説明

作業車両の電動式走行駆動装置

【課題】作業車両に作用する制動方向と反対方向の外力の変化に対し、ブレーキペダルによる制動の操作性を安定させることができる作業車両の電動式走行駆動装置の提供。
【解決手段】ペダルの踏込み量Rの全範囲を、踏込み量0側の初期範囲rsと、最大値Rmax側の終期範囲reと、これら初期範囲rsと終期範囲reの間の中間範囲rmとに区分し、初期範囲rs内、終期範囲re内、中間範囲rm内のそれぞれの踏込み量Rに対応する制動トルク目標値として第1目標値、第2目標値、第3目標値のそれぞれを演算し、第3目標値の踏込み量Rに対するゲインは第1,第2目標値のどちらの踏込み量Rに対するゲインよりも小さくなるよう設定されており、第3目標値、初期範囲rsの上限値Rv1、終期範囲reの下限値Rv2を外力が大きいほど大きく調整することで、目標制動トルクTR,TLの特性をS1からS3までの間で調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪を駆動する電動モータを制御して作業車両の走行と制動の両方を行う作業車両の電動式走行駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダンプトラック、ホイールローダなどの作業車両の運転では、走行速度が速すぎる場合に、ブレーキペダルを踏み込んで減速させることが行われる。この際、ブレーキペダルの踏込み量に対応する制動力が大きすぎると、すなわち、ブレーキペダルの踏込み量に対する制動力のゲインが高すぎると、オペレータにとって制動力の微調整がしにくく、オペレータには細心の注意を要するブレーキペダルの操作が要求されることになり、オペレータの精神的な疲労を招きやすくなる。逆に、ブレーキペダルの踏込み量に対するゲインが低くすぎると、制動力の細かな調整は行いやすくはなるが、制動力を得るために必要な踏込み量が大きくなり、オペレータの肉体的な疲労を招きやすくなる。つまり、ブレーキペダルの踏込み量に対する制動力のゲインは高すぎても低すぎてもオペレータを疲労させてしまうことになる。
【0003】
また、同じ制動力で作業車両を減速させた場合であっても、減速度は作業車両が走行する走行面の傾斜角度、積載重量に影響されて、すなわち作業車両に作用する制動方向と反対方向の外力に影響されて、異なるものとなる。このため、オペレータにはブレーキペダルによる作業車両の制動の操作性が安定しないものに感じられる。例えば、平地で積載重量0の状態では操作性が良好に感じられても、荷を積載して傾斜面を下る場合には作業車両は減速しにくくなるために操作性が悪いと感じられることになる。
【0004】
作業車両で傾斜面を下る際のオペレータの疲労を軽減することができる技術の1つに、特許文献1で開示された降坂時車速自動制御装置がある。この降坂時車速自動制御装置は、ダンプカー等の作業車両で傾斜面を下る際、オペレータにより設定された車速で作業車両を走行させるために、傾斜面の傾斜角度と積載重量とに基づき、すなわち制動方向と反対方向に作用する外力を考慮して、制動力を自動的に調整するようになっている。これによって、オペレータがブレーキペダルを踏み込む必要がなくなり、したがってオペレータの疲労を軽減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−136260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述した特許文献1に開示の降坂時車速自動制御装置は、複数台の作業車両が連なって傾斜面を下る場合には有効なものとは言えない。その理由は、傾斜面で先行車がある場合、その先行車と間には車間距離を保つ必要があり、先行車が何らかの理由で減速して車間距離が短くなりすぎたときには、オペレータ自身がブレーキペダルを踏み込んで減速させなければならないからである。
【0007】
なお、特許文献1に開示の降坂時車速自動制御装置は、作業車両の制動にエアマスタまたはハイドロマスタを有する制動倍力装置が用いているものであって、本発明に係る作業車両の電動式走行駆動装置のように車輪を駆動する電動モータの制御によって制動を行うものではない。
【0008】
従来、電動式走行駆動装置は、踏込み量を電気信号に変換し出力するブレーキペダル、すなわちブレーキペダルと、車輪の回転を減速させる制動トルクを、ブレーキペダルからの電気信号に基づき電動モータに出力させるようになっており、ブレーキペダルの踏込み量に対応する制動トルクの特性は、例えば1次関数に設定されている(図8参照)。
【0009】
この図8の電動式走行駆動装置の場合にも、前述の特許文献1に開示された降坂時車速自動制御装置と同様で、同じ制動力で作業車両を減速させた場合であっても、減速度は作業車両が走行する走行面の傾斜角度、積載重量に影響されて、すなわち作業車両に作用する制動方向と反対方向の外力に影響されて、異なるものとなる。このため、オペレータにはブレーキペダルによる作業車両の制動の操作性が安定しないものに感じられる。
【0010】
本発明は前述の事情を考慮してなされたものであり、その目的は、作業車両に作用する制動方向と反対方向の外力の変化に対し、ブレーキペダルによる制動の操作性を安定させることができる作業車両の電動式走行駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述の目的を達成するために本発明に係る作業車両の電動式走行駆動装置は次のように構成されている。
【0012】
