光フィルタ及びそれを備えた光モジュール
【課題】ミラー間のギャップを可変させた場合においても分光特性に優れた光を取り出すことができ、しかも取り出す光の分光特性を低下させることなく良好に維持することができる光フィルタ及びそれを備えた光モジュールを提供する。
【解決手段】本発明の光フィルタ1は、第1の基板2と、これに対向して接合され、第1の凹部5及び第2の凹部7が形成された第2の基板3と、第1の凹部5に第1のギャップを介して設けられたミラー4A、4Bと、ミラー4A、4Bの周囲に第2のギャップを介して設けられた一対の電極6A、6Bと、第1の基板2に形成された第1のダイアフラム部8と、第1のダイアフラム部8の内周側に形成された第2のダイアフラム部9とを備えた。
【解決手段】本発明の光フィルタ1は、第1の基板2と、これに対向して接合され、第1の凹部5及び第2の凹部7が形成された第2の基板3と、第1の凹部5に第1のギャップを介して設けられたミラー4A、4Bと、ミラー4A、4Bの周囲に第2のギャップを介して設けられた一対の電極6A、6Bと、第1の基板2に形成された第1のダイアフラム部8と、第1のダイアフラム部8の内周側に形成された第2のダイアフラム部9とを備えた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光フィルタ及びそれを備えた光モジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、入射光から目的とする波長の光を選択して出射する光フィルタとして、一対の基板を対向配置し、これら基板の対向する面それぞれにミラーを設け、これらのミラーの周囲にそれぞれ電極を設けるとともに、一方のミラーの周囲にダイアフラム部を設け、これら電極間の静電力によりダイアフラム部を変位させてこれらのミラー間のギャップ(エアーギャップ)を変化させることにより、所望の波長の光を取り出すエアギャップ型かつ静電駆動型の光フィルタが知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
このような光フィルタでは、製造時に一対のミラー間のギャップをサブミクロンから数ミクロンと非常に狭い範囲で制御する必要があり、しかも、これらのミラー間のギャップを精度良く維持し、かつ、所望のギャップ量に制御することが重要である。
このような光フィルタでは、ミラー間のギャップを変化させることにより、このミラー間のギャップに対応した波長の光を選択的に取り出すことができる。
【特許文献1】特開2003−57438号公報
【特許文献2】特開2008−116669号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来のエアギャップ型かつ静電駆動型の光フィルタでは、ミラー間の平行度やミラーの平坦度が低下すると、取り出した光の分光特性が低下するために、一対のミラーを平行かつ平坦に保持することが光フィルタの特性を維持する上で最も重要となる。
しかしながら、この光フィルタから所望の波長の光を選択的に取り出すために、エアギャップ静電駆動によりミラー間のギャップを可変させた場合、ダイアフラム部の撓みが可動側のミラーに伝搬し、ミラーが湾曲して平坦度が低下してしまい、したがって、取り出した光の最大透過率が低下するとともに、その半値幅も増大する、いわゆるブロードな波形を呈することとなり、その結果、取り出した光の分光特性が大幅に低下してしまうという問題点があった。
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、所望の波長の光を選択的に取り出すためにミラー間のギャップを可変させた場合においても、この可変に伴い発生する撓みが可動側のミラーに伝搬することを抑制することができ、その結果、最大透過率が高くかつ半値幅が狭く、分光特性に優れた光を取り出すことができ、しかも、取り出す光の分光特性を低下させることなく良好に維持することができる光フィルタ及びそれを備えた光モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の光フィルタ及びそれを備えた光モジュールを採用した。
すなわち、本発明の光フィルタは、互いに対向した状態で接合または接着され、互いに対向する面のいずれか一方または双方に1つ以上の段差を有する凹部が形成された第1の基板及び第2の基板と、前記凹部の前記第1の基板及び第2の基板の対向する面に第1のギャップを介して設けられた一対のミラーと、前記一対のミラーの周囲かつ前記第1の基板及び第2の基板の対向する面に第2のギャップを介して設けられた一対の電極と、前記一対のミラーの周囲かつ前記第1の基板及び第2の基板のいずれか一方または双方に形成された第1のダイアフラム部と、前記第1のダイアフラム部の内周側及び外周側のいずれか一方または双方に形成された第2のダイアフラム部と、を備えてなることを特徴とする。
【0007】
本発明の光フィルタでは、第1のダイアフラム部の内周側及び外周側のいずれか一方または双方に、第2のダイアフラム部を形成したことにより、この光フィルタから所望の波長の光を選択的に取り出すためにこれらのミラー間のギャップを可変させた場合においても、第1のダイアフラム部に生じた撓みが第2のダイアフラム部により緩和され、可動側のミラーに伝搬する撓み量を減少させる。これにより、この撓みに起因する可動側のミラーの湾曲も小さなものとなり、このミラーの平坦度の低下も小さなものとなり、これらのミラーから取り出される光の最大透過率も高くかつ半値幅も狭いものとなる。よって、分光特性に優れた光を取り出すことが可能になり、取り出す光の分光特性を低下させることなく良好に維持することも可能になる。
以上により、分光特性に優れた光を取り出すことができ、しかも、取り出す光の分光特性を低下させることなく良好に維持することができる光フィルタを提供することができる。
【0008】
本発明の光フィルタは、前記第2のダイアフラム部の肉厚は、前記第1のダイアフラム部の肉厚以下であることを特徴とする。
この光フィルタでは、第2のダイアフラム部の肉厚を第1のダイアフラム部の肉厚以下としたことにより、第1のダイアフラム部に生じた撓みが第2のダイアフラム部により効率的に緩和され、可動側のミラーに伝搬する撓み量を大きく減少させる。これにより、この撓みに起因する可動側のミラーの湾曲も極めて小さなものとなり、このミラーの平坦度の低下も極めて小さなものとなり、これらのミラーから取り出される光の最大透過率も極めて高くかつ半値幅も極めて狭いものとなる。よって、分光特性に優れた光を取り出すことができ、取り出す光の分光特性を低下させることなく良好に維持することができる。
【0009】
本発明の光フィルタは、前記第1のダイアフラム部及び前記第2のダイアフラム部は、前記第1の基板及び第2の基板のいずれか一方または双方を選択除去してなることを特徴とする。
この光フィルタでは、第1のダイアフラム部及び第2のダイアフラム部が、第1の基板及び第2の基板のいずれか一方または双方を選択除去したことにより、第1のダイアフラム部及び第1のダイアフラム部それぞれの加工精度及びこれらの間の加工精度が高くなり、これらのミラーから取り出される光の分光特性が極めて優れたものとなる。
【0010】
本発明の光フィルタは、前記第1のダイアフラム部及び前記第2のダイアフラム部は、一体化してなることを特徴とする。
この光フィルタでは、第1のダイアフラム部及び第2のダイアフラム部を一体化したことにより、第1のダイアフラム部と第2のダイアフラム部とで個別に緩和していた第1のダイアフラム部に生じた撓みを、一体化されたダイアフラム部により一括して緩和することで、より効率的に緩和することができる。
【0011】
本発明の光フィルタは、前記第1の基板及び前記第2の基板は、光透過性を有することを特徴とする。
この光フィルタでは、第1の基板及び第2の基板を、光透過性を有することとしたことにより、基板における光の透過率が向上し、取り出した光の強度も高くなる。よって、光の取り出し効率が向上する。
【0012】
本発明の光フィルタは、互いに対向した状態で接合または接着され、互いに対向する面のいずれか一方または双方に1つ以上の段差を有する凹部が形成された第1の基板及び第2の基板と、前記凹部の前記第1の基板及び第2の基板の対向する面に第1のギャップを介して設けられた一対のミラーと、前記一対のミラーの周囲かつ前記第1の基板及び第2の基板の対向する面に第2のギャップを介して設けられた一対の電極と、前記一対のミラーの周囲かつ前記第1の基板及び第2の基板のいずれか一方または双方に形成された少なくとも1つの第1のヒンジ部と、前記第1のヒンジ部の内周側及び外周側のいずれか一方または双方に形成された少なくとも1つの第2のヒンジ部と、を備えてなることを特徴とする。
【0013】
