作業車両
【課題】ミッションケース88内の作動油面より上方にある湿式ブレーキ79の潤滑性を簡単な構造で確保できるようにする。
【解決手段】本願発明の作業車両においては、エンジン14の動力を変速する油圧無段変速機54と、前記油圧無段変速機54の変速出力を左右の走行部2に伝達するミッションケース88とを備える。前記ミッションケース88内に、前記油圧無段変速機54の変速出力を制動する湿式ブレーキ79を有する。前記湿式ブレーキ79は前記ミッションケース88内の作動油面より上方に位置させる。前記ミッションケース88の上面側に戻り油口410を開口させる。前記ミッションケース88外から戻ってきた作動油を前記戻り油口410から前記湿式ブレーキ79に向けて案内するガイド体411,412を、前記ミッションケース88内に設ける。
【解決手段】本願発明の作業車両においては、エンジン14の動力を変速する油圧無段変速機54と、前記油圧無段変速機54の変速出力を左右の走行部2に伝達するミッションケース88とを備える。前記ミッションケース88内に、前記油圧無段変速機54の変速出力を制動する湿式ブレーキ79を有する。前記湿式ブレーキ79は前記ミッションケース88内の作動油面より上方に位置させる。前記ミッションケース88の上面側に戻り油口410を開口させる。前記ミッションケース88外から戻ってきた作動油を前記戻り油口410から前記湿式ブレーキ79に向けて案内するガイド体411,412を、前記ミッションケース88内に設ける。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、コンバイン等の農作業機やクレーン車等の特殊作業機のような作業車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、作業車両としてのコンバインは、走行機体に搭載されたエンジンからの動力を、油圧無段変速機内蔵の油圧変速ケース及びミッションケースを介して、左右の走行クローラに伝達するように構成されている。特許文献1にはこの種のコンバインの一例が開示されている。特許文献1に記載のコンバインでは、走行機体の進行方向右側にある運転部の下方にエンジンが配置されている。エンジンの前方にミッションケースが配置されている。ミッションケースの上部のうち運転席と反対側の側面(左側面上部)に、油圧無段変速機内蔵の油圧変速ケースが取り付けられている。ミッションケースは作動油タンクとしても機能するものであり、ミッションケース内には、油圧無段変速機からの変速出力を制動する湿式ブレーキが配置されている。湿式ブレーキはミッションケース内の作動油にて潤滑される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−145930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ミッションケース内の作動油の油面高さは、湿式ブレーキの潤滑のために、例えば湿式ブレーキが作動油に浸るか、又は湿式ブレーキに作動油が十分掛かる程度に高くしておくことが多い。しかし、仮に湿式ブレーキをミッションケース内の上部側に配置する場合は、大量の作動油を必要とするばかりか、湿式ブレーキより下方にあるギヤ類は作動油に浸った状態で回転するから、高速駆動時ほど作動油撹拌による回転抵抗が増し、動力損失が大きくなると考えられる。つまり、従来の構造を踏襲したままで、ミッションケース内の比較的高い位置に湿式ブレーキを設けることは、ミッションケースの形状や他のギヤ類との位置関係から困難であり、湿式ブレーキについてレイアウト上の設計自由度が制限され易いという問題があった。
【0005】
そこで、本願発明は、前述の問題を解消した作業車両を提供することを技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記技術的課題を達成するため、請求項1の発明は、エンジンの動力を変速する油圧無段変速機と、前記油圧無段変速機の変速出力を左右の走行部に伝達するミッションケースとを備えており、前記ミッションケース内に、前記油圧無段変速機の変速出力を制動する湿式ブレーキを有している作業車両であって、前記湿式ブレーキは前記ミッションケース内の作動油面より上方に位置しており、前記ミッションケースの上面側に戻り油口を開口させており、前記ミッションケース外から戻ってきた作動油を前記戻り油口から前記湿式ブレーキに向けて案内するガイド体が、前記ミッションケース内に設けられているというものである。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載した作業車両において、前記ミッションケース内に突出する補強リブによって、前記ガイド体が構成されているというものである。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載した作業車両において、前記ミッションケースの前記戻り油口に戻り管路が接続されており、前記戻り管路から分岐した分岐管路が前記ミッションケースにおける前記湿式ブレーキの箇所に接続されており、前記分岐管路は前記ミッションケースの外側に位置しているというものである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明によると、エンジンの動力を変速する油圧無段変速機と、前記油圧無段変速機の変速出力を左右の走行部に伝達するミッションケースとを備えており、前記ミッションケース内に、前記油圧無段変速機の変速出力を制動する湿式ブレーキを有している作業車両であって、前記湿式ブレーキは前記ミッションケース内の作動油面より上方に位置しており、前記ミッションケースの上面側に戻り油口を開口させており、前記ミッションケース外から戻ってきた作動油を前記戻り油口から前記湿式ブレーキに向けて案内するガイド体が、前記ミッションケース内に設けられているから、前記戻り油口から流れ落ちる作動油は、前記ガイド体の案内にて前記湿式ブレーキ上に送られて、前記湿式ブレーキに降りかかる。その結果、前記湿式ブレーキがなかば強制的に注油され潤滑されることになる。従って、前記ミッションケース内の作動油量に拘らず、作動油に浸漬されない前記湿式ブレーキへの注油量不足を抑制できるという効果を奏する。また、前記ミッションケース内の作動油量に制限を受けないので、前記ミッションケース内のうち作動油に浸漬しない位置に前記湿式ブレーキを設けることが可能になる。つまり、前記湿式ブレーキについてレイアウト上の設計自由度が向上するという利点もある。
【0010】
請求項2の発明によると、前記ミッションケース内に突出する補強リブによって、前記ガイド体が構成されているから、前記ミッションケースの剛性を確保する前記補強リブが、前記戻り油口からの作動油を前記湿式ブレーキに案内することになる。従って、前記ミッションケースの剛性確保と前記湿式ブレーキへの注油機能向上との両方を低コストで実現できるという効果を奏する。
【0011】
請求項3の発明によると、前記ミッションケースの前記戻り油口に戻り管路が接続されており、前記戻り管路から分岐した分岐管路が前記ミッションケースにおける前記湿式ブレーキの箇所に接続されており、前記分岐管路は前記ミッションケースの外側に位置しているから、前記分岐管路を経由した作動油と、前記ガイド体にて案内された作動油とによって、前記湿式ブレーキが注油され潤滑されることになる。従って、前記ミッションケースの形状を特に変更しなくても、前記ガイド体の存在と相俟って、前記湿式ブレーキへの注油量不足を簡単に解消できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】6条刈り用コンバインの左側面図である。
【図2】コンバインの平面図である。
【図3】コンバインの駆動系統図である。
【図4】ミッションケース等の駆動系統図である。
【図5】コンバインの油圧回路図である。
【図6】エンジン及びミッションケースの左側面図である。
【図7】エンジン及びミッションケースの平面図である。
【図8】エンジン及びミッションケースの伝動系説明図である。
【図9】走行機体及びミッションケースの正面説明図である。
【図10】ミッションケースの左側面図である。
【図11】ミッションケースの右側面図である。
【図12】ギヤ配列関係を示すミッションケースの左側面断面図である。
【図13】ミッションケースの右側面上部拡大断面図である。
【図14】ミッションケースの背面上部拡大断面図である。
【図15】ミッションケースの背面下部拡大断面図である。
【図16】車軸先端側の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本願発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明では、走行機体1の前進方向に向かって左側を単に左側と称し、同じく前進方向に向かって右側を単に右側と称する。
【0014】
(1).コンバインの全体構造
図1及び図2を参照しながら、コンバインの全体構造について説明する。図1及び図2に示す如く、コンバインは、走行部としての左右一対の走行クローラ2にて支持された走行機体1を備える。走行機体1の前部には、穀稈を刈取りながら取込む6条刈り用の刈取装置3が、昇降アクチュエータとしての単動式の昇降用油圧シリンダ4によって、横軸である刈取入力ケース16(詳細は後述する)回りに昇降調節可能に装着される。走行機体1には、フィードチェン6を有する脱穀装置5と、該脱穀装置5から取出された穀粒を貯留する穀物タンク7とが横並び状に搭載される。なお、脱穀装置5が走行機体1の前進方向左側に、穀物タンク7が走行機体1の前進方向右側に配置される。走行機体1の後部に旋回可能な排出オーガ8が設けられ、穀物タンク7の内部の穀粒が、排出オーガ8の籾投げ口9からトラックの荷台またはコンテナ等に排出されるように構成されている。刈取装置3の右側方で且つ穀物タンク7の前側方には、運転キャビン10が設けられている。
【0015】
運転キャビン10内には、旋回操作具としての操縦ハンドル11と、運転座席12と、直進操作具としての主変速レバー43と、副変速スイッチ44と、脱穀クラッチ及び刈取クラッチを入り切りする作業クラッチレバー45とが配置されている。なお、運転キャビン10には、オペレータが搭乗するステップ357(図6〜図9参照)と、操縦ハンドル11を設けたハンドルコラム46と、前記各レバー43,45及びスイッチ44等を設けたレバーコラム47とが配置されている。走行機体1における運転座席12の下方には、動力源としてのエンジン14が配置されている。
【0016】
図1に示す如く、走行機体1の下面側に左右のトラックフレーム21を配置する。トラックフレーム21には、走行クローラ2にエンジン14の動力を伝える駆動スプロケット22と、走行クローラ2のテンションを維持するテンションローラ23と、走行クローラ2の接地側を接地状態に保持する複数のトラックローラ24と、走行クローラ2の非接地側を保持する中間ローラ25とを設けている。駆動スプロケット22によって走行クローラ2の前側を支持し、テンションローラ23によって走行クローラ2の後側を支持し、トラックローラ24によって走行クローラ2の接地側を支持し、中間ローラ25によって走行クローラ2の非接地側を支持する。
【0017】
図1に示す如く、刈取装置3の骨組みを構成する刈取フレーム221の下方には、圃場に植立した未刈り穀稈の株元を切断するバリカン式の刈刃装置222が設けられている。刈取フレーム221の前方には、圃場に植立した未刈り穀稈を引起す6条分の穀稈引起装置223が配置されている。穀稈引起装置223とフィードチェン6の前端部(送り始端側)との間には、刈刃装置222によって刈取られた刈取り穀稈を搬送する穀稈搬送装置224が配置される。なお、穀稈引起装置223の下部前方には、圃場に植立した未刈り穀稈を分草する6条分の分草体225が突設されている。エンジン14にて走行クローラ2を駆動して圃場内を移動しながら、刈取装置3によって圃場に植立した未刈り穀稈を連続的に刈取る。
【0018】
(2).脱穀装置の構造
次に、図1及び図2を参照しながら、脱穀装置5の構造を説明する。図1及び図2に示す如く、脱穀装置5には、穀稈脱穀用の扱胴226と、扱胴226の下方に落下する脱粒物を選別する揺動選別盤227及び唐箕ファン228と、扱胴226の後部から取出される脱穀排出物を再処理する処理胴229と、揺動選別盤227の後部の排塵を排出する排塵ファン230とを備えている。なお、扱胴226の回転軸芯線は、フィードチェン6による穀稈の搬送方向(換言すると走行機体1の進行方向)に沿って延びている。刈取装置3から穀稈搬送装置224によって搬送された穀稈の株元側は、フィードチェン6に受け継がれて挟持搬送される。そして、この穀稈の穂先側が脱穀装置5の扱室内に搬入されて扱胴226にて脱穀される。
【0019】
図1に示す如く、揺動選別盤227の下方側には、揺動選別盤227にて選別された穀粒(一番物)を取出す一番コンベヤ231と、枝梗付き穀粒等の二番物を取出す二番コンベヤ232とが設けられている。本実施形態の両コンベヤ231,232は、走行機体1の進行方向前側から一番コンベヤ231、二番コンベヤ232の順で、側面視において走行クローラ2の後部上方の走行機体1の上面側に横設されている。前述した揺動選別盤227、唐箕ファン228、一番コンベヤ231、二番コンベヤ232、排塵ファン230並びに選別ファン241等によって、穀物選別機構245を構成している。
【0020】
図1に示す如く、揺動選別盤227は、扱胴226の下方に張設された受網237から漏下した脱穀物が、フィードパン238及びチャフシーブ239によって揺動選別(比重選別)されるように構成している。揺動選別盤227から落下した穀粒は、その穀粒中の粉塵が唐箕ファン228からの選別風によって除去され、一番コンベヤ231に落下することになる。一番コンベヤ231のうち脱穀装置5における穀物タンク7寄りの一側壁(実施形態では右側壁)から外向きに突出した終端部には、上下方向に延びる揚穀コンベヤ233が連通接続されている。一番コンベヤ231から取出された穀粒は、揚穀コンベヤ233を介して穀物タンク7に搬入され、穀物タンク7に収集される。
【0021】
また、図1に示す如く、揺動選別盤227は、揺動選別(比重選別)によってチャフシーブ239から枝梗付き穀粒等の二番物を二番コンベヤ232に落下させるように構成している。チャフシーブ239の下方に落下する二番物を風選する選別ファン241を備える。チャフシーブ239から落下した二番物は、その穀粒中の粉塵及び藁屑が選別ファン241からの選別風によって除去され、二番コンベヤ232に落下する。二番コンベヤ232のうち脱穀装置5における穀物タンク7寄りの一側壁から外向きに突出した終端部は、還元コンベヤ236を介して、フィードパン238の後部(チャフシーブ239の前部)の上面側に連通接続され、二番物を揺動選別盤227の上面側に戻して再選別するように構成している。
【0022】
一方、図1及び図2に示す如く、フィードチェン6の後端側(送り終端側)には、排藁チェン234と排藁カッタ235が配置されている。フィードチェン6の後端側から排藁チェン234に受継がれた排藁(穀粒が脱粒された稈)は、長い状態で走行機体1の後方に排出されるか、又は脱穀装置5の後部に設けられた排藁カッタ235にて適宜長さに短く切断されたのち、走行機体1の後方下方に排出される。
【0023】
(3).コンバインの駆動構造
次に、図3を参照しながら、コンバインの駆動構造(刈取装置3、脱穀装置5、フィードチェン6、排藁チェン234、排藁カッタ235等の駆動構造)について説明する。図3に示す如く、エンジン14の左側にその出力軸150を突出する。エンジン14の出力軸150に走行駆動ベルト151を介してミッションケース88の走行入力軸152を連結し、エンジン14の回転駆動力が、前側の出力軸150からミッションケース88に伝達されて変速された後、左右の車軸153を介して左右の走行クローラ2に伝達され、左右の走行クローラ2がエンジン14の回転力によって駆動されるように構成している。
【0024】
図3に示す如く、エンジン14を冷却するラジエータ等のための冷却ファン154が、エンジン14の右側に突出した出力軸150に設けられている。また、エンジン14の右側の出力軸150に排出オーガ駆動軸157を連結し、エンジン14の回転駆動力によって排出オーガ駆動軸157を介して排出オーガ8が駆動され、穀物タンク7内の穀粒がコンテナ等に排出されるように構成している。また、図3に示す如く、脱穀装置5の各部にエンジン14の回転駆動力を伝える脱穀選別作業入力軸165と、扱胴226及び処理胴230に脱穀選別作業入力軸165の回転駆動力を伝える脱穀駆動軸160を備える。エンジン14の左側の出力軸150には、テンションローラ形脱穀クラッチ161及び脱穀駆動ベルト162を介して、脱穀選別作業入力軸165を連結する。脱穀駆動軸160上に、扱胴低速ギヤ及び扱胴高速ギヤを配置する。脱穀選別作業入力軸165の回転力が、扱胴低速ギヤ又は扱胴高速ギヤを介して脱穀駆動軸160に伝達される。
【0025】
脱穀駆動軸160には、扱胴駆動ベルト117を介して、扱胴226を軸支した扱胴軸163と処理胴230を軸支した処理胴軸164とを連結する。エンジン14の略一定回転数の回転力によって、扱胴226及び処理胴230が所定回転数(低速回転数又は高速回転数)で回転するように構成している。また、エンジン14の略一定回転数の回転力によって、脱穀選別作業入力軸165を介して、揺動選別盤227、唐箕ファン228、一番コンベヤ231、二番コンベヤ232、選別ファン241、排塵ファン230が略一定回転数で回転するように構成している。
【0026】
