説明

光学系

【課題】前方の物体と略側方の物体の同時観察と、前方の物体の近接拡大観察とを行うことのできる光学系を提供する。
【解決手段】前方の物体側から順に、反射屈折光学素子を有し負の屈折力を持つ前群、開口絞り、光軸に沿う方向に移動する移動レンズ群を有し正の屈折力を持つ後群が配置されており、前記反射屈折光学素子は、光軸を中心に形成された第一透過面と該第一透過面の周囲に環状に形成され像側を向いた第一反射面とを有し前方の物体側に形成された第一面と、光軸を中心に形成された第二透過面と該第二透過面の周囲に環状に形成され前方の物体側を向いた第二反射面とを有し像側に形成された第二面と、前記第一面と前記第二面との間に透過面として形成された第三面と、を有しており、前記移動レンズ群を移動させることにより、前記前群及び前記後群の屈折力を相対的に変化させて、観察領域内で前方の物体の像が形成される領域を、拡大又は縮小する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前方の物体及び略側方の物体の同時観察と前方の物体に対する近接拡大観察とを行うための光学系に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、前方の物体の観察と略側方の物体の観察とを同時に行うことのできる光学系が知られている。そのような光学系の中には、略側方の物体側からの光を、内部で2回反射した後に、像側へ出射する構成のものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。なお、略側方とは、光学系自体の側方だけではなく、光学系の斜め前方や斜め後方も含むものとする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−309859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の光学系は、観察領域で前方の物体の像又は略側方の物体の像が形成される領域の拡大をすることができないため、対象物の細部を詳細に観察することができないという問題があった。そのため、例えば、特許文献1に記載されている光学系を、内視鏡装置に採用した場合には、病変部を発見することはできても、その病変部の悪性度や浸潤度等の評価をすることはできなかった。
【0005】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、前方の物体と略側方の物体の同時観察と、前方の物体の近接拡大観察とを行うことのできる光学系を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明の光学系は、前方の物体と略側方の物体とを観察するための光学系において、前方の物体側から順に、反射屈折光学素子を有し負の屈折力を持つ前群、開口絞り、光軸に沿う方向に移動する移動レンズ群を有し正の屈折力を持つ後群が配置されており、前記反射屈折光学素子は、光軸を中心に形成された第一透過面と該第一透過面の周囲に環状に形成され像側を向いた第一反射面とを有し前方の物体側に形成された第一面と、光軸を中心に形成された第二透過面と該第二透過面の周囲に環状に形成され前方の物体側を向いた第二反射面とを有し像側に形成された第二面と、前記第一面と前記第二面との間に透過面として形成された第三面と、を有しており、前記移動レンズ群を移動させることにより、前記前群及び前記後群の屈折力を相対的に変化させて、観察領域内で前方の物体の像が形成される領域を、拡大又は縮小することを特徴とする。
【0007】
また、本発明の光学系は、前記移動レンズ群が、正の屈折力を持つことが好ましい。
【0008】
また、本発明の光学系は、前記後群のうち、最も前記開口絞りに近いレンズ群が前記移動レンズであることが好ましい。
【0009】
また、本発明の光学系は、前記前群は、負の屈折力を持つ第一レンズ群と、第二レンズ群とを備え、前記後群は、正の屈折力を持つ第三レンズ群を備え、前記第一レンズ群と、前記第二レンズ群と、前記開口絞りと、前記第三レンズ群とにより、前方の物体を観察するための第一光学系が構成され、前記第二レンズ群と、前記開口絞りと、前記第三レンズ群とにより、略側方の物体を観察するための第二光学系が構成されていることが好ましい。
【0010】
また、本発明の光学系は、前方の物体側からの光は、前記第一透過面に入射した後に、前記第二透過面から像側へ出射され、略側方の物体側からの光は、前記第三面に入射した後に、前記第二反射面と前記第一反射面とで順に反射され、前記第二透過面から像側へ出射されることが好ましい。