本発明の光フィルタでは、前記第1のヒンジ部の内周側及び外周側のいずれか一方または双方に、少なくとも1つの第2のヒンジ部を形成したことにより、この光フィルタから所望の波長の光を選択的に取り出すためにこれらのミラー間のギャップを可変させた場合においても、第1のヒンジ部に生じた撓みが第2のヒンジ部により緩和され、可動側のミラーに伝搬する撓み量を減少させる。これにより、この撓みに起因する可動側のミラーの湾曲も小さなものとなり、このミラーの平坦度の低下も小さなものとなり、これらのミラーから取り出される光の最大透過率も高くかつ半値幅も狭いものとなる。よって、分光特性に優れた光を取り出すことが可能になり、取り出す光の分光特性を低下させることなく良好に維持することも可能になる。
以上により、分光特性に優れた光を取り出すことができ、しかも、取り出す光の分光特性を低下させることなく良好に維持することができる光フィルタを提供することができる。
【0014】
本発明の光フィルタは、前記第2のヒンジ部の梁幅は、前記第1のヒンジ部の梁幅以下であることを特徴とする。
この光フィルタでは、第2のヒンジ部の梁幅を第1のヒンジ部の梁幅以下としたことにより、第1のヒンジ部に生じた撓みが第2のヒンジ部により効率的に緩和され、可動側のミラーに伝搬する撓み量を大きく減少させる。これにより、この撓みに起因する可動側のミラーの湾曲も極めて小さなものとなり、このミラーの平坦度の低下も極めて小さなものとなり、これらのミラーから取り出される光の最大透過率も極めて高くかつ半値幅も極めて狭いものとなる。よって、分光特性に優れた光を取り出すことができ、取り出す光の分光特性を低下させることなく良好に維持することができる。
【0015】
本発明の光フィルタは、前記第1の基板及び前記第2の基板のいずれか一方は半導体材料であることを特徴とする。
この光フィルタでは、第1の基板及び第2の基板のいずれか一方を半導体材料としたことにより、入射光として、この半導体材料を透過可能な波長の電磁波、例えば、近赤外線を用いることが可能となる。よって、入射光の波長の幅が増大する。
【0016】
本発明の光モジュールは、本発明の光フィルタを備えてなることを特徴とする。
この光モジュールでは、本発明の光フィルタを備えたことにより、最大透過率が高くかつ半値幅が狭く、分光特性に優れた光を取り出すことができ、しかも、取り出す光の分光特性を低下させることなく良好に維持することができる光モジュールを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の光フィルタ及びそれを備えた光モジュールを実施するための最良の形態について説明する。
ここでは、光フィルタとして、エアギャップ型かつ静電駆動型の光フィルタについて説明する。
なお、以下の説明においては、XYZ直交座標系を設定し、必要に応じて、このXYZ直交座標系を参照しつつ各部材の位置関係について説明することとする。その場合に、水平面内の所定方向をX軸方向、水平面内かつX軸方向と直交する方向をY軸方向、X軸方向及びY軸方向と直交する方向(すなわち鉛直方向)をZ軸方向とする。
【0018】
「第1の実施形態」
図1は、本実施形態の光フィルタを示す平面図、図2は同光フィルタを示す断面図である。
図において、符号1はエアギャップ型で静電駆動型のエタロン素子からなる光フィルタであり、この光フィルタ1は、第1の基板2と、第1の基板2に対向した状態で接合(または接着)された第2の基板3と、第1の基板2の対向する側の面2aの中央部に設けられた円形状のミラー4Aと、第2の基板3の中央部に形成された第1の凹部5の底部にミラー4Aと第1のギャップG1を介して対向して設けられた円形状のミラー4Bと、第1の基板2のミラー4Aの周囲に設けられた円環状の電極6Aと、第2の基板3の第1の凹部5の周囲に形成された底浅の円環状の第2の凹部7に電極6Aと第2のギャップG2を介して対向して設けられた円環状の電極6Bと、第1の基板2内かつ電極6Aの外周部とほぼ対応する位置にエッチング(選択除去)により形成された薄肉の円環状の第1のダイアフラム部8と、第1の基板2内かつダイアフラム部8の内周側かつミラー4Aの外側にエッチング(選択除去)により形成され、その厚みがダイアフラム部8の厚み以下の円環状の第2のダイアフラム部9とにより構成されている。
そして、第2のギャップG2を介して対向して設けられた電極6A、6Bと、ダイアフラム部8とにより、静電アクチュエータが構成されている。
【0019】
第1の基板2及び第2の基板3は、共に光透過性を有するとともに絶縁性を有する材料からなる矩形状(正方形状)のもので、特にガラス等の透明材料により構成されていることが好ましい。
このガラスとしては、具体的には、ソーダガラス、結晶化ガラス、石英ガラス、鉛ガラス、カリウムガラス、ホウケイ酸ガラス、ホウケイ酸ナトリウムガラス、無アルカリガラス等が好適に用いられる。
このように、第1の基板2及び第2の基板3を共に光透過性を有する材料とすることにより、電磁波のうち所望の波長帯域の電磁波や可視光線を入射光として用いることができる。
また、第1の基板2及び第2の基板3を共に半導体材料、例えばシリコンで形成すれば、入射光として近赤外線を用いることができる。
【0020】
ミラー4A、4Bは、第1のギャップG1を介して互いに対向して配置されたもので、高屈折率層と低屈折率層とが交互に複数積層された誘電体多層膜により構成されている。なお、ミラー4A、4Bは、誘電体多層膜に限定されることなく、例えば、炭素を含有する銀の合金膜等を用いることもできる。
これらミラー4A、4Bのうち、一方のミラー4Aは変形可能な第1の基板2に設けられているので可動ミラーと称し、他方のミラー4Bは変形しない第2の基板3に設けられているので固定ミラーと称することもある。
【0021】
この光フィルタ1を可視光線の領域あるいは赤外線の領域で用いる場合、誘電体多層膜における高屈折率層を形成する材料としては、例えば、酸化チタン(Ti2O)、酸化タンタル(Ta2O5)、酸化ニオブ(Nb2O5)等が用いられる。また、光フィルタ1を紫外線の領域で用いる場合、高屈折率層を形成する材料としては、例えば酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化ハフニウム(HfO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化トリウム(ThO2)等が用いられる。
一方、誘電体多層膜における低屈折率層を形成する材料としては、例えば、フッ化マグネシウム(MgF2)、酸化ケイ素(SiO2)等が用いられる。
【0022】
この高屈折率層及び低屈折率層の層数及び厚みについては、必要とする光学特性に基づいて適宜に設定される。一般に、誘電体多層膜により反射膜(ミラー)を形成する場合、その光学特性を得るために必要な層数は12層以上である。
【0023】
電極6A、6Bは、第2のギャップG2を介して互いに対向して配置されたもので、入力される駆動電圧に応じてこれら電極6A、6B間に静電力を発生させ、ミラー4A、4Bを互いに対向した状態で相対移動させる静電アクチュエータの一部を構成するものである。
これにより、電極6A、6Bは、ダイアフラム部8、9を図2中上下方向に変位させてミラー4A、4B間の第1のギャップG1を変化させ、この第1のギャップG1に対応する波長の光を出射するようになっている。
なお、本実施形態では、第1の基板2の対向面2aと第2の基板3に形成された第2の凹部7とは平行になっているので、電極6A、6B間も平行となっている。
【0024】
これら電極6A、6Bを形成する材料としては導電性であればよく、特に限定はされないが、例えば、Cr、Al、Al合金、Ni、Zn、Ti、Au等の金属、あるいはカーボン、チタン等を分散した樹脂、多結晶シリコン(ポリシリコン)、アモルファスシリコン等のシリコン、窒化シリコン、ITO等の透明導電材料等が用いられる。
【0025】
これら電極6A、6Bには、図1に示すように、配線11A、11Bが接続されており、これら電極6A、6Bは、これら配線11A、11Bを介して電源(図示せず)に接続されている。
なお、これら配線11A、11Bは、第1の基板2に形成された配線溝12A、あるいは第2の基板3に形成された配線溝12Bに形成されている。したがって、第1の基板2と第2の基板3との接合に干渉しないようになっている。
【0026】
電源は、駆動信号として、電極6A、6Bに電圧を印加することにより、電極6A、6Bを駆動させ、これらの間に所望の静電力を発生させるものである。なお、この電源には制御装置(図示せず)が接続されており、この制御装置によって電源を制御することにより、電極6A、6B間の電位差を調整することができるようになっている。
【0027】
