説明

内燃機関の制御装置

【課題】退避走行をしつつも、運転者の意図に合わせて車速制御を可能とし、ドライバビリティの低下を抑制する内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】アクセル開度センサと、スロットルバルブと、スロットルバルブ開度センサと、スロットルバルブを駆動するアクチュエータと、アクチュエータの非作動状態時に前記スロットルバルブの開度を所定開度に戻すリターンスプリング、を備えた内燃機関の制御装置であって、制御装置は、リターンスプリング及び前記スロットルバルブ開度センサの故障を判定する故障判定手段と、前記アクセル開度と車速との相関マップから目標車速を算出する目標車速算出手段と、を備え、リターンスプリングが故障していないと判定し、かつ、ストッルバルブ開度センサが故障であると判定する判定条件が成立したときに、目標車速を算出し、目標車速に基づいて前記スロットルバルブを駆動させ、前記内燃機関の制御を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子制御式スロットル装置を備えた内燃機関の制御装置に係り、特に前記スロットル装置のスロットルバルブの位置制御を好適に行う内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、内燃機関の吸入空気量を最適に制御すべく、電子制御式のスロットル装置(電子制御スロットル装置)が使用されている。該スロットル装置は、スロットルバルブと、該スロットルバルブを駆動する電動式の駆動モータなどのアクチュエータとを備えており、制御装置によってアクチュエータを作動させることにより、スロットルバルブを駆動して、スロットルバルブの位置制御を行なっている。
【0003】
例えば、このようなスロットルバルブの位置制御として、スロットルバルブ開度指令(目標スロットル開度)とスロットルバルブ現在開度(検出スロットル開度)の偏差を用いたPID制御や、特許文献1に開示されるようなモデルマッチング方式の制御が提案されている。いずれの制御も、スロットルバルブ開度センサにより検出された検出スロットル開度が、制御装置により演算された目標スロットル開度と一致するように、スロットルバルブをフィードバック制御するものである。
【0004】
また、このような制御対象となる電子制御スロットル装置として、図2に示すようなスロットル装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。具体的には、電子制御スロットル装置50は、スロットルバルブ51とDCモータ(アクチュエータ)52とを備えており、これらは減速ギア53(あるいはなんらかのリンク機構)により間接的に連結されている。また、スロットルバルブ51は360度回転するわけではなく、最低空気量に調整できるように全閉点を設けてあり、そのためのストッパ(図示せず)が設けられている。このストッパはスロットルバルブ51と電子スロットル本体とのクリアランスで実現される場合や、スロットルバルブ51のシャフト(図示せず)、もしくはDCモータ52とスロットルバルブ51の連結部分に設けられる場合がある。
【0005】
一方、スロットルバルブ51にはスロットルバルブ開度センサ54が取り付けられており、スロットルバルブ開度センサ54は、スロットルバルブ51の現時点におけるスロットルバルブ開度を検出している。
【0006】
そして、前述したフィードバック制御をすべく、DCモータ52は、検出されたスロットルバルブ開度が目標スロットルバルブ開度となるように、モータ駆動電圧あるいはモータ駆動電流が入力されることにより作動し、これにより連結されたスロットルバルブ51を駆動させる。
【0007】
さらに、電子制御スロットル装置50は、DCモータ52の非作動状態時にスロットルバルブ51の開度を所定開度に戻すリターンスプリング55を備えたデフォルト機構を有している。具体的には、図3に示すように、デフォルト機構は、スロットルバルブ51が開く方向の開方向のリターンスプリングトルクと、スロットルバルブ51が閉じる方向の閉方向のリターンスプリングトルクを釣り合わせることにより、DCモータ52に駆動電圧がかかっていない場合(すなわちDCモータ52が非作動状態時)、スロットルバルブ51を開方向と閉方向のリターンスプリングトルクが中立であるデフォルト位置に固定する機構である。
【0008】
【特許文献1】特開平9−158764号公報
