説明

内燃機関の制御装置

【課題】この発明は、低温始動時でも気化燃料を筒内に速やかに供給し、始動性を向上させることを目的とする。
【解決手段】エンジン10は、気化燃料タンク36、タンク内噴射弁38、気化燃料供給弁40等を備える。気化燃料タンク36には、気相室36Bと液相室36Cとを形成する。ECU70は、エンジンの運転中に生成した気化燃料を気相室36Bに蓄えておき、この気化燃料を始動時にサージタンク20に供給する。これにより、始動性を向上させることができる。また、気化燃料の生成時には、液相室36Cに液相燃料が残ってもよい前提でタンク内噴射弁38から燃料を噴射し、冷間運転時にも気化燃料を生成することができる。また、運転中に液相室36Cで発生する気化燃料を気相室36Bに補充し、気相室36B内に可能な限り多量の気化燃料を蓄えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばアルコール燃料のように揮発性が低い燃料を用いる内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、例えば特許文献1(特開2007−224878号公報)に開示されているように、アルコール燃料を用いる内燃機関の制御装置が知られている。アルコール燃料は、特に低温時に気化し難いため、従来技術の内燃機関には、始動時に燃料を気化させるための気化室が設けられている。この気化室は、外部から遮断された密閉構造を有し、絞り通路を介して吸気通路に接続されている。また、気化室には、その内部に燃料を噴射する始動用燃料噴射弁と、噴射燃料を加熱するためのヒータとが設けられている。
【0003】
そして、内燃機関の始動時には、まず、内燃機関に対して始動信号が出力された時点でヒータを作動させ、その後に適宜時間が経過した時点で、始動用燃料噴射弁から気化室内に燃料を噴射する。燃料が噴射されるときに、気化室は、クランキングによる吸気負圧が作用することによって減圧状態となる。この結果、噴射燃料は、減圧状態の気化室内でヒータの熱を受けることにより気化し、吸気通路を介して各気筒に供給される。このように、従来技術では、始動時に燃料を気化室内で気化させることにより、冷間始動時等の始動性を確保するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−224878号公報
【特許文献2】特開2008−286101号公報
【特許文献3】特開2003−239785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した従来技術では、始動時にヒータを作動させてから気化室内に燃料を噴射し、気化燃料を生成するようにしている。しかしながら、この場合には、内燃機関に対して始動信号が出力された後に、ヒータの昇温、噴射燃料の加熱及び気化室の減圧が行われ、その結果として気化燃料が生成される。このため、従来技術では、始動時に気化燃料を生成するのに時間がかかり、気化燃料を筒内に速やかに供給することができないという問題がある。
【0006】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、本発明の目的は、低温始動時等の燃料が気化し難い状況でも、気化燃料を筒内に速やかに供給することができ、始動性を向上させることが可能な内燃機関の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、燃料を貯留する燃料タンクと、
前記燃料タンク内の燃料を吸気通路及び/又は燃焼室に噴射する燃料噴射弁と、
前記吸気通路に接続された気相室と当該気相室に接続された液相室とを有し、前記液相室で前記燃料が気化して生じた気化燃料を前記気相室に蓄える気化燃料タンクと、
前記燃料タンク内に貯留された燃料を前記気化燃料タンクの液相室に供給するタンク内燃料供給手段と、
前記気化燃料タンクの気相室と前記吸気通路との接続部に設けられ、当該接続部を開,閉する常閉の気化燃料供給弁と、
内燃機関の運転中に前記気化燃料供給弁を閉弁した状態で前記タンク内燃料供給手段を駆動し、前記気化燃料タンクの気相室内に気化燃料を生成する気化燃料生成手段と、
内燃機関の始動時に前記気化燃料供給弁を開弁し、運転中に前記気化燃料タンクの気相室に蓄えられた気化燃料を前記吸気通路に供給する気化燃料供給手段と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
第2の発明は、前記気化燃料タンクの液相室と前記吸気通路との間を接続,遮断する常閉の液相燃料供給弁と、
前記気化燃料タンクの液相室内に気化していない液相燃料が存在する場合に、内燃機関の運転中に前記液相燃料供給弁を開弁して前記液相燃料を前記吸気通路に供給する液相燃料供給手段と、を備える。
【0009】
第3の発明は、燃料を貯留する燃料タンクと、
前記燃料タンク内の燃料を吸気通路及び/又は燃焼室に噴射する燃料噴射弁と、
上部側と下部側がそれぞれ前記吸気通路に接続され、前記燃料が気化した気化燃料を蓄える気化燃料タンクと、
前記燃料タンク内の燃料を前記気化燃料タンクに供給するタンク内燃料供給手段と、
前記気化燃料タンクの上部側と前記吸気通路との接続部に設けられ、当該接続部を開,閉する常閉の気化燃料供給弁と、
前記気化燃料タンクの下部側と前記吸気通路との接続部に設けられ、当該接続部を開,閉する常閉の液相燃料供給弁と、
内燃機関の運転中に前記気化燃料供給弁と前記液相燃料供給弁とを閉弁した状態で前記タンク内燃料供給手段を駆動し、前記気化燃料タンク内に気化燃料を生成する気化燃料生成手段と、
内燃機関の始動時に前記液相燃料供給弁を閉弁した状態で前記気化燃料供給弁を開弁し、運転中に前記気化燃料タンクに蓄えられた気化燃料を前記吸気通路に供給する気化燃料供給手段と、
前記気化燃料タンク内に気化していない液相燃料が存在する場合に、内燃機関の運転中に前記気化燃料供給弁を閉弁した状態で前記液相燃料供給弁を開弁し、前記液相燃料を前記吸気通路に供給する液相燃料供給手段と、
を備えることを特徴とする。
【0010】
