説明

光変調器、露光装置、光変調器の制御方法

【課題】駆動回路353の発熱量変化に依らず、光変調素子352周囲の雰囲気温度を安定させることで、光路変化を抑制して、光変調を適切に実行できる技術を提供する。
【解決手段】光変調素子352や駆動回路353が配置された基板351に、発熱部354bを配置して、この発熱部354bにより光変調素子352周囲を加熱可能に構成する。駆動回路353の発熱量が減少したときには、これに応じて発熱部354bの発熱量が増大する一方、駆動回路353の発熱量が増大したときには、これに応じて発熱部354bの発熱量が減少する。つまり、駆動回路353の発熱量の変動傾向に対して反対の傾向で、発熱部354bの発熱量を増減させることで、光変調素子352周囲の雰囲気温度をある程度の範囲内に維持して、当該雰囲気温度を安定させている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、入射した光を変調する光変調素子を、駆動回路を用いて駆動する光変調器、当該光変調器を用いた露光装置、および当該光変調器の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、光源からの光を光変調素子により変調する光変調器(同文献の光変調デバイス)が記載されている。より詳しくは、この光変調器は、光変調素子とこれを駆動するための駆動回路を、基板の上に配置した構成を備えている(同文献の段落0022等)。そして、光変調素子は、駆動回路から印加される信号に応じた光変調を、入射してきた光に対して実行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−140354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のような駆動回路は、それ自身の動作に伴なって発熱する。したがって、駆動回路と光変調素子を同一基板に配置した構成では、駆動回路からの熱が基板に伝導して光変調素子周囲の雰囲気温度を上昇させることがある。しかも、駆動回路の発熱量は一定とは限らず、駆動回路の動作状態によって変動するため、駆動回路の発熱量が大きいときと小さいときで、光変調素子周囲の雰囲気温度が変動することがあった。その結果、光変調素子周囲における温度変動の影響を受けて光路が変化してしまい、光変調を適切に実行できない場合があった。
【0005】
この発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、光変調素子の周囲の雰囲気温度を安定させることで、光変調素子周囲における光路変化を抑制して、光変調を適切に実行可能とする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明にかかる光変調器は、入射した光を変調する光変調素子、および光変調素子を駆動して光変調素子に光変調を実行させるとともに当該駆動動作に伴ない発熱する駆動回路を、基板に配置した光変調器であって、上記目的を達成するために、発熱量を可変に構成されるとともに基板に配置された発熱部と、駆動回路の発熱量の減少に応じて発熱部の発熱量を増大させる一方、駆動回路の発熱量の増大に応じて発熱部の発熱量を減少させる発熱量制御部とを備えたことを特徴とする。
【0007】
また、この発明にかかる露光装置は、記録材料を露光する露光装置であって、上記目的を達成するために、光源部と、光源部からの光を変調する請求項1ないし7のいずれか一項に記載の光変調器と、光変調器が変調した光を記録材料に導く光学系とを備えたことを特徴とする。
【0008】
また、この発明にかかる光変調器の制御方法は、入射した光を変調する光変調素子、および光変調素子を駆動して光変調素子に光変調を実行させるとともに当該駆動動作に伴ない発熱する駆動回路を、基板に配置した光変調器の制御方法であって、上記目的を達成するために、発熱量を可変に構成されるとともに基板に配置された発熱部の発熱量を、駆動回路の発熱量の減少に応じて増大させる一方、駆動回路の発熱量の増大に応じて減少させることを特徴とする。
【0009】