〔1〕 本発明に係る作業車両の電動式走行駆動装置は、車輪を駆動する電動モータと、踏込み量を電気信号に変換し出力するブレーキペダルと、前記車輪の回転を減速させる制動トルクを、前記ブレーキペダルからの電気信号に基づき前記電動モータに出力させる制御手段とを備えた作業車両の電動式走行駆動装置において、前記作業車両に作用する制動方向と反対方向の外力発生の原因となる状態量を検出する検出手段をさらに備え、前記制御手段は、前記検出手段により検出された状態量に基づき、前記外力が大きいほど制動トルクの目標値を増大させる補正手段を備えたことを特徴とする。
【0013】
この「〔1〕」に記載の作業車両の電動式走行駆動装置において、制御手段の補正手段は、制動方向と反対方向の外力が大きいほど、制動トルクの目標値を増大させる。これにより、制動方向と反対方向の外力が変化しても、踏込み量に対する減速度を一定させることができる。したがって、作業車両に作用する制動方向と反対方向の外力の変化に対し、ブレーキペダルによる制動の操作性を安定させることができる。
【0014】
〔2〕 本発明に係る作業車両の電動式走行駆動装置は、「〔1〕」に記載の作業車両の電動式走行駆動装置において、前記制御手段は、前記踏込み量の全範囲を、前記踏込み量0側に予め設定され踏込み量0からの範囲である初期範囲と、最大値側に予め設定され踏込み量の最大値までの範囲である終期範囲と、これら初期範囲と終期範囲の間の範囲である中間範囲とに区分するとともに、前記初期範囲内の踏込み量に対応する前記制動トルクの目標値である第1目標値を演算する第1演算手段と、前記終期範囲内の踏込み量に対応する前記制動トルクの目標値である第2目標値を演算する第2演算手段と、前記中間範囲内の踏込み量に対応する前記制動トルクの目標値である第3目標値を演算する第3演算手段とをさらに備え、前記第3目標値の前記踏込み量に対するゲインは、前記第1目標値および前記第2目標値のどちらの前記踏込み量に対するゲインよりも小さくなるよう設定されており、前記補正手段は、前記外力が大きいほど前記第3目標値を増大させる目標値補正手段と、前記外力が大きいほど前記初期範囲の上限値と前記終期範囲の下限値とを大きく調整する範囲補正手段とを備えたことを特徴とする。
【0015】
この「〔2〕」に記載の作業車両の電動式走行駆動装置において、第3目標値の踏込み量に対するゲインは、第1目標値および第2目標値のどちらの踏込み量に対するゲインよりも小さくなるよう設定されている。これにより、ブレーキペダルの踏込み操作を中間範囲内で行うときにの制動トルクの微調整を、ブレーキペダルの踏込み操作を初期範囲内および終期範囲内で行う場合よりも行いやすくすることができる。
【0016】
また、補正手段において、目標値補正手段は、作業車両に作用する制動方向と反対方向の外力が大きいほど第3目標値を増大させ、範囲補正手段は、その外力が大きいほど初期範囲の上限値と終期範囲の下限値とを大きく調整する。これにより、初期範囲の上限値に対応する第1目標値と、終期範囲の下限値に対応する第2目標値を、第3目標値を増大させる補正に連動させて調整することができる。
【0017】
〔3〕 本発明に係る作業車両の電動式走行駆動装置は、「〔2〕」に記載の作業車両の電動式走行駆動装置において、前記第1演算手段は、予め設定された1次関数からなる第1関数を用いて前記第1目標値を算出するものであり、前記第2演算手段は、予め設定された1次関数からなる第2関数を用いて前記第2目標値を算出するものであり、前記第3演算手段は、予め設定された1次関数からなる第3関数を用いて前記第3目標値を算出するものであり、前記目標値補正手段は、前記外力が大きいほど大きな補正値を前記第3目標値に加算するものであり、前記範囲補正手段は、前記第1目標値、前記第2目標値、補正後の前記第3目標値のうち、2番目に大きな目標値を、前記電動モータの制御に用いる目標値に決定するものであることを特徴とする。
【0018】
この「〔3〕」に記載の作業車両の電動式走行駆動装置において、範囲補正手段は、第1目標値、第2目標値、補正後の第3目標値のうち、2番目に大きな目標値を、電動モータの制御に用いる目標値に決定する。これにより、初期範囲の上限値と終期範囲の下限値とを大きくする調整を、第3目標値を増大させる補正に確実に連動させることができる。
【0019】
〔4〕 本発明に係る作業車両の電動式走行駆動装置は、「〔1〕」〜「〔3〕」のいずれか1に記載の作業車両の電動式走行駆動装置において、前記検出手段として、前記作業車両が走行する走行面の傾斜角度を検出する傾斜角度検出手段を備えたことを特徴とする。
【0020】
この「〔4〕」に記載の作業車両の電動式走行駆動装置において、電動モータが出力する制動トルクは、作業車両が下る傾斜面の傾斜角度が大きいほど大きく制御されることになる。したがって、作業車両が傾斜面を下ることに起因して作業車両に作用する制動方向と反対方向の外力に対し、ブレーキペダルによる制動時の操作性を安定させることができる。
【0021】
〔5〕 本発明に係る作業車両の電動式走行駆動装置は、「〔1〕」〜「〔4〕」のいずれか1に記載の作業車両の電動式走行駆動装置において、前記検出手段として、前記作業車両に積載された積載重量を検出する積載重量検出手段を備えたことを特徴とする。
【0022】
この「〔5〕」に記載の作業車両の電動式走行駆動装置において、電動モータが出力する制動トルクは、作業車両に積載された荷の積載重量が大きいほど大きく制御されることになる。したがって、積載重量に起因して作業車両に作用する制動方向と反対方向の外力に対し、ブレーキペダルによる制動時の操作性を安定させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る作業車両の電動式走行駆動装置によれば、前述のように、作業車両に作用する制動方向と反対方向の外力に対し、ブレーキペダルによる制動の操作性を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係る作業車両であるダンプトラックの側面図である。