第4の発明によると、前記液相燃料供給手段は、内燃機関の高負荷運転時に前記液相燃料供給弁を開弁する高負荷時燃料供給手段を備える。
【0011】
第5の発明によると、前記液相燃料供給手段は、前記気化燃料タンク内に存在する液相燃料の量が上限判定値を超えた場合に、前記液相燃料供給弁を開弁する液量調整手段を備える。
【0012】
第6の発明によると、前記気化燃料タンクには、当該タンク内の空間を外部空間に対して連通,遮断する常閉の大気導入弁を設け、
前記液相燃料供給手段は、前記気化燃料タンク内の圧力が前記吸気通路の圧力以下となった状態で前記液相燃料の供給を開始する場合に、前記大気導入弁を開弁してから前記液相燃料供給弁を開弁するタンク圧調整手段を備える。
【0013】
第7の発明によると、前記気化燃料生成手段は、少なくとも内燃機関の暖機が完了する前に前記気化燃料の生成を実施する構成としている。
【0014】
第8の発明は、前記気化燃料タンク内の空間を上,下に分割する部材であって、当該タンク内の上部側に前記気相室を形成して下部側に前記液相室を形成するセパレータと、
前記液相室で発生した気化燃料を前記気相室に流入させる気体通路と、を備える。
【0015】
第9の発明は、前記燃料としてアルコール燃料を用いる構成としている。
【発明の効果】
【0016】
第1の発明によれば、内燃機関の運転中に気化燃料を生成し、この気化燃料を機関停止後の自然減圧を利用して気化燃料タンクの気相室内に蓄えておくことができる。これにより、始動時に気化燃料を生成する必要がないので、低温始動時でも、気化燃料を筒内に速やかに供給することができ、始動性を向上させることができる。また、気化燃料の生成時には、気化せずに余った液相燃料を液相室に貯留することができる。即ち、タンク内燃料供給手段により過剰な燃料を供給した場合でも、この燃料を液相室で吸収することができる。従って、内燃機関の運転中には、冷間時から暖機後にわたる広い温度領域において、液相燃料が残留してもよい前提で気化燃料を自由に生成することができ、気化燃料の生成可能なタイミングを増やすことができる。また、液相燃料が溜まった状態では、内燃機関の運転中に液相室で発生する気化燃料を気相室に常時補充し、気相室内に可能な限り多量の気化燃料を蓄えることができる。従って、ショートトリップ運転等が繰返された場合でも、次回の始動時に気化燃料が不足するのを回避することができる。
【0017】
第2の発明によれば、液相燃料供給手段は、気化燃料タンクの液相室内に液相燃料が存在する場合に、内燃機関の運転中に液相燃料供給弁を開弁して液相燃料を吸気通路に供給することができる。これにより、液相室内に溜まる液相燃料の量を適切に調整することができ、また、液相燃料を有効に活用することができる。
【0018】
第3の発明によれば、第1の発明と同様に、始動時に気化燃料を生成する必要がないので、始動性を向上させることができる。また、気化燃料の生成時には、気化せずに余った液相燃料を気化燃料タンクの下部側に貯留しておき、この液相燃料を液相燃料供給弁から吸気通路に供給することができる。従って、内燃機関の運転中には、冷間時から暖機後にわたる広い温度領域において、液相燃料が残留してもよい前提で気化燃料を自由に生成することができる。また、液相燃料が溜まった状態では、内燃機関の運転中に液相燃料が常時気化するので、気化燃料タンク内に可能な限り多量の気化燃料を蓄えることができる。
【0019】
第4の発明によれば、気化燃料の生成時には、気化燃料タンク内に供給された燃料のうち軽質成分が比較的早期に気化する。このため、液相燃料中には、オクタン価が比較的高い重質成分が残留し易い。これに対し、高負荷時燃料供給手段は、高負荷運転時に液相燃料供給弁を開弁することができる。従って、ノッキングが発生し易い高負荷運転時には、オクタン価が比較的高い液相燃料を筒内で燃焼させることができ、液相燃料を利用してノッキングの発生を抑制することができる。
【0020】
第5の発明によれば、液量調整手段は、液相燃料の貯留量が上限判定値を超えた場合に、液相燃料供給弁を開弁することができる。これにより、液相燃料の貯留量を適切に調整し、液相燃料が過剰に貯留されるのを防止することができる。
【0021】
第6の発明によれば、タンク圧調整手段は、気化燃料タンク内の圧力が吸気通路の圧力以下となった状態で液相燃料の供給を開始する場合に、大気導入弁を開弁してから液相燃料供給弁を開弁することができる。これにより、吸気通路側から気化燃料タンク内に空気が逆流するのを防止することができる。
【0022】
第7の発明によれば、前記気化燃料生成手段は、内燃機関の暖機が完了する前にも、気化燃料の生成を実施することができる。これにより、冷間運転時を含めて運転中に出来るだけ多量の気化燃料を生成し、冷間運転が連続することで気化燃料が生成されない事態を回避することができる。
【0023】
第8の発明によれば、気化燃料タンク内には、セパレータにより上側の気相室と下側の液相室とを形成することができる。そして、気体通路により、液相室で発生した気化燃料を気相室に流入させることができる。
【0024】
第9の発明によれば、低温時に気化し難いアルコール燃料を用いる場合でも、内燃機関の運転中に気化燃料タンク内に気化燃料を蓄えておき、この気化燃料を始動時に供給することにより、始動性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態1のシステム構成を説明するための全体構成図である。
【図2】本発明の実施の形態1におけるシステムの制御系統を示す構成図である。
【図3】本発明の実施の形態1において、ECUにより実行される気化燃料生成制御を示すフローチャートである。
【図4】本発明の実施の形態1において、ECUにより実行される気化燃料供給制御を示すフローチャートである。
【図5】本発明の実施の形態1において、ECUにより実行される液相燃料供給制御を示すフローチャートである。
【図6】本発明の実施の形態2のシステム構成を説明するための全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
実施の形態1.
