説明

光干渉測長装置

【課題】位置決め装置を初期化する際に、短時間で移動体の絶対位置測定が可能であり、なおかつ長時間に渡り安定した移動体の移動量測定が可能な光干渉測長装置を提供する。
【解決手段】移動体であるスライダ10の移動量を測定する光干渉測長装置は、光を測定光と参照光に分離し、測定光を、スライダ10に設置された測定ミラー9によって反射させ、参照光を参照ミラー8によって反射させる。測定ミラー9による測定光路の屈折率を、チャンバー2の内部の気圧を増減させることによって変化させ、屈折率の変化による干渉計の測長値の変化から、スライダ10の絶対位置を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リニアステージ等の移動体の移動量を測定するための光干渉測長装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常の光干渉測長方法では、移動反射鏡によって反射された測定光と、固定反射鏡によって反射された参照光との干渉光を得る干渉計を用い、移動反射鏡の移動に伴って生じる干渉光の位相変化を積算することにより、移動体の移動量を測定する。位相変化の積算により求められる移動量は、移動反射鏡の相対移動量であり、移動反射鏡の絶対位置を求めることはできない。
【0003】
しかし、精密測長手段として光干渉測長装置が使用されるリニアステージ等の位置決め装置においては、装置を初期化する際に、装置上でのステージの位置を確定するため、ステージの絶対位置測定が要請されるのが一般的である。このため、通常は光干渉測長装置とは別の近接センサなどの手段を用いて原点復帰を行うことで、ステージの絶対位置測定を行っている。
【0004】
位置決め装置を初期化する際に、ステージを移動することなく光干渉測長装置を用いて絶対位置測定を行うことができれば、原点復帰工程を省略することができるため、装置の初期化に要する時間を短縮できる。そこで、絶対位置を測定可能な光干渉測長装置として、波長可変光源を用い、光源の波長を変化させることで絶対位置測定を行う光干渉測長装置が提案されている(特許文献1参照)。この光干渉測長装置は、移動反射鏡が設置された移動体を固定体上に固定した状態で、光源波長の微小変化によって得られる干渉光の位相変化が移動反射鏡の絶対位置に比例することを利用して、移動反射鏡の絶対位置測定を行う。波長可変光源の具体例として半導体レーザが用いられており、絶対位置測定を行う際は半導体レーザの電流変調によって発振波長の変調を行う。その後、光源波長を一定とした状態で、前工程で得られた絶対位置を基準として移動反射鏡の相対移動量を測定しながら、移動体の位置決めを行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−154737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら精密測長の分野で広く用いられている光干渉測長装置の光源は、波長安定化ヘリウム−ネオン(He−Ne)ガスレーザである。なぜなら、半導体レーザには波長安定性が波長安定化He−Neレーザに比べ大幅に劣るという問題があるからである。波長安定化He−Neレーザの波長安定性は、一例では±10ppb/(レーザ光源寿命)であるのに対し、半導体レーザの波長安定性は、一例では2.3ppm/20000hである。このように光源の波長安定性が低いと、移動反射鏡の相対移動量を長時間測定する際に、測定精度が低下する問題が生じる。
【0007】
本発明は、装置を初期化する際に、短時間で移動体の絶対位置を測定可能であり、なおかつ長時間に渡り安定して移動体の移動量を測定できる光干渉測長装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の光干渉測長装置は、ガイドに沿って移動する移動体の移動量を測定する光干渉測長装置において、光を測定光と参照光に分離する手段と、前記測定光を、前記移動体に設置された測定ミラーによって反射させる測定光路と、前記参照光を、参照ミラーによって反射させる参照光路と、前記測定光と前記参照光の干渉光から、前記移動体の移動量を測定する干渉計と、前記測定光路の屈折率を変化させる手段と、を有し、前記測定光路の屈折率の変化による前記干渉計の測長値の変化から、前記移動体の絶対位置を測定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
測定光路の屈折率変化によって得られる干渉光の位相変化が、移動体に設置された測定ミラーの絶対位置に比例することを利用して、移動体の絶対位置を測定する。絶対位置測定を行う際に光源の波長を変化させる必要がないため、光源に波長安定性が優れた波長安定化He−Neレーザなどを用いることが可能であり、長時間に渡り安定した移動体の移動量測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1の実施形態に係る位置決め装置を示す図である。
【図2】絶対位置測定分解能を説明するグラフである。
【図3】絶対位置測定精度を示す説明するグラフである。
【図4】第2の実施形態に係る絶対位置測定方法を説明する図である。
