説明

光学フィルム、及びその製造方法

【課題】 光学フィルムの製造の高速化に伴い、フィルムをロール状に巻き取った後のエンボス部高さを確保する。光学フィルムの生産における高速化+長尺化に確実に対応する。フィルムの高品質化を果たし、近年の偏光板用保護フィルム等の薄膜化、広幅化、及び高品質化の要求に応え得る、光学フィルム、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 溶液流延製膜法または溶融流延製膜法によるロール状光学フィルムの製造方法は、ナーリング加工の処理温度をT(℃)、ベースフィルムのガラス転移温度をTg(℃)、ベースフィルムがエンボスリングに接している時間をs(秒)としたときに、下記の関係式を満たす条件でナーリング加工を行ない、ロール状光学フィルムを製造する。
0.75≦(T−Tg)×s≦1.00

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置(LCD)に用いられる偏光板用保護フィルム、位相差フィルム、視野角拡大フィルム、プラズマディスプレイに用いられる反射防止フィルムなどの各種機能フィルム等にも利用することができる光学フィルム、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置用光学フィルムは、液晶表示装置の大型化と普及により、年々生産量が増大しており、それに対応すべく、フィルムの生産速度の向上やフィルム幅の拡大が、検討実施されている。
【0003】
このような光学フィルムの生産性向上に伴い、製膜プロセスは、高速化に向かい、それに応じて巻取り工程でのフィルムの巻き長も、長尺化する傾向にある。一般に、光学フィルムは、 巻取り機により巻き取る前に、製品となる幅に端部をスリットして裁ち落とし、フィルムロール巻き中の貼り付きやすり傷防止のために、ナール加工(エンボッシング加工)をフィルム幅手方向の両端部に施すものであるが、近年の光学フィルムの生産における高速化+長尺化により、巻取りロール形状でのエンボスの役割は益々重要になってきている。
【0004】
光学フィルムの製造工程において、ロール状の巻き形状を確保するためには、エンボス部高さ(実効ナール=フィルムをロール状に巻き取った後のエンボス部高さ)を、ある程度確保する必要があるが、高速化に伴い、エンボス部の高さが出にくくなっているのが、現状である。。
【0005】
その対応策として、例えばエンボス加工温度を高くしたり、押し圧を高<することで、対応できるが、エンボス加工温度があまり高すぎると、フィルムのエンボス部周辺に、樹脂が溶解した糸状の異物(ヒゲ状異物)が多数発生したり、エンボス加工での押し圧が高すぎると、フィルムのエンボス部に穴あきが生じたりして、好ましくないという問題があった。
【0006】
ここで、光学フィルムの製造方法においてナーリング加工(エンボス加工)に関するものには、つぎのような特許文献がある。
【特許文献1】特開平8−272040号公報 特許文献1に記載の写真用支持体の製造では、2軸延伸ポリエステルのエンボス加工の処理温度を、Tm−100℃+50℃としている。ここで、Tmは、2軸延伸ポリエステルの融点である。この特許文献1では、2軸延伸ポリエステルの熱処理後のエンボス残存率を規定しているものである。
【特許文献2】特開平9−24588号公報 特許文献2に記載の易エンボス加工性フィルムの製造では、ポリエステルフィルムを積層し、エンボス加工側のポリエステルの融点を低<することで、エンボスを付きやすくしている。
【特許文献3】特開2002−187148号公報 特許文献3に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法では、ナーリング加工によるエンボス部の搬送方向(長手方向)の高さの差(バラツキ)を小さくすることで、フィルムを良好に巻き取ることができることが記載されているが、ナーリング加工(エンボス加工)の温度は、150℃以上が好ましい、と記載されているだけである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の従来法では、光学フィルムの製造の高速化に伴い、ナーリング加工によるエンボス部の高さが出にくいために、フィルムをロール状に巻き取った後のエンボス部高さを確保することができず、光学フィルムの生産における高速化+長尺化に充分に対応することができないという問題があった。
【0008】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題を解決し、光学フィルムの製造の高速化に伴い、フィルムをロール状に巻き取った後のエンボス部高さを確保することができて、光学フィルムの生産における高速化+長尺化に確実に対応することができ、しかも得られた光学フィルムのエンボス部周辺に、樹脂が溶解した糸状の異物(ヒゲ状異物)の発生が少なく、またエンボス加工でエンボス部に穴あきが生じたりすることなく、フィルムの高品質化を果たし得、ひいては近年の偏光板用保護フィルム等の薄膜化、広幅化、及び高品質化の要求に充分に応えることができる、光学フィルム、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、溶液流延製膜法または溶融流延製膜法で得られた光学フィルムの幅手方向の端部をスリットし、製品幅に合わせてベースフィルムを形成した後、該ベースフィルムの幅手方向の端郎にナーリング加工を施してエンボス部を形成し、巻き取ることによってロール状の光学フィルムを製造する方法であって、ナーリング加工の処理温度をT(℃)、ベースフィルムのガラス転移温度をTg(℃)、ベースフィルムがエンボスリングに接している時間をs(秒)としたときに、下記の関係式を満たす条件でナーリング加工を行ない、ロール状の光学フィルムを製造することを特徴としている。
【0010】
0.75≦(T−Tg)×s≦1.00
請求項2の発明は、請求項1に記載の光学フィルムの製造方法であって、ナーリング加工の際に、エンボス刻印ロールのフィルム排出側に10〜20℃の冷風を当てることを特徴としている。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載の光学フィルムの製造方法により製造された光学フィルムであって、ロール状の光学フィルムの下記式で定義される実効ナールが2.5〜7.0μmであることを特徴としている。
【0012】
実効ナール=(エンボス部ロール断面積−コア断面積)/巻き長さ−平均膜厚
請求項4の発明は、請求項1または2に記載の光学フィルムの製造方法により製造された光学フィルムであって、ロール状の光学フィルムのエンボス部周囲に付着しているヒゲ状異物の個数が、0〜50個/cm であることを特徴としている。
【0013】
ヒゲ状異物の個数は、好ましくは0〜20個/cm 、より好ましくは0〜10個/cm である。
【0014】
請求項5の発明は、請求項1または2に記載の光学フィルムの製造方法により製造された光学フィルムであって、ロール状フィルムの巻き長が、3900m以上、9100m以下であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明は、溶液流延製膜法または溶融流延製膜法で得られた光学フィルムの幅手方向の端部をスリットし、製品幅に合わせてベースフィルムを形成した後、該ベースフィルムの幅手方向の端郎にナーリング加工を施してエンボス部を形成し、巻き取ることによってロール状の光学フィルムを製造する方法であって、ナーリング加工の処理温度をT(℃)、ベースフィルムのガラス転移温度をTg(℃)、ベースフィルムがエンボスリングに接している時間をs(秒)としたときに、下記の関係式を満たす条件でナーリング加工を行ない、ロール状の光学フィルムを製造するものである。
【0016】
0.75≦(T−Tg)×s≦1.00
請求項1の発明によれば、光学フィルムの製造の高速化に伴い、フィルムをロール状に巻き取った後のエンボス部高さを充分確保することができて、光学フィルムの生産における高速化+長尺化に確実に対応することができ、しかも得られた光学フィルムのエンボス部周辺に、樹脂が溶解した糸状の異物(ヒゲ状異物)の発生が少なく、またエンボス加工でフィルムのエンボス部に穴あきが生じたりすることなく、高品質化を果たし得、ひいては近年の偏光板用保護フィルム等の薄膜化、広幅化、及び高品質化の要求に充分に応えることができるという効果を奏する。
【0017】
請求項2の発明は、請求項1に記載の光学フィルムの製造方法であって、ナーリング加工の際に、エンボス刻印ロールのフィルム排出側に10〜20℃の冷風を当てるもので、請求項2の発明によれば、エンボス加工直後にフィルムとリング部を冷却することにより熱で溶けた樹脂部分が冷却固化するため、糸状の異物(ヒゲ状異物)の発生を抑えられ、充分に高いエンボス高さを得ることができるという効果を奏する。
【0018】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載の光学フィルムの製造方法により製造された光学フィルムであって、ロール状の光学フィルムの下記式で定義される実効ナールが2.5〜7.0μmであるもので、請求項3の発明によれば、フィルムをロール状に巻き取った後のエンボス部高さを充分確保することができて、光学フィルムの生産における高速化+長尺化に確実に対応することができという効果を奏する。
【0019】
実効ナール=(エンボス部ロール断面積−コア断面積)/巻き長さ−平均膜厚
請求項4の発明は、請求項1または2に記載の光学フィルムの製造方法により製造された光学フィルムであって、ロール状の光学フィルムのエンボス部周囲に付着しているヒゲ状異物の個数が、0〜50個/cm であるもので、請求項4の発明によれば、光学フィルムのエンボス部周辺に、樹脂が溶解した糸状の異物(ヒゲ状異物)の発生が少なく、高品質化を果たし得るという効果を奏する。
【0020】
請求項5の発明は、請求項1または2に記載の光学フィルムの製造方法により製造された光学フィルムであって、ロール状フィルムの巻き長が、3900m以上、9100m以下であるもので、請求項5の発明によれば、光学フィルムの生産における高速化+長尺化に充分に対応することができるという効果を奏する。
【0021】
(※各請求項について、独自の効果があれば、記載して下さい。)
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0023】
本発明による光学フィルムの製造方法は、溶液流延製膜法または溶融流延製膜法で得られた光学フィルムの幅手方向の端部をスリットし、製品幅に合わせてベースフィルムを形成した後、該ベースフィルムの幅手方向の端郎にナーリング加工を施してエンボス部を形成し、巻き取ることによってロール状の光学フィルムを製造する方法であって、ナーリング加工の処理温度をT(℃)、ベースフィルムのガラス転移温度をTg(℃)、ベースフィルムがエンボスリングに接している時間をs(秒)としたときに、下記の関係式を満たす条件でナーリング加工を行ない、ロール状の光学フィルムを製造するものである。
【0024】
0.75≦(T−Tg)×s≦1.00
なお、ベースフィルムがエンボスリングに接している時間s(秒)は、フィルムの搬送速度と、ニップ幅、換言すれば押し圧を変えることで、変更することが可能である。なお、ニップ幅や押し圧を変えるには、ゴムロールよりなるバックロール表面のゴムの硬度を調整したり、エンボスリング及びバックロールの直径を変えることで、行なうことができる。
【0025】
上記において、(T−Tg)×sの値が、0.75未満であれば、エンボス高さが十分得られず、巻き取った状態での実効ナールが低くなるため、フィルム同士の貼り付き故障は発生したり、凸状の局所的な変形が発生し、光学フィルムとしての平面性を満たさなくなるので、好ましくない。
【0026】
また、(T−Tg)×sの値が、1.00を超えると、エンボス高さが出すぎて結果として巻き取った状態での実効ナールも高くなるため、巻きの中央が馬の背中のような形状に凹み、光学フィルムとしての平面性が保て無くなるので、好ましくない。またTの値であるナーリング加工時の温度を高くすると(T−Tg)×sの値も大きくなるが、この場合(T−Tg)×sの値が1.00を超える程度までTの温度を高くすると、ヒゲ状故障が発生するため好ましくない。
【0027】
本発明による光学フィルムの製造方法において、ナーリング加工の際に、エンボス刻印ロールのフィルム排出側に10〜20℃の冷風を当てるのが、好ましい。ここで、ナーリング加工の際に、エンボス刻印ロールのフィルム排出側に10〜20℃の冷風を当てるのは、エンボス加工直後にフィルムとリング部を冷却することにより熱で溶けた樹脂部分が冷却固化するため、糸状の異物(ヒゲ状異物)の発生を抑えられ、充分に高いエンボス高さを得ることができるという理由による。
【0028】
本発明の光学フィルムの製造方法により製造された光学フィルムは、ロール状の光学フィルムの下記式で定義される実効ナールが2.5〜7.0μmであるのが、好ましい。ここで、実効ナールは、いわゆる巻き上がりの数値である。
【0029】
実効ナール=(エンボス部ロール断面積−コア断面積)/巻き長さ−平均膜厚
上記において、実効ナールが2.5μm未満であれば、フィルム同士の貼り付き故障は発生したり、凸状の局所的な変形が発生し、光学フィルムとしての平面性を満たさなくなるので、好ましくない。また、実効ナールが7.0μmを超えると、巻きの中央が馬の背中のような形状に凹み、光学フィルムとしての平面性が保て無くなるので、好ましくない。
【0030】
本発明の光学フィルムの製造方法により製造された光学フィルムは、ロール状の光学フィルムのエンボス部周囲に付着しているヒゲ状異物の個数が、0〜50個/cm であることが好ましく、0〜20個/cm であることがより好ましく、0〜10個/cm であることがさらに好ましい。
【0031】
上記において、光学フィルムのエンボス部周囲に付着しているヒゲ状異物の個数は、少ないほど好ましく、ヒゲ状異物の個数が50個/cm を超えると、偏光板として加工する際のクリーニング装置でも除去しきれなくなり、偏光子とフィルムの間に異物として入り込み液晶表示装置に組み込んだ場合画像欠陥となるので、好ましくない。表面に反射防止処理や防眩処理などの塗布加工を施す場合も同様である。
【0032】
本発明の光学フィルムの製造方法により製造された光学フィルムは、ロール状フィルムの巻き長が、3900m以上、9100m以下であることが好ましい。
