説明

光半導体装置

【課題】良質な量子ドットを所望の密度で形成し得る光半導体装置及びその製造方法を提供する。
【解決手段】下地層16上に形成された量子ドット20を有する光半導体装置であって、下地層の少なくとも表層部に、下地層の構成元素とイオン半径が異なる微量元素18が存在しており、微量元素の存在により表層部に生ずる局所的な歪により、量子ドットが形成されている。下地層の表層部に存在させる微量元素の面密度を適宜設定することにより、量子ドットの面密度を制御することができる。しかも、下地層の表層部に存在させる微量元素は微量であるため、下地層の質を損なうこともない。従って、下地層や量子ドットの質を損なうことなく、所望の密度で量子ドットを形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光半導体装置及びその製造方法に係り、特に所望の密度で量子ドットを形成しうる光半導体装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、量子ドットの形成方法としては、Stranski-Krastanawモード(S−Kモード)による形成方法が知られている。
【0003】
S−Kモードは、エピタキシャル成長する半導体結晶が、成長開始当初は2次元成長(膜成長)するが、膜の弾性限界を超えた段階で3次元成長するモードのことである。下地の材料と格子定数の異なる膜をエピタキシャル成長することにより、数nm〜数十nm程度の3次元成長島より成る量子ドットが自己形成される。
【0004】
S−Kモードは、量子ドットを容易に自己形成することができるモードであるため、光半導体装置等の分野で広く用いられている。
【0005】
光半導体装置を広い分野で応用することを考慮すると、量子ドットを所望の密度で形成することが望ましい。
【0006】
量子ドットの密度を制御する技術としては、以下のような技術が提案されている。
【0007】
第1の技術は、フォトリソグラフィ技術を用いて下地層の表面に凹部を予め形成しておき、この後、下地層上に量子ドット層を成長する技術である。量子ドットは凹部内に成長しやすい傾向があるため、凹部内に量子ドットを形成することができる。
【0008】
第2の技術は、下地層の表面に不純物を付着させておき、この後、下地層上に量子ドットを成長する技術である。量子ドットは不純物を核として形成される傾向があるため、付着させる不純物の密度に応じて量子ドットを形成することができる。
【0009】
第3の技術は、熱処理を行うことにより下地層中に析出物を形成し、この後、下地層上に量子ドットを成長する技術である。析出物が形成された箇所の上方に量子ドットが生成される傾向があるため、析出物の密度に応じて量子ドットを形成することができる。
【特許文献1】特開平7−302763号公報
【非特許文献1】Applied Physics Letters, Volume 80, Number 18, (2002), 3277-3279
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、第1の技術では、フォトリソグラフィ技術を用いて凹部を形成するため、極めて高密度に凹部を形成することは困難であった。このため、量子ドットを極めて高密度に形成することはできなかった。また、第2の技術では、量子ドット中に不純物が取り込まれてしまうため、良質な量子ドットを形成することができなかった。また、第3の技術では、多数の析出物を高密度に形成することは困難であり、このため、量子ドットを高密度に形成することは困難であった。
【0011】
本発明の目的は、良質な量子ドットを所望の密度で形成し得る光半導体装置及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的は、下地層上に形成された量子ドットを有する光半導体装置であって、前記下地層の少なくとも表層部に、前記下地層の構成元素とイオン半径が異なる微量元素が存在しており、前記微量元素の存在により前記表層部に生ずる局所的な歪により、前記量子ドットが形成されていることを特徴とする光半導体装置により達成される。
【発明の効果】
【0013】
以上の通り、本発明によれば、下地層の少なくとも表層部に微量元素を存在させるため、微量元素が存在している箇所には、局所的な引っ張り歪又は圧縮歪が生ずる。そうすると、局所的な引っ張り歪又は圧縮歪に応じて、量子ドットを成長するための核が発生する。従って、本発明によれば、下地層の表層部に存在させる微量元素の面密度を適宜設定することにより、量子ドットの面密度を制御することができる。しかも、下地層の表層部に存在させる微量元素は微量であるため、下地層の質を損なうこともない。従って、本発明によれば、下地層や量子ドットの質を損なうことなく、所望の密度で量子ドットを形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
