説明

光半導体受光素子封止用エポキシ樹脂組成物およびその製造方法、ならびに光半導体装置

【課題】効率的に可視光の短波長領域を遮光し、かつその領域より長波長領域において良好な光透過性を備えた硬化体を得ることのできる光半導体受光素子封止用エポキシ樹脂組成物およびその製法を提供する。
【解決手段】エポキシ樹脂,硬化剤,硬化促進剤とともに、黄色色素を含有する光半導体受光素子封止用エポキシ樹脂組成物である。そして、上記黄色色素の含有量を、エポキシ樹脂組成物全体の0.01重量%以上とする光半導体受光素子封止用エポキシ樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光半導体受光素子の封止に用いられる光半導体受光素子封止用エポキシ樹脂組成物であって、エポキシ樹脂本来の優れた特性を有し、かつ任意の可視光線(短波長領域)を遮光することを可能とする光半導体受光素子封止用エポキシ樹脂組成物およびその製造方法、ならびにそれを用いて樹脂封止されてなる光半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話や液晶テレビジョン等において画面輝度の調整用途等に、照度センサーを搭載する製品が増加している。この照度センサーにおいては、人間の目の感度と同等の感度が要求されている。しかしながら、照度センサーに用いられる光半導体受光素子は、可視光線のみならず800〜1100nm程度までの近赤外線領域に対する感度までも有しており、そのままの状態では人間の目では感知しえない近赤外線をも感知して、結果、「明るい」と誤って判断してしまう問題が生じる。
【0003】
このような照度センサーの有する問題の発生を防止するためには、例えば、光半導体受光素子に光学フィルター等を設けて光半導体受光素子の近赤外線に対する感度を遮断する必要があった。一方、光半導体素子の封止材料としては、従来から、優れた耐熱性、耐衝撃性、透明性等を備えたエポキシ樹脂組成物が汎用されている。
【0004】
そこで、上記のような照度センサーにおいては、例えば、受光感度のピーク波長が異なる2種類の光半導体素子を設け、両者の受光感度の違いから可視光成分を算出して照度センサーとする方法や、受光上面を近赤外線遮断機能を有する光学フィルター材料でコーティングし、この光学フィルターを形成した状態で可視光線領域および近赤外線領域に渡って透明なエポキシ樹脂組成物により樹脂封止して照度センサーを形成することが行なわれている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−6694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような方法にて得られる照度センサー等の光半導体装置の一部には、受光素子の感度スペクトルが人間の視感度曲線と相似ではなく、特に可視光の短波長領域の感度が高過ぎるという問題を有している。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、効率的に可視光の短波長領域を遮光し、かつその領域より長波長領域において良好な光透過性を備えた硬化体を得ることのできる光半導体受光素子封止用エポキシ樹脂組成物およびその製造方法、ならびにそれを用いて樹脂封止されてなる光半導体装置の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明は、下記の(A)〜(C)成分とともに、下記の(D)成分を含有する光半導体受光素子封止用エポキシ樹脂組成物であって、下記の(D)成分の含有量が、エポキシ樹脂組成物全体の0.01重量%以上に設定されている光半導体受光素子封止用エポキシ樹脂組成物を第1の要旨とする。
(A)エポキシ樹脂。
(B)硬化剤。
(C)硬化促進剤。
(D)黄色色素。
【0009】
そして、本発明は、上記光半導体受光素子封止用エポキシ樹脂組成物の製造方法であって、予め上記(D)成分をエポキシ樹脂組成物全体の0.01重量%以上となるよう有機溶剤〔(E)成分〕に配合した後、この配合物に上記(A)〜(C)成分を含む残りの配合成分を配合する光半導体受光素子封止用エポキシ樹脂組成物の製造方法を第2の要旨とする。
【0010】
また、本発明は、上記光半導体受光素子封止用エポキシ樹脂組成物の製造方法であって、上記(D)成分をエポキシ樹脂組成物全体の0.01重量%以上となるよう上記(A)成分および(B)成分の少なくとも一方に予め配合した後、この配合物に残りの配合成分を配合する光半導体受光素子封止用エポキシ樹脂組成物の製造方法を第3の要旨とする。
【0011】
さらに、本発明は、上記光半導体受光素子封止用エポキシ樹脂組成物を用いて、光半導体受光素子を封止してなる光半導体装置を第4の要旨とする。
【0012】
