説明

内燃機関の制御装置

【課題】予混合圧縮自着火燃焼と、火花点火燃焼とが切り替え可能なエンジン10において、吸気バルブ42及び排気バルブ44の双方を閉弁させる期間(NVO期間)内に筒内噴射弁52から噴射された燃料の燃焼によってイオン電流が流れることで、点火プラグ36の中心電極36aと接地電極36bとの間に印加される電圧が低下し、イオン電流の検出精度の低下すること。
【解決手段】膨張行程後半から排気バルブ44の開弁タイミングまでの間に点火制御部66からオン点火信号を出力し、コンデンサ84に給電する第1コイル通電処理を行う。その後、NVO期間内に検出されるイオン出力値の最大値が所定の閾値以上であると判断された場合、点火プラグ36の中心電極36aと接地電極36bとの間に印加される電圧が低下したと判断する。そして、吸気バルブ42が開弁するまでにオン点火信号を再度出力し、コンデンサ84に再度給電する第2コイル通電処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気行程後半から吸気行程前半までの間に設けられる排気バルブ及び吸気バルブの双方の閉弁期間に前記内燃機関の燃焼室内に燃料を供給する第1の燃料供給手段と、該第1の燃料供給手段による燃料供給後の吸気行程において前記燃焼室内に燃料を供給する第2の燃料供給手段と、前記燃焼室に突出した点火プラグに供給される電力の一部を蓄電する蓄電手段によって該点火プラグの中心電極と接地電極との間に電圧が印加される期間において、これら両電極間に流れるイオン電流についての情報を取得するイオン電流取得手段とを備え、該イオン電流取得手段の出力値から算出されるイオン電流に基づき前記供給された燃料の燃焼状態を検出する内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
吸気通路において燃料(ガソリン)と吸気とを予め混合したもの(予混合気)を燃焼室での圧縮により自着火(予混合圧縮自着火、Homogeneous Charge Compression Ignition:HCCI)燃焼させる内燃機関が研究されている。この内燃機関では、まず、排気バルブ及び吸気バルブの双方を閉弁させる(負のバルブオーバーラップ:NVO)期間が排気行程の後半から吸気行程の前半までの間に設定されることで、予混合気の燃焼によって生成された燃焼ガス(内部EGR)が燃焼室内に残留する。次に、NVO期間において、内部EGRが圧縮されることで高温高圧となり、燃焼室内の温度が上昇する状況下、燃焼室内に燃料が直接噴射供給される。そして、噴射供給された燃料の一部の燃焼によって燃焼室内の温度が更に上昇することで、吸入行程において燃焼室内に供給される予混合気が加熱され、予混合気の着火性を向上させている。一方、上記噴射供給された燃料のうち、未燃燃料は、高温の内部EGRとともに燃焼室内に閉じ込められることで、着火性の高いものへと改質され、予混合気の着火性を更に向上させている。これにより、自着火燃焼を実現させることが可能となる。
【0003】
ここで、上記自着火燃焼を良好なものとするためには、自着火タイミングを高精度に制御することが要求される。このため、自着火タイミングを実際に検出し、自着火燃焼制御に反映させることが望まれる。そこで従来、例えば下記特許文献1に見られるように、火花点火式内燃機関において、一部の運転領域で自着火燃焼制御を行うとともに、その際に点火プラグの中心電極及び接地電極間に流れる電流(イオン電流)を検出することで自着火タイミングを間接的に検出することも提案されている。ここで、イオン電流の検出手段は、火花点火式内燃機関において燃焼状態を検出するための周知技術である。すなわち、点火プラグに供給される電力の一部を蓄電するコンデンサを電源として、点火プラグの両電極間に予め電圧を印加することで、燃料の燃焼によってイオンが生じる場合に両電極間に流れるイオン電流を検出する技術である。
【0004】
ただし、イオン電流に基づき自着火タイミングを検出するためには、都度の自着火タイミングの検出に先立ってコンデンサに給電すべく、点火プラグに電力を供給することが要求される。しかしながら、燃焼室内に燃料が存在する期間に点火プラグに電力を供給すると、放電火花の発生によって燃料が着火され得る。この場合、自着火燃焼制御において、自着火タイミングが適切なタイミングからずれることに起因してトルク変動が生じたり排気特性が悪化したりするおそれがある。
【0005】
そこで上記特許文献1では、NVO期間において燃料が噴射供給される前に点火プラグに電力を供給し、コンデンサに給電することで、自着火タイミングが適切なタイミングからずれる事態を回避する技術も提案されている。これにより、トルク変動の発生や排気特性の悪化を回避することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−248831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記技術によれば、自着火タイミングが適切なタイミングからずれる事態を回避しつつコンデンサに給電することはできるものの、イオン電流の検出精度が低下する事態が生じ得る。すなわち、コンデンサへの給電後、NVO期間において燃焼室内に噴射供給された燃料の燃焼によってイオン電流が流れると、コンデンサの電圧低下に起因して点火プラグの両電極間に印加される電圧が低下することで、イオン電流の検出精度が低下し得る。この場合、燃焼室内の燃焼状態の検出精度が低下するおそれがある。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、イオン電流の検出精度の低下を好適に回避することのできる内燃機関の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0010】
請求項1記載の発明は、内燃機関の排気行程後半から吸気行程前半までの間に設けられる排気バルブ及び吸気バルブの双方の閉弁期間に前記内燃機関の燃焼室内に燃料を供給する第1の燃料供給手段と、該第1の燃料供給手段による燃料供給後の吸気行程において前記燃焼室内に燃料を供給する第2の燃料供給手段と、前記燃焼室に突出した点火プラグに供給される電力の一部を蓄電する蓄電手段によって該点火プラグの中心電極と接地電極との間に電圧が印加される期間において、これら両電極間に流れるイオン電流についての情報を取得するイオン電流取得手段とを備え、該イオン電流取得手段の出力値から算出されるイオン電流に基づき前記供給された燃料の燃焼状態を検出する内燃機関の制御装置において、膨張行程後半から前記第1の燃料供給手段により燃料が供給されるまでの間に前記点火プラグに前記蓄電手段を給電するための電力を供給する第1の電力供給手段と、前記双方の閉弁期間内の前記蓄電手段の蓄電量が所定以下となることに基づき、前記第2の燃料供給手段により燃料が供給される前に前記点火プラグに前記蓄電手段を給電するための電力を再度供給する第2の電力供給手段とを備えることを特徴とする。
