説明

光導電スイッチング素子、光導電スイッチング素子アレイ、表示装置および画像形成装置

【課題】省電力で駆動が可能な光導電スイッチング素子、光導電スイッチング素子アレイ、表示装置および画像形成装置を提供すること。
【解決手段】光導電スイッチング素子アレイ1は、第1の共通電極2と、第1の共通電極2に対向配置され、第1の共通電極2との間で電圧が印加される個別電極3と、第1の共通電極2と個別電極3との間に配置され、アドレス光L2を受光することにより導電性が発現する光導電層4とを備え、光導電層4は、アドレス光L2を受光した際に電荷を発生する機能を有する第1の電荷発生層41および第2の電荷発生層42と、第1の電荷発生層41および第2の電荷発生層42でそれぞれ発生した電荷を輸送する機能を有する電荷輸送層43とを備え、第1の電荷発生層41と第2の電荷発生層42とは、電荷輸送層43の面方向の異なる位置に配置され、電荷輸送層43の厚さ方向にも異なる位置に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導電スイッチング素子、光導電スイッチング素子アレイ、表示装置および画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、所望の画像を表示する光書込み型画像表示装置が知られている。この光書込み型画像表示装置としては、例えば特許文献1に記載されているような、光導電スイッチング素子と、光導電スイッチング素子に積層された液晶層とを備えるものがある。
特許文献1に記載の光導電スイッチング素子は、交流電圧が印加される2つの電極層(第1の電極層および第2の電極層)と、第1の電極層と第2の電極層との間であって、第1の電極層側に配置された上部電荷発生層と、第1の電極層と第2の電極層との間であって、第2の電極層側に配置された下部電荷発生層と、上部電荷発生層と下部電荷発生層との間に配置された電荷輸送層とを有している。上部電荷発生層および下部電荷発生層は、それぞれ、光を受光した際に電荷を発生する機能を有している。電荷輸送層は、上部電荷発生層および下部電荷発生層でそれぞれ発生した電荷を輸送する機能を有している。
【0003】
このような構成の光導電スイッチング素子では、第1の電極層と第2の電極層との間に交流電圧が印加されると、電流が第1の電極層から第2の電極層に向かう第1の状態と、電流が第2の電極層から第1の電極層に向かう第2の状態とを取り得る。そして、第1の状態では、見掛け上電荷輸送層と下部電荷発生層との界面が電荷移動に対するエネルギー障壁(バリア)として作用することとなり、その分、印加電圧を増大させて付与しなければ、電流が確実に流れず、光導電スイッチング素子が駆動しないという問題があった。これと同様に、第2の状態でも、見掛け上電荷輸送層と上部電荷発生層との界面が電荷移動に対するエネルギー障壁として作用することとなり、その分、印加電圧を増大させて付与しなければ、電流が確実に流れず、光導電スイッチング素子が駆動しないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−180888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上述の従来技術に対して省電力での駆動が可能な光導電スイッチング素子、光導電スイッチング素子アレイ、表示装置および画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の光導電スイッチング素子は、第1の電極と、
前記第1の電極に対向して配置され、該第1の電極との間で電圧が印加される第2の電極と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に配置され、光を受光することにより導電性が発現する光導電層とを備え、
前記光導電層は、光を受光した際に電荷を発生する機能を有する第1の電荷発生層および第2の電荷発生層と、前記第1の電荷発生層および前記第2の電荷発生層に接し、前記第1の電荷発生層および前記第2の電荷発生層でそれぞれ発生した前記電荷を輸送する機能を有する電荷輸送層とを備え、
前記第1の電荷発生層と前記第2の電荷発生層とは、前記電荷輸送層の厚さ方向と垂直な方向に沿って異なる位置に配置され、前記電荷輸送層の厚さ方向の異なる位置に配置されていることを特徴とする。
これにより、従来技術に対して省電力での駆動が可能である。
【0007】
本発明の光導電スイッチング素子では、前記第1の電荷発生層は、前記第1の電極側に偏在しており、前記第2の電荷発生層は、前記第2の電極側に偏在していることが好ましい。
これにより、電流が光導電層を流れる場合において、電荷輸送層から電荷発生層の向きに電流が流れる際に、電荷輸送層と電荷発生層の界面が電荷移動に対するエネルギー障壁として作用し、且つ電極と電荷輸送層の界面が電荷移動に対するエネルギー障壁として作用する。このとき、第1の電荷発生層および第2の電荷発生層のうちいずれか一方の電荷発生層を経由することにより、前記エネルギー障壁を避けることができる。よって、電荷移動の際に前記エネルギー障壁を越え得る程度にまで電圧を増加させる必要がなく、よって、省電力での駆動が可能となる。
【0008】
本発明の光導電スイッチング素子では、前記第1の電荷発生層は、前記第1の電極に接しているか、または、前記第2の電荷発生層は、前記第2の電極に接していることが好ましい。
これにより、電流が光導電層を流れる場合において、電荷輸送層から電荷発生層の向きに電流が流れる際に、電荷輸送層と電荷発生層の界面が電荷移動に対するエネルギー障壁として作用し、且つ電極と電荷輸送層の界面が電荷移動に対するエネルギー障壁として作用する。このとき、第1の電荷発生層および第2の電荷発生層のうちいずれか一方の電荷発生層を経由することにより、前記エネルギー障壁を避けることができる。よって、電荷移動の際に前記エネルギー障壁を越え得る程度にまで電圧を増加させる必要がなく、よって、省電力での駆動が可能となる。
【0009】
本発明の光導電スイッチング素子では、前記第1の電極と前記第2の電極との間に電圧を印加した際に、電流は、前記第1の電極、前記第1の電荷発生層、前記電荷輸送層および前記第2の電極をこの順に流れる第1の状態と、前記第2の電極、前記第2の電荷発生層、前記電荷輸送層および前記第1の電極をこの順に流れる第2の状態とを取ることが好ましい。
これにより、電流が光導電層を流れる場合において、電荷輸送層から電荷発生層の向きに電流が流れる際に、電荷輸送層と電荷発生層の界面が電荷移動に対するエネルギー障壁として作用し、且つ電極と電荷輸送層の界面が電荷移動に対するエネルギー障壁として作用する。このとき、第1の電荷発生層および第2の電荷発生層のうちいずれか一方の電荷発生層を経由することにより、前記エネルギー障壁を避けることができる。よって、電荷移動の際に前記エネルギー障壁を越え得る程度にまで電圧を増加させる必要がなく、よって、省電力での駆動が可能となる。