【0011】
また、本発明の光学系は、次の条件式を満足することが好ましい。
1.05 < fr c/fr w < 1.45
ただし、fr wは前方の物体及び略側方の物体を同時観察する際の前記後群の焦点距離、fr cは観察領域内で前方の物体の像が形成される領域を拡大して観察する際の前記後群の焦点距離である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、前方の物体と略側方の物体の同時観察と、前方の物体の近接拡大観察とを行うことのできる光学系を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の反射屈折光学素子に対し、略側方の物体側から入射する光に関する画角を示す模式図である。
【図2】実施例1に係る光学系の構成を示す光軸に沿う断面図であり、(a)は前方の物体及び略側方の物体の同時観察を行う場合、(b)は前方の物体の近接拡大観察を行う場合を、それぞれ示している。
【図3】実施例1に係る光学系の構成と光路を示す光軸に沿う断面図であり、(a)は前方の物体及び略側方の物体の同時観察を行う場合、(b)は前方の物体の近接拡大観察を行う場合を、それぞれ示している。
【図4】実施例1に係る光学系の有する反射屈折光学素子の拡大図である。
【図5】実施例1に係る光学系により、観察領域内における前方の物体の関する観察領域と略側方の物体に関する観察領域を示す模式図であり、(a)は前方の物体及び略側方の物体の同時観察を行う場合、(b)は前方の物体の近接拡大観察を行う場合を、それぞれ示している。
【図6】実施例1に係る光学系の、前方の物体及び略側方の物体の同時観察時における、前方の物体側から撮像面へ向かう光線を追跡した場合の収差曲線図であり、(a)はメリジオナル面に関するコマ収差、(b)はサジタル面に関するコマ収差を示している。また、各図は、上から順に、半画角が60°,45°,30°,15°,0°の場合の収差を示している。
【図7】実施例1に係る光学系の、前方の物体及び略側方の物体の同時観察時における、略側方の物体側から撮像面へ向かう光線を追跡した場合の収差曲線図であり、(a)はメリジオナル面に関するコマ収差、(b)はサジタル面に関するコマ収差を示している。また、各図は、上から順に、半画角が115°,105°,95°,85°,75°の場合の収差を示している。
【図8】実施例1に係る光学系の、前方の物体の近接拡大観察時における、前方の物体側から撮像面へ向かう光線を追跡した場合の収差曲線図であり、(a)はメリジオナル面に関するコマ収差、(b)はサジタル面に関するコマ収差を示している。また、各図は、上から順に、半画角が60°,45°,30°,15°,0°の場合の収差を示している。
【図9】実施例2に係る光学系の構成を示す光軸に沿う断面図であり、(a)は前方の物体及び略側方の物体の同時観察を行う場合、(b)は前方の物体の近接拡大観察を行う場合を、それぞれ示している。
【図10】実施例2に係る光学系の構成と光路を示す光軸に沿う断面図であり、(a)は前方の物体及び略側方の物体の同時観察を行う場合、(b)は前方の物体の近接拡大観察を行う場合を、それぞれ示している。
【図11】実施例2に係る光学系の、前方の物体及び略側方の物体の同時観察時における、前方の物体側から撮像面へ向かう光線を追跡した場合の収差曲線図であり、(a)はメリジオナル面に関するコマ収差、(b)はサジタル面に関するコマ収差を示している。また、各図は、上から順に、半画角が60°,45°,30°,15°,0°の場合の収差を示している。
【図12】実施例2に係る光学系の、前方の物体及び略側方の物体の同時観察時における、略側方の物体側から撮像面へ向かう光線を追跡した場合の収差曲線図であり、(a)はメリジオナル面に関するコマ収差、(b)はサジタル面に関するコマ収差を示している。また、各図は、上から順に、半画角が115°,105°,95°,85°,75°の場合の収差を示している。
【図13】実施例2に係る光学系の、前方の物体の近接拡大観察時における、前方の物体側から撮像面へ向かう光線を追跡した場合の収差曲線図であり、(a)はメリジオナル面に関するコマ収差、(b)はサジタル面に関するコマ収差を示している。また、各図は、上から順に、半画角が60°,45°,30°,15°,0°の場合の収差を示している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の光学系の実施例の説明に先立ち、本実施例の構成による作用効果を説明する。
【0015】
