説明

六方晶フェライト磁性粉末の製造方法ならびに磁気記録媒体およびその製造方法

【課題】超高密度記録を達成可能な六方晶フェライト磁性粉末および上記六方晶フェライト磁性粉末を用いた高密度記録に適した磁気記録媒体を提供すること。
【解決手段】B23成分を含むガラス形成成分および六方晶フェライト形成成分を含み、かつ上記B23成分をB23換算で15〜27モル%含む原料混合物を溶融し溶融物を得ること、上記溶融物を急冷し、飽和磁化量が0.6A・m2/kg以下である固化物を得ること、ならびに、上記固化物を600〜690℃の温度域まで加熱し該温度域に保持することにより平均板径が15〜25nmの六方晶フェライト磁性粉末を析出させること、を含む六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。非磁性支持体上に、上記方法により製造された六方晶フェライト磁性粉末と結合剤とを含む磁性層を有する磁気記録媒体。上記方法を含む磁気記録媒体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、六方晶フェライト磁性粉末の製造方法に関するものであり、より詳しくは、薄層磁性層を有する磁気記録媒体の磁性粉末として好適な六方晶フェライト磁性粉末の製造方法に関するものである。
更に本発明は、上記製造方法によって得られた六方晶フェライト磁性粉末を用いた磁気記録媒体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高密度記録用磁気記録媒体の磁性層には強磁性金属磁性粉末が主に用いられてきた。強磁性金属磁性粉末は主に鉄を主体とする針状粒子であり、高密度記録のために粒子サイズの微細化、高抗磁力化が追求され各種用途の磁気記録媒体に用いられてきた。
【0003】
記録情報量の増加により、磁気記録媒体には常に高密度記録が要求されている。しかしながら更に高密度記録を達成するためには強磁性金属強磁性粉末の改良には限界が見え始めている。これに対し、六方晶フェライト磁性粉末は、抗磁力は永久磁石材料にも用いられた程に大きく、抗磁力の基である磁気異方性は結晶構造に由来するため粒子を微細化しても高抗磁力を維持することができる。更に、六方晶フェライト磁性粉末を磁性層に用いた磁気記録媒体はその垂直成分により高密度特性に優れる。このように六方晶フェライト磁性粉末は高密度化に最適な強磁性体である。
【0004】
六方晶フェライト磁性粉末の製法については、例えば特許文献1〜8に、磁気記録用の六方晶フェライト磁性粉末をガラス結晶化法により製造することが提案されている。六方晶フェライト粉末の製法としてはガラス結晶化法以外にも水熱合成法、共沈法等の方法が知られているが、磁気記録媒体用に望まれる微粒子適性、単粒子分散適性、シャープな粒度分布などの点でガラス結晶化法が優れると言われている。
【特許文献1】特開昭56−134522号公報
【特許文献2】特開昭61−10210号公報
【特許文献3】特公平2−39844号公報
【特許文献4】特開平2−288206号公報
【特許文献5】特開平3−78211号公報
【特許文献6】特公平4−30086号公報
【特許文献7】特開平5−12842号公報
【特許文献8】特開平7−201547号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、更なる高密度記録化が進行し記録密度としては1Gbpsi以上が目標とされている。かかる状況下では、特許文献1〜8に記載の方法をはじめとする従来のガラス結晶化法では、目標とされる記録密度を達成可能な六方晶フェライト磁性粉末を提供することは困難になってきている。
【0006】
そこで本発明の目的は、超高密度記録を達成可能な六方晶フェライト磁性粉末および上記六方晶フェライト磁性粉末を用いた高密度記録に適した磁気記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
高密度記録化のためには、磁性層の充填度向上およびノイズ低減のために六方晶フェライト磁性粉末を微粒子化することが求められる。しかし六方晶フェライト粉末の平均板径を小さくしたとしても粒度分布が広いと、粒度分布の微粒子側成分が熱揺らぎの影響を受け、記録された磁気エネルギーが熱エネルギーに負けて記録が消失する可能性がある。このため粒子サイズを小さくするとともに粒度分布をシャープにする必要がある。
一般的にガラス結晶化法では、BaO・6Fe23とBaO・B23の組成になる成分を溶融し、急冷させて非晶質体とする。次いで大気雰囲気で加熱すると、500℃〜600℃程度で非晶質体が固体−液体の中間状態となり非晶質中の元素が移動できる様になるとBaO・6Fe23が結晶化し始め核粒子が生成する。通常、700℃以下で非晶質中のBaO・6Fe23構成成分は全て結晶化する。この温度雰囲気で保持し続けると粒子は成長する。粒子成長反応では微細な粒子がガラス質に溶解して他の粒子成長の原料となる。この反応はおそらくオストワルト熟成反応によると考えている。粒子は温度を上げると成長し続ける。
そこで本発明者らは、粒度分布を更に改良するためには、核粒子生成時の溶解−析出反応を抑制することが重要であるとの結論を得て更に検討を重ねた結果、以下の知見を得るに至った。
【0008】
非晶質中のBaO・6Fe23構成成分が結晶化を開始して核粒子を生成している状態(未結晶化成分が残っている状態)で溶解−析出反応が生じると、この時点で粒度分布が広がる。このことは未結晶化成分が結晶化して核粒子を生成する反応と、溶解−析出反応の速度の違いが関係していると考えられる。核粒子生成時の溶解−析出反応を抑制するには核粒子を溶解するガラス質(B23)量を減量することと、結晶化させる温度を低く抑えることが重要である。ガラス質を減量しても結晶化させる温度が高ければ溶解−析出反応は抑えられない。他方、温度を下げるだけでは核粒子の生成反応速度が小さくなるため六方晶フェライト磁性粉末を得るためには、核粒子生成反応を長時間行う必要がある。しかし核粒子生成反応を長時間行うと、核生成と未結晶化成分による粒成長反応が同時に進行するため粒度分布は広くなってしまう。