【図2】図1に示したダンプトラックの背面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る電動式走行駆動装置の構成を示すブロック線図である。
【図4】図3に示したメインコントローラのブロック線図である。
【図5】図4に示したメインコントローラのオフセット値演算手段により算出されるオフセット値の特性を示す図である。
【図6】図3に示したモータコントローラの目標制動トルク演算手段のブロック線図である。
【図7】図5に示した目標制動トルク演算手段により算出される目標制動トルクの特性を示す図である。
【図8】従来の目標制動トルクの特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の一実施形態について図1〜図8を用いて説明する。
【0026】
図1に示すダンプトラック1は、鉱山で採掘された砕石等を運搬するものである。このダンプトラック1は、その本体である車体2と、この車体2上に起伏可能に設けられたベッセル3と、車体2を走行可能に支持する前輪4および後輪5を2つずつとを備えている。前輪4および後輪5はダブルタイヤである。以下では右側の後輪を「5R」とし、左側の後輪を「5L」として両者を区別してあり、これらに関連する各部も同様に区別してある。図2に示すように、右側の後輪5Rの内側には電動モータ6Rが挿入されており、この電動モータ6Rの出力軸6Raには減速機7Rが伝動可能に結合している。左側の後輪5Lの内側には電動モータ6Lが挿入されており、この電動モータ6Lの出力軸6Laには減速機7Lが伝動可能に結合している。
【0027】
図3に示すように、本実施形態に係る電動式走行駆動装置10は、前出の2つの電動モータ6R,6Lおよび2つの減速機7R,7Lと、2つの電動モータ6R,6Lを制御するモータコントローラ30と、このモータコントローラ30に対し指令を与えるメインコントローラ100とを備えている。メインコントローラ100もモータコントローラ30も、CPU(Central Processing Unit)、制御プログラムを記憶したROM(Read Only Memory)、CPUの作業領域として利用されるRAM(Random Access Memory)、補助記憶装置等を備え、ROMまたは補助記憶装置に予め記憶された制御プログラムに基づき情報処理を実行する装置である。
【0028】
電動式走行駆動装置10はさらに、ディーゼルエンジン21と、このディーゼルエンジン21により駆動される交流発電機22と、この交流発電機22により発電された交流電力を直流電力に変換する整流回路23(AC−DCコンバータ)と、この整流回路23により整流された電力を蓄電するコンデンサ25と、整流回路23により整流された電力の電圧を分圧する分圧用抵抗器24と、コンデンサ25と並列に接続されたチョッパ回路26およびグリッド抵抗器27とを備えている。
【0029】
電動モータ6R,6Lは誘導モータであり、交流電力を供給されて駆動されるものである。モータコントローラ30は、整流回路23からの直流電力を交流電力に変換して電動モータ6R,6Lに供給するインバータ33R,33Lを備えている。メインコントローラ100は分圧用抵抗器24により分圧された電圧を検出し、その電圧がVoに維持されるよう交流発電機22の制御を行うようになっている。この制御によって、電動モータ6R,6Lに必要な交流電力が供給されるようになっている。
【0030】
電動式走行駆動装置10はさらに、アクセルペダル11を備えている。このアクセルペダル11は、ペダルの踏込み量Aを電気信号からなるアクセル信号に変換し出力する操作装置である。アクセル信号はメインコントローラ100に入力されるようになっている。前出のディーゼルエンジン21は電子ガバナ21aを備えたものである。その電子ガバナ21aの燃料噴射量を、メインコントローラ100はアクセルペダル11からのアクセル信号に基づき制御するようになっている。メインコントローラ100は、ディーゼルエンジン21の回転速度がアクセルペダル11の踏込み量が大きいほど上昇するよう制御されるよう設定されている。
【0031】
電動式走行駆動装置10はさらに、回転速度検出手段16R,16Lを備えている。回転速度検出手段16Rは、右側の後輪5Rの回転速度ωRを検出し、その回転速度ωRに相応する回転速度信号を出力するものである。回転速度検出手段16Lは、左側の後輪5Lの回転速度ωLを検出し、その回転速度ωLに相応する回転速度信号を出力するものである。これら回転速度検出手段16R,16Lは電磁ピックアップセンサを用いたものである。回転速度検出手段16Rは、電磁ピックアップにより減速機7Rを構成する1つのギアの1つの歯が定位置を通過するのを検出し、その歯の通過が検出される周期に基づいて右側の後輪5Rの回転速度を算出するようになっている。これと同様に、回転速度検出手段16Lは、電磁ピックアップにより減速機7Lを構成する1つのギアの1つの歯が定位置を通過するのを検出し、その歯の通過が検出される周期に基づいて左側の後輪5Lの回転速度を算出するようになっている。回転速度検出手段16R,16Lはメインコントローラ100に接続されており、回転速度ωRを示す回転速度信号、回転速度ωRを示す回転速度信号は、メインコントローラ100に入力されるようになっている。
【0032】
