説明

光学フィルム、及びその製造方法

【課題】液晶表示装置等に用いられる偏光板用保護フィルム、位相差フィルム、視野角拡大フィルム、プラズマディスプレイに用いられる反射防止フィルム等の各種機能フィルム又有機ELディスプレイ等で使用される各種機能フィルム等にも利用することができる光学フィルムについて、光学フィルムの異物などによる液晶表示装置の表示不良を無くし、製造工程でのハンドリング性を高めながら、透明性に優れた光学フィルム、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 溶液流延製膜法または溶融押出し製膜法で製膜する光学フィルムの製造方法であって、流延から巻き取り工程までの間に、フィルム表面を、表面形状転写ロールで表面加工する工程を設ける。表面加工後の巻き取り工程で巻き取られたフィルムの表面粗さ(算術平均粗さ:Ra)が、0.5〜50.0nmであるのが好ましく、フィルムの微粒子含有量が、樹脂に対し0.02重量%以下であるのが、好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルム、及びその製造方法、さらには、偏光板、液晶表示装置(LCD)に関するものである。
【0002】
また、本発明は、特に、液晶表示装置等に用いられる偏光板用保護フィルム、位相差フィルム、視野角拡大フィルム、プラズマディスプレイに用いられる反射防止フィルムなどの各種機能フィルムまた有機ELディスプレイ等で使用される各種機能フィルム等にも利用することができる光学フィルム、及びその製造方法に関するもので、フィルムの異物などによる液晶表示装置の表示不良を無くすることができ、製造工程でのハンドリング性を高めながら、透明性に優れた光学フィルム、及びそれを用いた偏光板に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、ノートパソコンの薄型軽量化、大型画面化、高精細化の開発が進んでいる。それに伴って、液晶偏光板用の保護フィルムもますます薄膜化、広幅化、高品質化の要求が強くなってきている。偏光板用保護フィルムには、一般的にセルロースエステルフィルムが広く使用されている。セルロースエステルフィルムは、通常、巻芯に巻かれてフィルム原反となり、保存、輸送されている。
【0004】
最近の大画面化に伴って、フィルム幅が広く、長い巻長のフィルム原反が要望されている。フィルム原反幅が広く、巻長が長くなるとフィルム原反での保存性が問題となる。例えばフィルム同士がくっついてフィルムが変形してしまうハリツキ故障や、異物がフィルムの間に挟まったように凸状の変形になってしまう凸状故障などが発生し易くなる。特に、原反を広幅化して1.4m以上になると、両サイドに設けたナーリングの効果が小さくなり、原反保存性が悪化し易くなるという問題があった。
【0005】
従来は、フィルムの滑り性を確保するために微粒子を添加しており、これに関わる特許文献には、つぎのようなものがある。
【特許文献1】特開2001−114907号公報 特許文献1には、フィルム中に微粒子をセルロースエステルに対して、0.04〜0.3重量%含有するセルロースエステルフィルムが開示されている。微粒子種類としては、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化錫等の無機化合物の微粒子、及びアクリル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素化合物樹脂、ウレタン樹脂等の有機化合物の微粒子が挙げられている。
【特許文献2】特開平7−11055号公報 特許文献2には、セルローストリアセテートと、該セルローストリアセテート中に分散された表面にメチル基を有する二酸化珪素微粒子からなるセルローストリアセテートフィルム開示されている。
【特許文献3】特開平8−334607号公報 特許文献3には、微粒子がプラスチック中に分散、あるいは微粒子がプラスチック表面に付着している透明プラスチックフイルムであって、微粒子と樹脂の屈折率差を小さくして、滑り性確保のために大きい微粒子を添加し、フィルムの滑り性を確保することが開示されている。
【特許文献4】特開平10−44327号公報 特許文献4には、セルロースアセテートフイルムに、塗設によって微粒子層をフィルム表面に設けて、フィルムの滑り性を確保することが開示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献に記載の従来法では、いずれも微粒子の添加量を増加させると、セルロースエステルフィルムの異物故障が増えてしまうという問題があった。
【0007】
ところで、近年の高画質化に伴ってフィルムの異物要求レベルも厳しくなり、今までは問題にされなかった小さい異物も問題視されるようになっている。
【0008】
本発明者が検討した結果、目視で50μm程度に見える異物も電子顕微鏡などを使って解析すると、異物の核となっているものは数μm程の大きさで、異物の周辺が盛り上がっているため、目視では大きく見えていることが分った。また、核となっている異物のほとんどが、微粒子の凝集物であることも分った。そのため、微粒子の添加量を増加させて、滑り性を向上し、しかも数μm以上の微粒子の凝集物だけを除去し、異物故障を低減するという両方の特性を満足することは困難であることが分った。
【0009】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題を解決し、微粒子を添加せずに、フィルム同士の滑り性を確保し、異物故障の無い光学フィルム、及びその製造方法を提供しようとすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の点に鑑み鋭意研究を重ねた結果、製膜後のフィルム表面がまだ柔らかい工程で、表面の粗い材質で転写する工程を設けることにより、微粒子を添加せずに、フィルムの滑り性を確保することができて、上記の従来技術の問題を解決し得ることを見い出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0011】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、溶液流延製膜法または溶融押出し製膜法で製膜する光学フィルムの製造方法において、流延から巻き取り工程までの間に、フィルム表面を、表面形状転写ロールで表面加工する工程を設けることを特徴としている。
【0012】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載の光学フィルムの製造方法であって、フィルムへの転写が、転写ロールを加熱または加圧のいずれか少なくとも1つ以上の方法でなされることを特徴としている。
【0013】
請求項3記載の発明は、請求項1または2に記載の光学フィルムの製造方法であって、表面加工後の巻き取り工程で巻き取られたフィルムの表面粗さ(算術平均粗さ:Ra)が、0.5〜50.0nmであることを特徴としている。
【0014】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法であって、フィルムの微粒子含有量が、樹脂に対し0.02重量%以下であることを特徴としている。
【0015】
請求項5記載の光学フィルムの発明は、請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法により製造されたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明は、光学フィルムの製造方法において、流延から巻き取り工程までの間に、フィルム表面を、表面形状転写ロールで表面加工する工程を設けるもので、請求項1の発明によれば、微粒子を添加せずに、フィルム同士の滑り性を確保し、異物故障の無い光学フィルムを製造することができるという効果を奏する。
【0017】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載の光学フィルムの製造方法であって、フィルムへの転写が、転写ロールを加熱または加圧のいずれか少なくとも1つ以上の方法でなされるもので、請求項2の発明によれば、フィルム表面への表面形状の転写を確実に行なうことができ、微粒子を添加せずに、フィルム同士の滑り性を確保し、異物故障の無い光学フィルムを製造することができるという効果を奏する。
【0018】
請求項3記載の発明は、請求項1または2に記載の光学フィルムの製造方法であって、表面加工後の巻き取り工程で巻き取られたフィルムの表面粗さ(算術平均粗さ:Ra)が、0.5〜50.0nmであるもので、請求項3の発明によれば、光学フィルムの仕上がりフィルムの表面粗さ:Raを、この範囲に調整することにより、フィルム表面に充分な滑り性を持たせることができるばかりか、フィルムヘイズが低くなり、光学用フィルムとしては有効に使用することができるという効果を奏する。
