倒立移動装置及びその制御方法
【課題】車体の倒立状態を維持したまま、より高い段差を乗り越えることができる倒立移動装置を提供する。
【解決手段】倒立移動装置10は、路面の段差を検出する路面センサ29と、車体20の傾斜角速度θ’を検出するジャイロセンサ28と、車輪12、14の回転角速度を検出するエンコーダ22a、24aと、各センサにより検出された検出値に応じて、コントローラ70がモータ22、24に制御指令値を出力することにより、車体20を倒立状態に維持しながら路面上を走行する。コントローラ70は、路面センサ29により進行方向に段差が検出された場合は、段差を乗り越えるときに車体20を進行方向に対して後ろ側に傾斜させる。
【解決手段】倒立移動装置10は、路面の段差を検出する路面センサ29と、車体20の傾斜角速度θ’を検出するジャイロセンサ28と、車輪12、14の回転角速度を検出するエンコーダ22a、24aと、各センサにより検出された検出値に応じて、コントローラ70がモータ22、24に制御指令値を出力することにより、車体20を倒立状態に維持しながら路面上を走行する。コントローラ70は、路面センサ29により進行方向に段差が検出された場合は、段差を乗り越えるときに車体20を進行方向に対して後ろ側に傾斜させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1または複数の回転体と、その回転体に支持された車体と、を備え、車体を倒立状態に維持しながら路面上を走行する倒立移動装置に関する。本明細書中、「倒立移動装置」とは、車体の重心が回転体の回転中心よりも上方に位置し、回転体を駆動しないと車体が倒立状態を維持できない移動装置をいう。「倒立状態」とは、車体の重心と回転体の回転中心とを結んだ直線が、鉛直方向から所定角度以上傾いていない状態をいう。「車体の傾斜角」とは、車体の重心と回転体の回転中心とを結んだ直線と、鉛直方向とが成す角度をいう。
【背景技術】
【0002】
車体を倒立状態に維持しながら路面上を走行する倒立移動装置として、例えば、特許文献1の倒立移動装置が知られている。この倒立移動装置は、同一回転軸上に配置された2つの車輪と、車輪によって支持される車体と、車輪を駆動させる駆動装置と、車体の傾斜角を検出する傾斜角センサと、傾斜角センサで検出された傾斜角に応じて駆動装置に制御指令値を出力するコントローラとを備えている。
この倒立移動装置では、傾斜角センサが車体の傾斜角を検出する。コントローラは、検出した車体の傾斜角に基づいて車体の倒立状態を維持し、かつ、車体が目標速度で走行するように駆動装置に制御指令値を出力する。駆動装置は、コントローラから出力された制御指令値に基づいて車輪を駆動する。これによって、倒立移動装置は、車体を倒立状態に維持しながら、路面上を目標の速度で走行することができる。
【0003】
【特許文献1】特開2004−295430号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の倒立移動装置では、倒立移動装置が路面上の段差を乗り越える際に、車体の倒立状態を乱す外乱力が倒立移動装置に作用する。すなわち、図14に示すように、倒立移動装置60が路面104上の段差102を乗り越えようとすると、まず、倒立移動装置60の車輪が路面上の段差102に接触する。このため、倒立移動装置60の車輪には、段差から進行方向に対して後ろ側に外乱力Fが作用する。車輪に外乱力Fが作用すると、その外乱力Fによって車輪と段差との接触点Pの周りに慣性モーメントMが発生する。慣性モーメントMが発生すると、その慣性モーメントMによって車体が前側に傾斜する(図において反時計回りに回転しようとする。)。車体に作用する慣性モーメントMが小さい場合は、コントローラによって慣性モーメントMを打ち消すように駆動輪が駆動されるので、車体は倒立状態を維持したまま段差を乗り越えることができる。
しかしながら、車体に作用する慣性モーメントMが大きくなると、コントローラによって駆動輪が駆動されても、慣性モーメントMを打ち消すことができず、車体が前側に大きく傾斜する。車体が大きく傾斜し過ぎると倒立状態を維持することができなくなる。例えば、路面上の段差が高くなると、倒立移動装置の段差乗り越え時の走行速度をある程度大きくしなければ、段差を乗り越えることができない。段差乗り越え時の走行速度が大きくなると、慣性モーメントMが大きくなり、車体は倒立状態を維持することができない。このため、従来の倒立移動装置では、乗り越えることができる段差の高さに制限があり、充分な高さの段差を乗り越えることができないという問題があった。
【0005】
本発明は、上記した実情に鑑みてなされたものであり、車体の倒立状態を維持したまま、より高い段差を乗り越えることができる倒立移動装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の倒立移動装置は、1または複数の回転体と、回転体によって支持される車体と、回転体を回転させる駆動装置と、車体の進行方向の路面の段差を検出する路面センサと、車体の傾斜角及び傾斜角速度の少なくとも1つを検出する傾斜角センサと、車体の走行速度を特定可能な物理量を検出する速度センサと、コントローラを備えている。コントローラは、路面センサにより検出された路面の段差の有無と、傾斜角センサにより検出された検出値と、速度センサにより検出された検出値に応じて、駆動装置に制御指令値を出力する。また、コントローラは、路面センサにより進行方向に段差が検出された場合は、段差を乗り越えるときに車体を進行方向に対して後ろ側に傾斜させることを特徴とする。
この倒立移動装置では、路面センサにより進行方向に段差が検出された場合は、コントローラが車体を進行方向に対して後ろ側に傾斜させた状態として段差に進入する。このため、回転体が段差に接触することによって回転体と段差との接触点周りに車体を前側に傾斜させようとする慣性モーメントが発生しても、車体は後ろ側に傾斜しているので、車体が前側に大きく傾斜されることが抑制される。したがって、車体が前側に大きく傾斜することが抑えられるので、車体は倒立状態を維持したまま、より高い段差を乗り越えることができる。
ここで、「車体を進行方向に対して後ろ側に傾斜させる」とは、車輪に対して車体の重心を後ろ側に移動させることをいう。したがって、車体を本体と該本体に載置された慣性体によって構成し、その慣性体を車体の後ろ側に移動させることで車体の重心を後ろ側に移動させることも、「車体を進行方向に対して後ろ側に傾斜させる」ことに相当する。
【0007】
上述の倒立移動装置は、コントローラが、路面センサで検出された段差の高さから段差乗り越え時の車体の目標走行速度と目標傾斜角を決定する目標値決定部と、決定された目標走行速度及び目標傾斜角並びに速度センサで検出された車体の速度に応じて車体の目標速度パターンを決定する目標速度パターン決定部と、傾斜角センサで検出された傾斜角に応じて車体の倒立状態を維持し、かつ、車体の速度が決定された目標速度パターンとなるように制御指令値を算出する制御指令値算出部とを有している方が好ましい。
このような構成によると、路面センサにより進行方向に段差が検出された場合に、目標値決定部が、路面センサで検出された段差の高さから、段差乗り越え時の車体の目標走行速度と目標傾斜角を決定する。
具体的には、目標値決定部は、検出された段差を乗り越えるのに十分な目標走行速度を決定する。すなわち、段差乗り越え時の目標走行速度は、段差の高さに応じて決定される。また、段差乗り越え時に発生する慣性モーメントは、段差の高さと、段差乗り越え時の走行速度によって決まる。従って、目標決定部が、段差の高さに応じて、目標傾斜角を決定することで、段差乗り越え時に発生する慣性モーメントに応じた目標傾斜角が決定される。
目標値決定部が目標走行速度と目標傾斜角を決定すると、目標速度パターン決定部が決定された目標走行速度及び目標傾斜角並びに速度センサで検出された車体の速度に応じて車体の目標速度パターンを決定する。制御指令値算出部は、傾斜角センサで検出された傾斜角に応じて車体の倒立状態を維持し、かつ、車体の速度が決定された目標速度パターンとなるように制御指令値を算出する。算出された制御指令値はコントローラから駆動装置に出力され、倒立移動装置は倒立状態を維持しながら決定された速度パターンで走行する。これによって、倒立移動装置は、段差の高さに応じた走行速度及び傾斜角で段差に進入する。
倒立移動装置が段差に進入すると、回転体と段差との接触点周りに慣性モーメントが発生する。このとき、車体は、段差の高さに応じて(すなわち、発生した慣性モーメントに応じて)後ろ側に傾斜している。従って、発生した慣性モーメントによって車体が起こされて、車体が好適な傾斜角となる。また、段差進入時の倒立移動装置の走行速度は、段差を乗り越えるのに十分な走行速度とされているので、倒立移動装置は段差を乗り越えることができる。従って、倒立移動装置は、倒立状態を維持したまま段差を好適に乗り越えることができる。
【0008】
上述の倒立移動装置は、目標速度パターン決定部が、目標値決定部で決定された目標傾斜角から段差乗り越え時の目標減速度を決定し、その目標減速度と速度センサで検出された車体の速度と目標値決定部で決定された目標走行速度から目標速度パターンを決定する方が好ましい。
このような構成によれば、倒立移動装置が段差進入時に目標減速度で減速している状態となり、これによって、車体を目標傾斜角に傾斜させることができる。
【0009】
上述の倒立移動装置は、コントローラが、路面センサによって検出された段差が所定の高さよりも低い場合にのみ、倒立移動装置に段差を乗り越えさせる方が好ましい。
このような構成によれば、路面センサによって検出された段差が所定の高さよりも高い場合には、倒立移動装置は段差に進入しないので、車体の倒立状態が維持できなくなることが防止される。
【0010】
また、本発明は、好適に段差を乗り越えることができる倒立移動装置の制御方法も提供する。この制御方法は、1または複数の回転体と、回転体によって支持される車体と、回転体を回転させる駆動装置と、倒立移動装置の進行方向の路面の段差を検出する路面センサと、車体の傾斜角及び傾斜角速度の少なくとも1つを検出する傾斜角センサと、倒立移動装置の走行速度を特定可能な物理量を検出する速度センサと、路面センサと傾斜角センサと速度センサの検出結果に応じて制御指令値を駆動装置に出力するコントローラとを備え、駆動装置が制御指令値に基づいて回転体を駆動することで車体を倒立状態に維持しながら路面上を走行する倒立移動装置の制御方法である。
この制御方法では、路面センサにより倒立移動装置の進行方向の段差が検出された場合に、検出された段差の高さから、段差乗り越え時の車体の目標走行速度と目標傾斜角を決定する第1ステップと、第1ステップで算出された車体の目標走行速度及び目標傾斜角並びに速度センサで検出された検出値に応じて目標速度パターンを決定する第2ステップと、傾斜角センサで検出された傾斜角に応じて車体の倒立状態を維持し、かつ、車体の速度が決定された速度パターンとなるように制御指令値を算出する第3ステップと、を有し、上記各工程をコントローラで実行することで倒立移動装置に段差を乗り越えさせる。
この制御方法では、車体の目標走行速度及び目標傾斜角並びに速度センサで検出された検出値に応じて決定された目標速度パターンに従って倒立移動装置が走行する。これによって、倒立移動装置は目標走行速度及び目標傾斜角(後ろ側に傾斜した状態)で段差に進入するので、段差を好適に乗り越えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
下記に詳細に説明する実施例の主要な特徴を最初に列記する。
(形態1)倒立移動装置は、同一の車軸上に配された2つの車輪と、車輪によって支持される車体とによって構成される。
(形態2)車体は、各車輪を駆動するモータと、倒立移動装置の進行方向の路面の段差を検出する路面センサと、車体の傾斜角速度を検出するジャイロセンサと、各モータの回転角速度を検出するエンコーダと、これらのセンサの検出結果に応じてモータを駆動するコントローラを備えている。
(形態3)コントローラは、路面センサにより検出された路面の段差の有無と、ジャイロセンサにより検出された車体の傾斜角速度と、エンコーダにより検出されたモータの回転角速度に応じてモータに制御指令値を出力する。
(形態4)コントローラは、路面センサにより進行方向に段差が検出された場合には、段差を乗り越えるときに車体を進行方向に対して後ろ側に傾斜させる。
(形態5)コントローラは、目標値決定部と、目標速度パターン決定部と、制御指令値算出部を有している。
(形態6)目標値決定部は、路面センサで検出された段差の高さから段差乗り越え時の車体の目標走行速度と目標傾斜角を決定する。
(形態7)目標速度パターン決定部は、目標傾斜角から段差乗り越え時の目標減速度を決定し、その目標減速度と、目標走行速度と、速度センサで検出された車体の速度から目標速度パターンを決定する
(形態8)制御指令値算出部は、傾斜角センサで検出された傾斜角に応じて車体の倒立状態を維持し、かつ、車体の速度が決定された目標速度パターンとなるように制御指令値を算出する。