【0033】
ここで、ロール状フィルムの巻き長が3900m未満であれば、生産速度が速くなってくると巻き上がったロールの切替時間が足りなくなるので、好ましくない。また偏光板加工時にもフィルムの切替作業の頻度が高くなるため生産性を低下させてしまう。また、ロール状フィルムの巻き長が9100mを超えると、フィルムの自重により巻き芯の荷重が大きくなり、エンボスを高くしても実効ナールが保てず貼り付きが発生するので、好ましくない。
【0034】
以下、本発明について詳述する。
【0035】
本発明の光学フィルムの製造方法においては、溶液流延製膜法または溶融流延製膜法により作製された光学フィルムのナーリング加工に関するものであり、まず、溶液流延製膜法による光学フィルムの製造方法について、説明する。
【0036】
溶液流延製膜法による光学フィルムの製造方法においては、フィルム材料として、種々の樹脂を用いることができるが、中でもセルロースエステルが好ましい。
【0037】
セルロースエステルは、セルロース由来の水酸基がアシル基などで置換されたセルロースエステルである。例えば、セルロースアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネートブチレートなどのセルロースアシレートや、脂肪族ポリエステルグラフト側鎖を有するセルロースアセテートなどが挙げられる。中でも、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、脂肪族ポリエステルグラフト側鎖を有するセルロースアセテートが好ましい。本発明の効果を阻害しない範囲であれば、その他の置換基が含まれていてもよい。
【0038】
セルローストリアセテートの例としては、アセチル基の置換度が2.0以上3.0以下であることが好ましい。置換度をこの範囲にすることで、良好な成形性が得られ、かつ所望の面内リタデーション(Ro)、及び厚み方向リタデーション(Rt)を得ることができるのである。アセチル基の置換度が、この範囲より低いと、位相差フィルムとしての耐湿熱性、特に湿熱下での寸法安定性に劣る場合があり、置換度が大きすぎると、必要なリタデーション特性が発現しなくなる場合がある。
【0039】
本発明に用いられるセルロースエステルの原料のセルロースとしては、特に限定はないが、綿花リンター、木材パルプ、ケナフなどを挙げることができる。また、それらから得られたセルロースエステルは、それぞれ任意の割合で混合使用することができる。
【0040】
本発明において、セルロースエステルの数平均分子量は、60000〜300000の範囲が、得られるフィルムの機械的強度が強く好ましい。さらに70000〜200000が好ましい。本発明で用いられるセルロースエステルは、Mw/Mn比が1.4〜3.0が好ましく、さらに好ましくは1.4〜2.3である。
【0041】
セルロースエステルの平均分子量及び分子量分布は、高速液体クロマトグラフィーを用い測定できるので、これを用いて数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)を算出し、その比を計算することができる。
【0042】
測定条件は以下の通りである。
【0043】
溶媒:メチレンクロライド
カラム:Shodex K806,K805,K803G(昭和電工株式会社製を3本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度:0.1重量%
検出器:RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ:L6000(日立製作所株式会社製)
流量:1.0ml/分
校正曲線:標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー株式会社製)Mw=1,000,000〜500迄の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いることが好ましい。
【0044】
セルロースエステルの総アシル基置換度は2.3〜2.9が用いられ、2.6〜2.9が好ましく用いられる。総アシル基置換度はASTM−D817−96に準じて測定することができる。
【0045】
本発明において、セルロースエステルには、種々の添加剤を配合することができる。
【0046】
本発明による光学フィルムの製造方法では、セルロースエステルと厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤とを含有するドープ組成物を用いるのが、好ましい。
【0047】
本発明において、光学フィルムの厚み方向リタデーション(Rt)を低減することが、IPSモードで動作する液晶表示装置の視野角拡大の意味において重要であるが、本発明において、このようなリタデーション低減添加剤としては、下記のものが挙げられる。
【0048】
一般に、光学フィルムのリタデーションは、セルロースエステル由来のリタデーションと、添加剤由来のリタデーションの和として現れる。従って、セルロースエステルのリタデーションを低減させるための添加剤とは、セルロースエステルの配向を乱し、かつ自身が配向しにくいおよび/または分極率異方性が小さい添加剤が厚み方向リタデーション(Rt)を効果的に低下させる化合物である。従って、セルロースエステルの配向を乱すための添加剤としては、芳香族系化合物より、脂肪族系化合物が好ましい。
【0049】
ここで、具体的なリタデーション低減剤として、例えば、つぎの一般式(1)または(2)で表わされるポリエステルが挙げられる。
【0050】
一般式(1) B−(G−A−)mG−B
一般式(2) B−(G−A−)nG−B
上記式中、Bはモノカルボン酸成分を表わし、Bはモノアルコール成分を表わし、Gは2価のアルコール成分を表わし、Aは2塩基酸成分を表わし、これらによって合成されたことを表わす。B、B、G、およびAは、いずれも芳香環を含まないことが特徴である。m、nは、繰り返し数を表わす。
【0051】
で表わされるモノカルボン酸成分としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸等を用いることができる。
【0052】
好ましいモノカルボン酸の例としては、以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0053】
肪族モノカルボン酸としては、炭素数1〜32の直鎖または側鎖を持った脂肪酸を好ましく用いることができる。炭素数1〜20であることがさらに好ましく、炭素数1〜12であることが特に好ましい。酢酸を含有させると、セルロースエステルとの相溶性が増すため好ましく、酢酸と他のモノカルボン酸を混合して用いることも好ましい。
【0054】
好ましいモノカルボン酸としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
【0055】
で表わされるモノアルコール成分としては、、特に制限はなく、公知のアルコール類を用いることができる。例えば炭素数1〜32の直鎖または側鎖を持った脂肪族飽和アルコールまたは脂肪族不飽和アルコールを好ましく用いることができる。炭素数1〜20であることがさらに好ましく、炭素数1〜12である
ことが特に好ましい。
【0056】
Gで表わされる2価のアルコール成分としては、以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。例えばエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,5−ペンチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等を挙げることができるが、これらのうち、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールが好ましく、さらに、1,3−プロピレングリコール、、1,4−ブチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコールが好ましく用いられる。
【0057】
Aで表わされる2塩基酸(ジカルボン酸)成分としては、脂肪族2塩基酸、脂環式2塩基酸が好ましく、例えば脂肪族2塩基酸としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸等、特に、脂肪族カルボン酸としては、炭素数4〜12を有するもの、これらから選ばれる少なくとも1つのものを使用する。つまり、2種以上の2塩基酸を組み合わせて使用してよい。
【0058】
上記の一般式(1)または(2)における繰り返し数m、nは、1以上で170以下が好ましい。
【0059】
ポリエステルの重量平均分子量は、20000以下が好ましく、10000以下であることがさらに好ましい。特に重量平均分子量が500〜10000のポリエステルは、セルロースエステルとの相溶性が良好で、製膜において蒸発も揮発も起こらない。
【0060】
ポリエステルの重縮合は常法によって行なわれる。例えば上記2塩基酸とグリコールの直接反応、上記の2塩基酸またはこれらのアルキルエステル類、例えば2塩基酸のメチルエステルとグリコール類とのポリエステル化反応またはエステル交換反応により熱溶融縮合法か、あるいはこれらの酸の酸クロライドとグリコールとの脱ハロゲン化水素反応の何れかの方法により用意に合成し得るが、重量平均分子量がさほど大きくないポリエステルは直接反応によるのが、好ましい。低分子量側に分布が高くあるポリエステルは、セルロースエステルとの相溶性が非常によく、フィルム形成後、透湿度も小さく、しかも透明性に富んだセルロースエステルフィルムを得ることができる。
【0061】
分子量の調節方法は、特に制限がなく、従来の方法を使用できる。例えば、重合条件にもよるが、1価の酸または1価のアルコールで分子末端を封鎖する方法により、これらの1価のものの添加する量によりコントロールできる。この場合、1価の酸がポリマーの安定性から好ましい。例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸等を挙げることができるが、重縮合反応中には系外に溜去せず、停止して、このような1価の酸を反応系外に除去するときに溜去しやすいものが選ばれる。これらを混合使用しても良い。また、直接反応の場合には、反応中に溜去してくる水の量により反応を停止するタイミングを計ることよっても重量平均分子量を調節できる。その他、仕込むグリコールまたは2塩基酸のモル数を偏らせることよってもできるし、反応温度をコントロールしても調節できる。
【0062】
上記一般式(1)または(2)で表わされるポリエステルは、セルロースエステルに対し、1〜40重量%含有するとが好ましい。特に5〜15重量%含有するとが好ましい。
【0063】
本発明において、リタデーション低減添加剤としては、さらに下記のものが挙げられる。
【0064】
本発明の光学フィルムの製造に使用するドープは、主に、セルロースエステル、リタデーション低減添加剤としてのポリマー(エチレン性不飽和モノマーを重合して得られるポリマー、アクリル系ポリマー)、及び有機溶媒を含有する。
【0065】
本発明において、リタデーション低減添加剤としてのポリマーを合成するには、通常の重合では分子量のコントロールが難しく、分子量をあまり大きくしない方法でできるだけ分子量を揃えることのできる方法を用いることが望ましい。かかる重合方法としては、クメンペルオキシドやt−ブチルヒドロペルオキシドのような過酸化物重合開始剤を使用する方法、重合開始剤を通常の重合より多量に使用する方法、重合開始剤の他にメルカプト化合物や四塩化炭素等の連鎖移動剤を使用する方法、重合開始剤の他にベンゾキノンやジニトロベンゼンのような重合停止剤を使用する方法、さらに特開2000−128911号公報または特開2000−344823号公報にあるような一つのチオール基と2級の水酸基とを有する化合物、あるいは、該化合物と有機金属化合物を併用した重合触媒を用いて塊状重合する方法等を挙げることができ、何れも本発明において好ましく用いられるが、特に、該公報に記載の方法が好ましい。
【0066】
本発明において、有用なリタデーション低減添加剤としてのポリマーを構成するモノマー単位としてのモノマーを下記に挙げるがこれに限定されない。
【0067】
エチレン性不飽和モノマーを重合して得られるリタデーション低減添加剤としてのポリマーを構成するエチレン性不飽和モノマー単位としては、まず、ビニルエステルとして、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、吉草酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、オクチル酸ビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ソルビン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル等が挙げられる。
【0068】
つぎに、アクリル酸エステルとして、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル(i−、n−)、アクリル酸ブチル(n−、i−、s−、t−)、アクリル酸ペンチル(n−、i−、s−)、アクリル酸ヘキシル(n−、i−)、アクリル酸ヘプチル(n−、i−)、アクリル酸オクチル(n−、i−)、アクリル酸ノニル(n−、i−)、アクリル酸ミリスチル(n−、i−)、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸(2−エチルヘキシル)、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェネチル、アクリル酸(ε−カプロラクトン)、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(4−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシブチル)、アクリル酸−p−ヒドロキシメチルフェニル、アクリル酸−p−(2−ヒドロキシエチル)フェニル等;メタクリル酸エステルとして、上記アクリル酸エステルをメタクリル酸エステルに変えたものが挙げられる。
【0069】
さらに、不飽和酸として、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、クロトン酸、イタコン酸等を挙げることができる。