本発明の光学系は、光軸を中心に形成された第一透過面と該第一透過面の周囲に環状に形成され像側を向いた第一反射面とを有し前方の物体側に形成された第一面と、光軸を中心に形成された第二透過面と該第二透過面の周囲に環状に形成され前方の物体側を向いた第二反射面とを有し像側に形成された第二面と、第一面と第二面との間に透過面として形成された第三面と、を有した反射屈折光学素子を備えている。
【0016】
このように、本発明の光学系は、反射屈折光学素子を備えているため、前方の物体と略側方の物体の同時観察をすることができる。なお、反射屈折光学素子とは、光の反射作用と屈折作用とを利用する部材を意味する。
【0017】
また、本発明の光学系は、前方の物体と略側方の物体とを観察するための光学系において、前方の物体側から順に、反射屈折光学素子を有し負の屈折力を持つ前群、開口絞り、光軸に沿う方向に移動する移動レンズ群を有し正の屈折力を持つ後群が配置されており、移動レンズ群を移動させることにより、前群及び後群の屈折力を相対的に変化させて、観察領域内で前方の物体の像が形成される領域を、拡大又は縮小することを特徴としている。
【0018】
本発明の光学系は、このように、前方の物体側から入射する光に対してレトロフォーカスタイプの光学系となるように構成されている。
【0019】
一般に、いわゆるレトロフォーカスタイプの光学系では、前群の負の屈折力と後群の正の屈折力が変化すれば、焦点距離が変化し、同時に、結像面における像が拡大又は縮小する。
【0020】
そのため、前方の物体側から入射する光に対してレトロフォーカスタイプの光学系として構成されている本発明の光学系も、後群中に設けた移動レンズ群を光軸に沿って移動させると、前群及び後群の屈折力が相対的に変化するため、焦点距離が変化し、同時に、観察領域内で前方の物体の像が形成される領域が拡大又は縮小する。
【0021】
したがって、本発明の光学系は、移動レンズ群を光軸に沿って移動させるだけで、前方の物体と略側方の物体の同時観察に適した光学系から前方の物体に対する近接拡大観察に適した光学系へと変化することができるようになっている。
【0022】
また、本発明の光学系は、移動レンズ群が、正の屈折力を持つことが好ましい。
【0023】
このように、後群に含まれる移動レンズが正の屈折力を持つように構成すれば、その移動レンズ群が物体側に移動することにより、前群の負の屈折力と後群の正の屈折力を相対的に弱めることができる。また、後群は全体として正の屈折力を持つものであるため、後群に含まれる移動レンズ群を正の屈折力を持つレンズ群とすれば、レンズ枚数を削減することができる。
【0024】
また、本発明の光学系は、後群のうち、最も開口絞りに近いレンズ群が移動レンズであることが好ましい。
【0025】
このように、後群のうち最も開口絞りに近いレンズ群が移動レンズ群であるということは、移動レンズ群が、前群にも近いということである。そして、移動レンズ群がそのような位置に配置されていると、前群は、移動レンズ群の移動の影響を受けやすくなるので、前群の負の屈折力が変化しやすくなる。つまり、移動レンズ群を大きく移動させなくても、前群の負の屈折力を十分に変化させることができる。
【0026】
また、本発明の光学系は、次の条件式を満足することが好ましい。
1.05 < fr c/fr w < 1.45
ただし、fr wは前方の物体及び略側方の物体を同時観察する際の前記後群の焦点距離、fr cは観察領域内で前方の物体の像が形成される領域を拡大して観察する際の前記後群の焦点距離である。
【0027】
この条件式「1.05 < fr c/fr w < 1.45」の下限を下回ると、前方の物体と略側方の物体の同時観察時における後群の焦点距離と前方の物体の近接拡大観察時における後群の焦点距離との差が小さくなり過ぎてしまい、それらの観察状態を適切に変化させにくくなってしまう。一方、上限を上回ると、焦点距離の差が大きくなり過ぎてしまい、諸収差のバランスをとることが難しくなってしまう。
【0028】
以下に、実施例1及び実施例2に係る光学系ついて図面を参照して説明する。
【0029】
なお、光学系断面図のr1,r2,・・・及びd1,d2,・・・において下付き文字として示した数字は、数値データにおける面番号1,2,・・・に対応している。
【0030】
また、数値データにおいては、sは面番号、rは各面の曲率半径、dは面間隔、ndはd線(波長587.56nm)における屈折率、νdはd線におけるアッベ数、Kは円錐係数、A4,A6,A8,A10は非球面係数をそれぞれ示している。
【0031】
