第2暖機モードは、冷却水温度Twを短時間で失火防止温度T1まで到達させるために行う負荷制御であり、(3)排気温度上昇モードは、冷却水温度TwをT1まで到達させた以後に、排気温度を再生可能温度に保持するために行う負荷制御である。(1)第1暖機モードは、エンジン1の回転数N並びに油圧ポンプ11の押しのけ容積q及び吐出圧Pのうち少なくとも1つを第1目標値(N1,q1,P1)に保持するものであり、(2)第2暖機モードは、エンジン1の回転数N並びに油圧ポンプ11の押しのけ容積q及び吐出圧Pのうち少なくとも1つを第3目標値(N3,q3,P3)に保持するものであり、(3)排気温度上昇モードは、エンジン1の回転数N並びに油圧ポンプ11の押しのけ容積q及び吐出圧Pのうち少なくとも1つを第2目標値(N2,q2,P2)に保持するものである。先述のように、これらの目標値には「第2目標値(N2,q2,P2)≦第3目標値(N3,q3,P3)<第1目標値(N1,q1,P1)」という大小関係があるので、エンジン負荷上昇の程度には「(3)排気温度上昇モード≦(2)第2暖機モード<(1)第1暖機モード」という大小関係が成立している。
【0049】
再生制御部(再生制御手段)67、フィルタ35の強制再生(手動再生)を制御する部分である。再生制御部67は、エンジン1の排気中に燃料を残存させることで排気温度を強制的に上昇させ、フィルタ35を強制再生する。本実施の形態における再生制御部67は、燃料噴射装置1aに制御信号を送信しており、燃料噴射のタイミングを通常よりも遅らせるマルチ噴射やポスト噴射を利用して未燃燃料を排気に含ませている。なお、マルチ噴射による未燃燃料の供給を前提とするときであって、当該マルチ噴射だけでは強制再生に必要な未燃燃料が不足するときには、エンジン1の出口から排気処理装置8に至る排気管路に燃料供給装置を別途取り付けて、当該燃料供給装置から不足分の未燃燃料を排気に供給するようにしても良い。
【0050】
再生完了判定部68は、フィルタ35の強制再生が完了したか否かを判定する部分である。本実施の形態における再生完了判定部68は、排気温度センサ9と接続されており、排気温度センサ9の検出値を利用して再生の完了を判定している。すなわち、排気温度センサ9で検出された排気温度が強制再生可能な範囲(すなわち、再生可能温度以上の温度)に保持されている時間を計測し、その計測時間が再生完了時間(フィルタ35の再生完了タイミングを判定するために設定した時間)に達したときに、フィルタ35の再生が完了したものとみなしている。なお、このように再生の完了を判定する場合、排気温度が再生可能な範囲に保持されている時間を計測するための部分(再生時間計測手段)をコントローラ25に別途設けても良い。また、上記のように排気温度センサ9を利用する他にも、フィルタ35の前後差圧を検出する差圧センサ(差圧検出手段)を設置し、そのセンサの検出値が設定値以下に下がったときを再生が完了したときであるとみなしても良い。
【0051】
次に上記のように構成される作業機械における第1の手動再生処理について説明する。図6は本発明の実施の形態に係る作業機械における第1の手動再生処理のフローチャートである。
【0052】
この図に示すように、コントローラ25は、再生スイッチ判定部61において手動再生スイッチ22がOFF位置からON位置に変更されたことを判定し、運転者から強制再生の開始の指示があったことが確認できたら、手動再生処理を開始する。そして、冷却水温度判定部65は、冷却水温センサ7から送信される冷却水温度Twが失火防止温度T1以上であるかを判定する(S110)。
【0053】