【0019】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法であって、フィルムの微粒子含有量が、樹脂に対し0.02重量%以下であるもので、請求項4の発明によれば、フィルム中に含まれる微粒子が非常に少ないので、異物故障の無い光学フィルムを製造することができるという効果を奏する。
【0020】
請求項5記載の光学フィルムの発明は、請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法により製造されたもので、請求項5の発明によれば、フィルム中に微粒子が添加されていないので、異物故障の無い光学フィルムであり、しかもフィルム同士の滑り性を充分具備することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
つぎに、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0022】
本発明による光学フィルムの製造方法は、流延から巻き取り工程までの間に、フィルム表面を、表面形状転写ロールで表面加工する工程を設けるもので、フィルム表面が柔らかい状態で、転写により表面形状を形成するため、溶液流延製膜法でも溶融押出し製膜法でも構わない。
【0023】
溶液流延製膜法の場合は、フィルム中の残留溶媒がある程度ある範囲であれば、フィルム表面が柔らかいため加工可能である。溶融押出し製膜法であれば、フィルムに熱を加えることによりフィルム表面が柔らかくなるため、加工可能である。熱による表面加工は、溶液流延製膜法で溶媒の乾燥が終了した後でも可能である。
【0024】
また、本発明のフィルムには、種々の樹脂を用いることができるが、中でもセルロースエステル系樹脂、ノルボルネン系樹脂が好ましい。
【0025】
セルロースエステル系樹脂は、セルロース由来の水酸基がアシル基などで置換されたセルロースエステルである。例えば、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネートブチレートなどのセルロースアシレートや、脂肪族ポリエステルグラフト側鎖を有するセルロースアセテートなどが挙げられる。中でも、セルロースアセテートプロピオネート、脂肪族ポリエステルグラフト側鎖を有するセルロースアセテートが好ましい。本発明の効果を阻害しない範囲であれば、その他の置換基が含まれていてもよい。
【0026】
セルロースアセテートプロピオネートの例としては、アシル基の置換度が、2.0以上3.0以下、アセチル基の置換度が1.4以上2.4以下であることが好ましい。さらに、アシル基の置換度が、2.5以上2.8以下、アセチル基の置換度が1.5以上2.0以下であることが好ましい。置換度をこの範囲にすることで、溶融押出し製膜法による良好な成形性が得られ、かつ所望の面内方向リタデーション(Ro)、及び厚み方向リタデーション(Rt)を容易に得ることができるのである。アセチル基の置換度が、この範囲より低いと、位相差フィルムとしての耐湿熱性、特に湿熱下での寸法安定性に劣る場合があり、置換度が大きすぎると、必要なリタデーション特性が発現しなくなる場合がある。
【0027】
プロピオニル基を置換基として導入すると、セルロースエステルの可塑性が向上し、成形性が向上するのである。
【0028】
本発明に用いられるセルロースエステル系樹脂の原料のセルロースとしては、特に限定はないが、綿花リンター、木材パルプ、ケナフなどを挙げることができる。また、それらから得られたセルロースエステル系樹脂は、それぞれ任意の割合で混合使用することができる。
【0029】
本発明において、セルロースエステル系樹脂は、セルロース原料をアシル化剤が酸無水物(無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸)である場合には、酢酸のような有機酸やメチレンクロライド等の有機溶媒を用い、硫酸のようなプロトン性触媒を用いて反応される。
【0030】
アシル化剤が酸クロライド(CHCOCl、CCOCl、CCOCl)の場合には、触媒としてアミンのような塩基性化合物を用いて反応が行なわれる。具体的には、特開平10−45804号公報に記載の方法で合成することができる。
【0031】
アシル基の置換度の測定方法は、ASTM−D817−96に準じて測定することができる。
【0032】
脂肪族ポリエステルグラフト側鎖を有するセルロースアセテートとしては、乳酸を主たる繰り返し単位とする脂肪族ポリエステルグラフト側鎖を有するセルロースアセテートが挙げられる。乳酸を主たる繰り返し単位とする脂肪族ポリエステルグラフト側鎖を有するセルロースアセテートのアセチル置換度は、グルコース単位あたり2.5〜3.0であることが好ましい。アセチル置換度がこの範囲である脂肪族ポリエステルグラフト側鎖を有する熱可塑性セルロースアセテートは、可塑化効果が顕著に現われ、得られるポリマーの脆性が問題とならない。アセチル置換度が2.5未満では、セルロースアセテート内の残存水酸基による水素結合のため、側鎖に脂肪族ポリエステルをグラフトさせても可塑化効果が小さく、成形性が不良となる場合がある。アセチル置換度は、2.7〜3.0であることが好ましく、2.7〜2.9であることが最も好ましい。乳酸を主たる繰り返し単位とするポリ乳酸は、脂肪族ポリエステルの中でも特に熱的安定性が高いとの特徴を有している。
【0033】
本発明において、脂肪族ポリエステルグラフト側鎖の分子量は、1000〜10000であることが好ましい。この分子量を1000〜10000の範囲にすることで、良好な成形性が得られる。分子量は、より好ましくは2000〜9000、最も好ましくは3000〜8000である。
【0034】
本発明において、脂肪族ポリエステルグラフト側鎖を有するセルロースアセテートを得るためには、ラクチドをモノマーとしてセルロースアセテートへの開環グラフト重合を行なう方法等公知の方法によって合成できる。開環グラフト反応を行なう場合には、公知の開環重合触媒を用いることができる。例えば、錫、亜鉛、チタン、ビスマス、ジルコニウム、ゲルマニウム、アンチモン、ナトリウム、カリウム、アルミニウムなどの金属およびその誘導体が挙げられ、特に誘導体については金属有機化合物、炭酸塩、酸化物、ハロゲン化物が好ましい。具体的には、オクタン酸錫、塩化錫、塩化亜鉛、アルコキシチタン、酸化ゲルマニウム、酸化ジルコニウム、三酸化アンチモン、アルキルアルミニウムなどを例示できる。
【0035】
本発明において、セルロースエステル系樹脂の数平均分子量は、60000〜300000の範囲が、得られるフィルムの機械的強度が強く好ましい。さらに70000〜200000が好ましい。
【0036】
本発明で使用するノルボルネン系樹脂としては、例えば(1)ノルボルネン系モノマーの開環(共)重合体を、必要に応じて、マレイン酸付加、シクロペンタジエン付加のごときポリマー変性を行なった後に、水素添加した樹脂、(2)ノルボルネン系モノマーを付加型重合させた樹脂、(3)ノルボルネン系モノマーとエチレンやα−オレフィンなどのオレフィン系モノマーと付加型重合させた樹脂などを挙げることができる。重合方法および水素添加方法は、常法により行なうことができる。
【0037】
本発明において、セルロースエステル系樹脂には、種々の添加剤を配合することができる。
【0038】