また、数値データの非球面係数においては、Eは10のべき乗を表している。例えば、「E−10」は、10のマイナス1乗を表している。また、各非球面形状は、数値データに記載した各非球面係数を用いて以下の式で表される。ただし、光軸に沿う方向の座標をZ、光軸と垂直な方向の座標をYとする。
Z=(Y2/r)/[1+{1−(1+k)・(Y/r)21/2
+A44+A66+A88+A1010+・・・
【0032】
また、収差図において、メリジオナル面とは、光学系の光軸と主光線とを含む面(紙面に平行な面)、サジタル面とは、光軸を含みメリジオナル面に垂直な面(紙面に垂直な面)を意味する。本発明の光学系は、メリジオナル面に対して対称であるため、サジタル面についての収差量は、横軸について、負の値を省略している。コマ収差を示す図における、縦軸は収差量(単位mm)、横軸は開口比(−1〜1)をそれぞれ表している。各線に対応する波長は、図中の右端に記載されている。例えば、実線に対応する波長は、656.27nmである。非点収差を示す図における、縦軸は角度(単位deg)、横軸は焦点位置(単位mm)をそれぞれ表している。また、実線(図中のy)はサジタル面に関して、破線(図中のx)はメリジオナル面に関して、546.07nmの波長での収差量を表している。
【0033】
ここで、図1を用いて、本発明の光学系の反射屈折光学素子に対し、略側方の物体側から入射する光の画角の定義について説明をしておく。図1は、本発明の反射屈折光学素子に対し、略側方の物体側から入射する光に関する画角を示す模式図である。
【0034】
反射屈折光学素子RLの第三面RLcに、略側方の物体側から入射する光の主光線が入射するが、その主光線と光軸LCとが、前方の物体側でなす角度が、反射屈折光学素子RLの略側方の物体側に対する半画角となる。
【0035】
また、このような反射屈折光学素子RLの場合、第三面RLcを介して、前方の物体、すなわち、光軸LC上に存在する物体を観察することはできない。そのため、画角には、最小画角θMinと最大画角θMaxが存在することになる。このとき、最小画角θMinとは、第三面RLcを介して観察できる範囲のうち、最も前方の物体側の光の主光線と光軸とがなす角度θMinのことである。一方、最大画角θMaxとは、第三面RLcを介して観察できる範囲のうち、最も像側の光の主光線と光軸とがなす角度θMaxのことである。
【実施例1】
【0036】
以下に、図2〜図8を用いて実施例1に係る光学系について詳細に説明する。
【0037】
まず、図2及び図3を用いて、本実施例の光学系の構成を説明する。
【0038】
本実施例の光学系は、前方の物体側からの光の光軸LC上に、前方の物体側から順に、全体として負の屈折力を持つ前群Gfと、開口絞りSと、全体として正の屈折力を持つ後群Grと、が配置されている。
【0039】
前群Gfは、前方の物体側から順に、第一レンズ群G1と第二レンズ群G2とからなる。
【0040】
後群Grは、第三レンズ群G3からなる。
【0041】
第一レンズ群G1は、像側に凹面を向けた平凹レンズであるレンズL1により構成されている。
【0042】
第二レンズ群G2は、前方の物体側から順に、前方の物体側の面が非球面の反射屈折光学素子であるレンズL21と、像側に凸面を向けた負のメニスカスレンズであるレンズL22と、平板レンズであるレンズL23とにより構成されている。
【0043】
開口絞りSは、レンズL23の像側の面に、レンズL23と一体的に配置されている。
【0044】
第三レンズ群G3は、前方の物体側から順に、光軸上を移動する両凸レンズであるレンズL31と、両凸レンズであるレンズL32と、両凹レンズであるレンズL33と、像側の面が非球面の両凸レンズであるレンズL34と、平板レンズであるレンズL35とにより構成されている。なお、レンズL32の像側の面とレンズL33の物体側の面とは接合されている。
【0045】
なお、これらのレンズの形状は、前方の物体側からの光の光軸近傍における形状である。
【0046】
ここで、図4を用いて前方の物体と略側方の物体の観察を同時に行うための反射屈折光学素子であるレンズL21について詳細に説明する。
【0047】
反射屈折光学素子であるレンズL21は、前方の物体側に形成された第一面L21aと、像側に形成された第二面L21bと、第一面L21aと第二面L21bとの間で全周面に形成された第三面L21cとを有する。
【0048】
