説明

内燃機関の制御装置

【課題】成層燃焼および均質燃焼を実現可能な内燃機関の筒内噴射用インジェクタによる燃料噴射を適切に実行させることができる内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】車両制御システム1は、第1燃料噴射手段と、第2燃料噴射手段と、噴き分け比率制御手段と、燃圧検出手段と、燃圧目標値設定手段と、燃圧低下手段とによって、車両の発進時に筒内インジェクタ25に供給される燃料の圧力が目標燃圧よりも大幅に高くなることを抑制する制御を実行することで、筒内インジェクタ25による燃料噴射を適切に実行させることができることから、エンジン100のリーンズレを抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃焼室内に燃料を噴射することで成層燃焼を実現可能な筒内噴射用インジェクタと、吸気通路または吸気ポート内に燃料を噴射することで均質燃焼を実現可能なポート噴射用インジェクタとを備える内燃機関が広く知られている。このような内燃機関は、機関運転状態に応じて筒内噴射用インジェクタからの燃料噴射量とポート噴射用インジェクタからの燃料噴射量との比率を適切に制御することで、広い運転領域においてエンジンの高出力・低燃費を達成することができる。
【0003】
筒内噴射用インジェクタを有する内燃機関は、内燃機関の圧縮行程に燃料を燃焼室内へ噴射し、点火時期において点火プラグ近傍だけに着火性の良好な混合気を形成させることで、燃焼室全体としては希薄な混合気の燃焼、いわゆる成層燃焼を実現することができる。そのため、圧縮行程で高圧の燃焼室内に充分に燃料を噴射できるように、筒内噴射用インジェクタに供給される燃料の圧力をより高圧に制御している。
【0004】
このような内燃機関の制御手段としては、低圧燃料をポート噴射用インジェクタに供給する第1燃料供給系と、調量圧送式高圧ポンプにより高圧燃料を筒内噴射用インジェクタに供給する第2燃料供給系とを設け、制御手段が筒内噴射用インジェクタの作動状態に拘らず所定量の加圧燃料を供給するように高圧ポンプを駆動制御し、余剰燃料をリリーフ弁により外部に排出することで、高圧ポンプの駆動により発生する脈動を低減させる技術が特許文献1に開示されている。
【0005】
また、高圧燃料系の燃料圧力が筒内噴射を実行する圧力判定しきい値より高いか否かを判定し、圧力判定しきい値より高い場合には筒内噴射用インジェクタのみを駆動して筒内燃料噴射を実行し、圧力判定しきい値以下の場合にはポート噴射用インジェクタを駆動して吸気管燃料噴射を筒内燃料噴射と併用することで、高圧燃料系のポンプ容量を必要最小限としつつ必要な燃料噴射量を確保する技術が特許文献2に開示されている。
【0006】
そして、内燃機関の始動時にはポート噴射にて均質燃焼を実施し、初爆後における燃料圧力の上昇に伴って圧縮行程後半の燃料噴射が可能となった以降に筒内噴射に切り替えて成層燃焼を実施することで、機関始動時の燃費および排気エミッションを改善する技術が特許文献3に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−325806号公報
【特許文献2】特開2001−107789号公報
【特許文献3】特開2004−028024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特に、内燃機関の始動の際に燃焼室内への燃料の直接噴射(直噴)を実行し、所定回転数以上でポート噴射に移行する制御を実行する場合、アイドル運転時のポート噴射によって内燃機関が暖機されるにつれて、筒内噴射用インジェクタに供給される燃料が受熱して圧力が上昇する。この場合、筒内噴射用インジェクタに供給される燃料の圧力が目標燃圧よりも大幅に高くなると、筒内噴射用インジェクタが燃料の噴射を実行できなくなる場合がある。すると、車両の発進時などにポート噴射と直噴との併用制御に移行する際に、筒内噴射用インジェクタによる燃料噴射が適切に実行されずに空燃比がリーンとなり内燃機関が失火する場合がある、といった問題点がある。