S110において冷却水温度TwがT1未満であると判定されたら、負荷制御部66は冷却水温度TwがT1に到達するまで第1暖機モードでエンジン負荷制御を行う。すなわち、負荷制御部66は、エンジン1の回転数N並びに油圧ポンプ11の押しのけ容積q及び吐出圧Pのうち少なくとも1つを第1目標値(N1,q1,P1)に保持し、エンジン負荷を上昇させる(S120)。このようにエンジン負荷制御を行うと、エンジン負荷がローアイドル時よりも上昇するので、ローアイドル状態で放置した場合と比較して冷却水温度Twを短時間でT1に到達させることができる。したがって、強制再生時の失火等の発生を短時間で防止することができる。なお、第1暖機モードにおける第1目標値(N1,q1,P1)は、冷却水温度TwがT1に到達したときにおける排気温度が再生可能温度以上に到達しているように設定することが好ましい。このように第1目標値を設定すると、後続する強制再生処理(S140)においてフィルタ35の再生が即座に開始されるので、無駄な燃料消費を抑制することができるからである。
【0054】
冷却水温度判定部65において、S120で冷却水温度TwがT1以上に到達したと判定されたとき及びS110で冷却水温度TwがT1以上であると判定されたときには、負荷制御部66は排気温度上昇モードでエンジン負荷制御を行う(S130)。すなわち、負荷制御部66は、エンジン1の回転数N並びに油圧ポンプ11の押しのけ容積q及び吐出圧Pのうち少なくとも1つを第2目標値(N2,q2,P2)に保持する。そして、再生制御部67は、排気中に未燃燃料を残存させて強制再生を開始する(S140)。このように排気温度を保持しながら排気中に未燃燃料を残存させると、その未燃燃料が酸化触媒36で酸化され、その反応熱でもってフィルタ35に導入される排気を再生可能温度以上にまで上昇させることができる。これによりフィルタ35に捕集されたPMを燃焼できるので、フィルタ35へのPM堆積量を減少させることができる。なお、図6では、S130の後にS140を開始するように示してあるが、S130及びS140は同時に開始しても良い。
【0055】
S140において強制再生を開始したら、再生完了判定部68において強制再生が完了したと判定されるまで、負荷制御部66で排気温度上昇モードを維持しながら、再生制御部67で強制再生を継続する(S150)。すなわち、本実施の形態では、排気温度センサ9からの排気温度が再生可能温度以上に保持されている累積時間が再生完了時間に到達したことが確認できたら、再生完了判定部68はフィルタ35の再生が完了したと判定する。このように再生完了判定部68でフィルタ35の再生が完了したと判定されたら、コントローラ25は、再生制御部67で強制再生を停止し(S160)、負荷制御部66で負荷制御を停止し(S170)、負荷制御フローを終了する。
【0056】
上記の説明から明らかなように、本実施の形態に係る作業機械は、冷却水温度Twを検出する冷却水温センサ7と、エンジン1の回転数N並びに油圧ポンプ11の押しのけ容積q及び吐出圧Pのうち少なくとも1つをローアイドル時の状態から大きくしてエンジン負荷を上昇させる負荷制御部66と、エンジン1の排気中に燃料を残存させることで排気温度を強制的に上昇させ、フィルタ35を強制再生する再生制御部67と、再生制御部67に対して強制再生の開始を指示するための手動再生スイッチ22を備えている。そして、上記の第1の手動再生処理から明らかなように、負荷制御部66は、(A)手動再生スイッチ22がON位置にされた以後であって冷却水温度TwがT1未満のときには、第1暖機モードでエンジン負荷制御を行い、(B)手動再生スイッチ22がON位置にされた以後であって冷却水温度TwがT1以上のときには、排気温度上昇モードでエンジン負荷制御を行う。一方、再生制御部67は、手動再生スイッチ22がON位置にされた以後であって、冷却水温度TwがT1以上のときに強制再生を開始する。
【0057】
このように構成された作業機械によれば、運転者が手動再生したい場合に冷却水温度TwがT1未満のときでも、第1暖機モードでエンジン負荷制御を行うことにより、失火等の発生を短時間で防止することができるので、手動再生スイッチ22をON位置にしてから実際に強制再生が開始されるまでの時間(図6における処理開始からS140に至るまでの時間)を短縮することができる。これにより作業機械の作業効率が低下することを抑制することができる。さらに上記のように構成された作業機械は、冷却水温度Twを上昇させるための暖機モードと、排気温度を再生可能温度以上に保持するための排気温度上昇モードにおいて、共通の対象(すなわち、エンジン1の回転数N並びに油圧ポンプ11の押しのけ容積q及び吐出圧Pのうち少なくとも1つ)を制御するものであるので、両モードの間で異なる対象を制御する場合と比較して制御が簡潔である。そのため、手動再生処理を行うシステムが全体として複雑になることが抑制されるので、実機への実装も容易である。したがって、本実施の形態によれば、制御が簡潔で短時間での暖機が可能な手動再生システムを備える作業機械を提供することができる。