第一面L21aは、光軸を中心に形成されている第一透過面L211と、像側を向いていて第一透過面L211の周囲に環状に形成されている第一反射面L212とを有している。第二面L21bは、光軸を中心に形成されている第二透過面L211と、前方の物体側を向いていて第二透過面L211の周囲に環状に形成されている第二反射面L212とを有している。第三面L21cは全面が透過面として形成されている。
【0049】
なお、第一反射面L212や第二反射面L212は、蒸着法により形成されている。具体的には、例えば、第一透過面L211に、第一透過面L211と同形状のマスクをした上で、第一面L21a全体に対してミラーコーティングを施し、その後該マスクを剥がす。このような方法を用いれば、マスクされた部分はミラーコーティングされないため、第一反射面L212を形成した後でも、第一透過面L211を透過面として用いることができる。
【0050】
次に、図3及び図4を用いて、本実施例の光学系に入射した光の辿る経路を説明する。
【0051】
本実施例の光学系に前方の物体側から入射する光LFは、まず、レンズL1を通過する。そして、レンズL1を通過した光LFは、レンズL21の第一透過面L211に入射する。その後、第一透過面L211に入射した光LFは、レンズL21の第二透過面L211から出射する。第二透過面L211から出射した光LFは、レンズL22、レンズL23、開口絞りS、レンズL31〜レンズL35を順に通過し、結像面において、観察領域の中央部に前方の物体の像を形成する。
【0052】
他方、本実施例の光学系に略側方の物体側から入射する光Lsは、まず、レンズL21の第三面L21cに入射する。そして、第三面L21cに入射した光Lsは、レンズL21の第二反射面L212で反射される。次に、第二反射面L212で反射された光Lsは、レンズL21の第一反射面L212で反射される。その後、第一反射面L212で反射された光Lsは、レンズL21の第二透過面L211から出射される。第二透過面L211から出射した光Lsは、レンズL22、レンズL23、開口絞りS、レンズL31〜レンズL35を順に通過し、結像面において、観察領域の中央部に形成された前方の物体の像の周囲に、環状に、略側方の物体の像を形成する。
【0053】
次に、図3及び図5を用いて、本実施例の光学系が、前方の物体及び略側方の物体を同時観察に適した状態から前方の物体の近接拡大観察に適した状態への変化と、その際に観察領域に形成される像について説明する。
【0054】
本実施例の光学系は、前方の物体及び略側方の物体を同時観察する場合(図3(a)参照)、観察領域(図5(a)参照)には、その中央領域に前方の物体の像が形成され、その周囲の環状の領域(図5(a)の斜線で示した領域)に略側方の物体の像が形成されることになる。
【0055】
ところで、本実施例の光学系は、前方の物体側から入射する光に対して、いわゆるレトロフォーカスタイプの光学系となっている。そのため、前群Gfの負の屈折力と後群Grの正の屈折力が、前方の物体及び略側方の物体を同時観察している状態よりも相対的に弱くなれば、観察領域内において前方の物体の像が形成される領域が拡大され、前方の物体の近接拡大観察に適した状態(図5(b)参照)となる。
【0056】
具体的には、本発明の光学系は、後群Gr、すなわち、第三レンズ群G3に含まれる正の屈折力を持つレンズL31を有しているため、そのレンズL31を像側に移動する(図3(b)参照)。レンズL31をそのように移動させるだけで、前群Gfの負の屈折力と後群Grの正の屈折力が、前方の物体及び略側方の物体を同時観察している状態よりも相対的に弱くなり、前方の物体を近接して観察するのに適した状態となる。
【0057】
次に、本実施例に係る光学系を構成するレンズの構成及び数値データを示す。
【0058】
数値データ1
単位 mm
面データ
面番号 曲率半径 面間隔 屈折率 アッベ数
s r d nd νd
0 (物体面) D0
1 ∞ 0.7 1.8830 40.8
2 1.98645 0.7
3 (非球面) -17.75837 0.85 1.5163 64.1
4 2.26757 1.787
5 2.7 2.7
6 -1.56527 0.6 1.8830 40.8
7 -1.9108 0.1
8 ∞ 0.4 1.5163 64.1
9 ∞ 0
10 (開口絞り) ∞ D10
11 3.49907 1.4 1.7725 49.6
12 -5.5374 D12
13 24.49464 1.5 1.7292 54.7
14 -2.00692 0.4 1.8467 23.8
15 5.58093 0.1
16 3.18186 1 1.5163 64.1
17 (非球面) -5.08989 0.75
18 ∞ 2 1.5163 64.1
19 ∞ 0
