説明

光源装置

【課題】光ファイバを細径化せずに、高出力でビーム品質の良いレーザ光を得ることができ、機械的信頼性を損なうことのない光源装置の提供。
【解決手段】複数の光源と、それぞれの光源から出射光を導く光ファイバと、それぞれの該光ファイバの先端に接続された屈折率分布型レンズとを有し、それぞれの屈折率分布型レンズを束ねてなり、該屈折率分布型レンズは、光ファイバから直接ビームを出射したときと比してビームの広がり角が小さくなるような長さと屈折率分布を有していることを特徴とする光源装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工やレーザ医療に用いられ、複数の光源から光ファイバを通して出射光を出力し、光ファイバ端部を束ねて高出力光を得る光源装置に関し、特に、高出力でビーム品質の良いレーザ光を得るための光源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ加工等においては、ビーム品質の良い光が好まれる。ここで言うビーム品質とは、ビームの広がり角度とビームの最小径の積で表される数値(BPP)である。BPPが小さなビームであるほど、ビームを細径に絞ることが可能であることが知られており、BPPが小さいほど加工面において光のエネルギー密度を高くすることが可能で、レーザ加工に好適である。
【0003】
特許文献1には、N個の発光素子と、N個の集光レンズと、N本の光ファイバとが1対1の組み合わせにより構成され、光源装置の発光素子側には、出力される光のパワーを制御する制御部が設けられ、光源装置の出力側には、光ファイバが束ねられ、フェルールにより保持され、光ファイバは大径部と小径部とから構成され、大径部と小径部との間の境界部分は、その外径が大径部から小径部にかけて緩やかに変化するように形成された光源装置が開示されている。この特許文献1の従来技術にあっては、細径の光ファイバ、すなわちファイバの断面積に対するコアの面積が大きな光ファイバを束ねることにより、光ファイバを束ねた部分の断面において高パワー密度の光を得るようになっている。
【特許文献1】特開2006−301121号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、単に光ファイバを束ねただけでは、出射端面からの光ビーム品質は、ファイバ束径にほぼ比例して悪化してしまう。なぜなら、ファイバ束から出射される光の広がり角度は、ファイバ束中の個々の光ファイバから出射される光の広がり角度に等しくなるため、ファイバ束の径が太くなった分だけ出射端面でのビーム径が広がり、BPPを大きくしてしまうからである。
【0005】
特許文献1に開示された構成でも、好ましくは細径ファイバのクラッド厚を可能な限り薄くすれば、ファイバ束の径を小さくできるため、クラッド厚が厚いときに比して、BPPを小さくすることが可能である。しかし、クラッド径の薄いファイバを用いた場合、光ファイバが細くなりすぎるために、細径光ファイバ部の機械的強度が低下するという欠点がある。
【0006】
本発明は、前記事情に鑑みてなされ、光ファイバを細径化せずに、高出力でビーム品質の良いレーザ光を得ることができ、機械的信頼性を損なうことのない光源装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明は、複数の光源と、それぞれの光源から出射光を導く光ファイバと、それぞれの該光ファイバの先端に接続された屈折率分布型レンズとを有し、それぞれの屈折率分布型レンズを束ねてなり、該屈折率分布型レンズは、光ファイバから直接ビームを出射したときと比してビームの広がり角が小さくなるような長さと屈折率分布を有していることを特徴とする光源装置を提供する。
【0008】
本発明の光源装置において、光源は、ファイバレーザであることが好ましい。
【0009】
本発明の光源装置において、光源は、シングルモード出力が可能な光源であることが好ましい。
【0010】
本発明の光源装置において、光源は、半導体レーザであってもよい。
【0011】
本発明の光源装置において、屈折率分布型レンズと光ファイバとの接続は、加熱による融着によることが好ましい。
【0012】
本発明の光源装置において、屈折分布型レンズと光ファイバとが同系の材料で作製されたものであることが好ましい。
【0013】
本発明の光源装置において、束ねた屈折率分布型レンズ同士を接着剤で接着したことが好ましい。
【0014】
本発明の光源装置において、束ねた屈折率分布型レンズ同士を熱により溶着したことが好ましい。
【0015】