【0011】
自着火燃焼を行う場合において、圧縮行程後半から膨張行程までの間の内燃機関のトルクを生成するための燃焼(メイン燃焼)期間に点火プラグの両電極間に流れるイオン電流を検出するためには、点火プラグの両電極間に所定以上の電圧が印加されていることが要求される。ここで、第1の電力供給手段により点火プラグに電力を供給することで蓄電手段に電力が供給された後、上記双方の閉弁期間(NVO期間)において第1の燃料供給手段により供給される燃料の燃焼によって点火プラグの両電極間にイオン電流が流れると、蓄電手段の蓄電量が減少し、ひいては点火プラグの両電極間への印加電圧が低下し得る。この場合、メイン燃焼期間内のイオン電流の検出精度が低下することで、燃焼室内の燃焼状態の検出精度が低下するおそれがある。この点、上記発明では、NVO期間内の蓄電手段の蓄電量が所定以下になることに基づき、点火プラグの両電極間への印加電圧が低下したと判断することができる。そして、第2の燃料供給手段により燃料が供給される前に、点火プラグに再度電力を供給することで蓄電手段に電力を供給する。これにより、適切な自着火タイミング以外のタイミングで着火される事態を回避しつつも、メイン燃焼期間に点火プラグへの印加電圧を高く維持することができる。このため、メイン燃焼期間におけるイオン電流の検出精度の低下を好適に回避することができる。
【0012】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記第2の電力供給手段は、前記イオン電流取得手段の出力値から算出される前記双方の閉弁期間内のイオン電流が所定以上となることに基づき、前記電力を再度供給することを特徴とする。
【0013】
点火プラグの両電極間を流れるイオン電流が大きいと、蓄電手段の蓄電量が大きく減少し、両電極間への印加電圧が低下する。上記発明では、この点に鑑み、NVO期間内に流れるイオン電流が所定以上となることに基づき、上記印加電圧が低下したことを簡素な構成で且つ高精度に把握することができる。
【0014】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、前記イオン電流取得手段の出力値から算出される前記双方の閉弁期間内のイオン電流に基づき、前記内燃機関の自着火燃焼制御を行う制御手段を更に備えることを特徴とする。
【0015】
本発明者らは、NVO期間内に流れるイオン電流に基づき、燃料の改質度合いや燃焼室内の温度の上昇度合い等、NVO期間における燃焼室内の燃焼状態を把握可能なことを見出した。そして、上記燃焼状態が、メイン燃焼の燃焼状態に影響を与えることを見出した。上記発明では、この点に鑑み、NVO期間内に流れるイオン電流に基づき自着火燃焼制御を行うことで、自着火燃焼の制御精度をより向上させることができる。
【0016】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の発明において、前記双方の閉弁期間内の前記蓄電量が所定以下となってから前記第2の燃料供給手段により燃料が供給されるまでの時間が所定時間以下となることに基づき、前記第2の燃料供給手段による燃料供給タイミングを遅角させる遅角手段を更に備えることを特徴とする。
【0017】
NVO期間内の蓄電手段の蓄電量が所定以下となってから第2の燃料供給手段により燃料が供給されるまでの時間が短時間となる状況下、第2の電力供給手段により点火プラグに再度電力を供給すると、第2の燃料供給手段により燃料が供給された後に放電火花が生じ得る。この場合、適切な自着火タイミング以外のタイミングで着火されるおそれがある。この点、上記発明では、第2の燃料供給手段による燃料供給タイミングを遅らせる(遅角させる)ことで、点火プラグに再度電力を供給するために要する時間を確保することができる。これにより、適切な自着火タイミング以外のタイミングで着火される事態を好適に回避することができる。
【0018】
請求項5記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の発明において、前記双方の閉弁期間内の前記蓄電量が所定以下となってから前記第2の燃料供給手段により燃料が供給されるまでの時間が所定時間以下となることに基づき、前記点火プラグを介すことなく前記蓄電手段に充電する充電手段を更に備えることを特徴とする。
【0019】
上記発明では、NVO期間内の蓄電手段の蓄電量が所定以下となってから第2の燃料供給手段により燃料が供給されるまでの時間が短時間となる状況下、点火プラグの両電極間に放電火花を生じさせることなく蓄電手段に充電し、点火プラグの両電極間に電圧を印加することができる。これにより、適切な自着火タイミング以外のタイミングで着火される事態を好適に回避することができる。
【0020】
請求項6記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載の発明において、前記内燃機関は、前記燃焼室内に燃料を直接噴射供給する燃料噴射弁と、同燃料噴射弁よりも燃料噴射率が大きい燃料噴射弁とを備えるものであり、前記第1の燃料供給手段は、前記直接噴射供給する燃料噴射弁を操作することで前記燃料を供給するものであり、前記第2の燃料供給手段は、前記燃料噴射率が大きい燃料噴射弁を操作することで前記燃料を供給するものであることを特徴とする。
【0021】
自着火燃焼を良好なものとするには、NVO期間において適切なタイミングで燃焼室に燃料を噴射供給することが要求され、ここでの燃料量は通常、内燃機関のトルクを生成するための燃料量よりも少ない。この点、上記発明では、燃焼室内に直接燃料を噴射供給することで上記適切なタイミングで燃料を噴射供給することができる。また、上記2つの燃料噴射弁を備えることで、NVO期間及び上記トルクを生成するために要求される燃料噴射を適切に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1の実施形態にかかるシステム構成図。
【図2】同実施形態にかかるイオン電流検出回路の構成図。
【図3】同実施形態にかかるNVO期間におけるイオン電流の発生態様を示すタイムチャート。
【図4】同実施形態にかかるコイル通電処理を示すフローチャート。
【図5】同実施形態にかかるコイル通電処理態様を示すタイムチャート。
【図6】第2の実施形態にかかるコイル通電処理を示すフローチャート。
【図7】第3の実施形態にかかるシステム構成図。
【図8】同実施形態にかかるコイル通電処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(第1の実施形態)
以下、本発明にかかる内燃機関の制御装置をガソリンエンジンに適用した第1の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0024】
図1に本実施形態にかかるシステム構成を示す。
【0025】