【0010】
本発明の光導電スイッチング素子では、前記第1の電荷発生層および前記第2の電荷発生層は、それぞれ、前記電荷輸送層の厚さ方向からの平面視における面積が前記電荷輸送層の厚さ方向からの平面視における当該電荷輸送層の面積よりも小さいものであることが好ましい。
これにより、光導電スイッチング素子を例えば表示装置としての透明性を有する画像表示装置に用いた場合、その透明性を第1の電荷発生層および第2の電荷発生層がそれぞれ低下させてしまうのを防止または抑制することができる。
【0011】
本発明の光導電スイッチング素子では、前記電荷輸送層は、その前記第1の電荷発生層が配置されている部分の厚さが、前記第1の電荷発生層の厚さよりも厚く、前記第2の電荷発生層が配置されている部分の厚さが、前記第2の電荷発生層の厚さよりも厚いものであることが好ましい。
これにより、各層を積層して光導電スイッチング素子を製造する際、その製造を容易に行なうことができる。
【0012】
本発明の光導電スイッチング素子では、前記第1の電荷発生層と前記第2の電荷発生層とは、前記電荷輸送層の厚さ方向からの平面視にて互いに離間して配置されていることが好ましい。
これにより、第1の電荷発生層と第2の電荷発生層とをできる限り離間させることができ、例えば、電流が第1の電極側から第2の電極側に向かう際に、第2の電荷発生層と電荷輸送層の界面が当該電荷移動に対するエネルギー障壁となるのを防止することができる。また、電流が第2の電極側から第1の電極側に向かう際に、第1の電荷発生層と電荷輸送層の界面が当該電荷移動に対するエネルギー障壁となるのを防止することができる。
【0013】
本発明の光導電スイッチング素子では、前記第1の電極および前記第2の電極のうちの少なくとも一方の電極は、前記電荷輸送層の厚さ方向からの平面視における形状が四角形をなすものであり、
前記第1の電荷発生層と前記第2の電荷発生層とは、前記電荷輸送層の厚さ方向からの平面視にて前記四角形の対角線上の位置に配置されていることが好ましい。
これにより、第1の電荷発生層と第2の電荷発生層とをできる限り離間させることができ、例えば、電流が第1の電極側から第2の電極側に向かう際に、第2の電荷発生層と電荷輸送層の界面が当該電荷移動に対するエネルギー障壁となるのを防止することができる。また、電流が第2の電極側から第1の電極側に向かう際に、第1の電荷発生層と電荷輸送層の界面が当該電荷移動に対するエネルギー障壁となるのを防止することができる。
【0014】
本発明の光導電スイッチング素子では、前記第1の電荷発生層および前記第2の電荷発生層のうちの少なくとも一方は、前記電荷輸送層に埋設されていることが好ましい。
これにより、光導電スイッチング素子の厚さを抑えることができる。
本発明の光導電スイッチング素子では、前記第1の電極および前記第2の電極は、それぞれ、光透過性を有することが好ましい。
これにより、第1の電極および第2の電極がそれぞれ光導電スイッチング素子の透明性を妨げる、すなわち、透過率を低下させてしまうのを防止することができる。
【0015】
本発明の光導電スイッチング素子アレイでは、本発明の光導電スイッチング素子を複数備え、
前記複数の光導電スイッチング素子は、その面方向に行列状に配置されていることを特徴とする。
これにより、省電力で駆動が可能である。
【0016】
本発明の光導電スイッチング素子アレイでは、前記第1の電極および前記第2の電極のうちの少なくとも一方の電極同士は、連結または一体的に形成されていることが好ましい。
これにより、光導電スイッチング素子アレイを製造する際、電極を個別に形成する場合に比べて、その製造が容易となる。
【0017】
本発明の表示装置は、本発明の少なくとも1つの光導電スイッチング素子と、
前記光導電スイッチング素子の前記第1の電極側または前記第2の電極側に配置された液晶層とを備えることを特徴とする。
これにより、省電力で駆動が可能である。
本発明の表示装置では、前記液晶層は、光を透過する光透過状態と、光を拡散する光拡散状態とを取り得ることが好ましい。
これにより、光が照射されることによって所望のエリアを光散乱状態にするプロジェクタ用スクリーンを実現可能である。
本発明の画像形成装置は、本発明の表示装置と、
前記表示装置に光を照射することにより画像を描画するプロジェクターとを備えることを特徴とする。
これにより、省電力で駆動が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の画像形成装置の第1実施形態を示す図((a)は画像形成装置の概略構成を示す模式図、(b)は画像形成装置の使用例を示す図)である。
【図2】図1に示す画像形成装置が備えるプロジェクターの概略構成を示す図である。
【図3】図1に示す画像形成装置が備えるスクリーン(表示装置)を示す断面図である。
【図4】図1に示す画像形成装置が備えるスクリーン(表示装置)を示す断面図である。
【図5】図3に示すスクリーンが備える光導電スイッチング素子アレイの平面図である。
【図6】本発明の画像形成装置(第2実施形態)が備えるスクリーン(表示装置)を示す断面図である。
【図7】本発明の光導電スイッチング素子アレイの他の使用例(第3実施形態)を示す断面図である。
【図8】本発明の画像形成装置(第4実施形態)が備えるスクリーン(表示装置)を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の光導電スイッチング素子、光導電スイッチング素子アレイ、表示装置および画像形成装置を添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
<第1実施形態>
図1は、本発明の画像形成装置の第1実施形態を示す図((a)は画像形成装置の概略構成を示す模式図、(b)は画像形成装置の使用例を示す図)、図2は、図1に示す画像形成装置が備えるプロジェクターの概略構成を示す図、図3および図4は、それぞれ、図1に示す画像形成装置が備えるスクリーン(表示装置)を示す断面図、図5は、図3に示すスクリーンが備える光導電スイッチング素子アレイの平面図である。なお、以下では、説明の都合上、図1中の上側を「上」または「上方」、下側を「下」または「下方」と言う。また、図3および図4中(図6および図7についても同様)の下側を「前(正面)」または「前方」、上側を「後(背面)」または「後方」と言う。
【0020】
図1に示すように、画像形成装置100は、スクリーン580およびプロジェクター700を含んでいる。プロジェクター700は、データ供給部730、画像投射系731および不可視光投射系732を含んでいる。なお、図1(a)、(b)に示すXYZ直交座標系は、スクリーン580の主面に沿う方向をX方向、Y方向とし、スクリーン580の主面の法線方向をZ方向としている。X方向およびZ方向は例えば水平方向であり、Y方向は例えば鉛直方向である。