20 (結像面)
なお、面番号5に係る曲率半径は、反射屈折光学素子であるレンズL21の第三面L21c、すなわち、光軸を中心とした筒状の面の曲率半径であり、また、面番号5に係る面間隔は、光軸から面番号5の面までの距離である。
【0059】
非球面データ
面番号 曲率半径 円錐係数 非球面係数
s r k A4 6 8 10
3 -17.75837 0 3.21E-02 -4.74E-03 -5.46E-05 8.59E-05
17 -5.06969 0 2.15E-02 3.34E-02 6.86E-03 -1.45E-03
【0060】
各種データ
Fナンバー:6.9
レンズ全長:14.2mm
バックフォーカス:0mm
像高:1.3mm
【0061】
面間隔
同時観察 近接拡大観察
D0 9.440 1.505
D10 1.814 0.1
D12 0.1 1.814
移動レンズ群L31の移動距離:1.741mm
【0062】
半画角
前方の物体側に対する半画角
同時観察時、近接拡大観察時共通:69°
略側方の物体側に対する半画角(最小画角〜最大画角)
同時観察時 :74°〜116°
近接拡大観察時:測定不能
【0063】
焦点距離
前方の物体側に対する全系焦点距離
同時観察時 :0.695mm
近接拡大観察時:1.15746mm
第一レンズ群G1の焦点距離
同時観察時、近接拡大観察時共通:−2.237mm
第二レンズ群G2の前方の物体側に対する焦点距離
同時観察時、近接拡大観察時共通:−3.988mm
第一レンズ群G1と第二レンズ群G2の合成焦点距離
同時観察時、近接拡大観察時共通:−1.281mm
第三レンズ群G3の焦点距離
同時観察時(fr w) :2.874mm
近接拡大観察時(fr c):3.351mm
移動レンズ群L31の焦点距離(fm
同時観察時、近接拡大観察時共通:2.963mm
【0064】
条件式に係るデータ
r c/fr w=1.166
【実施例2】
【0065】
次に、図9〜図13を用いて実施例2に係る光学系について詳細に説明する。なお、本実施例の光学系における反射屈折光学素子の形状、光学系に入射した光の辿る光路、観察状態の変化方法は、実施例1の光学系とほぼ同じであるため、ほぼ同じ構成を有する部材には、同一の符号を付すとともに、それらについての詳細な説明は省略する。
【0066】
まず、図9及び図10を用いて、本実施例の光学系の構成を説明する。
【0067】
本実施例の光学系は、前方の物体側からの光の光軸LC上に、前方の物体側から順に、全体として負の屈折力を持つ前群Gfと、開口絞りSと、全体として正の屈折力を持つ後群Grと、が配置されている。
【0068】
前群Gfは、前方の物体側から順に、第一レンズ群G1と第二レンズ群G2とからなる。
【0069】
後群Grは、第三レンズ群G3からなる。
【0070】
本実施例の光学系は、前方の物体側からの光の光軸LC上に、前方の物体側から順に、第一レンズ群G1と第二レンズ群G2とからなり全体として負の屈折力を持つ前群Gfと、開口絞りSと、第三レンズ群G3からなり全体として正の屈折力を持つ後群Grと、が配置されている。
【0071】
第一レンズ群G1は、像側に凹面を向けた平凹レンズであるレンズL1により構成されている。
【0072】
第二レンズ群G2は、前方の物体側から順に、前方の物体側の面が非球面の反射屈折光学素子であるレンズL21と、平板レンズであるレンズL22とにより構成されている。
【0073】
開口絞りSは、レンズL22の像側の面に配置されている。
【0074】
第三レンズ群G3は、前方の物体側から順に、光軸上を移動する両凸レンズであるレンズL31と、像側に凸面を向けた正のメニスカスレンズであるレンズL32と、両凹レンズであるレンズL33と、像側の面が非球面の両凸レンズであるレンズL34と、平板レンズであるレンズL35とにより構成されている。なお、レンズL32の像側の面とレンズL33の物体側の面とは接合されている。
【0075】
なお、これらのレンズの形状は、前方の物体側からの光の光軸近傍における形状である。
【0076】
次に、本実施例に係る光学系を構成するレンズの構成及び数値データを示す。
【0077】
数値データ2
単位 mm
面データ
面番号 曲率半径 面間隔 屈折率 アッベ数
s r d nd νd
0 (物体面) D0
1 ∞ 0.7 1.5163 64.1
2 1.58699 0.9
3 (非球面) 114.08067 0.85 1.5163 64.1
4 2.2 2.6138
5 3 3
6 ∞ 0.6 1.8830 40.8
7 ∞ 0.287
8 (開口絞り) ∞ D8