【特許文献2】特開2007−138759号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、図2に示す電子制御スロットル装置50は、デフォルト機構を有することにより、例えば、スロットルバルブ開度センサ54の異常が発生し、目標スロットル開度どおりにスロットルバルブが制御できない場合には、例えばモータ駆動電圧を0にする(モータ駆動電圧を遮断する)ことにより、スロットルバルブ開度を強制的に前記所定開度に固定して、所定の吸入空気量を確保することができ、車両を退避させるべく退避走行が可能となる。
【0010】
しかし、スロットルバルブ51を所定開度となるように、リターンスプリング55により、デフォルト位置に固定し、車両が退避走行モードに陥った場合には、車両動作はドライバのアクセル要求や車速制御装置の指令には応答しない。この結果、車両のドライバビリティの低下を招く結果となる。
【0011】
本発明は、前記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、スロットルバルブセンサが異常時に退避走行をしつつも、運転者の加減速要求に合わせて車両の車速制御を可能とし、車両のドライバビリティの低下を抑制することができる内燃機関の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解消すべく、本発明に係る内燃機関の制御装置は、アクセル開度を検出するアクセル開度センサと、スロットルバルブと、該スロットルバルブの開度を検出するスロットルバルブ開度センサと、前記スロットルバルブを駆動するアクチュエータと、該アクチュエータの非作動状態時に前記スロットルバルブの開度を所定開度に戻すリターンスプリングと、を備えた車両用の内燃機関の制御装置であって、該制御装置は、前記リターンスプリング及び前記スロットルバルブ開度センサの故障を判定する故障判定手段と、前記アクセル開度と車速との相関マップから前記車両の目標車速を算出する目標車速算出手段と、を備え、前記故障判定手段が、前記リターンスプリングが故障していないと判定し、かつ、ストッルバルブ開度センサが故障していると判定した場合には、前記目標車速となるように前記アクチュエータを作動させて、前記スロットルバルブを駆動する制御を行なうことを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、スロットルバルブ開度センサの故障により、該センサの検出値であるスロットルバルブ開度に基づいて、スロットルバルブの駆動制御が行なえないような退避走行モードとなった場合であっても、運転者のアクセルの踏込みに相当するアクセル開度と車速との相関マップから目標車速を算出して、該目標車速となるように前記スロットルバルブを駆動させる制御を行い、該スロットルバルブを駆動させる量すなわちスロットルバルブ開度に基づいて燃料噴射量を決定し、前記内燃機関の制御を行なうので、退避走行をしつつも、運転者の意図に合わせて車両の車速制御を可能とし、運転者のドライバビリティの低下を抑制することができる。
【0014】
また、本発明に係る内燃機関の制御装置は、前記故障判定手段が、前記アクチュエータの故障をさらに判定し、前記アクチュエータが故障していないと判定したときに、前記アクチュエータを作動させて、前記スロットルバルブを駆動することがより好ましい。また、本発明によれば、アクチュエータの故障を判定してから前記スロットルバルブを駆動させるので、より信頼性の高い退避走行を行なうことができる。
【0015】
また、アクチュエータが故障していると判定した場合には、アクチュエータを非作動状態に制御することがより好ましい。この結果、リターンプリングにより、スロットルバルブは強制的に前記所定の開度となり、より確実にフェールセーフによる退避走行を実現することができる。
【0016】
また、本発明に係る内燃機関の制御装置は、車速を検出する車速検出手段を備えており、前記検出した車速と、前記目標車速との偏差に基づいて、前記アクチュエータを作動させて、前記スロットルバルブを駆動することがより好ましい。本発明によれば、検出車速と目標車速の偏差に基づいて、スロットルバルブ開度のフィードバック制御を行なうことができる。
【0017】
また、本発明に係る内燃機関の制御装置は、前記相関マップの車速が、平坦地走行時相当の車速であることがより好ましく、前記制御装置は、前記相関マップとして、変速機の変速段数ごとの複数の相関マップを備え、前記目標車速算出手段は、前記変速段数に応じて前記複数の相関マップから選択して、前記目標車速を算出することがより好ましい。
【0018】