【0021】
第1実施形態の画像形成装置100は、概略すると以下のように動作する。スクリーン580は、アドレス光(不可視光)L2が入射した領域において、可視光に対する散乱状態(光拡散状態)と透過状態(光透過状態)とが切替わるようになっている。データ供給部730は、パーソナルコンピューター等の信号源800からプロジェクター700に対する入力画像データD0を受け取る。データ供給部730は、入力画像の一部である画像Pに対応する画像データD1を画像投射系731に出力する。データ供給部730は、スクリーン580において画像Pを表示する範囲を示す範囲データD2を不可視光投射系732に出力する。
【0022】
不可視光投射系732は、スクリーン580において画像Pを表示する表示領域Aを散乱状態にすべく、アドレス光L2を表示領域Aに対応したパターンでスクリーン580に投射する。画像投射系731は、画像データD1に基づいて可視光の画像Pを形成し、画像Pに対応する画像光(可視光)L1をスクリーン580に投射する。
スクリーン580において、画像光L1の入射領域である表示領域Aはアドレス光L2により散乱状態になっており、表示領域Aを除くスクリーン580は透過状態になっている。スクリーン580の表示領域Aで画像光L1が散乱されて散乱光L3となり、散乱光L3が観察者Mに観察されることにより画像Pが表示される。スクリーン580に対して観察者Mと反対側の背景BGからの可視光L4は、スクリーン580の表示領域Aを除く部分を透過して観察者Mに観察される。実空間の背景BGと同化した画像Pが表示され、多彩な空間演出が可能になっている。
【0023】
以下、画像形成装置100が備えるプロジェクター700、スクリーン580の各構成について説明する。
図2に示すように、プロジェクター700は、データ供給部730、画像投射系731および不可視光投射系732を含んでいる。本実施形態のプロジェクター700は、入力画像のうちの所望の部分を部分画像とし、この部分画像を画像Pとして表示するようになっている。プロジェクター700は、例えばスクリーン580に対して表示側(観察者M)と反対側における、スクリーン580を通した観察者Mの視野範囲外に配置される。
【0024】
画像投射系731は、第1光源装置7311、第1光変調素子7312および第1投射光学系7313を含んでいる。第1光源装置7311は、ランプ光源や固体光源等を含んで構成され、可視光を含んだ光を射出する。第1光変調素子7312は、透過型もしくは反射型の液晶ライトバルブ、またはデジタルミラーデバイス(DMD)等により構成される。第1光変調素子7312は、第1光源装置7311から射出された光を画像データD1に基づいて変調し、画像光L1として射出する。第1投射光学系7313は、第1光変調素子7312から射出された画像光L1をスクリーン580に投射する。
【0025】
画像投射系731は、実際には複数の色光(例えば赤、緑、青)ごとに画像光を形成し、複数の色光による画像光をダイクロイックプリズム等の色合成素子により合成した後に、第1投射光学系7313によって投射する。複数の色光ごとに第1光変調素子が設けられている。
画像投射系731の具体的な構成例として、第1光源装置としてのランプ光源から射出された光を、複数の色光に色分離して第1光変調素子に供給する構成がある。この構成では、色光ごとに第1光変調素子が設けられ、1つの第1光源装置に対して複数の第1光変調素子が設けられる。
【0026】
不可視光投射系732は、第2光源装置7321、第2光変調素子7322および第2投射光学系7323を含んでいる。第2光源装置7321は、ランプ光源や固体光源等により構成され、不可視光(ここでは近赤外光)を含んだ光を射出する。第2光変調素子7322は、第1光変調素子7312と同様に各種光変調素子により構成される。第2光変調素子7322は、第2光源装置7321から射出された光を範囲データD2に基づいて変調する。入射光は、第2光変調素子7322の画素ごとに例えば2階調に(明または暗の2値に)変調されて、画像Pに対応するパターンのアドレス光L2になる。換言すると、アドレス光L2は不可視光の画像になっており、この画像の輪郭は画像Pの輪郭と略一致している。
【0027】
第2投射光学系7323は、第2光変調素子7322から射出されたアドレス光L2を、スクリーン580上で画像光L1と重なるように投射する。本実施形態の第2投射光学系7323は、第1投射光学系7313と連動してフォーカスやズームが制御される。これにより、スクリーン580においてアドレス光L2が投射される領域(以下、IR入射領域と称する)を表示領域Aと高精度に対応させることが可能になっている。
【0028】
データ供給部730は、表示範囲設定部7301および画像抽出部7302を含んでいる。表示範囲設定部7301は、入力画像において表示すべき範囲(部分画像の範囲)を示す範囲データD2を、画像抽出部7302および第2光変調素子7322に出力する。部分画像の範囲は、例えばユーザーの入力により設定される。画像抽出部7302は、入力画像データD0において画像Pを構成する画素の階調値を保持し、画像P以外の画素の階調値をブランク(例えば黒)に書換えることにより、画像データD1を生成する。画像抽出部7302は、画像データD1を第1光変調素子7312に出力する。
【0029】
スクリーン580は、例えばステージ(図示せず)によって起立した状態で支持されている。また、スクリーン580は、画像Pを表示しないときは、無色透明または青味掛った透明(本実施形態では代表的に「無色透明」とする)の透過状態であり、まるで透明ガラス板のようにその背後を視認できるようになっている。そして、プロジェクター700によって、スクリーン580に画像Pを表示する(描画する)際には、スクリーン580の画像Pが表示される領域のみを白濁した状態(散乱状態)とし、その白濁した状態の領域にプロジェクター700から画像光L1を照射することにより、スクリーン580に所望の画像を表示する。この際、画像Pが表示されていない領域は、透過状態を保ったままである。そのため、このような構成の画像形成装置100によれば、第1に、未使用時(画像Pを表示しないとき)にスクリーン580が視覚的に邪魔にならないという利点がある。第2に、使用時(画像Pを表示しているとき)には、透明な板に画像Pが視認性よく表示されるため、観察者Mに画像が浮き出ているような感覚を与えることができ、表示されている画像への興味・関心を効果的に持たせることができる。すなわち、画像形成装置100によれば、例えば、優れた広告宣伝効果を発揮することができる。
【0030】
