説明

内燃機関のオイル循環装置

本発明は、分離/デカンテーション装置(3)、シリンダハウジング(4)、内燃機関の可動部品に加圧されたオイルを循環させる加圧オイル供給パイプ(6)、及びサイフォンを形成するオイル帰路回路(7)を備える内燃機関(2)のオイル循環装置(1)に関する。オイル帰路回路(7)はカニューレ(8)を含み、その上端(9)は、前記分離/デカンテーション装置において、デカンテーションされたオイルを回収するために当該分離/デカンテーション装置に開口しており、その下端(11)は、前記カニューレの上端(9)と下端(11)との間に位置する面(P)に自由に開口(13)するオイルタンク(12)に浸かっている。タンク(12)は、前記加圧オイル供給パイプの壁(15)を貫通して形成された通路に密挿されるインサート(14)の中に設けられている。このインサートは前記オイル供給パイプを封鎖する栓とオイルタンクとを同時に形成している。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
本発明は、概して、内燃機関のオイル分離器/デカンテーション装置(decanter)に形成されたオイル排出口へのオイルの逆流を防止できる装置に関する。
具体的には、本発明は、オイル/ガス混合物に含まれるオイルの抽出に適した分離器/デカンテーション装置と、中に少なくとも1つの燃焼チャンバが形成されたシリンダハウジングとを備えた内燃機関のオイル循環装置に関する。この装置は更に、前記エンジンの可動部分に加圧されたオイルを運ぶのに適した加圧オイル供給ダクトと、サイフォンを形成するオイル帰路回路とを備え、このオイル帰路回路は少なくとも1つのカニューレを有し、このカニューレの上端は、前記分離器/デカンテーション装置においてデカンテーション(分離)されたオイルを回収するために当該分離器/デカンテーション装置のオイル排出口に開口し、カニューレの下端は、前記カニューレの上端と下端との間に位置する面内に自由に開口する開口部を有するオイルリザーバに浸かっている。
【0002】
内燃機関では、ピストン、接続ロッド、クランク軸及びカム軸等の可動部品にオイルを吹き付けるシステムによって潤滑油をさす。空気/オイル混合物からなる換気ガスは、オイルの粒子を含む空気が逆流する危険を回避するために、通常オイル分離器/デカンテーション装置を通過させる。
オイルは、分離器/デカンテーション装置に形成された分離表面上に堆積される。これは、重力によって前記混合物が比較的長い経路を辿る一連のジグザグの通路によるものであり、この経路に沿って空気とオイルが分離される。
【0003】
このように、抽出及びデカンテーションされたオイルは、オイル排出口を通ってデカンテーション装置から出てくる。オイル/空気混合物がその排出口からデカンテーション装置に逆流することを防ぐために、サイフォンが使用される。
これは、多くのエンジン製造者が、分離器/デカンテーション装置へのオイルの逆流を防ぎ、同時にエンジンの大きさの縮小及びエンジンオイル循環装置の製造に必要な部品数の低減を探求することを目的として様々な解決法を開発したことによるものである。
【0004】
このような利点を提供する上述の種類の装置は、例えば特許文献FR2819291に開示されている。
【0005】
本明細書において、本発明の目的は、エンジンが加圧オイル供給ダクトを有する場合のこのようなオイル循環装置の製造を最適化することである。
この目的のために、本発明のオイル循環装置は、更に上記で定義した前提部分による一般的な定義に適合しており、基本的に、前記加圧オイル供給ダクトの壁を貫通して形成される通路内に、密封するように挿入されるインサートに前記リザーバが形成され、このインサートが前記オイル供給ダクトを封鎖する栓とオイルリザーバとを同時に構成することを特徴とする。
【0006】
このリザーバの存在により、分離器/デカンテーション装置の排出口を通るオイルの逆流を防ぐことができ、よってオイル分離/デカンテーション機能を最大にすることができる。加えて、本発明により、前記加圧オイル供給ダクトがオイルリザーバの支持体として使用され、これによってリザーバの保持専用の支持体を配置する必要が無くなり、またオイルリザーバの一部を前記オイル供給ダクトの壁の厚みの中に配置することができるので、エンジン全体の高さにおいて空間を節約することができる。
分離器/デカンテーション装置の分離表面の境界と、サイフォンの下限(サイフォンの下限はカニューレの下端である)との間に存在する高さの差により、圧力が均衡し、デカンテーション装置の排出口の位置におけるオイル/ガス混合物の逆流を防止することができる。本発明により、この高さの差を増大させつつ、エンジンの高さを低減することができる。前記高さの差を決めるカニューレの長さは、分離器/デカンテーション装置の排出口と、デカンテーションされたオイルが注ぎ込まれる囲いの中(通常はハウジング内部、かつ、潤滑油を注す可動部品の上方(例えばクランク軸ハウジングの中))との間に存在する圧力の差に応じて選択される。