本発明では、湿熱下での寸法安定性向上のために、いわゆる可塑剤を配合することが好ましい。可塑剤に湿熱下での寸法安定性改良効果があることは、これまで知られていなかった。可塑剤としては、従来公知のセルロースエステル用の可塑剤が好ましく使用できる。特に相溶性に優れたものが好ましく、例えばリン酸エステルやカルボン酸エステルが好ましい。リン酸エステルとしては、例えばトリフェニルホスフェイト、トリクレジルホスフェート、フェニルジフェニルホスフェート等を挙げることができる。カルボン酸エステルとしては、フタル酸エステル及びクエン酸エステル等、フタル酸エステルとしては、例えばジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジオクチルフタレート及びジエチルヘキシルフタレート等、またクエン酸エステルとしてはクエン酸アセチルトリエチル及びクエン酸アセチルトリブチルを挙げることができる。またその他、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバチン酸ジブチル、トリアセチン、等も挙げられる。アルキルフタリルアルキルグリコレートもこの目的で好ましく用いられる。アルキルフタリルアルキルグリコレートのアルキルは炭素原子数1〜8のアルキル基である。アルキルフタリルアルキルグリコレートとしてはメチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルプロピルグリコレート、プロピルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルメチルグリコレート、ブチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルオクチルグリコレート、エチルフタリルオクチルグリコレート、オクチルフタリルメチルグリコレート、オクチルフタリルエチルグリコレート等を挙げることができ、メチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレートが好ましく、特にエチルフタリルエチルグリコレートが好ましく用いられる。分子量の大きい可塑剤は、押し出し成形の際の揮発が抑制でき好ましい。これらの例としては、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートなどのグリコールと二塩基酸とからなる脂肪族ポリエステル類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸などのオキシカルボン酸からなる脂肪族ポリエステル類、ポリカプロラクトン、ポリプロピオラクトン、ポリバレロラクトンなどのラクトンからなる脂肪族ポリエステル類、ポリビニルピロリドンなどのビニルポリマー類などが挙げられる。上記可塑剤は、これらを単独もしくは併用して使用することができる。
【0039】
上述した可塑剤の含有量は、セルロースエステル系樹脂に対して1〜30重量%含有させることが好ましい。可塑剤をこの範囲含有させることで、セルロースエステル系樹脂フィルムの湿熱下での寸法安定性を向上することができる。
【0040】
本発明において、使用し得る紫外線吸収剤としては、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等を挙げることができるが、着色の少ないベンゾトリアゾール系化合物が好ましい。また、特開平10−182621号公報、特開平8−337574号公報記載の紫外線吸収剤、特開平6−148430号公報記載の高分子紫外線吸収剤も好ましく用いられる。紫外線吸収剤としては、偏光子や液晶の劣化防止の観点から、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れており、かつ、液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましい。
【0041】
本発明に有用な紫外線吸収剤の具体例として、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−(3″,4″,5″,6″−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、オクチル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートと2−エチルヘキシル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートの混合物等を挙げることができるが、これらに限定されない。また、市販品として、チヌビン(TINUVIN)109、チヌビン(TINUVIN)171、チヌビン(TINUVIN)326(何れもチバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を好ましく使用できる。
【0042】
ベンゾフェノン系化合物の具体例として、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニルメタン)等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0043】
これらの紫外線吸収剤の配合量は、セルロースエステル系樹脂に対して、0.01〜10重量%の範囲が好ましく、さらに0.1〜5重量%が好ましい。使用量が少なすぎると、紫外線吸収効果が不十分の場合があり、多すぎると、フィルムの透明性が劣化する場合がある。紫外線吸収剤は熱安定性の高いものが好ましい。
【0044】
セルロースエステル系樹脂のアセチル基の置換度が低いと、耐熱性が低下する場合がある。この場合、酸化防止剤を配合することが有効である。
【0045】
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系の化合物が好ましく用いられ、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N′−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト等が挙げられる。特に2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が好ましい。また例えば、N,N′−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジン等のヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト等のリン系加工安定剤を併用してもよい。
【0046】
本発明では、フィルムの滑り性を付与するために、表面加工により表面を粗くして滑り性を付与するので、従来使用していたような微粒子の添加は必要ない。ただし、従来の製法と同様のフィルム製造ラインを共用するような場合には、従来添加していた微粒子がコンタミとして混入する可能性がある。その場合でも、実質的に微粒子の添加工程を用いないため、フィルム中の微粒子の含有量は、樹脂に対し0.02重量%以下で含まれることもあるが、極微量であるため異物への影響は無い。
【0047】
本発明において、微粒子とは、フィルム中あるいははその表面に存在する平均粒径5μm未満の粒子を言い、主に無機微粒子である。これらの含有量や存在状態は、電子顕微鏡によって確認もできるし、アルカリなどでフィルムを溶解後、誘導結合プラズマ発光分光分析装置で元素分析すれば、確認できる。
【0048】
本発明の光学フィルムは、まず、セルロースエステル系樹脂、またはノルボルネン樹脂をシートに成形し、該シートを延伸配向することにより製造される。
【0049】
本発明においては、溶液流延製膜法または溶融押出し製膜法によりシートを成形する。いずれも公知の方法で製膜することができる。
【0050】
以下、溶液流延製膜法について説明する。
【0051】
図1は、本発明のドープ濾過方法に係わる溶液流延製膜方法のドープ調製工程、流延工程、乾燥工程、表面加工工程、及び巻取り工程を模式的に示すものである。
【0052】
同図を参照すると、本発明においては、まず、主ドープ溶解釜1に溶剤とセルロースエステル系樹脂を導入して混合・溶解し、セルロースエステル系樹脂溶液(ドープ)を作製する。
【0053】
その後、ドープを送液ポンプ2の作動により主濾過器3に導いて濾過する。主濾過器3では、ドープを濾材で1次濾過する。
【0054】
1次濾過後のドープは、一旦、ドープストック釜4に貯える。ついで、送液ポンプ5の作動によりドープストック釜4から1次濾過後のドープを濾過器6に導き、濾過器6においてドープを濾材で2次濾過する。
【0055】
一方、添加液溶解釜7で作成した紫外線吸収剤添加液を送液ポンプ8の作動により濾過器9に導き、濾過器9で紫外線吸収剤添加液を事前に濾過する。そして、上記2次濾過後のドープを、スタティックミキサー10に導入するとともに、スタティックミキサー10の手前において事前濾過後の紫外線吸収剤添加液を導入して、ドープに紫外線吸収剤添加液をインライン添加する。紫外線吸収剤添加液を添加後のドープは、流延ダイ102に導入し、溶液流延製膜法によりセルロースエステルフィルムを作製する。
【0056】
本発明においては、上記のようにして得られたドープを用い、以下に説明する流延工程を経てセルロースエステルフィルムを得ることができる。
【0057】
さらに、上記の図1を参照すると、101はエンドレスで走行する支持体を示す。支持体としては鏡面帯状金属が使用されている。102はセルロースエステル樹脂を溶媒に溶解したドープを、支持体1に流延するダイスを示す。103は支持体101に流延されたドープが固化したフィルムを剥離する剥離点を示し、104は剥離されたフィルムを示す。105はテンター搬送・乾燥工程を示す。
【0058】
106は、本発明による表面形状転写ロール(表面加工ロール)を示す。本発明において、光学フィルムは、製膜中のフィルム表面を加工することにより、表面粗さを規定の範囲にすることができ、フィルムの滑り性を持たせることができる。これについては、後述する。107はロール搬送・乾燥工程を示す。108は巻き取られたロール状のフィルムを示す。