更に、非晶質の飽和磁化量も粒度分布に影響する。原料混合物を急冷して得られる非晶質体の飽和磁化量は、原料混合物の非晶質性を表していると考えられる。ガラス結晶化法では原料混合物を急冷し非晶質化するが、この急冷時に結晶化速度よりも速く冷却すると非晶質化が良好に進行するのに対し、冷却速度が結晶化速度に追いつかないと急冷中に結晶粒子が析出してしまう。急冷時に析出した結晶粒子が多いほど、非晶質体の飽和磁化量は大きくなる。しかし、この段階で析出した結晶粒子は、その後の結晶化工程で析出する結晶粒子とは粒度分布が異なるため、急冷時の析出粒子が多いほど最終的に得られる六方晶フェライト粉末の粒度分布が広がる傾向がある。
また、非晶質中のBaO・6Fe23成分が全て結晶化した際に生成している粒子が目的粒子サイズよりあまりに小さいと粒子成長のために更に反応を継続する必要がある。しかし、この反応はオストワルト熟成によるため、反応を継続すると粒度分布が拡大して目的の粒子サイズになった際に大きな粒度分布となってしまう。したがって、結晶化工程における最終的な目的粒子サイズも粒度分布に影響を及ぼす。
本発明者らは以上の知見から、(1)原料中のB23成分量を低減すること、(2)溶融物の急冷により得られる固化物の飽和磁化量を小さくすること、(3)結晶化温度を低くすること、(4)目的粒子サイズを小さくすること、により上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、上記目的は、下記手段により達成された。
[1]B23成分を含むガラス形成成分および六方晶フェライト形成成分を含み、かつ上記B23成分をB23換算で15〜27モル%含む原料混合物を溶融し溶融物を得ること、
上記溶融物を急冷し、飽和磁化量が0.6A・m2/kg以下である固化物を得ること、ならびに、
上記固化物を600〜690℃の温度域まで加熱し該温度域に保持することにより平均板径が15〜25nmの六方晶フェライト磁性粉末を析出させること、
を含む六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
[2]前記原料混合物は、B23成分以外のガラス形成成分を、B23成分のB23換算含有量に対して酸化物基準で5〜40モル%含有する[1]に記載の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
[3]前記ガラス形成成分は、SiO2成分を含む[1]または[2]に記載の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
[4]前記六方晶フェライト磁性粉末は、バリウムフェライト磁性粉末である[1]〜[3]のいずれかに記載の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
[5]前記六方晶フェライト磁性粉末は、粒度分布変動係数が25%以下である[1]〜[4]のいずれかに記載の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
[6]非磁性支持体上に、[1]〜[5]のいずれかに記載の方法により製造された六方晶フェライト磁性粉末と結合剤とを含む磁性層を有する磁気記録媒体。
[7]前記磁性層の厚さは80nm以下である[6]に記載の磁気記録媒体。
[8][1]〜[5]のいずれかに記載の方法により六方晶フェライト磁性粉末を得ること、および、得られた六方晶フェライト磁性粉末を用いて磁性層を形成すること、を含む磁気記録媒体の製造方法。
[9]前記磁性層の厚さは80nm以下である[8]に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、超高密度記録が可能な磁気記録媒体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[六方晶フェライト磁性粉末の製造方法]
本発明の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法は、ガラス結晶化法により六方晶フェライト磁性粉末を製造するものであり、以下の工程を含む。
(1)B23成分を含むガラス形成成分および六方晶フェライト形成成分を含み、かつ上記B23成分をB23換算で15〜27モル%含む原料混合物を溶融し溶融物を得ること、
(2)上記溶融物を急冷し、飽和磁化量が0.6A・m2/kg以下(0.6emu/g以下)である固化物を得ること、ならびに、
(3)上記固化物を600〜690℃の温度域まで加熱し該温度域に保持することにより平均板径が15〜25nmの六方晶フェライト磁性粉末を析出させること。
以下、本発明の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法について、更に詳細に説明する。
【0012】
原料混合物
本発明において使用される原料混合物は、ガラス形成成分および六方晶フェライト形成成分を含む。ガラス形成成分とは、ガラス転移現象を示し非晶質化(ガラス化)し得る成分であり、通常のガラス結晶化法ではB23成分が使用される。本発明でもガラス形成成分としてB23成分を含む原料混合物を使用する。その含有量は前述の通り核粒子生成時の溶解−析出反応を抑制し粒度分布をシャープにするためにB23換算(酸化物換算)で27モル%以下とする。ただし15モル%未満では、溶解−析出反応が抑制されすぎて所望の粒子サイズの六方晶フェライト磁性粉末を得ることが困難となるため、その下限は15モル%とする。即ち、上記原料混合物中のB23成分量は、B23換算(酸化物換算)で15〜27モル%であり、好ましい範囲は、15〜25モル%である。
【0013】
ガラス結晶化法において原料混合物に含まれる各成分は、酸化物として、または溶融等の工程において酸化物に変わり得る各種の塩として存在する。本発明において「B23成分」とは、B23自体および工程中にB23に変わり得るH2BO3等の各種の塩を含むものとする。他の成分についても同様である。
【0014】
上記の通りB23成分を減量することによりシャープな粒度分布を示す六方晶フェライト磁性粉末を得ることができる。ただしB23成分は、六方晶フェライト形成成分として通常使用されるBaO成分とFe23成分の溶融を促進する成分であるため、B23成分を減量すると原料混合物を溶解しずらくなる。また、B23成分を減量することにより、相対的に六方晶フェライト成分の割合が増加し非晶質化しづらくなることがある。本発明者らは、このような場合には、原料混合物中にB23成分以外のガラス形成成分を添加することにより上記現象を緩和することができることを見いだした。B23成分以外のガラス形成成分は、ガラス転移温度がB23より高い方が好ましい。ガラス転移温度がB23より低い成分では、溶解析出反応を抑制することが難しいからである。上記成分としては、例えばSiO2成分、GeO2成分等を挙げることができる。
