説明

信号処理装置、及びレーダ装置

【課題】FM−CW方式と位相モノパルス方式とを併用したレーダ装置において、同じ相対距離と相対速度を有する複数の物標が存在する場合であっても、個々の物標の方位角を正確に検出する。
【解決手段】
一対の物標に対応して一対の前記ビート信号が生成されたときに、第1の物標に対応する前記ビート信号の第1のレベルと第2の物標に対応する前記ビート信号の第2のレベルとを記憶するレベル記憶手段と、一対の物標に対応して単一のビート信号が生成されたときに、当該単一のビート信号のレベルから、前記第1のレベルに対応する第1の位相と、前記第2のレベルに対応する第2の位相を導出する位相導出手段を有し、前記一対のアンテナにおける前記第1、第2の位相の差に基づいて、第1、第2の物標の方位角をそれぞれ導出するので、個々の物標の方位角を正確に検出できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FM−CW(Frequency Modulated-Continuous Wave:周波数変調連続波)方式と位相モノパルス方式とを併用し、FM−CW方式により物標の相対距離や相対速度を、位相モノパルス方式により物標の方位角を検出するレーダ装置とその信号処理装置に関し、特に、複数の物標の相対距離と相対速度がそれぞれ一致する場合に、各物標の方位角を正確に検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両の制御支援手段として、車両周囲の物標の相対距離、相対速度、及び方位角を検出する車載用のレーダ装置が知られている。特許文献1、2には、車載用レーダ装置の例が記載されている。従来のレーダ装置の一例は、FM−CW方式と位相モノパルス方式とを併用し、FM−CW方式により物標の相対距離や相対速度を、位相モノパルス方式により物標の方位角を検出する。
【0003】
かかるレーダ装置は、周波数変調したレーダ信号を送信し、物標により反射された送信信号を一対の受信用アンテナにより受信する。ここで、受信信号は、物標からアンテナまでの伝搬距離に応じた時間遅延とドップラシフトの影響により周波数偏移して受信される。また、アンテナ対における受信信号の伝搬距離には、受信信号の到来方位とアンテナ対の間隔とに応じた差が生じる。
【0004】
レーダ装置は、送受信信号を乗算器で混合して送受信信号の周波数差を有するビート信号を生成し、その周波数スペクトルのピークを検出する。ここで検出されたピークは、物標の相対距離と相対速度が反映された周波数を有する。そして、アンテナごとにピークを検出したときに、アンテナ対における同じ周波数のピーク対は、受信信号の伝搬距離差に応じた位相差を有する。
【0005】
よって、レーダ装置は、ピークの周波数から物標の相対距離、相対速度を検出し、ピーク対の位相差から方位角を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3964362号公報
【特許文献2】特開2006−317456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、車両周囲の探索範囲には、複数の物標が存在する場合がある。かかる場合には、物標との衝突回避・衝突対応といった車両制御の安全性を確保するために、物標ごとに個別に相対距離、相対速度、及び方位角を検出することが求められる。
【0008】
通常は物標ごとに相対距離または相対速度が異なるので、上記の方法によれば物標ごとに異なる周波数のビート信号が生成され、物標ごとのピークが検出される。しかしながら、物標は高速で移動する他車両などであるので、複数の物標の相対距離と相対速度が一時的に一致する場合がある。かかる場合には、複数の物標からは同じ周波数の受信信号が得られ、同じ周波数のビート信号が生成されるので、単一のピークが検出される。またこのとき複数の物標からの受信信号間では受信位相が合成され、ビート信号においても位相が合成されるので、単一のピークは合成された位相(合成位相)を有する。そして、かかるピーク対における位相差に基づいて方位角を検出すると、実在する複数物標の方位角とは異なる、虚偽の物標の方位角が検出される。そして、かかる方位角に基づき車両制御を実行すると、安全性が低下するおそれがある。
【0009】
そこで、上記に鑑みてなされた本発明の目的は、FM−CW方式と位相モノパルス方式とを併用したレーダ装置において、同じ相対距離と相対速度を有する複数の物標が存在する場合であっても、個々の物標の方位角を正確に検出できるレーダ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明の第1の側面によれば、周波数変調した送信信号を送信して、受信用のアンテナごとに送受信信号の周波数差を有するビート信号を生成するレーダ送受信機の信号処理装置が提供される。この信号処理装置は、前記ビート信号の周波数に基づいて物標の相対距離を検出する距離検出手段と、前記ビート信号の位相を検出する位相検出手段と、複数の物標のそれぞれに対応して前記ビート信号が生成されたときに、第1の物標に対応する前記ビート信号の第1のレベルと第2の物標に対応する前記ビート信号の第2のレベルとを記憶するレベル記憶手段と、前記複数の物標に対応して単一のビート信号が生成されたときに、当該単一のビート信号のレベルが第1の位相に対応する前記第1のレベルと第2の位相に対応する前記第2のレベルの和と一致するような当該第1、第2の位相を、前記ビート信号の波長と前記複数の物標の相対距離とに基づき導出する位相導出手段と、アンテナ対における前記第1の位相の差に基づいて第1の物標の方位角を、前記第2の位相の差に基づいて第2の物標の方位角をそれぞれ導出する方位角検出手段を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、FM−CW方式と位相モノパルス方式とを併用したレーダ装置において、同じ相対距離と相対速度を有する複数の物標が存在する場合であっても、個々の物標の方位角を正確に検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態におけるレーダ装置の使用例を説明する図である。