(形態9)コントローラは、路面センサによって検出された段差が所定の高さよりも低い場合にのみ、倒立移動装置に段差を乗り越えさせる。
(形態10)車体には、1つまたは複数の可動部と、その可動部を駆動するアクチュエータが取付けられている。コントローラは、車輪を駆動するモータに制御指令値を出力すると共にアクチュエータに制御指令値を出力することで、車体姿勢を制御する。
【実施例】
【0012】
本発明の一実施例に係る倒立移動装置について、図面を参照しながら説明する。図1に示すように、倒立移動装置10は、車軸16上に配された2つの車輪12、14と、車輪12、14によって車軸16周りに傾動可能に支持された車体20とによって構成される。車体20の重心30(図9参照)は、車軸16よりも上方に位置している。倒立移動装置10は、車輪12、14を駆動することによって車体20の倒立状態を維持し、かつ、車輪12、14を駆動することによって床面を走行する。
【0013】
車輪12は、後述するモータ22と接続されており、モータ22によって駆動される。また、車輪14は、後述するモータ24と接続されており、モータ24によって駆動される。すなわち、車輪12、14はそれぞれ独立して駆動される。車輪12、14を駆動することによって、倒立移動装置10は床面を走行する。また、車輪12、14のそれぞれの回転角速度を制御することによって、倒立移動装置10の進行方向(進行方向角度φ)を変更することができる。また、車体20の傾斜角θ(図8(b)参照)に応じて車輪12、14を駆動することによって、車体20の倒立状態が維持される。
【0014】
車体20は、車輪12、14を駆動するモータ22、24と、車体20の傾斜角速度θ’を検出するジャイロセンサ28と、走行する路面の段差を検出する路面センサ29と、モータ22、24に制御指令値を出力するコントローラ70を備えている。
【0015】
車体20内に配されたモータ22、24は、車輪12、14に連結されている。また、モータ22、24はコントローラ70と電気的に接続されている。モータ22、24は、コントローラ70から入力される制御指令値にしたがって、車輪12、14を駆動する。
モータ22には、モータの回転角速度iを検出するエンコーダ22aが設けられている。エンコーダ22aは、コントローラ70と電気的に接続されている。エンコーダ22aは、モータ22の回転角速度i(すなわち、車輪12の回転角速度i)を検出する。エンコーダ22aが検出した車輪12の回転角速度iは、コントローラ70に入力される。また、モータ24にもエンコーダ24aが設けられており、エンコーダ24aは車輪14の回転角速度jを検出する。エンコーダ24aが検出した車輪14の回転角速度jも、コントローラ70に入力される。
【0016】
ジャイロセンサ28は、車体20の内部に配されている。ジャイロセンサ28はコントローラ70と電気的に接続されている。ジャイロセンサ28は、車体20の傾斜角速度θ’を検出する。ジャイロセンサ28が検出した傾斜角速度θ’は、コントローラ70に出力される。
【0017】
路面センサ29は、車体20の前面下方に配されている。路面センサ29は、コントローラ70と電気的に接続されている。路面センサ29は、レーザレンジセンサと、演算装置によって構成される。
レーザレンジセンサは、レーザを照射することによって、レーザが照射された物体までの距離を検出する。このレーザレンジセンサは、測定角度範囲内でレーザの照射角度を変化させながらレーザを照射すると共に、レーザを照射した時の照射角度を検出する。すなわち、レーザレンジセンサは、測定角度範囲内で、レーザ照射角度を変化させながらレーザを断続的に照射し、レーザが照射された角度とレーザが照射された物体までの距離を検出する。レーザレンジセンサで検出されたレーザ照射角度及びレーザが照射された物体までの距離は、演算装置によって演算され、測定角度範囲内の物体(障害物)の形状が特定される。従って、路面センサ29によって、測定角度範囲内の物体の形状が検出される。
路面センサ29は、車体20の前面下方に、レーザの照射角度が鉛直方向に変化するように取り付けられている。また、路面センサ29は、レーザの照射方向が車体前方の路面となるように、車体20に取り付けられている。従って、路面センサ29によって車体前方の路面形状を検出することができる。路面センサ29が検出した路面形状のデータは、コントローラ70に入力される。
【0018】
コントローラ70は、CPU,ROM,RAMを備えたマイクロプロセッサ等によって構成されている。コントローラ70は、車体20内に配されている。コントローラ70は、モータ22、24と、エンコーダ22a、24aと、ジャイロセンサ28と、路面センサ29に電気的に接続されている。
図2はコントローラ70の機能を示すブロック図である。図2に示すように、コントローラ70は、制御指令部72と、目標値出力部74と、車体の現在速度ベクトルVを算出する現在速度算出部90と、車体の現在位置(x,y,φ)を算出する現在位置算出部92によって構成される。なお、図2においては、図の見易さを考慮してモータ及びエンコーダを1つだけ図示した。実際には2つのモータ22、24に制御指令値がそれぞれ独立して出力される。
【0019】
現在速度算出部90には、エンコーダ22a及び24aが検出した車輪12、14の回転角速度i、jが入力される。現在速度算出部90は各車輪12、14の回転角速度i、jから、倒立移動装置10の現在速度ベクトルVを算出する。現在速度ベクトルVは、倒立移動装置10が走行する平面上の2次元座標によって表される。すなわち、現在速度ベクトルVは、倒立移動装置10のx方向の速度、y方向の速度及び回転速度によって表わされる。算出された現在速度ベクトルVは、現在位置算出部92及び目標値出力部74に入力される。また、算出された現在速度ベクトルVと目標値出力部74から出力される目標速度ベクトルVmとの偏差が制御指令部72に入力される。
【0020】
現在位置算出部92には、現在速度ベクトルVが入力される。現在位置算出部92は、入力された現在速度ベクトルVを積分して、倒立移動装置10の現在位置(x,y,φ)を算出する。算出された現在位置(x,y,φ)は目標値出力部74に入力される。また、現在位置算出部92で算出された現在位置(x,y,φ)と目標値出力部74から出力される目標位置(xm,ym,φm)との偏差が制御指令部72に入力される。
【0021】
目標値出力部74には、路面センサ29が検出した車体20前方の路面形状データと、現在速度算出部90が算出した現在速度ベクトルVが入力される。また、目標値出力部74には、最終目標位置入力部76(例えば、倒立移動装置10を制御する遠隔制御装置)から最終目標位置(x1,y1,φ1)が入力される。目標値出力部74は、入力される各データに基づいて、目標位置(xm,ym,φm)と、目標速度ベクトルVmを算出する。
【0022】
図3は目標値出力部74の機能を示すブロック図である。図3に示すように、目標値出力部74は、段差検出部75と、目標速度パターン算出部79と、目標位置出力部80と、目標速度出力部81によって構成される。
段差検出部75には、路面センサ29が検出した路面形状データが入力される。段差検出部75は、入力された路面形状データに基づいて、倒立移動装置10の前方に段差があるか否かの判定を行う。段差がある場合には段差の高さhと倒立移動装置10から段差までの距離lを算出する。
【0023】
目標速度パターン算出部79は、最終目標位置入力部76から入力された最終目標位置(x1,y1,φ1)と、段差検出部75から入力される段差高さhと段差までの距離lと、現在速度算出部90から入力される現在速度ベクトルVと、現在位置算出部92から入力される現在位置(x,y,φ)に基づいて、倒立移動装置10の目標速度パターンを算出する。すなわち、目標速度パターン算出部79は、最終目標位置入力部76から最終目標位置(x1,y1,φ1)が入力されると、まず、倒立移動装置10の現在の速度Vと現在の位置(x,y,φ)と入力された最終目標位置(x1,y1,φ1)とに基づいて、現在の位置(x,y,φ)から最終目標位置(x1,y1,φ1)に移動するまでの間の目標速度パターンを算出する。目標速度パターンが算出されると、その算出された目標速度パターンに基づいてモータ22,24は駆動される。倒立移動装置10が最終目標位置(x1,y1,φ1)に移動するまでの間に段差検出部75によって段差が検出されないと、算出された目標速度パターンは修正されることはない。一方、倒立移動装置10が最終目標位置(x1,y1,φ1)に移動するまでの間に段差検出部75によって段差が検出されると、目標速度パターン算出部79は最終目標位置入力時に算出された目標速度パターンを修正する。以下、最終目標位置(x1,y1,φ1)の入力時における目標速度パターンを算出する手順と、段差検出部75で段差が検出されたときの目標速度パターンを修正する手順について説明する。
【0024】
(1)最終目標位置の入力時等における目標速度パターンの算出手順
目標速度パターン算出部79は、まず、倒立移動装置10の現在の速度Vと現在の位置(x,y,φ)と最終目標位置(x1,y1,φ1)に基づいて、倒立移動装置10の移動軌跡を決定する。例えば、現在位置(x,y,φ)から最終目標位置(x1,y1,φ1)まで直線的に移動できる場合は、現在位置(x,y,φ)と最終目標位置(x1,y1,φ1)を直線的に接続した経路を移動軌跡として決定する。あるいは、倒立移動装置10が設置された空間のマップ(いわゆる、道路マップ)が設定されている場合は、そのマップの中から倒立移動装置10が走行する経路(道)を選択する。倒立移動装置10の移動軌跡が決定されると、決定された移動軌跡上を倒立移動装置10が走行するように、倒立移動装置10の目標速度パターンを算出する。
決定された移動軌跡から目標速度パターンを算出する手順を、図4を用いて具体的に説明する。図4(a)に示す例では、倒立移動装置10は現在位置Aにおいて停止しており、倒立移動装置10は現在位置A(出発点)(xA,yA,φA)から最終目標位置B(x1,y1,φ1)まで直線的に移動する。本実施例では、倒立移動装置10の倒立状態を安定して維持するために、倒立移動装置10の最高加速度amaxと最高減速度−amaxの絶対値は予め一定の値に設定されており、また、その最高速度vmaxも制限されている。このため、倒立移動装置10は、現在位置A(xA,yA,φA)から等加速度運動(加速度amax)により最高速度vmaxまで加速し、最高速度vmaxに到達した後は等速度運動(vmax)で走行し、その後、等減速度運動(加速度−amax)で減速して最終目標位置B(x1,y1,φ1)に停止することとなる。したがって、目標速度パターン算出部79は、まず、現在位置(xA,yA,φA)から最終目標位置(x1,y1,φ1)までの距離を算出し、その算出された距離から等加速度で運動する時間と、等速度で運動する時間と、等減速度で運動する時間を決定する。
図5(a),(b)は、図4(a)に示す移動軌跡が決定された場合の目標速度パターンと、目標位置パターンを示している。図5(a)に示すように、倒立移動装置10は時間0〜t1では等加速度amaxで運動し、時間t1〜t2では等速度vmaxで運動し、時間t2〜t3では等減速度−amaxで運動する。この速度パターンに基づいてモータ22,24が制御されることで、倒立移動装置10は図5(b)に示すように移動し、最終目標位置B(x1,y1,φ1)に到達する。
【0025】
(2)段差検出時における目標速度パターンの修正手順
目標速度パターン算出部79は、まず、検出された段差が乗り越え可能か否かを判断する。具体的には、段差検出部75で検出された段差の高さhが予め設定された設定値hmaxより高いか否かを判断する。段差の高さhが設定値hmaxより高い場合は、倒立移動装置10は段差を乗り越え不可能と判断する。段差の高さhが設定値hmaxより低い場合は、倒立移動装置10は段差を乗り越え可能と判断する。
段差を乗り越え可能と判断すると、次に、段差高さhから段差乗り越え時の倒立移動装置10の目標速度V0と目標傾斜角θ0を決定する。段差高さhに応じて段差乗り越え時の目標速度V0を決定するのは、倒立移動装置10に段差を確実に乗り越えさせるためである。また、段差高さhに応じて段差乗り越え時の車体20の目標傾斜角θ0を決定するのは、倒立移動装置10が目標速度V0で段差を乗り越える時に発生する車体20を前方に回転させようとするモーメントMを打ち消すためである。目標速度V0と目標傾斜角θ0は、例えば、図6,7に示すマップに基づいて決定することができる。図6は段差高さhと目標速度V0の関係を示すマップであり、図7は段差高さhと目標傾斜角θ0の関係を示すマップである。図6と入力された段差高さhから目標速度V0を決定することができ、図7と入力された段差高さhから目標傾斜角θ0を決定することができる。
段差乗り越え時の目標傾斜角θ0を決定すると、その決定された目標傾斜角θ0から段差乗り越え時の倒立移動装置10の目標減速度−a0を決定する。倒立移動装置10は、後で詳述するように、加速中は車体20が前方に傾斜し、減速中は車体20が後ろ側に傾斜する。このため、目標傾斜角θ0に応じた目標減速度−a0に倒立移動装置10を制御することで、車体20の傾斜角を目標傾斜角θ0とすることができる。