このように構成された発明(光変調器、露光装置、光変調器の制御方法)は、光変調素子や駆動回路が配置された基板に、発熱量を可変に構成された発熱部をさらに配置しているため、この発熱部により光変調素子周囲を加熱することができる。そして、駆動回路の発熱量が減少したときには、これに応じて発熱部の発熱量が増大する一方、駆動回路の発熱量が増大したときには、これに応じて発熱部の発熱量が減少する。つまり、この発明は、駆動回路の発熱量の変動傾向に対して反対の傾向で、発熱部の発熱量を増減させることで、光変調素子周囲の雰囲気温度をある程度の範囲内に維持して、当該雰囲気温度を安定させている。その結果、光変調素子周囲における光路変化を抑制して、光変調を適切に実行することが可能になっている。
【0010】
ところで、上述のように、駆動回路によって光変調素子を駆動する光変調器にあっては、駆動回路の駆動動作を制御する駆動制御部を、基板にさらに備えることができる。そして、この場合、これら発熱部および駆動制御部を、基板に配置された同一のプログラマブル・ロジック・デバイスに内蔵することが、極めて好適となる。
【0011】
つまり、発熱部および駆動制御部それぞれを別のデバイスで構成して基板に配置するとなると、複数のデバイスそれぞれについて配置スペースを設ける必要があるうえ、各デバイスに対する配線スペースの確保等の理由からデバイス間に一定の隙間を設ける必要がある。そのため、基板面積が大きくなって、光変調器の大型化を招くおそれがある。一方で、プログラマブル・ロジック・デバイスは、その内部の回路を変更して所望の回路を構成できるといった特徴を有するため、同一のプログラマブル・ロジック・デバイス内に、発熱部および駆動制御部それぞれの機能を実現する回路を構成することができる。しかも、このように発熱部および駆動制御部を同一のプログラマブル・ロジック・デバイスに内蔵しておけば、基板に配置するデバイスの個数、ならびにデバイス間のスペースを削減できる。その結果、基板面積を小さくして、延いては、光変調器の小型化を図ることができる。
【0012】
この際、発熱制御部も、発熱部および駆動制御部と同一のプログラマブル・ロジック・デバイスに内蔵しておいても良い。このように、発熱部、発熱制御部および駆動制御部の各機能部を同一のプログラマブル・ロジック・デバイス内に集約することで、光変調器のさらなる小型化を図ることができる。
【0013】
この際、具体的には、プログラマブル・ロジック・デバイスとして、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイを用いることができる。
【0014】
また、発熱部は、クロックに同期して与えられる二値データが反転する際に消費される電力によって発熱するデジタル回路で構成されても良い。このように構成した場合、クロックの周波数を変えることで、単位時間当たりに消費される電力量を変えて、発熱部からの発熱量を調整することができる。したがって、このような構成は、光変調素子周囲の雰囲気温度を安定させるにあたって極めて有利であり、光変調素子周囲における光路変化を効果的に抑制して、適切な光変調の実現に大きく資するものである。
【0015】
ちなみに、駆動回路の発熱量は、駆動回路に流れる電流や駆動回路が消費する電力に依存する。そこで、発熱量制御部は、駆動回路に流れる電流あるいは駆動回路で消費される電力の低下に基づいて、駆動回路の発熱量の減少を判断し、発熱部の発熱量を増大させる一方、駆動回路に流れる電流あるいは駆動回路で消費される電力の上昇に基づいて、駆動回路の発熱量の増大を判断し、発熱部の発熱量を減少させるように、光変調器を構成しても良い。これにより、駆動回路の発熱量の減少/増大に応じて発熱部の発熱量を増大/減少させて、光変調素子周囲の雰囲気温度を安定させることができ、その結果、光変調素子周囲における光路変化を抑制して、光変調を適切に実行することができる。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、駆動回路の発熱量が減少したときには、これに応じて発熱部の発熱量を増大させる一方、駆動回路の発熱量が増大したときには、これに応じて発熱部の発熱量を減少させるため、光変調素子周囲の雰囲気温度をある程度の範囲内に維持して、当該雰囲気温度を安定させることができる。その結果、光変調素子周囲における光路変化を抑制して、光変調を適切に実行することが可能になっている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明にかかる光変調器を装備したパターン描画装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】本発明にかかる光変調器の概略構成を示す模式図である。