上述したように、従来の技術では、良質な量子ドットを所望の密度で形成することは困難であった。
【0015】
本願発明者は鋭意検討した結果、以下のようにすれば、良好な量子ドットを所望の密度で形成しうることに想到した。
【0016】
図1は、本発明の原理を示す断面図である。図1(a)は、微量元素が存在している箇所の上方に量子ドットが成長する場合を示す概念図である。図1(b)は、微量元素が存在している箇所の上方を避けるように量子ドットが成長する場合を示す概念図である。
【0017】
図1に示すように、下地層16の表層部には、下地層16の主たる構成元素(図示せず)とイオン半径が異なる微量元素18が含まれている。
【0018】
微量元素18のイオン半径が、下地層16の主たる構成元素(図示せず)のイオン半径と異なっているため、微量元素18が存在している箇所には、局所的に引っ張り歪又は圧縮歪が生じる。
【0019】
このような局所的な引っ張り歪や圧縮歪が生じている下地層16上に、量子ドット層19を形成すると、局所的な引っ張り歪又は圧縮歪に応じて、量子ドット20を成長させるための核が発生する。このため、局所的な引っ張り歪又は圧縮歪に応じて、量子ドット20が成長する。
【0020】
微量元素18が存在している箇所の上方に核が発生しやすい場合には、微量元素18が存在している箇所の上方に量子ドット20が成長する(図1(a)参照)。
【0021】
微量元素18が存在している箇所の上方を避けるように核が発生しやすい場合には、微量元素18が存在している箇所の上方を避けるように量子ドット20が成長する(図1(b)参照)。
【0022】
本発明によれば、下地層16の少なくとも表層部に微量元素18を存在させるため、微量元素18が存在している箇所には、局所的な引っ張り歪又は圧縮歪が生ずる。そして、局所的な引っ張り歪又は圧縮歪に応じて、量子ドット20を成長するための核が発生する。従って、本発明によれば、下地層16の表層部に存在させる微量元素18の面密度を適宜設定することにより、量子ドット20の面密度を制御することができる。しかも、下地層16の表層部に存在させる微量元素18の量は少ないため、下地層16の質を損なうこともない。このため、本発明によれば、下地層16や量子ドット20の質を損なうことなく、所望の密度で量子ドット20を形成することができる。しかも、本発明によれば、高密度で量子ドット20を形成することが可能となる。
【0023】
[第1実施形態]
次に、本発明の第1実施形態による光半導体装置を図1乃至図5を用いて説明する。図2は、本実施形態による光半導体装置を示す断面図である。
【0024】
図2に示すように、基板10上には、バッファ層12が形成されている。基板10としては、例えば、(311)Bのn形のInP基板が用いられている。基板10に導入されているn形のドーパント不純物の濃度は、例えば1×1018cm−3程度となっている。バッファ層12としては、例えばn形のInP層が用いられている。バッファ層12に導入されているn形のドーパント不純物の濃度は、例えば1×1018cm−3程度となっている。
【0025】
バッファ層12上には、下部クラッド層14が形成されている。下部クラッド層14としては、例えばn形のInP層が用いられている。下部クラッド層14に導入されているn形のドーパント不純物の濃度は、例えば1×1017〜1×1018cm−3程度となっている。下部クラッド層14の厚さは、例えば3μm程度となっている。
【0026】
下部クラッド層14上には、活性層24が形成されている。
【0027】
活性層24は、図1に示すように、下地層16と、下地層16上に形成された量子ドット層(ウェッティング層)19と、量子ドット層19上に形成されたキャップ層22とを有している。
【0028】
下地層16の材料としては、例えばInGa1−XAs1−Y層が用いられている。
【0029】
微量元素18としては、例えばN(窒素)を用いることができる。
【0030】
量子ドット層19としては、例えばInAs層が用いられている。量子ドット層19の供給量は、例えば3分子層(monolayer)となっている。
【0031】
活性層24の厚さは、例えば0.5μm程度となっている。
【0032】
量子ドット20は、微量元素18が存在している箇所の上方に形成されている。
【0033】
なお、ここでは微量元素18が存在している箇所の上方に量子ドット20が形成されている場合について説明したが、微量元素18が存在している箇所の上方を避けるように量子ドット20が形成される場合もある。いずれにしても、微量元素18の面密度に応じて量子ドット20の面密度を制御することができる。従って、微量元素18が存在している箇所の上方に量子ドット20が形成されてもよいし、微量元素18が存在している箇所の上方を避けるように量子ドット20が形成されてもよい。
【0034】