本発明の光源装置において、束ねた屈折率分布型レンズを冷却する冷却部を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の光源装置は、複数の光源に接続された光ファイバの端に屈折率分布型レンズを接続し、それぞれの屈折率分布型レンズを束ねてなり、該屈折率分布型レンズは、光ファイバから直接ビームを出射したときと比してビームの広がり角が小さくなるような長さと屈折率分布を有する構成としたので、光ファイバを細径化せずに、高出力でビーム品質の良いレーザ光を得ることができ、機械的信頼性を損なうことのない光源装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
本発明の光源装置は、複数の光源と、それぞれの光源から出射光を導く光ファイバと、それぞれの該光ファイバの先端に接続された屈折率分布型レンズとを有し、それぞれの屈折率分布型レンズを束ねてなり、該屈折率分布型レンズは、光ファイバから直接ビームを出射したときと比してビームの広がり角が小さくなるような長さと屈折率分布を有することを特徴としている。
図1は、本発明の光源装置の要部拡大斜視図であり、図中、符号101はファイバ束、102はレンズ束、103は光ファイバ、104は屈折率分布型レンズである。
【0018】
複数の光源にそれぞれ接続された光ファイバを束にすることに関しては、特許文献1に開示された従来技術と同様であるが、本発明ではファイバ束101中の個々の光ファイバ103の端(出射端)に屈折率分布型レンズ104(いわゆるGRINレンズ)が接続され、この屈折率分布型レンズ104を束ねた構成としている点で異なっている。
【0019】
屈折率分布型レンズ104は、棒状の光透過体からなり、その中心線の屈折率が高く、棒状の外周に向かって徐々に屈折率が低くなるような屈折率構造を有している。この屈折率分布型レンズ104の長さと屈折率分布を好適に選ぶことにより、図2に示したように、接続された光ファイバ103からのビーム106の広がり角度を小さくすることが可能である。図2中、符号105は光ファイバのコア、106はビームを示している。
【0020】
本発明の構成によれば、個々の光ファイバ103からのビーム106は、屈折率分布型レンズ104の作用により広がり角が抑えられ、ひいてはレンズ束102から出力されるビームのBPPを小さく抑えることが可能となる。これにより、レーザ加工等に好適なBPPの小さい高出力光を発生可能な光源装置を提供できる。
【0021】
図3は、光ファイバ103端部と屈折率分布型レンズ104を接続した部分を模式的に示したものであり、図中の符号106は屈折率分布型レンズ中を伝搬するビーム、107は光ファイバ中を伝搬するビームを表している。屈折率分布型レンズ104中において、ビーム106の径は、図3に模式的に示したように、拡大と縮小を繰り返す。ビーム径の拡大と縮小の周期をΛとしたとき、屈折率分布型レンズ104の長さがおよそΛ/2となった場合に、ビーム径が最大となり、かつ最もビーム106の開き角度が小さくなる。屈折率分布型レンズ104の長さをこの長さ(Λ/2)とすることが、本発明の構成には好適である。
【0022】
図4は、本発明の光源装置全体の模式図であり、図中、符号200は光源装置、201は光源である。この光源装置200は、n個(n≧2)の光源201と、それぞれに接続された光ファイバ103(ファイバ1〜n)と、図1に示すファイバ束101とレンズ束102とを有する端部とからなっている。光源201には、それぞれの、または複数(光源1〜n全部を含む)の光源201を一括に制御する図示していない制御系が付設されており、これにより出射される光強度の調整が可能になっている。
【0023】
図1または図2において、各光ファイバ103と屈折率分布型レンズ104との接続は、加熱による融着(融着接続)であることが望ましい。なぜなら、高エネルギーの光が接続面を通過するため、接着剤などを用いた接続の場合には、接着剤の焦げなどが生じる可能性があるからである。
【0024】
光ファイバ103と屈折率分布型レンズ104とを融着接続する場合、屈折率分布型レンズ104の材質は、光ファイバ103の材質に近いものが望ましい。例えば、光ファイバ103に石英ガラス系光ファイバを用いた場合、屈折率分布型レンズ104も石英ガラス系のレンズを用いることが望ましい。なぜなら、融着接続の際に材質間の熱膨張係数差が大きいと、融着接続部に大きな歪みが生じて、信頼性に問題が生じるからである。
光ファイバ103と屈折率分布型レンズ104との融着接続方法としては、アーク放電で加熱する方法や、炭酸ガスレーザ光で加熱する方法が挙げられる。
【0025】
