説明

信号処理装置及び計測装置

【課題】安価で信頼性の高い信号処理装置を提供する。
【解決手段】被計測物の変位に応じた複数の周期信号に基づいて、前記変位に係る波数および位相の組み合わせを得る信号処理装置であって、前記複数の周期信号のサンプリング毎に該複数の周期信号から位相を得る第1手段と、サンプリング毎に前記第1手段により得られた位相に基づく波数および位相の組み合わせに対して回帰演算を行うことにより、サンプリング間隔における前記位相の変化量を得る第2手段と、第1サンプリングでの前記組み合わせに前記変化量を加算して第2サンプリングでの前記組み合わせを予測する第3手段と、前記第1手段により得られた前記第2サンプリングでの位相から、前記第3手段により予測された前記組み合わせの予測誤差を得る第4手段と、前記第3手段により予測された前記組み合わせに前記予測誤差を加算して前記第2サンプリングでの前記組み合わせを得る第5手段とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は信号処理装置に係り、特に、被計測物の位置又は角度を計測する計測装置に用いられる信号処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
計測装置としてのエンコーダは、一般的に、一定ピッチで光の透過部と遮光部が設けられたスケールを透過する光量を計測する。また、計測装置としてのレーザ干渉計は、一般的に、レーザ光線を二つの光束に分岐し、その一方を可動部に設けられた鏡で反射させ、他方を固定部に設けられた鏡で反射させ、これらの干渉光の強度を計測する。
【0003】
いずれの計測装置においても、被計測物の位置又は角度の変位に応じて位相が変化する正弦波状の信号を出力する。これらの計測装置は、一般的に、サイン関数及びコサイン関数で近似されて位相が互いに90度異なる二相信号を出力する装置、又は、位相が互いに120度異なる三相信号を出力する装置など、位相が異なる複数の信号を出力する装置である。信号処理装置は、一般的に、これらの信号に対して、例えばアークタンジェント演算等の処理を施して信号位相を求めることにより微細な位置情報を得て、信号の波数を計数することにより粗い位置信号を得る。
【0004】
従来、信号の波数の計数は、一般的に、サイン信号及びコサイン信号をコンパレータにより二値信号に変換し、一方の信号の立上り及び立下りと他方の信号のレベルから移動方向を判定しながら移動を検出し、アップダウンカウンタで波数を計数していた。
【0005】
図5は、従来の信号処理装置(計測装置)の一例である。60はエンコーダであり、位置又は角度を検出して所定の信号を出力する検出手段である。エンコーダ60は、シャフトの回転角度θに応じてcos(nθ)、sin(nθ)に比例する信号を出力する。ここで、nはエンコーダ60の1回転あたりの信号周期であり、その信号周期は、一般的には数百から数千程度である。
【0006】
エンコーダ60からの出力信号は、オペアンプ2−1、2−2で適切なレベルに増幅される。これらの増幅信号は、第一のボルテージフォロア構成のオペアンプ3−1、3−2でインピーダンスの調整がなされた後、ローパスフィルタ4−1、4−2を経て、A/D変換器5−1、5−2によりデジタル信号に変換される。デジタル信号の出力は、デジタルシグナルプロセッサ6(信号処理装置)に入力され、アークタンジェント演算により位相(位相角)が算出される。
【0007】
ところで、エンコーダ60は、シャフト1回転当たり数百から数千の同様の信号を出力し、実用上、現在の角度がいずれの信号周期に相当するかの識別が必要とされる。このため、エンコーダ60からの出力信号は、オペアンプ2−1、2−2で増幅された後、第二のボルテージフォロア構成のオペアンプ7−1、7−2を経てコンパレータ8−1、8−2により二値化される。波数の計数は、これらの二値信号を用いて、アップダウンカウンタ11により行われる。
【0008】
波数の計数のため、双方の二値信号はD−FF9−1、9−2(ディレイ−フリップフロップ)でクロックに同期してサンプリングされる。D−FF9−1からの二値化信号の出力(A相)は、更にもう一段のD−FF9−3に入力される。
【0009】
一段目のD−FF9−1の出力がLであり、かつ、2段目のD−FF9−3の出力がHである場合、すなわちA相信号の立ち上がりであり、かつB相信号がHである場合、ANDゲート10−1はアップダウンカウンタ11を増加させる。一段目D−FF9−1の出力がHであり、かつ、2段目のD−FF9−3の出力がLである場合、すなわちA相信号の立下りであり、かつB相信号がHである場合、ANDゲート10−2はアップダウンカウンタ11を減少させる。
【0010】