図示されるエンジン10は、4ストロークエンジンであり、火花点火式内燃機関である。エンジン10の吸気通路12には、上流側から順に、吸入される空気量(吸気量)を検出するエアフローメータ14、DCモータ等のアクチュエータによって開度調節される電子制御式のスロットルバルブ16及び吸気圧を検出する吸気圧センサ18が設けられている。吸気通路12のうち、吸気圧センサ18の下流側には、エンジン10の各気筒の燃焼室20に吸気を導入する吸気マニホールド22が接続されている。吸気マニホールド22において各気筒の吸気ポート近傍には、燃料ポンプ24aによって燃料タンク26から汲み上げられる燃料(ガソリン)を噴射供給する電磁駆動式の燃料噴射弁(ポート噴射弁28)が設けられている。ポート噴射弁28は、エンジン10のトルクを生成するため(出力制御用)の燃料噴射に用いられるものである。なお、吸気マニホールド22においてポート噴射弁28の下流側には、燃焼室20内に気流(スワール流やタンブル流)を生じさせる気流制御弁30が設けられている。また、吸気通路12には、スロットルバルブ16の上流側と下流側とが連通するようにバイパス通路32が接続されており、この通路には、アイドル運転時のエンジン回転速度を制御すべくこの通路を流れる吸気量を調節する電磁弁(アイドルスピードコントロールバルブ34)が設けられている。
【0026】
エンジン10のシリンダヘッドには点火プラグ36が設けられており、プラグ先端に備えられた中心電極36a及び接地電極36bは燃焼室20内に突出している。
【0027】
エンジン10の各気筒に複数(2つ)個ずつ設けられた吸気ポート及び排気ポートのそれぞれは、吸気バルブ42及び排気バルブ44のそれぞれにより開閉される。ここでは、吸気バルブ42の開弁によってポート噴射弁28により噴射供給される燃料と吸気との混合気が燃焼室20内に導入され、点火プラグ36の火花放電によって混合気が着火され燃焼(火花点火燃焼)に供される。燃焼によって発生したエネルギは、ピストン38を介して、エンジン10の出力軸(クランク軸46)の回転エネルギとして取り出される。燃焼に供された混合気は、排気バルブ44の開弁によって排気として排気マニホールド53に排出される。
【0028】
上記吸気バルブ42及び排気バルブ44の開閉タイミング(バルブタイミング)は、吸気側及び排気側の可変バルブタイミング装置(吸気側及び排気側VVT装置48、50)により可変とされている。詳しくは、吸気側及び排気側VVT装置48,50は、クランク軸46に対する吸気側カム軸及び排気側カム軸の相対的な回転角度を調節するための吸気側及び排気側の可変バルブタイミング機構と、これら可変バルブタイミング機構の駆動力として油圧ポンプから可変バルブタイミング機構に供給される作動油の油圧を調節するための吸気側及び排気側の電磁駆動式の油圧制御弁とを備えて構成される。これら油圧制御弁が操作されることで上記油圧が調節され、吸気バルブ42及び排気バルブ44の開閉タイミングを調節することが可能となる。
【0029】
エンジン10には、燃料ポンプ24bによって上記燃料タンク26から汲み上げられる燃料を燃焼室20内に直接噴射供給する電磁駆動式の燃料噴射弁(筒内噴射弁52)が設けられている。筒内噴射弁52は、後述する自着火燃焼制御のための微少燃料噴射が可能となっており、筒内噴射弁52の噴射率(単位時間当たりの燃料噴射量)は、ポート噴射弁28の噴射率よりも小さいものとなっている。
【0030】
また、エンジン10には、クランク軸46近傍でクランク軸46の回転角度を検出するクランク角度センサ54や、エンジン10を冷却する冷却水の温度を検出する水温センサ56等が設けられている。
【0031】
電子制御装置(ECU58)は、エンジン10の各種制御に必要な各種アクチュエータを操作する制御装置である。ECU58は、CPU、RAM、ROM等からなるマイクロコンピュータ60や、イオン電流検出部62、点火制御部66等を有して構成されている。ここで、イオン電流検出部62は、後述するイオン電流検出回路64から出力されるイオン出力値を取得するとともに、この出力値をマイクロコンピュータ60へと出力する。また、点火制御部66は、点火プラグ36に放電火花を生じさせるべく、点火コイル68に点火信号を出力する。ECU58は、ユーザのアクセル操作量を検出するアクセルセンサ70や、クランク角度センサ54、更にはエアフローメータ14等の検出信号を逐次入力する。ECU58は、これらの信号に基づきポート噴射弁28による燃料噴射制御や、吸気バルブ42及び排気バルブ44の開閉タイミングの制御(バルブタイミング制御)、点火プラグ36による点火制御、気流制御弁30による気流制御等、エンジン10の燃焼制御を行う。
【0032】
次に、本実施形態にかかるイオン電流を検出するための構成について図2を用いて詳述する。
【0033】
図示されるように、上記点火プラグ36には、点火コイル68を構成する二次コイル72の一端が接続され、二次コイル72の他端は、イオン電流検出回路64を介して接地されている。また、点火コイル68を構成する一次コイル74の一端は12Vのバッテリ76に接続され、一次コイル74の他端はパワートランジスタ78のコレクタに接続されている。
【0034】
イオン電流検出回路64は、一対のツェナーダイオード80,82や、コンデンサ84、抵抗(イオン電流検出抵抗86)等から構成されている。詳しくは、これらツェナーダイオード80、82のアノード側同士が直列に接続され、ツェナーダイオード80のカソード側が二次コイル72の一端に接続されている。また、ツェナーダイオード80、82のそれぞれには、コンデンサ84、イオン電流検出抵抗86がそれぞれ並列に接続されている。
【0035】
こうした構成において、パワートランジスタ78のベースに入力される点火制御部66からのオン点火信号によってパワートランジスタ78がオンされると、バッテリ76から供給される一次電流が一次コイル74に流れる。一次コイル74への通電後、点火制御部66からのオフ点火信号によってパワートランジスタ78がオフされると、二次コイル72に高電圧が誘起され、点火プラグ36の中心電極36aと接地電極36bとの間に放電火花が生じるとともに、接地電極36bから中心電極36aへと電流(放電電流)が流れる。そして、二次コイル72を介して流れる放電電流によってツェナーダイオード80によって規定される電圧となるまでコンデンサ84に電荷が蓄積される。すなわち、点火コイル68の二次側から点火プラグ36に供給される電力の一部がコンデンサ84に蓄電される。これにより、点火プラグ36の両電極36a,36b間には、コンデンサ84を電源として高電圧が印加される。
【0036】
点火プラグ36の両電極36a,36b間にコンデンサ84により高電圧が印加される状況下、混合気が燃焼室20内で着火・燃焼することでイオンが生じると、点火プラグ36の両電極36a,36b間に通電経路が形成され、コンデンサ84を電源として点火プラグ36の中心電極36aから接地電極36bへと電流(イオン電流)が流れる。イオン電流は、イオン電流検出抵抗86の接地側からこの抵抗を介してコンデンサ84へと流れるため、コンデンサ84とイオン電流検出抵抗86との間に接続されたイオン電流検出部62の入力電圧Vin(イオン出力値)がイオン電流に応じて変化する。