量子ドット層19上には、キャップ層22が形成されている。キャップ層22としては、例えばInGaAsP層が用いられている。キャップ層22の厚さは、例えば20nmとする。
【0035】
こうして活性層24が構成されている。
【0036】
活性層24上には、上部クラッド層26が形成されている。上部クラッド層26としては、例えばp形のInP層が用いられている。上部クラッド層26に導入されているp形のドーパント不純物の濃度は、例えば1×1017〜1×1018cm−3程度となっている。上部クラッド層の厚さは、例えば3μm程度となっている。
【0037】
上部クラッド層26上には、コンタクト層28が形成されている。コンタクト層28としては、例えばp形のIn0.53Ga0.47As層が用いられている。コンタクト層28に導入されているp形のドーパント不純物の濃度は、例えば1×1019cm−3程度となっている。コンタクト層28の厚さは、例えば0.5μm程度となっている。
【0038】
コンタクト層28及びクラッド層26上部は、全体としてメサ状に形成されている。
【0039】
コンタクト層28上には、金属より成る上部電極30が形成されている。
【0040】
基板10の下方には、金属より成る下部電極32が形成されている。
【0041】
こうして、本実施形態による光半導体装置が構成されている。
【0042】
本実施形態による光半導体装置は、活性層24における下地層16の表層部に微量元素18が存在しており、下地層16の表層部における微量元素18の存在に応じて、下地層16上に量子ドット20が形成されていることに主な特徴がある。
【0043】
提案されている技術では、上述したように、量子ドットを高密度に形成することは困難であった。
【0044】
これに対し、本実施形態によれば、下地層16の少なくとも表層部に微量元素18を存在させるため、微量元素18が存在している箇所には、局所的な引っ張り歪又は圧縮歪が生ずる。そうすると、局所的な引っ張り歪又は圧縮歪に応じて、量子ドット20を成長するための核が発生する。従って、本実施形態によれば、下地層16の表層部に存在させる微量元素18の面密度を適宜設定することにより、量子ドット20の面密度を制御することができる。しかも、下地層16の表層部に存在させる微量元素18は微量であるため、下地層16の質を損なうこともない。従って、本実施形態によれば、下地層16や量子ドット20の質を損なうことなく、所望の密度で量子ドット20を形成することができる。
【0045】
(光半導体装置の製造方法)
次に、本実施形態による光半導体装置の製造方法を図3乃至図5を用いて説明する。図3乃至図5は、本実施形態による光半導体装置の製造方法を示す工程断面図である。
【0046】
まず、図3(a)に示すように、基板10を用意する。基板10としては、例えば、(311)Bのn形のInP基板を用いる。基板10に導入されているn形のドーパント不純物の濃度は、例えば1×1018cm−3程度とする。
【0047】
次に、基板10上に、例えばMOCVD法により、バッファ層12を形成する。バッファ層12としては、例えばn形のInP層を形成する。バッファ層12に導入するn形のドーパント不純物の濃度は、例えば1×1018cm−3程度とする。
【0048】
次に、全面に、例えばMOCVD法により、下部クラッド層14を形成する。下部クラッド層14としては、例えばn形のInP層を形成する。下部クラッド層14に導入するn形のドーパント不純物の濃度は、例えば5×1017cm−3程度とする。下部クラッド層14の厚さは、例えば3μm程度とする。
【0049】
次に、下部クラッド層14上に、活性層24を形成する。
【0050】
ここで、活性層24の形成方法について図4を用いて説明する。
【0051】
まず、図4(a)に示すように、下部クラッド層14(図3(b)参照)の全面に、例えばMBE法により下地層16を形成する。下地層16としては、例えばInGa1−XAs1−Y層を形成する。下地層16を形成する際における成膜室内の温度は、例えば550〜650℃程度とする。
【0052】
この際、下地層16の少なくとも表層部に微量元素18が存在するように、下地層16を形成する。具体的には、下地層16の構成元素を含む原料を用いて下地層16を成長し、この後、下地層16の構成元素を含む原料と微量元素18を含む原料とを用いて更に下地層16を成長する。
【0053】
微量元素18の面密度は、例えば1×1012cm−2とする。微量元素18としては、例えば窒素を用いる。下地層18に窒素を含ませるためには、例えばラジカル窒素を用いればよい。こうして、少なくとも表層部に微量元素18が存在している下地層16が形成される。
【0054】