9 5.00915 1.4 1.7725 49.6
10 -3.89454 D10
11 -23.93361 1.7 1.7292 54.7
12 -2.15 0.4 1.8467 23.8
13 10781.23595 0.1
14 7.53056 1.25 1.5163 64.1
15 (非球面) -3.46941 0.85
16 ∞ 2 1.5163 64.1
17 ∞ 0
18 (結像面)
なお、面番号5に係る曲率半径は、反射屈折光学素子であるレンズL21の第三面L21c、すなわち、光軸を中心とした筒状の面の曲率半径であり、また、面番号5に係る面間隔は、光軸から面番号5の面までの距離である。
【0078】
非球面データ
面番号 曲率半径 円錐係数 非球面係数
s r k A4 6 8 10
3 114.08067 0 2.08E-02 -4.13E-03 -5.76E-04 -3.53E-05
15 -3.46941 0 2.45E-02 -5.44E-03 9.28E-03 -1.55E-03
【0079】
各種データ
Fナンバー:5.3
レンズ全長:15.5mm
バックフォーカス:0mm
像高:1.3mm
【0080】
面間隔
同時観察 近接拡大観察
D0 10.828 1.206
D8 1.749 0.339
D10 0.1 1.510
移動レンズ群L31の移動距離:1.410mm
【0081】
半画角
前方の物体側に対する半画角
同時観察時、近接拡大観察時共通:60°
略側方の物体側に対する半画角(最小画角〜最大画角)
同時観察時 :72°〜118°
近接拡大観察時:測定不能
【0082】
焦点距離
前方の物体側に対する全系焦点距離
同時観察時 :0.754mm
近接拡大観察時:1.154mm
第一レンズ群G1の焦点距離
同時観察時、近接拡大観察時共通:−3.062mm
第二レンズ群G2の前方の物体側に対する焦点距離
同時観察時、近接拡大観察時共通:−4.340mm
第一レンズ群G1と第二レンズ群G2の合成焦点距離
同時観察時、近接拡大観察時共通:−1.497mm
第三レンズ群G3の焦点距離
同時観察時(fr w) :2.978mm
近接拡大観察時(fr c):3.740mm
移動レンズ群L31の焦点距離(fm
同時観察時、近接拡大観察時共通:3.031mm
【0083】
条件式に係るデータ
r c/fr w=1.256
【0084】
なお、上記各実施例においては、前方の物体を近接拡大観察することについてのみ記載しているが、略側方の物体を近接拡大観察できるようにしても良い。
【0085】
また、上記各実施例における移動レンズ群以外の移動レンズを備え、それを移動させることにより、観察領域に形成される前方の物体の像を変倍するようにしても良い。
【0086】
また、上記各実施例においては、近接拡大観察時においても略側方の物体の像が殆ど形成されない位置まで移動レンズ群を移動させているが、近接拡大観察時にも略側方の物体の像がある程度観察領域に形成されるような位置に、移動レンズ群を移動させても良い。すなわち、上記各実施例においては、前方の物体及び略側方の物体の同時観察と前方の物体の近接拡大観察のいずれか一方の状態のみを示しているが、当然のことながら、その中間の状態となるように移動レンズ群を移動させて使用してもかまわない。
【0087】
また、上記各実施例においては、前方の物体及び略側方の物体の同時観察時と前方の物体の近接拡大観察時における焦点合わせについては言及していない。ここで、例えば、前群や後群の屈折力が大きく変化しない程度に、移動レンズ群を移動させて焦点合わせを行うようにしても良い。
【0088】
また、本発明の光学系のレンズ群を構成するレンズは、上記各実施例により示された形状や枚数に限定されるものではなく、反射屈折光学素子を含む種々の光学系も含まれる。
【0089】
また、上記各実施例においては配置されていないが、光学系の像側に撮像素子を配置したり、光学系とその撮像素子との間にIRカットコートを施したローパスフィルターやCCDカバーガラス等を配置したりしても良い。
【0090】
また、上記各実施例においては、光学系は、3つのレンズ群により構成されているが、本発明の光学系は、これらの例に限定されるものではなく、2つのレンズ群又は4つ以上のレンズ群により構成しても良い。
【0091】