【0037】
ところで、本実施形態にかかるエンジン10では、上記火花点火燃焼と、吸気通路12や吸気マニホールド22において燃料と吸気とを予め混合したもの(予混合気)を燃焼室20に供給するとともに燃焼室20での圧縮によって着火(自着火)させる自着火燃焼とが切り替え可能となっている。ECU58は、機関運転状態に応じて火花点火燃焼させる制御(火花点火燃焼制御)と、自着火燃焼させる制御(自着火燃焼制御)とを切り替えることで、各制御に応じた上記燃料噴射制御や、バルブタイミング制御等を行う。以下、自着火燃焼制御について説明する。
【0038】
この制御ではまず、排気行程の後半から吸気行程の前半までの間において、バルブタイミング制御により吸気バルブ42及び排気バルブ44の双方を閉弁させる(負のバルブオーバーラップ:NVO)期間を設定する(NVO設定処理)。これにより、予混合気の燃焼によって生成された高温の燃焼ガス(内部EGR)を燃焼室20内に残留させる。次に、NVO期間において、内部EGRが圧縮されることで高温高圧となり、燃焼室20内の温度が上昇する状況下、筒内噴射弁52から燃焼室20内に燃料を噴射させる。そして、噴射された燃料の一部の燃焼によって燃焼室20内の温度が更に上昇することで、吸入行程において燃焼室20内に供給される予混合気が加熱される。一方、筒内噴射弁52から噴射された燃料のうち、未燃燃料は、高温の内部EGRとともに燃焼室20内に閉じ込められることで、着火性の高いものへと改質される。
【0039】
一方、筒内噴射弁52による燃料噴射とは別に、排気行程から吸気行程までの間に、エンジン10の出力制御用の燃料がポート噴射弁28により噴射されることで吸気通路12や吸気マニホールド22において予混合気が生成される。予混合気は、吸気バルブ42の開弁とともに燃焼室20内に供給され、時間経過とともに燃焼室20内にて予混合気の生成が促進される。その後、圧縮行程に移行することで燃焼室20内の圧力・温度が上昇すると、NVO期間において改質された燃料が圧縮上死点付近で自着火することでこれが火種となり、予混合気が燃焼(メイン燃焼)に供される。なお、自着火燃焼によれば、予混合気のリーン化を図ることができるとともに燃焼状態を良好なものとすることができるため、燃費低減効果を向上させたり、NOxを低減させたりすることが可能となる。なお、上記出力制御用の燃料噴射量は、上記NVO期間内に要求される燃料噴射量よりも多いものとなっている。
【0040】
ここで、自着火燃焼においては通常、着火タイミング等の制御が困難であり、ノッキングや失火等の異常が生じやすい。このため、本実施形態では、イオン電流検出部62により取得されるイオン出力値に基づき自着火燃焼制御を行っている。ここでは、メイン燃焼期間に検出されたイオン出力値の最大値の出現タイミングに基づき自着火タイミングを推定したり、上記イオン出力値の最大値の大きさに基づき失火の有無を推定したりする。そして、これら推定結果に基づきNVO期間内の筒内噴射弁52からの燃料噴射量を補正する。具体的には、推定された自着火タイミングが機関運転状態毎に規定される適切な自着火タイミングよりも早い(進角する)場合、上記燃料噴射量を減量する。これにより、NVO期間における熱エネルギの発生を抑制することで吸気行程での予混合気の加熱を抑制し、自着火タイミングを遅らせる(遅角させる)ことができ、ノッキングの発生を回避することが可能となる。また、失火が生じたと推定された場合、上記燃料噴射量を増量する。これにより、NVO期間内の燃料の燃焼による熱エネルギの発生を多くすることで、自着火を促進させることが可能となる。
【0041】
上記自着火燃焼によるイオン電流を検出すべく、膨張行程後半から排気バルブ44の開弁タイミングまでの間(第1コイル通電期間)に、点火制御部66からオン点火信号を出力し、コンデンサ84に給電する処理(第1コイル通電処理)を行う。第1コイル通電期間は、自着火タイミングが機関運転状態毎に規定される適切な自着火タイミングからずれる事態を回避する観点から設定されたものである。すなわち、燃焼室20内に予混合気が存在する状況下、上記オン点火信号が出力されることで点火プラグ36に放電火花が生じると、予混合気が着火し得る。この場合、予混合気の燃焼に起因してトルク変動が生じたり排気特性が悪化したりするおそれがある。そこで、予混合気の存在しない第1コイル通電期間に第1コイル通電処理を行うことで、コンデンサ84への給電による自着火タイミングのずれを回避することが可能となる。
【0042】
ところで、第1コイル通電処理後、NVO期間内に筒内噴射弁52から噴射された燃料の燃焼によってイオン電流が流れると、コンデンサ84の電圧が低下し、点火プラグ36の両電極36a、36b間への印加電圧が低下し得る。この場合、メイン燃焼に伴うイオン電流の検出精度が低下することでメイン燃焼期間における燃焼室20内の燃焼状態の検出精度が低下し、ひいては自着火燃焼制御精度が低下するおそれがある。
【0043】
そこで本実施形態では、図3に示すように、NVO期間内に検出されたイオン出力値の最大値Vnvoに基づき、点火プラグ36の両電極36a、36b間への印加電圧が低下したか否かを判断する。詳しくは、図3(b)に示すように、筒内噴射弁52からの燃料噴射の後、イオン出力値の最大値Vnvoが所定の閾値X以上となる場合、点火プラグ36の両電極36a、36b間への印加電圧が大きく低下したと判断する。これは、イオン出力値(イオン電流値)が大きいと、コンデンサ84の蓄電量が減少することで、コンデンサ84の電圧が低下することに基づくものである。これに対し、図3(c)に示すように、上記燃料噴射の後、イオン出力値の最大値Vnvoが所定の閾値Xよりも小さい場合には、点火プラグ36の両電極36a、36b間への印加電圧が大きく低下していないと判断する。そして、上記印加電圧が大きく低下したと判断された場合、NVO期間が終了するまでに点火制御部66から再度オン点火信号を出力することで点火プラグ36に通電し、コンデンサ84に給電する処理(第2コイル通電処理)を行う。これにより、自着火タイミングが機関運転状態毎に規定される適切な自着火タイミングからずれる事態を回避するとともに、メイン燃焼期間においてイオン電流を検出するために要求される上記印加電圧を確保することで、イオン電流の検出精度の低下を回避する。
【0044】
図4に、本実施形態にかかる第2コイル通電処理を有する燃焼制御処理の手順を示す。この処理は、ECU58によって、例えば所定周期で繰り返し実行される。
【0045】
この一連の処理では、まずステップS10において、アクセルセンサ70の出力値ACCPと、クランク角度センサ54の出力値Clankとを取得する。