次に、図4(b)に示すように、全面に、例えばMBE法により量子ドット層19を形成する。量子ドット層19としては、例えばInAs層を形成する。量子ドット層19の厚さは、例えば3分子層程度とする。量子ドット層19を形成する際における成膜室内の温度は、例えば450〜550℃とする。こうして、微量元素18が存在している箇所の上方に量子ドット20が形成される。なお、ここでは、微量元素18が存在している箇所の上方に量子ドット20が形成される場合を例に説明したが、微量元素18が存在している箇所の上方を避けるように量子ドット20が形成されてもよい。
【0055】
次に、全面に、例えばMBE法により、キャップ層20を形成する。キャップ層20としては、例えばInGaAsP層を形成する。キャップ層20の厚さは、例えば30nmとする。
【0056】
こうして、活性層24が形成される。活性層24の厚さは、例えば0.5μm程度となる。
【0057】
なお、ここでは、MBE法により活性層24を形成する場合を例に説明したが、活性層24の形成方法は、MBE法に限定されるものではない。例えば、MOCVD法により活性層24を形成してもよい。
【0058】
MOCVD法により活性層24を形成する場合における成膜条件は、例えば以下のようにすればよい。
【0059】
下地層16を形成する際における成膜室内の温度は、例えば550〜700℃とする。量子ドット層19を形成する際における成膜室内の温度は、例えば450〜550℃とする。下地層16に窒素を含ませるための原料としては、例えばジメチルヒドラジンを用いればよい。
【0060】
このように、MOCVD法により活性層24を形成してもよい。
【0061】
次に、図5に示すように、全面に、例えばMOCVD法により、上部クラッド層26を形成する。上部クラッド層26としては、例えばp形のInP層を形成する。上部クラッド層26に導入するp形のドーパント不純物の濃度は、例えば例えば1×1018cm−3程度とする。上部クラッド層26の厚さは、例えば3μm程度とする。
【0062】
次に、全面に、例えばMOCVD法により、コンタクト層28を形成する。コンタクト層28としては、例えばp形のIn0.53Ga0.47As層を形成する。コンタクト層28に導入するp形のドーパント不純物の濃度は、例えば1×1019cm−3程度とする。コンタクト層28の厚さは、例えば0.5μm程度とする。
【0063】
次に、コンタクト層28及びクラッド層26の上部を、全体としてメサ形状にパターニングする。
【0064】
次に、例えばスパッタ法により、コンタクト層28上に、金属より成る上部電極30を形成する。
【0065】
また、基板10の下面側に、例えばスパッタ法により、金属より成る下部電極32を形成する。
【0066】
こうして本実施形態による光半導体装置が製造される。
【0067】
(変形例(その1))
次に、本実施形態による光半導体装置の変形例(その1)を図6を用いて説明する。図6は、本変形例による光半導体装置を示す概念図である。なお、図6(a)は、微量元素が存在している箇所の上方に量子ドットが形成される場合を示している。図6(b)は、微量元素が存在している箇所の上方を避けるように量子ドットが形成される場合を示している。
【0068】
本変形例による光半導体装置は、下地層16の表層部の1原子層においてのみ微量元素18が存在していることに主な特徴がある。
【0069】
図6に示すように、微量元素18は、下地層16の表層部の1原子層においてのみ存在している。
【0070】
下地層16の表層部の1原子層のみに微量元素18を存在させるためには、デルタドープの技術を用いればよい。即ち、下地層16を形成するための原料を用いて下地層16を成長し、この後、下地層16を形成するための原料の供給を停止し、微量元素18の原料のみを供給すればよい。
【0071】
このように、下地層16の表層部の少なくとも1原子層に微量元素18が存在していれば、上記と同様に、微量元素18の存在により局所的な引っ張り歪又は圧縮歪が生じる。このため、上記と同様に、局所的な引っ張り歪又は圧縮歪に応じて、量子ドット20を成長するための核を発生させることが可能である。従って、本変形例によっても、所望の面密度で量子ドット20を形成することができる。
【0072】
なお、ここでは、下地層16の表面の一原子層に微量元素18を存在させたが、下地層16の表面から1〜5原子層の範囲内の少なくともいずれかに微量元素18を存在させるようにしてもよい。下地層16の表面から1〜5原子層の範囲内に微量元素18を存在させれば、微量元素18の存在により生ずる局所的な引っ張り歪又は圧縮歪に応じて、量子ドット20を成長することが可能である。
【0073】
(変形例(その2))
次に、本実施形態による光半導体装置の変形例(その2)を図7を用いて説明する。図7は、本変形例による光半導体装置を示す概念図である。なお、図7(a)は、微量元素が存在している箇所の上方に量子ドットが形成される場合を示している。図7(b)は、微量元素が存在している箇所の上方を避けるように量子ドットが形成される場合を示している。
【0074】