図3〜図5に示す如く、ミッションケース88には、1対の直進用第1油圧ポンプ55及び直進用第1油圧モータ56を有する直進(走行主変速)用の油圧無段変速機53と、1対の旋回用第2油圧ポンプ57及び旋回用第2油圧モータ58を有する旋回用の油圧無段変速機54とを設けている。第1油圧ポンプ55と第2油圧ポンプ57とに、ミッションケース88の走行入力軸152をそれぞれ連結させて駆動するように構成している。ミッションケース88にPTO軸99を配置する。PTO軸99は第1油圧モータ56によって駆動される。ミッションケース88からこの左外側にPTO軸99の一端側を突設させている。
【0027】
走行機体1上のうちエンジン14の左側方で且つ脱穀装置5の前側方に、カウンタギヤケース89(図3、図6、図7及び図9参照)を設けている。カウンタギヤケース89には、上述した脱穀駆動軸160と、脱穀駆動軸160に連結する脱穀選別作業入力軸165と、PTO軸99に連結する車速同調軸100と、脱穀選別作業入力軸165又は車速同調軸100に連結する刈取伝動軸101と、刈取り入力軸17に連結する刈取駆動軸102と、フィードチェン6及び受継用補助株元搬送チェン136を駆動するフィードチェン駆動軸103とを配置している。カウンタギヤケース89内の車速同調軸100上に、車速同調軸100の車速同調回転力を伝える一方向クラッチを設ける。車速同調軸100に、刈取変速機構と一方向クラッチとを介して刈取伝動軸101を連結する。刈取変速機構は低速側変速ギヤと高速側変速ギヤとを有する。低速及び中立(零回転)及び高速の各刈取変速を行う刈取変速操作手段によって低速側変速ギヤ又は高速側変速ギヤを刈取伝動軸101に択一的に係合させ、車速同調軸100から刈取変速機構を介して刈取伝動軸101に刈取変速出力を伝えるように構成している。
【0028】
脱穀選別作業入力軸165に一定回転機構を介して刈取伝動軸101を連結する。一定回転機構は低速側一定回転ギヤと高速側一定回転ギヤとを有する。刈取伝動軸101にトルクリミッタを介して刈取駆動軸102を連結する。刈取駆動軸102に、刈取駆動プーリ124及び刈取駆動ベルト125を介して刈取り入力軸17を連結させ、刈取装置3に刈取駆動軸102から刈取駆動力を伝達させる。刈取作業の維持に必要な一定回転数の回転出力が低速側一定回転ギヤを介して脱穀選別作業入力軸165から刈取伝動軸101に伝達される。従って、走行機体1の移動速度に関係なく、低速側一定回転ギヤからの一定回転数で刈取り入力軸17を作動させて刈取作業を維持でき、圃場の枕地での方向転換作業性等を向上できる。
【0029】
また、車速同調軸100及び高速側変速ギヤからの車速同調出力の最高速よりも速い一定回転数の回転出力が、高速側一定回転ギヤを介して脱穀選別作業入力軸165から刈取伝動軸101に伝達される。従って、車速同調出力の最高速よりも速い高速側一定回転ギヤからの一定回転数で刈取り入力軸17を駆動でき、倒伏穀稈の刈取り作業性等を向上できる。なお、トルクリミッタにて設定したトルク以下の回転力で刈取り入力軸17を駆動させることによって、刈刃132等が損傷するのを防止している。
【0030】
カウンタギヤケース89には、脱穀選別作業入力軸165にフィードチェン駆動軸103を連結する遊星ギヤ形変速構造のフィードチェン同調機構が設けられている。脱穀選別作業入力軸165の回転出力が、フィードチェン同調機構によって刈取伝動軸101の回転数に比例して変速されて、フィードチェン駆動軸103に伝達される。即ち、フィードチェン同調機構を介してフィードチェン6及び受継用補助株元搬送チェン136を作動することによって、穀稈の搬送に必要な最低回転数(低速側一定回転ギヤからの一定回転数)を確保しながら、フィードチェン6及び受継用補助株元搬送チェン136の穀稈搬送速度を車速と同調させて変更可能に構成している。
【0031】
図3に示す如く、刈取り入力軸17に、縦伝動軸140及び横伝動軸141及び左搬送駆動軸142を介して引起横伝動軸143を連結する。引起横伝動軸143は、6条分の各引起ケース29の引起タイン駆動軸144にそれぞれ連結している。分草体225の後方で且つ分草フレーム20の上方に引起ケース129が立設され、引起ケース129の背面上部側から引起タイン駆動軸144を突出させている。引起タイン駆動軸144及び引起横伝動軸143を介して、複数の引起タイン128を設けた引起タインチェン128aが駆動するように構成されている。図3に示す如く、横伝動軸141に左右のクランク軸145を介して左右の刈刃132を連結する。横伝動軸141を介して左右の刈刃132を連動させて駆動するように構成している。なお、刈刃装置222は、6条分の刈幅の中央部で分割して左右の刈刃132を形成し、左右の刈刃132を相反する方向に往復移動させ、往復移動によって発生する左右の刈刃132の振動(慣性力)を相殺可能に構成している。
【0032】
図3に示す如く、刈取り入力軸17に縦伝動ケース18内の縦伝動軸140の一端側を連結する。縦伝動軸140の他端側に横伝動ケース19内の横伝動軸141を連結する。縦伝動軸140及び横伝動軸141から、穀稈搬送装置224の各駆動部に刈取り入力軸17の回転力を伝える。すなわち、縦伝動軸140には右搬送駆動軸146を連結している。縦伝動軸140及び右搬送駆動軸146を介して、右株元搬送チェン133Rと、右スターホイル130R及び右掻込ベルト131Rと、縦搬送チェン134とを駆動するように構成している。また、縦伝動軸140のうち右搬送駆動軸146より後方には後搬送駆動軸147を連結している。縦伝動軸140及び後搬送駆動軸147を介して、補助株元搬送チェン135及び右穂先搬送タイン137Rを駆動するように構成している。
【0033】
また、横伝動軸141の左端側に左搬送駆動軸142を連結している。左搬送駆動軸142を介して、左株元搬送チェン133L及び左穂先搬送タイン137Lと、左スターホイル130L及び左掻込ベルト131Lとを駆動するように構成している。また、横伝動軸141に中央搬送駆動軸148を連結し、中央搬送駆動軸148を介して、中央株元搬送チェン133C及び中央穂先搬送タイン137Cと、中央スターホイル130C及び中央掻込ベルト131Cとを駆動するように構成している。
【0034】
(4).ミッションケースの動力伝達構造
次に、図3及び図4等を参照して、ミッションケース88の動力伝達構造を説明する。図3及び図4に示す如く、ミッションケース88に、一対の直進用第1油圧ポンプ55及び直進用第1油圧モータ56を有する直進(走行主変速)用の油圧無段変速機53と、一対の旋回用第2油圧ポンプ57及び旋回用第2油圧モータ58を有する旋回用の油圧無段変速機54とを設ける。第1油圧ポンプ55と、第2油圧ポンプ57に、ミッションケース88の走行入力軸152をそれぞれ連結させて駆動するように構成している。走行入力軸152上に走行入力プーリ155を設け、走行入力プーリ155に走行駆動ベルト151を掛け回している。ミッションケース88にPTO軸99を配置している。PTO軸99は、直進用モータ軸60及び主変速出力用カウンタ軸70を介して、第1油圧モータ56によって駆動される。ミッションケース88からこの左外側にPTO軸99の一端側を突設させている。PTO軸99上にPTOプーリ119を設け、PTOプーリ119にPTOベルト120を掛け回している。
【0035】
図4に示す如く、エンジン14の出力軸150から出力される駆動力は、走行駆動ベルト151及び走行入力軸152を介して、第1油圧ポンプ55のポンプ軸59及び第2油圧ポンプ57のポンプ軸59にそれぞれ伝達される。直進用油圧無段変速機53では、ポンプ軸59に伝達された動力にて、第1油圧ポンプ55から第1油圧モータ56に向けて作動油が適宜送り込まれる。同様に、旋回用油圧無段変速機54では、ポンプ軸59に伝達された動力にて、第2油圧ポンプ57から第2油圧モータ58に向けて作動油が適宜送り込まれる。なお、ポンプ軸59には、油圧ポンプ55,57及び油圧モータ56,58に作動油を供給するためのチャージポンプ251が取付けられている。
【0036】
直進用油圧無段変速機53は、運転キャビン10に配置された主変速レバー43や操縦ハンドル11の操作量に応じて、第1油圧ポンプ55における斜板55aの傾斜角度を変更調節して、第1油圧モータ56への作動油の吐出方向及び吐出量を変更することにより、第1油圧モータ56から突出した直進用モータ軸60の回転方向及び回転数を任意に調節するように構成されている。図4に示す如く、直進用モータ軸60の回転動力は、直進伝達ギヤ50から副変速機構51に伝達される。副変速機構51は、副変速シフタ64によって切換える副変速低速ギヤ62及び副変速高速ギヤ63を有する。レバーコラム47に配置された副変速スイッチ44の操作にて、直進用モータ軸60の出力回転数を低速又は高速という2段階の変速段に切換えるように構成している。なお、副変速の低速と高速との間には、中立位置(副変速の出力が零になる位置)を有している。副変速スイッチ44には、低速切換釦と中立切換釦と高速切換釦とにより構成されている。低速切換釦、中立切換釦又は高速切換釦の押し操作によって、副変速出力が低速出力、中立又は高速出力に択一的に切り換わる。
【0037】
図4に示すように、副変速機構51の出力側に設けられた駐車ブレーキ軸65(副変速出力軸)には、湿式多板ディスク式の駐車ブレーキ66が設けられている。副変速機構51からの回転動力は、駐車ブレーキ軸65に固着された副変速出力ギヤ67から左右の差動機構52に伝達される。左右の差動機構52は、遊星ギヤ機構68をそれぞれ備えている。また、駐車ブレーキ軸65上に直進用パルス発生回転輪体92を設け、直進用パルス発生回転輪体92に直進用ピックアップ回転センサ93(直進車速センサ)を対向させて配置し、直進用ピックアップ回転センサ93によって、直進出力の回転数(直進車速、副変速出力ギヤ67出力)を検出するように構成している。
【0038】
図4に示す如く、左右各遊星ギヤ機構68は、1つのサンギヤ71と、サンギヤ71に噛合う複数の遊星ギヤ72と、遊星ギヤ72に噛合うリングギヤ73と、複数の遊星ギヤ72を同一円周上に回転可能に配置するキャリヤ74とをそれぞれ備えている。左右の遊星ギヤ機構68のキャリヤ74は、同一軸線上において適宜間隔を設けて相対向させて配置されている。左右のサンギヤ71が設けられたサンギヤ軸75にセンタギヤ76を固着している。左右の各リングギヤ73は、その内周面の内歯を複数の遊星ギヤ72に噛合わせた状態で、サンギヤ軸75に同心状に配置されている。また、左右の各リングギヤ73は、その外周面の外歯を左右旋回出力ギヤ86に噛合わせて、中継軸85に連結させている。各リングギヤ73は、キャリヤ74の外側面から左右外向きに突出した左右の強制デフ出力軸77に回転可能に軸支されている。左右の強制デフ出力軸77に、ファイナルギヤ78a,78bを介して左右の車軸153が連結されている。左右の車軸153には左右の駆動スプロケット22が取付けられている。従って、副変速機構51から左右の遊星ギヤ機構68に伝達された回転動力は、左右の車軸153から各駆動スプロケット22に同方向の同一回転数にて伝達され、左右の走行クローラ2を同方向の同一回転数にて駆動して、走行機体1を直進(前進、後退)移動させる。
【0039】
旋回用油圧無段変速機54は、運転キャビン10に配置された主変速レバー43や操縦ハンドル11の操作量に応じて、第2油圧ポンプ57における斜板57aの傾斜角度を変更調節して、第2油圧モータ58への作動油の吐出方向及び吐出量を変更することにより、第2油圧モータ58から突出した旋回用モータ軸61の回転方向及び回転数を任意に調節するように構成されている。また、後述する操向カウンタ軸80上に旋回用パルス発生回転輪体94を設け、旋回用パルス発生回転輪体94に旋回用ピックアップ回転センサ95を対向させて配置し、旋回用ピックアップ回転センサ95(旋回車速センサ)によって、第2油圧モータ58の操向出力の回転数(旋回車速)を検出するように構成している。
【0040】
また、ミッションケース88内には、旋回用モータ軸61(操向入力軸)上に設ける操向ブレーキ79(旋回ブレーキ)と、旋回用モータ軸61に減速ギヤ81を介して連結する操向カウンタ軸80と、操向カウンタ軸80に減速ギヤ86を介して連結する操向出力軸85と、左リングギヤ73に逆転ギヤ84を介して操向出力軸85を連結する左入力ギヤ機構82と、右リングギヤ73に操向出力軸85を連結する右入力ギヤ機構83とを設けている。旋回用モータ軸61の回転動力は、操向カウンタ軸80に伝達される。操向カウンタ軸80に伝達された回転動力は、左の入力ギヤ機構82の左中間ギヤ87及び逆転ギヤ84を介して逆転回転動力として、左リングギヤ73に伝達され、右の入力ギヤ機構83の右中間ギヤ87を介して正転回転動力として、右リングギヤ73に伝達される。
【0041】
副変速機構51を中立にした場合は、第1油圧モータ56から左右の遊星ギヤ機構68への動力伝達が阻止される。副変速機構51から中立以外の副変速出力時に、副変速低速ギヤ62又は副変速高速ギヤ63を介して第1油圧モータ56から左右の遊星ギヤ機構68へ動力伝達される。一方、第2油圧ポンプ57の出力をニュートラル状態とし、且つ操向ブレーキ79を入り状態とした場合は、第2油圧モータ58から左右の遊星ギヤ機構68への動力伝達が阻止される。第2油圧ポンプ57の出力をニュートラル以外の状態とし、且つ操向ブレーキ79を切り状態とした場合は、第2油圧モータ58の回転動力が、左入力ギヤ機構82及び逆転ギヤ84を介して左リングギヤ73に伝達される一方、右入力ギヤ機構83を介して右リングギヤ73に伝達される。
【0042】
その結果、第2油圧モータ58の正回転(逆回転)時は、互いに逆方向の同一回転数で、左リングギヤ73が逆転(正転)し、右リングギヤ73が正転(逆転)する。即ち、各モータ軸60,61からの変速出力は、副変速機構51又は差動機構52をそれぞれ経由して、左右の走行クローラ2の駆動スプロケット22にそれぞれ伝達され、走行機体1の車速(走行速度)及び進行方向が決定される。すなわち、第2油圧モータ58を停止させて左右リングギヤ73を静止固定させた状態で、第1油圧モータ56が駆動すると、直進用モータ軸60からの回転出力は左右サンギヤ71に左右同一回転数で伝達され、遊星ギヤ72及びキャリヤ74を介して、左右の走行クローラ2が同方向の同一回転数にて駆動され、走行機体1が直進走行する。
【0043】
逆に、第1油圧モータ56を停止させて左右サンギヤ71を静止固定させた状態で、第2油圧モータ58を駆動させると、旋回用モータ軸61からの回転動力にて、左のリングギヤ73が正回転(逆回転)し、右のリングギヤ73は逆回転(正回転)する。その結果、左右の走行クローラ2の駆動スプロケット22のうち、一方が前進回転し、他方が後退回転し、走行機体1はその場で方向転換(信地旋回スピンターン)される。また、第1油圧モータ56によって左右サンギヤ71を駆動しながら、第2油圧モータ58によって左右リングギヤ73を駆動することによって、左右の走行クローラ2の速度に差が生じ、走行機体1は前進又は後退しながら信地旋回半径より大きい旋回半径で左又は右に旋回(Uターン)する。このときの旋回半径は左右の走行クローラ2の速度差に応じて決定される。
【0044】
(5).コンバインの油圧回路構造
次に、図5を参照して、コンバインの油圧回路構造について説明する。図5に示す如く、コンバインの油圧回路250には、直進用の第1油圧ポンプ55及び第1油圧モータ56と、旋回用の第2油圧ポンプ57及び第2油圧モータ58と、チャージポンプ251とを備える。第1油圧ポンプ55と第1油圧モータ56とが閉ループ状直進油路252によって接続される。第2油圧ポンプ57と第2油圧モータ58とが閉ループ状旋回油路253によって接続される。エンジン14によって第1油圧ポンプ55及び第2油圧ポンプ57が駆動され、第1油圧ポンプ55の斜板角制御又は第2油圧ポンプ57の斜板角制御によって、第1油圧モータ56又は第2油圧モータ58を正転又は逆転作動するように構成している。
【0045】
一方、前記操縦ハンドル11の手動操作に対応して電気的に切換える電磁油圧形操向バルブ270と、前記チャージポンプ251に電磁油圧形操向バルブ270を介して接続させる操向シリンダ271を備える。操舵角センサ402にて検出された操縦ハンドル11の操舵角に対応して電磁油圧形操向バルブ270を切換えると、操向シリンダ271が作動して第2油圧ポンプ57の斜板57a角度を変更させ、第2油圧モータ58の旋回用モータ軸61の回転数を無段階に変化させたり、逆転させる左右操向動作を行わせ、走行方向を左右に変更して圃場枕地で方向転換したり進路を修正する。また、操向用の油圧サーボ機構275を備えており、斜板57aの角度調節動作によって電磁油圧形操向バルブ270が中立復帰するフィードバック動作を油圧サーボ機構275にて行わせ、操縦ハンドル11の操作量に比例させて斜板57a角度を変化させ、第2油圧モータ58の旋回用モータ軸61の回転数を変更させるように構成している。
【0046】
また、図5に示す如く、前記主変速レバー43の手動操作に対応して電気的に切換える電磁油圧形変速バルブ272と、前記チャージポンプ251に電磁油圧形変速バルブ272を介して接続させる変速シリンダ273を設ける。主変速センサ401にて検出された主変速レバー43の操作量に対応して電磁油圧形変速バルブ272を切換えると、変速シリンダ273が作動して第1油圧ポンプ55の斜板55a角度を変更させ、第1油圧モータ56の直進用モータ軸60の回転数を無段階に変化させたり逆転させたりする走行変速動作が行われる。また、走行変速用の油圧サーボ機構277を備えており、斜板55aの角度調節動作によって電磁油圧形変速バルブ272が中立復帰するフィードバック動作を油圧サーボ機構277に行わせ、主変速レバー43の操作量に比例させて斜板55a角度を変化させ、第1油圧モータ56の直進用モータ軸60の回転数を変更させ、主変速レバー43の操作によって直進用モータ軸60を前後進回転させるように構成している。
【0047】