【0070】
上記モノマーで構成されるポリマーはコポリマーでもホモポリマーでもよく、ビニルエステルのホモポリマー、ビニルエステルのコポリマー、ビニルエステルとアクリル酸またはメタクリル酸エステルとのコポリマーが好ましい。
【0071】
本発明において、アクリル系ポリマーという(単にアクリル系ポリマーという)のは、芳香環あるいはシクロヘキシル基を有するモノマー単位を有しないアクリル酸またはメタクリル酸アルキルエステルのホモポリマーまたはコポリマーを指す。
【0072】
芳香環及びシクロヘキシル基を有さないアクリル酸エステルモノマーとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル(i−、n−)、アクリル酸ブチル(n−、i−、s−、t−)、アクリル酸ペンチル(n−、i−、s−)、アクリル酸ヘキシル(n−、i−)、アクリル酸ヘプチル(n−、i−)、アクリル酸オクチル(n−、i−)、アクリル酸ノニル(n−、i−)、アクリル酸ミリスチル(n−、i−)、アクリル酸(2−エチルヘキシル)、アクリル酸(ε−カプロラクトン)、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(4−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−メトキシエチル)、アクリル酸(2−エトキシエチル)等、または上記アクリル酸エステルをメタクリル酸エステルに変えたものを挙げることができる。
【0073】
アクリル系ポリマーは、上記モノマーのホモポリマーまたはコポリマーであるが、アクリル酸メチルエステルモノマー単位が30重量%以上を有していることが好ましく、また、メタクリル酸メチルエステルモノマー単位が40重量%以上有することが好ましい。特にアクリル酸メチルまたはメタクリル酸メチルのホモポリマーが好ましい。
【0074】
上述のエチレン性不飽和モノマーを重合して得られるポリマー、アクリル系ポリマーは、いずれもセルロースエステルとの相溶性に優れ、蒸発や揮発もなく生産性に優れ、偏光板用保護フィルムとしての保留性がよく、透湿度が小さく、寸法安定性に優れている。
【0075】
本発明において、水酸基を有するアクリル酸またはメタクリル酸エステルモノマーの場合はホモポリマーではなく、コポリマーの構成単位である。この場合、好ましくは、水酸基を有するアクリル酸またはメタクリル酸エステルモノマー単位がアクリル系ポリマー中2〜20重量%含有することが好ましい。
【0076】
本発明の光学フィルムの製造方法においては、ドープ組成物が、セルロースエステルと、リタデーション低減添加剤としての重量平均分子量500以上3000以下のアクリル系ポリマーとを含有することが好ましい。
【0077】
また、本発明の光学フィルムの製造方法においては、ドープ組成物が、セルロースエステルと、リタデーション低減添加剤としての重量平均分子量5000以上30000以下のアクリル系ポリマーとを含有するが好ましい。
【0078】
本発明において、リタデーション低減添加剤としてのポリマーの重量平均分子量が500以上3000以下、あるいはまたポリマーの重量平均分子量が5000以上30000以下のものであれば、セルロースエステルとの相溶性が良好で、製膜中において蒸発も揮発も起こらない。また、製膜後の光学フィルムの透明性が優れ、透湿度も極めて低く、偏光板用保護フィルムとして優れた性能を示す。
【0079】
本発明において、リタデーション低減添加剤として、側鎖に水酸基を有するポリマーも好ましく用いることができる。水酸基を有するモノマー単位としては、前記したモノマーと同様であるが、アクリル酸またはメタクリル酸エステルが好ましく、例えば、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(4−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシブチル)、アクリル酸−p−ヒドロキシメチルフェニル、アクリル酸−p−(2−ヒドロキシエチル)フェニル、またはこれらアクリル酸をメタクリル酸に置き換えたものを挙げることができ、好ましくは、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル及びメタクリル酸−2−ヒドロキシエチルである。ポリマー中に水酸基を有するアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルモノマー単位はポリマー中2〜20重量%含有することが好ましく、より好ましくは2〜10重量%である。
【0080】
前記のようなポリマーが上記の水酸基を有するモノマー単位を2〜20重量%含有したものは、勿論、セルロースエステルとの相溶性、保留性、寸法安定性が優れ、透湿度が小さいばかりでなく、偏光板用保護フィルムとしての偏光子との接着性に特に優れ、偏光板の耐久性が向上する効果を有している。
【0081】
また、本発明においては、上記ポリマーの主鎖の少なくとも一方の末端に水酸基を有することが好ましい。主鎖末端に水酸基を有するようにする方法は、特に主鎖の末端に水酸基を有するようにする方法であれば限定ないが、アゾビス(2−ヒドロキシエチルブチレート)のような水酸基を有するラジカル重合開始剤を使用する方法、2−メルカプトエタノールのような水酸基を有する連鎖移動剤を使用する方法、水酸基を有する重合停止剤を使用する方法、リビングイオン重合により水酸基を末端に有するようにする方法、特開2000−128911号公報または特開2000−344823号公報にあるような一つのチオール基と2級の水酸基とを有する化合物、あるいは、該化合物と有機金属化合物を併用した重合触媒を用いて塊状重合する方法等により得ることができ、特に該公報に記載の方法が好ましい。この公報記載に関連する方法で作られたポリマーは、綜研化学社製のアクトフロー・シリーズとして市販されており、好ましく用いることができる。
【0082】
上記の末端に水酸基を有するポリマー及び/または側鎖に水酸基を有するポリマーは、本発明において、セルロースエステルに対するポリマーの相溶性、透明性を著しく向上する効果を有する。
【0083】
本発明において、有用なリタデーション低減添加剤としては、上記のほかにも、例えば特開2000−63560号公報記載のジグリセリン系多価アルコールと脂肪酸とのエステル化合物、特開2001−247717号公報記載のヘキソースの糖アルコールのエステルまたはエーテル化合物、特開2004−315613号公報記載のリン酸トリ脂肪族アルコールエステル化合物、特開2005−41911号公報記載の一般式(1)で表わされる化合物、特開2004−315605号公報記載のリン酸エステル化合物、特開2005−105139号公報記載のスチレンオリゴマー、および特開2005−105140号公報記載のスチレン系モノマーの重合体が挙げられる。
【0084】
上述したリタデーション低減添加剤の含有量は、セルロースエステル系樹脂に対して5〜25重量%含有させることが好ましい。リタデーション低減添加剤の含有量が5重量%未満であれば、フィルムのリタデーション低減効果が発現しないので、好ましくない。またリタデーション低減添加剤の含有量が25重量%を超えると、いわゆるブリードアウトが生じるなど、フィルム中の安定性が低下するので、好ましくない。
【0085】
本発明による光学フィルムの製造方法において、上記セルロース誘導体に対して良好な溶解性を有する有機溶媒を良溶媒といい、また溶解に主たる効果を示し、その中で大量に使用する有機溶媒を主(有機)溶媒または主たる(有機)溶媒という。
【0086】
良溶媒の例としては、アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類、テトラヒドロフラン(THF)、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、1,2−ジメトキシエタンなどのエーテル類、蟻酸メチル、蟻酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、γ−ブチロラクトン等のエステル類の他、メチルセロソルブ、ジメチルイミダゾリノン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、ジメチルスルフォキシド、スルホラン、ニトロエタン、塩化メチレン、アセト酢酸メチルなどが挙げられるが、1,3−ジオキソラン、THF、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸メチル及び塩化メチレンが好ましい。
【0087】
ドープには、上記有機溶媒の他に、1〜40重量%の炭素原子数1〜4のアルコールを含有させることが好ましい。これらは、ドープを金属支持体に流延した後、溶媒が蒸発し始めてアルコールの比率が多くなることで、ウェブ(金属支持体上にセルロース誘導体のドープを流延した以降のドープ膜の呼び方をウェブとする)をゲル化させ、ウェブを丈夫にして、金属支持体から剥離することを容易にするゲル化溶媒として用いられたり、これらの割合が少ない時は非塩素系有機溶媒のセルロース誘導体の溶解を促進したりする役割もある。
【0088】
炭素原子数1〜4のアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルを挙げることができる。これらのうち、ドープの安定性に優れ、沸点も比較的低く、乾燥性も良く、かつ毒性がないことなどからエタノールが好ましい。これらの有機溶媒は、単独ではセルロース誘導体に対して溶解性を有しておらず、貧溶媒という。
【0089】
このような条件を満たす好ましい高分子化合物であるセルロース誘導体を高濃度に溶解する溶剤として最も好ましい溶剤は塩化メチレン:エチルアルコールの比が95:5〜80:20の混合溶剤である。あるいは、酢酸メチル:エチルアルコール60:40〜95:5の混合溶媒も好ましく用いられる。
【0090】
本発明におけるフィルムには、フィルムに加工性・柔軟性・防湿性を付与する可塑剤、フィルムに滑り性を付与する微粒子(マット剤)、紫外線吸収機能を付与する紫外線吸収剤、フィルムの劣化を防止する酸化防止剤等を含有させても良い。
【0091】
本発明において使用する可塑剤としては、特に限定はないが、フィルムにヘイズを発生させたり、フィルムからブリードアウトあるいは揮発しないように、セルロース誘導体や加水分解重縮合が可能な反応性金属化合物の重縮合物と、水素結合などによって相互作用可能である官能基を有していることが好ましい。
【0092】
このような官能基としては、水酸基、エーテル基、カルボニル基、エステル基、カルボン酸残基、アミノ基、イミノ基、アミド基、イミド基、シアノ基、ニトロ基、スルホニル基、スルホン酸残基、ホスホニル基、ホスホン酸残基等が挙げられるが、好ましくはカルボニル基、エステル基、ホスホニル基である。
【0093】
このような可塑剤の例として、リン酸エステル系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、ピロメリット酸系可塑剤、多価アルコールエステル系可塑剤、グリコレート系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤、脂肪酸エステル系可塑剤、カルボン酸エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤などを好ましく用いることができるが、特に好ましくは多価アルコールエステル系可塑剤、グリコレート系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤等の非リン酸エステル系可塑剤である。
【0094】
多価アルコールエステルは、2価以上の脂肪族多価アルコールとモノカルボン酸のエステルよりなり、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有することが好ましい。
【0095】
本発明に用いられる多価アルコールは、つぎの一般式(1)で表される。
【0096】
一般式(1) R−(OH)n
(ただし、Rはn価の有機基、nは2以上の正の整数を表す)
好ましい多価アルコールの例としては、例えば以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0097】
好ましい多価アルコールの例としては、アドニトール、アラビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ガラクチトール、マンニトール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ピナコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、キシリトール等を挙げることができる。特に、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、キシリトールが好ましい。
【0098】
本発明の多価アルコールエステルに用いられるモノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等を用いることができる。脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸を用いると透湿性、保留性を向上させる点で好ましい。
【0099】
好ましいモノカルボン酸の例としては、以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0100】
脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数1〜32の直鎖または側鎖を有する脂肪酸を好ましく用いることができる。炭素数は1〜20であることがさらに好ましく、1〜10であることが特に好ましい。酢酸を含有させると、セルロース誘導体との相溶性が増すため好ましく、酢酸と他のモノカルボン酸を混合して用いることも好ましい。
【0101】
好ましい脂肪族モノカルボン酸の例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
【0102】
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。
【0103】