ダイアフラム部8は、このダイアフラム部8が形成されていない第1の基板2の箇所に比べて厚さが薄くなっている。このように、第1の基板2のうち他の箇所に比べて厚さが薄い箇所は、弾性(可撓性)を有して変形可能(変位可能)になっており、これにより、このダイアフラム部8は、第1のギャップG1を変化させてミラー4A、4B間の間隔を所望の波長の光に対応する間隔に変化させることにより、所望の波長の光を出射させる波長選択機能を有するようになっている。
【0028】
ダイアフラム部9は、静電アクチュエータの一部を構成する電極6A、6Bとミラー4A、4Bとの間に形成されたもので、ダイアフラム部8と比べて厚さが薄くなっている。このように、ダイアフラム部9の厚みをダイアフラム部8の厚み以下とすることで、このダイアフラム部9がダイアフラム部8と比べて撓み易くなり、その結果、ダイアフラム部8にて発生する撓みを吸収し、この撓みがミラー4Aに伝搬するのを抑制することが可能になる。これにより、第1のギャップG1を変化させた際にダイアフラム部8に生じた撓みを効率的に緩和することが可能になり、ミラー4Aに伝搬する撓み量も大きく減少させることが可能になる。
【0029】
これらダイアフラム部8、9それぞれの形状や厚み、及びダイアフラム部8、9間の間隔等は、所望の波長の範囲の光を出射させることができればよく、具体的には、ミラー4A、4B間の間隔の変化量及び変化の速さ等を勘案し、この光フィルタ1に求められる出射光の波長の範囲に対応して設定される。
【0030】
これらダイアフラム部8、9は、第1の基板2を上面からエッチング(選択除去)することにより形成されているが、これらダイアフラム部8、9は、このダイアフラム部9がダイアフラム部8にて発生する撓みを吸収し、この撓みがミラー4Aに伝搬するのを抑制することができるに十分な厚みがあればよく、第1の基板2を上面及び下面の双方からエッチング(選択除去)することにより形成してもよい。
【0031】
本実施形態の光フィルタ1では、制御装置及び電源が駆動されず、したがって、電極6Aと電極6Bとの間に電圧が印加されていない場合、ミラー4Aとミラー4Bとは第1のギャップG1を介して対向している。そこで、この光フィルタ1に光が入射すると、図3に示すように、この第1のギャップG1に対応した波長の光、例えば720nmの波長の光が出射されることとなる。
【0032】
ここで、制御装置及び電源を駆動させて電極6Aと電極6Bとの間に電圧を印加すると、これら電極6Aと電極6Bとの間には、電圧(電位差)の大きさに対応した静電力が発生する。このように、制御装置が電源を制御することにより、電極6A、6B間に所望の電圧を印加し、電極6Aと電極6Bとの間に所望の静電力を発生させることができる。このようにして電極6A、6B間に所望の静電力が発生すると、図4に示すように、この静電力により電極6A、6Bが相互に引きつけられて第1の基板2が第2の基板3側に向かって変形し、ミラー4Aとミラー4Bとの第1のギャップG1が電圧が印加されていない場合と比べて狭くなる。
【0033】
この場合、静電力によりダイアフラム部8に発生する撓みは、その内側にあるダイアフラム部9により吸収されて緩和されるので、このダイアフラム部8に発生した撓みがミラー4Aにそのまま伝搬することはない。したがって、ミラー4Aに伝搬する撓み量を減少させることが可能になり、この撓みに起因するミラー4Aの湾曲も小さなものとなり、このミラー4Aの平坦度の低下も小さなものとなる。よって、ダイアフラム部8に発生した撓みは、ダイアフラム部9により吸収され、効率よく抑制され、この撓みに起因するミラー4Aの湾曲及び平坦度の低下も抑制される。その結果、ミラー4Aの湾曲が極めて小さなものとなり、その平坦度も良好に保持される。
【0034】
このように、ダイアフラム部8に発生した撓みは、ダイアフラム部9により吸収されて効率よく抑制され、ミラー4Aに伝搬されないので、ミラー4Aの平坦度も良好に保持され、このミラー4Aとミラー4Bとは安定した状態の第1のギャップG1’を介して対向することとなる。
そこで、この光フィルタ1に光が入射すると、図5に示すように、この安定した状態の第1のギャップG1’に対応した最大透過率も高くかつ半値幅も狭い波長の光、例えば590nmの波長の光が出射されることとなり、透過波長が短波長側にシフトすることとなる。
【0035】
以上説明したように、本実施形態の光フィルタ1によれば、第1の基板2内かつダイアフラム部8の内周側に、厚みがダイアフラム部8の厚み以下の円環状のダイアフラム部9を形成したので、分光特性に優れた光を取り出すことができ、しかも、この取り出された光の分光特性を低下させることなく良好に維持することができる。
【0036】
「第2の実施形態」
図6は、本実施形態の光フィルタを示す断面図、図7は図6の要部を示す拡大断面図である。
本実施形態の光フィルタ21が第1の実施形態の光フィルタ1と異なる点は、第1の実施形態の光フィルタ1では、第1の基板2内かつダイアフラム部8の内周側に、所定の間隔をおいて、厚みがダイアフラム部8の厚み以下の円環状のダイアフラム部9を形成したのに対し、本実施形態の光フィルタ21では、これらダイアフラム部8、9を共通化して、1つの幅広の円環状のダイアフラム部22とした点であり、その他の構成要素については、第1の実施形態の光フィルタ1と全く同様である。
【0037】
このダイアフラム部22の形状や厚み等は、所望の波長の範囲の光を出射させることができればよく、具体的には、ミラー4A、4B間の間隔の変化量及び変化の速さ等を勘案し、この光フィルタ1に求められる出射光の波長の範囲に対応して設定される。
【0038】
このダイアフラム部22は、第1の基板2を上面からエッチング(選択除去)することにより形成されているが、このダイアフラム部22は、このダイアフラム部22にて発生する撓みを吸収し、この撓みがミラー4Aに伝搬するのを抑制することができるに十分な厚みがあればよく、第1の基板2を上面及び下面の双方からエッチング(選択除去)することにより形成してもよい。
【0039】
以上説明したように、本実施形態の光フィルタ1によれば、第1の基板2内かつダイアフラム部8の内周側に、厚みがダイアフラム部8の厚み以下の円環状のダイアフラム部9を形成したので、分光特性に優れた光を取り出すことができ、しかも、この取り出された光の分光特性を低下させることなく良好に維持することができる。
【0040】
「第3の実施形態」
図8は、本実施形態の光フィルタを示す平面図、図9は同光フィルタを示す断面図である。
本実施形態の光フィルタ31が第1の実施形態の光フィルタ1と異なる点は、第1の実施形態の光フィルタ1では、第1の基板2をガラス等の光透過性を有する材料により形成し、第1の基板2及び第2の基板3に第2のギャップG2を介して互いに対向するように電極6A、6Bを設け、第1の基板2内かつ電極6Aの外周部とほぼ対応する位置に円環状のダイアフラム部8を、このダイアフラム部8の内周側にダイアフラム部8の厚み以下の円環状のダイアフラム部9を形成したのに対し、本実施形態の光フィルタ31では、第1の基板32をシリコン等の半導体材料により形成し、この第1の基板32には電極6Aを設けずに、この第1の基板32内かつ電極6Bの外周部とほぼ対応する複数の位置(図8では、4箇所)に第1のヒンジ部33を形成し、さらに、これらの第1のヒンジ部33の内周側かつミラー4Aの外側の複数の位置(図8では、4箇所)に、その梁幅が第1のヒンジ部33の梁幅以下の第2のヒンジ部34を形成した点であり、その他の構成要素については、第1の実施形態の光フィルタ1と全く同様である。
【0041】
そして、第1のヒンジ部33と、電極6Bと、電極6Bと第1の基板32との第2のギャップG3と、第2のヒンジ部34とにより、静電アクチュエータが構成されている。
【0042】
第1のヒンジ部33と第2のヒンジ部34とは、その長手方向が互いに45度傾斜するように形成されている。
すなわち、第1のヒンジ部33は、電極6Bの外周部とほぼ対応する円周上に等間隔に、X軸方向に平行なものが2個、Y軸方向に平行なものが2個、計4個設けられている。
また、第2のヒンジ部34は、第1のヒンジ部33の内周側かつミラー4Aの外周部とほぼ対応する円周上に等間隔に、X軸方向及びY軸方向に対して45度傾斜したものが4個設けられている。
【0043】
本実施形態の光フィルタ31では、制御装置が駆動されていない場合、ミラー4Aとミラー4Bとは第2のギャップG3を介して対向している。そこで、この光フィルタ1に光が入射すると、この第1のギャップG1に対応した波長の光、例えば720nmの波長の光が出射されることとなる。
ここで、制御装置を駆動させると静電力が発生し、この静電力により第1の基板32が第2の基板3側に向かって変形し、ミラー4Aとミラー4Bとの第1のギャップG1が電圧が印加されていない場合と比べて狭くなる。
【0044】