本発明によれば、前記目標車速の算出を、前記アクセル開度と平坦地走行時相当の車速との相関マップを用いて行うので、より安全な車速の制御を行なうことができる。なお、この平坦地走行時相当の車速とは、所定のアクセル開度となったときに、車両を平坦地において走行させたときの車速であり、走行抵抗に基づいて計測または算出された車速のことをいう。さらに、本発明によれば、変速機の変速段数ごとの複数の相関マップを備えることにより、より安全かつ確実に、運転者のドライバビリティの低下を抑制することができる。
【0019】
さらに、本発明に係る内燃機関の制御装置は、運転者から前記車両への減速要求を検出する減速要求検出手段を備え、前記減速要求を検出し、かつ、前記所定開度以上の前記スロットルバルブを開方向に駆動しようとする場合には、前記アクチュエータを前記非作動状態に制御することがより好ましく、前記減速要求検出手段の前記減速要求は、運転者により前記車両のブレーキ装置を作動させる要求、または、運転者により前記アクセル開度を減速方向に変化させる要求、であることがより好ましい。本発明によれば、運転者の減速要求されたときに、アクチュエータを前記非作動状態に制御するので、リターンスプリングによりスロットルバルブが所定の開度となる。この結果、車速が加速することなく、搭乗者の安全性を確保することができる。
【0020】
さらに、本発明に係る内燃機関の制御装置は、前記所定開度以上のスロットルバルブを開方向に駆動しようとする場合で、かつ、車両の加速度が所定値以上、車速が所定値以上、又は内燃機関の回転数が所定値以上の場合には、前記アクチュエータを前記非作動状態に制御することがより好ましい。本発明によれば、上記車速、内燃機関の回転数、又は車両の加速度を所定以下のときに、アクチュエータを前記非作動状態にすることにより、上記と同様に安全性を確保することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、退避走行すべきフェールセーフモード時においても、運転者のアクセル操作により車両の加減速の動作が可能となり、車両のドライバビリティを向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、図面を参照して、本発明に係る内燃機関の制御装置を実施形態に基づいて説明する。
【0023】
図1は、本実施形態に係る内燃機関及びその制御装置の全体構成図を示す。内燃機関10は、多気筒エンジン、例えば、#1〜#4の4つの気筒を有する直列4気筒エンジンであって、シリンダ11と、このシリンダ11内に摺動自在に嵌挿されたピストン12とを有し、該ピストン12の上方には燃焼室13が画成される。燃焼室13には、点火コイル31から高電圧が印加される点火プラグ32が配設されている。また、ピストン12に連結されたクランク軸42にはクランク角度センサ21が設けられている。クランク角度センサ21は単位クランク角ごとのポジション信号・角度基準信号として検出し、コントロールユニット100に入力されるように接続されている。
【0024】
一方、内燃機関10の吸気経路14には、吸入空気量を検出するための空気流量計22、及び、内燃機関10の吸入空気量を制御するための電子制御スロットル装置50が設けられており、該電子制御スロットル装置50のスロットルバルブ51のスロットルバルブ開度を検出するスロットルバルブ開度センサ54が設けられている。また、シリンダ11の吸気ポート16の上流には燃料噴射弁33が設けられており、吸気バルブ34に向けて燃料を噴射するように配設されている。さらに、内燃機関10の排気経路17には、排気中の特定成分、例えば酸素を計測することにより、混合気の空燃比を計測する酸素量濃度センサ23が設けられ、混合気の空燃比を計測し、該空燃費の信号をコントロールユニット100へ入力されるように接続されている。
【0025】
さらに、運転者の加減速要求を検出すべく、アクセル開度センサ24がアクセルペダル41を介して配設されている。アクセル開度センサ24は、運転者の意図であるアクセル踏み込み量に相当するアクセル開度を検出し、この検出結果であるアクセル開度の検出信号を、コントロールユニット100へ入力されるように接続されている。
【0026】
また、ブレーキスイッチ25が、ブレーキペダルを介して配設されている。ブレーキスイッチ25は、運転者の意図であるブレーキ操作を検出し、運転者の減速要求となるブレーキ操作の検出信号をコントロールユニット100に入力されるように接続されている。また、車輪速度(車両の速度)を検出する車速センサ26が、ドライブシャフトに配設されており、検出結果である車速の検出信号をコントロールユニット100に入力されるように接続されている。さらに、クランク軸42に間接的に連結されて、車輪に動力を伝達する変速機(図示せず)が設けられており、該変速機には、その変速段数を検出する位置センサ(図示せず)が設けられている。