[実施の形態1の構成]
以下、図1乃至図5を参照しつつ、本発明の実施の形態1について説明する。図1は、本発明の実施の形態1のシステム構成を説明するための全体構成図である。本実施の形態のシステムは、FFV(Flexible Fuel Vehicle)に搭載される内燃機関としてのエンジン10を備えている。なお、図1には、4気筒エンジンを例示したが、本発明の内燃機関は、4気筒に限定されるものではない。エンジン10は、各気筒の燃焼室に吸入空気を吸込む吸気通路12と、燃焼室から排気ガスが排出される排気通路14とを備えている。
【0027】
吸気通路12には、上流側から順にエアクリーナ16、スロットルバルブ18及びサージタンク20がそれぞれ設けられている。スロットルバルブ18は、全閉位置と全開位置との間で開,閉される電子制御式のバタフライ弁により構成され、その開度に応じて吸気通路12を流れる吸入空気量を調整する。サージタンク20は、吸気脈動の減衰効果等を発揮するために、吸気通路12の途中に一定の広がりをもつ空間を形成している。そして、サージタンク20の下流側は、複数の吸気管からなる吸気マニホールド22を介して各気筒の吸気ポート24に接続されている。なお、サージタンク20、吸気マニホールド22及び吸気ポート24は、吸気通路12の一部を構成している。
【0028】
また、エンジン10の各気筒には、吸気ポート24に燃料を噴射する吸気ポート噴射弁26と、燃焼室内(筒内)に燃料を直接噴射する筒内噴射弁28とが設けられている。さらに、各気筒には、気化燃料に点火する点火プラグ30(図2参照)と、図示しない吸気弁及び排気弁とが設けられている。噴射弁26,28には、車両の燃料タンク32内に液化状態で貯留されたアルコール燃料が供給されるように構成されている。
【0029】
また、エンジン10は、始動時にクランク軸を回転駆動するスタータモータ34を備えている。車両の運転者がスタータスイッチをONにした場合には、後述のECU70に対してエンジンの始動要求が発生する。これにより、ECU70は、スタータモータ34を起動してクランク軸を回転させる動作(クランキング)を実行し、エンジンが始動した時点、即ち、自立運転に移行した時点でクランキングを停止する。
【0030】
次に、エンジン10に搭載された燃料気化系統について説明する。本実施の形態では、エンジンの運転中に生成した気化燃料をタンクに蓄えておき、この気化燃料を次回の始動時に使用することを特徴としている。そして、燃料気化系統は、以下に述べる気化燃料タンク36、タンク内噴射弁38、気化燃料供給弁40、大気導入弁42、リリーフ弁44、液相燃料供給弁46等を備えている。
【0031】
気化燃料タンク36は、燃料タンク32内のアルコール燃料が気化した気化燃料を蓄えるもので、気液分離型の耐圧容器として形成されている。具体的な構成例を挙げると、気化燃料タンク36は、タンク内の空間を上,下に分割するセパレータ36Aと、セパレータ36Aによりタンク内の上部側に形成された気相室36Bと、セパレータ36Aによりタンク内の下部側に形成された液相室36Cと、気相室36Bと液相室36Cとを接続する気体通路36Dとを備えている。また、気化燃料タンク36は、例えばエンジンルーム内において、エンジン10から熱が伝導し易い位置に設置されている。このため、エンジンの運転中には、気化燃料タンク36が高い温度に保持され、タンク内の燃料が気化し易いように構成されている。
【0032】
タンク内噴射弁38は、燃料タンク32に貯留された燃料を気化燃料タンク36の液相室36C内に噴射(供給)するもので、本実施の形態のタンク内燃料供給手段を構成している。タンク内噴射弁38は、例えば噴射弁26,28と同様の一般的な燃料噴射弁により構成され、その燃料噴射量は制御信号に応じて制御される。タンク内噴射弁38から噴射された燃料は、液相室36C内で気化することにより気化燃料となる。そして、この気化燃料は、気体通路36Dを介して気相室36Bに流入し、気相室36Bに蓄えられるようになっている。
【0033】
また、気化燃料タンク36内の上部側に位置する気相室36Bは、サージタンク20と接続されている。この接続部には、常閉(ノーマル・クローズ)の電磁弁等により構成された気化燃料供給弁40が設けられている。気化燃料供給弁40の閉弁時には、気化燃料タンク36の気相室36Bとサージタンク20との間が遮断され、気相室36B内に気化燃料を蓄えることが可能となる。また、気化燃料供給弁40の開弁時には、気相室36Bとサージタンク20とが相互に連通され、気相室36Bに蓄えられた気化燃料がサージタンク20に供給される。
【0034】
また、気化燃料タンク36には、気相室36Bを外部空間に対して連通,遮断する常閉の大気導入弁42が設けられている。大気導入弁42は常閉の電磁弁等により構成され、開弁時には気化燃料タンク36を大気解放するようになっている。気化燃料の供給時には、気化燃料供給弁40と大気導入弁42とが多少の時間差をもって一緒に開弁され、気化燃料を供給した分だけ大気導入弁42から気相室36B内に大気が導入される。また、大気導入弁42は、エアクリーナ16とスロットルバルブ18との間で吸気通路12に接続されている。このため、大気導入弁42の開弁時には、エアクリーナ16より清浄化され、かつ吸気負圧の影響を受けない空気が気相室36Bに導入される。
【0035】