この場合、静電力によりヒンジ部33に発生する撓みは、その内側にあるヒンジ部34により吸収されて緩和されるので、このヒンジ部33に発生した撓みがミラー4Aにそのまま伝搬することはない。したがって、ミラー4Aに伝搬する撓み量を減少させることが可能になり、この撓みに起因するミラー4Aの湾曲も小さなものとなり、このミラー4Aの平坦度の低下も小さなものとなる。よって、ヒンジ部33に発生した撓みは、ヒンジ部34により吸収され、効率よく抑制され、この撓みに起因するミラー4Aの湾曲及び平坦度の低下も抑制される。その結果、ミラー4Aの湾曲が極めて小さなものとなり、その平坦度も良好に保持される。
【0045】
このように、ヒンジ部33に発生した撓みは、ヒンジ部34により吸収されて効率よく抑制され、ミラー4Aに伝搬されないので、ミラー4Aの平坦度も良好に保持され、このミラー4Aとミラー4Bとは安定した状態の第1のギャップG1’を介して対向することとなる。
そこで、この光フィルタ1に光が入射すると、この安定した状態の第1のギャップG1’に対応した最大透過率も高くかつ半値幅も狭い波長の光、例えば590nmの波長の光が出射されることとなり、透過波長が短波長側にシフトすることとなる。
【0046】
以上説明したように、本実施形態の光フィルタ1によれば、第1の基板32内かつ電極6Bの外周部とほぼ対応する複数の位置に第1のヒンジ部33を形成し、さらに、これらの第1のヒンジ部33の内周側かつミラー4Aの外側の複数の位置に、その梁幅が第1のヒンジ部33の梁幅以下の第2のヒンジ部34を形成したので、分光特性に優れた光を取り出すことができ、しかも、この取り出された光の分光特性を低下させることなく良好に維持することができる。
【0047】
図10は、本発明の光フィルタにおける反り低減効果を示すシミュレーション(有限要素解析)結果を示す図であり、図中、Aは第1の実施形態の光フィルタ1を、Bは第2の実施形態の光フィルタ21を、Cは従来の光フィルタを、それぞれ示している。
図10によれば、電圧印加に起因した変位量の増加に伴い、いずれの構造においても、ミラーにおける反り量は線形に増加するが、本発明の光フィルタ1、21は、従来の光フィルタと比べて変位に対する反り量が小さく、本発明の効果がシミュレーション結果により実証された。
例えば、200μmの変位量に対して、従来の光フィルタでは17μmの反りが生じるが、本発明の光フィルタ1、21では、反りが10〜11μmに留まっており、従来の光フィルタと比べて約40%の反り量の軽減を図ることができる。
【0048】
次に、本実施形態に係る光フィルタ1、21、31の応用例として、光フィルタ1(21、31)を備えた光学フィルタ装置モジュール(光モジュール)について説明する。
図11は、本発明の光学フィルタ装置モジュールの一実施形態を示す図であり、図11中、符号50は光学フィルタ装置モジュールである。
この光学フィルタ装置モジュール50は、光フィルタ1(21、31)からなるフィルタ部51を備えたもので、検体Wに対して特定の帯域の光を照射し、この検体Wの反射光から予め設定した波長の光を選択的に取り出し(分光し)、その強度を測定するようにしたものである。
【0049】
すなわち、この光学フィルタ装置モジュール50は、光源52とレンズ53とを有し、検体Wに対して所定の光、例えば可視光線や赤外線を照射する光源光学系54と、フィルタ部51と検出素子55とを有し、検体Wからの反射光を検出する検出部光学系56と、光源52の照度等を制御する光源制御回路57と、フィルタ部51を制御するフィルタ制御回路58と、検出素子55で検出された検出信号を受信し、さらに光源制御回路57、フィルタ制御回路58に接続するプロセッサ59と、を備えたものである。
【0050】
このような光学フィルタ装置モジュール50では、検体Wに対して可視光線や赤外線などの特定の帯域の光を照射する。すると、例えば検体Wの表面状態などに対応して反射光が生じ、これがフィルタ部51に入射する。フィルタ部51では、電極6A、6Bへの電圧印加(あるいは無印加)により、予め設定した波長の光を選択的に取り出す(分光する)ようにしておく。これにより、反射光から特定の波長域のみが選択的に取り出され、検出素子55で検出されるようになる。したがって、例えば検出素子55としてフィルタ部51で取り出される光を選択的に検出するものを用いることにより、感度良く反射光を検出することが可能になる。
【0051】
よって、この光学フィルタ装置モジュール50によれば、検体Wの表面状態等を感度良く検出することができる。
また、フィルタ部51を構成する光フィルタとして、上述した光フィルタ1(21、31)を用いているので、モジュール自体として、分光特性に優れた光を取り出すことができ、しかも、この取り出された光の分光特性を低下させることなく良好に維持することができるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の第1の実施形態の光フィルタを示す平面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態の光フィルタを示す断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態の光フィルタにおける電圧が印加されていない場合の波長と透過率との関係を示す図である。
【図4】本発明の第1の実施形態の光フィルタに電圧が印加された場合の撓みの状態を示す模式図である。
【図5】本発明の第1の実施形態の光フィルタにおける電圧が印加された場合の波長と透過率との関係を示す図である。
【図6】本発明の第2の実施形態の光フィルタを示す断面図である。
【図7】本発明の第2の実施形態の光フィルタの要部を示す拡大断面図である。
【図8】本発明の第2の実施形態の光フィルタを示す平面図である。
【図9】本発明の第2の実施形態の光フィルタを示す断面図である。
【図10】本発明の光フィルタにおける反り低減効果を示すシミュレーション結果を示す図である。
【図11】本発明の光学フィルタ装置モジュールの一実施形態を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
1、21、31…光フィルタ、2…第1の基板、3…第2の基板、4A、4B…ミラー、5…第1の凹部、6A、6B…電極、7…第2の凹部、8…第1のダイアフラム部、9…第2のダイアフラム部、11A、11B…配線、12A、12B…配線溝、22…ダイアフラム部、32…第1の基板、33…第1のヒンジ部、34…第2のヒンジ部、50…光学フィルタ装置モジュール、51…フィルタ部(光フィルタ)
【技術分野】
【0001】
本発明は、光フィルタ及びそれを備えた光モジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、入射光から目的とする波長の光を選択して出射する光フィルタとして、一対の基板を対向配置し、これら基板の対向する面それぞれにミラーを設け、これらのミラーの周囲にそれぞれ電極を設けるとともに、一方のミラーの周囲にダイアフラム部を設け、これら電極間の静電力によりダイアフラム部を変位させてこれらのミラー間のギャップ(エアーギャップ)を変化させることにより、所望の波長の光を取り出すエアギャップ型かつ静電駆動型の光フィルタが知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
このような光フィルタでは、製造時に一対のミラー間のギャップをサブミクロンから数ミクロンと非常に狭い範囲で制御する必要があり、しかも、これらのミラー間のギャップを精度良く維持し、かつ、所望のギャップ量に制御することが重要である。
このような光フィルタでは、ミラー間のギャップを変化させることにより、このミラー間のギャップに対応した波長の光を選択的に取り出すことができる。
【特許文献1】特開2003−57438号公報
【特許文献2】特開2008−116669号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来のエアギャップ型かつ静電駆動型の光フィルタでは、ミラー間の平行度やミラーの平坦度が低下すると、取り出した光の分光特性が低下するために、一対のミラーを平行かつ平坦に保持することが光フィルタの特性を維持する上で最も重要となる。
しかしながら、この光フィルタから所望の波長の光を選択的に取り出すために、エアギャップ静電駆動によりミラー間のギャップを可変させた場合、ダイアフラム部の撓みが可動側のミラーに伝搬し、ミラーが湾曲して平坦度が低下してしまい、したがって、取り出した光の最大透過率が低下するとともに、その半値幅も増大する、いわゆるブロードな波形を呈することとなり、その結果、取り出した光の分光特性が大幅に低下してしまうという問題点があった。