メインコントローラ100はアクセルペダル11からのアクセル信号に基づき、モータコントローラ30に対して加速度に相応する指令値の加速指令信号を出力するになっている。モータコントローラ30は、加速指令信号を入力したときに、回転速度検出手段16R,16Lのそれぞれによって検出された回転速度ωR,ωLと、加速指令信号の指令値HR,HLとに基づき、電動モータ6R,6Lのそれぞれの出力トルクの目標値(目標加速トルク)、すなわち0以上のすべり率の目標値を算出し、そのすべり率の目標値に基づいてインバータ33R,33Lのそれぞれから電動モータ6R,6Lのそれぞれに供給する交流電力を制御するようになっている。
【0033】
電動式走行駆動装置10はさらに、ブレーキペダル12を備えている。このブレーキペダル12は、アクセルペダル11とは別のペダルの踏込み量Rを電気信号からなるブレーキ信号に変換し出力する操作装置である。ブレーキ信号はメインコントローラ100に入力されるようになっている。
【0034】
電動式走行駆動装置10はさらに、傾斜角度検出手段13と積載重量検出手段14を備えている。傾斜角度検出手段13は、車体2に設けられたクリノメータ(図示省略)を用いて、ダンプトラック1の傾斜角度、すなわちダンプトラック1が走行する走行面の傾斜角度を検出して、その傾斜角度θに相応する傾斜角度信号を出力するものである。積載重量検出手段14は、車体2の所定個所に設けられたひずみゲージ(図示省略)により検出されたひずみに基づき積載重量Wを算出し、その積載重量Wに相応する積載重量信号を出力するものである。傾斜角度信号および積載重量信号はメインコントローラ100に入力されるようになっている。傾斜角度検出手段13と積載重量検出手段14は、ダンプトラック1に作用する制動方向と反対方向の外力発生の原因となる状態量を検出する検出手段である。
【0035】
電動式走行駆動装置10はさらに、積載完了ボタン15を備えている。この積載完了ボタン15は、押圧操作されたときに電気信号を出力するものであり、ベッセル3への荷の積載が完了したときにオペレータにより操作されるものである。その電気信号はメインコントローラ100に入力されるようになっている。つまり、積載完了ボタン15は、ベッセル3への荷の積込みが完了した旨の信号をメインコントローラ100に入力する手段である。
【0036】
メインコントローラ100は、制御プログラムにより設定された手段である第1指令値演算手段101、第2指令値演算手段102、第3指令値演算手段103を備えている。第1指令値演算手段101は、ブレーキ信号に示されたブレーキペダル12の踏込み量Rに基づき、予め設定された第1関数f1(R)を用いて制動トルクの第1目標値に係る第1指令値H1を算出するものである。第2指令値演算手段102は、ブレーキ信号に示されたブレーキペダル12の踏込み量Rに基づき、予め設定された第2関数f2(R)を用いて制動トルクの第2目標値に係る指令値H2を算出するものである。第3指令値演算手段103は、ブレーキ信号に示されたブレーキペダル12の踏込み量Rに基づき、予め設定された第3関数f3(R)を用いて制動トルクの第3目標値に係る第3指令値H3を算出するものである。
【0037】
第1関数f1(R)は、踏込み量Rが0であるときに第1指令値を0とし、踏込み量Rが0よりも大きい値であるときに踏込み量Rの増減に第1指令値H1の増減を連動させるよう設定された1次関数であり、次の式で表される。
f1(R)=aR、a:比例係数
第2関数f2(R)は、踏込み量Rの全範囲のうち中央よりも最大踏込み量Rmax側の所定の第1固定踏込み量Rv1以上の値であるときに踏込み量Rの増減に第2指令値H2の増減を連動させ、第1固定踏込み量Rv1よりも大きな所定の第2固定踏込み量Rv2のときに第2指令値H2を最大値とするよう設定された1次関数であり、次の式で表される。
f2(R)=aR−c、a:比例係数、c:定数
第3関数f3(R)は、踏込み量Rが0であるときに第3指令値H3を0とし、踏込み量Rが0よりも大きい値であるときに踏込み量Rの増減に第3指令値H3の増減を連動させるよう設定されたものであるとともに、第1関数f1(R)、第2関数f3(R)よりも踏込み量Rに対する目標値のゲインが小さく、すなわち、第3関数f3(R)の比例係数が第1関数f1(R)および第2関数f2(R)のどちらの比例係数よりも小さく設定された1次関数であり、次の式で表される。
【0038】
f3(R)=bR、b:比例係数、b<a
【0039】
メインコントローラ100はさらに、前出の積込完了ボタン15からの信号が入力されたときに、このときの積載重量Wを保持する積載重量記憶手段122を備えている。
【0040】
メインコントローラ100はさらに、制御プログラムにより設定された手段であるオフセット値演算手段120と、加算手段121とを備えている。このオフセット値演算手段120は、傾斜角度検出手段13からの傾斜角度信号に示された傾斜角度θと、積載重量記憶手段122に記憶された積載重量Wとの少なくとも一方に基づき、オフセット値OSを算出するものである。具体的には、ダンプトラック1に作用する制動方向と反対方向の外力Fを傾斜角度θと積載重量Wに基づいて算出し、その外力Fが所定の範囲(F1≦F≦F2)内の値であるときに、外力Fが大きいほど大きなオフセット値OSを算出するものである。外力Fには空荷時の作業車両重量W0に起因してダンプトラック1に作用する制動方向と反対方向の外力も含まれており、次の式を用いて算出される。
F=(W0+W)×sinθ
W0:空荷時の作業車両の重量、W:積載重量、θ:ダンプトラック1の傾斜角度
【0041】
加算手段121は、オフセット値演算手段120により算出されたオフセット値OSを、第3指令値H3に加算するものである。これによって第3指令値H3は「H3’」に補正されることになる。