また、本実施形態では、プロジェクター700は、スクリーン580の近傍、すなわち、スクリーン580の下後方に設けられておりスクリーン580に対して近接投影にて画像を表示するように構成されている。また、プロジェクター700は、スクリーン580の最もプロジェクター700に近い部位から1m以内に設けられている。このように、プロジェクター700をスクリーン580の近傍に設けることにより、プロジェクター700から照射される画像光L1が例えば他の展示品等の障害物によって遮られてしまうのを効果的に防止することができ、スクリーン580に所望の画像をより確実に表示することができる。
【0031】
このような配置のスクリーン580は、第1の基板510と、第1の共通電極(第1の電極)2を有する光導電スイッチング素子アレイ1(光導電スイッチング素子集合体)と、配向膜530と、液晶高分子複合層(液晶層)540と、配向膜550と、第2の共通電極561と、第2の基板560とが正面(前面)側からこの順に積層されたものである(図3、図4参照)。また、光導電スイッチング素子アレイ1は、第1の共通電極2の他に、第1の共通電極2と対向配置された多数の個別電極(第2の電極)3と、第1の共通電極2と各個別電極3との間に配置され、アドレス光L2を受光することにより導電性が発現する光導電層4とを有している。また、第1の共通電極2と第2の共通電極561とは、それぞれ、電圧印加手段570と電気的に接続されている。この電圧印加手段570により、第1の共通電極2と第2の共通電極561との間に電圧を印加することができる。
【0032】
このような構成とすることにより、簡単に、前述したような透過状態と散乱状態とを切り替えることのできるスクリーン580を得ることができる。
なお、図3〜図5に示すように、光導電スイッチング素子アレイ1は、個別電極3ごとに、多数(複数)の光導電スイッチング素子11に分けることができる。換言すれば、光導電スイッチング素子アレイ1は、その面方向に行列状に配置された多数の光導電スイッチング素子11が連結した(集合した)ものである。これにより、各光導電スイッチング素子11は、それぞれ、独立して駆動することができる。
【0033】
第1の基板510および第2の基板560は、それぞれ、シート状(平板状)の部材で構成され、これらの間に配置される各部材を支持および保護する機能を有している。また、第1の基板510および第2の基板560は、それぞれ、光透過性を有しており実質的に無色透明である。第1の基板510および第2の基板560は、それぞれ、可撓性を有していてもよく、硬質であってもよい。
【0034】
第1の基板510および第2の基板560の構成材料としては、それぞれ、特に限定されず、例えば、ガラス、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネートなどの高分子フィルムを用いることができる。
第1の基板510の背面には、膜状の第1の共通電極2が形成されている。この第1の共通電極2に対向するように、膜状の各個別電極3がそれぞれ形成されている。また、第2の基板560の前面には、第2の共通電極561が形成されている。
【0035】
第1の共通電極2、個別電極3および第2の共通電極561は、それぞれ、光透過性を有しており実質的に無色透明である。これにより、各電極がそれぞれスクリーン580の透明性を妨げる、すなわち、透過率を低下させてしまうのを防止することができる。
このような第1の共通電極2および第2の共通電極561は、それぞれ、電圧印加手段570に電気的に接続されており、当該電圧印加手段570によって、第1の共通電極2と第2の共通電極561と間に電圧を印加することができる。このとき光導電層4が低抵抗成分をもっていると、第1の共通電極2と各個別電極3との間に電位差が生じる、すなわち、光導電層4で電圧降下が発生する。これにより、第1の共通電極2と各個別電極3との間に電界が生じ、当該生じた電界が光導電層4に作用するとともに、各個別電極3と第2の共通電極561との間にも電界が生じ、当該生じた電界が液晶高分子複合層540に作用する。
【0036】
第1の共通電極2、個別電極3および第2の共通電極561の構成材料としては、それぞれ、実質的に導電性を有し、かつ実質的に無色透明であれば特に限定されず、例えば、金、銀、銅、アルミニウムまたはこれらを含む合金等の金属材料、カーボンブラック等の炭素系材料、ポリアセチレン、ポリフルオレンまたはこれらの誘導体等の電子導電性高分子材料、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート等のマトリックス樹脂中に、NaCl、Cu(CFSO等のイオン性物質を分散させたイオン導電性高分子材料、インジウム酸化物(IO)、インジウムスズ酸化物(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)等の導電性酸化物材料のような各種導電性材料が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
第1の共通電極2と個別電極3との間には、光導電層4が配置されている。この光導電層4の構成については、後述する。
個別電極3と第2の共通電極561との間には、液晶高分子複合層540が配置されている。液晶高分子複合層540は、高分子542の粒子が液晶541中に分散して相分離した状態となっている(図3、図4参照)。なお、本実施形態の液晶高分子複合層540では、高分子542の粒子が液晶541中に分散しているが、これと逆に、液晶541の粒子が高分子542中に分散するようにしてもよい。
【0038】
高分子542としては、液晶相の状態において液晶541と相溶して、その後、硬化する際に、液晶541と相分離するものが使用される。このような高分子542としては、例えば、高分子主鎖にベンゼン骨格あるいはビフェニル骨格を有する側鎖をつけたものであれば、熱可塑性高分子、熱硬化型高分子、紫外線硬化型高分子の別を問わず、広く用いることができる。
【0039】
一方、液晶541としては、例えば電界方向と平行方向に配向する正の誘電異方性を有するものが使用される。このような液晶541としては、例えば、フェニルシクロヘキサン誘導体液晶、ビフェニル誘導体液晶、ビフェニルシクロヘキサン誘導体液晶、テルフェニル誘導体液晶、フェニルエーテル誘導体液晶、フェニルエステル誘導体液晶、ビシクロヘキサン誘導体液晶、アゾメチン誘導体液晶、アゾキシ誘導体液晶、ピリミジン誘導体液晶、ジオキサン誘導体液晶、キュバン誘導体液晶等を用いることができる。また、液晶541としては、スクリーン580のコントラストを向上させる為に、屈折率異方性ができるだけ大きいものを用いることが好ましい。
【0040】
液晶高分子複合層540の両面には、それぞれ、配向膜530、550が形成されている。配向膜530、550は、液晶高分子複合層540の液晶541および高分子542を第1の基板510および第2の基板560と平行な方向に配向させる配向処理が施されている。高分子542は、配向する際は液晶相であるが、その後、硬化される為、その配向状態が保たれたまま固定されている。このため、高分子542は、その後、電界が印加されても配向方向が電界方向に揃うことはない。一方、液晶541は、配向状態が固定されていない為、電界を印加すると電界方向に揃うことになる。