しかしながら、従来技術および特許文献1〜3の技術では、車両の発進時に筒内噴射用インジェクタに供給される燃料の圧力が目標燃圧よりも大幅に高くなることを適切に抑制するための手段が設けられていない。そのため、筒内噴射用インジェクタによる燃料噴射が適切に実行されずに空燃比がリーンとなり内燃機関が失火することを抑制することが困難である、といった問題点がある。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、成層燃焼および均質燃焼を実現可能な内燃機関の筒内噴射用インジェクタによる燃料噴射を適切に実行させることができる内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の内燃機関の制御装置は、内燃機関の燃焼室へ燃料を噴射供給する第1燃料噴射手段と、前記内燃機関の吸気通路へ燃料を噴射供給する第2燃料噴射手段と、前記内燃機関の運転状態に基づいて、前記第1燃料噴射手段が噴射供給する燃料量と前記第2燃料噴射手段が噴射供給する燃料量との噴き分け比率を制御する噴き分け比率制御手段と、を備える内燃機関の制御装置であって、前記第1燃料噴射手段に供給される燃料の圧力を検出する燃圧検出手段と、前記内燃機関の運転状態に基づいて、前記第1燃料噴射手段に供給される燃料の圧力の目標値を設定する燃圧目標値設定手段と、前記燃圧検出手段の検出結果と前記燃圧目標値設定手段の設定結果とに基づいて、前記第1燃料噴射手段に供給される燃料の圧力を低下させる燃圧低下手段と、を備えることを特徴とする。
【0011】
特に、本発明の内燃機関の制御装置は、前記燃圧低下手段が、前記第1燃料噴射手段に供給される燃料の一部をリリーフ弁より外部に排出すること、前記噴き分け比率制御手段が前記第1燃料噴射手段に燃料を噴射させる制御を実行すること、の少なくとも1つであることを特徴とすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の内燃機関の制御装置によれば、車両の発進時に筒内噴射用インジェクタに供給される燃料の圧力が目標燃圧よりも大幅に高くなることを適切に抑制することができる。よって、筒内噴射用インジェクタによる燃料噴射を適切に実行させることができることから、内燃機関のリーンズレを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例の車両制御システムの概略構成を示した構成図である。
【図2】燃焼室近傍の概略構成を示した構成図である。
【図3】筒内インジェクタに供給される燃料の圧力の例を示している。
【図4】実施例のECUが行う制御のフローを示している。
【図5】実施例のECUが行う制御のフローを示している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態を図面と共に詳細に説明する。
【実施例1】
【0015】
本発明の実施例1について図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の内燃機関の制御装置を組み込んだ車両制御システム1の概略構成を示した構成図である。なお、図1にはエンジンの1気筒の構成のみを示している。
【0016】
図1に示す車両制御システム1は、動力源であるエンジン100を備えており、エンジン100の運転動作を総括的に制御するエンジンECU(Electronic Control Unit)10を備えている。また、車両制御システム1は、燃焼室11aおよび吸気ポート13にそれぞれ筒内インジェクタ25およびポートインジェクタ26を備えている。そして、車両制御システム1は、筒内インジェクタ25に供給される燃料の圧力を検出する燃圧センサ41を備えている。更に、車両制御システム1は、筒内インジェクタ25に供給される燃料の圧力を低下させるリリーフ弁30を備えている。
【0017】
エンジン100は、車両に搭載される多気筒エンジンであって、各気筒は燃焼室11aを構成するピストン11を備えている。各燃焼室のピストン11はそれぞれコネクティングロッドを介して出力軸であるクランクシャフト12の軸に連結されており、ピストン11の往復運動がコネクティングロッドによってクランクシャフト12の回転へと変換される。ピストン11は、その頂面に凹状のキャビティが形成されている。筒内インジェクタ25が噴射する燃料は、ピストン11のキャビティ内へ進入し、キャビティの形状に沿って点火プラグ27近傍へと導かれる(図2参照)。
【0018】
クランクシャフト12の軸の近傍には、クランク角センサ31が設けられている。クランク角センサ31は、クランクシャフト12軸の回転角度を検出するように構成されており、検出結果をエンジンECU10に送信する。それにより、エンジンECU10は、運転時のエンジン回転数や回転角速度など、クランク角に関する情報を取得する。
【0019】