アップダウンカウンタ11の出力は、デジタルシグナルプロセッサ6に入力され、その内部において、位相情報と組合せることにより桁拡張した位相情報が形成される。
【0011】
このように、位相情報の桁拡張を精度良く行うには、多数の部品が必要となる。例えば、コンパレータ8−1、8−2の前段には、ボルテージフォロア構成のオペアンプ7−1、7−2が挿入されている。これを省略すると、オペアンプにヒステリシスを与えるために正帰還された信号がコンパレータの入力抵抗を逆流して、最終的にはA/D変換器5−1、5−2に悪影響を与えることになる。
【0012】
また、二値化信号を受ける初段のD−FF9−1、9−2を省略すると、クロック信号とコンパレータの動作タイミングによっては、極めて幅の狭い信号がアップダウンカウンタ11に入力される可能性があり、誤動作を招く要因となる。
【0013】
近年では、A/D変換器や、位相角を演算する信号処理装置は高速化され、コンパレータなどを用いることなく桁拡張が可能となっている。
【0014】
図6は、桁拡張に用いられる従来の信号処理装置のブロック図である。A/D変換されて信号処理装置に入力されたエンコーダ信号は、位相演算器70により位相に変換される。信号処理装置の内部には、桁拡張された位相情報を保持するレジスタ80が設けられている。
【0015】
位相演算器70によって新たに位相が算出されると、減算器85は、算出された新しい位相情報からレジスタ80に保持されている位相情報を減算して位相変位量を算出する。加算器87は、位相変位量を桁拡張した値をレジスタ80に保持されている桁拡張された位相情報に加算する。このようにして、レジスタ80に保持された値は、最新の桁拡張された位相情報に更新される。
【0016】
また、特許文献1には、スリットの数をカウントして得られる上位データと、1つの正弦波を電気的に分割して得られる下位データとを組み合わせて、角度データを出力する光学式エンコーダが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2003−35569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
上述のような手法を用いて位相情報を更新する場合、桁拡張が可能な最大の変位量が存在する。すなわち、変位量は、位相情報の最大値の1/2に制限され、この値を超える速度でシャフトが回転した場合、誤動作の要因となる。
【0019】
例えば、1回転あたり1000周期の位置信号を出力するエンコーダで、最大回転速度を6,000rpm(100rps)とする場合、信号の最大周波数は100kHzとなる。この場合、サンプリング周波数が200kHzであるA/D変換器を用いて、同じ速度で位相演算と桁拡張を行うと、各操作周期における位相信号の変化量は1/2周期以下に制限され、誤動作は生じない。
【0020】
このような装置は、部品点数が削減され、一般に低コストで小型の装置が構成可能であるという利点がある。しかしながら、予期せぬ外乱により最高許容速度を超えた場合、ミスカウントが発生するという信頼性上の問題がある。
【0021】
また、高分解能のエンコーダを用いる場合、最大速度の制限がより厳しくなり、これを緩和するために高速のA/D変換器を用いて高速処理が可能な演算装置を用いた場合、コスト高になるという問題があった。
【0022】
本発明は、上述の問題を回避するためになされたものであって、安価で信頼性の高い信号処理装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の一側面としての信号処理装置は、被計測物の変位に応じた複数の周期信号に基づいて、前記変位に係る波数および位相の組み合わせを得る信号処理装置であって、前記複数の周期信号のサンプリング毎に該複数の周期信号から位相を得る第1手段と、サンプリング毎に前記第1手段により得られた位相に基づく波数および位相の組み合わせに対して回帰演算を行うことにより、サンプリング間隔における前記位相の変化量を得る第2手段と、第1サンプリングでの前記組み合わせに前記変化量を加算して第2サンプリングでの前記組み合わせを予測する第3手段と、前記第1手段により得られた前記第2サンプリングでの位相から、前記第3手段により予測された前記組み合わせの予測誤差を得る第4手段と、前記第3手段により予測された前記組み合わせに前記予測誤差を加算して前記第2サンプリングでの前記組み合わせを得る第5手段とを有する。
【0024】
本発明の他の目的及び特徴は、以下の実施例において説明される。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、安価で信頼性の高い信号処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本実施例における信号処理装置のブロック図である。