目標速度V0と目標減速度−a0を決定すると、現在の倒立移動装置10の速度Vと倒立移動装置10から段差までの距離lに基づいて、倒立移動装置10を目標速度V0及び目標減速度−a0に制御可能か否かを判断する。倒立移動装置10を目標速度V0及び目標減速度−a0に制御できる場合は、倒立移動装置10が段差を乗り越え可能と判断する。一方、倒立移動装置10を目標速度V0及び目標減速度−a0に制御できない場合(例えば、倒立移動装置10の現在速度が速く、かつ、段差までの距離が短い場合であり、段差までに目標速度V0とすることができないとき等)、倒立移動装置10は段差を乗り越え不可能と判断する。
段差を乗り越え可能と判断した場合は、目標速度パターン算出部79は、段差乗り越え用の目標速度パターンに修正する。段差を乗り越え不可能と判断した場合は、目標速度パターン算出部79は、段差乗り越え不能用の目標速度パターンに修正する。
【0026】
(i)段差乗り越える場合の目標速度パターンの算出
段差を乗り越える場合は、目標速度パターン算出部79は、まず、現在速度算出部90から入力される現在速度Vから目標減速度−a0で減速して目標速度V0となるために要する時間を算出する。例えば、現在速度が2m/s、目標減速度が−1m/s2、目標速度1m/sの場合、減速時間は1秒と算出される。
減速時間が決定されると、その減速時間中に倒立移動装置10が移動する距離を算出する。上述した例の場合、現在速度が2m/sで目標減速度が−1m/s2で1秒間減速するため、その間に倒立移動装置10が移動する距離は2×1−(1/2)×1×12=1.5mとなる。
減速時間中に移動する距離が算出されると、その算出された距離と段差までの距離lとから現在の速度で等速運動する時間を決定する。例えば、上述した例において段差までの距離が5mの場合、減速時間に倒立移動装置10が移動する距離は1.5mであるので、等速度で運動する距離は3.5mとなる。倒立移動装置10の現在の速度は2m/sであるので、現在の速度で等速運動する時間は1.75秒と算出される。これによって、倒立移動装置10が段差を乗り越える直前までの目標速度パターンを算出することができる。
次に、倒立移動装置10が段差を乗り越える直前から最終目標位置に到達するまでの目標速度パターンを算出する。本実施例では、倒立移動装置10が段差を乗り越える直前まで減速した後、倒立移動装置10が加速度amaxで加速しながら段差を乗り越える。段差を乗り越えた後は、最高速度vmaxまで加速して等速度運動に移行し、次いで、等減速度運動(加速度−amax)で減速して最終目標位置B(x1,y1,φ1)に停止する。ここで、段差乗り越え時(詳細には、段差を乗り越える直前)の目標速度V0は決定されている。また、段差から最終目標位置B(x1,y1,φ1)までの距離は、段差乗り越え時の倒立移動装置10の位置(x,y,φ)と最終目標位置B(x1,y1,φ1)の座標から算出することができる。このため、加速度amaxで加速する時間と、等速度で移動する時間と、減速度−amaxで減速する時間を決定することができる。これによって、段差を乗り越えた後の目標速度パターンを決定することができる。
【0027】
目標速度パターンを修正して段差を乗り越える具体例を図4(b)及び図8を参照して説明する。図4(b)に示すように、倒立移動装置10は現在位置A(xA,yA,φA)から最終目標位置B(x1,y1,φ1)まで直線的に移動する。現在位置A(xA,yA,φA)から最終目標位置B(x1,y1,φ1)まで移動する途中には段差100が存在する。なお、倒立移動装置10は現在位置Aにおいて停止しているものとする。
図8に示すように、倒立移動装置10は、時刻t0〜t1までの期間は加速度amaxで加速し、時刻t1からは等速度運動を行う。倒立移動装置10は、等速度で運動している際に段差100を検出すると(例えば、図4(b)の点Cで段差100を検出すると)、段差検出部75は倒立移動装置10から段差100までの距離CEと段差100の高さhを算出する。そして、上述した手順で目標速度パターンを修正する。すなわち、図8に示すように、時刻t2となるまで(図4(b)の点Dまで)は等速度で移動し、時刻t2〜t3の間(図4(b)の点Eまで)は目標減速度−a0で減速する。これによって、倒立移動装置10は段差100に目標速度V0と目標傾斜角θ0で進入する。
次に、倒立移動装置10は、時刻t3〜t4の間は加速度amaxで加速し、時刻t4では速度vmaxに到達する。したがって、倒立移動装置10は、段差100を乗り越えるタイミング(乗り越える直前)で加速され、車輪12,14に充分なトルクが与えられる。これによって、倒立移動装置10は段差100を確実に乗り越えることができる。時刻t4〜t5は速度vmaxで等速運動し、時刻t5〜t6は減速度−amaxで減速する。これによって、倒立移動装置10は最終目標位置B(x1,y1,φ1)に到達することとなる。
なお、現在位置A(xA,yA,φA)から最終目標位置B(x1,y1,φ1)までに複数の段差がある場合は、段差を検出する毎に目標速度パターンの修正が行われる。
【0028】
(ii)段差乗り越えられないと判断した場合の目標速度パターンの算出
段差を乗り越えられないと判断した場合は、目標速度パターン算出部79は、倒立移動装置10が停止するように、目標速度パターンを修正する。すなわち、目標速度パターン算出部79は、倒立移動装置10を加速度−amaxで減速運動させ、倒立移動装置10の速度が0となるように、目標速度パターンを修正する。
段差を乗り越えない場合の具体的を図4(c)及び図9を参照して説明する。図4(c)に示す例でも、図4(b)と同様に、倒立移動装置10が現在位置A(xA,yA,φA)から最終目標位置B(x1,y1,φ1)まで移動する間に段差100が存在する。なお、倒立移動装置10は現在位置Aにおいて停止しているものとする。
図9に示すように、倒立移動装置10は、時刻t0〜t1までの期間は加速度amaxで加速し、時刻t1からは等速度運動を行う。倒立移動装置10は、等速度で運動している際に段差100を検出し(例えば、図4(c)の点Cで段差100を検出し)、倒立移動装置10が段差100を乗り越えられないと判断する。このため、目標速度パターン算出部79は、倒立移動装置10を停止させるべく目標速度パターンを修正する。これによって、図9に示すように、倒立移動装置10は、時刻t2’〜t3’のあいだ等加速度−amaxで減速する。これによって、倒立移動装置10は、段差100を乗り越えることなく、段差100の手前で停止する。
なお、倒立移動装置10が停止すると、目標速度パターン算出部79は、倒立移動装置10の現在位置と最終目標位置B(x1,y1,φ1)から倒立移動装置10の移動軌跡を再決定し、この際決定された移動軌跡に基づいて目標速度パターンを再び算出することとなる。なお、再決定された移動軌跡は、段差100を回避して最終目標位置B(x1,y1,φ1)に到達するようになっている。
【0029】
なお、上述した説明から明らかなように、目標速度パターン算出部79が目標速度V0、目標傾斜角θ0を算出し、その算出した目標速度V0、目標傾斜角θ0に基づいて目標速度パターンを算出している。したがって、目標速度パターン算出部79が請求項2でいう目標値決定部と目標速度パターン決定部の機能を備えている。
【0030】
目標位置出力部80は、コントローラ70の処理周期(モータ22,24への制御指令値の出力周期)毎に、目標速度パターン算出部79から入力される目標速度パターンに基づいて倒立移動装置10の目標位置(xm,ym,φm)を出力する。すなわち、目標速度パターン算出部79から入力される目標速度パターンは時刻tの関数となっている。したがって、入力された目標速度パターンを積分して、目標位置パターン(時刻tの関数)を算出する。そして、算出された目標位置パターンから時刻tに応じた目標位置(xm,ym,φm)を算出し、その算出した目標位置(xm,ym,φm)を制御指令部72に出力する。
なお、いったん目標速度パターンが入力されると、修正された目標速度パターンが再入力されるまでは、最初に入力された目標速度パターンに基づいて目標位置(xm,ym,φm)が算出される。
【0031】
目標速度出力部81は、コントローラ70の処理周期(モータ22,24へのトルク指令値の出力周期)毎に、目標速度パターン算出部79から入力される目標速度パターンに基づいて倒立移動装置10の目標速度Vmベクトルを出力する。すなわち、目標速度パターン算出部79から入力される目標速度パターンは時刻tの関数となっている。したがって、入力された目標速度パターンから時刻tに応じた目標速度ベクトルVmを算出し、その算出した目標速度ベクトルVmを制御指令部72に出力する。
なお、目標位置出力部80と同様に、目標速度出力部81にいったん目標速度パターンが入力されると、修正された目標速度パターンが再入力されるまでは、最初に入力された目標速度パターンに基づいて目標速度ベクトルVmが算出される。
【0032】
制御指令部72には、目標値出力部74から出力される目標位置(xm,ym,φm)と現在位置算出部92で算出される現在位置(x,y,φ)の偏差が入力され、目標値出力部から出力される目標速度ベクトルVmと現在速度算出部90で算出される現在速度ベクトルVの偏差が入力される。また、制御指令部72には、ジャイロセンサ28が検出する車体の傾斜角速度θ’が入力される。制御指令部72は、入力された位置偏差、速度偏差及び傾斜角速度θ’に応じて制御指令値を算出し、算出した制御指令値をモータ22、24に出力する。詳しくは、制御指令部72は、走行制御指令値算出部72aと倒立制御指令値算出部72bを備え、走行制御指令値算出部72aで算出された制御指令値と、倒立制御指令値算出部72bで算出された制御指令値との和をモータ22,24に出力する。
【0033】
走行制御指令値算出部72aには位置偏差及び速度偏差が入力される。走行制御指令値算出部72aは、入力された位置偏差及び速度偏差が小さくなるように制御指令値を算出する。このため、走行制御指令値算出部72aで算出された制御指令値に基づいてモータ22,24が駆動されると、位置偏差及び速度偏差が小さくなり、倒立移動装置10が目標値出力部74から出力される目標位置(xm,ym,φm)に移動し、かつ、倒立移動装置10の速度ベクトルVが目標速度ベクトルVmとなる。
【0034】
倒立制御指令値算出部72bには、位置偏差、速度偏差及び傾斜角速度θ’が入力される。倒立制御指令値算出部72bは、位置偏差、速度偏差及ぶ傾斜角速度θ’が小さくなるように制御指令値を算出する。ここで、傾斜角速度θ’が小さくなると、傾斜角速度θ’が「0」となる。したがって、本実施例では目標傾斜角速度θ’mが「0」に設定されていることとなる。このため、倒立制御指令値算出部72bで算出された制御指令値でモータ22,24が駆動されることで、傾斜角速度θ’が「0」となるように制御され、倒立移動装置10の車体20は倒立状態を維持することとなる。
【0035】
なお、上述した制御指令部72の具体的な構成については、特許文献1に開示された構成を採ることができる。
【0036】
上述したように、本実施例では、位置偏差及び速度偏差を0とし、かつ、傾斜角速度θ’を0とするように倒立移動装置10を制御するため、車体20の重心に加わる外力(図12における重力Gと慣性力Aの和)の方向は車輪12,14の車軸16の方向を向くこととなる。従って、図11(b)または図12に示すように慣性力Aが前方向に作用する場合(すなわち倒立移動装置10が減速する場合)には、車体20が後ろ側に傾斜する。逆に慣性力Aが後ろ方向に作用する場合(すなわち倒立移動装置10が加速する場合)は、車体20が前側に傾斜する。このように、本実施例では、倒立移動装置10の減速度a(又は加速度a)を制御することによって、車体20の傾斜角θを制御することができる。傾斜角θは、θ=arctan(a/g)の計算式によって求めることができる。
【0037】
次に、倒立移動装置10が段差を乗り越える際のコントローラ70の動作について、図10を参照して説明する。図10は、倒立移動装置10が初期位置(xA,yA,φA)において停止した状態で最終目標位置入力部76より最終目標位置(x1,y1,φ1)が入力され、初期位置(xA,yA,φA)から最終目標位置(x1,y1,φ1)に移動する際のコントローラ70の動作を示している。
【0038】
最終目標位置入力部76より最終目標位置(x1,y1,φ1)が入力されると、コントローラ70は、倒立移動装置10の各部を起動して、倒立移動装置10の移動制御を開始する(ステップS2)。移動制御を開始すると、コントローラ70は、まず、入力された最終目標位置(x1,y1,φ1)と倒立移動装置10の現在位置(xA,yA,φA)から移動軌跡を決定し、その決定した移動軌跡に基づいて目標速度パターンを算出する(ステップS4)。そして、算出された目標速度パターンに基づいてコントローラ70からモータ22,24への制御指令値の出力が開始され、その制御指令値に基づいてモータ22,24が駆動される(ステップS6)。これによって、倒立移動装置10は、倒立状態を維持した状態で、最終目標位置(x1,y1,φ1)に向かって移動を開始する。