【図2】本実施形態におけるレーダ装置の概略構成と動作原理について説明する図である。
【図3】レーダ装置10のブロック図である。
【図4】送信信号Stの周波数を説明する図である。
【図5】受信信号Sr1、Sr2の周波数偏移とビート周波数について説明する図である。
【図6】ビート信号Sb1、Sb2の周波数スペクトルについて説明する図である。
【図7】レーダ装置10の動作手順を説明するフローチャート図である。
【図8】2つの物標が存在する場合のピークについて説明する図である。
【図9】変形例におけるレーダ送受信機10aの概略構成を説明する図である。
【図10】変形例におけるレーダ装置10の動作手順を説明する図である。
【図11】位相合成信頼度処理の手順を説明するフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面にしたがって本発明の実施の形態について説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された事項とその均等物まで及ぶものである。
【0014】
図1は、本実施形態におけるレーダ装置の使用例を説明する図である。図1には、レーダ装置の探索領域に対応した搭載位置が示される。たとえば車両1の前方を探索する場合には、レーダ装置は車両前部のバンパやフロントグリル内に搭載される。そして、車両1前方の探索領域に対しレーダ信号を送受信し、探索領域内に存在する物標の相対距離R、相対速度V、方位角(たとえば物標中心部のレーダ軸に対する角度)θといった物標情報を検出する。ここで、物標は、たとえば、先行車両や対向車両、隣接車線の車両などであり、さらに路側の設置物、あるいは歩行者が含まれる。
【0015】
物標情報は、車両1の図示を省略する車両制御装置に出力される。そして車両制御装置は、物標情報に応じて車両1のアクチュエータを制御して、車両1の挙動を制御する。このようにして、たとえば、先行車両に追従走行する追従走行制御や、他車両や設置物、歩行者などとの衝突回避制御や衝突対応制御が行われる。
【0016】
なお、レーダ装置の搭載位置は、上記のほかに種々可能である。たとえば、車両の前側方を探索する場合には、レーダ装置は車両前側部のフォグランプユニット内などに搭載される。また、車両後方を探索する場合には、レーダ装置は車両後部のバンパ内部などに搭載される。さらに、車両後側方を探索する場合には、レーダ装置は車両後側部のテールランプユニット内などに搭載される。
【0017】
図2は、本実施形態におけるレーダ装置の概略構成と動作原理について説明する図である。本実施形態におけるレーダ装置は、FM−CW方式により物標の相対距離や相対速度を検出するとともに、位相モノパルス方式により物標の方位角を検出する。図2に示すように、レーダ装置10は、送信用のアンテナ11と受信用のアンテナ対12_1、12_2を備えるレーダ送受信機10aと、物標の相対距離R、相対速度V、及び方位角θを検出する信号処理装置14とを有する。
【0018】
レーダ送受信機10aは、三角波状に周波数が上昇・下降するように周波数変調した送信信号Stを、アンテナ11から送信する。ここで、送信信号Stの送信時の周波数をFとする。すると、物標により反射された送信信号Stは、受信信号Sr1、Sr2として、それぞれアンテナ12_1、12_2により受信される。このとき、受信信号Sr1、Sr2は、物標の相対距離Rや相対速度Vに応じた周波数偏移Δfを受け、受信時の周波数はF+Δfになる。また、アンテナ12_1、12_2の間隔dに比して物標は無限遠に存在するとみなした場合、受信信号Sr1、Sr2の伝搬経路は平行とみなすことができるので、受信信号Sr1、Sr2においては、ビーム軸に対する到来方位、つまり物標の方位角θと、アンテナ12_1、12_2の間隔dとに応じた伝搬距離差ΔRが生じる。
【0019】
レーダ送受信機10aは、送信信号Stとアンテナ12_1、12_2における受信信号Sr1、Sr2をそれぞれ乗算して、送信信号Stと、受信信号Sr1、Sr2それぞれとの周波数差に対応するビート周波数Δfを有するビート信号Sb1、Sb2を生成する。ここで、送信信号Stの周波数上昇期間におけるビート周波数Δfをα、周波数下降期間におけるビート周波数Δfをβとすると、物標の相対距離R、相対速度Vは次の式により得られる。ここで、Cは光速、ΔFは送信信号Stの周波数偏移幅、fmは送信信号Stの周波数変調周期を規定する三角波の周波数、foは送信信号Stの中心周波数である。
【0020】
R=C・(α+β)/(4・ΔF・fm) ・・・式(1)
V=C・(β−α)/(4・fo) ・・・式(2)