【図5】第3の実施形態に係る位置決め装置を示す図である。
【図6】第4の実施形態に係る位置決め装置を示すもので、(a)はその模式断面図、(b)はスライダの干渉計収容空間を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態による光干渉測長装置によって測定される位置に基づいてステージの位置決めを行う位置決め装置を示す。干渉計を含む位置決め装置は、真空ポンプ1によって内部を減圧可能なチャンバー2に収容されており、干渉計の測定光路を減圧することが可能となっている。チャンバー2内の圧力は、真空ポンプ1の排気速度の増減、不図示の排気流量調整バルブの調整、不図示のゲートバルブの解放などを行うことにより、大気圧以下の領域において減圧だけでなく増圧も可能である。
【0012】
レーザ光源3は、中心波長λで、互いに直交する偏光方位を有し、波長がわずかに異なる光であるレーザビームを出射する。レーザ光源3から出射されたレーザビームは、偏光ビームスプリッタ4に入射して、測定光路を通過する測定光と、参照光路を通過する参照光とに分離される。干渉計は、偏光ビームスプリッタ4、1/4波長板5、6、コーナーキューブ7、参照ミラー8、測定ミラー9によって構成される。
【0013】
レーザ光源3から出射された後、偏光ビームスプリッタ4に最初に入射した際に反射される光束は、測定光となる。偏光ビームスプリッタ4で反射された測定光は移動体であるスライダ10に設置された測定ミラー9で反射されるとともに、1/4波長板5を2回通過し偏光方位が90°回転することにより偏光ビームスプリッタ4を透過し、コーナーキューブ7に入射する。コーナーキューブ7で反射された測定光は、再び偏光ビームスプリッタ4を透過し、測定ミラー9で反射されるとともに、1/4波長板5を2回通過し偏光方位が90°回転することにより偏光ビームスプリッタ4で反射され、集光器11に入射する。
【0014】
レーザ光源3から出射された後、偏光ビームスプリッタ4に最初に入射した際に、偏光ビームスプリッタ4を透過する光束は参照光となる。偏光ビームスプリッタ4を透過した参照光は、参照ミラー8で反射されるとともに、1/4波長板6を2回通過し偏光方位が90°回転することにより偏光ビームスプリッタ4で反射され、コーナーキューブ7に入射する。コーナーキューブ7で反射された参照光は再び偏光ビームスプリッタ4で反射され、参照ミラー8で反射されるとともに、1/4波長板6を2回通過し偏光方位が90°回転することにより偏光ビームスプリッタ4を透過し、測定光と干渉して集光器11に入射する。
【0015】
集光器11に入射した測定光と参照光の干渉光は、光電変換器12に入射し、電気信号に変換されて測定信号となる。また、レーザ光源3内部において、中心波長λで、波長がわずかに異なるレーザビームを直接干渉させ、得られた干渉光を光電変換器13において電気信号に変換することにより、基準信号が生成される。測定信号と基準信号はともに位相計14に入力され、基準信号に対する測定信号の位相変化量を積算することにより、測定ミラー9の相対変位を測定することができる。
【0016】
本実施形態においては、測定ミラーにビームを2回反射させるダブルパス干渉計を示しているが、本発明は干渉計のパス数に制限を受けるものではない。また、干渉計全体がチャンバー内部に収容されているが、測定ミラーを含む測定光路の少なくとも一部が、減圧ないし増圧可能な空間内に収容されていてもよい。
【0017】
位置決め装置の位置測定対象となるスライダ10は、静圧空気案内や転がり案内などによりガイド15に対し支持され、不図示のリニアモータ等のアクチュエータにより駆動されるステージを構成する。光干渉測長装置によって得られるスライダ位置情報(移動体の移動量)に基づき、PID制御等の手法によりアクチュエータを駆動してスライダが位置決めされるが、その制御方法の詳細に関しては公知であるため省略する。
【0018】
次に、絶対位置測定方法について述べる。絶対位置の測定時には、スライダ10をガイド15に対して固定しておく。スライダ10の案内に静圧空気案内を用いる場合、静圧空気案内への圧縮空気の供給を停止し、スライダ10をガイド15に着座させることで、スライダ10をガイド15に固定することができる。絶対位置の測定には、レーザ光路(測定光路)の屈折率の変化により、干渉計の測長値Xが変化する特性を用いる。チャンバー内部が完全な真空(屈折率=1)となっている場合、干渉計の測長値Xは真の距離xに等しい。
= x (1)
【0019】
また、屈折率n(例:大気中でn=1.0003)での測長値X
=nx (2)
となる。屈折率がΔn変化した場合の測長値変化は、
ΔX=Δnx (3)
となる。そこで、屈折率を変化させる手段を用いて、屈折率がΔn変化した場合の測長値変化ΔXを測定し、式(3)より導かれる以下の式に基づいて、移動体(スライダ10)の絶対位置を測定するものである。
x=ΔX /Δn (4)
【0020】
屈折率を変化させる具体的な手段として、本実施形態ではレーザ光路の気圧の減圧又は増圧を用いる。大気圧付近での空気の屈折率は以下に示すエドレンの式で表されることが一般的に知られている。
【0021】
【数1】