【0015】
23成分と他のガラス形成成分を併用する場合、前記原料混合物は、B23成分以外のガラス形成成分を、B23成分のB23換算含有量に対して酸化物基準で40モル%以下の量で含むことが好ましい。その量がB23成分に対して40モル%以下であれば、最終生成物である六方晶フェライト磁性粉末にガラス形成成分(SiO2等)が多量に残留し磁気記録媒体とした際に分散が劣化したり磁性体充填度が低下して電磁変換特性が劣化することを回避することができる。ただし5モル%より少量では添加効果が少ないため、上記成分を添加する場合、その添加量はB23成分のB23換算含有量に対して酸化物基準で5モル%以上とすることが好ましい。上記他のガラス形成成分の含有量は、B23成分のB23換算含有量に対して酸化物基準で10〜30モル%であることがより好ましい。
【0016】
前記原料混合物に含まれる六方晶フェライト形成成分としては、六方晶フェライト磁性粉末の構成成分となる成分であって、Fe23、BaO、SrO、PbO等の金属酸化物が挙げられる。例えば、六方晶フェライト形成成分の主成分としてBaOを使用することによりバリウムフェライト磁性粉末を得ることができる。原料混合物中の六方晶フェライト形成成分の含有量は、所望の磁気特性に応じて適宜設定することができる。
【0017】
六方晶フェライト磁性粉末として、抗磁力調整のためFeの一部が他の金属元素によって置換されたものを得ることもできる。置換元素としては、Co−Zn−Nb、Co−Ti、CO−Ti−Sn、Co−Sn−Nb、Co−Zn−Sn−Nb、Co−Zn−Zr−Nb、Co−Zn−Mn−Nb等が挙げられる。このような六方晶フェライト磁性粉末を得るためには、六方晶フェライト形成成分として、抗磁力調整のための成分を併用すればよい。抗磁力調整成分としては、CoO、NiO、ZnO等の2価金属の酸化物成分、TiO2、ZrO2、HfO2等の4価金属の酸化物成分が挙げられる。上記抗磁力調整成分を使用する場合、その含有量は所望の抗磁力等にあわせて、適宜決定すればよい。
【0018】
上記原料混合物は、各成分を秤量および混合して得ることができる。
【0019】
原料混合物の溶融、溶融物の固化
本発明では、前記原料混合物を溶融し溶融物を得る。溶融温度は原料組成に応じて設定すればよく、例えば1000〜1500℃である。溶融時間は、原料混合物が十分溶融するように適宜設定すればよい。
【0020】
次いで、得られた溶融物を急冷することにより固化物を得る。この固化物は、ガラス形成成分が非晶質化(ガラス化)した非晶質体を含む。上記急冷は、ガラス結晶化法で非晶質体を得るために通常行われる急冷工程と同様に実施することができ、例えば高速回転させた水冷双ローラー上に溶融物を注いで圧延急冷する方法等の公知の方法で行うことができる。
【0021】
本発明では上記急冷により、飽和磁化量が0.6A・m2/kg以下である固化物を得る。前述のように急冷後に得られる固化物の飽和磁化量は急冷中に析出した結晶量の指標となり得るものであり、飽和磁化量が0.6A・m2/kgを超える固化物は非晶質中の析出結晶が多く、これら析出結晶が最終的に得られる六方晶フェライトの粒度分布を広げる要因となるためシャープな粒度分布を有する六方晶フェライト磁性粉末をえることが困難となる。前記飽和磁化量の下限は、例えば0.2A・m2/kg以上であるが、0.2A・m2/kg未満の飽和磁化量を有する固化物を得ることももちろん可能である。
【0022】
上記固化物の飽和磁化量は、急冷時の冷却速度によって制御することができる。前述のように固化物の飽和磁化量は、結晶化速度と冷却速度との兼ね合いで決まるものである。原料組成によって結晶化速度は変わり得るため、急冷時の冷却速度は原料組成に応じて設定すべきである。冷却速度は、冷却ローラーのロール熱伝導率、ロール周速、ロール間の圧力、ロールに滴下する溶融液量等によって制御することができ、制御することにより固化物の飽和磁化量を所望の範囲とすることができる。
【0023】
固化物の加熱処理
上記急冷後、得られた固化物を加熱処理する。この工程により、六方晶フェライト粒子を結晶化させ非晶質相(ガラス相)中に析出させることができる。本発明では、上記加熱処理を、急冷により得られた固化物を600〜690℃の温度域まで加熱し該温度域に保持した状態で、析出する六方晶フェライト磁性粉末の平均板径が15〜25nmになるまで行う。平均板径が25nmを超える六方晶フェライト磁性粉末を析出させようとすると、先に説明したように結晶化反応を継続する必要があり目的の粒子サイズになったときに大きな粒度分布となってしまう。ただし析出される六方晶フェライト磁性粉末の粒子サイズが過度に小さいと粒度分布はシャープになるものの磁気記録媒体に適用可能な抗磁力Hcを有する六方晶フェライト磁性粉末を得ることができない。そこで本発明では、析出させる六方晶フェライト磁性粉末の平均板径を15〜25nmとする。上記平均板径は、好ましくは15〜20nmである。上記平均板径は、透過型電子顕微鏡で撮影した写真において500個の粒子を無作為に抽出して測定した板径の平均値とする。なお、六方晶フェライト磁性粉末の粒子サイズは、後述の実施例で行われるような粗粉砕や磁性層塗布液調製工程では実質的に変化しない。そのため六方晶フェライト磁性粉末製造工程後に測定された平均板径および磁性層中で測定される平均板径は、上記加熱処理により析出した六方晶フェライト磁性粉末の平均板径とみなすことができる。後述の粒度分布についても同様である。
【0024】
本発明では、前記固化物の加熱処理を、600〜690℃の温度域で行う。上記加熱温度が600℃未満では、結晶化反応が十分に進行せず所望の粒子サイズの六方晶フェライト磁性粉末を得ることが困難となる。一方、上記加熱温度が690℃を超えると、先に説明したように核粒子生成時の溶解−析出反応によりシャープな粒度分布を有する六方晶フェライト磁性粉末を得ることが困難となる。上記加熱温度は、好ましくは620〜680℃である。析出させる六方晶フェライト磁性粉末の粒子サイズは、上記加熱温度および加熱時間により制御可能であるため、本発明では600〜690℃の範囲、好ましくは620〜680℃の範囲で目的粒子サイズにより適切な加熱温度を選択することが好ましい。上記温度域までの昇温速度は、例えば10〜500℃/分程度が好適であり、上記温度域での保持時間は、例えば2〜12時間であり、好ましくは3〜6時間である。