各気筒の燃焼室11aには、それぞれ燃焼室11aと連通する吸気ポート13と、吸気ポート13に連結し、吸入空気を吸気ポート13から燃焼室11aへと導く吸気通路14とが接続されている。更に、燃焼室11aの各気筒には、それぞれ燃焼室11aと連通する排気ポート15と、燃焼室11aで発生した排気ガスをエンジン外へと導く排気通路16が接続されている。また、各気筒に接続された排気通路16は、下流側で合流して一本の合流排気通路17となる。
【0020】
各気筒の燃焼室11aの吸気通路、排気通路に対応して複数の吸気弁、排気弁が設けられている。図1には吸気通路、排気通路と吸気弁、排気弁をそれぞれ1つずつ示している。燃焼室11aの各吸気ポート13には、それぞれ吸気弁18が配置されており、吸気弁18を開閉駆動させるための吸気カムシャフト20が配置されている。更に、燃焼室11aの各排気ポート15には、それぞれ排気弁19が配置されており、排気弁19を開閉駆動させるための排気カムシャフト21が配置されている。
【0021】
吸気弁18および排気弁19はクランクシャフト12の回転が連結機構(例えばタイミングベルト、タイミングチェーンなど)により伝達された吸気カムシャフト20および排気カムシャフト21の回転により開閉され、吸気ポート13および排気ポート15と燃焼室11aとを連通・遮断する。なお、吸気弁18、および排気弁19の位相は、クランク角を基準にして表される。
【0022】
吸気カムシャフト20は可変動弁機構(以下、VVT機構という)である電動VVT機構22を有している。この電動VVT機構22はエンジンECU10の指示により電動モータで吸気カムシャフト20を回転させる。それにより吸気カムシャフト20のクランクシャフト12に対する回転位相が変更されることから、吸気弁18のバルブタイミングが変更される。この場合、吸気カムシャフト20の回転位相は、吸気カム角センサ32にて検出され、エンジンECU10へと出力される。それにより、エンジンECU10は、吸気カムシャフト20の位相を取得することができるとともに、吸気弁18の位相を取得することができる。また、吸気カムシャフト20の位相は、クランク角を基準にして表される。
【0023】
排気カムシャフト21は油圧VVT機構23を有している。この油圧VVT機構23はエンジンECU10の指示によりオイルコントロールバルブ(以下、OCVという)で排気カムシャフト21を回転させる。それにより排気カムシャフト21のクランクシャフト12に対する回転位相が変更されることから、排気弁19のバルブタイミングが変更される。この場合、排気カムシャフト21の回転位相は、排気カム角センサ33にて検出され、エンジンECU10へと出力される。それにより、エンジンECU10は、排気カムシャフト21の位相を取得することができるとともに、排気弁19の位相を取得することができる。また、排気カムシャフト21の位相は、クランク角を基準にして表される。
【0024】
エンジン100の吸気通路14にはエアフロメータ34、スロットルバルブ24およびスロットルポジションセンサ35が設置されている。エアフロメータ34およびスロットルポジションセンサ35は、それぞれ吸気通路14を通過する吸入空気量、およびスロットルバルブ24の開度を検出し、検出結果をエンジンECU10に送信する。エンジンECU10は、送信された検出結果に基づいて吸気ポート13および燃焼室11aへ導入される吸入空気量を認識し、スロットルバルブ24の開度を調整することでエンジン100の運転に必要な吸入空気量を燃焼室11aへ取り込むことができる。
スロットルバルブ24は、ステップモータを用いたスロットルバイワイヤ方式を適用することが好ましいが、例えばステップモータの代わりにワイヤなどを介してアクセルペダル(図示しない)と連動し、スロットルバルブ24の開度が変更されるような機械式スロットル機構を適用することもできる。
【0025】
燃焼室11aおよび吸気ポート13には、筒内インジェクタ25およびポートインジェクタ26が装着されている。燃料ポンプ(図示しない)より燃料配管を通じて供給された高圧燃料は、エンジンECU10の指示により筒内インジェクタ25、ポートインジェクタ26にてエンジン気筒内の燃焼室11a、吸気ポート13に噴射供給される。エンジンECU10は、エアフロメータ34およびスロットルポジションセンサ35からの吸入空気量、および吸気カム角センサ32からのカム軸回転位相の情報に基づき、燃料噴射量と噴射タイミングを決定し筒内インジェクタ25、ポートインジェクタ26に信号を送る。筒内インジェクタ25、ポートインジェクタ26はエンジンECU10の信号に従って、指示された燃料噴射量・噴射タイミングにて燃焼室11a、吸気ポート13へ燃料を高圧噴射する。筒内インジェクタ25およびポートインジェクタ26のリーク燃料は、リリーフ弁30からリリーフ配管を通じて燃料タンク(図示しない)へと戻される。この場合、燃料ポンプと筒内インジェクタ25との間に蓄圧室を設けることで、筒内インジェクタ25へ高圧の燃料を供給する構成としてもよい。