また、ビート信号Sb1、Sb2はいずれも同じビート周波数Δfを有するが、ビート信号Sb1の位相φ1とビート信号Sb2の位相φ2には、受信信号Sr1、Sr2の伝搬距離差ΔRに応じた位相差Δφが生じている。すると、位相差Δφと方位角θには、次式の関係が成立する。ここで、λはビート信号Sb1、Sb2の波長である。
θ=arcsin(λ・Δφ/(2π・d)) ・・・・・式(3)
信号処理装置14は、上記のようなビート信号Sb1、Sb2を周波数スペクトルのピークとして検出し、ビート信号Sb1、Sb2のうちいずれかの周波数Δfから、上記式(1)、(2)により相対距離Rと相対速度Vを検出する。また、信号処理装置14は、ビート信号Sb1、Sb2の位相φ1、φ2を検出し、その位相差Δφから上記式(3)により方位角θを検出する。
【0021】
図3は、レーダ装置10のブロック図である。レーダ送受信機10aでは、変調指示信号生成部16がレーダ信号の周波数を規定する変調指示信号Smを生成する。VCO(Voltage Controlled Oscillator:電圧制御発振器)18は、変調指示信号Smの電圧に応じた周波数のレーダ信号(電磁波)、つまり送信信号Stを生成する。送信信号Stは、増幅器31により増幅される。送信用のアンテナ11は、増幅された送信信号Stを探索領域に向けて送出する。
【0022】
物標により送信信号Stが反射されると、一対の受信用のアンテナ12_1、12_2がこれを受信信号Sr1、Sr2として受信する。受信信号Sr1、Sr2は、それぞれ増幅器32_1、32_2により増幅される。受信信号切替部21は、信号処理装置14からの制御信号に応答して、増幅された受信信号Sr1、Sr2を時分割で後段の回路に出力する。混合器22は、分配器20により電力分配された送信信号Stの一部と受信信号切替部21から出力される受信信号Sr1、Sr2とをそれぞれ乗算して、両者の周波数差に対応したビート周波数を有するビート信号Sb1、Sb2を生成する。ビート信号Sb1、Sb2は、帯域通過フィルタ23により不要な帯域が除去され、A/D変換器24によりデジタルデータに変換されて、信号処理装置14に取り込まれる。
【0023】
ここで、送信信号Stの周波数変調について説明する。レーダ装置10は、上述したようにFM−CW方式で周波数変調したレーダ信号を送受信することにより、物標の相対距離R、相対速度Vを検出する。これに加え、レーダ装置10は、一定周波数のレーダ信号を送受信し、その検出結果を用いてFM−CW方式における検出結果の正確性を担保する(詳細な方法は後述する)。
【0024】
周波数変調指示部16は、信号処理装置14からの制御信号に応答して、三角波状に電圧が上昇・下降する変調指示信号Sm、または一定電圧の変調指示信号Smを生成してVCO18に入力する。VCO18は、それぞれの場合ごとに、入力された変調指示信号Smの電圧に対応した周波数の送信信号Stを発振する。
【0025】
図4は、送信信号Stの周波数を説明する図である。VCO18は、三角波状の変調指示信号Smが入力されたときには、三角波の上昇区間ごとに周波数が直線的に漸増し、下降区間ごとに周波数が直線的に漸減する送信信号Stを発振する。以下、かかる動作をFM−CWモードという。FM−CWモードでは、周波数fm(例えば1KHz)の三角波に従って、一対の周波数上昇期間と周波数下降期間が1回以上実行される。また、送信信号Stの周波数は、中心周波数fo(例えば76.5GHz)を中心とする周波数帯域幅ΔF(例えば100MHz)で上昇と下降を反復する。
【0026】
またVCO18は、一定電圧の変調指示信号Smが入力されたときには、一定周波数の送信信号Stを発振する。以下、かかる動作をCWモードという。CWモードでは、送信信号Stの周波数は、例えばFM−CWモードの中心周波数foに一定に保たれる。
【0027】
このようなFM−CWモードとCWモードとは、たとえば数十ミリ秒ごとに繰り返されるように、信号処理装置14により制御される。
【0028】
次に、受信信号Sr1、Sr2の周波数偏移とビート周波数について図5を用いて説明する。
【0029】
図5(A)は、送信信号Stと受信信号Sr1またはSr2の時間(横軸)に対する周波数(縦軸)の変化を示す。実線で示す送信信号Stの周波数変化は、図4で示したとおりである。一方、破線で示す受信信号Sr1、またはSr2の周波数は、送信信号Stの周波数に対し物標の相対距離Rによる時間的遅延ΔTと、物標の相対速度Vに応じたドップラシフトγの偏移を受ける。その結果、FM−CWモードでの送信信号Stと受信信号Sr1、Sr2には、周波数上昇期間で周波数差α、周波数下降期間で周波数差βが生じる。また、CWモードでの送信信号Stと受信信号Sr1、Sr2には、ドップラシフトに対応する周波数差γが生じる。
【0030】
図5(B)は、FM−CWモードとCWモードとにおいて生成されるビート信号Sb1、Sb2の時間(横軸)に対するビート周波数(縦軸)を示す。図5(A)で示した受信信号Sr1,Sr2の周波数偏移により、FM−CWモードでのビート周波数は、周波数上昇期間で周波数α、周波数下降期間で周波数βとなる。また、CW方式のビート周波数は、周波数γとなる。
【0031】
ここで、FM−CWモードのビート周波数α、βと、物標の相対距離R、相対速度Vとの間には、上述した式(1)、(2)が成立する。
【0032】
一方、CWモードでのビート周波数γと物標の相対速度Vとの間には、次式に示す関係が成立する。ここでCは光速である。