【0007】
同じく、加圧オイル供給ダクトが成形によって作られる(大抵の場合そうである)と、通常、ダクトの内部形状を画定する成形芯の位置づけ、及びその後の引き抜きができるようにこの供給ダクトに開口部を設ける必要がある。通常、成形芯を取り除いた後に、この穴は、インサート/栓によって塞がれる。本発明により、オイルリザーバは、高圧ダクトの栓の中に形成されるので、部品を節約するとともに、機械工程数を減らすことができる。
例えば、前記加圧オイル供給ダクトの一部が、前記シリンダハウジングの一体部分を形成すること、及び、インサートが配置される通路が、この加圧オイル供給ダクトの一部に形成され、それによってシリンダハウジングの一部を形成することが保証される。
【0008】
この特定の実施形態では、本発明は、加圧オイル供給ダクトを備えたシリンダハウジングに適用される。この実施形態は、大多数のエンジン、特に後述の図1ないし3の実施例に示すV型エンジンに適用される。
また、オイルリザーバの開口部が、クランク軸のために確保された場所の上方で、前記シリンダハウジングの内部領域に自由に開口することが保証できる。
【0009】
特定の実施形態によれば、前記インサートは、前記供給ダクトの壁を貫通して形成された通路内に装着される。
また、インサートが円筒状のボウル(bowl)形状を有すること、及び、カニューレの下端が前記ボウルの底部領域に配置されることも保証される。
【0010】
また、カニューレが円筒状の管形状を有し、円筒状のボウル(bowl)形状を有するインサートと同軸であることも保証される。
従って、この実施形態では、カニューレとボウル(bowl)形状のインサートとの間に大きな間隙が存在し、よってインサートに対してカニューレの位置決めをする許容範囲を大きくすることができる。それによって、本発明の装置の製造に必要な機械加工及び組み立ての精度を低くすることができる。
【0011】
また、前記オイルリザーバの開口部からカニューレの下端までの最小距離と定義される第1の高さH1を、前記カニューレの下端と上端を隔てる距離と定義される第2の高さH2の半分より確実に小さくすることができる。
この寸法的な特徴は、本発明の装置によって均衡が保たれる圧力を固定するのに有利である。
【0012】
同様の理由により、第1の高さH1を第2の高さH2の四分の一より大きくすることも可能である。
また、同様の理由により、前記オイルリザーバの開口端の開口部は、カニューレ内のオイルの通路の断面より確実に大きくすることができる。
【0013】
理想的には、本装置が複数のシリンダとともにエンジン内へ設置するのに適することと、本装置が複数の独立したカニューレ及び複数の独立したオイルリザーバを備えることと、分離器/デカンテーション装置がデカンテーションされたオイルの複数の独立した排出口を有し、独立したカニューレの各々が、前記分離器/デカンテーション装置の独立したオイル排出口に接続されるとともに、独立したオイルリザーバに浸されることと、独立したオイルリザーバの各々が、前記加圧オイル供給ダクトの壁を貫通して形成された対応する通路内に挿入されるインサートとなり、従って、独立したインサートの各々が、前記オイル供給ダクトを封鎖する栓とオイルリザーバとを同時に構成することが保証される。
【実施例】
【0014】
本発明の他の特徴及び利点は、添付図面を参照して、後述する非限定的な詳細な説明から明らかになる。
【0015】
上述のように、本発明は、内燃機関に組み込まれたオイル循環装置1に関する。本実施例では、内燃機関はV型エンジンである。図1のV型エンジンは、軸A−Aの両側に配置された2列の燃焼チャンバを備える。燃焼チャンバの各列には、同一の平面内に配置された3つのチャンバが含まれる。
デカンテーション装置3は、エンジンの対称面において、クランク軸の回転軸である軸X−Xの上方に配置されている。クランク軸用に確保された場所17は、デカンテーション装置/分離装置の下方に位置され、それにより、デカンテーション及び分離されたオイルはクランク軸を超えて流れ下部ハウジングのオイル溜に戻る。
【0016】
図2は、軸A−Aと、クランク軸の回転軸X−Xとを有するエンジンの断面図である。3つのシリンダ5が部分的に示されており、これらのシリンダはピストンの挿入が必要な場所を形成している。これらのシリンダは、単体として成形された部品であるエンジンハウジングの内部に形成されている。加圧オイル供給ダクト6は、シリンダハウジング内において、分離器/デカンテーション装置3とクランク軸用に確保された場所17との間に配置されている。このダクト6は、オイルポンプに接続するのに適しており、場所17の方向に向く加圧されたオイルの排出口を有する。