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸等の安息香酸のベンゼン環にアルキル基を導入したもの、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等のベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができるが、特に安息香酸が好ましい。
【0104】
多価アルコールエステルの分子量は、特に制限はないが、300〜1500であることが好ましく、350〜750であることが、さらに好ましい。分子量が大きい方が揮発し難くなるため好ましく、透湿性、セルロース誘導体との相溶性の点では、小さい方が好ましい。
【0105】
多価アルコールエステルに用いられるカルボン酸は1種類でもよいし、2種以上の混合であってもよい。また、多価アルコール中のOH基は、全てエステル化してもよいし、一部をOH基のままで残してもよい。
【0106】
グリコレート系可塑剤は、特に限定されないが、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有するグリコレート系可塑剤を、好ましく用いることができる。好ましいグリコレート系可塑剤としては、例えばブチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート等を用いることができる。
【0107】
リン酸エステル系可塑剤では、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等、フタル酸エステル系可塑剤では、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート等を用いることができるが、本発明では、リン酸エステル系可塑剤を実質的に含有しないことが好ましい。
【0108】
ここで、「実質的に含有しない」とは、リン酸エステル系可塑剤の含有量が1重量%未満、好ましくは0.1重量%であり、特に好ましいのは添加していないことである。
【0109】
これらの可塑剤は、単独あるいは2種以上混合して用いることができる。
【0110】
可塑剤の使用量は、1〜20重量%が好ましい。6〜16重量%がさらに好ましく、特に好ましくは8〜13重量%である。可塑剤の使用量が、セルロース誘導体に対して1重量%未満では、フィルムの透湿度を低減させる効果が少ないため、好ましくなく、20重量%を越えると、フィルムから可塑剤がブリードアウトし、フィルムの物性が劣化するため、好ましくない。
【0111】
本発明におけるセルロース誘導体には、滑り性を付与するために、マット剤等の微粒子を添加するのが好ましい。微粒子としては、無機化合物の微粒子または有機化合物の微粒子が挙げられる。
【0112】
無機化合物の微粒子の例としては、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化錫等の微粒子が挙げられる。この中では、ケイ素原子を含有する化合物の微粒子であることが好ましく、特に二酸化ケイ素微粒子が好ましい。二酸化ケイ素微粒子としては、例えばアエロジル株式会社製のAEROSIL 200、200V、300、R972、R972V、R974、R202、R812,R805、OX50、TT600などが挙げられる。
【0113】
有機化合物の微粒子の例としては、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素化合物樹脂、ウレタン樹脂等の微粒子が挙げられる。
【0114】
微粒子の1次粒径は、特に限定されないが、最終的にフィルム中での平均粒径は、0.05〜5.0μm程度が好ましい。さらに好ましくは、0.1〜1.0μmである。
【0115】
微粒子の平均粒径は、セルロースエステルフィルムを電子顕微鏡や光学顕微鏡で観察した際に、フィルムの観察場所における、粒子の長軸方向の長さの平均値を指す。フィルム中で観察される粒子であれば、1次粒子であっても、1次粒子が凝集した2次粒子であってもよいが、通常観察される多くは2次粒子である。
【0116】
測定方法の一例としては、1つのフィルムにつき、ランダムに10箇所の垂直断面写真を撮影し、各断面写真について、長軸長さが、0.05〜5μmの範囲にある100μm中の粒子個数をカウントする。このときカウントした粒子の長軸長さの平均値を求め、10箇所の平均値を平均した値を平均粒径とする。
【0117】
微粒子の場合は、1次粒径、溶媒に分散した後の粒径、フィルムに添加されたの粒径が変化する場合が多く、重要なのは、最終的にフィルム中で微粒子がセルロースエステルと複合し凝集して形成される粒径をコントロールすることである。
【0118】
ここで、微粒子の平均粒径が、5μmを超えた場合は、ヘイズの劣化等が見られたり、異物として巻状態での故障を発生する原因にもなる。また、微粒子の平均粒径が、0.05μm未満の場合は、フィルムに滑り性を付与するのが難しくなる。
【0119】
上記の微粒子は、セルロースエステルに対して、0.04〜0.5重量%添加して使用される。好ましくは、0.05〜0.3重量%、さらに好ましくは0.05〜0.25重量%添加して使用される。微粒子の添加量が0.04重量%以下では、フィルム表面粗さが平滑になりすぎて、摩擦係数の上昇によりブロッキングを発生する。微粒子の添加量が0.5重量%を超えると、フィルム表面の摩擦係数が下がりすぎて、巻き取り時に巻きズレが発生したり、フィルムの透明度が低く、ヘイズが高くなるため、液晶表示装置用フィルムとしての価値を持たなくなるので、上記の範囲が必須である。
【0120】
微粒子の分散は、微粒子と溶剤を混合した組成物を高圧分散装置で処理することが好ましい。本発明で用いる高圧分散装置は、微粒子と溶媒を混合した組成物を、細管中に高速通過させることで、高剪断や高圧状態など特殊な条件を作りだす装置である。
【0121】
高圧分散装置で処理することにより、例えば、管径1〜2000μmの細管中で装置内部の最大圧力条件が980N/cm以上であることが好ましい。さらに好ましくは、装置内部の最大圧力条件が1960N/cm以上である。またその際、最高到達速度が100m/sec以上に達するもの、伝熱速度が100kcal/hr以上に達するものが、好ましい。
【0122】
上記のような高圧分散装置としては、例えばMicrofluidics Corporation社製の超高圧ホモジナイザー(商品名マイクロフルイダイザー)あるいはナノマイザー社製ナノマイザーが挙げられ、他にもマントンゴーリン型高圧分散装置、例えばイズミフードマシナリ製ホモゲナイザーなどが挙げられる。
【0123】
本発明において、微粒子は、低級アルコール類を25〜100重量%含有する溶剤中で分散した後、セルロースエステル(セルロース誘導体)を溶剤に溶解したドープと混合し、該混合液を金属支持体上に流延し、乾燥して製膜することを特徴とするセルロースエステルフィルムを得る。
【0124】
ここで、低級アルコールの含有比率としては、好ましくは50〜100重量%、さらに好ましくは75〜100重量%である。
【0125】
また、低級アルコール類の例としては、好ましくはメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等が挙げられる。
【0126】
低級アルコール以外の溶媒としては、特に限定されないが、セルロースエステルの製膜時に用いられる溶剤を用いることが好ましい。
【0127】
微粒子は、溶媒中で1〜30重量%の濃度で分散される。これ以上の濃度で分散すると、粘度が急激に上昇し、好ましくない。分散液中の微粒子の濃度としては、好ましく、5〜25重量%、さらに好ましくは、10〜20重量%である。
【0128】
フィルムの紫外線吸収機能は、液晶の劣化防止の観点から、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、光学補償フィルムなどの各種光学フィルムに付与されていることが好ましい。このような紫外線吸収機能は、紫外線を吸収する材料をセルロース誘導体中に含ませても良く、セルロース誘導体からなるフィルム上に紫外線吸収機能のある層を設けてもよい。
【0129】
本発明において、使用し得る紫外線吸収剤としては、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等を挙げることができるが、着色の少ないベンゾトリアゾール系化合物が好ましい。また、特開平10−182621号公報、特開平8−337574号公報に記載の紫外線吸収剤、特開平6−148430号公報に記載の高分子紫外線吸収剤も好ましく用いられる。
【0130】
紫外線吸収剤としては、偏光子や液晶の劣化防止の観点から、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れており、かつ液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましい。
【0131】
本発明において、有用な紫外線吸収剤の具体例としては、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−(3″,4″,5″,6″−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、オクチル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートと2−エチルヘキシル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートの混合物等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0132】
また、紫外線吸収剤の市販品として、チヌビン(TINUVIN)109、チヌビン(TINUVIN)171、チヌビン(TINUVIN)326(何れもチバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を、好ましく使用できる。
【0133】
また、本発明において使用し得る紫外線吸収剤であるベンゾフェノン系化合物の具体例として、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニルメタン)等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0134】
本発明において、これらの紫外線吸収剤の配合量は、セルロースエステル(セルロース誘導体)に対して、0.01〜10重量%の範囲が好ましく、さらに0.1〜5重量%が好ましい。紫外線吸収剤の使用量が少なすぎると、紫外線吸収効果が不充分の場合があり、紫外線吸収剤の多すぎると、フィルムの透明性が劣化する場合があるので、好ましくない。紫外線吸収剤は熱安定性の高いものが好ましい。
【0135】
また、本発明の光学フィルムに用いることのできる紫外線吸収剤は、特開平6−148430号公報及び特開2002−47357号公報に記載の高分子紫外線吸収剤(または紫外線吸収性ポリマー)を好ましく用いることができる。とりわけ特開平6−148430号公報に記載の一般式(1)、あるいは一般式(2)、あるいは特開2002−47357号公報に記載の一般式(3)(6)(7)で表される高分子紫外線吸収剤が、好ましく用いられる。
【0136】
酸化防止剤は、一般に、劣化防止剤ともいわれるが、光学フィルムとしてのセルロースエステルフィルム中に含有させるのが好ましい。すなわち、液晶画像表示装置などが高湿高温の状態に置かれた場合には、光学フィルムとしてのセルロースエステルフィルムの劣化が起こる場合がある。酸化防止剤は、例えばフィルム中の残留溶媒中のハロゲンやリン酸系可塑剤のリン酸などによりフィルムが分解するのを遅らせたり、防いだりする役割を有するので、フィルム中に含有させるのが好ましい。
【0137】
このような酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系の化合物が好ましく用いられ、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N′−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト等を挙げることができる。特に、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が好ましい。また例えば、N,N′−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジン等のヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト等のリン系加工安定剤を併用してもよい。
【0138】
これらの化合物の添加量は、セルロース誘導体に対して重量割合で1ppm〜1.0重量%が好ましく、10〜1000ppmがさらに好ましい。
【0139】
以下、本発明による光学フィルムの製造方法について詳しく述べる。フィルムは、溶液流延製膜方法により作製できる。
【0140】
図1は、溶液流延製膜法による本発明の光学フィルムの製造方法を実施する装置の具体例を示すフローシートである。なお、本発明の実施にあたっては、図1のプロセスに限定されるものではない。
【0141】
本発明の溶液流延製膜法による光学フィルムの製造方法は、熱可塑性樹脂溶液(ドープ)を金属支持体(1)上に流延して流延膜(ウェブ)を形成し、溶剤の一部を蒸発させた後に、ウェブ(10)を金属支持体(1)から剥離する工程と、剥離したウェブ(10)をテンター(4)により幅手方向に延伸する工程と、延伸後のフィルムを巻き取る巻取り工程とを具備している。
【0142】
まず、図示しない溶解釜において、熱可塑性樹脂、例えばセルロースエステル系樹脂を、良溶媒及び貧溶媒の混合溶媒に溶解し、これに上記の可塑剤や紫外線吸収剤等の添加剤を添加して樹脂溶液(ドープ)を調製する。
【0143】
ついで、溶解釜で調整されたドープを、例えば加圧型定量ギヤポンプを通して、導管によって流延ダイ(2)に送液し、図1に示す無限に移送する回転駆動ステンレス鋼製エンドレスベルトよりなる金属製支持体(1)上の流延位置に、流延ダイ(2)からドープを流延する。
【0144】
なお、図示は省略したが、例えば加圧型定量ギヤポンプを通して流延ダイ(2)に送液されたドープを、流延ダイ(2)からハードクロム鍍金により鏡面処理された表面を有するステンレス鋼製回転の冷却ドラム上に流延しても、良い。
【0145】