【0042】
メインコントローラ100はさらに、制御プログラムにより設定された手段である指令値選択手段130を備えている。この指令値選択手段130は、第1指令値H1と、第2指令値H2と、補正後の第3指令H3’とのうち、2番目に大きものを、電動モータ6R,6Lの制御に用いる指令値HR,HLとして決定するものである。なお、指令値HR,HLの範囲はそれぞれ「0≦HR≦1」、「0≦HL≦1」である。メインコントローラ100はそれらの指令値HR,HLのそれぞれに相応する制動指令信号をモータコントローラ30に対して出力するようになっている。
【0043】
メインコントローラ100はさらに、制御プログラムにより設定された手段である1次遅れフィルタ123を備えている。この1次遅れフィルタ123の時定数は、秒単位の時間に設定されている。
【0044】
モータコントローラ30は、制御プログラムにより設定された手段である目標制動トルク演算手段31R,31Lを備えている。目標制動トルク演算手段31Rは、絶対値変換手段31a、上限トルク演算手段31b、乗算手段31cを備え、これらにより、メインコントローラ100からの指令値HRに基づいて目標制動トルクTRを算出するものである。絶対値変換手段31aは、回転速度検出手段16Rからの回転角度信号に示される回転速度ωRを絶対値に変換するものである。上限トルク演算手段31bは、絶対値変換手段31aにより算出された回転速度ωRの絶対値に基づき、電動モータ6Rの仕様上の最大出力馬力を超えない範囲で、回転速度ωRに対応する電動モータ6Rの上限トルクTRlを算出するものである。乗算手段31cは、メインコントローラ100からの制動指令信号に示される指令値HRと、上限トルク演算手段31bにより算出された上限トルクTRlとの乗算を行うものである。指令値HRは「0≦HR≦1」の範囲で算出される値であり、乗算手段31cが指令値HRと上限トルクTRlとの乗算を行うことで、上限トルクTRlの何%を目標制動トルクTRとしてするかが算出されることになる。
【0045】
図6に「()」書きで示すように、目標制動トルク演算手段31Lも、目標制動トルク演算手段31Rと同様に絶対値変換手段31a、上限トルク演算手段31b、乗算手段31cを備えたものである。この目標制動トルク演算手段31Lにおいては、絶対値変換手段31aは、回転速度検出手段16Lからの回転角度信号に示される回転速度ωLを絶対値に変換するものであり、上限トルク演算手段31bは、絶対値変換手段31aにより算出された回転速度ωLの絶対値に基づき、電動モータ6Lの仕様上の最大出力馬力を超えない範囲で、回転速度ωLに対応する電動モータ6Lの上限トルクTLlを算出するものであり、乗算手段31cは、メインコントローラ100からの制動指令信号に示される指令値HLと、上限トルク演算手段31bにより算出された上限トルクTLlとの乗算を行うものである。指令値HLも指令値HRと同じく「0≦HL≦1」の範囲で算出される値であり、乗算手段31cが指令値HLと上限トルクTLlとの乗算を行うことで、上限トルクTLlの何%を目標制動トルクTLとするかが算出されることになる。
【0046】
目標制動トルクTR,TLのブレーキペダル12の踏込み量Rに対する特性は、図7に示す特性S1(太い実線)、特性S2(太い破線)、特性S3(太い2点鎖線)などに設定される。特性S1は外力Fが範囲「F<F1」のときのものであり、特性S2は外力Fの範囲「F1≦F≦F2」の場合の一例であり、特性S3は外力Fが範囲「F2<F」のときのものである。これらの特性S1〜S3において、傾きの緩やかな部分が補正後の第3指令値H3’に基づき算出された目標制動トルク(以下「第3目標値」と呼称する)の特性であり、この第3目標値よりも0側の傾斜の傾きの急な部分は、第1指令値H1に基づき算出された目標制動トルク(以下「第1目標値」と呼称する)の特性であり、第3目標値よりも最大値側の傾きの急な部分は、第2指令値H2に基づき算出された目標制動トルク(以下「第2目標値」と呼称する)の特性である。
【0047】
モータコントローラ30はさらに、インバータ33R,33Lと、これらのインバータ33R,33Lを制御するインバータ制御手段32R,32Lとを備えている。インバータ制御手段32Rは、目標制動トルク演算手段31Rにより算出された目標制動トルクTR、すなわち0より小さいすべり率の目標値に基づいて、インバータ33Rから電動モータ6Rに供給する交流電力を制御するものである。これと同様、インバータ制御手段32Lは、目標制動トルク演算手段31Lにより算出された目標制動トルクTL、すなわち0より小さいすべり率の目標値に基づいて、インバータ33Lから電動モータ6Lに供給する交流電力を制御するものである。
【0048】
ここまでの説明から分かるようにメインコントローラ100とモータコントローラ30は、ブレーキペダル12からのブレーキ信号に基づいて車輪5R,5Lの回転を減速させる制動トルクを電動モータ6R,6Lに出力させる制御手段を構成している。この制御手段においては、第1関数f1(R)を用いて算出される第1指令値H1と上限トルクTRl,TLlとの乗算が行われた場合に第1目標値が得られる。また、第2関数f2(R)を用いて算出される第2指令値H2と上限トルクTRl,TLlとの乗算が行われた場合に第2目標値が得られる。さらに、第3関数f3(R)を用いて算出される第3指令値H3は、オフセット値OSの加算により補正されて第3指令値H3’となり、この補正後の第3指令値H3’と上限トルクTRl,TLlとの乗算が行われた場合に第3目標値が得られる。つまり、制御手段は、予め設定された1次関数からなる第1関数f1(R)を用いて第1目標値を算出する第1演算手段と、予め設定された1次関数からなる第2関数f2(R)を用いて前記第2目標値を算出する第2演算手段と、予め設定された1次関数からなる第3関数f3(R)を用いて前記第3目標値を算出する第3演算手段とを備えたものである。