【0025】
上記加熱処理物は、通常、六方晶フェライト磁性粉末と非晶質相を含む。非晶質相を除去し六方晶フェライト磁性粉末を得る処理としては、加熱下酸処理等のガラス結晶化法で一般的に行われる各種処理を用いることができる。この処理により余分なガラス成分を除去した粒子に、必要に応じて水洗、乾燥等の後処理を施すことにより、磁気記録媒体に適用可能な六方晶フェライト磁性粉末を得ることができる。
【0026】
本発明によれば、以上説明した工程によりシャープな粒度分布を示す六方晶フェライト磁性粉末を得ることができる。得られる六方晶フェライト磁性粉末の粒度分布は、例えば透過型電子顕微鏡で撮影した写真において500個の粒子を無作為に抽出して測定した板径の平均値(平均板径)を求め、これら500個の粒子の板径について標準偏差を求めて平均板径で除した値(粒径分布変動係数)で評価することができる。本発明によれば、上記粒径分布変動係数として25%以下、例えば15〜25%の粒度分布を示す六方晶フェライト磁性粉末を得ることができる。粒度分布が広い六方晶フェライト磁性粉末には、平均板径を大きく外れる粒子が多数含まれる。本発明で得られる六方晶フェライト磁性粉末の平均板径は前記の通り15〜25nmであり、この範囲に満たない小さな粒子は磁気特性に寄与せず非磁性体として振る舞い、この範囲を超える大きな粒子はノイズの原因となり得る。粒度分布が広い場合、このように磁気特性に寄与しないか磁気特性を低下させ得る粒子が多数存在するのに対し、本発明によればシャープな粒度分布を示す優れた磁気特性を有する六方晶フェライト磁性粉末を得ることができる。本発明によれば、磁気記録に適した抗磁力、例えば173kA/m以上、更には173〜340kA/mの抗磁力を有する六方晶フェライト磁性粉末を得ることができる。
【0027】
[磁気記録媒体およびその製造方法]
本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体上に本発明の製造方法により製造された六方晶フェライト磁性粉末と結合剤を含む磁性層を有するものである。
本発明の磁気記録媒体の製造方法は、本発明の製造方法により六方晶フェライト磁性粉末を得ること、および、得られた六方晶フェライト磁性粉末を用いて磁性層を形成すること、を含む。
以下、本発明の磁気記録媒体および本発明の磁気記録媒体の製造方法について、更に詳細に説明する。
【0028】
磁性層
磁性層に使用される六方晶フェライト磁性粉末およびその製造方法の詳細は、前述の通りである。前記磁性層は、六方晶フェライト磁性粉末とともに結合剤を含む。磁性層に含まれる結合剤としては、ポリウレタン樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、塩化ビニル系樹脂、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレートなどを共重合したアクリル系樹脂、ニトロセルロースなどのセルロース系樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラールなどのポリビニルアルキラール樹脂などから単独または複数の樹脂を混合して用いることができる。これらの中で好ましいものはポリウレタン樹脂、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂、塩化ビニル系樹脂である。これらの樹脂は、後述する非磁性層においても結合剤として使用することができる。また、上記樹脂とともにポリイソシアネート系硬化剤を使用することも可能である。
【0029】
上記結合剤は強磁性粉末、非磁性粉体の分散性を向上させるため、これらの粉体表面に吸着する官能基(極性基)を持つことが好ましい。好ましい官能基としては−SO3M、−SO4M、−PO(OM)2、−OPO(OM)2、−COOM、=NSO3M、=NRSO3M、−NR12、−N+123-などがある。ここでMは水素またはNa、K等のアルカリ金属、Rはアルキレン基、R1、R2、R3はアルキル基またはヒドロキシアルキル基または水素、XはCl、Br等のハロゲンである。結合剤中の官能基の量は10μeq/g以上200μeq/g以下が好ましく、30μeq/g以上120μeq/g以下がさらに好ましい。この範囲内であれば、良好な分散性が得られるので好ましい。
【0030】
結合剤の分子量は質量平均分子量で10,000以上200,000以下であることが好ましい。この範囲内にあれば、塗膜強度が十分であり、耐久性が良好であり、また分散性が向上するので好ましい。
【0031】
非磁性層、磁性層には、非磁性粉末または強磁性粉末に対し、例えば5〜50質量%の範囲、好ましくは10〜30質量%の範囲で結合剤を用いることができる。
【0032】
磁性層には、必要に応じて添加剤を加えることができる。添加剤としては、研磨剤、潤滑剤、分散剤・分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤、溶剤、カーボンブラックなどを挙げることができる。上記添加剤は、所望の性質に応じて市販品を適宜選択して使用することができる。
【0033】
磁性層で使用可能なカーボンブラックとしては、ゴム用ファーネス、ゴム用サーマル、カラー用ブラック、アセチレンブラック等を挙げることができる。比表面積は5〜500m2/g、DBP吸油量は10〜400ml/100g、粒子径は5〜300nm、pHは2〜10、含水率は0.1〜10%、タップ密度は0.1〜1g/mlが好ましい。カーボンブラックを使用する場合、強磁性粉末の質量に対して0.1〜30質量%で用いることが好ましい。磁性層で使用できるカーボンブラックは、例えば「カーボンブラック便覧」カーボンブラック協会編、を参考にすることができる。それらは市販品として入手可能である。
【0034】