本変形例による光半導体装置は、下地層16と量子ドット層19とが交互に積層されていることに主な特徴がある。
【0075】
図7に示すように、下地層16と量子ドット層19は交互に積層されている。
【0076】
各々の下地層16の表層部には、微量元素18が存在している。微量元素18が存在している箇所においては、上記と同様に、局所的に引っ張り歪または圧縮歪が生じている。
【0077】
局所的な引っ張り歪または圧縮歪に応じて、量子ドット20が形成されている。
【0078】
このように、下地層16と量子ドット層19とを交互に積層するようにしてもよい。下地層16と量子ドット層19とを交互に積層する場合であっても、上記と同様に、所望の面密度で量子ドット20を形成することができる。
【0079】
(変形例(その3))
次に、本実施形態による光半導体装置の変形例(その3)を図8を用いて説明する。図8は、本変形例による光半導体装置を示す概念図である。
【0080】
本変形例による光半導体装置は、下地層16の表層部に複数の種類の微量元素18a、18bが存在していることに主な特徴がある。
【0081】
図8に示すように、下地層16の表層部には、複数の種類の微量元素18a、18bが存在している。
【0082】
例えば、微量元素18aとしては、イオン半径が比較的大きいものを用いる。これに対し、微量元素18bとしては、イオン半径が比較的小さいものを用いる。
【0083】
本変形例によれば、微量元素18aと微量元素18bとの組み合わせにより、局所的な引っ張り歪や圧縮歪をより大きくすることが可能となる。従って、局所的な引っ張り歪や圧縮歪に対応して、より確実に量子ドット20を成長することができる。
【0084】
(変形例(その4))
次に、本実施形態による光半導体装置の変形例(その4)を図9を用いて説明する。図9は、本変形例による光半導体装置を示す断面図である。
【0085】
本変形例による光半導体装置は、下部クラッド層14、活性層24及び上部クラッド層26が全体としてメサ形状に形成されており、メサ形状の両側に埋め込み層34が形成されていることに主な特徴がある。
【0086】
図9に示すように、下部クラッド層14、活性層24及び上部クラッド層26は、全体としてメサ形状に形成されている。
【0087】
メサ形状の両側には、p形のInP層34aとn形のInP層34bとから成る埋め込み層34が形成されている。埋め込み層34は、例えば電流狭窄層として機能する。
【0088】
このように、下部クラッド層14、活性層24及び上部クラッド層26を全体としてメサ形状に形成し、メサ形状の両側に埋め込み層34を形成してもよい。
【0089】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態による光半導体装置を図10乃至図12を用いて説明する。図10は、本実施形態による光半導体装置を示す断面図である。図1乃至図9に示す第1実施形態による光半導体装置及びその製造方法と同一の構成要素には、同一の符号を付して説明を省略または簡潔にする。
【0090】
(光半導体装置)
まず、本実施形態による光半導体装置を図10を用いて説明する。図10では、本実施形態による光半導体装置の活性層を主として示している。活性層以外の構成要素については、例えば第1実施形態による光半導体装置と同様とすることができる。
【0091】
本実施形態による光半導体装置は、下地層16の表層部における一部の領域においてのみ量子ドット20が形成されていることに主な特徴がある。
【0092】
図10に示すように、下地層16の表層部における一部の領域においてのみ微量元素18が存在している。
【0093】
微量元素18が存在している箇所には、上記と同様に、局所的に圧縮歪又は引っ張り歪が生じている。局所的な圧縮歪又は引っ張り歪に応じて、量子ドット20が形成されている。
【0094】
このように、下地層16の表層部における一部の領域においてのみ微量元素18を存在させてもよい。
【0095】
本変形例によれば、下地層16上の表層部における一部の領域においてのみ微量元素18を存在させるため、下地層16の表層部における一部の領域においてのみ量子ドット20を形成することができる。
【0096】
(光半導体装置の製造方法)
次に、本実施形態による光半導体装置の製造方法を図11及び図12を用いて説明する。図11及び図12は、本実施形態による光半導体装置の製造方法を示す工程断面図である。
【0097】
まず、下地層16を形成する工程までは、上述した光半導体装置の製造方法と同様であるので説明を省略する(図11(a)参照)。
【0098】
次に、例えばスピンコート法により、下地層16上の全面に、フォトレジスト膜36を形成する。この後、フォトリソグラフィ技術を用い、フォトレジスト膜36をパターニングする。これにより、フォトレジスト膜36に、下地層16に達する開口部38が形成される(図11(b)参照)。