【図2】本実施例における回帰演算器のブロック図である。
【図3】本実施例におけるエンコーダの概略構成図である。
【図4】本実施例におけるレーザ干渉計の(a)側面図、及び、(b)正面図である。
【図5】従来の信号処理装置の一例である。
【図6】従来の信号処理装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施例について、図面を参照しながら詳細に説明する。各図において、同一の部材については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0028】
まず、本実施例における計測装置の構成について説明する。本実施例の計測装置は、被計測物の位置(位置又は角度)を計測する計測装置であり、被計測物の位置に応じた信号を検出する検出手段と、その信号に基づいて被計測物の位置を求める信号処理装置とを備える。本実施例の計測装置としては、例えば、エンコーダ、レーザ干渉計、及び、レゾルバが挙げられる。本実施例では、特に、エンコーダ及びレーザ干渉計の代表的な構成について説明する。
(エンコーダ200の構成)
まず、計測装置の一例として用いられるエンコーダの構成について説明する。図3は、本実施例におけるエンコーダ200の概略図である。
【0029】
エンコーダ200は、光学式のリニアエンコーダであり、被計測物の直線的な機械変位量を計測するものである。ただし、本実施例はこれに限定されるものではなく、被計測物の角度を計測するロータリーエンコーダにも適用可能である。
【0030】
図3に示されるように、エンコーダ200は、可動スケール90、固定スケール120、発光素子(発光ダイオード)140、及び、受光素子(フォトダイオード)150からなる。
【0031】
可動スケール90は、被計測物とともに直線的に移動可能に構成されている。一方、固定スケール120は固定されている。エンコーダ200は、発光素子140と受光素子150の間に可動スケール90及び固定スケール120を配置した構成となっている。可動スケール90には、移動した距離を計測するために、一定幅のスリット100が設けられている。
【0032】
固定スケール120は、可動スケール90に対向して配置されており、同一ピッチの固定スリット130を有する。固定スケール120の右半分と左半分は、位相が90度異なる位置、すなわちスケールピッチの1/4だけ異なる位置に開口が設けられている。固定スケール120の裏面、すなわち可動スケール90が配置されている側の面とは反対の面には、受光素子150が設けられている。受光素子150は、固定スケールの右半分と左半分の位置に対応する二つの受光部を有し、それぞれ、互いに位相が90度異なるコサイン信号及びサイン信号を出力する。
【0033】
可動スケール90の裏面、すなわち固定スケール120が配置されている側の面とは反対の面には、発光素子140が設けられている。被計測物の変位長さを計測するため、発光素子140は常時点灯する。発光素子140の光は、可動スケール90が移動することにより、透過又は遮断する。
【0034】
上述のように、エンコーダ200の検出手段により得られたコサイン信号及びサイン信号は、後述の信号処理装置1へ供給され、被計測物の位置又は角度が計測される。
(レーザ干渉計300の構成)
次に、本実施例の計測装置として用いられるレーザ干渉計300の構成について説明する。図4(a)はレーザ干渉計300の側面図、図4(b)はレーザ干渉計300の正面図である。
【0035】
レーザ干渉計300には、高可干渉性のシングルモード半導体レーザLD(半導体レーザLD)として、レーザ波長λが安定な0.85μmの面発光(VCSEL)レーザが用いられる。半導体レーザLDからの光束は、コリメータレンズCOL1によりコリメート光(平行光)になる。そして、レンズLNS1にハーフミラーNBSを介し、レンズLNS2の焦点面の位置P1に集光照明する。
【0036】
位置P1からの光束を、レンズLNS2より、光軸がわずかに斜めの平行光束を射出させる。また、偏光ビームスプリッタ(光分割手段)PBSを用い、偏光成分において2光束に分離する。偏光ビームスプリッタPBSからの反射光(S偏光)を参照ミラーM1(参照面)に入射させ、偏光ビームスプリッタPBSからの透過光(P偏光)をミラーM2(被計測物)に入射させる。
【0037】
そして、それぞれの反射光を、偏光ビームスプリッタPBSを介して合成し、レンズLNS2の焦点面の位置P2に集光照明し、その近傍に設けられた反射膜M0により、元の光路に戻す。位置P2からの反射光は、レンズLNS2より平行光束として射出させ、偏光ビームスプリッタPBSにて2光束に分離し、反射光(S偏光)で参照ミラーM1を照明し、透過光(P偏光)でミラーM2(被計測物)を照明する。