ただし、Pは大気の圧力(単位mmHg)、Tは温度(単位℃)、Fは大気中の水蒸気分圧(単位mmHg)である。水蒸気分圧Fは相対湿度H[%]と飽和水蒸気圧Fを用いると、
F=HF/100 (6)
と表される。飽和水蒸気圧Fsは温度Tによって一義的に定まり、以下の式で表される。
【0022】
【数2】

【0023】
エドレンの式は式(5)に示すように、n=1+(圧力1乗・温度項)+(圧力2乗・温度項)+(水蒸気分圧項)の形となっている。大気圧以下に圧力を減圧した場合の式(5)の適用範囲は、米国標準技術局(National Institute of Standards and Technology)のホームページによると10kPa以上とされている。これは、式(5)にP=0を代入しても屈折率が1にならないことからも明らかなように、大きな圧力変化が生じた際の水蒸気分圧の変化を考慮していないからである。
【0024】
ここで、温度一定の環境下で、ある水蒸気分圧を有する大気で満たされた系が真空ポンプなどを用いて減圧された際の屈折率変化を考える。水蒸気分圧は単位体積あたりの水蒸気量に比例するので、大気が満たされた系全体が減圧される場合、系全体の圧力減少に比例して水蒸気分圧も減少する。したがって、系全体が大気圧から大幅に減圧される場合、通常のエドレンの式をそのまま適用することはできず、系全体の圧力減少に比例した水蒸気分圧の減少を考慮する必要がある。
【0025】
これを考慮するためにはエドレンの式に含まれる水蒸気分圧の項を、(大気圧での水蒸気分圧)×(減圧後の圧力)/(大気圧)に置き換えればよい。減圧後の圧力をP[mmHg]、減圧前の大気圧をPatm[mmHg]とすると、減圧環境下での適用のために修正されたエドレンの式は、
【0026】
【数3】

となる。よって温度Tが一定の状態で圧力を減圧すると、系の屈折率は圧力のみを変数とする関数n(P)で算出することができる。本実施形態において、図1に示すチャンバー内の圧力がPからP(P>P)に変化した場合、系の屈折率変化ΔnはΔn=n(P)−n(P)であるから、式(4)よりスライダの絶対位置は
x=ΔX/(n(P)−n(P)) (9)
で求められる。具体例として、大気圧Patm =760mmHg(=1013.25hPa)、温度T=23℃、相対湿度H=50%の状態から圧力P[mmHg]まで減圧した場合を考える。式(6)〜(8)より、この場合の屈折率は次式で表される。
n(P)=1+(3.5384×10−7P)+(1.8085×10−13)−(7.7719×10−10P)=1+(3.5306×10−7P)+(1.8085×10−13) (10)
【0027】
以下では圧力Pの単位としてPaを用いる。式(10)の圧力Pの単位をmmHgからPaに変換すると、
n(P)=1+(2.6484×10−9P)+(1.0176×10−17) (11)
となる。したがって式(9)、(11)より絶対位置xを求めることができる。
【0028】
本実施形態では、レーザ光路を減圧可能なチャンバー内に収容することにより、短時間でレーザ光路の屈折率を変化させることを可能としている。また、絶対位置の測定精度を高めるためには、屈折率の変化を正確に把握することが必要である。したがって屈折率の変化を精密に測定する手段を用いることが望ましい。
【0029】
本実施形態では、真空計16によりチャンバー内のPからPへの圧力変化を測定することにより、式(8)に基づいて屈折率変化を測定することができる。また、式(8)には圧力P以外に、温度T、水蒸気分圧F、大気圧Patmが未知数として含まれているが、各未知数をセンサで測定することにより屈折率変化の測定精度を高めることができる。本実施形態では不図示の温度計を用いることで空気の温度Tが測定される。また、不図示の湿度計により測定された相対湿度Hと空気の温度Tの値を用いて、式(6)、(7)に従って水蒸気分圧Fが測定される。大気圧Patmは、不図示の気圧計により測定される。なお、本実施形態では絶対位置測定を行う際の圧力変化は、圧力減少として説明してきたが、圧力増加としても同様の測定を行うことができる。また絶対位置を測定する際には、必ずしも圧力変化を測定する必要はなく、P、Pの値として装置の圧力特性に合致する一定の値を用いてもよい。同様に、温度T、水蒸気分圧F、大気圧Patmの各未知数に関しても、必ずしも測定値を用いる必要はなく、標準的な一定の値を用いても構わない。
【0030】
次に、本発明によって得られる絶対位置の測定分解能について、本実施形態を例として述べる。式(11)において、Pが大気圧(10Pa)以下の領域では圧力2乗項は圧力1乗項に比べ小さい(10−3倍以下)値となる。ここでは絶対位置測定分解能に関する議論を簡単にするため、屈折率計算式として式(11)の圧力2乗項を無視した次式を用いる。
n(P)=1+2.6484×10−9P (12)
【0031】
なお、ここで屈折率計算式として式(12)を用いるのは、あくまで議論を簡単にするためであり、絶対位置の測定精度を高めるためには、式(11)を用いることが望ましい。
【0032】
ΔP= P−Pとすると、式(9)、(12)よりスライダ絶対位置の計算式は、
【0033】
【数4】