流延ダイ(2)によるドープの流延には、流延されたドープ膜(ウェブ)をブレードで膜厚を調節するドクターブレード法、あるいは逆回転するロールで調節するリバースロールコーターによる方法等があるが、口金部分のスリット形状を調製でき、膜厚を均一にしやすい加圧ダイが好ましい。加圧ダイには、コートハンガーダイやTダイ等があるが、何れも好ましく用いられる。
【0146】
なお、流延ダイ(2)としては、口金部分のスリット形状を調製でき、膜厚を均一にしやすい加圧ダイが好ましい。
【0147】
ここで、セルロースエステル溶液(ドープ)の固形分濃度が、20〜30重量%であるのが、好ましい。
【0148】
ここで、セルロースエステル溶液(ドープ)の固形分濃度が、20重量%未満であれば、金属支持体(1)上で充分な乾燥ができず、剥離時にドープ膜の一部が金属支持体(1)上に残り、ドラム汚染につながるため、好ましくない。また固形分濃度が30%を超えると、ドープ粘度が高くなり、ドープ調整工程でフィルター詰まりが早くなったり、金属支持体(1)上への流延時に圧力が高くなり、押し出せなくなるため、好ましくない。
【0149】
金属製支持体(1)として回転駆動エンドレスベルトを具備する図示の製膜装置では、該ベルト金属製支持体(1)は一対のドラムおよびその中間に配置されかつエンドレスベルト金属製支持体(1)の上部移行部及び下部移行部をそれぞれ裏側より支えている複数のロール(図示略)より構成される。
【0150】
回転駆動エンドレスベルト金属製支持体(1)の両端巻回部のドラムの一方、もしくは両方に、ベルト金属製支持体(1)に張力を付与する駆動装置が設けられ、これによってベルト金属製支持体(1)は張力が掛けられて張った状態で使用される。
【0151】
また、金属支持体の幅は1800〜2200mm、セルロースエステル溶液の流延幅は1600〜2150mm、巻き取り後のフィルムの幅は1490〜3000mmである。これにより、金属支持体方式によって幅の広い液晶表示装置用セルロースエステルフィルムを製造することができるものである。
【0152】
ここで、金属支持体(1)の幅、セルロースエステル溶液の流延幅、および巻き取り後のフィルムの幅が、それぞれ上記の下限値未満では、近年の液晶表示装置の大型化には、対応することができず、また、金属支持体(1)の幅、セルロースエステル溶液の流延幅、および巻き取り後のフィルムの幅が、それぞれ上限値を超えると、剥離後のフィルムの残留溶媒量が多い状態で、後述する延伸工程のテンター入り口でフィルムが垂れ下がり、幅手の伸びにムラが生じ、リタデーションのばらつきが大きくなり、好ましくない。また垂れ下がったフィルムがテンターのガイドに当たり、フィルムが破断し生産をとめてしまう場合もある。
【0153】
また、本発明の光学フィルムの製造方法では、金属支持体(1)の周速度が80〜200m/minであるのが、好ましい。
【0154】
すなわち、薄膜フィルムでは、乾燥する溶剤量が少なくてすむため、金属支持体(1)の周速度を従来のドラム周速度より速くすることにより、フィルムの生産速度アップが可能で、セルロースエステルフィルムの生産性を増大することができる。
【0155】
金属製支持体(1)としてエンドレスベルトを用いる場合には、製膜時のベルト温度は、一般的な温度範囲0℃〜溶剤の沸点未満の温度、混合溶剤では最も沸点の低い溶剤の沸点未満の温度で流延することができ、さらには5℃〜溶剤沸点−5℃の範囲が、より好ましい。このとき、周囲の雰囲気湿度は露点以上に制御する必要がある。
【0156】
上記のようにして金属支持体(1)表面に流延されたドープは、冷却ゲル化によりゲル膜の強度(フイルム強度)が増加して、さらに剥ぎ取りまでの間で乾燥が促進されることによってもゲル膜の強度(フイルム強度)が増加する。
【0157】
また、製膜速度を上げるために、加圧流延ダイ(2)を流延用金属製支持体(1)上に2基以上設け、ドープ量を分割して重層製膜してもよい。
【0158】
金属製支持体(1)としてエンドレスベルトを用いる方式においては、金属製支持体(1)上では、ウェブ(10)が金属製支持体(1)から剥離ロール(3)によって剥離可能な膜強度となるまで乾燥固化させるため、ウェブ(10)中の残留溶媒量が150重量%以下まで乾燥させるのが好ましく、80〜120重量%が、より好ましい。また、金属製支持体(1)からウェブ(10)を剥離するときのウェブ温度は、0〜30℃が好ましい。また、ウェブ(10)は、金属製支持体(1)からの剥離直後に、金属製支持体(1)密着面側からの溶媒蒸発で温度が一旦急速に下がり、雰囲気中の水蒸気や溶剤蒸気など揮発性成分がコンデンスしやすいため、剥離時のウェブ温度は5〜30℃がさらに好ましい。
【0159】
ここで、残留溶媒量は、下記の式で表わせる。
【0160】
残留溶媒量(重量%)={(M−N)/N}×100
式中、Mは、フィルムの任意時点での重量、Nは、重量Mのものを110℃で3時間乾燥させた後の重量を表わす。
【0161】
エンドレスベルト金属製支持体(1)上に流延されたドープにより形成されたドープ膜(ウェブ)を、金属製支持体(1)上で加熱し、金属製支持体(1)から剥離ロール(3)によってウェブが剥離可能になるまで溶媒を蒸発させる。
【0162】
溶媒を蒸発させるには、ウェブ側から風を吹かせる方法、及び/または金属製支持体(1)の裏面から液体により伝熱させる方法、輻射熱により表裏から伝熱する方法等がある。
【0163】
金属製支持体(1)にエンドレスベルトを用いる方式においては、金属製支持体(1)とウェブ(10)を剥離ロール(3)によって剥離する際の剥離張力は、通常100N/m〜200N/mで剥離が行なわれるが、従来よりも薄膜化されている本発明により作製された光学フィルムでは、剥離の際にウェブ(10)の残留溶媒量が多く、搬送方向に伸びやすいために、幅手方向にフィルムは縮みやすく、乾燥と縮みが重なると、端部がカールし、折れ込むことにより、シワが入りやすいため、剥離できる最低張力〜170N/mで剥離することが好ましく、さらに好ましくは、最低張力〜140N/mで剥離することである。
【0164】
金属支持体(1)上でウェブ(10)が剥離可能な膜強度となるまで乾燥固化させた後に、ウェブ(10)を剥離ロール(3)によって剥離する。
【0165】
ついで、剥離後のウェブ(10)を、延伸工程のテンター(4)に導入する。本発明の方法において、延伸工程におけるテンター(4)としては、ピン・テンター、およびクリップ・テンターを用いることができるが、中でも、液晶表示装置用フィルムとしては、ウェブ(またはフィルム)(10)の両側縁部をクリップで固定して延伸するクリップテンターであることが好ましく、フィルムの平面性や寸法安定性を向上させるために好ましい。
【0166】
延伸工程のテンター(4)に入る直前のウェブ(フィルム)(10)の残留溶媒量が、10〜50重量%であることが好ましい。
【0167】
延伸工程においては、テンター(4)の底の前寄り部分の温風吹出し手段すなわち温風吹出しスリット口から温風が吹込まれ、テンター(4)の天井の後寄り部分の排出口から排気風が排出せられることによって、ウェブ(10)が延伸されるとともに、乾燥される。
【0168】
本発明において、テンター(4)におけるウェブ(10)の延伸率は、3〜80%であることが好ましく、さらに6〜60%であることが好ましい。
【0169】
テンター(4)におけるウェブ(10)の幅手方向の延伸率が3%未満であれば、最も幅広いベルトや流延幅の装置を用いても、広幅のフィルムを得ることが不可能となるので、好ましくない。またテンター(4)におけるウェブ(10)の幅手方向の延伸率が80%を超えると、延伸温度によってはフィルムが裂けてしまうので、好ましくない。
【0170】
なお、本発明における延伸工程における温風吹出し手段とは、具体的には、延伸工程のテンター(4)の温風吹出しスリット口をいうが、温風の吹き出しによりフィルムを効率的に加熱する形状であれば、特に限定されない。温風の温度は、165〜190℃であることが好ましく、さらに170〜185℃であることが望ましい。
【0171】
つぎに、延伸後のフィルム(ウェブ)(10)は、ロール搬送乾燥装置(5)に導入し、乾燥装置(5)において非駆動のフリーロールよりなる搬送ロール(7)により搬送しながら乾燥する。
【0172】
この乾燥装置(5)内では、50〜1000本の側面から見て千鳥配置せられた搬送ロール(7)によってウェブ(10)が蛇行せられ、その間にウェブ(10)が乾燥せられるものである。また、乾燥装置(5)でのフィルム搬送張力は、ドープの物性、剥離時及びフィルム搬送工程での残留溶媒量、乾燥装置(5)での温度等に影響を受けるが、30〜250N/mが好ましく、60〜150N/mがさらに好ましい。80〜120N/mが最も好ましい。
【0173】
なお、ウェブ(またはフィルム)(10)を乾燥させる手段は、特に制限なく、一般的に熱風、赤外線、加熱ロール、マイクロ波等で行なう。簡便さの点から熱風で乾燥するのが好ましく、例えば乾燥装置(5)の底の前寄り部分の温風入口から吹込まれる乾燥風によって乾燥され、乾燥装置(5)の天井の後寄り部分の出口から排気風が排出せられることによって乾燥される。乾燥風の温度は40〜160℃が好ましく、50〜160℃が平面性、寸法安定性を良くするため、さらに好ましい。
【0174】
これら流延から最終的な後乾燥までの工程は、空気雰囲気下でもよいし、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下でもよい。この場合、乾燥雰囲気を溶媒の爆発限界濃度を考慮して実施することは勿論のことである。
【0175】
ロール搬送乾燥装置(5)による乾燥後に、フィルム両端部を、上下一対のスリッター(11)(12)により製品となる幅にスリットして、断裁切除し、製品幅に合わせてベースフィルムを形成した後、該ベースフィルムの幅手方向の端郎にナーリング加工を施してエンボス部を形成し、巻き取ることによってロール状の光学フィルムを製造する。
【0176】
そして、本発明による光学フィルムの製造方法では、ナーリング加工の処理温度をT(℃)、ベースフィルムのガラス転移温度をTg(℃)、ベースフィルムがエンボスリングに接している時間をs(秒)としたときに、下記の関係式を満たす条件でナーリング加工を行ない、ロール状の光学フィルムを製造するものである。
【0177】
0.75≦(T−Tg)×s≦1.00
なお、ベースフィルム(10)がエンボスリング(13)に接している時間s(秒)は、フィルム(10)の搬送速度と、ニップ幅、換言すれば押し圧を変えることで、変更することが可能である。なお、ニップ幅や押し圧を変えるには、ゴムロールよりなるバックロール(14)表面のゴムの硬度を調整したり、エンボスリング(13)及びエンボスバックロール(14)の直径を変えることで、行なうことができる。
【0178】
上記において、(T−Tg)×sの値が、0.75未満であれば、エンボス高さが十分得られず、巻き取った状態での実効ナールが低くなるため、フィルム同士の貼り付き故障が発生したり、凸状の局所的な変形が発生し、光学フィルムとしての平面性を満たさなくなるので、好ましくない。
【0179】
また、(T−Tg)×sの値が、1.00を超えると、エンボス高さが出すぎて、結果として巻き取った状態での実効ナールも高くなるため、巻きの中央が馬の背中のような形状に凹み、光学フィルムとしての平面性が保て無くなるので、好ましくない。またTの値であるナーリング加工時の温度を高くすると(T−Tg)×sの値も大きくなるが、この場合(T−Tg)×sの値が1.00を超える程度までTの温度を高くすると、ヒゲ状故障が発生するため好ましくない。
【0180】
また、本発明による光学フィルムの製造方法において、ナーリング加工の際に、エンボス刻印ロールのフィルム排出側に10〜20℃の冷風を当てるのが、好ましい。ここで、ナーリング加工の際に、エンボス刻印ロールのフィルム排出側に10〜20℃の冷風を当てるのは、エンボス加工直後にフィルムとリング部を冷却することにより熱で溶けた樹脂部分が冷却固化するため、糸状の異物(ヒゲ状異物)の発生を抑えられ、充分に高いエンボス高さを得ることができるという理由による。
【0181】
本発明の光学フィルムの製造方法により製造された光学フィルムは、ロール状の光学フィルムの下記式で定義される実効ナールが2.5〜7.0μmであるのが、好ましい。
【0182】
実効ナール=(エンボス部ロール断面積−コア断面積)/巻き長さ−平均膜厚 上記において、実効ナールが2.5μm未満であれば、フィルム同士の貼り付き故障は発生したり、凸状の局所的な変形が発生し、光学フィルムとしての平面性を満たさなくなるので、好ましくない。また、実効ナールが7.0μmを超えると、巻きの中央が馬の背中のような形状に凹み、光学フィルムとしての平面性が保て無くなるので、好ましくない。
【0183】
本発明の光学フィルムの製造方法により製造された光学フィルムは、ロール状の光学フィルムのエンボス部周囲に付着しているヒゲ状異物の個数が、0〜50個/cm であることが好ましく、0〜20個/cm であることがより好ましく、0〜10個/cm であることがさらに好ましい。
【0184】
上記において、光学フィルムのエンボス部周囲に付着しているヒゲ状異物の個数は、少ないほど好ましく、ヒゲ状異物の個数が50個/cm を超えると、偏光板として加工する際のクリーニング装置でも除去しきれなくなり、偏光子とフィルムの間に異物として入り込み液晶表示装置に組み込んだ場合画像欠陥となるので、好ましくない。表面に反射防止処理や防眩処理などの塗布加工を施す場合も同様である。
【0185】
ここで、エンボス部の高さh(μm)は、フィルム膜厚Hの0.05〜0.3倍の範囲、幅Wは、フィルム幅Lの0.005〜0.02倍の範囲に設定する。エンボス部は、フィルムの両面に形成してもよい。この場合、エンボス部の高さh1+h2(μm)は、フィルム膜厚Hの0.05〜0.3倍の範囲、幅Wはフィルム幅Lの0.005〜0.02倍の範囲に設定する。例えばフィルム膜厚40μmであるとき、エンボス部の高さh1+h2(μm)は2〜12μmに設定する。
【0186】
エンボス部幅は5〜30mmに設定する。
【0187】
エンボス部高さの下限については、フィルム間の部分的な密着ムラを防ぐために必要な高さから、一方、上限は、これ以上にするとエンボス部が高すぎるため、ロール状巻き製品の形態が馬の背状に多角形状に変形し、故障を誘発するからである。
【0188】
エンボス部の幅については、エンボス部は最終的にロス部分となるため少なくしたいが、例えば50μm以内の薄膜フィルムで、50m/分以上の高速製膜時において、フィルムのすべりを抑えるための最低限必要なエンボス部幅である。