本発明で使用されるこれらの添加剤は、磁性層、さらに後述する非磁性層でその種類、量を必要に応じて使い分けることができる。また本発明で用いられる添加剤のすべてまたはその一部は、磁性層または非磁性層用の塗布液の製造時のいずれの工程で添加してもよい。例えば、混練工程前に強磁性粉末と混合する場合、強磁性粉末と結合剤と溶剤による混練工程で添加する場合、分散工程で添加する場合、分散後に添加する場合、塗布直前に添加する場合などがある。六方晶フェライト磁性粉末を分散する際に粒子表面を分散媒、ポリマーに合った物質で処理することも可能である。表面処理剤は無機化合物、有機化合物のいずれでもよい。主な化合物としてはSi、Al、P、等の酸化物または水酸化物、各種シランカップリング剤、各種チタンカップリング剤が代表例である。量は磁性体に対して、通常0.1質量%以上10%質量以下である。磁性体のpHは、通常4以上12以下程度であり、分散媒、ポリマーにより最適値があるが、媒体の化学的安定性、保存性から一般に6以上10以下程度が選択される。磁性体に含まれる水分は、分散媒、ポリマーにより最適値があるが通常0.01質量%以上2.0質量%以下が好ましい。
【0035】
非磁性層
次に非磁性層に関する詳細な内容について説明する。本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体と磁性層との間に非磁性粉末と結合剤を含む非磁性層を有することができる。非磁性層に使用できる非磁性粉末は、無機物質でも有機物質でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。無機物質としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物などが挙げられる。これらの非磁性粉末は、市販品として入手可能であり、公知の方法で製造することもできる。
【0036】
具体的には二酸化チタン等のチタン酸化物、酸化セリウム、酸化スズ、酸化タングステン、ZnO、ZrO2、SiO2、Cr23、α化率90〜100%のα−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、α−酸化鉄、ゲータイト、コランダム、窒化珪素、チタンカーバイト、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、2硫化モリブデン、酸化銅、MgCO3、CaCO3、BaCO3、SrCO3、BaSO4、炭化珪素、炭化チタンなどが単独または2種類以上を組み合わせて使用することができる。好ましいものは、α−酸化鉄、酸化チタンである。
【0037】
非磁性粉末の形状は、針状、球状、多面体状、板状のいずれでもあってもよい。非磁性粉末の結晶子サイズは、4nm〜500nmが好ましく、40〜100nmがさらに好ましい。結晶子サイズが4nm〜500nmの範囲であれば、分散が困難になることもなく、また好適な表面粗さを有するため好ましい。これら非磁性粉末の平均粒径は、5nm〜500nmが好ましいが、必要に応じて平均粒径の異なる非磁性粉末を組み合わせたり、単独の非磁性粉末でも粒径分布を広くしたりして同様の効果をもたせることもできる。とりわけ好ましい非磁性粉末の平均粒径は、10〜200nmである。5nm〜500nmの範囲であれば、分散も良好で、かつ好適な表面粗さを有するため好ましい。
【0038】
非磁性粉末の比表面積は、例えば1〜150m2/gであり、好ましくは20〜120m2/gであり、さらに好ましくは50〜100m2/gである。比表面積が1〜150m2/gの範囲内にあれば、好適な表面粗さを有し、かつ、適量の結合剤で分散できるため好ましい。ジブチルフタレート(DBP)を用いた吸油量は、例えば5〜100ml/100g、好ましくは10〜80ml/100g、さらに好ましくは20〜60ml/100gである。比重は、例えば1〜12、好ましくは3〜6である。タップ密度は、例えば0.05〜2g/ml、好ましくは0.2〜1.5g/mlである。タップ密度が0.05〜2g/mlの範囲であれば、飛散する粒子が少なく操作が容易であり、また装置にも固着しにくくなる傾向がある。非磁性粉末のpHは2〜11であることが好ましく、6〜9の間が特に好ましい。pHが2〜11の範囲にあれば、高温、高湿下または脂肪酸の遊離により摩擦係数が大きくなることを防ぐことができる。非磁性粉末の含水率は、例えば0.1〜5質量%、好ましくは0.2〜3質量%、さらに好ましくは0.3〜1.5質量%である。含水量が0.1〜5質量%の範囲であれば、分散も良好で、分散後の塗料粘度も安定するため好ましい。強熱減量は、20質量%以下であることが好ましく、強熱減量が小さいものが好ましい。
【0039】
また、非磁性粉末が無機粉体である場合には、モース硬度は4〜10のものが好ましい。モース硬度が4〜10の範囲であれば耐久性を確保することができる。非磁性粉末のステアリン酸吸着量は、好ましくは1〜20μmol/m2であり、さらに好ましくは2〜15μmol/m2である。非磁性粉末の25℃での水への湿潤熱は、200〜600erg/cm2(200〜600mJ/m2)の範囲にあることが好ましい。また、この湿潤熱の範囲にある溶媒を使用することができる。100〜400℃での表面の水分子の量は1〜10個/100Åが適当である。水中での等電点のpHは、3〜9の間にあることが好ましい。これらの非磁性粉末の表面には表面処理が施されることによりAl23、SiO2、TiO2、ZrO2、SnO2、Sb23、ZnOが存在することが好ましい。特に分散性に好ましいのはAl23、SiO2、TiO2、ZrO2であるが、さらに好ましいのはAl23、SiO2、ZrO2である。これらは組み合わせて使用してもよいし、単独で用いることもできる。また、目的に応じて共沈させた表面処理層を用いてもよいし、先ずアルミナで処理した後にその表層をシリカで処理する方法、またはその逆の方法を採ることもできる。また、表面処理層は目的に応じて多孔質層にしても構わないが、均質で密である方が一般には好ましい。
【0040】
非磁性層には非磁性粉末と共に、カーボンブラックを混合し表面電気抵抗を下げ、光透過率を小さくすると共に硬度を調整することができる。例えば、非磁性層にはゴム用ファーネス、ゴム用サーマル、カラー用ブラック、アセチレンブラック等を用いることができる。
【0041】
非磁性層に用いられるカーボンブラックの比表面積は、例えば100〜500m2/g、好ましくは150〜400m2/g、DBP吸油量は、例えば20〜400ml/100g、好ましくは30〜200ml/100gである。カーボンブラックの粒子径は、例えば5〜80nm、好ましくは10〜50nm、さらに好ましくは10〜40nmである。カーボンブラックのpHは2〜10、含水率は0.1〜10%、タップ密度は0.1〜1g/mlが好ましい。また、カーボンブラックを分散剤などで表面処理したり、樹脂でグラフト化して使用しても、表面の一部をグラファイト化したものを使用してもかまわない。また、カーボンブラックを塗料に添加する前にあらかじめ結合剤で分散してもかまわない。これらのカーボンブラックは非磁性粉末に対して50質量%を越えない範囲、非磁性層総質量の40%を越えない範囲で使用することが好ましい。これらのカーボンブラックは単独、または組み合せで使用することができる。本発明において非磁性層で使用できるカーボンブラックは例えば「カーボンブラック便覧」カーボンブラック協会編、を参考にすることができる。それらは市販品として入手可能である。