【0038】
それぞれの反射光は、偏光ビームスプリッタPBSを介して、レンズLNS2の焦点面の位置P1を集光照明する。
【0039】
そこから光源側に光束を取り出す。(S偏光は、参照ミラーM1とビームスプリッタPBSの間を2往復し、P偏光は、ミラーM2(被計測物)とビームスプリッタPBSの間を2往復する)。これらの光束は、非偏光ビームスプリッタ(ハーフミラー)NBSにより、受光系側に取り出し、1/4波長板QWPを透過させて、位相差の変化に応じて偏光方位回転する直線偏光に変換する。
【0040】
この光束を集光レンズCON、アパーチャーAPを介してビーム分割素子GBSにて3光束に分割する。この3光束は、互いに60度ずつ透過軸をずらして配置した偏光素子アレイ3CH−POLに入射する。偏光素子アレイ3CH−POLを通過した光は、3分割受光素子PDAの受光部に入射する。
【0041】
このように、レーザ干渉計300の検出手段は、ミラーM2(被計測物)の面外変位に基づく位相が120度ずつずれたそれぞれ3つの干渉信号UVWを検出される。検出手段にて検出された干渉信号UVWは、信号処理装置1に入力される。
(信号処理装置1の構成)
次に、本実施例における信号処理装置について説明する。図1は、本実施例における信号処理装置1のブロック図である。信号処理装置1は、被計測物の位置又は角度を計測する計測装置に用いられる信号処理装置である。なお、角度は位置の概念に含まれるため、以降の説明においては、「位置又は角度」をまとめて「位置」と表記する。
【0042】
図1に示されるように、信号処理装置1は、位相演算器12、レジスタ16、17、18、回帰演算器19、加算器21、22、及び、減算器23、24から構成される。
【0043】
位相演算器12は、所定のサンプリング間隔で、被計測物の位置に応じて出力された信号にアークタンジェント演算等の処理を施し、信号位相(計測位相)を算出する。位相演算器12は、例えば、上述のエンコーダ200にて検出されたコサイン信号及びサイン信号、又は、上述のレーザ干渉計300にて検出された3つの干渉信号に基づいて、被計測物の位置に応じた信号の位相を算出する。
【0044】
レジスタ16は、被計測物の予測位置(予測桁拡張位相情報)を保持(記憶)するための予測位置保持部である。被計測物の予測位置は、後述のように、レジスタ17に記憶された現在位置に、回帰演算器19にて算出された速度情報(1サンプリング間隔における位相変位量)を加算することにより求められる。
【0045】
ここで、第1のサンプリングの次のサンプリングを第2のサンプリングとすると、被計測物の予測位置は、第2のサンプリング時における被計測物の予測位置である。また、被計測物の現在位置は、第1のサンプリング時における被計測物の位置である。
【0046】
被計測物の位置(原点を基準とした変位量)は、周期信号1周期の倍数に相当する値(波数)、及び、周期信号1周期未満の値(位相)によって表すことができる。このため、レジスタ16は波数を保持する波数部と位相を保持する位相部とから構成され、予測位置は波数部及び位相部の組み合わせにより表される。
【0047】
波数部及び位相部のそれぞれは、例えば、10ビットのビット数を備える。ただし、波数部及び位相部のビット数はこれに限定されるものではなく、要求精度に応じて適宜変更可能である。より精度の高い演算が要求される場合には、波数部及び位相部のそれぞれのビット数を、例えば16ビットで構成することができる。以下、本実施例においては、波数部を上位ビットと呼び、位相部を下位ビットと呼ぶ場合がある。
【0048】
位相演算器12により算出される計測位相は、レジスタ16の位相部(下位ビット)と同等のビット数で表される。このため、位相演算器12により新たな位相情報が得られた場合、減算器23により、位相演算器12で算出された計測位相からレジスタ16の下位ビット(位相部)における保持値を減算する。この値は、計測位相とレジスタ16に保持された予測位置との差(予測誤差)である。
【0049】
このように、減算器23は、位相演算器12で求められた第2のサンプリング時の計測位相から被計測物の予測位置を減算して予測誤差を求める誤差演算手段である。より具体的には、減算器23は、計測位相から予測位置の位相部を減算して予測誤差を算出する。
【0050】
減算器23で算出された予測誤差は、符号拡張(桁拡張)されて、加算器21により、レジスタ16に保持されている予測位置に加算される。加算器21による算出値は、被計測物の現在位置を表している。この値は、レジスタ17に保持(格納)される。このように、加算器21は、桁拡張した予測誤差を予測位置に加算することにより、第2のサンプリング時における被計測物の位置を求める位置演算手段である。より具体的には、加算器21は、桁拡張した予測誤差を予測位置の波数部及び位相部に加算することにより、第2のサンプリング時における被計測物の位置を求める。