【0058】
また、上記に示した本実施の形態の作業機械では、上記の構成に加えてさらに、フィルタ35の強制再生が完了した旨を判定する再生完了判定部68を設けており、図6に示したように、当該再生完了判定部68において強制再生が完了した旨が判定されたら強制再生及び負荷制御を停止するように構成している。このように手動再生処理を構成すれば、手動再生スイッチ22をON位置にしたときに必ずフィルタ35の再生が完了させることができる。
【0059】
次に上記のように構成される作業機械における第2の手動再生処理について説明する。図7は本実施の形態に係る作業機械における手動再生処理のフローチャートである。
【0060】
この図に示す手動再生処理のフローは、(1)ゲートロックレバー21がロック位置にあるか否か判定している点(S210)、(2)エンジン1がローアイドル状態で稼働しているか否かを判定している点(S220)、(3)外気温度によって暖機モードを変更している点(S230,110A,120,110B,125)で先の第1のフローと異なる。図7では先のフローと同じ処理には同じ符号を付して説明は省略し、下記では先のフローとの相違点及びそれによる効果を説明する。
【0061】
図7において、手動再生スイッチ22がON位置に変更されたことにより手動再生処理が開始したら、コントローラ25は、ロック判定部62において、ゲートロックレバー21がロック位置に保持されているか否かを判定する(S210)。S210でゲートロックレバー21がロック位置にあることが判定されたら、コントローラ25は、ローアイドル判定部63において、エンジン1がローアイドル状態で稼働しているか否かを判定する(S220)。S220でエンジンコントロールダイヤル37がローアイドルを指示していれば、ローアイドル判定部63はローアイドル状態で稼働しているものとみなし、コントローラ25は外気温度Taの判定処理(S230)に以降する。
【0062】
一方、上記のS210においてゲートロックレバー21がロック解除位置にあるとき及びS220においてエンジンコントロールダイヤル37がその他の目標回転数を指示していたときは、強制再生のための前提条件が満たされないものとして手動再生処理を終了する。なお、この場合には、作業機械の運転室内に表示装置または警告灯等を設置し、当該表示装置または警告灯等を介して手動再生が開始されない旨及びその原因(ゲートロックレバー21またはエンジンコントロールダイヤル37の位置)を運転者に報知することが好ましい。
【0063】
S230では、外気温度判定部64において、外気温度センサ38から送信される外気温度Taが設定温度T2以上であるかを判定する。ここで外気温度TaがT2以上であると判定されたら、冷却水温度判定部65は、冷却水温度Twが失火防止温度T1以上であるかを判定する(S110B)。
【0064】
S110Bにおいて冷却水温度TwがT1未満であると判定されたら、負荷制御部66は冷却水温度TwがT1に到達するまで第2暖機モードでエンジン負荷制御を行う。すなわち、負荷制御部66は、エンジン1の回転数N並びに油圧ポンプ11の押しのけ容積q及び吐出圧Pのうち少なくとも1つを第3目標値(N3,q3,P3)に保持し、エンジン負荷を上昇させる(S125)。このように外気温度TaがT2以上の場合に、第1暖機モードより負荷の低い第2暖機モードを利用して冷却水温度Twを上昇させると、第1暖機モードを利用した場合と比較して冷却水温度TwをT1に到達させるために必要な燃料を低減することができる。
【0065】
S125で冷却水温度TwがT1に到達したとき及びS110Bで冷却水温度TwがT1以上であると冷却水温度判定部65で判定されたときには、排気温度上昇モードに移行し(S130)、以降は図6のフローと同様の処理を行って終了する。