更に、図5に示す如く、刈取装置3の作動速度を切換える油圧刈取変速シリンダ280と、刈取装置3を一定回転速度にて作動させる油圧刈取定速シリンダ281を備える。油圧刈取変速シリンダ280及び油圧刈取定速シリンダ281は、カウンタギヤケース89の上面蓋(油路ベース)に配置する。刈取変速シリンダ280を作動させる刈取変速バルブ282と、刈取定速シリンダ281を作動させる刈取定速バルブ283を、前記チャージポンプ251に並列にそれぞれ油圧接続させる。
【0048】
(6).エンジン、ミッションケース及びカウンタギヤケースの動力伝達構造
次に、図1〜図3及び図6〜図9を参照しながら、エンジン14、ミッションケース88及びカウンタギヤケース89の動力伝達構造について説明する。図1、図2及び図6〜図8に示すように、走行機体1の上面右側にエンジン14が搭載され、走行機体1における左右幅中央の前方にミッションケース88が設置され、走行機体1の上面左側にカウンタギヤケース89が配置されている。エンジン14において左右方向に延長された出力軸150の左側端部に出力プーリ149を軸支し、ミッションケース88の左側上部の走行入力プーリ155と出力プーリ149との間に走行駆動ベルト151を掛け回している。かかる構成により、ミッションケース88の各油圧無段変速機53,54にエンジン14の出力がそれぞれ伝達される。
【0049】
一方、排出オーガ8を収納(非作業)位置に支持する柱状フレーム290が走行機体1の上面に立設され、その柱状フレーム290の基端部の前面に軸受体291を介してPTOカウンタ軸121が回転自在に軸支されている。PTOカウンタ軸121上のPTOカウンタプーリ122aと、ミッションケース88の左側上部のうち走行入力プーリ155より下側のPTOプーリ119との間に、PTOベルト120を掛け回している。また、PTOカウンタ軸121上のPTOカウンタプーリ122bと、カウンタギヤケース89の車速同調軸100に固定された車速同調プーリ104との間に、車速同調ベルト123を掛け回している。かかる構成により、PTO軸99から車速同調軸100にミッションケース88の車速同調駆動力が伝達される。
【0050】
更に、エンジン14における出力軸150上の出力プーリ149と、カウンタギヤケース89の脱穀選別作業入力軸165に固定された脱穀駆動プーリ118との間に、脱穀駆動ベルト162を掛け回している。また、脱穀クラッチ161を切り換える脱穀入力アクチュエータとしての脱穀クラッチ用電動モータ175を備える。脱穀クラッチ用電動モータ175を作動させて、脱穀クラッチ161を入り作動させることによって脱穀駆動ベルト162が緊張状態に維持され、カウンタギヤケース89にエンジン14の出力が伝達される一方、脱穀クラッチ161の切り作動によって脱穀駆動ベルト162が弛緩状態に維持され、エンジン14からカウンタギヤケース89への出力伝達が遮断される。
【0051】
走行機体1上のうちエンジン14の後方にクラッチユニットシャーシ176を配置し、クラッチユニットシャーシ176に脱穀クラッチ入り切り機構177を組付けると共に、クラッチユニットシャーシ176に脱穀クラッチ用電動モータ175を設ける。脱穀クラッチ161を支持したテンションアーム(図示省略)に、脱穀クラッチ入り切り機構177を介して、脱穀クラッチ用電動モータ175が連結されている。カウンタギヤケース89に軸支された脱穀選別作業入力軸165上の脱穀駆動プーリ118を挟んで、カウンタギヤケース89と反対側に脱穀クラッチ用電動モータ175が配置される。この場合、脱穀クラッチ用電動モータ175又は脱穀クラッチ入り切り機構177が設置されるスペースをカウンタギヤケース89側に確保する必要がないから、カウンタギヤケース89の右側に近接させて脱穀駆動プーリ118を支持できる。脱穀クラッチ用電動モータ175又は脱穀クラッチ入り切り機構177等に規制されることなく、脱穀選別作業入力軸165の延長に伴う軸受構造の高剛性化などを不要にして、大きな変速比(減速比)が設定可能な大径の脱穀駆動プーリ118を簡単に設置できる。
【0052】
(7).ミッションケースの概略構造
次に、主として図9〜図11を参照しながら、ミッションケース88の概略構造について説明する。走行機体1における左右幅中央の前方に設置されたミッションケース88は、上下に長く左右に分割自在な二つ割り構造になっている。当該二つ割り構造のミッションケース88は複数のボルトでの締結にて中空略箱形に構成されている。ミッションケース88における左右一側面の上部側(実施形態では右側面上部)に、直進用及び旋回用油圧無段変速機53,54を内蔵する油圧変速ケース350が取り付けられている。この場合、油圧変速ケース350内の前側に直進用油圧無段変速機53(第1油圧ポンプ55及び第1油圧モータ56)が位置し、油圧変速ケース350内の後ろ側に旋回用油圧無段変速機54(第2油圧ポンプ57及び第2油圧モータ58)が位置している。ミッションケース88の内部には、図4を用いて説明したような副変速機構51や差動機構52といったギヤトレーンが収容されている。
【0053】
ミッションケース88の下部は左右外向きに張り出して二股状に下向き突出していて、大まかにいって正面視略門形に形成されている。ミッションケース88の左右両側面下部から下向き突出したギヤケース349には、左右外向きに突出する車軸ケース351がそれぞれボルト締結されている。左右の車軸ケース351内にそれぞれ車軸153が回転可能に軸支されており、各車軸153の突出端部に駆動スプロケット22が取り付けられている。図9に示すように、両ギヤケース349の底部はミッションケース88の底部より下方に位置していて、各ギヤケース349から突出する左右の車軸ケース351よりもミッションケース88の底部が高くなっている。
【0054】
なお、図15に示すように、ミッションケース88の底部の合わせ面は、ミッションケース88内部側でのボルト389締結によって連結されている。このような構造を採用したことによって、ミッションケース88の各半割体を製造するに際して、その型割の方向を半割体全体で共通にできる(型割方向を一方向にできる)から、型割を単純化して製造コストの抑制を図れる。また、ミッションケース88底部の外形形状が、二つ割り構造にも拘らず連続する形状になっているため、ミッションケース88(半割体同士)の締結剛性を向上でき、ミッションケース88からの作動油漏れの抑制に高い効果を発揮できるのである。
【0055】
また、図16に示すように、各車軸153の突出端部のうち車軸ケース351寄りの部位にはスプライン部390が形成されている。スプライン部390には、駆動スプロケット22の回転中心部が摺動可能で且つ相対回転不能に被嵌(スプライン嵌合)されている。スプライン部390より更に外側のボルト部391に、内周側にパッキン393を有する抜け止めカラー392を被嵌してからナット394をねじ込むことによって、駆動スプロケット22が車軸153の突出端部から左右抜け不能になっている。抜け止めカラー392におけるパッキン393の存在によって、車軸153のスプライン部390と駆動スプロケット22の回転中心部との間に泥水等が侵入するのを抑制している。車軸ケース351先端側の開口部分は、スプライン部390のうち車軸ケース351側の根元部に被嵌されたスリーブパッキン395及び環状シール体396によって塞がれている。スリーブパッキン395は、車軸153方向両側に突出する外向きリップ部395aを備えている。このため、スリーブパッキン395の車軸153方向の厚み寸法は環状シール体396のそれよりも大きくなっている。外向きリップ部395aは、駆動スプロケット22の回転中心部側と、車軸153を軸支する軸受体397側の止めリング398とに密接している。これら外向きリップ部395aの密接構造によって、車軸ケース351内への泥水の侵入や軸受体397等からのグリス漏れが抑制され、車軸ケース351のシール性を向上させている。
【0056】
さて、図6〜図9に示すように、ミッションケース88のうち油圧変速ケース350と反対側の側面(実施形態では左側面上部)からは、第1油圧ポンプ55及び第2油圧ポンプ57に動力伝達可能に連結する走行入力軸152が横方向外向きに突出している。走行入力軸152の突端部に固定された走行入力プーリ155に、エンジン14の出力プーリ149に巻き掛けた走行駆動ベルト151が掛け回されている。ミッションケース88の左側面上部から横方向外向きに突出したPTO軸99の突端側に、PTOプーリ119が設けられている。PTOプーリ119は走行入力プーリ155より下側に位置していて、PTOプーリ119と、その後方に位置するPTOカウンタプーリ112aとに、PTOベルト120が巻き掛けられている。PTOプーリ119とPTOカウンタプーリ122aとの間には、PTOベルト120に下方から当接してPTOベルト120を緊張状態に保持するためのテンションプーリ352が設けられている。テンションプーリ352は、柱状フレーム290の軸受体291に上下回動可能に支持されていて、バネ付勢にてPTOベルト120を常時緊張させるように構成されている。
【0057】
ミッションケース88の左側面部のうちPTO軸99より下方には、ミッションケース88内の直進用パルス発生回転輪体92に関連させた直進出力検出手段としての直進用ピックアップ回転センサ93(直進車速センサ)と、同じく旋回用パルス発生回転輪体94に関連させた旋回出力検出手段としての旋回用ピックアップ回転センサ95(旋回車速センサ)とが一部を外向きに露出させた状態で設けられている。図10に示すように、両ピックアップ回転センサ93,95は前後に並べて配置されている。この場合、両ピックアップ回転センサ93,95は、PTO軸99とミッションケース88の左張り出し下部との間にあり、直進用ピックアップ回転センサ93が前側に、旋回用ピックアップ回転センサ95が後側に位置している。ミッションケース88の左側面部のうち両ピックアップ回転センサ93,95の箇所には、右側面側及び下面側を開放した略蓋状のガード板353がボルト締結にて取り付けられている。従って、両ピックアップ回転センサ93,95の外周側はガード板353にて覆われている。このように構成すると、単一のガード板353によって、両方のピックアップ回転センサ93,95を走行クローラ2が巻き上げた泥土等から簡単に保護できる。また、部品点数抑制及び組付け作業工数低減にも寄与できる。更に、各ピックアップ回転センサ93,95のハーネス(図示省略)も広範囲に保護することが可能になる。
【0058】
図10に示すように、実施形態のガード板353の上面部は前低後高状に傾斜した形状になっている。このため、ガード板353上に載った泥土等は傾斜状の上面部を滑り落ち易くなり、ガード板353上への泥土等の堆積を効果的に防止できる。ガード板353の右側面側は、ミッションケース88の左側面部で塞がれており、ガード板353の下面側は、ミッションケース88の左張り出し下部の上面側で塞がれている。また、ガード板353の左右幅寸法は、正面視でミッションケース88の左側面部とPTOプーリ119との間にガード板353が収まる程度の大きさに設定されている。更に、図8及び図10に示すように、側面視においてガード板353のうちテンションプーリ352と重なる部位は、ミッションケース88におけるPTO軸99側の左右一側面(実施形態では左側面部)に向けて内向きに傾斜した形状(内向きに折り曲げた形状)になっている。このように構成すると、ガード板353とテンションプーリ352との干渉を回避しつつ、ミッションケース88からの動力伝達系統(PTO)に関して左右幅方向のコンパクト化を図れる。なお、テンションプーリの近傍に位置することになる昇降用油圧シリンダ4との干渉回避の点でも効果的である。
【0059】
前述の通り、ミッションケース88の右側面上部にボルト締結された油圧変速ケース350内の前側に、直進用油圧無段変速機53(第1油圧ポンプ55及び第1油圧モータ56)が設けられている。油圧変速ケース350内の後側には、旋回用油圧無段変速機54(第2油圧ポンプ57及び第2油圧モータ58)が設けられている。油圧変速ケース350の前面側には、第1油圧ポンプ55の斜板55aに対する変速シリンダ273を作動させる電気的アクチュエータとしての電磁油圧形変速バルブ272が、油圧変速ケース350内の油圧回路250(図5参照)に連通するように組付けられてユニット化されている。また、油圧変速ケース350の前面側には、第1油圧ポンプ55の斜板55aを手動操作して第1油圧モータ56への作動油の吐出方向及び吐出量を手動で変更する直進用の緊急手動操作具としての直進操作軸355が前向きに突設されている。直進操作軸355をその軸心回りに回動操作すれば、第1油圧ポンプ55の斜板55aの傾斜角度が電磁油圧形変速バルブ272とは別個独立して変更され、第1油圧モータ56への作動油の吐出方向及び吐出量が変更される。実施形態では、直進操作軸355と電磁油圧形変速バルブ272とが油圧変速ケース350の前面側に左右に並べて配置されている。
【0060】
油圧変速ケース350の後面側には、第2油圧ポンプ57の斜板57aに対する操向シリンダ271を作動させる電磁油圧形操向バルブ270が、油圧変速ケース350内の油圧回路250(図5参照)に連通するように組み付けられてユニット化されている。また、油圧変速ケース350の後面側には、第2油圧ポンプ57の斜板57aを手動操作して第2油圧モータ58への作動油の吐出方向及び吐出量を手動で変更する旋回用の緊急手動操作具としての旋回操作軸356が後向きに突設されている。旋回操作軸356をその軸心回りに回動操作すれば、第2油圧ポンプ57の斜板57aの傾斜角度が電磁油圧形操向バルブ270と別個独立して変更され、第2油圧モータ58への作動油の吐出方向及び吐出量が変更されることになる。実施形態では、旋回操作軸356と電磁油圧形操向バルブ270とが油圧変速ケース350の後面側に左右に並べて配置されている。
【0061】
図6〜図9に示すように、ミッションケース88の一側方(実施形態では左側方)に、走行機体1のステップ357が位置している。ステップ357とミッションケース88との間に油圧変速ケース350が位置している。ステップ357においてフレームで囲われた内部には、バッテリ358が搭載されている。ステップ357のバッテリ収容空間359は左右外向きに開放されていて、ステップ357の左側から見て油圧変速ケース350前面側の直進操作軸355をステップ357のバッテリ収容空間359に臨ませている。ステップ357の左側からバッテリ収容空間359に手を差し入れて、油圧変速ケース350前面側の直進操作軸355を走行機体1の外側から手動操作することが可能になっている(図9参照)。
【0062】
図示しない変速操向コントローラの指令に基づく電磁油圧形変速バルブ272の切換動作にて、直進用油圧無段変速機53の変速出力量を調節する際は、直進操作軸355が電磁油圧形変速バルブ272の切換動作に連動して動作するように構成されている。実施形態では、変速操向コントローラの指令に基づく電磁油圧形変速バルブ272の切換動作によって、変速シリンダ273が作動して第1油圧ポンプ55の斜板55a角度が変更される。そうすると、斜板55a角度の変更に伴い、直進操作軸355が自動的に(斜板55aに連動して)その軸心回りに回動する。つまり、電磁油圧形変速バルブ272と直進操作軸355との動作が第1油圧ポンプ55の斜板55aを介して連動することになる。
【0063】
また、変速操向コントローラの指令に基づく電磁油圧形操向バルブ270の切換動作にて、旋回用油圧無段変速機54の変速出力量を調節する際は、旋回操作軸356が電磁油圧形操向バルブ270の切換動作に連動して動作するように構成されている。実施形態では、変速操向コントローラ400の指令に基づく電磁油圧形操向バルブ270の切換動作によって、操向シリンダ271が作動して第2油圧ポンプ57の斜板57a角度が変更される。そうすると、斜板57a角度の変更に伴い、旋回操作軸355が自動的に(斜板57aに連動して)その軸心回りに回動する。つまり、電磁油圧形操向バルブ270と旋回操作軸356との動作が第2油圧ポンプ57の斜板57aを介して連動することになる。
【0064】
各操作軸355,356は通常において操作するものではなく、例えば変速操向コントローラに異常が生ずる等、変速操向制御に携わる電気系統に不具合が生じた場合に操作する緊急回避用のものである。かかる電気系トラブルが生じた場合であっても、各操作軸355,356を手動回動操作すれば、主変速レバー43や操縦ハンドル11が効かない状態で、例えば圃場からだけでもコンバインを脱出させるようなリンプホーム運転(縮退運転)を実行できる。従って、コンバインにおいて緊急事態への対処の選択肢が増え、コンバインの取り扱い性向上に寄与するという効果を奏する。なお、リンプホーム運転では、取り敢えずコンバインを前後進できれば済むと解される。このため、ステップ357の左側から見て油圧変速ケース350前面側の直進操作軸355をステップ357のバッテリ収容空間359に臨ませ、少なくとも直進操作軸355を走行機体1の外側から手動操作できるようにしているのである。
【0065】
図10及び図11に示すように、直進操作軸355の突端側には、直進操作軸355の手動回動操作をし易くする直進レバーインジケータ361が着脱可能に装着される。また同様に、旋回操作軸356の突端側には、旋回操作軸356の手動回動操作をし易くする旋回レバーインジケータ362が着脱可能に装着される。直進レバーインジケータ361は直進操作軸355と共に、直進用の緊急手動操作具を構成でき、旋回レバーインジケータ362も旋回操作軸356と共に、旋回用の緊急手動操作具を構成できる。かかる構成を採用すると、電磁油圧形変速バルブ272や電磁油圧形操向バルブ270の切換動作にて、直進用油圧無段変速機53又は旋回用油圧無段変速機54の変速出力量を調節するに際して、前述の各レバーインジケータ361,362を装着しておけば、各レバーインジケータ361,362の動作から、各油圧ポンプ55,57の斜板55a,57a角度、ひいては、各油圧無段変速機53,54の作動状態を簡単に視認できる。主変速レバー43及び操縦ハンドル11と、両油圧無段変速機53,54との間に機械的な連結構造を備えず、これらの間を電気的に制御する場合において、主変速レバー43及び操縦ハンドル11と両油圧無段変速機53,54とに関する動作トラブルを早期に発見し易くなる。