さらに、気化燃料タンク36の気相室36Bには、例えばチェック弁、リード弁等により構成された常閉のリリーフ弁44が設けられている。リリーフ弁44は、気相室36B内の圧力が所定の作動圧を超えたときに、この圧力を外部(例えば、吸気通路12)に解放するもので、リリーフ弁44の作動圧は、例えば大気圧程度の圧力か、または大気圧よりも数十kPa程度高い圧力に設定されている。この設定は、例えば気化燃料タンク36が常温程度かそれよりも少し高い温度に保持され、燃料の飽和蒸気圧がこの温度領域に対応した圧力となることを前提としている。これにより、リリーフ弁44は、気化燃料タンク36の液相室36C内に噴射された燃料が気化するときに、気相室36B内の空気を外部に逃がすように構成されている。また、リリーフ弁44は、気化燃料タンク36が密閉された状態において、タンク内の圧力が過大となるのを防止する安全弁としての機能も備えている。
【0036】
一方、気化燃料タンク36内の下部側に位置する液相室36Cの底面部は、気相室36Bと別の経路でサージタンク20に接続されている。この接続部には、常閉の電磁弁等により構成された液相燃料供給弁46が設けられている。液相燃料供給弁46は、後述のECU70により制御され、液相室36Cとサージタンク20との間を接続,遮断する。これにより、液相燃料供給弁46は、タンク内噴射弁38から液相室36C内に噴射された燃料のうち、気化せずに余った液相状態の燃料(以下、液相燃料と称す)を、そのままサージタンク20内に供給するものである。なお、液相燃料供給弁46は、後述の液相燃料供給制御を実行する場合を除いて閉弁状態に保持される。
【0037】
次に、図2を参照しつつ、エンジン10の制御系統について説明する。図2は、本発明の実施の形態1におけるシステムの制御系統を示す構成図である。この図に示すように、本実施の形態のシステムは、複数のセンサ48〜60を含むセンサ系統と、エンジン10の運転状態を制御するECU(Electronic Control Unit)70とを備えている。
【0038】
まず、センサ系統について説明すると、クランク角センサ48は、エンジン10のクランク軸の回転に同期した信号を出力するもので、ECU70は、この出力に基いてエンジン回転数及びクランク角を検出することができる。また、エアフローセンサ50は吸入空気量を検出し、水温センサ52は、エンジン10の機関温度として、エンジン冷却水の温度を検出する。また、吸気圧センサ54はサージタンク20内の圧力Pmvを検出し、タンク圧センサ56は気化燃料タンク36内の圧力を検出し、タンク温度センサ58は気化燃料タンク36内の温度を検出する。さらに、燃料性状センサ60は、燃料の性状として、燃料中のアルコール濃度を検出するものである。
【0039】
センサ系統には、上記センサ48〜60の他にも、車両やエンジンの制御に必要な各種のセンサ(例えば排気空燃比を検出する空燃比センサ、スロットルバルブ18の開度を検出するスロットルセンサ、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ、吸気温を検出する吸気温センサ等)が含まれており、これらのセンサはECU70の入力側に接続されている。なお、本発明は、必ずしもタンク温度センサ58を必要とするものではなく、例えばタンク温度センサ58を使用せず、エンジンの温度や運転履歴、気化燃料タンク36への熱伝導特性等に基いてタンク内温度を推定する構成としてもよい。
【0040】
一方、ECU70の出力側には、スロットルバルブ18、噴射弁26,28,38、点火プラグ30、スタータモータ34、気化燃料供給弁40、大気導入弁42、液相燃料供給弁46等を含む各種のアクチュエータが接続されている。そして、ECU70は、センサ系統によりエンジンの運転情報を検出し、その検出結果に基いて各アクチュエータを駆動することにより、運転制御を行う。具体的には、クランク角センサ48の出力に基いてエンジン回転数とクランク角とを検出し、エアフローセンサ50により吸入空気量を検出する。また、以下に述べる通常の燃料噴射制御を実行しつつ、クランク角に基いて点火時期を決定し、点火プラグ30を駆動する。
【0041】
通常の燃料噴射制御は、後述の気化燃料供給制御が実行される場合を除いて、エンジンの運転中に実行されるもので、始動時の燃料噴射制御も含んでいる。この燃料噴射制御では、吸入空気量とエンジン回転数とに基いてエンジンの負荷(負荷率)を算出し、吸入空気量、負荷、エンジン冷却水の温度等に基いて燃料噴射量を算出する。そして、クランク角に基いて燃料噴射時期を決定し、噴射弁26,28を駆動する。この場合、吸気ポート噴射弁26と筒内噴射弁28の噴射量の比率は、エンジンの運転状態や燃料の性状に応じて可変に設定される。また、ECU70は、燃料気化系統の制御として、以下に述べる気化燃料生成制御、気化燃料供給制御及び液相燃料供給制御を実行する。
【0042】
[実施の形態1の動作]
(気化燃料生成制御)
気化燃料生成制御は、エンジン10の運転中に、気化燃料タンク36内で燃料を気化させ、気化燃料を生成するものである。具体的に述べると、気化燃料生成制御では、気化燃料供給弁40、大気導入弁42及び液相燃料供給弁46を閉弁した状態で、タンク内噴射弁38から気化燃料タンク36の液相室36C内に燃料を噴射する。このとき、燃料の噴射量は、気化燃料タンク36内の温度、燃料中のアルコール濃度等に基いて、少なくとも始動時要求量Fgas以上の気化燃料が発生するように決定される。なお、始動時要求量Fgasの詳細については後述する。
【0043】
そして、噴射された燃料は、液相室36C内で気化して気化燃料となる。この気化燃料は、自らの蒸気圧により気体通路36Dを通じて気相室36Bに流入しつつ、気相室36B内の空気をリリーフ弁44から追い出すようになる。従って、リリーフ弁44は、タンク内の空気圧により燃料の気化が抑制されるのを回避し、気化燃料の生成を促進することができる。この結果、噴射燃料の気化が完了すると、タンク内の空気は殆ど排出され、気化燃料タンク36内には、気化燃料が飽和蒸気圧に近い圧力で充満した状態となる。