【0042】
また非磁性層には目的に応じて有機質粉末を添加することもできる。このような有機質粉末としては、例えば、アクリルスチレン系樹脂粉末、ベンゾグアナミン樹脂粉末、メラミン系樹脂粉末、フタロシアニン系顔料が挙げられるが、ポリオレフィン系樹脂粉末、ポリエステル系樹脂粉末、ポリアミド系樹脂粉末、ポリイミド系樹脂粉末、ポリフッ化エチレン樹脂も使用することができる。その製法は、特開昭62−18564号公報、特開昭60−255827号公報に記されているようなものが使用できる。
【0043】
非磁性層の結合剤、潤滑剤、分散剤、添加剤、溶剤、分散方法その他は、磁性層のそれが適用できる。特に、結合剤量、種類、添加剤、分散剤の添加量、種類に関しては磁性層に関する公知技術が適用できる。
【0044】
また、本発明の磁気記録媒体は、下塗り層を設けてもよい。下塗り層を設けることによって支持体と磁性層または非磁性層との接着力を向上させることができる。接着性向上のための下塗り層としては、溶剤への可溶性のポリエステル樹脂を使用することができる。
【0045】
非磁性支持体
非磁性支持体としては、二軸延伸を行ったポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、芳香族ポリアミド等の公知のものが挙げられる。これらの中でもポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミドが好ましい。
これらの支持体はあらかじめコロナ放電、プラズマ処理、易接着処理、熱処理などを行ってもよい。また、本発明に用いることのできる非磁性支持体の表面粗さはカットオフ値0.25mmにおいて中心平均粗さRa3〜10nmが好ましい。
【0046】
層構成
本発明の磁気記録媒体の厚み構成は、非磁性支持体の厚みが、好ましくは3〜80μmである。また、非磁性支持体と非磁性層の間に下塗り層を設ける場合、下塗り層の厚みは、例えば0.01〜0.8μm、好ましくは0.02〜0.6μmである。
【0047】
磁性層の厚みは、好ましくは80nm以下である。磁性層に粒度分布がシャープな六方晶フェライト磁性粉末を使用することにより、シャープな粒度分布に由来するS/N向上効果を得ることができ、特に厚さ80nm以下の薄層磁性層においてこの効果が大きい。これは、記録に寄与しない極端な微細粒子成分が少なく、またノイズに影響すると考えられる極端な粗大粒子成分が少ないことによる効果は、磁性体粒子総数が少なくなる薄層磁性層において顕在化するためと考えられる。前記磁性層の厚さは、より好ましくは30〜60nmの範囲である。
【0048】
非磁性層の厚みは、例えば0.1〜3.0μmであり、0.3〜2.0μmであることが好ましく、0.5〜1.5μmであることが更に好ましい。なお、本発明の磁気記録媒体の非磁性層は、実質的に非磁性であればその効果を発揮するものであり、例えば不純物として、あるいは意図的に少量の磁性体を含んでいても、本発明の効果を示すものであり、本発明の磁気記録媒体と実質的に同一の構成とみなすことができる。なお、実質的に同一とは、非磁性層の残留磁束密度が10mT以下または抗磁力が7.96kA/m(100Oe)以下であることを示し、好ましくは残留磁束密度と抗磁力を持たないことを意味する。
【0049】
バック層
本発明の磁気記録媒体には、非磁性支持体の非磁性層および磁性層を有する面とは反対の面にバック層を設けることもできる。バック層には、カーボンブラックと無機粉末が含有されていることが好ましい。バック層形成のための結合剤、各種添加剤は、磁性層や非磁性層の処方を適用することができる。バック層の厚みは、0.9μm以下が好ましく、0.1〜0.7μmが更に好ましい。
【0050】
製造方法
磁性層、非磁性層またはバック層を形成するための塗布液を製造する工程は、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程からなる。個々の工程はそれぞれ2段階以上に分かれていてもかまわない。本発明で用いられる強磁性粉末、非磁性粉末、結合剤、カーボンブラック、研磨剤、帯電防止剤、潤滑剤、溶剤などすべての原料はどの工程の最初または途中で添加してもかまわない。また、個々の原料を2つ以上の工程で分割して添加してもかまわない。例えば、ポリウレタンを混練工程、分散工程、分散後の粘度調整のための混合工程で分割して投入してもよい。本発明の目的を達成するためには、従来の公知の製造技術を一部の工程として用いることができる。混練工程ではオープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダなど強い混練力をもつものを使用することが好ましい。これらの混練処理の詳細については特開平1−106338号公報、特開平1−79274号公報に記載されている。また、磁性層塗布液、非磁性層塗布液またはバック層塗布液を分散させるには、ガラスビーズを用いることができる。このようなガラスビーズは、高比重の分散メディアであるジルコニアビーズ、チタニアビーズ、スチールビーズが好適である。これら分散メディアの粒径と充填率は最適化して用いられる。分散機は公知のものを使用することができる。
【0051】
磁気記録媒体の製造方法では、例えば、走行下にある非磁性支持体の表面に、非磁性層塗布液を所定の膜厚となるように塗布して非磁性層を形成し、次いでその上に、磁性層塗布液を所定の膜厚となるようにして磁性層を塗布して形成する。複数の磁性層塗布液を逐次または同時に重層塗布してもよく、非磁性層塗布液と磁性層塗布液とを逐次または同時に重層塗布してもよい。上記磁性層塗布液または非磁性層塗布液を塗布する塗布機としては、エアードクターコート、ブレードコート、ロッドコート、押出しコート、エアナイフコート、スクイズコート、含浸コート、リバースロールコート、トランスファーロールコート、グラビヤコート、キスコート、キャストコート、スプレイコート、スピンコート等が利用できる。これらについては例えば(株)総合技術センター発行の「最新コーティング技術」(昭和58年5月31日)を参考にできる。