本発明者は、可視光の短波長領域を効率的に遮光し、かつその短波長領域より長波長領域においては良好な光透過性を備えた封止材料となる樹脂組成物を得るため、鋭意研究を重ねた。その結果、黄色色素を配合する際に、その配合量を特定値以上に設定すると、可視光の短波長領域を効果的に遮光し、かつその領域より長波長領域において良好な光透過性を備えた硬化体を得ることが可能となることを見出し、本発明に到達した。そして、本発明のエポキシ樹脂組成物は、予め黄色色素を特定の割合となるよう有機溶剤に配合した後、この配合物に残りの配合成分を配合することにより、あるいは特定の割合となるよう黄色色素をエポキシ樹脂および硬化剤の少なくとも一方に予め配合した後、この配合物に残りの配合成分を配合することにより、エポキシ樹脂組成物中に特定量の黄色色素を配合することが可能となり、その結果、エポキシ樹脂の特性を備えるとともに、効率的に可視光の短波長領域が遮光され、しかも上記短波長領域より長波長の領域においては高い光透過性が付与されることとなる。
【発明の効果】
【0013】
このように、本発明の光半導体受光素子封止用エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂〔(A)成分〕、硬化剤〔(B)成分〕、硬化促進剤〔(C)成分〕とともに、黄色色素〔(D)成分〕を特定量含有するものである。このため、得られるエポキシ樹脂組成物の硬化体は、エポキシ樹脂組成物の優れた特性(高耐熱性,高接着性等)を備えており、この特性に加えて可視光の短波長領域を効果的に遮光し、かつその領域より長波長領域において良好な光透過性を備えたものとなる。
【0014】
そして、本発明の光半導体受光素子封止用エポキシ樹脂組成物は、予め黄色色素〔(D)成分〕を所定の割合となるよう有機溶剤〔(E)成分〕に配合した後、この配合物に残りの配合成分を配合することにより製造することができる。このため、高濃度に黄色色素(D成分)を配合することが可能となり、かつ上記黄色色素(D成分)の凝集物の生成を抑制し良好な分散性が付与される。
【0015】
また、本発明の光半導体受光素子封止用エポキシ樹脂組成物は、黄色色素〔(D)成分〕を所定の割合となるようエポキシ樹脂〔(A)成分〕および硬化剤〔(B)成分〕の少なくとも一方に予め配合した後、この配合物に残りの配合成分を配合することにより製造することができる。このようにして、可視光の長波長領域での光散乱を生起させない範囲で黄色色素(D成分)を析出させることなく添加することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1の樹脂硬化体の透過スペクトル測定による光透過率−波長の関係を示す曲線図である。
【図2】実施例2の樹脂硬化体の透過スペクトル測定による光透過率−波長の関係を示す曲線図である。
【図3】実施例3の樹脂硬化体の透過スペクトル測定による光透過率−波長の関係を示す曲線図である。
【図4】実施例4の樹脂硬化体の透過スペクトル測定による光透過率−波長の関係を示す曲線図である。
【図5】実施例5の樹脂硬化体の透過スペクトル測定による光透過率−波長の関係を示す曲線図である。
【図6】実施例6の樹脂硬化体の透過スペクトル測定による光透過率−波長の関係を示す曲線図である。
【図7】比較例1の樹脂硬化体の透過スペクトル測定による光透過率−波長の関係を示す曲線図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
つぎに、本発明を実施するための形態について説明する。
【0018】
本発明の光半導体受光素子封止用エポキシ樹脂組成物(以下、「エポキシ樹脂組成物」ともいう)は、エポキシ樹脂(A成分)と、硬化剤(B成分)と、硬化促進剤(C成分)と、さらに黄色色素(D成分)とを用いて得られるものであり、液状、粉末状もしくはこれを打錠して用いられる。
【0019】
上記エポキシ樹脂(A成分)としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂、イソシアヌル環骨格を有するエポキシ樹脂、ヒダントインエポキシ樹脂等の含窒素環エポキシ樹脂、水素添加ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水素添加ビスフェノールF型エポキシ樹脂、脂肪族系エポキシ樹脂、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂等の脂肪族系炭化水素を骨格に持つエポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロ環型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂等の低吸水率硬化体タイプの主流であるエポキシ樹脂等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらエポキシ樹脂の中でも、透明性および耐変色性に優れるという点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、イソシアヌル環骨格を有エポキシ樹脂を単独でもしくは2種以上併用して用いることが好ましい。