【0066】
一方、S230において、外気温度TaがT2未満であると判定されたら、冷却水温度判定部65は、冷却水温度Twが失火防止温度T1以上であるかを判定する(S110A)。以降の処理は図6のフローと同様の処理を行って終了する。
【0067】
上記の説明から明らかなように、図7に示した手動再生処理では、まず、S210において、ゲートロックレバー21がロック位置にある場合のみに手動再生処理を行っている。このように手動再生処理を行うと、運転者が作業装置等を操作できる状態で手動再生処理が開始されることが防止できる。したがって、運転者の操作による負荷変動が手動再生処理中に生じたりすること等が防止できるので、図6に示したフローよりも安定して手動再生処理を行うことができる。なお、上記では、手動再生処理の開始時のみにゲートロックレバー21の位置の判定を行ったが、ゲートロックレバー21の位置を常に監視し、ゲートロックレバー21がロック解除位置に変更された場合には即座に手動再生処理を終了するように構成することが好ましい。このように構成すれば、再生処理が完了するまでの間、一貫して安定した手動再生処理を行うことができる。なお、作業機械がホイルローダーなどの作業車両である場合であって、エンジン1の回転数及びトルクを制御して車両走行速度を制御するアクセルペダルを備える場合にあっては、ゲートロックレバー21がロック位置にあることに加えて、駐車時の車両制動手段であるパーキングブレーキ装置が作動していることを手動再生処理の開始条件及び継続条件とすることが好ましい。
【0068】
また、図7の手動再生処理では、S220において、エンジン1がローアイドル状態で稼働している場合のみに手動再生処理を行っている。このように手動再処理を行うと、手動再生処理中の燃料消費を抑制することができる。また、このように制御すると、手動再生処理が開始されたときにはエンジン回転数がローアイドル状態から上昇し、手動再生処理が終了するときにはローアイドル状態に復帰する。したがって、運転者はそのエンジン音の大小に基づいて、現在は手動再生処理が実行中であること、または手動再生処理が終了したことを確認することができる。
【0069】
さらに、図7の手動再生では、S230,110A,120,110B,125において、外気温度Taに応じて暖機モードを変更している。一般的に、外気温度Taが高い場合(例えば夏季等)には冷却水温度Twが上昇しやすい傾向があるが、上記のように外気温度TaがT2以上の場合に、第1暖機モードより負荷の低い第2暖機モードを利用して冷却水温度Twを上昇させると、第1暖機モードを利用した場合と比較して冷却水温度TwをT1に到達させるために必要な燃料を低減することができるので、手動再生に伴う燃費を向上させることができる。
【0070】
なお、以上の説明における各フローでは、3つのモード(第1暖機モード、第2暖機モード及び排気温度上昇モード)のすべてにおいて、エンジン負荷制御に際する制御対象は、エンジン1の回転数N並びに油圧ポンプ11の押しのけ容積q及び吐出圧Pのうち少なくとも1つであるとしたが、一連の制御を簡潔にする観点からは、3つのモードのすべてにおいて同じ制御対象を制御するように負荷制御部66を構成することが好ましい。すなわち、例えば、3つのモードすべてにおいてエンジン1の回転数Nのみ制御対象とし、これを状況に応じて第1目標値N1、第2目標値N2または第3目標値N3に適宜設定することが好ましい。このように制御対象を1つに絞ると、さらに制御が簡潔になるので、実機への実装を一層容易にすることができる。
【符号の説明】
【0071】
1 エンジン
7 冷却水温センサ
8 排気処理装置
11 可変容量型油圧ポンプ
21 ゲートロックレバー
25 コントローラ
35 フィルタ
37 エンジンコントローラダイヤル
38 外気温度センサ
61 再生スイッチ判定部
62 ロック判定部
63 ローアイドル判定部
64 外気温度判定部
65 冷却水温度判定部
66 負荷制御部
67 再生制御部
68 再生完了判定部