【0059】
以下、上記の溶液流延製膜方法の各工程を、順に説明する。
【0060】
《流延工程》
ドープを加圧型定量ギヤポンプを通して加圧ダイに送液し、流延位置において、無限に移送する無端の金属ベルトあるいは回転する金属ドラムの流延用支持体(以下、単に支持体ということもある)上に加圧ダイからドープを流延する工程である。流延用支持体の表面は鏡面となっている。
【0061】
その他の流延する方法は流延されたドープ膜をブレードで膜厚を調節するドクターブレード法、あるいは逆回転するロールで調節するリバースロールコーターによる方法等があるが、口金部分のスリット形状を調製でき、膜厚を均一にしやすい加圧ダイが好ましい。加圧ダイには、コートハンガーダイやTダイ等があるが、いずれも好ましく用いられる。
【0062】
製膜速度を上げるために加圧ダイを流延用支持体上に2基以上設け、ドープ量を分割して重層してもよい。あるいはダイの内部をスリットで分割し、組成の異なる複数のドープ液を同時に流延(共流延とも言う)して、積層構造のセルロースエステルフィルムを得ることもできる。
【0063】
このように、得られたドープをベルトまたはドラム等の支持体上に流延し、製膜するが、本発明は特にベルトを用いた溶液流延製膜法で特に有効である。これは後述のように支持体上での乾燥条件を細かく調整することが容易だからである。
【0064】
《溶媒蒸発工程》
ウェブ(本発明においては、流延用支持体上にドープを流延し、形成されたドープ膜をウェブと呼ぶ)を流延用支持体上で加熱し溶媒を蒸発させる工程である。溶媒を蒸発させるには、ウェブ側から風を吹かせる方法及び/または支持体の裏面から液体により伝熱させる方法、輻射熱により表裏から伝熱する方法等があるが、裏面液体伝熱の方法が乾燥効率が好ましい。またそれらを組み合わせる方法も好ましい。流延後の支持体上のウェブを温度40〜100℃の雰囲気下、支持体上で乾燥させることが好ましい。温度40〜100℃の雰囲気下に維持するには、この温度の温風をウェブ上面に当てるか、赤外線等の手段により加熱することが好ましい。
【0065】
特に本発明のセルロースエステルフィルムは、流延から30〜90秒以内で該ウェブを支持体から剥離することが望ましい。ここで、30秒未満で剥離すると、フィルムの面品質が低下するだけでなく、透湿性の点でも好ましくない。90秒を越えて乾燥させると、剥離性が悪化することなどによる面品質の低下や、フィルムに強いカールが発生するため、好ましくない。
【0066】
《剥離工程》
支持体上で溶媒が蒸発したウェブを、剥離位置で支持体から剥離する工程である。剥離されたウェブは次工程に送られる。剥離する時点でのウェブの残留溶媒量(下記式)があまり大き過ぎると、剥離し難かったり、逆に支持体上で充分に乾燥させてから剥離すると、途中でウェブの一部が剥がれたりする。
【0067】
支持体上の剥離位置における温度は、好ましくは10〜40℃であり、さらに好ましくは11〜30℃である。該剥離位置におけるウェブの残留溶媒量は、25〜120重量%が好ましく、さらに好ましくは40〜100重量%である。
【0068】
本発明において、ウェブの残留溶媒量は、下記式で定義される。
【0069】
残留溶媒量=(ウェブの加熱処理前重量−ウェブの加熱処理後重量)/(ウェブの加熱処理後重量)×100%
なお、残留溶媒量を測定する際の加熱処理とは、温度115℃で、1時間の加熱処理を行なうことを表わす。
【0070】
上記のように剥離時の残留溶媒量を調整するには、流延後の流延用支持体の表面温度を制御し、ウェブからの有機溶媒の蒸発を効率的に行なえるように、流延用支持体上の剥離位置における温度を上記の温度範囲に設定することが、好ましい。支持体温度を制御するには、伝熱効率のよい伝熱方法を使用するのがよく、例えば、液体による裏面伝熱方法が、好ましい。
【0071】
輻射熱や熱風等による伝熱方法は支持体温度のコントロールが難しく、好ましい方法とはいえないが、ベルト(支持体)マシンにおいて、移送するベルトが下側に来た所の温度制御には、緩やかな風でベルト温度を調節することができる。
【0072】
支持体の温度は、加熱手段を分割することによって、部分的に支持体温度を変えることができ、流延用支持体の流延位置、乾燥部、剥離位置等異なる温度とすることができる。
【0073】
製膜速度を上げる方法(残留溶媒量ができるだけ多いうちに剥離するため、製膜速度を上げることができる)として、残留溶媒が多くとも剥離できるゲル流延法(ゲルキャスティング)がある。
【0074】
それは、ドープ中にセルロースエステルに対する貧溶媒を加えて、ドープ流延後、ゲル化する方法、支持体の温度を低めてゲル化する方法等がある。また、ドープ中に金属塩を加える方法もある。
【0075】
支持体上でゲル化させ膜を強くすることによって、剥離を早め製膜速度を上げることもできる。
【0076】

偏光板保護フィルムとして使用する場合は、製膜した後、残留溶剤量が40重量%以上であるときに該フィルムをMD方向に延伸を開始し、かつ残留溶剤量が40重量%未満であるとき、TD方向に延伸することが好ましい。残留溶剤量が40重量%以上であるときに該フィルムをMD方向に延伸し、かつ残留溶剤量が40重量%未満であるとき、TD方向に延伸するのは、剥離後のフィルムを高残留溶剤状態でMD方向とTD方向の両方に延伸してしまうと、MD方向に延伸しセルロースエステルの配向性を高めても、TD方向の延伸によってその配向性が乱れてしまい、弾性率向上の効果が低くなってしまうためである。本発明のセルロースエステルフィルムは、セルロースエステルの配向性を乱すことなく、弾性率の向上を維持できるものである。残留溶剤量が60〜120重量%であるときに該フィルムをMD方向に延伸を開始することがさらに好ましく、90〜110重量%が最も好ましい。残留溶剤量が1〜30重量%未満であるとき、TD方向に延伸することがさらに好ましく、5〜20重量%が最も好ましい。
【0077】
偏光板保護フィルムとして使用する場合のセルロースエステルフィルムの延伸倍率はMD方向とTD方向とも1.05〜1.3倍であり、1.05〜1.15倍がさらに好ましい。MD方向とTD方向延伸により面積が1.12倍〜1.44倍となっていることが、好ましく、1.15倍〜1.32倍となっていることが好ましい。これはMD方向の延伸倍率×TD方向の延伸倍率で求めることができる。MD方向の延伸倍率が1.05倍未満では弾性率向上効果が少なく、好ましくない。TD方向の延伸倍率が1.05倍未満ではRo低減効果が少なく、好ましくない。また、延伸倍率が1.3倍を超えてもヘイズも増加するため、好ましくない。
【0078】
MD方向に延伸するために、剥離張力を130N/m以上で剥離することが好ましく、特に好ましくは150〜170N/mである。剥離後のウェブも高残留溶剤状態であるため、剥離張力と同様の張力を維持することで、MD方向への延伸を行なうことができる。ウェブが乾燥し、残留溶剤量が減少するに従って、MD方向への延伸率は低下する。
【0079】
偏光板保護フィルムとして使用する場合は、セルロースエステルフィルムをMD方向に延伸する延伸ゾーンのロールスパンが1.0m以下であることが、好ましい。本発明のような分子量分布のセルロースエステルフィルムを高残留溶剤量の状態でMD方向に延伸する場合、MD方向へのツレが発生しやすく、ロールスパンが1.0m以下であると、ツレを防止することができる。また、MD方向へ延伸しているときのフィルム温度は10〜40℃が好ましく、この範囲にすることで、フィルムの平面性が良くなるからである。
【0080】
本発明のMD方向の延伸倍率は、ベルト支持体の回転速度とテンター運転速度から算出した。
【0081】
TD方向に延伸するには、例えば、特開昭62−46625号公報に示されているような乾燥全工程あるいは一部の工程を幅方向にクリップまたはピンでウェブの幅両端を幅保持しつつ乾燥させる方法(テンター方式と呼ばれる)、中でも、クリップを用いるテンター方式、ピンを用いるピンテンター方式が、好ましく用いられる。
【0082】
テンターを行なう場合の乾燥温度は、30〜150℃が好ましく、80〜150℃がさらに好ましく、100〜140℃が最も好ましい。乾燥温度の低い方が紫外線吸収剤、可塑剤などの蒸散が少なく、工程汚染に優れ、乾燥温度の高い方がフィルムの平面性、弾性率に優れる。セルロースエステルフィルムを延伸すると、異物が表面に突出しやすく、通常よりも異物故障が多く発生する。そのため、本発明は延伸するプロセスを有するセルロースエステルフィルムにおいて特に効果を発揮するものである。
【0083】