【0020】
上記エポキシ樹脂(A成分)は、常温で固形でも液状でもよいが、一般に、使用するエポキシ樹脂の平均エポキシ当量が、90〜1000のものが好ましく、また、固形の場合には、軟化点が、160℃以下のものが好ましい。エポキシ当量が小さ過ぎると、エポキシ樹脂組成物の硬化体が脆くなる傾向が見られ、エポキシ当量が大き過ぎると、その硬化体のガラス転移温度(Tg)が低くなり、光半導体受光素子用封止材料に要求される耐熱安定性を満足させることが困難となる傾向がみられるからである。
【0021】
上記A成分とともに用いられる硬化剤(B成分)としては、例えば、酸無水物系硬化剤、フェノール系硬化剤等があげられる。
【0022】
上記酸無水物系硬化剤としては、例えば、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、無水ナジック酸、無水グルタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これら酸無水物系硬化剤の中でも、無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸を単独でもしくは2種以上併せて用いることが好ましい。また、酸無水物系硬化剤としては、その分子量が、140〜200程度のものが好ましく、また、無色ないし淡黄色の酸無水物系硬化剤を用いることが好ましい。
【0023】
また、上記フェノール系硬化剤としては、例えば、レゾール型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂、ノボラック型フェノールホルムアルデヒド樹脂、ポリヒドロキシスチレン樹脂等のフェノール樹脂、アニリン変性レゾール樹脂、メラミン変性レゾール樹脂等のレゾール型フェノール樹脂、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、tert−ブチルフェノールノボラック樹脂、ノニルフェノールノボラック樹脂、ナフトールノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、トリフェノールメタン型樹脂、フェニレン骨格あるいはジフェニレン骨格等を有するフェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂等のノボラック型フェノールホルムアルデヒド樹脂のような特殊なフェノール樹脂、ポリ(p−ヒドロキシスチレン)等のポリヒドロキシスチレン樹脂等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0024】
このようなエポキシ樹脂(A成分)と硬化剤(B成分)との配合割合は、エポキシ樹脂中のエポキシ基1当量に対して、硬化剤におけるエポキシ基と反応可能な活性基(酸無水物基または水酸基)が0.5〜1.5当量に設定することが好ましく、より好ましくは0.7〜1.2当量に設定することである。すなわち、活性基が少な過ぎると、エポキシ樹脂組成物の硬化速度が遅くなるとともに、その硬化体のガラス転移温度(Tg)が低くなる傾向がみられ、逆に活性基が多過ぎると、耐湿性が低下する傾向がみられるからである。
【0025】
また、上記硬化剤(B成分)としては、その目的および用途によっては、上記酸無水物系硬化剤およびフェノール系硬化剤以外に、他のエポキシ樹脂の硬化剤を用いることができる。このようなエポキシ樹脂の硬化剤としては、例えば、アミン系硬化剤、上記酸無水物系硬化剤をアルコールで部分エステル化したもの、または、ヘキサヒドロフタル酸、テトラヒドロフタル酸、メチルヘキサヒドロフタル酸等のカルボン酸の硬化剤等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いてもよく、さらには、上記酸無水物系硬化剤およびフェノール系硬化剤と併せて用いてもよい。例えば、上記カルボン酸の硬化剤を併用した場合には、硬化速度を速めることができ、生産性を向上させることができる。なお、これらの硬化剤を用いる場合においても、その配合割合は、酸無水物系硬化剤およびフェノール系硬化剤を用いた場合の配合割合(当量比)に準じる。
【0026】
上記A成分およびB成分とともに用いられる硬化促進剤(C成分)としては、例えば、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2,4−ジアミノ−6−〔2′−メチルイミダゾリル−(1′)〕−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−〔2′−ウンデシルイミダゾリル−(1′)〕−エチル−s−トリアジン、2−ウンデシルイミダゾール、3−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニルイミダゾリン、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール等のイミダゾール類、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルエチルアミン、N−メチルピペラジン、N−アミノエチルピペラジン、N,N−ジメチルアミノシクロヘキサン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N−ジメチルアミノベンゼン、N,N−ジメチルベンジルアミン、1,8−ジアザビシクロ〔5.4.0〕ウンデセン−7、1,5−ジアザビシクロ〔4.3.0〕ノネン−5等の3級アミン類、トリフェニルホスフィン、トリベンジルホスフィン、トリブチルホスフィン等のリン系化合物等があげられる。