【0026】
リリーフ配管の途中にはリリーフ弁30が設けられている。リリーフ弁30は、ソレノイド式等の既知の圧力調整弁を適用することができ、エンジンECU10の指示に基づいて弁を開放することで、筒内インジェクタ25へ供給される燃料の圧力を所望する圧力まで低下させる。この場合、所定の燃圧にてリリーフ弁30が自動的に開弁することで、筒内インジェクタ25へ供給される燃料の圧力を低下させる構成としてもよい。
なお、リリーフ弁30は、本発明の燃圧低下手段に相当する。
【0027】
筒内インジェクタ25は、エンジンECU10の指示に基づいて、エンジン100の圧縮行程の所定タイミングに燃料を燃焼室11aへ噴射する。高圧噴射された燃料は霧化してピストン11のキャビティ内へ進入し、キャビティの形状に沿って点火プラグ27近傍へと導かれる。そして、飛行中に吸気弁18の開弁時に供給された吸入空気と混合され、点火タイミングにおいて点火プラグ27近傍だけにエンジン100の燃焼に適した混合ガスが形成されることで、燃焼室全体としては希薄な混合気の燃焼、いわゆる成層燃焼を実現させる(図2参照)。この場合、筒内インジェクタ25は、高圧噴射する燃料の一部が点火プラグ27に直接到達することにより成層燃焼を実現できるような位置に装着されてもよい。
なお、筒内インジェクタ25は、本発明の第1燃料噴射手段に相当する。
【0028】
ポートインジェクタ26は、エンジンECU10の指示に基づいて、エンジン100の吸気行程の所定タイミングに燃料を吸気ポート13へ噴射する。高圧噴射された燃料は霧化して吸入空気と混合され、エンジン100の燃焼に適した混合ガスとなる。そして、混合ガスを吸気弁18の開弁時に燃焼室11aへ供給することで、燃焼室全体を同程度の空燃比として燃焼させる、いわゆる均質燃焼を実現させる(図2参照)。この場合、ポートインジェクタ26を設けずに、筒内インジェクタ25のみで燃料を噴射供給することで、成層燃焼および均質燃焼を実現してもよい。
なお、ポートインジェクタ26は、本発明の第2燃料噴射手段に相当する。
【0029】
筒内インジェクタ25の燃料配管には燃圧センサ41が設けられている。燃圧センサ41は、筒内インジェクタ25に供給される燃料の圧力を検出し、検出結果をエンジンECU10に送信する。エンジンECU10は、送信された検出結果に基づいて筒内インジェクタ25に供給される燃料の圧力を認識し、筒内噴射制御を実行することができる。燃圧センサ41は、高圧配管に関わらず、筒内インジェクタ25に供給される燃料の圧力を検出できる任意の部位に設けることができる。
なお、燃圧センサ41は、本発明の燃圧検出手段に相当する。
【0030】
各気筒の燃焼室11aはそれぞれ点火プラグ27を備えており、点火プラグ27の点火タイミングはイグナイタ28によって調整される。吸気ポート13から流入された吸入空気および混合ガスは気筒内で筒内インジェクタ25から噴射された燃料と混合し、ピストン11の上昇運動により燃焼室11a内で圧縮される。エンジンECU10は、クランク角センサ31からのピストン11の位置、および吸気カム角センサ32からのカム軸回転位相の情報に基づき、点火タイミングを決定しイグナイタ28に信号を送る。イグナイタ28はエンジンECU10の信号に従って、指示された点火タイミングでバッテリからの電力を点火プラグ27に通電する。点火プラグ27はバッテリからの電力により点火し、圧縮混合ガスを着火させて、燃焼室11a内を膨張させピストン11を下降させる。この下降運動がコネクティングロッドを介してクランクシャフト12の軸回転に変更されることにより、エンジン100は動力を得る。
【0031】
燃焼後の排気ガスは、排気弁19が開いた際に排気ポート15、排気通路16を通って合流排気通路17で合流し、浄化触媒29を通過してエンジン100の外部へと排出される。浄化触媒29は、エンジン100の排ガスを浄化するために用いられるもので、例えば三元触媒やNOx吸蔵還元型触媒などが適用される。浄化触媒29は、エンジン100の排気量、使用地域等の違いによって複数個組み合わせて用いられる場合もある。