【0099】
次に、図11(c)に示すように、例えばイオン注入法により、フォトレジスト膜36をマスクとして、微量元素18を注入する。微量元素18としては、例えばボロンを用いる。微量元素18の面密度は、例えば1×1014cm−2程度とする。微量元素18が導入された箇所には、局所的に引っ張り歪又は圧縮歪が生じる。
【0100】
次に、図12(a)に示すように、フォトレジスト膜36を除去する。
【0101】
次に、図12(b)に示すように、例えばMBE法により量子ドット層19を形成する。そうすると、局所的な引っ張り歪又は圧縮歪に応じて、量子ドット20が形成される。
【0102】
次に、図12(c)に示すように、キャップ層22を形成する。
【0103】
こうして、活性層24が形成される。
【0104】
この後の光半導体装置の製造方法は、例えば図5を用いて上述した光半導体装置の製造方法と同様であるので説明を省略する。
【0105】
[変形実施形態]
本発明は上記実施形態に限らず種々の変形が可能である。
【0106】
例えば、上記実施形態では、下地層16としてInGa1−XAs1−Y層を形成したが、下地層16はInGa1−XAs1−Y層に限定されるものではない。例えば、下地層16として、InGa1−XAs層を用いてもよいし、GaAs層を用いてもよい。
【0107】
また、上記実施形態では、微量元素18としてN(窒素)を用いる場合を例に説明したが、微量元素18はNに限定されるものではなく、下地層16を構成する主たる元素とイオン半径が異なる元素を適宜用いることができる。
【0108】
例えば、下地層16としてInGaAs層を用いる場合、微量元素18としては例えばB、Al、N、P又はSb等を用いることができる。B及びAlは、InやGaと同様のIII族元素であり、N、P及びSbは、Asと同様のV族元素である。このため、このような微量元素18を用いた場合には、微量元素18は下地層16中において電気的に不活性となる。
【0109】
また、下地層16としてInGaAs層を用いる場合、微量元素18として例えばSi、Zn、Se又はS等を用いてもよい。SiはIV族元素であり、ZnはII族元素であり、Se及びSはVI族元素である。このため、このような微量元素18を用いた場合には、微量元素18は下地層16中においては電気的に活性となる。即ち、このような微量元素18を用いた場合には、微量元素18は下地層16中においてn形又はp形の不純物となる。
【0110】
また、下地層16としてGaAs層を用いる場合には、微量元素18としては例えばB、In、Al、N、P又はSbを用いることができる。B、In及びAlは上述したようにIII族元素であり、N、P及びSbは上述したようにV族元素である。このため、このような微量元素18を用いた場合には、微量元素18は下地層16中において電気的に不活性となる。
【0111】
また、下地層16としてGaAs層を用いる場合、微量元素18としてSi、Zn、Se又はS等を用いてもよい。Siは上述したようにIV族元素であり、Znは上述したようにII族元素であり、Se及びSは上述したようにVI族元素である。このため、このような微量元素18を用いた場合には、微量元素18は下地層16中において電気的に活性となる。
【0112】
また、下地層16としてInGaAsP層を用いる場合には、微量元素18として例えばB、Al、N、Sbを用いることができる。B、Alは上述したようにIII族元素であり、N及びSbは上述したようにV族元素である。このため、このような微量元素18を用いた場合には、微量元素18は下地層16中において電気的に不活性となる。
【0113】
また、下地層16としてInGaAsP層を用いる場合、微量元素18としてSi、Zn、Se又はSを用いてもよい。Siは上述したようにIV族元素であり、Znは上述したようにII族元素であり、Se及びSは上述したようにVI族元素である。このため、このような微量元素18を用いた場合には、微量元素18は下地層16中において電気的に活性となる。
【0114】
また、上記実施形態では、下地層16の表層部に含ませる微量元素18の面密度を1×1012cm−2としたが、下地層16の表層部に含ませる微量元素18の面密度は、1×1012cm−2に限定されるものではない。所望の密度で量子ドット20を成長し得るように、下地層16の表層部に含ませる微量元素18の面密度は適宜設定すればよい。下地層16の表層部に存在させる微量元素18の面密度は、例えば1×10〜1×1014cm−2の範囲で設定すればよい。この場合、量子ドット20は、例えば1×10〜1×1012の面密度で形成し得ると考えられる。
【0115】
更には、下地層16の表層部16に存在させる微量元素18の面密度を、1×1011〜1×1014cm−2の範囲で設定してもよい。この場合、量子ドット20は、例えば1×1011〜1×1012cm−2の面密度で形成し得ると考えられる。即ち、高密度に量子ドット20を形成することができる。