【0033】
V=(γ・C)/[2・(fo−γ)] ・・・式(4)
図3に説明を戻し、信号処理装置14の構成について説明する。信号処理装置14は、ビート信号Sb1、Sb2をFFT(高速フーリエ変換)処理して周波数スペクトルを検出する周波数スペクトル検出部14aを有する。周波数スペクトル検出部14aは、DSPなどの演算回路で構成される。
【0034】
また、信号処理装置14は、各種制御プログラムや処理プログラムを格納したROMと、ROMから各種制御プログラムや処理プログラムを読み出して実行するCPUと、演算データを一時的に保持するRAMとを備えたマイクロコンピュータを有する。変調信号生成部16や受信信号切替部21の制御や、距離速度検出手段14b、位相検出手段14c、方位角検出手段14d、レベル記憶手段14e、位相導出手段14fなどによる処理は、それぞれの手順に対応した制御プログラムまたは処理プログラムと、これらを実行するCPUにより実現される。
【0035】
図6は、周波数スペクトル検出部14aが検出するビート信号Sb1、Sb2の周波数スペクトルについて説明する図である。ここでは、図5(B)で示したビート信号Sb1、Sb2を例として、図6(A)にFM−CWモードの周波数上昇期間での周波数スペクトル、図6(B)にFM−CWモードの周波数下降期間での周波数スペクトル、そして図6(C)にCWモードでの周波数スペクトルを示す。
【0036】
ここで、物標からの受信信号Sr1、Sr2は、路面などからの反射による受信信号よりも相対的にレベルが大きいので、ビート信号Sb1、Sb2の周波数スペクトルにおいてピークが形成される。よって、探索領域に1つの物標が存在する場合に、FM−CWモードでは、周波数上昇期間で図6(A)に示すようにビート周波数αのピークP_uが形成され、周波数下降期間で図6(B)に示すようにビート周波数βのピークPk_dが形成される。また、CWモードでは、図6(C)に示すようにビート周波数γのピークPk_cが形成される。信号処理装置14は、各周波数スペクトルをたとえば2次近似することにより、極大値を形成するピークPk_u、Pk_d、Pk_cを検出する。
【0037】
図7は、レーダ装置10の動作手順を説明するフローチャート図である。ここで、たとえば一対のFM−CWモードとCWモードを1つの処理サイクルとしたとき、図7の手順は1処理サイクルごとに実行される。
【0038】
レーダ送受信機10aは、手順S2で信号処理装置14からの制御信号に応答してFM−CWモードとCWモードとで送信信号Stの送信と受信信号Sr1、Sr2の受信を行い、手順S4でビート信号Sb1、Sb2を生成する。
【0039】
手順S6では、周波数スペクトル検出部14aがFM−CWモードでのビート信号Sb1、Sb2の周波数スペクトルを検出し、信号処理装置14が周波数スペクトルのピークを検出する。以下では、FM−CWモードでのビート信号から検出されたピークを便宜上、FM−CWピークという。手順S8では、周波数スペクトル検出部14aがCWモードでのビート信号Sb1、Sb2の周波数スペクトルを検出する。そして、信号処理装置14は周波数スペクトルのピークを検出する。以下では、CWモードでのビート信号から検出されたピークを便宜上、CWピークという。
【0040】
ここで、通常だと探索領域には複数の物標が存在する。よって、以下の手順では、複数の物標が存在する場合を例として説明する。ただし、説明の簡単のために、2つの物標の場合を例とする。ここで、2つの物標が存在する場合のピークについて、図8を用いて説明する。
【0041】
図8(A)、(B)は、2つのFM−CWピークが検出された場合を示す。ここでは、2つの物標の相対距離、相対速度の少なくともいずれかが異なり、それぞれの物標から得られたビート信号Sb1、Sb2が異なるビート周波数を有する場合が示される。よって、周波数上昇期間では、図8(A)に示すように、ビート周波数α1のFM−CWピークPk_u1とビート周波数α2のFM−CWピークPk_u2が検出され、周波数下降期間では、図8(B)に示すように、ビート周波数β1のFM−CWピークPk_d1とビート周波数β2のFM−CWピークPk_d2が検出される。
【0042】
図7に戻り、手順S10では、信号処理装置14は、周波数上昇期間でのFM−CWピークと周波数下降期間でのFM−CWピークをペアリングする。図8(A)、(B)の例では、信号処理装置14は、周波数上昇期間と周波数下降期間のそれぞれで、たとえばレベルが一致するピーク同士をペアリングする。すなわち、レベルL1のFM−CWピークPk_u1、Pk_d1をペアリングし、レベルL2のFM−CWピークPk_u2、Pk_d2をペアリングする。
【0043】
手順S12では、距離速度検出手段14bが、ペアリングされたFM−CWピーク対のビート周波数、つまりFM−CWピークPk_u1のビート周波数α1とFM−CWピークPk_d1のビート周波数β1、及びFM−CWピークPk_u2のビート周波数α2とFM−CWピークPk_d2のビート周波数β2に基づき、上記の式(1)、(2)によりそれぞれの物標の相対速度・相対距離を検出する。ここにおいて、距離速度検出手段14bは、本発明における「距離検出手段」に対応する。
【0044】
このようにして、FM−CWピークPk_u1、Pk_u2、Pk_d1、Pk_d2に基づき、各物標の相対距離、相対速度が検出される。次に、手順S14以降は、FM−CWモードでの検出結果の正確性を確認するために実行される。