合流排気通路17には排気温センサ36、A/Fセンサ37、O2センサ38が設けられており、燃焼室11aから排出される排気ガスの温度、空燃比を検出し、その結果をエンジンECU10へと送信する。また、浄化触媒29には触媒温度センサ40が設けられており、浄化触媒29の温度を検出し、その結果をエンジンECU10へと送信する。
【0032】
エンジンECU10は、演算処理を行うCPU(Central Processing Unit)と、プログラム等を記憶するROM(Read Only Memory)と、データ等を記憶するRAM(Random Access Memory)やNVRAM(Non Volatile RAM)と、を備えるコンピュータである。エンジンECU10は、クランク角センサ31、吸気カム角センサ32、エアフロメータ34、スロットルポジションセンサ35、排気温センサ36、水温センサ39等の検出結果を読み込み、スロットルバルブ24の動作、吸気弁18、排気弁19の動作、筒内インジェクタ25およびポートインジェクタ26の動作、点火プラグ27の点火時期など、エンジン100の運転動作を統合的に制御する。
また、エンジンECU10は、A/Fセンサ37およびO2センサ38の検出結果に基づいて燃焼室11aの燃焼情報を取得し、最適な燃焼状態となるように気筒内への燃料噴射量を調整するF/B制御を実行する。この制御を実行することにより、エンジン100の運転に適した空燃比となるよう燃料噴射量を補正することができる。
【0033】
そして、エンジンECU10は、筒内インジェクタ25が噴射供給する燃料量とポートインジェクタ26が噴射供給する燃料量との噴き分け比率を制御する。
エンジンECU10は、エンジン100の始動開始時に筒内インジェクタ25に燃料噴射を指示して燃焼室11a内に燃料を直接噴射させる(成層始動)。つづいて、エンジンECU10は、エンジン回転数が所定値を超えた場合に、ポートインジェクタ26に燃料噴射を指示して直噴とポート噴射とを併用する圧縮行程噴射を実行し、浄化触媒29の急速暖機制御を実行する。更に、エンジンECU10は、触媒温度センサ40の検出結果に基づいて、エンジン100の急速暖機制御の終了条件が成立しているか否かを判断する制御を実行する。エンジンECU10は、エンジン100の急速暖機制御の終了条件が成立していると判断した場合に、筒内インジェクタ25に噴射停止を指示し、ポートインジェクタ26からの燃料噴射によってアイドル運転を実行する。
【0034】
ここで、エンジンECU10は、燃圧センサ41からの信号を受信して筒内インジェクタ25に供給される燃圧を検出し、エンジン100の運転状態に基づいて筒内インジェクタ25に供給される燃圧目標値を設定する。つづいて、エンジンECU10は、検出した実燃圧および設定した燃圧目標値に基づいて、エンジン100の筒内インジェクタ25に供給される燃料の圧力を低下させる制御を実行する。
筒内インジェクタ25に供給される燃料圧力の低下制御について説明する。図3は筒内インジェクタに供給される燃料の圧力の例を示している。筒内インジェクタ25に供給される燃料は、ポートインジェクタ26からの燃料噴射によって実行されるアイドル運転によってエンジン100が暖機されるにつれて受熱により圧力が上昇する。
インジェクタからの燃料の噴射時間は、インジェクタに供給される燃料圧力と相関関係があり、供給される燃料圧力が高いほど燃料の噴射時間を短縮させることができる。しかしながら、例えば汎用されているソレノイド式インジェクタの場合、その構成上、作動時間を過度に短縮すると要求される燃料を噴射しきれなくなる。そのため、筒内噴射用インジェクタに供給される燃料の圧力が目標燃圧よりも大幅に高くなると、リーンズレが発生したり燃料の噴射が実行できなくなったりする場合がある。特に、内燃機関の軽負荷運転時や噴き分け制御時においては、筒内インジェクタに要求される燃料噴射量が小さいために上記の問題が生ずる可能性がより高くなる。
そこで、筒内インジェクタ25に供給される燃料の圧力が燃圧目標値より大幅に高くなった場合に、供給される燃料の一部をリリーフ弁30から外部へ排出する制御を実行することで、筒内インジェクタ25が適切に燃料を噴射できるようにすることができる。特に、運転中の内燃機関を一旦停止させ、その後に再始動する場合に生じる顕著なリーンズレを適切に抑制することができる。
【0035】