【0039】
倒立移動装置10が走行を開始すると、路面センサ29によって路面形状データの計測が行われる。路面センサ29によって計測された路面形状は、所定の周期毎にコントローラ70に入力される。コントローラ70は、入力される路面形状データから路面に段差があるか否かを判定する(ステップS8)。
路面に段差がないと判断した場合(ステップS8でNO)は、ステップS24に進んで、倒立移動装置10が最終目標位置(x1,y1,φ1)に到達したか否かを判定する。最終目標位置(x1,y1,φ1)に到達した場合(ステップS24でYES)は、コントローラ70による移動制御を終了する。最終目標位置(x1,y1,φ1)に到達していない場合(ステップS20でNO)は、ステップS6に戻ってステップS6からの処理が繰返される。このため、モータ22,24の駆動が継続され、倒立移動装置10は最終目標位置(x1,y1,φ1)に向かって移動を継続する。
【0040】
一方、路面に段差があると判断した場合(ステップS8でYES)は、コントローラ70は、検出された段差の高さhが予め設定された段差高さhmaxを超えるか否かを判定する(ステップS10)。
検出された段差高さhが設定された段差高さhmaxを超える場合(ステップS10でYES)は、コントローラ70は倒立移動装置10を停止させるための目標速度パターンに修正する(ステップS18)。次いで、コントローラ70は、ステップS18で修正された目標速度パターンに基づいてモータ22を駆動し(ステップS20)、倒立移動装置10の速度が0となったか否かを判断する(ステップS22)。倒立移動装置10の速度が0となっていないと(ステップS22でNO)は、ステップS20に戻って、ステップS20からの処理が繰返される。これによって、倒立移動装置10が停止するまでモータ22,24の駆動が継続される。倒立移動装置10の速度が0となっている場合(ステップS22でYES)は、コントローラ70は倒立移動装置10の移動制御を終了する。
【0041】
検出された段差高さhが設定された段差高さhmaxを超えない場合(ステップS10でNO)は、コントローラ70は段差乗り越え時の目標速度V0を算出し、その目標速度V0から目標傾斜角度θ0を算出する(ステップS12)。次いで、コントローラ70は、目標傾斜角度θ0から目標減速度−a0を算出する。
目標速度V0と目標減速度−a0が算出されると、段差までの距離lと倒立移動装置10の現在速度Vから倒立移動装置10が段差を乗り越え可能か否かを判定する(ステップS14)。倒立移動装置10が段差を乗り越えることができない場合(ステップS14でNO)は、ステップS18に進む。これによって、倒立移動装置10は、段差を乗り越えることなく、その移動を停止する。
【0042】
一方、倒立移動装置10が段差を乗り越え可能である場合(ステップS14でYES)は、ステップS12で算出された目標速度V0と目標傾斜角θ0(すなわち、目標減速度−a0)と段差までの距離lと倒立移動装置10の現在速度Vから目標速度パターンを修正する(ステップS16)。目標速度パターンを修正すると、ステップS24に進む。これによって、修正された目標速度パターンで倒立移動装置10が駆動され、倒立移動装置10は最終目標位置(x1,y1,φ1)まで移動することとなる。
【0043】
ここで、倒立移動装置10が段差を乗り越えるときの車体の姿勢について、図4の例に基づいて説明する。
倒立移動装置10は、位置Cにおいて段差100を検出すると、図8に示すような目標速度パターンに従って走行する。すなわち、段差100を検出した後、点Dに到達するまでは、一定速度Vmaxで走行する(図11(a)参照)。倒立移動装置10は、点Dに到達すると、一定減速度−a0で減速しながら走行する。すると、倒立移動装置10は、傾斜角速度θ’=0となるように走行するので、車体20の傾斜角度θは、減速度−a0に応じた傾斜角度θ0となる。倒立移動装置10は、一定減速度−a0、傾斜角度θ0で点Dから段差100まで走行する(図11(b)参照)。倒立移動装置10が点Dから段差まで走行する間に倒立移動装置10の速度が減速され、倒立移動装置10の速度は速度V0(目標走行速度V0)となる。すなわち、倒立移動装置10は、速度V0、傾斜角度θ0で段差100に進入する(図11(c)参照)。
倒立移動装置10が段差100に進入すると、車輪12、14が段差100に接触する。車輪12、14が段差100に接触すると、段差100から車輪12、14に、進行方向に対して後ろ側に外乱力Fが作用する(図12参照)。外乱力Fが作用すると、車輪12、14と段差との接触点Pの周りに慣性モーメントMが発生する。発生した慣性モーメントMが車体20に作用すると、後ろ側に傾斜していた車体20が起こされて、略垂直(すなわちθ=0)に倒立する。
また、倒立移動装置10が段差100に進入する速度V0は、段差100を乗り越えるのに十分な速度に決定されている。また、倒立移動装置10は、段差100に進入する直前のタイミングで、加速度amaxで加速するので、車輪12、14にトルクが加わっている。従って、倒立移動装置10は好適に段差100を乗り越える(図11(d)参照)。
【0044】
上述した説明から明らかなように、倒立移動装置10は、段差を乗り越える際に、車体20を進行方向に対して後ろ側に傾斜させる。従って、倒立移動装置10が段差を乗り越える際に車体20が前側に大きく傾斜されることが抑制され、倒立状態を維持したまま、より高い段差を乗り越えることができる。
また、上述の倒立移動装置10は、目標速度パターン算出部79が、段差の高さhに応じて目標走行速度V0と目標傾斜角θ0を決定し、次いで、目標傾斜角θ0に応じたら目標減速度a0を決定し、最後に、決定した目標減速度a0及び目標走行速度V0並びに速度センサで検出された車体20の速度Vに応じて車体20の目標速度パターンを決定する。倒立移動装置10は、段差の高さhに応じて決定された目標速度パターンに従って走行するので、段差を好適に乗り越えることができる。
また、上述の倒立移動装置10は、コントローラ70が、路面センサ29によって検出された段差が所定の高さhmaxよりも低い場合にのみ、倒立移動装置10に段差を乗り越えさせる。従って、段差が所定の高さhmaxよりも高い場合には、倒立移動装置10は段差に進入しないので、倒立移動装置10が転倒して故障することが防止される。
【0045】
なお、上述した実施例では、倒立移動装置10が駆動する回転体として、二つの車輪12,14が用いられていたが、本発明はこのような実施形態に限られず、一輪や1球など、様々な回転体を任意に選択することができる。
また、上述の実施例では、路面センサとしてレーザレンジセンサを使用したが、超音波センサや、カメラ等によって撮影された画像を処理することで段差を検出しても良い。
【0046】
なお、上述の倒立移動装置10では、倒立移動装置10を減速することで、段差に進入する際に車体20を後ろ側へ傾斜させている。車体20が後ろ側へ傾斜すると、路面センサ29の測定角度範囲が上方を向き、路面形状を測定する範囲が変わってしまう。従って、倒立移動装置は、図13に示す構成とすることができる。
図13の倒立移動装置40は、車体50が、上車体62と下車体64とによって構成されている。上車体62と下車体64は、アクチュエータ66によって接続されている。そして、アクチュエータ66を駆動することによって、上車体62を下車体64に対して前後にスライドさせることができる。また、路面センサ29は下車体64の前方下部に取り付けられており、その測定角度範囲が路面方向に向けられている。
このような構成によれば、車体50を傾斜させる際に、コントローラからアクチュエータ66に制御指令値を出力して、上車体62を後ろ側にスライドさせることができる。すると、車体(すなわち車体の重心)を後ろ側に傾斜させても、上車体62及び下車体64を垂直に維持することができる。従って、路面センサ29の測定角度範囲が上方を向くことなく、測定角度範囲が変わらないため、路面形状を好適に測定することができる。
また、倒立移動装置10が加速する際は、下車体64に対して上車体62をスライドさせないと、車体50は前方に傾斜することとなる。車体50が前方に傾斜しても、路面センサ29による測定角度範囲が変更になってしまう。そこで、倒立移動装置10が加速する際は、下車体64に対して上車体62を前方に移動させて、車体50の傾きを抑制することができる。これによって、路面センサ29の測定角度範囲の変化が抑制され、倒立移動装置10の加速中も路面形状を好適に測定することができる。
【0047】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】倒立移動装置10の斜視図。
【図2】コントローラ70の機能ブロック図。
【図3】目標値出力部74の機能ブロック図。
【図4】段差を乗り越える動作の説明図。
【図5】通常時の目標速度パターン及び目標位置パターン。
【図6】V0算出時のV0−h相関マップ。
【図7】θ0算出時のθ0−h相関マップ。
【図8】段差乗り越え時の目標速度パターン及び目標位置パターン。
【図9】段差回避時の目標速度パターン及び目標位置パターン。
【図10】コントローラ70の処理を示すフローチャート。
【図11】倒立移動装置10の段差進入時の説明図。
【図12】倒立移動装置10の段差進入時の説明図。
【図13】倒立移動装置40の段差進入時の説明図。
【図14】倒立移動装置60の段差進入時の説明図。
【符号の説明】
【0049】
10:倒立移動装置
12、14:車輪
16:車軸
20:車体
22、24:モータ
22a、24a:エンコーダ
28:ジャイロセンサ
29:路面センサ
30:重心
40:倒立移動装置
50:車体
60:倒立移動装置
62:上車体
64:下車体
66:アクチュエータ
70:コントローラ
72:制御指令部
72a:走行制御指令値算出部
72b:倒立制御指令値算出部
74:目標値出力部
75:段差検出部
79:目標速度パターン算出部
80:目標位置出力部
81:目標速度出力部
90:現在速度算出部
92:現在位置算出部
【技術分野】
【0001】
本発明は、1または複数の回転体と、その回転体に支持された車体と、を備え、車体を倒立状態に維持しながら路面上を走行する倒立移動装置に関する。本明細書中、「倒立移動装置」とは、車体の重心が回転体の回転中心よりも上方に位置し、回転体を駆動しないと車体が倒立状態を維持できない移動装置をいう。「倒立状態」とは、車体の重心と回転体の回転中心とを結んだ直線が、鉛直方向から所定角度以上傾いていない状態をいう。「車体の傾斜角」とは、車体の重心と回転体の回転中心とを結んだ直線と、鉛直方向とが成す角度をいう。
【背景技術】
【0002】
車体を倒立状態に維持しながら路面上を走行する倒立移動装置として、例えば、特許文献1の倒立移動装置が知られている。この倒立移動装置は、同一回転軸上に配置された2つの車輪と、車輪によって支持される車体と、車輪を駆動させる駆動装置と、車体の傾斜角を検出する傾斜角センサと、傾斜角センサで検出された傾斜角に応じて駆動装置に制御指令値を出力するコントローラとを備えている。
この倒立移動装置では、傾斜角センサが車体の傾斜角を検出する。コントローラは、検出した車体の傾斜角に基づいて車体の倒立状態を維持し、かつ、車体が目標速度で走行するように駆動装置に制御指令値を出力する。駆動装置は、コントローラから出力された制御指令値に基づいて車輪を駆動する。これによって、倒立移動装置は、車体を倒立状態に維持しながら、路面上を目標の速度で走行することができる。
【0003】
【特許文献1】特開2004−295430号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の倒立移動装置では、倒立移動装置が路面上の段差を乗り越える際に、車体の倒立状態を乱す外乱力が倒立移動装置に作用する。すなわち、図14に示すように、倒立移動装置60が路面104上の段差102を乗り越えようとすると、まず、倒立移動装置60の車輪が路面上の段差102に接触する。このため、倒立移動装置60の車輪には、段差から進行方向に対して後ろ側に外乱力Fが作用する。車輪に外乱力Fが作用すると、その外乱力Fによって車輪と段差との接触点Pの周りに慣性モーメントMが発生する。慣性モーメントMが発生すると、その慣性モーメントMによって車体が前側に傾斜する(図において反時計回りに回転しようとする。)。車体に作用する慣性モーメントMが小さい場合は、コントローラによって慣性モーメントMを打ち消すように駆動輪が駆動されるので、車体は倒立状態を維持したまま段差を乗り越えることができる。
しかしながら、車体に作用する慣性モーメントMが大きくなると、コントローラによって駆動輪が駆動されても、慣性モーメントMを打ち消すことができず、車体が前側に大きく傾斜する。車体が大きく傾斜し過ぎると倒立状態を維持することができなくなる。例えば、路面上の段差が高くなると、倒立移動装置の段差乗り越え時の走行速度をある程度大きくしなければ、段差を乗り越えることができない。段差乗り越え時の走行速度が大きくなると、慣性モーメントMが大きくなり、車体は倒立状態を維持することができない。このため、従来の倒立移動装置では、乗り越えることができる段差の高さに制限があり、充分な高さの段差を乗り越えることができないという問題があった。