となる。ここで圧力変化ΔP[Pa]により生じる測長値変化ΔXが干渉計分解能Rと等しくなる場合の距離xが、絶対位置測定分解能である。絶対位置測定分解能をxとすると、式(13)にx= x、ΔX=Rを代入して、
【0034】
【数5】

と書ける。図2にxとRの関係を示す。現在市販されているレーザ干渉測長システムでは、ダブルパス干渉計を用いた場合に0.15nmの分解能を得ることができる。そこで干渉計の分解能Rを0.15nmとすると、式(14)より圧力変化ΔPの大きさに応じて次のような絶対位置測定分解能xを得ることができる。
ΔP=10Paの場合、x=56.6μm
ΔP=10Paの場合、x=5.66μm
ΔP=10Paの場合、x=0.566μm
【0035】
次に、絶対位置の測定誤差について述べる。ここでも議論を簡単にするため、屈折率計算式として式(12)を用いる。測定誤差が発生する要因として、圧力変化ΔPの測定誤差が上げられる。ΔPの誤差をd(ΔP)、ΔPの誤差により生じるxの誤差をxREとすると、
【0036】
【数6】

と書ける。式(14)を式(15)に代入して
【0037】
【数7】

ΔPの誤差d(ΔP)は真空計16の圧力測定誤差であるから、真空計の分解能に等しいものとする。市販の真空計によって測定フルスケールの10−4倍の分解能が得られるので、簡易的に
d(ΔP)= ΔP×10−4 (17)
と書ける。式(16)に式(17)を代入すると、式(14)より、
【0038】
【数8】