【0066】
実施形態では、各操作軸355,356を手動回動操作した場合に、その電気的制御(変速操向制御)を禁止することによって、電磁油圧形変速バルブ272及び電気油圧形操向バルブ270の切換動作に基づく各油圧無段変速機53,54の変速出力調節を禁止するように構成されている。変速操向制御の実行中において、いずれか一方の操作軸355,356が手動にて回動操作されると、上述の変速操向制御を強制的に終了し、主変速レバー43や操縦ハンドル11の操作量に応じた電磁油圧形変速バルブ272及び電気油圧形操向バルブ270の切換動作を不能にする。そして、コンバインの電源を一旦オフにして再度オンにしなければ、変速操向制御に復帰しない設定になっている。このため、各操作軸355,356を手動回動操作した場合に、電磁油圧形変速バルブ272及び電気油圧形操向バルブ270による各油圧無段変速機53,54の変速出力調節が併存することはなくなるから、各油圧無段変速機53,54、ひいては、走行機体1がオペレータの意図に反して不安定な挙動をするおそれを確実に回避できる。各操作軸355,356を手動回動操作する際の走行安全性を確保できる。
【0067】
図10に示すように、作動油タンクとしても機能するミッションケース88の左側面のうちPTOプーリ119の前方には、作動油供給用の給油口365が設けられている。給油口365は、着脱可能な給油キャップ366にて塞がれている。また、ミッションケース88の左側面において、給油口365の下方で且つPTOプーリ119より低い位置には、ミッションケース88内の作動油量を外部から視認するための検油窓367が設けられている。使用前点検時や作動油交換時に検油窓367を見れば、ミッションケース88内の作動油量が検油窓367の高さ位置まで到達したか否かを簡単に確認できることになる。実施形態の検油窓367は、左ギヤケース349やガード板353より高い位置にある。作動油を交換したり補充したりする場合は、縦軸300を中心にして刈取装置3を横外側方に開き回動させた状態で、ミッションケースの左側面にある給油口365及び検油窓367を露出させる。そして、給油キャップ366を開閉操作し、給油口365と同じ側面にある検油窓367を見ながら、給油口365からミッションケース88内に作動油を供給することになる。このように実施形態では、作動油タンクを兼ねるミッションケース88の上下方向の中途高さ位置に給油口365があるから、給油口365の直下まで、つまり、図10、図12及び図13に一点鎖線で示す最大油面高さHmまでしか給油できない。
【0068】
図11に示すように、ミッションケース88の右側面において、検油窓367の後方で且つPTOプーリ119より低い位置には、作動油をろ過するためのサクションフィルタ368が組み込まれている。実施形態のサクションフィルタ368は、右ギヤケース349の後方で且つその近傍に位置し、ミッションケース88の底側の作動油をろ過するように構成されている。従って、検油窓367とサクションフィルタ368とは、ミッションケース88内部の下側にある差動機構52を挟んで前後左右に相対向する箇所にそれぞれ位置することになる。サクションフィルタ368は、上下に延びるサクションホース369を介して、油圧変速ケースの外面に取り付けられたチャージポンプ251に連通接続されている。チャージポンプ251は、第2油圧ポンプ57のポンプ軸59にて回転駆動するように構成されている。ミッションケース88の底側の作動油は、チャージポンプ251の駆動によって、サクションフィルタ368及びサクションホース369を介してチャージポンプ251に吸い込まれ、油圧回路250の各油路252,253,257等に供給される。
【0069】
(8).ミッションケースの内部構造
次に、主として図12〜図15を参照しながら、ミッションケース88の内部構造について説明する。図12に示すように、ミッションケース88内の底部側に、差動機構52を構成する遊星ギヤ機構68が配置され、遊星ギヤ機構68の上方に、副変速機構51と中継軸85とが前後に並べて配置されている。遊星ギヤ機構68と中継軸85との上下方向の間で且つ後方側に、逆転ギヤ84の回転軸が配置されている。遊星ギヤ機構68と中継軸85との前後方向の間で且つ上方側に、主変速出力用カウンタ軸70が配置され、主変速出力用カウンタ軸70の後方側には、操向カウンタ軸80が配置されている。主変速出力用カウンタ軸70の上方側には直進用モータ軸60が配置され、操向カウンタ軸80の上方側には旋回用モータ軸61が配置されている。旋回用モータ軸61上に、湿式ブレーキとしての操向ブレーキ79と減速ギヤ81とが設けられている。直進用モータ軸60の上方側には、第1油圧ポンプ55のポンプ軸59が配置され、旋回用モータ軸61の上方側には、第2油圧ポンプ57のポンプ軸59が配置されている。両ポンプ軸の前後方向の間で且つ上方側に、走行入力軸152が配置されている。
【0070】
なお、図12に示すように、ミッションケース88内の底部のうち遊星ギヤ機構68の後方側には、サクションフィルタ368に連通するオイルストレーナ430が配置されている。オイルストレーナ430の周囲は、ミッションケース88内の底部に形成された仕切リブ431にて囲まれている。仕切リブ431の上面側には作動油導入用の導入穴432が形成されている。このため、オイルストレーナ430を仕切リブ431にて遊星ギヤ機構68から遮断して、オイルストレーナ430周辺の作動油が遊星ギヤ機構68の回転にて撹拌されるのを防止でき、遊星ギヤ機構68の回転(撹拌)にて作動油中に混入する気泡(空気)がオイルストレーナ430に吸い込まれるのを抑制することが可能になる。その上、導入穴432が仕切リブ431の上面側に形成されているので、仕切リブ431内の領域から気泡を逃がすのに配置上好適であり、この点でもオイルストレーナ430に気泡を吸い込み難くできるのである。
【0071】
図13に示すように、作動油供給用の給油口365は、ミッションケース88の左側面のうち直進用モータ軸60及びPTO軸99の前方に位置している。このため、ミッションケース88内においては、直進用のポンプ軸59、旋回用のポンプ軸59、直進用モータ軸60、旋回用モータ軸61並びに走行入力軸152という5つの軸が、給油口365より上方側に位置することになる。つまり、これら5つの軸59,59,60,61,152は、作動油に浸った状態で回転することがなく、その分の撹拌抵抗の抑制が図られている。
【0072】
図13に示すように、ミッションケース88の上面側(実施形態では左上面前部側)には、ミッションケース88外からの作動油を戻すための戻り油口410を開口させている。ミッションケース88内の上部側には、ミッションケース88外から戻ってきた作動油を戻り油口410から操向ブレーキ79に向けて案内するガイド体として、一対の補強リブ411,412が内向き突設されている。この場合、ミッションケース88の左内側面上部に、直進用(第1油圧ポンプ55)のポンプ軸59の軸受部を支持する直進用ボス部413が内向き突設されている。直進用ボス部413に送り側補強リブ411が一体的に連接されている。送り側補強リブ411は、操向ブレーキ79側が低くなるように、戻り油口410から操向ブレーキ79に向けて後方斜め下向きに傾斜している。ミッションケース88の左内側面上部には、旋回用(第2油圧ポンプ57)のポンプ軸59の軸受部を支持する旋回用ボス部414も内向き突設されている。そして、旋回用ボス部414に受け側補強リブ412が一体的に連接されている。受け側補強リブ412は、操向ブレーキ79側が低くなるように前方斜め下向きに傾斜している。両補強リブ411,412は、図13の右側面断面視で先窄まりの漏斗状になっていて、窄まった先に操向ブレーキ79が位置している。
【0073】
戻り油口410から流れ落ちる作動油は、主に送り側補強リブ411の案内にて操向ブレーキ79上に送られて、操向ブレーキ79に降りかかる。その結果、操向ブレーキ79がなかば強制的に注油され潤滑される。従って、ミッションケース88内の作動油量に拘らず、作動油に浸漬していない操向ブレーキ79への注油量不足を抑制できる。また、ミッションケース88内の作動油量に制限を受けないので、ミッションケース88内のうち作動油に浸漬しない位置に操向ブレーキ79を設けることが可能になる。つまり、操向ブレーキ79についてレイアウト上の設計自由度が向上するのである。その上、両補強リブ411,412は、図13の右側面断面視で先窄まりの漏斗状になっているから、当該窄まり部分が油溜りとして機能でき、操向ブレーキ79に作動油を安定的に供給できるという利点もある。更に、ミッションケース88の剛性を確保する両補強リブ411,412によって、戻り油口410からの作動油を操向ブレーキ79に案内するから、ミッションケース88の剛性確保と操向ブレーキ79への注油機能向上との両方を低コストで実現できるのである。なお、直進用ボス部413のうち送り側補強リブ411寄りの一部には、送り側補強リブ411にて案内される作動油を直進用のポンプ軸59の軸受部に振り分けるための連通溝415が形成されている。
【0074】
図10、図12及び図13に示すように、ミッションケース88の戻り油口410には、外部からミッションケース88に向けて作動油を送るための戻り管路416が接続されている。戻り管路416のうちミッションケース88に近い根元部側からは、分岐管路417が分岐して延びている。分岐管路417は、ミッションケース88左側面の操向ブレーキ79の箇所に接続されている。実施形態の戻り管路416は、分岐コネクタ418を介してミッションケース88の戻り油口410に接続されている。そして、分岐コネクタ418に分岐管路417の一端側が接続され、分岐管路417の他端側がミッションケース88左側面の操向ブレーキ79の箇所に接続されている。図10、図12及び図13から明らかなように、分岐管路417は、ミッションケース88の外側に位置していて、ミッションケース88の左外側面に沿わせて延びている。換言すると、分岐管路417はミッションケース88に対して外付けされている。ミッションケース88外から戻ってきた作動油の一部は操向ブレーキ79に直接送られる。残りの作動油はミッションケース88内に送られ、両補強リブ411,412によって操向ブレーキ79上に案内される。すなわち、分岐管路417を経由した作動油と、両補強リブ411,412にて案内された作動油とによって、操向ブレーキ79が注油され潤滑されることになる。従って、ミッションケース88の形状を特に変更しなくても、両補強リブ411,412の存在と相俟って、作動油に浸漬していない操向ブレーキ79への注油量不足を簡単に解消できるのである。
【0075】
図14に示すように、ミッションケース88の左側面上部にはPTOボス部420が一体的に設けられている。PTOボス部420には、一対の軸受体421,422を介してPTO軸99が回転可能に軸支されている。PTO軸99のうちミッションケース88内の端部には、その下方にある主変速出力用カウンタ軸70から回転動力を受け取るPTOギヤ423が固着されている。ミッションケース88の右側面上部に一体的に設けられた直進伝達ボス部424には、直進用モータ軸60と一体回転する直進伝達ギヤ50が軸受体425を介して回転可能に軸支されている。PTOギヤ423はPTO軸99に片持ち梁の状態で支持され、同様にして直進伝達ギヤ50は直進用モータ軸60に片持ち梁の状態で支持されている。直進用モータ軸60からPTO軸99への動力伝達は、主変速出力用カウンタ軸70が中継している。このため、PTOギヤ423と直進伝達ギヤ50とを側面視(軸線方向視)で互いに重なり合う位置関係におくことが可能になっている(図13参照)。その結果、PTOギヤ423ひいてはPTO軸99のミッションケース88に対する配置自由度が向上することになる。
【0076】
図14に示すように、PTOボス部420の上部側には、ミッションケース88内の作動油をPTO軸99用の両軸受体421,422間に導くための作動油溝426が形成されている。PTOボス部420内のうち両軸受体421,422の間には、PTO軸99の長手中途部を囲う堰き止め部427がPTO軸99に向けて突出形成されている。作動油溝426の入口側は、ミッションケース88内部寄りの軸受体422の上方に形成されている。作動油溝426の入口側のうちPTOギヤ423回転下流側には、作動油溝426側に作動油を案内するためのガイドリブ428が設けられている。従って、PTOプーリ119に近い外側の軸受体421にも作動油を注油して潤滑できることになり、大きな負荷の掛かるPTO軸99の潤滑性確保に効果的である。また、堰き止め部427の存在によって、PTOプーリ119寄りの軸受体421周辺に作動油を溜め易く、PTO軸99の潤滑性をより一層向上できる。更に、ガイドリブ428の存在によって、PTOギヤ423の飛沫油を作動油溝426側に送り込み易くなる。
【0077】
図15に示すように、各車軸153の基端部側に形成された基端スプライン部434には、ファイナルギヤ78bの回転中心部が摺動可能で且つ相対回転不能に被嵌(スプライン嵌合)されている。各車軸153のうち基端スプライン部434より更に内側の部位は、ギヤケース349に形成された内側ボス筒部435に軸受体436を介して回転可能に軸支されている。各基端スプライン部434における車軸ケース351寄りの部位は、車軸ケース351に形成された外側ボス筒部437に片側シール軸受体438を介して回転可能に軸支されている。このため、高価なオイルシールを用いることなく、ミッションケース88の下部側を簡単に密封状態にできることになる。また、オイルシールが不要なことから、部品点数を少なくできると共に、車軸153の組付け作業性も向上する。
【0078】
上記の記載並びに図13から明らかなように、エンジン14の動力を変速する油圧無段変速機54と、前記油圧無段変速機54の変速出力を左右の走行部2に伝達するミッションケース88とを備えており、前記ミッションケース88内に、前記油圧無段変速機54の変速出力を制動する湿式ブレーキ79を有している作業車両であって、前記湿式ブレーキ79は前記ミッションケース88内の作動油面より上方に位置しており、前記ミッションケース88の上面側に戻り油口410を開口させており、前記ミッションケース88外から戻ってきた作動油を前記戻り油口410から前記湿式ブレーキ79に向けて案内するガイド体411,412が、前記ミッションケース88内に設けられているから、前記戻り油口410から流れ落ちる作動油は、前記ガイド体411,412の案内にて前記湿式ブレーキ79上に送られて、前記湿式ブレーキ79に降りかかる。その結果、前記湿式ブレーキ79がなかば強制的に注油され潤滑されることになる。従って、前記ミッションケース88内の作動油量に拘らず、作動油に浸漬されない前記湿式ブレーキ79への注油量不足を抑制できるという効果を奏する。また、前記ミッションケース88内の作動油量に制限を受けないので、前記ミッションケース88内のうち作動油に浸漬しない位置に前記湿式ブレーキ79を設けることが可能になる。つまり、前記湿式ブレーキ79についてレイアウト上の設計自由度が向上するという利点もある。
【0079】
上記の記載並びに図13から明らかなように、前記ミッションケース88内に突出する補強リブ411,412によって、前記ガイド体が構成されているから、前記ミッションケース88の剛性を確保する前記補強リブ411,412が、前記戻り油口410からの作動油を前記湿式ブレーキ79に案内することになる。従って、前記ミッションケース88の剛性確保と前記湿式ブレーキ79への注油機能向上との両方を低コストで実現できるという効果を奏する。
【0080】
上記の記載並びに図10、図12及び図13から明らかなように、前記ミッションケース88の前記戻り油口410に戻り管路416が接続されており、前記戻り管路416から分岐した分岐管路417が前記ミッションケース88における前記湿式ブレーキ79の箇所に接続されており、前記分岐管路417は前記ミッションケース88の外側に位置しているから、前記分岐管路417を経由した作動油と、前記ガイド体411,412にて案内された作動油とによって、前記湿式ブレーキ79が注油され潤滑されることになる。従って、前記ミッションケース88の形状を特に変更しなくても、前記ガイド体411,412の存在と相俟って、前記湿式ブレーキ79への注油量不足を簡単に解消できるという効果を奏する。
【0081】
本願発明は、前述の実施形態に限らず、様々な態様に具体化できる。例えば本願発明は、前述のようなコンバインに限らず、トラクタ、田植機等の農作業機やクレーン車等の特殊作業用車両のような各種作業車両に対して広く適用できる。湿式ブレーキは操向ブレーキ79に限らず、副変速機構51に関連する駐車ブレーキ66でもよい。その他、各部の構成は図示の実施形態に限定されるものではなく、本願発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。
【符号の説明】
【0082】
1 走行機体
14 エンジン
53 直進用油圧無段変速機
54 旋回用油圧無段変速機
79 操向ブレーキ(湿式ブレーキ)
88 ミッションケース
410 戻り油口
411,412 補強リブ(ガイド体)
416 戻り管路
417 分岐管路
【技術分野】
【0001】