【0046】
続くステップS12において、上記アクセルセンサ70の出力値ACCPに基づきエンジン負荷(要求トルク、負荷率)KLを算出することともに、上記クランク角度センサ54の出力値Clankに基づきエンジン回転速度NEを算出する。
【0047】
ステップS12の処理の完了後、ステップS14において、自着火燃焼領域であるか否かを判断する。この処理は、現在の運転領域が、自着火燃焼制御を行う運転領域であるか又は火花点火燃焼制御を行う運転領域であるかを判断するためのものである。具体的には、エンジン負荷KL及びエンジン回転速度NEと関連付けられた自着火燃焼領域及び火花点火燃焼領域を規定する予め実験等で算出されたマップを用い、エンジン負荷KL及びエンジン回転速度NEに基づき、自着火燃焼領域であるか否かを判断する。なお、自着火燃焼領域は、主に高負荷高回転領域及び低負荷低回転領域を除く領域として規定され、自着火燃焼領域以外は火花点火燃焼領域として規定される。これは、高負荷高回転領域において自着火燃焼に起因するエンジン10の振動及び騒音の増大を回避したり、低負荷低回転領域においてエンジン10が低温となることに起因して自着火燃焼が困難となる事態を回避したりするためである。
【0048】
ステップS14において否定判断された場合には、自着火燃焼が困難な運転領域であると判断し、ステップS16に進み、火花点火燃焼制御を行う。具体的には、エンジン負荷KL及びエンジン回転速度NEと関連付けられた火花点火燃焼制御のためのポート噴射弁28からの燃料噴射量・燃料噴射タイミング、点火プラグ36による点火タイミング及び吸気バルブ42・排気バルブ44のバルブタイミングが規定されるマップを用い、エンジン負荷KLや、エンジン回転速度NE、更には水温センサ56の出力値から算出される冷却水温等に基づき、燃料噴射制御処理や、点火制御処理、バルブタイミング制御処理等が行われる。
【0049】
一方、上記ステップS14において自着火燃焼領域であると判断された場合には、ステップS18に進み、自着火燃焼制御処理を行う。具体的には、エンジン負荷KL及びエンジン回転速度NEと関連付けられたNVO期間、筒内噴射弁52からの燃料噴射量・燃料噴射タイミング、ポート噴射弁28からの燃料噴射量・燃料噴射タイミング、第1コイル通電処理タイミングを規定する予め実験等で算出されたマップを用い、エンジン負荷KL及びエンジン回転速度NEに基づき、上記NVO設定処理、燃料噴射制御処理及び第1コイル通電処理を行えばよい。なお、本実施形態では、エンジン負荷KLが所定以下であると判断された場合、点火プラグ36により火花点火を行う処理(点火アシスト処理)を行う。これは、エンジン負荷KLが低いと、NVO期間内の燃料の燃焼による熱エネルギの発生量が少なくなり、吸気行程において予混合気を十分に加熱することができなくなることに起因して失火が生じる事態を回避するためのものである。
【0050】
ちなみに、筒内噴射弁52からの燃料噴射タイミングが遅角すると、燃焼サイクル間の自着火タイミングのばらつきが大きくなることで、燃焼状態が悪化し、トルク変動が増大するおそれがある。一方、上記噴射タイミングが進角すると、燃料の改質が過度に促進されることで、自着火タイミングが進角し、ノッキングが生じやすくなるおそれがある。このため、NVO期間内の筒内噴射弁52からの燃焼噴射タイミングは、トルク変動やノッキングの発生を抑制することについての要求に応じて設定すればよい。
【0051】
ステップS18の処理の完了後、ステップS20に進み、イオン電流検出回路64から出力されるイオン出力値を取得する。
【0052】
続くステップS22では、上記取得されたイオン出力値に基づき、NVO期間内のイオン出力値の最大値Vnvoが所定の閾値X以上であるか否かを判断する。この処理は、イオン電流の検出精度を確保するために要する点火プラグ36の両電極36a、36b間への印加電圧が十分であるか否かを把握するためのものである。ここで、上記所定の閾値Xは、イオン電流に基づく燃焼状態の検出精度を確保するために要するコンデンサ84の電圧に基づき設定すればよい。
【0053】
ステップS22においてイオン出力値の最大値Vnvoが所定の閾値X以上であると判断された場合には、ステップS24に進み、第2コイル通電処理を行う。この処理は、メイン燃焼期間におけるイオン電流の検出精度を確保すべくコンデンサ84へ給電するためのものである。ここで、第2コイル通電処理は、NVO期間においてイオン出力値の最大値Vnvoが検出されてからNVO期間が終了する(吸気バルブ42が開弁する)までの間(第2コイル通電期間)に行われる。これは、自着火タイミングが機関運転状態毎に規定される適切な自着火タイミングからずれる事態を回避するためである。すなわち、NVO期間の終了に伴い吸気バルブ42が開弁すると、予混合気が燃焼室20内に供給される。このような状況下、第2コイル通電処理が行われると、上記適切な自着火タイミング以外のタイミングで点火プラグ36に放電火花が生じ、予混合気が着火・燃焼することに起因してトルク変動が生じたり排気特性が悪化したりするおそれがある。そこで、予混合気の存在しない第2コイル通電期間に第2コイル通電処理を行うことで、コンデンサ84への給電による自着火タイミングのずれを回避することが可能となる。なお、第2コイル通電期間において筒内噴射弁52から噴射された燃料が燃焼室20内に存在するが、燃焼室20内には吸気がほとんど存在しないため、第2コイル通電処理による燃料の燃焼反応は小さく、コンデンサ84の電圧の低下量は小さい。このため、メイン燃焼期間におけるイオン電流の検出精度が低下することはない。
【0054】
ステップS24の処理が完了する場合や、上記ステップS22において否定判断された場合には、ステップS26に進み、NVO期間内のイオン出力値の最大値Vnvoに基づく燃焼制御処理を行う。この処理は、NVO期間における燃料の改質度合いや燃焼室20内の温度の上昇度合い等がその後のメイン燃焼の燃焼状態に影響を与えることに鑑み、自着火燃焼の制御精度をより向上させるためのものである。つまり、上記イオン出力値の最大値Vnvoが大きいと、燃料の改質や燃焼室20内の昇温が促進されることでメイン燃焼の自着火タイミングが早くなり、ノッキングが生じやすくなるおそれがある。一方、上記イオン出力値の最大値Vnvoが小さいと、予混合気を加熱する熱エネルギの発生量が少なくなり、失火しやすくなるおそれがある。このため、上記イオン出力値の最大値Vnvoに基づきNVO期間内の燃焼状態を把握することで、その後のメイン燃焼の燃焼状態を予測することが可能となる。そして、この把握結果を上記最大値Vnvoが検出された直後のメイン燃焼の制御に反映させることで、自着火燃焼の制御精度をより向上させることが可能となる。具体的には、例えば、上記イオン出力値の最大値Vnvoが大きい場合、上記ステップS18の処理で算出されたポート噴射弁28からの燃料噴射量を減量補正したり、燃焼室20内の気流を調節したりすることで、メイン燃焼を抑制し、ノッキングの発生を回避する。ここで、気流の調節手法としては、例えば、吸気バルブ42の開弁タイミングを調節したり、エンジン10の各気筒に複数(2つ)設けられる吸気ポートに対応する吸気バルブ42のうち一方を開弁させたり、気流制御弁30を操作したりするものが挙げられる。一方、上記イオン出力値の最大値Vnvoが小さい場合には、上記ステップS18の処理で算出されたポート噴射弁28からの燃料噴射量の増量補正等を行うことで、失火を回避する。