【図3】発熱用回路の構成を示す回路図である。
【図4】図3の回路の動作を表として示す図である。
【図5】発熱量制御回路による発熱量回路の制御動作の一例を示すタイミングチャートである。
【図6】本発明にかかる光変調器を装備するパターン描画装置を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明にかかる光変調器を装備したパターン描画装置の概略構成を示す模式図である。パターン描画装置1は、ステージ5上に保持された基板Wを光学ヘッド3により露光することで、基板Wにパターンを描画するものである。光学ヘッド3は、主に、レーザー発振器31、照明光学系33、光変調器35および投影光学系37を備える。レーザー発振器31は、所定波長(例えば、355ナノメートル)の光ビームを射出するものであり、レーザー発振器31から射出された光ビームは、照明光学系33にて形状が整えられた後に、光変調器35へと導かれる。光変調器35は、入射してきた光ビームを変調する光変調素子352を基板351に搭載した構成を備え、露光制御部4からの指示に応じて光変調素子352を駆動することで、入射光ビームを空間的に変調する。こうして変調された光ビームは、投影光学系37にて変倍された後に、基板Wへと照射される。
【0019】
一方、基板Wを保持するステージ5は、露光制御部4からの駆動制御を受けて、基板Wを主走査方向へと移動させる。そのため、光学ヘッド3から射出される光ビームは、主走査方向に移動する基板Wに対して照射されることとなる。このとき、副走査方向に並ぶ複数のチャンネルで光ビームを同時に照射するように光学ヘッド3を構成しておくことで、2次元的にパターンを描画することができる。なお、主走査方向と副走査方向は互いに直交するものとする。
【0020】
また、パターン描画装置1は、装置全体を制御するためにコンピューター8を備えている。このコンピューター8は、CPU(Central Processing Unit)やメモリーを備えており、装置を制御するために必要な種々の演算処理を実行する。例えば、1つのLSI(Large Scale Integration)のパターンを基板Wに描画する場合、外部のCAD(Computer Aided Design)等で生成されたLSIパターンに相当するデータがLSIデータとしてメモリーに記憶される。続いて、CPUは、LSIデータが示す単位領域を分割してラスタライズし、ラスタデータを生成してメモリーに保存する。さらに、CPUは、このラスタデータに対して、例えば特許第4020248号に記載されているようなデータ修正を施して、描画データを生成する。こうして生成された描画データは、コンピューター8から露光制御部4へと送られる。そして、露光制御部4が、この描画データに基づいて光学ヘッド3やステージ5等の各部動作を制御することにより、LSIパターンが基板Wに描画される。
【0021】
以上が、パターン描画装置の概略構成である。続いて、パターン描画装置1の光学ヘッド3が備える光変調器35の構成について詳述する。図2は、本発明にかかる光変調器の概略構成を示す模式図である。この光変調器35は、GLV基板351の上に、光変調素子としてのGLV(Grating Light Valve、シリコン・ライト・マシーンズ(サニーベール、カリフォルニア)の登録商標)を搭載したものである。このGLV352としては、例えば、特開2010−021409号公報等に記載されているものを用いることができる。
【0022】
さらに、GLV基板351上には、ドライバー回路353、FPGA(フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ)354、CPU355およびコネクター356が搭載されている。このとき、GLV352、ドライバー回路353、FPGA354およびコネクター356はこの順番で上下方向に並んで配置される一方、CPU355はこれらに側方から隣接して配置される。このように、CPU355を側方に外して配置することで、CPU355の上下にスペースを確保することができ、このスペースをCPU355への配線領域等として有効活用することができる。GLV基板351上の各部の詳細は次のとおりである。
【0023】
GLV352は、上記特開2010−021409号等に記載のとおり、それぞれ表面で光ビームを反射可能な固定リボンと可動リボンを交互に複数並べた構成を有している。これらのリボンのうち可動リボンはその表面の略法線方向に上下動することができる。したがって、可動リボンを上下動させることで、GLV352は、格子の深さが可変である回折格子として機能する。