【0041】
従って、液晶高分子複合層540に電界を印加していない場合には、高分子542と液晶541の配向方向は、第1の基板510および第2の基板560に対して平行方向に一致する状態(液晶541と高分子542が揃って配向する状態)となる。この状態において、両者の屈折率を一致させることにより、スクリーン580は透明状態(透過状態)となる。
【0042】
反対に、液晶高分子複合層540に電界を印加した場合には、液晶541の配向方向が電界方向に揃うため(液晶541と高分子542が異なる方向へ配向する状態となるため)、電界方向において、液晶541と高分子542と界面で屈折率の不一致により光散乱状態となり、スクリーン580は白濁状態(散乱状態)となる。
このような液晶高分子複合層540によれば、電圧が印加されていないときは、無色透明な透過状態となり、電圧を印加することにより白濁した散乱状態とすることができるため、画像形成装置100の用途に適したスクリーン580を得ることができる。なお、このような透過状態と散乱状態との切り替えは、スクリーン580の各部位、すなわち、各光導電スイッチング素子11で独立して行うことができる。
この透過状態と散乱状態との切り替えについて詳細に説明する。
【0043】
高分子542および液晶541は、同様の屈折率異方性を示し、配向方向と平行方向における屈折率は1.5程度あり、配向方向と垂直方向の屈折率は1.7程度である。液晶高分子複合層540に電界が印加されていない状態では、液晶541が高分子542と同方向に配向しているため、第1の基板510および第2の基板560と垂直な方向における液晶541と高分子542の屈折率が一致する。従って、この状態では、スクリーン580は、透過率80%程度の実質的に無色透明な状態(透過状態)となる。
【0044】
一方、電圧印加手段570によって、第1の共通電極2および第2の共通電極561間に電圧を印加し、かつ、液晶高分子複合層540に電界が作用した条件において、高分子542の配向方向はそのままであるのに対し、液晶541だけが電界方向、つまり第1の基板510および第2の基板560に対して垂直な方向に配向する。このため、第1の基板510および第2の基板560と垂直な電界方向において、高分子542の屈折率は1.7程度のままであるのに対し、液晶541の屈折率が1.5程度に変化する。従って、電界方向における高分子542と液晶541の屈折率の差が0.2程度となり、第1の基板510および第2の基板560と垂直な方向から入射した光は、散乱することなる。その結果、この状態では、スクリーン580は、電界方向において白濁する状態(散乱状態)となる。
以上のような構成のスクリーン580の使用方法について説明する。
【0045】
まず、電圧印加手段570により、第1の共通電極2および第2の共通電極561間に、所定の大きさの交流電圧を予め印加しておく(以下では、この状態を「スタンバイ状態」とも言う)。スタンバイ状態で印加する電圧の大きさは、スクリーン580が例えば80%程度の高い透過率を保ち、実質的に無色透明の状態を保つ程度の大きさである。そして、このスタンバイ状態から液晶高分子複合層540にかかる電圧を少し増加させることによってスクリーン580を散乱状態に変化させることができる。
【0046】
また、スタンバイ状態のスクリーン580の所望の部位(微少領域)にプロジェクター700からアドレス光L2を照射する。すると、アドレス光L2が照射された部位では、アドレス光L2が照射されることにより光導電層4の電気抵抗が低下し、液晶高分子複合層540に印加される実際の電圧が高くなる。これにより、この部位の透過率が低下して白濁し散乱状態となる。一方、アドレス光L2が照射されない部位については、液晶高分子複合層540に印加されている電圧の強さが変化しないため無色透明な状態を維持している。そして、白濁した状態の部位を、スクリーン580に表示する画像Pに対応して、すなわち画像Pを表示する領域として用いることができる。
【0047】
スクリーン580に照射するアドレス光L2の光量としては、アドレス光L2を照射した部位の透過率を低下させることができれば特に限定されないが、スクリーン580の透過率が20%以下となるような光量であるのが好ましく、5%以下となるような光量であるのがより好ましい。
このように、スクリーン580は、スタンバイ状態では無色透明とし、画像がP表示される領域のみを散乱状態とするように使用される。これにより、スクリーン580は、例えば前述のような優れた広告宣伝効果を発揮するディジタルサイネージ(電子看板)であると言うことができる。
【0048】
さて、前述したように、第1の共通電極2と個別電極3との間には、光導電層4が配置されている。この光導電層4は、光透過性を有し実質的に無色透明である。また、光導電層4は、アドレス光L2が照射されると、その光量に応じてインピーダンスが変化するものである。
そして、図3〜図5に示すように、個別電極3ごとに分けられた各光導電スイッチング素子11では、それぞれ、光導電層4が、第1の電荷発生層41と、第2の電荷発生層42と、電荷輸送層43とで構成されている。各光導電スイッチング素子11の構成は、それぞれ、同じであるため、以下、1つの光導電スイッチング素子11について代表的に説明する。
【0049】
光導電スイッチング素子11の大きさは、例えば、平面視で1辺が0.5〜10mmの正方形とするのが好ましく、0.5〜1mmの正方形とするのがより好ましい。
第1の電荷発生層41は、アドレス光L2を受光した際に電荷を発生する機能を有している。これと同様に、第2の電荷発生層42も、アドレス光L2を受光した際に電荷を発生する機能を有している。このような第1の電荷発生層41および第2の電荷発生層42は、それぞれ、例えば、電荷発生物質を蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、CVD法などによって成膜したもの、電荷発生物質を樹脂バインダーに分散し、バーコート法、スピンコート法、ロールコート法、ディップ法、キャスティング法などによって塗布したもので構成される。電荷発生物質としては、p型の有機半導体材料を用いることができ、例えば、フタロシアニン系、アゾ系、多環キノン系、インジゴ系、キナクリドン系、ペリレン系、スクエアリウム系、アズレニウム系、シアニン系、ピリリウム系などの有機材料を用いることができる。また、樹脂バインダーとしては、特に限定されず、例えば、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリビニルアセテート、ポリビニルブチラール、アクリル、メタクリル、塩化ビニル、酢酸ビニル、これらの共重合体などを用いることができる。
【0050】