【0045】
手順S14では、信号処理装置14は、2つの物標の相対速度が同じかを判断する。判断結果が「No」の場合には、手順S16に進む。
【0046】
手順S16では、位相検出手段14cがFM−CWピークPk_u1、Pk_u2、Pk_d1、Pk_d2それぞの位相を検出し、方位角検出手段14dが各ピークのアンテナ12_1、12_2における位相差に基づいて方位角を検出する。このとき、ペアリングしたFM−CWピークのうち、周波数上昇期間のFM−CWピークPk_u1、Pk_u2のそれぞれにおける位相差から方位角を検出してもよいし、周波数下降期間でのFM−CWピークPk_d1、Pk_d2それぞれにおける位相差から方位角を検出してもよい。あるいは、両者の平均を求めてもよい。
【0047】
手順S18では、信号処理装置14は、FM−CWモードで検出した2つの物標の相対速度を基準として、それぞれの相対速度が検出されるようなCWピークを抽出する。このとき、上記の式(4)において、相対速度を特定することでビート周波数が導出される。よって、導出されたビート周波数に対応するCWピークを抽出する。ここで、図8(C)に示すように、2つの物標の相対速度が異なる場合には、ビート周波数γ1を有するCWピークPk_c1と、ビート周波数γ2を有するCWピークPk_c2が検出されており、CWピークPk_c1、Pk_c2のそれぞれがFM−CWモードで検出された2つの物標の相対距離のいずれかに対応づけられる。
【0048】
手順S19では、位相検出手段14cが抽出されたCWピークのそれぞれの位相を検出し、方位角検出手段14dが検出された位相のアンテナ12_1、12_2における位相差に基づいて方位角を検出する。なお、CWピークに基づく方位角の検出方法は、図2により説明される。この場合、図2におけるビート信号Sb1、Sb2のビート周波数Δfはドップラ周波数に対応する。
【0049】
そして、手順S20では、信号処理装置14は、FM−CWピークに基づき検出した方位角と、相対速度により対応づけられたCWピークに基づき検出した方位角が一致するかを確認する。ここでは、物標ごとにCWピークPk_c1、Pk_c2が検出されており、受信位相が合成されていないので、CWピークPk_c1、Pk_c2に基づいて求めた方位角が正確な方位角の判定基準として用いられる。
【0050】
方位角が一致するとき、判断結果は「Yes」であるので、手順S22に進み、信号処理装置14は、検出した相対距離、相対速度、及び方位角を出力する物標情報として確定し、処理を終了する。そして、確定された物標情報の履歴が複数回接続する場合には、車両制御装置に出力される。
【0051】
一方、手順S20で、FM−CWピークに基づく方位角がCWピークに基づく方位角と異なる場合、手順S10で誤ったペアリングをしていると判断する。たとえば、周波数上昇期間と周波数下降期間とでそれぞのれFM−CWピークのレベルが近似する場合に、誤ったペアリングが行われる場合がある。よって、かかる場合には、判断結果は「No」であるから手順S24に進み、信号処理装置14は、ペアリングが失敗したと判断して物標情報を確定せずに処理を終了する。
【0052】
次に、2つの物標の相対速度が同じ場合について説明する。この場合、手順S14での判断結果は「Yes」であるので、手順S26に進む。
【0053】
手順S26では、信号処理装置14は、2つの物標の相対距離が同じであるかを確認する。そして、判断結果が「No」であれば、手順S28に進む。
【0054】
手順S28では、位相導出手段14fは、FM−CWピークの位相を合成し、合成位相を導出する。図8(A)、(B)の例では、周波数上昇期間のFM−CWピークPk_u1とPk_u2の位相を検出してその合成位相を導出する。そして、手順S30では、方位角検出手段14dが、合成された位相から方位角を検出する。ここで、合成した位相からは虚偽の方位角が検出される。
【0055】
手順S32では、信号処理装置14は、手順S18と同様にして、FM−CWピークに基づいて検出した相対速度が検出されるようなCWピークを抽出する。このとき、2つの物標の相対速度が同じなので、CWモードでは同じ周波数のビート信号の位相が合成されている。よって、図8(D)に示すように、合成位相を有する単一のCWピークPk_c3が検出される。
【0056】
手順S33では、方位角検出手段14dがCWピークPk_c3における位相に基づいて方位角を検出する。このときの位相は上述したように合成位相であるので、虚偽の方位角が検出される。
【0057】
手順S34では、信号処理装置14は、手順S30で検出したFM−CWピークの合成位相に基づく方位角と、手順S33で検出したCWピークの合成位相に基づく方位角とが一致するかを確認する。判断結果が「Yes」の場合、つまり合成位相に基づく虚偽の方位角同士が一致した場合、少なくともFM−CWピークのペアリングは正確に行われていることが確認される。よって、手順S22に進み、信号処理装置14は物標情報を確定する。
【0058】
一方、判断結果が「No」の場合、ペアリングが失敗したと判断し、物標情報を確定することなく処理を終了する。あるいは、後述する変形例における手順を実行する。
【0059】