【0052】
磁性層塗布液の塗布層は、磁気テープの場合、磁性層塗布液の塗布層中に含まれる強磁性粉末にコバルト磁石やソレノイドを用いて磁場配向処理してもかまわない。ディスクの場合、配向装置を用いず無配向でも十分に等方的な配向性が得られることもあるが、コバルト磁石を斜めに交互に配置すること、ソレノイドで交流磁場を印加するなど公知のランダム配向装置を用いることが好ましい。また異極対向磁石など公知の方法を用い、垂直配向とすることで円周方向に等方的な磁気特性を付与することもできる。特に高密度記録を行う場合は垂直配向が好ましい。また、スピンコートを用いて円周配向することもできる。
【0053】
乾燥風の温度、風量、塗布速度を制御することで塗膜の乾燥位置を制御できる様にすることが好ましく、塗布速度は20m/分〜1000m/分、乾燥風の温度は60℃以上が好ましい。また磁石ゾーンに入る前に適度の予備乾燥を行うこともできる。
【0054】
このようにして得られた塗布原反は、一旦巻き取りロールにより巻き取られ、しかる後、この巻き取りロールから巻き出され、次いでカレンダー処理に施され得る。
カレンダー処理には、例えばスーパーカレンダーロールなどを利用することができる。カレンダー処理によって、表面平滑性が向上するとともに、乾燥時の溶剤の除去によって生じた空孔が消滅し磁性層中の強磁性粉末の充填率が向上するので、電磁変換特性の高い磁気記録媒体を得ることができる。カレンダー処理する工程は、塗布原反の表面の平滑性に応じて、カレンダー処理条件を変化させながら行うことが好ましい。
【0055】
カレンダーロールとしてはエポキシ、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド等の耐熱性プラスチックロールを使用することができる。また金属ロールで処理することもできる。
【0056】
カレンダー処理条件としては、カレンダーロールの温度を、例えば60〜100℃の範囲、好ましくは70〜100℃の範囲、特に好ましくは80〜100℃の範囲とすることができ、圧力は、例えば100〜500kg/cm(98〜490kN/m)の範囲であり、好ましくは200〜450kg/cm(196〜441kN/m)の範囲で、特に好ましくは300〜400kg/cm(294〜392kN/m)の範囲とすることができる。また非磁性層表面に対して、例えば上記条件でカレンダー処理を行うこともできる。
【0057】
得られた磁気記録媒体は、裁断機などを使用して所望の大きさに裁断して使用することができる。裁断機としては、特に制限はないが、回転する上刃(雄刃)と下刃(雌刃)の組が複数設けられたものが好ましく、適宜、スリット速度、噛み合い深さ、上刃(雄刃)と下刃(雌刃)の周速比(上刃周速/下刃周速)、スリット刃の連続使用時間等を選定することができる。
【実施例】
【0058】
以下に本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、ここに示す成分、割合、操作、順序等は本発明の精神から逸脱しない範囲で変更し得るものであり、下記の実施例に制限されるべきものではない。また、実施例中の「部」は、特に示さない限り質量部を示す。
【0059】
[実施例1〜11、比較例1〜13]
表1に示す各成分が表1に示す割合となるように、それぞれの原料を秤量しミキサーにて混合したものを容量1Lの白金ルツボに仕込み表1に示す熔融温度で高周波溶融させた。実施例1〜11および比較例1〜11、13は、Fe23中のFeの一部がCo=0.5at%、Zn=1.5at%、Nb=1at%で置換されるようにCo含有成分、Zn含有成分およびNb含有成分を原料混合物に添加した。比較例12は、特公平5−12842号公報の実施例2に相当する例であり、原料混合物にCoO成分を4.5モル%、TiO2成分を4.5モル%に添加した。
融液を攪拌しつつ更に加温して融液温度を1400℃にした後、出湯口を加熱し4〜6g/secの滴下量で表2に記載の周速で高速回転している水冷双ロールに滴下し、表2に記載のロール間圧力で急冷圧延して非晶質を作製した。ロールは、鋼材の表面に、熱伝導率が約90W/m・Kのハードクロムメッキを施したものを使用した。なお、実施例10と比較例13は冷却ロール条件を変更した点以外は実施例1と同様にした例であり、実施例11は冷却ロール条件を変更した点以外は実施例8と同様にした例である。
実施例1〜11および比較例1〜11、13については、得られた非晶質300gを電気炉に仕込み表1に示す結晶化温度まで30℃/minで昇温して、該温度に5時間保持し六方晶フェライトを結晶化させた。次いで六方晶フェライトを含む結晶化物を乳鉢で粗粉砕し、2000mlのガラス瓶に1mmφZrビーズ1000gと1%濃度の酢酸を800ml加えてペイントシェーカーにて3時間分散処理を行った後、分散液をビーズと分離させ3Lステンレスビーカーに入れた。分散液を100℃で3時間処理した後、遠心分離器で沈澱させてデカンテーションを繰り返して洗浄し、乾燥させて六方晶フェライト粉末を得た。比較例12については、結晶化は120℃/時間で500℃に昇温し6時間保温後、更に120℃/時間で800℃に昇温し8時間保温した後120℃/時間で室温に戻す同公報の方法を踏襲した。
上記実施例および比較例により得られた試料はX線回折分析を行い、六方晶フェライト(バリウムフェライト)であることを確認した。
【0060】
評価方法
1.平均板径、粒径分布変動係数
上記乾燥後の粒子を透過型電子顕微鏡で撮影した写真から500個の粒子を無作為に抽出し板径を平均値を平均板径とし、500個の測定値の標準偏差を求めて平均板径で除した値を粒径分布変動係数として表1に示す。
2.抗磁力Hc
上記乾燥後の粒子の抗磁力Hcを振動試料型磁束計(東英工業社製)を用い磁場強度15kOe(1194kA/m)で測定した。結果を表1に示す。
3.非晶質の飽和磁化量
上記方法により作製した非晶質の一部を採取し、振動試料型磁束計(東英工業社製)を用い磁場強度15kOe(1194kA/m)で測定した。結果を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
表1の結果から、実施例1〜11の六方晶フェライト磁性粉末は、磁気記録に適した抗磁力を有するとともに粒度分布が格段に改良されていることがわかる。
【0064】
[実施例12〜15、比較例14、15]
<磁気テープ用塗布液の作製>
1.磁性層塗布液