と書ける。絶対位置の測定誤差は、測定分解能の誤差が累積したものとなるから、式(18)より測定距離の10−4倍の測定誤差が生じることが分かる。したがって、
測定距離1mmの場合、測定誤差0.1μm
測定距離10mmの場合、測定誤差1μm
測定距離100mmの場合、測定誤差10μm
となる。例えば圧力変化を10Paとした場合、x=5.66μmであるから、絶対位置の測定距離と測定精度の関係を示すと図3のグラフのようになる。
【0039】
(第2の実施形態)
図4は、第2の実施形態に係るもので、干渉計19によって位置を測定される位置決め装置を示している。干渉計19と測定ミラー9の間の測定光路は、不図示の減圧可能なチャンバー内に収容されることにより、大気圧以下の領域において減圧又は増圧が可能である。レーザ光路を減圧又は増圧する方法は、第1の実施形態と同様であるため、詳細な説明は省略する。本実施形態では、第1の実施形態で述べた測定方法により得られる絶対位置測定値に含まれる、部材の弾性変形に起因する測定誤差を補正する。
【0040】
本実施形態で用いる絶対位置測定方法は、干渉計のレーザ光路の圧力変化によって得られる干渉計の測長値変化ΔXを用いる点に関しては第1の実施形態と同様である。ここでは例として、チャンバー9内の圧力をP=10PaからP=10Paまで減少させることにより絶対位置測定を行うものとする。図4において、Lは圧力Pにおける測定ミラー9の厚みとスライダ10の長さを合わせた長さである。式(11)より屈折率変化Δnを求めると、
Δn= n(P)−n(P)=−2.6458×10−5 (19)
である。ところが、この過程において圧力変化によって測定ミラー9、スライダ10及び干渉計19が弾性変形するため、圧力変化による干渉計の測長値変化ΔXには、絶対位置xの測定において誤差となる、弾性変形に起因した測長値の変化が含まれている。以下ではこの誤差の補正を含む絶対位置の測定方法について述べる。
【0041】
圧力Pにおける測定ミラー9と干渉計19との絶対距離をx、圧力Pにおける測定ミラー9と干渉計19との絶対距離をxとする。測定ミラー9の厚みはスライダ10の長さに比べ非常に小さいので、圧力変化の際に生じる測定ミラー9の変形は無視できるものとする。また、本実施形態で用いる干渉計19内部においては、測長光と参照光は共通の光路を通るため、干渉計19の弾性変形は測長光と参照光に等しく影響を及ぼす。したがって本実施形態においては、干渉計19の弾性変形による測長値変化は無視できるものとする。圧力変化によるスライダ10の弾性変形量をΔL、スライダ10の材質のヤング率をEとすると、
ΔL=L(P−P)/E (20)
である。圧力変化による干渉計19の測長値変化ΔXには、スライダ10の弾性変形による測定ミラー9の変位が含まれている。スライダ10の弾性変形を考慮すると、以下の式が成り立つ。
ΔX =Δn (x+ΔL/2)+ΔL/2) (21)
= x+ΔL/2 (22)
式(21)、(22)より、
【0042】
【数9】