【0189】
ただし、前述のエンボス部の高さともリンクしており、凸状、ピラミッド状、馬の背、多角形状、巻きずれ故障を全てクリアーするエンボス部高さ×エンボス部幅を設定する必要がある。
【0190】
本発明の方法により製造された光学フィルムは、ロール状フィルムの巻き長が、3900m以上、9100m以下であることが好ましい。
【0191】
ここで、ロール状フィルムの巻き長が3900m未満であれば、生産速度が速くなってくると巻き上がったロールの切替時間が足りなくなるので、好ましくない。また偏光板加工時にもフィルムの切替作業の頻度が高くなるため生産性を低下させてしまう。
【0192】
また、ロール状フィルムの巻き長が9100mを超えると、フィルムの自重により巻き芯の荷重が大きくなり、エンボスを高くしても実効ナールが保てず貼り付きが発生するので、好ましくない。
【0193】
なお、巻取り装置(15)によって巻き取るフィルムの残留溶媒量は、0.5重量%以下、好ましくは0.1重量%以下とすることにより寸法安定性の良好なフィルムを得ることができる。
【0194】
つぎに、本発明の溶融流延製膜方法による光学フィルムの製造方法について説明する。
【0195】
図2は、本発明の溶融流延製膜方法による光学フィルムの製造方法を実施する装置を模式的に示すフローシートである。
【0196】
同図を参照すると、ホッパー(21)に、例えばセルロースエステルのペレット、可塑剤、および酸化防止剤を投入し、ホッパー(21)から所定の供給速度で、ヘンシェルミキサー(22)に原材料が運ばれ、混合される。
【0197】
本発明の溶融流延製膜法による光学フィルムの製造方法において、用いられる熱可塑性樹脂は、溶融流延製膜法により製膜可能であれば、特に限定されない。例えば、セルロースエステル、ポリカーボネート、脂環式構造含有ポリマー、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステルなどが挙げられる。中でも光弾性係数が小さいことから、セルロースエステルや脂環式構造含有ポリマーが好ましく、特に吸水率の小さいことから脂環式構造含有ポリマーが好ましい。
【0198】
また、本発明において、光学フィルムには、添加剤として有機酸と3価以上のアルコールが縮合した構造を有するエステル系可塑剤、多価アルコールと1価のカルボン酸からなるエステル系可塑剤、多価カルボン酸と1価のアルコールからなるエステル系可塑剤の少なくとも1種の可塑剤、フェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン光安定剤、リン系安定剤、イオウ系安定剤から選択される少なくとも1種の安定剤を含んでいることが好ましく、さらにこの他に過酸化物分解剤、ラジカル捕捉剤、金属不活性化剤、紫外線吸収剤、マット剤、染料、顔料、さらには前記以外の可塑剤、ヒンダードフェノール酸化防止剤以外の酸化防止剤などを含むことができる。
【0199】
フィルム組成物を加熱溶融すると分解反応が著しくなり、この分解反応によって着色や分子量低下に由来した該構成材料の強度劣化を伴うことがある。また、フィルム組成物の分解反応によって、好ましくない揮発成分の発生も併発することもある。
【0200】
フィルム組成物を加熱溶融するとき、上述の添加剤が存在することは、材料の劣化や分解に基づく強度の劣化を抑制すること、または材料固有の強度を維持できる観点で優れており、本発明において前述の添加剤が存在することが必要である。
【0201】
原料となる樹脂ペレットおよび粉体材料は、予め乾燥させておくことが好ましい。真空または減圧乾燥機や除湿熱風乾燥機などで水分を1000ppm以下、好ましくは200ppm以下に乾燥させることが望ましい。
【0202】
原料を、図2に示す供給ホッパー(21)から混合機(22)を経て押出機(23)へ導入する際は、真空下または減圧下や不活性ガス雰囲気下にして酸化分解等を防止することが好ましい。可塑剤などの添加剤を予め混合しない場合は、押出機(23)の途中で練り込んでもよい。均一に添加するために、ヘンシェルミキサーなどの混合装置(22)を用いることが好ましい。
【0203】
本発明においては、熱可塑性樹脂からなるペレットと粉体とを押出機(図示略)で溶融混錬してペレットを作製し、そのペレットを、いま1つの押出機(23)で溶融混錬して、流延ダイ(24)から冷却ロール(金属支持体)(25)上に流延して製膜する方法と、ペレットと粉体とを押出機(23)で溶融混錬して、そのまま流延ダイ(24)から冷却ロール(金属支持体)(25)上に流延して製膜する方法の両方が、製膜に用いることができる。
【0204】
粉体の粒径は、ふるい網の目開き250μm以下が好ましい(JIS Z 8801−1)。粉体の粒径が大きすぎると、押出機(23)での混錬でも十分な混合と分散が得られず、場合によっては、押出機(23)のバレル内壁に粉体が固着してしまい、その部分に樹脂の熱劣化物が蓄積、それが、時折、流出してフィルムに熱劣化物による異物のトラブルが発生しやすくなる。また、粒径が小さ過ぎる場合は特にハンドリングで問題となることがある。ペレットは、直径および長さ1mmから5mmの粒径のものが好ましい。
【0205】
また、融点の異なる複数の材料が混合された系においては、融点の低い材料のみが溶融する温度で一旦おこし状の半溶融物を作製し、半溶融物を押出機(23)に投入して製膜することも可能である。熱分解しやすい樹脂や添加剤を使用する場合においては、樹脂の溶融回数を減らす目的で、ペレットを作製せずに直接製膜する方法や、上記のようなおこし状の半溶融物を作ってから製膜する方法が好ましい。
【0206】
本発明において、フィルム製膜に用いる押出機(23)は、単軸押出機でも2軸押出機でも良い。材料からペレットを作製せずに直接製膜する場合では適当な混練度が必要であるため、2軸押出機を用いることが好ましいが、単軸押出機でも、スクリューの形状をマドック型、ユニメルト型、ダルメージ等の混練型のスクリューに変更することにより適度の混練が得られ製膜が可能となる。1軸押出機においても、2軸押出機においてもベント口を設け、真空ポンプなどを用いてベント口からガスを除去することが望ましい。一旦、ペレットやおこし状の半溶融物を作製する場合は、単軸押出機でも2軸押出機でも良い。
【0207】
押出機(23)内および押し出した後の冷却工程は、窒素ガス等の不活性ガスで置換するか、あるいは減圧することにより、酸素の濃度を下げることが好ましい。
【0208】
押出機(23)内の樹脂の溶融温度は樹脂の粘度や吐出量、製造するシートの厚み等によって好ましい条件が異なるが、一般的には成形材料のガラス転移温度(Tg)に対して、Tg以上、Tg+100℃以下の範囲であることが好ましい。さらに好ましくは溶融温度はTg+10℃以上、Tg+90℃以下である。押出し時の溶融粘度は10〜100000ポイズ、好ましくは100〜10000ポイズである。また、押出機(23)内での樹脂の滞留時間は短い方が好ましく、5分以内、より好ましくは3分以内、最もこのましくは2分以内である。滞留時間は、押出機(23)の種類、押出す条件にも左右されるが、材料の供給量やL/D、スクリュー回転数、スクリューの溝の深さ等を調整することにより短縮することが可能である。
【0209】
押出機(23)のスクリューの形状や回転数等は、樹脂の粘度や吐出量等により適宜選択される。本発明において押出機(23)でのせん断速度は、好ましくは1/秒〜10000/秒、より好ましくは5/秒〜1000/秒、もっとも好ましくは10/秒〜100/秒である。ギアポンプ噛み込み防止、メインフィルタ負荷低減のため、押出機(23)の出側にプレフィルターを設けることが好ましい。
【0210】
例えば必要に応じて50/80/100メッシュのスクリーンや金属繊維の焼結フィルターを設けることが好ましい。オンラインチェンジ可能なタイプを使用することが好ましい。
【0211】
ヘンシェルミキサー(22)で混合された原材料は、押出機(23)に運ばれ、例えば250℃で加熱溶融され、溶融物は、本発明による流延ダイ(24)から押出成形される。流延ダイ(24)から押出された溶融物は、ステンレス鋼製冷却ロール(金属支持体)(25)にて冷却、表面矯正される。この場合、ウェブ(フィルム)(20)と冷却ロール(25)は密着することが好ましく、ウェブ(フィルム)(20)を冷却ロール(25)に密着させる方法として、タッチロール(26)を用いて押し付ける。
【0212】
冷却ロール(25)に密着した直後の樹脂の厚みをhとすると、フィルムの厚みが70μm以上100μm未満の場合にはt/hを10以下とし、50μm以上70μm以下の場合にはt/hを15以下とし、50μm未満の場合にはt/hを20以下とすることが好ましい。t/hを前記の値にすることで、リボンの伸張を抑え、流れ方向のリタデーションを小さく保つことができる。リップ先端のRは、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下にすることによって、フィルムの平面性を良好に保つことができる。
【0213】
厚み調整機構としては、幅手方向に分割して温度を調整するヒーター式、機械的にリップ開度を調整する手動ボルト方式、あるいは、ヒーターによりボルトの伸縮を利用してリップ開度を調整するヒートボルト方式などを使用することが好ましい。
【0214】
ダイの材質としては、ニッケル、ハードクロム、炭化クロム、窒化クロム、炭化チタン、炭窒化チタン、窒化チタン、超硬、セラミック(タングステンカーバイド、酸化アルミ、酸化クロム)などを溶射もしくはメッキし、表面加工としてバフ、#1000番手以降の砥石を用いるラッピング、#1000番手以上のダイヤモンド砥石を用いる平面切削(切削方向は樹脂の流れ方向に垂直な方向)、電解研磨、電解複合研磨などの加工を施したものなどがあげられる。
【0215】
ダイスリップ部の好ましい材質は、ダイと同様である。シャークスキン防止のためにはリップと樹脂の摩擦を減らすことが重要であり、Dual Spiral Systems Inc.社製のK05MFCを使用することが好ましい。また、リップ部の表面粗度は0.5S以下が好ましく、0.2S以下がより好ましい。
【0216】
本発明において、流延ダイ(24)から押出された材料は、冷却ロール(25)にて冷却、表面矯正される。流延ダイ(24)から押出された材料が最初に接触する冷却ロール(25)を冷却ロール(25)とすると、材料が流延ダイ(24)から冷却ロール(25)に接触するまでの時間は短い方が好ましく、10秒以内、好ましくは5秒以内、最も好ましくは2秒以内である。また、流延ダイ(24)から冷却ロール(25)までの距離は10mm以上100mm以下が好ましい。
【0217】
冷却ロール(25)に密着する直前の樹脂の温度はTg以上であることが好ましく、より好ましくはTg+50℃以上。樹脂の温度を高く保つことでリボンの伸張により発生する流れ方向のリタデーションを小さくすることができる。流延ダイ(24)出口から樹脂が冷却ロール(25)に密着する直前のエアギャップにおいて樹脂を保温することが好ましい。保温方法としてはマイクロ波による誘導加熱、赤外線ヒーターによる輻射熱加熱等が好ましく利用できる。赤外線ヒーターは、電気式、ガス式、オイル式あるいはスチーム式の遠赤外セラミックヒーターが利用できる。
【0218】
本発明において、流延ダイ(24)からポリマーが流出する際、昇華物等による流延ダイ(24)や冷却ロール(25)の汚染を防ぐため、流延ダイ(24)付近に吸引装置をつけることが好ましい。吸引装置は、装置自体が昇華物の付着場所にならないようヒーターで加熱するなどの処置を施すことが必要である。また、吸引圧が大きすぎると段ムラなどフィルム品質に影響を及ぼす、小さすぎると昇華物を効果的に吸引できないため、適当な吸引圧とする必要がある。
【0219】
本発明において、フィルムと冷却ロール(25)は密着することが好ましい。フィルムと冷却ロール(25)を密着させる方法としては、タッチロール(26)を用いて押し付けること、静電密着法、エアーナイフ、減圧チャンバーなどが使用できる。
【0220】
冷却ロール(25)は1本以上であれば良いが、フィルムの両面に対して平滑性を高めるために2本以上とし、両面とも冷却ロール(25)に接触させることが好ましい。また、冷却ロール(25)には、クリーニングロール等の清掃設備を付与することも可能である。冷却ロール(25)の温度ムラは0.5℃以下が好ましい。速度ムラは0.5%以下が好ましい。冷却ロール(25)表面はハードクロムメッキを使用することができるが、これに限定されない。表面粗度は0.1s以下が好ましい。
【0221】
一方、タッチロール(26)の材質としては金属、または金属ロールの周りに樹脂、ゴムなどを巻いたものを用いることができる。また、幅手中央部からサイドへいくに従い、径を変化させたクラウンロールを用いることもできる。
【0222】
また、タッチロール(26)に密着する直前の温度は、樹脂のガラス転移温度(Tg)以上が好ましく、より好ましくはTg+50℃以上である。
【0223】
冷却ロール(25)の温度調整は冷却ロール(25)内部に水や油などの熱媒体を流すことにより調整することが好ましい。
【0224】
ついで、冷却固化されたフィルムを幅手方向に延伸する。延伸により分子が配向される。延伸する方法は、公知のテンター(27)などを好ましく用いることができる。
【0225】
延伸は、制御された均一な温度分布下で行なうことが好ましい。好ましくは±2℃以内、より好ましくは±1℃以内、特に好ましくは±0.5℃以内である。
【0226】
上記の方法で作製した熱可塑性樹脂フィルムの寸法変化率を小さくする目的等で、フィルムを長手方向や幅手方向に延伸または収縮させてもよい。長手方向に収縮するには、例えば、幅延伸を一時クリップアウトさせて長手方向に弛緩させる、または横延伸機の隣り合うクリップの間隔を徐々に狭くすることによりフィルムを収縮させるという方法がある。後者の方法は一般の同時二軸延伸機を用いて、縦方向の隣り合うクリップの間隔を、例えばパンタグラフ方式やリニアドライブ方式でクリップ部分を駆動して滑らかに徐々に狭くする方法によって行なうことができる。必要により任意の方向(斜め方向)の延伸と組み合わせてもよい。長手方向、幅手方向とも0.5%から10%収縮させることで光学フィルムの寸法変化率を小さくすることができる。
【0227】