本願発明は、コンバイン等の農作業機やクレーン車等の特殊作業機のような作業車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、作業車両としてのコンバインは、走行機体に搭載されたエンジンからの動力を、油圧無段変速機内蔵の油圧変速ケース及びミッションケースを介して、左右の走行クローラに伝達するように構成されている。特許文献1にはこの種のコンバインの一例が開示されている。特許文献1に記載のコンバインでは、走行機体の進行方向右側にある運転部の下方にエンジンが配置されている。エンジンの前方にミッションケースが配置されている。ミッションケースの上部のうち運転席と反対側の側面(左側面上部)に、油圧無段変速機内蔵の油圧変速ケースが取り付けられている。ミッションケースは作動油タンクとしても機能するものであり、ミッションケース内には、油圧無段変速機からの変速出力を制動する湿式ブレーキが配置されている。湿式ブレーキはミッションケース内の作動油にて潤滑される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−145930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ミッションケース内の作動油の油面高さは、湿式ブレーキの潤滑のために、例えば湿式ブレーキが作動油に浸るか、又は湿式ブレーキに作動油が十分掛かる程度に高くしておくことが多い。しかし、仮に湿式ブレーキをミッションケース内の上部側に配置する場合は、大量の作動油を必要とするばかりか、湿式ブレーキより下方にあるギヤ類は作動油に浸った状態で回転するから、高速駆動時ほど作動油撹拌による回転抵抗が増し、動力損失が大きくなると考えられる。つまり、従来の構造を踏襲したままで、ミッションケース内の比較的高い位置に湿式ブレーキを設けることは、ミッションケースの形状や他のギヤ類との位置関係から困難であり、湿式ブレーキについてレイアウト上の設計自由度が制限され易いという問題があった。
【0005】
そこで、本願発明は、前述の問題を解消した作業車両を提供することを技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記技術的課題を達成するため、請求項1の発明は、エンジンの動力を変速する油圧無段変速機と、前記油圧無段変速機の変速出力を左右の走行部に伝達するミッションケースとを備えており、前記ミッションケース内に、前記油圧無段変速機の変速出力を制動する湿式ブレーキを有している作業車両であって、前記湿式ブレーキは前記ミッションケース内の作動油面より上方に位置しており、前記ミッションケースの上面側に戻り油口を開口させており、前記ミッションケース外から戻ってきた作動油を前記戻り油口から前記湿式ブレーキに向けて案内するガイド体が、前記ミッションケース内に設けられているというものである。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載した作業車両において、前記ミッションケース内に突出する補強リブによって、前記ガイド体が構成されているというものである。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載した作業車両において、前記ミッションケースの前記戻り油口に戻り管路が接続されており、前記戻り管路から分岐した分岐管路が前記ミッションケースにおける前記湿式ブレーキの箇所に接続されており、前記分岐管路は前記ミッションケースの外側に位置しているというものである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明によると、エンジンの動力を変速する油圧無段変速機と、前記油圧無段変速機の変速出力を左右の走行部に伝達するミッションケースとを備えており、前記ミッションケース内に、前記油圧無段変速機の変速出力を制動する湿式ブレーキを有している作業車両であって、前記湿式ブレーキは前記ミッションケース内の作動油面より上方に位置しており、前記ミッションケースの上面側に戻り油口を開口させており、前記ミッションケース外から戻ってきた作動油を前記戻り油口から前記湿式ブレーキに向けて案内するガイド体が、前記ミッションケース内に設けられているから、前記戻り油口から流れ落ちる作動油は、前記ガイド体の案内にて前記湿式ブレーキ上に送られて、前記湿式ブレーキに降りかかる。その結果、前記湿式ブレーキがなかば強制的に注油され潤滑されることになる。従って、前記ミッションケース内の作動油量に拘らず、作動油に浸漬されない前記湿式ブレーキへの注油量不足を抑制できるという効果を奏する。また、前記ミッションケース内の作動油量に制限を受けないので、前記ミッションケース内のうち作動油に浸漬しない位置に前記湿式ブレーキを設けることが可能になる。つまり、前記湿式ブレーキについてレイアウト上の設計自由度が向上するという利点もある。
【0010】
請求項2の発明によると、前記ミッションケース内に突出する補強リブによって、前記ガイド体が構成されているから、前記ミッションケースの剛性を確保する前記補強リブが、前記戻り油口からの作動油を前記湿式ブレーキに案内することになる。従って、前記ミッションケースの剛性確保と前記湿式ブレーキへの注油機能向上との両方を低コストで実現できるという効果を奏する。
【0011】
請求項3の発明によると、前記ミッションケースの前記戻り油口に戻り管路が接続されており、前記戻り管路から分岐した分岐管路が前記ミッションケースにおける前記湿式ブレーキの箇所に接続されており、前記分岐管路は前記ミッションケースの外側に位置しているから、前記分岐管路を経由した作動油と、前記ガイド体にて案内された作動油とによって、前記湿式ブレーキが注油され潤滑されることになる。従って、前記ミッションケースの形状を特に変更しなくても、前記ガイド体の存在と相俟って、前記湿式ブレーキへの注油量不足を簡単に解消できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】6条刈り用コンバインの左側面図である。
【図2】コンバインの平面図である。
【図3】コンバインの駆動系統図である。
【図4】ミッションケース等の駆動系統図である。
【図5】コンバインの油圧回路図である。
【図6】エンジン及びミッションケースの左側面図である。
【図7】エンジン及びミッションケースの平面図である。
【図8】エンジン及びミッションケースの伝動系説明図である。
【図9】走行機体及びミッションケースの正面説明図である。
【図10】ミッションケースの左側面図である。
【図11】ミッションケースの右側面図である。
【図12】ギヤ配列関係を示すミッションケースの左側面断面図である。
【図13】ミッションケースの右側面上部拡大断面図である。
【図14】ミッションケースの背面上部拡大断面図である。
【図15】ミッションケースの背面下部拡大断面図である。
【図16】車軸先端側の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本願発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明では、走行機体1の前進方向に向かって左側を単に左側と称し、同じく前進方向に向かって右側を単に右側と称する。
【0014】
(1).コンバインの全体構造
図1及び図2を参照しながら、コンバインの全体構造について説明する。図1及び図2に示す如く、コンバインは、走行部としての左右一対の走行クローラ2にて支持された走行機体1を備える。走行機体1の前部には、穀稈を刈取りながら取込む6条刈り用の刈取装置3が、昇降アクチュエータとしての単動式の昇降用油圧シリンダ4によって、横軸である刈取入力ケース16(詳細は後述する)回りに昇降調節可能に装着される。走行機体1には、フィードチェン6を有する脱穀装置5と、該脱穀装置5から取出された穀粒を貯留する穀物タンク7とが横並び状に搭載される。なお、脱穀装置5が走行機体1の前進方向左側に、穀物タンク7が走行機体1の前進方向右側に配置される。走行機体1の後部に旋回可能な排出オーガ8が設けられ、穀物タンク7の内部の穀粒が、排出オーガ8の籾投げ口9からトラックの荷台またはコンテナ等に排出されるように構成されている。刈取装置3の右側方で且つ穀物タンク7の前側方には、運転キャビン10が設けられている。
【0015】
運転キャビン10内には、旋回操作具としての操縦ハンドル11と、運転座席12と、直進操作具としての主変速レバー43と、副変速スイッチ44と、脱穀クラッチ及び刈取クラッチを入り切りする作業クラッチレバー45とが配置されている。なお、運転キャビン10には、オペレータが搭乗するステップ357(図6〜図9参照)と、操縦ハンドル11を設けたハンドルコラム46と、前記各レバー43,45及びスイッチ44等を設けたレバーコラム47とが配置されている。走行機体1における運転座席12の下方には、動力源としてのエンジン14が配置されている。
【0016】
図1に示す如く、走行機体1の下面側に左右のトラックフレーム21を配置する。トラックフレーム21には、走行クローラ2にエンジン14の動力を伝える駆動スプロケット22と、走行クローラ2のテンションを維持するテンションローラ23と、走行クローラ2の接地側を接地状態に保持する複数のトラックローラ24と、走行クローラ2の非接地側を保持する中間ローラ25とを設けている。駆動スプロケット22によって走行クローラ2の前側を支持し、テンションローラ23によって走行クローラ2の後側を支持し、トラックローラ24によって走行クローラ2の接地側を支持し、中間ローラ25によって走行クローラ2の非接地側を支持する。
【0017】
図1に示す如く、刈取装置3の骨組みを構成する刈取フレーム221の下方には、圃場に植立した未刈り穀稈の株元を切断するバリカン式の刈刃装置222が設けられている。刈取フレーム221の前方には、圃場に植立した未刈り穀稈を引起す6条分の穀稈引起装置223が配置されている。穀稈引起装置223とフィードチェン6の前端部(送り始端側)との間には、刈刃装置222によって刈取られた刈取り穀稈を搬送する穀稈搬送装置224が配置される。なお、穀稈引起装置223の下部前方には、圃場に植立した未刈り穀稈を分草する6条分の分草体225が突設されている。エンジン14にて走行クローラ2を駆動して圃場内を移動しながら、刈取装置3によって圃場に植立した未刈り穀稈を連続的に刈取る。
【0018】
(2).脱穀装置の構造
次に、図1及び図2を参照しながら、脱穀装置5の構造を説明する。図1及び図2に示す如く、脱穀装置5には、穀稈脱穀用の扱胴226と、扱胴226の下方に落下する脱粒物を選別する揺動選別盤227及び唐箕ファン228と、扱胴226の後部から取出される脱穀排出物を再処理する処理胴229と、揺動選別盤227の後部の排塵を排出する排塵ファン230とを備えている。なお、扱胴226の回転軸芯線は、フィードチェン6による穀稈の搬送方向(換言すると走行機体1の進行方向)に沿って延びている。刈取装置3から穀稈搬送装置224によって搬送された穀稈の株元側は、フィードチェン6に受け継がれて挟持搬送される。そして、この穀稈の穂先側が脱穀装置5の扱室内に搬入されて扱胴226にて脱穀される。
【0019】
図1に示す如く、揺動選別盤227の下方側には、揺動選別盤227にて選別された穀粒(一番物)を取出す一番コンベヤ231と、枝梗付き穀粒等の二番物を取出す二番コンベヤ232とが設けられている。本実施形態の両コンベヤ231,232は、走行機体1の進行方向前側から一番コンベヤ231、二番コンベヤ232の順で、側面視において走行クローラ2の後部上方の走行機体1の上面側に横設されている。前述した揺動選別盤227、唐箕ファン228、一番コンベヤ231、二番コンベヤ232、排塵ファン230並びに選別ファン241等によって、穀物選別機構245を構成している。
【0020】
図1に示す如く、揺動選別盤227は、扱胴226の下方に張設された受網237から漏下した脱穀物が、フィードパン238及びチャフシーブ239によって揺動選別(比重選別)されるように構成している。揺動選別盤227から落下した穀粒は、その穀粒中の粉塵が唐箕ファン228からの選別風によって除去され、一番コンベヤ231に落下することになる。一番コンベヤ231のうち脱穀装置5における穀物タンク7寄りの一側壁(実施形態では右側壁)から外向きに突出した終端部には、上下方向に延びる揚穀コンベヤ233が連通接続されている。一番コンベヤ231から取出された穀粒は、揚穀コンベヤ233を介して穀物タンク7に搬入され、穀物タンク7に収集される。
【0021】
また、図1に示す如く、揺動選別盤227は、揺動選別(比重選別)によってチャフシーブ239から枝梗付き穀粒等の二番物を二番コンベヤ232に落下させるように構成している。チャフシーブ239の下方に落下する二番物を風選する選別ファン241を備える。チャフシーブ239から落下した二番物は、その穀粒中の粉塵及び藁屑が選別ファン241からの選別風によって除去され、二番コンベヤ232に落下する。二番コンベヤ232のうち脱穀装置5における穀物タンク7寄りの一側壁から外向きに突出した終端部は、還元コンベヤ236を介して、フィードパン238の後部(チャフシーブ239の前部)の上面側に連通接続され、二番物を揺動選別盤227の上面側に戻して再選別するように構成している。
【0022】
一方、図1及び図2に示す如く、フィードチェン6の後端側(送り終端側)には、排藁チェン234と排藁カッタ235が配置されている。フィードチェン6の後端側から排藁チェン234に受継がれた排藁(穀粒が脱粒された稈)は、長い状態で走行機体1の後方に排出されるか、又は脱穀装置5の後部に設けられた排藁カッタ235にて適宜長さに短く切断されたのち、走行機体1の後方下方に排出される。
【0023】
(3).コンバインの駆動構造
次に、図3を参照しながら、コンバインの駆動構造(刈取装置3、脱穀装置5、フィードチェン6、排藁チェン234、排藁カッタ235等の駆動構造)について説明する。図3に示す如く、エンジン14の左側にその出力軸150を突出する。エンジン14の出力軸150に走行駆動ベルト151を介してミッションケース88の走行入力軸152を連結し、エンジン14の回転駆動力が、前側の出力軸150からミッションケース88に伝達されて変速された後、左右の車軸153を介して左右の走行クローラ2に伝達され、左右の走行クローラ2がエンジン14の回転力によって駆動されるように構成している。
【0024】
図3に示す如く、エンジン14を冷却するラジエータ等のための冷却ファン154が、エンジン14の右側に突出した出力軸150に設けられている。また、エンジン14の右側の出力軸150に排出オーガ駆動軸157を連結し、エンジン14の回転駆動力によって排出オーガ駆動軸157を介して排出オーガ8が駆動され、穀物タンク7内の穀粒がコンテナ等に排出されるように構成している。また、図3に示す如く、脱穀装置5の各部にエンジン14の回転駆動力を伝える脱穀選別作業入力軸165と、扱胴226及び処理胴230に脱穀選別作業入力軸165の回転駆動力を伝える脱穀駆動軸160を備える。エンジン14の左側の出力軸150には、テンションローラ形脱穀クラッチ161及び脱穀駆動ベルト162を介して、脱穀選別作業入力軸165を連結する。脱穀駆動軸160上に、扱胴低速ギヤ及び扱胴高速ギヤを配置する。脱穀選別作業入力軸165の回転力が、扱胴低速ギヤ又は扱胴高速ギヤを介して脱穀駆動軸160に伝達される。
【0025】
脱穀駆動軸160には、扱胴駆動ベルト117を介して、扱胴226を軸支した扱胴軸163と処理胴230を軸支した処理胴軸164とを連結する。エンジン14の略一定回転数の回転力によって、扱胴226及び処理胴230が所定回転数(低速回転数又は高速回転数)で回転するように構成している。また、エンジン14の略一定回転数の回転力によって、脱穀選別作業入力軸165を介して、揺動選別盤227、唐箕ファン228、一番コンベヤ231、二番コンベヤ232、選別ファン241、排塵ファン230が略一定回転数で回転するように構成している。
【0026】
図3〜図5に示す如く、ミッションケース88には、1対の直進用第1油圧ポンプ55及び直進用第1油圧モータ56を有する直進(走行主変速)用の油圧無段変速機53と、1対の旋回用第2油圧ポンプ57及び旋回用第2油圧モータ58を有する旋回用の油圧無段変速機54とを設けている。第1油圧ポンプ55と第2油圧ポンプ57とに、ミッションケース88の走行入力軸152をそれぞれ連結させて駆動するように構成している。ミッションケース88にPTO軸99を配置する。PTO軸99は第1油圧モータ56によって駆動される。ミッションケース88からこの左外側にPTO軸99の一端側を突設させている。
【0027】
走行機体1上のうちエンジン14の左側方で且つ脱穀装置5の前側方に、カウンタギヤケース89(図3、図6、図7及び図9参照)を設けている。カウンタギヤケース89には、上述した脱穀駆動軸160と、脱穀駆動軸160に連結する脱穀選別作業入力軸165と、PTO軸99に連結する車速同調軸100と、脱穀選別作業入力軸165又は車速同調軸100に連結する刈取伝動軸101と、刈取り入力軸17に連結する刈取駆動軸102と、フィードチェン6及び受継用補助株元搬送チェン136を駆動するフィードチェン駆動軸103とを配置している。カウンタギヤケース89内の車速同調軸100上に、車速同調軸100の車速同調回転力を伝える一方向クラッチを設ける。車速同調軸100に、刈取変速機構と一方向クラッチとを介して刈取伝動軸101を連結する。刈取変速機構は低速側変速ギヤと高速側変速ギヤとを有する。低速及び中立(零回転)及び高速の各刈取変速を行う刈取変速操作手段によって低速側変速ギヤ又は高速側変速ギヤを刈取伝動軸101に択一的に係合させ、車速同調軸100から刈取変速機構を介して刈取伝動軸101に刈取変速出力を伝えるように構成している。
【0028】
脱穀選別作業入力軸165に一定回転機構を介して刈取伝動軸101を連結する。一定回転機構は低速側一定回転ギヤと高速側一定回転ギヤとを有する。刈取伝動軸101にトルクリミッタを介して刈取駆動軸102を連結する。刈取駆動軸102に、刈取駆動プーリ124及び刈取駆動ベルト125を介して刈取り入力軸17を連結させ、刈取装置3に刈取駆動軸102から刈取駆動力を伝達させる。刈取作業の維持に必要な一定回転数の回転出力が低速側一定回転ギヤを介して脱穀選別作業入力軸165から刈取伝動軸101に伝達される。従って、走行機体1の移動速度に関係なく、低速側一定回転ギヤからの一定回転数で刈取り入力軸17を作動させて刈取作業を維持でき、圃場の枕地での方向転換作業性等を向上できる。