【0044】
このように、気化燃料生成制御は、低温時に気化し難いアルコール燃料を気化させるので、基本的には暖機終了後、即ち、エンジンの熱により気化燃料タンク36が暖機された状態で実行するのが好ましい。しかし、本実施の形態では、気化燃料タンク36に液相室36Cを設けている。このため、例えば冷間運転時に気化燃料生成制御を実行した場合には、気化せずに余った噴射燃料(液相燃料)が液相室36Cに貯留される。従って、気化燃料生成制御は、冷間運転時(暖機の完了前)であっても、例えば気化燃料タンク36内に保有する気化燃料の保有量が始動時要求量Fgas未満となった場合に実行される。
【0045】
始動時要求量Fgasは、エンジンの始動時に必要な気化燃料の量であり、例えば始動時の外気温や機関温度(エンジン冷却水の温度等)に基いて可変に設定される。ECU70には、外気温や機関温度に基いて始動時要求量Fgasを算出するためのマップデータが予め記憶されている。始動時には、外気温や機関温度が低いほど、多量の気化燃料が必要となる。このため、上記のマップデータは、吸気温が低いほど、また、冷却水の温度が低いほど、始動時要求量Fgasが多くなるように設定されている。
【0046】
上述した気化燃料生成制御によれば、気化燃料タンク36の気相室36Bには、エンジンの運転中に気化燃料を蓄えることができる。そして、気化燃料タンク36は、タンク内で生じる自然減圧を利用して、エンジン停止後の冷間時にも、気化燃料の少なくとも一部を気相状態で保有することができる。
【0047】
また、本実施の形態では、気液分離型の気化燃料タンク36を備えているので、気相室36B内に気化燃料を生成しつつ、余った液相燃料を液相室36Cに貯留することができる。即ち、タンク内噴射弁38により過剰な燃料を噴射した場合でも、この燃料を液相室36Cで吸収することができる。このため、本実施の形態では、エンジンの暖機が完了する前にも、気化燃料の生成を実施するようにしている。従って、エンジンの運転中には、冷間時から暖機後にわたる広い温度領域において、液相燃料が残留してもよい前提で気化燃料を自由に生成することができ、気化燃料の生成可能なタイミングを増やすことができる。これにより、冷間運転時を含めて運転中に出来るだけ多量の気化燃料を生成し、冷間運転が連続することで気化燃料が生成されない事態を回避することができる。
【0048】
また、本実施の形態では、気化燃料の生成時に敢えて過剰な燃料を噴射し、液相室36C内に液相燃料を意図的に貯留することもできる。この場合も含めて、液相室36Cに液相燃料が溜まった状態では、エンジンの運転中に液相室36Cで発生する気化燃料を気相室36Bに常時補充し、気相室36B内に可能な限り多量の気化燃料を蓄えることができる。従って、エンジンが始動後に短時間で停止される運転(所謂ショートトリップ運転)が繰返された場合でも、次回の始動時に気化燃料が不足するのを回避することができる。
【0049】
(気化燃料供給制御)
気化燃料供給制御は、エンジンの始動時に気化燃料供給弁40と大気導入弁42とを開弁し、気化燃料タンク36の気相室36Bに蓄えられていた気化燃料をサージタンク20に供給するものである。具体的に述べると、まず、スタータスイッチがONされることによりクランキングが開始されると、サージタンク20内には、クランキングにより吸気負圧が生じる。このとき、ECU70は、気化燃料供給弁40と大気導入弁42とを開弁し、気相室36B内の気化燃料を吸気負圧によってサージタンク20に供給する。なお、液相燃料供給弁46は閉弁状態に保持する。
【0050】
これにより、気相室36B内の気化燃料がサージタンク20に流出すると、その分だけ大気導入弁42から気相室36Bに空気が流入するので、気化燃料の供給をスムーズに行うことができる。また、大気導入弁42を開弁させるにあたり、気化燃料タンク36内の圧力が大気圧以上である場合には、最初に気化燃料供給弁40を開弁してから大気導入弁42を開弁する。一方、タンク内の圧力が大気圧よりも低い場合には、最初に大気導入弁42を開弁してから気化燃料供給弁40を開弁する。これにより、気相室36B内の気化燃料が大気導入弁42から大気中に流出したり、サージタンク20内の空気が気化燃料供給弁40から気相室36B内に逆流するのを防止することができる。
【0051】
気化燃料タンク36からサージタンク20に供給された気化燃料は、吸気ポート24を介して筒内に流入し、筒内で点火されて燃焼する。これにより、各気筒での燃焼が連続するようになると、エンジン回転数が上昇し、エンジンが自立運転に移行する。ECU70は、自立運転が開始されたことをエンジン回転数の上昇により確認した時点で、クランキングを停止する。また、気化燃料供給弁40と大気導入弁42とを閉弁し、気化燃料供給制御を終了する。そして、吸気ポート噴射弁26や筒内噴射弁28から燃料を噴射する通常の燃料噴射制御を開始する。
【0052】
このように、エンジンの運転中に蓄えておいた気化燃料を使用すれば、始動時に気化燃料を生成する場合と比較して、気化燃料を筒内に速やかに供給することができ、燃料が気化し難い低温始動時でも、始動性を向上させることができる。なお、気化燃料供給制御は、始動時の機関温度が気化燃料を必要とする所定の判定温度以下の場合にのみ実行するのが好ましい。
【0053】
(液相燃料供給制御)