本発明による光学フィルムを位相差フィルムとして用いる場合の面内リタデーション値Roは、自動複屈折率計KOBRA−21ADH(王子計測機器株式会社製)を用いて、590nmの波長において、三次元屈折率測定を行ない、得られた屈折率Nx、Ny、Nzから算出することができる。
【0084】
面内リタデーション値Roは20〜200nmであることが好ましく、かつ厚み方向のリタデーション値Rtが70〜400nmの範囲であることが好ましい。
【0085】
Ro=(Nx−Ny)×d
Rt=((Nx+Ny)/2−Nz)×d
(式中、Nx、Ny、Nzはそれぞれ屈折率楕円体の主軸x、y、z方向の屈折率を表わし、かつ、Nx、Nyはフィルム面内方向の屈折率を、Nzはフィルムの厚み方向の屈折率を表わす。また、Nx≧Nyであり、dはフィルムの厚み(nm)を表わす。)
本発明のセルロースエステルフィルムは、遅相軸方向と製膜方向とのなす角度θ(ラジアン)と面内方向のリタデーション値Roが下記の関係にあり、特に偏光板用保護フィルム等の光学フィルムとして好ましく用いられる。
【0086】
P≦1−sin(2θ)sin(πRo/λ)
ここで、Pは0.9999以下である。
【0087】
θはフィルム面内の遅相軸方向と製膜方向(フィルムの直尺方向)とのなす角度(°ラジアン)、λは上記Nx、Ny、Nz、θを求める三次元屈折率測定の際の光の波長590nm、πは円周率である。
【0088】
《表面加工工程》
本発明による光学フィルムの製造方法は、溶液流延製膜法で製膜する光学フィルムの製造方法において、流延から巻き取り工程までの間に、フィルム表面を、表面形状転写ロールで表面加工する工程を設けることを特徴としている。
【0089】
すなわち、本発明において、光学フィルムは、製膜中のフィルム表面を加工することにより、表面粗さを規定の範囲にすることができ、フィルムの滑り性を持たせることができる。
【0090】
溶液流延製膜法では、上記の図1に示すように、フィルムの残留溶媒量が20〜85%の範囲で、表面処理を施した表面形状転写ロール106で、100〜300N/mの範囲の搬送張力で搬送することにより、形状を転写することができる。
【0091】
加工時のフィルム残留溶媒量を調整する手段としては、表面加工ロールの設置場所を変更しても良いし、フィルムの乾燥条件やドープの固形分濃度、フィルムの搬送速度等を調整しても良い。
【0092】
この時の表面形状転写ロール106の表面形状は、フィルムでは突起とするために、微細な凹み形状を加工することにより、表面形状が転写可能となる。また、上記残留溶媒範囲で表面形状転写ロール106と鏡面ロールとの間でニップして加圧してもよい。
【0093】
表面形状転写ロール106の表面形状の加工は、サンドブラスト法でも良いし、さらに手加工で微小な凹みを作成しても良い。ただし、この時の凹みの深さは0.1〜5μmが好ましく、さらには0.5〜2μmが好ましい。
【0094】
ここで、表面形状転写ロール106の表面の凹みの深さが0.1μm未満では、フィルムへの転写が不十分で、フィルム表面に充分な滑り性を持たせることができず、表面形状転写ロール106の表面の凹みの深さが5μmを越えると、表面粗さが高くなりすぎ、フィルムヘイズが高くなり、光学用フィルムとしては使用できない。この時の表面形状転写ロール106の表面粗さRaは、0.5〜5.0μmが好ましく、0.8〜3.0μmがより好ましい。
【0095】
一方、本発明による光学フィルムの仕上がりフィルムの表面粗さは、算術平均粗さ:Raで、0.5〜50.0nmが好ましい。ここで、仕上がりフィルムの表面粗さが0.5nm未満では、フィルム表面に充分な滑り性を持たせることができず、仕上がりフィルムの表面粗さが50.0nmを越えると、表面粗さが高くなりすぎ、フィルムヘイズが高くなり、光学用フィルムとしては使用できない。
【0096】
本発明による光学フィルムの仕上がりフィルムの表面粗さ:Raを、この範囲に調整する場合は、上記表面加工するフィルムの残留溶媒量、フィルムの温度、表面形状転写ロール106の表面粗さ、表面形状転写ロール106とフィルムの接触圧、接触時間を調整することで、規定の範囲にすることができる。
【0097】
《乾燥工程》
ウェブを千鳥状に配置したロールに交互に通して搬送する乾燥装置及び/またはクリップまたはピンでウェブの両端を保持して搬送するテンター装置を用いて幅保持しながら、ウェブを乾燥する工程である。乾燥工程における搬送張力も可能な範囲で低めに維持することが、リタデーション値Roが低く維持できるために好ましく、190N/m以下であることが好ましい。さらに170N/m以下であることが好ましく、さらに140N/m以下であることが好ましく、100〜130N/mであることが特に好ましい。特に、フィルム中の残留溶媒量が少なくとも5重量%以下となるまで、上記搬送張力以下に維持することが効果的である。
【0098】
乾燥の手段はウェブの両面に熱風を吹かせるのが一般的であるが、風の代わりにマイクロウェーブを当てて加熱する手段もある。あまり急激な乾燥はでき上がりのフィルムの平面性を損ねやすい。高温による乾燥は残留溶媒が8重量%以下くらいから行なうのがよい。全体を通し、乾燥温度は概ね40〜250℃で行なわれる。特に40〜160℃で乾燥させることが好ましい。
【0099】
流延用支持体面から剥離した後の乾燥工程では、溶媒の蒸発によってウェブは幅方向に収縮しようとする。高温度で急激に乾燥するほど、収縮が大きくなる。
【0100】
この収縮を可能な限り抑制しながら乾燥することが、でき上がったフィルムの平面性を良好にする上で好ましい。
【0101】
この観点から、例えば、特開昭62−46625号公報に示されているような乾燥全工程あるいは一部の工程を幅方向にクリップまたはピンでウェブの幅両端を幅保持しつつ乾燥させる方法(テンター方式と呼ばれる)、中でも、クリップを用いるテンター方式、ピンを用いるピンテンター方式が好ましく用いられる。
【0102】
このとき幅手方向の延伸倍率は0%〜100%であることが好ましく、偏光板保護フィルムとして用いる場合は5〜20%がさらに好ましく、8〜15%が最も好ましく、位相差フィルムとして用いる場合は10〜40%がさらに好ましく、20〜30%が最も好ましい。延伸倍率によってリタデーション値Roをコントロールすることが可能で、延伸倍率が高い方ができ上がったフィルムの平面性に優れるため、好ましい。本発明は、微粒子の凝集物が異物となりやすい延伸倍率の高いフィルムで特に効果を発揮するものである。
【0103】
テンターを行なう場合のウェブの残留溶媒量は、テンター開始時に20〜100重量%であるのが好ましく、かつ、ウェブの残留溶媒量が10重量%以下になるまでテンターをかけながら乾燥を行なうことが好ましく、さらに好ましくは5重量%以下である。
【0104】
テンターを行なう場合の乾燥温度は、30〜150℃が好ましく、50〜120℃がさらに好ましく、70〜100℃が最も好ましい。乾燥温度の低い方が紫外線吸収剤、可塑剤などの蒸散が少なく、工程汚染に優れ、乾燥温度の高い方がフィルムの平面性に優れる。なお、乾燥温度が高い場合でも蒸散しにくい紫外線吸収剤を使用することにより、テンター乾燥温度が高く、延伸倍率の高い製造条件のときに、その効果が顕著に発揮される。
【0105】
また、フィルムの乾燥工程においては、支持体より剥離したフィルムをさらに乾燥し、残留溶媒量を0.5重量%以下にすることが好ましく、さらに好ましくは0.1重量%以下であり、さらに好ましくは0〜0.01重量%以下とすることである。
【0106】
フィルム乾燥工程では一般にロール懸垂方式か、上記のようなピンテンター方式でフィルムを搬送しながら乾燥する方式が採られる。フィルムを乾燥させる手段は特に制限なく、一般的に熱風、赤外線、加熱ロール、マイクロ波等で行なう。簡便さの点で熱風で行なうのが好ましい。乾燥温度は40〜150℃の範囲で3〜5段階の温度に分けて、段々高くしていくことが好ましく、80〜140℃の範囲で行なうことが寸法安定性を良くするため、さらに好ましい。
【0107】
溶液流延製膜法を通しての流延直後から乾燥までの工程において、乾燥装置内の雰囲気を、空気とするのもよいが、窒素ガスや炭酸ガス、アルゴン等の不活性ガス雰囲気で行なってもよい。
【0108】
ただ、乾燥雰囲気中の蒸発溶媒の爆発限界の危険性は常に考慮されなければならないことは勿論のことである。
【0109】
《巻き取り工程》
ウェブ中の残留溶媒量が2重量%以下となってからセルロースエステルフィルムとして巻き取る工程であり、残留溶媒量を0.4重量%以下にすることにより寸法安定性の良好なフィルムを得ることができる。
【0110】
巻き取り方法は、一般に使用されているものを用いればよく、定トルク法、定テンション法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法等があり、それらを使いわければよい。
【0111】