バリウムフェライト磁性粉末:表3参照 100部
ポリウレタン樹脂 12部
質量平均分子量 10000
スルホン酸官能基 0.5meq/g
ダイアモンド微粒子(平均粒径0.10μm) 2部
カーボンブラック(粒子サイズ0.015μm) 0.5部
#55(旭カーボン社製)
ステアリン酸 0.5部
ブチルステアレート 2部
メチルエチルケトン 180部
シクロヘキサノン 100部
【0065】
2.非磁性層塗布液
非磁性粉体 α酸化鉄 100部
平均一次粒子径0.09μm
BET法による比表面積 50m2/g
pH 7
DBP吸油量27〜38g/100g、
表面処理剤Al2O3 8質量%
カーボンブラック 25部
コンダクテックスSC−U(コロンビアンカーボン社製)
塩化ビニル共重合体 13部
MR104(日本ゼオン社製)
ポリウレタン樹脂 5部
UR8200(東洋紡社製)
フェニルホスホン酸 3.5部
ブチルステアレート 1部
ステアリン酸 2部
メチルエチルケトン 205部
シクロヘキサノン 135部
【0066】
<磁気テープの作製>
上記の塗布液のそれぞれについて、各成分をニ−ダで混練した。1.0mmφのジルコニアビーズを分散部の容積に対し65%充填する量を入れた横型サンドミルにポンプで通液し、2000rpmで120分間(実質的に分散部に滞留した時間)分散させた。得られた分散液にポリイソシアネ−トを非磁性層の塗布液には6.5部、さらにメチルエチルケトン7部を加え、1μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、非磁性層形成用および磁性層形成用の塗布液をそれぞれ調製した。
得られた非磁性層塗布液を、52μmポリエチレンナフタレートベース上に乾燥後の厚さが1.5μmになるように塗布乾燥させた後、磁性層が表2に記載の厚さになるように逐次重層塗布を行い、乾燥後7段のカレンダで温度90℃、線圧300kg/cmにて処理を行った。1/4インチ巾にスリットし表面研磨処理を施して磁気テープを得た。
【0067】
評価方法
1.磁気特性(Hc、SQ、SFD)
振動試料型磁束計(東英工業社製)を用い磁場強度15KOe(1194kA/m)で測定した。
2.出力、SNR
記録ヘッド(MIG、ギャップ0.15μm、1.8T)と再生用GMRヘッドをドラムテスターに取り付けて測定した。トラック密度16KTPI、線記録密度400Kbpiの信号(面記録密度6.4Gbpsi)を記録した後、出力とSNを測定した。
【0068】
【表3】

【0069】
表3の結果から、実施例で作製した六方晶フェライト磁性粉末を使用した実施例の磁気テープは、比較例の磁気テープと比べて出力およびSNRに優れ、磁性層を薄くすると更に良好な磁気特性を示すことがわかる。実施例の媒体は、比較例の媒体と比べてHc分布を示すSFD(switching−field distribution)が小さかった。これは粒度分布がシャープな六方晶フェライト磁性粉末を使用したことによる効果である。SFDは小さいほど、磁化反転がシャープでピークシフトが小さくなり、高密度デジタル磁気記録に好適である。また、同一の磁性粉を使用した実施例同士を比較すると、磁性層が薄いほど出力およびSNRは良好であった。これは、前述のように記録に寄与しない極端な微細粒子成分を低減するとともにノイズに影響すると考えられる極端な粗大粒子成分が少ないことによる効果は、磁性体粒子総数が少なくなるほど顕在化するためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明により、優れた磁気特性を示す高密度記録用磁気記録媒体を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
23成分を含むガラス形成成分および六方晶フェライト形成成分を含み、かつ上記B23成分をB23換算で15〜27モル%含む原料混合物を溶融し溶融物を得ること、
上記溶融物を急冷し、飽和磁化量が0.6A・m2/kg以下である固化物を得ること、ならびに、
上記固化物を600〜690℃の温度域まで加熱し該温度域に保持することにより平均板径が15〜25nmの六方晶フェライト磁性粉末を析出させること、
を含む六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
【請求項2】
前記原料混合物は、B23成分以外のガラス形成成分を、B23成分のB23換算含有量に対して酸化物基準で5〜40モル%含有する請求項1に記載の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
【請求項3】
前記ガラス形成成分は、SiO2成分を含む請求項1または2に記載の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
【請求項4】
前記六方晶フェライト磁性粉末は、バリウムフェライト磁性粉末である請求項1〜3のいずれか1項に記載の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
【請求項5】
前記六方晶フェライト磁性粉末は、粒度分布変動係数が25%以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
【請求項6】
非磁性支持体上に、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法により製造された六方晶フェライト磁性粉末と結合剤とを含む磁性層を有する磁気記録媒体。
【請求項7】
前記磁性層の厚さは80nm以下である請求項6に記載の磁気記録媒体。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法により六方晶フェライト磁性粉末を得ること、および、得られた六方晶フェライト磁性粉末を用いて磁性層を形成すること、を含む磁気記録媒体の製造方法。
【請求項9】
前記磁性層の厚さは80nm以下である請求項8に記載の磁気記録媒体の製造方法。

【公開番号】特開2010−24113(P2010−24113A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−189410(P2008−189410)
【出願日】平成20年7月23日(2008.7.23)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】