【0116】
更には、下地層16の表層部16に存在させる微量元素18の面密度、1×1012〜1×1014cm−2の範囲で適宜設定してもよい。この場合、量子ドット20は、例えば1×1012cm−2程度の面密度で形成し得ると考えられる。即ち、より高密度に量子ドット20を形成することができる。
【0117】
また、上記実施形態では、量子ドット層19としてInAs層を形成したが、量子ドット層19はInAs層に限定されるものではない。下地層16と格子定数が異なる材料を、適宜用いればよい。
【0118】
また、第1実施形態では、下地層16の少なくとも表層部に微量元素18を存在させるように下地層16を形成する場合を例に説明したが、下地層16の表層部に微量元素を存在させる方法は、これに限定されるものではない。例えば、下地層16を形成した後に、イオン注入法により、下地層16の少なくとも表層部に微量元素18を導入してもよい。また、下地層16を形成した後に、熱拡散法により、下地層16の少なくとも表層部に微量元素18を導入してもよい。即ち、微量元素18を含む高温の雰囲気中で、下地層16の少なくとも表層部に微量元素18を拡散させてもよい。
【0119】
また、本発明を適用しうる光半導体装置の全体構成は、上述した光半導体装置に限定されるものではない。本発明の原理は、あらゆる構造の光半導体装置に適用することができる。
【0120】
また、本発明の原理は、半導体光増幅器、光スイッチ、波長変換素子、量子ドットレーザ等、あらゆる光半導体装置に適用することが可能である。
【0121】
(付記1) 下地層上に形成された量子ドットを有する光半導体装置であって、
前記下地層の少なくとも表層部に、前記下地層の構成元素とイオン半径が異なる微量元素が存在しており、
前記微量元素の存在により前記表層部に生ずる局所的な歪により、前記量子ドットが形成されている
ことを特徴とする光半導体装置。
【0122】
(付記2) 付記1記載の光半導体装置において、
前記局所的な歪は、引っ張り歪である
ことを特徴とする光半導体装置。
【0123】
(付記3) 付記1記載の光半導体装置において、
前記局所的な歪は、圧縮歪である
ことを特徴とする光半導体装置。
【0124】
(付記4) 付記1乃至3のいずれかに記載の光半導体装置において、
前記微量元素は、1×10〜1×1014cm−2の面密度で存在しており、
前記量子ドットは、1×10〜1×1012cm−2の面密度で形成されている
ことを特徴とする光半導体装置。
【0125】
(付記5) 付記4記載の光半導体装置において、
前記微量元素は、1×1011〜1×1014cm−2の面密度で存在しており、
前記量子ドットは、1×1011〜1×1012cm−2の面密度で形成されている
ことを特徴とする光半導体装置。
【0126】
(付記6) 付記1乃至5のいずれかに記載の光半導体装置において、
前記微量元素は、前記下地層の表面から1〜5原子層の範囲に存在している
ことを特徴とする光半導体装置。
【0127】
(付記7) 付記1乃至6のいずれかに記載の光半導体装置において、
前記下地層は、InGaAs、GaAs又はInGaAsPより成る
ことを特徴とする光半導体装置。
【0128】
(付記8) 付記1乃至7のいずれかに記載の光半導体装置において、
前記微量元素は、Si、Zn、Se、S、B、Al、N、P、Sb又はInより成る
ことを特徴とする光半導体装置。
【0129】
(付記9) 付記1乃至8のいずれかに記載の光半導体装置において、
前記量子ドットは、InAsより成る
ことを特徴とする光半導体装置。
【0130】
(付記10) 付記1乃至9のいずれかに記載の光半導体装置において、
前記下地層の前記表層部に、前記下地層の構成元素及び前記微量元素のいずれともイオン半径が異なる、更に他の微量元素が存在しており、
前記微量元素と前記他の微量元素との存在により前記表層部に生ずる局所的な歪に応じて、前記量子ドットが形成されている
ことを特徴とする光半導体装置。
【0131】
(付記11) 基板上に下地層を形成する工程と、前記下地層上に量子ドットを成長する工程とを有する光半導体装置の製造方法であって、
前記下地層を形成する工程では、前記下地層の構成元素を含む原料を用いて前記下地層を成長し;前記下地層の構成元素を含む前記原料と、前記下地層の構成元素に対してイオン半径が異なる微量元素を含む他の原料とを用いて、前記下地層を更に成長する
ことを特徴とする光半導体装置の製造方法。
【0132】
(付記12) 基板上に下地層を形成する工程と、前記下地層上に量子ドットを成長する工程とを有する光半導体装置の製造方法であって、
前記下地層を形成する工程では、前記下地層の構成元素を含む原料を用いて前記下地層を成長し;前記下地層の構成元素に対してイオン半径が異なる微量元素を含む他の原料を用いて、前記下地層の表層部に前記微量元素を導入する