【0055】
ステップS26の処理の完了後、ステップS28に進み、メイン燃焼期間のイオン出力値を取得する。
【0056】
続くステップS30では、上記ステップS28の処理で取得されたイオン出力値に基づく燃焼制御処理を行う。この処理は、現在のメイン燃焼期間における燃焼状態を把握し、この把握結果を次回の自着火燃焼制御処理に反映するためのものである。具体的には、例えば、メイン燃焼期間におけるイオン出力値に基づき推定された自着火タイミングが機関運転状態毎に規定される適切な自着火タイミングよりも進角する場合、次回の上記ステップS18の処理で設定される筒内噴射弁52やポート噴射弁28からの燃料噴射量を減量補正する。これにより、ノッキングの発生を抑制することが可能となる。また、上記イオン出力値に基づき失火したと判断された場合、次回の上記ステップS18の処理で設定される筒内噴射弁52からの燃料噴射量を増量補正する。これにより、NVO期間内の燃料の燃焼による熱エネルギの発生量を多くし、失火を回避する。
【0057】
なお、ステップS16、S30の処理が完了する場合には、この一連の処理を一旦終了する。
【0058】
図5に、本実施形態における第2コイル通電処理の一例を示す。詳しくは、図5(a)に、吸気バルブ42及び排気バルブ44のリフトの推移を示し、図5(b)に、燃焼室20内の圧力(筒内圧)の推移を示し、図5(c)に、筒内噴射弁52又はポート噴射弁28からの燃料噴射の推移を示し、図5(d)に、点火制御部66から出力される点火信号の推移を示し、図5(e)に、イオン出力値の推移を示す。
【0059】
図示されるように、膨張行程の後半である時刻t1から排気バルブ44が閉弁する時刻t2までの間に第1コイル通電処理が行われる。その後、NVO期間(時刻t2から時刻t4までの期間)内である時刻t3において筒内噴射弁52から燃料が噴射され、燃焼室20内で燃料の燃焼が生じる。ここで、イオン出力値の最大値Vnvoが所定の閾値X以上になると判断されることで、吸気バルブ42が開弁する時刻t4までに第2コイル通電処理が行われる。これにより、メイン燃焼の前にコンデンサ84に給電することができるため、メイン燃焼期間においてイオン電流を高精度に検出することができる。
【0060】
ここで、第2コイル通電処理を行う場合におけるイオン出力値の推移を実線にて示すとともに、第2コイル通電処理を行わない場合(従来技術)におけるイオン出力値の推移を破線にて併記した。従来技術では、NVO期間内の燃料の燃焼によってコンデンサ84の電圧が低下したにもかかわらず第2コイル通電処理を行わないため、点火プラグ36の両電極36a、36b間に印加される電圧が不足し、メイン燃焼期間におけるイオン電流の検出精度が低下する。
【0061】
このように、本実施形態では、NVO期間内に検出されるイオン出力値の最大値Vnvoが所定の閾値X以上であると判断された場合、吸気バルブ42が開弁するまでに第2コイル通電処理を行うことで、メイン燃焼期間においてイオン電流の検出精度の低下を好適に回避することができる。
【0062】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0063】
(1)NVO期間内に検出されるイオン出力値の最大値Vnvoが所定の閾値X以上であると判断された場合、吸気バルブ42が開弁するまでに第2コイル通電処理を行った。これにより、自着火タイミングが機関運転状態毎に規定される適切な自着火タイミングからずれる事態を回避しつつも、イオン電流の検出精度の低下を好適に回避することができ、ひいては自着火燃焼制御精度を向上させることができる。
【0064】
(2)メイン燃焼期間内に検出されるイオン出力値及びNVO期間内に検出されるイオン出力値の最大値Vnvoに基づき自着火燃焼制御を行った。これにより、自着火燃焼制御精度をいっそう向上させることができる。
【0065】
(3)NVO期間内に筒内噴射弁52から燃焼室20内に直接燃料を噴射するとともに、ポート噴射弁28から出力制御用の燃料を噴射した。これにより、自着火燃焼に要求される燃料噴射を適切に行うことができる。
【0066】
(第2の実施形態)
以下、第2の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0067】
本実施形態では、NVO期間内のイオン出力値の最大値Vnvoが所定の閾値X以上になると判断されてから吸気バルブ42が開弁するまでの時間Tが所定時間T1以下となることに基づき、ポート噴射弁28からの燃料噴射タイミングを遅角させる制御(遅角制御)を行う。これは、自着火タイミングが機関運転状態毎に規定された適切な自着火タイミングからずれる事態を回避するためのものである。上記時間Tが短時間となる状況下、第2コイル通電処理を行うと、吸気バルブ42の開弁によって予混合気が燃焼室20内に供給された後に点火プラグ36により放電火花が生じ得る。この場合、上記適切な自着火タイミング以外で予混合気が着火されることで、燃焼状態が悪化するおそれがある。
【0068】
図6に、本実施形態にかかる第2コイル通電処理を有する燃焼制御処理の手順を示す。この処理は、ECU58によって、例えば所定周期で繰り返し実行される。なお、図6において、先の図4に示した処理に対応する処理については、便宜上同一のステップ番号を付している。
【0069】
この一連の処理では、ステップS22においてNVO期間内のイオン出力値の最大値Vnvoが所定の閾値X以上であると判断されると、ステップS32に進み、上記イオン出力値の最大値Vnvoが所定の閾値X以上であると判断されてから吸気バルブ42が開弁するまでの時間Tが所定時間T1以下であるか否かを判断する。この処理は、NVO期間内に第2コイル通電処理を行うことができるか否かを判断するためのものである。ここで、上記所定時間T1は、第2コイル通電処理に要する時間に基づき設定すればよい。
【0070】
ステップS32において上記時間Tが所定時間T1以下であると判断された場合には、NVO期間内に第2コイル通電処理を行うことができないと判断し、ステップS34においてポート噴射弁28からの燃料噴射タイミングを遅角させる処理を行う。この処理は、第2コイル通電処理に要する時間を確保するためのものである。なお、上記燃料噴射タイミングは、吸気行程において予混合気の生成を極力確保できる時間に基づき遅角させればよい。
【0071】