【0005】
本発明は、上記した実情に鑑みてなされたものであり、車体の倒立状態を維持したまま、より高い段差を乗り越えることができる倒立移動装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の倒立移動装置は、1または複数の回転体と、回転体によって支持される車体と、回転体を回転させる駆動装置と、車体の進行方向の路面の段差を検出する路面センサと、車体の傾斜角及び傾斜角速度の少なくとも1つを検出する傾斜角センサと、車体の走行速度を特定可能な物理量を検出する速度センサと、コントローラを備えている。コントローラは、路面センサにより検出された路面の段差の有無と、傾斜角センサにより検出された検出値と、速度センサにより検出された検出値に応じて、駆動装置に制御指令値を出力する。また、コントローラは、路面センサにより進行方向に段差が検出された場合は、段差を乗り越えるときに車体を進行方向に対して後ろ側に傾斜させることを特徴とする。
この倒立移動装置では、路面センサにより進行方向に段差が検出された場合は、コントローラが車体を進行方向に対して後ろ側に傾斜させた状態として段差に進入する。このため、回転体が段差に接触することによって回転体と段差との接触点周りに車体を前側に傾斜させようとする慣性モーメントが発生しても、車体は後ろ側に傾斜しているので、車体が前側に大きく傾斜されることが抑制される。したがって、車体が前側に大きく傾斜することが抑えられるので、車体は倒立状態を維持したまま、より高い段差を乗り越えることができる。
ここで、「車体を進行方向に対して後ろ側に傾斜させる」とは、車輪に対して車体の重心を後ろ側に移動させることをいう。したがって、車体を本体と該本体に載置された慣性体によって構成し、その慣性体を車体の後ろ側に移動させることで車体の重心を後ろ側に移動させることも、「車体を進行方向に対して後ろ側に傾斜させる」ことに相当する。
【0007】
上述の倒立移動装置は、コントローラが、路面センサで検出された段差の高さから段差乗り越え時の車体の目標走行速度と目標傾斜角を決定する目標値決定部と、決定された目標走行速度及び目標傾斜角並びに速度センサで検出された車体の速度に応じて車体の目標速度パターンを決定する目標速度パターン決定部と、傾斜角センサで検出された傾斜角に応じて車体の倒立状態を維持し、かつ、車体の速度が決定された目標速度パターンとなるように制御指令値を算出する制御指令値算出部とを有している方が好ましい。
このような構成によると、路面センサにより進行方向に段差が検出された場合に、目標値決定部が、路面センサで検出された段差の高さから、段差乗り越え時の車体の目標走行速度と目標傾斜角を決定する。
具体的には、目標値決定部は、検出された段差を乗り越えるのに十分な目標走行速度を決定する。すなわち、段差乗り越え時の目標走行速度は、段差の高さに応じて決定される。また、段差乗り越え時に発生する慣性モーメントは、段差の高さと、段差乗り越え時の走行速度によって決まる。従って、目標決定部が、段差の高さに応じて、目標傾斜角を決定することで、段差乗り越え時に発生する慣性モーメントに応じた目標傾斜角が決定される。
目標値決定部が目標走行速度と目標傾斜角を決定すると、目標速度パターン決定部が決定された目標走行速度及び目標傾斜角並びに速度センサで検出された車体の速度に応じて車体の目標速度パターンを決定する。制御指令値算出部は、傾斜角センサで検出された傾斜角に応じて車体の倒立状態を維持し、かつ、車体の速度が決定された目標速度パターンとなるように制御指令値を算出する。算出された制御指令値はコントローラから駆動装置に出力され、倒立移動装置は倒立状態を維持しながら決定された速度パターンで走行する。これによって、倒立移動装置は、段差の高さに応じた走行速度及び傾斜角で段差に進入する。
倒立移動装置が段差に進入すると、回転体と段差との接触点周りに慣性モーメントが発生する。このとき、車体は、段差の高さに応じて(すなわち、発生した慣性モーメントに応じて)後ろ側に傾斜している。従って、発生した慣性モーメントによって車体が起こされて、車体が好適な傾斜角となる。また、段差進入時の倒立移動装置の走行速度は、段差を乗り越えるのに十分な走行速度とされているので、倒立移動装置は段差を乗り越えることができる。従って、倒立移動装置は、倒立状態を維持したまま段差を好適に乗り越えることができる。
【0008】
上述の倒立移動装置は、目標速度パターン決定部が、目標値決定部で決定された目標傾斜角から段差乗り越え時の目標減速度を決定し、その目標減速度と速度センサで検出された車体の速度と目標値決定部で決定された目標走行速度から目標速度パターンを決定する方が好ましい。
このような構成によれば、倒立移動装置が段差進入時に目標減速度で減速している状態となり、これによって、車体を目標傾斜角に傾斜させることができる。
【0009】
上述の倒立移動装置は、コントローラが、路面センサによって検出された段差が所定の高さよりも低い場合にのみ、倒立移動装置に段差を乗り越えさせる方が好ましい。
このような構成によれば、路面センサによって検出された段差が所定の高さよりも高い場合には、倒立移動装置は段差に進入しないので、車体の倒立状態が維持できなくなることが防止される。
【0010】
また、本発明は、好適に段差を乗り越えることができる倒立移動装置の制御方法も提供する。この制御方法は、1または複数の回転体と、回転体によって支持される車体と、回転体を回転させる駆動装置と、倒立移動装置の進行方向の路面の段差を検出する路面センサと、車体の傾斜角及び傾斜角速度の少なくとも1つを検出する傾斜角センサと、倒立移動装置の走行速度を特定可能な物理量を検出する速度センサと、路面センサと傾斜角センサと速度センサの検出結果に応じて制御指令値を駆動装置に出力するコントローラとを備え、駆動装置が制御指令値に基づいて回転体を駆動することで車体を倒立状態に維持しながら路面上を走行する倒立移動装置の制御方法である。
この制御方法では、路面センサにより倒立移動装置の進行方向の段差が検出された場合に、検出された段差の高さから、段差乗り越え時の車体の目標走行速度と目標傾斜角を決定する第1ステップと、第1ステップで算出された車体の目標走行速度及び目標傾斜角並びに速度センサで検出された検出値に応じて目標速度パターンを決定する第2ステップと、傾斜角センサで検出された傾斜角に応じて車体の倒立状態を維持し、かつ、車体の速度が決定された速度パターンとなるように制御指令値を算出する第3ステップと、を有し、上記各工程をコントローラで実行することで倒立移動装置に段差を乗り越えさせる。
この制御方法では、車体の目標走行速度及び目標傾斜角並びに速度センサで検出された検出値に応じて決定された目標速度パターンに従って倒立移動装置が走行する。これによって、倒立移動装置は目標走行速度及び目標傾斜角(後ろ側に傾斜した状態)で段差に進入するので、段差を好適に乗り越えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
下記に詳細に説明する実施例の主要な特徴を最初に列記する。
(形態1)倒立移動装置は、同一の車軸上に配された2つの車輪と、車輪によって支持される車体とによって構成される。
(形態2)車体は、各車輪を駆動するモータと、倒立移動装置の進行方向の路面の段差を検出する路面センサと、車体の傾斜角速度を検出するジャイロセンサと、各モータの回転角速度を検出するエンコーダと、これらのセンサの検出結果に応じてモータを駆動するコントローラを備えている。
(形態3)コントローラは、路面センサにより検出された路面の段差の有無と、ジャイロセンサにより検出された車体の傾斜角速度と、エンコーダにより検出されたモータの回転角速度に応じてモータに制御指令値を出力する。
(形態4)コントローラは、路面センサにより進行方向に段差が検出された場合には、段差を乗り越えるときに車体を進行方向に対して後ろ側に傾斜させる。
(形態5)コントローラは、目標値決定部と、目標速度パターン決定部と、制御指令値算出部を有している。
(形態6)目標値決定部は、路面センサで検出された段差の高さから段差乗り越え時の車体の目標走行速度と目標傾斜角を決定する。
(形態7)目標速度パターン決定部は、目標傾斜角から段差乗り越え時の目標減速度を決定し、その目標減速度と、目標走行速度と、速度センサで検出された車体の速度から目標速度パターンを決定する
(形態8)制御指令値算出部は、傾斜角センサで検出された傾斜角に応じて車体の倒立状態を維持し、かつ、車体の速度が決定された目標速度パターンとなるように制御指令値を算出する。
(形態9)コントローラは、路面センサによって検出された段差が所定の高さよりも低い場合にのみ、倒立移動装置に段差を乗り越えさせる。
(形態10)車体には、1つまたは複数の可動部と、その可動部を駆動するアクチュエータが取付けられている。コントローラは、車輪を駆動するモータに制御指令値を出力すると共にアクチュエータに制御指令値を出力することで、車体姿勢を制御する。
【実施例】
【0012】
本発明の一実施例に係る倒立移動装置について、図面を参照しながら説明する。図1に示すように、倒立移動装置10は、車軸16上に配された2つの車輪12、14と、車輪12、14によって車軸16周りに傾動可能に支持された車体20とによって構成される。車体20の重心30(図9参照)は、車軸16よりも上方に位置している。倒立移動装置10は、車輪12、14を駆動することによって車体20の倒立状態を維持し、かつ、車輪12、14を駆動することによって床面を走行する。
【0013】
車輪12は、後述するモータ22と接続されており、モータ22によって駆動される。また、車輪14は、後述するモータ24と接続されており、モータ24によって駆動される。すなわち、車輪12、14はそれぞれ独立して駆動される。車輪12、14を駆動することによって、倒立移動装置10は床面を走行する。また、車輪12、14のそれぞれの回転角速度を制御することによって、倒立移動装置10の進行方向(進行方向角度φ)を変更することができる。また、車体20の傾斜角θ(図8(b)参照)に応じて車輪12、14を駆動することによって、車体20の倒立状態が維持される。
【0014】
車体20は、車輪12、14を駆動するモータ22、24と、車体20の傾斜角速度θ’を検出するジャイロセンサ28と、走行する路面の段差を検出する路面センサ29と、モータ22、24に制御指令値を出力するコントローラ70を備えている。
【0015】
車体20内に配されたモータ22、24は、車輪12、14に連結されている。また、モータ22、24はコントローラ70と電気的に接続されている。モータ22、24は、コントローラ70から入力される制御指令値にしたがって、車輪12、14を駆動する。
モータ22には、モータの回転角速度iを検出するエンコーダ22aが設けられている。エンコーダ22aは、コントローラ70と電気的に接続されている。エンコーダ22aは、モータ22の回転角速度i(すなわち、車輪12の回転角速度i)を検出する。エンコーダ22aが検出した車輪12の回転角速度iは、コントローラ70に入力される。また、モータ24にもエンコーダ24aが設けられており、エンコーダ24aは車輪14の回転角速度jを検出する。エンコーダ24aが検出した車輪14の回転角速度jも、コントローラ70に入力される。
【0016】
ジャイロセンサ28は、車体20の内部に配されている。ジャイロセンサ28はコントローラ70と電気的に接続されている。ジャイロセンサ28は、車体20の傾斜角速度θ’を検出する。ジャイロセンサ28が検出した傾斜角速度θ’は、コントローラ70に出力される。
【0017】
路面センサ29は、車体20の前面下方に配されている。路面センサ29は、コントローラ70と電気的に接続されている。路面センサ29は、レーザレンジセンサと、演算装置によって構成される。
レーザレンジセンサは、レーザを照射することによって、レーザが照射された物体までの距離を検出する。このレーザレンジセンサは、測定角度範囲内でレーザの照射角度を変化させながらレーザを照射すると共に、レーザを照射した時の照射角度を検出する。すなわち、レーザレンジセンサは、測定角度範囲内で、レーザ照射角度を変化させながらレーザを断続的に照射し、レーザが照射された角度とレーザが照射された物体までの距離を検出する。レーザレンジセンサで検出されたレーザ照射角度及びレーザが照射された物体までの距離は、演算装置によって演算され、測定角度範囲内の物体(障害物)の形状が特定される。従って、路面センサ29によって、測定角度範囲内の物体の形状が検出される。
路面センサ29は、車体20の前面下方に、レーザの照射角度が鉛直方向に変化するように取り付けられている。また、路面センサ29は、レーザの照射方向が車体前方の路面となるように、車体20に取り付けられている。従って、路面センサ29によって車体前方の路面形状を検出することができる。路面センサ29が検出した路面形状のデータは、コントローラ70に入力される。
【0018】