膜厚の調節には、所望の厚さになるように、ドープ濃度、ポンプの送液量、ダイの口金のスリット間隙、ダイの押し出し圧力、流延用支持体の速度等をコントロールするのがよい。
【0112】
また、膜厚を均一にする手段として、膜厚検出手段を用いて、プログラムされたフィードバック情報を上記各装置にフィードバックさせて調節するのが、好ましい。
【0113】
セルロースエステルフィルムの膜厚は、使用目的によって異なるが、仕上がりフィルムとして、通常5〜500μmの範囲にあり、さらに10〜250μmの範囲が好ましく、特に液晶画像表示装置用フィルムとしては10〜120μmの範囲が用いられる。本発明のセルロースエステルフィルムは特に、10〜60μmの膜厚の薄いフィルムの範囲でより効果を発揮する。
【0114】
本発明のセルロースエステルフィルムは抗張力がMD方向、TD方向共に90〜170N/mmであることが好ましく、特に120〜160N/mmであることが好ましい。
【0115】
含水率としては0.1〜5%が好ましく、0.3〜4%がより好ましく、0.5〜2%であることがさらに好ましい。
【0116】
本発明のセルロースエステルフィルムは、透過率が90%以上であることが望ましく、さらに好ましくは92%以上であり、さらに好ましくは93%以上である。また、ヘイズは0.5%以下であることが好ましく、特に0.1%以下であることが好ましく、0%であることがさらに好ましい。
【0117】
本発明のセルロースエステルフィルムにおいては、カール値は絶対値が小さい方が好ましく、変形方向は、+方向でも、−方向でもよい。カール値の絶対値は30以下であることが好ましく、さらに好ましくは20以下であり、10以下であることが特に好ましい。なお、カール値は、曲率半径(1/m)で表わされる。
【0118】
本発明においては、上述したいずれの溶液流延製膜法による形態でセルロースエステルフィルムを製造しても構わない。
【0119】
上記のように、本発明による光学フィルムの製造方法は、流延から巻き取り工程までの間に、フィルム表面を、表面形状転写ロールで表面加工する工程を設けるもので、フィルム表面が柔らかい状態で、転写により表面形状を形成するため、溶融押出し製膜法でも構わない。
【0120】
ここで、溶融押出し製膜法としては、図示は省略したが、Tダイを用いた方法やインフレーション法などの溶融押し出し法、カレンダー法、熱プレス法、射出成形法などがある。中でも、厚さムラが小さく、50〜500μm程度の厚さに加工しやすく、かつ、リタデーションの絶対値およびそのバラツキを小さくできるTダイを用いた溶融押し出し法が好ましい。
【0121】
溶融押出し製膜法の条件は、他の熱可塑性樹脂に用いられる条件と同様にして成形できる。例えば、乾燥したセルロースエステル系樹脂、及びノルボルネン樹脂を1軸や2軸タイプの押し出し機を用いて、押し出し温度200〜300℃程度で溶融し、リーフディスクタイプのフィルターなどでろ過し異物を除去した後、Tダイからシート状に流延し、冷却ドラム上で固化させる。
【0122】
供給ホッパーから押し出し機へ導入する際は、減圧下や不活性ガス雰囲気下にして酸化分解等を防止することが好ましい。冷却ドラムの温度は、セルロースエステル系樹脂のガラス転移温度(Tg)以下が好ましい。冷却ドラムへ樹脂を密着させるために、静電印加により密着させる方法、風圧により密着させる方法、全幅あるいは端部をニップして密着させる方法、減圧で密着させる方法などを用いることが好ましい。また、ダイライン等の表面の欠陥を小さくするためには、押し出し機からダイまでの配管には滞留部が極力少なくなるような構造にすることが好ましい。ダイの内部やリップにキズ等が極力無いものを用いることが好ましい。ダイ周辺に樹脂から揮発成分が析出しダイラインの原因となる場合があるので、揮発成分を含んだ雰囲気は吸引することが好ましい。また、静電印加等の装置にも析出する場合があるので、交流を印加したり、他の加熱手段で析出を防止することが好ましい。
【0123】
酸化防止剤、可塑剤などの添加剤は、あらかじめ樹脂と混合しておいてもよいし、押し出し機の途中で練り込んでもよい。均一に添加するために、スタチックミキサーなどの混合装置を用いることが好ましい。
【0124】
シートの厚さは特に制限はなく、延伸後に所望の厚さになるように設定すればよく、50〜500μmが好ましい。もちろん厚さムラは小さいほど好ましく、全面において±5%以内、好ましくは±3%以内、より好ましくは±1%以内である。
【0125】
このような溶融押出し製膜法で成形されたセルロースエステル系樹脂シートは、溶液流延製膜法で成形されたセルロースエステル系樹脂シートと異なり、厚み方向リタデーション(Rt)が小さいとの特徴があり、このようなセルロースエステル系樹脂シートを延伸することにより面内方向リタデーション(Ro)を発現し易く、延伸倍率を大きくする必要がないので、白濁のない透明性に優れたセルロースエステル系樹脂フィルムが得られるのである。
【0126】
ついで、得られたシートを一軸方向に延伸する。延伸により分子が配向される。延伸する方法は、特に制限はないが、公知のピンテンターやクリップ式のテンターなどを好ましく用いることができる。延伸方向は長さ方向でも幅手方向でも任意の方向(斜め方向)でも可能であるが、本発明では延伸方向を幅手方向とすることで偏光フィルムとの積層がロール形態でできるので好ましい。幅手方向に延伸することでセルロースエステル系樹脂フィルムの遅相軸は幅手方向になる。一方、偏光フィルムの透過軸も通常幅手方向である。偏光フィルムの透過軸とセルロースエステル系樹脂フィルムの遅相軸とが平行になるように積層した偏光板を液晶表示装置に組み込むことで、良好な視野角が得られるのである。
【0127】
延伸条件は、所望のリタデーション特性が得られるように温度、倍率を選ぶことができる。通常、延伸倍率は1.1〜2.0倍、好ましくは1.2〜1.5倍であり、延伸温度は、通常、シートを構成する樹脂のTg〜Tg+50℃、好ましくはTg〜Tg+40℃の温度範囲で行なわれる。延伸倍率が小さすぎると所望のリタデーションが得られない場合があり、大きすぎると破断してしまう場合がある。延伸温度が低すぎると、破断し、高すぎると、所望のリタデーションが得られない場合がある。
【0128】
上記の方法で作製した光学フィルムのリタデーションを合目的の値に修正する場合、フィルムを長さ方向や幅手方向に延伸または収縮させてもよい。長さ方向に収縮するには、例えば、幅延伸を一時クリップアウトさせて長さ方向に弛緩させる、または横延伸機の隣り合うクリップの間隔を徐々に狭くすることによりフィルムを収縮させるという方法がある。後者の方法は一般の同時二軸延伸機を用いて、縦方向の隣り合うクリップの間隔を、例えばパンタグラフ方式やリニアドライブ方式でクリップ部分を駆動して滑らかに徐々に狭くする方法によって行なうことができる。なお、フィルム両端部のクリップの把持部分は、通常、フィルムが変形しており、製品として使用できないので、切除されて、原料として再利用される。
【0129】
光学フィルムの膜厚は、使用目的によって異なるが、仕上がりのフィルムとして、本発明において使用される膜厚範囲は30〜200μmで、最近の薄手傾向にとっては40〜120μmの範囲が好ましく、特に40〜100μmの範囲が好ましい。膜厚は、所望の厚さになるように、押し出し流量、ダイスの口金のスリット間隙、冷却ドラムの速度等をコントロールすることで調整できる。また、膜厚を均一にする手段として、膜厚検出手段を用いて、プログラムされたフィードバック情報を上記各装置にフィードバックさせて調節するのが好ましい。
【0130】
本発明において、光学フィルムは、製膜中のフィルム表面を加工することにより、表面粗さを規定の範囲にすることができ、フィルムの滑り性を持たせることができる。
【0131】
溶融押出し製膜法では、フィルム温度がガラス転移温度(Tg)以上、具体的にはTg〜Tg+80℃の範囲で加工することにより、表面形状を転写することができる。
【0132】
上記の溶液流延製膜法の場合と同様に、ロール表面形状の加工は、サンドブラスト法でも良いし、さらに手加工で微小な凹みを作成しても良い。ただし、この時の凹みの深さは0.1〜5μmが好ましく、さらには0.5〜2μmが好ましい。
【0133】
ここで、ロール表面の凹みの深さが0.1未満では、フィルムへの転写が不十分で、フィルム表面に充分な滑り性を持たせることができず、ロール表面の凹みの深さが5μmを越えると、表面粗さが高くなりすぎ、フィルムヘイズが高くなり、光学用フィルムとしては使用できない。
【0134】
この時のロール表面の表面粗さRaは、0.5〜5.0μmが好ましく、0.8〜3.0μmがより好ましい。仕上がりのフィルムの表面粗さは、算術平均粗さ:Raで、0.5〜50.0nmが好ましいが、この範囲に調整する場合は、上記表面加工するフィルムの残留溶媒量、フィルムの温度、加工ロールの表面粗さ、加工ロールとフィルムの接触圧、接触時間を調整することで、規定の範囲にすることができる。