ステップS34の処理が完了する場合、先の図4に示したステップS24の処理を行う。そして、ステップS24の処理が完了する場合や、上記ステップS32、S22において否定判断された場合には、先の図4に示したステップS26〜S30の処理を行う。
【0072】
なお、ステップS16、S30の処理が完了する場合には、この一連の処理を一旦終了する。
【0073】
このように、本実施形態では、NVO期間内のイオン出力値の最大値Vnvoが所定の閾値X以上であると判断されてから吸気バルブ42が開弁するまでの時間Tが所定時間T1以下であると判断された場合、ポート噴射弁28からの燃料噴射タイミングの遅角処理を行った。これにより、自着火タイミングが機関運転状態毎に規定された適切な自着火タイミングからずれる事態を回避しつつも、イオン電流の検出精度が低下する事態を好適に回避することができる。
【0074】
(第3の実施形態)
以下、第3の実施形態について、先の第2の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0075】
図7に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。なお、図7において、先の図1に示した部材と同一の部材については、便宜上同一の符号を示しており、イオン電流を検出するための部材以外の部材を省略している。
【0076】
図示されるように、本実施形態では、充電用点火装置88と、切り替え回路90a、90bとを新たに設けるとともに、NVO期間内のイオン出力値の最大値Vnvoが所定の閾値X以上であると判断されてから吸気バルブ42が開弁するまでの時間Tが所定時間T1以下となることに基づき、先の図2に示したコンデンサ84への給電のための電源を切り替え回路90a、90bによって点火コイル68から充電用点火装置88に切り替えて第2コイル通電処理を行う。これは、先の第2の実施形態と同様に、自着火タイミングが機関運転状態毎に規定された適切な自着火タイミングからずれる事態を回避するためのものである。このため、上記時間Tが第2コイル通電処理を行うために要する時間を超えると判断される場合、コンデンサ84への電力供給源を充電用点火装置88とすることで、燃焼室20内に放電火花を生じさせることなく、コンデンサ84に充電する。これにより、自着火タイミングが上記適切な自着火タイミングからずれる事態を回避する。
【0077】
なお、充電用点火装置88としては、具体的には、例えば先の図2の点火コイル68及び点火プラグ36と同様な構成を有して且つ一対の電極が燃焼室20に突出しないようにすればよい。こうした構成において、切り替え回路90aを切り替えて点火制御部66によって充電用点火装置88を操作するとともに、切り替え回路90bを切り替えて、イオン電流検出回路64と充電用点火装置88とを接続することで、燃焼室20内に火花放電を生じさせることなく充電用点火装置88によってコンデンサ84に電荷が蓄積される。
【0078】
図8に、本実施形態にかかる第2コイル通電処理を有する燃焼制御処理の手順を示す。この処理は、ECU58によって、例えば所定周期で繰り返し実行される。なお、図8において、先の図6に示した処理に対応する処理については、便宜上同一のステップ番号を付している。
【0079】
この一連の処理では、ステップS32においてNVO期間内のイオン出力値の最大値Vnvoが所定の閾値X以上であると判断されると、ステップS36に進み、充電用点火装置88によるコンデンサ84への給電処理を行う。ここで、コンデンサ84への給電処理は、予混合気が圧縮により自着火されると想定されるタイミングよりも前に行えばよい。
【0080】
ステップS36の処理が完了する場合、先の図6に示したステップS24の処理を行う。そして、ステップS24の処理が完了する場合や、上記ステップS32、S22において否定判断された場合には、先の図6に示したステップS26〜S30の処理を行う。
【0081】
なお、ステップS16、S30の処理が完了する場合には、この一連の処理を一旦終了する。
【0082】
このように、本実施形態では、NVO期間内のイオン出力値の最大値Vnvoが所定の閾値X以上であると判断されてから吸気バルブ42が開弁するまでの時間Tが所定時間T1以下であると判断された場合、充電用点火装置88からコンデンサ84へ給電した。これにより、自着火タイミングが機関運転状態毎に規定された適切な自着火タイミングからずれる事態を回避しつつも、イオン電流の検出精度が低下する事態を好適に回避することができる。
【0083】
(その他の実施形態)
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0084】
・上記第1の実施形態においては、吸気バルブ42の開弁後に燃焼室20に流入する予混合気が火花点火によって着火することを回避すべく、第2コイル通電期間をNVO期間内に限った。しかし、実際には、ポート噴射弁28の燃料噴射タイミングが、機関運転状態によっては、吸気バルブ42の開弁後となることがある。この場合、第2コイル通電期間としてはNVO期間内に限らない。例えば、筒内噴射弁52からの燃料噴射量が所定量以下であることを条件として、第2コイル通電期間を、イオン出力値の最大値Vnvoが所定の閾値X以上であると判断されてから、ポート噴射弁28の燃料噴射タイミングまでの期間内に設定してもよい。これは、NVO期間内の筒内噴射弁52からの燃料噴射量が少ない場合、その後吸気バルブ42の開弁とともに燃焼室20内に吸気が供給されたとしても、点火プラグ36の放電火花によって筒内噴射弁52から噴射された燃料と吸気との混合気が着火されるおそれがないことに基づくものである。なお、上記所定量は、吸気バルブ42の開弁によって燃焼室20内に供給されると想定される機関運転状態に応じた吸気量とNVO期間内に噴射された燃料との混合気が放電火花により着火されない最小値として予め実験等に基づき設定すればよい。
【0085】
また、エンジン10に備えられる燃料噴射弁としては、筒内噴射弁52(第1の燃料供給手段)及びポート噴射弁28(第2の燃料供給手段)の双方に限らず、例えば、筒内噴射弁52のみを備え、この噴射弁にてNVO期間内に要求される燃料及び出力制御用の燃料を噴射してもよい。この場合、NVO期間内に要求される燃料噴射量が上記所定量以下であって、且つ吸気バルブ42開弁後の吸気行程において出力制御用の燃料を噴射供給する場合、第2コイル通電処理を、上記出力制御用の燃料を噴射する前までに行えばよい。更に例えば、筒内噴射弁52のみを2つ備え、一方でNVO期間内に要求される燃料を噴射するとともに、他方で出力制御用の燃料を噴射してもよい。
【0086】
・上記各実施形態では、NVO期間内のイオン出力値の最大値Vnvoに基づき、第2コイル通電処理を行うか否かを判断したがこれに限らない。例えば、コンデンサ84両端の電圧Vを検出する手段(電圧センサ)を備え、この電圧Vに基づき判断してもよい。具体的には、上記電圧Vが所定値V0以下になると判断された場合、点火プラグ36の両電極36a、36b間への印加電圧が低下したと判断し、第2コイル通電処理を行えばよい。なお、上記所定値V0は、先の図4のステップS22の処理における所定の閾値Xの設定手法と同様に、イオン電流に基づく燃焼状態の検出精度を確保するために要するコンデンサ84の電圧に基づき設定すればよい。