ことを特徴とする光半導体装置の製造方法。
【0133】
(付記13) 基板上に下地層を形成する工程と、
前記下地層の構成元素とイオン半径が異なる微量元素を、前記下地層の少なくとも表層部に導入する工程と、
前記下地層上に量子ドットを成長する工程と
を有することを特徴とする光半導体装置の製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】本発明の原理を示す断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態による光半導体装置を示す断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態による光半導体装置の製造方法を示す工程断面図(その1)である。
【図4】本発明の第1実施形態による光半導体装置の製造方法を示す工程断面図(その2)である。
【図5】本発明の第1実施形態による光半導体装置の製造方法を示す工程断面図(その3)である。
【図6】本発明の第1実施形態の変形例(その1)による光半導体装置を示す概念図である。
【図7】本発明の第1実施形態の変形例(その2)による光半導体装置を示す概念図である。
【図8】本発明の第1実施形態の変形例(その3)による光半導体装置を示す概念図である。
【図9】本発明の第1実施形態の変形例(その4)による光半導体装置を示す断面図である。
【図10】本発明の第2実施形態による光半導体装置を示す断面図である。
【図11】本発明の第2実施形態による光半導体装置の製造方法を示す工程断面図(その1)である。
【図12】本発明の第2実施形態による光半導体装置の製造方法を示す工程断面図(その2)である。
【符号の説明】
【0135】
10…基板
12…バッファ層
14…下部クラッド層
16…下地層
18、18a、18b…微量元素
19…量子ドット層
20…量子ドット
22…キャップ層
24…活性層
26…上部クラッド層
28…コンタクト層
30…上部電極
32…下部電極
34…埋め込み層
34a…InP層
34b…InP層
36…フォトレジスト膜
38…開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下地層上に形成された量子ドットを有する光半導体装置であって、
前記下地層の少なくとも表層部に、前記下地層の構成元素とイオン半径が異なる微量元素が存在しており、
前記微量元素の存在により前記表層部に生ずる局所的な歪により、前記量子ドットが形成されている
ことを特徴とする光半導体装置。
【請求項2】
請求項1記載の光半導体装置において、
前記微量元素は、1×10〜1×1014cm−2の面密度で存在しており、
前記量子ドットは、1×10〜1×1012cm−2の面密度で形成されている
ことを特徴とする光半導体装置。
【請求項3】
請求項2記載の光半導体装置において、
前記微量元素は、1×1011〜1×1014cm−2の面密度で存在しており、
前記量子ドットは、1×1011〜1×1012cm−2の面密度で形成されている
ことを特徴とする光半導体装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光半導体装置において、
前記微量元素は、前記下地層の表面から1〜5原子層の範囲に存在している
ことを特徴とする光半導体装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光半導体装置において、
前記下地層の前記表層部に、前記下地層の構成元素及び前記微量元素のいずれともイオン半径が異なる、更に他の微量元素が存在しており、
前記微量元素と前記他の微量元素との存在により前記表層部に生ずる局所的な歪に応じて、前記量子ドットが形成されている
ことを特徴とする光半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−114612(P2006−114612A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−298791(P2004−298791)
【出願日】平成16年10月13日(2004.10.13)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成15年度、文部科学省、科学技術試験研究委託費 光・デバイス技術の開発、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願。平成16年度、新エネルギー・産業技術総合開発機構、「フォトニックネットワーク技術の開発事業」委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願。
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】