【0027】
そして、前記内燃機関10において、各シリンダに導入されて燃料の燃焼に供せられる空気は、エアクリーナ19をとおり、空気流量計22によって吸入された空気の量は吸入空気量として計量され、コントロールユニット(制御装置)100に入力される。さらに、吸入される空気は、電子制御スロットル装置50を通ることにより制御される。さらに、吸入空気量が制御された空気と燃料噴射弁33から噴射された燃料との混合気は、吸気バルブ34を介して、燃焼室13内に導入される。導入された混合気は、点火プラグ32により点火されて、爆発燃焼せしめられる。燃焼したガス(排ガス)は、排気バルブ35から排出され、さらに排気経路17を通過して外部に排出される。
【0028】
コントロールユニット(内燃機関の制御装置)100は、後述する吸入空気量に基づく車速の制御等を行うべく演算処理を行うCPU101、制御プログラムと制御用データが記憶される読み出し専用メモリ(ROM)102、制御用変数等が記憶される書き込み可能なメモリ(RAM)103、及び入出力回路104を備えている。
【0029】
そして、前述したクランク角度センサ21、空気流量計22、酸素量濃度センサ23、ブレーキスイッチ25、車速センサ26、アクセル開度センサ24、スロットルバルブ開度センサ54、及び、位置センサ等で検出された検出信号は、コントロールユニット100の入出力回路104を介してCPU101に入力され、コントロールユニット100は、これらの入力信号より燃料噴射量、点火時期、スロットル開度等を演算し、それぞれの演算値となる制御信号は、電子制御スロットル装置50(具体的には後述するDCモータ(アクチュエータ)52)、燃料噴射弁33、点火コイル31等に出力される。
【0030】
図2は、前述した電子制御スロットルの構造を示した図である。電子制御スロットル装置50は、内燃機関の吸入空気量を制御するスロットルバルブ51と、スロットルバルブ51の開度を検出するスロットルバルブ開度センサ54と、スロットルバルブ51を駆動するDCモータ(アクチュエータ)52と、DCモータの非作動状態時にスロットルバルブの開度を所定開度に戻すリターンスプリング55を備えたデフォルト機構と、を少なくとも備えている。
【0031】
具体的には、スロットルバルブ51とDCモータ(アクチュエータ)52とは、減速ギア53又はリンク機構等を介して連結されており、DCモータ52に、モータ駆動電圧あるいはモータ駆動電流を与えることによりDCモータ52を作動させて、減速ギア53を介してスロットルバルブ51を駆動するように構成されている。また、スロットルバルブ51にはスロットルバルブ開度センサ54が取り付けられている。
【0032】
さらに、デフォルト機構は、具体的には、スロットルバルブ51の開き方向のリターンスプリングトルクと閉じ方向のリターンスプリングトルクを釣り合わせることにより、DCモータ52にモータ駆動電圧がかかっていない場合、スロットルバルブ51を中立位置に固定する機構である。この中立位置において、スロットルバルブ51は所定開度に保持される。なお、スロットルバルブ51は360度回転するわけではなく、最低空気量に調整できるように全閉点を設けてあり、従来技術として前記した如きストッパが設けられている。
【0033】
図3は、スロットルバルブ51の開度とDCモータ52のモータ駆動電圧との関係を示した図である。図3に示すように、電子制御スロットル装置50は、リターンスプリング55を含むデフォルト機構を備えることにより、モータ駆動電圧が0V、すなわち、DCモータ52を非作動状態にしたときに、スロットルバルブ51は、所定のバルブ開度に保持される。これにより、電子制御スロットル装置50の機能異常が検知された(例えば、スロットルバルブ開度センサ54に異常が検出された)場合には、制御装置100は、DCモータ52を非作動状態に制御して、リターンスプリング55によりスロットルバルブ51の開度を所定のバルブ開度にして、最低限の走行を可能とする退避走行モードを実現できるようになる。
【0034】
さらに、DCモータ52を駆動させる場合には、制御装置100は、DCモータ52に駆動電圧を印加してDCモータ52を作動させる。ここで、デフォルト位置からさらにスロットルバルブ51の開度を大きくする場合には、静止摩擦による抵抗を考慮して、スロットル開度とモータ駆動電圧との関係の設計値52Aよりも大きな正(+)のモータ駆動電圧をDCモータ52に印加して、DCモータ52を作動させる。一方、デフォルト位置からさらにスロットルバルブ51の開度を小さくする場合には、静止摩擦による抵抗を考慮して、スロットル開度とモータ駆動電圧との関係の設計値52Aよりも小さな負(−)のモータ駆動電圧をDCモータ52に印加して、DCモータ52を作動させる。