コントローラ70は、CPU,ROM,RAMを備えたマイクロプロセッサ等によって構成されている。コントローラ70は、車体20内に配されている。コントローラ70は、モータ22、24と、エンコーダ22a、24aと、ジャイロセンサ28と、路面センサ29に電気的に接続されている。
図2はコントローラ70の機能を示すブロック図である。図2に示すように、コントローラ70は、制御指令部72と、目標値出力部74と、車体の現在速度ベクトルVを算出する現在速度算出部90と、車体の現在位置(x,y,φ)を算出する現在位置算出部92によって構成される。なお、図2においては、図の見易さを考慮してモータ及びエンコーダを1つだけ図示した。実際には2つのモータ22、24に制御指令値がそれぞれ独立して出力される。
【0019】
現在速度算出部90には、エンコーダ22a及び24aが検出した車輪12、14の回転角速度i、jが入力される。現在速度算出部90は各車輪12、14の回転角速度i、jから、倒立移動装置10の現在速度ベクトルVを算出する。現在速度ベクトルVは、倒立移動装置10が走行する平面上の2次元座標によって表される。すなわち、現在速度ベクトルVは、倒立移動装置10のx方向の速度、y方向の速度及び回転速度によって表わされる。算出された現在速度ベクトルVは、現在位置算出部92及び目標値出力部74に入力される。また、算出された現在速度ベクトルVと目標値出力部74から出力される目標速度ベクトルVmとの偏差が制御指令部72に入力される。
【0020】
現在位置算出部92には、現在速度ベクトルVが入力される。現在位置算出部92は、入力された現在速度ベクトルVを積分して、倒立移動装置10の現在位置(x,y,φ)を算出する。算出された現在位置(x,y,φ)は目標値出力部74に入力される。また、現在位置算出部92で算出された現在位置(x,y,φ)と目標値出力部74から出力される目標位置(xm,ym,φm)との偏差が制御指令部72に入力される。
【0021】
目標値出力部74には、路面センサ29が検出した車体20前方の路面形状データと、現在速度算出部90が算出した現在速度ベクトルVが入力される。また、目標値出力部74には、最終目標位置入力部76(例えば、倒立移動装置10を制御する遠隔制御装置)から最終目標位置(x1,y1,φ1)が入力される。目標値出力部74は、入力される各データに基づいて、目標位置(xm,ym,φm)と、目標速度ベクトルVmを算出する。
【0022】
図3は目標値出力部74の機能を示すブロック図である。図3に示すように、目標値出力部74は、段差検出部75と、目標速度パターン算出部79と、目標位置出力部80と、目標速度出力部81によって構成される。
段差検出部75には、路面センサ29が検出した路面形状データが入力される。段差検出部75は、入力された路面形状データに基づいて、倒立移動装置10の前方に段差があるか否かの判定を行う。段差がある場合には段差の高さhと倒立移動装置10から段差までの距離lを算出する。
【0023】
目標速度パターン算出部79は、最終目標位置入力部76から入力された最終目標位置(x1,y1,φ1)と、段差検出部75から入力される段差高さhと段差までの距離lと、現在速度算出部90から入力される現在速度ベクトルVと、現在位置算出部92から入力される現在位置(x,y,φ)に基づいて、倒立移動装置10の目標速度パターンを算出する。すなわち、目標速度パターン算出部79は、最終目標位置入力部76から最終目標位置(x1,y1,φ1)が入力されると、まず、倒立移動装置10の現在の速度Vと現在の位置(x,y,φ)と入力された最終目標位置(x1,y1,φ1)とに基づいて、現在の位置(x,y,φ)から最終目標位置(x1,y1,φ1)に移動するまでの間の目標速度パターンを算出する。目標速度パターンが算出されると、その算出された目標速度パターンに基づいてモータ22,24は駆動される。倒立移動装置10が最終目標位置(x1,y1,φ1)に移動するまでの間に段差検出部75によって段差が検出されないと、算出された目標速度パターンは修正されることはない。一方、倒立移動装置10が最終目標位置(x1,y1,φ1)に移動するまでの間に段差検出部75によって段差が検出されると、目標速度パターン算出部79は最終目標位置入力時に算出された目標速度パターンを修正する。以下、最終目標位置(x1,y1,φ1)の入力時における目標速度パターンを算出する手順と、段差検出部75で段差が検出されたときの目標速度パターンを修正する手順について説明する。
【0024】
(1)最終目標位置の入力時等における目標速度パターンの算出手順
目標速度パターン算出部79は、まず、倒立移動装置10の現在の速度Vと現在の位置(x,y,φ)と最終目標位置(x1,y1,φ1)に基づいて、倒立移動装置10の移動軌跡を決定する。例えば、現在位置(x,y,φ)から最終目標位置(x1,y1,φ1)まで直線的に移動できる場合は、現在位置(x,y,φ)と最終目標位置(x1,y1,φ1)を直線的に接続した経路を移動軌跡として決定する。あるいは、倒立移動装置10が設置された空間のマップ(いわゆる、道路マップ)が設定されている場合は、そのマップの中から倒立移動装置10が走行する経路(道)を選択する。倒立移動装置10の移動軌跡が決定されると、決定された移動軌跡上を倒立移動装置10が走行するように、倒立移動装置10の目標速度パターンを算出する。
決定された移動軌跡から目標速度パターンを算出する手順を、図4を用いて具体的に説明する。図4(a)に示す例では、倒立移動装置10は現在位置Aにおいて停止しており、倒立移動装置10は現在位置A(出発点)(xA,yA,φA)から最終目標位置B(x1,y1,φ1)まで直線的に移動する。本実施例では、倒立移動装置10の倒立状態を安定して維持するために、倒立移動装置10の最高加速度amaxと最高減速度−amaxの絶対値は予め一定の値に設定されており、また、その最高速度vmaxも制限されている。このため、倒立移動装置10は、現在位置A(xA,yA,φA)から等加速度運動(加速度amax)により最高速度vmaxまで加速し、最高速度vmaxに到達した後は等速度運動(vmax)で走行し、その後、等減速度運動(加速度−amax)で減速して最終目標位置B(x1,y1,φ1)に停止することとなる。したがって、目標速度パターン算出部79は、まず、現在位置(xA,yA,φA)から最終目標位置(x1,y1,φ1)までの距離を算出し、その算出された距離から等加速度で運動する時間と、等速度で運動する時間と、等減速度で運動する時間を決定する。
図5(a),(b)は、図4(a)に示す移動軌跡が決定された場合の目標速度パターンと、目標位置パターンを示している。図5(a)に示すように、倒立移動装置10は時間0〜t1では等加速度amaxで運動し、時間t1〜t2では等速度vmaxで運動し、時間t2〜t3では等減速度−amaxで運動する。この速度パターンに基づいてモータ22,24が制御されることで、倒立移動装置10は図5(b)に示すように移動し、最終目標位置B(x1,y1,φ1)に到達する。
【0025】
(2)段差検出時における目標速度パターンの修正手順
目標速度パターン算出部79は、まず、検出された段差が乗り越え可能か否かを判断する。具体的には、段差検出部75で検出された段差の高さhが予め設定された設定値hmaxより高いか否かを判断する。段差の高さhが設定値hmaxより高い場合は、倒立移動装置10は段差を乗り越え不可能と判断する。段差の高さhが設定値hmaxより低い場合は、倒立移動装置10は段差を乗り越え可能と判断する。
段差を乗り越え可能と判断すると、次に、段差高さhから段差乗り越え時の倒立移動装置10の目標速度V0と目標傾斜角θ0を決定する。段差高さhに応じて段差乗り越え時の目標速度V0を決定するのは、倒立移動装置10に段差を確実に乗り越えさせるためである。また、段差高さhに応じて段差乗り越え時の車体20の目標傾斜角θ0を決定するのは、倒立移動装置10が目標速度V0で段差を乗り越える時に発生する車体20を前方に回転させようとするモーメントMを打ち消すためである。目標速度V0と目標傾斜角θ0は、例えば、図6,7に示すマップに基づいて決定することができる。図6は段差高さhと目標速度V0の関係を示すマップであり、図7は段差高さhと目標傾斜角θ0の関係を示すマップである。図6と入力された段差高さhから目標速度V0を決定することができ、図7と入力された段差高さhから目標傾斜角θ0を決定することができる。
段差乗り越え時の目標傾斜角θ0を決定すると、その決定された目標傾斜角θ0から段差乗り越え時の倒立移動装置10の目標減速度−a0を決定する。倒立移動装置10は、後で詳述するように、加速中は車体20が前方に傾斜し、減速中は車体20が後ろ側に傾斜する。このため、目標傾斜角θ0に応じた目標減速度−a0に倒立移動装置10を制御することで、車体20の傾斜角を目標傾斜角θ0とすることができる。
目標速度V0と目標減速度−a0を決定すると、現在の倒立移動装置10の速度Vと倒立移動装置10から段差までの距離lに基づいて、倒立移動装置10を目標速度V0及び目標減速度−a0に制御可能か否かを判断する。倒立移動装置10を目標速度V0及び目標減速度−a0に制御できる場合は、倒立移動装置10が段差を乗り越え可能と判断する。一方、倒立移動装置10を目標速度V0及び目標減速度−a0に制御できない場合(例えば、倒立移動装置10の現在速度が速く、かつ、段差までの距離が短い場合であり、段差までに目標速度V0とすることができないとき等)、倒立移動装置10は段差を乗り越え不可能と判断する。
段差を乗り越え可能と判断した場合は、目標速度パターン算出部79は、段差乗り越え用の目標速度パターンに修正する。段差を乗り越え不可能と判断した場合は、目標速度パターン算出部79は、段差乗り越え不能用の目標速度パターンに修正する。
【0026】
(i)段差乗り越える場合の目標速度パターンの算出
段差を乗り越える場合は、目標速度パターン算出部79は、まず、現在速度算出部90から入力される現在速度Vから目標減速度−a0で減速して目標速度V0となるために要する時間を算出する。例えば、現在速度が2m/s、目標減速度が−1m/s2、目標速度1m/sの場合、減速時間は1秒と算出される。
減速時間が決定されると、その減速時間中に倒立移動装置10が移動する距離を算出する。上述した例の場合、現在速度が2m/sで目標減速度が−1m/s2で1秒間減速するため、その間に倒立移動装置10が移動する距離は2×1−(1/2)×1×12=1.5mとなる。
減速時間中に移動する距離が算出されると、その算出された距離と段差までの距離lとから現在の速度で等速運動する時間を決定する。例えば、上述した例において段差までの距離が5mの場合、減速時間に倒立移動装置10が移動する距離は1.5mであるので、等速度で運動する距離は3.5mとなる。倒立移動装置10の現在の速度は2m/sであるので、現在の速度で等速運動する時間は1.75秒と算出される。これによって、倒立移動装置10が段差を乗り越える直前までの目標速度パターンを算出することができる。
次に、倒立移動装置10が段差を乗り越える直前から最終目標位置に到達するまでの目標速度パターンを算出する。本実施例では、倒立移動装置10が段差を乗り越える直前まで減速した後、倒立移動装置10が加速度amaxで加速しながら段差を乗り越える。段差を乗り越えた後は、最高速度vmaxまで加速して等速度運動に移行し、次いで、等減速度運動(加速度−amax)で減速して最終目標位置B(x1,y1,φ1)に停止する。ここで、段差乗り越え時(詳細には、段差を乗り越える直前)の目標速度V0は決定されている。また、段差から最終目標位置B(x1,y1,φ1)までの距離は、段差乗り越え時の倒立移動装置10の位置(x,y,φ)と最終目標位置B(x1,y1,φ1)の座標から算出することができる。このため、加速度amaxで加速する時間と、等速度で移動する時間と、減速度−amaxで減速する時間を決定することができる。これによって、段差を乗り越えた後の目標速度パターンを決定することができる。
【0027】
目標速度パターンを修正して段差を乗り越える具体例を図4(b)及び図8を参照して説明する。図4(b)に示すように、倒立移動装置10は現在位置A(xA,yA,φA)から最終目標位置B(x1,y1,φ1)まで直線的に移動する。現在位置A(xA,yA,φA)から最終目標位置B(x1,y1,φ1)まで移動する途中には段差100が存在する。なお、倒立移動装置10は現在位置Aにおいて停止しているものとする。
図8に示すように、倒立移動装置10は、時刻t0〜t1までの期間は加速度amaxで加速し、時刻t1からは等速度運動を行う。倒立移動装置10は、等速度で運動している際に段差100を検出すると(例えば、図4(b)の点Cで段差100を検出すると)、段差検出部75は倒立移動装置10から段差100までの距離CEと段差100の高さhを算出する。そして、上述した手順で目標速度パターンを修正する。すなわち、図8に示すように、時刻t2となるまで(図4(b)の点Dまで)は等速度で移動し、時刻t2〜t3の間(図4(b)の点Eまで)は目標減速度−a0で減速する。これによって、倒立移動装置10は段差100に目標速度V0と目標傾斜角θ0で進入する。