以下、具体的な制御方法について説明する。エンジンECU10は、燃圧センサ41の検出結果に基づいて、吸気行程噴射の実行中に筒内インジェクタ25に供給される燃料の圧力を検出する。あわせて、エンジンECU10は、クランク角センサ31の検出結果に基づいて、エンジン100の運転状態を把握し、把握した運転状態から筒内インジェクタ25に供給される燃料圧力の目標値を設定する。この場合、エンジンECU10は、クランク角センサ31の検出結果に関わらず、その他手法によってエンジン100の運転状態を把握してもよい。また、燃料圧力の目標値は、エンジン100の運転状態に関わらず、高圧の燃焼室11aに燃料を噴射供給するのに充分な燃圧の一定値を適用してもよい。
【0036】
エンジンECU10は、検出された実燃圧値と設定された燃圧目標値との差分、比率等から、双方の比較値を算出する。エンジンECU10は、算出した比較値が所定値を超える場合にリリーフ弁30を開放し、筒内インジェクタ25に供給される燃料の圧力を低下させる制御を実行する。ここで、比較値の所定値とは、筒内インジェクタ25に供給される実燃圧が充分に燃料噴射可能な燃圧であると判定できる比較値を適用することができる(例えば、(実燃圧−目標燃圧)>3〜4,または(実燃圧/目標燃圧)>1.5など)。
エンジンECU10は、筒内インジェクタ25の燃圧が低下することで算出した比較値が所定値以下となったときに、開放したリリーフ弁30を閉鎖する。そして、エンジンECU10は、運転者からの車両の発進要求があると、筒内インジェクタ25に燃料噴射を指示してポート噴射と直噴とを併用する制御を実行する。
【0037】
この制御を実行することにより、車両の発進時に筒内噴射用インジェクタに供給される燃料の圧力が目標燃圧よりも大幅に高くなることを適切に抑制することができる。よって、筒内噴射用インジェクタによる燃料噴射を適切に実行させることができることから、内燃機関のリーンズレによるエンスト等を抑制することができる。
なお、エンジンECU10は、本発明の噴き分け比率制御手段、燃圧目標値設定手段、燃圧低下手段に相当する。
【0038】
つづいて、エンジンECU10の制御の流れに沿って、車両制御システム1の動作を説明する。図4はエンジンECU10の処理の一例を示すフローチャートである。本実施例の車両制御システム1は、第1燃料噴射手段と、第2燃料噴射手段と、噴き分け比率制御手段と、燃圧検出手段と、燃圧目標値設定手段と、燃圧低下手段とを備えることで、車両の発進時に筒内噴射用インジェクタに供給される燃料の圧力が目標燃圧よりも大幅に高くなることを抑制する制御を実行する。
【0039】
エンジンECU10の制御は、エンジンの始動要求がされると、すなわちイグニッションスイッチがONにされると開始する。まず、エンジンECU10はステップS1で、エンジン100のアイドル運転開始条件が成立しているか否かを判断する。ここで、アイドル運転条件は、エンジン回転数、エンジン冷却水温、浄化触媒29温度等から判断することができる。アイドル運転開始条件が成立していない場合(ステップS1/NO)、エンジンECU10は制御の処理を終了する。アイドル運転開始条件が成立している場合(ステップS1/YES)は、エンジンECU10は次のステップS2へ進む。
【0040】
ステップS2で、エンジンECU10は、筒内インジェクタ25に噴射停止を指示し、ポートインジェクタ26からの燃料噴射によってエンジン100のアイドル運転を実行する。エンジンECU10は、ステップS2の処理を終えると、次のステップS3へ進む。
【0041】
ステップS3で、エンジンECU10は、燃圧センサ41の検出結果に基づいて、ポートインジェクタ26からの燃料噴射の実行中に筒内インジェクタ25に供給される燃料の圧力を検出する。あわせて、エンジンECU10は、クランク角センサ31の検出結果に基づいて、エンジン100の運転状態を把握し、把握した運転状態から筒内インジェクタ25に供給される燃料圧力の目標値を設定する。エンジンECU10は、ステップS3の処理を終えると、次のステップS4へ進む。
【0042】
ステップS4で、エンジンECU10は、ステップS3で検出された実燃圧値と設定された燃圧目標値との差分、比率等から、双方の比較値を算出する。つづいて、エンジンECU10は、算出した比較値が所定値を超えるか否かを判断する。ここで、比較値の所定値については前述したために、その詳細な説明は省略する。算出した比較値が所定値以下である場合(ステップS4/NO)、エンジンECU10は、筒内インジェクタ25が燃料を噴射可能な燃圧であると判断し、ステップS6へ進む。算出した比較値が所定値を超える場合(ステップS4/YES)は、エンジンECU10は、筒内インジェクタ25が燃料を噴射できない燃圧であると判断し、次のステップS5へ進む。
【0043】