屈折率分布型レンズ104は、光ファイバ103からのビームを平行光に近くするために好適な規定長のレンズを光ファイバ103の端に接続する方法と、融着接続後に光ファイバ端面から規定長で切断する方法とがある。
光を出射するレンズ束102の端面は、光の乱反射を避けるために研磨されていることが望ましい。
【0026】
光源201としては、ファイバレーザを用いることができる。特に、シングルモード出力(または準シングルモード出力)が可能なファイバレーザは、レーザ光を出力するファイバのコア径が小さい(数μm〜30μm)という特徴があるため、本発明の構成が有効である。
また、光源201として、光ファイバビグテール付きの半導体レーザを用いることもできる。
【0027】
図5は、レンズ束102を端面側から見た例である。本例示において、レンズ束102は、複数の屈折率分布型レンズ104を束ねてキャピラリ108に挿入し、その隙間に接着剤109を注入し硬化させた構造になっている。各屈折率分布型レンズ104は、接着剤109により互いに接着されている。
【0028】
複数の屈折率分布型レンズ104を束ねて固定する方法としては、前記接着剤による固定方法の他、複数の屈折率分布型レンズ104を束ね、酸水素火炎などで加熱し、それぞれの外周部を互いに溶着させる方法でも構わない。
【0029】
本発明によれば、個々の光ファイバ103の端に屈折率分布型レンズ104が接続されているため、個々の光ファイバ103からの出射ビームの広がり角度が小さくなるので、光ファイバ103を束ねた際に、レンズ無しの場合に比して、出射ビームのBPPを小さくすることが可能であり、ひいてはレーザ加工やレーザ治療の際に、ビームを細く絞って加工箇所のエネルギー密度を高くすることができ、効率よくレーザ加工や治療を行うことが可能となる。
【0030】
一方、従来の技術では、ビームの広がり角度は小さくなっていないので、光ファイバを束ねて、束ねた径が大きくなった分だけBPPが悪化する。本発明はこれを解決するものである。
【0031】
従来の技術では、コアの細い光ファイバを束ねた状態では、クラッドの厚さの分だけ、束ねた後の束の径が太くなってしまう。それを回避するために、クラッドを薄くすると、コアが細い場合には、光ファイバの径が細くなりすぎて、光ファイバ部の機械的信頼性が低下する。一方、本発明によると、光ファイバ103の径が細い場合でも、最後に屈折率分布型レンズ104によりビーム径を拡大するため、光ファイバ103を細くする必要がなく、機械的信頼性を損なうことがないという利点がある。
【0032】
図6はそれを説明する図である。図6(a)は屈折率分布型レンズのない状態のファイバ束101における出力ビームの広がりを示し、(b)は、光ファイバ103の端に屈折率分布型レンズ104を接続してそれを束ねたレンズ束102における出力ビームの広がりを示す模式図である。
ビーム径Dn(n=1または2)は、Dn=(光ファイバの径)×{(ファイバの並んでいる本数)−1}+(1本のファイバのビーム径)で概略表される。
図6(b)に示す本発明の構造では、レンズ束102の出射端からのビーム広がり角度θが、レンズを使用していない図6(a)の場合の広がり角度θよりも小さくなり、その結果、本発明の構造ではBPPを小さくすることができる。
【0033】
図7は、本発明の光源装置の別の実施形態を示す要部斜視図である。この例では、レンズ束102の一部又は全部を、多段の冷却フィン301を有する放熱器300に収容した構成になっている。この放熱器300は、レンズ束102においてレーザ光の漏れ光により、レンズ束102が発熱し、レンズ束102が損傷するのを防ぐために、効率よくレンズ束102を冷却する目的で取り付けられている。この放熱器300は、熱伝導性の良い金属で構成することが好ましく、例えば、アルミニウムなどが用いられる。
この放熱器300を更に有効に冷却するために、冷却フィン301に送風して空冷する送風ファンを適所に取り付けた構成としてもよい。
また、このレンズ束102の冷却は、前述した空冷方式に限らず、水冷方式で行っても良い。図8は、本発明の光源装置のさらに別の実施形態を示す概略構成図であり、レンズ束102を水冷する場合を例示している。この例では、レンズ束102を囲んで設けられた冷却水の流路401内に、外部に設けられたチラー401により冷却された冷却水を循環供給することで、冷却部内のレンズ束102を水冷できるようになっている。
レンズ束102で生じる熱は、レーザ光の出力の大きさにしたがって大きくなるので、これらの冷却機構は、100W以上の高出力レーザ光源を構成する際に特に有効である。
【実施例】
【0034】