光学フィルムの膜厚変動は、±3%、さらに±1%の範囲とすることが好ましい。膜厚変動を小さくする目的で、互いに直交する2軸方向に延伸する方法は有効であり、互いに直交する2軸方向の延伸倍率は、それぞれ最終的には流延方向に1.0〜2.0倍、幅手方向に1.01〜2.5倍の範囲とすることが好ましく、流延方向に1.01〜1.5倍、幅手方向に1.05〜2.0倍に範囲で行なうことが好ましい。
【0228】
フィルムを延伸する方法には特に限定はなく、例えば、複数のロールに周速差をつけ、その間でロール周速差を利用して縦方向に延伸する方法、ウェブ(10)の両端をクリップやピンで固定し、クリップやピンの間隔を進行方向に広げて縦方向に延伸する方法、同様に横方向に広げて横方向に延伸する方法、あるいは縦横同時に広げて縦横両方向に延伸する方法などが挙げられる。もちろんこれ等の方法は、組み合わせて用いてもよい。
【0229】
また、いわゆるテンター法の場合、リニアドライブ方式でクリップ部分を駆動すると滑らかな延伸を行なうことができ、破断等の危険性が減少できるので好ましい。
【0230】
製膜工程のこれらの幅保持あるいは横方向の延伸はテンターによって行なうことが好ましく、ピンテンターでもクリップテンターでもよい。
【0231】
ウェブ(フィルム)(20)は延伸機(図示略)に導かれ、延伸機において長手方向に延伸され、続いて、ウェブ(フィルム)(20)はテンター(27)を用いて幅手方向に延伸後、緩和される。
【0232】
テンター(27)による延伸後に、フィルム両端部を、上下一対のスリッター(28)(29)により製品となる幅にスリットして裁ち落とし、ついで、巻き中の貼り付きやすり傷防止のために、エンボスリング(30)及びバックロール(31)によってナーリングル加工(エンボス加工)をフィルム(20)の幅手方向の両端部に施す。その後、フィルムを巻取り機(32)により巻き取ってロール状の光学フィルムの巻きを得るものである。
【0233】
そして、本発明による光学フィルムの製造方法では、ナーリング加工の処理温度をT(℃)、ベースフィルムのガラス転移温度をTg(℃)、ベースフィルムがエンボスリングに接している時間をs(秒)としたときに、下記の関係式を満たす条件でナーリング加工を行ない、ロール状の光学フィルムを製造する。
【0234】
0.75≦(T−Tg)×s≦1.00
なお、ベースフィルム(20)がエンボスリング(30)に接している時間s(秒)は、フィルム(20)の搬送速度と、ニップ幅、換言すれば押し圧を変えることで、変更することが可能である。なお、ニップ幅や押し圧を変えるには、ゴムロールよりなるバックロール(31)表面のゴムの硬度を調整したり、エンボスリング(30)及びバックロール(31)の直径を変えることで、行なうことができる。
【0235】
また、本発明による光学フィルムの製造方法において、ナーリング加工の際に、エンボス刻印ロール(30)のフィルム排出側に10〜20℃の冷風を当てるのが、好ましい。このように、ナーリング加工の際に、エンボス刻印ロール(30)のフィルム排出側に10〜20℃の冷風を当てることによって、エンボス加工直後にフィルムとリング部を冷却することにより、熱で溶けた樹脂部分が冷却固化するため、糸状の異物(ヒゲ状異物)の発生を抑えられ、充分に高いエンボス高さを得ることができるという利点がある。
【0236】
本発明の光学フィルムの製造方法により製造された光学フィルムは、ロール状の光学フィルムの下記式で定義される実効ナールが2.5〜7.0μmであるのが、好ましい。
【0237】
実効ナール=(エンボス部ロール断面積−コア断面積)/巻き長さ−平均膜厚
本発明の光学フィルムの製造方法により製造された光学フィルムは、ロール状の光学フィルムのエンボス部周囲に付着しているヒゲ状異物の個数が、0〜50個/cm であることが好ましく、0〜20個/cm であることがより好ましく、0〜10個/cm であることがさらに好ましい。
【0238】
本発明の光学フィルムの製造方法により製造された光学フィルムは、ロール状フィルムの巻き長が、3900m以上、9100m以下であることが好ましい。
【0239】
なお、本発明の方法において、巻取前及び巻取部直後に除電器を設置し、フィルムを除電するのが好ましい。
【0240】
除電器は、元巻を再繰り出しした際の帯電電位が±2KV以下となるように、巻取時に除電装置あるいは強制帯電装置により逆電位を与える構成で行なうことができるが、強制帯電電位が、1〜150Hzで正負交互に変換される除電器により除電する構成とすることもできる。
【0241】
また、上記の除電器に代えて、イオン風を発生させるイオナイザーや除電バーを利用することができる。ここで、イオナイザー除電は、エンボス加工装置から搬送ロールを経て巻き取られていくフィルムに向けてイオン風を吹き付けることによって行なわれる。イオン風は、除電器により発生される。除電器としては、公知のものを制限なく用いることができる。
【0242】
製膜巻取り時の除電は、元巻を再繰出しして機能性膜塗工する際、帯電電位が±2KV以上あると塗布ムラを誘発するためであり、特に薄膜、高速化を追求した場合、再繰り出し時のフィルム剥離帯電が高くなるため、製膜時除電は必須となる。
【0243】
本発明による光学フィルムの製造方法において、フィルムの巻き取り方法は、溶液流延製膜法または溶融流延製膜法のいずれにおいても、一般に使用されているワインダーを用いればよく、定トルク法、定テンション法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法等の張力をコントロールする方法があり、それらを使い分ければよい。
【0244】
巻取りコア(巻芯)への、フィルムの接合は、両面接着テープでも、片面接着テープでもどちらでも良い。
【0245】
本発明による光学フィルムは、巻き取り後のフィルムの幅が、1490〜3000mmであることが好ましい。
【0246】
光学フィルムの膜厚は、使用目的によって異なるが、仕上がりのフィルムとして、本発明において使用される膜厚範囲は30〜200μmで、最近の薄手傾向にとっては40〜120μmの範囲が好ましく、特に40〜100μmの範囲が好ましい。なお、乾燥後のフィルム膜厚とは、フィルム中の残留溶媒量が0.5重量%以下の状態のフィルムを言うものである。
【0247】
ここで、巻き取り後の光学フィルムの膜厚が薄過ぎると、例えば偏光板用保護フィルムとしての必要な強度が得られない場合がある。フィルムの膜厚が厚過ぎると、従来の光学フィルムに対して薄膜化の優位性がなくなる。
【0248】
溶液流延製膜法の場合、図1を参照すると、膜厚の調節には、所望の厚さになるように、ドープ濃度、ポンプの送液量、流延ダイ(2)の口金のスリット間隙、流延ダイ(2)の押し出し圧力、金属支持体(1)の搬送速度等をコントロールするのがよい。
【0249】
溶融流延製膜法の場合、図2を参照すると、膜厚の調節には、所望の厚さになるように、樹脂溶融物の粘度、流延ダイ(24)の口金のスリット間隙、流延ダイ(24)の押し出し圧力、冷却ロール(金属支持体)(25)の回転速度等をコントロールするのがよい。
【0250】
そして、膜厚を均一にする手段として、いずれの方法の場合にも、膜厚検出手段を用いて、プログラムされたフィードバック情報を上記各装置にフィードバックさせて調節するのが好ましい。
【0251】
本発明において、光学フィルムは、透過率が90%以上であることが望ましく、さらに好ましくは92%以上であり、さらに好ましくは93%以上である。
【0252】
また、本発明の方法により製造された光学フィルムは、3枚重ねた場合のヘイズが、0.3〜2.0であるもので、本発明の光学フィルムによれば、フィルムのヘイズが非常に低いものであり、透明性、平面性に優れた光学特性を有するものである。
【0253】
ここで、光学フィルムのヘイズの測定は、例えば、JIS K6714に規定される方法に従って、ヘイズ・メーター(1001DP型、日本電色工業株式会社製)を用いて測定すれば、良い。
【0254】
本発明の方法により製造された光学フィルムは、液晶表示用部材、詳しくは偏光板用保護フィルムに用いられるのが好ましい。
【0255】
本発明の光学フィルムからなる偏光板用保護フィルムを用いることにより、薄膜化とともに、耐久性及び寸法安定性、光学的等方性に優れた偏光板を提供する。
【実施例】
【0256】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0257】
実施例1
本発明の溶液流延製膜法による光学フィルムの製造方法により、セルローストリアセテートフィルムを、つぎのようにして作製した。
【0258】
(ドープ組成1)
セルローストリアセテート 100重量部
(Mn=148000、Mw=310000、Mw/Mn=2.1)
トリフェニルフォスフェート 8重量部
エチルフタリルエチルグリコレート 2重量部
メチレンクロライド 440重量部
エタノール 40重量部
チヌビン109(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製) 0.5重量部
チヌビン171(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製) 0.5重量部
アエロジル972V(日本アエロジル株式会社製) 0.2重量部
上記のドープ組成1の材料を、密閉容器に投入し、加熱し、撹拌しながら、完全に溶解し、濾過した。濾過は、フィルタープレスによる濾過の後、金属焼結フィルター(捕捉粒子径=10ミクロン)を通過させた。ついで、ドープを、図1に示すベルト流延装置を用い、温度35℃で、幅2000mmのステンレスバンド支持体(1)上に幅1800mmに均一に流延した。
【0259】
ステンレスバンド支持体(1)上で、残留溶媒量が100重量%になるまで溶媒を蒸発させ、ウェブ(フィルム)(10)をステンレスバンド支持体(1)から剥離した。ついで、テンター(4)でウェブ(10)の幅手方向(TD方向)の両端部を把持し、ウェブ(10)の幅手方向に延伸率10%で延伸した。なお、延伸工程のテンター(4)に入る直前のウェブ(フィルム)(10)の残留溶媒量を、30重量%とした。
【0260】
延伸工程においては、テンター(4)の底の前寄り部分の温風吹出し手段すなわち温風吹出しスリット口から温度180℃で温風が吹込まれ、テンター(4)の天井の後寄り部分の排出口から排気風が排出せられることによって、ウェブ(10)を延伸するとともに、乾燥した。
【0261】
つぎに、延伸後のフィルム(ウェブ)(10)を、ロール搬送乾燥装置(5)に導入し、このフィルムを、ロール搬送乾燥装置(5)において表面粗さ(Rmax)0.8μmの鏡面搬送ロール(面長2200mm、径110mm)よりなる500本の非駆動のフリーロールによって構成される搬送ロール(7)により搬送しながら乾燥した。乾燥装置(5)でのフィルム搬送張力は、80N/mとした。乾燥装置(5)では、これの底の前寄り部分の温風入口から吹込まれる温度150℃の乾燥風によって乾燥させた。
【0262】
乾燥装置(5)による乾燥後に、フィルム両端部を上下一対のスリッター(11)(12)により製品となる幅にスリットして、断裁切除した。
【0263】
ついで、スリット後のフィルム(10)の左右両端部に、エンボスリング(13)及びバックロール(14)によってナーリング加工を施して、フィルム端部に10mm幅のエンボス部(図示略)を付与した。
【0264】
ここで、ナーリング加工の処理温度をT(℃)、セルローストリアセテートベースフィルムのガラス転移温度をTg(℃)、ベースフィルムがエンボスリングに接している時間をs(秒)としたときに、下記の関係式を満たす条件でナーリング加工を行ない、ロール状のセルローストリアセテートフィルムを製造した。
【0265】
0.75≦(T−Tg)×s≦1.00
なお、この実施例1では、セルローストリアセテートベースフィルムのガラス転移温度(Tg)は125℃であり、ナーリング加工の処理温度(T)を250℃とし、また、エンボスリング(13)の回転周速が50m/min、ベースフィルム(10)がエンボスリング(13)に接している時間(s)を0.006秒とした。
【0266】
従って、関係式:(T−Tg)×s=0.75であった。
【0267】
また、ナーリング加工の際に、エンボスリングすなわち、エンボス刻印ロール(13)のフィルム排出側に温度20℃の冷風を当てた。
【0268】
その後、エンボス部を具備する最終製品幅1490mm、および膜厚80μmのセルローストリアセテートフィルム(F)を、巻取り装置(15)によって巻き取った。ロール状セルローストリアセテートフィルム(F)の巻き長は3900mであった。
【0269】
この実施例1において製造されたロール状のセルローストリアセテートフィルムは、下記式で定義される実効ナールを算出したところ、2.7μmであった。ここで、実効ナールは、ロール状セルローストリアセテートフィルムのいわゆる巻き上がりの数値である。
【0270】
実効ナール=(エンボス部ロール断面積−コア断面積)/巻き長さ−平均膜厚
(ヒゲ状異物個数)
この実施例1において製造されたロール状のセルローストリアセテートフィルムについて、エンボス部を30倍の光学顕微鏡にて観察した。そして、フィルムのエンボス部周囲に付着している200μm以上の長さを有するヒゲ状異物個数をカウントし、lcmあたりの個数に換算したところ、セルローストリアセテートフィルムのエンボス部周囲に付着しているヒゲ状異物の個数が、0個/cm であった。
【0271】
なお、この実施例1におけるエンボス加工処理温度(℃)、エンボスリング回転速度(m/min)、ベースフィルムがエンボスリングに接している時間s(秒)、関係式(T−Tg)×sの値、エンボス部冷却風温度(℃)、巻き長(m)、膜厚(μm)を下記の表1に示すとともに、得られたセルローストリアセテートフィルムについての実効ナール値(μm)、ヒゲ状異物個数(個/cm )の結果を、下記の表1に示した。
【0272】
実施例2〜12
上記実施例1の場合と同様にして、セルローストリアセテートフィルムを作製するが、上記実施例1の場合と、エンボス加工処理温度(℃)、エンボスリング回転速度(m/min)、ベースフィルムがエンボスリングに接している時間s(秒)、関係式(T−Tg)×sの値、エンボス部冷却風温度(℃)、巻き長(m)、膜厚(μm)を、種々異なる条件として、セルローストリアセテートフィルムを製造した。なお、実施例11では、ナーリング加工の際に、エンボスリングすなわち、エンボス刻印ロール(13)のフィルム排出側に、冷風を当てなかった。
【0273】
そして、得られたセルローストリアセテートフィルムについて、実効ナール(μm)を算出するとともに、ヒゲ状異物個数(個/cm )を測定し、得られた結果を、下記の表1にあわせて示した。