電荷輸送層43は、第1の電荷発生層41や第2の電荷発生層42でそれぞれ発生した電荷を輸送する機能を有している。この電荷輸送層43は、例えば、電荷輸送物質を樹脂バインダーに分散し、バーコート法、スピンコート法、ロールコート法、ディップ法、キャスティング法などによって塗布したもので構成される。電荷輸送物質としては、電荷発生材料にp型の有機半導体を用いた場合には電子供与性の正孔輸送材料が用いられ、例えば、カルバゾール系、トリアゾール系、オキサジアゾール系、イミダゾール系、ピラゾリン系、ヒドラゾン系、スチルベン系、アミン系、ニトロフルオレノン系などの有機材料を用いることができる。また、樹脂バインダーとしては、例えば、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリビニルアセテート、ポリビニルブチラール、アクリル、メタクリル、塩化ビニル、酢酸ビニル、これらの共重合体などを用いることができる。
【0051】
このような第1の電荷発生層41と第2の電荷発生層42と電荷輸送層43とを有する光導電スイッチング素子11では、第1の電荷発生層41と第2の電荷発生層42とが、電荷輸送層43の厚さ方向と垂直な方向(いわゆる、電荷輸送層43の面内方向)に沿って異なる位置に配置されている、すなわち、図3〜図5中の左右方向に互いにズレて(離間して)配置されている。具体的には、図5に示すように、個別電極3が電荷輸送層43の厚さ方向からの平面視にて正方形をなし、その対角線上に第1の電荷発生層41と第2の電荷発生層42とが配置されている。なお、電荷輸送層43の厚さ方向とは、前面431と背面432との面間距離が最小となる方向(前面431または背面432の法線方向)である。これにより、第1の電荷発生層41と第2の電荷発生層42とをできる限り離間させることができ、例えば、後述するように電流ECが第1の共通電極側から個別電極3側に向かう際に(図3参照)、第2の電荷発生層42と電荷輸送層43との界面が当該電荷移動に対するエネルギー障壁(バリア)となるのを防止することができる。また、電流ECが個別電極3側から第1の共通電極側に向かう際に(図4参照)、第1の電荷発生層42と電荷輸送層43の界面が当該電荷移動に対するエネルギー障壁となるのを防止することができる。
【0052】
なお、第1の電荷発生層41と第2の電荷発生層42との離間距離は、例えば、電荷輸送層43の最大厚さtmaxと同じかまたはそれよりも大きいのが好ましい。
また、第1の電荷発生層41および第2の電荷発生層42の平面視での形状は、それぞれ、図5に示す構成では正方形であるが、これに限定されず、例えば、長方形、円形、楕円形、扇形等であってもよい。
【0053】
また、第1の電荷発生層41と第2の電荷発生層42とは、電荷輸送層43の厚さ方向にも異なる位置に配置されている、すなわち、図3、図4中の上下方向にもズレて配置されている。具体的には、図3、図4に示すように、第1の電荷発生層41は、第1の共通電極2側に偏在している。第1の電荷発生層41が第1の共通電極2側に偏在しているとは、第1の電荷発生層41が個別電極3よりも第1の共通電極2に近い位置となるように、幾何的に偏って設けられることを意味する。この場合、特に、第1の電荷発生層41が第1の共通電極2に接しているのが好ましい。一方、第2の電荷発生層42は、個別電極3側に偏在している。第2の電荷発生層42が個別電極3側に偏在しているとは、第2の電荷発生層42が第1の共通電極2よりも個別電極3に近い位置となるように、幾何的に偏って設けられることを意味する。この場合、特に、第2の電荷発生層42が個別電極3に接しているのが好ましい。
【0054】
また、第1の電荷発生層41と第2の電荷発生層42とは、それぞれ、その全体が電荷輸送層43に埋設されている。換言すれば、第1の電荷発生層41の前面411は、電荷輸送層43の前面431と同一面上に位置し、第2の電荷発生層42の背面421は、電荷輸送層43の背面432と同一面上に位置している。
光導電スイッチング素子11では、上記のような位置関係で、第1の電荷発生層41、第2の電荷発生層42および電荷輸送層43が配置されている。
そして、第1の共通電極2と第2の共通電極3との間に交流電圧を印加した際、光導電スイッチング素子11の光導電層4内を流れる電流ECには、第1の共通電極2側から第2の共通電極3側に向かう場合(図3参照)と、その反対に、第2の共通電極3側から第1の共通電極2側に向かう場合(図4参照)とがある。
【0055】
ここで、仮に第1の電荷発生層41および第2の電荷発生層42のうちの一方の電荷発生層(例えば第1の電荷発生層41)を省略した場合を考えてみる。この場合、図4に示す状態において第1の共通電極2が第2の共通電極561に対して負のバイアスがかかっているとき、光導電層4にアドレス光L2が照射されると、第2の電荷発生層42で電荷が発生して、図4中の矢印方向に電流ECが生じ、光導電層4が低抵抗成分となる。逆に第1の共通電極2が第2の共通電極561に対して正のバイアスがかかっているとき、光導電層4にアドレス光L2が照射されると、第2の電荷発生層42で電荷が発生して、図3中の矢印方向に電流ECを生じさせようとするが、このとき、第2の電荷発生層42と電荷輸送層43との界面およびその周辺が電荷に対するエネルギー障壁として作用するとともに、第1の共通電極2と電荷輸送層43の界面も電荷移動に対するエネルギー障壁として作用してしまうため、電流ECが確実に図3中の矢印方向へ流れるには、これらのエネルギー障壁を越え得る程度まで、電圧を増大して印加しなければならない。
【0056】
これに対し、光導電スイッチング素子11では、第1の電荷発生層41および第2の電荷発生層42の双方が光導電層4に設けられている。これにより、図3に示すように、電流ECは、第2の電荷発生層42を経ずに、優先的に第1の共通電極2、第1の電荷発生層41、第1の電荷発生層配置部433(電荷輸送層43)および個別電極3をこの順に流れることができる(第1の状態)。また、第1の共通電極2と第2の共通電極3との間には、交流電圧が印加されるため、第1の状態と反対の状態、すなわち、電流ECは、第1の電荷発生層41を経ずに、優先的に個別電極3、第2の電荷発生層42、第2の電荷発生層配置部434(電荷輸送層43)および第1の共通電極2をこの順に流れることができる(第2の状態)。
【0057】
このように光導電スイッチング素子11が第1の状態と第2の状態とを取り得ることができることにより、前述のエネルギー障壁を越え得る程度にまで電圧を増加させることなく、光導電層4を低抵抗成分とすることが可能となる。これにより、スクリーン580の透過率が極小値となる駆動電圧をできる限り小さくできる、すなわち、省電力でスクリーン580の駆動が可能となる。
【0058】