【0087】
・上記各実施形態では、アクセルセンサ70の出力値に基づきエンジン負荷KLを算出したがこれに限らない。例えば、エアフローメータ14の出力値、又は吸気圧センサ18及びクランク角度センサの出力値に基づき算出してもよい。
【0088】
・上記第2の実施形態における遅角処理としては、ポート噴射弁28の燃料噴射タイミングを遅角させるものに限らない。例えば、NVO期間内のイオン出力値の最大値Vnvoが所定の閾値X以上であると判断されてから吸気バルブ42が開弁するまでの時間Tが所定時間T1以下であると判断された場合、出力制御用の燃料噴射を、ポート噴射弁28に代えて筒内噴射弁52にて行うとともに、筒内噴射弁52からの燃料噴射タイミングを、吸気行程において第2コイル通電処理の完了タイミング以降のタイミングまで遅角させてもよい。出力制御用の燃料噴射をポート噴射弁28で行う場合、燃料が噴射されてからこの燃料が吸気マニホールド22を介して燃焼室20に輸送されるまでに時間を要する。このため、第2コイル通電処理後の吸気行程における燃料噴射タイミングの遅角度合いが大きく制約されることとなる。これに対し、筒内噴射弁52によれば、出力制御用の燃料を燃焼室20内に直接噴射供給することができるため、燃料噴射タイミングの遅角度合いの自由度を向上させることができ、ひいては適切な自着火タイミング以外のタイミングで自着火される事態を回避することができる。
【0089】
・上記第3の実施形態では、充電用点火装置88からコンデンサ84へと給電したがこれに限らない。例えば、充電用点火装置88に代えて、バッテリ76の電圧を昇圧させる昇圧回路(コンバータ)を備え、昇圧回路からコンデンサ84へと給電してもよい。
【0090】
・蓄電手段としては、コンデンサ84に限らず、例えば蓄電池であってもよい。
【0091】
・イオン電流についての情報としては、コンデンサ84とイオン電流検出抵抗86との間の入力電圧Vinに限らない。例えば、イオン電流が流れる経路にこの電流値を検出する手段(電流センサ)を備え、この手段の出力値を上記イオン電流についての情報としてもよい。
【0092】
・上記各実施形態では、メイン燃焼期間内のイオン出力値及びNVO期間内のイオン出力値の最大値Vnvoに基づく自着火燃焼制御(先の図4、図6、図8のステップS26、S30の処理)を行ったがこれに限らない。例えば、メイン燃焼期間内のイオン出力値に基づく自着火燃焼制御(上記ステップS30の処理)のみを行ってもよい。この場合であっても、自着火燃焼制御精度を向上させることはできる。
【符号の説明】
【0093】
10…エンジン、20…燃焼室、28…ポート噴射弁、36…点火プラグ、36a…中心電極、36b…接地電極、42…吸気バルブ、44…排気バルブ、48…吸気側VVT装置、50…排気側VVT装置、52…筒内噴射弁、58…ECU(内燃機関の制御装置の一実施形態)、62…イオン電流検出部、64…イオン電流検出回路、68…点火コイル、72…二次コイル、84…コンデンサ、88…充電用点火装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気行程後半から吸気行程前半までの間に設けられる排気バルブ及び吸気バルブの双方の閉弁期間に前記内燃機関の燃焼室内に燃料を供給する第1の燃料供給手段と、該第1の燃料供給手段による燃料供給後の吸気行程において前記燃焼室内に燃料を供給する第2の燃料供給手段と、前記燃焼室に突出した点火プラグに供給される電力の一部を蓄電する蓄電手段によって該点火プラグの中心電極と接地電極との間に電圧が印加される期間において、これら両電極間に流れるイオン電流についての情報を取得するイオン電流取得手段とを備え、該イオン電流取得手段の出力値から算出されるイオン電流に基づき前記供給された燃料の燃焼状態を検出する内燃機関の制御装置において、
膨張行程後半から前記第1の燃料供給手段により燃料が供給されるまでの間に前記点火プラグに前記蓄電手段を給電するための電力を供給する第1の電力供給手段と、
前記双方の閉弁期間内の前記蓄電手段の蓄電量が所定以下となることに基づき、前記第2の燃料供給手段により燃料が供給される前に前記点火プラグに前記蓄電手段を給電するための電力を再度供給するす第2の電力供給手段とを備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記第2の電力供給手段は、前記イオン電流取得手段の出力値から算出される前記双方の閉弁期間内のイオン電流が所定以上となることに基づき、前記電力を再度供給することを特徴とする請求項1記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記イオン電流取得手段の出力値から算出される前記双方の閉弁期間内のイオン電流に基づき、前記内燃機関の自着火燃焼制御を行う制御手段を更に備えることを特徴とする請求項1又は2記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記双方の閉弁期間内の前記蓄電量が所定以下となってから前記第2の燃料供給手段により燃料が供給されるまでの時間が所定時間以下となることに基づき、前記第2の燃料供給手段による燃料供給タイミングを遅角させる遅角手段を更に備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記双方の閉弁期間内の前記蓄電量が所定以下となってから前記第2の燃料供給手段により燃料が供給されるまでの時間が所定時間以下となることに基づき、前記点火プラグを介すことなく前記蓄電手段に充電する充電手段を更に備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記内燃機関は、前記燃焼室内に燃料を直接噴射供給する燃料噴射弁と、同燃料噴射弁よりも燃料噴射率が大きい燃料噴射弁とを備えるものであり、
前記第1の燃料供給手段は、前記直接噴射供給する燃料噴射弁を操作することで前記燃料を供給するものであり、
前記第2の燃料供給手段は、前記燃料噴射率が大きい燃料噴射弁を操作することで前記燃料を供給するものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−27040(P2011−27040A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−174493(P2009−174493)
【出願日】平成21年7月27日(2009.7.27)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】