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、所望の波長の光を選択的に取り出すためにミラー間のギャップを可変させた場合においても、この可変に伴い発生する撓みが可動側のミラーに伝搬することを抑制することができ、その結果、最大透過率が高くかつ半値幅が狭く、分光特性に優れた光を取り出すことができ、しかも、取り出す光の分光特性を低下させることなく良好に維持することができる光フィルタ及びそれを備えた光モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の光フィルタ及びそれを備えた光モジュールを採用した。
すなわち、本発明の光フィルタは、互いに対向した状態で接合または接着され、互いに対向する面のいずれか一方または双方に1つ以上の段差を有する凹部が形成された第1の基板及び第2の基板と、前記凹部の前記第1の基板及び第2の基板の対向する面に第1のギャップを介して設けられた一対のミラーと、前記一対のミラーの周囲かつ前記第1の基板及び第2の基板の対向する面に第2のギャップを介して設けられた一対の電極と、前記一対のミラーの周囲かつ前記第1の基板及び第2の基板のいずれか一方または双方に形成された第1のダイアフラム部と、前記第1のダイアフラム部の内周側及び外周側のいずれか一方または双方に形成された第2のダイアフラム部と、を備えてなることを特徴とする。
【0007】
本発明の光フィルタでは、第1のダイアフラム部の内周側及び外周側のいずれか一方または双方に、第2のダイアフラム部を形成したことにより、この光フィルタから所望の波長の光を選択的に取り出すためにこれらのミラー間のギャップを可変させた場合においても、第1のダイアフラム部に生じた撓みが第2のダイアフラム部により緩和され、可動側のミラーに伝搬する撓み量を減少させる。これにより、この撓みに起因する可動側のミラーの湾曲も小さなものとなり、このミラーの平坦度の低下も小さなものとなり、これらのミラーから取り出される光の最大透過率も高くかつ半値幅も狭いものとなる。よって、分光特性に優れた光を取り出すことが可能になり、取り出す光の分光特性を低下させることなく良好に維持することも可能になる。
以上により、分光特性に優れた光を取り出すことができ、しかも、取り出す光の分光特性を低下させることなく良好に維持することができる光フィルタを提供することができる。
【0008】
本発明の光フィルタは、前記第2のダイアフラム部の肉厚は、前記第1のダイアフラム部の肉厚以下であることを特徴とする。
この光フィルタでは、第2のダイアフラム部の肉厚を第1のダイアフラム部の肉厚以下としたことにより、第1のダイアフラム部に生じた撓みが第2のダイアフラム部により効率的に緩和され、可動側のミラーに伝搬する撓み量を大きく減少させる。これにより、この撓みに起因する可動側のミラーの湾曲も極めて小さなものとなり、このミラーの平坦度の低下も極めて小さなものとなり、これらのミラーから取り出される光の最大透過率も極めて高くかつ半値幅も極めて狭いものとなる。よって、分光特性に優れた光を取り出すことができ、取り出す光の分光特性を低下させることなく良好に維持することができる。
【0009】
本発明の光フィルタは、前記第1のダイアフラム部及び前記第2のダイアフラム部は、前記第1の基板及び第2の基板のいずれか一方または双方を選択除去してなることを特徴とする。
この光フィルタでは、第1のダイアフラム部及び第2のダイアフラム部が、第1の基板及び第2の基板のいずれか一方または双方を選択除去したことにより、第1のダイアフラム部及び第1のダイアフラム部それぞれの加工精度及びこれらの間の加工精度が高くなり、これらのミラーから取り出される光の分光特性が極めて優れたものとなる。
【0010】
本発明の光フィルタは、前記第1のダイアフラム部及び前記第2のダイアフラム部は、一体化してなることを特徴とする。
この光フィルタでは、第1のダイアフラム部及び第2のダイアフラム部を一体化したことにより、第1のダイアフラム部と第2のダイアフラム部とで個別に緩和していた第1のダイアフラム部に生じた撓みを、一体化されたダイアフラム部により一括して緩和することで、より効率的に緩和することができる。
【0011】
本発明の光フィルタは、前記第1の基板及び前記第2の基板は、光透過性を有することを特徴とする。
この光フィルタでは、第1の基板及び第2の基板を、光透過性を有することとしたことにより、基板における光の透過率が向上し、取り出した光の強度も高くなる。よって、光の取り出し効率が向上する。
【0012】
本発明の光フィルタは、互いに対向した状態で接合または接着され、互いに対向する面のいずれか一方または双方に1つ以上の段差を有する凹部が形成された第1の基板及び第2の基板と、前記凹部の前記第1の基板及び第2の基板の対向する面に第1のギャップを介して設けられた一対のミラーと、前記一対のミラーの周囲かつ前記第1の基板及び第2の基板の対向する面に第2のギャップを介して設けられた一対の電極と、前記一対のミラーの周囲かつ前記第1の基板及び第2の基板のいずれか一方または双方に形成された少なくとも1つの第1のヒンジ部と、前記第1のヒンジ部の内周側及び外周側のいずれか一方または双方に形成された少なくとも1つの第2のヒンジ部と、を備えてなることを特徴とする。
【0013】
本発明の光フィルタでは、前記第1のヒンジ部の内周側及び外周側のいずれか一方または双方に、少なくとも1つの第2のヒンジ部を形成したことにより、この光フィルタから所望の波長の光を選択的に取り出すためにこれらのミラー間のギャップを可変させた場合においても、第1のヒンジ部に生じた撓みが第2のヒンジ部により緩和され、可動側のミラーに伝搬する撓み量を減少させる。これにより、この撓みに起因する可動側のミラーの湾曲も小さなものとなり、このミラーの平坦度の低下も小さなものとなり、これらのミラーから取り出される光の最大透過率も高くかつ半値幅も狭いものとなる。よって、分光特性に優れた光を取り出すことが可能になり、取り出す光の分光特性を低下させることなく良好に維持することも可能になる。
以上により、分光特性に優れた光を取り出すことができ、しかも、取り出す光の分光特性を低下させることなく良好に維持することができる光フィルタを提供することができる。
【0014】
本発明の光フィルタは、前記第2のヒンジ部の梁幅は、前記第1のヒンジ部の梁幅以下であることを特徴とする。
この光フィルタでは、第2のヒンジ部の梁幅を第1のヒンジ部の梁幅以下としたことにより、第1のヒンジ部に生じた撓みが第2のヒンジ部により効率的に緩和され、可動側のミラーに伝搬する撓み量を大きく減少させる。これにより、この撓みに起因する可動側のミラーの湾曲も極めて小さなものとなり、このミラーの平坦度の低下も極めて小さなものとなり、これらのミラーから取り出される光の最大透過率も極めて高くかつ半値幅も極めて狭いものとなる。よって、分光特性に優れた光を取り出すことができ、取り出す光の分光特性を低下させることなく良好に維持することができる。
【0015】
本発明の光フィルタは、前記第1の基板及び前記第2の基板のいずれか一方は半導体材料であることを特徴とする。
この光フィルタでは、第1の基板及び第2の基板のいずれか一方を半導体材料としたことにより、入射光として、この半導体材料を透過可能な波長の電磁波、例えば、近赤外線を用いることが可能となる。よって、入射光の波長の幅が増大する。
【0016】
本発明の光モジュールは、本発明の光フィルタを備えてなることを特徴とする。
この光モジュールでは、本発明の光フィルタを備えたことにより、最大透過率が高くかつ半値幅が狭く、分光特性に優れた光を取り出すことができ、しかも、取り出す光の分光特性を低下させることなく良好に維持することができる光モジュールを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の光フィルタ及びそれを備えた光モジュールを実施するための最良の形態について説明する。
ここでは、光フィルタとして、エアギャップ型かつ静電駆動型の光フィルタについて説明する。
なお、以下の説明においては、XYZ直交座標系を設定し、必要に応じて、このXYZ直交座標系を参照しつつ各部材の位置関係について説明することとする。その場合に、水平面内の所定方向をX軸方向、水平面内かつX軸方向と直交する方向をY軸方向、X軸方向及びY軸方向と直交する方向(すなわち鉛直方向)をZ軸方向とする。
【0018】
「第1の実施形態」
図1は、本実施形態の光フィルタを示す平面図、図2は同光フィルタを示す断面図である。
図において、符号1はエアギャップ型で静電駆動型のエタロン素子からなる光フィルタであり、この光フィルタ1は、第1の基板2と、第1の基板2に対向した状態で接合(または接着)された第2の基板3と、第1の基板2の対向する側の面2aの中央部に設けられた円形状のミラー4Aと、第2の基板3の中央部に形成された第1の凹部5の底部にミラー4Aと第1のギャップG1を介して対向して設けられた円形状のミラー4Bと、第1の基板2のミラー4Aの周囲に設けられた円環状の電極6Aと、第2の基板3の第1の凹部5の周囲に形成された底浅の円環状の第2の凹部7に電極6Aと第2のギャップG2を介して対向して設けられた円環状の電極6Bと、第1の基板2内かつ電極6Aの外周部とほぼ対応する位置にエッチング(選択除去)により形成された薄肉の円環状の第1のダイアフラム部8と、第1の基板2内かつダイアフラム部8の内周側かつミラー4Aの外側にエッチング(選択除去)により形成され、その厚みがダイアフラム部8の厚み以下の円環状の第2のダイアフラム部9とにより構成されている。