さらに、上記イミダゾール類、3級アミン類、リン系化合物のオニウム塩、金属塩、およびこれらの誘導体等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これら硬化促進剤の中でも、イミダゾール類を用いることが好ましい。
【0027】
上記硬化促進剤(C成分)の配合量は、上記エポキシ樹脂(A成分)に対して0.01〜8重量%に設定することが好ましく、より好ましくは0.1〜3重量%である。すなわち、硬化促進剤(C成分)の配合量が少な過ぎると、充分な硬化促進効果が得られ難く、また配合量が多過ぎると、得られる硬化体が変色する等の問題が顕在化しやすくなるからである。
【0028】
上記A〜C成分とともに用いられる黄色色素(D成分)としては、カラーインデックス(C.I.)においてC.I.Solvent に部類されるものや、C.I.Pigment に部類されるものを用いることが好ましい。具体的には、C.I.Solvent Yellow 15 、C.I.Solvent Yellow 16 、C.I.Solvent Yellow 19 、C.I.Solvent Yellow 21 、C.I.Solvent Yellow 33 、C.I.Solvent Yellow 61 、C.I.Solvent Yellow 104等のC.I.Solvent 、C.I.Pigment Yellow 1、C.I.Pigment Yellow 2、C.I.Pigment Yellow 3、C.I.Pigment Yellow 83 等のC.I.Pigment 等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0029】
なかでも、可視光の短波長側に強い吸収を有し、かつそれよりも長波長側で良好な光透過性を示す必要性があるという点から、上記C.I.Solvent に部類されるものを用いることが、黄色色素(D成分)凝集物を分散するC.I.Pigment に部類されるものを用いた場合に比べて、樹脂中に溶解可能な量を多く設定することが可能となるため、可視光の長波長側でより高い光透過性が得られやすいという効果を奏することとなり好ましい。
【0030】
上記黄色色素(D成分)の配合量は、エポキシ樹脂組成物に対して0.01重量%以上に設定する必要がある。さらに0.01〜10重量%の範囲に設定することが好ましく、特に好ましくは0.1〜10重量%の範囲である。上記黄色色素(D成分)の配合量が少な過ぎると、可視光の短波長領域を効率的に遮光することができなくなる。また、上記黄色色素(D成分)の配合量が多過ぎると、黄色色素(D成分)の過剰に起因し、過剰分の黄色色素(D成分)が析出して光の散乱が生起し、長波長領域での光透過率が低下するという問題が生じる傾向がみられるからである。そして、エポキシ樹脂組成物硬化体における、波長500nmでの光透過率が好ましくは10%以上95%以下、より好ましくは20%以上70%以下で、かつ上記硬化体における、波長420nmでの光透過率が好ましくは80%以下、特に好ましくは40%以下であることが視感度曲線を再現するために好ましい。なお、ここでの上記光透過率は、受光素子上面に位置するエポキシ樹脂組成物硬化体の厚みが0.2mmの場合における値をいい、上記硬化体の厚みの変動に伴い上記光透過率の範囲は変動するものである。
【0031】
そして、目的の遮光領域となる短波長領域より長波長となる領域では、良好な光透過性を得るために、黄色色素(D成分)の配合量は必要最小限に設定することが好ましい。すなわち、配合量が多過ぎると、先に述べたように、過剰分の黄色色素(D成分)が析出するために光の散乱が生じてしまい、黄色色素(D成分)に殆ど吸収がないにも関わらず、光透過率が減少するからである。
【0032】
なお、本発明のエポキシ樹脂組成物では、上記黄色色素(D成分)の配合に際して、予め有機溶剤(E成分)に溶解した状態で配合することが好ましい。
【0033】