【0024】
ドライバー回路353は、GLV352に隣接して配置されて、GLV352の可動リボンを駆動する機能を果たす。つまり、ドライバー回路353がGLV352に対して駆動信号を印加すると、これに応じてGLV352の可動リボンが上下動して、格子の深さが変動する。そして、GLV352は格子の深さに応じた回折光を射出して光ビームを変調することとなる。なお、このときドライバー回路353は、駆動動作に伴なって発熱する。
【0025】
FPGA354は、GLV352とドライバー回路353を挟むようにして、ドライバー回路353に隣接して配置されている。このFPGA354の内部には、ドライバー回路353によるGLV352の駆動動作を制御するための駆動制御回路354aがコンフィギュレーションされている。この駆動制御回路354aは、露光制御部4からコネクター356を介して受信した描画データに基づいて、ドライバー回路353の駆動動作を制御することで、GLV352に所定の光変調動作を実行させるものである。
【0026】
また、FPGA354の内部には、発熱用回路354bおよび発熱量制御回路354cもコンフィギュレーションされている。図3は、発熱用回路の構成の一例を示す回路図であり、図4は、図3の回路の動作を表として示す図である。図3に示すように、発熱用回路354bは、偶数個(ここでは4個)のD型フリップフロップを直列に接続してシフトレジスターを構成し、最後段のフリップフロップFF(n)のQ出力を最前段のフリップフロップFF(n-3)のD入力に短絡したものである。
【0027】
初期状態では、PRESET信号により、左から数えて奇数段目のフリップフロップFF(n-3)、FF(n-1)のD入力が「0」にセットされる一方、偶数段目のフリップフロップFF(n-2)、FF(n)のD入力が「1」にセットされる(図4の「CLK」が「0」の状態)。こうして、1段毎にD入力の値が反転するように、各フリップフロップ(n-3)、…のD入力値が設定される。
【0028】
続いて、クロックCLKが各フリップフロップFF(n-3)、…に入力されると、同クロックCLKの立上りエッジに同期して、各フリップフロップFF(n-3) 、…のD入力の値がQ出力へとシフトする(図4の「CLK」が「1」の状態)。これによって、各フリップフロップFF(n-3)、…のQ出力の値が反転すると同時に、各フリップフロップFF(n-3)、…のD入力の値が反転する。そして、このような入出力値の反転は、クロックCLKが入力される度に発生する。
【0029】
また、クロックCLKに同期して起こる入出力値の反転に伴なって、各フリップフロップFF(n-3)、…内では電流が発生して電力が消費されるとともに、この消費電力に応じた発熱量で各フリップフロップFF(n-3)、…が発熱する。したがって、クロックCLKの周波数を高くすることで、各フリップフロップFF(n-3) 、…の単位時間当たりの発熱量を増大させることができる。一方、クロックCLKの周波数を低くすることで、各フリップフロップFF(n-3) 、…の単位時間当たりの発熱量を減少させることができる。このように、本実施形態では、クロックの周波数を変えることで発熱量を調整可能な発熱用回路354bが、FPGA354内部に実現されている。
【0030】
そして、この発熱用回路354bの発熱量は、発熱量制御回路354cによって制御される。この発熱量制御回路354cは、ドライバー回路353の発熱量の変化に応じて、発熱用回路354bの発熱量を調整するものである。ちなみに、ドライバー回路353の発熱量は、同回路353に流れる電流(消費電流)に依存する。そこで、本実施形態の発熱量制御回路354cは、ドライバー回路353に流れる電流の増減から、ドライバー回路353の発熱量の増減を判断し、この判断結果に基づいて発熱用回路354bの発熱量を調整する。なお、ドライバー回路353の電流としては、ドライバー回路353への電源ラインに挿入された電流計をCPU355が読み取って発熱量制御回路354cに送信した値が用いられる。また、ドライバー回路353に対して複数の電源ラインが設けられている場合は、各電源ラインに電流計を挿入するとともに、これら電流計の値の総和をドライバー回路353の消費電流とすれば良い。
【0031】