そして、第2のギャップG2を介して対向して設けられた電極6A、6Bと、ダイアフラム部8とにより、静電アクチュエータが構成されている。
【0019】
第1の基板2及び第2の基板3は、共に光透過性を有するとともに絶縁性を有する材料からなる矩形状(正方形状)のもので、特にガラス等の透明材料により構成されていることが好ましい。
このガラスとしては、具体的には、ソーダガラス、結晶化ガラス、石英ガラス、鉛ガラス、カリウムガラス、ホウケイ酸ガラス、ホウケイ酸ナトリウムガラス、無アルカリガラス等が好適に用いられる。
このように、第1の基板2及び第2の基板3を共に光透過性を有する材料とすることにより、電磁波のうち所望の波長帯域の電磁波や可視光線を入射光として用いることができる。
また、第1の基板2及び第2の基板3を共に半導体材料、例えばシリコンで形成すれば、入射光として近赤外線を用いることができる。
【0020】
ミラー4A、4Bは、第1のギャップG1を介して互いに対向して配置されたもので、高屈折率層と低屈折率層とが交互に複数積層された誘電体多層膜により構成されている。なお、ミラー4A、4Bは、誘電体多層膜に限定されることなく、例えば、炭素を含有する銀の合金膜等を用いることもできる。
これらミラー4A、4Bのうち、一方のミラー4Aは変形可能な第1の基板2に設けられているので可動ミラーと称し、他方のミラー4Bは変形しない第2の基板3に設けられているので固定ミラーと称することもある。
【0021】
この光フィルタ1を可視光線の領域あるいは赤外線の領域で用いる場合、誘電体多層膜における高屈折率層を形成する材料としては、例えば、酸化チタン(Ti2O)、酸化タンタル(Ta2O5)、酸化ニオブ(Nb2O5)等が用いられる。また、光フィルタ1を紫外線の領域で用いる場合、高屈折率層を形成する材料としては、例えば酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化ハフニウム(HfO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化トリウム(ThO2)等が用いられる。
一方、誘電体多層膜における低屈折率層を形成する材料としては、例えば、フッ化マグネシウム(MgF2)、酸化ケイ素(SiO2)等が用いられる。
【0022】
この高屈折率層及び低屈折率層の層数及び厚みについては、必要とする光学特性に基づいて適宜に設定される。一般に、誘電体多層膜により反射膜(ミラー)を形成する場合、その光学特性を得るために必要な層数は12層以上である。
【0023】
電極6A、6Bは、第2のギャップG2を介して互いに対向して配置されたもので、入力される駆動電圧に応じてこれら電極6A、6B間に静電力を発生させ、ミラー4A、4Bを互いに対向した状態で相対移動させる静電アクチュエータの一部を構成するものである。
これにより、電極6A、6Bは、ダイアフラム部8、9を図2中上下方向に変位させてミラー4A、4B間の第1のギャップG1を変化させ、この第1のギャップG1に対応する波長の光を出射するようになっている。
なお、本実施形態では、第1の基板2の対向面2aと第2の基板3に形成された第2の凹部7とは平行になっているので、電極6A、6B間も平行となっている。
【0024】
これら電極6A、6Bを形成する材料としては導電性であればよく、特に限定はされないが、例えば、Cr、Al、Al合金、Ni、Zn、Ti、Au等の金属、あるいはカーボン、チタン等を分散した樹脂、多結晶シリコン(ポリシリコン)、アモルファスシリコン等のシリコン、窒化シリコン、ITO等の透明導電材料等が用いられる。
【0025】
これら電極6A、6Bには、図1に示すように、配線11A、11Bが接続されており、これら電極6A、6Bは、これら配線11A、11Bを介して電源(図示せず)に接続されている。
なお、これら配線11A、11Bは、第1の基板2に形成された配線溝12A、あるいは第2の基板3に形成された配線溝12Bに形成されている。したがって、第1の基板2と第2の基板3との接合に干渉しないようになっている。
【0026】
電源は、駆動信号として、電極6A、6Bに電圧を印加することにより、電極6A、6Bを駆動させ、これらの間に所望の静電力を発生させるものである。なお、この電源には制御装置(図示せず)が接続されており、この制御装置によって電源を制御することにより、電極6A、6B間の電位差を調整することができるようになっている。
【0027】
ダイアフラム部8は、このダイアフラム部8が形成されていない第1の基板2の箇所に比べて厚さが薄くなっている。このように、第1の基板2のうち他の箇所に比べて厚さが薄い箇所は、弾性(可撓性)を有して変形可能(変位可能)になっており、これにより、このダイアフラム部8は、第1のギャップG1を変化させてミラー4A、4B間の間隔を所望の波長の光に対応する間隔に変化させることにより、所望の波長の光を出射させる波長選択機能を有するようになっている。
【0028】
ダイアフラム部9は、静電アクチュエータの一部を構成する電極6A、6Bとミラー4A、4Bとの間に形成されたもので、ダイアフラム部8と比べて厚さが薄くなっている。このように、ダイアフラム部9の厚みをダイアフラム部8の厚み以下とすることで、このダイアフラム部9がダイアフラム部8と比べて撓み易くなり、その結果、ダイアフラム部8にて発生する撓みを吸収し、この撓みがミラー4Aに伝搬するのを抑制することが可能になる。これにより、第1のギャップG1を変化させた際にダイアフラム部8に生じた撓みを効率的に緩和することが可能になり、ミラー4Aに伝搬する撓み量も大きく減少させることが可能になる。
【0029】
これらダイアフラム部8、9それぞれの形状や厚み、及びダイアフラム部8、9間の間隔等は、所望の波長の範囲の光を出射させることができればよく、具体的には、ミラー4A、4B間の間隔の変化量及び変化の速さ等を勘案し、この光フィルタ1に求められる出射光の波長の範囲に対応して設定される。
【0030】
これらダイアフラム部8、9は、第1の基板2を上面からエッチング(選択除去)することにより形成されているが、これらダイアフラム部8、9は、このダイアフラム部9がダイアフラム部8にて発生する撓みを吸収し、この撓みがミラー4Aに伝搬するのを抑制することができるに十分な厚みがあればよく、第1の基板2を上面及び下面の双方からエッチング(選択除去)することにより形成してもよい。
【0031】
本実施形態の光フィルタ1では、制御装置及び電源が駆動されず、したがって、電極6Aと電極6Bとの間に電圧が印加されていない場合、ミラー4Aとミラー4Bとは第1のギャップG1を介して対向している。そこで、この光フィルタ1に光が入射すると、図3に示すように、この第1のギャップG1に対応した波長の光、例えば720nmの波長の光が出射されることとなる。
【0032】
ここで、制御装置及び電源を駆動させて電極6Aと電極6Bとの間に電圧を印加すると、これら電極6Aと電極6Bとの間には、電圧(電位差)の大きさに対応した静電力が発生する。このように、制御装置が電源を制御することにより、電極6A、6B間に所望の電圧を印加し、電極6Aと電極6Bとの間に所望の静電力を発生させることができる。このようにして電極6A、6B間に所望の静電力が発生すると、図4に示すように、この静電力により電極6A、6Bが相互に引きつけられて第1の基板2が第2の基板3側に向かって変形し、ミラー4Aとミラー4Bとの第1のギャップG1が電圧が印加されていない場合と比べて狭くなる。
【0033】
この場合、静電力によりダイアフラム部8に発生する撓みは、その内側にあるダイアフラム部9により吸収されて緩和されるので、このダイアフラム部8に発生した撓みがミラー4Aにそのまま伝搬することはない。したがって、ミラー4Aに伝搬する撓み量を減少させることが可能になり、この撓みに起因するミラー4Aの湾曲も小さなものとなり、このミラー4Aの平坦度の低下も小さなものとなる。よって、ダイアフラム部8に発生した撓みは、ダイアフラム部9により吸収され、効率よく抑制され、この撓みに起因するミラー4Aの湾曲及び平坦度の低下も抑制される。その結果、ミラー4Aの湾曲が極めて小さなものとなり、その平坦度も良好に保持される。
【0034】
このように、ダイアフラム部8に発生した撓みは、ダイアフラム部9により吸収されて効率よく抑制され、ミラー4Aに伝搬されないので、ミラー4Aの平坦度も良好に保持され、このミラー4Aとミラー4Bとは安定した状態の第1のギャップG1’を介して対向することとなる。