となる。圧力変化の際に得られる測長値変化ΔXと、式(19)を式(23)、(24)に代入することにより、圧力Pにおける測定ミラー9と干渉計19との絶対距離x、圧力Pにおける測定ミラー9と干渉計19との絶対距離xを求めることができる。
【0043】
絶対位置を測定した後、位置決め装置は圧力をPもしくはPに固定して運用される。位置決め装置を圧力Pにおいて運用する場合、絶対距離xを基準として位置決めを行う。同様に位置決め装置を圧力Pにおいて運用する場合、絶対距離xを基準として位置決めを行う。
【0044】
(第3の実施形態)
図5は、第3の実施形態を示すもので、気体の置換が可能なチャンバー内に干渉計とステージを含む位置決め装置が収容される。チャンバー2にはゲートバルブ20、21を介して、圧縮された気体A、Bがそれぞれ封入されたタンク22、23が接続される。また、チャンバー内の気体を気体Aから気体B、もしくは気体Bから気体Aに置換するために、ゲートバルブ24を介して真空ポンプ1がチャンバー2に接続される。本実施形態では絶対位置を測定するために、レーザ光路の屈折率を変化させる手段として、初期状態でチャンバー内に充填されている気体を異なる成分の気体に置換する。絶対位置の測定分解能を向上させるためには、気体A、Bの屈折率の差は大きいことが望ましい。
【0045】
以下では気体Aを空気、気体Bをヘリウムとして、本実施形態における絶対位置測定分解能を議論する。0℃、1気圧における空気の屈折率は1.000292、ヘリウムの屈折率は1.000035である。チャンバー内の気体を空気からヘリウムに完全に置換した際の、レーザ光路の屈折率変化Δnは、
Δn=1.000035−1.000292=−0.000257 (25)
である。式(4)に式(25)を代入して、
x=ΔX /−0.000257 (26)
【0046】
スライダ10をガイド15に対し固定した状態で、気体を空気からヘリウムに置換した際に得られる干渉計の測長値変化ΔXより、式(26)に基づき測定ミラー9の絶対位置xを求めることができる。ここで屈折率変化Δnにより生じる測長値変化ΔXが干渉計分解能Rと等しくなる場合の距離xが、絶対位置測定分解能である。絶対位置測定分解能をxとすると、式(26)にx= x、ΔX=−Rを代入して、
=−R /−0.000257 (27)
【0047】
ダブルパス干渉計の分解能Rを0.15nmとすると、式(27)より絶対位置測定分解能はx=0.583μmとなる。
【0048】
本実施形態において、チャンバー内の気体の圧力は、気圧計25を用いて測定され、気体を置換する前後で等しくなるよう制御されることが望ましい。これは気体の屈折率を一定に管理するとともに、気体の圧力変化による構造体の変形を抑制し、絶対位置の測定精度を高めるためである。
【0049】
(第4の実施形態)
図6は、第4の実施形態を示すもので、(a)に示すように、移動体であるスライダ40に設けられた干渉計収容空間41内に干渉計49の一対のミラー39が収容される。スライダ40は静圧空気案内47によってガイド45に対し微小な隙間を有する状態で浮上する。図6(b)に示すように、干渉計収容空間41の外周部には、静圧空気案内と同一の微小隙間を有する非接触シール46が設けられる。真空ポンプ1を用いて干渉計収容空間41の真空排気を行うと、非接触シール46において、微小隙間の大きな流体抵抗による圧力降下が生じ、干渉計収容空間41の内部を減圧することが可能である。また、干渉計収容空間41の圧力は、真空ポンプ31の排気速度の増減、不図示の排気流量調整バルブの調整、不図示のゲートバルブの解放などを行うことにより、大気圧以下の領域において減圧だけでなく増圧も可能である。本実施形態では、必要最小限の容積を有する減圧空間内にレーザ光路を収容することにより、レーザ光路の減圧ないし増圧に要する時間を短縮することができる。
【0050】
本実施形態における干渉計49は、対向する一対のミラー39をスライダ40に設置し、一方を測定ミラー、他方を参照ミラーとして、それぞれのミラー変位の差分を計測する差動干渉計を構成する。また、干渉計49は、窓48を有する真空カバー32、偏光ビームスプリッタ34、1/4波長板35、直角プリズム36、干渉計ベース37等を有する。差動干渉計は、通常の干渉計では固定体に設置される参照ミラーを移動体に設置することで、移動体が移動した際の測定光路長の変化を増幅し、測長分解能を向上する効果を有する。
【0051】
本実施形態における絶対位置測定方法及び位置決め方法は、レーザ光路の圧力を変化させるための装置構成が異なる点以外は、第1の実施形態もしくは第2の実施形態で述べた方法と同一の方法となるため、詳細は省略する。本発明の絶対位置測定方法に差動干渉計を用いるためには、図6(a)に示すように、干渉計49と各ミラー39の間の測定光路の屈折率を可変とすることが必要条件となる。
【0052】
本実施形態は、レーザ光路の減圧ないし増圧に要する時間を短縮することにより、絶対位置の測定時間を短縮する効果を有する。
【符号の説明】
【0053】
1、31 真空ポンプ
2 チャンバー
3 レーザ光源
4、34 偏光ビームスプリッタ
5、6、35 1/4波長板
7 コーナーキューブ
8 参照ミラー
9 測定ミラー
10、40 スライダ
15、45 ガイド
16 真空計
19、49 干渉計
22、23 タンク
39 ミラー
41 干渉計収容空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガイドに沿って移動する移動体の移動量を測定する光干渉測長装置において、
光を測定光と参照光に分離する手段と、
前記測定光を、前記移動体に設置された測定ミラーによって反射させる測定光路と、
前記参照光を、参照ミラーによって反射させる参照光路と、
前記測定光と前記参照光の干渉光から、前記移動体の移動量を測定する干渉計と、
前記測定光路の屈折率を変化させる手段と、を有し、
前記測定光路の屈折率の変化による前記干渉計の測長値の変化から、前記移動体の絶対位置を測定することを特徴とする光干渉測長装置。
【請求項2】
前記測定光路の屈折率を変化させる手段は、前記測定光路の気圧を減圧又は増圧する手段であることを特徴とする請求項1に記載の光干渉測長装置。
【請求項3】
前記絶対位置の測定時に前記移動体を前記ガイドに固定することを特徴とする請求項1に記載の光干渉測長装置。
【請求項4】
気圧の減圧又は増圧に起因する前記移動体及び前記ガイドの弾性変形量を求めて、前記弾性変形量に基づき前記絶対位置の測定値を補正することを特徴とする請求項2又は3に記載の光干渉測長装置。
【請求項5】
前記測定光路の屈折率を変化させる手段は、初期状態で前記測定光路に充填されている気体を異なる成分の気体に置換する手段であることを特徴とする請求項1に記載の光干渉測長装置。
【請求項6】
前記移動体に前記測定ミラーと前記参照ミラーとを対向させて設置し、差動干渉計を構成することを特徴とする請求項1に記載の光干渉測長装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに1項に記載の光干渉測長装置と、
前記光干渉測長装置によって測定された前記移動体の移動量に基づいて、前記移動体の位置決めを行うステージと、を有することを特徴とする位置決め装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−13536(P2012−13536A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−150240(P2010−150240)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】