次に、倒立移動装置10は、時刻t3〜t4の間は加速度amaxで加速し、時刻t4では速度vmaxに到達する。したがって、倒立移動装置10は、段差100を乗り越えるタイミング(乗り越える直前)で加速され、車輪12,14に充分なトルクが与えられる。これによって、倒立移動装置10は段差100を確実に乗り越えることができる。時刻t4〜t5は速度vmaxで等速運動し、時刻t5〜t6は減速度−amaxで減速する。これによって、倒立移動装置10は最終目標位置B(x1,y1,φ1)に到達することとなる。
なお、現在位置A(xA,yA,φA)から最終目標位置B(x1,y1,φ1)までに複数の段差がある場合は、段差を検出する毎に目標速度パターンの修正が行われる。
【0028】
(ii)段差乗り越えられないと判断した場合の目標速度パターンの算出
段差を乗り越えられないと判断した場合は、目標速度パターン算出部79は、倒立移動装置10が停止するように、目標速度パターンを修正する。すなわち、目標速度パターン算出部79は、倒立移動装置10を加速度−amaxで減速運動させ、倒立移動装置10の速度が0となるように、目標速度パターンを修正する。
段差を乗り越えない場合の具体的を図4(c)及び図9を参照して説明する。図4(c)に示す例でも、図4(b)と同様に、倒立移動装置10が現在位置A(xA,yA,φA)から最終目標位置B(x1,y1,φ1)まで移動する間に段差100が存在する。なお、倒立移動装置10は現在位置Aにおいて停止しているものとする。
図9に示すように、倒立移動装置10は、時刻t0〜t1までの期間は加速度amaxで加速し、時刻t1からは等速度運動を行う。倒立移動装置10は、等速度で運動している際に段差100を検出し(例えば、図4(c)の点Cで段差100を検出し)、倒立移動装置10が段差100を乗り越えられないと判断する。このため、目標速度パターン算出部79は、倒立移動装置10を停止させるべく目標速度パターンを修正する。これによって、図9に示すように、倒立移動装置10は、時刻t2’〜t3’のあいだ等加速度−amaxで減速する。これによって、倒立移動装置10は、段差100を乗り越えることなく、段差100の手前で停止する。
なお、倒立移動装置10が停止すると、目標速度パターン算出部79は、倒立移動装置10の現在位置と最終目標位置B(x1,y1,φ1)から倒立移動装置10の移動軌跡を再決定し、この際決定された移動軌跡に基づいて目標速度パターンを再び算出することとなる。なお、再決定された移動軌跡は、段差100を回避して最終目標位置B(x1,y1,φ1)に到達するようになっている。
【0029】
なお、上述した説明から明らかなように、目標速度パターン算出部79が目標速度V0、目標傾斜角θ0を算出し、その算出した目標速度V0、目標傾斜角θ0に基づいて目標速度パターンを算出している。したがって、目標速度パターン算出部79が請求項2でいう目標値決定部と目標速度パターン決定部の機能を備えている。
【0030】
目標位置出力部80は、コントローラ70の処理周期(モータ22,24への制御指令値の出力周期)毎に、目標速度パターン算出部79から入力される目標速度パターンに基づいて倒立移動装置10の目標位置(xm,ym,φm)を出力する。すなわち、目標速度パターン算出部79から入力される目標速度パターンは時刻tの関数となっている。したがって、入力された目標速度パターンを積分して、目標位置パターン(時刻tの関数)を算出する。そして、算出された目標位置パターンから時刻tに応じた目標位置(xm,ym,φm)を算出し、その算出した目標位置(xm,ym,φm)を制御指令部72に出力する。
なお、いったん目標速度パターンが入力されると、修正された目標速度パターンが再入力されるまでは、最初に入力された目標速度パターンに基づいて目標位置(xm,ym,φm)が算出される。
【0031】
目標速度出力部81は、コントローラ70の処理周期(モータ22,24へのトルク指令値の出力周期)毎に、目標速度パターン算出部79から入力される目標速度パターンに基づいて倒立移動装置10の目標速度Vmベクトルを出力する。すなわち、目標速度パターン算出部79から入力される目標速度パターンは時刻tの関数となっている。したがって、入力された目標速度パターンから時刻tに応じた目標速度ベクトルVmを算出し、その算出した目標速度ベクトルVmを制御指令部72に出力する。
なお、目標位置出力部80と同様に、目標速度出力部81にいったん目標速度パターンが入力されると、修正された目標速度パターンが再入力されるまでは、最初に入力された目標速度パターンに基づいて目標速度ベクトルVmが算出される。
【0032】
制御指令部72には、目標値出力部74から出力される目標位置(xm,ym,φm)と現在位置算出部92で算出される現在位置(x,y,φ)の偏差が入力され、目標値出力部から出力される目標速度ベクトルVmと現在速度算出部90で算出される現在速度ベクトルVの偏差が入力される。また、制御指令部72には、ジャイロセンサ28が検出する車体の傾斜角速度θ’が入力される。制御指令部72は、入力された位置偏差、速度偏差及び傾斜角速度θ’に応じて制御指令値を算出し、算出した制御指令値をモータ22、24に出力する。詳しくは、制御指令部72は、走行制御指令値算出部72aと倒立制御指令値算出部72bを備え、走行制御指令値算出部72aで算出された制御指令値と、倒立制御指令値算出部72bで算出された制御指令値との和をモータ22,24に出力する。
【0033】
走行制御指令値算出部72aには位置偏差及び速度偏差が入力される。走行制御指令値算出部72aは、入力された位置偏差及び速度偏差が小さくなるように制御指令値を算出する。このため、走行制御指令値算出部72aで算出された制御指令値に基づいてモータ22,24が駆動されると、位置偏差及び速度偏差が小さくなり、倒立移動装置10が目標値出力部74から出力される目標位置(xm,ym,φm)に移動し、かつ、倒立移動装置10の速度ベクトルVが目標速度ベクトルVmとなる。
【0034】
倒立制御指令値算出部72bには、位置偏差、速度偏差及び傾斜角速度θ’が入力される。倒立制御指令値算出部72bは、位置偏差、速度偏差及ぶ傾斜角速度θ’が小さくなるように制御指令値を算出する。ここで、傾斜角速度θ’が小さくなると、傾斜角速度θ’が「0」となる。したがって、本実施例では目標傾斜角速度θ’mが「0」に設定されていることとなる。このため、倒立制御指令値算出部72bで算出された制御指令値でモータ22,24が駆動されることで、傾斜角速度θ’が「0」となるように制御され、倒立移動装置10の車体20は倒立状態を維持することとなる。
【0035】
なお、上述した制御指令部72の具体的な構成については、特許文献1に開示された構成を採ることができる。
【0036】
上述したように、本実施例では、位置偏差及び速度偏差を0とし、かつ、傾斜角速度θ’を0とするように倒立移動装置10を制御するため、車体20の重心に加わる外力(図12における重力Gと慣性力Aの和)の方向は車輪12,14の車軸16の方向を向くこととなる。従って、図11(b)または図12に示すように慣性力Aが前方向に作用する場合(すなわち倒立移動装置10が減速する場合)には、車体20が後ろ側に傾斜する。逆に慣性力Aが後ろ方向に作用する場合(すなわち倒立移動装置10が加速する場合)は、車体20が前側に傾斜する。このように、本実施例では、倒立移動装置10の減速度a(又は加速度a)を制御することによって、車体20の傾斜角θを制御することができる。傾斜角θは、θ=arctan(a/g)の計算式によって求めることができる。
【0037】
次に、倒立移動装置10が段差を乗り越える際のコントローラ70の動作について、図10を参照して説明する。図10は、倒立移動装置10が初期位置(xA,yA,φA)において停止した状態で最終目標位置入力部76より最終目標位置(x1,y1,φ1)が入力され、初期位置(xA,yA,φA)から最終目標位置(x1,y1,φ1)に移動する際のコントローラ70の動作を示している。
【0038】
最終目標位置入力部76より最終目標位置(x1,y1,φ1)が入力されると、コントローラ70は、倒立移動装置10の各部を起動して、倒立移動装置10の移動制御を開始する(ステップS2)。移動制御を開始すると、コントローラ70は、まず、入力された最終目標位置(x1,y1,φ1)と倒立移動装置10の現在位置(xA,yA,φA)から移動軌跡を決定し、その決定した移動軌跡に基づいて目標速度パターンを算出する(ステップS4)。そして、算出された目標速度パターンに基づいてコントローラ70からモータ22,24への制御指令値の出力が開始され、その制御指令値に基づいてモータ22,24が駆動される(ステップS6)。これによって、倒立移動装置10は、倒立状態を維持した状態で、最終目標位置(x1,y1,φ1)に向かって移動を開始する。
【0039】
倒立移動装置10が走行を開始すると、路面センサ29によって路面形状データの計測が行われる。路面センサ29によって計測された路面形状は、所定の周期毎にコントローラ70に入力される。コントローラ70は、入力される路面形状データから路面に段差があるか否かを判定する(ステップS8)。
路面に段差がないと判断した場合(ステップS8でNO)は、ステップS24に進んで、倒立移動装置10が最終目標位置(x1,y1,φ1)に到達したか否かを判定する。最終目標位置(x1,y1,φ1)に到達した場合(ステップS24でYES)は、コントローラ70による移動制御を終了する。最終目標位置(x1,y1,φ1)に到達していない場合(ステップS20でNO)は、ステップS6に戻ってステップS6からの処理が繰返される。このため、モータ22,24の駆動が継続され、倒立移動装置10は最終目標位置(x1,y1,φ1)に向かって移動を継続する。
【0040】
一方、路面に段差があると判断した場合(ステップS8でYES)は、コントローラ70は、検出された段差の高さhが予め設定された段差高さhmaxを超えるか否かを判定する(ステップS10)。
検出された段差高さhが設定された段差高さhmaxを超える場合(ステップS10でYES)は、コントローラ70は倒立移動装置10を停止させるための目標速度パターンに修正する(ステップS18)。次いで、コントローラ70は、ステップS18で修正された目標速度パターンに基づいてモータ22を駆動し(ステップS20)、倒立移動装置10の速度が0となったか否かを判断する(ステップS22)。倒立移動装置10の速度が0となっていないと(ステップS22でNO)は、ステップS20に戻って、ステップS20からの処理が繰返される。これによって、倒立移動装置10が停止するまでモータ22,24の駆動が継続される。倒立移動装置10の速度が0となっている場合(ステップS22でYES)は、コントローラ70は倒立移動装置10の移動制御を終了する。
【0041】
検出された段差高さhが設定された段差高さhmaxを超えない場合(ステップS10でNO)は、コントローラ70は段差乗り越え時の目標速度V0を算出し、その目標速度V0から目標傾斜角度θ0を算出する(ステップS12)。次いで、コントローラ70は、目標傾斜角度θ0から目標減速度−a0を算出する。
目標速度V0と目標減速度−a0が算出されると、段差までの距離lと倒立移動装置10の現在速度Vから倒立移動装置10が段差を乗り越え可能か否かを判定する(ステップS14)。倒立移動装置10が段差を乗り越えることができない場合(ステップS14でNO)は、ステップS18に進む。これによって、倒立移動装置10は、段差を乗り越えることなく、その移動を停止する。
【0042】
一方、倒立移動装置10が段差を乗り越え可能である場合(ステップS14でYES)は、ステップS12で算出された目標速度V0と目標傾斜角θ0(すなわち、目標減速度−a0)と段差までの距離lと倒立移動装置10の現在速度Vから目標速度パターンを修正する(ステップS16)。目標速度パターンを修正すると、ステップS24に進む。これによって、修正された目標速度パターンで倒立移動装置10が駆動され、倒立移動装置10は最終目標位置(x1,y1,φ1)まで移動することとなる。
【0043】
ここで、倒立移動装置10が段差を乗り越えるときの車体の姿勢について、図4の例に基づいて説明する。
倒立移動装置10は、位置Cにおいて段差100を検出すると、図8に示すような目標速度パターンに従って走行する。すなわち、段差100を検出した後、点Dに到達するまでは、一定速度Vmaxで走行する(図11(a)参照)。倒立移動装置10は、点Dに到達すると、一定減速度−a0で減速しながら走行する。すると、倒立移動装置10は、傾斜角速度θ’=0となるように走行するので、車体20の傾斜角度θは、減速度−a0に応じた傾斜角度θ0となる。倒立移動装置10は、一定減速度−a0、傾斜角度θ0で点Dから段差100まで走行する(図11(b)参照)。倒立移動装置10が点Dから段差まで走行する間に倒立移動装置10の速度が減速され、倒立移動装置10の速度は速度V0(目標走行速度V0)となる。すなわち、倒立移動装置10は、速度V0、傾斜角度θ0で段差100に進入する(図11(c)参照)。