図5は、発熱量制御回路による発熱量回路の制御動作の一例を示すタイミングチャートである。同図の上段では、ドライバー回路353の発熱量の変化が示され、同図の下段では、発熱用回路354bの発熱量の変化が示されている。時刻t1〜t4における制御動作を例示して説明すると、次のとおりである。
【0032】
時刻t1〜t2にかけては、ドライバー回路353の発熱量が減少しており、これに応じて、発熱量制御回路354cは、発熱用回路354bの発熱量を増大させる。具体的には、発熱量制御回路354cは、CPU355より受信した電流値の減少に基づいて、ドライバー回路353の発熱量の減少を判断する。そして、発熱量制御回路354cは、発熱用回路354bに供給するクロックCLKの周波数を上げて、発熱用回路354bの発熱量を増大させる。
【0033】
時刻t2〜t3にかけては、ドライバー回路353の発熱量は一定となっており、これに応じて、発熱量制御回路354cは、発熱用回路354bの発熱量を一定に保つ。具体的には、発熱量制御回路354cは、CPU355より受信した電流値が変化しないことから、ドライバー回路353の発熱量が一定になっていると判断する。そして、発熱量制御回路354cは、発熱用回路354bに供給するクロックCLKの周波数を一定にして、発熱用回路354bの発熱量を一定に保つ。
【0034】
時刻t3〜t4にかけては、ドライバー回路353の発熱量が増大しており、これに応じて、発熱量制御回路354cは、発熱用回路354bの発熱量を減少させる。具体的には、発熱量制御回路354cは、CPU355より受信した電流値の増大に基づいて、ドライバー回路353の発熱量の増大を判断する。そして、発熱量制御回路354cは、発熱用回路354bに供給するクロックCLKの周波数を下げて、発熱用回路354bの発熱量を減少させる。
【0035】
以上説明したように、本実施形態によれば、光変調素子としてのGLV352やドライバー回路353が配置されたGLV基板351に、発熱量を可変に構成された発熱用回路354bをさらに配置しているため、この発熱用回路354bにより光変調素子周囲を加熱することができる。そして、ドライバー回路353の発熱量が減少したときには、これに応じて発熱用回路354bの発熱量が増大する一方、ドライバー回路353の発熱量が増大したときには、これに応じて発熱用回路354bの発熱量が減少する(図5)。つまり、この実施形態は、ドライバー回路353の発熱量の変動傾向に対して反対の傾向で、発熱用回路354bの発熱量を増減させることで、光変調素子周囲の雰囲気温度をある程度の範囲内に維持して、当該雰囲気温度を安定させている。その結果、光変調素子周囲における光路変化を抑制して、光変調を適切に実行することが可能になっている。
【0036】
また、本実施形態は、ドライバー回路353の駆動動作を制御する駆動制御回路354aと発熱用回路354bの両方を、GLV基板351に配置された同一のFPGA354に内蔵しており、好適である。つまり、駆動制御回路354aと発熱用回路354bそれぞれを別のデバイスで構成してGLV基板351に配置するとなると、複数のデバイスそれぞれについて配置スペースを設ける必要があるうえ、各デバイスに対する配線スペースの確保等の理由からデバイス間に一定の隙間を設ける必要がある。そのため、GLV基板351の面積が大きくなって、光変調器35の大型化を招くおそれがある。一方で、FPGA354は、その内部の回路を変更して所望の回路を構成できるといった特徴を有するため、同一のFPGA354内に、駆動制御回路354aと発熱用回路354bそれぞれの機能を実現する回路を構成することができる。しかも、このように駆動制御回路354aと発熱用回路354bを同一のFPGA354に内蔵しておけば、GLV基板351に配置するデバイスの個数、ならびにデバイス間のスペースを削減できる。その結果、GLV基板351の面積を小さくして、延いては、光変調器35の小型化を図ることができる。
【0037】
また、本実施形態は、発熱量制御回路354cも駆動制御回路354aおよび発熱用回路354bと同一のFPGA354に内蔵しており、好適である。このように、駆動制御回路354a、発熱用回路354bおよび発熱量制御回路354cの各機能回路を同一のFPGA354内に集約することで、光変調器35のさらなる小型化を図ることができる。
【0038】