このダクト6は、成形により形成された単体部品であるシリンダハウジング4の一部を形成する。
【0017】
脱油ゾーン18は、シリンダハウジング内の、加圧オイル供給ダクト6の上方、且つ、分離器/デカンテーション装置の下方に形成されている。加圧オイル供給ダクトが分離器/デカンテーション装置とクランク軸用に確保された場所17との間に設置されることにより、クランク軸からの直接的なオイルのしぶきから脱油ゾーンを保護することができ、これにより、脱油ゾーンに流入するオイルは加圧オイル供給ダクトの方に流れることができる。
加圧オイル供給ダクトは、デフレクター19を形成する長尺の外形を有する。このデフレクターは、重力により、ダクト6のデフレクター19の上方にある脱油ゾーン18からデフレクター19の局所穿孔部20へと流れるオイルを導くのに適したオイル流域を有する。
【0018】
分離器/デカンテーション装置3は、分離すべきオイル/ガス混合物を脱油ゾーン18で回収するために脱油ゾーンに開口している入口部を有するチャンバである。分離器/デカンテーション装置3の内部には、オイル/ガス混合物が1つの障害物から次の障害物へとジグザグの長い経路を通過するように形成された多数の障害物が形成されている。このように、1つの障害物に接触したオイルは重力によって分離器/デカンテーション装置の底部に落下し、脱油されたガスはエンジンの外部へ放出されうる。オイル/ガス混合物から抽出されたオイルは、オイル帰路回路7を提供する分離器/デカンテーション装置のオイル排出口10を介して分離器/デカンテーション装置3から排出される。
オイル帰路回路は、オイル/ガス混合物が排出口10を介して分離/
デカンテーション装置に入り込むのを防止するために、サイフォンを形成する。
【0019】
このオイル帰路回路7はカニューレ8を備え、カニューレの上端9は前記分離器/デカンテーション装置3のオイル排出口に接続され、下端11はリザーバ12に浸かっている。このリザーバ12はボウル(bowl)形状のインサート14によって形成され、このボウルの上部は、脱油ゾーン18において、シリンダハウジングの内部に向かって開口している。ボウルの開口部は面P内にあり、カニューレを取り囲むディスクの形状を有する。このディスクは面P内にあってカニューレの下端から距離H1だけ離れて位置する。ボウルの底部はオイル供給回路の壁15を貫通する通路に挿入され、よって加圧オイル供給ダクトの栓となる。
カニューレの第二端は、このボウルの上端よりもボウル形状のインサートの底部のずっと近傍に位置する。
【0020】
このボウルの上端は、リザーバの前記開口部を画定し、この開口部の断面積は、カニューレ全体が占める部分の分だけ小さくなる。
実際は、ボウル形状のインサートの上端は水平面内にあるので、ボウルからオイルがあふれるとき、オイルはボウルの全周囲を越えて流出する。
【0021】
このように、ダクトの内部形状の機械加工を可能にするためにオイル供給ダクトの壁15を貫通して形成される穴又は通路はまた、ダクト6の内部が機械加工された後、インサートを受入れることができる。ボウルが深い程カニューレを長くすることができる。従って、オイル/ガス混合物の逆流を防止するのに必要なカニューレの長さは、エンジンの高さを増大させなくとも十分に大きい。よって、脱油ゾーン内部の逆圧は、必要に応じて大きくすることができ、その際エンジンの高さを増大させる必要が無く、また脱油ゾーンがオイル/ガス混合物の逆流によって汚染される危険性が無い。
従って、このような利点により、エンジンの性能を向上させることができる。
【0022】
図3は、図2の部分拡大図である。第1の高さH1は、カニューレ8の、オイルリザーバ12に浸かる部分の長さ(カニューレの下端11とリザーバの上端との間の距離)を決定する。第2の高さH2は、カニューレの長さ(カニューレの両端間の距離)を決定する。H1とH2との高さの差が大きい程、オイル/ガス混合物の分離器/デカンテーション装置への逆流を発生できる脱油ゾーン内の逆圧が必然的に大きくなる。高さH1は、エンジンが許容可能な最大逆圧に応じて決定されるカニューレの高さを満たせるように、カニューレの下端より上方に位置して容器に収容されるオイルの容積に十分な大きさでなければならない(逆圧とは、排出口10におけるデカンテーション装置内の圧力と脱油ゾーン18内の圧力との圧力差である)。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の装置が装着されたV型エンジンを示す。
【図2】V型エンジンの軸A−Aに沿った断面図である。
【図3】図2の部分拡大図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイル/ガス混合物に含まれるオイルを抽出するための分離器/デカンテーション装置(3)と、