【0049】
制御手段はさらに、オフセット値演算手段120と加算手段121とによって、第3指令値H3にオフセット値OSを加算し第3指令値H3’を得て、この第3指令値H3’を用いて第3目標値を算出する。つまり、制御手段は、外力Fが所定の範囲(F1≦F≦F2)内の値である場合に外力Fが大きいほど大きな補正値を第3目標値に加算する目標値補正手段を備えたものである。
【0050】
制御手段はさらに、指令値選択手段130によって、第1指令値H1、第2指令値H2、補正後の第3指令値H3’のうち2番目に大きな指令値を、電動モータ6R,6Lの目標制動トルクTR,TLを算出するための指令値に決定する。つまり、制御手段は、第1目標値、第2目標値、補正後の第3目標値のうち、2番目に大きな目標値を、電動モータ6R,6Lの制御に用いる目標値に決定する範囲補正手段を備えたものである。
【0051】
前述したように、ブレーキペダル12の踏込み量Rに対する目標制動トルクTR,TLの特性は、図7に示す特性S1(太い実線)、特性S2(太い破線)、特性S3(太い2点鎖線)などに設定される。これらの特性S1〜S3を比較して分かるように、制御手段は、踏込み量Rの全範囲(0≦R≦Rmax)を、中央よりも踏込み量0側に予め設定され踏込み量0からの範囲である初期範囲rs(0≦R≦Rv1)と、中央よりも最大値Rmax側に予め設定され踏込み量Rの最大値Rmaxまでの範囲である終期範囲re(Rv2≦R≦Rmax)と、これら初期範囲rsと終期範囲reの間の範囲である中間範囲rm(Rv1<R<Rv2)とに区分して、これら初期範囲rs、終期範囲reおよび中間範囲rmのそれぞれについて、前出の第1〜第3演算手段のそれぞれにより個別に、目標制動トルクを算出するようになっている。
【0052】
そして、前出の範囲補正手段により第1〜第3目標値のうち2番目に大きな目標値が選択されるようになっていることで、矢印m1に示すように目標制動トルクTR,TLの特性は特性S1から特性S3までの間で可変になっており、特性の変動に対し初期範囲rsの上限値Rv1が矢印m2で示すように追従し、かつ、終期範囲reの下限値Rv2が矢印m3で示すように追従するようになっている。つまり、ダンプトラック1に作用する制動方向と反対方向の外力Fが大きいほど、初期範囲reの上限値Rv1と終期範囲rsの下限値Rv2が大きく調整されるようになっている。なお、目標制動トルクTR,TLが特性S1を成した状態では、初期範囲reの上限値Rv1は0であり、終期範囲rsの下限値Rv2は最小値である。目標制動トルクTR,TLが特性S3を成した状態では、初期範囲reの上限値Rv1は最大値であり、終期範囲rsの下限値Rv2も最大値(Rf2)である。
【0053】
また、第3指令値H3の算出、すなわち第3目標値の算出に用いられる第3関数f3(R)の比例係数bは、第1目標値の算出に用いられる第1関数f1(R)、および、第2目標値の算出に用いられる第2関数f2(R)のどちらの比例係数よりも小さく設定されている。このことから、第3目標値の踏込み量Rに対するゲインは、第1目標値および第2目標値のどちらの踏込み量に対するゲインよりも小さくなるよう設定されたものである。
【0054】
本実施形態に係る電動式走行駆動装置10のブレーキペダル12の操作時の動作の流れについて次に説明する。
【0055】
オペレータがキースイッチ(図示省略)をオンすると、バッテリ(図示省略)からメインコントローラ100およびモータコントローラ30に電力が供給されてこれらが起動するとともに、ディーゼルエンジン21が始動する。
【0056】
オペレータは、空荷の状態で、または、ダンプトラック1のベッセル3への荷の積込みが完了した状態で、ダンプトラック1を走り出させる前に積込完了ボタン15を押圧操作する。これにより、積込完了ボタン15からメインコントローラ100に積込が完了した旨の信号が入力される。このとき、メインコントローラ100は、積載重量検出手段14からの積載重量信号に示された積載重量Wを積載重量記憶手段122に記憶し保持するとともに、指令値HR,HLを算出する状態となる。
【0057】
この状態のメインコントローラ100に、ブレーキペダル12からのブレーキ信号が入力されると、メインコントローラ100の第1指令値演算手段101、第2指令値演算手段102、第3指令値演算手段103はそれぞれ、ブレーキ信号に示された踏込み量Rに基づいて第1指令値H1、第2指令値H2、第3指令値H3のそれぞれを算出する。これと並行して、メインコントローラ100のオフセット値演算手段120は、傾斜角度検出手段13からの傾斜角度信号に示された傾斜角度θと、積載重量記憶手段122に記憶されている積載重量Wとに基づき、オフセット値OSを算出する。次に、メインコントローラ100の加算手段121が第3指令値H3にオフセット値OSを加算し、これによって第3指令値H3は「H3’」に補正される。次に、メインコントローラ100の指令値選択手段130は、第1指令値H1、第2指令値H2、補正後の第3指令値H3’のうち2番目に大きな指令値を選択する。この指令値は、電動モータ6Rの制動トルクの指令値HRに相当する制動指令信号と、電動モータ6Lの制動トルクの指令値HLに相当する制動指令信号とに変換されて、モータコントローラ30に出力される。
【0058】