ステップS5で、エンジンECU10は、リリーフ弁30を開放するよう指令して、筒内インジェクタ25に供給される燃料の圧力を低下させる。エンジンECU10は、ステップS5の処理を終えるとステップS3に戻り、算出した比較値が所定値以下となるまで上記の処理を繰り返す。
【0044】
ステップS4の判断がNOである場合、エンジンECU10はステップS6へ進む。ステップS6で、エンジンECU10は、開放したリリーフ弁30を閉鎖するよう指令する。
この制御を実行することにより、筒内噴射用インジェクタへ供給される燃料の圧力がポート噴射によるエンジンの暖機によって過度に上昇した場合に、上昇した燃圧をインジェクタが適切に燃料を噴射できる燃圧まで低下させることができる。よって、筒内噴射用インジェクタによる燃料噴射を適切に実行させることができることから、内燃機関のリーンズレによるエンスト等を抑制することができる。
エンジンECU10は、ステップS6の処理を終えると、制御の処理を終了する。
【0045】
以上のように、本実施例の車両制御システム1は、第1燃料噴射手段と、第2燃料噴射手段と、噴き分け比率制御手段と、燃圧検出手段と、燃圧目標値設定手段と、燃圧低下手段とによって、車両の発進時に筒内噴射用インジェクタに供給される燃料の圧力が目標燃圧よりも大幅に高くなることを抑制する制御を実行することで、筒内噴射用インジェクタによる燃料噴射を適切に実行させることができることから、内燃機関のリーンズレを抑制することができる。
【実施例2】
【0046】
つづいて、本発明の実施例2について説明する。本実施例の車両制御システム2は、噴き分け制御手段が第1燃料噴射手段に燃料を噴射させる制御を実行することにより第1燃料噴射手段に供給される燃料の圧力を低下させる点で車両制御システム1と相違している。
【0047】
本実施例の車両制御システム2は、実施例1と同様に車両内部にエンジンECU10を備えている。また、車両制御システム2は、燃焼室11aに筒内インジェクタ25が装着されている。このエンジンECU10および筒内インジェクタ25が、筒内インジェクタ25に供給される燃料の圧力を低下させる燃圧低下手段に相当する。
【0048】
エンジンECU10は、始動制御においてエンジン100の急速暖機制御の終了条件が成立していると判断した場合に、筒内インジェクタ25に噴射停止を指示し、ポートインジェクタ26からの燃料噴射によってアイドル運転を実行する。
つづいて、エンジンECU10は、検出した実燃圧値と設定した燃圧目標値から算出した比較値が所定値を超える場合に、筒内インジェクタ25に燃料噴射を指示し、筒内インジェクタ25に供給される燃料の圧力を低下させる制御を実行する。ここで、比較値の所定値については前述したために、その詳細な説明は省略する。この場合、ポートインジェクタ26に噴射停止を指示して筒内インジェクタ25にのみ燃料を噴射供給させてもよいし、筒内インジェクタ25とポートインジェクタ26との噴射供給を併用させてもよい。また、筒内インジェクタ25の燃料噴射タイミングは、エンジン100の圧縮行程または吸気行程のいずれでもよく、運転状態に応じて適切なタイミングで燃料を噴射することができる。
エンジンECU10は、筒内インジェクタ25の燃圧が低下することで算出した比較値が所定値以下となったときに、筒内インジェクタ25に噴射停止を指示する。そして、エンジンECU10は、運転者からの車両の発進要求があると、筒内インジェクタ25に燃料噴射を指示してポート噴射と直噴とを併用する制御を実行する。
【0049】
この制御を実行することにより、車両の発進時に筒内噴射用インジェクタに供給される燃料の圧力が目標燃圧よりも大幅に高くなることを適切に抑制することができる。よって、筒内噴射用インジェクタによる燃料噴射を適切に実行させることができることから、内燃機関のリーンズレによるエンスト等を抑制することができる。
【0050】
つづいて、エンジンECU10の制御の流れに沿って、車両制御システム2の動作を説明する。図5はエンジンECU10の処理の一例を示すフローチャートである。なお、車両制御システム2のエンジンECU10は、実施例1の車両制御システム1のステップS1からステップS4の処理の後に、以下のステップS7およびステップS8の制御を行う。よってステップS1からステップS4の制御は実施例1の車両制御システム1と同一であるため、その詳細な説明は省略する。
本実施例の車両制御システム2は、燃圧検出手段の検出結果と燃圧目標値設定手段の設定結果とに基づいて、噴き分け制御手段が第1燃料噴射手段に燃料を噴射させる制御を実行する。