【0051】
レジスタ17は、被計測物の現在位置(現在桁拡張位相情報)を保持(記憶)するための現在位置保持部である。レジスタ17も、レジスタ16と同様に、波数部(上位ビット)と位相部(下位ビット)とから構成されている。新たな位相情報がレジスタ17に保持される直前に保持されていた値は、被計測物の前回位置である。この前回位置は、前サンプリング時における被計測物の位置を示している。新たな位相情報がレジスタ17に格納される前に、この前回位置は、レジスタ18に退避される。
【0052】
レジスタ18は、被計測物の前回位置(前回桁拡張位相情報)を保持(記憶)するための前回位置保持部である。レジスタ18も、レジスタ16、17と同様に、波数部(上位ビット)と位相部(下位ビット)とから構成されている。上述のとおり、レジスタ18は、新たな位相情報がレジスタ17に格納される前に、その直前にレジスタ17に保持されていた値(前回位置)をそのまま保持する。
【0053】
レジスタ17に保持された現在位置とレジスタ18に保持された前回位置との差は、位相の変位量である。減算器24は、レジスタ17(波数部及び位相部)に保持された現在位置から、レジスタ18(波数部および位相部)に保持された前回位置を減算する。この減算値は、回帰演算器19に入力される。
【0054】
回帰演算器19は、被計測物の位置に応じた信号の位相を時間に対して回帰することにより、前記被計測物の速度を算出する回帰演算手段である。このような信号の位相は、所定のサンプリング間隔(時間間隔)で得られる。回帰演算器19としては、例えばカルマンフィルタが用いられる。カルマンフィルタは、計測位相に指数関数的重み係数を乗じることにより速度を算出する動的一次回帰演算装置である。ただし、本実施例はこれに限定されるものではなく、カルマンフィルタ以外の回帰手段を用いてもよい。
【0055】
回帰演算器19は、回帰演算により、被計測物の速度情報(1サンプリング間隔における位相変位量)を算出する。また、回帰演算器19は、速度情報とともにノイズを算出する。このノイズは、レジスタ17に保持されている現在位置の情報を利用することにより抑制できるが、本実施例における説明は省略する。
【0056】
図2は、本実施例における回帰演算器19の一例であるカルマンフィルタのブロック図である。
【0057】
DPは、レジスタ17に保持されている現在位置とレジスタ18に保持されている前回位置との差である。PDPは、位相の差DPを格納するためのレジスタである。レジスタPDPは、所定のPビットだけ右シフトして、位相の差DPを格納する。
【0058】
レジスタPDPの値からレジスタFXの値を減算した値は、レジスタQに格納される。次に、レジスタQの値をPビットだけ右シフトした値をレジスタPQに格納する。また、レジスタQの値からレジスタPQの値を減算した値がレジスタFXに格納される。
【0059】
レジスタPQの値にレジスタVXの値を加算した値は、レジスタBに格納される。レジスタBに格納された値は、回帰式における傾き(回帰係数)を示し、レジスタBは速度情報(位相変位速度)に対応する値を保持することになる。後述のとおり、この速度情報は、被計測物の予測位置を算出するために用いられる。
【0060】
レジスタBの値をPビットだけ右シフトした値は、レジスタPBに格納される。次に、レジスタBの値からレジスタPBの内容を減算した値が、レジスタVXに格納される。レジスタFXの値からレジスタVXの値を減算した値Cは、回帰式における定数項となる。この定数項は、ノイズを除去する目的にも利用できる。
【0061】
図1に示されるように、回帰演算器19により算出された速度情報は、加算器22により、レジスタ17に保持された現在位置に加算される。加算器22は、第1のサンプリング時における被計測物の位置(現在位置)に回帰演算器19で算出された速度を加算することにより、第2のサンプリング時における被計測物の予測位置を求める予測演算手段である。第2のサンプリングは、第1のサンプリングの次のサンプリングである。
【0062】
回帰演算器19から出力された速度情報は、1サンプリング間隔における位相変位量である。このため、第1のサンプリング時の被計測物の位置(位相)にこの速度情報を加算することにより、次の第2のサンプリング時における被計測物の位置(位相)を予測することができる。この予測位置は、レジスタ16に保持される。
【0063】