【0035】
例えば、デフォルト位置からスロットルバルブを全開させ、さらにその状態から全閉し、さらにデフォルト位置に戻す場合には、図3に示す(1)〜(4)の順に、モータ駆動電圧をDCモータ52に印加して、DCモータ52を作動させればよい。このように、一度、静止状態のスロットルバルブ51を駆動させる場合には、静止摩擦による抵抗を考慮してモータ駆動電圧は算出される。
【0036】
図4に電子制御スロットル装置を制御する制御装置100の通常フィードバック制御のフローチャートを示す。制御装置100は、スロットルバルブ開度センサ54が故障していないときには、検出されたスロットルバルブ開度が目標スロットルバルブ開度となるようにスロットルバルブ51を駆動すべく、DCモータ52を作動させる。
【0037】
具体的には、まず、ステップ401で、運転者の要求に合わせた運転状態(例えば、エンジン回転数と燃料噴射量等)から目標吸入空気量を演算し、該目標吸入空気量から目標スロットルバルブ開度を算出する。そして、目標スロットルバルブ開度と検出したスロットルバルブ開度との偏差を求め、ステップ402に進む。ステップ402では、偏差とゲインPgainから演算式に従って比例項分Paを演算する。同様に、ステップ403では、同様に偏差と、ゲインDgainと、時定数と、から演算式に従って微分項分Pdを演算する。ステップ404では、同様に、前回の積分項分Piと、偏差と、ゲインIgainと、時定数とから演算式に従って積分項分Piを演算する。
【0038】
次に、ステップ405に進み、演算された比例項分Pa、微分項分Pd、積分項分Piに基づいて、演算式により演算値Aを求める。次に、ステップ406に進み、求められた演算値Aが電源電圧に相当する値以上であるかを判定する。演算値Aが電源電圧に相当する値よりも小さい場合には、この演算値Aを、DCモータ52の目標駆動信号の値とする。一方、演算値Aが電源電圧に相当する値以上となっている場合には、ステップ407に進み、電源電圧に相当する値を演算値Aとし、この演算値AをDCモータ52の目標駆動信号の値とする。このように、DCモータ52の最終出力の制御量は、ここまでで求められた演算値Aとなる。
【0039】
ここで、図4に示す演算方式は公知の方式として、PID制御方式のものを示したが、本実施形態はフィードバック制御方式によって、後述する制御を実現することに変化は無い為、その他のフィードバック制御方式を用いても良い。
【0040】
図5は、本実施形態に係る制御装置100が行なう制御フローチャートを示しており、図6は、退避走行時における目標駆動信号の演算方法のフローチャートであり、図7は、変速機の変速段数に応じた、アクセル開度と平坦地走行時相当の車速との相関マップを示している。
【0041】
まず、ステップ501において、電子制御スロットル装置50のスロットルバルブ開度センサ54の故障を判定する。具体的には、(1)スロットルバルブ開度センサ54の出力異常がオープン・断線として診断により検知されて所定時間が経過したとき、若しくは(2)2系統のスロットルバルブ開度センサ54を備える電子制御スロットル装置50においては1系統目と2系統目の出力差分が大きく不整合である状態が所定時間経過したときに、スロットルバルブ開度センサ54の異常(故障)と判定する。
【0042】
このときは、スロットルバルブ開度センサ54が、故障しているため、図4に示すフードバック制御は行なえないことになり、いわゆる退避走行モードの車速の制御を以下に従って行なう。そして、ステップ501によりスロットルバルブ開度センサ54が故障であると判定したときには、ステップ502に進む。また、故障でないと判定した場合は、ステップ511において、図4に示すような一連のフローに従って、目標駆動信号Bの算出を行ない、該目標駆動信号Bにより、スロットルバルブ開度の目標開度と、スロットルバルブ開度54により検出された検出開度とが一致するように、DCモータ52を作動させて、スロットルバルブ51を駆動する制御を行なう。
【0043】
ステップ502では、スロットルバルブ開度センサ54が異常と判定された後、DCモータ52の機能診断(故障診断)により、DCモータ52が、異常(故障)であるかの判定を行なう。DCモータ52の機能診断は、スロットルバルブ開度センサ54の異常と判定された後に退避走行モードにおける内燃機関の制御をすべく、以下の診断を行なうものである。
【0044】