少なくとも1つの燃焼チャンバ(5)が形成されるシリンダハウジング(4)と、
を備えた内燃機関(2)のオイル循環装置(1)であって、
加圧されたオイルを前記内燃機関の可動部分に運ぶための加圧オイル供給ダクト(6)と、サイフォンを形成するオイル帰路回路(7)とを更に備え、
オイル帰路回路(7)が少なくとも1つのカニューレ(8)を備え、カニューレ(8)の上端(9)が、前記分離器/デカンテーション装置において、デカンテーションされたオイルを回収するために当該分離器/デカンテーション装置のオイル排出口(10)に開口し、カニューレ(8)の下端(11)が、前記カニューレ(8)の上端(9)と下端(11)との間に位置する面(P)内に自由に開口する開口部(13)を有するオイルリザーバ(12)に浸されており、
前記リザーバ(12)が、前記加圧オイル供給ダクトの壁(15)を貫通して形成された通路内に密封するように挿入されるインサート(14)に形成され、このインサートが前記オイル供給ダクトを封鎖する栓とオイルリザーバとを同時に構成することを特徴とする装置。
【請求項2】
前記加圧オイル供給ダクトの一部が、前記シリンダハウジングの一体部分を形成することと、前記インサートが挿入される通路が、このダクトの一部に形成されることにより、シリンダハウジングの一部を形成することとを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
オイルリザーバの開口部が、クランク軸のために確保された場所の上方で、前記シリンダハウジングの内部領域に自由に開口することを特徴とする、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記インサートが、前記供給ダクトの壁を貫通して形成された通路内に装着されることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
インサートが円筒状のボウルの形状を有することと、カニューレの下端が前記ボウルの底部領域に配置されることとを特徴とする、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
カニューレが、円筒管の形状を有し、円筒状のボウル形状のインサートと同軸であることを特徴とする、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記オイルリザーバの開口部からカニューレの下端を隔てる最小の距離として定義される第1の高さH1が、前記カニューレの下端と上端との間の距離として定義される第2の高さH2の半分より小さいことを特徴とする、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の装置。
【請求項8】
第1の高さH1が第2の高さH2の四分の一より大きいことを特徴とする、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記オイルリザーバの自由端の開口部の断面が、カニューレ内のオイルの通路の横断面より大きいことを特徴とする、請求項1ないし8のいずれか1項に記載の装置。
【請求項10】
複数のシリンダとともにエンジンに取り付けられるのに適することと、
複数の独立したカニューレ及び複数の独立したオイルリザーバを備えることと、
分離器/デカンテーション装置が、複数の独立した、デカンテーションされたオイルの排出口を有し、独立したカニューレの各々が、前記分離器/デカンテーション装置の独立したオイル排出口に接続されるとともに、独立したオイルリザーバに浸されていることと、
独立したオイルリザーバの各々が、前記加圧オイル供給ダクトの壁を貫通して形成された対応する通路に挿入される独立したインサートとなることにより、独立したインサートの各々が、前記オイル供給ダクトを封鎖する栓とオイルリザーバとを同時に構成することと、
を特徴とする、請求項1ないし9のいずれか1項に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−531925(P2008−531925A)
【公表日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−500238(P2008−500238)
【出願日】平成18年2月15日(2006.2.15)
【国際出願番号】PCT/FR2006/050138
【国際公開番号】WO2006/095104
【国際公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(503041797)ルノー・エス・アー・エス (286)
【Fターム(参考)】