【0029】
また、車速同調軸100及び高速側変速ギヤからの車速同調出力の最高速よりも速い一定回転数の回転出力が、高速側一定回転ギヤを介して脱穀選別作業入力軸165から刈取伝動軸101に伝達される。従って、車速同調出力の最高速よりも速い高速側一定回転ギヤからの一定回転数で刈取り入力軸17を駆動でき、倒伏穀稈の刈取り作業性等を向上できる。なお、トルクリミッタにて設定したトルク以下の回転力で刈取り入力軸17を駆動させることによって、刈刃132等が損傷するのを防止している。
【0030】
カウンタギヤケース89には、脱穀選別作業入力軸165にフィードチェン駆動軸103を連結する遊星ギヤ形変速構造のフィードチェン同調機構が設けられている。脱穀選別作業入力軸165の回転出力が、フィードチェン同調機構によって刈取伝動軸101の回転数に比例して変速されて、フィードチェン駆動軸103に伝達される。即ち、フィードチェン同調機構を介してフィードチェン6及び受継用補助株元搬送チェン136を作動することによって、穀稈の搬送に必要な最低回転数(低速側一定回転ギヤからの一定回転数)を確保しながら、フィードチェン6及び受継用補助株元搬送チェン136の穀稈搬送速度を車速と同調させて変更可能に構成している。
【0031】
図3に示す如く、刈取り入力軸17に、縦伝動軸140及び横伝動軸141及び左搬送駆動軸142を介して引起横伝動軸143を連結する。引起横伝動軸143は、6条分の各引起ケース29の引起タイン駆動軸144にそれぞれ連結している。分草体225の後方で且つ分草フレーム20の上方に引起ケース129が立設され、引起ケース129の背面上部側から引起タイン駆動軸144を突出させている。引起タイン駆動軸144及び引起横伝動軸143を介して、複数の引起タイン128を設けた引起タインチェン128aが駆動するように構成されている。図3に示す如く、横伝動軸141に左右のクランク軸145を介して左右の刈刃132を連結する。横伝動軸141を介して左右の刈刃132を連動させて駆動するように構成している。なお、刈刃装置222は、6条分の刈幅の中央部で分割して左右の刈刃132を形成し、左右の刈刃132を相反する方向に往復移動させ、往復移動によって発生する左右の刈刃132の振動(慣性力)を相殺可能に構成している。
【0032】
図3に示す如く、刈取り入力軸17に縦伝動ケース18内の縦伝動軸140の一端側を連結する。縦伝動軸140の他端側に横伝動ケース19内の横伝動軸141を連結する。縦伝動軸140及び横伝動軸141から、穀稈搬送装置224の各駆動部に刈取り入力軸17の回転力を伝える。すなわち、縦伝動軸140には右搬送駆動軸146を連結している。縦伝動軸140及び右搬送駆動軸146を介して、右株元搬送チェン133Rと、右スターホイル130R及び右掻込ベルト131Rと、縦搬送チェン134とを駆動するように構成している。また、縦伝動軸140のうち右搬送駆動軸146より後方には後搬送駆動軸147を連結している。縦伝動軸140及び後搬送駆動軸147を介して、補助株元搬送チェン135及び右穂先搬送タイン137Rを駆動するように構成している。
【0033】
また、横伝動軸141の左端側に左搬送駆動軸142を連結している。左搬送駆動軸142を介して、左株元搬送チェン133L及び左穂先搬送タイン137Lと、左スターホイル130L及び左掻込ベルト131Lとを駆動するように構成している。また、横伝動軸141に中央搬送駆動軸148を連結し、中央搬送駆動軸148を介して、中央株元搬送チェン133C及び中央穂先搬送タイン137Cと、中央スターホイル130C及び中央掻込ベルト131Cとを駆動するように構成している。
【0034】
(4).ミッションケースの動力伝達構造
次に、図3及び図4等を参照して、ミッションケース88の動力伝達構造を説明する。図3及び図4に示す如く、ミッションケース88に、一対の直進用第1油圧ポンプ55及び直進用第1油圧モータ56を有する直進(走行主変速)用の油圧無段変速機53と、一対の旋回用第2油圧ポンプ57及び旋回用第2油圧モータ58を有する旋回用の油圧無段変速機54とを設ける。第1油圧ポンプ55と、第2油圧ポンプ57に、ミッションケース88の走行入力軸152をそれぞれ連結させて駆動するように構成している。走行入力軸152上に走行入力プーリ155を設け、走行入力プーリ155に走行駆動ベルト151を掛け回している。ミッションケース88にPTO軸99を配置している。PTO軸99は、直進用モータ軸60及び主変速出力用カウンタ軸70を介して、第1油圧モータ56によって駆動される。ミッションケース88からこの左外側にPTO軸99の一端側を突設させている。PTO軸99上にPTOプーリ119を設け、PTOプーリ119にPTOベルト120を掛け回している。
【0035】
図4に示す如く、エンジン14の出力軸150から出力される駆動力は、走行駆動ベルト151及び走行入力軸152を介して、第1油圧ポンプ55のポンプ軸59及び第2油圧ポンプ57のポンプ軸59にそれぞれ伝達される。直進用油圧無段変速機53では、ポンプ軸59に伝達された動力にて、第1油圧ポンプ55から第1油圧モータ56に向けて作動油が適宜送り込まれる。同様に、旋回用油圧無段変速機54では、ポンプ軸59に伝達された動力にて、第2油圧ポンプ57から第2油圧モータ58に向けて作動油が適宜送り込まれる。なお、ポンプ軸59には、油圧ポンプ55,57及び油圧モータ56,58に作動油を供給するためのチャージポンプ251が取付けられている。
【0036】
直進用油圧無段変速機53は、運転キャビン10に配置された主変速レバー43や操縦ハンドル11の操作量に応じて、第1油圧ポンプ55における斜板55aの傾斜角度を変更調節して、第1油圧モータ56への作動油の吐出方向及び吐出量を変更することにより、第1油圧モータ56から突出した直進用モータ軸60の回転方向及び回転数を任意に調節するように構成されている。図4に示す如く、直進用モータ軸60の回転動力は、直進伝達ギヤ50から副変速機構51に伝達される。副変速機構51は、副変速シフタ64によって切換える副変速低速ギヤ62及び副変速高速ギヤ63を有する。レバーコラム47に配置された副変速スイッチ44の操作にて、直進用モータ軸60の出力回転数を低速又は高速という2段階の変速段に切換えるように構成している。なお、副変速の低速と高速との間には、中立位置(副変速の出力が零になる位置)を有している。副変速スイッチ44には、低速切換釦と中立切換釦と高速切換釦とにより構成されている。低速切換釦、中立切換釦又は高速切換釦の押し操作によって、副変速出力が低速出力、中立又は高速出力に択一的に切り換わる。
【0037】
図4に示すように、副変速機構51の出力側に設けられた駐車ブレーキ軸65(副変速出力軸)には、湿式多板ディスク式の駐車ブレーキ66が設けられている。副変速機構51からの回転動力は、駐車ブレーキ軸65に固着された副変速出力ギヤ67から左右の差動機構52に伝達される。左右の差動機構52は、遊星ギヤ機構68をそれぞれ備えている。また、駐車ブレーキ軸65上に直進用パルス発生回転輪体92を設け、直進用パルス発生回転輪体92に直進用ピックアップ回転センサ93(直進車速センサ)を対向させて配置し、直進用ピックアップ回転センサ93によって、直進出力の回転数(直進車速、副変速出力ギヤ67出力)を検出するように構成している。
【0038】
図4に示す如く、左右各遊星ギヤ機構68は、1つのサンギヤ71と、サンギヤ71に噛合う複数の遊星ギヤ72と、遊星ギヤ72に噛合うリングギヤ73と、複数の遊星ギヤ72を同一円周上に回転可能に配置するキャリヤ74とをそれぞれ備えている。左右の遊星ギヤ機構68のキャリヤ74は、同一軸線上において適宜間隔を設けて相対向させて配置されている。左右のサンギヤ71が設けられたサンギヤ軸75にセンタギヤ76を固着している。左右の各リングギヤ73は、その内周面の内歯を複数の遊星ギヤ72に噛合わせた状態で、サンギヤ軸75に同心状に配置されている。また、左右の各リングギヤ73は、その外周面の外歯を左右旋回出力ギヤ86に噛合わせて、中継軸85に連結させている。各リングギヤ73は、キャリヤ74の外側面から左右外向きに突出した左右の強制デフ出力軸77に回転可能に軸支されている。左右の強制デフ出力軸77に、ファイナルギヤ78a,78bを介して左右の車軸153が連結されている。左右の車軸153には左右の駆動スプロケット22が取付けられている。従って、副変速機構51から左右の遊星ギヤ機構68に伝達された回転動力は、左右の車軸153から各駆動スプロケット22に同方向の同一回転数にて伝達され、左右の走行クローラ2を同方向の同一回転数にて駆動して、走行機体1を直進(前進、後退)移動させる。
【0039】
旋回用油圧無段変速機54は、運転キャビン10に配置された主変速レバー43や操縦ハンドル11の操作量に応じて、第2油圧ポンプ57における斜板57aの傾斜角度を変更調節して、第2油圧モータ58への作動油の吐出方向及び吐出量を変更することにより、第2油圧モータ58から突出した旋回用モータ軸61の回転方向及び回転数を任意に調節するように構成されている。また、後述する操向カウンタ軸80上に旋回用パルス発生回転輪体94を設け、旋回用パルス発生回転輪体94に旋回用ピックアップ回転センサ95を対向させて配置し、旋回用ピックアップ回転センサ95(旋回車速センサ)によって、第2油圧モータ58の操向出力の回転数(旋回車速)を検出するように構成している。
【0040】
また、ミッションケース88内には、旋回用モータ軸61(操向入力軸)上に設ける操向ブレーキ79(旋回ブレーキ)と、旋回用モータ軸61に減速ギヤ81を介して連結する操向カウンタ軸80と、操向カウンタ軸80に減速ギヤ86を介して連結する操向出力軸85と、左リングギヤ73に逆転ギヤ84を介して操向出力軸85を連結する左入力ギヤ機構82と、右リングギヤ73に操向出力軸85を連結する右入力ギヤ機構83とを設けている。旋回用モータ軸61の回転動力は、操向カウンタ軸80に伝達される。操向カウンタ軸80に伝達された回転動力は、左の入力ギヤ機構82の左中間ギヤ87及び逆転ギヤ84を介して逆転回転動力として、左リングギヤ73に伝達され、右の入力ギヤ機構83の右中間ギヤ87を介して正転回転動力として、右リングギヤ73に伝達される。
【0041】
副変速機構51を中立にした場合は、第1油圧モータ56から左右の遊星ギヤ機構68への動力伝達が阻止される。副変速機構51から中立以外の副変速出力時に、副変速低速ギヤ62又は副変速高速ギヤ63を介して第1油圧モータ56から左右の遊星ギヤ機構68へ動力伝達される。一方、第2油圧ポンプ57の出力をニュートラル状態とし、且つ操向ブレーキ79を入り状態とした場合は、第2油圧モータ58から左右の遊星ギヤ機構68への動力伝達が阻止される。第2油圧ポンプ57の出力をニュートラル以外の状態とし、且つ操向ブレーキ79を切り状態とした場合は、第2油圧モータ58の回転動力が、左入力ギヤ機構82及び逆転ギヤ84を介して左リングギヤ73に伝達される一方、右入力ギヤ機構83を介して右リングギヤ73に伝達される。
【0042】
その結果、第2油圧モータ58の正回転(逆回転)時は、互いに逆方向の同一回転数で、左リングギヤ73が逆転(正転)し、右リングギヤ73が正転(逆転)する。即ち、各モータ軸60,61からの変速出力は、副変速機構51又は差動機構52をそれぞれ経由して、左右の走行クローラ2の駆動スプロケット22にそれぞれ伝達され、走行機体1の車速(走行速度)及び進行方向が決定される。すなわち、第2油圧モータ58を停止させて左右リングギヤ73を静止固定させた状態で、第1油圧モータ56が駆動すると、直進用モータ軸60からの回転出力は左右サンギヤ71に左右同一回転数で伝達され、遊星ギヤ72及びキャリヤ74を介して、左右の走行クローラ2が同方向の同一回転数にて駆動され、走行機体1が直進走行する。
【0043】
逆に、第1油圧モータ56を停止させて左右サンギヤ71を静止固定させた状態で、第2油圧モータ58を駆動させると、旋回用モータ軸61からの回転動力にて、左のリングギヤ73が正回転(逆回転)し、右のリングギヤ73は逆回転(正回転)する。その結果、左右の走行クローラ2の駆動スプロケット22のうち、一方が前進回転し、他方が後退回転し、走行機体1はその場で方向転換(信地旋回スピンターン)される。また、第1油圧モータ56によって左右サンギヤ71を駆動しながら、第2油圧モータ58によって左右リングギヤ73を駆動することによって、左右の走行クローラ2の速度に差が生じ、走行機体1は前進又は後退しながら信地旋回半径より大きい旋回半径で左又は右に旋回(Uターン)する。このときの旋回半径は左右の走行クローラ2の速度差に応じて決定される。
【0044】
(5).コンバインの油圧回路構造
次に、図5を参照して、コンバインの油圧回路構造について説明する。図5に示す如く、コンバインの油圧回路250には、直進用の第1油圧ポンプ55及び第1油圧モータ56と、旋回用の第2油圧ポンプ57及び第2油圧モータ58と、チャージポンプ251とを備える。第1油圧ポンプ55と第1油圧モータ56とが閉ループ状直進油路252によって接続される。第2油圧ポンプ57と第2油圧モータ58とが閉ループ状旋回油路253によって接続される。エンジン14によって第1油圧ポンプ55及び第2油圧ポンプ57が駆動され、第1油圧ポンプ55の斜板角制御又は第2油圧ポンプ57の斜板角制御によって、第1油圧モータ56又は第2油圧モータ58を正転又は逆転作動するように構成している。
【0045】
一方、前記操縦ハンドル11の手動操作に対応して電気的に切換える電磁油圧形操向バルブ270と、前記チャージポンプ251に電磁油圧形操向バルブ270を介して接続させる操向シリンダ271を備える。操舵角センサ402にて検出された操縦ハンドル11の操舵角に対応して電磁油圧形操向バルブ270を切換えると、操向シリンダ271が作動して第2油圧ポンプ57の斜板57a角度を変更させ、第2油圧モータ58の旋回用モータ軸61の回転数を無段階に変化させたり、逆転させる左右操向動作を行わせ、走行方向を左右に変更して圃場枕地で方向転換したり進路を修正する。また、操向用の油圧サーボ機構275を備えており、斜板57aの角度調節動作によって電磁油圧形操向バルブ270が中立復帰するフィードバック動作を油圧サーボ機構275にて行わせ、操縦ハンドル11の操作量に比例させて斜板57a角度を変化させ、第2油圧モータ58の旋回用モータ軸61の回転数を変更させるように構成している。
【0046】
また、図5に示す如く、前記主変速レバー43の手動操作に対応して電気的に切換える電磁油圧形変速バルブ272と、前記チャージポンプ251に電磁油圧形変速バルブ272を介して接続させる変速シリンダ273を設ける。主変速センサ401にて検出された主変速レバー43の操作量に対応して電磁油圧形変速バルブ272を切換えると、変速シリンダ273が作動して第1油圧ポンプ55の斜板55a角度を変更させ、第1油圧モータ56の直進用モータ軸60の回転数を無段階に変化させたり逆転させたりする走行変速動作が行われる。また、走行変速用の油圧サーボ機構277を備えており、斜板55aの角度調節動作によって電磁油圧形変速バルブ272が中立復帰するフィードバック動作を油圧サーボ機構277に行わせ、主変速レバー43の操作量に比例させて斜板55a角度を変化させ、第1油圧モータ56の直進用モータ軸60の回転数を変更させ、主変速レバー43の操作によって直進用モータ軸60を前後進回転させるように構成している。
【0047】
更に、図5に示す如く、刈取装置3の作動速度を切換える油圧刈取変速シリンダ280と、刈取装置3を一定回転速度にて作動させる油圧刈取定速シリンダ281を備える。油圧刈取変速シリンダ280及び油圧刈取定速シリンダ281は、カウンタギヤケース89の上面蓋(油路ベース)に配置する。刈取変速シリンダ280を作動させる刈取変速バルブ282と、刈取定速シリンダ281を作動させる刈取定速バルブ283を、前記チャージポンプ251に並列にそれぞれ油圧接続させる。
【0048】
(6).エンジン、ミッションケース及びカウンタギヤケースの動力伝達構造
次に、図1〜図3及び図6〜図9を参照しながら、エンジン14、ミッションケース88及びカウンタギヤケース89の動力伝達構造について説明する。図1、図2及び図6〜図8に示すように、走行機体1の上面右側にエンジン14が搭載され、走行機体1における左右幅中央の前方にミッションケース88が設置され、走行機体1の上面左側にカウンタギヤケース89が配置されている。エンジン14において左右方向に延長された出力軸150の左側端部に出力プーリ149を軸支し、ミッションケース88の左側上部の走行入力プーリ155と出力プーリ149との間に走行駆動ベルト151を掛け回している。かかる構成により、ミッションケース88の各油圧無段変速機53,54にエンジン14の出力がそれぞれ伝達される。
【0049】
一方、排出オーガ8を収納(非作業)位置に支持する柱状フレーム290が走行機体1の上面に立設され、その柱状フレーム290の基端部の前面に軸受体291を介してPTOカウンタ軸121が回転自在に軸支されている。PTOカウンタ軸121上のPTOカウンタプーリ122aと、ミッションケース88の左側上部のうち走行入力プーリ155より下側のPTOプーリ119との間に、PTOベルト120を掛け回している。また、PTOカウンタ軸121上のPTOカウンタプーリ122bと、カウンタギヤケース89の車速同調軸100に固定された車速同調プーリ104との間に、車速同調ベルト123を掛け回している。かかる構成により、PTO軸99から車速同調軸100にミッションケース88の車速同調駆動力が伝達される。
【0050】