具体的には、モータ駆動信号(モータ駆動電圧)がデフォルト位置のリターンスプリングトルク以上(正の値)において、モータ駆動信号(モータ駆動電圧)をマイナス方向に所定量ずつ減らしたときに、スロットルバルブ51は閉方向に駆動するので、エンジン回転数が低下する。このような挙動を示した場合、DCモータが正常である(故障していない)とみなす。
【0045】
一方、モータ駆動信号(モータ駆動電圧)が、デフォルト位置のリターンスプリングトルク未満(負の値)にあり、モータ駆動信号(モータ駆動電圧)をプラス方向に所定量ずつ増やしたときに、スロットルバルブ51は開方向に駆動するので、エンジン回転数が上昇する。このような挙動を示した場合、DCモータ52の機能は正常である(故障していない)とみなす。
【0046】
そして、DCモータ52が故障していないと判定した場合には、ステップ503に進む。一方、故障している場合には、ステップ510に進み、目標駆動信号を0とし、DCモータ52を非作動状態に制御する(モータ駆動信号をカットする)。
【0047】
ステップ503では、リターンスプリング55の機能診断(故障診断)により、異常(故障)であるかの判定を行なう。具体的には、リターンスプリング55の機能診断は、空気流量計22からの検出信号と、クランク角度センサ21の角度信号からエンジン回転数を求める。そして、エンジン回転数から推測される現在のスロットルバルブ開度を求め、該スロットルバルブ開度からモータトルクのマップを用いてモータ駆動電圧を推定する。そして推定したモータ駆動電圧と、実際のモータ駆動電圧と偏差が所定値以内である場合、すなわち、図3に示すような、モータ駆動電圧とスロットルバルブ開度の関係を満たしている場合には、リターンスプリング55の機能は正常である(故障していない)とみなす。そして、リターンスプリング55が故障していないと判定した場合には、ステップ504に進む。一方、故障している場合には、ステップ510に進み、目標駆動信号を0とし、DCモータ52を非作動状態に制御する(モータ駆動信号をカットする)。
【0048】
ステップ504では、スロットルバルブ開度センサ54が故障であると判定され、DCモータ52及びリターンスプリング55が故障していないと判定する判定条件が成立したので、退避走行モードにおけるDCモータ52への目標駆動信号Dを算出する。具体的には、図6に示す一連のステップを行い、目標駆動信号Dの演算を実施する。
【0049】
具体的には、まずステップ601において、図7に示すように、アクセル開度と、平坦地走行時相当の走行抵抗を加味した目標車速と、を対応させた相関マップ70を用いて、目標車速Eを算出する。この相関マップは、変速機の変速段数ごとに、アクセル開度と目標開度との関係を示した複数の相関マップからなる。そして、位置センサにより検出した変速段数に応じて複数の相関マップを選択し、その選択した相関マップを用いて、運転者のアクセルペダルの踏込み量に相当するアクセル開度から、これに対応する目標車速を算出する。
【0050】
次に、ステップ602に進み、検出した現在の車速Fと目標車速Eとの偏差(差分)Gを求める。ステップ603では、偏差から演算式に従って比例項分Paを演算する。同様に、ステップ604では、同様に偏差から演算式に従って微分項分Pdを演算し、ステップ605では、同様に偏差から演算式に従って積分項分Piを演算する。さらに、ステップ606に進み、演算された比例項分Pa、微分項分Pd、積分項分Piに基づいて、演算式により演算値Hを求め、ステップ607に進む。
【0051】
ステップ607では、演算値Hに加え、スロットルバルブ51の駆動させる際に発生する静止摩擦の影響を打ち消す為に、所定の振動幅及び振幅周期を持ったディザー分駆動信号I分の値を重畳して加え、演算値Xとし、ステップ608に進む。
【0052】
次に、ステップ608では、求められた演算値Xが電源電圧に相当する値以上であるか判定する。演算値Xが電源電圧に相当する値よりも小さい場合には、ステップ610に進み、演算値XをDCモータ52の目標駆動信号Dの値とする。一方、演算値Xが電源電圧に相当する値以上となっている場合には、ステップ609に進み電源電圧に相当する値を演算値Aとし、ステップ610に進み、演算値AをDCモータ52の目標駆動信号Dの値とする。
【0053】
図5のステップ504に戻り、目標駆動信号Dを算出後、以下のステップ505〜ステップ509の判定を行なう。ステップ505では、運転者から車両への減速要求を検出する。具体的には、運転者から車両への減速要求とは、運転者が車速を減速しようとする操作(要求)することであり、減速要求の検出とは、この操作(要求)を検出することである。具体的には、ステップ505では、運転者がアクセルペダル41の踏込みを戻すことにより、運転者によりアクセル開度の開度を閉方向である減速方向に変化させる要求を行なったかの検出を行なう。詳細には、図5に示すように、アクセル戻し量が所定値以上であるかの検出を行なう。