液相燃料供給制御は、気化燃料タンク36の液相室36C内に液相燃料が存在する場合に、エンジンの運転中に液相燃料供給弁46を開弁し、液相室36C内の液相燃料をサージタンク20に供給するものである。このとき、気化燃料供給弁40は閉弁状態に保持され、大気導入弁42、後述のように必要に応じて開弁される。サージタンク20に供給された液相燃料は、エンジンから伝わる熱により吸気通路の途中で気化し、気化燃料となって筒内に流入する。このため、液相燃料供給制御は、暖機運転が完了してから実行するのが好ましい。上記制御によれば、液相燃料を利用して気化燃料を常時補充しつつ、液相室36C内に溜まる液相燃料の量を適切に調整することができ、また、液相燃料を有効に活用することができる。
【0054】
また、液相燃料供給制御では、燃料の性状や温度環境等に応じて液相燃料供給弁46を断続的に開,閉し、その開弁時間及び開弁タイミングを適切に制御する。これにより、液相燃料の供給量及び供給タイミングは、例えば全ての液相燃料が気化してから筒内に流入するように適切に制御される。さらに、エンジンの運転中には、噴射弁26,28による通常の燃料噴射制御が実行されるが、液相燃料供給制御の実行時には、液相燃料の供給量に応じて噴射弁26,28からの燃料噴射量が減量される。これにより、筒内に供給される燃料ガスを適度な濃度に保持することができる。
【0055】
一方、気化燃料の生成時には、気化燃料タンク36内に噴射された燃料のうち軽質成分が比較的早期に気化する。このため、液相燃料中には、オクタン価が比較的高い重質成分が残留し易い。そこで、本実施の形態では、高負荷運転時に液相燃料供給弁46を開弁し、液相燃料供給制御を実行する。これにより、ノッキングが発生し易い高負荷運転時には、オクタン価が比較的高い液相燃料を筒内で燃焼させることができ、液相燃料を利用してノッキングの発生を抑制することができる。
【0056】
また、高負荷運転が行われていなくても、気化燃料タンク36内に多量の液相燃料が溜まった場合には、液相燃料供給制御を実行する。具体的には、液相室36C内に溜まった液相燃料の貯留量を算出し、この貯留量が上限判定値Flimitを超えた場合には、液相燃料供給弁46を開弁する。上限判定値Flimitは、液相室36Cの容積またはタンク内で許容される液面レベルの上限等に対応して設定される。これにより、液相燃料の貯留量を適切に調整し、液相燃料が液相室36Cから溢れるのを防止することができる。
【0057】
[実施の形態1を実現するための具体的な処理]
次に、図3乃至図5を参照して、上述した制御を実現するための具体的な処理について説明する。まず、図3は、本発明の実施の形態1において、ECUにより実行される気化燃料生成制御を示すフローチャートである。図3に示すルーチンは、エンジンの運転中に繰り返し実行されるものとする。
【0058】
図3に示すルーチンでは、まず、燃料性状センサ60の出力に基いて燃料中のアルコール濃度を検出する(ステップ100)。また、タンク圧センサ56及びタンク温度センサ58の出力に基いて気化燃料タンク36内の温度と圧力とを検出する(ステップ102)。また、これらの検出処理の他に、エンジンの冷却水温、吸気温の検出等も実行する。次の処理では、例えば燃料中のアルコール濃度、気化燃料タンク36内の温度及び容積等に基いて適切な燃料噴射量を算出し、この燃料噴射量が実現されるようにタンク内噴射弁38を駆動する(ステップ104)。
【0059】
これにより、タンク内噴射弁38から液相室36C内に燃料が噴射され、気化燃料が発生するので、発生した気化燃料の量を算出する(ステップ106)。この算出処理において、気化燃料の量は、例えば燃料噴射後に変化したタンク内の圧力、タンク内の温度、アルコールの飽和蒸気圧の温度特性等に基いて算出される。なお、飽和蒸気圧の温度特性データは、ECU70に予め記憶されている。次の処理では、前述したように、エンジン水温や吸気温等に基いて始動時要求量Fgasを算出し、その時点における気化燃料の量が始動時要求量Fgasよりも多いか否かを判定する(ステップ108)。
【0060】
ステップ108の判定成立時には、タンク内噴射弁38内に十分な量の気化燃料が生成されたので、そのまま制御を終了する。また、ステップ108の判定が不成立の場合には、始動時要求量Fgasよりも多量の気化燃料が生成されるまでステップ102〜108の処理を繰返す。これにより、例えば冷間運転時には、タンク内に十分な量の気化燃料を生成すると、液相室36C内に液相燃料が貯留された状態となる。この液相燃料は、後述の図5に示す制御により使用される。
【0061】
次に、図4は、本発明の実施の形態1において、ECUにより実行される気化燃料供給制御を示すフローチャートである。この図に示すルーチンは、エンジンの運転中に繰り返し実行されるものとする。そして、図4に示すルーチンでは、まず、イグニッションスイッチ(IGSW)がONになったか否かを判定し(ステップ200)、この判定成立時には、燃料中のアルコール濃度を検出する(ステップ202)。また、水温センサ52の出力に基いて始動時のエンジン水温を検出する(ステップ204)。
【0062】
次に、スタータスイッチがONになったか否かを判定し(ステップ206)、この判定成立時には、スタータモータ34を起動してクランキングを実行する(ステップ208)。そして、クランキング中に気筒判別処理を実行し、気筒判別処理が終了したか否かを判定する(ステップ210)。続いて、気筒判別の終了後には、気化燃料供給判定温度ethw1を算出し、始動時のエンジン水温が気化燃料供給判定温度ethw1未満であるか否かを判定する(ステップ212)。ここで、気化燃料供給判定温度ethw1とは、気化燃料の供給を許可するための判定温度であり、気化燃料を必要とする機関温度の上限値に対応して設定される。また、気化燃料供給判定温度ethw1は、燃料性状センサ60の出力に基いて、燃料中のアルコール濃度が高いほど(即ち、燃料の揮発性が低いほど)、高い温度に設定される。