更に、エンジン14における出力軸150上の出力プーリ149と、カウンタギヤケース89の脱穀選別作業入力軸165に固定された脱穀駆動プーリ118との間に、脱穀駆動ベルト162を掛け回している。また、脱穀クラッチ161を切り換える脱穀入力アクチュエータとしての脱穀クラッチ用電動モータ175を備える。脱穀クラッチ用電動モータ175を作動させて、脱穀クラッチ161を入り作動させることによって脱穀駆動ベルト162が緊張状態に維持され、カウンタギヤケース89にエンジン14の出力が伝達される一方、脱穀クラッチ161の切り作動によって脱穀駆動ベルト162が弛緩状態に維持され、エンジン14からカウンタギヤケース89への出力伝達が遮断される。
【0051】
走行機体1上のうちエンジン14の後方にクラッチユニットシャーシ176を配置し、クラッチユニットシャーシ176に脱穀クラッチ入り切り機構177を組付けると共に、クラッチユニットシャーシ176に脱穀クラッチ用電動モータ175を設ける。脱穀クラッチ161を支持したテンションアーム(図示省略)に、脱穀クラッチ入り切り機構177を介して、脱穀クラッチ用電動モータ175が連結されている。カウンタギヤケース89に軸支された脱穀選別作業入力軸165上の脱穀駆動プーリ118を挟んで、カウンタギヤケース89と反対側に脱穀クラッチ用電動モータ175が配置される。この場合、脱穀クラッチ用電動モータ175又は脱穀クラッチ入り切り機構177が設置されるスペースをカウンタギヤケース89側に確保する必要がないから、カウンタギヤケース89の右側に近接させて脱穀駆動プーリ118を支持できる。脱穀クラッチ用電動モータ175又は脱穀クラッチ入り切り機構177等に規制されることなく、脱穀選別作業入力軸165の延長に伴う軸受構造の高剛性化などを不要にして、大きな変速比(減速比)が設定可能な大径の脱穀駆動プーリ118を簡単に設置できる。
【0052】
(7).ミッションケースの概略構造
次に、主として図9〜図11を参照しながら、ミッションケース88の概略構造について説明する。走行機体1における左右幅中央の前方に設置されたミッションケース88は、上下に長く左右に分割自在な二つ割り構造になっている。当該二つ割り構造のミッションケース88は複数のボルトでの締結にて中空略箱形に構成されている。ミッションケース88における左右一側面の上部側(実施形態では右側面上部)に、直進用及び旋回用油圧無段変速機53,54を内蔵する油圧変速ケース350が取り付けられている。この場合、油圧変速ケース350内の前側に直進用油圧無段変速機53(第1油圧ポンプ55及び第1油圧モータ56)が位置し、油圧変速ケース350内の後ろ側に旋回用油圧無段変速機54(第2油圧ポンプ57及び第2油圧モータ58)が位置している。ミッションケース88の内部には、図4を用いて説明したような副変速機構51や差動機構52といったギヤトレーンが収容されている。
【0053】
ミッションケース88の下部は左右外向きに張り出して二股状に下向き突出していて、大まかにいって正面視略門形に形成されている。ミッションケース88の左右両側面下部から下向き突出したギヤケース349には、左右外向きに突出する車軸ケース351がそれぞれボルト締結されている。左右の車軸ケース351内にそれぞれ車軸153が回転可能に軸支されており、各車軸153の突出端部に駆動スプロケット22が取り付けられている。図9に示すように、両ギヤケース349の底部はミッションケース88の底部より下方に位置していて、各ギヤケース349から突出する左右の車軸ケース351よりもミッションケース88の底部が高くなっている。
【0054】
なお、図15に示すように、ミッションケース88の底部の合わせ面は、ミッションケース88内部側でのボルト389締結によって連結されている。このような構造を採用したことによって、ミッションケース88の各半割体を製造するに際して、その型割の方向を半割体全体で共通にできる(型割方向を一方向にできる)から、型割を単純化して製造コストの抑制を図れる。また、ミッションケース88底部の外形形状が、二つ割り構造にも拘らず連続する形状になっているため、ミッションケース88(半割体同士)の締結剛性を向上でき、ミッションケース88からの作動油漏れの抑制に高い効果を発揮できるのである。
【0055】
また、図16に示すように、各車軸153の突出端部のうち車軸ケース351寄りの部位にはスプライン部390が形成されている。スプライン部390には、駆動スプロケット22の回転中心部が摺動可能で且つ相対回転不能に被嵌(スプライン嵌合)されている。スプライン部390より更に外側のボルト部391に、内周側にパッキン393を有する抜け止めカラー392を被嵌してからナット394をねじ込むことによって、駆動スプロケット22が車軸153の突出端部から左右抜け不能になっている。抜け止めカラー392におけるパッキン393の存在によって、車軸153のスプライン部390と駆動スプロケット22の回転中心部との間に泥水等が侵入するのを抑制している。車軸ケース351先端側の開口部分は、スプライン部390のうち車軸ケース351側の根元部に被嵌されたスリーブパッキン395及び環状シール体396によって塞がれている。スリーブパッキン395は、車軸153方向両側に突出する外向きリップ部395aを備えている。このため、スリーブパッキン395の車軸153方向の厚み寸法は環状シール体396のそれよりも大きくなっている。外向きリップ部395aは、駆動スプロケット22の回転中心部側と、車軸153を軸支する軸受体397側の止めリング398とに密接している。これら外向きリップ部395aの密接構造によって、車軸ケース351内への泥水の侵入や軸受体397等からのグリス漏れが抑制され、車軸ケース351のシール性を向上させている。
【0056】
さて、図6〜図9に示すように、ミッションケース88のうち油圧変速ケース350と反対側の側面(実施形態では左側面上部)からは、第1油圧ポンプ55及び第2油圧ポンプ57に動力伝達可能に連結する走行入力軸152が横方向外向きに突出している。走行入力軸152の突端部に固定された走行入力プーリ155に、エンジン14の出力プーリ149に巻き掛けた走行駆動ベルト151が掛け回されている。ミッションケース88の左側面上部から横方向外向きに突出したPTO軸99の突端側に、PTOプーリ119が設けられている。PTOプーリ119は走行入力プーリ155より下側に位置していて、PTOプーリ119と、その後方に位置するPTOカウンタプーリ112aとに、PTOベルト120が巻き掛けられている。PTOプーリ119とPTOカウンタプーリ122aとの間には、PTOベルト120に下方から当接してPTOベルト120を緊張状態に保持するためのテンションプーリ352が設けられている。テンションプーリ352は、柱状フレーム290の軸受体291に上下回動可能に支持されていて、バネ付勢にてPTOベルト120を常時緊張させるように構成されている。
【0057】
ミッションケース88の左側面部のうちPTO軸99より下方には、ミッションケース88内の直進用パルス発生回転輪体92に関連させた直進出力検出手段としての直進用ピックアップ回転センサ93(直進車速センサ)と、同じく旋回用パルス発生回転輪体94に関連させた旋回出力検出手段としての旋回用ピックアップ回転センサ95(旋回車速センサ)とが一部を外向きに露出させた状態で設けられている。図10に示すように、両ピックアップ回転センサ93,95は前後に並べて配置されている。この場合、両ピックアップ回転センサ93,95は、PTO軸99とミッションケース88の左張り出し下部との間にあり、直進用ピックアップ回転センサ93が前側に、旋回用ピックアップ回転センサ95が後側に位置している。ミッションケース88の左側面部のうち両ピックアップ回転センサ93,95の箇所には、右側面側及び下面側を開放した略蓋状のガード板353がボルト締結にて取り付けられている。従って、両ピックアップ回転センサ93,95の外周側はガード板353にて覆われている。このように構成すると、単一のガード板353によって、両方のピックアップ回転センサ93,95を走行クローラ2が巻き上げた泥土等から簡単に保護できる。また、部品点数抑制及び組付け作業工数低減にも寄与できる。更に、各ピックアップ回転センサ93,95のハーネス(図示省略)も広範囲に保護することが可能になる。
【0058】
図10に示すように、実施形態のガード板353の上面部は前低後高状に傾斜した形状になっている。このため、ガード板353上に載った泥土等は傾斜状の上面部を滑り落ち易くなり、ガード板353上への泥土等の堆積を効果的に防止できる。ガード板353の右側面側は、ミッションケース88の左側面部で塞がれており、ガード板353の下面側は、ミッションケース88の左張り出し下部の上面側で塞がれている。また、ガード板353の左右幅寸法は、正面視でミッションケース88の左側面部とPTOプーリ119との間にガード板353が収まる程度の大きさに設定されている。更に、図8及び図10に示すように、側面視においてガード板353のうちテンションプーリ352と重なる部位は、ミッションケース88におけるPTO軸99側の左右一側面(実施形態では左側面部)に向けて内向きに傾斜した形状(内向きに折り曲げた形状)になっている。このように構成すると、ガード板353とテンションプーリ352との干渉を回避しつつ、ミッションケース88からの動力伝達系統(PTO)に関して左右幅方向のコンパクト化を図れる。なお、テンションプーリの近傍に位置することになる昇降用油圧シリンダ4との干渉回避の点でも効果的である。
【0059】
前述の通り、ミッションケース88の右側面上部にボルト締結された油圧変速ケース350内の前側に、直進用油圧無段変速機53(第1油圧ポンプ55及び第1油圧モータ56)が設けられている。油圧変速ケース350内の後側には、旋回用油圧無段変速機54(第2油圧ポンプ57及び第2油圧モータ58)が設けられている。油圧変速ケース350の前面側には、第1油圧ポンプ55の斜板55aに対する変速シリンダ273を作動させる電気的アクチュエータとしての電磁油圧形変速バルブ272が、油圧変速ケース350内の油圧回路250(図5参照)に連通するように組付けられてユニット化されている。また、油圧変速ケース350の前面側には、第1油圧ポンプ55の斜板55aを手動操作して第1油圧モータ56への作動油の吐出方向及び吐出量を手動で変更する直進用の緊急手動操作具としての直進操作軸355が前向きに突設されている。直進操作軸355をその軸心回りに回動操作すれば、第1油圧ポンプ55の斜板55aの傾斜角度が電磁油圧形変速バルブ272とは別個独立して変更され、第1油圧モータ56への作動油の吐出方向及び吐出量が変更される。実施形態では、直進操作軸355と電磁油圧形変速バルブ272とが油圧変速ケース350の前面側に左右に並べて配置されている。
【0060】
油圧変速ケース350の後面側には、第2油圧ポンプ57の斜板57aに対する操向シリンダ271を作動させる電磁油圧形操向バルブ270が、油圧変速ケース350内の油圧回路250(図5参照)に連通するように組み付けられてユニット化されている。また、油圧変速ケース350の後面側には、第2油圧ポンプ57の斜板57aを手動操作して第2油圧モータ58への作動油の吐出方向及び吐出量を手動で変更する旋回用の緊急手動操作具としての旋回操作軸356が後向きに突設されている。旋回操作軸356をその軸心回りに回動操作すれば、第2油圧ポンプ57の斜板57aの傾斜角度が電磁油圧形操向バルブ270と別個独立して変更され、第2油圧モータ58への作動油の吐出方向及び吐出量が変更されることになる。実施形態では、旋回操作軸356と電磁油圧形操向バルブ270とが油圧変速ケース350の後面側に左右に並べて配置されている。
【0061】
図6〜図9に示すように、ミッションケース88の一側方(実施形態では左側方)に、走行機体1のステップ357が位置している。ステップ357とミッションケース88との間に油圧変速ケース350が位置している。ステップ357においてフレームで囲われた内部には、バッテリ358が搭載されている。ステップ357のバッテリ収容空間359は左右外向きに開放されていて、ステップ357の左側から見て油圧変速ケース350前面側の直進操作軸355をステップ357のバッテリ収容空間359に臨ませている。ステップ357の左側からバッテリ収容空間359に手を差し入れて、油圧変速ケース350前面側の直進操作軸355を走行機体1の外側から手動操作することが可能になっている(図9参照)。
【0062】
図示しない変速操向コントローラの指令に基づく電磁油圧形変速バルブ272の切換動作にて、直進用油圧無段変速機53の変速出力量を調節する際は、直進操作軸355が電磁油圧形変速バルブ272の切換動作に連動して動作するように構成されている。実施形態では、変速操向コントローラの指令に基づく電磁油圧形変速バルブ272の切換動作によって、変速シリンダ273が作動して第1油圧ポンプ55の斜板55a角度が変更される。そうすると、斜板55a角度の変更に伴い、直進操作軸355が自動的に(斜板55aに連動して)その軸心回りに回動する。つまり、電磁油圧形変速バルブ272と直進操作軸355との動作が第1油圧ポンプ55の斜板55aを介して連動することになる。
【0063】
また、変速操向コントローラの指令に基づく電磁油圧形操向バルブ270の切換動作にて、旋回用油圧無段変速機54の変速出力量を調節する際は、旋回操作軸356が電磁油圧形操向バルブ270の切換動作に連動して動作するように構成されている。実施形態では、変速操向コントローラ400の指令に基づく電磁油圧形操向バルブ270の切換動作によって、操向シリンダ271が作動して第2油圧ポンプ57の斜板57a角度が変更される。そうすると、斜板57a角度の変更に伴い、旋回操作軸355が自動的に(斜板57aに連動して)その軸心回りに回動する。つまり、電磁油圧形操向バルブ270と旋回操作軸356との動作が第2油圧ポンプ57の斜板57aを介して連動することになる。
【0064】
各操作軸355,356は通常において操作するものではなく、例えば変速操向コントローラに異常が生ずる等、変速操向制御に携わる電気系統に不具合が生じた場合に操作する緊急回避用のものである。かかる電気系トラブルが生じた場合であっても、各操作軸355,356を手動回動操作すれば、主変速レバー43や操縦ハンドル11が効かない状態で、例えば圃場からだけでもコンバインを脱出させるようなリンプホーム運転(縮退運転)を実行できる。従って、コンバインにおいて緊急事態への対処の選択肢が増え、コンバインの取り扱い性向上に寄与するという効果を奏する。なお、リンプホーム運転では、取り敢えずコンバインを前後進できれば済むと解される。このため、ステップ357の左側から見て油圧変速ケース350前面側の直進操作軸355をステップ357のバッテリ収容空間359に臨ませ、少なくとも直進操作軸355を走行機体1の外側から手動操作できるようにしているのである。
【0065】
図10及び図11に示すように、直進操作軸355の突端側には、直進操作軸355の手動回動操作をし易くする直進レバーインジケータ361が着脱可能に装着される。また同様に、旋回操作軸356の突端側には、旋回操作軸356の手動回動操作をし易くする旋回レバーインジケータ362が着脱可能に装着される。直進レバーインジケータ361は直進操作軸355と共に、直進用の緊急手動操作具を構成でき、旋回レバーインジケータ362も旋回操作軸356と共に、旋回用の緊急手動操作具を構成できる。かかる構成を採用すると、電磁油圧形変速バルブ272や電磁油圧形操向バルブ270の切換動作にて、直進用油圧無段変速機53又は旋回用油圧無段変速機54の変速出力量を調節するに際して、前述の各レバーインジケータ361,362を装着しておけば、各レバーインジケータ361,362の動作から、各油圧ポンプ55,57の斜板55a,57a角度、ひいては、各油圧無段変速機53,54の作動状態を簡単に視認できる。主変速レバー43及び操縦ハンドル11と、両油圧無段変速機53,54との間に機械的な連結構造を備えず、これらの間を電気的に制御する場合において、主変速レバー43及び操縦ハンドル11と両油圧無段変速機53,54とに関する動作トラブルを早期に発見し易くなる。
【0066】
実施形態では、各操作軸355,356を手動回動操作した場合に、その電気的制御(変速操向制御)を禁止することによって、電磁油圧形変速バルブ272及び電気油圧形操向バルブ270の切換動作に基づく各油圧無段変速機53,54の変速出力調節を禁止するように構成されている。変速操向制御の実行中において、いずれか一方の操作軸355,356が手動にて回動操作されると、上述の変速操向制御を強制的に終了し、主変速レバー43や操縦ハンドル11の操作量に応じた電磁油圧形変速バルブ272及び電気油圧形操向バルブ270の切換動作を不能にする。そして、コンバインの電源を一旦オフにして再度オンにしなければ、変速操向制御に復帰しない設定になっている。このため、各操作軸355,356を手動回動操作した場合に、電磁油圧形変速バルブ272及び電気油圧形操向バルブ270による各油圧無段変速機53,54の変速出力調節が併存することはなくなるから、各油圧無段変速機53,54、ひいては、走行機体1がオペレータの意図に反して不安定な挙動をするおそれを確実に回避できる。各操作軸355,356を手動回動操作する際の走行安全性を確保できる。
【0067】
図10に示すように、作動油タンクとしても機能するミッションケース88の左側面のうちPTOプーリ119の前方には、作動油供給用の給油口365が設けられている。給油口365は、着脱可能な給油キャップ366にて塞がれている。また、ミッションケース88の左側面において、給油口365の下方で且つPTOプーリ119より低い位置には、ミッションケース88内の作動油量を外部から視認するための検油窓367が設けられている。使用前点検時や作動油交換時に検油窓367を見れば、ミッションケース88内の作動油量が検油窓367の高さ位置まで到達したか否かを簡単に確認できることになる。実施形態の検油窓367は、左ギヤケース349やガード板353より高い位置にある。作動油を交換したり補充したりする場合は、縦軸300を中心にして刈取装置3を横外側方に開き回動させた状態で、ミッションケースの左側面にある給油口365及び検油窓367を露出させる。そして、給油キャップ366を開閉操作し、給油口365と同じ側面にある検油窓367を見ながら、給油口365からミッションケース88内に作動油を供給することになる。このように実施形態では、作動油タンクを兼ねるミッションケース88の上下方向の中途高さ位置に給油口365があるから、給油口365の直下まで、つまり、図10、図12及び図13に一点鎖線で示す最大油面高さHmまでしか給油できない。