そこで、この光フィルタ1に光が入射すると、図5に示すように、この安定した状態の第1のギャップG1’に対応した最大透過率も高くかつ半値幅も狭い波長の光、例えば590nmの波長の光が出射されることとなり、透過波長が短波長側にシフトすることとなる。
【0035】
以上説明したように、本実施形態の光フィルタ1によれば、第1の基板2内かつダイアフラム部8の内周側に、厚みがダイアフラム部8の厚み以下の円環状のダイアフラム部9を形成したので、分光特性に優れた光を取り出すことができ、しかも、この取り出された光の分光特性を低下させることなく良好に維持することができる。
【0036】
「第2の実施形態」
図6は、本実施形態の光フィルタを示す断面図、図7は図6の要部を示す拡大断面図である。
本実施形態の光フィルタ21が第1の実施形態の光フィルタ1と異なる点は、第1の実施形態の光フィルタ1では、第1の基板2内かつダイアフラム部8の内周側に、所定の間隔をおいて、厚みがダイアフラム部8の厚み以下の円環状のダイアフラム部9を形成したのに対し、本実施形態の光フィルタ21では、これらダイアフラム部8、9を共通化して、1つの幅広の円環状のダイアフラム部22とした点であり、その他の構成要素については、第1の実施形態の光フィルタ1と全く同様である。
【0037】
このダイアフラム部22の形状や厚み等は、所望の波長の範囲の光を出射させることができればよく、具体的には、ミラー4A、4B間の間隔の変化量及び変化の速さ等を勘案し、この光フィルタ1に求められる出射光の波長の範囲に対応して設定される。
【0038】
このダイアフラム部22は、第1の基板2を上面からエッチング(選択除去)することにより形成されているが、このダイアフラム部22は、このダイアフラム部22にて発生する撓みを吸収し、この撓みがミラー4Aに伝搬するのを抑制することができるに十分な厚みがあればよく、第1の基板2を上面及び下面の双方からエッチング(選択除去)することにより形成してもよい。
【0039】
以上説明したように、本実施形態の光フィルタ1によれば、第1の基板2内かつダイアフラム部8の内周側に、厚みがダイアフラム部8の厚み以下の円環状のダイアフラム部9を形成したので、分光特性に優れた光を取り出すことができ、しかも、この取り出された光の分光特性を低下させることなく良好に維持することができる。
【0040】
「第3の実施形態」
図8は、本実施形態の光フィルタを示す平面図、図9は同光フィルタを示す断面図である。
本実施形態の光フィルタ31が第1の実施形態の光フィルタ1と異なる点は、第1の実施形態の光フィルタ1では、第1の基板2をガラス等の光透過性を有する材料により形成し、第1の基板2及び第2の基板3に第2のギャップG2を介して互いに対向するように電極6A、6Bを設け、第1の基板2内かつ電極6Aの外周部とほぼ対応する位置に円環状のダイアフラム部8を、このダイアフラム部8の内周側にダイアフラム部8の厚み以下の円環状のダイアフラム部9を形成したのに対し、本実施形態の光フィルタ31では、第1の基板32をシリコン等の半導体材料により形成し、この第1の基板32には電極6Aを設けずに、この第1の基板32内かつ電極6Bの外周部とほぼ対応する複数の位置(図8では、4箇所)に第1のヒンジ部33を形成し、さらに、これらの第1のヒンジ部33の内周側かつミラー4Aの外側の複数の位置(図8では、4箇所)に、その梁幅が第1のヒンジ部33の梁幅以下の第2のヒンジ部34を形成した点であり、その他の構成要素については、第1の実施形態の光フィルタ1と全く同様である。
【0041】
そして、第1のヒンジ部33と、電極6Bと、電極6Bと第1の基板32との第2のギャップG3と、第2のヒンジ部34とにより、静電アクチュエータが構成されている。
【0042】
第1のヒンジ部33と第2のヒンジ部34とは、その長手方向が互いに45度傾斜するように形成されている。
すなわち、第1のヒンジ部33は、電極6Bの外周部とほぼ対応する円周上に等間隔に、X軸方向に平行なものが2個、Y軸方向に平行なものが2個、計4個設けられている。
また、第2のヒンジ部34は、第1のヒンジ部33の内周側かつミラー4Aの外周部とほぼ対応する円周上に等間隔に、X軸方向及びY軸方向に対して45度傾斜したものが4個設けられている。
【0043】
本実施形態の光フィルタ31では、制御装置が駆動されていない場合、ミラー4Aとミラー4Bとは第2のギャップG3を介して対向している。そこで、この光フィルタ1に光が入射すると、この第1のギャップG1に対応した波長の光、例えば720nmの波長の光が出射されることとなる。
ここで、制御装置を駆動させると静電力が発生し、この静電力により第1の基板32が第2の基板3側に向かって変形し、ミラー4Aとミラー4Bとの第1のギャップG1が電圧が印加されていない場合と比べて狭くなる。
【0044】
この場合、静電力によりヒンジ部33に発生する撓みは、その内側にあるヒンジ部34により吸収されて緩和されるので、このヒンジ部33に発生した撓みがミラー4Aにそのまま伝搬することはない。したがって、ミラー4Aに伝搬する撓み量を減少させることが可能になり、この撓みに起因するミラー4Aの湾曲も小さなものとなり、このミラー4Aの平坦度の低下も小さなものとなる。よって、ヒンジ部33に発生した撓みは、ヒンジ部34により吸収され、効率よく抑制され、この撓みに起因するミラー4Aの湾曲及び平坦度の低下も抑制される。その結果、ミラー4Aの湾曲が極めて小さなものとなり、その平坦度も良好に保持される。
【0045】
このように、ヒンジ部33に発生した撓みは、ヒンジ部34により吸収されて効率よく抑制され、ミラー4Aに伝搬されないので、ミラー4Aの平坦度も良好に保持され、このミラー4Aとミラー4Bとは安定した状態の第1のギャップG1’を介して対向することとなる。
そこで、この光フィルタ1に光が入射すると、この安定した状態の第1のギャップG1’に対応した最大透過率も高くかつ半値幅も狭い波長の光、例えば590nmの波長の光が出射されることとなり、透過波長が短波長側にシフトすることとなる。
【0046】
以上説明したように、本実施形態の光フィルタ1によれば、第1の基板32内かつ電極6Bの外周部とほぼ対応する複数の位置に第1のヒンジ部33を形成し、さらに、これらの第1のヒンジ部33の内周側かつミラー4Aの外側の複数の位置に、その梁幅が第1のヒンジ部33の梁幅以下の第2のヒンジ部34を形成したので、分光特性に優れた光を取り出すことができ、しかも、この取り出された光の分光特性を低下させることなく良好に維持することができる。
【0047】
図10は、本発明の光フィルタにおける反り低減効果を示すシミュレーション(有限要素解析)結果を示す図であり、図中、Aは第1の実施形態の光フィルタ1を、Bは第2の実施形態の光フィルタ21を、Cは従来の光フィルタを、それぞれ示している。
図10によれば、電圧印加に起因した変位量の増加に伴い、いずれの構造においても、ミラーにおける反り量は線形に増加するが、本発明の光フィルタ1、21は、従来の光フィルタと比べて変位に対する反り量が小さく、本発明の効果がシミュレーション結果により実証された。
例えば、200μmの変位量に対して、従来の光フィルタでは17μmの反りが生じるが、本発明の光フィルタ1、21では、反りが10〜11μmに留まっており、従来の光フィルタと比べて約40%の反り量の軽減を図ることができる。
【0048】
次に、本実施形態に係る光フィルタ1、21、31の応用例として、光フィルタ1(21、31)を備えた光学フィルタ装置モジュール(光モジュール)について説明する。
図11は、本発明の光学フィルタ装置モジュールの一実施形態を示す図であり、図11中、符号50は光学フィルタ装置モジュールである。
この光学フィルタ装置モジュール50は、光フィルタ1(21、31)からなるフィルタ部51を備えたもので、検体Wに対して特定の帯域の光を照射し、この検体Wの反射光から予め設定した波長の光を選択的に取り出し(分光し)、その強度を測定するようにしたものである。
【0049】
すなわち、この光学フィルタ装置モジュール50は、光源52とレンズ53とを有し、検体Wに対して所定の光、例えば可視光線や赤外線を照射する光源光学系54と、フィルタ部51と検出素子55とを有し、検体Wからの反射光を検出する検出部光学系56と、光源52の照度等を制御する光源制御回路57と、フィルタ部51を制御するフィルタ制御回路58と、検出素子55で検出された検出信号を受信し、さらに光源制御回路57、フィルタ制御回路58に接続するプロセッサ59と、を備えたものである。
【0050】