次に、2つの物標の相対距離と相対速度がいずれも同じ場合について説明する。この場合、FM−CWモードでは2つの物標からは同じ周波数の受信信号が得られるので、同じビート周波数のビート信号が生成される。そして、同じ周波数の受信信号の位相が合成されるので、ビート信号でも位相が合成される。よって、周波数上昇期間では図8(E)に示すように、合成位相を有する単一のFM−CWピークPk_u3が検出され、周波数下降期間では図8(F)に示すように、合成位相を有する単一のFM−CWピークPk_d3が検出される。
【0060】
このような場合、FM−CWモードでは単一の物標が存在しこれに起因して単一のFM−CWピークPk_u3、Pk_d3が検出されたのか、あるいは2つのビート信号が合成されたことにより単一のFM−CWピークPk_u3、Pk_d3が検出されたのかが判断できない。よって、たとえば、単一のFM−CWピークが検出されたときに、2つの物標の相対距離と相対速度が一致すると判断することが可能である。あるいは、物標情報の履歴において、物標情報が確定した物標数が減少した場合に、受信信号の合成が生じた蓋然性が高いので、2つの物標の相対距離と相対速度が一致すると判断してもよい。
【0061】
手順S26における判断結果が「Yes」の場合には、手順S36に進み、信号処理装置14は、手順S18、S32と同様にして、FM−CWピークPk_u3、Pk_d3に基づき検出した相対速度が検出されるようなCWピークを検出する。このとき、図8(D)に示したような合成位相を有する単一のCWピークPk_c3が検出される。
【0062】
そして、手順S38で、位相導出手段14fが、FM−CWピークPk_u3またはPk_d3の合成位相を分解する処理を実行する。具体的には、次のような演算処理を実行する。
【0063】
まず、FM−CWピークPk_u3またはPk_d3のレベルをPf、検出された合成位相をφf、2つの物標の検出された相対距離(ここでは同じ相対距離)をR、ビート信号Sb1、Sb2(ここでは、FM−CWピークPk_u3またはPk_d3のいずれか)の波長をλ、2つの物標に対応するFM−CWピークのレベルをPf1、Pf2、2つの物標から得られるべきFM−CWピークの位相を、φ1、φ2とすると、次の関係が成立する。
【0064】
Pf・sin(2π・λ/R+φf)=Pf1・sin(2π・λ/R+φ1)+ Pf2・sin(2π・λ/R+φ2)
・・・式(5)
以降の処理は、式(5)におけるφ1、φ2を導出するために行われる。ここで、2つの物標に対応するFM−CWピークのレベル比をαとすると、Pf2=α・Pf1となるので、上記の式(5)は次のように変形できる。
【0065】
Pf・sin(2π・λ/R+φf)=Pf1・sin(2π・λ/R+φ1)+ α・Pf1・sin(2π・λ/R+φ2)
・・・式(6)
次に、CWピークのレベルをPc、合成位相をφc、2つの物標に対応するCWピークのレベルをPc1、Pc2とすると、次の関係が成立する。
【0066】
Pc・sin(2π・λ/R+φc)=Pc1・sin(2π・λ/R+φ1)+ Pc2・sin(2π・λ/R+φ2)
・・・式(7)
ここで、レーダ送受信機10aのハードウェア特性に基づき公知のレーダ方程式によるシミュレーションを行うことにより、あるいは実験により、同一物標から得られるFM−CWピークのレベルとCWピークのレベルとの相関を求めることができる。相関係数をβとしてβ・Pf=Pcとすると、上記式(7)は、次のように変形できる。
【0067】
β・Pf・sin(2π・λ/R+φc)
=β・Pf1・sin(2π・λ/R+φ1)+β・Pf2・sin(2π・λ/R+φ2)
=β・Pf1・sin(2π・λ/R+φ1)+β・α・Pf1・sin(2π・λ/R+φ2)
・・・式(8)
ここで、2つの物標からの受信信号が合成されたときのFM−CWピークのレベルは、物標ごとに検出されるFM−CWピークのレベルの和と考えると、上記においてPf=Pf1+Pf2であるから、式(6)、式(8)から位相φ1、φ2を導出できる。たとえば、式(6)、(8)はそれぞれ次のように変形できる。
式(6):(Pf1+Pf2)・sin(2π・λ/R+φf)
=Pf1・sin(2π・λ/R+φ1)+ α・Pf1・sin(2π・λ/R+φ2)
・・・式(9)
式(8):β・(Pf1+Pf2)・sin(2π・λ/R+φc)
=β・Pf1・sin(2π・λ/R+φ1)+β・α・Pf1・sin(2π・λ/R+φ2)
・・・式(10)
ここにおいて、2つの物標に対応するFM−CWピークのレベルPf1、Pf2として、過去に検出された物標情報のうち、相対距離や相対速度が近似する2つの物標を抽出し、それぞれに対応するFM−CWピークのレベルを用いることが可能である。具体的には、レベル記憶手段14eが、2つの物標から2つのピークが検出されたとき、つまり2つの物標の相対距離、相対速度の少なくともいずれかが異なるときに、相対距離や相対速度が近似する2つの物標を抽出してかかる物標のFM−CWピークのレベルを信号処理装置14内のRAMに記憶しておく。かかる処理は、たとえば処理サイクルごとに行われる。そして、位相導出手段14fがこれを読み出す。そうすることにより、上記の式(9)、(10)において、Pf1、Pf2、λ、R、φf、α、β、φcはいずれも既知の値であり、未知数はφ1、φ2となるので、式(9)、(10)を解くことによりφ1、φ2を導出できる。
【0068】
位相導出手段14fは、上記の演算処理を実行することで、単一のFM−CWピークにおける合成位相φfをそれぞれ導出して、2つの物標から得られたビート信号のそれぞれの位相φ1、φ2を導出する。そして、手順S40では、方位角検出手段14dは、導出された位相φ1、φ2のアンテナ12_1、12_2における位相差に基づき、2つの物標の方位角をそれぞれ導出する。