【0068】
図11に示すように、ミッションケース88の右側面において、検油窓367の後方で且つPTOプーリ119より低い位置には、作動油をろ過するためのサクションフィルタ368が組み込まれている。実施形態のサクションフィルタ368は、右ギヤケース349の後方で且つその近傍に位置し、ミッションケース88の底側の作動油をろ過するように構成されている。従って、検油窓367とサクションフィルタ368とは、ミッションケース88内部の下側にある差動機構52を挟んで前後左右に相対向する箇所にそれぞれ位置することになる。サクションフィルタ368は、上下に延びるサクションホース369を介して、油圧変速ケースの外面に取り付けられたチャージポンプ251に連通接続されている。チャージポンプ251は、第2油圧ポンプ57のポンプ軸59にて回転駆動するように構成されている。ミッションケース88の底側の作動油は、チャージポンプ251の駆動によって、サクションフィルタ368及びサクションホース369を介してチャージポンプ251に吸い込まれ、油圧回路250の各油路252,253,257等に供給される。
【0069】
(8).ミッションケースの内部構造
次に、主として図12〜図15を参照しながら、ミッションケース88の内部構造について説明する。図12に示すように、ミッションケース88内の底部側に、差動機構52を構成する遊星ギヤ機構68が配置され、遊星ギヤ機構68の上方に、副変速機構51と中継軸85とが前後に並べて配置されている。遊星ギヤ機構68と中継軸85との上下方向の間で且つ後方側に、逆転ギヤ84の回転軸が配置されている。遊星ギヤ機構68と中継軸85との前後方向の間で且つ上方側に、主変速出力用カウンタ軸70が配置され、主変速出力用カウンタ軸70の後方側には、操向カウンタ軸80が配置されている。主変速出力用カウンタ軸70の上方側には直進用モータ軸60が配置され、操向カウンタ軸80の上方側には旋回用モータ軸61が配置されている。旋回用モータ軸61上に、湿式ブレーキとしての操向ブレーキ79と減速ギヤ81とが設けられている。直進用モータ軸60の上方側には、第1油圧ポンプ55のポンプ軸59が配置され、旋回用モータ軸61の上方側には、第2油圧ポンプ57のポンプ軸59が配置されている。両ポンプ軸の前後方向の間で且つ上方側に、走行入力軸152が配置されている。
【0070】
なお、図12に示すように、ミッションケース88内の底部のうち遊星ギヤ機構68の後方側には、サクションフィルタ368に連通するオイルストレーナ430が配置されている。オイルストレーナ430の周囲は、ミッションケース88内の底部に形成された仕切リブ431にて囲まれている。仕切リブ431の上面側には作動油導入用の導入穴432が形成されている。このため、オイルストレーナ430を仕切リブ431にて遊星ギヤ機構68から遮断して、オイルストレーナ430周辺の作動油が遊星ギヤ機構68の回転にて撹拌されるのを防止でき、遊星ギヤ機構68の回転(撹拌)にて作動油中に混入する気泡(空気)がオイルストレーナ430に吸い込まれるのを抑制することが可能になる。その上、導入穴432が仕切リブ431の上面側に形成されているので、仕切リブ431内の領域から気泡を逃がすのに配置上好適であり、この点でもオイルストレーナ430に気泡を吸い込み難くできるのである。
【0071】
図13に示すように、作動油供給用の給油口365は、ミッションケース88の左側面のうち直進用モータ軸60及びPTO軸99の前方に位置している。このため、ミッションケース88内においては、直進用のポンプ軸59、旋回用のポンプ軸59、直進用モータ軸60、旋回用モータ軸61並びに走行入力軸152という5つの軸が、給油口365より上方側に位置することになる。つまり、これら5つの軸59,59,60,61,152は、作動油に浸った状態で回転することがなく、その分の撹拌抵抗の抑制が図られている。
【0072】
図13に示すように、ミッションケース88の上面側(実施形態では左上面前部側)には、ミッションケース88外からの作動油を戻すための戻り油口410を開口させている。ミッションケース88内の上部側には、ミッションケース88外から戻ってきた作動油を戻り油口410から操向ブレーキ79に向けて案内するガイド体として、一対の補強リブ411,412が内向き突設されている。この場合、ミッションケース88の左内側面上部に、直進用(第1油圧ポンプ55)のポンプ軸59の軸受部を支持する直進用ボス部413が内向き突設されている。直進用ボス部413に送り側補強リブ411が一体的に連接されている。送り側補強リブ411は、操向ブレーキ79側が低くなるように、戻り油口410から操向ブレーキ79に向けて後方斜め下向きに傾斜している。ミッションケース88の左内側面上部には、旋回用(第2油圧ポンプ57)のポンプ軸59の軸受部を支持する旋回用ボス部414も内向き突設されている。そして、旋回用ボス部414に受け側補強リブ412が一体的に連接されている。受け側補強リブ412は、操向ブレーキ79側が低くなるように前方斜め下向きに傾斜している。両補強リブ411,412は、図13の右側面断面視で先窄まりの漏斗状になっていて、窄まった先に操向ブレーキ79が位置している。
【0073】
戻り油口410から流れ落ちる作動油は、主に送り側補強リブ411の案内にて操向ブレーキ79上に送られて、操向ブレーキ79に降りかかる。その結果、操向ブレーキ79がなかば強制的に注油され潤滑される。従って、ミッションケース88内の作動油量に拘らず、作動油に浸漬していない操向ブレーキ79への注油量不足を抑制できる。また、ミッションケース88内の作動油量に制限を受けないので、ミッションケース88内のうち作動油に浸漬しない位置に操向ブレーキ79を設けることが可能になる。つまり、操向ブレーキ79についてレイアウト上の設計自由度が向上するのである。その上、両補強リブ411,412は、図13の右側面断面視で先窄まりの漏斗状になっているから、当該窄まり部分が油溜りとして機能でき、操向ブレーキ79に作動油を安定的に供給できるという利点もある。更に、ミッションケース88の剛性を確保する両補強リブ411,412によって、戻り油口410からの作動油を操向ブレーキ79に案内するから、ミッションケース88の剛性確保と操向ブレーキ79への注油機能向上との両方を低コストで実現できるのである。なお、直進用ボス部413のうち送り側補強リブ411寄りの一部には、送り側補強リブ411にて案内される作動油を直進用のポンプ軸59の軸受部に振り分けるための連通溝415が形成されている。
【0074】
図10、図12及び図13に示すように、ミッションケース88の戻り油口410には、外部からミッションケース88に向けて作動油を送るための戻り管路416が接続されている。戻り管路416のうちミッションケース88に近い根元部側からは、分岐管路417が分岐して延びている。分岐管路417は、ミッションケース88左側面の操向ブレーキ79の箇所に接続されている。実施形態の戻り管路416は、分岐コネクタ418を介してミッションケース88の戻り油口410に接続されている。そして、分岐コネクタ418に分岐管路417の一端側が接続され、分岐管路417の他端側がミッションケース88左側面の操向ブレーキ79の箇所に接続されている。図10、図12及び図13から明らかなように、分岐管路417は、ミッションケース88の外側に位置していて、ミッションケース88の左外側面に沿わせて延びている。換言すると、分岐管路417はミッションケース88に対して外付けされている。ミッションケース88外から戻ってきた作動油の一部は操向ブレーキ79に直接送られる。残りの作動油はミッションケース88内に送られ、両補強リブ411,412によって操向ブレーキ79上に案内される。すなわち、分岐管路417を経由した作動油と、両補強リブ411,412にて案内された作動油とによって、操向ブレーキ79が注油され潤滑されることになる。従って、ミッションケース88の形状を特に変更しなくても、両補強リブ411,412の存在と相俟って、作動油に浸漬していない操向ブレーキ79への注油量不足を簡単に解消できるのである。
【0075】
図14に示すように、ミッションケース88の左側面上部にはPTOボス部420が一体的に設けられている。PTOボス部420には、一対の軸受体421,422を介してPTO軸99が回転可能に軸支されている。PTO軸99のうちミッションケース88内の端部には、その下方にある主変速出力用カウンタ軸70から回転動力を受け取るPTOギヤ423が固着されている。ミッションケース88の右側面上部に一体的に設けられた直進伝達ボス部424には、直進用モータ軸60と一体回転する直進伝達ギヤ50が軸受体425を介して回転可能に軸支されている。PTOギヤ423はPTO軸99に片持ち梁の状態で支持され、同様にして直進伝達ギヤ50は直進用モータ軸60に片持ち梁の状態で支持されている。直進用モータ軸60からPTO軸99への動力伝達は、主変速出力用カウンタ軸70が中継している。このため、PTOギヤ423と直進伝達ギヤ50とを側面視(軸線方向視)で互いに重なり合う位置関係におくことが可能になっている(図13参照)。その結果、PTOギヤ423ひいてはPTO軸99のミッションケース88に対する配置自由度が向上することになる。
【0076】
図14に示すように、PTOボス部420の上部側には、ミッションケース88内の作動油をPTO軸99用の両軸受体421,422間に導くための作動油溝426が形成されている。PTOボス部420内のうち両軸受体421,422の間には、PTO軸99の長手中途部を囲う堰き止め部427がPTO軸99に向けて突出形成されている。作動油溝426の入口側は、ミッションケース88内部寄りの軸受体422の上方に形成されている。作動油溝426の入口側のうちPTOギヤ423回転下流側には、作動油溝426側に作動油を案内するためのガイドリブ428が設けられている。従って、PTOプーリ119に近い外側の軸受体421にも作動油を注油して潤滑できることになり、大きな負荷の掛かるPTO軸99の潤滑性確保に効果的である。また、堰き止め部427の存在によって、PTOプーリ119寄りの軸受体421周辺に作動油を溜め易く、PTO軸99の潤滑性をより一層向上できる。更に、ガイドリブ428の存在によって、PTOギヤ423の飛沫油を作動油溝426側に送り込み易くなる。
【0077】
図15に示すように、各車軸153の基端部側に形成された基端スプライン部434には、ファイナルギヤ78bの回転中心部が摺動可能で且つ相対回転不能に被嵌(スプライン嵌合)されている。各車軸153のうち基端スプライン部434より更に内側の部位は、ギヤケース349に形成された内側ボス筒部435に軸受体436を介して回転可能に軸支されている。各基端スプライン部434における車軸ケース351寄りの部位は、車軸ケース351に形成された外側ボス筒部437に片側シール軸受体438を介して回転可能に軸支されている。このため、高価なオイルシールを用いることなく、ミッションケース88の下部側を簡単に密封状態にできることになる。また、オイルシールが不要なことから、部品点数を少なくできると共に、車軸153の組付け作業性も向上する。
【0078】
上記の記載並びに図13から明らかなように、エンジン14の動力を変速する油圧無段変速機54と、前記油圧無段変速機54の変速出力を左右の走行部2に伝達するミッションケース88とを備えており、前記ミッションケース88内に、前記油圧無段変速機54の変速出力を制動する湿式ブレーキ79を有している作業車両であって、前記湿式ブレーキ79は前記ミッションケース88内の作動油面より上方に位置しており、前記ミッションケース88の上面側に戻り油口410を開口させており、前記ミッションケース88外から戻ってきた作動油を前記戻り油口410から前記湿式ブレーキ79に向けて案内するガイド体411,412が、前記ミッションケース88内に設けられているから、前記戻り油口410から流れ落ちる作動油は、前記ガイド体411,412の案内にて前記湿式ブレーキ79上に送られて、前記湿式ブレーキ79に降りかかる。その結果、前記湿式ブレーキ79がなかば強制的に注油され潤滑されることになる。従って、前記ミッションケース88内の作動油量に拘らず、作動油に浸漬されない前記湿式ブレーキ79への注油量不足を抑制できるという効果を奏する。また、前記ミッションケース88内の作動油量に制限を受けないので、前記ミッションケース88内のうち作動油に浸漬しない位置に前記湿式ブレーキ79を設けることが可能になる。つまり、前記湿式ブレーキ79についてレイアウト上の設計自由度が向上するという利点もある。
【0079】
上記の記載並びに図13から明らかなように、前記ミッションケース88内に突出する補強リブ411,412によって、前記ガイド体が構成されているから、前記ミッションケース88の剛性を確保する前記補強リブ411,412が、前記戻り油口410からの作動油を前記湿式ブレーキ79に案内することになる。従って、前記ミッションケース88の剛性確保と前記湿式ブレーキ79への注油機能向上との両方を低コストで実現できるという効果を奏する。
【0080】
上記の記載並びに図10、図12及び図13から明らかなように、前記ミッションケース88の前記戻り油口410に戻り管路416が接続されており、前記戻り管路416から分岐した分岐管路417が前記ミッションケース88における前記湿式ブレーキ79の箇所に接続されており、前記分岐管路417は前記ミッションケース88の外側に位置しているから、前記分岐管路417を経由した作動油と、前記ガイド体411,412にて案内された作動油とによって、前記湿式ブレーキ79が注油され潤滑されることになる。従って、前記ミッションケース88の形状を特に変更しなくても、前記ガイド体411,412の存在と相俟って、前記湿式ブレーキ79への注油量不足を簡単に解消できるという効果を奏する。
【0081】
本願発明は、前述の実施形態に限らず、様々な態様に具体化できる。例えば本願発明は、前述のようなコンバインに限らず、トラクタ、田植機等の農作業機やクレーン車等の特殊作業用車両のような各種作業車両に対して広く適用できる。湿式ブレーキは操向ブレーキ79に限らず、副変速機構51に関連する駐車ブレーキ66でもよい。その他、各部の構成は図示の実施形態に限定されるものではなく、本願発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。
【符号の説明】
【0082】
1 走行機体
14 エンジン
53 直進用油圧無段変速機
54 旋回用油圧無段変速機
79 操向ブレーキ(湿式ブレーキ)
88 ミッションケース
410 戻り油口
411,412 補強リブ(ガイド体)
416 戻り管路
417 分岐管路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの動力を変速する油圧無段変速機と、前記油圧無段変速機の変速出力を左右の走行部に伝達するミッションケースとを備えており、前記ミッションケース内に、前記油圧無段変速機の変速出力を制動する湿式ブレーキを有している作業車両であって、
前記湿式ブレーキは前記ミッションケース内の作動油面より上方に位置しており、前記ミッションケースの上面側に戻り油口を開口させており、前記ミッションケース外から戻ってきた作動油を前記戻り油口から前記湿式ブレーキに向けて案内するガイド体が、前記ミッションケース内に設けられている、
作業車両。
【請求項2】
前記ミッションケース内に突出する補強リブによって、前記ガイド体が構成されている、
請求項1に記載した作業車両。
【請求項3】
前記ミッションケースの前記戻り油口に戻り管路が接続されており、前記戻り管路から分岐した分岐管路が前記ミッションケースにおける前記湿式ブレーキの箇所に接続されており、前記分岐管路は前記ミッションケースの外側に位置している、
請求項1又は2に記載した作業車両。
【請求項1】
エンジンの動力を変速する油圧無段変速機と、前記油圧無段変速機の変速出力を左右の走行部に伝達するミッションケースとを備えており、前記ミッションケース内に、前記油圧無段変速機の変速出力を制動する湿式ブレーキを有している作業車両であって、
前記湿式ブレーキは前記ミッションケース内の作動油面より上方に位置しており、前記ミッションケースの上面側に戻り油口を開口させており、前記ミッションケース外から戻ってきた作動油を前記戻り油口から前記湿式ブレーキに向けて案内するガイド体が、前記ミッションケース内に設けられている、
作業車両。
【請求項2】
前記ミッションケース内に突出する補強リブによって、前記ガイド体が構成されている、
請求項1に記載した作業車両。
【請求項3】
前記ミッションケースの前記戻り油口に戻り管路が接続されており、前記戻り管路から分岐した分岐管路が前記ミッションケースにおける前記湿式ブレーキの箇所に接続されており、前記分岐管路は前記ミッションケースの外側に位置している、
請求項1又は2に記載した作業車両。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2011−179642(P2011−179642A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−46446(P2010−46446)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]