それらの制動指令信号がモータコントローラ30に入力されると、このモータコントローラ30の目標制動トルク演算手段31Rは、制動指令信号に示された指令値HRと、回転速度検出手段16Rからの回転速度信号に示された回転速度ωRとに基づき、絶対値変換手段31a、上限トルク演算手段31b、乗算手段31cを用いて目標制動トルクTRを算出し、次にモータコントローラ30のインバータ制御手段32Lは、その目標制動トルクTRに基づきインバータ33Lを制御する。これによって、電動モータ6Rのすべり率がブレーキペダル12の踏込み量Rに対応する値(<0)に制御される。
【0059】
これと並行して、モータコントローラ30の目標制動トルク演算手段31Lも、制動指令信号HLに示された指令値HLに基づき、目標制動トルクTLを算出し、次にモータコントローラ30のインバータ制御手段32Lは、その目標制動トルクTLに基づきインバータ33Lを制御する。これによって、電動モータ6Lのすべり率がブレーキペダル12の踏込み量Rに対応する値(<0)に制御される。
【0060】
本実施形態に係る電動式走行駆動装置10によれば次の効果を得られる。
【0061】
本実施形態に係る電動式走行駆動装置10において、メインコントローラ100およびモータコントローラ30から構成された制御手段は、制動方向と反対方向の外力Fが大きいほど、制動トルクの目標値を増大させる。これにより、ダンプトラック1に作用する制動方向と反対方向の外力Fが変化しても、踏込み量Rに対する減速度を一定させることができる。つまり、外力Fが変化しても目標制動トルクTR,TLの特性が変化しなかった場合、減速度を一定させるためには、大きさの異なる例えば3種類の目標制動トルクT1,T2,T3を、図8に示すように踏込み量R1,R2,R3のそれぞれにより得なければならないが、本実施形態に係る電動式走行駆動装置10によれば、踏込み量Raのみでそれらの目標制動トルクT1,T2,T3を得ることができる。したがって、ダンプトラック1に作用する制動方向と反対方向の外力Fの変化に対し、ブレーキペダル12による制動の操作性を安定させることができる。
【0062】
本実施形態に係る電動式走行駆動装置10において、第3目標値の踏込み量Rに対するゲインは、第1目標値および第2目標値のどちらの踏込み量Rに対するゲインよりも小さくなるよう設定されている。これにより、ブレーキペダル12の踏込み操作を中間範囲rm内で行うときの制動トルクの微調整を、ブレーキペダル12の踏込み操作を初期範囲rs内および終期範囲re内で行う場合よりも行いやすくすることができる。
【0063】
本実施形態に係る電動式走行駆動装置10において、メインコントローラ100およびモータコントローラ30で構成された制御手段の目標値補正手段は、オフセット値演算手段120および加算手段121によって、ダンプトラック1に作用する制動方向と反対方向の外力Fが大きいほど第3目標値を増大させる。また、範囲補正手段は、指令値選択手段130により第1指令値H1、第2指令値H2および第3指令値H3のうち2番目に大きな指令値を選択することによって、その外力F(F1≦F≦F2)が大きいほど初期範囲rsの上限値Rv1と終期範囲reの下限値Rv2とを大きく調整する。これらにより、第3目標値の補正に連動させて第1,第2目標値を調整し、初期範囲rsの上限値Rv1に対応する第1目標値と中間範囲rmの下限値に対応する第3目標値とを連続させることができ、かつ、終期範囲reの下限値Rv2に対応する第2目標値と中間範囲rmの上限値に対応する第3目標値とを連続させることができる。
【0064】
本実施形態に係る電動式走行駆動装置10において、電動モータ6R,6Lが出力する制動トルクは、ダンプトラック1が下る傾斜面の傾斜角度θが大きいほど大きく制御される。したがって、ダンプトラック1が傾斜面を下ることに起因してダンプトラック1に作用する制動方向と反対方向の外力Fに対し、ブレーキペダル12による制動時の操作性を安定させることができる。
【0065】
本実施形態に係る電動式走行駆動装置10において、電動モータ6R,6Lが出力する制動トルクは、ダンプトラック1に積載された荷の積載重量Wが大きいほど大きく制御される。したがって、積載重量Wに起因してダンプトラック1に作用する制動方向と反対方向の外力Fに対し、ブレーキペダル12による制動時の操作性を安定させることができる。
【0066】
本実施形態に係る電動式走行駆動装置10においては、1次遅れフィルタ123の時定数が秒単位の時間に設定されているので、ダンプトラック1が凹凸のある悪路を走行しているとき、それらの凹凸に起因する傾斜角度θの変化の頻度、すなわち、目標制動トルクTR,TLの特性の変化の頻度を低減することができる。
【0067】
本実施形態に係る電動式走行駆動装置10において、積載重量記憶手段122は、積込完了ボタン15からの信号が入力されたときの積載重量Wを記憶して保持し、この積載重量Wをオフセット値演算手段120が用いるので、凹凸のある悪路の走行に伴って積載重量検出手段14により検出される積載重量Wが変化した場合でも、その変化を目標制動トルクTR,TLに影響させないようにすることができる。
【0068】
なお、前述の実施形態に係る作業車両はダンプトラック1であったが、本発明に係る作業車両はダンプトラックに限定されるものではく、ホイールローダであってもよい。この場合、積載重量に相当するものはホイールローダのバケット内の土砂等の重量となるが、ホイールローダはその重量を検出する機能を備えていないのが一般的であるので、制動トルクの目標値(目標制動トルクT)を、ホイールローダが走行する走行面の傾斜角度θに基づいてのみ補正するようメインコントローラ100を設定すればよい。
【0069】