【0069】
上記の手順によれば、2つの物標の相対距離と相対速度が同じであって、ビート信号が合成された場合であっても、それぞれの物標の方位角を正確に検出することが可能となる。
【0070】
次に、上記実施形態の変形例を説明する。
【0071】
図9は、変形例におけるレーダ送受信機10aの概略構成を説明する図である。ここでは、レーダ送受信機10aは、図2で示した構成に加え、受信信号Sr3を受信する受信用アンテナ12_3を備え、受信信号Sr3からビート信号Sb3を生成する。そして、信号処理装置14は、図2で説明した方法により、ビート信号Sb2の位相φ2とビート信号Sb3の位相φ3の位相差Δφ´から、方位角θを検出する。ここで、アンテナ12_1と12_2の距離dと、アンテナ12_2と12_3の距離d´とが異なることにより、ビート信号Sb1、Sb2に基づき方位角θを検出する場合とは異なった検出値を用いて方位角θを検出する。よって、2つの結果を照合することで、方位角θの確度を向上させることができる。
【0072】
図10は、変形例におけるレーダ装置10の動作手順を説明する図である。図10は、図7で示した手順に対し、手順S34の後に手順35、手順50が追加された点が異なる。
【0073】
図10の手順によれば、手順S34において、手順S30で検出したFM−CWピークの合成位相に基づく方位角と、手順S33で検出したCWピークの合成位相に基づく方位角とが一致するかを確認したときに、判断結果が「No」の場合、手順S35に進む。
【0074】
手順S35では、信号処理装置14は、FM−CWピークのアンテナ12_1、12_2における位相差Δφと、アンテナ12_2、12_3における位相差Δφ´のばらつきが大きいかを、たとえば予め設定した閾値と比較することで確認する。ここで、判断結果が「No」の場合、つまりばらつきが小さい場合には、少なくともFM−CWピークのペアリングは正確に行われていることが確認される。よって、手順S22に進み、信号処理装置14は物標情報を確定する。
【0075】
一方、判断結果が「No」の場合はペアリングが失敗したと判断し、手順S50に進み、位相合成信頼度処理が実行される。
【0076】
図11は、位相合成信頼度処理の手順を説明するフローチャート図である。図11は、図10における手順S50のサブルーチンに対応する。
【0077】
手順S52では、方位角検出手段14dが、アンテナ対12_1、12_2と、12_2、12_3ごとに方位角を検出する。そして、手順S54では、信号処理装置14は、検出された方位角のばらつきが大きいか、たとえば検出された方位角が予め設定された誤差範囲内であるかを確認する。ばらつきが小さければ判断結果は「No」であるので、図10の手順S22に進み、物標情報を確定する。一方、ばらつきが大きければ判断結果は「Yes」であるので、手順S56に進む。
【0078】
信号処理装置14は、手順S56で、複数物標が存在すると判定し、手順S58で、過去に検出された複数物標の物標情報に基づいて、それぞれの物標の現時点での方位角を予測する。たとえば、相対距離と方位角から導出される物標の位置の時間変化と、相対速度とに基づいて、現時点の物標の位置を予測し、予測された位置に対応する方位角を予測値として導出する。
【0079】
手順S60では、距離速度検出手段14bは、予測された複数物標の方位角に対応する、各物標の相対速度、相対距離を導出する。このとき、たとえば相対速度を一定とすることで、処理が簡略化される。そして、導出された相対速度、相対距離に対応する周波数を予測して、現在の処理サイクルで同じ周波数のビート信号が生成されたかを確認する。
【0080】
ここで、判断結果が「No」の場合、手順S70に進む。同じ周波数のビート信号が生成されていない場合には、受信信号が合成されたことによりビート信号の位相が合成され、手順S52で検出された方位角は合成位相に基づく虚偽の方位角である可能性が大きい。よって、信号処理装置14は、これらを物標情報として確定せずに、手順S70では、手順S58で予測した方位角を物標情報として確定する。
【0081】
一方、手順S60での判断結果が「Yes」の場合、手順S62に進む。手順S62では、信号処理装置14は、手順S52で検出された方位角が手順S58で予測された方位角と一致(予め設定される任意の誤差範囲内である場合を含む)するかを確認する。一致する場合、判断結果は「Yes」であるので、手順S70に進み、予測された方位角を物標情報として確定する。一致しない場合、判断結果は「No」であるので、手順S64に進む。
【0082】
手順S64では、位相導出手段14fが、予測された方位角と、検出された相対距離と、ビート信号の周波数とに基づき、物標ごとに、ビート信号の位相を推定する。具体的には、上述した式(5)を解く演算処理を行う。その際、過去に検出された物標情報のうち、相対距離や相対速度が近似する2つの物標を抽出し、それぞれに対応するFM−CWピークのレベルをPf1、Pf2とし、検出されたFM−CWピークのレベルをPf、位相をφf、検出された相対距離をR、ビート信号の波長をλ、2つの物標から得られるべきFM−CWピークの位相を、φ1、φ2とする。そして、推定した位相を用いて、ビート信号の合成位相を導出する。
【0083】