また、本実施形態の発熱用回路354bは、クロックCLKに同期して与えられる二値データが反転する際に消費される電力によって発熱するデジタル回路で構成されていることから、次のような利点を有する。つまり、このような発熱用回路354bは、クロックCLKの周波数を変えることで、単位時間当たりに消費される電力量を変えて、発熱用回路354bからの発熱量を調整することができる。したがって、このような発熱用回路354bは、光変調素子周囲の雰囲気温度を安定させるにあたって極めて有利であり、光変調素子周囲における光路変化を効果的に抑制して、適切な光変調の実現に大きく資するものである。
【0039】
パターン描画装置の全体構成の具体例
続いて、本発明にかかる光変調器を装備するパターン描画装置の全体構成のより具体的な形態について詳述する。図6は本発明にかかる光変調器を装備するパターン描画装置を示す斜視図である。このパターン描画装置1は、感光材料が表面に付与された半導体基板やガラス基板等の基板Wの表面に光を照射してパターンを描画する装置であり、図2を用いて説明した光変調器を用いて光変調し、その変調された光を用いてパターンを描画する。
【0040】
このパターン描画装置1では、本体フレーム(不図示)に対してカバー102が取り付けられて形成される本体内部に装置各部が配置されて本体部が構成されるとともに、本体部の外側に基板収納カセット(不図示)が配置されている。この基板収納カセットには、露光処理を受けるべき未処理基板Wが収納されており、本体内部に配置される搬送ロボット120によって本体部にローディングされる。また、未処理基板Wに対して露光処理(パターン描画処理)が施された後、当該基板Wが搬送ロボット120によって本体部からアンローディングされて基板収納カセットに戻される。
【0041】
この本体部では、図6に示すように、カバー102に囲まれた本体内部の右手端部に搬送ロボット120が配置されている。また、この搬送ロボット120の左手側には基台130が配置されている。この基台130の一方端側領域(図6の右手側領域)が、搬送ロボット120との間で基板Wの受け渡しを行う基板受渡領域となっているのに対し、他方端側領域(左手側領域)が基板Wへのパターン描画を行うパターン描画領域となっている。この基台130上では、基板受渡領域とパターン描画領域の境界位置にヘッド支持部140が設けられている。このヘッド支持部140では、基台130から上方に2本の脚部材141、142が立設されるとともに、それらの脚部材141、142の頂部を橋渡しするように梁部材143が横設されている。そして、梁部材143のパターン描画領域側側面にカメラ(不図示)が固定されてステージ5に保持された基板Wの表面を撮像可能となっている。
【0042】
このステージ5は基台130上でステージ移動機構によりX方向、Y方向ならびにθ方向に移動される。すなわち、ステージ移動機構は基台130の上面にY軸駆動部、X軸駆動部およびθ軸駆動部をこの順序で積層配置したものであり、ステージ5を水平面内で2次元的に移動させて位置決めする。また、ステージ5をθ軸(鉛直軸)回りの回転させて光学ヘッド170に対する相対角度を調整して位置決めする。なお、このようなステージ移動機構としては、従来より多用されているX−Y−θ軸移動機構を用いることができる。
【0043】
また、このように構成されたヘッド支持部140のパターン描画領域側で光学ヘッド170が上下方向に移動自在に取り付けられており、露光制御部4(図2)からの動作指令に応じてヘッド移動機構が作動することでステージ5に保持される基板Wとの距離を高精度に調整可能となっている。なお、光学ヘッド170は、図2を用いて説明した光変調器を用いて光変調し、その変調された光を用いてパターンを描画するものである。
【0044】
つまり、光学ヘッド170は上記したようにヘッド支持部140に対して上下方向Zに移動自在に取り付けられており、光学ヘッド170の直下位置で移動している基板Wに対して光を落射することでステージ5に保持された基板Wを露光してパターンを描画する。なお、本実施形態では、光学ヘッド170はX方向に複数チャンネルで光を同時に照射可能となっている。また、ステージ5をY方向に移動させることで基板Wに対してパターンを2次元的に描画することが可能となっている。
【0045】