また、上記各実施例においては、反射屈折光学素子の第三面は、前方の物体側の径と像側の径とが、略一致するような形状となっているが、前方の物体側の径よりも像側の径が大きい形状のものや、前方の物体側の径よりも像側の径が小さい形状のものを用いても良い。なお、前方の物体側の径とは、第三面における最も前方の物体側の位置での、光軸に垂直な面内における径をいい、像側の径とは、第三面における最も像側の位置での、光軸に垂直な面内における径をいう。さらに、上記各実施例において、反射屈折光学素子の第三面は、第一面と第二面との間において全周面にわたって形成されているが、必ずしも、全周面にわたって形成されている必要はなく、周面の一部のみを透過面として形成しても良い。
【0092】
また、上記各実施例においては、反射屈折光学素子を1つのレンズで構成しているが、本発明の光学系の反射屈折光学素子は、接合レンズで構成しても良い。
【0093】
さらに、上記各実施例においては、第一反射面や第二反射面を、蒸着法により形成しているが、その形成方法は、上記の方法に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0094】
f 前群
r 後群
1 第一レンズ群
2 第二レンズ群
3 第三レンズ群
LC 光軸
F 反射屈折光学素子に前方の物体側から入射する光
s 反射屈折光学素子に略側方の物体側から入射する光
1,L21,L22,L23,L31,L32,L33,L34,L35 レンズ
21a 第一面
211 第一透過面
212 第一反射面
21b 第二面
211 第二透過面
212 第二反射面
21c,RLc 第三面
RL 反射屈折光学素子
S 開口絞り

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前方の物体と略側方の物体とを観察するための光学系において、
前方の物体側から順に、反射屈折光学素子を有し負の屈折力を持つ前群、開口絞り、光軸に沿う方向に移動する移動レンズ群を有し正の屈折力を持つ後群が配置されており、
前記反射屈折光学素子は、光軸を中心に形成された第一透過面と該第一透過面の周囲に環状に形成され像側を向いた第一反射面とを有し前方の物体側に形成された第一面と、光軸を中心に形成された第二透過面と該第二透過面の周囲に環状に形成され前方の物体側を向いた第二反射面とを有し像側に形成された第二面と、前記第一面と前記第二面との間に透過面として形成された第三面と、を有しており、
前記移動レンズ群を移動させることにより、前記前群及び前記後群の屈折力を相対的に変化させて、観察領域内で前方の物体の像が形成される領域を、拡大又は縮小することを特徴とする光学系。
【請求項2】
前記移動レンズ群が、正の屈折力を持つことを特徴とする請求項1に記載の光学系。
【請求項3】
前記後群のうち、最も前記開口絞りに近いレンズ群が前記移動レンズであることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学系。
【請求項4】
前記前群は、負の屈折力を持つ第一レンズ群と、第二レンズ群とを備え、
前記後群は、正の屈折力を持つ第三レンズ群を備え、
前記第一レンズ群と、前記第二レンズ群と、前記開口絞りと、前記第三レンズ群とにより、前方の物体を観察するための第一光学系が構成され、
前記第二レンズ群と、前記開口絞りと、前記第三レンズ群とにより、略側方の物体を観察するための第二光学系が構成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光学系。
【請求項5】
前方の物体側からの光は、前記第一透過面に入射した後に、前記第二透過面から像側へ出射され、
略側方の物体側からの光は、前記第三面に入射した後に、前記第二反射面と前記第一反射面とで順に反射され、前記第二透過面から像側へ出射されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光学系。
【請求項6】
次の条件式を満足することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光学系。
1.05 < fr c/fr w < 1.45
ただし、fr wは前方の物体及び略側方の物体を同時観察する際の前記後群の焦点距離、fr cは観察領域内で前方の物体の像が形成される領域を拡大して観察する際の前記後群の焦点距離である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−48086(P2011−48086A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−195743(P2009−195743)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】