ここで、一例を挙げる。外径250μm、波長1.06μmにおいてシングルモード動作し、波長1.06μmの光のモードフィールド径が10μmの光ファイバ103を備えた波長1.06μmの光源を用いた。この光源を19台用意し、出力の光ファイバ103を六方最密に並べ(図5に示した並べ方)、図6(a)に示すファイバ束101による出射端を作製した。
このとき、θは35mrad(ミリラジアン)であった。また、Dは上の式から、D=1.010である。したがってBPPは1.01×35≒35mm・mradである。
【0035】
一方、前記光ファイバ103の出射端にそれぞれ屈折率分布型レンズ104を融着接続し、これらの屈折率分布型レンズ104を束ね、図5及び図6(b)に示す構造のレンズ束102を作製した。
この出射端は、屈折率分布型レンズ104の作用により、出射端での光のモードフィールド径が100μm、θ=4mradであった。このときのDは1100mmであり、BPPは4.4mm・mradと算出される。
【0036】
以上、実例で説明したように、本発明によれば、多数のファイバ出力光源からの光を束ねて高出力光源を構成した場合、従来技術に比べてBPPを格段に改善することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の光源装置の要部拡大斜視図である。
【図2】屈折率分布型レンズによる作用を示す模式図である。
【図3】屈折率分布型レンズの長さとビームの径との関係を示す模式図である。
【図4】本発明の光源装置の一例を示す構成図である。
【図5】レンズ束の一例を示す端面図である。
【図6】光源装置の出射端からのビームの広がりを示し、(a)は従来技術の光源装置の出射端、(b)は本発明の光源装置の出射端を示す模式図である。
【図7】本発明の光源装置の別の実施形態を示す要部斜視図である。
【図8】本発明の光源装置のさらに別の実施形態を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0038】
101…ファイバ束、102…レンズ束、103…光ファイバ、104…屈折率分布型レンズ、105…コア、106,107…ビーム、200…光源装置、201…光源、300…放熱器(冷却部)、301…冷却フィン、400…チラー、401…流路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の光源と、それぞれの光源から出射光を導く光ファイバと、それぞれの該光ファイバの先端に接続された屈折率分布型レンズとを有し、それぞれの屈折率分布型レンズを束ねてなり、該屈折率分布型レンズは、光ファイバから直接ビームを出射したときと比してビームの広がり角が小さくなるような長さと屈折率分布を有していることを特徴とする光源装置。
【請求項2】
光源が、ファイバレーザであることを特徴とする請求項1に記載の光源装置。
【請求項3】
光源が、シングルモード出力が可能な光源であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光源装置。
【請求項4】
光源が、半導体レーザであることを特徴とする請求項1に記載の光源装置。
【請求項5】
屈折率分布型レンズと光ファイバとの接続が加熱による融着によりなされたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光源装置。
【請求項6】
屈折分布型レンズと光ファイバとが同系の材料で作製されたものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の光源装置。
【請求項7】
束ねた屈折率分布型レンズ同士を接着剤で接着したことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の光源装置。
【請求項8】
束ねた屈折率分布型レンズ同士を熱により溶着したことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の光源装置。
【請求項9】
束ねた屈折率分布型レンズを冷却する冷却部を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の光源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−186775(P2009−186775A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−26815(P2008−26815)
【出願日】平成20年2月6日(2008.2.6)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】