【0054】
そして、モータ駆動電圧が正である場合(すなわちデフォルト位置におけるスロットルバルブ開度以上において、スロットルバルブをさらに開方向に駆動する場合)であって、かつ、前記減速要求が検出された場合には、ステップ510に進み、前述したと同様に、目標駆動信号の値を0にし、DCモータ52を非作動状態に制御する。これにより、DCモータ52は、非作動状態となり、リターンスプリング55により、スロットルバルブ51の開度が所定開度(デフォルト位置)に戻される。この結果、運転者の減速要求に対して、車速が加速することなく、安全性を確保することができる。一方、上記条件を満たさない場合には、ステップ506に進む。
【0055】
ステップ506では、前記減速要求として、モータ駆動電圧が正である場合(すなわちデフォルト位置におけるスロットルバルブ開度以上において、スロットルバルブをさらに開方向に駆動する場合)であって、かつ、運転者によりブレーキ装置を作動させる要求(ブレーキスイッチ25のオン信号)が検出された場合には、ステップ510に進み、目標駆動信号の値を0にし、DCモータ52を非作動状態に制御する。これにより、同様に、運転者の減速要求に対して、車速が加速することなく、安全性を確保することができる。一方、上記条件を満たさない場合には、ステップ507に進む。
【0056】
次に、ステップ507に進み、モータ駆動電圧が正である場合(すなわちデフォルト位置におけるスロットルバルブ開度以上において、スロットルバルブをさらに開方向に駆動する場合)であって、かつ、車両の加速度が所定値以上である場合には、ステップ510に進み、目標駆動信号の値を0にし、DCモータ52を非作動状態に制御する。これにより、同様に、車速が必要以上に加速することなく、安全性を確保することができる。一方、上記条件を満たさない場合には、ステップ508に進む。
【0057】
次に、ステップ508に進み、モータ駆動電圧が正である場合(すなわちデフォルト位置におけるスロットルバルブ開度以上において、スロットルバルブをさらに開方向に駆動する場合)であって、かつ、車速が所定値以上である場合には、ステップ510に進み、目標駆動信号の値を0にし、DCモータ52を非作動状態に制御する。これにより、同様に、車速が必要以上に加速することなく、安全性を確保することができる。一方、上記条件を満たさない場合には、ステップ509に進む。
【0058】
ステップ509に進み、モータ駆動電圧が正である場合(すなわちデフォルト位置におけるスロットルバルブ開度以上において、スロットルバルブをさらに開方向に駆動する場合)であって、かつ、エンジン回転数が所定値以上である場合には、ステップ510に進み、目標駆動信号の値を0にし、DCモータ52を非作動状態に制御する。これにより、同様に、車速が必要以上に加速することなく、安全性を確保することができる。一方、上記条件を満たさない場合には、ステップ511に進む。そして、ステップ511では、算出した目標車速から目標駆動信号Dを制御量として、目標車速となるようにスロットルバルブ51を駆動させ、それに伴う吸入空気量に基づいて、燃料噴射弁からの所定量の燃料を噴射して、内燃機関の制御を行なう。
【0059】
本実施形態では、電子制御スロットル装置50のフェールセーフ動作(退避走行)時にも運転者の意図に従って、車速を維持する、若しくは減速するように制御することができる。以上の動作はハード的な部品を追加することなく、制御つまりソフトウエアの構築のみで実現ができ、コストUP無しに車両のドライバビリティの向上が可能となる。
【0060】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【0061】
たとえば、本実施形態では、ステップ505〜ステップ509のいずれかの判定条件を満たさない場合に、目標駆動信号の値を0にし、DCモータ52を非作動状態に制御したが、これら全ての判定条件を満たさない場合に、その値を0としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本実施形態に係る内燃機関及びその制御装置の全体構成図。
【図2】電子制御スロットルの構造を示した縦断面図。
【図3】スロットルバルブ開度とDCモータのモータ駆動電圧との関係を示した図。
【図4】電子制御スロットル装置を制御する制御装置の通常フィードバック制御のフローチャート。
【図5】本実施形態に係る制御装置が行なう制御フローチャート。