Tw 冷却水温度
T1 失火防止温度
Ta 外気温度
T2 設定温度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼルエンジンと、
このエンジンによって駆動される可変容量型油圧ポンプと、
前記エンジンの排気中の粒子状物質を捕集するフィルタを有する排気処理装置とを備える作業機械において、
前記エンジンの冷却水温度を検出する冷却水温検出手段と、
前記エンジンの回転数N並びに前記油圧ポンプの押しのけ容積q及び吐出圧Pのうち少なくとも1つをローアイドル時の状態から大きくしてエンジン負荷を上昇させる負荷制御手段と、
前記エンジンの排気中に燃料を残存させることで排気温度を強制的に上昇させ、前記フィルタを強制再生する再生制御手段と、
前記再生制御手段に対して強制再生の開始を指示するための再生指示手段とを備え、
前記負荷制御手段は、
前記再生指示手段から強制再生の開始の指示があった以後であって、前記冷却水温度が強制再生時の失火等の発生を防止するために設定した失火防止温度T1未満のときには、前記冷却水温度をT1以上に到達させるために設定した第1目標値(N1,q1,P1)に前記エンジンの回転数N並びに前記油圧ポンプの押しのけ容積q及び吐出圧Pのうち少なくとも1つを保持し、
また、
前記再生指示手段から強制再生の開始の指示があった以後であって、前記冷却水温度がT1以上のときには、強制再生が可能な排気温度を保持するために設定した目標値であって前記第1目標値未満に設定された第2目標値(N2,q2,P2)に前記エンジンの回転数N並びに前記油圧ポンプの押しのけ容積q及び吐出圧Pのうち少なくとも1つを保持し、
前記再生制御手段は、前記再生指示手段から強制再生の開始の指示があった以後であって、前記冷却水温度がT1以上のときに、強制再生を開始することを特徴とする作業機械。
【請求項2】
請求項1記載の作業機械において、
前記フィルタの強制再生が完了した旨を判定する再生完了判定手段をさらに備え、
前記再生制御手段は、強制再生を開始した後に前記再生完了判定手段において強制再生が完了した旨が判定されたら、強制再生を終了することを特徴とする作業機械。
【請求項3】
請求項2記載の作業機械において、
前記フィルタに導入される直前における前記エンジンの排気温度を検出する排気温度検出手段をさらに備え、
前記再生完了判定手段は、前記排気温度検出で検出された排気温度が強制再生可能な範囲に保持されている時間を計測し、さらに、当該計測時間が前記フィルタの再生完了タイミングを判定するために設定した再生完了時間に達したときに、強制再生が完了したと判定することを特徴とする作業機械。
【請求項4】
請求項1から3いずれかに記載の作業機械において、
外気温度を検出する外気温度検出手段とをさらに備え、
前記負荷制御手段は、
前記外気温度が負荷上昇に付随する燃料消費を抑制するために設定した設定温度以上のときであり、さらに、前記再生指示手段から強制再生の開始の指示があった以後であって、前記冷却水温度がT1未満のときには、
前記冷却水温度をT1以上に到達させるために設定した目標値であって前記第1目標値未満かつ前記第2目標値以上に設定された第3目標値(N3,q3,P3)に前記エンジンの回転数N並びに前記油圧ポンプの押しのけ容積q及び吐出圧Pのうち少なくとも1つを保持することを特徴とする作業機械。
【請求項5】
請求項1から4いずれかに記載の作業機械において、
ロック位置にあるときに運転者による前記作業機械の操作を不可能にするロック装置をさらに備え、
前記負荷制御手段及び前記再生制御手段は、ロック装置がロック位置にあるときに、負荷制御及び強制再生を行うことを特徴とする作業機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−12606(P2011−12606A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−157973(P2009−157973)
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】