図5に示すように、光導電スイッチング素子11では、第1の電荷発生層41および第2の電荷発生層42の電荷輸送層43の厚さ方向からの平面視における各面積は、それぞれ、電荷輸送層43の厚さ方向からの平面視における電荷輸送層43の面積よりも小さい。第1の電荷発生層41および第2の電荷発生層42の各面積の和は、例えば、電荷輸送層43の面積の50%以下であるのが好ましく、0.1〜20%であるのがより好ましく、0.1〜1%であるのがさらに好ましい。
【0059】
第1の電荷発生層41および第2の電荷発生層42は、それぞれ、単独では光透過性が比較的低いものであるが、第1の電荷発生層41および第2の電荷発生層42の各面積の和を前記数値範囲に設定することにより、スクリーン580の全体としての透明性の低下を防止または抑制することができる。
また、第1の電荷発生層41および第2の電荷発生層42の各面積の大きさを適宜設定することにより、光導電層4でのインピーダンスを変更することもでき、所望のインピーダンスに設定したい場合の第1の電荷発生層41および第2の電荷発生層42の設計の自由度も増す。
【0060】
図3(図4についても同様)に示すように、光導電スイッチング素子11では、電荷輸送層43は、その第1の電荷発生層41が配置されている部分(第1の電荷発生層配置部433)の厚さtが、第1の電荷発生層41の厚さtよりも厚い。また、電荷輸送層43の第2の電荷発生層が配置されている部分(第2の電荷発生層配置部434)の厚さtも、第2の電荷発生層の厚さtよりも厚い。
このような層厚の大小関係により、各層を積層して光導電スイッチング素子アレイ1(光導電スイッチング素子11)を製造する際、その製造を容易に行なうことができる。
【0061】
なお、厚さtと厚さtとは、同じ大きさであり、厚さtと厚さtとも、同じ大きさである。
また、図3、図4に示すように、光導電スイッチング素子アレイ1では、第1の共通電極2が各光導電スイッチング素子11をまたいで形成されている。すなわち、第1の共通電極2の各個別電極3に対向する部分をそれぞれ「第1の電極21」としたとき、各第1の電極21同士は、連結または一体的に形成されているものであると言うことができる。このような構成より、各個別電極3にそれぞれ対応して各第1の電極21を設ける場合に比べて、光導電スイッチング素子アレイ1を簡単な構成のものとすることができ、また、各個別電極3にそれぞれ対応する電極を一括して形成することができ、よって、光導電スイッチング素子アレイ1の製造が容易となる。
【0062】
<第2実施形態>
図6は、本発明の画像形成装置(第2実施形態)が備えるスクリーン(表示装置)を示す断面図である。
以下、この図を参照して本発明の光導電スイッチング素子、光導電スイッチング素子アレイ、表示装置および画像形成装置の第2実施形態について説明するが、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
【0063】
本実施形態は、第2の電荷発生層の配置位置が異なること以外は前記第1実施形態と同様である。
図6に示すように、本実施形態の光導電スイッチング素子11では、第2の電荷発生層42は、個別電極3に埋設されている、すなわち、電荷輸送層43から突出している。これにより、光導電スイッチング素子アレイ1を製造する際、例えばスクリーン印刷で第1の共通電極2、第1の電荷発生層41、電荷輸送層43、第2の電荷発生層42、個別電極3を順に積層して成膜することができ、よって、その製造が容易となる。
【0064】
<第3実施形態>
図7は、本発明の光導電スイッチング素子アレイの他の使用例(第3実施形態)を示す断面図である。
以下、この図を参照して本発明の光導電スイッチング素子、光導電スイッチング素子アレイ、表示装置および画像形成装置の第3実施形態について説明するが、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
【0065】
本実施形態は、光導電スイッチング素子アレイの正面側の構成が異なること以外は前記第1実施形態と同様である。
図7に示すように、本実施形態では、前記第1実施形態での配向膜530、液晶高分子複合層540、配向膜550、第2の共通電極561、第2の基板560がそれぞれ省略され、それに代えて、電気抵抗600で記述される電気的素子がそれぞれ各個別電極3に接続されている。各抵抗は、それぞれ、電圧印加手段570と個別電極3との間に配置されている。このような構成によっても、前記第1実施形態と同様に、省電力で、光導電スイッチング素子アレイ1の駆動が可能となる。
【0066】
<第4実施形態>
図8は、本発明の画像形成装置(第4実施形態)が備えるスクリーン(表示装置)を示す断面図である。なお、図8中では、左側が「上」または「上方」、右側を「下」または「下方」、上側が「前(正面)」または「前方」、下側が「後(背面)」または「後方」である。
【0067】
以下、この図を参照して本発明の光導電スイッチング素子、光導電スイッチング素子アレイ、表示装置および画像形成装置の第4実施形態について説明するが、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
本実施形態は、スクリーンの表裏を反転したこと以外は前記第1実施形態と同様である。
【0068】
図8に示すように、本実施形態でのスクリーン580は、前記第1実施形態でのスクリーン580と異なり、第2の基板560側が正面側になり、第1の基板510側が背面側となり、この第1の基板510側(光導電スイッチング素子アレイ1)から画像光L1やアドレス光L2を入射させて用いられる。そして、画像光L1やアドレス光L2が入射することにより、各光導電スイッチング素子11がそれぞれ第1の状態と第2の状態とを取り得ることができることにより、エネルギー障壁を越え得る程度にまで電圧を増加させることなく、光導電層4を低抵抗成分とすることが可能となる。
【0069】
このようにスクリーン580は、表裏を反転して用いることができ、その場合でも、前記第1実施形態でも述べたように、当該スクリーン580の透過率が極小値となる駆動電圧をできる限り小さくできる、すなわち、省電力での駆動が可能となる。
以上、本発明の光導電スイッチング素子、光導電スイッチング素子アレイ、表示装置および画像形成装置を図示の実施形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、光導電スイッチング素子、光導電スイッチング素子アレイ、表示装置および画像形成装置を構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。また、任意の構成物が付加されていてもよい。
【0070】
また、本発明の光導電スイッチング素子、光導電スイッチング素子アレイ、表示装置および画像形成装置は、前記各実施形態のうちの、任意の2以上の構成(特徴)を組み合わせたものであってもよい。
また、表示装置は、前記各実施形態では行列状に配置された多数の光導電スイッチング素子を有するものであったが、これに限定されず、1つの光導電スイッチング素子を有するものであってもよい。