【0274】
比較例1〜3
比較のために、上記実施例1の場合と同様にして、セルローストリアセテートフィルムを作製するが、上記実施例1の場合と異なる点は、比較例1〜3では、関係式(T−Tg)×sの値を、本発明の範囲外とした。また、比較例1と2では、ナーリング加工の際に、エンボスリングすなわち、エンボス刻印ロール(13)のフィルム排出側に、冷風を当てなかった。
【0275】
上記実施例1〜12及び比較例1〜3で得られたロール状セルローストリアセテートフィルムの巻き性能を評価するために、下記のテストを行なった。
【0276】
(巻き品質の評価)
巻き品質の評価方法として、実施例1〜12及び比較例1〜3で得られたセルローストリアセテートフィルムのロール状巻きフィルムについて、それぞれ外観を観察評価し、巻きの外周で観察される突起状に表われる凸部分の個数により、下記の4段階のグレード付けを行なった。得られた結果を、下記の表1にあわせて示した。
【0277】
◎:0〜5個
○:6〜10個
△:11〜20個
×:21個以上
(巻き変形の評価、及びフィルムの貼付き故障発生の評価)
実施例1〜12及び比較例1〜3で得られたセルローストリアセテートフィルムのロール状巻きを、温度40℃、及び湿度80%RHで2週間保存した後、外観を確認し、馬の背状の巻き変形が生じているか、その有無を確認し、巻き変形の評価とした。
【0278】
ついで、実施例1〜12及び比較例1〜3で得られたロール状巻きフィルムをそれぞれ繰り出して、フィルム同士が貼り付いていないか、どうかを検査した。そして、フィルムの貼付きの状態により、下記の4段階のグレード付けを行なった。
【0279】
◎:全く貼り付いていない
○:若干貼り付いているが、容易に剥離できる
△:貼り付いているが、容易に剥離できる
×:貼り付きが多く、剥離しにくい
得られた結果を、下記の表1にあわせて示した。
【表1】

【0280】
上記表1の結果から明らかなように、本発明の実施例1〜12で作製したセルロースエステルフィルムによれば、巻き品質の評価、巻き変形の評価、及びフィルムの貼付き故障発生の評価がいずれも良好であり、得られた光学フィルムのエンボス部周辺に、樹脂が溶解した糸状の異物(ヒゲ状異物)の発生が少なく、またエンボス加工でエンボス部に穴あきが生じたりすることなく、フィルムの高品質化を果たし得るものであった。このように、本発明の実施例1〜12で作製したセルロースエステルフィルムによれば、光学フィルムの製造の高速化に伴い、フィルムをロール状に巻き取った後のエンボス部高さを確保することができて、光学フィルムの生産における高速化+長尺化に確実に対応することができるものであった。
【0281】
なお、上記関係式(T−Tg)×sと、実効ナールとでは、一方の関係式(T−Tg)×sの数値が増大すると、他方の実効ナールも増大するという、比例の関係にあることが分かった。
【0282】
これに対し、比較例1〜3のセルロースエステルフィルムでは、いずれもヒゲ状異物の発生個数が非常に多く、また特に、比較例1と2のセルロースエステルフィルムでは、馬の背状の巻き変形が生じていた。比較例1〜3のセルロースエステルフィルムでは、いずれもフィルムの貼付き故障発生の評価は、△または×であり、このような△の評価レベルでは、フィルム表面への塗布加工で塗布欠陥が発生するため、塗布向けには使用できないし、×の評価レベルでは、フィルムを繰り出す際に破断してしまうため、偏光板用に使用できないものであった。
【0283】
実施例13
つぎに、本発明の溶融流延製膜法による光学フィルムの製造方法の実施例について説明する。
【0284】
[セルロースエステルフィルムの製造]
(熱可塑性樹脂)
セルロースアセテートプロピオネート 100重量部
(アセチル置換度:2.0,プロピオニル置換度:0.7、
数平均分子量:75000)
(可塑剤)
トリメチロールプロパントリベンゾエート 10重量部
Sumilizer GP 0.5重量部
(酸化防止剤)
IRGANOX1010 1重量部
(チバスペシャルティケミカルズ社製)
針状TiO(石原産業社製、商品名FTL−100) 5重量部
まず、セルロースアセテートプロピオネートを120℃で1時間空気中で乾燥を行ない、室温まで放冷した。ついで、乾燥済みのセルロースアセテートプロピオネートを押出機を用いて加熱してペレットを作製し、放冷した。
【0285】
図2を参照すると、原料供給ホッパー(21)にセルロースアセテートプロピオネートのペレット、可塑剤、酸化防止剤および針状粒子を混合投入し、2.0Kg/hrの供給速度で、ヘンシェルミキサー(22)に原材料を導入し、混合する。混合された原材料を押出機(23)に導き、250℃で加熱溶融する。ついで、溶融物を流延ダイ(24)から押出成形する。
【0286】
流延ダイ(24)から押出された溶融物を、冷却ロール(25)にて冷却し、かつ表面矯正される。この場合、ウェブ(フィルム)(20)と冷却ロール(25)を密着させる方法として、タッチロール(26)を用いて押し付けた。
【0287】
ついで、ウェブ(フィルム)(20)を延伸機(図示略)に導き、延伸機において150℃の温度で長手方向に延伸し、続いて、幅手方向にテンター(27)を用いて160℃の温度で延伸した後、フィルム両端部を上下一対のスリッター(28)(29)により製品となる幅にスリットして、断裁切除した。
【0288】
ついで、スリット後のフィルム(20)の左右両端部に、エンボスリング(30)及びバックロール(31)によってナーリング加工を施して、フィルム端部に10mm幅のエンボス部(図示略)を付与した。
【0289】
ここで、ナーリング加工の処理温度をT(℃)、セルロースアセテートプロピオネートベースフィルムのガラス転移温度をTg(℃)、ベースフィルムがエンボスリングに接している時間をs(秒)としたときに、下記の関係式を満たす条件でナーリング加工を行ない、ロール状のセルロースアセテートプロピオネートフィルムを製造した。
【0290】
0.75≦(T−Tg)×s≦1.00
なお、この実施例13では、セルロースアセテートプロピオネートベースフィルムのガラス転移温度(Tg)は150℃であり、ナーリング加工の処理温度(T)を250℃とし、また、エンボスリング(30)の回転速度が50m/min、ベースフィルム(20)がエンボスリング(30)に接している時間(s)を0.0072秒とした。
【0291】
従って、関係式:(T−Tg)×s=0.76であった。
【0292】
また、ナーリング加工の際に、エンボスリングすなわち、エンボス刻印ロール(30)のフィルム排出側に温度20℃の冷風を当てた。
【0293】
その後、エンボス部を具備する最終製品幅1490mm、および膜厚60μmのセルロースアセテートプロピオネートフィルムを、巻取り装置(32)によって巻き取った。ロール状セルロースアセテートプロピオネートフィルムの巻き長は3900mであった。
【0294】
この実施例13において製造されたロール状のセルロースアセテートプロピオネートフィルムは、下記式で定義される実効ナールを算出したところ、2.8μmであった。ここで、実効ナールは、ロール状セルロースアセテートプロピオネートフィルムのいわゆる巻き上がりの数値である。
【0295】
実効ナール=(エンボス部ロール断面積−コア断面積)/巻き長さ−平均膜厚
この実施例13において製造されたロール状のセルロースアセテートプロピオネートフィルムについて、上記実施例1の場合と同様に、ヒゲ状異物個数をカウントしたところ、セルロースアセテートプロピオネートフィルムのエンボス部周囲に付着しているヒゲ状異物の個数が、0個/cm であった。
【0296】
なお、この実施例13におけるエンボス加工処理温度(℃)、エンボスリング回転速度(m/min)、ベースフィルムがエンボスリングに接している時間s(秒)、関係式(T−Tg)×sの値、エンボス部冷却風温度(℃)、巻き長(m)、膜厚(μm)を下記の表2に示すとともに、得られたセルロースアシレートフィルムについての実効ナール値(μm)、ヒゲ状異物個数(個/cm )の結果を、下記の表2に示した。
【0297】
実施例14〜24
上記実施例13の場合と同様にして、セルローストリアセテートフィルムを作製するが、上記実施例13の場合と、エンボス加工処理温度(℃)、エンボスリング回転速度(m/min)、ベースフィルムがエンボスリングに接している時間s(秒)、関係式(T−Tg)×sの値、エンボス部冷却風温度(℃)、巻き長(m)、膜厚(μm)を、種々異なる条件として、セルロースアシレートフィルムを製造した。なお、実施例23では、ナーリング加工の際に、エンボスリングすなわち、エンボス刻印ロール(30)のフィルム排出側に、冷風を当てなかった。
【0298】
そして、得られたセルロースアシレートフィルムについて、実効ナール(μm)を算出するとともに、ヒゲ状異物個数(個/cm )を測定し、得られた結果を、下記の表2にあわせて示した。
【0299】
比較例4〜6
比較のために、上記実施例13の場合と同様にして、セルローストリアセテートフィルムを作製するが、上記実施例13の場合と異なる点は、比較例4〜6では、関係式(T−Tg)×sの値を、本発明の範囲外とした。また、比較例4と5では、ナーリング加工の際に、エンボスリングすなわち、エンボス刻印ロール(30)のフィルム排出側に、冷風を当てなかった。
【0300】
上記実施例13〜24及び比較例4〜6で得られたロール状セルロースアシレートフィルムの巻き性能を評価するために、上記実施例の場合と同様に、巻き品質の評価、巻き変形の評価、及びフィルムの貼付き故障発生の評価を行ない、得られた結果を、下記の表2にあわせて示した。
【表2】

【0301】
上記表2の結果から明らかなように、本発明の実施例13〜24で作製したセルロースエステルフィルムによれば、巻き品質の評価、巻き変形の評価、及びフィルムの貼付き故障発生の評価がいずれも良好であり、得られた光学フィルムのエンボス部周辺に、樹脂が溶解した糸状の異物(ヒゲ状異物)の発生が少なく、またエンボス加工でエンボス部に穴あきが生じたりすることなく、フィルムの高品質化を果たし得るものであった。このように、本発明の実施例13〜24で作製したセルロースエステルフィルムによれば、光学フィルムの製造の高速化に伴い、フィルムをロール状に巻き取った後のエンボス部高さを確保することができて、光学フィルムの生産における高速化+長尺化に確実に対応することができるものであった。
【0302】
なお、上記関係式(T−Tg)×sと、実効ナールとでは、一方の関係式(T−Tg)×sの数値が増大すると、他方の実効ナールも増大するという、比例の関係にあることが分かった。
【0303】
これに対し、比較例4〜6のセルロースエステルフィルムでは、いずれもヒゲ状異物の発生個数が非常に多く、また特に、比較例4と5のセルロースエステルフィルムでは、馬の背状の巻き変形が生じていた。比較例4〜6のセルロースエステルフィルムでは、いずれもフィルムの貼付き故障発生の評価は、△または×であり、このような△の評価レベルでは、フィルム表面への塗布加工で塗布欠陥が発生するため、塗布向けには使用できないし、×の評価レベルでは、フィルムを繰り出す際に破断してしまうため、偏光板用に使用できないものであった。
【図面の簡単な説明】
【0304】
【図1】本発明の溶液流延製膜方法による光学フィルムの製造方法を実施する装置を模式的に示すフローシートである。
【図2】本発明の溶融流延製膜方法による光学フィルムの製造方法を実施する装置を模式的に示すフローシートである。
【符号の説明】
【0305】
1:エンドレスベルト支持体
2:流延ダイ
3:剥離ロール
4:テンター
5:ロール搬送乾燥装置
7:搬送ロール
10:ウェブ
11:上側スリッターロール
12:下側スリッターロール
13:エンボスリング
14:バックロール
15:巻取り装置
F:セルローストリアセテートフィルム(光学フィルム)
20:ウェブ(フィルム)
21:供給ホッパー
22:ヘンシェルミキサー
23:押出機
24:流延ダイ
25:冷却ロール
26:タッチロール
27:テンター
28:上側スリッターロール
29:下側スリッターロール
30:エンボスリング
31:バックロール
32:巻取り機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液流延製膜法または溶融流延製膜法で得られた光学フィルムの幅手方向の端部をスリットし、製品幅に合わせてベースフィルムを形成した後、該ベースフィルムの幅手方向の端郎にナーリング加工を施してエンボス部を形成し、巻き取ることによってロール状の光学フィルムを製造する方法であって、ナーリング加工の処理温度をT(℃)、ベースフィルムのガラス転移温度をTg(℃)、ベースフィルムがエンボスリングに接している時間をs(秒)としたときに、下記の関係式を満たす条件でナーリング加工を行ない、ロール状の光学フィルムを製造することを特徴とする、光学フィルムの製造方法。
0.75≦(T−Tg)×s≦1.00
【請求項2】
ナーリング加工の際に、エンボス刻印ロールのフィルム排出側に10〜20℃の冷風を当てることを特徴とする、請求項1に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光学フィルムの製造方法により製造された光学フィルムであって、ロール状の光学フィルムの下記式で定義される実効ナールが2.5〜7.0μmであることを特徴とする、光学フィルム。
実効ナール=(エンボス部ロール断面積−コア断面積)/巻き長さ−平均膜厚
【請求項4】
請求項1または2に記載の光学フィルムの製造方法により製造された光学フィルムであって、ロール状の光学フィルムのエンボス部周囲に付着しているヒゲ状異物の個数が、0〜50個/cm であることを特徴とする、光学フィルム。
【請求項5】
請求項1または2に記載の光学フィルムの製造方法により製造された光学フィルムであって、ロール状フィルムの巻き長が、3900m以上、9100m以下であることを特徴とする、光学フィルム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−73154(P2009−73154A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−246946(P2007−246946)
【出願日】平成19年9月25日(2007.9.25)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】