倒立移動装置10が段差100に進入すると、車輪12、14が段差100に接触する。車輪12、14が段差100に接触すると、段差100から車輪12、14に、進行方向に対して後ろ側に外乱力Fが作用する(図12参照)。外乱力Fが作用すると、車輪12、14と段差との接触点Pの周りに慣性モーメントMが発生する。発生した慣性モーメントMが車体20に作用すると、後ろ側に傾斜していた車体20が起こされて、略垂直(すなわちθ=0)に倒立する。
また、倒立移動装置10が段差100に進入する速度V0は、段差100を乗り越えるのに十分な速度に決定されている。また、倒立移動装置10は、段差100に進入する直前のタイミングで、加速度amaxで加速するので、車輪12、14にトルクが加わっている。従って、倒立移動装置10は好適に段差100を乗り越える(図11(d)参照)。
【0044】
上述した説明から明らかなように、倒立移動装置10は、段差を乗り越える際に、車体20を進行方向に対して後ろ側に傾斜させる。従って、倒立移動装置10が段差を乗り越える際に車体20が前側に大きく傾斜されることが抑制され、倒立状態を維持したまま、より高い段差を乗り越えることができる。
また、上述の倒立移動装置10は、目標速度パターン算出部79が、段差の高さhに応じて目標走行速度V0と目標傾斜角θ0を決定し、次いで、目標傾斜角θ0に応じたら目標減速度a0を決定し、最後に、決定した目標減速度a0及び目標走行速度V0並びに速度センサで検出された車体20の速度Vに応じて車体20の目標速度パターンを決定する。倒立移動装置10は、段差の高さhに応じて決定された目標速度パターンに従って走行するので、段差を好適に乗り越えることができる。
また、上述の倒立移動装置10は、コントローラ70が、路面センサ29によって検出された段差が所定の高さhmaxよりも低い場合にのみ、倒立移動装置10に段差を乗り越えさせる。従って、段差が所定の高さhmaxよりも高い場合には、倒立移動装置10は段差に進入しないので、倒立移動装置10が転倒して故障することが防止される。
【0045】
なお、上述した実施例では、倒立移動装置10が駆動する回転体として、二つの車輪12,14が用いられていたが、本発明はこのような実施形態に限られず、一輪や1球など、様々な回転体を任意に選択することができる。
また、上述の実施例では、路面センサとしてレーザレンジセンサを使用したが、超音波センサや、カメラ等によって撮影された画像を処理することで段差を検出しても良い。
【0046】
なお、上述の倒立移動装置10では、倒立移動装置10を減速することで、段差に進入する際に車体20を後ろ側へ傾斜させている。車体20が後ろ側へ傾斜すると、路面センサ29の測定角度範囲が上方を向き、路面形状を測定する範囲が変わってしまう。従って、倒立移動装置は、図13に示す構成とすることができる。
図13の倒立移動装置40は、車体50が、上車体62と下車体64とによって構成されている。上車体62と下車体64は、アクチュエータ66によって接続されている。そして、アクチュエータ66を駆動することによって、上車体62を下車体64に対して前後にスライドさせることができる。また、路面センサ29は下車体64の前方下部に取り付けられており、その測定角度範囲が路面方向に向けられている。
このような構成によれば、車体50を傾斜させる際に、コントローラからアクチュエータ66に制御指令値を出力して、上車体62を後ろ側にスライドさせることができる。すると、車体(すなわち車体の重心)を後ろ側に傾斜させても、上車体62及び下車体64を垂直に維持することができる。従って、路面センサ29の測定角度範囲が上方を向くことなく、測定角度範囲が変わらないため、路面形状を好適に測定することができる。
また、倒立移動装置10が加速する際は、下車体64に対して上車体62をスライドさせないと、車体50は前方に傾斜することとなる。車体50が前方に傾斜しても、路面センサ29による測定角度範囲が変更になってしまう。そこで、倒立移動装置10が加速する際は、下車体64に対して上車体62を前方に移動させて、車体50の傾きを抑制することができる。これによって、路面センサ29の測定角度範囲の変化が抑制され、倒立移動装置10の加速中も路面形状を好適に測定することができる。
【0047】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】倒立移動装置10の斜視図。
【図2】コントローラ70の機能ブロック図。
【図3】目標値出力部74の機能ブロック図。
【図4】段差を乗り越える動作の説明図。
【図5】通常時の目標速度パターン及び目標位置パターン。
【図6】V0算出時のV0−h相関マップ。
【図7】θ0算出時のθ0−h相関マップ。
【図8】段差乗り越え時の目標速度パターン及び目標位置パターン。
【図9】段差回避時の目標速度パターン及び目標位置パターン。
【図10】コントローラ70の処理を示すフローチャート。
【図11】倒立移動装置10の段差進入時の説明図。
【図12】倒立移動装置10の段差進入時の説明図。
【図13】倒立移動装置40の段差進入時の説明図。
【図14】倒立移動装置60の段差進入時の説明図。
【符号の説明】
【0049】
10:倒立移動装置
12、14:車輪
16:車軸
20:車体
22、24:モータ
22a、24a:エンコーダ
28:ジャイロセンサ
29:路面センサ
30:重心
40:倒立移動装置
50:車体
60:倒立移動装置
62:上車体
64:下車体
66:アクチュエータ
70:コントローラ
72:制御指令部
72a:走行制御指令値算出部
72b:倒立制御指令値算出部
74:目標値出力部
75:段差検出部
79:目標速度パターン算出部
80:目標位置出力部
81:目標速度出力部
90:現在速度算出部
92:現在位置算出部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1または複数の回転体と、回転体によって支持される車体と、回転体を回転させる駆動装置とを備え、駆動装置によって回転体を駆動することで車体を倒立状態に維持しながら路面上を走行する倒立移動装置であって、
車体の進行方向の路面の段差を検出する路面センサと、
車体の傾斜角及び傾斜角速度の少なくとも1つを検出する傾斜角センサと、
車体の走行速度を特定可能な物理量を検出する速度センサと、
路面センサにより検出された路面の段差の有無と、傾斜角センサにより検出された検出値と、速度センサにより検出された検出値に応じて、駆動装置に制御指令値を出力するコントローラと、を備えており、
コントローラは、路面センサにより進行方向に段差が検出された場合は、段差を乗り越えるときに車体を進行方向に対して後ろ側に傾斜させることを特徴とする倒立移動装置。
【請求項2】
コントローラは、
路面センサで検出された段差の高さから段差乗り越え時の車体の目標走行速度と目標傾斜角を決定する目標値決定部と、
決定された目標走行速度及び目標傾斜角並びに速度センサで検出された車体の速度に応じて車体の目標速度パターンを決定する目標速度パターン決定部と、
傾斜角センサで検出された傾斜角に応じて車体の倒立状態を維持し、かつ、車体の速度が決定された目標速度パターンとなるように制御指令値を算出する制御指令値算出部と、
を有していることを特徴とする請求項1に記載の倒立移動装置。
【請求項3】
目標速度パターン決定部は、目標値決定部で決定された目標傾斜角から段差乗り越え時の目標減速度を決定し、その目標減速度と速度センサで検出された車体の速度と目標値決定部で決定された目標走行速度から目標速度パターンを決定することを特徴とする請求項2に記載の倒立移動装置。
【請求項4】
コントローラは、路面センサによって検出された段差が所定の高さよりも低い場合にのみ、倒立移動装置に段差を乗り越えさせることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の倒立移動装置。
【請求項5】
1または複数の回転体と、回転体によって支持される車体と、回転体を回転させる駆動装置と、倒立移動装置の進行方向の路面の段差を検出する路面センサと、車体の傾斜角及び傾斜角速度の少なくとも1つを検出する傾斜角センサと、倒立移動装置の走行速度を特定可能な物理量を検出する速度センサと、路面センサと傾斜角センサと速度センサの検出結果に応じて制御指令値を駆動装置に出力するコントローラとを備え、駆動装置が制御指令値に基づいて回転体を駆動することで車体を倒立状態に維持しながら路面上を走行する倒立移動装置の制御方法であり、
路面センサにより倒立移動装置の進行方向の段差が検出された場合に、検出された段差の高さから、段差乗り越え時の車体の目標走行速度と目標傾斜角を決定する第1ステップと、
第1ステップで算出された車体の目標走行速度及び目標傾斜角並びに速度センサで検出された検出値に応じて目標速度パターンを決定する第2ステップと、
傾斜角センサで検出された傾斜角に応じて車体の倒立状態を維持し、かつ、車体の速度が決定された速度パターンとなるように制御指令値を算出する第3ステップと、を有し、
上記各工程をコントローラで実行することで倒立移動装置に段差を乗り越えさせることを特徴とする倒立移動装置の制御方法。
【請求項1】
1または複数の回転体と、回転体によって支持される車体と、回転体を回転させる駆動装置とを備え、駆動装置によって回転体を駆動することで車体を倒立状態に維持しながら路面上を走行する倒立移動装置であって、
車体の進行方向の路面の段差を検出する路面センサと、
車体の傾斜角及び傾斜角速度の少なくとも1つを検出する傾斜角センサと、
車体の走行速度を特定可能な物理量を検出する速度センサと、
路面センサにより検出された路面の段差の有無と、傾斜角センサにより検出された検出値と、速度センサにより検出された検出値に応じて、駆動装置に制御指令値を出力するコントローラと、を備えており、
コントローラは、路面センサにより進行方向に段差が検出された場合は、段差を乗り越えるときに車体を進行方向に対して後ろ側に傾斜させることを特徴とする倒立移動装置。
【請求項2】
コントローラは、
路面センサで検出された段差の高さから段差乗り越え時の車体の目標走行速度と目標傾斜角を決定する目標値決定部と、
決定された目標走行速度及び目標傾斜角並びに速度センサで検出された車体の速度に応じて車体の目標速度パターンを決定する目標速度パターン決定部と、
傾斜角センサで検出された傾斜角に応じて車体の倒立状態を維持し、かつ、車体の速度が決定された目標速度パターンとなるように制御指令値を算出する制御指令値算出部と、
を有していることを特徴とする請求項1に記載の倒立移動装置。
【請求項3】
目標速度パターン決定部は、目標値決定部で決定された目標傾斜角から段差乗り越え時の目標減速度を決定し、その目標減速度と速度センサで検出された車体の速度と目標値決定部で決定された目標走行速度から目標速度パターンを決定することを特徴とする請求項2に記載の倒立移動装置。
【請求項4】
コントローラは、路面センサによって検出された段差が所定の高さよりも低い場合にのみ、倒立移動装置に段差を乗り越えさせることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の倒立移動装置。
【請求項5】
1または複数の回転体と、回転体によって支持される車体と、回転体を回転させる駆動装置と、倒立移動装置の進行方向の路面の段差を検出する路面センサと、車体の傾斜角及び傾斜角速度の少なくとも1つを検出する傾斜角センサと、倒立移動装置の走行速度を特定可能な物理量を検出する速度センサと、路面センサと傾斜角センサと速度センサの検出結果に応じて制御指令値を駆動装置に出力するコントローラとを備え、駆動装置が制御指令値に基づいて回転体を駆動することで車体を倒立状態に維持しながら路面上を走行する倒立移動装置の制御方法であり、
路面センサにより倒立移動装置の進行方向の段差が検出された場合に、検出された段差の高さから、段差乗り越え時の車体の目標走行速度と目標傾斜角を決定する第1ステップと、
第1ステップで算出された車体の目標走行速度及び目標傾斜角並びに速度センサで検出された検出値に応じて目標速度パターンを決定する第2ステップと、
傾斜角センサで検出された傾斜角に応じて車体の倒立状態を維持し、かつ、車体の速度が決定された速度パターンとなるように制御指令値を算出する第3ステップと、を有し、
上記各工程をコントローラで実行することで倒立移動装置に段差を乗り越えさせることを特徴とする倒立移動装置の制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2007−219986(P2007−219986A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−42169(P2006−42169)
【出願日】平成18年2月20日(2006.2.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年2月20日(2006.2.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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