【0063】
ステップ212の判定が成立した場合には、気化燃料を使用しないと始動が難しいので、ステップ214〜226の処理を実行し、気化燃料を供給する。この処理は、前述したように、気化燃料タンク36の圧力(タンク内圧力)Pと大気圧P0との大小関係に基いて気化燃料供給弁40と大気導入弁42の開弁順序を切換えつつ、サージタンク20に気化燃料を供給するものである。具体的に述べると、まず、タンク内圧力Pが大気圧P0よりも大きいか否かを判定し(ステップ214)、この判定成立時には、気化燃料供給弁40を開弁してから大気導入弁42を開弁し、始動に十分な量の気化燃料が供給された時点で2つの弁40,42を閉弁する(ステップ216〜220)。また、ステップ214の判定が不成立の場合には、大気導入弁42を開弁してから気化燃料供給弁40を開弁し、その後に各弁40,42を閉弁する(ステップ222〜226)。一方、ステップ212の判定が不成立の場合には、通常の始動時噴射制御を実行し、吸気ポート噴射弁26及び筒内噴射弁28から燃料を噴射する(ステップ228)。
【0064】
次に、図5は、本発明の実施の形態1において、ECUにより実行される液相燃料供給制御を示すフローチャートである。この図に示すルーチンは、エンジンの運転中に繰り返し実行されるものとする。図5に示すルーチンでは、まず、燃料中のアルコール濃度、気化燃料タンク36内の温度及び圧力Pを検出する(ステップ300,302)。そして、気化燃料タンク36内に存在する気化燃料と液相燃料の量をそれぞれ算出する(ステップ304)。ここで、気化燃料の量は、前記図1中のステップ106と同様の処理により算出される。また、液相燃料の量は、図1中のステップ104で算出した燃料噴射量から、気化燃料の量を減算することにより算出される。
【0065】
次に、液相燃料の量が所定の液相燃料使用判定値Fliqよりも大きいか否かを判定する(ステップ306)。ここで、液相燃料使用判定値Fliqとは、液相室36C内に溜まった液相燃料が使用を必要とする程の量であるか否かを判定するための判定値である。このため、ステップ306の判定が不成立の場合には、そのまま制御を終了する。一方、ステップ306の判定成立時には、高負荷運転中であるか否かを判定する(ステップ308)。具体的に述べると、ステップ308では、ECU70により算出されるエンジンの負荷が高負荷に対応する所定の負荷判定値以上であるか否かを判定する。
【0066】
ステップ308の判定成立時には、後述のステップ312〜320の処理を実行し、気化燃料タンク36内の液相燃料をサージタンク20に供給する。一方、ステップ308の判定が不成立の場合には、液相燃料の量が前述の上限判定値Flimitよりも多いか否かを判定する(ステップ310)。この判定成立時には、液相燃料の貯留量が上限に近いので、ステップ312に移行する。また、ステップ310の判定が不成立の場合には、液相燃料の貯留量が許容範囲内であり、高負荷運転も行われていないので、ステップ308,310の何れかで判定が成立するまでこれらの判定処理を繰返す。
【0067】
次に、ステップ312〜320の処理では、気化燃料タンク36のタンク内圧力Pと、サージタンク20内の圧力(吸気圧)Pmvとの大小関係を考慮しつつ、液相室36C内の液相燃料をサージタンク20に供給する。具体的に述べると、まず、ステップ312では、タンク内圧力Pが吸気圧Pmvよりも高いか否かを判定する。この判定成立時には、サージタンク20側から気化燃料タンク36内に空気が逆流する虞れがないので、前述したように液相燃料供給弁46を適切なタイミングで開,閉し、液相室36C内の液相燃料をサージタンク20に供給する(ステップ314)。
【0068】
一方、ステップ312の判定が不成立の場合には、まず、大気導入弁42を開弁し、吸気圧以下の負圧状態となっている気化燃料タンク36内に大気を導入する(ステップ316)。これにより、気化燃料タンク36内の圧力が大気圧近傍まで上昇するので、次に、液相燃料供給弁46を開弁する(ステップ318)。そして、これらの弁42,46を適切なタイミングで閉弁する(ステップ320)。上述した弁制御によれば、液相燃料の供給時に、サージタンク20側から気化燃料タンク36内に空気が逆流するのを防止することができる。
【0069】
なお、前記実施の形態1では、図3中に示すステップ100〜108が請求項1における気化燃料生成手段の具体例を示し、図4中に示すステップ200〜226が請求項1における気化燃料供給手段の具体例を示している。また、図5中に示すステップ300〜320は、請求項2における液相燃料供給手段の具体例を示している。さらに、ステップ308,314,318は、請求項3における高負荷時燃料供給手段の具体例、ステップ310,314,318は、請求項4における液量調整手段の具体例、ステップ312,316,318は、請求項5におけるタンク圧調整手段の具体例をそれぞれ示している。
【0070】
また、実施の形態1では、気液分離型の気化燃料タンク36と液相燃料供給弁46とを備える構成としたが、本発明はこれに限らず、液相燃料供給弁46を省略する構成としてもよい。この場合にも、気化燃料タンク36内に液相燃料を貯留する機能や、この液相燃料により気化燃料を補充する機能は備えているので、これらの機能に応じた作用効果を得ることができる。
【0071】
また、実施の形態1では、1つの気化燃料タンク36内に気相室36Bと液相室36Cとを形成する構成とした。しかし、本発明はこれに限らず、例えば気相室と液相室とをそれぞれ別個のタンクにより形成し、これら2つのタンク間に気化燃料が流通する気体通路を設ける構成としてもよい。
【0072】
実施の形態2.