このような光学フィルタ装置モジュール50では、検体Wに対して可視光線や赤外線などの特定の帯域の光を照射する。すると、例えば検体Wの表面状態などに対応して反射光が生じ、これがフィルタ部51に入射する。フィルタ部51では、電極6A、6Bへの電圧印加(あるいは無印加)により、予め設定した波長の光を選択的に取り出す(分光する)ようにしておく。これにより、反射光から特定の波長域のみが選択的に取り出され、検出素子55で検出されるようになる。したがって、例えば検出素子55としてフィルタ部51で取り出される光を選択的に検出するものを用いることにより、感度良く反射光を検出することが可能になる。
【0051】
よって、この光学フィルタ装置モジュール50によれば、検体Wの表面状態等を感度良く検出することができる。
また、フィルタ部51を構成する光フィルタとして、上述した光フィルタ1(21、31)を用いているので、モジュール自体として、分光特性に優れた光を取り出すことができ、しかも、この取り出された光の分光特性を低下させることなく良好に維持することができるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の第1の実施形態の光フィルタを示す平面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態の光フィルタを示す断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態の光フィルタにおける電圧が印加されていない場合の波長と透過率との関係を示す図である。
【図4】本発明の第1の実施形態の光フィルタに電圧が印加された場合の撓みの状態を示す模式図である。
【図5】本発明の第1の実施形態の光フィルタにおける電圧が印加された場合の波長と透過率との関係を示す図である。
【図6】本発明の第2の実施形態の光フィルタを示す断面図である。
【図7】本発明の第2の実施形態の光フィルタの要部を示す拡大断面図である。
【図8】本発明の第2の実施形態の光フィルタを示す平面図である。
【図9】本発明の第2の実施形態の光フィルタを示す断面図である。
【図10】本発明の光フィルタにおける反り低減効果を示すシミュレーション結果を示す図である。
【図11】本発明の光学フィルタ装置モジュールの一実施形態を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
1、21、31…光フィルタ、2…第1の基板、3…第2の基板、4A、4B…ミラー、5…第1の凹部、6A、6B…電極、7…第2の凹部、8…第1のダイアフラム部、9…第2のダイアフラム部、11A、11B…配線、12A、12B…配線溝、22…ダイアフラム部、32…第1の基板、33…第1のヒンジ部、34…第2のヒンジ部、50…光学フィルタ装置モジュール、51…フィルタ部(光フィルタ)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向した状態で接合または接着され、互いに対向する面のいずれか一方または双方に1つ以上の段差を有する凹部が形成された第1の基板及び第2の基板と、
前記凹部の前記第1の基板及び第2の基板の対向する面に第1のギャップを介して設けられた一対のミラーと、
前記一対のミラーの周囲かつ前記第1の基板及び第2の基板の対向する面に第2のギャップを介して設けられた一対の電極と、
前記一対のミラーの周囲かつ前記第1の基板及び第2の基板のいずれか一方または双方に形成された第1のダイアフラム部と、
前記第1のダイアフラム部の内周側及び外周側のいずれか一方または双方に形成された第2のダイアフラム部と、
を備えてなることを特徴とする光フィルタ。
【請求項2】
前記第2のダイアフラム部の肉厚は、前記第1のダイアフラム部の肉厚以下であることを特徴とする請求項1記載の光フィルタ。
【請求項3】
前記第1のダイアフラム部及び前記第2のダイアフラム部は、前記第1の基板及び第2の基板のいずれか一方または双方を選択除去してなることを特徴とする請求項1または2記載の光フィルタ。
【請求項4】
前記第1のダイアフラム部及び前記第2のダイアフラム部は、一体化してなることを特徴とする請求項1、2または3記載の光フィルタ。
【請求項5】
前記第1の基板及び前記第2の基板は、光透過性を有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項記載の光フィルタ。
【請求項6】
互いに対向した状態で接合または接着され、互いに対向する面のいずれか一方または双方に1つ以上の段差を有する凹部が形成された第1の基板及び第2の基板と、
前記凹部の前記第1の基板及び第2の基板の対向する面に第1のギャップを介して設けられた一対のミラーと、
前記一対のミラーの周囲かつ前記第1の基板及び第2の基板の対向する面に第2のギャップを介して設けられた一対の電極と、
前記一対のミラーの周囲かつ前記第1の基板及び第2の基板のいずれか一方または双方に形成された少なくとも1つの第1のヒンジ部と、
前記第1のヒンジ部の内周側及び外周側のいずれか一方または双方に形成された少なくとも1つの第2のヒンジ部と、
を備えてなることを特徴とする光フィルタ。
【請求項7】
前記第2のヒンジ部の梁幅は、前記第1のヒンジ部の梁幅以下であることを特徴とする請求項6記載の光フィルタ。
【請求項8】
前記第1の基板及び前記第2の基板のいずれか一方は半導体材料であることを特徴とする請求項6または7記載の光フィルタ。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項記載の光フィルタを備えてなることを特徴とする光モジュール。
【請求項1】
互いに対向した状態で接合または接着され、互いに対向する面のいずれか一方または双方に1つ以上の段差を有する凹部が形成された第1の基板及び第2の基板と、
前記凹部の前記第1の基板及び第2の基板の対向する面に第1のギャップを介して設けられた一対のミラーと、
前記一対のミラーの周囲かつ前記第1の基板及び第2の基板の対向する面に第2のギャップを介して設けられた一対の電極と、
前記一対のミラーの周囲かつ前記第1の基板及び第2の基板のいずれか一方または双方に形成された第1のダイアフラム部と、
前記第1のダイアフラム部の内周側及び外周側のいずれか一方または双方に形成された第2のダイアフラム部と、
を備えてなることを特徴とする光フィルタ。
【請求項2】
前記第2のダイアフラム部の肉厚は、前記第1のダイアフラム部の肉厚以下であることを特徴とする請求項1記載の光フィルタ。
【請求項3】
前記第1のダイアフラム部及び前記第2のダイアフラム部は、前記第1の基板及び第2の基板のいずれか一方または双方を選択除去してなることを特徴とする請求項1または2記載の光フィルタ。
【請求項4】
前記第1のダイアフラム部及び前記第2のダイアフラム部は、一体化してなることを特徴とする請求項1、2または3記載の光フィルタ。
【請求項5】
前記第1の基板及び前記第2の基板は、光透過性を有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項記載の光フィルタ。
【請求項6】
互いに対向した状態で接合または接着され、互いに対向する面のいずれか一方または双方に1つ以上の段差を有する凹部が形成された第1の基板及び第2の基板と、
前記凹部の前記第1の基板及び第2の基板の対向する面に第1のギャップを介して設けられた一対のミラーと、
前記一対のミラーの周囲かつ前記第1の基板及び第2の基板の対向する面に第2のギャップを介して設けられた一対の電極と、
前記一対のミラーの周囲かつ前記第1の基板及び第2の基板のいずれか一方または双方に形成された少なくとも1つの第1のヒンジ部と、
前記第1のヒンジ部の内周側及び外周側のいずれか一方または双方に形成された少なくとも1つの第2のヒンジ部と、
を備えてなることを特徴とする光フィルタ。
【請求項7】
前記第2のヒンジ部の梁幅は、前記第1のヒンジ部の梁幅以下であることを特徴とする請求項6記載の光フィルタ。
【請求項8】
前記第1の基板及び前記第2の基板のいずれか一方は半導体材料であることを特徴とする請求項6または7記載の光フィルタ。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項記載の光フィルタを備えてなることを特徴とする光モジュール。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−139552(P2010−139552A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−313306(P2008−313306)
【出願日】平成20年12月9日(2008.12.9)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月9日(2008.12.9)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]