なお、図1において、予測位置を保持するためのレジスタ16が設けられているが、本実施例はこの構成に限定されるものでない。レジスタ16に相当する部分には加算器22の出力線があれば十分であり、レジスタ16を設けなくてもよい。
【0064】
上述のとおり、レジスタ16に保持された予測位置のうちレジスタ16の位相部(下位ビット)に保持されている値は、予測誤差を求めるために用いられる。すなわち、位相演算器12にて算出された計測位相からレジスタ16の予測位置(位相部)を減算することにより、実測値である計測位相と予測値である予測位置との誤差(予測誤差)が求められる。
【0065】
従来の信号処理装置では、被計測物の位置を算出する場合、計測位相と前回桁拡張位相情報(前回位置)との差を演算していた。このとき、1サンプリング間隔の位相変位量(速度)が位相情報の最大値の1/2より大きくなると、誤動作となる。このため、1サンプリング当たりの被計測物の変位量が算出可能な範囲は、位相情報の最大値の1/2に制限されていた。
【0066】
一方、本実施例の信号処理装置1は、計測位相と予測桁拡張位相情報(予測位置)との差を演算する。予測位置は、回帰演算器19から算出された速度情報を用いて求められるため、計測位相に対する誤差は大きくならない。このため、被計測物がより高速で変位した場合でも、被計測物の位置を検出することが可能となる。本実施例の信号処理装置1において、計測位置と予測位置との差を演算する場合、予測誤差が1/2周期以下に制限されるものの、速度には制限されない。
【0067】
上述のとおり、本実施例によれば、位相信号の桁拡張を信号処理装置の内部で行う際、簡易な構成で速度制限の大幅な緩和が可能となる。このように、本実施例によれば、安価で信頼性の高い信号処理装置を提供することができる。
【0068】
以上、本発明の実施例について具体的に説明した。ただし、本発明は上記実施例として記載された事項に限定されるものではなく、本発明の技術思想を逸脱しない範囲内で適宜変更が可能である。
【符号の説明】
【0069】
1 信号処理装置
12 位相演算器
16、17、18 レジスタ
19 回帰演算器
21、22 加算器
23、24 減算器
200 エンコーダ
300 レーザ干渉計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被計測物の変位に応じた複数の周期信号に基づいて、前記変位に係る波数および位相の組み合わせを得る信号処理装置であって、
前記複数の周期信号のサンプリング毎に該複数の周期信号から位相を得る第1手段と、
サンプリング毎に前記第1手段により得られた位相に基づく波数および位相の組み合わせに対して回帰演算を行うことにより、サンプリング間隔における前記位相の変化量を得る第2手段と、
第1サンプリングでの前記組み合わせに前記変化量を加算して第2サンプリングでの前記組み合わせを予測する第3手段と、
前記第1手段により得られた前記第2サンプリングでの位相から、前記第3手段により予測された前記組み合わせの予測誤差を得る第4手段と、
前記第3手段により予測された前記組み合わせに前記予測誤差を加算して前記第2サンプリングでの前記組み合わせを得る第5手段と、を有することを特徴とする信号処理装置。
【請求項2】
前記第4手段は、前記第1手段により得られた前記第2サンプリングでの位相から、前記第3手段により予測された前記組み合わせのうちの位相を減算して前記予測誤差を得る、ことを特徴とする請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項3】
前記第2手段は、カルマンフィルタを含む、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の信号処理装置。
【請求項4】
被計測物の変位を計測する計測装置であって、
前記変位に応じた信号を検出して複数の周期信号を出力する検出手段と、
前記複数の周期信号に基づいて、前記変位に係る波数および位相の組み合わせを得る請求項1乃至3のいずれか一に記載の信号処理装置と、を有することを特徴とする計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−29529(P2013−29529A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−245939(P2012−245939)
【出願日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【分割の表示】特願2009−8501(P2009−8501)の分割
【原出願日】平成21年1月19日(2009.1.19)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】