【0071】
また、表示装置では、液晶高分子複合層は、前記各実施形態では電圧非印加時に透過状態となるものであるが、これに限定されず、電圧印加時に透過状態となるものであってもよいし、液晶高分子複合層を、一般的なTNモードの液晶層としてもよい。
また、個別電極の平面視での形状は、正方形の他、長方形等のような四角形であってもよし、円形、楕円形等のような丸みを帯びた形状であってもよい。
また、第1の電荷発生層および第2の電荷発生層中の電荷発生物質としては、前述したような有機材料の他に、無機材料も用いることができる。
【符号の説明】
【0072】
100……画像形成装置 1……光導電スイッチング素子アレイ(光導電スイッチング素子集合体) 11……光導電スイッチング素子 2……第1の共通電極 21……第1の電極 3……個別電極(第2の電極) 4……光導電層 41……第1の電荷発生層 411……前面 42……第2の電荷発生層 421……背面 43……電荷輸送層 431……前面 432……背面 433……第1の電荷発生層配置部 434……第2の電荷発生層配置部 510……第1の基板 530、550……配向膜 540……液晶高分子複合層(液晶層) 541……液晶 542……高分子 560……第2の基板 561……第2の共通電極 570……電圧印加手段 580……スクリーン 600……電気抵抗 700……プロジェクター 730……データ供給部 7301……表示範囲設定部 7302……画像抽出部 731……画像投射系 7311……第1光源装置 7312……第1光変調素子 7313……第1投射光学系 732……不可視光投射系 7321……第2光源装置 7322……第2光変調素子 7323……第2投射光学系 800……信号源 A……表示領域 BG……背景 EC……電流 D0……入力画像データ D1……画像データ D2……範囲データ L1……画像光(可視光)
L2……アドレス光(不可視光) L3……散乱光 L4……可視光 M……観察者 P……画像 t、t、t、t……厚さ tmax……最大厚さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極と、
前記第1の電極に対向して配置され、該第1の電極との間で電圧が印加される第2の電極と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に配置され、光を受光することにより導電性が発現する光導電層とを備え、
前記光導電層は、光を受光した際に電荷を発生する機能を有する第1の電荷発生層および第2の電荷発生層と、前記第1の電荷発生層および前記第2の電荷発生層に接し、前記第1の電荷発生層および前記第2の電荷発生層でそれぞれ発生した前記電荷を輸送する機能を有する電荷輸送層とを備え、
前記第1の電荷発生層と前記第2の電荷発生層とは、前記電荷輸送層の厚さ方向と垂直な方向に沿って異なる位置に配置され、前記電荷輸送層の厚さ方向の異なる位置に配置されていることを特徴とする光導電スイッチング素子。
【請求項2】
前記第1の電荷発生層は、前記第1の電極側に偏在しており、前記第2の電荷発生層は、前記第2の電極側に偏在している請求項1に記載の光導電スイッチング素子。
【請求項3】
前記第1の電荷発生層は、前記第1の電極に接しているか、または、前記第2の電荷発生層は、前記第2の電極に接している請求項2に記載の光導電スイッチング素子。
【請求項4】
前記第1の電極と前記第2の電極との間に電圧を印加した際に、電流は、前記第1の電極、前記第1の電荷発生層、前記電荷輸送層および前記第2の電極をこの順に流れる第1の状態と、前記第2の電極、前記第2の電荷発生層、前記電荷輸送層および前記第1の電極をこの順に流れる第2の状態とを取る請求項2または3に記載の光導電スイッチング素子。
【請求項5】
前記第1の電荷発生層および前記第2の電荷発生層は、それぞれ、前記電荷輸送層の厚さ方向からの平面視における面積が前記電荷輸送層の厚さ方向からの平面視における当該電荷輸送層の面積よりも小さいものである請求項1ないし4のいずれかに記載の光導電スイッチング素子。
【請求項6】
前記電荷輸送層は、その前記第1の電荷発生層が配置されている部分の厚さが、前記第1の電荷発生層の厚さよりも厚く、前記第2の電荷発生層が配置されている部分の厚さが、前記第2の電荷発生層の厚さよりも厚いものである請求項1ないし5のいずれかに記載の光導電スイッチング素子。
【請求項7】
前記第1の電荷発生層と前記第2の電荷発生層とは、前記電荷輸送層の厚さ方向からの平面視にて互いに離間して配置されている請求項1ないし6のいずれかに記載の光導電スイッチング素子。
【請求項8】
前記第1の電極および前記第2の電極のうちの少なくとも一方の電極は、前記電荷輸送層の厚さ方向からの平面視における形状が四角形をなすものであり、
前記第1の電荷発生層と前記第2の電荷発生層とは、前記電荷輸送層の厚さ方向からの平面視にて前記四角形の対角線上の位置に配置されている請求項7に記載の光導電スイッチング素子。
【請求項9】
前記第1の電荷発生層および前記第2の電荷発生層のうちの少なくとも一方は、前記電荷輸送層に埋設されている請求項1ないし8のいずれかに記載の光導電スイッチング素子。
【請求項10】
前記第1の電極および前記第2の電極は、それぞれ、光透過性を有する請求項1ないし9のいずれかに記載の光導電スイッチング素子。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれかに記載の光導電スイッチング素子を複数備え、
前記複数の光導電スイッチング素子は、その面方向に行列状に配置されていることを特徴とする光導電スイッチング素子アレイ。
【請求項12】
前記第1の電極および前記第2の電極のうちの少なくとも一方の電極同士は、連結または一体的に形成されている請求項11に記載の光導電スイッチング素子アレイ。
【請求項13】
請求項1ないし12のいずれかに記載の少なくとも1つの光導電スイッチング素子と、
前記光導電スイッチング素子の前記第1の電極側または前記第2の電極側に配置された液晶層とを備えることを特徴とする表示装置。
【請求項14】
前記液晶層は、光を透過する光透過状態と、光を拡散する光拡散状態とを取り得る請求項13に記載の表示装置。
【請求項15】
請求項13または14に記載の表示装置と、
前記表示装置に光を照射することにより画像を描画するプロジェクターとを備えることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−220692(P2012−220692A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85826(P2011−85826)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】