【0135】
本発明のセルロースエステルフィルムは、良好な透湿性、寸法安定性等から液晶表示用部材、詳しくは偏光板用保護フィルムに用いられるのが好ましい。特に、透湿度と寸法安定性に対して共に厳しい要求のある偏光板用保護フィルムにおいて、本発明のセルロースエステルフィルムは好ましく用いられる。
【0136】
ところで、偏光フィルムは、従来から使用されている、例えば、ポリビニルアルコールフィルムの如きの延伸配向可能なフィルムを、沃素のような二色性染料で処理して縦延伸したものである。偏光フィルム自身では、十分な強度、耐久性がないので、一般的にはその両面に保護フィルムとしての異方性のないセルローストリアセテートフィルムを接着して偏光板としている。
【0137】
本発明の偏光板は、上記偏光板に、本発明の位相差フィルムを貼り合わせて作製してもよいし、また本発明の位相差フィルムを保護フィルムも兼ねて、直接偏光フィルムと貼り合わせて作製してもよい。貼り合わせる方法は、特に限定はないが、水溶性ポリマーの水溶液からなる接着剤により行なうことができる。この水溶性ポリマー接着剤は完全鹸化型のポリビニルアルコール水溶液が好ましく用いられる。さらに、若干前述したが、長手方向に延伸し、二色性染料処理した長尺の偏光フィルムと長尺の本発明の位相差フィルムとを貼り合わせることによって長尺の偏光板を得ることができる。偏光板はその片面または両面に感圧性接着剤層(例えば、アクリル系感圧性接着剤層など)を介して剥離性シートを積層した貼着型のもの(剥離性シートを剥すことにより、液晶セルなどに容易に貼着することができる)としてもよい。
【0138】
このようにして得られた本発明の偏光板は、種々の表示装置に使用できる。特に電圧無印加時に液晶性分子が実質的に垂直配向しているVAモードや、電圧無印加時に液晶性分子が実質的に水平かつねじれ配向しているTNモードの液晶セルを用いた液晶表示装置が好ましい。
【0139】
本発明に係る偏光板は、一般的な方法で作製することができる。例えば、光学フィルムあるいはセルロースエステルフィルムをアルカリケン化処理し、ポリビニルアルコールフィルムをヨウ素溶液中に浸漬、延伸して作製した偏光膜の両面に、完全ケン化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせる方法がある。アルカリケン化処理とは、水系接着剤の濡れを良くし、接着性を向上させるために、セルロースエステルフィルムを高温の強アルカリ液中に漬ける処理のことをいう。
【0140】
本発明のセルロースエステルフィルムには、ハードコート層、防眩層、反射防止層、防汚層、帯電防止層、導電層、光学異方層、液晶層、配向層、粘着層、接着層、下引き層等の各種機能層を付与することができる。これらの機能層は塗布あるいは蒸着、スパッタ、プラズマCVD、大気圧プラズマ処理等の方法で設けることができる。
【0141】
このようにして得られた偏光板が、液晶セルの片面または両面に設けられ、これを用いて、本発明の液晶表示装置が得られる。
【0142】
本発明のセルロースエステルフィルムからなる偏光板用保護フィルムを用いることにより、薄膜化とともに、耐久性及び寸法安定性、光学的等方性に優れた偏光板を提供することができる。さらに、本発明の偏光板あるいは位相差フィルムを用いた液晶表示装置は、長期間に亘って安定した表示性能を維持することができる。
【0143】
本発明のセルロースエステルフィルムは反射防止用フィルムあるいは光学補償フィルムの基材としても使用できる。
【実施例】
【0144】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0145】
実施例1
(溶液流延製膜法による光学フィルムの製造)
溶液流延製膜法により目標ドライ膜厚40μmの本発明のセルロースアセテートプロピオネートフィルムを製造するにあたり、まずドープを調製した。
【0146】
(ドープ組成)
セルロースアセテートプロピオネート 100重量部
(アセチル基置換度1.9、プロピオニル基置換度0.8、
Mn=70000、Mw=220000、Mw/Mn=3.14)
トリフェニルフォスフェート 8重量部
エチルフタリルエチルグリコレート 2重量部
チヌビン109(チバスペシャルティケミカルズ株式会社製) 0.5重量部
チヌビン171(チバスペシャルティケミカルズ株式会社製) 0.5重量部
メチレンクロライド 300重量部
エタノール 60重量部
図1を参照すると、本発明においては、上記の材料を密閉したドープ溶解釜1に投入し、加熱し、撹拌しながら、完全に溶解した。なお、上記材料のうち、紫外線吸収剤は、後述する紫外線吸収剤添加液の作製のために添加液溶解釜7の方に投入した。
【0147】
その後、溶解釜1中のドープを送液ポンプ2の作動により主濾過器3に導き、ドープを1次濾過する。なお、主濾過器3では、ドープ液を日本精線株式会社製のファインメットNFで濾過した。
【0148】
1次濾過後のドープは、一旦、ドープストック釜4に貯える。ついで、送液ポンプ5の作動によりドープストック釜4から1次濾過後のドープを、金属焼結フィルターをセットした濾過器6に導き、濾過器6においてドープを2次濾過した。
【0149】
一方、添加液溶解釜7で作成した紫外線吸収剤添加液を送液ポンプ8の作動により濾過器9に導き、濾過器9で紫外線吸収剤添加液を事前に濾過する。そして、上記2次濾過後のドープを、スタティックミキサー10に導入するとともに、スタティックミキサー10の手前において事前濾過後の紫外線吸収剤添加液を導入して、ドープに紫外線吸収剤添加液をインライン添加する。
【0150】
紫外線吸収剤添加液を添加後のドープは、ベルト流延装置の流延ダイ102に導入し、溶液流延製膜法によりセルロースアセテートプロピオネートフィルムを作製する。
【0151】
すなわち、上記のようにして調整したセルロースアセテートプロピオネートのドープを、温度30℃でステンレスバンド支持体101上に均一に流延した。ステンレスバンド支持体101で、残留溶剤量が100重量%になるまで溶媒を蒸発させ、剥離ロール103によって、剥離張力162N/mでステンレスバンド支持体101上から剥離した。剥離したセルロースアセテートプロピオネートのウェブを35℃で溶媒を蒸発させ、1650mm幅にスリットし、その後、テンター105で幅方向に1.1倍に延伸しながら、135℃の乾燥温度で、乾燥させた。
【0152】
本発明において、表面形状転写ロール106は、通常の搬送用ロールと置き換える形でフィルムの両面に当たるよう2本設置し、設置した場所でのフィルムの残留溶媒量は65%であった。表面形状転写ロール106のロール表面粗さは、Ra=1.2μmのものを用い、そこでの搬送張力は180N/mであった。
【0153】
その後、110℃、120℃の乾燥ゾーンを多数のロールで搬送させながら乾燥を終了させ、1430mm幅にスリットし、フィルム両端に幅10mm、高さ5μmのナーリング加工を施し、初期張力220N/m、終張力110N/mで内径6インチコアに巻き取り、セルロースアセテートプロピオネートフィルム試料を得た。
【0154】
実施例2〜4
上記実施例1の場合と同様にして、本発明によるセルロースアセテートプロピオネートフィルムを作製するが、表面形状転写ロールとして、表1に示すように、実施例1の場合と異なりかつ本発明の範囲内であるロール表面粗さ:Raを有するロールを設置した。
【0155】
比較例1
比較のために、実施例1の場合と同様に実施するが、流延から巻き取り工程までの間に、フィルム表面を加工する表面形状転写ロールを設けなかった。また、セルロースアセテートプロピオネートフィルムのドープ成分に、二酸化珪素微粒子であるアエロジル200V(日本アエロジル株式会社製)を2重量部添加した。その他の点は、上記実施例1の場合と同様にして、セルロースアセテートプロピオネートフィルムを作製した。
【0156】
本発明の実施例1〜4及び比較例1で作製したセルロースアセテートプロピオネートフィルム試料を、下記に示す測定方法に従って評価した。得られた結果を下記の表1に示した。
【0157】
(表面形状転写ロールの表面粗さ:Ra)
本発明の実施例1〜4で作製したドープを、表面加工ロールの表面側に付着させ、乾燥させて、表面加工ロールの表面形状を転写させたテスト用フィルムを作製し、テスト用フィルム面の表面粗さ:Raを、ZYGO社製 New View5010を用いて、下記の製膜後のフィルムの場合と同じ測定条件にて測定した。
【0158】
(巻取り後のフィルムの表面粗さ:Ra)
製膜して巻き取られたフィルムをサンプリングし、任意の場所10カ所をZYGO社製 New View5010を用いて、下記測定条件にて測定し、10カ所測定したデータの平均値を用いた。