【0051】
ステップS4の判断がYESである場合、エンジンECU10はステップS7へ進む。ステップS7で、エンジンECU10は、筒内インジェクタ25に燃料噴射を指令して、筒内インジェクタ25に供給される燃料の圧力を低下させる。エンジンECU10は、ステップS7の処理を終えるとステップS3に戻り、算出した比較値が所定値以下となるまで上記の処理を繰り返す。
【0052】
ステップS4の判断がNOである場合、エンジンECU10はステップS8へ進む。ステップS8で、エンジンECU10は、筒内インジェクタ25に燃料の噴射停止を指示する。
この制御を実行することにより、筒内噴射用インジェクタへ供給される燃料の圧力がポート噴射によるエンジンの暖機によって過度に上昇した場合に、上昇した燃圧をインジェクタが適切に燃料を噴射できる燃圧まで低下させることができる。よって、筒内噴射用インジェクタによる燃料噴射を適切に実行させることができることから、内燃機関のリーンズレによるエンスト等を抑制することができる。
エンジンECU10は、ステップS8の処理を終えると、制御の処理を終了する。
【0053】
以上のように、本実施例の車両制御システム2は、燃圧検出手段の検出結果と燃圧目標値設定手段の設定結果とに基づいて、噴き分け制御手段が第1燃料噴射手段に燃料を噴射させることにより、車両の発進時に筒内噴射用インジェクタに供給される燃料の圧力が目標燃圧よりも大幅に高くなることを抑制することができる。よって、筒内噴射用インジェクタによる燃料噴射を適切に実行させることができることから、内燃機関のリーンズレを抑制することができる。
【0054】
上記実施例は本発明を実施するための一例にすぎない。よって本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 車両制御システム
10 エンジンECU(噴き分け比率制御手段,燃圧目標値設定手段,燃圧低下手段)
11 ピストン
11a 燃焼室
12 クランクシャフト
13 吸気ポート
14 吸気通路
15 排気ポート
16 排気通路
17 合流排気通路
18 吸気弁
19 排気弁
20 吸気カムシャフト
21 排気カムシャフト
22 電動VVT機構
23 油圧VVT機構
24 スロットルバルブ
25 筒内インジェクタ(第1燃料噴射手段,燃圧低下手段)
26 ポートインジェクタ(第2燃料噴射手段)
27 点火プラグ
28 イグナイタ
29 浄化触媒
30 リリーフ弁(燃圧低下手段)
31 クランク角センサ
32 吸気カム角センサ
33 排気カム角センサ
34 エアフロメータ
35 スロットルポジションセンサ
36 排気温センサ
37 A/Fセンサ
38 O2センサ
39 水温センサ
40 触媒温度センサ
41 燃圧センサ(燃圧検出手段)
100 エンジン



【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の燃焼室へ燃料を噴射供給する第1燃料噴射手段と、前記内燃機関の吸気通路へ燃料を噴射供給する第2燃料噴射手段と、前記内燃機関の運転状態に基づいて、前記第1燃料噴射手段が噴射供給する燃料量と前記第2燃料噴射手段が噴射供給する燃料量との噴き分け比率を制御する噴き分け比率制御手段と、を備える内燃機関の制御装置であって、
前記第1燃料噴射手段に供給される燃料の圧力を検出する燃圧検出手段と、
前記内燃機関の運転状態に基づいて、前記第1燃料噴射手段に供給される燃料の圧力の目標値を設定する燃圧目標値設定手段と、
前記燃圧検出手段の検出結果と前記燃圧目標値設定手段の設定結果とに基づいて、前記第1燃料噴射手段に供給される燃料の圧力を低下させる燃圧低下手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記燃圧低下手段は、前記第1燃料噴射手段に供給される燃料の一部をリリーフ弁より外部に排出すること、前記噴き分け比率制御手段が前記第1燃料噴射手段に燃料を噴射させる制御を実行すること、の少なくとも1つであることを特徴とする請求項1記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−203414(P2010−203414A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−52739(P2009−52739)
【出願日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】