手順S66では、方位角検出手段14dが、導出された合成位相に基づき方位角を導出する。ここで、この方位角は虚偽の方位角である蓋然性が高い。
【0084】
手順S68では、信号処理装置14は、手順S52で検出された方位角と、手順S66で導出された方位角とが一致(予め設定される任意の誤差範囲内である場合を含む)するかを確認する。一致する場合、判断結果は「Yes」となり、手順S52で検出された方位角が、位相合成に基づく虚偽の方位角であることが確認されたので、手順S70に進み、予測された方位角を物標情報として確定する。一致しない場合、判断結果は「No」であるので、物標情報を確定せずに、処理を終了する。
【0085】
このような手順によれば、2つの物標の相対距離と相対速度が同じであって、ビート信号が合成された場合であっても、合成方位角に基づく虚偽の方位角を物標情報として確定することを回避でき、過去に検出された物標情報の履歴に基づいて、より確度良く推測された方位角を物標情報として確定することができる。なお、図11で説明した位相合成信頼度処理は、本発明者らによる特願2008−266504に記載されている。
【0086】
なお、上述の説明では、理解を容易にするために2つの物標が存在する場合を例として示した。しかしながら、3つ以上の物標が存在する場合であっても、本実施形態は適用される。
【0087】
以上、説明したとおり、本発明によれば、FM−CW方式と位相モノパルス方式とを併用したレーダ装置において、同じ相対距離と相対速度を有する複数の物標が存在する場合であっても、個々の物標の方位角を正確に検出することが可能となる。
【符号の説明】
【0088】
10:レーダ装置、10a:レーダ送受信機、12_1、12_2:アンテナ、14:信号処理装置、14b:距離速度検出手段、14c:位相検出手段、14d:方位角検出手段、14e:レベル記憶手段、14f:位相導出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数変調した送信信号を送信して、受信用のアンテナごとに送受信信号の周波数差を有するビート信号を生成するレーダ送受信機の信号処理装置であって、
前記ビート信号の周波数に基づいて物標の相対距離を検出する距離検出手段と、
前記ビート信号の位相を検出する位相検出手段と、
複数の物標のそれぞれに対応して前記ビート信号が生成されたときに、第1の物標に対応する前記ビート信号の第1のレベルと第2の物標に対応する前記ビート信号の第2のレベルとを記憶するレベル記憶手段と、
前記複数の物標に対応して単一のビート信号が生成されたときに、当該単一のビート信号のレベルが第1の位相に対応する前記第1のレベルと第2の位相に対応する前記第2のレベルの和と一致するような当該第1、第2の位相を、前記ビート信号の波長と前記複数の物標の相対距離とに基づき導出する位相導出手段と、
アンテナ対における前記第1の位相の差に基づいて第1の物標の方位角を、前記第2の位相の差に基づいて第2の物標の方位角をそれぞれ導出する方位角検出手段を有することを特徴とする信号処理装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記レーダ送受信機が、さらに所定周波数の送信信号を送信して、受信用の前記アンテナごとに送受信信号の周波数差を有するビート信号を生成し、
前記位相導出手段は、前記複数の物標に対応して、前記周波数変調された送信信号に基づく単一の第1のビート信号が生成され、かつ前記所定周波数の送信信号に基づく単一の第2のビートが生成されたときに、前記第1、第2の位相を、前記第1のビート信号の波長と、前記複数の物標の相対距離と、さらに前記第1、第2のビート信号のレベル比とに基づいて導出することを特徴とする信号処理装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の信号処理装置を有するレーダ装置。
【請求項4】
車両に搭載され、前記車両周囲の物標の相対距離、方位角を検出する請求項3に記載のレーダ装置。
【請求項5】
周波数変調した送信信号を送信して、受信用のアンテナごとに送受信信号の周波数差を有するビート信号を生成するレーダ送受信機の信号処理装置における信号処理方法であって、
前記ビート信号の周波数に基づいて物標の相対距離を検出する工程と、
前記ビート信号の位相を検出する工程と、
複数の物標のそれぞれに対応して前記ビート信号が生成されたときに、第1の物標に対応する前記ビート信号の第1のレベルと第2の物標に対応する前記ビート信号の第2のレベルとを記憶する工程と、
前記複数の物標に対応して単一のビート信号が生成されたときに、当該単一のビート信号のレベルが第1の位相に対応する前記第1のレベルと第2の位相に対応する前記第2のレベルの和と一致するような当該第1、第2の位相を、前記複数の物標の相対距離に基づき導出する工程と、
アンテナ対における前記第1の位相の差に基づいて第1の物標の方位角を、前記第2の位相の差に基づいて第2の物標の方位角をそれぞれ導出する工程とを有することを特徴とする信号処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2011−80902(P2011−80902A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−234369(P2009−234369)
【出願日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】