また、基台130の反基板受渡側端部(図6の左手側端部)においても、2本の脚部材144が立設されている。そして、この梁部材143と2本の脚部材144の頂部を橋渡しするように光学ヘッド170の照明光学系を収納したボックス172が設けられており、基台130のパターン描画領域を上方から覆っている。したがって、パターン描画装置1が設置されるクリーンルーム内に供給されているダウンフローを本体内部に引き入れたとしても、パターン描画領域にダウンフローが供給されない空間SPが形成される。
【0046】
このように、図6に示すパターン描画装置は、図2に示す光変調器35を装備している。その結果、光変調素子周囲における光路変化を抑制して、光変調を適切に実行することが可能になっている。
【0047】
その他
以上のように、上記実施形態では、光変調器35が本発明の「光変調器」に相当し、GLV基板351が本発明の「基板」に相当し、GLV352が本発明の「光変調素子」に相当し、ドライバー回路353が本発明の「駆動回路」に相当し、発熱用回路354bが本発明の「発熱部」に相当し、発熱量制御回路354cが本発明の「発熱量制御部」に相当し、駆動制御回路354aが本発明の「駆動制御部」に相当している。また、光学ヘッド3が本発明の「露光装置」に相当し、レーザー発振器31が本発明の「光源部」に相当し、投影光学系37が本発明の「光学系」に相当している。
【0048】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態では、光変調素子としてGLV352を具備する光変調器35に、本発明を適用した場合について説明した。しかしながら、GLV352以外の素子を光変調素子として具備する光変調器35に対しても、本発明を適用することができる。
【0049】
また、発熱用回路354bも図3に記載した構成に限られず、その他の構成で発熱用回路354bを実現することもできる。したがって、例えば、複数のインバーターを直列に接続するとともに、同回路の入力端子を所定の周期で反転させた際に各インバーターで消費される電力によって発熱するように発熱用回路354bを構成しても良い。
【0050】
また、上記実施形態では、FPGA354の内部に駆動制御回路354a等を実現していた。しかしながら、駆動制御回路354a等を実現する構成はこれに限られず、例えば、FPGA354以外のプログラマブル・ロジック・デバイスで駆動制御回路354a等を実現するように構成することもできる。
【0051】
また、上記実施形態では、駆動制御回路354a、発熱用回路354bおよび発熱量制御回路354cを同一のプログラマブル・ロジック・デバイスに内蔵していた。しかしながら、これら各回路を別々のデバイスで構成することもできる。したがって、発熱用回路354bをFPGA354の外に設けられたディスクリートな抵抗で構成したり、発熱量制御回路354cをCPU355内に構成したりといった種々の変形が可能である。
【0052】
また、上記実施形態では、ドライバー回路353に流れる電流に基づいて、ドライバー回路353の発熱量の変化を判断していた。しかしながら、ドライバー回路353の発熱量は、ドライバー回路353が消費する電力に依存すると見ることもできる。そこで、発熱量制御回路354cは、ドライバー回路353で消費される電力の低下に基づいて、ドライバー回路353の発熱量の減少を判断し、発熱用回路354bの発熱量を増大させる一方、ドライバー回路353で消費される電力の上昇に基づいて、ドライバー回路353の発熱量の増大を判断し、発熱用回路354bの発熱量を減少させるように、光変調器35を構成しても良い。これによっても、ドライバー回路353の発熱量の減少/増大に応じて発熱用回路354bの発熱量を増大/減少させて、光変調素子周囲の雰囲気温度を安定させることができ、その結果、光変調素子周囲における光路変化を抑制して、光変調を適切に実行することができる。なお、ドライバー回路353の消費電力は、ドライバー回路353の電源ラインに挿入された電流計の値に電源電圧を乗じることで求めることができる。
【0053】
また、上記実施形態では、電流計の値を読み取ってドライバー回路353の電流/消費電力を求める機能をCPU355が担っていた。しかしながら、当該機能を発熱量制御回路354cに担わせても良い。
【0054】
また、ドライバー回路353の発熱量の変化を判断する構成も、上記のものに限られない。そこで、例えば、コンピューター8(図1)で求められたラスタデータや描画データからドライバー回路353の駆動動作状況を求め、この結果に基づいて、ドライバー回路353の発熱量の変化を判断するように構成しても良い。あるいは、ドライバー回路353に温度計を設けておき、この温度計が示す値から、ドライバー回路353の発熱量の変化を判断しても良い。