上記有機溶剤(E成分)としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等のケトン系溶剤、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤、ギ酸、酢酸、酪酸等の酸系溶剤、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル等のギ酸エステル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル等の酢酸エステル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル等の酪酸エステル等のエステル系溶剤等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。特に、工業的に、安価に入手可能であり、エポキシ樹脂組成物の製造工程中に揮発により除去可能であるという点から、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、酢酸エチルを単独でもしくは2種以上併用したものが好ましく用いられる。なお、上記有機溶剤(E成分)は、最終的には除去されることが好ましく、加熱混合時に大部分は揮散されるが、減圧処理や粉砕したものを60℃以下で数時間放置する等の処理を行なうことが好ましい。
【0034】
上記黄色色素(D成分)を有機溶剤(E成分)に配合する際の有機溶剤(E成分)での黄色色素(D成分)の濃度は、エポキシ樹脂組成物に対する黄色色素(D成分)の配合量とも関係するが、例えば、0.1〜20重量%の範囲に設定することが好ましく、特に好ましくは1〜20重量%である。すなわち、濃度が低過ぎると、必要量の黄色色素(D成分)をエポキシ樹脂組成物に配合するために多量の有機溶剤を必要とするため、後工程において完全に除去し難くなる傾向がみられ、逆に濃度が高過ぎると、黄色色素(D成分)の濃度が高くなり過ぎて飽和状態になり析出するという問題が生じる傾向がみられるからである。
【0035】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、上記A〜D成分、あるいは黄色色素(D成分)を有機溶剤(E成分)に配合する際には上記各成分に加えて有機溶剤(E成分)が用いられるが、エポキシ樹脂本来の特性を保持しつつ、任意の可視光の短波長領域を遮光し、かつそれ以上の長波長領域では優れた光透過性を有するエポキシ樹脂組成物としての特性を補完する目的で、酸化防止剤、劣化防止剤、変性剤、カップリング剤、脱泡剤、レベリング剤、離型剤、上記D成分以外の染料,顔料等の他の添加剤を適宜配合してもよい。
【0036】
また、上記酸化防止剤、劣化防止剤としては、例えば、フェノール系化合物、アミン系化合物、有機硫黄系化合物、ホスフィン系化合物やヒンダートアミン系化合物等があげられ、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。さらに、上記変性剤としては、例えば、グリコール類、シリコーン類、アルコール類等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。そして、上記カップリング剤としては、例えば、チタネート系カップリング剤、ビニル系シランカップリング剤、エポキシ系シランカップリング剤、アミノ系シランカップリング剤等のシラン系カップリング等があげられる。また、上記脱泡剤としては、例えば、シリコーン系オイル等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0037】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、例えば、つぎのようにして製造することにより、液状、粉末状もしくはその粉末を打錠したタブレット状として得ることができる。
【0038】
液状のエポキシ樹脂組成物を得るには、例えば、前記の各成分である、エポキシ樹脂(A成分)、硬化剤(B成分)、硬化促進剤(C成分)に対して、直接、黄色色素(D成分)を所定量添加する方法を採用することができる。または、液状のエポキシ樹脂組成物の製造方法として、黄色色素(D成分)を高濃度に配合することが可能となり、かつ黄色色素(D成分)の凝集物の生成を抑制し良好な分散性を付与するという点から、予め黄色色素(D成分)の一部もしくは全部をエポキシ樹脂組成物全体の所定の割合となるよう有機溶剤(E成分)に配合した後、この配合物を残りの配合成分とともに配合する方法を採用することができる。もしくは、液状のエポキシ樹脂組成物の製造方法として、可視光の長波長領域での光散乱を生起させない範囲で黄色色素(D成分)を析出させることなく添加可能となるという点から、予め黄色色素(D成分)をエポキシ樹脂組成物全体の所定の割合となるようエポキシ樹脂(A成分)および硬化剤(B成分)の少なくとも一方に配合した後、この配合物に残りの配合成分を配合する方法を採用することができる。
【0039】
一方、粉末状、もしくはその粉末を打錠したタブレット状のエポキシ樹脂組成物を得るには、例えば、前記の各配合成分を所定の割合で適宜配合し、予備混合した後、混練機を用いて混練して溶融混合し、ついで、これを室温まで冷却した後、公知の手段によって粉砕し、必要に応じて打錠することにより得られる。