【図6】避走行時における目標駆動信号の演算方法のフローチャート。
【図7】変速機の変速段数に応じた、アクセル開度と平坦地走行時相当の車速との相関マップ。
【符号の説明】
【0063】
10:内燃機関、11:シリンダ、12:ピストン、13:燃焼室、14:吸気経路、16:吸気ポート、17:排気経路、19:エアクリーナ、21:クランク角度センサ、22:空気流量計、23:酸素量濃度センサ、24:アクセル開度センサ、25:ブレーキスイッチ、26:車速センサ、31:点火コイル、32:点火プラグ、33:燃料噴射弁、34:吸気バルブ、35:排気バルブ、41:アクセルペダル、42:クランク軸、50:電子制御スロットル装置、51:スロットルバルブ、52:DCモータ、52A:設計値、53:減速ギア、54:スロットルバルブ開度センサ、55:リターンスプリング、70:相関マップ、100:コントロールユニット(内燃機関の制御装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクセル開度を検出するアクセル開度センサと、スロットルバルブと、該スロットルバルブの開度を検出するスロットルバルブ開度センサと、前記スロットルバルブを駆動するアクチュエータと、該アクチュエータの非作動状態時に前記スロットルバルブの開度を所定開度に戻すリターンスプリングと、を備えた車両用の内燃機関の制御装置であって、
該制御装置は、前記リターンスプリング及び前記スロットルバルブ開度センサの故障を判定する故障判定手段と、前記アクセル開度と車速との相関マップから前記車両の目標車速を算出する目標車速算出手段と、を備え、
前記故障判定手段が、前記リターンスプリングが故障していないと判定し、かつ、ストッルバルブ開度センサが故障していると判定した場合には、前記目標車速となるように前記アクチュエータを作動させて、前記スロットルバルブを駆動する制御を行なうことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記故障判定手段は、前記アクチュエータの故障をさらに判定し、前記アクチュエータが故障していないと判定したときに、前記アクチュエータを作動させて、前記スロットルバルブを駆動することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記制御装置は、車速を検出する車速検出手段を備えており、前記検出した車速と、前記目標車速との偏差に基づいて、前記アクチュエータを作動させて、前記スロットルバルブを駆動することを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記相関マップの車速は、平坦地走行時相当の車速であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記制御装置は、前記相関マップとして、変速機の変速段数ごとの複数の相関マップを備え、前記目標車速算出手段は、前記変速段数に応じて前記複数の相関マップから選択して、前記目標車速を算出することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記制御装置は、運転者から前記車両への減速要求を検出する減速要求検出手段を備え、前記減速要求を検出し、かつ、前記所定開度以上の前記スロットルバルブを開方向に駆動しようとする場合には、前記アクチュエータを前記非作動状態に制御することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の内燃機関の制御装置。
【請求項7】
前記減速要求検出手段の前記減速要求は、運転者により前記車両のブレーキ装置を作動させる要求、または、運転者により前記アクセル開度を減速方向に変化させる要求、であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の制御装置。
【請求項8】
前記制御装置は、前記所定開度以上のスロットルバルブを開方向に駆動しようとする場合で、かつ、車両の加速度が所定値以上、車速が所定値以上、又は内燃機関の回転数が所定値以上の場合には、前記アクチュエータを前記非作動状態に制御することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−162088(P2009−162088A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−341024(P2007−341024)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】