【0159】
測定条件
対物レンズ:50倍
中間レンズズーム:1倍
カメラ解像度:320×240 30Hz
Scan length:5μm(5sec)
最小変調許容値(min mod):7%
(フィルム中の微粒子含有量)
2600m巻きの最終部分のフィルムをサンプリングし、試料0.5gをアルカリ溶融後50ml水溶液に調液し、ICP−AES(誘導結合プラズマ発光分光分析装置)によりSiの定量分析を行なった。使用した装置はセイコー電子工業社製のSPS−4000である。
【0160】
(透明性の評価)
JIS−K6714によりフィルムヘイズを、フィルムの3枚重ねで測定し、その1枚当たりの平均値を算出して、透明性の評価とした。光学フィルムの実用性からフィルムヘイズは、1.5%以下であることが好ましい。
【0161】
(動摩擦係数)
フィルム表面と裏面間の動摩擦係数は、JIS−K−7125(1987)に準じ、フィルムの表裏面が接触するように切り出し、200gのおもりを載せ、サンプル移動速度100mm/分、接触面積80mm×200mmの条件で重りを水平引っ張り、重りが移動中の平均荷重(F)を測定し、下記式より動摩擦係数(μ)を求めた。
【0162】
動摩擦係数=F(gf)/おもりの重さ(gf)
(フィルム異物の評価)
ベルト流延装置の巻き取り部の直前にオンライン欠陥検査機を設置し、セルロースアセテートプロピオネート原反フィルム10本分を検査し、平均してセルロースアセテートプロピオネートフィルム100mあたりの20μm以上の異物故障数を算出した。
【表1】

【0163】
上記表1の結果から明らかなように、本発明の実施例1〜4によれば、微粒子を添加せずに、動摩擦係数が小さくて、フィルム同士の滑り性を確保し、なおかつ異物故障の非常に少ない光学フィルムとしてのセルロースアセテートプロピオネートフィルムを製造することができた。
【0164】
これに対し、比較例1のセルロースアセテートプロピオネートフィルムでは、微粒子を添加しており、動摩擦係数が大きくて、フィルム同士の滑り性が不良であり、しかも異物故障が非常に多いために、偏光板用保護フィルム等の光学フィルムとしては、使用することができないものであった。
【0165】
実施例5
(溶融押出し製膜法による光学フィルムの製造)
溶融押出し製膜法により目標ドライ膜厚80μmの本発明の光学フィルムとしてのセルロースアセテートプロピオネートフィルムを製造した。
【0166】
セルロースアセテートプロピオネート 100重量部
(60℃で24時間真空乾燥済みのアセチル基置換度1.9、
プロピオニル基置換度0.7、Mn=75,000)
トリフェニルフォスフェイト 10重量部
エチルフタリルエチルグリコレート 2重量部
チヌビン109(チバスペシャルティケミカルズ株式会社製) 0.5重量部
チヌビン171(チバスペシャルティケミカルズ株式会社製) 0.5重量部
チヌビン326(チバスペシャルティケミカルズ株式会社製) 0.3重量部
2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾールペンタエリスリチル
−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキ
シフェニル)プロピオネート〕 0.01重量部
上記材料の混合物を2軸式押し出し機を用いて250℃で溶融混合し、日本精線社製ファインメットNF(公称濾過精度は15μm)で濾過した後、ペレット化した。このペレットを用いて日本精線社製ファインメットNF(公称濾過精度は20μm)で2回目の濾過した後、上記同様Tダイから、シート状に30℃の冷却ドラム上に溶融温度250℃で溶融押し出しし、冷却固化させてセルロースアセテートプロピオネート樹脂シートを得た。
【0167】
得られた樹脂シートを、テンターを用いて幅手方向に160℃で1.5倍幅手方向に延伸した。ついで、テンタークリップに把持したまま30℃まで冷却し、その後クリップから開放し、表面粗さRa1.2μmの表面形状転写ロールを180℃に熱し、鏡面ロールとの間で、線圧200kg/cmでニップして、フィルム表面形状をフィルム両面に加工した。また、フィルムの幅方向両端に温度280℃押し圧0.05MPaでナーリング加工を施し、膜厚100μmの位相差フィルムとしてのセルロースアセテートプロピオネート樹脂フィルムを得た。
【0168】
実施例6
上記実施例5の場合と同様にして、本発明によるセルロースアセテートプロピオネートフィルムを作製するが、表面形状転写ロールとして、表2に示すように、実施例1の場合と異なりかつ本発明の範囲内であるロール表面粗さ:Raを有するロールを設置した。
【0169】
比較例2
比較のために、実施例5の場合と同様に実施するが、流延から巻き取り工程までの間に、フィルム表面を加工する表面形状転写ロールを設けなかった。また、セルロースアセテートプロピオネートフィルムのドープ成分に、二酸化珪素微粒子であるアエロジル200V(日本アエロジル株式会社製)を2重量部添加した。その他の点は、上記実施例5の場合と同様にして、セルロースアセテートプロピオネートフィルムを作製した。
【0170】
(※比較例は、違いのみ記載し、簡単に作成した方が好ましいと思われます)

実施例7
上記実施例6の場合と同様にして、本発明による樹脂フィルムを作製するが、樹脂の種類を、ノルボルネン系樹脂としてゼオノア1420(日本ゼオン社製)を使用した。なお、表面形状転写ロールとしては、表2に示すように、実施例6の場合と同様の本発明の範囲内であるロール表面粗さ:Raを有するロールを設置した。
【0171】
上記の実施例5〜7及び比較例2で得られた樹脂フィルムについて、上記実施1の場合と同様に、上記測定方法に従って評価した。得られた結果を表2に示した。
【表2】

【0172】
上記表2の結果から明らかなように、本発明の実施例5〜7によれば、微粒子を添加せずに、動摩擦係数が小さくて、フィルム同士の滑り性を確保し、なおかつ異物故障の非常に少ない光学フィルムとしてのセルロースアセテートプロピオネートフィルム、及びノルボルネン系樹脂フィルムを製造することができた。
【0173】
これに対し、比較例2のセルロースアセテートプロピオネートフィルムでは、微粒子を添加しており、動摩擦係数が大きくて、フィルム同士の滑り性が不良であり、しかも異物故障が非常に多いために、偏光板用保護フィルム等の光学フィルムとしては、使用することができないものであった。
【図面の簡単な説明】
【0174】
【図1】本発明の光学フィルムの製造方法を実施する溶液流延製膜装置の概略フローシートである。
【符号の説明】
【0175】
1:主ドープ仕込み釜
2:送液ポンプ
3:主濾過器
4:ドープストック釜
5:送液ポンプ
6:濾過器
7:添加剤溶解釜
8:送液ポンプ
9:濾過器
10:スタティックミキサー
101:ステンレスバンド支持体(金属支持体)
102:流延ダイ
103:剥離ロール
104:フィルム
105:テンター・乾燥装置
106:フィルム表面加工用転写ロール
107:ロール搬送・乾燥装置
108:巻き取り機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液流延製膜法または溶融押出し製膜法で製膜する光学フィルムの製造方法において、流延から巻き取り工程までの間に、フィルム表面を、表面形状転写ロールで表面加工する工程を設けることを特徴とする、光学フィルムの製造方法。
【請求項2】
フィルムへの転写が、転写ロールを加熱または加圧のいずれか少なくとも1つ以上の方法でなされることを特徴とする、請求項1に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項3】
表面加工後の巻き取り工程で巻き取られたフィルムの表面粗さ(算術平均粗さ:Ra)が、0.5〜50.0nmであることを特徴とする、請求項1または2に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項4】
フィルムの微粒子含有量が、樹脂に対し0.02重量%以下であることを特徴とする、請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法により製造されたことを特徴とする、光学フィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2006−240228(P2006−240228A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−62295(P2005−62295)
【出願日】平成17年3月7日(2005.3.7)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】