【0055】
また、上記実施形態は、ドライバー回路353の発熱量の増加/減少に応じて、発熱用回路354bの発熱量を減少/増加させる際の態様についても種々の変更が可能である。具体的には、ドライバー回路353の発熱量に対して閾値を設けておき、ドライバー回路353の発熱量が当該閾値以下になったときに、発熱用回路354bの発熱量を増大させる一方、ドライバー回路353の発熱量が当該閾値より大きくなったときに、発熱用回路354bの発熱量を減少させるといった制御を行なっても良い。
【0056】
また、本発明の適用対象も上述のものに限られず、例えば、CTP(Computer to Plate)のように、アルミプレート等を記録材料とする製版機が装備する光変調器に本発明を適用することもできる。
【符号の説明】
【0057】
1…パターン描画装置
3…光学ヘッド
35…光変調器
351…GLV基板(基板)
352…GLV(光変調素子)
353…ドライバー回路(駆動回路)
354a…駆動制御回路(駆動制御部)
354b…発熱用回路(発熱部)
354c…発熱量制御回路(発熱量制御部)
354…FPGA
355…CPU
356…コネクター
4…露光制御部
8…コンピューター
W…基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射した光を変調する光変調素子、および前記光変調素子を駆動して前記光変調素子に光変調を実行させるとともに当該駆動動作に伴ない発熱する駆動回路を、基板に配置した光変調器において、
発熱量を可変に構成されるとともに前記基板に配置された発熱部と、
前記駆動回路の発熱量の減少に応じて前記発熱部の発熱量を増大させる一方、前記駆動回路の発熱量の増大に応じて前記発熱部の発熱量を減少させる発熱量制御部と
を備えたことを特徴とする光変調器。
【請求項2】
前記駆動回路による駆動動作を制御する駆動制御部を、前記基板にさらに備えた請求項1に記載の光変調器。
【請求項3】
前記発熱部および前記駆動制御部を、前記基板に配置された同一のプログラマブル・ロジック・デバイスに内蔵した請求項2に記載の光変調器。
【請求項4】
前記発熱制御部も、前記発熱部および前記駆動制御部と同一の前記プログラマブル・ロジック・デバイスに内蔵した請求項3に記載の光変調器。
【請求項5】
前記プログラマブル・ロジック・デバイスは、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイである請求項3または4に記載の光変調器。
【請求項6】
前記発熱部は、クロックに同期して与えられる二値データが反転する際に消費される電力によって発熱するデジタル回路で構成されている請求項1ないし5のいずれか一項に記載の光変調器。
【請求項7】
前記発熱量制御部は、前記駆動回路に流れる電流あるいは前記駆動回路で消費される電力の低下に基づいて、前記駆動回路の発熱量の減少を判断し、前記発熱部の発熱量を増大させる一方、前記駆動回路に流れる電流あるいは前記駆動回路で消費される電力の上昇に基づいて、前記駆動回路の発熱量の増大を判断し、前記発熱部の発熱量を減少させる請求項1ないし6のいずれか一項に記載の光変調器。
【請求項8】
記録材料を露光する露光装置であって、
光源部と、
前記光源部からの光を変調する請求項1ないし7のいずれか一項に記載の光変調器と、
前記光変調器が変調した光を前記記録材料に導く光学系と
を備えたことを特徴とする露光装置。
【請求項9】
入射した光を変調する光変調素子、および前記光変調素子を駆動して前記光変調素子に光変調を実行させるとともに当該駆動動作に伴ない発熱する駆動回路を、基板に配置した光変調器の制御方法であって、
発熱量を可変に構成されるとともに前記基板に配置された発熱部の発熱量を、前記駆動回路の発熱量の減少に応じて増大させる一方、前記駆動回路の発熱量の増大に応じて減少させることを特徴とする光変調器の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−42703(P2012−42703A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−183669(P2010−183669)
【出願日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】