次に、図6を参照して、本発明の実施の形態2について説明する。本実施の形態は、実施の形態1とほぼ同様の構成及び制御(図2乃至図5)を採用しているものの、気液分離型ではない気化燃料タンク80を用いている。なお、本実施の形態では、前記実施の形態1と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0073】
[実施の形態2の特徴]
図6は、本発明の実施の形態2のシステム構成を説明するための全体構成図である。この図に示すように、本実施の形態では、セパレータ等が存在しない気化燃料タンク80を備えている。そして、気化燃料供給弁40は、気化燃料タンク80の上部側に接続され、液相燃料供給弁46は、気化燃料タンク80の下部側(底面部)に接続されている。このように構成される本実施の形態でも、前記実施の形態1とほぼ同様の作用効果を得ることができる。
【0074】
なお、実施の形態では、気化燃料タンク36,80内に溜まった液相燃料の貯留量を算出処理により求める構成とした。しかし、本発明はこれに限らず、例えばタンク内の液量や液面レベルを検出するセンサ等を用いて、液相燃料の貯留量を検出する構成としてもよい。
【0075】
また、実施の形態では、吸気通路12に対する気化燃料の供給部位として、サージタンク20を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、スロットルバルブ18の下流側であれば、吸気通路12の任意の部位に気化燃料タンク36,80を接続し、この部位に気化燃料を供給する構成としてよいものである。
【0076】
また、実施の形態では、気化燃料タンク36,80をエンジン10からの熱が伝わり易い場所に配置する構成とした。しかし、本発明はこれに限らず、エンジン10で発生する熱により気化燃料タンク36,80を積極的に加熱する構成としてもよい。一例を挙げれば、エンジン10と気化燃料タンク36,80との間に冷却水配管を設け、エンジン冷却水により気化燃料タンク36,80を加熱する構成としてもよい。また、排気通路14と気化燃料タンク36,80との間にヒートパイプ等の熱伝導部材を設け、排気熱により気化燃料タンク36,80を加熱する構成としてもよい。これらの構成により、気化燃料タンク36,80内での燃料の飽和蒸気圧を高め、蓄えられる気化燃料の量を増やすことができる。
【0077】
また、実施の形態では、吸気ポート噴射弁26と筒内噴射弁28の両方を備えたエンジン10を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、噴射弁26,28のうち何れか一方を備えず、他方のみを備えた内燃機関に適用してもよい。
【0078】
さらに、実施の形態では、アルコール燃料を使用するエンジン10を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、通常のガソリンや、ガソリンにアルコール以外の成分を添加した各種の燃料に対しても適用し得るものである。
【符号の説明】
【0079】
10 エンジン(内燃機関)
12 吸気通路
14 排気通路
16 エアクリーナ
18 スロットルバルブ
20 サージタンク(吸気通路)
22 吸気マニホールド(吸気通路)
24 吸気ポート(吸気通路)
26 吸気ポート噴射弁(燃料噴射弁)
28 筒内噴射弁(燃料噴射弁)
32 燃料タンク
34 スタータモータ
36,80 気化燃料タンク
36A セパレータ
36B 気相室
36C 液相室
36D 気体通路
38 タンク内噴射弁(タンク内燃料供給手段)
40 気化燃料供給弁
42 大気導入弁
44 リリーフ弁
46 液相燃料供給弁
54 吸気圧センサ
56 タンク圧センサ
58 タンク温度センサ
60 燃料性状センサ
70 ECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料を貯留する燃料タンクと、
前記燃料タンク内の燃料を吸気通路及び/又は燃焼室に噴射する燃料噴射弁と、
前記吸気通路に接続された気相室と当該気相室に接続された液相室とを有し、前記液相室で前記燃料が気化して生じた気化燃料を前記気相室に蓄える気化燃料タンクと、
前記燃料タンク内に貯留された燃料を前記気化燃料タンクの液相室に供給するタンク内燃料供給手段と、
前記気化燃料タンクの気相室と前記吸気通路との接続部に設けられ、当該接続部を開,閉する常閉の気化燃料供給弁と、
内燃機関の運転中に前記気化燃料供給弁を閉弁した状態で前記タンク内燃料供給手段を駆動し、前記気化燃料タンクの気相室内に気化燃料を生成する気化燃料生成手段と、
内燃機関の始動時に前記気化燃料供給弁を開弁し、運転中に前記気化燃料タンクの気相室に蓄えられた気化燃料を前記吸気通路に供給する気化燃料供給手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記気化燃料タンクの液相室と前記吸気通路との間を接続,遮断する常閉の液相燃料供給弁と、
前記気化燃料タンクの液相室内に気化していない液相燃料が存在する場合に、内燃機関の運転中に前記液相燃料供給弁を開弁して前記液相燃料を前記吸気通路に供給する液相燃料供給手段と、
を備えてなる請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
燃料を貯留する燃料タンクと、
前記燃料タンク内の燃料を吸気通路及び/又は燃焼室に噴射する燃料噴射弁と、
上部側と下部側がそれぞれ前記吸気通路に接続され、前記燃料が気化した気化燃料を蓄える気化燃料タンクと、
前記燃料タンク内の燃料を前記気化燃料タンクに供給するタンク内燃料供給手段と、
前記気化燃料タンクの上部側と前記吸気通路との接続部に設けられ、当該接続部を開,閉する常閉の気化燃料供給弁と、
前記気化燃料タンクの下部側と前記吸気通路との接続部に設けられ、当該接続部を開,閉する常閉の液相燃料供給弁と、
内燃機関の運転中に前記気化燃料供給弁と前記液相燃料供給弁とを閉弁した状態で前記タンク内燃料供給手段を駆動し、前記気化燃料タンク内に気化燃料を生成する気化燃料生成手段と、
内燃機関の始動時に前記液相燃料供給弁を閉弁した状態で前記気化燃料供給弁を開弁し、運転中に前記気化燃料タンクに蓄えられた気化燃料を前記吸気通路に供給する気化燃料供給手段と、
前記気化燃料タンク内に気化していない液相燃料が存在する場合に、内燃機関の運転中に前記気化燃料供給弁を閉弁した状態で前記液相燃料供給弁を開弁し、前記液相燃料を前記吸気通路に供給する液相燃料供給手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記液相燃料供給手段は、内燃機関の高負荷運転時に前記液相燃料供給弁を開弁する高負荷時燃料供給手段を備えてなる請求項2または3に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記液相燃料供給手段は、前記気化燃料タンク内に存在する液相燃料の量が上限判定値を超えた場合に、前記液相燃料供給弁を開弁する液量調整手段を備えてなる請求項2乃至4のうち何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記気化燃料タンクには、当該タンク内の空間を外部空間に対して連通,遮断する常閉の大気導入弁を設け、
前記液相燃料供給手段は、前記気化燃料タンク内の圧力が前記吸気通路の圧力以下となった状態で前記液相燃料の供給を開始する場合に、前記大気導入弁を開弁してから前記液相燃料供給弁を開弁するタンク圧調整手段を備えてなる請求項2乃至5のうち何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項7】
前記気化燃料生成手段は、少なくとも内燃機関の暖機が完了する前に前記気化燃料の生成を実施する構成としてなる請求項1乃至6のうち何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項8】
前記気化燃料タンク内の空間を上,下に分割する部材であって、当該タンク内の上部側に前記気相室を形成して下部側に前記液相室を形成するセパレータと、
前記液相室で発生した気化燃料を前記気相室に流入させる気体通路と、
を備えてなる請求項1または2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項9】
前記燃料としてアルコール燃料を用いてなる請求項1乃至8のうち何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−236814(P2011−236814A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109091(P2010−109091)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】