【0040】
このようにして得られた本発明のエポキシ樹脂組成物は、照度センサー等の光半導体受光素子の封止用樹脂材料として用いられる。そして、本発明のエポキシ樹脂組成物を用いて、光半導体受光素子を封止する方法としては、特に限定するものではなく、通常のトランスファー成形や注型等の公知のモールド方法により行なうことができる。
【0041】
なお、本発明のエポキシ樹脂組成物が液状である場合には、少なくとも、エポキシ樹脂(A成分)と硬化剤(B成分)を別々に保管しておき、使用する直前に混合する、いわゆる2液タイプとして用いればよい。また、本発明のエポキシ樹脂組成物が粉末状もしくはタブレット状である場合には、上記各配合成分を溶融混合する際に、Bステージ状(半硬化状)とし、これを使用時に加熱溶融すればよい。
【0042】
本発明のエポキシ樹脂組成物を用いて、板状あるいはレンズ状の硬化体を製造あるいは光半導体受光素子を封止することにより、このエポキシ樹脂組成物の優れた特性(高耐熱性,高接着性)を保持したまま、目的とする任意の可視光の短波長領域を遮光し、かつそれ以上の波長領域では優れた光透過性を有する機能を、作製した硬化体あるいは光半導体装置に付与することができる。
【0043】
本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化体は、具体的には、先に述べたように、可視光の短波長領域(例えば、380〜420nm)では光透過率が80%以下で、それ以上の長波長領域(例えば、420〜780nm)では光透過率が10〜100%の範囲であることが好ましく、特に好ましくは可視光の短波長領域では光透過率が40%以下で、それ以上の長波長領域では光透過率が20〜100%の範囲である。なお、上記光透過率は、例えば、分光光度計を用いて透過スペクトルを測定することにより得られ、エポキシ樹脂組成物硬化体の厚みが0.2mmの場合における値をいい、上記硬化体の厚みの変動に伴い上記光透過率の範囲は変動するものである。
【実施例】
【0044】
つぎに、実施例について、比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0045】
下記に示す各成分を準備した。
〔エポキシ樹脂a〕
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量650)
〔エポキシ樹脂b〕
イソシアヌル酸トリグリシジル
〔硬化剤a〕
テトラヒドロ無水フタル酸
〔硬化剤b〕
4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸およびヘキサヒドロ無水フタル酸の混合物(混合重量比:4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸/ヘキサヒドロ無水フタル酸=70/30)
〔硬化促進剤〕
2−エチル−4−メチルイミダゾール
〔有機溶剤〕
アセトン
〔黄色色素a〕
スピロンイエローGRLHスペシャル(保土ヶ谷化学社製:C.I.Solvent Yellow 21 )〔黄色色素b〕
ダイヤレジンイエローF(三菱化学社製:C.I.Solvent Yellow 104)
【0046】
〔実施例1〜6、比較例1〕
後記の表1に示す各成分を同表に示す割合にて配合し、溶融混合することにより目的とするエポキシ樹脂組成物を作製した。なお、実施例3については、予め黄色色素を硬化剤に配合し混合した後、この配合物に残りの配合成分を配合することによりエポキシ樹脂組成物を作製した。一方、実施例1,2,4,5,6および比較例1については、予め黄色色素を有機溶剤(アセトン)に配合した後、この配合物を残りの他の配合成分と混合することによりエポキシ樹脂組成物を作製した。なお、有機溶剤としてのアセトンは、混合時に略全量が揮散除去された。
【0047】
このようにして得られたエポキシ樹脂組成物を用い、専用金型(成形部分の厚み0.2mm)にて150℃×4分間のトランスファー成形法により成形し、150℃で3時間の後加熱硬化を行なうことにより樹脂硬化体(厚み0.2mm)を作製した。この樹脂硬化体を、分光光度計(日本分光社製、V−670)を用いて透過スペクトルを測定した。その結果〔縦軸:光透過率transmittance(%/0.2mm) −横軸:波長wavelength(nm)の関係を示す曲線図〕を、図1〜図7にそれぞれ示す。図1は実施例1品、図2は実施例2品、図3は実施例3品、図4は実施例4品、図5は実施例5品、図6は実施例6品、図7は比較例1品をそれぞれ示す。
【0048】
上記測定結果において、図1〜図6から明らかなように、実施例1〜6の樹脂硬化体は、いずれも黄色色素の添加量がエポキシ樹脂組成物に対して0.01〜10重量%の範囲であり、波長500nmでの光透過率が10%以上95%以下を示し、かつ波長420nmでの光透過率は80%以下を示した。
【0049】