前述の実施形態に係る電動式走行駆動装置10において、回転速度検出手段16R,16Lのどちらの電磁ピックアップセンサも、減速機を構成する1つのギアの1つの歯を検出するよう設けられていた。これはギアの形状を利用したためであって、電磁ピックアップセンサが設けられる個所は減速機に限定されず、電動モータ6R,6Lのそれぞれの出力軸6a、または後輪5R,5Lであってもよい。この場合、その個所に被検出部としての歯を設け、この歯が定位置を通過するのを検出するよう電磁ピックアップを設けることになる。
【0070】
前述の実施形態に係る電動式走行駆動装置10において、第1関数f1(R)と第2関数f2(R)とは互いに比例係数が同じ関数に設定されていたが、比例係数が異なるよう設定されていてもよい。
【符号の説明】
【0071】
1 ダンプトラック
2 車体
3 ベッセル
4 前輪
5,5R,5L 後輪
6R,6L 電動モータ
6Ra,6La 出力軸
7R,7L 減速機
10 電動式走行駆動装置
11 アクセルペダル
12 ブレーキペダル
13 傾斜角度検出手段
14 積載重量検出手段
15 積込完了ボタン
16R,16L 回転速度検出手段
21 ディーゼルエンジン
21a 電子ガバナ
22 交流発電機
23 整流回路
24 分圧用抵抗器
25 コンデンサ
26 チョッパ回路
27 グリッド抵抗器
30 モータコントローラ
31R,31L 目標制動トルク演算手段
31a 絶対値変換手段
31b 上限トルク演算手段
31c 乗算手段
32R,32L インバータ制御手段
33R,33L インバータ
100 メインコントローラ
101 第1指令値演算手段
102 第2指令値演算手段
103 第3指令値演算手段
120 オフセット値演算手段
121 加算手段
122 積載量記憶手段
123 1次遅れフィルタ
130 指令値選択手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を駆動する電動モータと、踏込み量を電気信号に変換し出力するブレーキペダルと、前記車輪の回転を減速させる制動トルクを、前記ブレーキペダルからの電気信号に基づき前記電動モータに出力させる制御手段とを備えた作業車両の電動式走行駆動装置において、
前記作業車両に作用する制動方向と反対方向の外力発生の原因となる状態量を検出する検出手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記検出手段により検出された状態量に基づき、前記外力が大きいほど制動トルクの目標値を増大させる補正手段を備えた
ことを特徴とする作業車両の電動式走行駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の作業車両の電動式走行駆動装置において、
前記制御手段は、前記踏込み量の全範囲を、前記踏込み量0側に予め設定され踏込み量0からの範囲である初期範囲と、最大値側に予め設定され踏込み量の最大値までの範囲である終期範囲と、これら初期範囲と終期範囲の間の範囲である中間範囲とに区分するとともに、前記初期範囲内の踏込み量に対応する前記制動トルクの目標値である第1目標値を演算する第1演算手段と、前記終期範囲内の踏込み量に対応する前記制動トルクの目標値である第2目標値を演算する第2演算手段と、前記中間範囲内の踏込み量に対応する前記制動トルクの目標値である第3目標値を演算する第3演算手段とをさらに備え、
前記第3目標値の前記踏込み量に対するゲインは、前記第1目標値および前記第2目標値のどちらの前記踏込み量に対するゲインよりも小さくなるよう設定されており、
前記補正手段は、前記外力が大きいほど前記第3目標値を増大させる目標値補正手段と、前記外力が大きいほど前記初期範囲の上限値と前記終期範囲の下限値とを大きく調整する範囲補正手段とを備えた
ことを特徴とする作業車両の電動式走行駆動装置。
【請求項3】
請求項2に記載の作業車両の電動式走行駆動装置において、
前記第1演算手段は、予め設定された1次関数からなる第1関数を用いて前記第1目標値を算出するものであり、
前記第2演算手段は、予め設定された1次関数からなる第2関数を用いて前記第2目標値を算出するものであり、
前記第3演算手段は、予め設定された1次関数からなる第3関数を用いて前記第3目標値を算出するものであり、
前記目標値補正手段は、前記外力が大きいほど大きな補正値を前記第3目標値に加算するものであり、
前記範囲補正手段は、前記第1目標値、前記第2目標値、補正後の前記第3目標値のうち、2番目に大きな目標値を、前記電動モータの制御に用いる目標値に決定するものである
ことを特徴とする作業車両の電動式走行駆動装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1に記載の作業車両の電動式走行駆動装置において、
前記検出手段として、前記作業車両が走行する走行面の傾斜角度を検出する傾斜角度検出手段を備えた
ことを特徴とする作業車両の電動式走行駆動装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1に記載の作業車両の電動式走行駆動装置において、
前記検出手段として、前記作業車両に積載された積載重量を検出する積載重量検出手段を備えた
ことを特徴とする作業車両の電動式走行駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−16188(P2012−16188A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−151260(P2010−151260)
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】