これに対して、比較例1の樹脂硬化体は、図7から明らかなように、黄色色素の添加量がエポキシ樹脂組成物に対して0.01重量%を下回る0.001重量%であるが、波長500nmでの光透過率が95%以上を示し、かつ波長420nmでの光透過率も80%以上の高い光透過率を示した。
【0050】
つぎに、上記エポキシ樹脂組成物を用いて、専用金型にて成形(条件:150℃×4分間)することにより、硬化体試験片(直径50mm×厚み1mm)を作製した。ついで、この硬化体試験片を150℃×3時間の後加熱硬化をすることにより完全硬化を終了させた。得られた上記硬化体試験片を用いて、示査走査熱量計(DSC:セイコーインスツルメンツ社製、DSC−6220)にて測定することにより、ガラス転移温度の前後に現れる2つの屈曲点の中間点をガラス転移温度(Tg)とした。
【0051】
さらに、上記と同様にして作製した硬化体試験片を用い、これを透過型光学顕微鏡にて観察することにより、硬化体試験片中に形成された凝集物の有無を確認した。その結果、凝集物が全く確認されなかったものを○、凝集物が多量に確認されたものを×として判定し評価した。
【0052】
これらの結果を下記の表1に併せて示す。
【0053】
【表1】

【0054】
上記結果から、いずれの樹脂硬化体もガラス転移温度(Tg)に関してはエポキシ樹脂の特性を備えたものが得られたことがわかる。一方、先に述べたように、実施例の樹脂硬化体は、全てが波長500nmでの光透過率が10%以上95%以下を示し、かつ波長450nmでの光透過率は80%以下を示した。これに対して、比較例の樹脂硬化体は、波長500nmでの光透過率が99%であるが、波長420nmでの光透過率は98%と可視光の短波長領域において高い光透過率を示すことからこの波長領域での遮光性に劣ることがわかる。
【0055】
つぎに、上記実施例のエポキシ樹脂組成物を用い、専用金型によりトランスファー成形(150℃×4分間成形、150℃×3時間後加熱硬化)で受光素子(1.5mm×1.5mm×0.37mm、シリコンフォトダイオード)をモールドすることにより光半導体装置を作製した。この光半導体装置は、42アロイを全面銀メッキしたリードフレームを有する4mm×5mmのスモールアウトラインパッケージ(SOP)8ピンである。得られた光半導体装置は、何ら問題のない信頼性の高いものであった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、光半導体受光素子の封止材料に用いられるものであって、エポキシ樹脂本来の優れた特性(例えば、高耐熱性,高接着性)を有するとともに、短波長領域の可視光線を遮光し、かつそれ以上の長波長領域では優れた光透過性を有する特性を備えた硬化体が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)〜(C)成分とともに、下記の(D)成分を含有する光半導体受光素子封止用エポキシ樹脂組成物であって、下記の(D)成分の含有量が、エポキシ樹脂組成物全体の0.01重量%以上に設定されていることを特徴とする光半導体受光素子封止用エポキシ樹脂組成物。
(A)エポキシ樹脂。
(B)硬化剤。
(C)硬化促進剤。
(D)黄色色素。
【請求項2】
上記(D)成分である黄色色素が、カラーインデックス(C.I.)においてC.I.Solvent に部類されるものである請求項1記載の光半導体受光素子封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2記載の光半導体受光素子封止用エポキシ樹脂組成物の製造方法であって、予め下記(D)成分をエポキシ樹脂組成物全体の0.01重量%以上となるよう有機溶剤〔(E)成分〕に配合した後、この配合物に下記の(A)〜(C)成分を含む残りの配合成分を配合することを特徴とする光半導体受光素子封止用エポキシ樹脂組成物の製造方法。
(A)エポキシ樹脂。
(B)硬化剤。
(C)硬化促進剤。
(D)黄色色素。
【請求項4】
請求項1または2記載の光半導体受光素子封止用エポキシ樹脂組成物の製造方法であって、下記(D)成分をエポキシ樹脂組成物全体の0.01重量%以上となるよう下記の(A)成分および(B)成分の少なくとも一方に予め配合した後、この配合物に残りの配合成分を配合することを特徴とする光半導体受光素子封止用エポキシ樹脂組成物の製造方法。
(A)エポキシ樹脂。
(B)硬化剤。
(C)硬化促進剤。
(D)黄色色素。
【請求項5】
請求項1または2記載の光半導体受光素子封止用エポキシ樹脂組成物を用いて、光半導体受光素子を封止してなる光半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−209181(P2010−209181A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−55391(P2009−55391)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】